(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】電池モジュールおよび電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/44 20060101AFI20240626BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20240626BHJP
H01M 50/209 20210101ALI20240626BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20240626BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240626BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240626BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240626BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20240626BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240626BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20240626BHJP
H01M 10/657 20140101ALI20240626BHJP
【FI】
H01M10/44 P
H02J7/10 L
H01M50/209
H01M50/204 401D
H01M10/48 301
H01M10/0566
H02J7/00 302C
H02J7/02 F
H01M10/625
H01M10/647
H01M10/657
(21)【出願番号】P 2022008200
(22)【出願日】2022-01-21
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】八木 弘雅
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/042165(WO,A1)
【文献】特開2012-234700(JP,A)
【文献】特開2018-156724(JP,A)
【文献】特開2015-043304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/44
H02J 7/10
H01M 50/209
H01M 50/204
H01M 10/48
H01M 10/0566
H02J 7/00
H02J 7/02
H01M 10/625
H01M 10/647
H01M 10/657
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池モジュールと、
前記電池モジュールに関する温度情報Tを検出する温度センサと、
前記電池モジュールの充放電を実施する充放電手段と、
前記充放電手段による前記電池モジュールの充放電を制御する制御部と
を備えており、
前記電池モジュールは、
複数の第1単電池が直列に接続された第1電池ユニットと、
複数の第2単電池が直列に接続された第2電池ユニットと
を備え、
前記第1電池ユニットと前記第2電池ユニットとが並列に接続されており、
前記第1単電池が有する第1電解液の粘度が、前記第2単電池が有する第2電解液の粘度よりも低く、
前記制御部は、前記温度情報Tに基づいて、前記第1電池ユニットと前記第2電池ユニットの充放電を切り替えるように構成されて
おり、
前記制御部に所定の第1基準温度T
S1
が設定されており、
前記制御部は、前記温度情報Tが前記第1基準温度T
S1
よりも低温である場合に、前記第2電池ユニットの充放電を停止し、前記第1電池ユニットの充放電を行う低温制御を実施するように構成されており、かつ、
前記制御部に前記第1基準温度T
S1
よりも高温の第2基準温度T
S2
が設定されており、
前記制御部は、前記温度情報Tが前記第2基準温度T
S2
よりも高温である場合に、前記第2電池ユニットの充放電を優先的に行う高温制御を実施するように構成されている、電源システム。
【請求項2】
前記第1電解液の粘度が1mPa・s以上3.2mPa・s以下である、請求項1に記載の
電源システム。
【請求項3】
前記第2電解液の粘度が3.2mPa・s超5mPa・s以下である、請求項1または2に記載の
電源システム。
【請求項4】
前記第1電池ユニットは、所定の配列方向に沿って前記複数の第1単電池を相互に隣接して配列することによって構成され、かつ、
前記第2電池ユニットは、所定の配列方向に沿って前記複数の第2単電池を相互に隣接して配列することによって構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の
電源システム。
【請求項5】
前記第1単電池の電極活物質と前記第2単電池の電極活物質とが同じ材料である、請求項1~4のいずれか一項に記載の
電源システム。
【請求項6】
前記高温制御において、前記制御部は、前記第1電池ユニットの充電率である第1充電率SOC
1を低下させた後に、前記第2電池ユニットの充放電を優先的に行うように構成されている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の電源システム。
【請求項7】
前記第1電池ユニットの充電率である第1充電率SOC
1を測定する充電率測定手段をさらに備え、
前記制御部に所定の基準充電率D
SOCが設定されており、
前記制御部は、前記高温制御において、前記第1充電率SOC
1が前記基準充電率D
SOC以上となった場合に、前記第1電池ユニットの充放電を停止し、前記第2電池ユニットの充放電のみを行うように構成されている、
請求項1~6のいずれか一項に記載の電源システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記温度情報Tが前記第1基準温度T
S1と前記第2基準温度T
S2との間であった場合に、前記第1電池ユニットと前記第2電池ユニットの両方の充放電を行う中温制御を実施するように構成されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載の電源システム。
【請求項9】
前記第1電池ユニットの開放電圧である第1開放電圧OCV
1と前記第2電池ユニットの開放電圧である第2開放電圧OCV
2を測定する開放電圧測定手段をさらに備え、
前記制御部に所定の基準電圧差D
OCVが設定されており、
前記制御部は、
前記第1開放電圧OCV
1と前記第2開放電圧OCV
2との差分の絶対値|OCV
1-OCV
2|を算出し、
前記中温制御において、前記差分の絶対値|OCV
1-OCV
2|が前記基準電圧差D
OCVを上回った場合、前記差分の絶対値|OCV
1-OCV
2|が前記基準電圧差D
OCVを下回るまで前記第1電池ユニットと前記第2電池ユニットの各々に入力する電流値を異ならせるように構成されている、
請求項8に記載の電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、電池モジュールと、当該電池モジュールを備えた電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池などの二次電池は、車両駆動用電源や携帯用電源として広く使用される。この二次電池を使用した電気機器の電源システムは、例えば、複数の二次電池を電気的に接続した電池モジュールと、電池モジュールの充放電を行う充放電手段と、充放電手段による電池モジュールの充放電を制御する制御部とを備えている。
