(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】画像形成装置およびヒータの制御方法
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240626BHJP
G03G 21/20 20060101ALI20240626BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G21/20
H05B3/00 310C
(21)【出願番号】P 2023069515
(22)【出願日】2023-04-20
(62)【分割の表示】P 2019007173の分割
【原出願日】2019-01-18
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智晴
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-002724(JP,A)
【文献】特開2006-073431(JP,A)
【文献】特開2017-026858(JP,A)
【文献】特開2018-087922(JP,A)
【文献】特開平10-091017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/20
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段を有し、当該加熱手段により熱を加えることでトナー画像をシートに定着させる定着手段と、
前記加熱手段の測定温度を取得する取得手段と、
前記加熱手段への交流の通電を制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、
前記加熱手段の目標温度と前記測定温度との差分に基づき交流における複数の半波からなる制御周期ごとの通電率を決定し、
複数の連続する前記制御周期
のそれぞれで同一の通電率が決定される場合に、各制御周期を構成する複数の半波のそれぞれで前記通電率に対応して通電開始となる開始位相角が禁止位相角範囲の外側になり、かつ、隣り合う制御周期の
うちの一方
の制御周期を構成する複数の半波における前記開始位相角の組み合わせと前記隣り合う制御周期の
うちの他方
の制御周期を構成する複数の半波における前記開始位相角の組み合わせとが異なるよう、各半波における前記開始位相角を決定し、
前記制御周期を構成する複数の半波のそれぞれについて、決定した開始位相角で前記加熱手段に通電を開始し、前記交流のゼロクロスポイントが到来すると前記加熱手段への通電を停止するように構成されていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記隣り合う制御周期の
うちの一方の制御周期に第1の開始位相角が含まれている場合、
前記隣り合う制御周期のうちの他方の制御周期には前記第1の開始位相角が含まれないように、各半波における前記開始位相角を決定することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記制御手段は、連続して前記同一の通電率が決定されている複数の制御周期において、各制御周期のいずれかの制御周期の前半に適用される通電率が所定値に達するまでは、前記隣り合う制御周期のうちの先の制御周期の前半に適用される通電率よりも前記隣り合う制御周期のうちの後の制御周期の前半に適用される通電率が小さくなるように各半波における前記開始位相角を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記隣り合う制御周期のうちの先の制御周期の前半に適用される通電率が前記所定値に達すると、前記隣り合う制御周期のうちの後の制御周期の前半に適用される通電率が前記隣り合う制御周期のうちの先の制御周期の前半に適用される通電率よりも大きくなるように、各半波の前記開始位相角を決定することを特徴とする請求項3記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記隣り合う制御周期の
うちの一方の制御周期における禁止位相角範囲を前記隣り合う制御周期の
うちの他方の制御周期における禁止位相角範囲と異ならせることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項6】
