(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】3次元ワークピースを製造するための装置を操作する方法と、3次元ワークピースを製造するための装置
(51)【国際特許分類】
B22F 10/366 20210101AFI20240626BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240626BHJP
B22F 10/85 20210101ALI20240626BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20240626BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240626BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240626BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240626BHJP
B22F 12/90 20210101ALN20240626BHJP
【FI】
B22F10/366
B22F10/28
B22F10/85
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B22F12/90
(21)【出願番号】P 2022578810
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(86)【国際出願番号】 EP2021066017
(87)【国際公開番号】W WO2021259695
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】102020116415.7
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】523394734
【氏名又は名称】ニコン エスエルエム ソルーションズ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ シェーベル
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-306612(JP,A)
【文献】特開2020-094250(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0271884(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105,10/20,10/28,10/30,
10/366,10/368,10/37,10/85,
12/90
B28B 1/30
B33Y 10/00,30/00,50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射することによって、3次元ワークピース(18)を製造するための装置(10)を操作する方法であって、前記方法は、
a)担体(12)上に原料粉末の層を塗布するステップと、
b)前記原料粉末の層に、製造される前記
3次元ワークピース(18)の対応する層の形状に従って、電磁放射線又は粒子放射線を選択的に照射するステップと、
c)前記
3次元ワークピース(18)が所望の形状及び大きさに到達するまで、ステップa)及びb)を繰り返すステップと、を含む、方法において、
前記層のうちの少なくともいくつかの少なくとも一部について、
-前記層部分が電磁放射線又は粒子放射線に暴露される期間として定義される暴露時間(t
e)と、
-前記層部分が電磁放射線又は粒子放射線に暴露されず、前記層部分の上面に新たな原料粉末層が塗布されない期間として定義される待機時間(t
w)と、
-新たな原料粉末層が前記層部分の上面に塗布される期間として定義される原料粉末塗布時間(t
p)とを、下記の式
走査時間(t
s)=暴露時間(t
e)+待機時間(t
w)+原料粉末塗布時間(t
p)
によって定義される、それぞれの原料粉末層部分の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始から、前記層部分の上面に塗布された新たな原料粉末層の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始までの走査時間(t
s)が、層部分固有の品質パラメータに応じて前記層部分に対して個別に設定される特定の最小値を下回らないように、制御する、方法。
【請求項2】
前記層部分固有の品質パラメータ及び/又は対応する最小走査時間は、前記3次元ワークピースの製造を開始する前に判定されたり、及び/又は前記3次元ワークピースの製造中にその場で判定されたりする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記層部分固有の品質パラメータは、前記走査時間(t
s)が、所定の時間での前記それぞれの層部分の温度に応じて制御されるように、前記所定の時間、特に、前記暴露時間(t
e)+前記待機時間(t
w)の後、あるいは前記走査時間(t
s)の終了時のそれぞれの層部分の温度を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記走査時間(t
s)の前記特定の最小値は、前記走査時間(t
s)の終了時の前記それぞれの層部分の前記少なくとも一部の温度が所定の最大値を超えないように設定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記走査時間(t
s)の前記特定の最小値は、前記それぞれの層部分の前記少なくとも一部が所望の冷却速度で冷却され、ひいては前記走査時間(t
s)の終了時に所望の結晶構造を有するように、設定される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記層部分固有の品質パラメータは、それぞれの層の少なくとも一部と、隣接する層の少なくとも一部との間の急激な暴露面積の変化を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記走査時間(t
s)の前記特定の最小値は、隣接する層部分間の前記走査時間(t
s)の差が所定の最大値を超えないように設定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射することによって3次元ワークピース(18)を製造するための装置(10)であって、前記装置(10)は、
原料粉末の層を担体上に塗布するための粉末塗布装置(14)と、
製造される
3次元ワークピース(18)の対応する層の形状に従って、前記原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を選択的に照射するための照射装置(20)と、