【0003】
ところで、電源システムに使用される電池モジュールの性能は、使用環境の温度によって変動し得る。例えば、低温環境で電池モジュールを使用すると、各々の二次電池の入出力特性が低下するおそれがある。特に、二次電池の自己発熱が生じていない充放電開始時に低温環境に晒されると、入出力特性が大きく低下するため、電気機器の始動に時間が掛かる可能性がある。一方、高温環境で電池モジュールを使用すると、電解液の分解によるガスが発生するおそれがある。特に、高温環境に晒された状態で充放電による自己発熱が生じると、分解ガスの発生量が増大するため、二次電池の膨張による性能低下が生じる可能性がある。これらの問題に対して、周囲の温度に応じて電池モジュールの充放電を制御する技術が種々提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-529651号公報
【文献】特表2016-520475号公報
【文献】特表2016-524786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、電動車両の普及に伴って、寒冷地や熱帯地などの様々な環境で電動車両が使用される機会が増加しており、様々な温度環境に対応できる電池モジュールへの要求が高まっている。本発明は、かかる要求に応じてなされたものであり、周囲の温度環境に影響されずに高い性能を安定的に発揮できる電池モジュールと、当該電池モジュールを搭載した電源システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、ここに開示される技術によって、以下の構成の電池モジュールが提供される。
【0007】
ここに開示される電池モジュールは、複数の第1単電池が直列に接続された第1電池ユニットと、複数の第2単電池が直列に接続された第2電池ユニットとを備えている。そして、この電池モジュールでは、第1電池ユニットと第2電池ユニットとが並列に接続されており、第1単電池が有する第1電解液の粘度が、第2単電池が有する第2電解液の粘度よりも低い。
【0008】
本発明者は、上述の課題を解決するために、二次電池が有する電解液の粘度に着目した。具体的には、低粘度の電解液は、イオン伝導度が高いため低温環境でも高い入出力特性を発揮できる一方で、分解されやすいため高温環境でのガス発生量が多いという特徴を有している。また、高粘度の電解液は、分解されにくいため高温環境でのガス発生量が少ない一方で、イオン伝導度が低いため低温環境で十分な入出力特性を確保できないという特徴を有する。かかる電解液の粘度と温度特性との関係を考慮し、ここに開示される電池モジュールは、相対的に低粘度の第1電解液を有する第1単電池と、相対的に高粘度の第2電解液を有する第2単電池とを備えている。そして、ここに開示される電池モジュールでは、第1単電池同士を接続した第1電池ユニットと、第2単電池同士を接続した第2電池ユニットとが電気的に並列に接続されている。これによって、低温特性に優れた第1電池ユニットと、高温特性に優れた第2電池ユニットとを、温度環境に応じて使い分けることができる。このため、ここに開示される電池モジュールは、周囲の温度環境に影響されずに高い性能を安定的に発揮できる。
【0009】
ここに開示される電池モジュールの好適な一態様では、第1電解液の粘度が1mPa・s以上3.2mPa・s未満である。これによって、ガス発生量が十分に抑制され、かつ、低温環境における入出力特性に特に優れた第1電池ユニットを構築できる。
【0010】
ここに開示される電池モジュールの好適な一態様では、第2電解液の粘度が3.2mPa・s以上5mPa・s以下である。これによって、入出力特性が十分に確保され、かつ、高温環境におけるガス発生量が特に少ない第2電池ユニットを構築できる。
【0011】
ここに開示される電池モジュールの好適な一態様では、第1電池ユニットは、所定の配列方向に沿って複数の第1単電池が相互に隣接して配列することによって構成され、かつ、第2電池ユニットは、所定の配列方向に沿って複数の第2単電池が相互に隣接して配列することによって構成されている。このように同じ電池ユニットを構成する単電池を隣接して配置することによって、電池モジュール内の温度分布を把握しやすくなるため、温度環境に応じた電池ユニットの切り替えを実施しやすくなる。
【0012】
ここに開示される電池モジュールの好適な一態様では、第1単電池の電極活物質と第2単電池の電極活物質とが同じ材料である。これによって、低温特性と高温特性を除く各種性能を第1電池ユニットと第2電池ユニットとの間で揃えることができるため、第1電池ユニットと第2電池ユニットを併用する際の充放電制御が容易になる。
【0013】
ここに開示される技術の他の側面として、電源システムが提供される。ここに開示される電源システムは、上記構成の電池モジュールと、電池モジュールに関する温度情報Tを検出する温度センサと、電池モジュールの充放電を実施する充放電手段と、充放電手段による電池モジュールの充放電を制御する制御部とを備えている。そして、この電源システムの制御部は、温度情報Tに基づいて、第1電池ユニットと第2電池ユニットの充放電を切り替えるように構成されている。上記構成の電源システムによると、第1電池ユニットと第2電池ユニットを温度情報Tに応じて使い分けることができるため、周囲の温度環境に影響されずに高い性能を安定的に発揮できる。
【0014】
ここに開示される電源システムの好適な一態様では、制御部に所定の第1基準温度TS1が設定されており、制御部は、温度情報Tが第1基準温度TS1よりも低温である場合に、第2電池ユニットの充放電を停止し、第1電池ユニットの充放電を行う低温制御を実施するように構成されている。これによって、電池モジュールが低温環境に晒された際に、低温での充放電で劣化しやすい第2電池ユニットを使用せずに、第1電池ユニットでの充放電を実施できる。
【0015】
ここに開示される電源システムの好適な一態様では、制御部に第1基準温度TS1よりも高温の第2基準温度TS2が設定されており、制御部は、温度情報Tが第2基準温度TS2よりも高温である場合に、第2電池ユニットの充放電を優先的に行う高温制御を実施するように構成されている。これによって、電池モジュールが高温環境に晒された際の充放電や自己発熱で分解ガスが生じやすい第1電池ユニットを使用せずに、第2電池ユニットでの充放電を実施できる。
【0016】
ここに開示される電源システムの好適な一態様では、高温制御において、制御部は、第1電池ユニットの充電率である第1充電率SOC1を低下させた後に、第2電池ユニットの充放電を優先的に行うように構成されている。電解液の分解は、上述した高温環境に加え、二次電池が高SOCとなっているとさらに発生しやすくなる。このため、高温環境に晒されていると判定された場合には、電解液が分解されやすい第1電池ユニットのSOCを低下させた後に、第2電池ユニットを使用した充放電を実施することが好ましい。これによって、分解ガスの発生をより好適に防止できる。
【0017】
ここに開示される電源システムの好適な一態様では、第1電池ユニットの充電率SOC1を測定する充電率測定手段をさらに備え、制御部に所定の基準充電率DSOCが設定されており、制御部は、高温制御において、第1電池ユニットの充電率SOC1が基準充電率DSOC以上となった場合に、第1電池ユニットの充放電を停止し、第2電池ユニットの充放電のみを行うように構成されている。第1電池ユニットは、高温環境に晒された場合でも、充電状態が低SOCであれば分解ガスが生じにくい傾向がある。このため、高温制御を実施する場合には、第1電池ユニットの充電率SOC1が所定の基準充電率DSOCを上回った場合にのみ、第1電池ユニットの充放電を停止してもよい。かかる態様によると、第1電池ユニットと第2電池ユニットを併用する機会を増やすことができるため、電池モジュール全体の性能を向上できる。
