(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】粉砕装置、無機材料の製造方法、及び粉砕方法
(51)【国際特許分類】
B02C 15/12 20060101AFI20240626BHJP
C03B 8/00 20060101ALI20240626BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240626BHJP
【FI】
B02C15/12
C03B8/00 Z
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2022170548
(22)【出願日】2022-10-25
(62)【分割の表示】P 2021526125の分割
【原出願日】2020-06-11
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019110875
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】矢口 裕一
(72)【発明者】
【氏名】坂入 義隆
(72)【発明者】
【氏名】砂川 晴夫
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-157149(JP,A)
【文献】特開平09-117685(JP,A)
【文献】特開昭61-025646(JP,A)
【文献】特開平05-076793(JP,A)
【文献】特開平01-139158(JP,A)
【文献】実開昭61-187246(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 15/00 -15/16
B02C 2/00 - 2/10
B02C 17/00 -17/24
C03B 8/00 - 8/04
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出管が接続された容器と、
前記容器の内部に位置し、対象物を粉砕するミル機構と、
前記容器内にガスを送り込むガス送り込み機構と、
前記排出管からのガスの排出量を制御するウイング機構と、
第1工程の後に第2工程を行うよう、前記ミル機構、前記ガス送り込み機構、および前記ウイング機構を制御する制御部とを備え、
前記ウイング機構は、円周上に配置された複数のウイングを有し、隣接する前記ウイング同士の隙間の変化により、前記排出量が制御され、
前記対象物は複数種の無機化合物の紛体が混合された混合粉であり、
前記ミル機構は、
複数個の粉砕ボールと、前記複数個の粉砕ボールを維持しながら軸周りに回転するロアリングと、前記複数個の粉砕ボールを挟んで前記ロアリングの反対側に配置され前記複数個の粉砕ボールを前記ロアリングに押し付けるアッパーリングとを有するリングボールミル機構であり、かつ
前記ロアリングの回転に伴い公転する前記複数個の粉砕ボールを自転させ、前記ロアリングの回転に伴い発生する遠心力により前記ロアリングの軸側から外周側に移動する前記混合粉に前記複数個の粉砕ボールと前記ロアリングとの間及び前記複数個の粉砕ボールと前記アッパーリングとの間でせん断応力及び圧縮応力を作用させる機構であり、
前記第1工程では、前記制御部が、
前記混合粉にせん断応力及び圧縮応力を作用させることにより前記混合粉の少なくとも一部をガラス化させるよう前記ミル機構を駆動させ、
ガラス化された前記混合粉を分散させるように前記ガス送り込み機構から前記容器の内部にガスを送り込ませ、
前記第2工程では、前記制御部が、
前記混合粉がガラス化されて得られる無機材料を、前記排出管から排出させるよう、前記ガス送り込み機構から前記容器の内部にガスを送り込ませ、
前記ウイング機構を、前記第2工程における前記排出量が、前記第1工程における前記排出量よりも多くなるように制御する
粉砕装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粉砕装置において、
前記ウイング機構では、隣接する前記ウイング同士が接触して、前記円周の周方向に亘る壁が形成された第1状態と、隣接する前記ウイング同士の間に隙間が形成された第2状態とが切り替わることで、前記排出量が制御される
粉砕装置。
【請求項3】
請求項2に記載の粉砕装置において、
前記複数のウイングはそれぞれ、回転軸と、前記回転軸に端部が固定された板とを備え、
隣接する前記ウイング同士の隙間は、前記回転軸を回転させることにより制御される
粉砕装置。
【請求項4】
請求項3に記載の粉砕装置において、
前記回転軸を第1の方向に回転させることで、前記第1状態から前記第2状態への切り替えが可能であり、
前記回転軸を前記第1の方向とは反対の第2の方向に回転させることで、前記第2状態から前記第1状態への切り替えが可能である
粉砕装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉砕装置において、
当該粉砕装置は、前記第1工程により、前記混合粉の少なくとも一部のガラス化と、ガラス化された前記混合粉の分散が複数回行われて前記混合粉からガラス化された無機材料の紛体が得られるように構成されている
粉砕装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の粉砕装置において、
前記ガラス化された無機材料は、無機固体電解質材料、正極活物質又は負極活物質である、
粉砕装置。
【請求項7】
請求項6に記載の粉砕装置において、
前記ガラス化された無機材料は、前記無機固体電解質材料であり、
前記無機固体電解質材料は、全固体型リチウムイオン電池の固体電解質層を構成する、
粉砕装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の粉砕装置において、
前記ガラス化された無機材料は、前記無機固体電解質材料であり、
前記無機固体電解質材料は、少なくとも硫化物系無機固体電解質材料を含む、
粉砕装置。
【請求項9】
請求項8に記載の粉砕装置において、
前記硫化物系無機固体電解質材料は、構成元素としてLi、P及びSの少なくとも1種以上を含む、
粉砕装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の粉砕装置を用いて前記無機材料を製造する
無機材料の製造方法。
【請求項11】
請求項2~
4および請求項2を引用する請求項5~9のいずれか一項に記載の粉砕装置を用いた粉砕方法であって、
前記ウイング機構を前記第2状態とした状態で、前記対象物の粉砕を行う
