(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】オフセット値設定方法およびロボット制御装置
(51)【国際特許分類】
B25J 9/10 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
B25J9/10 A
(21)【出願番号】P 2022558662
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2020040371
(87)【国際公開番号】W WO2022091241
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 将吾
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-25632(JP,A)
【文献】特開平7-311610(JP,A)
【文献】国際公開第2021/210054(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節ロボットのアームの先端部に取り付けられ、制御点が前記先端部の原点からXY方向にオフセットされたツールのオフセット値設定方法であって、
前記ツールのXY方向の位置合わせ用の位置マークとZ軸回りの回転向き合わせ用の回転向きマークとを有するプレートを画像認識して、前記位置マークのXY方向の位置を示す第1座標を取得する第1取得ステップと、
前記ツールの設計上のオフセット値を用いて前記第1座標を前記ツールの制御点の目標位置として前記アームを作動させてから、実際の前記制御点の位置および前記ツールの回転向きが前記位置マークおよび前記回転向きマークに合うように前記先端部の位置および回転量を調整する作動ステップと、
該調整後の前記制御点のXY方向の位置を示す第2座標と該調整による前記先端部の回転調整量とを取得する第2取得ステップと、
前記第2座標と前記回転調整量と前記設計上のオフセット値とを用いて前記調整後の前記先端部の原点位置を求め、該原点位置を中心に前記回転調整量だけ戻す方向に前記第2座標を回転させた位置を示す第3座標を取得する第3取得ステップと、
前記第1座標と前記第3座標とのX方向とY方向の差分をそれぞれ算出し、該差分を前記設計上のオフセット値に加えて前記ツールのオフセット値を設定する設定ステップと、
を含むオフセット値設定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のオフセット値設定方法であって、
前記第1取得ステップでは、前記多関節ロボットの作業台に配置された前記プレートを画像認識して、前記第1座標と、前記回転向きマークの回転ずれ量とを取得し、
前記第3取得ステップの後に、前記原点位置を中心に前記回転ずれ量を解消する方向に前記第1座標と前記第3座標とをそれぞれ回転させて補正する補正ステップを含み、
前記設定ステップでは、前記補正後の前記第1座標と前記第3座標とのX方向とY方向の差分をそれぞれ算出して、前記ツールのオフセット値を設定する
オフセット値設定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のオフセット値設定方法であって、
前記プレートは、十字線の中心に前記位置マークが形成されると共に前記ツールの外形の投影形状が前記回転向きマークとして形成されている
オフセット値設定方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のオフセット値設定方法であって、
前記ロボットは、前記アームに取り付けられたカメラを備え、
前記第1取得ステップでは、前記カメラにより撮像された画像を画像認識する
オフセット値設定方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のオフセット値設定方法により設定されたオフセット値を記憶する記憶部と、
前記オフセット値に基づいて、前記ツールが取り付けられた前記アームの作動を制御する制御部と、