【0018】
ここに開示される電源システムの好適な一態様では、制御部は、温度情報Tが第1基準温度TS1と第2基準温度TS2との間であった場合に、第1電池ユニットと第2電池ユニットの両方の充放電を行う中温制御を実施するように構成されている。これによって、第1電池ユニットと第2電池ユニットを併用する機会を増やすことができるため、電池モジュール全体の性能を向上できる。
【0019】
ここに開示される電源システムの好適な一態様では、第1電池ユニットの開放電圧である第1開放電圧OCV1と第2電池ユニットの開放電圧である第2開放電圧OCV2を測定する開放電圧測定手段をさらに備え、制御部に所定の基準電圧差DOCVが設定されており、制御部は、第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2との差分の絶対値|OCV1-OCV2|を算出し、中温制御において、差分の絶対値|OCV1-OCV2|が基準電圧差DOCVを上回った場合、差分の絶対値|OCV1-OCV2|が基準電圧差DOCVを下回るまで第1電池ユニットと第2電池ユニットの各々に入力する電流値を異ならせるように構成されている。ここに開示される電源システムは、複数の電池ユニットを適宜切り替えながら充放電を実施するため、第1電池ユニットと第2電池ユニットとの間で開放電圧が異なりやすい。これに対して、本態様によると、各々の電池ユニットの開放電圧の差を小さくできるため、中温制御において第1電池ユニットと第2電池ユニットを併用する際に充放電を効率よく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態に係る電池モジュールを模式的に示す平面図である。
【
図2】一実施形態に係る電源システムのブロック図である。
【
図3】
図2に示す電源システムの充放電制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について説明する。以下の説明において、図面中の同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付している。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、電極体や電解液の構成および製法など)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0022】
1.電池モジュール
図1は、本実施形態に係る電池モジュールを模式的に示す平面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る電池モジュール1は、第1電池ユニット10と、第2電池ユニット20と、筐体30と、外部接続部材40を備えている。以下、各々の部材について説明する。
【0023】
(1)第1電池ユニット
第1電池ユニット10は、複数の第1単電池11を直列に接続することによって構築される。さらに、
図1に示す第1電池ユニット10は、所定の配列方向Yに沿って複数の第1単電池11を相互に隣接して配列することによって構成されている。具体的には、本実施形態において使用される第1単電池11は、扁平な角型電池である。第1電池ユニット10は、上記扁平な第1単電池11の扁平面11aが相互に対向するように、複数の第1単電池11を配列することによって構築される。また、第1単電池11の上面には、正極端子11bと負極端子11cとが設けられている。この第1電池ユニット10は、隣接した2つの第1単電池11の間で正極端子11bと負極端子11cとが近接するように、1個の第1単電池11毎に向きを反転させながら複数の第1単電池11を配列することによって構築される。そして、近接した正極端子11bと負極端子11cは、バスバー12によって接続される。これによって、第1電池ユニット10を構築する第1単電池11の各々が電気的に直列に接続される。なお、第1電池ユニットを構築する第1単電池の数は、特に限定されず、目的とする性能を考慮して適宜増減できる。例えば、
図1に示す第1電池ユニット10は、20個の第1単電池11を備えている。しかし、第1電池ユニットを構築する第1単電池の数は、2個以上であればよく、例えば、6個~200個の範囲内で適宜設定できる。
【0024】
また、第1単電池11は、配列方向Yに沿った拘束圧が加えられていることが好ましい。これによって、第1単電池11内の正極と負極の極間距離を安定化させ、より高い電池性能を発揮できる。例えば、
図1に示す第1電池ユニット10は、4組の拘束治具13を備えている。各々の拘束治具13は、一対の拘束板13A、13Bと、拘束バンド13Cを有している。そして、各々の拘束治具13は、5個の第1単電池11を一対の拘束板13A、13Bの間に挟み込んで拘束する。これによって、各々の第1単電池11に配列方向Yに沿った拘束圧を均一に加えることができる。なお、拘束治具の構造は、
図1に示す構成に限定されない。例えば、第1電池ユニットを構築する全ての第1単電池を1組の拘束治具で拘束してもよい。この場合でも、各々の第1単電池に配列方向に沿った拘束圧を加えることができる。
【0025】
なお、本実施形態に係る電池モジュール1は、2個の第1電池ユニット10を備えている。しかし、第1電池ユニットの個数は、特に限定されず、1個でもよいし、3個以上であってもよい。第1電池ユニットの個数は、目的とする性能を考慮して適宜増減できる。
【0026】
(2)第2電池ユニット
第2電池ユニット20は、複数の第2単電池21を直列に接続することによって構築されている。第2電池ユニット20は、第2単電池21を使用している点を除いて、第1電池ユニット10と同様の構成を採用することができる。すなわち、
図1に示す第2電池ユニット20は、配列方向Yに沿って複数の第2単電池21を相互に隣接して配列することによって構成されている。この第2単電池21も、一対の扁平面21aを有する扁平な角型電池である。そして、第2電池ユニット20は、第2単電池21の扁平面21aが相互に対向するように複数の第2単電池21を配列することによって構築される。また、第2単電池21の上面にも、正極端子21bと負極端子21cが設けられている。各々の第2単電池21は、隣接した2つの第2単電池21の間で正極端子21bと負極端子21cとが近接するように、第2単電池21の向きを1個ずつ反転させながら配列されている。そして、近接した正極端子21bと負極端子21cは、バスバー22によって接続される。これによって、複数の第2単電池21を電気的に直列に接続させた第2電池ユニット20が構築される。なお、第1電池ユニットと同様に、第2電池ユニットを構築する第2単電池の数も、特に限定されず、目的とする性能を考慮して適宜増減できる。
【0027】
また、第1単電池11と同様に、第2単電池21も、配列方向Yに沿った拘束圧が加えられていることが好ましい。これによって、より高い電池性能を発揮できる。具体的には、第2電池ユニット20も、4組の拘束治具23を備えている。この拘束治具23の各々は、一対の拘束板23A、23Bと、拘束バンド23Cを備えている。そして、各々の拘束治具23は、拘束板23A、23Bの間に5個の第2単電池21を挟み込ませることによって、各々の第2単電池21を拘束する。これによって、各々の第2単電池21に配列方向Yに沿った拘束圧を均一に加えることができる。また、本実施形態では、第2電池ユニット20も2個設けられている。しかし、第2電池ユニットの個数も、特に限定されず、1個でもよいし、3個以上であってもよい。第2電池ユニットの個数は、目的とする性能を考慮して適宜増減できる。また、第1電池ユニットと第2電池ユニットは、同数である必要もなく、異なった数であってもよい。また、第1電池ユニットと第2電池ユニットは、低温時の第1電池ユニットの自己発熱によって第2電池ユニットが均一に加熱されるように幅方向Xにおける配置位置が定められていることが好ましい。例えば、