複数の禁止位相角範囲を記憶した記憶手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記制御周期ごとに前記記憶手段に記憶されている前記複数の禁止位相角範囲から一つの禁止位相角範囲を選択することで、前記制御周期ごとに前記禁止位相角範囲を変更するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記複数の禁止位相角範囲から一つの禁止位相角範囲を所定の選択ルールにしたがって選択するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記複数の禁止位相角範囲から一つの禁止位相角範囲をランダムに選択するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記加熱手段は、第一ヒータと第二ヒータとを有し、
前記制御手段は、前記第一ヒータのための前記通電率である第一通電率と、前記第二ヒータのための前記通電率である第二通電率とを前記制御周期ごとに決定し、各制御周期を構成する複数の半波のそれぞれの前記開始位相角を決定することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記禁止位相角範囲は、前記交流の振幅が最大となる位相角を含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項11】
定着装置に設けられたヒータの目標温度と測定温度との差分に基づき交流における複数の半波からなる制御周期ごとの通電率を決定し、
前記通電率に対応する通電開始の基準となる開始位相角を決定し、
複数の
連続する前記制御周期
のそれぞれで同一の通電率が決定される場合に、各制御周期を構成する複数の半波のそれぞれで前記通電率に対応して通電開始となる開始位相角が禁止位相角範囲の外側になり、かつ、隣り合う制御周期の
うちの一方
の制御周期を構成する複数の半波における前記開始位相角の組み合わせと前記隣り合う制御周期の
うちの他方
の制御周期を構成する複数の半波における前記開始位相角の組み合わせとが異なるよう、各半波における前記開始位相角を決定し、
前記制御周期を構成する複数の半波のそれぞれについて、前記開始位相角に前記ヒータに通電を開始し、前記交流のゼロクロスポイントが到来すると前記ヒータへの通電を停止することを特徴とするヒータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真方式を利用した複写機,プリンタ,ファクシミリ等の画像形成装置およびヒータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真プロセスまたは静電記録プロセスを用いる画像形成装置はトナー画像に熱を加えることでシートにトナー画像を定着させる。定着装置は、1半波毎に通電する交流電流の量を制御することで定着装置の温度を目標温度に維持する、いわゆる位相制御を実行する。位相制御では、目標温度と測定温度との差が小さくなるように、通電を開始する開始位相角が決定され、開始位相角から終了位相角までの期間において交流電流がヒータに通電される(特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、交流の半周期において開始位相角を設定できない禁止区間を設けることで、高調波電流を低減することが提案されている。さらに、特許文献1では2つのヒータの開始位相角をずらすことで、2つのヒータの合計通電量の急峻な立ち上がりを防ぐことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では禁止区間が固定されているため、高調波電流を十分に低減できないケースがありうる。とりわけ、市場で入手可能な記録材の坪量の範囲が広がるにつれて、より高出力のヒータが必要になってきた。低坪量の記録材のために高出力のヒータに低電力を連続的に供給すると、高調波電流が発生しやすい開始位相角が連続的に使用されてしまう。これは、たとえば、1000W(通電率100%)級のヒータを500W(通電率50%)で連続使用するケースで発生しうる。高調波電流を低減するために禁止区間を広げると、ヒータの温度追従性が低下してしまう。そこで、本発明は、温度追従性と高調波電流の低減とを両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、たとえば、
加熱手段を有し、当該加熱手段により熱を加えることでトナー画像をシートに定着させる定着手段と、
前記加熱手段の測定温度を取得する取得手段と、
