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特許7510459トンネル切羽評価システム及びトンネル切羽評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】トンネル切羽評価システム及びトンネル切羽評価方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20240626BHJP
   G06N 3/04 20230101ALI20240626BHJP
   G06N 3/08 20230101ALI20240626BHJP
   G01D 21/00 20060101ALI20240626BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
G06N3/04
G06N3/08
G01D21/00 D
G01N33/24 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022070007
(22)【出願日】2022-04-21
(65)【公開番号】P2023160012
(43)【公開日】2023-11-02
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮汰
(72)【発明者】
【氏名】兼松 亮
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-003145(JP,A)
【文献】特開2010-138568(JP,A)
【文献】特開2021-183774(JP,A)
【文献】特開2019-023392(JP,A)
【文献】特開2019-190062(JP,A)
【文献】特開2019-184541(JP,A)
【文献】特開2017-115388(JP,A)
【文献】特開2002-099895(JP,A)
【文献】特開2018-205062(JP,A)
【文献】特開平07-044710(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0145658(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/00
G06N 3/04
G06N 3/08
G01D 21/00
G01N 33/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウドストレージを介して作業者の携帯端末とネットワークで接続される評価サーバを備えるトンネル切羽評価システムであって、
前記評価サーバは、
前記携帯端末により取得され前記クラウドストレージに保存された切羽の画像を取得して、深層学習を使用した画像変換処理手段により、前記切羽の画像から大局的に見た目の色調毎に色分けしてデフォルメされたスケッチ用下地画像を生成するスケッチ用下地画像生成部と、
生成された前記スケッチ用下地画像に基づき切羽の評価点を生成する切羽評価部と、
前記スケッチ用下地画像と前記評価点に基づき切羽観察記録原稿を生成して前記クラウドストレージに保存する切羽観察記録原稿生成部とを備えることを特徴とするトンネル切羽評価システム。
【請求項2】
前記評価サーバは、前記切羽の画像を取得して深層学習を使用した物体検知手段により切羽箇所を検出するか、前記スケッチ用下地画像を取得して前記スケッチ用下地画像の色調解析から切羽箇所を検出する切羽箇所検出部と、
前記切羽箇所を天端、左肩、右肩の各評価エリアに分解する切羽箇所分解処理部とをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のトンネル切羽評価システム。
【請求項3】
クラウドストレージを介してネットワークで接続される評価サーバと携帯端末とを備えるトンネル切羽評価システムによるトンネル切羽評価方法であって、
作業者の前記携帯端末で切羽の画像を取得して前記クラウドストレージに保存する段階と、
前記評価サーバが、
前記クラウドストレージに保存された前記切羽の画像を取得して、深層学習を使用した画像変換処理手段により、前記切羽の画像から大局的に見た目の色調毎に色分けしてデフォルメされたスケッチ用下地画像を生成する段階と、
生成された前記スケッチ用下地画像に基づき切羽の評価点を生成する段階と、
前記スケッチ用下地画像と前記評価点に基づき切羽観察記録原稿を生成する段階と、
前記切羽観察記録原稿を前記クラウドストレージに保存する段階とを有することを特徴とするトンネル切羽評価方法。
【請求項4】
前記携帯端末により前記クラウドストレージに保存された切羽観察記録原稿を取得して前記切羽観察記録原稿に補足又は修正を加えて、完成された切羽観察記録としてクラウドストレージに保存する段階をさらに有することを特徴とする請求項3に記載のトンネル切羽評価方法。
【請求項5】
前記スケッチ用下地画像に基づき切羽の評価点を生成する段階は、
前記切羽の画像又は前記スケッチ用下地画像から切羽箇所を検出する段階と、
検出した切羽箇所を天端、左肩、右肩の各評価エリアに分解する段階と、
分解した評価エリアごとに予め設定した色の面積に基づき風化変質評価点を算出する段階とを含むことを特徴とする請求項3に記載のトンネル切羽評価方法。
【請求項6】
前記切羽箇所を検出する段階は、
前記切羽の画像から、深層学習を使用した物体検知手段により切羽箇所を検出する段階と、
検出された前記切羽箇所が適切であるか否かを判断する段階と、