粉砕方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料の製造方法及び無機材料製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノートパソコン等の小型携帯機器の電源や電気自動車や電力貯蔵等の電源として、例えば、リチウムイオン電池が使用されていることが知られている。
現在市販されているリチウムイオン電池には、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されている。一方、電解液を固体電解質に換えることで全固体化されたリチウムイオン電池(全固体化型リチウムイオン電池)は、電池内に可燃性の有機溶媒が用いられていない。そのため、全固体化型リチウムイオン電池は、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れている。このような固体電解質に用いられる固体電解質材料としては、例えば、特許文献1に示されるように、硫化物系固体電解質材料がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、遊星型ボールミルを用いたメカニカルミリング法により、硫化物固体電解質材料の構成成分を含有する原料組成物をガラス化する方法が開示されている。
しかしながら、遊星型ボールミルを用いてメカニカルミリング法を行うと、ガラス化した無機材料が遊星型ボールミルの回転筒の内周面全域に固着してしまう。そのため、遊星型ボールミルを用いたメカニカルミリング法は、定期的に遊星型ボールミルのメンテナンス(固着したガラス化された無機材料を内周面からそぎ落とすこと等)をする必要がある。
【0005】
本発明は、高い製造効率で、複数種の無機化合物の混合粉からガラス化された無機材料を得る無機材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の粉砕装置は、
複数種の無機化合物の紛体が混合された混合粉にリングボールミル機構を用いてせん断応力及び圧縮応力を作用させることにより前記混合粉の少なくとも一部をガラス化させるガラス化工程と、
前記ガラス化工程の後に、ガラス化された前記混合粉を分散させる分散工程と、
を含み、
前記ガラス化工程と前記分散工程とを組み合せた工程を複数回行って、前記混合粉からガラス化された無機材料の紛体を得る。
【0007】
また、本発明の一態様の無機材料製造装置は、
複数個の粉砕ボール、前記複数個の粉砕ボールを維持しながら軸周りに回転するロアリング、及び、前記複数個の粉砕ボールを挟んで前記ロアリングの反対側に配置され前記複数個の粉砕ボールを前記ロアリングに押し付けるアッパーリングを有するリングボールミル機構と、
内部に前記リングボールミル機構が配置され、前記リングボールミル機構よりも上方側の部分に孔が形成されている容器と、
前記容器における前記リングボールミル機構よりも下方側に取り付けられ、前記内部の上方に向けてガスを送り込むガス送り込み機構と、
前記容器に取り付けられ、前記孔を貫通し、前記ロアリングにおける前記複数個の粉砕ボールよりも軸側に外部のガスを流入されるための筒と、
前記ロアリングの回転動作及び前記ガス送り込み機構のガス送り込み動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部が前記回転動作及び前記ガス送り込み動作を制御することにより前記一態様の無機材料の製造方法を実行する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様の無機材料の製造方法によれば、高い製造効率で、複数種の無機化合物の混合粉からガラス化された無機材料を得ることができる。
【0009】
また、本発明の一態様の無機材料製造装置によれば、複数種の無機化合物の混合粉からガラス化された無機材料を高い製造効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態(本発明の一例としての実施形態)における無機材料の製造方法を示すフロー図である。
【
図2】本実施形態の無機材料の製造方法の実施に用いられるミル装置の横断面図である。
【
図3A】本実施形態の無機材料の製造方法の実施時における、ガラス化工程及び分散工程を説明するための図である。
【
図3B】本実施形態のガラス化工程及び分散工程における、ミル装置のウィング機構の姿勢を説明するための図(平面図)である。
【
図4A】本実施形態のガラス化工程及び分散工程における、ミル装置のリングボールミル機構の動作を説明するための図(横断面図)である。
【
図4B】本実施形態のガラス化工程及び分散工程における、ミル装置のリングボールミル機構の動作を説明するための図(平面図)である。
【
図4C】本実施形態のガラス化工程及び分散工程における、リングボールミル機構の動作と紛体の挙動との関係を説明するための図(横断面図)である。
【
図5A】本実施形態の無機材料の製造方法の実施時における、排出工程を説明するための図(横断面図)である。
【
図5B】本実施形態の排出工程における、ミル装置のウィング機構の姿勢を説明するための図(平面図)である。
【
図6】本実施形態における無機材料の製造方法を示すフロー図であって、
図1のフロー図とは異なる見方で捉えたフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪概要≫
以下、本実施形態について説明する。
まず、本実施形態の無機材料の製造方法を実施するために用いられるミル装置10(無機材料製造装置の一例、
図2参照)の機能及び構成について説明する。次いで、本実施形態の無機材料の製造方法S10(
図1参照)について説明する。次いで、本実施形態の効果について説明する。
以下の説明において参照するすべての図面では、同様の機能を有する構成要素に同様の符号を付し、明細書では適宜その説明を省略する。
【0012】
ここで、以下にその詳細について説明するが、本実施形態のミル装置10は、複数個の粉砕ボール72、複数個の粉砕ボール72を維持しながら軸周り(軸Oの周り)に回転するロアリング76、及び、複数個の粉砕ボール72を挟んでロアリング76の反対側に配置され複数個の粉砕ボール72をロアリング76に押し付けるアッパーリング74を有するリングボールミル機構70と、内部にリングボールミル機構70が配置され、リングボールミル機構70よりも上方側の部分に孔24Aが形成されている容器20と、容器20におけるリングボールミル機構70よりも下方側に取り付けられ、前記内部の上方に向けてガスを送り込むガス送り込み機構50と、容器20に取り付けられ、孔24Aを貫通し、ロアリング76における複数個の粉砕ボール72よりも軸側に前記外部のガスを流入されるための筒30(以下、注入筒30という。)と、ロアリング76の回転動作及びガス送り込み機構50のガス送り込み動作を制御する制御部90と、を備え、制御部90が前記回転動作及び前記ガス送り込み動作を制御することにより本実施形態の無機材料の製造方法を実行する(