を備えるロボット制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、オフセット値設定方法およびロボット制御装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、アームの先端にツールが取り付けられる多関節型のロボットにおいて、アームの先端を所望の位置に精度よく位置決めするために、ロボットの各機構のキャリブレーションを行うものが知られている。例えば、特許文献1には、ロボット座標系の空間内に固定されたターゲット上のマークを撮像するカメラを用い、ロボットを複数の動作位置に移動させた際にカメラで撮像されたマークの形状の特徴が所定の条件を満たす動作位置およびロボット姿勢を複数記憶してキャリブレーションを行うものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したツールとして、アームの先端部の原点からオフセットした位置に、制御点を有するものがある。そのようなツールに加工誤差や取付誤差がある場合、その誤差に、先端部の原点を回転中心とする回転ずれによる誤差が重なるため、オフセット値を正しく求めて設定することが困難となり、ロボットの作業精度が低下するおそれがある。
【0005】
本開示は、アームの先端部の原点から制御点がオフセットして取り付けられるツールのオフセット値をより精度よく設定することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本開示のオフセット値設定方法は、
多関節ロボットのアームの先端部に取り付けられ、制御点が前記先端部の原点からXY方向にオフセットされたツールのオフセット値設定方法であって、
前記ツールのXY方向の位置合わせ用の位置マークとZ軸回りの回転向き合わせ用の回転向きマークとを有するプレートを画像認識して、前記位置マークのXY方向の位置を示す第1座標を取得する第1取得ステップと、
前記ツールの設計上のオフセット値を用いて前記第1座標を前記ツールの制御点の目標位置として前記アームを作動させてから、実際の前記制御点の位置および前記ツールの回転向きが前記位置マークおよび前記回転向きマークに合うように前記先端部の位置および回転量を調整する作動ステップと、
該調整後の前記制御点のXY方向の位置を示す第2座標と該調整による前記先端部の回転調整量とを取得する第2取得ステップと、
前記第2座標と前記回転調整量と前記設計上のオフセット値とを用いて前記調整後の前記先端部の原点位置を求め、該原点位置を中心に前記回転調整量だけ戻す方向に前記第2座標を回転させた位置を示す第3座標を取得する第3取得ステップと、
前記第1座標と前記第3座標とのX方向とY方向の差分をそれぞれ算出し、該差分を前記設計上のオフセット値に加えて前記ツールのオフセット値を設定する設定ステップと、
を含むことを要旨とする。
【0008】
本開示のオフセット値設定方法では、プレートを画像認識して取得した位置マークの第1座標を制御点の目標位置としてアームを作動させてから、実際の制御点の位置およびツールの回転向きが位置マークおよび回転向きマークに合うように先端部の位置および回転量を調整する。また、調整後の制御点の第2座標と先端部の回転調整量と設計上のオフセット値とを用いて調整後の先端部の原点位置を求め、原点位置を中心に回転調整量だけ戻す方向に第2座標を回転させた第3座標を取得する。そして、第1座標と第3座標とのX方向とY方向の差分をそれぞれ算出し、その差分を設計上のオフセット値に加えてツールのオフセット値を設定する。これにより、ツールの制御点が先端部の原点からXY方向にオフセットされるものでも、ツールの加工誤差や取付誤差、回転ずれの影響を除去してオフセット値を精度よく設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】ロボット20とロボット制御装置70の電気的な接続関係を示す説明図。
【
図4】回転ずれ除去後オフセット値算出の一例を示す説明図。
【
図5】オフセット値を設定する際の様子の一例を示す説明図。
【
図7】オフセット値の設定方法の一例を示すイメージ図。
【
図8】オフセット値の設定方法の一例を示すイメージ図。
【
図9】オフセット値の設定方法の一例を示すイメージ図。
【
図10】オフセット値の設定方法の一例を示すイメージ図。
【