前記
3次元ワークピースが所望の形状と大きさに到達するまで原料粉末の層を塗布し、前記原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射するように、前記粉末塗布装置(14)及び前記照射装置(20)を制御するように構成された制御装置(26)と、を具備する装置において、
前記制御装置(26)は、前記層のうちの少なくともいくつかの少なくとも一部について、
-前記層部分が電磁放射線又は粒子放射線に暴露される期間として定義される暴露時間(t
e)と、
-前記層部分が電磁放射線又は粒子放射線に暴露されず、前記層部分の上面に新たな原料粉末層が塗布されない期間として定義される待機時間(t
w)と、
-新たな原料粉末層が前記層部分の上面に塗布される期間として定義される原料粉末塗布時間(t
p)と、を制御し、その結果、下記の式
走査時間(t
s)=暴露時間(t
e)+待機時間(t
w)+原料粉末塗布時間(t
p)
によって定義され、それぞれの原料粉末層部分の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始から、前記層部分の上面に塗布された新たな原料粉末層の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始までの走査時間(t
s)が、層部分固有の品質パラメータに応じて前記層部分に対して個別に設定される特定の最小値を下回らないように構成される、装置。
【請求項9】
前記制御装置(26)は、前記3次元ワークピースの製造を開始する前に判定されたり、及び/又は前記3次元ワークピースの製造中にその場で判定されたりする層部分固有の品質パラメータ及び/又は最小走査時間に応じて前記走査時間(t
s)を制御するように構成される、請求項8に記載の装置(10)。
【請求項10】
前記層部分固有の品質パラメータは、前記制御装置(26)が、所定の時間での前記それぞれの層部分の温度に応じて前記走査時間(t
s)を制御するように構成されるように、前記所定の時間、特に、前記暴露時間(t
e)+前記待機時間(t
w)の後、あるいは前記走査時間(t
s)の終了時のそれぞれの層部分の前記温度を示す、請求項8に記載の装置(10)。
【請求項11】
前記制御装置(26)は、前記走査時間(t
s)の終了時の前記それぞれの層部分の前記温度が所定の最大値を超えないように、前記走査時間(t
s)の前記特定の最小値を設定するように構成される、請求項10に記載の装置(10)。
【請求項12】
前記制御装置(26)は、前記それぞれの層部分が所望の冷却速度で冷却され、ひいては前記走査時間(t
s)の終了時に所望の結晶構造を有するように、前記走査時間(t
s)の前記特定の最小値を設定するように構成される、請求項10に記載の装置。
【請求項13】
前記層部分固有の品質パラメータは、それぞれの層の少なくとも一部と、隣接する層の少なくとも一部との間の急激な暴露面積の変化を示す、請求項8に記載の装置(10)。
【請求項14】
前記制御装置(26)は、隣接する層部分間の前記走査時間(t
s)の差が所定の最大値を超えないように、前記走査時間(t
s)の前記特定の最小値を設定するように構成される、請求項13に記載の装置(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射することによって3次元ワークピースを製造するための装置を操作する方法と、照射システムとを対象とする。さらに、本発明は、3次元ワークピースを製造するための装置を対象とする。
【背景技術】
【0002】
粉末床溶融結合とは、粉末、特に、金属原料及び/又はセラミック原料を複雑な形状の3次元ワークピースに加工することができる積層造形プロセスである。そのために、原料粉末層が担体上に塗布され、製造されるワークピースの所望の形状に応じて、部位選択的にレーザ照射を受ける。粉末層に浸透するレーザ光線は、加熱を引き起こし、その結果、原料粉末粒子の溶融又は焼結を引き起こす。次に、ワークピースが所望の形状及び大きさになるまで、すでにレーザ処理が施された担体上の層に、追加の原料粉末層が連続して塗布される。粉末床溶融結合を採用して、CADデータに基づいて、試作品、工具、交換部品、高価な構成要素又は歯科用又は整形外科用の補綴物などの医療用補綴物を製造するか修理する場合がある。
【0003】
特許文献1(欧州特許第3023227号明細書)に記載されているような粉末層融合によって3次元ワークピースを製造する例示的な装置が、原料粉末の層を担体上に連続的に塗布するための粉末塗布装置を収容する処理チャンバを備える。原料粉末層を横切ってレーザビームを選択的に照射するための照射ユニットが設けられる。
【0004】
粉末床溶融結合装置の担体上に3次元ワークピースを構築すると、現在照射されている層からの熱の放散は、ワークピースの構築高さが高くなるにつれて、ますます困難になる可能性がある。これにより、ワークピース内に温度勾配が発生し、その結果、ワークピースの品質に影響を及ぼす可能性がある。このほか、ワークピースの形状が、隣接する層の間で照射される面積、いわゆる暴露面積の急激な変化を必要とする場合、ワークピースの全体的な品質を低下させる可能性のある望ましくない影響が発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射して3次元ワークピースを製造する装置の操作方法と、高品質のワークピースの効率的な製造を可能にする、原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射して3次元ワークピースを製造する装置と、を提供することである。
【0007】
原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射することによって3次元ワークピースを製造するための装置を操作する方法では、原料粉末の層を担体上に塗布する。原料粉末を担体の表面上に塗布するために、原料粉末を分散させるように担体を横切って移動する粉末塗布装置を使用してもよい。担体及び粉末塗布装置は、周囲雰囲気に対して密閉可能な処理チャンバ内に収容されてもよい。処理チャンバ内で担体上に塗布される原料粉末は、好ましくは、金属粉末、特に、金属合金粉末であるが、このほか、セラミック粉末又は異なる材料を含む粉末であってもよい。粉末は、任意の適切な粒径又は粒径分布を有してもよい。しかし、粒径<100μmの粉末を処理することが好ましい。
【0008】
原料粉末の層は、製造されるワークピースの対応する層の形状に従って、電磁放射線又は粒子放射線が選択的に照射される。担体上の原料粉末に電磁放射線又は粒子放射線を選択的に照射するための照射装置が、放射線ビーム源、特に、レーザビーム源を備えてもよく、さらに、放射線ビーム源によって放出される放射線ビームを誘導したり、及び/又は処理したりするための光学ユニットを備えてもよい。光学ユニットは、対物レンズ及びスキャナユニットなどの光学要素を備えてもよく、スキャナユニットは、回折光学素子及び偏向ミラーを備えることが好ましい。