前記加熱手段への交流の通電を制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、
前記加熱手段の目標温度と前記測定温度との差分に基づき交流における複数の半波からなる制御周期ごとの通電率を決定し、
複数の連続する前記制御周期のそれぞれで同一の通電率が決定される場合に、各制御周期を構成する複数の半波のそれぞれで前記通電率に対応して通電開始となる開始位相角が禁止位相角範囲の外側になり、かつ、隣り合う制御周期のうちの一方の制御周期を構成する複数の半波における前記開始位相角の組み合わせと前記隣り合う制御周期のうちの他方の制御周期を構成する複数の半波における前記開始位相角の組み合わせとが異なるよう、各半波における前記開始位相角を決定し、
前記制御周期を構成する複数の半波のそれぞれについて、決定した開始位相角で前記加熱手段に通電を開始し、前記交流のゼロクロスポイントが到来すると前記加熱手段への通電を停止するように構成されていることを特徴とする画像形成装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、温度追従性と高調波電流の低減とを両立することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
[画像形成装置]
図1は中間転写方式の画像形成装置1を示している。画像形成装置1は、単色画像を形成する画像形成装置であってもよいが、ここでは複数の色剤を混色して多色画像を形成する電子写真方式の画像形成装置である。画像形成装置1は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(BK)といった4色の現像剤を使用する。
図1において参照番号の末尾には色を示す文字が付与されているが、四色に共通する事項が説明される際にはこの文字が省略される。
【0010】
感光ドラム6C、6M、6Y、6BKはそれぞれ等間隔に配置され、静電潜像やトナー画像を担持する像担持体である。一次帯電器2は像担持体を一様に帯電させる帯電手段の一例である。一次帯電器2は帯電電圧を利用して感光ドラム6の表面を一様に帯電させる。走査光学装置3は像担持体の表面においてレーザ光を走査することで静電潜像を形成する走査手段の一例である。走査光学装置3は、入力画像に基づいて各々変調された光束(レーザビーム)Lを感光ドラム6に向けて出射する。光束Lは感光ドラム6の表面に静電潜像を形成する。現像器4はそれぞれ現像電圧を印加されたスリーブやブレードを通じて、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの現像剤を静電潜像に付着させる。これにより静電潜像が現像され、現像剤像(トナー画像)が形成される。
【0011】
給送ローラ8は給送トレイ7に収容されているシートSを1枚ずつ給送する。分離ローラ9は、給送ローラ8により給送された複数のシートSから一枚のシートSを分離して搬送路へ送り出す。搬送ローラ16は画像の書き出しタイミングに同期をとってシートSを二次転写部に向けて送り出す。
【0012】
一次転写ローラ5は、中間転写ベルト10に対して、感光ドラム6に担持されているトナー画像を転写する。一次転写ローラ5に印加された一次転写電圧は中間転写ベルト10へのトナー画像の転写を促進する。中間転写ベルト10は中間転写体として機能している。駆動ローラ11は中間転写ベルト10を回転させるローラである。二次転写部は二次転写ローラ14を有している。二次転写部において、中間転写ベルト10と二次転写ローラ14とがシートSを挟持しながら搬送することで、中間転写ベルト10上に担持されている多色のトナー画像がシートSに転写される。二次転写電圧はシートSへのトナー画像の転写を促進する。その後、シートSは定着装置12へ搬送される。定着装置12はシートSに担持されているトナー画像に対して圧力と熱を加え、定着させる。排出ローラ13は、画像の形成されたシートSを排出する。なお、一次転写ローラ5、中間転写ベルト10および二次転写ローラ14はトナー画像をシート上に転写する転写手段の一例である。定着装置12はシート上に担持されているトナー画像を定着させる定着手段の一例である。
【0013】