図11】オフセット値の設定方法の一例を示すイメージ図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本開示の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、ロボット20の構成の概略を示す構成図である。
図2は、ロボット20とロボット制御装置70の電気的な接続関係を示す説明図である。
【0011】
ロボット20は、ロボット制御装置70による制御を受けて、ワーク搬送装置12(
図2参照)により搬送されるワーク(作業対象物)に対して所定の作業を行うものである。なお、所定の作業としては、ワークをピックアップするピックアップ作業や、ワークを所定位置にプレースするプレース作業、ワークを所定位置に組み付ける組み付け作業などを挙げることができる。
【0012】
ロボット20は、
図1に示すように、例えば5軸の垂直多関節アーム(以下、アームという)22を備える。アーム22は、6つのリンク(第1~第6リンク31~36)と、各リンクを回転または旋回可能に連結する5つの関節(第1~第5関節41~45)とを有する。各関節(第1~第5関節41~45)には、対応する関節を駆動するモータ(サーボモータ)51~55と、対応するモータの回転位置を検出するエンコーダ(ロータリエンコーダ)61~65とが設けられている。なお、第6リンク36を先端リンク(先端部)36という。
【0013】
アーム22の先端リンク36には、エンドエフェクタとしての作業ツール(以下、ツールT)が着脱可能となっている。ツールTとしては、電磁チャックやメカニカルチャック、吸着ノズルなどを挙げることができ、作業対象のワークの形状や素材に合わせて適宜選択される。また、アーム22の第5リンク35には、カメラ24が取り付けられている。カメラ24は、例えばワークの位置および姿勢を認識するために当該ワークを撮像する。
【0014】
こうして構成された本実施形態のアーム22は、ロボット20を正面から見て前(手前)後(奥)の方向をX軸とし、ロボット20の上下方向(第1関節41の回転軸の延在方向)をZ軸とし、X軸およびZ軸に直交する方向をY軸とする三次元空間内の移動が可能である。なお、三次元空間には、ロボット20の作業台11(
図5参照)の所定位置などを原点とするワールド座標系が規定されている。また、先端リンク36のツール取付面の中心位置即ちツールTの取付基準位置を原点とするメカニカルインタフェース座標系が規定されている。このメカニカルインタフェース座標系の原点を、原点Moとする。
【0015】
ロボット制御装置70は、
図2に示すように、CPU71を中心としたマイクロプロセッサとして構成され、CPU71の他に、ROM72やHDD73、RAM74、図示しない入出力インタフェース、図示しない通信インタフェースなどを備える。なお、HDD73は、ロボット20の動作プログラムやツールTの後述するオフセット値73aなどを記憶している。ロボット制御装置70には、エンコーダ61~65などからの検知信号やカメラ24からの画像信号、表示操作パネル28からの操作信号が入力される。また、ロボット制御装置70からは、モータ51~55やワーク搬送装置12などへの制御信号やカメラ24への駆動信号、表示操作パネル28への表示信号が出力される。表示操作パネル28は、作業者がタッチ操作可能なタッチパネル式の液晶ディスプレイとして構成されている。この表示操作パネル28では、ロボット20の作動状況などの各種情報を表示したり、各種設定や各種指示などの入力操作や作業者によるアーム22の手動操作(位置調整)を受け付けたりする。なお、表示装置と入力装置とが別々に設けられていてもよい。
【0016】
このロボット制御装置70は、ロボット20の各モータ51~55を駆動制御することにより、アーム22に装着されたツールTをワークに向けて移動させ、ツールTを用いてワークに対して所定の作業を行う。例えば、ロボット制御装置70は、カメラ24で撮像された画像を処理して、ツールTの作業中心(制御中心)である制御点の目標位置およびツールTの目標角度(姿勢)を取得し、メカニカルインタフェース座標系(原点Mo)の目標位置および目標角度に変換する。また、ツールTの制御点が、原点Moからオフセットして取り付けられるものである場合、そのオフセット値73aを反映して目標位置および目標角度に変換する。次に、ロボット制御装置70は、変換した目標位置および目標角度を周知のパラメータ等を用いてアーム22の各関節の目標位置および目標角度をそれぞれ設定する。そして、ロボット制御装置70は、各関節の位置および角度が、それぞれの目標位置および目標角度に一致するように、対応するモータ51~55を駆動制御すると共にワークに対して作業が行われるようツールTを駆動制御する。