【0009】
原料粉末の層を担体上に塗布するステップと、製造されるワークピースの対応する層の形状に従って、原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を選択的に照射するステップとは、ワークピースが所望の形状と大きさに到達するまで繰り返される。担体は堅固に固定されていてもよい。しかし、好ましくは、担体は垂直方向に移動可能であるように設計されており、その結果、原料粉末から層状に構築されるにつれて、ワークピースの構造高さが増大して、担体は垂直方向の下方に移動することができる。
【0010】
層のうちの少なくともいくつかの少なくとも一部について、それぞれの原料粉末層の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始から、上述の層部分の上面の新たな原料粉末層の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始までの走査時間を、特定の最小値を下回らないように制御する。特に、暴露時間、待機時間及び原料粉末塗布時間を、下記の式
走査時間(ts)=暴露時間(te)+待機時間(tw)+原料粉末塗布時間(tp)
で定義される走査時間が特定の最小値を下回らないように制御する。曝露時間は、原料粉末層部分が電磁放射線又は粒子放射線に曝露される期間として定義される。待機時間は、原料粉末層部分が電磁放射線又は粒子放射線に暴露されず、上述の層の上面の新たな原料粉末層部分の塗布がまだ開始されていない期間として定義される。原料粉末塗布時間は、新たな原料粉末層を上述の層部分の上面に塗布する期間として定義される。
【0011】
このように、それぞれの原料粉末層部分に対する走査時間を制御するために、暴露時間、待機時間及び原料粉末塗布時間が考慮される。一般に、暴露時間、待機時間及び原料粉末塗布時間は、ゼロを含む任意の所望の値をとってもよい。暴露時間及び原料粉末塗布時間に応じて、所望の走査時間を得るために待機時間が必要になる場合とそうでない場合がある。このため、待機時間の提供は任意選択であってもよい。
【0012】
具体的には、それぞれの原料粉末層部分の走査時間を適合させるために、暴露時間又は待機時間又は原料粉末塗布時間のいずれかを変更してもよい。このほか、もちろん、例えば、最小走査時間に対応するように、必要に応じて走査時間を適合させるために、暴露時間及び待機時間及び原料粉末塗布時間のうちの複数を変更することが可能である。例えば、暴露時間は、照射ビームの走査速度を低下させるか、照射パターンのベクトル数を増大させるか、言い換えれば、照射経路を長くするか、複数の照射ビームを用いて照射する場合には、ほんのわずかな照射ビームを用いることによって、延長されてもよい。待機時間は、例えば、新たな原料粉末層の塗布の開始を延期したり、及び/又は新たな原料粉末層の塗布後に暴露の開始を延期したりすることによって実施されても延長されてもよい。原料粉末塗布時間は、例えば、粉末塗布装置の移動速度を遅くするか、複数の副層に新たな粉末層を追加するか、例えば、粉末層の圧縮及び平坦化のために、追加の粉末を追加することなく、粉末床を越える追加の移動を実施することによって、延長されてもよい。本発明の意図では、粉末塗布装置が追加の移動を実施している時間は、原料粉末塗布時間の一部として理解される。
【0013】
暴露時間は、原料粉末層部分の選択的照射が開始されてから、原料粉末層内に対応するワーク層部分が生成されるまでの単一の時間であってもよい。待機時間は、暴露時間の終了直後から新たな原料粉末層の塗布が開始されるまでの単一の時間であってもよい。しかし、このほか、曝露時間は、原料粉末層部分が電磁放射線又は粒子放射線に曝露される複数の曝露時間間隔を含むことが考えられる。このような暴露時間間隔は、それぞれの待機時間間隔によって中断されたり、及び/又はそれぞれの待機時間間隔の後に続いたりしてもよい。
【0014】
走査時間の特定の最小値、即ち、最小走査時間は、層部分固有の品質パラメータに応じて、上述の層部分に対して個別に設定される。換言すれば、3次元ワークピースを製造するための装置を操作する方法では、最小走査時間は、層部分固有であり、ひいては層部分ごとに変化し得る品質パラメータに応じて、個々の層部分に対して個別に設定される。その結果、このほか、最小走査時間が層部分ごとに変化してもよい。
【0015】
もちろん、層部分固有の品質パラメータが多数の層、特に、全層にわたって等しいことは可能であり、品質パラメータは全層部分、即ち、暴露の全面積について等しくなることがある。プロセスに対するさまざまな影響により、最小走査時間は、特定の品質パラメータを等しくするために、層部分ごとに異なる場合がある。
【0016】
それぞれの層部分が、構築区域の平面内の固定座標、即ち、一定の大きさ及び位置を有する層の所定の一部であることがあり得る。このほか、それぞれの層部分を、製造されるワークピースの形状、特に、現在の層でのワークピースの断面に応じて判定することが可能である。このため、それぞれの層部分の大きさ及び位置は、層ごとに異なる場合がある。それぞれの層部分はこのほか、層全体を含むと判定されることがあり得る。もちろん、層が、例えば、1つの構築作業で複数のワークピースが入れ子になっている場合、複数のそれぞれの層部分を含んでもよい。この場合、最小走査時間は、それぞれの層部分、例えば、特定の局所相関でのそれぞれの層部分のグループ、あるいはそれぞれの層部分の全部、即ち、層全体に対して設定されることがあり得ることが理解される。
【0017】
層部分固有の品質パラメータは、製造されるワークピースの層部分の品質を示すパラメータである。例えば、層部分固有の品質パラメータは、ワークピースの層部分に材料欠陥がなく、同層部分は、所望の大きさ及び寸法を有し、所望の微細構造を有し、所望の結晶構造(例えば、オーステナイト構造、マルテンサイト構造、あるいは原料粉末の種類によっては、任意の他の結晶構造又は材料相)などを有することを示すのに適したものであってもよい。最小走査時間は、ワークピースの層部分が所望の品質で製造されるのを確実なものにするのに充分な長さの走査時間である。
【0018】