検出された前記切羽箇所が適切であると判断した場合、検出された前記切羽箇所を採用し、検出された前記切羽箇所が不適切であると判断した場合、前記スケッチ用下地画像から切羽箇所を検出して前記スケッチ用下地画像から検出された切羽箇所を採用する段階とを含むことを特徴とする請求項5に記載のトンネル切羽評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル切羽評価システム及びトンネル切羽評価方法に関し、特にクラウドストレージに保存された切羽の画像を取得して、深層学習を使用した画像変換処理手段により、切羽の画像から大局的に見た目の色調毎に色分けしてデフォルメされたスケッチ用下地画像を生成するトンネル切羽評価システム及びそれを用いたトンネル切羽評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル現場では,支保構造(支保パターン)や補助工法を選定するにあたって,切羽に現れる岩盤を観察して記録する切羽観察の作業が日常的に行われている。
切羽観察は,掘削直後のトンネル切羽へ近づく行為を伴うものであり、その場で定められた評価項目を記録する行為は、重機との接触や肌落ちなどといった災害や事故のリスクを伴う作業である。
【0003】
切羽観察の作業では、切羽観察記録と呼ばれる書類を作成することが求められるが、切羽観察記録には、基本的に切羽の状態を観察して図に表し、必要箇所にコメントなどを追記して作成したスケッチと呼ばれる図と、切羽を天端、左肩、右肩の各評価エリアに分解して、評価エリアごとに、また風化変質や割れ目の状況などの項目ごとに評価点を求めて表として表した評価区分とを含み、切羽観察記録の作成は手間がかかるものとなっている。トンネルの掘削の進展に伴い切羽が変化していくことから、切羽観察記録は定期的に作成する必要があり、頻繁に観察記録の書類を作成するという点で業務上大きな負担になる問題があり、省力化が求められている。
このような課題に対処するため、切羽観察を支援する技術も検討が進んでいる。
【0004】
特許文献1には、坑内観察における切羽の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を入力層に用い、切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により生成した学習結果を記憶する学習結果記憶部と、入力部と出力部とに接続された制御部とを備え、制御部が、入力部から取得した評価対象の切羽画像の評価領域を、基準画素数で分割し、分割した評価対象分割画像に学習結果を適用して個別評価区分を取得し、個別評価区分に基づいて、評価領域の評価区分を予測し、出力部に出力する切羽評価支援システムが開示されている。
【0005】
特許文献1の発明では、主に深層学習の技術を使用して、画像から評価点を直接算出する手法が取られている。画像データから深層学習処理を用いて直接評価点を算出する手法は、一定の正確さを以て評価するということが過去の研究成果によって確認されているものの、「何が高い正確さに貢献しているのか」「本当に深層学習は適切な処理を行っているのか」といった点を説明することが難しいという問題があった。
また、特許文献1の発明では、評価区分については評価支援装置により出力されるため省力化に寄与することはできるが、切羽のスケッチの作成などには対応しておらず、省力化の余地は残ったままである。
【0006】
そこで、作業者が取得する切羽の画像に基づき、スケッチを作成するための元図面を生成すると共に、生成した元図面に基づき評価点を生成し、スケッチを作成するための元図面及び生成した評価点に基づき切羽観察記録の基となる原稿を生成することで切羽観察の省力化を図るトンネル切羽評価システムの提供が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-023392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来のトンネル切羽評価システムにおける問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、クラウドストレージに保存された切羽の画像を取得して、深層学習を使用した画像変換処理手段により、切羽の画像から大局的に見た目の色調毎に色分けしてデフォルメされたスケッチ用下地画像を生成するトンネル切羽評価システム及びそれを用いたトンネル切羽評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明によるトンネル切羽評価システムは、クラウドストレージを介して作業者の携帯端末とネットワークで接続される評価サーバを備えるトンネル切羽評価システムであって、前記評価サーバは、前記携帯端末により取得され前記クラウドストレージに保存された切羽の画像を取得して、深層学習を使用した画像変換処理手段により、前記切羽の画像から大局的に見た目の色調毎に色分けしてデフォルメされたスケッチ用下地画像を生成するスケッチ用下地画像生成部と、生成された前記スケッチ用下地画像に基づき切羽の評価点を生成する切羽評価部と、前記スケッチ用下地画像と前記評価点に基づき切羽観察記録原稿を生成して前記クラウドストレージに保存する切羽観察記録原稿生成部とを備えることを特徴とする。
【0010】
