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  • 特許-複合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/83 20060101AFI20240626BHJP
   C04B 35/583 20060101ALI20240626BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C04B41/83 G
C04B35/583
C04B38/00 303Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022512575
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013655
(87)【国際公開番号】W WO2021201012
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2020064834
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】南方 仁孝
(72)【発明者】
【氏名】和久田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】坂口 真也
(72)【発明者】
【氏名】山口 智也
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-73409(JP,A)
【文献】国際公開第2020/004600(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/073690(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/025933(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/155110(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/583-35/5835,38/00,41/83,
H01L 23/36,23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭窒化ホウ素粉末と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素粒子と気孔とを含む、窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、
前記窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程と、を有する、前記窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の前記気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを有する複合体の製造方法。
【請求項2】
炭化ホウ素粉末を、窒素雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、
前記焼成物と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素粒子と気孔とを含む、窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、
前記窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程と、を有する、前記窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の前記気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを有する複合体の製造方法。
【請求項3】
前記焼結工程で得られる前記窒化ホウ素焼結体の気孔率は30~65体積%である、請求項1又は2に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
前記焼結工程で得られる前記窒化ホウ素焼結体が2mm以上の厚みを有しており、
前記焼結工程と前記含浸工程の間に、前記窒化ホウ素焼結体を切断して、厚みが2mm未満のシート状の前記窒化ホウ素焼結体を得る切断工程を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合体の製造方法。
【請求項5】
前記焼結工程で得られる前記窒化ホウ素焼結体の厚みは2mm未満であり、
前記含浸工程では、前記焼結工程で得られる前記窒化ホウ素焼結体を切断することなく前記樹脂組成物を含浸させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合体の製造方法。
【請求項6】
前記含浸工程の後に、前記窒化ホウ素焼結体の前記気孔内に充填された樹脂を硬化させる硬化工程を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが求められる。このような要請から、従来、電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層の高熱伝導化を図ったり、電子部品又はプリント配線板を、電気絶縁性を有する熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付けたりすることが行われてきた。このような絶縁層及び熱インターフェース材には、樹脂と窒化ホウ素等のセラミックスとで構成される複合体(放熱部材)が用いられる。
【0003】