個々の層部分の最小走査時間を個別に調整することにより、層部分ごとの層部分固有の品質パラメータの変動又は均一性を考慮することができる。このため、各層部分は、所望の品質を確保するように製造することができる。同時に、ワークピースの層部分を所望の品質で製造することができることを確実なものにするのに充分な長さであるが、それ以上の長さにはならないように、層部分ごとに最小走査時間を設定することができるため、ワークピースの効率的な製造が可能になる。例えば、個々の層部分について、その層部分に対して、層部分固有の品質パラメータが、製造されるワークピース層部分の形状と、走査速度、スポットサイズ及び照射ビームの出力などの照射装置の動作パラメータとに起因する想定される走査時間で層部分が走査される場合に所望の品質を達成することができることを示す場合、走査時間の延長を省くことができる。しかし、個々の層部分について、層部分固有の品質パラメータが、製造されるワークピースの層部分の形状と、照射装置の動作パラメータとに起因する想定された走査時間で層部分が走査された場合に所望の品質を達成することができないことを示す場合、走査時間を最小限の走査時間まで延長することができる。
【0019】
層部分固有の品質パラメータ及び/又は最小走査時間は、3次元ワークピースの製造を開始する前に、製造されるワークピースの層のうちの少なくともいくつかの少なくとも一部について、判定されてもよい。例えば、層部分固有の品質パラメータ及び/又は最小走査時間は、製造されるワークピースの全体的な形状及び/又は関心のある層部分の形状を示す形状データに基づいて、関心のある層部分について、判定されてもよい。さらに、層部分固有の品質パラメータ及び/又は最小走査時間を判定するために、関心のある層部分のワークピース内の垂直方向の場所を考慮に入れてもよい。さらに、関心のある層部分の形状及び照射装置の想定される動作パラメータに起因する、関心のある層部分に対する想定される走査時間及び/又は暴露時間を考慮に入れてもよい。例えば、層部分固有の品質パラメータ及び/又は最小走査時間は、3次元ワークピースの製造を開始する前に、関心のある層部分ごとに、好ましくはコンピュータ支援シミュレーションによって判定されてもよい。
【0020】
これとは別に、あるいはこれに加えて、層部分固有の品質パラメータは、製造されるワークピースの層のうちの少なくともいくつかの少なくとも一部について、3次元ワークピースの製造中にその場で判定されてもよい。例えば、層部分固有の品質パラメータは、適切なセンサ装置によって監視されてもよい。
【0021】
好ましい実施形態では、層部分固有の品質パラメータは、所定の時間でのそれぞれの層部分の温度に応じて走査時間が制御されるように、所定の時間でのそれぞれの層部分の温度を示す。換言すれば、所定の時間でのそれぞれの層部分の温度は、3次元ワークピースの製造を開始する前に判定されるか、3次元ワークピースの製造中にその場で判定される制御パラメータとして使用されてもよい。次に、判定された温度に応じて走査時間が制御される。一実施形態では、層部分固有の品質パラメータは、走査時間の終了時のそれぞれの層部分の温度を示す。
【0022】
ワークピースの高さが増大するにつれて、走査後のワークピース層部分からの熱放散がますます困難になる。このため、垂直方向の高さが大きいワークピースの製造中に、ワークピース内に熱勾配が発生する可能性がある。即ち、層部分を走査し、走査された層部分の上面に新たな原料粉末層を塗布する通常のプロセス中に、必要に応じてワークピースの上部の層部分が冷却されない場合がある。
【0023】
別の実施形態では、層部分固有の品質パラメータは、新たな原料粉末層を塗布する前のそれぞれの層部分の温度を示す。
【0024】
走査時間の特定の最小値は、走査時間の終了時のそれぞれの層部分の温度が所定の最大値を超えないように設定されてもよい。走査時間を延ばし、ひいては次の原料粉末層がそれぞれの層部分の上面に塗布されるまでの時間を延長することにより、それぞれの層部分を必要に応じて冷却することができる。その結果、ワークピースの製造中のワークピース内の温度勾配の発生を回避するか、所定の許容範囲に制限することができる。走査時間の終了時のそれぞれの層部分の温度が所定の最大値を超えないことを確実なものにするために、暴露時間を一定に保ちながら適切な待機時間を選択することによって特定の最小値まで走査時間を延長することが特に好ましい。待機時間中、ワークピースにそれ以上熱が導入されず、先に生成された層部分を所望の温度に冷却することができる。しかし、このほか、暴露時間を延長するか、暴露時間と待機時間の両方を延長することが考えられる。
【0025】
走査時間の調整、特に、適切な待機時間の判定のために、プロセスの他のパラメータを考慮に入れてもよい。他のパラメータには、例えば、層部分から受け取った放射線の出力の合計値又は相対値又は平均値、同時に使用される照射ビームの数、層部分内の暴露面積、層部分内の照射ビームの経路の長さ、層部分の暴露の継続時間、処理チャンバの1つ又は複数の特定の点での温度、担体の温度、構築面積の1つ又は複数の特定の点の温度、層部分の平均温度、構築面積から放出される放射線の値、放射線ビームの焦点を含む面積から放出される放射線の値、構築面積の熱膨張の値、層部分に供給される処理ガスの温度、層部分から取り出される処理ガスの温度又は処理ガスの組成、処理ガスの温度、量及び速度、あるいは、例えば、いくつか例を挙げると、処理チャンバ又は担体の横又は担体内での加熱器又は冷却器の出力が挙げられる。
【0026】
もちろん、最小走査時間の調整に加えて、上記のパラメータ及び追加のパラメータを調整してもよく、その調整は、走査時間の調整、特に、適切な待機時間の判定のために考慮されてもよい。
【0027】
層部分固有の品質パラメータに影響を及ぼす別の選択肢は、スキャン戦略の選択である。特に、粉末床溶融結合装置が複数の照射ビームを含む場合及び/又は層が複数のそれぞれの層部分を含む場合、例えば、構築作業でいくつかのワークピースが入れ子になっている場合、複数の層部分を、同時に照射すること、グループごとに同時に照射すること、あるいは1つずつ順に照射することの間に差異が生じる場合がある。好ましい実施形態では、同時に照射される層部分の最大数は、利用可能な照射ビームの数に等しい。言い換えれば、照射ビームが第1の層部分を照射し始めるとき、同ビームは、全面積が照射に暴露されるまで、別の層部分への照射を開始しない。このため、ワークピースがいくつかある場合、好ましい実施形態では、1つのワークピースに属する全面積を、もう1つのワークピースを照射する前にまず照射する。走査戦略を選択するために、このほか、層部分の数、大きさ及び場所を考慮に入れてもよい。好ましい実施形態では、層部分の照射順序は、層部分間及び/又は層内部の温度勾配を回避するか、少なくとも制限するように判定されてもよい。別の実施形態では、層部分の照射順序は、隣接する層部分を照射する前に、最初に照射された層部分を少し冷却するように判定されてもよい。
【0028】
粉末床溶融結合装置を、粉末床の一部への照射と、粉末床の別の部分への新たな原料粉末の塗布とを同時に実施するように設計することが可能である。この方法では層部分の最小走査時間を判定するだけであるため、それを理由にこの方法を使用する場合がある。
【0029】