図1及び
図2に示すように、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20を2つずつ備えた電池モジュール1においては、幅方向Xにおいて、第1電池ユニット10、第2電池ユニット20、第2電池ユニット20、第1電池ユニット10の順に配置することが好ましい。また、更に多くの電池ユニットを備えた電池モジュールでは、第1電池ユニットと第2電池ユニットを交互に配列することが好ましい。これによって、後述する低温制御が終了し際に、第2電池ユニットが均一に昇温された状態で充放電を再開できる。
【0028】
(3)筐体
筐体30は、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20を収容する保護部材である。また、筐体30は、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20を外界から隔離し、外気の温度変化の影響を少なくするという機能も有している。なお、電池モジュール1を車載用電源として使用する場合、筐体30は、高強度で軽量な素材(例えば、アルミニウム)で構成されていることが好ましい。なお、筐体30の形状は、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20を収容できれば特に制限されない。また、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の保温という観点から、筐体30は、冷却装置やヒータなどの温度調節機器を備えていることが好ましい。これによって、適切な温度環境で第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の充放電を実施できる機会が増えるため、電池モジュール1の全体的な充放電性能の向上に貢献できる。
【0029】
(4)外部接続部材
外部接続部材40は、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20を外部機器(例えば、
図2中の充放電手段3)と接続する導電部材である。この外部接続部材40は、各々の電池ユニットの出力端子と接続される。具体的には、第1電池ユニット10では、配列方向Yの一方(
図1の上方)の端部の第1単電池11の正極端子11bは、バスバー12と接続されておらず、外部に開放された正極出力端子11dとなる。また、配列方向Yの他方(
図1の下方)の端部の第1単電池11の負極端子11cは、外部に開放された負極出力端子11eとなる。同様に、第2電池ユニット20の上方の端部の第2単電池21の正極端子21bも、外部に開放された正極出力端子21dとなる。そして、第2電池ユニット20の下方の端部の第2単電池21の負極端子21cも、外部に開放された負極出力端子21eとなる。外部接続部材40は、上述した正極出力端子11d、21d及び負極出力端子11e、21eの各々と接続されている。そして、本実施形態における外部接続部材40は、相互に接続されずに独立した状態で外部機器(充放電手段3等)に直接接続される。このように、本実施形態では、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20は、外部機器を介して電気的に並列に接続される。これによって、各々の電池ユニットの充放電を個別に制御することができる。
【0030】
(5)第1単電池と第2単電池の構成
ここで、本実施形態に係る電池モジュール1は、第1単電池11が有する第1電解液の粘度が、第2単電池21が有する第2電解液の粘度よりも低いことによって特徴付けられる。換言すると、本実施形態に係る電池モジュール1は、相対的に低粘度の第1電解液を有する第1単電池11と、相対的に高粘度の第2電解液を有する第2単電池21とを備えている。ここで、低粘度の第1電解液は、イオン伝導度が高いため低温環境における入出力特性を改善できる一方で、分解されやすいため高温環境でのガス発生量が多いという特徴を有する。また、高粘度の第2電解液は、分解されにくいため高温環境でのガス発生量が少ない一方で、イオン伝導度が低いため低温環境における入出力特性が低下しやすいという特徴を有する。そして、上述した通り、本実施形態では、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20とが並列に接続されているため、各々の電池ユニットの充放電を個別に制御することができる。従って、本実施形態に係る電池モジュール1は、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20を温度環境に応じて使い分けることができるため、周囲の温度環境に影響されずに高い性能を安定的に発揮できる。
【0031】
なお、第1電解液の粘度が低下するにつれて、低温環境における第1電池ユニット10の入出力特性がさらに向上する傾向がある。かかる観点から、第1電解液の粘度は、3.2mPa・s以下が好ましく、3.0mPa・s以下がより好ましく、2.9mPa・s以下がさらに好ましく、2.8mPa・s以下が特に好ましい。一方、第1電池ユニット10から分解ガスの発生を抑制するという観点から、第1電解液も一定以上の粘度を有していることが好ましい。このため、第1電解液の粘度は、1mPa・s以上が好ましく、1.5mPa・s以上がより好ましく、2.0mPa・s以上がさらに好ましく、2.5mPa・s以上が特に好ましい。なお、本明細書における「電解液の粘度」は、回転式粘度計を用いて測定した25℃における実測値である。
【0032】
一方、第2電解液の粘度が上昇するにつれて、高温環境における第2電池ユニット20のガス発生量がさらに低減される傾向がある。かかる観点から、第2電解液の粘度は、3.2mPa・s超が好ましく、3.4mPa・s以上がより好ましく、3.5mPa・s以上がさらに好ましく、3.6mPa・s以上が特に好ましい。一方、第2電池ユニット20の入出力特性を十分に確保するという観点では、第2電解液の粘度も一定以下に制限されていることが好ましい。かかる観点から、第2電解液の粘度は、5mPa・s以下が好ましく、4.8mPa・s以下がより好ましく、4.6mPa・s以下がさらに好ましく、4.4mPa・s以下が特に好ましい。
【0033】
また、第1電解液のイオン伝導度は、9mS・cm-1以上が好ましく、9.1mS・cm-1以上がより好ましく、9.3mS・cm-1以上がさらに好ましく、9.5mS・cm-1以上が特に好ましい。これによって、低温環境における第1電池ユニット10の入出力特性をさらに改善できる。一方、第1電解液のイオン伝導度の上限は、特に限定されず、15mS・cm-1以下でもよく、14mS・cm-1以下でもよく、12mS・cm-1以下でもよく、10mS・cm-1以下でもよい。なお、本明細書における「電解液のイオン伝導度」は、交流インピーダンス法に基づいて測定した実測値である。
【0034】
一方、第2電解液のイオン伝導度は、9mS・cm-1未満が好ましく、8.9mS・cm-1以下がより好ましく、8.8mS・cm-1以下がさらに好ましく、8.7mS・cm-1以上が特に好ましい。これによって、高温環境における第2電池ユニット20のガス発生量をさらに低減できる。一方、第2電解液のイオン伝導度の上限も、特に限定されず、8mS・cm-1以上でもよく、8.3mS・cm-1以上でもよく、8.4mS・cm-1以上でもよく、8.5mS・cm-1以上でもよい。
【0035】