このような複合体として、多孔性のセラミックス成形体に樹脂を含浸させた複合体を用いることが検討されている。窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等を有していることから、窒化ホウ素を含むセラミックスを放熱部材に用いることが検討されている。特許文献1では、配向度及び黒鉛化指数を所定の範囲にして、熱伝導率に優れつつ熱伝導率の異方性を低減する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-162697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電子部品内の回路の高集積化に伴って、優れた絶縁性を有する複合体が求められている。そこで、本開示は、優れた絶縁性を有する複合体を製造することが可能な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一つの側面において、炭窒化ホウ素粉末と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素粒子と気孔とを含む、窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程と、を有する、窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを有する複合体の製造方法を提供する。
【0007】
この製造方法では、炭窒化ホウ素と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素焼結体を得ている。この窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔の細孔径は十分に小さい。このため、含浸工程において、毛細管現象によって樹脂組成物を気孔に十分に含浸させることができる。このためボイドが十分に低減された複合体を製造することができる。このような複合体は、優れた電気絶縁性を有するため、例えば、電子部品の放熱部材として有用である。ただし、用途は放熱部材に限定されるものではない。
【0008】
本開示は、一つの側面において、炭化ホウ素粉末を、窒素雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、焼成物と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程とを有する、窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを備える複合体の製造方法を提供する。
【0009】
この製造方法では、炭窒化ホウ素を含む焼成物と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素焼結体を得ている。この窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔の細孔径は十分に小さい。このため、含浸工程において、毛細管現象によって樹脂組成物を気孔に十分に含浸させることができる。このためボイドが十分に低減された複合体を製造することができる。このような複合体は、優れた電気絶縁性を有するため、例えば、電子部品の放熱部材として有用である。ただし、用途は放熱部材に限定されるものではない。
【0010】
焼結工程で得られる窒化ホウ素焼結体の気孔率は30~65体積%であってよい。これによって、複合体の質量と強度のバランスを好適に維持することができる。
【0011】
焼結工程で得られる窒化ホウ素焼結体が2mm以上の厚みを有しており、焼結工程と含浸工程の間に、窒化ホウ素焼結体を切断して、厚みが2mm未満のシート状の窒化ホウ素焼結体を得る切断工程を有してよい。このようにシート状の加工することによって、樹脂の充填率が高い複合体を得ることができる。このような複合体は電気絶縁性に一層優れる。
【0012】
焼結工程で得られる窒化ホウ素焼結体の厚みは2mm未満であり、含浸工程では、焼結工程で得られる窒化ホウ素焼結体を切断することなく樹脂組成物を含浸させてもよい。これによって、切断に伴って発生する切屑の発生を抑制し、複合体の歩留まりを高くすることができる。
【0013】
含浸工程の後に、窒化ホウ素焼結体の気孔内に充填された樹脂を硬化させる硬化工程を有してよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、優れた電気絶縁性を有する複合体を製造することが可能な複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、複合体及び窒化ホウ素焼結体の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0017】
<複合体の製造方法の第1実施形態>
複合体の製造方法の第1実施形態を以下に説明する。本実施形態の製造方法は、炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、焼成物と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程を有する。
【0018】
炭化ホウ素粉末は、例えば、以下の手順で調製することができる。ホウ酸とアセチレンブラックとを混合したのち、不活性ガス雰囲気中、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、炭化ホウ素塊を得る。この炭化ホウ素塊を、粉砕し、洗浄、不純物除去、及び乾燥を行って調製することができる。
【0019】
窒化工程では、炭化ホウ素粉末を、窒素雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素(BCN)を含む焼成物を得る。窒化工程における焼成温度は、1800℃以上であってよく、1900℃以上であってもよい。また、当該焼成温度は、2400℃以下であってよく、2200℃以下であってもよい。当該焼成温度は、例えば、1800~2400℃であってよい。
【0020】
窒化工程における圧力は、0.6MPa以上であってよく、0.7MPa以上であってもよい。また当該圧力は、1.0MPa以下であってよく、0.9MPa以下であってもよい。当該圧力は、例えば、0.6~1.0MPaであってよい。当該圧力が低すぎると、炭化ホウ素の窒化が進行し難くなる傾向がある。一方、当該圧力が高すぎると、製造コストが上昇する傾向にある。なお、本開示における圧力は絶対圧である。
【0021】
窒化工程における窒素雰囲気の窒素ガス濃度は95体積%以上であってよく、99.9体積%以上であってもよい。窒素の分圧は、上述の圧力範囲であってよい。窒化工程における焼成時間は、窒化が十分進む範囲であれば特に限定されず、例えば6~30時間であってよく、8~20時間であってもよい。
【0022】
焼結工程では、窒化工程で得られた炭窒化ホウ素粒子を含む焼成物と焼結助剤を配合して配合物を得てよい。焼結助剤は、ホウ素化合物及びカルシウム化合物を含んでよい。配合物は、焼成物100質量部に対してホウ素化合物及びカルシウム化合物を合計で1~30質量部含んでよい。このような含有量とすることによって、一次粒子の過剰な粒成長を抑制しつつ、適度に粒成長させて焼結を促進し、窒化ホウ素の一次粒子同士が強固に且つ広域に亘って密接に結合する。