走査時間の特定の最小値は、それぞれの層部分が走査時間の終了時に所望の結晶構造を有するように設定されてもよい。これは、それぞれの層部分の冷却速度を適切に制御することによって達成されてもよい。例えば、最小走査時間は、オーステナイトからマルテンサイトへの結晶構造の変換が、走査時間中に、即ち、新たな原料粉末層がそれぞれの層部分の上に塗布されるまで、層部分内で可能になるように、設定されてもよい。これは、例えば、走査時間の終了時にそれぞれの層部分の温度が、例えば、ほとんどのマルエイジング鋼の場合の200℃のような構造変換に関連する値を超えないことを確実なものにすることによって達成されてもよい。記載の方法で使用するのに最も好ましいが限定されない材料が、マルテンサイト構造変換を伴う鋼、例えば、1.2709、17-4PH又はM789である。走査時間の終了時の好ましい温度値は、変換温度を下回っている。
【0030】
他の合金及び材料にはこのほか、結晶構造の変換が含まれるため、走査時間の終了時の好ましい温度値は、変換が起こらない材料特性に基づく所定の範囲内にあってもよい。このため、温度値は、最大値だけでなく最小値にも制限されてもよい。このため、このほか、追加の最大走査時間を判定してもよい。典型的な温度制限は材料に基づくものであり、100°Cから800°Cの範囲にある。好ましい実施形態では、層部分の特定の点の測定温度又は走査時間の所定の時間、例えば、走査時間の終了時の層部分全体の平均温度は、60°未満の範囲、例えば150℃から210℃の間、特に好ましくは、30℃未満の範囲、例えば、175℃から205℃の間である。最小走査時間はこのほか、例えば、粉末床溶融結合装置が加熱器を含む場合、層部分の加熱を確実なものにすることができることに留意されたい。材料が構造変換を含まない場合でも、所定の温度値範囲に到達するために最小走査時間を制御すると、ワークピースの品質が向上することがわかった。
【0031】
層部分固有の品質パラメータは、それぞれの層の少なくとも一部と、隣接する層の少なくとも一部との間の急激な暴露面積の変化を示してもよい。次いで、層部分固有の品質パラメータは、製造されるワークピースの形状データに基づいて容易に判定されてもよい。隣接する層の少なくとも一部での暴露面積、ひいては暴露時間の急激な変化が、製造されるワークピースに、例えば、横線の発生などの望ましくない影響を引き起こす可能性がある。このため、層部分ごとの急激な暴露面積/暴露時間の変化を回避することが好ましい。
【0032】
層部分固有の品質パラメータは、これとは別に、あるいはこれに加えて、層部分から受けた放射線の出力の急激な変化、層の厚さの変化又は複数の材料の使用時の原料粉末材料の割合の変化を示してもよい。層内に複数のそれぞれの層部分が存在する場合、特定の部分の変化が、完全な層又は層部分グループという観点からは、互いに打ち消し合うことがあり得る。層部分をグループ化して判定する場合、これを考慮する必要がある。
【0033】
走査時間の特定の最小値は、隣接する層の少なくとも一部の間の走査時間の差が所定の最大値を超えないように設定されてもよい。走査時間の差が所定の最大値を超えないことを確実なものにするために、待機時間を一定に保ちながら適切な暴露時間を選択することによって特定の最小値まで走査時間を延長することが特に好ましい。暴露時間の急激な変化の代わりに、暴露時間の継続的な増大と暴露時間の継続的な減少は、ワークピースの横線の発生などの望ましくない影響を回避する。
【0034】
基本的に、3次元ワークピースを製造するための装置を操作する本明細書に記載の方法では、1つの層部分固有の品質パラメータのみを使用する必要がある。しかし、このほか、複数の層部分固有の品質パラメータに応じて走査時間を制御することが考えられる。例えば、走査時間は、走査時間の終了時のそれぞれの層部分の温度が所定の最大値を超えないように制御されてもよく、隣接する層の少なくとも一部の間の走査時間の差が所定の最大値を超えないように制御されてもよい。
【0035】
原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射することによって3次元ワークピースを製造するための装置が、原料粉末の層を担体上に塗布するための粉末塗布装置を備える。この装置は、製造されるワークピースの対応する層の形状に従って、原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を選択的に照射するための照射装置をさらに備える。さらに、この装置は、ワークピースが所望の形状と大きさに到達するまで原料粉末の層を塗布し、電磁放射線又は粒子放射線を原料粉末の層に照射するために、粉末塗布装置及び照射装置を制御するように構成された制御装置を備える。制御装置は、層のうちの少なくともいくつかの少なくとも一部について、上述の層部分が電磁放射線又は粒子放射線に曝露される期間として定義される曝露時間と、上述の層部分が電磁放射線又は粒子放射線に暴露されず、上述の層部分の上面に新たな原料粉末層が塗布されない期間として定義される待機時間と、それぞれの原料粉末層部分の電磁放射線又は粒子放射線への暴露の開始から、上述の層部分の上面に塗布される新たな原料粉末層の電磁放射線又は粒子放射線への暴露の開始までの以下の式
走査時間(ts)=暴露時間(te)+待機時間(tw)+原料粉末塗布時間(tp)
によって定義される走査時間が、層部分固有の品質パラメータに応じて上述の層部分に対して個別に設定される特定の最小値を下回らないように、新たな原料粉末層が上述の層部分の上面に塗布される期間として定義される原料粉末塗布時間と、を制御するように構成される。
【0036】
制御装置は、3次元ワークピースの製造を開始する前に判定されたり、及び/又は3次元ワークピースの製造中にその場で判定されたりする層部分固有の品質パラメータ及び/又は最小走査時間に応じて走査時間を制御するように構成されてもよい。
【0037】
層部分固有の品質パラメータは、制御装置が所定の時間でのそれぞれの層部分の温度に応じて走査時間を制御するように構成され得るように、走査時間の終了時のそれぞれの層部分の温度を示してもよい。制御装置は、走査時間の終了時のそれぞれの層部分の温度が所定の最大値を超えないように、走査時間の特定の最小値を設定するように構成されてもよい。これとは別に、あるいはこれに加えて、制御装置は、走査時間の終了時にそれぞれの層部分が所望の結晶構造を有するように、走査時間の特定の最小値を設定するように構成されてもよい。
【0038】
層部分固有の品質パラメータは、それぞれの層の少なくとも一部と、隣接する層の少なくとも一部との間の急激な暴露面積の変化を示してもよい。制御装置は、隣接する層部分間の走査時間の差が所定の最大値を超えないように、走査時間の特定の最小値を設定するように構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
本発明の好ましい実施形態を、添付の概略図を参照してさらに詳細に説明する。
【
図1】