【0017】
次に、こうして構成されたロボット20において、所定の十字プレート(治具プレート)Pを用いてツールTのオフセット値を設定するオフセット値設定方法を説明する。
図3は、オフセット値設定方法の一例を示す説明図である。
図4は、回転ずれ除去後オフセット値算出の一例を示す説明図であり、
図3のS60の内容である。また、
図5は、オフセット値を設定する際の様子の一例を示す説明図であり、
図6は、十字プレートPの上面の一例を示す説明図である。
図7~
図11は、オフセット値の設定方法の一例を示すXY平面上のイメージ図であり、説明の便宜上、オフセットずれや回転ずれを大きく図示した。
【0018】
本実施形態のオフセット値設定方法は、作業者などにより、
図5に示すようにロボット20の作業台11上の所定位置に十字プレートPを設置して行われる。十字プレートPは、
図6に示すように、十字状のパターンと、ツールTの位置合わせ用の位置マークMpと、回転向き合わせ用の回転向きマークMrとが、上面に形成されている。位置マークMpは、十字の中心即ちプレート中心に形成された円形のマークである。回転向きマークMrは、ツールTの投影形状を示すマークであり、例えば一対のメカニカルチャックの投影形状が位置マークMpを中心とする対称位置に形成されている。作業者は、十字プレートPを作業台11上に設置した状態で、表示操作パネル28で必要な情報の入力操作やアーム22の手動操作を行いながら、ロボット制御装置70にオフセット値を設定させる。
【0019】
図3のオフセット値設定方法では、作業者は、まず、ツールTの設計上のオフセット値を登録する(S10)。設計上のオフセット値(以下、オフセット設計値)は、ツールTの取付基準位置からツールTの制御点までのX方向およびY方向の距離として、ツールTの設計寸法に基づいて定められている。オフセット設計値は、例えば作業者により表示操作パネル28を用いて登録される。例えば、
図5には、ツールTとしてのメカニカルチャックがワークをチャックする作業中心の位置(制御点)T0が、原点MoからX方向にXoff0だけオフセットされた様子を示す。なお、X方向,Y方向のオフセット値だけでなく、Z軸回りの回転方向のオフセット値が登録されてもよいが、回転方向のオフセット設計値がなければ値0が登録される。
【0020】
次に、CPU71は、十字プレートPの中心(位置マークMp)にカメラ24の中心が合うように移動させ、その際の位置マークMpの位置(中心位置)を示す第1座標(X1,Y1)と回転向きマークMrのZ軸回りの回転量R1とを取得する(S20,
図7)。S20では、CPU71は、カメラ24により撮像された画像を画像処理して位置マークMpや回転向きマークMrを認識し、その位置および回転向きを取得する。S20の回転量R1は、作業台11上の十字プレートPのZ軸回りの回転ずれ量を示し、十字プレートPが回転ずれなく正しく設置されていれば、値0となる。
図7では、S20で取得された第1座標(X1,Y1)を「S20(X1,Y1)」とし、
図8~
図11も同様とする。また、S20を行った際のメカニカルインタフェース座標系の原点Mo即ち先端リンク36の原点Moを、原点Mo0とする。
【0021】
続いて、CPU71は、ツールTの制御点の目標位置と目標回転量(目標角度)を、第1座標(X1,Y1)と回転量R1として、ツールTが移動するようにアーム22の作動を制御する(S30,
図7)。ここで、ツールTの加工誤差や取付誤差などにより、実際のオフセット値がオフセット設計値と異なり、X方向,Y方向のオフセットずれやZ軸回りの回転ずれが発生する場合がある。その場合、S30で移動させたツールTの実際の制御点の位置が、第1座標(X1,Y1)や回転量R1と一致せず、位置ずれや回転ずれが生じる。