【0023】
窒化ホウ素の一次粒子を十分に結合させる観点から、配合物は、焼成物100質量部に対してホウ素化合物及びカルシウム化合物を合計で、例えば2~30質量部含んでよく、5~25質量部含んでよく、8~20質量部含んでもよい。
【0024】
配合物は、ホウ素化合物を構成するホウ素100原子%に対して、カルシウム化合物を構成するカルシウムを0.5~40原子%含んでよく、0.7~30原子%含んでもよい。このような比率でホウ素及びカルシウムを含有することによって、一次粒子の均質な粒成長を促進して窒化ホウ素焼結体の熱伝導率を一層高くすることができる。
【0025】
ホウ素化合物としては、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ砂等が挙げられる。カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム等が挙げられる。焼結助剤は、ホウ酸及び炭酸カルシウム以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩が挙げられる。また、成形性向上のため、配合物にバインダを配合してもよい。バインダとしては、アクリル化合物等が挙げられる。
【0026】
焼成物と焼結助剤の配合に際し、一般的な粉砕機又は解砕機を用いて焼成物の粉砕を行ってもよい。例えば、ボールミル、ヘンシェルミキサー、振動ミル、ジェットミル等を用いることができる。なお、本開示においては、「粉砕」には「解砕」も含まれる。焼成物を粉砕した後に焼結助剤を配合してもよいし、焼成物と焼結助剤とを配合した後に、粉砕と混合を同時に行ってもよい。
【0027】
配合物は粉末プレス又は金型成形を行ってブロック状の成形体としてもよいし、ドクターブレード法によって、シート状の成形体としてもよい。成形圧力は、例えば5~350MPaであってよい。成形体の形状は、例えば、厚さが2mm以下のシート状であることが好ましい。このようなシート状の成形体を用いて窒化ホウ素焼結体を製造すれば、窒化ホウ素焼結体及び複合体を切断することなく、複合体を製造することができる。また、ブロック状の窒化ホウ素焼結体及び複合体を切断してシート状とする場合に比べて、成形体の段階からシート状にすることによって、加工による材料ロスを低減することができる。したがって、高い歩留まりでシート状の複合体を製造することができる。
【0028】
上述のようにして得られた成形体を、例えば電気炉中で加熱して焼成する。加熱温度は、例えば1800℃以上であってよく、1900℃以上であってもよい。当該加熱温度は、例えば2200℃以下であってよく、2100℃以下であってもよい。加熱温度が低すぎると、粒成長が十分に進行しない傾向にある。加熱時間は、0.5時間以上であってよく、1時間以上、3時間以上、5時間以上、又は10時間以上であってもよい。当該加熱時間は、40時間以下であってよく、30時間以下、又は20時間以下であってもよい。当該加熱時間は、例えば、0.5~40時間であってよく、1~30時間であってもよい。加熱時間が短すぎると粒成長が十分に進行しない傾向にある。一方、加熱時間が長すぎると工業的に不利になる傾向にある。加熱雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であってよい。配合物にバインダを配合する場合、上述の加熱の前に、バインダが分解する温度と雰囲気で仮焼して脱脂してもよい。
【0029】
以上の工程によって、窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体を得ることができる。成形体として、薄いシート状のものを用いれば、シート状の窒化ホウ素焼結体を得ることができる。この例では、炭窒化ホウ素を含む焼成物を用いていることから、窒化ホウ素粒子が厚み方向とは垂直方向に配向することを抑制できる。したがって、熱伝導性の異方性を低減して、厚み方向に沿う熱伝導性に優れる窒化ホウ素焼結体を製造することができる。また、窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔の細孔径を全体として小さくすることができる。窒化ホウ素焼結体の配向性指数の範囲は上述したとおりである。
【0030】
なお、炭窒化ホウ素を含む焼成物の代わりに、炭窒化ホウ素粉末を用いてもよい。炭窒化ホウ素粉末としては、例えば、平均粒径が15~50μmのものを用いることができる。炭窒化ホウ素粉末と上述の焼結助剤とを配合し、上述の焼結工程を行って窒化ホウ素焼結体を得てもよい。
【0031】
含浸工程では、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる。焼結工程で得られる窒化ホウ素焼結体がシート状である場合、窒化ホウ素焼結体を加工することなくそのまま用いることができる。窒化ホウ素焼結体の厚みは2mm以下であってよく、2mm未満であってよく、1mm以下であってもよい。一方、焼結工程で得られる窒化ホウ素焼結体がブロック状の場合、ブロック状の窒化ホウ素焼結体をシート状に加工する切断工程を行う。切断工程で、ブロック状の窒化ホウ素焼結体を、例えば厚みが2mm以下のシート状になるように切断加工した後、樹脂組成物を含浸させてもよい。切断後の窒化ホウ素焼結体の厚みは、2mm未満であってよく、1mm以下であってもよいなお、ブロック状の窒化ホウ素焼結体は、例えば、多面体であるときに、全ての辺が相応の長さを有しており、シート状の窒化ホウ素焼結体よりも大きな厚みを有する。すなわち、ブロック状とは、切断することで複数のシート状(薄板状)のものに分割できるような形状をいう。
【0032】
樹脂組成物は、熱硬化性であってよく、例えば、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、ホスフィン系硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤と、溶剤とを含有してよい。
【0033】
溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等の脂肪族アルコール、2-メトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-エトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール等のエーテルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン、トルエン、キシレン等の炭化水素が挙げられる。これらのうちの1種を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0034】
樹脂組成物の成分は上述のものに限定されず、例えば、硬化又は半硬化反応によって樹脂となるものを用いることができる。樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド樹脂、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリフタルアミド、ポリアセタール等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0035】
流動性及び取り扱い性向上の観点から、樹脂組成物は、無機フィラー、シランカップリング剤、消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤等を含有してもよい。
【0036】
含浸は、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を付着させて行う。含浸方法は特に限定されないが、窒化ホウ素焼結体は細孔径が十分に小さいため、毛細管現象で樹脂組成物が含浸し易い。このため、高い粘度の樹脂組成物を用い、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を塗布して含浸工程を行うことができる。塗布には、例えば、ディップ塗布、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、バーコーター、エアディスペンサ、カンマコータ、グラビアコータ、凸版印刷、凹版印刷、グラビア印刷、ステンシル印刷、ソフトリソグラフ、バーコート、アプリケータ、スピンコータ、ディップコータ、ゴムへら、刷毛等を用いることができる。
【0037】
窒化ホウ素焼結体は、気孔の細孔径が全体として小さいため、毛細管現象によって樹脂組成物が含浸し易い。さらに、厚みが2mm以下のシート状であれば、樹脂組成物を内部にまで十分に含浸させることができる。厚みが2mm以下のシート状の窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を塗布で含浸させる場合、樹脂組成物の粘度は、5000mPa・s以下であってよく、2000mPa・s以下であってもよい。このような高い粘度を有する樹脂組成物であっても、上記厚みであれば毛細管現象を利用し十分に含浸することができる。複合体のボイドを十分に低減する観点から、樹脂組成物の粘度は、1mPa・s以上であってよく、5mPa・s以上であってもよい。窒化ホウ素焼結体への樹脂組成物の塗布量は、窒化ホウ素焼結体の全細孔容積を基準として、1~1.5倍であってよい。
【0038】
このようにして、窒化ホウ素焼結体とその気孔に充填された樹脂とを有する複合体が得られる。窒化ホウ素焼結体の気孔の全てに樹脂が充填されている必要はなく、一部の気孔には樹脂が充填されていなくてもよい。窒化ホウ素焼結体及び複合体は、閉気孔と開気孔の両方を含んでいてよい。
【0039】
含浸工程の後に、気孔内に充填された樹脂を硬化させる硬化工程を有していてもよい。硬化工程では、例えば、含浸装置から樹脂(樹脂組成物)が充填された複合体を取り出し、樹脂(又は必要に応じて添加される硬化剤)の種類に応じて、加熱、及び/又は光照射により、樹脂を硬化又は半硬化させる。
【0040】
このようにして得られた複合体は、例えばシート状であり、薄い厚みを有する。このため、薄型且つ軽量であり、電子部品等の部材として用いられたときに電子部品等の小型化及び軽量化を図ることができる。また、窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂が十分に充填されていることから、電気絶縁性にも優れる。また、上述の製造方法では、窒化ホウ素焼結体及び複合体を切断する工程を有することなく複合体を製造することができる。したがって、信頼性に優れる複合体を高い歩留まりで製造することができる。なお、複合体は、そのまま放熱部材として用いてもよいし、研磨等の加工を施して放熱部材としてもよい。
【0041】
切断工程を経て得られる複合体は、切断面に、微細なクラック、或いは切断に伴って生じる微細な凹凸(縞模様)を有する。一方、切断工程を経ずに得られる複合体は、切断面を有しないため、表面の微細なクラック及び凹凸(縞模様)を十分に低減することができる。したがって、切断工程を経ずに得られる複合体は、十分に高い強度を維持しつつ、電気絶縁性及び熱伝導性を十分に向上することができる。すなわち、電子部品等の部材としての信頼性に優れる。また、切断等の加工を行うと、材料ロスが発生する。このため、切断面を有しない複合体は、材料ロスを低減することができる。これによって、窒化ホウ素焼結体の歩留まりを向上することができる。
【0042】
<複合体の製造方法の第2実施形態>
本実施形態の複合体の製造方法は、炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、焼成物と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素粒子と気孔とを含む窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程と、樹脂含浸体を切断して複合体を得る切断工程と、を有する。
【0043】
窒化工程と焼結工程は、上述の第1実施形態と同様にして行うことができる。ただし、本実施形態では、シート状の窒化ホウ素焼結体のみならず、ブロック状の窒化ホウ素焼結体を用いることができる。ただし、ブロック状の窒化ホウ素焼結体は、シート状の窒化ホウ素焼結体よりも樹脂組成物が含浸し難い。このため、含浸工程は、窒化ホウ素焼結体を樹脂組成物に浸漬し、浸漬した状態で加圧又は減圧条件として行うことが好ましい。
【0044】
含浸工程は、密閉容器を備える含浸装置内を用いて行ってもよい。一例として、含浸装置内で減圧条件にて含浸を行った後、含浸装置内の圧力を上げて大気圧よりも高くして加圧条件で含浸を行ってもよい。このように減圧条件と加圧条件の両方を行うことによって、窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂を十分に充填することができる。減圧条件と加圧条件とを複数回繰り返し行ってもよい。