定着装置12は、加圧ローラ21と定着ベルト22とを有している。定着ベルト22の内側には、トナー画像を加熱するためのセラミックヒータ23を有している。セラミックヒータ23は、定着ベルト22の回転軸を長手方向とする第一ヒータ24Aと第二ヒータ24Bとを有している。第一ヒータ24Aと第二ヒータ24Bとは平行に並んで配置されており、長手方向の発熱分布が異なっている。コントローラ15は、サーミスタ25によりセラミックヒータ23の温度を測定し、測定温度と目標温度との差分に応じてセラミックヒータ23に供給すべき電力量を制御する。なお、第一ヒータ24Aと第二ヒータ24Bのように発熱分布の異なる複数のヒータを用いることで、セラミックヒータ23の温度ムラが低減される。
【0014】
<位相制御の考え方>
図2(A)は交流波形に対する位相制御を説明するための図である。横軸は時間tを表している。上側のグラフの縦軸は電圧Vを表している。下側のグラフの縦軸は通電の状態(オン/オフ)を表している。位相制御とは、交流波形の1半波内の任意の位相角でヒータをオンし、ゼロクロスポイントT0でヒータをオフすることでヒータに供給される電力を制御することをいう。ゼロクロスポイントとは、交流波形の振幅(電圧)が0[V]になるポイントである。ゼロクロスポイントに対応する位相角は、たとえば、0度(360度)と180度である。ここでは、四つの半波W1、W2、W3、W4を一組として位相制御が実行される。つまり、一つの制御周期は交流波形の二周期に相当する。コントローラ15は、シートSの用紙情報(例:坪量)に応じて目標温度を決定し、目標温度と測定温度との差が小さくなるように、セラミックヒータ23に供給される電力量を制御周期ごとに決定する。用紙情報は、定着温度を決定するために使用される情報であり、たとえば、シートPのサイズ、コーティングの有無、坪量、片面/両面印刷を指定する情報である。ヒータに対する制御パラメータとして、ここでは、電力量に相関したパラメータである通電率という概念が導入される。通電率とは、一つの制御周期において供給可能な最大の電力量に対する実際に供給される電力量の比率である。通電率は、説明の便宜上、百分率により表現されてもよい。コントローラ15は目標温度と測定温度との差が小さくなるように通電率を決定し、決定した通電率が達成されるように四つの半波W1、W2、W3、W4のそれぞれにおける開始位相角θ1、θ2、θ3、θ4を決定する。
図2(A)によれば、半波W1(第一半波)においては開始位相角θ1において通電が開始され、次のゼロクロスポイントT0において通電が終了する。半波W2(第二半波)においては開始位相角θ2において通電が開始され、次のゼロクロスポイントT0において通電が終了する。半波W3(第三半波)においては開始位相角θ3において通電が開始され、次のゼロクロスポイントT0において通電が終了する。半波W4(第四半波)においては開始位相角θ4において通電が開始され、次のゼロクロスポイントT0において通電が終了する。つまり、
図2(A)などにおいて、ハッチングされている部分が通電領域を意味する。ところで、電力の供給と停止とを切り替える素子としてトライアックが使用されることがある。トライアックは一度ONになると、入力電圧が0VになるまでOFFに切り替わらない。そのため、ゼロクロスポイントT0でトライアックは通電を終了する。
【0015】
たとえば、開始位相角θを180[度]に設定した場合、その半波Wにおける通電率は0[%]になる。開始位相角θを0[度]に設定した場合、その半波Wにおける通電率は100[%]になる。開始位相角θを90[度]に設定した場合、その半波Wにおける通電率は50[%]になる。なお、一つの制御周期が四つの半波により構成されている場合、一つ制御周期における通電率は四つの半波それぞれの通電率の平均値となる。
【0016】
たとえば、通電率が30[%]になるように、第一半波W1の開始位相角θ1と第二半波W2の開始位相角θ2とが設定されたと仮定する。通電率が70[%]になるように、第三半波W3の開始位相角θ3と第四半波W4の開始位相角θ4とが設定されたと仮定する。この場合、一つの制御周期における通電率は50[%]である。
【0017】
<高調波電流>
高調波電流とは、セラミックヒータ23に対する位相制御を実行することで発生するノイズ電流である。位相制御では、以下に示す3つの要因により高調波電流が生じる。
・第一要因:位相角90[度]または270[度]付近で通電が開始されると、通電前後での電流変化が最大となり、高調波電流が生じる。
・第二要因:同じ位相角で複数のヒータの通電が開始されると、定着装置全体での電流変化が大きくなり、高調波電流が生じる。
・第三要因:複数の制御周期にわたり同じ位相角で通電を継続すると、その位相角に応じた高調波電流スペクトルのレベルが高くなる。具体的には、高電力ヒータを位相制御によって、低電力(例:通電率=50[%]など)を周期的に供給すると、高調波電流の平均値が高くなる。