なお、電解液(第1電解液および第2電解液)の成分は、従来公知の電解液で使用され得るものを特に制限なく使用することができ、ここに開示される技術を限定するものではない。典型的には、電解液は、非水溶媒と支持塩を含有する。
【0036】
非水溶媒としては、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を使用できる。なかでも、カーボネート類が好ましく、その具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が挙げられる。また、電解液の粘度は、非水溶媒に含まれる有機溶媒の配合割合によって調整できる。すなわち、所定の有機溶媒を適宜混合することによって、所望の粘度の電解液を調製できる。例えば、10質量%以上のECと、25質量%以上のDMCを含む電解液は、低粘度であるため、第1電解液として使用できる。また、10質量%以上のECと、25質量%未満のDMCを含む電解液は、高粘度であるため、第2電解液として使用できる。なお、これらのECとDMCを含む混合溶媒は、ここに開示される技術を限定するものではない。第1電解液と第2電解液の各々に適した有機溶媒の配合割合は、使用環境や電池の規格などの様々な要因を考慮して適宜変更することが好ましい。
【0037】
一方、支持塩は、電解液の粘度に大きな影響を与えず、従来公知の支持塩を特に制限なく使用できる。支持塩の一例としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4等のリチウム塩(好ましくはLiPF6)が挙げられる。また、支持塩の濃度も、電解液の粘度に大きな影響を与えず、特に限定されない。支持塩の濃度は、例えば、0.7M以上1.3M以下の範囲内(例えば、1M程度)に調節され得る。
【0038】
また、本実施形態において使用される二次電池(第1単電池11、第2単電池21)における電解液以外の構成は、特に限定されず、一般的な二次電池に用いられ得る従来公知の構成を特に制限なく採用できる。上記電解液以外の構成の一例として、電荷担体を吸蔵・放出する成分である電極活物質(正極活物質と負極活物質)が挙げられる。これらの電極活物質の材料も特に限定されず、従来公知の材料を適宜使用できる。例えば、第1単電池11及び第2単電池21にリチウムイオン二次電池を使用する場合には、正極活物質として、リチウム遷移金属複合酸化物(例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン含有複合酸化物等)を使用できる。一方、負極活物質としては、炭素系材料(グラファイト等)を使用できる。なお、第1単電池11と第2単電池21は、電極活物質が同じ材料で構成されている方が好ましい。これによって、低温特性と高温特性を除く各種の性能を第1電池ユニット10と第2電池ユニット20との間で揃えることができるため、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20を併用する際の充放電制御が容易になる。
【0039】
2.電源システム
次に、上記構成の電池モジュール1を備えた電源システムについて説明する。
図2は、本実施形態に係る電源システムの回路図である。
図2に示すように、本実施形態に係る電源システム100は、電池モジュール1と、温度センサ2と、充放電手段3と、制御部4を備えている。以下、電池モジュール1を除く各部材の構成を説明する。
【0040】
(1)温度センサ
温度センサ2は、電池モジュール1に関する温度情報Tを検出する部材である。この温度情報Tは、電池モジュール1の充放電に影響し得る温度であればよく、特定の温度に限定されない。例えば、温度センサ2は、電池モジュール1の内部に配置されていてもよい。この場合には、電池モジュール1の温度が温度情報Tとして検出される。また、温度センサ2は、電池モジュール1の外部(
図1に示す筐体30の外側)に配置されていてもよい。この場合には、周囲の環境温度が温度情報Tとして検出される。そして、どちらの温度情報Tを検出した場合でも、後述する基準温度を適宜変更することによって、適切なタイミングで第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の充放電を切り替えることができる。また、温度センサの数は、1個に限定されず、複数であってもよい。この場合には、複数の温度センサによって検出された温度の平均値、最大値、最小値、中央値などを温度情報Tとして採用できる。
【0041】
(2)充放電手段
充放電手段3は、電池モジュール1の充放電を実施する機器である。充放電手段3としては、この種の二次電池の充放電装置を特に制限なく使用できる。例えば、充放電手段3は、電源と、電子負荷と、電圧計と、電流計と、接続部とを備えている。なお、充放電手段は、単一の機器に限定されず、充電装置と放電装置に分かれていてもよい。そして、本実施形態に係る電源システム100では、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20に対して個別に電力の入出力ができるように、電池モジュール1と充放電手段3との接続が構築されている。具体的には、上述した通り、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の各々には、外部接続部材40が接続されている。そして、複数の外部接続部材40は、独立して充放電手段3と接続されている。これによって、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の各々に対する入出力電流を個別に調節することができる。
【0042】
(3)制御部
制御部4は、充放電手段3による電池モジュール1の充放電を制御する装置である。例えば、制御部4は、充放電手段3と接続され、当該充放電手段3の動作制御を行うマイクロコンピュータである。制御部4は、外部機器とのデータの送受信を可能とするインターフェイスと、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)と、上記制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)と、制御プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(Random Access Memory)と、制御プログラムや各種データを格納するメモリ等の記憶部とを備えている。なお、制御部4は、上述のハードウェア構成に限定されず、必要に応じて適宜変更できる。
【0043】
また、本実施形態に係る電源システム100の制御部4は、温度センサ2とも接続されている。そして、制御部4は、温度センサ2が検出した温度情報Tに基づいて、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の充放電を切り替えるように構成されている。上述した通り、本実施形態に係る電池モジュール1は、低温特性に優れる第1電池ユニット10と、高温特性に優れる第2電池ユニット20とを備えている。本実施形態に係る電源システム100は、温度センサ2から受信した温度情報Tに基づいて、これらの電池ユニットの充放電を切り替えることができるため、周囲の温度環境に影響されずに、電池モジュール1の性能を高い状態で発揮できる。
【0044】
(4)他の構成
また、本実施形態における電源システム100は、開放電圧測定手段を備えている。図示は省略するが、開放電圧測定手段は、各々の電池ユニットの出力端子(正極出力端子11d、21dおよび負極出力端子11e、21e)に接続されており、充放電手段3から電流(電圧)が印加されていない状態における電池ユニットの電圧を「開放電圧」として測定する。なお、本明細書では、第1電池ユニット10の開放電圧を「第1開放電圧OCV1」と称し、第2電池ユニット20の開放電圧を「第2開放電圧OCV2」と称する。開放電圧測定手段は、温度センサ2と同様に、制御部4と接続されている。詳しくは後述するが、本実施形態における制御部4は、電池モジュール1の充放電制御を行う際に、開放電圧測定手段において測定された開放電圧も参照する。