【0045】
減圧条件下で含浸工程を実施する場合における含浸装置内の圧力は、例えば、1000Pa以下、500Pa以下、100Pa以下、50Pa以下、又は20Pa以下であってよい。加圧条件下で含浸工程を実施する場合における含浸装置内の圧力は、例えば、1MPa以上、3MPa以上、10MPa以上、又は30MPa以上であってよい。
【0046】
含浸工程において、樹脂組成物を含む溶液を加熱してもよい。上記溶液を下記の温度範囲で加熱することによって、溶液の粘度が調整され樹脂組成物の含浸を促進することができる。含浸させる際の樹脂組成物を含む溶液の粘度は、気孔に樹脂組成物を十分に含浸させる観点から、好ましくは1000mPa・s以下であり、より好ましくは500mPa・s以下である。このように、シート状の窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる場合よりも、樹脂組成物の粘度を低くする必要がある。このような粘度を有する溶液を用いることによって、樹脂組成物を窒化ホウ素焼結体に十分に含浸させることができる。樹脂組成物の粘度は、1mPa・s以上であってよく、5mPa・s以上であってもよい。樹脂組成物の成分は、第1実施形態と同様である。
【0047】
含浸工程では、樹脂組成物を含む溶液に窒化物焼結体を浸漬した状態で所定の時間保持する。当該所定の時間は、例えば、5時間以上であってよく、10時間以上であってもよい。含浸工程は、加温しながら行ってもよい。窒化ホウ素焼結体の気孔に含浸した樹脂組成物は、硬化又は半硬化が進行したり、溶剤が揮発したりした後、樹脂(硬化物又は半硬化物)となる。
【0048】
含浸工程の後に、気孔内に充填された樹脂を硬化させる硬化工程を有していてもよい。硬化工程では、例えば、含浸装置から樹脂が充填された複合体を取り出し、樹脂(又は必要に応じて添加される硬化剤)の種類に応じて、加熱、及び/又は光照射により、樹脂を硬化又は半硬化させる。
【0049】
切断工程では、得られた樹脂含浸体を、例えばワイヤーソーを用いて切断する。ワイヤーソーは、例えば、マルチカットワイヤーソー等であってよい。このような切断工程によって、例えば厚みが2mm以下のシート状の複合体を得ることができる。このようにして得られる複合体は切断面を有する。
【0050】
<複合体>
上述の製造方法によって得られる複合体は、窒化ホウ素粒子で構成される多孔質の窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを有する。複合体は、シート状(薄板形状)であってよい。複合体の厚みは、例えば2mm未満であってよい。窒化ホウ素焼結体を構成する窒化ホウ素粒子は、窒化ホウ素の一次粒子同士が焼結して構成される(なお、一次粒子同士の焼結には二次粒子中の一次粒子同士が焼結する場合も含む。)。複合体では、このような窒化ホウ素粒子の隙間に樹脂が充填されている。複合体は、窒化ホウ素焼結体と樹脂を含むことから電気絶縁性と熱伝導性に優れる。
【0051】
厚みが2mm未満である複合体は、薄型であるため、電子部品等の部材として用いられたときに電子部品等の小型化を図ることができる。また、薄型であるうえに樹脂を含むことから軽量化を図ることができる。
【0052】
一層の小型化及び軽量化を図る観点から、複合体の厚みは、1mm未満であってよく、0.5mm未満であってもよい。成形体及び焼結体作製の容易性の観点から、複合体の厚みは、0.1mm以上であってよく、0.2mm以上であってもよい。
【0053】
図1は、シート状の複合体の一例を示す斜視図である。複合体10は厚みtを有する。厚みtは2mm未満である。複合体10は厚み方向に沿って一軸加圧されて焼結された窒化ホウ素焼結体20を含んでよい。複合体の主面10aの面積は、25mm以上であってよく、100mm以上であってよく、800mm以上であってよく、1000mm以上であってもよい。
【0054】
複合体10の厚みtは小さいため、樹脂組成物の含浸を円滑に行うことができる。また、複合体10は、細孔径が十分に小さい窒化ホウ素焼結体を用いて製造されるため、樹脂が気孔(細孔)に十分に充填されている。このため、ボイドが十分に低減されており、電気絶縁性に優れる。
【0055】
複合体10の形状は図1のような四角柱形状に限定されず、例えば、円柱形状であってもよいし、主面10aが湾曲したC型形状であってもよい。複合体10及び窒化ホウ素焼結体20は切断面を有していなくてよい。例えば、図1のようなシート状の成形体を焼結した後、樹脂組成物を含浸して得られるものであってよい。
【0056】
図1の複合体10の一対の主面10a,10bの両方が切断面でなければよい。すなわち、複合体10の側面は切断面であってもよい。この場合も一対の主面10a,10bの両方において切断に伴って生じ得る微細なクラックを十分に低減することができる。したがって、十分に高い熱伝導性を維持することができる。また、一対の主面10a,10bの両方が切断面である場合に比べて材料ロスを低減することができる。なお、複合体10の表面は研磨等によって形状が整えられていてもよい。
【0057】
複合体10に含まれる窒化ホウ素焼結体20における窒化ホウ素結晶の配向性指数は、40以下であってよく、30以下であってよく、15以下であってよく、10以下であってよい。これによって、熱伝導性の異方性を十分に低減することができる。したがって、シート状の窒化ホウ素焼結体の厚み方向の熱伝導率を十分に高くすることができる。
【0058】
窒化ホウ素焼結体20の配向性指数は、2.0以上であってもよいし、3.0以上であってもよいし、4.0以上であってもよい。本開示における配向性指数は、窒化ホウ素結晶の配向度を定量化するための指標である。配向性指数は、X線回折装置で測定される窒化ホウ素の(002)面と(100)面のピーク強度比[I(002)/I(100)]で算出することができる。
【0059】
窒化ホウ素焼結体20における気孔の平均細孔径は4.0μm未満であってよい。気孔のサイズを小さくすることによって、樹脂の充填率を高くすることができる。したがって、複合体10の電気絶縁性を一層高くすることができる。窒化ホウ素焼結体20への樹脂組成物の含浸を円滑にする観点から、気孔の平均細孔径は、0.5~3.5μmであってよく、1.0~3.0μmであってもよい。平均細孔径が過大となると、毛細管現象による樹脂組成物の浸透が進行し難くなる傾向にある。一方、平均細孔径が過小となると、窒化ホウ素焼結体の気孔率が小さくなり、樹脂組成物の含浸量が少なくなる傾向にある。