図1、
図2等参照)。
【0013】
また、本実施形態の無機材料の製造方法S10は、複数種の無機化合物の紛体が混合された混合粉MPにリングボールミル機構70を用いてせん断応力及び圧縮応力を作用させることにより混合粉MPの少なくとも一部をガラス化させるガラス化工程S12と、ガラス化工程S12の後に、ガラス化された混合粉MPを分散させる分散工程S13と、を含み、ガラス化工程S12と分散工程S13とを組み合せた工程を複数回行って、混合粉MPからガラス化された無機材料の紛体を得る(
図1、
図3A等参照)。
【0014】
≪ミル装置の機能及び構成≫
以下、本実施形態のミル装置10の機能及び構成について、主に
図2を参照しながら説明する。
本実施形態のミル装置10は、後述する複数種の無機化合物が混合された混合粉MP(
図4C参照)にせん断力及び圧縮応力を作用させることで混合粉MPをガラス化させる機能を有する。その結果、本実施形態のミル装置10は、複数種の無機化合物が混合された混合粉MPから後述するガラス化された無機材料の紛体を得る、すなわち製造する機能を有する。
本実施形態のミル装置10は、
図2に示されるように、容器20と、注入筒30(筒の一例)と、円錐筒35と、排出管40と、ガス送り込み機構50と、ウィング機構60と、リングボールミル機構70と、加圧機構80と、制御部90とを備えている。
【0015】
<容器>
容器20は、
図2に示されるように、一例として円筒状であり、周壁22と、天板24と、底板26とを有している。容器20の内部(周壁22、天板24及び底板26とで囲まれている空間)には、注入筒30の一部、円錐筒35、排出管40の一部、ガス送り込み機構50、ウィング機構60、リングボールミル機構70及び加圧機構80の一部が配置されている。天板24には、貫通孔24A(以下、孔24Aという。)が形成されている。別の見方をすると、孔24Aは、容器20におけるリングボールミル機構70よりも上方側の部分に形成されている。なお、
図2における符号Oは、容器20の軸を示している(
図3A~
図5Bにおいても同じ)。また、符号+Xはミル装置10の上下方向の上方側を示し、符号-Xはミル装置10の上下方向の下方側を示している(
図3A~
図5Bにおいても同じ)。
【0016】
<注入筒、円錐筒及び排出管>
注入筒30は、無機材料の製造動作の開始前に容器20の外部から内部に混合粉MPを導入するための導入管としての機能と、無機材料の製造動作時に容器20の外部のガス(一例として窒素、アルゴン等の不活性ガス)を内部に流入される流入経路としての機能とを有する。
注入筒30は、
図2に示されるように、孔24Aを貫通した状態で配置されている。注入筒30は、その上下方向の上方側の部分の外周を排出管40に囲まれた状態で、その上端側の部分で排出管40に固定されている。ここで、排出管40は、容器20の天板24の孔24Aに嵌り込んで固定されている。すなわち、注入筒30は、排出管40を介して容器20に取り付けられている。また、注入筒30の下端は、後述するリングボールミル機構70の複数の粉砕ボール72で囲まれた領域に向けて開口している。そして、注入筒30は、無機材料の製造動作の開始前にリングボールミル機構70の中央側に(複数の粉砕ボール72よりも軸O側に)混合粉MPを導入するようになっており、無機材料の製造動作時に外部のガスを流入させるようになっている。
【0017】
円錐筒35は、その頂点側(外周長が短い側)を上下方向の下方側に向けて注入筒30の一部を囲んだ状態で、リングボールミル機構70よりも上方側に配置されている。
【0018】
排出管40は、製造された無機材料を排出するための管である。排出管40は、
図2に示されるように、その正面視にて、アルファベットのr字状を有している。すなわち、排出管40は、軸Oに沿って配置されている円筒部分42と、円筒部分42の上下方向の中央部分に斜め方向から繋がっている枝状部分44とを有している。円筒部分42の下端は容器20の内部で開口し、円筒部分42の上端部分には注入筒30が固定されている。枝状部分44の上端の開口は、集塵機(図示省略)に繋がっている。
【0019】
<ガス送り込み機構>
ガス送り込み機構50は、
図2に示されるように、容器20におけるリングボールミル機構70よりも下方側に取り付けられ、容器20の内部の上方に向けてガス(一例として窒素、アルゴン等の不活性ガス)を送り込む機能を有する。
ガス送り込み機構50は、一例として複数のガス出射部を有している。各ガス出射部は、容器20の内周面とリングボールミル機構70(ロアリング76)との間に形成されている隙間に向けてガス流を出射するようになっている(
図3A参照)。なお、各ガス出射部は、容器20の外部に配置されているガスボンベ(図示省略)に接続されている。
【0020】
<ウィング機構>
ウィング機構60は、
図2に示されるように、容器20の内部における、天板24と円錐筒35との間に配置されている。ウィング機構60は、
図3B及び
図5Bに示されるように、軸Oを中心として点対称に並べられている複数の揺動ウィング62を有している。各揺動ウィング62は、回転軸62Aと、短幅板62Bと、長幅板62Cとで構成されている。短幅板62Bと長幅板62Cとは、互いが交差する方向を向きつつ回転軸62Aの軸方向に沿った状態で、それぞれ、回転軸62Aの外周面に取り付けられている。
【0021】
そして、各揺動ウィング62は、
図3Bに示されるように、それぞれの回転軸62Aを時計回り方向に回転させると、隣接する揺動ウィング62の長幅板62Cに自己の短幅板62Bを接触させて、周方向全周に亘る壁を形成するようになっている。これに対して、各揺動ウィング62は、
図5Bに示されるように、
図3Bの状態からそれぞれの回転軸62Aを反時計回り方向に定められた角度分回転させると、隣接する揺動ウィング62の長幅板62Cから自己の短幅板62Bが離間させて、隣接する各揺動ウィング62同士の間に隙間を形成するようになっている。
【0022】
なお、
図3Bは、後述するガラス化工程S12及び分散工程S13(
図1参照)におけるウィング機構60の姿勢を示している。また、
図5Bは、後述する排出工程S15(