【0045】
さらに、本実施形態における電源システム100は、充電率測定手段を備えている。例えば、充電率測定手段は、制御部4に内蔵されている。この充電率測定手段は、第1電池ユニット10の充電率(第1充電率SOC1)と、第2電池ユニット20の充電率(第2充電率SOC2)とを測定する。具体的には、本実施形態における制御部4には、各々の電池ユニットにおける開放電圧と充電率との相関関係が記憶されている。そして、制御部4の充電率測定手段は、開放電圧測定手段から送信された各電池ユニットの開放電圧(第1開放電圧OCV1又は第2開放電圧OCV2)に基づいて、各々の電池ユニットの充電率を算出する。なお、本明細書では、第1電池ユニット10の充電率を「第1充電率SOC1」と称し、第2電池ユニット20の充電率を「第2充電率SOC2」と称する。また、開放電圧と充電率との相関関係は、単電池の劣化等によって変化することがある。このため、電源システム100は、開放電圧を測定しながら充電率を0%から100%に変化させる充放電を実施し、制御部4に記憶された相関関係を更新できるように構成されていることが好ましい。
【0046】
3.充放電制御
次に、本実施形態に係る電源システム100の充放電制御の具体的な手順に説明する。
図3は、
図2に示す電源システムの充放電制御を説明するフローチャートである。本実施形態に係る電源システム100は、
図3中の「開始」から「終了」に至る制御フローを所定の時間ごとに繰り返すことができるように構築される。なお、ここに開示される技術を限定するものではないが、電源システム100が
図3に示す制御フローを繰り返す頻度は、1秒間~10秒間に1回程度に設定することが好ましい。
【0047】
図3に示すように、本実施形態における充放電制御は、温度検出工程S10と、低温判定工程S20と、高温判定工程S30とを備えている。そして、本実施形態に係る電源システム100では、低温判定工程S20にて低温環境と判定された場合に低温制御工程S22が実施される。また、高温判定工程S30にて高温環境と判定された場合に高温制御工程S32が実施される。そして、低温判定工程S20にて低温環境ではないと判定され、かつ、高温判定工程S30にて高温環境ではないと判定された場合には、中温制御工程S41が実施される。以下、かかる充放電制御について具体的に説明する。
【0048】
(1)温度検出工程
本実施形態における充放電制御では、最初に、温度センサ2で検出された温度情報Tを制御部4に送信する温度検出工程S10を実施する。上述した通り、ここで測定される温度情報Tは、電池モジュール1の温度でもよいし、電池モジュールの外部の温度(環境温度)でもよい。以下では、温度情報Tとして環境温度を取得した場合について説明する。
【0049】
(2)低温制御
次に、本実施形態では、温度情報Tと第1基準温度TS1とを比較する低温判定工程S20を実施する。第1基準温度TS1は、制御部4に記憶された閾値であり、低温特性が低い第2単電池21において入出力特性の急激な低下が生じる温度に設定され得る。なお、第1基準温度TS1の具体的な温度は、特に限定されず、各々の単電池の構成に応じて適宜変更できる。一例として、第1基準温度TS1は、-20℃~5℃の範囲内(例えば0℃)に設定され得る。この低温判定工程S20において温度情報Tが第1基準温度TS1未満(T<TS1)と判定された場合(S20のYes)は、制御部4は、低温環境が生じており、第2電池ユニット20の入出力特性が低下する可能性があると判断し、第1分離判定工程S21に進む。
【0050】
第1分離判定工程S21では、現状の充放電制御において、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の各々の制御が分離されているか否かを判定する。このとき、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の制御が分離されていない場合(S21のNo)、制御部4は、ユニット分離工程S22と低温制御工程S23を実施する。具体的には、ユニット分離工程S22において、制御部4は、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の各々の充放電制御を分離する旨の信号を充放電手段3に送信する。次に、低温制御工程S23において、制御部4は、第2電池ユニット20の充放電を停止し、第1電池ユニット10の充放電を行う旨の信号を充放電手段3に送信する。これによって、低温特性に優れた第1電池ユニット10を適切なタイミングで使用できる。一方、第1分離判定工程S21において第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の制御が分離されている(S21のYes)と判定された場合、前回の制御機会の際に、ユニット分離工程S22と低温制御工程S23とが既に実施されたと解される。この場合、制御部4は、未だ低温環境が解消されていないと判断して低温制御工程S23を継続する。
【0051】
(3)高温制御
本実施形態における充放電制御では、第1判定工程S20にて温度情報Tが第1基準温度TS1以上(T≧TS1)と判定された場合(S20のNo)、高温判定工程S30を実施する。この第2判定工程S30において、制御部4は、温度情報Tと第2基準温度TS2を比較する。第2基準温度TS2は、制御部4に記憶された閾値であり、上記第1基準温度TS1よりも高い温度に設定される。典型的には、第2基準温度TS2は、高温特性が低い第1単電池11にて分解ガスが発生する温度に設定され得る。なお、第2基準温度TS2の具体的な温度も、特に限定されず、各々の単電池の構成に応じて適宜変更できる。一例として、第2基準温度TS2は、45℃~60℃の範囲内(例えば50℃)に設定され得る。この高温判定工程S30において、温度情報Tが第2基準温度TS2を超える(T>TS2)と判定された場合(S30のYes)、制御部4は、高温環境が生じており、第1電池ユニット10にて分解ガスが発生する可能性があると判断し、第2分離判定工程S31に進む。
【0052】
第2分離判定工程S31では、現状の充放電制御において、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の各々の制御が分離されているか否かを判定する。このとき、各ユニットの制御が分離されていない場合(S31のNo)、制御部4は、ユニット分離工程S32と第1ユニット優先放電工程S33を実施する。具体的には、ユニット分離工程S32において、制御部4は、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の充放電制御を分離する旨の信号を充放電手段3に送信する。次に、第1ユニット優先放電工程S33において、制御部4は、第2電池ユニット20の充放電電流を抑制し、第1電池ユニット10から優先的に放電させる旨の信号を充放電手段3に送信する。一般的に、二次電池が高SOCとなっていると、電解液の分解がさらに発生しやすくなる。このため、本実施形態に係る電源システム100では、高温環境が生じていると判断した際に、分解ガスが生じやすい第1電池ユニット10の充電率(SOC)を優先的に低下させる。これによって、第1電池ユニット10からの分解ガスの発生をさらに好適に防止できる。
【0053】
そして、上述した第1ユニット優先放電工程S33を実施した後に、