【0060】
気孔の平均細孔径は、水銀ポロシメーターを用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増やしながら加圧したときの細孔径分布に基づいて求められる。横軸を細孔径、縦軸を累積細孔容積としたときに、累積細孔容積が全細孔容積の50%に達するときの細孔径が平均細孔径である。水銀ポロシメーターとしては、島津製作所製のものを用いることができる。
【0061】
窒化ホウ素焼結体20の気孔率、すなわち、窒化ホウ素焼結体20における気孔の体積比率は、30~65体積%であってよく、30~60体積%であってよく、35~55体積%であってよい。気孔率が大きくなり過ぎると複合体10の強度が低下する傾向にある。一方、気孔率が小さくなり過ぎると質量が重くなる傾向にある。
【0062】
気孔率は、窒化ホウ素焼結体20の体積及び質量から、かさ密度[B(kg/m)]を算出し、このかさ密度と窒化ホウ素の理論密度[2280(kg/m)]とから、下記式(1)によって求めることができる。
気孔率(体積%)=[1-(B/2280)]×100 (1)
【0063】
かさ密度Bは、800~1500kg/mであってよく、850~1400kg/mであってよく、900~1300kg/mであってもよい。かさ密度Bが大きくなり過ぎると窒化ホウ素焼結体の質量が増加する傾向にある。また、樹脂の充填量が減少して複合体の電気絶縁性が低下する傾向にある。一方、かさ密度Bが小さくなり過ぎると窒化ホウ素焼結体の強度が低下する傾向にある。
【0064】
窒化ホウ素焼結体20の厚み方向の熱伝導率は、20W/(m・K)以上であってよく、30W/(m・K)以上であってよく、35W/(m・K)以上であってよく、40W/(m・K)以上であってもよい。熱伝導率が高い窒化ホウ素焼結体を用いることによって、放熱性能に十分に優れる放熱部材を得ることができる。熱伝導率(H)は、以下の計算式(2)で求めることができる。
H=A×B×C (2)
【0065】
式(2)中、Hは熱伝導率(W/(m・K))、Aは熱拡散率(m/sec)、Bはかさ密度(kg/m)、及び、Cは比熱容量(J/(kg・K))を示す。熱拡散率Aは、レーザーフラッシュ法によって測定することができる。かさ密度Bは窒化ホウ素焼結体20の体積及び質量から求めることができる。比熱容量Cは、示差走査熱量計を用いて測定することができる。窒化ホウ素焼結体は厚み方向において上述の熱伝導率を有してよい。
【0066】
一実施形態に係る複合体は、窒化ホウ素焼結体と樹脂との複合体であり、上述の窒化ホウ素焼結体と窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを有する。樹脂の例は上述したとおりである。
【0067】
複合体10がプリント配線板の絶縁層に用いられる場合、耐熱性及び回路への接着強度向上の観点から、樹脂はエポキシ樹脂を含んでよい。複合体が熱インターフェース材に用いられる場合、耐熱性、柔軟性及びヒートシンク等への密着性向上の観点から、樹脂はシリコーン樹脂を含んでよい。樹脂は硬化物(Cステージ状態)であってもよいし、半硬化物(Bステージ状態)であってもよい。樹脂が半硬化の状態にあるか否かは、例えば、示差走査熱量計によって確認することができる。
【0068】
複合体10における窒化ホウ素粒子の含有量は、複合体10の全体積を基準として、40~70体積%であってよく、45~65体積%であってもよい。複合体における樹脂の含有量は、複合体10の全体積を基準として、30~60体積%であってよく、35~55体積%であってもよい。このような割合で窒化ホウ素粒子及び樹脂を含む複合体は、高い電気絶縁性と熱伝導率を高水準で両立することができる。
【0069】
複合体10における樹脂の含有量は、複合体の全質量を基準として、10~60質量%であってよく、15~60質量%であってよく、15~50質量%であってよく、20~50質量%であってよく、25~50質量%であってよく、25~40質量%であってもよい。このような割合で樹脂を含む複合体は、高い絶縁性と熱伝導率を高水準で両立することができる。複合体10における樹脂の含有量は、複合体10を加熱して樹脂を分解して除去し、加熱前後の質量差から樹脂の質量を算出することによって求めることができる。
【0070】
複合体10は、窒化ホウ素焼結体及びその気孔中に充填された樹脂に加えて、その他の成分をさらに含有してもよい。その他の成分としては、硬化剤、無機フィラー、シランカップリング剤、消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤等が挙げられる。無機フィラーは、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでよい。これによって、複合体の熱伝導性を一層向上することができる。
【0071】
本実施形態の複合体10は、上述の窒化ホウ素焼結体と、その気孔中に充填された樹脂とを含むことから、優れた熱伝導率と優れた電気絶縁性を兼ね備える。また、薄型且つ軽量であるため、電子部品等の部材として用いられたときに電子部品等の小型化及び軽量化を図ることができる。複合体は、このような特性を有することから、放熱部材として好適に用いることができる。放熱部材は、上述の複合体で構成されていてよく、他の部材(例えば、アルミニウム等の金属板)と複合体を組み合わせて構成されてもよい。
【0072】
以上、幾つかの実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、焼結工程では、成形と焼結を同時に行うホットプレスによって窒化ホウ素焼結体を得てもよい。
【実施例
【0073】
実施例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[窒化ホウ素焼結体]
(実施例1)
<窒化ホウ素焼結体の作製>
新日本電工株式会社製のオルトホウ酸100質量部と、デンカ株式会社製のアセチレンブラック(商品名:HS100)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、黒鉛製のルツボ中に充填した。アーク炉を用いて、アルゴン雰囲気中、このルツボを2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(BC)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで粗粉砕して粗粉を得た。この粗粉を、炭化珪素製のボール(φ10mm)を有するボールミルによってさらに粉砕して粉砕粉を得た。得られた炭化ホウ素粉末の炭素量は19.9質量%であった。炭素量は、炭素/硫黄同時分析計にて測定した。