前記評価サーバは、前記切羽の画像を取得して深層学習を使用した物体検知手段により切羽箇所を検出するか、前記スケッチ用下地画像を取得して前記スケッチ用下地画像の色調解析から切羽箇所を検出する切羽箇所検出部と、前記切羽箇所を天端、左肩、右肩の各評価エリアに分解する切羽箇所分解処理部とをさらに備えることが好ましい。
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明によるトンネル切羽評価方法は、クラウドストレージを介してネットワークで接続される評価サーバと携帯端末とを備えるトンネル切羽評価システムによるトンネル切羽評価方法であって、作業者の前記携帯端末で切羽の画像を取得して前記クラウドストレージに保存する段階と、前記評価サーバが、前記クラウドストレージに保存された前記切羽の画像を取得して、深層学習を使用した画像変換処理手段により、前記切羽の画像から大局的に見た目の色調毎に色分けしてデフォルメされたスケッチ用下地画像を生成する段階と、生成された前記スケッチ用下地画像に基づき切羽の評価点を生成する段階と、前記スケッチ用下地画像と前記評価点に基づき切羽観察記録原稿を生成する段階と、前記切羽観察記録原稿を前記クラウドストレージに保存する段階とを有することを特徴とする。
【0012】
前記携帯端末により前記クラウドストレージに保存された切羽観察記録原稿を取得して前記切羽観察記録原稿に補足又は修正を加えて、完成された切羽観察記録としてクラウドストレージに保存する段階をさらに有することが好ましい。
【0013】
前記スケッチ用下地画像に基づき切羽の評価点を生成する段階は、前記切羽の画像又は前記スケッチ用下地画像から切羽箇所を検出する段階と、検出した切羽箇所を天端、左肩、右肩の各評価エリアに分解する段階と、分解した評価エリアごとに予め設定した色の面積に基づき風化変質評価点を算出する段階とを含むことが好ましい。
【0014】
前記切羽箇所を検出する段階は、前記切羽の画像から、深層学習を使用した物体検知手段により切羽箇所を検出する段階と、検出された前記切羽箇所が適切であるか否かを判断する段階と、検出された前記切羽箇所が適切であると判断した場合、検出された前記切羽箇所を採用し、検出された前記切羽箇所が不適切であると判断した場合、前記スケッチ用下地画像から切羽箇所を検出して前記スケッチ用下地画像から検出された切羽箇所を採用する段階とを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るトンネル切羽評価システムによれば、作業者が携帯端末を使って切羽の画像を取得し、取得した切羽の画像をクラウドストレージに保存するだけで、評価サーバがクラウドストレージへの新たな切羽の画像の保存を検知し、保存された切羽の画像に基づきスケッチの基になるスケッチ用下地画像を生成するため、作業者はスケッチ用下地画像に必要なコメントを追記するだけで容易にスケッチを作成することが可能となる。
【0016】
また、本発明に係るトンネル切羽評価システムによれば、切羽の評価は初めに大局的に見た目の色調毎に色分けしてデフォルメされたスケッチ用下地画像を生成した後、生成したスケッチ用下地画像に基づき評価結果が算出されるため、評価結果がどのように算出されたかが分かり易く、深層学習は適切な処理を行っているのかという疑問の生じにくいシステムとなっている。
【0017】
さらに、本発明に係るトンネル切羽評価システムによれば、評価サーバにより切羽箇所が検出されて、天端、左肩、右肩の各評価エリアに分解されて出力されるので作業者による画像の切出しが不要となる。また評価サーバが生成したスケッチ用下地画像やスケッチ用下地画像に基づき算出された評価結果は、作業者が少し手を加えるだけで切羽観察記録に纏められる切羽観察記録原稿として出力されるので、切羽観察記録を作成する手間を大幅に削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態によるトンネル切羽評価システムの構成を概略的に示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態によるトンネル切羽評価システムにおける処理の流れを概略的に示す図である。
図3】取得された切羽の画像と切羽の画像から生成されたデフォルメされたスケッチ用下地画像の事例を示す図である。
図4】取得された切羽の画像から直接またはスケッチ用下地画像を経由して切羽箇所を検出した結果の例を示す図である。
図5】評価エリアごとに分解されたスケッチ用下地画像から切羽の風化変質評価点を生成した結果の例を示す図である。
図6】本発明の実施形態による切羽観察記録原稿の例を示す図である。
図7】本発明の実施形態によるトンネル切羽評価方法を説明するためのフローチャートである。
図8】本発明の実施形態によるトンネル切羽評価方法における風化変質評価点を算出する切羽の評価点生成方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係るトンネル切羽評価システムを実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態によるトンネル切羽評価システムの構成を概略的に示すブロック図である。
図1を参照すると、本発明の実施形態によるトンネル切羽評価システム1は、クラウドストレージ5を介してネットワークで相互に接続される評価サーバ10と作業者の携帯端末20とを備える。
【0020】