図1参照)におけるウィング機構60の姿勢を示している。そして、本実施形態のウィング機構60は、制御部90に制御されて、ガラス化工程S12及び分散工程S13(
図3B)の場合に枝状部分44から排出されるガス量が排出工程S15(
図5B)の場合に枝状部分44から排出されるガス量よりも少なくなるように設定されるようになっている。
【0023】
<リングボールミル機構及び加圧機構>
リングボールミル機構70は、加圧機構80に加圧されて、複数種の無機化合物が混合された混合粉MP(
図4C参照)にせん断力及び圧縮応力を作用させる機能を有する。
リングボールミル機構70は、
図2に示されるように、一例として、容器20の内部における上下方向の下方側に配置されている。リングボールミル機構70は、複数個の粉砕ボール72と、ロアリング76と、アッパーリング74と、駆動機構78とを有している。
複数個の粉砕ボール72は、一例としてセラミック製である。ここで、複数個の粉砕ボール72を構成するセラミックとしては、アルミナ、安定化ジルコニア、窒化ケイ素等が使用できる。
ロアリング76は、複数個の粉砕ボール72を維持しながら駆動機構78に駆動されて軸周り(軸Oの周り)に回転するようになっている。ロアリング76は、一例として、中央に貫通孔が形成されているドーナツ状の部材であり、かつ、セラミック製である。ロアリング76の上面には、複数個の粉砕ボール72を維持するために、各粉砕ボール72が嵌る複数個の凹み76Aが形成されている。ここで、ロアリング76を構成するセラミックとしては、アルミナ、安定化ジルコニア、窒化ケイ素等が使用できる。
アッパーリング74は、ロアリング76に維持されている複数個の粉砕ボール72を挟んでロアリング76の反対側に配置されている。アッパーリング74は、その上面を後述する加圧機構80に加圧されて、複数個の粉砕ボール72をロアリング76に押し付けるようになっている。アッパーリング74は、一例として、中央に貫通孔が形成されているドーナツ状の部材であり、かつ、セラミック製である。アッパーリング74の下面には、複数個の粉砕ボール72を維持するために、軸Oに対して点対称の円状で、各粉砕ボール72が嵌る凹み74Aが形成されている。ここで、アッパーリング74を構成するセラミックとしては、アルミナ、安定化ジルコニア、窒化ケイ素等が使用できる。
駆動機構78は、
図2に示されるように、ロアリング76を固定した状態でロアリング76の下方側に配置されている。駆動機構78は、軸周り(軸Oの周り)に回転してロアリング76を一例として25rpm~300rpmで回転できるようになっており、好ましくは100rpm~140rpmで回転させる。
加圧機構80は、前述のとおり、アッパーリング74の上面を、一例として、リング単位表面積荷重10,000kgf/m
2~40,000kgf/m
2の加圧力で加圧する機能を有しており、好ましくはリング単位表面積荷重12,000kgf/m
2~28,000kgf/m
2の加圧力で加圧する。
【0024】
<制御部>
制御部90は、ミル装置10の動作を制御する機能を有する。具体的には、制御部90は、駆動機構78の回転動作、ガス送り込み機構50のガス送り込み動作等を制御するようになっている。また、制御部90は、駆動機構78の回転時間をカウントするタイマー92を有している。なお、制御部90の機能の詳細については、後述する本実施形態の無機材料の製造方法S10の説明の中で説明する。
【0025】
以上が、本実施形態のミル装置10の機能及び構成についての説明である。
【0026】
≪無機材料の製造方法≫
次に、本実施形態の無機材料の製造方法S10(以下、本実施形態の製造方法S10という。)について、
図1等を参照しながら説明する。
本実施形態の製造方法S10は、混合工程S11と、ガラス化工程S12と、分散工程S13と、ガラス化工程S12の開始から定められた時間T
Pが経過したかを判断する判断工程S14と、排出工程S15とを含む。
【0027】
本実施形態の製造方法S10は、混合工程S11、ガラス化工程S12及び分散工程S13をこれらの記載順で行った後に、判断工程S14において、ガラス化工程S12の開始時から定められた時間TPが経過するまで、すなわち、判断工程S14で否定判断が続く限り、ガラス化工程S12及び分散工程S13を繰り返す。そして、本実施形態の製造方法S10は、ガラス化工程S12の開始時から定められた時間TPが経過した場合、すなわち、判断工程S14で肯定判断をした場合、排出工程S15を行って、終了となる。なお、ガラス化工程S12、分散工程S13、判断工程S14及び排出工程S15は、制御部90がミル装置10を制御することに実行される。また、定められた時間TPについては後述する。
以下、各工程の詳細について説明する。
【0028】
<混合工程>
混合工程S11は、複数種の無機化合物の紛体を混合して混合粉MPを生成する工程である。混合工程S11は、一例として、混合機(図示省略)を用いて行われる。
ここで、本実施形態における、複数種の無機化合物の一例は、硫化リチウム、窒化リチウム及び五硫化二リンである。
そして、混合工程S11により混合粉MPが生成されると、ミル装置10の注入筒30から容器20の内部に混合粉MPが導入されて、本工程が終了する。
【0029】
<ガラス化工程及び分散工程>
次に、ガラス化工程S12及び分散工程S13について
図3A、
図3B、
図4A~
図4Cを参照しながら説明する。
【0030】
まず、制御部90は、ウィング機構60の複数の揺動ウィング62を制御してウィング機構60を
図3Bの状態にさせる。また、制御部90は、リングボールミル機構70の駆動機構78の駆動を開始させる。これに伴い、ロアリング76は、駆動機構78により駆動されて軸周りに回転させる。また、制御部90は、ガス送り込み機構50の複数の空気出射部からガスを出射させる。この場合、注入筒30には外部から容器20の内部にガス(一例として窒素、アルゴン等の不活性ガス)が流され続ける。混合粉MP又はガラス化した無機材料が酸化されやすい硫化物、窒化物、ハロゲン化物等は、ガスの水分濃度及び酸素濃度を低減して使用する。一例として、水分濃度1,500ppm以下、酸素濃度10%以下が好ましく、さらには水分濃度400ppm以下、酸素濃度1%以下がより好ましいが、無機材料の性質に合わせて閾値は適宜決定する。以上より、容器20の内部では、
図3Aに示されるようなガス流が循環する。また、制御部90は、加圧機構80を制御してアッパーリング74を加圧する。これに伴い、アッパーリング74は複数個の粉砕ボール72をロアリング76に押し付ける。