図7では、回転ずれによる移動位置を点線で図示し、これにオフセットずれが加わった位置を実線で示す。ただし、CPU71は、第1座標(X1,Y1)と回転量R1とを制御点の目標位置と目標回転量としてアーム22を作動させるから、ツールTの制御点が
図7の「S20(X1,Y1)」に移動したと認識している。即ち、実際には、ツールTの制御点がS30の実線位置に移動しているものの、CPU71は、ツールTの制御点が「S20(X1,Y1)」にあると誤認識していることになる。
【0022】
S30に続いて、ツールTの制御点の位置と回転向きとが、十字プレートPの位置マークMpと回転向きマークMrとに一致するように、先端リンク36の位置および回転量(角度)を調整する(S40,
図8)。S40では、例えば作業者が表示操作パネル28を用いて、目視による調整操作を行うことで、ツールTの制御点の位置と回転向きとが位置マークMpと回転向きマークMrとに一致するようにロボット20を作動させる。例えば
図8では、回転調整によって回転ずれを解消した位置を点線で図示し、これに位置調整によってオフセットずれを解消した位置を実線で示す。また、XY方向の位置調整に伴って、メカニカルインタフェース座標系の原点Moが原点Mo0から移動した位置を原点Mo1とする。
【0023】
そして、CPU71は、調整後(移動後)の制御点の位置を示す第2座標(X2,Y2)と回転量(回転調整量)R2とを取得する(S50,
図8,
図9)。上述したように、CPU71は、S30で制御点が「S20(X1,Y1)」にあると誤認識しているから、「S20(X1,Y1)」に対して調整がなされたと認識する。
図9では、「S20(X1,Y1)」(S40と同位置)に対して回転調整がされた位置を点線で示し、これにXY方向の位置調整がされた位置を実線で示す。図示するように、第2座標(X2,Y2)として「S50(X2,Y2)」の位置座標が取得される。
【0024】
ここで、
図9(
図8)に示すように、メカニカルインタフェース座標系の原点即ち先端リンク36の回転中心が原点Mo0から原点Mo1に移動しているため、S50の実線位置には、X方向,Y方向のオフセットずれに、回転中心が異なることによる回転ずれも重なっている。このため、第2座標(X2,Y2)および回転量R2と、第1座標(X1,Y1)および回転量R1とに基づいて差分ΔX,ΔY,ΔRを算出してオフセット設計値に反映させたとしても、回転ずれによる影響が残ったままとなり正しいオフセット値とならない。また、上述したように、十字プレートPが回転ずれして配置されているために、その回転ずれによる影響が反映されている可能性もある。そこで、本実施形態では、回転ずれを除去した上でオフセット値を算出するように、
図4に示す回転ずれ除去後オフセット値算出の処理を行う(S60)。
【0025】
図4の処理では、CPU71は、まず、オフセット設計値と第2座標(X2,Y2)と回転量R2とに基づいて、移動後の原点Mo1を導出する(S61)。ここでは、CPU71は、まず、回転量R2とオフセット設計値とから、回転量R2で回転した状態のXY方向のオフセット値即ち回転量R2の回転ずれを反映したオフセット値を算出する。次に、CPU71は、算出したオフセット値分だけ第2座標(X2,Y2)から離れた位置を、原点Mo1として導出する。なお、この導出方法に限られず、設計上のオフセット値と第2座標(X2,Y2)と回転量R2の少なくともいずれかを用いて、移動後の原点Mo1を導出するものであればよい。
【0026】
次に、CPU71は、ツールTの回転ずれを除去する(S62)。ここでは、CPU71は、S61で算出した原点Mo1を中心として、回転量R2と反対方向に回転量R2分だけ第2座標(X2,Y2)を回転させて第2座標(X2,Y2)を修正した第3座標(X3,Y3)を取得する(
図10)。これにより、ツールTの回転ずれを除去した制御点の位置が取得される。
【0027】
続いて、CPU71は、十字プレートPの回転ずれを除去する(S63)。ここでは、CPU71は、原点Mo1を中心として、S20で取得した回転量R1と反対方向に回転量R1分だけ第1座標(X1,Y1)と第3座標(X3,Y3)とをそれぞれ回転させて補正した第1座標(X1’,Y1’)と第3座標(X3’,Y3’)とを取得する(
図11)。これにより、十字プレートPの回転ずれを除去した位置が取得される。
【0028】