本発明の実施形態によるトンネル切羽評価システム1は、トンネル切羽の状態を評価する評価サーバ10が、携帯端末20で取得されクラウドストレージ5に保存されたトンネル切羽の画像を取得して、深層学習を使用した画像変換処理手段により、切羽の画像から大局的に見た目の色調毎に色分けしてデフォルメされたスケッチ用下地画像を生成すると共に生成したスケッチ用下地画像に基づき切羽の評価点を生成し、更にスケッチ用下地画像と切羽の評価点に基づき切羽観察記録原稿を生成してクラウドストレージ5に保存することにより、作業者によるトンネル切羽の切羽観察記録の作成を大幅に省力化することを可能にするシステムである。
【0021】
評価サーバ10は上記の機能を果たすために、入出力部12、記憶部13、表示部14、スケッチ用下地画像生成部15、切羽箇所検出部16、切羽箇所分解処理部17、切羽評価部18、切羽観察記録原稿生成部19、及びこれらの要素を制御する制御部11を備える。
【0022】
スケッチ用下地画像生成部15は、深層学習を使用した画像変換処理手段を備え、携帯端末20により取得されクラウドストレージ5に保存された切羽の画像を取得して、画像変換処理手段により切羽の画像から、大局的に見た目の色調毎に色分けしてデフォルメされたスケッチ用下地画像を生成する。スケッチ用下地画像とは最終的に切羽観察記録に記載するスケッチの基になる画像であり、詳細な構造にとらわれず大局的に色分けするので、誰が見ても切羽全体の風化具合を含む色調構成が分かり易く表現される下地の画像である。
【0023】
また、スケッチ用下地画像は、切羽の風化変質などの評価を行う基になる図でもある。このためスケッチ用下地画像は、基となる切羽の画像から切羽の風化変質などの評価を行う途中段階の生成図面ともいえるものであり、スケッチ用下地画像が生成されることにより、深層学習を使用した画像変換処理手段がどのように判断して切羽の評価を行ったかを把握しやすくする役割も果たすものである。
【0024】
スケッチ用下地画像は、評価サーバ10から切羽観察記録作成の支援のために出力されるデータの一部となるものであり、作業者はスケッチ用下地画像を取得して割れ目や湧水などの情報を書き足すことでスケッチ完成させることができる。これにより切羽の画像から必要部分を切り出してスケッチを作成する場合に比べて省力化が可能となる。
【0025】
スケッチ用下地画像生成部15が備える画像変換処理手段は、深層学習としては画像変換型の敵対的生成ネットワーク(GAN:Generative Adversarial Network)を適用したものである。敵対的生成ネットワークは、画像データを生成する生成ネットワークと生成された画像データの真偽を判定する識別ネットワークの2つのネットワークを含み、生成ネットワークは、生成した画像データができるだけ真と判断されるように、また識別ネットワークは、生成された画像データをできるだけ偽と判断するようにパラメータを変更することを繰り返すことにより、生成する画像データの精度が向上していく。
画像変換処理手段は、こうして画像データの生成と判定を繰り返し学習することで所定の仕様を満足する画像データが生成されるようになった敵対的生成ネットワークを、深層学習モデルとして画像変換処理手段内部の記憶部に保存する。
【0026】
画像変換処理手段が備える深層学習モデルは、切羽の画像を数多く読み込ませ、岩種と風化具合で塗り分けを実施して画像データを出力し、出力された画像データの真偽を判定することを繰り返し、深層学習モデルの精度を向上している。取得された切羽の画像を基に、精度が向上した深層学習モデルにより生成される画像データがスケッチ用下地画像である。画像変換処理手段は、塗り分けに際しては岩種の細かい分布にはとらわれず、見た目の色合いを重視するように学習させることでデフォルメされたスケッチ用下地画像を生成するように構成されている。
【0027】
実施形態では、スケッチ用下地画像生成部15は、スケッチ用下地画像を生成すると共にスケッチ用下地画像を生成するのに使用した色の使い分けに基づき、スケッチ用下地画像における色別の面積率の算出を行い、算出した面積率はグラフ化してスケッチ用下地画像と共に出力するように構成される。
【0028】
切羽の画像は、トンネルの掘削工事の進展に伴い変化していく切羽の状況に応じて所定のタイミングで取得される。そのため例えば着工日毎や特定の進展があった時点等で繰り返し取得される。そこで実施形態では、作業者又は評価サーバ10の操作者の負担を軽減するため、クラウドストレージ5として、Dropbox(登録商標)の様なファイルの共有や通知機能のあるクラウドストレージ5を使用し、作業者は携帯端末20により切羽の画像を取得して、特定のファイル名でクラウドストレージ5に保存するだけで、スケッチ用下地画像生成部15は、入出力部12を介して切羽の画像の更新を検知し、保存された切羽の画像を取得することができる。スケッチ用下地画像生成部15は、取得した切羽の画像に基づき、深層学習を使用した画像変換処理手段によりスケッチ用下地画像を生成し、完成したスケッチ用下地画像は最終的な出力となる切羽観察記録原稿のデータの一部として切羽観察記録原稿生成部19に引き渡される。
【0029】
切羽箇所検出部16は、切羽の画像を取得して深層学習を使用した物体検知手段により切羽箇所を検出するか、スケッチ用下地画像生成部15が生成したスケッチ用下地画像を取得してスケッチ用下地画像の色調解析から切羽箇所を検出する。
物体検知手段は、多数の切羽の画像により評価対象である切羽の上半の特徴を覚え込ませることを繰り返し、切羽の画像に対し切羽箇所はどのような特徴のどの部分であるかを学習した結果を物体検知手段が備える記憶部に保存し、新たな切羽画像の入力を受けて、保存された学習の結果を参照して切羽箇所がどこであるかを判断して出力するように構成される。