そして、ガラス化工程S12及び分散工程S13は、
図3Aに示されるような空気流が循環した状態で行われる。
なお、制御部90は、駆動機構78の駆動開始に伴い、タイマー92による時間のカウントを開始する。そして、制御部90は、タイマー92が定められた時間T
P経過したところで、ガラス化工程S12及び分散工程S13を終了させる。
【0031】
〔ガラス化工程〕
リングボールミル機構70の中央に導入された混合粉MPは、ロアリング76の回転に伴い遠心力を受けてロアリング76の径方向外側に移動する(
図4参照)。その結果、混合粉MPは、ロアリング76の各凹み76Aと当該各凹み76Aに維持されている粉砕ボール72との間に入り込む。
一方で、ロアリング76の回転に伴い、複数個の粉砕ボール72は、軸周り(軸Oの周り)に公転する(
図4B参照)。この場合、各粉砕ボール72は、軸周りに回転するロアリング76の各凹み76Aに嵌ってロアリング76に維持されていること、静止しているアッパーリング74に加圧されていること等により、公転しながら自転する(
図4A及び
図4B)。
以上より、ロアリング76と粉砕ボール72との間に入り込んだ混合粉MPは、ロアリング76に対して相対的に移動する粉砕ボール72とロアリング76とに加圧される。その結果、混合粉MPは、粉砕ボール72及びロアリング76によりせん断力及び圧縮応力を受ける。そして、一部の混合粉MPは粉砕ボール72に付着したまま粉砕ボール72とアッパーリング74との間に移動する。その結果、一部の混合粉MPは、粉砕ボール72及びアッパーリング74によりせん断力及び圧縮応力を受ける。このようにして、混合粉MPは、遠心力によりロアリング76の径方向外側に移動しながら、各粉砕ボール72とアッパーリング74との間、及び、各粉砕ボール72とロアリング76との間の一方又は両方によりせん断力及び圧縮応力を受けてロアリング76の外周縁側まで移動する。そして、この状態では、混合粉MPの一部がガラス化された状態となる。
以上が、ガラス化工程S12についての説明である。
【0032】
〔分散工程〕
次いで、一部がガラス化された混合粉MPは、ガス送り込み機構50の複数のガス出射部から出射されるガスにより、上方側に浮遊する(
図4C参照)。これに伴い、リングボールミル機構70により粉砕された混合粉MPは、リングボールミル機構70よりも上方側まで浮遊する。この場合、混合粉MPは、ガス中で分散される。ここで「分散」とは、互いに凝集していた紛体の集合体である混合粉MPがばらばらになることを意味する。
次いで、分散した混合粉MPは、容器20の内部を循環するガス流により誘導されて、再度リングボールミル機構70の中央に移動する。
以上が、分散工程S13についての説明である。
なお、本明細書では、混合粉MPの容器20の内部での移動に着目してガラス化工程S12と分散工程S13とが別々に行われるかの如く説明したが、実際には、ガラス化工程S12と分散工程S13とは同時進行で行われる。そして、ガラス化工程S12及び分散工程S13の開始から定められた時間T
Pが経過すると、混合粉MPからガラス化された無機材料の紛体が得られる。
【0033】
ここで、ガラス化された無機材料とは、一例として、無機固体電解質材料である。無機固体電解質材料は、全固体型リチウムイオン電池の固体電解質層を構成するものである。
また、前述のとおり、本実施形態では、複数種の無機化合物は、硫化リチウム、窒化リチウム及び五硫化二リンであることから、ガラス化された無機材料の一例である無機固体電解質材料は硫化物系無機固体電解質材料である。すなわち、硫化物系無機固体電解質材料は、構成元素として、Li、P及びSの少なくとも1種以上を含む。
【0034】
なお、無機固体電解質材料としては特に限定されないが、硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料、リチウム系無機固体電解質材料等を挙げることができる。これらの中でも、硫化物系無機固体電解質材料が好ましい。
また、無機固体電解質材料としては特に限定されないが、例えば、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられるものが挙げられる。
【0035】
硫化物系無機固体電解質材料としては、例えば、Li2S-P2S5材料、Li2S-SiS2材料、Li2S-GeS2材料、Li2S-Al2S3材料、Li2S-SiS2-Li3PO4材料、Li2S-P2S5-GeS2材料、Li2S-Li2O-P2S5-SiS2材料、Li2S-GeS2-P2S5-SiS2材料、Li2S-SnS2-P2S5-SiS2材料、Li2S-P2S5-Li3N材料、Li2S2+X-P4S3材料、Li2S-P2S5-P4S3材料等が挙げられる。
これらの中でも、リチウムイオン伝導性に優れかつ広い電圧範囲で分解等を起こさない安定性を有する点から、Li2S-P2S5材料及びLi2S-P2S5-Li3N材料が好ましい。ここで、例えば、Li2S-P2S5材料とは、少なくともLi2S(硫化リチウム)とP2S5とを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得られる無機材料を意味する。また、Li2S-P2S5-Li3N材料とは、少なくともLi2S(硫化リチウム)とP2S5とLi3Nとを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得られる無機材料を意味する。
なお、本実施形態において、硫化リチウムには多硫化リチウムも含まれる。
【0036】
前述の酸化物系無機固体電解質材料としては、例えば、LiTi2(PO4)3、LiZr2(PO4)3、LiGe2(PO4)3等のNASICON型、(La0.5+xLi0.5-3x)TiO3等のペロブスカイト型、Li2O-P2O5材料、Li2O-P2O5-Li3N材料等が挙げられる。
リチウム系無機固体電解質材料としては、例えば、LiPON、LiNbO3、LiTaO3、Li3PO4、LiPO4-xNx(xは0<x≦1)、LiN、LiI、LISICON等が挙げられる。
さらに、これらの無機固体電解質材料の結晶を析出させて得られるガラスセラミックスも無機固体電解質材料として用いることができる。
【0037】
本実施形態における硫化物系無機固体電解質材料は、構成元素として、Li、P及びSを含んでいることが好ましい。
【0038】
<判断工程>
次に、判断工程S14について説明する。制御部90は、タイマー92がカウントする時間Tが定められた時間TP以上である場合、肯定判断を行ってガラス化工程S12及び分散工程S13を終了させる。