こうして回転ずれを除去すると、CPU71は、補正後の第1座標(X1’,Y1’)と第3座標(X3’,Y3’)とに基づいて、X,Y方向のそれぞれのオフセットの差分ΔX(=X1’-X3’),ΔY(=Y1’-Y3’)をオフセットずれとして算出する(S64)。続いて、CPU71は、算出した差分ΔX,ΔYを、オフセット設計値にそれぞれ加えて、X方向,Y方向のオフセット値(Xoff,Yoff)をそれぞれ算出して(S65)、本処理を終了する。
【0029】
そして、CPU71は、S60(S65)で算出したX方向,Y方向のオフセット値(Xoff,Yoff)を、ツールTの種類や型式などの識別情報に対応付けて、HDD73にオフセット値73aとして記憶する(S70)。これにより、ロボット制御装置70は、回転ずれを除去して正しく設定されたオフセット値73aを用いてロボット20にツールTを用いた作業を行わせることができるから、作業精度を向上させることができる。
【0030】
ここで、本実施形態の構成要素と本開示の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態のオフセット値設定方法のS20が第1取得ステップに相当し、S30,S40が作動ステップに相当し、S50が第2取得ステップに相当し、回転ずれ除去後オフセット値算出のS61,S62が第3取得ステップに相当し、S64,S65が設定ステップに相当する。また、S63が補正ステップに相当する。また、カメラ24がカメラに相当する。ロボット制御装置70のHDD73が記憶部に相当し、CPU71が制御部に相当し、ロボット制御装置70がロボット制御装置に相当する。
【0031】
以上説明したロボット20のツールTのオフセット値設定方法では、まず、十字プレートPを画像認識して第1座標(X1,Y1)と回転量R1とを取得する。次に、第1座標(X1,Y1)をツールTの制御点の目標位置として、アーム22を作動させてから先端リンク36の位置および回転量を調整し、制御点の第2座標(X2,Y2)と回転量(回転調整量)R2とを取得する。続いて、第2座標(X2,Y2)と回転量R2とオフセット設計値とから求めた原点Mo1を中心に回転量R2だけ戻す方向に第2座標(X2,Y2)を回転させることで、原点Mo(回転中心)の移動による回転ずれを除去した第3座標(X3,Y3)を取得する。さらに、原点Mo1を中心に第1座標(X1,Y1)と第3座標(X3,Y3)とを回転量R1と反対方向に回転させることで、十字プレートPの回転ずれを除去した第1座標(X1’,Y1’)と第3座標(X3’,Y3’)とに補正する。そして、第1座標(X1’,Y1’)と第3座標(X3’,Y3’)との差分ΔX,ΔYをオフセット設計値に加えてオフセット値を設定する。これにより、ツールTの回転ずれを除去してオフセット値を精度よく設定することができる。また、十字プレートPの回転ずれの影響を除去してオフセット値をより精度よく設定することができる。
【0032】
また、十字プレートPは、十字線の中心に位置マークMpが形成されると共にツールTの外形の投影形状が回転向きマークMrとして形成されているから、制御点の位置およびツールTの回転向きを調整する作業をより適切に行うことができる。
【0033】
また、ロボット20が備えるカメラ24を用いてオフセット値を設定することができるから、ロボット20の構成品以外の測定器具やセンサなどを準備することなくオフセット値の調整を容易に行うことができる。
【0034】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0035】
例えば、上述した実施形態では、
図4の回転ずれ除去後オフセット値算出のS63で十字プレートPの回転ずれを除去したが、これに限られず、S63を省略してもよい。例えば、ガイド治具など用いて作業台11に十字プレートPが回転ずれがないように設置されるものでは、S63を省略すればよい。その場合、S64では、第1座標(X1,Y1)と第3座標(X3,Y3)との差分ΔX,ΔYを算出すればよい。
【0036】
実施形態では、ロボット20のアーム22に取り付けられたカメラ24を用いたが、これに限られず、ロボット20を含むロボットシステムが備えるカメラを用いればよく、例えばロボット20の上方に吊り下げて設置されるカメラを用いてもよい。また、ロボット20に取り付けられたカメラ24やロボットシステムが備えるカメラとは別のカメラを用いてもよく、オフセット値を設定する際に設置される専用のカメラを用いてもよい。