【0030】
切羽の画像を取得する際の切羽の照明や色味の状況により切羽の画像が様々に変化する要因があることから、切羽箇所の検出は、誤差や誤判断を含む場合も想定される。そこで、切羽箇所検出部16は、検出した切羽箇所が適切なものであるか否かを判断する。具体的には例えば工事中のトンネルの既に検出して作業関係者によって承認された切羽箇所のデータに基づき、検出した切羽箇所の幅、高さ、又は縦横比等の寸法データが、承認された切羽箇所の寸法データの所定の誤差範囲に入っているかどうかで判断する。他の実施形態では検出した切羽箇所の外周部の曲線を検出し、その曲率や底辺との立ち上がり角度などで検出した切羽箇所が適切なものであるか否かを判断するようにしてもよい。
【0031】
切羽箇所検出部16は、検出した切羽箇所が適切なものであると判断すると、検出した切羽箇所を採用して切羽箇所分解処理部17に引き渡す。また検出した切羽箇所が適切なものでないと判断した場合、切羽箇所検出部16は、スケッチ用下地画像を取得してスケッチ用下地画像の色調解析から切羽箇所を検出する。一実施形態では色調解析は黒か黒以外の色調かに基づき、黒以外の色調の部分を切羽箇所として検出する。この場合も前述のように承認された切羽箇所の寸法データに基づき、検出した切羽箇所が適切なものであるか否かを判断するようにしてもよい。このように切羽箇所検出部16は、切羽の画像から検出した切羽箇所が適切なものでないと判断した場合、スケッチ用下地画像の色調解析から検出した切羽箇所を採用して切羽箇所分解処理部17に引き渡す。
【0032】
切羽箇所分解処理部17は、スケッチ用下地画像生成部15から取得したスケッチ用下地画像と、切羽箇所検出部16から取得した切羽箇所を重ね合わせ、切羽箇所を天端、左肩、右肩の各評価エリアに分解する。具体的には例えば切羽箇所を高さ方向に2等分して上部側を天端とし、下部側をさらに左右に2等分して左側を左肩、右側を右肩とする。
【0033】
切羽評価部18は、生成されたスケッチ用下地画像に基づき切羽の評価点を生成する。このとき切羽評価部18は、切羽箇所分解処理部17によって分解した天端、左肩、右肩の評価エリアごとに評価点を生成する。評価点としては少なくとも風化変質評価点を含み、風化変質評価点は予め設定した色の面積に基づき、予め設定した色がどれだけの面積を占めるかで求める。一実施形態では予め設定した色は主に褐色であり、褐色の面積が多い評価エリアでは評価区分に従い、評価点として風化が進んでいることを示す4を選定し、褐色の面積が無いか、少ない評価エリアでは風化が進んでいないことを示す1や2を選定する。
切羽評価部18は、切羽箇所内に黒っぽい筋状の割れ目が存在するときは割れ目の頻度や状態などについても評価区分に従い、例えば割れ目の間隔が狭いほど高い評価点にしたり、開口の程度が悪くなるほど高い評価点にしたりするなどして評価点を生成する。
【0034】
切羽観察記録原稿生成部19は、スケッチ用下地画像生成部15から取得したスケッチ用下地画像と切羽評価部18から取得した評価点に基づき切羽観察記録原稿を生成してクラウドストレージ5に保存する。切羽観察記録原稿は予めフォーマット化された原稿であり、必要事項を記載したり、必要な情報を貼り付けたりすることで最終的に切羽観察記録に仕上げられる基の原稿である。切羽観察記録原稿生成部19は、フォーマット化された原稿にスケッチ用下地画像を貼り付け、切羽評価部18から取得した評価点を該当する記入欄に記載することで、評価サーバ10によって得られている情報を盛り込んだ切羽観察記録原稿を生成するため、切羽観察記録を作成する作業者の負担を軽減する。
【0035】
切羽観察記録原稿は1つのトンネル工事では共通したフォーマットで生成されるので、切羽観察記録原稿生成部19は、予め切羽観察記録原稿のフォーマットを受け付ける入力手段と受け付けたフォーマットを保存する記憶部を備える。切羽観察記録のフォーマットは、一般にトンネル工事の発注者ごとに決まっている。そこで、一実施形態では、切羽観察記録原稿生成部19は、発注者と発注者ごとに決まっている切羽観察記録のフォーマットを対応付けて保存し、トンネル工事の開始時点でのトンネルの名称やトンネル工事の仕様などの初期登録データに発注者の情報を含め、初期登録データに基づき登録されて保存された切羽観察記録のフォーマットがある場合には発注者に対応するフォーマットを抽出して切羽観察記録原稿を生成するように構成される。また他の実施形態では、切羽観察記録のフォーマットを新たに指定されるごとに当該フォーマットを記憶部に保存し、トンネル工事の初期登録時に、記憶部に保存したフォーマットを選択可能にメニュー形式で提供する。
【0036】
入出力部12は、クラウドストレージ5から切羽の画像を取得したり、切羽観察記録原稿をクラウドストレージ5に保存したりするためのクラウドストレージ5との通信手段を備える。クラウドストレージ5との通信はインターネットを介して行うため、通信手段はインターネットに対応した通信手段を備えればよい。入出力部12は、この他に評価サーバ10にトンネル工事の初期登録データなどのデータを入力するためのキーボードやマウスなどの入力手段を備える。
【0037】