図1は、原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射することによって3次元ワークピースを製造するための装置を示す。
【
図2a】
図2aは、層部分固有の品質パラメータに応じた走査時間の制御が
図1の装置によって製造されたワークピースの微細構造に及ぼす影響を示す。
【
図2b】
図2bは、層部分固有の品質パラメータに応じた走査時間の制御が
図1の装置によって製造されたワークピースの微細構造に及ぼす影響を示す。
【
図3a】
図3aは、層部分固有の品質パラメータに応じた走査時間の制御が
図1の装置によって製造されたワークピースの寸法に及ぼす影響を示す。
【
図3b】
図3bは、層部分固有の品質パラメータに応じた走査時間の制御が
図1の装置によって製造されたワークピースの寸法に及ぼす影響を示す。
【
図4】
図4は、層部分固有の品質パラメータを考慮した場合と考慮しない場合の構築高さ全体にわたる暴露時間の進展を示す図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、積層造形プロセスによって3次元ワークピースを製造するための装置10を示す。この装置は、担体12と、原料粉末を担体12上に塗布するための粉末塗布装置14とを備える。担体12及び粉末塗布装置14は、周囲雰囲気に対して密閉可能な処理チャンバ16内に収容される。内部雰囲気を、処理ガス入口15によって供給される遮蔽ガスを用いて確立する。機械はこのほか、図示しない処理ガス出口を備える。処理ガスを、出口から入口15まで循環してもよく、それによって冷却しても加熱してもよい。担体12は、構築されたシリンダ13内に垂直方向に移動可能であり、その結果、担体12は、ワークピース18が担体12上の原料粉末から層状に構築されるため、その構築高さが増大するにつれて、下方に移動することができる。担体は、加熱器及び/又は冷却器を備えることができる。
【0041】
装置10は、担体12上に塗布された原料粉末に電磁放射線又は粒子放射線を選択的に照射するための照射装置20をさらに備える。照射装置20は、放射線ビーム源22、特に、レーザビーム源と、放射線ビーム源22によって放出された放射線ビームを誘導し処理するための光学ユニット24とを備える。装置10の動作、特に、粉末塗布装置14及び照射装置20の動作を制御するために、制御装置26を設ける。
【0042】
最後に、装置10は、いくつかのセンサ装置を装備している。第1のセンサ装置27を、処理チャンバ16内の雰囲気の温度を測定するように構成する。第2のセンサ装置28を、電磁放射線又は粒子放射線による照射中及び照射後の原料粉末/ワークピース層の温度を検出するように構成する。センサ装置28は、例えば、原料層上のいくつかの場所に分解される赤外線放射を検出するように構成された適切なカメラの形態で設計されてもよい。別の例示的な実施形態では、センサ装置28は、例えば、原料層上の処理チャンバ16内の特定の点の温度、あるいは、例えば、原料層上の処理チャンバ16内の面積全体にわたる平均温度を検出し得るパイロメータ装置であってもよい。第3のセンサ装置29を、放射線ビーム源22によって放出される放射線ビームの焦点及び/又は焦点周りのエリアにて、原料層から放出される放射線を検出するように構成する。感知された放射線は、光学ユニット24を通って第3のセンサ装置29に誘導される。好ましい例示的な実施形態では、担体12は、担体の温度を測定するための図示しない追加の第4のセンサ装置を備える。装置10は、追加のセンサ装置、例えば、処理ガス入口15又は別の場所にて処理ガスの温度を測定するための装置又は処理チャンバ16内の処理ガスの組成を測定するための装置を備えてもよい。この例は限定的ではなく、本発明による装置が、指定されたセンサのうちのほんのわずか又は全部をそなえてもよく、追加のセンサを備えてもよいことを理解されたい。
【0043】
3次元ワークピースを製造するための装置10の動作中、粉末塗布装置14によって担体12上に原料粉末の層を塗布する。原料粉末層を塗布するために、粉末塗布装置14は、制御ユニット26の制御下で担体12を横切って移動する。次に、再び制御ユニット26の制御下で、原料粉末の層は、照射装置20によって製造されるワークピース18の対応する層の形状に従って、電磁放射線又は粒子放射線が選択的に照射される。担体12上に原料粉末の層を塗布するステップと、製造されるワークピース18の対応する層の形状に従って、原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を選択的に照射するステップとは、ワークピース18が所望の形状と大きさに到達するまで繰り返される。
【0044】
それぞれの原料粉末の走査時間、即ち、それぞれの原料粉末層の少なくとも一部を電磁放射線又は粒子放射線に曝露し始めてから、上述の層部分の上面に塗布された新たな原料粉末層を電磁放射線又は粒子放射線に曝露し始めるまでの期間を、下記の式によって定義する。
走査時間(ts)=暴露時間(te)+待機時間(tw)+原料粉末塗布時間(tp)
【0045】
曝露時間は、原料粉末層部分が実際に電磁放射線又は粒子放射線に曝露される期間として定義される。待機時間は、原料粉末層部分が電磁放射線又は粒子放射線に暴露されず、新たな原料粉末層が上述の層の上面に塗布されない期間として定義される。原料粉末塗布時間は、新たな原料粉末層が上述の層部分の上面に塗布される期間として定義される。
【0046】
原料粉末/ワークピース層の少なくともいくつかの少なくとも一部について、それぞれの原料粉末層部分の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始から、上述の層部分の上面に塗布された新たな原料粉末層の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始までの走査時間は、特定の最小値を下回らないように、制御装置26によって制御される。具体的には、暴露時間、待機時間及び原料粉末塗布時間は、走査時間が特定の最小値を下回らないように、制御される。走査時間の特定の最小値、即ち、最小走査時間は、層部分固有の品質パラメータに応じて、上述の層部分に対して個別に設定される。層部分固有の品質パラメータは、層部分ごとに変化してもよい。その結果、このほか、最小走査時間は層部分ごとに変化してもよい。
【0047】
ワークピース18の高さが増大するにつれて、走査後のワークピース層部分からの熱放散がますます困難になる。このため、ワークピース18の製造中に、ワークピース18内に熱勾配が発生する可能性がある。即ち、ワークピース18の上部の層部分が、層部分を走査し、走査された層部分の上面に新たな原料粉末層を塗布する通常のプロセス中に、必要に応じて冷却されない可能性がある。マルエイジング鋼1.2709製の大きな体積部品の製造では、これにより、ワークピース18の上部の層部分が充分に冷却されず、その結果、所望のオーステナイト/マルテンサイト変換ができないという問題が発生する可能性がある。特に、オーステナイトからマルテンサイトへの変換は、層部分がオーステナイト/マルテンサイト変換温度未満に冷却されない場合、即ち、200℃未満に冷却されない場合には発生しない。