【0037】
実施形態では、円形の位置マークMpとツールTの投影形状を示す回転向きマークMrとが形成された十字プレートPを用いたが、これに限られるものではない。例えば、位置マークMpは、位置合わせが可能なマークであればよく、円形に限られない。回転向きマークMrは、Z軸回りの回転向き合わせが可能なマークであればよく、ツールTの投影形状を示すマークに限られない。また、十字状のパターンが形成された十字プレートPに限られず、位置マークMpと回転向きマークMrとが形成されたプレートであればよい。
【0038】
実施形態では、ロボット制御装置70が主体となってオフセット値設定方法を行うものとしたが、これに限られず、ロボット制御装置70とは別にカメラ24の画像を処理する画像処理装置が設けられている場合に、画像処理装置が主体となってオフセット値設定方法を行ってもよい。あるいは、オフセット値を設定する専用の装置が主体となってオフセット値設定方法を行ってもよい。
【0039】
ここで、本開示のオフセット値設定方法およびロボット制御装置は、以下のように構成してもよい。例えば、本開示のオフセット値設定方法において、前記第1取得ステップでは、前記多関節ロボットの作業台に配置された前記プレートを画像認識して、前記第1座標と、前記回転向きマークの回転ずれ量とを取得し、前記第3取得ステップの後に、前記原点位置を中心に前記回転ずれ量を解消する方向に前記第1座標と前記第3座標とをそれぞれ回転させて補正する補正ステップを含み、前記設定ステップでは、前記補正後の前記第1座標と前記第3座標とのX方向とY方向の差分をそれぞれ算出して、前記ツールのオフセット値を設定するものとしてもよい。こうすれば、作業台に配置されたプレートに回転ずれがあった場合でも、その回転ずれの影響を除去してオフセット値をより精度よく設定することができる。
【0040】
本開示のオフセット値設定方法において、前記プレートは、十字線の中心に前記位置マークが形成されると共に前記ツールの外形の投影形状が前記回転向きマークとして形成されているものとしてもよい。こうすれば、実際の制御点の位置およびツールの回転向きを、作業者の目視で合わせて調整する際に、調整作業をより適切に行うことができる。
【0041】
本開示のオフセット値設定方法において、前記ロボットは、前記アームに取り付けられたカメラを備え、前記第1取得ステップでは、前記カメラにより撮像された画像を画像認識するものとしてもよい。こうすれば、ロボットが備えるカメラを用いてオフセット値を設定することができるから、ロボットの構成品以外の測定器具やセンサなどを準備することなくオフセット値の調整を容易に行うことができる。
【0042】
本開示のロボット制御装置は、上述したいずれかのオフセット値設定方法により設定されたオフセット値を記憶する記憶部と、前記オフセット値に基づいて、前記ツールが取り付けられた前記アームの作動を制御する制御部と、を備えることを要旨とする。本開示のロボット制御装置は、オフセット値設定方法により設定されたオフセット値を記憶しているから、ツールの加工誤差や取付誤差などに拘わらず、精度よく設定されたオフセット値を用いることができる。このため、ロボット制御装置は、アームにツールが取り付けられた多関節ロボットの作業精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本開示は、ロボットの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
11 作業台、12 ワーク搬送装置、20 ロボット、22 アーム、24 カメラ、28 表示操作パネル、31 第1リンク、32 第2リンク、33 第3リンク、34 第4リンク、35 第5リンク、36 先端リンク(第6リンク)、41 第1関節、42 第2関節、43 第3関節、44 第4関節、45 第5関節、51~55 モータ、61~65 エンコーダ、70 ロボット制御装置、71 CPU、72 ROM、73 HDD、73a オフセット値、74 RAM、Mp 位置マーク、Mr 回転向きマーク、P 十字プレート、T ツール。