【0018】
第一要因に関する高調波電流は、位相角90[度]付近と270[度]付近とを開始位相角の禁止区間に設定することで、低減される。また、第二要因に関する高調波電流は、複数のヒータがそれぞれ異なるタイミングで通電されるように開始位相角を異ならせることで、低減される。第三要因に関する高調波電流は、複数の制御周期にわたって同じ開始位相角の組み合わせが連続しないように開始位相角を決定することで、低減される。
【0019】
図2(B)は交流の振幅が最大となる位相角の近辺には禁止区間Xを設定することを示している。コントローラ15は、交流の振幅が最大となる位相角の近辺には禁止区間Xを設定する。この例では、90度、270度、450度、630度のそれぞれを含むように一定幅の禁止区間Xが設定されている。とりわけ、禁止区間Xの終端に一致するように、半波W1ないしW4の開始位相角θが設定されている。これにより、第一要因に関する高調波電流が低減される。
【0020】
図2(C)は第一要因に関連した高調波電流の低減方法を示している。コントローラ15は、通電率に応じて決定された開始位相角θが禁止区間Xの外側に位置するように、シフト量Dだけ開始位相角θを補正する。半波W1、W2について+Dだけ補正が実行されている。半波W3、W4について-Dだけ補正が実行されている。半波W1、W2と半波W3、W4とでシフト量の符号が異なっているのでは、一つの制御周期における平均通電率をできる限り維持するためである。
【0021】
図3(A)は第一ヒータ24Aについての第二要因に関連した高調波電流の低減方法を示している。
図3(B)は第二ヒータ24Bについての第二要因に関連した高調波電流の低減方法を示している。コントローラ15は、通電率に基づき第一ヒータ24Aの開始位相角θaと、第二ヒータ24Bの開始位相角θbとを決定する。さらに、コントローラ15は第一ヒータ24Aと第二ヒータ24Bとにそれぞれ禁止期間Xを設定する。なお、第一要因も考慮して、コントローラ15は通電率に対応する開始位相角が、禁止区間Xの外側に位置するよう、開始位相角を決定する。たとえば、コントローラ15は通電率と禁止区間Xに基づきシフト量Da、Dbを決定してもよい。半波W1、W2について第一ヒータ24Aの補正後の開始位相角θa’はθa+Daであり、第二ヒータ24Bの補正後の開始位相角はθb-Dbである。半波W3、W4について第一ヒータ24Aの補正後の開始位相角θa’はθa-Daであり、第二ヒータ24Bの補正後の開始位相角はθb+Dbである。このように、開始位相角θa’と開始位相角θb’との間の距離が十分に確保されるため、第二要因に関連した高調波電流が低減される。開始位相角θa’と開始位相角θb’との間の距離が十分に確保される手法であれば他の手法であっても採用可能である。
【0022】
第三要因による高調波電流の低減方法を説明するために、
図4(A)ないし
図4(C)が参照される。
図4(A)は第一制御周期を示し、
図4(B)は第二制御周期を示し、
図4(C)は第三制御周期を示している。第一制御周期は交流の第一周期と第二周期とからなる。第二制御周期は交流の第三周期と第四周期とからなる。第三制御周期は交流の第五周期と第六周期とからなる。ここでは、それぞれ通電率が50%(開始位相角90°に相当)の複数の制御周期が連続することが示されている。第一制御周期では、第一半波W1の通電率と第二半波W2の通電率とはそれぞれ30%(開始位相角θ1-1)であり、第三半波W3の通電率と第四半波W4の通電率とはそれぞれ70%(開始位相角θ1-2)である。第二制御周期でも、第一半波W1の通電率と第二半波W2の通電率とはそれぞれ25%(開始位相角θ2-1)であり、第三半波W3の通電率と第四半波W4の通電率とはそれぞれ75%(開始位相角θ2-2)である。第三制御周期でも、第一半波W1の通電率と第二半波W2の通電率とはそれぞれ20%(開始位相角θ3-1)であり、第三半波W3の通電率と第四半波W4の通電率とはそれぞれ80%(開始位相角θ3-2)である。このように、第一半波と第二半波とに適用される開始位相角と、第三半波と第四半波とに適用される開始位相角との組み合わせが制御周期ごとに変更されることで、第三要因による高調波電流が低減される。この例では制御周期が変わるごとに、制御周期の前半に適用される通電率が徐々に減少し、制御周期の