【0075】
調製した炭化ホウ素粉末を、窒化ホウ素製のルツボに充填した。その後、抵抗加熱炉を用い、窒素ガス雰囲気下で、2000℃、0.85MPaの条件で10時間加熱した。このようにして炭窒化ホウ素(BCN)を含む焼成物を得た。
【0076】
粉末状のホウ酸と炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、100質量部のホウ酸に対して、炭酸カルシウムを1.9質量部配合した。このときのホウ素とカルシウムの原子比率は、ホウ素100原子%に対してカルシウムが1.2原子%であった。焼成物100質量部に対して焼結助剤を16質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して粉末状の配合物を得た。
【0077】
配合物97.4gを、粉末プレス機を用いて、150MPaで30秒間加圧して、ブロック状(縦×横×厚み=49mm×25mm×57mm)の成形体を得た。成形体を窒化ホウ素製容器に入れ、バッチ式高周波炉に導入した。バッチ式高周波炉において、常圧、窒素流量5L/分、2000℃の条件で5時間加熱した。その後、窒化ホウ素容器から窒化ホウ素焼結体を取り出した。このようにして、ブロック状の窒化ホウ素焼結体を得た。窒化ホウ素焼結体の厚みtは60mmであった。
【0078】
<熱伝導率の測定>
窒化ホウ素焼結体の厚み方向の熱伝導率(H)を、以下の計算式(3)で求めた。
H=A×B×C (3)
【0079】
式(3)中、Hは熱伝導率(W/(m・K))、Aは熱拡散率(m/sec)、Bはかさ密度(kg/m)、及び、Cは比熱容量(J/(kg・K))を示す。熱拡散率Aは、窒化ホウ素焼結体を、縦×横×厚み=10mm×10mm×0.40mmのサイズに加工した試料を用い、レーザーフラッシュ法によって測定した。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、商品名:LFA447NanoFlash)を用いた。かさ密度Bは窒化ホウ素焼結体の体積及び質量から算出した。熱伝導率H及びかさ密度Bの結果を表1に示す。
【0080】
<平均細孔径の測定>
得られた窒化ホウ素焼結体について、株式会社島津製作所製の水銀ポロシメーター(装置名:オートポアIV9500)を用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増加しながら細孔容積分布を測定した。積算細孔容積分布において、積算細孔容積が全細孔容積の50%に達する細孔径を、「平均細孔径」とした。結果を表1に示す。
【0081】
<気孔率の測定>
上述のとおり算出したかさ密度Bと窒化ホウ素の理論密度(2280kg/m)とから、以下の計算式(4)によって気孔率を求めた。結果を表1に示す。
気孔率(体積%)=[1-(B/2280)]×100 (4)
【0082】
<配向性指数の測定>
X線回折装置(株式会社リガク製、商品名:ULTIMA-IV)を用いて、窒化ホウ素焼結体の配向性指数[I(002)/I(100)]を求めた。X線回折装置の試料ホルダーにセットした測定試料(窒化ホウ素焼結体)にX線を照射して、ベースライン補正を行った。その後、窒化ホウ素の(002)面と(100)面のピーク強度比を算出した。これを配向性指数[I(002)/I(100)]とした。結果は、表1に示すとおりであった。
【0083】
<複合体の作製>
エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名:エピコート807)と硬化剤(日本合成化学工業株式会社製、商品名:アクメックスH-84B)を含む樹脂組成物を、減圧条件、及び加圧条件を順次行って、窒化ホウ素焼結体に含浸させた。減圧条件は500Pa×30分間、加圧条件は1MPa×30分間とした。含浸後、大気圧下、温度120℃で120分間加熱して樹脂を硬化させて複合体を得た。この複合体は、窒化ホウ素焼結体と同等の厚み(60mm)を有していた。
【0084】
<樹脂の含有量>
複合体における樹脂の含有量は、表2に示すとおりであった。この樹脂の含有量(質量%)は、複合体全体に対する樹脂の質量比率である。樹脂の含有量は、窒化ホウ素焼結体と複合体の質量差から樹脂の質量を算出し、この樹脂の質量を複合体の質量で除することによって算出した。
【0085】
<電気絶縁性の評価>
得られた複合体を、縦×横×厚み=20mm×20mm×0.40mmのサイズに加工した試料を用い、絶縁破壊電圧を測定した。本明細書における「絶縁破壊電圧」は、JIS C2110-1:2016にしたがって、耐圧試験器(菊水電子工業株式会社製、装置名:TOS-8700)によって測定される値を意味する。測定値が20kV/mm以上の場合を「A」、10~20kV/mm以上の場合を「B」、10kV/mm以下の場合を「C」と評価した。表2にその結果を示した。
【0086】
(実施例2)
酸素含有量が1.7質量%であり、平均粒径が3.4μmであるアモルファス窒化ホウ素粉末10.7質量部と、酸素含有量が0.1質量%であり、平均粒径が16.0μmである六方晶窒化ホウ素粉末7.1質量部と、炭酸カルシウム(白石工業株式会社製、商品名:PC-700)0.9質量部と、ホウ酸1.6質量部とを、ヘンシェルミキサーを用いて混合して混合物を得た。その後、混合物100質量部に対して、水380質量部を添加してボールミルで5時間粉砕し、水スラリーを得た。この水スラリーに、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、商品名:ゴーセノール)を、その濃度が3.0質量%となるように添加し、溶解するまで50℃で加熱撹拌した。その後、噴霧乾燥機にて乾燥温度200℃で球状化処理を行って造粒物を得た。噴霧乾燥機の球状化装置としては、回転式アトマイザーを使用した。
【0087】
球状化処理によって得られた造粒物87gを、粉末プレス機を用いて、40MPaで30秒間加圧して、ブロック状(縦×横×厚み=49mm×25mm×57mm)の成形体を得た。成形体を窒化ホウ素製容器に入れ、バッチ式高周波炉に導入した。バッチ式高周波炉において、常圧、窒素流量5L/分、2050℃の条件で10時間加熱した。その後、窒化ホウ素容器から窒化ホウ素焼結体を取り出した。このようにして、ブロック状の窒化ホウ素焼結体を得た。窒化ホウ素焼結体の厚みtは60mmであった。