これに対して、制御部90は、タイマー92がカウントする時間Tが定められた時間TP未満である場合、否定判断を行ってガラス化工程S12及び分散工程S13を継続させる。
【0039】
ここで、定められた時間TPは、本願の発明者らの試験研究により設定された時間であって、具体的には、ガラス化工程S12及び分散工程S13の開始前の混合粉MPからガラス化された無機材料の紛体が一定量(98%以上等のほぼ100%程度の量)得られるまでの時間に設定されている。すなわち、混合粉MPの挙動に着目すると、ガラス化工程S12と分散工程S13とを組み合せた工程は、定められた時間TPに相当する複数回行われる。また、別の見方をすると、ガス送り込み機構50から容器20の内部に定められた時間TPガスを送り込むことにより、ガラス化工程S12と分散工程S13とを組み合せた工程が複数回行われる。
なお、本実施形態では、定められた時間TPとは、ガラス化工程S12及び分散工程S13において、容器20の内部をガス流が循環することに伴って混合粉MPが複数回(一例として5回以上15回以下)循環するために要する時間に相当する。ただし、ここでいう複数回の値は、例えば、加圧機構80がアッパーリング74を加圧する際の加圧力の大きさ、駆動機構78により駆動されて回転するロアリング76の回転数、混合粉MPの大きさ等に起因する。
【0040】
<排出工程>
次に、排出工程S15について
図5A及び
図5Bを参照しながら説明する。
排出工程S15は、ガラス化工程S12及び分散工程S13により得られた無機材料の紛体を排出管40の枝状部分44から集塵機(図示省略)に排出する工程である。
排出工程S15では、制御部90は、ウィング機構60の複数の揺動ウィング62を制御してウィング機構60を
図5Bの状態にさせる。その結果、ガス送り込み機構50から容器20の内部に送り込まれたガスは、隣接する各揺動ウィング62同士の間に形成された隙間から排出管40の内部を流れて枝状部分44の上端の開口から集塵機に排出される。これに伴い、容器20の内部でガラス化された無機材料は、このガス流とともに集塵機に排出される。
そして、容器20の内部のガラス化された無機材料がミル装置10から排出されて、本実施形態の製造方法S10が終了する。
【0041】
以上が、本実施形態の製造方法S10についての説明である。
【0042】
≪効果≫
次に、本実施形態の効果について図面を参照しながら説明する。
【0043】
<第1の効果>
例えば、特許文献1に開示されている遊星型ボールミルを用いて混合粉MPにせん断応力及び圧縮応力を作用させて混合粉MPをガラス化させることは可能である。しかしながら、本願の発明者らの試験研究によれば、遊星型ボールミルを用いて混合粉MPをガラス化させると、ガラス化した混合粉MPが遊星型ボールミルの回転筒の内周面に固着してしまう。そのため、遊星型ボールミルを用いた方法の場合、定期的に遊星型ボールミルのメンテナンス(内周面に固着したガラス化された無機材料を内周面から削ぎ落とすこと等)をする必要がある。
【0044】
これに対して、本実施形態の場合、リングボールミル機構70を用いて行われる(
図4A~
図4C参照)。
リングボールミル機構70は、
図2及び
図4A~
図4Cに示されるように、複数個の粉砕ボール72、複数個の粉砕ボール72を維持しながら軸周り(軸Oの周り)に回転するロアリング76、及び、複数個の粉砕ボール72を挟んでロアリング76の反対側に配置され複数個の粉砕ボール72をロアリング76に押し付けるアッパーリング74を有している。
【0045】
そして、本実施形態の場合、ロアリング76の回転に伴い公転する複数個の粉砕ボール72を自転させ、ロアリング76の回転に伴い発生する遠心力によりロアリング76の軸側(軸O側)から外周側に移動する混合粉MPに複数個の粉砕ボール72とロアリング76との間及び複数個の粉砕ボール72とアッパーリング74との間でせん断応力及び圧縮応力を作用させる。この場合、アッパーリング74は加圧機構80により加圧されているため、複数個の粉砕ボール72は、アッパーリング74及びロアリング76に押し付けられている。また、この場合、各粉砕ボール72の自転の回転方向は、各粉砕ボール72の公転時の位置により常時変更する。以上により、本実施形態の場合、遊星型ボールミルを用いた場合と異なり、粉砕された混合粉MPがアッパーリング74及びロアリング76に付着してもすぐに各粉砕ボール72により削ぎ落とされる。すなわち、本実施形態の場合、粉砕された混合粉MPがアッパーリング74の凹み74A及びロアリング76の凹み76Aに固着し難い。そのため、本実施形態の場合、前述の遊星型ボールミルを用いた場合のメンテナンスが不要である、又は、前述の遊星型ボールミルを用いた場合よりも定期的に行うメンテナンスの時間間隔が長い。
【0046】
したがって、本実施形態の製造方法S10によれば、遊星型ボールミルを用いた場合に比べて、高い製造効率で、複数種の無機化合物の混合粉MPからガラス化された無機材料を得ることができる。
【0047】
<第2の効果>
本実施形態では、複数の粉砕ボール72、アッパーリング74及びロアリング76は、それぞれ、セラミック製である。そのため、本実施形態の複数の粉砕ボール72、アッパーリング74及びロアリング76は、複数の粉砕ボール72、アッパーリング74及びロアリング76が金属製である場合に比べて、混合粉MPが付着し難い。
したがって、本実施形態によれば、複数の粉砕ボール72、アッパーリング74及びロアリング76が金属製である場合に比べて、より高い製造効率で、複数種の無機化合物の混合粉MPからガラス化された無機材料を得ることができる。
【0048】
ここで、本効果については、複数の粉砕ボール72、アッパーリング74及びロアリング76が金属製である場合を比較対象として説明したが、当該比較対象の場合であっても前述の第1の効果を奏する構成を有する。すなわち、当該比較対象の場合であっても、本発明の技術的範囲に属する。なお、複数の粉砕ボール72、アッパーリング74及びロアリング76の少なくとも1つがセラミック製の場合は、当該比較対象に比べて、本効果を奏し易いといえる。すなわち、複数の粉砕ボール72、アッパーリング74及びロアリング76の少なくとも1つがセラミック製の場合であっても、本発明の技術的範囲に属する。
【0049】
<第3の効果>
本実施形態の製造方法S10は、
図1に示されるように、ガラス化工程S12とガラス化工程S12の後に行う分散工程S13とを組み合せた工程を複数回行うことで、複数種の無機化合物の混合粉MPからガラス化された無機材料を得る。
【0050】