図3に示す制御フローを実施すると、第2分離判定工程S31において各ユニットの制御が分離されている(S31のYes)と判定される。この場合、制御部4は、第1充電率SOC
1を測定するSOC
1測定工程S34を実施した後に、第1充電率SOC
1と基準充電率D
SOCとを比較するSOC判定工程S35を実施する。このSOC判定工程S35を実施することによって、上述した第1ユニット優先放電工程S33によって、第1電池ユニット10のSOCが適切に低下したか否かを判定することができる。そして、第1充電率SOC
1が基準充電率D
SOC未満(SOC
1<D
SOC)まで低下した場合(S35のYes)、第1電池ユニット10のSOCが十分に低下したと解釈できる。このとき、制御部4は、第1電池ユニット10の充放電を停止する第1ユニット切断工程S36を実施した後に、高温特性に優れた第2電池ユニット20のみを使用して充放電を実施する高温制御S37を開始する。一方、第1充電率SOC
1が基準充電率D
SOC以上(SOC
1≧D
SOC)である場合(S35のNo)、第1電池ユニット10のSOCが十分に低下していないため、制御部4は、第1ユニット優先放電工程S33を継続して実施する。
【0054】
なお、SOC判定工程S35で使用される「基準充電率DSOC」は、第2基準温度TS2を超えた温度環境で第1単電池11から分解ガスが発生するSOCに設定される。具体的な基準充電率DSOCの値は、特に限定されず、使用する二次電池の種類等に応じて適宜変更できる。一例として、基準充電率DSOCは、50%以下(より好適には30%以下、さらに好適には20%以下)の所定の値に設定するとよい。これによって、分解ガスの発生を好適に防止できる。
【0055】
(3)中温制御
次に、上記高温判定工程S30において、温度情報Tが第2基準温度TS2以下と判定された場合(S30のNo)、制御部4は、温度センサ2で検出された温度情報Tが、第1基準温度TS1と第2基準温度TS2の間の通常の温度域にあると判断する。この場合、制御部4は、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の両方の充放電を行う中温制御を実施する。
【0056】
この中温制御において、制御部4は、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の各々の制御が分離されているか否かを判定する第3分離判定工程S40を実施する。ここで、各ユニットの制御が分離されていた場合(S40のYes)、前回の制御を行った際に低温制御S23と第1ユニット優先放電工程S33と高温制御S37の何れかが実施されていたと解される。この場合、制御部4は、OCV差検出工程S42を実施する。このOCV差検出工程S42において、制御部4は、開放電圧測定手段から送信された第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2との差分の絶対値|OCV1-OCV2|を算出する。次に、制御部4は、上記差分の絶対値|OCV1-OCV2|と基準電圧差DOCVを比較するOCV差判定工程S43を実施する。上述した低温制御S23、第1ユニット優先放電工程S33、高温制御S37の何れかを実施すると、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20との間で開放電圧が大きく異なり、各々の電池ユニットの充放電を同時に実施することが難しくなる可能性がある。このため、本実施形態に係る電源システム100では、中温制御工程S41を実施する前に、OCV差判定工程S43において、第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2が同程度であるか、大きく相違しているかを判断する。そして、上記差分の絶対値|OCV1-OCV2|が基準電圧差DOCV未満(|OCV1-OCV2|<DOCV)である場合、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の充電状態に大きな差がないと判断できる。この場合、制御部4は、S43のYesに進んで、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の制御を統合するユニット接続工程S44を実施した後に、各ユニットを同じ条件で充放電する中温制御工程S41を実施する。一方、上記差分の絶対値|OCV1-OCV2|が基準電圧差VS以上(|OCV1-OCV2|≧DOCV)である場合には、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の充電状態が大きく異なっていると判断できる。この場合、制御部4は、S43のNoに進んで電流配分調整工程S45を実施する。この電流配分調整工程S45では、上記差分の絶対値|OCV1-OCV2|が基準電圧差DOCV未満になるまで第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の各々に入力する電流値を異ならせる。これによって、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の充電状態を近似させることができるため、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20を併用する中温制御工程S41を容易に実施できる。一方、第3分離判定工程S40にて各ユニットの制御が分離されていなかった場合(S40のNo)、前回の制御機会にて中温制御工程S41が実施されていたと解される。この場合、制御部4は、中温制御工程S41を継続して実施する。
【0057】
以上、本実施形態に係る電源システム100の充放電制御について説明した。上述した通り、本実施形態に係る電源システム100は、電池モジュール1に関する温度情報Tに基づいて、第1電池ユニット10と第2電池ユニット20の充放電を切り替える。これによって、低温特性に優れた第1電池ユニット10と、高温特性に優れた第2電池ユニット20の各々を適切なタイミングで使用できるため、低温環境による入出力特性の低下と、高温環境による分解ガスの発生の両方を好適に防止することができる。
【0058】
2.他の実施形態
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。なお、上述した充放電制御は、ここに開示される電池モジュールおよび電源システムの使用方法の一例を示すものであって、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。例えば、上述した実施形態では、低温側の第1基準温度TS1と高温側の第2基準温度TS2の2つの基準温度を設定し、各々の基準温度に基づいた判定を行うことによって、低温制御と中温制御と高温制御の3種類の充放電制御を実施している。しかしながら、充放電制御における基準温度の数は、2つに限定されない。例えば、低温環境と高温環境を分ける1つの基準温度を設定し、低温制御と高温制御の2種類の充放電制御を実施してもよい。この場合でも、低温環境による入出力特性の低下と、高温環境による分解ガスの発生の両方を適切に防止することができる。また、3つ以上の基準温度を設定し、温度特性の異なる4種類以上の電池ユニットを適宜切り替えてもよい。
【0059】
また、ここに開示される電池モジュールは、上記構成の電源システムに使用される態様に限定されない。例えば、電池モジュールは、制御部による自動判定を用いない電源システムに使用することもできる。具体的には、温度センサによって検出された温度情報Tを使用者に通知し、当該温度情報Tに基づいて使用者が手動で第1電池ユニットと第2電池ユニットを切り替えてもよい。この場合でも、低温環境による入出力特性の低下と、高温環境による分解ガスの発生の両方を適切に防止できる。