【0048】
その結果、ワークピース18の構築中にオーステナイト/マルテンサイト変換を受けないワークピース層部分が、ワークピース18が完成した後にのみ変換する。しかし、これにより、ワークピース18の高さ全体にわたって寸法偏差を引き起こす可能性がある。特に、オーステナイト/マルテンサイト変換に伴う体積変化は、ワークピース18の完成後にのみ相変換が起こった場合に、材料が垂直方向に膨張することができないため、ワークピース18の上部でワークピース18の幅を拡大する可能性がある。
【0049】
この問題に対処するために、本明細書に記載の装置10では、マレイジング鋼1.2709からワークピース18を製造する際に、走査時間を制御するために制御ユニット26によって使用される第1の層部分固有の品質パラメータが、走査時間の終了時のそれぞれの層部分の温度を示す。特に、走査時間の特定の最小値は、それぞれの層部分が走査時間の終了時に所望の結晶構造、即ち、マルテンサイト構造を有するように設定される。本明細書に記載の例示的な実施形態では、これは、走査時間の終了時にそれぞれの層部分の温度が200℃を超えないことを確実なものにすることによって達成される。
【0050】
第1の層部分固有の品質パラメータ及び/又は最小走査時間は、3次元ワークピースの製造を開始する前に、製造されるワークピースの層のうちの少なくともいくつかの少なくとも一部について、判定される。具体的には、走査時間の終了時のそれぞれの層部分の温度を示す第1の層部分固有の品質パラメータと、最小走査時間とは、3次元ワークピースの製造を開始する前に、各層部分について、
図2a及び
図2bに示すようにコンピュータ支援シミュレーションによって、判定される。
【0051】
図2aから明らかなように、製造されるワークピース層部分の形状と、走査速度、スポットサイズ及び照射ビームの出力などの照射装置の想定される動作パラメータとに起因する、想定される走査時間の終了時の原料粉末/ワークピース層部分の温度は、ワークピース18の垂直方向の高さが増大するにつれて増大する。ワークピース18の上部では、温度が272℃まで上昇するため、オーステナイト/マルテンサイト変換温度の200℃を充分に超える。その結果、このようなワークピース層部分は、ワークピース18が完成した後にのみオーステナイト/マルテンサイト変換を受ける。このため、オーステナイト/マルテンサイト変換に伴う体積変化により、
図3aに示すように、ワークピース18の上部にてワークピース18の幅が拡大する。
【0052】
図2bは、第1の層部分固有の品質パラメータを考慮しながら、層部分固有の最小走査時間を下回らないように制御される走査時間の終了時の原料粉末/ワークピース層部分の温度を示す。走査時間が充分に長くなるように制御される場合、ワークピース18の上部の層部分には、156℃未満の温度まで冷却するのに充分な時間がある。その結果、層部分のそれぞれは、ワークピース18の製造中にすでにオーステナイト/マルテンサイト変換を受け、オーステナイト/マルテンサイト変換に伴う体積変化が全方向に(即ち、垂直方向にも)発生することを可能にする。このため、ワークピース18の連続した幅を、
図3bに示すように達成することができる。
【0053】
本明細書で説明する例示的な実施形態では、最小走査時間は、ワークピース18の垂直高さの増大に伴う熱放散の変化を考慮して、第1の層部分固有の品質パラメータ、即ち、走査時間の終了時の原料粉末/ワークピース層部分の温度が200°Cを超えないように判定され、制御装置26は、(暴露面積が一定のワークピースの場合)暴露時間を一定に保ちながら待機時間を単に延長することにより、走査時間を最小走査時間に適合させる。しかし、このほか、走査時間が最小走査時間を下回らないことを確実なものにするために、制御装置26が暴露時間と待機時間の両方に適応することが考えられる。
【0054】
さらに、本明細書に記載の例示的な実施形態では、ワークピース18の製造を開始する前に、コンピュータ支援シミュレーションによって層部分固有の品質パラメータ及び最小走査時間が判定されるが、このほか、層部分固有の品質パラメータ及び/又は3次元ワークピースの製造中のその場での最小走査時間を判定することが考えられる。例えば、センサ装置28を使用して、ワークピース18の製造中に原料粉末/ワークピース層部分の温度を測定してもよく、例えば、局所的に分解するか、面積全体の平均値で測定してもよい。次いで、制御装置26は、温度が200℃を超えないことを確実なものにする適切な最小走査時間を判定し、それに応じて現在の走査時間を適合させてもよい。
【0055】
別の例示的な実施形態では、層部分固有の品質パラメータ及び/又は最小走査時間は、閉ループ制御方式で制御装置26によって3次元ワークピースの製造中にその場で判定される。これは、制御装置26が、例えば、間隔を置いて待機時間を延長し、間隔ごとに現在の温度を判定し、判定された温度が所定の閾値、例えば、200℃を下回るときに待機時間を停止することによって、最小走査時間を延長し得ることを意味する。
【0056】
製造されるワークピース18の品質問題がこのほか、
図4の下側の不連続な曲線に示すように、暴露面積の急激な変化、ひいては隣接する層の一部での暴露時間の急激な変化に起因するものである可能性がある。このため、本明細書に記載の装置10では、ワークピース18を製造する際に、走査時間を制御するために制御ユニット26によって使用される第2の層部分固有の品質パラメータが、それぞれの層の少なくとも一部と、隣接する層の少なくとも一部との間の急激な暴露面積の変化を示す。第2の層部分固有の品質パラメータは、製造されるワークピースの形状データに基づいて、ワークピース18の製造の開始前に容易に判定されてもよい。このように、隣接する層の少なくとも一部に対する急激な暴露面積の変化、ひいては急激な暴露時間の変化を示す層部分を有する「臨界」層領域を容易に識別することができる。
【0057】
隣接する層部分間の急激な暴露面積/暴露時間の変化を回避するために、走査時間の特定の最小値は、隣接する層部分間の走査時間の差が所定の最大値を超えないように設定される。これは特に、待機時間を一定に保ちながら適切な暴露時間を選択することによって達成される。その結果、制御ユニット26は、「臨界」層領域にて、暴露時間が、
図4の上側の連続曲線によって示すように急激に変化するのではなく、連続的に増大し、連続的に減少するように、走査時間を制御する。
上述の実施形態は下記のように記載され得るが、下記に限定されるものではない。
[構成1]