記憶部13は、評価サーバ10が扱う各種データや、評価サーバ10自身を制御するためのプログラムなどを保存する。上記の説明では深層学習モデルを保存する画像変換処理手段内部の記憶部、学習した結果を保存する物体検知手段が備える記憶部、切羽観察記録原稿生成部19が受け付けたフォーマットを保存する記憶部などの記憶部が個別に備えられるように記載したが、実施形態ではこれらの記憶部はいずれも記憶部13の一部として構成される。記憶部13は、ハードディスク装置や半導体メモリ装置などで実現される。
【0038】
表示部14は、スケッチ用下地画像や切羽観察記録原稿などの各種データの表示の他、必要により画像処理のためのアプリケーションプログラムや、評価サーバ10を制御する制御プログラムなどのプログラムの表示を行う。表示部14は液晶ディスプレイなどの表示装置により実現化される。
制御部11は、記憶部13に保存された制御プログラムに従い、情報提供サーバ10の各構成要素が、上記で説明した機能を果たすように制御する。制御部11はマイクロコンピュータなどの半導体装置を含む制御回路により実現化される。
【0039】
作業者の携帯端末20は、切羽の画像を取得したり、クラウドストレージ5に保存された切羽観察記録原稿を取得後不足するデータを入力し、切羽観察記録を完成させてクラウドストレージ5に保存したりするのに使用される。
携帯端末20は、制御部21、入出力部22、記憶部23、表示部24、画像取得部25、及び編集データ入力部26を備える。
【0040】
画像取得部25は、切羽を撮影して切羽の画像を取得し、記憶部23に保存する。このため、画像取得部25としてはスマ-トフォンやタブレット端末の備えるカメラなどで実現化される。切羽の画像は歪の無いように正面から撮影すれば十分であるが、毎回できるだけ同じ条件で撮影することが望ましい。そこで一実施形態では予め実装したアプリケーションにより切羽の画像の取得の際、携帯端末20の表示画面内で切羽の位置やサイズが同等となるようガイドラインを表示させる。
【0041】
編集データ入力部26は、クラウドストレージ5に保存された切羽観察記録原稿を取得して切羽観察記録原稿に補足又は修正を加えるためのものである。切羽観察記録原稿にはコメントや評価点を入力するための記入欄が設けられており、評価サーバ10が生成して予め記入した欄以外は空白のままであるので、作業者は空白の記入欄に必要事項を入力する。
【0042】
また、切羽観察記録原稿にはスケッチ用下地画像が貼り付けられているので、作業者はスケッチ用下地画像にエリアを指定してコメントを書き込むなどの編集を行い、スケッチを完成させる。また必要により注意が必要な部分を切り出して拡大するなどしてスケッチの補足資料としてスケッチとは別に切羽観察記録原稿に貼り付けたりする。このような編集を行うように編集データ入力部26は、テキストの入力手段の他、エリアを指定するときなどの自由な図形の入力手段を備える。また図面の切出し、拡大、貼付け等の加工を行う図面編集手段を備える。
編集を終えて完成した切羽観察記録はクラウドストレージ5に保存される。
【0043】
入出力部22は、クラウドストレージ5に保存された切羽観察記録原稿を取得したり、完成した切羽観察記録をクラウドストレージ5に保存したりするためにクラウドストレージ5との間でデータを送受信する通信手段を備える。通信手段はインターネットに対応した通信手段を備えればよい。
【0044】
記憶部23は、切羽の画像や切羽観察記録などのデータの他、携帯端末20上で動作するアプリケーションプログラムや携帯端末20の制御を行う制御プログラムなどを保存する。
表示部24は切羽の画像や切羽観察記録原稿などのデータの表示を行う。
制御部21は、記憶部23に保存された制御プログラムに従い、携帯端末20の各構成要素が、上記で説明した機能を果たすように制御する。
携帯端末20はカメラを備えるスマートフォンやタブレット端末で実現化され、編集データ入力部26の備えるテキストや図形の入力手段はスマートフォンやタブレット端末のタッチパネルにより実現化される。
【0045】
図2は、本発明の実施形態によるトンネル切羽評価システムにおける処理の流れを概略的に示す図である。
図2を参照するとクラウドストレージ5を介しての携帯端末20と評価サーバ10とのデータの授受が(1)~(5)の数字で示され、評価サーバ10内の処理が(a)~(e)で示される。
【0046】
まず、携帯端末20により切羽の画像が取得され、(1)の矢印で示すように、取得された画像はクラウドストレージ5に送信されて保存される。本発明の実施形態ではクラウドストレージ5はファイルの共有や通知機能があるものを使用するため、取得された画像は所定の名称で保存することにより、クラウドストレージ5から評価サーバ10に新たに切羽の画像が保存されたことが通知される。これにより、評価サーバ10は新たな切羽の画像のクラウドストレージ5への保存を感知して、(2)の矢印で示すように、保存された新たな切羽の画像をクラウドストレージ5から取得する。
【0047】
評価サーバ10は、スケッチ用下地画像生成部15にて(a)の矢印のように、深層学習を使用した画像変換処理手段を作動させ、取得した切羽の画像を基に、スケッチ用下地画像の生成と切羽箇所の検出を行う。切羽箇所の検出では、検出した切羽箇所が適切であるか否かを判断して、適切でないと判断した場合は、生成したスケッチ用下地画像に基づき切羽箇所の検出を行うことを含む。生成したスケッチ用下地画像は、(b)の矢印のように、切羽観察記録原稿に使用するため切羽観察記録原稿生成部19に出力される。
【0048】