【0088】
このようにして得られた窒化ホウ素焼結体の各評価を実施例1と同様にして行った。また、この窒化ホウ素焼結体を用い、実施例1と同様にして複合体を作製した。複合体の厚みは60mmであった。そして、実施例1と同様にして複合体の絶縁破壊電圧測定を行った。測定結果は表1及び表2に示すとおりであった。
【0089】
(実施例3)
成形体を作製する際に用いる配合物の量を16.2gとして成形体の厚みを9.5mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして窒化ホウ素焼結体(厚み:10mm)及び複合体(厚み:10mm)を作製した。
【0090】
このようにして得られた窒化ホウ素焼結体及び複合体の各測定を実施例1と同様にして行った。測定結果は表1及び表2に示すとおりであった。
【0091】
(実施例4)
成形体を作製する際に用いる配合物の量を3.2gとして成形体の厚みを1.9mmとしたこと、及び、複合体作製の際、大気圧下でバーコーターを用いて窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させたこと以外は、実施例1と同様にして窒化ホウ素焼結体(厚み:2.0mm)及び複合体(厚み:2.0mm)を作製した。
【0092】
このようにして得られた窒化ホウ素焼結体及び複合体の各測定を実施例1と同様にして行った。測定結果は表1及び表2に示すとおりであった。
【0093】
(実施例5)
成形体を作製する際に用いる配合物の量を1.6gとして成形体の厚みを0.95mmとしたこと、及び、複合体作製の際、大気圧下でバーコーターを用いて窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体(厚み:1.0mm)及び複合体(厚み:1.0mm)を作製した。
【0094】
このようにして得られた窒化ホウ素焼結体及び複合体の各測定を実施例1と同様にして行った。測定結果は表1及び表2に示すとおりであった。
【0095】
(実施例6)
成形体を作製する際に用いる配合物の量を0.16gとして成形体の厚みを0.09mmとしたこと、及び、複合体作製の際、大気圧下でバーコーターを用いて窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させこと以外は、実施例1と同様にして窒化ホウ素焼結体(厚み:0.1mm)及び複合体(厚み:0.1mm)を作製した。
【0096】
このようにして得られた窒化ホウ素焼結体及び複合体の各測定を実施例1と同様にして行った。測定結果は表1及び表2に示すとおりであった。
【0097】
(実施例7)
成形体を作製する際に用いる造粒物の量を0.15gとして成形体の厚みを0.09mmとしたこと、及び、複合体作製の際、大気圧下でバーコーターを用いて窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させたこと以外は、実施例2と同様にして窒化ホウ素焼結体(厚み:0.1mm)及び複合体(厚み:0.1mm)を作製した。
【0098】
このようにして得られた窒化ホウ素焼結体及び複合体の各測定を実施例1と同様にして行った。測定結果は表1及び表2に示すとおりであった。
【0099】
(比較例1)
[窒化ホウ素焼結体の作製]
容器に、アモルファス窒化ホウ素粉末(デンカ株式会社製、酸素含有量:1.5%、窒化ホウ素純度:97.6%、平均粒径:6.0μm)が40.0質量%、六方晶窒化ホウ素粉末(デンカ株式会社製、酸素含有量:0.3%、窒化ホウ素純度:99.0%、平均粒径:30.0μm)が60.0質量%となるようにそれぞれ測り取った。上述の2つの粉末の合計100質量部に対し、焼結助剤(ホウ酸、炭酸カルシウム)を14質量部加えた後に有機バインダー、水を加え混合後、乾燥造粒し窒化物の混合粉末を調整した。
【0100】
上記混合粉末を、冷間等方加圧(CIP)装置(株式会社神戸製鋼所製、商品名:ADW800)に充填し、上記混合粉末を60MPaの圧力をかけて圧縮し成形体を得た。得られた成形体を、バッチ式高周波炉(富士電波工業株式会社製、商品名:FTH-300-1H)を用いて2000℃で10時間保持して焼結させることによって、窒化ホウ素焼結体を調製した。なお、焼成は、炉内に窒素を標準状態で流量を10L/分となるように流しながら、炉内を窒素雰囲気下に調整して行った。得られた窒化ホウ素焼結体は、平均細孔径が2.5μm、気孔率が58体積%、配向性指数が7、かさ密度が1020kg/m、熱伝導率が34W/(m・K)であった。
【0101】
上述のとおり調製した窒化ホウ素焼結体に、実施例1と同様の熱硬化性樹脂組成物を以下の方法で含浸させた。まず、真空加温含浸装置(株式会社協真エンジニアリング製、商品名:G-555AT-R)に、上記窒化物焼結体と、容器に入れた上記熱硬化性樹脂組成物とを入れた。次に、温度:100℃、及び圧力:15Paの条件下で、装置内を10分間脱気した。脱気後、同条件に維持したまま、上記窒化物焼結体を上記熱硬化性樹脂組成物に40分間浸漬し、熱硬化性組成物を上記窒化物焼結体に含浸させた。
【0102】
その後、上記窒化物焼結体及び熱硬化性樹脂組成物を入れた容器を取出し、加圧加温含浸装置(株式会社協真エンジニアリング製、商品名:HP-4030AA-H45)に入れ、温度:130℃、及び圧力:3.5MPaの条件下で、120分間保持することで、熱硬化性樹脂組成物を窒化物焼結体にさに含浸させた。その後、窒化物焼結体を装置から取出し、温度:120℃、及び大気圧の条件下で、8時間加熱し、熱硬化性樹脂組成物を半硬化させることで、樹脂が充填された窒化ホウ素焼結体(樹脂含浸体)を調製した。得られた樹脂含浸体における半硬化物の含有量は、50体積%であった。得られた複合体の樹脂含浸体のサイズは、縦(長さ):50mm、横(幅):50mm、及び高さ(厚み):50mmであった。
【0103】
このようにして得られた窒化ホウ素焼結体及び複合体の各測定を実施例1と同様にして行った。測定結果は表1及び表2に示すとおりであった。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0106】
本開示によれば、薄型であり、電子部品等の部材として好適な窒化ホウ素焼結体及び複合体、並びにこれらの製造方法が提供される。また、電子部品等の部材として好適な放熱部材が提供される。
【符号の説明】
【0107】
10…複合体、20…窒化ホウ素焼結体。
図1