原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射することによって、3次元ワークピース(18)を製造するための装置(10)を操作する方法であって、前記方法は、
a)担体(12)上に原料粉末の層を塗布するステップと、
b)前記原料粉末の層に、製造される前記ワークピース(18)の対応する層の形状に従って、電磁放射線又は粒子放射線を選択的に照射するステップと、
c)前記ワークピース(18)が所望の形状及び大きさに到達するまで、ステップa)及びb)を繰り返すステップと、を含む、方法において、
前記層のうちの少なくともいくつかの少なくとも一部について、
-前記層部分が電磁放射線又は粒子放射線に暴露される期間として定義される暴露時間(t
e
)と、
-前記層部分が電磁放射線又は粒子放射線に暴露されず、前記層部分の上面に新たな原料粉末層が塗布されない期間として定義される待機時間(t
w
)と、
-新たな原料粉末層が前記層部分の上面に塗布される期間として定義される原料粉末塗布時間(t
p
)とを、下記の式
走査時間(t
s
)=暴露時間(t
e
)+待機時間(t
w
)+原料粉末塗布時間(t
p
)
によって定義される、それぞれの原料粉末層部分の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始から、前記層部分の上面に塗布された新たな原料粉末層の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始までの走査時間(t
s
)が、層部分固有の品質パラメータに応じて前記層部分に対して個別に設定される特定の最小値を下回らないように、制御する、方法。
[構成2]
前記層部分固有の品質パラメータ及び/又は対応する最小走査時間は、前記3次元ワークピースの製造を開始する前に判定されたり、及び/又は前記3次元ワークピースの製造中にその場で判定されたりする、構成1に記載の方法。
[構成3]
前記層部分固有の品質パラメータは、前記走査時間(t
s
)が、所定の時間での前記それぞれの層部分の温度に応じて制御されるように、前記所定の時間、特に、前記暴露時間(t
e
)+前記待機時間(t
w
)の後、あるいは前記走査時間(t
s
)の終了時のそれぞれの層部分の温度を示す、構成1又は2に記載の方法。
[構成4]
前記走査時間(t
s
)の前記特定の最小値は、前記走査時間(t
s
)の終了時の前記それぞれの層部分の前記少なくとも一部の温度が所定の最大値を超えないように設定される、構成3に記載の方法。
[構成5]
前記走査時間(t
s
)の前記特定の最小値は、前記それぞれの層部分の前記少なくとも一部が所望の冷却速度で冷却され、ひいては前記走査時間(t
s
)の終了時に所望の結晶構造を有するように、設定される、構成3又は4に記載の方法。
[構成6]
前記層部分固有の品質パラメータは、それぞれの層の少なくとも一部と、隣接する層の少なくとも一部との間の急激な暴露面積の変化を示す、構成1から5のいずれか1項に記載の方法。
[構成7]
前記走査時間(t
s
)の前記特定の最小値は、隣接する層部分間の前記走査時間(t
s
)の差が所定の最大値を超えないように設定される、構成6に記載の方法。
[構成8]
原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射することによって3次元ワークピース(18)を製造するための装置(10)であって、前記装置(10)は、
原料粉末の層を担体上に塗布するための粉末塗布装置(14)と、
製造されるワークピース(18)の対応する層の形状に従って、前記原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を選択的に照射するための照射装置(20)と、
前記ワークピースが所望の形状と大きさに到達するまで原料粉末の層を塗布し、前記原料粉末の層に電磁放射線又は粒子放射線を照射するように、前記粉末塗布装置(14)及び前記照射装置(20)を制御するように構成された制御装置(26)と、を具備する装置において、
前記制御装置(26)は、前記層のうちの少なくともいくつかの少なくとも一部について、
-前記層部分が電磁放射線又は粒子放射線に暴露される期間として定義される暴露時間(t
e
)と、
-前記層部分が電磁放射線又は粒子放射線に暴露されず、前記層部分の上面に新たな原料粉末層が塗布されない期間として定義される待機時間(t
w
)と、
-新たな原料粉末層が前記層部分の上面に塗布される期間として定義される原料粉末塗布時間(t
p
)と、を制御し、その結果、下記の式
走査時間(t
s
)=暴露時間(t
e
)+待機時間(t
w
)+原料粉末塗布時間(t
p
)
によって定義され、それぞれの原料粉末層部分の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始から、前記層部分の上面に塗布された新たな原料粉末層の電磁放射線又は粒子放射線への曝露の開始までの走査時間(t
s
)が、層部分固有の品質パラメータに応じて前記層部分に対して個別に設定される特定の最小値を下回らないように構成される、装置。
[構成9]
前記制御装置(26)は、前記3次元ワークピースの製造を開始する前に判定されたり、及び/又は前記3次元ワークピースの製造中にその場で判定されたりする層部分固有の品質パラメータ及び/又は最小走査時間に応じて前記走査時間(t
s
)を制御するように構成される、構成8に記載の装置(10)。
[構成10]
前記層部分固有の品質パラメータは、前記制御装置(26)が、所定の時間での前記それぞれの層部分の温度に応じて前記走査時間(t
s
)を制御するように構成されるように、前記所定の時間、特に、前記暴露時間(t
e
)+前記待機時間(t
w
)の後、あるいは前記走査時間(t
s
)の終了時のそれぞれの層部分の前記温度を示す、構成8又は9に記載の装置(10)。
[構成11]
前記制御装置(26)は、前記走査時間(t
s
)の終了時の前記それぞれの層部分の前記温度が所定の最大値を超えないように、前記走査時間(t
s
)の前記特定の最小値を設定するように構成される、構成10に記載の装置(10)。
[構成12]
前記制御装置()は、前記それぞれの層部分が所望の冷却速度で冷却され、ひいては前記走査時間(t
s
)の終了時に所望の結晶構造を有するように、前記走査時間(t
s
)の前記特定の最小値を設定するように構成される、構成10又は11に記載の装置。
[構成13]
前記層部分固有の品質パラメータは、それぞれの層の少なくとも一部と、隣接する層の少なくとも一部との間の急激な暴露面積の変化を示す、構成8から12のいずれか1項に記載の装置(10)。
[構成14]
前記制御装置(26)は、隣接する層部分間の前記走査時間(t
s
)の差が所定の最大値を超えないように、前記走査時間(t
s
)の前記特定の最小値を設定するように構成される、構成13に記載の装置(10)。