また生成したスケッチ用下地画像と検出した切羽箇所を重ね合わせ、(c)の矢印のように、切羽箇所を天端、左肩、右肩の各評価エリアに分解するために切羽箇所分解処理部17に送られる。分解した切羽箇所は、(d)の矢印のように、切羽評価部18にて評価され、それぞれの評価点が生成される。生成された評価点は、(e)の矢印のように、切羽観察記録原稿生成部19に引き渡され、先に出力されたスケッチ用下地画像と共に切羽観察記録原稿に纏められる。
【0049】
切羽観察記録原稿は、(3)の矢印で示すように、クラウドストレージ5に出力されて保存される。クラウドストレージ5に切羽観察記録原稿が保存されると、クラウドストレージ5の通知機能により携帯端末20に新たな切羽観察記録原稿が保存されたことが通知される。トンネルの工事が同時期に複数並行して行われ、それぞれの工事現場の携帯端末20から別々に切羽の画像が送られてくる場合もあり得る。そこで切羽観察記録原稿生成部19は、例えばファイル名称にトンネルの名称や工事ごとに個別に割り当てる識別コードなどを使用して、どの工事に関するものかを識別できるようにして切羽観察記録原稿を保存する。これにより切羽観察記録原稿が保存されたときに通知される携帯端末20を限定し、他の工事現場の携帯端末20には通知がいかないようにする。
【0050】
通知を受けた携帯端末20の作業者は、クラウドストレージ5から新たに保存された切羽観察記録原稿を取得し(矢印(4))、切羽観察記録原稿の中のスケッチ用下地画像に必要事項を追加してスケッチを完成させると共に、評価点やコメントなどを追加して切羽観察記録を完成させる。完成させた切羽観察記録は、矢印(5)のように、クラウドストレージ5に送信されて保存される。
【0051】
図3は、取得された切羽の画像と切羽の画像から生成されたデフォルメされたスケッチ用下地画像の事例を示す図である。
図3を参照すると、(a)、(b)、(c)の3つの事例が示されており、それぞれの上段に示す図が基となる切羽の画像30であり、それぞれの下段に示す図が切羽の画像30を基に生成されたスケッチ用下地画像31である。図3の中では色調は表現できないが、カラー表示では(a)のスケッチ用下地画像31の色の濃い部分は灰色であり、(b)、(c)のスケッチ用下地画像31の色の濃い部分は褐色である。この色の違いは基の切羽の画像30の色調に基づくものである。
基となる切羽の画像30には、細部において色調の違う部分が散在する様子が認められるが、スケッチ用下地画像31は大局的に見た目の色調毎に色分けしてデフォルメされて表現されるため、大局的に見た色調の中の細部の色調の違いは取り除かれている。
【0052】
図4は、取得された切羽の画像から直接またはスケッチ用下地画像を経由して切羽箇所を検出した結果の例を示す図である。
図4を参照すると、図4(a)に示す基の切羽の画像30から直接切羽箇所32-1を検出した場合(図4(c))と、基の切羽の画像30から図4(b)に示すスケッチ用下地画像31を生成した後、スケッチ用下地画像31に基づき切羽箇所32-2を検出した場合(図4(d))とが示される。図4(c)の切羽箇所32-1は本来の切羽箇所よりも幅広く検出されているのに対し、図4(d)の切羽箇所32-2は本来の切羽箇所を適切に検出している。図4の事例では図4(c)の切羽箇所32-1が本来の切羽箇所よりも幅広く検出されているため、切羽箇所32-1の縦横比が正しい切羽箇所の縦横比と異なるため不適切であると判断され、正しい切羽箇所の縦横比と同等の切羽箇所32-2が採用される。
【0053】
図5は、評価エリアごとに分解されたスケッチ用下地画像から切羽の風化変質評価点を生成した結果の例を示す図である。
図5を参照すると、天端、左肩、右肩の各評価エリアに分解した図5(a)、(b)の2つのスケッチ用下地画像の事例に於いて生成された評価点が示される。図5(a)のスケッチ用下地画像は、中間の濃さで示される部分がカラー表示では灰色で表示され、最も色の濃い部分がカラー表示では褐色で表示されるものである。また図5(b)のスケッチ用下地画像は、カラー表示ではほぼ全面が褐色で表示されるものである。
【0054】
切羽評価部18は、風化変質評価点を生成する場合、予め指定された色の面積に基づき評価を行う。実施形態では指定される色は主に褐色であり、褐色の占める面積に応じて評価点を決定する。図5(a)の例では褐色部分が存在する天端部の評価点が2であり、褐色部分を含まない左肩と右肩の評価点は1としている。図5(b)の例ではほぼ全体が褐色であるのですべての評価エリアで評価点を4としている。
【0055】
図6は、本発明の実施形態による切羽観察記録原稿の例を示す図である。
図6を参照すると、本発明の実施形態による切羽観察記録原稿40には、切羽基準情報欄41、切羽観察記録欄42が設けられ、切羽観察記録欄42には評価区分欄43とスケッチ欄44が含まれる。
【0056】
切羽基準情報欄41には、トンネル工事の開始時点で、トンネルの名称やトンネル工事の仕様などを登録した初期登録データの中から必要な情報が抽出されて記載される。
評価区分欄43には、例として(D)行の項目名である風化変質のみを記載しているが、これ以外にも割れ目の頻度や漏水などフォーマットとして指定される個別の評価項目について、それぞれ項目名と、その項目の評価基準(1・・・、2・・・等)が記載される。評価区分欄43の右端には評価基準に基づいて評価した結果が左肩、天端、右肩に区分けされて記載される。評価した結果は評価サーバ10で生成された結果については対応する評価項目欄に結果が記入され、評価サーバ10で生成されない項目については、作業者が後から入力できるように空欄で示される。