ここで、前述のとおり、分散工程S13は、ガラス化工程S12において少なくとも一部がガラス化された混合粉MP分散させる。具体的には、一部がガラス化された混合粉MPは、ガス送り込み機構50の複数のガス出射部から出射されるガスにより、上方側に浮遊する(
図4C参照)。この場合、混合粉MPは、ガス中で分散される。すなわち、混合粉MPのうち互いに凝集していた紛体の集合体は、ガス中でばらばらにされる。次いで、本実施形態のミル装置10の構造により、分散した混合粉MPは、容器20の内部を循環するガス流により誘導されて、再度リングボールミル機構70の中央に移動する。そして、ガラス化工程S12の開始時から定められた時間TPが経過するまで、混合粉MPに対してガラス化工程S12と分散工程S13とが繰り返し行われる(
図1のフロー図におけるS14)。
【0051】
以上のとおりであるから、本実施形態の製造方法S10では、ガラス化工程S12が行われる混合粉MPは、その直前の分散工程S13においてガス中で分散されている。すなわち、ガラス化工程S12でリングボールミル機構70によりせん断応力及び圧縮応力が作用される混合粉MPは、その直前の分散工程S13によりほぐされた状態となっている。そのため、本実施形態の製造方法S10によれば、混合粉MPが効率よくガラス化される。
【0052】
したがって、本実施形態の製造方法S10は、ガラス化工程S12とガラス化工程S12の後の分散工程S13とを組み合せた工程を複数回行うことにより、より第1の効果を奏する。
【0053】
<第4の効果>
本実施形態のミル装置10は、
図2に示されるように、リングボールミル機構70と、容器20と、ガス送り込み機構50と、注入筒30と、制御部90と、を備える。そして、制御部90は、ウィング機構60の開閉動作、ロアリング76の回転動作及び前記ガス送り込み機構のガス送り込み動作を制御することで、本実施形態の製造方法S10を実行する(
図1、
図3A~
図5B参照)。
すなわち、本実施形態のミル装置10を用いて複数種の無機化合物の混合粉MPからガラス化された無機材料を製造すると、前述の第1の効果及び第3の効果を奏する。また、別の見方をすると、本実施形態のミル装置10を用いれば、簡単な制御により、ガラス化工程S12とガラス化工程S12の後に行う分散工程S13とを組み合せた工程を複数回行うことができる。
【0054】
<第5の効果>
本実施形態のミル装置10は、
図2に示されるように、ウィング機構60を備える。そして、本実施形態では、ウィング機構60の複数の揺動ウィング62の姿勢へ変更することで、枝状部分44から排出されるガス量を調整可能となっている(
図3A、
図3B、
図5A及び
図5B参照)。具体的には、ガラス化工程S12と分散工程S13とを組み合せた工程を行う場合には、制御部90がウィング機構60を制御してウィング機構60を
図3Bの状態にさせる。これに対して、排出工程S15を行う場合には、制御部90がウィング機構60を制御してウィング機構60を
図5Bの状態にさせる。
【0055】
ところで、仮に、ウィング機構60が
図5Bの状態のまま、ガラス化工程S12を行うと、ガス送り込み機構50により容器20の内部の上方側に浮遊した混合粉MPの大部分は、再度ガラス化工程S12に戻ることなくガス流によって枝状部分44から排出される。すなわち、本実施形態のミル装置10は、紛体を一度粉砕した後すぐに排出するという、通常のミル装置としても利用することができる。
【0056】
したがって、本実施形態のミル装置10によれば、ウィング機構60の複数の揺動ウィング62の姿勢を制御することにより、本実施形態の製造方法S10と、前述の通常のミル装置による粉砕動作とを実施することができる。
【0057】
以上が、本実施形態の効果についての説明である。
【0058】
以上のとおり、本発明について前述の実施形態を例として説明したが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的範囲には、例えば、下記のような形態(変形例)も含まれる。
【0059】
例えば、本実施形態の製造方法S10では、混合粉MPを構成する紛体の移動の観点(ミクロ的な観点)から、ガラス化工程S12の後に分散工程S13が行われるとして説明した(
図1参照)。しかしながら、マクロ的な観点では、ガラス化工程S12と分散工程S13とは同時に進行するともいえる。そのため、
図1のフロー図を、
図6のフロー図のように捉えてもよい。この場合、本実施形態のガラス化工程S12、分散工程S13及び判断工程S14は、定められた時間T
P行われるガラス化工程と分散工程とが組み合わされた工程S12Aと置き換えることができる。
【0060】
また、本実施形態の製造方法S10(
図1参照)は、本実施形態のミル装置10(
図2参照)を用いて行われるとして説明した。しかしながら、リングボールミル機構70を用いてガラス化工程S12を行い、かつ、ガラス化工程S12とガラス化工程S12の後の分散工程S13とを組み合せた工程を繰り返して行うことができれば、本実施形態のミル装置10を用いて本実施形態の製造方法S10を行わなくてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、ガラス化された無機材料とは一例として無機固体電解質材料であると説明した。しかしながら、ガラス化された無機材料は、正極活性物質であってもよい。
ここで、正極活性物質の一例としては、リチウムイオン電池の正極層に使用可能な正極活物質が挙げられる。具体的には、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)、固溶体酸化物(Li2MnO3-LiMO2(M=Co、Ni等))、リチウム-マンガン-ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO4)等の複合酸化物;CuS、Li-Cu-S化合物、TiS2、FeS、MoS2、V2S5、Li-Mo-S化合物、Li-Ti-S化合物、Li-V-S化合物、Li-Fe-S化合物等の硫化物系正極活物質等が挙げられる。なお、これらの中でも、より高い放電容量密度を有し、かつ、サイクル特性により優れる観点から、硫化物系正極活物質が好ましく、Li-Mo-S化合物、Li-Ti-S化合物、Li-V-S化合物がより好ましい。
さらに、ガラス化された無機材料は、前述の正極活物質、無機固体電解質材料及び導電助剤がそれぞれ任意の比率で組み合わされた混合粉末であってもよい。導電助剤の一例としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック等の炭素系微粉末が挙げられる。