後半に適用される通電率が徐々に増加している。なお、通電率の最小値が5%に仮定され、通電率の最大値が95%に仮定される。この例では、ある制御周期の前半に適用される通電率が5%に達し、この制御周期の後半に適用される通電率が95%に達すると、次の制御周期の前半の通電率が増加され、次の制御周期の後半の通電率が減少される。最終的に、前半の通電率が95%になり、後半の通電率が5%になると、前半の通電率が増加から減少に転じ、後半の通電率が減少から増加に転じる。ここでは制御周期ごとの通電率の変化率が5%に設定されているがこれは一例にすぎない。この変化率は、たとえば、1%であってもよい。
【0023】
一つの制御周期あたりの通電率が40%であれば、前半の通電率と後半の通電率との組み合わせは、たとえば、20%と60%や、15%と65%、10%と70%といったように、変化する。ちなみに、一つの半波(0°から180°までの範囲)に対して禁止領域が70°から110°までの範囲に設定された場合、通電率は約38~62%になる。
【0024】
このように、複数の制御周期にわたって同一の通電率が決定される場合に、コントローラ15は通電率に対応する開始位相角が、禁止区間Xの外側に位置し、かつ、制御周期ごとに開始位相角の組み合わせが異なるよう、開始位相角を決定する。さらに、コントローラ15は禁止区間Xを制御周期ごとに変更することで、第三要因に関連した高調波電流を低減してもよい。たとえば、第一の制御周期についての禁止区間X1と第二の制御周期についての禁止区間X2とは異なる。同様に、第二の制御周期についての禁止区間X2と第三の制御周期についての禁止区間X3とは異なる。なお、第一ヒータ24Aについての禁止区間Xと第二ヒータ24Bについての禁止区間Xとは一致していてもよいし、異なってもよい。
【0025】
<コントローラ>
図5はコントローラ15の機能を説明する図である。CPU30は記憶部31のROM領域に記憶されているプログラムを実行することで様々な機能を実現する。なお、これらの機能の一部またはすべてはASICやFPGAなどのハードウエアによって実現されてもよい。ASICは特定用途集積回路の略称である。FPGAはフィールドプログラマブルゲートアレイの略称である。ホスト装置28は、画像形成装置1に用紙情報を送信するコンピュータやイメージスキャナ、デジタルカメラなどである。目標決定部32は、用紙情報に基づき定着装置12の目標温度Ttを決定する。たとえば、目標決定部32は、坪量の大きなシートSについては目標温度Ttを相対的に高く決定し、坪量の小さなシートSについては目標温度Ttを相対的に低く決定する。差分部33は、目標温度Ttと、サーミスタ25により取得された測定温度Tmとの差分dTを求める。通電率決定部34は、差分dTに対応する通電率Pを決定する。たとえば、通電率決定部34は、第一ヒータ24Aの通電率Paと、第二ヒータ24Bの通電率Pbとを決定する。通電率Pa、Pbを決定するためのテーブルや関数(数式)は予め用意されて、記憶部31に記憶されていてもよい。第一位相制御部35は、通電率Paに基づき第一ヒータ24Aの開始位相角θaを決定し、通電率Pbに基づき第二ヒータ24Bの開始位相角θbを決定する。通電率Paから開始位相角θaを決定するためのテーブルや関数(数式)は予め用意されて、記憶部31に記憶されていてもよい。同様に、通電率Pbから開始位相角θbを決定するためのテーブルや関数(数式)は予め用意されて、記憶部31に記憶されていてもよい。さらに、第一位相制御部35は、第一ヒータ24Aのシフト量Daと、第二ヒータ24Bのシフト量Dbを決定する。禁止区間変更部37は、制御周期ごとに禁止区間Xvを変更し、第二位相制御部36に出力する。第二位相制御部36は、開始位相角θa、θbおよび禁止区間Xvに基づき補正された開始位相角θa’、θb’を決定する。つまり、開始位相角θa’、θb’が禁止区間Xvの外側に位置するようにシフト量Da、Dbが決定される。また、開始位相角θa’とθb’が一致しなければ、さらに高調波電流の低減効果が高まる。第二位相制御部36は、開始位相角θa’に駆動回路26Aをオンにして第一ヒータ24Aに交流を供給し、ゼロクロスポイントT0において駆動回路26Aをオフにする。第二位相制御部36は、開始位相角θb’に駆動回路26Bをオンにして第二ヒータ24Bに交流を供給し、ゼロクロスポイントT0において駆動回路26Bをオフにする。検知回路38は交流のゼロクロスポイントT0を検知し、ゼロクロスポイントT0をCPU30に通知する。CPU30は、検知回路38により検知されたゼロクロスポイントT0に基づき交流の位相角を認識する。また、CPU30は、隣り合った二つのゼロクロスポイントT0の時間を計測することで、交流の半周期の長さを求めてもよい。