スケッチ欄44には評価サーバ10で生成されたスケッチ用下地画像45が貼り付けられる。
【0057】
図6に示す切羽観察記録原稿40は一つの事例であって、切羽観察記録原稿40に記載する内容はトンネル工事の発注者などの指定により様々な形態に変化し得る。しかし評価サーバ10で指定されたフォーマットに合わせて、予め評価サーバ10で生成されたか抽出された情報が記載されて切羽観察記録原稿40が生成されるため、作業者は切羽観察記録原稿40を利用して切羽観察記録を容易に完成させることができる。
【0058】
図7は、本発明の実施形態によるトンネル切羽評価方法を説明するためのフローチャートである。
図7を参照すると、段階S700にて作業者は携帯端末20により、切羽の画像を取得しクラウドストレージ5に送信する。クラウドストレージ5は受信した切羽の画像を保存する(段階S710)。
【0059】
評価サーバ10はクラウドストレージ5からの通知などにより、新たな切羽の画像がクラウドストレージ5に保存されたのを検知すると、段階S720にてクラウドストレージ5から新たに保存された切羽の画像を取得する。
切羽の画像を取得した評価サーバ10は、段階S730にて深層学習を使用した画像変換処理手段により、切羽の画像から大局的に見た目の色調毎に色分けしてデフォルメされたスケッチ用下地画像を生成する。
【0060】
段階S740にて評価サーバ10は、生成されたスケッチ用下地画像に基づき切羽の評価点を生成する。評価点の生成の詳細については図8を参照して後述する。
評価サーバ10は、生成したスケッチ用下地画像と評価点に基づいて切羽観察記録原稿を生成する(段階S750)。切羽観察記録原稿のフォーマットは、予め指定され記憶部13に保存されたものを使用し、記憶部13に複数のフォーマットが保存されている場合は、トンネルの発注者名やトンネルの名称などの識別可能な情報に基づき、適切なフォーマットを抽出する。
評価サーバ10は、記載できる情報を書き込んで完成された切羽観察記録原稿を、クラウドストレージ5に送信し、クラウドストレージ5では、送信された切羽観察記録原稿を保存する(段階S760)。
【0061】
作業者は、クラウドストレージ5に切羽観察記録原稿が保存されると、クラウドストレージ5から保存された切羽観察記録原稿を取得して(段階S770)、不足している評価点を追加したり、スケッチ用下地画像にコメントを追加したりする編集を加えて切羽観察記録を完成させる(段階S780)。最後に携帯端末20から完成した切羽観察記録をクラウドストレージ5に送信し、クラウドストレージ5では、送信された切羽観察記録を保存する(段階S790)。
【0062】
基本的には、上記のフローに従い、完成された切羽観察記録がクラウドストレージ5内に蓄積されていくが、蓄積された切羽観察記録を時系列的に参照すると時間や工事の進展に伴う切羽の状況の変化も確認することが可能となる。そこで図中には示していないが、実施形態では評価サーバ10は、段階S790で新しい切羽観察記録が保存されると、最新の切羽観察記録と、蓄積されていたそれ以前の切羽観察記録とを読み出して対比し、例えば肌落ち等の災害の危険性が増したと判断された場合に、作業者の携帯端末20に、危険性が増したことを警告する警告情報を生成して送信する。災害の危険性の判断は、例えば切羽評価点が時系列的に見て直前の切羽観察記録の値より脆弱寄りの値に変化したか否か、或は切羽の掘削方向の走行が流れ盤の様相に変化したか否かなどを評価することで判断する。このように本発明の実施形態によるトンネル切羽評価システム1は、完成した切羽観察記録を有効に生かして警告を発することにより、切羽で作業する作業者が事故に合うリスクを低減することを可能とする。
【0063】
図8は、本発明の実施形態によるトンネル切羽評価方法における風化変質評価点を算出する切羽の評価点生成方法を説明するためのフローチャートである。
図8を参照すると、段階S800にて評価サーバ10は、図7の段階S720で取得した切羽の画像から切羽箇所を検出する。次に切羽箇所が正しく検出されたか否かを確認するため、段階S810にて切羽箇所が適切か否かを判断する。切羽箇所が適切であると判断した場合は、検出した切羽箇所をそのまま採用する。段階S810で切羽箇所が適切でないと判断した場合は、段階S820にて図7の段階S730で生成したスケッチ用下地画像を基に切羽箇所を検出する。
適切な切羽箇所が検出されると、評価サーバ10は、段階S830にてスケッチ用下地画像と切羽箇所を重ね合わせた上で、天端、左肩、右肩の評価エリアに分解する。
最後に分解した評価エリアごとに、予め指定された色によって、風化変質評価点を算出する(段階S840)。
【0064】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 トンネル切羽評価システム
5 クラウドストレージ
10 評価サーバ
11、21 制御部
12、22 入出力部
13、23 記憶部
14、24 表示部
15 スケッチ用下地画像生成部
16 切羽箇所検出部
17 切羽箇所分解処理部
18 切羽評価部
19 切羽観察記録原稿生成部
20 携帯端末
25 画像取得部
26 編集データ入力部
30 切羽の画像
31、45 スケッチ用下地画像
32-1、32-2 切羽箇所
40 切羽観察記録原稿
41 切羽基準情報欄
42 切羽観察記録欄
43 評価区分欄
44 スケッチ欄

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8