【0062】
また、ガラス化された無機材料は、負極活性物質であってもよい。
ここで、負極活性物質の一例としては、リチウムイオン電池の負極層に使用可能な負極活物質が挙げられる。具体的には、リチウム合金、スズ合金、シリコン合金、ガリウム合金、インジウム合金、アルミニウム合金等を主体とした金属系材料、リチウムチタン複合酸化物(例えばLi4Ti5O12)、グラファイト系材料等が挙げられる。
さらに、ガラス化された無機材料は、前述の負極活物質、無機固体電解質材料及び導電助剤がそれぞれ任意の比率で組み合わされた混合粉末であってもよい。導電助剤の一例としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック等の炭素系微粉末が挙げられる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 複数種の無機化合物の紛体が混合された混合粉にリングボールミル機構を用いてせん断応力及び圧縮応力を作用させることにより前記混合粉の少なくとも一部をガラス化させるガラス化工程と、
前記ガラス化工程の後に、ガラス化された前記混合粉を分散させる分散工程と、
を含み、
前記ガラス化工程と前記分散工程とを組み合せた工程を複数回行って、前記混合粉からガラス化された無機材料の紛体を得る、
無機材料の製造方法。
2. 前記リングボールミル機構は、複数個の粉砕ボール、前記複数個の粉砕ボールを維持しながら軸周りに回転するロアリング、及び、前記複数個の粉砕ボールを挟んで前記ロアリングの反対側に配置され前記複数個の粉砕ボールを前記ロアリングに押し付けるアッパーリングを有し、
前記ガラス化工程では、前記ロアリングの回転に伴い公転する前記複数個の粉砕ボールを自転させて、前記ロアリングの回転に伴い発生する遠心力により前記ロアリングの軸側から外周側に移動する前記混合粉に前記複数個の粉砕ボールと前記ロアリングとの間及び前記複数個の粉砕ボールと前記アッパーリングとの間でせん断応力及び圧縮応力を作用させる、
1.に記載の無機材料の製造方法。
3. 前記複数個の粉砕ボールは、セラミック製である、
2.に記載の無機材料の製造方法。
4. 前記アッパーリング及び前記ロアリングは、セラミック製である、
3.に記載の無機材料の製造方法。
5. 前記リングボールミル機構は、容器の内部に配置されており、
前記分散工程では、前記容器における前記リングボールミル機構よりも下方側に取り付けられているガス送り込み機構から前記内部の上方に向けてガスを送り込むことで、ガラス化された前記混合粉をガス中に浮遊させて分散させる、
1.~4.のいずれか1つに記載の無機材料の製造方法。
6. 前記リングボールミル機構は、容器の内部に配置されており、
前記分散工程では、前記容器における前記リングボールミル機構よりも下方側に取り付けられているガス送り込み機構から前記内部の上方に向けてガスを送り込むことで、ガラス化された前記混合粉をガス中に浮遊させて分散させ、
前記容器における前記リングボールミル機構よりも上方側には、前記内部のガスの一部を外部に排気するための孔が形成されており、
前記容器には、前記ロアリングにおける前記複数個の粉砕ボールよりも軸側に前記外部のガスを流入されるための筒が取り付けられており、
前記分散工程では、前記ガス送り込み機構から前記内部にガスを送り込むことで、前記内部の一部のガスを前記孔から前記外部に排気しつつ前記筒から前記外部のガスを流入させて、ガス中で分散された前記混合粉を前記ロアリングにおける前記複数個の粉砕ボールよりも軸側に到達させる、
2.~4.のいずれか1つに記載の無機材料の製造方法。
7. 前記ガス送り込み機構から前記内部に定められた期間ガスを送り込むことにより、前記組み合せた工程を複数回行う、
6.に記載の無機材料の製造方法。
8. 前記ガラス化された無機材料は、無機固体電解質材料、正極活物質又は負極活物質である、
1.~7.のいずれか1つに記載の無機材料の製造方法。
9. 前記ガラス化された無機材料は、前記無機固体電解質材料であり、
前記無機固体電解質材料は、全固体型リチウムイオン電池の固体電解質層を構成する、
8.に記載の無機材料の製造方法。
10. 前記ガラス化された無機材料は、前記無機固体電解質材料であり、
前記無機固体電解質材料は、少なくとも硫化物系無機固体電解質材料を含む、
8.又は9.に記載の無機材料の製造方法。
11. 前記硫化物系無機固体電解質材料は、構成元素としてLi、P及びSの少なくとも1種以上を含む、
10.に記載の無機材料の製造方法。
12. 複数個の粉砕ボール、前記複数個の粉砕ボールを維持しながら軸周りに回転するロアリング、及び、前記複数個の粉砕ボールを挟んで前記ロアリングの反対側に配置され前記複数個の粉砕ボールを前記ロアリングに押し付けるアッパーリングを有するリングボールミル機構と、
内部に前記リングボールミル機構が配置され、前記リングボールミル機構よりも上方側の部分に孔が形成されている容器と、
前記容器における前記リングボールミル機構よりも下方側に取り付けられ、前記内部の上方に向けてガスを送り込むガス送り込み機構と、
前記容器に取り付けられ、前記孔を貫通し、前記ロアリングにおける前記複数個の粉砕ボールよりも軸側に外部のガスを流入されるための筒と、
前記ロアリングの回転動作及び前記ガス送り込み機構のガス送り込み動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部が前記回転動作及び前記ガス送り込み動作を制御することにより1.~11.のいずれか1つに記載の無機材料の製造方法を実行する、
無機材料製造装置。
【0063】
この出願は、2019年6月14日に出願された日本出願特願2019-110875号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0064】
10 ミル装置(無機材料製造装置の一例)
20 容器
22 周壁
24 天板
24A 貫通孔(孔)
26 底板
30 注入筒
35 円錐筒
40 排出管
42 円筒部分
44 枝状部分
50 ガス送り込み機構
60 ウィング機構
62 揺動ウィング
62A 回転軸
62B 短幅板
62C 長幅板
70 リングボールミル機構
72 粉砕ボール
74 アッパーリング
74A 凹み
76 ロアリング
76A 凹み
78 駆動機構
80 加圧機構
90 制御部
92 タイマー
O 軸
S10 無機材料の製造方法
S11 混合工程
S12 ガラス化工程
S13 分散工程
S14 判断工程
S15 排出工程
TP 定められた時間