【0060】
また、上述の実施形態では、電池モジュール1が高温環境に晒されていると判定された(
図3中のS30のYes)場合に、第1ユニット優先放電工程S33を実施し、第1電池ユニット10のSOCを低下させている。これによって、第1単電池11からのガスの発生をさらに好適に抑制できる。しかし、この第1ユニット優先放電工程は、ここに開示される技術における必須の工程ではない。例えば、電池モジュール1が高温環境に晒されている場合、第1電池ユニットの使用を直ちに停止し、高温特性に優れた第2電池ユニットのみを使用してもよい。このように、第1電池ユニット10のSOCを考慮しない制御を実施した場合でも高温環境でのガスの発生を十分に抑制できる。
【0061】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関する試験例について説明する。ただし、以下の試験例は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。
【0062】
1.サンプルの準備
(1)二次電池の作製
本試験では、容量50Ahの角形リチウムイオン二次電池を2種類作製した(第1単電池および第2単電池)。なお、各々の二次電池のサイズは、幅148mm、高さ91mm、奥行26.5mmである。また、正極活物質には、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を使用し、負極活物質には黒鉛を使用した。そして、本試験では、第1単電池に低粘度の第1電解液を使用し、第2単電池に高粘度の第2電解液を使用した。各々の二次電池の電解液を以下の表1に示す。
【0063】
【0064】
(2)電池モジュールの作製
本試験例では、上述の二次電池を使用して3種類の電池モジュール(サンプル1~3)を構築した。以下、各サンプルの電池モジュールの構成について説明する。
【0065】
(a)サンプル1
サンプル1では、4個の第1単電池をバスバーで直列に接続した第1電池ユニットを3個作製した。そして、各々の第1電池ユニットを並列に接続することによって、12個の第1単電池を備えた電池モジュールを作製した。
【0066】
(b)サンプル2
サンプル2では、4個の第2単電池をバスバーで直列に接続した第2電池ユニットを3個作製した。そして、各々の第2電池ユニットを並列に接続することによって、12個の第2単電池を備えた電池モジュールを作製した。
【0067】
(c)サンプル3
サンプル3では、4個の第1単電池を直列に接続した第1電池ユニットを1個作製すると共に、4個の第2単電池を直列に接続した第2電池ユニットを2個作製した。そして、幅方向の中央部に第1電池ユニットを配置し、両外側に第2電池ユニットを配置し、各々の電池ユニットを並列に接続することによって、サンプル3の電池モジュールを作製した。そして、サンプル3では、後述する低温充放電中に第1電池ユニットの充放電のみを実施し、中温充放電中に全ての電池ユニットの充放電を実施し、高温充放電中に第2電池ユニットの充放電のみを実施した。
【0068】
2.評価試験
(1)充放電試験
本試験では、サンプル1~3の各々の電池モジュールに対して、温度条件を変化させながら充放電を実施した。まず、充電条件については、1個の電池ユニットに対する充電電流を50Aに設定し、開始電圧を3.0V/単電池に設定し、終止電圧を4.2V/単電池に設定した。一方、放電条件については、1個の電池ユニットに対する放電電流を50Aに設定し、開始電圧を4.0V/単電池に設定し、終止電圧を2.5V/単電池に設定した。この条件の下で充電(又は放電)を実施した場合、二次電池の充放電特性が正常であれば、約1時間で充電(又は放電)が終了する。そして、本試験では、-20℃下での低温充放電を実施した後に、25℃下での中温充放電を実施し、60℃下での高温充放電を実施した。
【0069】
そして、本試験では、各々の温度域において実施した定電流充電(又は放電)完了に1時間以上の時間を要した場合に、十分な容量を有しており入出力特性が正常であると判定した。一方、定電流充電が1時間以内に終了した場合を入出力特性が悪化したと判定した。また、本試験では、電池モジュールを構成する二次電池の各々に電流遮断機構を取り付け、分解ガスの発生によって電池ケースの内圧が1MPa以上に上昇した際に充電(又は放電)が切断されるようにした。評価結果を表2に示す。
【0070】
【0071】
サンプル1は、-20℃の低温環境でも好適な入出力特性を発揮できる一方で、60℃の高温環境において分解ガスの発生による電流遮断機構の作動が確認された。このことから、低粘度の電解液を使用した二次電池は、低温特性に優れる一方で、高温特性が低いことが分かった。次に、サンプル2は、低温環境で1時間以内に充放電が終了してしまい容量不足の状態となった一方で、高温環境でも分解ガスの発生が抑制されていた。このことから、高粘度の電解液を使用した二次電池は、高温特性に優れる一方で、低温特性が低いことが分かった。そして、サンプル3は、全ての温度で正常な充放電が行われていた。このことから、低温特性に優れる第1単電池と高温特性に優れる第2単電池を備えた電池モジュールを構築し、周囲の温度に応じて第1単電池と第2単電池の充放電を切り替えることによって、低温環境による入出力特性の低下と、高温環境による分解ガスの発生の両方を適切に防止できることが分かった。
【0072】
(2)長期間耐久試験
本試験では、サンプル3の電池モジュールを高温環境で長期間保存し、第1単電池における分解ガスの発生を抑制する手段について検討した。具体的には、本試験では、サンプル3の電池モジュールを4個準備し、上述の充放電試験における中温放電と同じ条件で各々の電池モジュールを放電した。そして、各々の電池モジュールを、異なるSOCに充電した。以下、SOC=25%に充電した電池モジュールをサンプル3Aと称し、SOC=50%に充電した電池モジュールをサンプル3Bと称する。そして、SOC=75%に充電した電池モジュールをサンプル3Cと称し、SOC=100%に充電した電池モジュールをサンプル3Dと称する。本試験では、これらのサンプル3A~3Dを60℃の雰囲気で30日間保存した後に、分解ガスの発生による電流遮断機構の作動が生じているかを調べた。結果を表3に示す。
【0073】
【0074】
表3に示すように、サンプル3A、3Bでは、高温環境に長期間放置されているにも関わらず、高温特性の低い第1電池ユニットにおいて多量の分解ガスの発生による電流遮断機構の作動が確認されなかった。このことから、第1電池ユニットと第2電池ユニットを備えた電池モジュールでは、高温環境に晒された際に第1電池ユニットのSOCを速やかに低下させ、低SOCの状態を維持することが好ましいことが分かった。これによって、第1電池ユニットにおける分解ガスの発生をより好適に防止できると予想される。
【0075】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1 電池モジュール
2 温度センサ
3 充放電手段
4 制御部
10 第1電池ユニット
11 第1単電池
20 第2電池ユニット
21 第2単電池
30 筐体
40 外部接続部材
100 電源システム
S10 温度検出工程
S20 低温判定工程
S21 第1分離判定工程
S22 ユニット分離工程
S23 低温制御工程
S30 高温判定工程
S31 第2分離判定工程
S32 ユニット分離工程
S33 第1ユニット優先放電工程
S34 SOC1測定工程
S35 SOC判定工程
S36 第1ユニット切断工程
S37 高温制御工程
S40 第3分離判定工程
S41 中温制御工程
S42 OCV差検出工程
S43 OCV差判定工程
S44 ユニット接続工程
S45 電流配分調整工程