【0026】
<フローチャート>
図6はメインの位相制御を示すフローチャートである。
・S101でCPU30(目標決定部32)はホスト装置28から用紙情報を受信する。
・S102でCPU30(目標決定部32)は用紙情報に対応する目標温度Ttを決定する。
・S103でCPU30はサーミスタ25から測定温度Tmを取得する。
・S104でCPU30(差分部33)は目標温度Ttと測定温度Tmとの差分dTを求める。
・S105でCPU30(通電率決定部34)は差分dTが小さくなるように通電率Pa、Pbを決定する。
・S106でCPU30(第一位相制御部35)は通電率Pa、Pbに基づき第一位相制御を実行し、開始位相角θa、θb、シフト量Da、Dbを決定する。第一位相制御部35は通電率Paに基づき第一位相制御を実行し、開始位相角θaとシフト量Daを決定する。第一位相制御部35は通電率Pbに基づき第一位相制御を実行し、開始位相角θbとシフト量Dbを決定する。なお、第一位相制御部35はシフト量Daのとりうる最小値Daminと最大値Damaxとを決定してもよい。第一位相制御部35はシフト量Dbのとりうる最小値Dbminと最大値Dbmaxとを決定してもよい。つまり、第一位相制御部35はシフト量Daとして、最小値Damin以上で、かつ、最大値Damax以下となる任意のシフト量を選択してもよいし、最小値Daminと最大値Damaxとの両方を出力してもよい。ここでは、第一位相制御部35は最小値Daminと最大値Damaxとを第二位相制御部36に出力し、第二位相制御部36が最終的なシフト量Daを決定するものと仮定する。同様に、第一位相制御部35はシフト量Dbとして、最小値Dbmin以上で、かつ、最大値Dbmax以下となる任意のシフト量を選択してもよいし、最小値Dbminと最大値Dbmaxとの両方を出力してもよい。ここでは、第一位相制御部35は最小値Dbminと最大値Dbmaxとを第二位相制御部36に出力し、第二位相制御部36が最終的なシフト量Dbを決定するものと仮定する。
・S107でCPU30(禁止区間変更部37、第二位相制御部36)は、制御周期ごとに禁止区間Xvを変更するともに、禁止区間Xv、開始位相角θa、θb、シフト量Da、Dbに基づき補正された開始位相角θa’、θb’を決定する。
・S108でCPU30(第二位相制御部36)は、補正された開始位相角θa’に基づき駆動回路26Aを駆動するとともに、補正された開始位相角θb’に基づき駆動回路26Bを駆動する。
・S109でCPU30はプリントが終了したかどうかを判定する。プリントが終了していなければ、CPU30は、処理をS103に進め、S103からS109を繰り返し実行する。
【0027】
●第一位相制御
図7はS106における第一位相制御の詳細を示すフローチャートである。
・S201でCPU30(第一位相制御部35)は一つの半波内で通電率Paを満たすような開始位相角θaを決定し、一つの半波内で通電率Pbを満たすような開始位相角θbを決定する。
・S202でCPU30(第一位相制御部35)はシフト量Daの取りうる範囲であるシフト範囲(Damin~Damax)と、シフト量Dbのシフト範囲(Dbmin~Dbmax)を決定する。たとえば、
図3(A)が示すように、Daminは-Daであり、Damaxは+Daであってもよい。
図3(B)が示すように、Dbminは-Dbであり、Dbmaxは+Dbであってもよい。
【0028】
●第二位相制御
本実施形態では、高調波電流を低減するために二つの制約が採用されてもよい。一つ目の制約は、開始位相角θをシフト量Dで補正することで得られる開始位相角θ’と、開始位相角θとが同一の半波内に存在することである。二つ目の制約は、開始位相角θ’が禁止区間Xに含まれないことである。これら二つの制約が満たされるように、CPU30は、シフト範囲(Damin~Damax)を決定する。
たとえば、Dmaxは次のように決定されてもよい。
0≦P≦x/2・・・・・・・・・・・Dmax=p
x/2≦P≦(1-x)/2・・・・・Dmax=-p+X
(1-x)/2≦P≦0.5・・・・・Dmax=p
0.5≦P≦(1+x)/2・・・・・Dmax=-p+1
(1+X)/2≦P≦1-x/2・・・Dmax=p-(1-X)
1-x/2≦P≦1・・・・・・・・・Dmax=-p+1
たとえば、Dminは次のように決定されてもよい。
P<0.5・・・・・・・・・・・・・Dmin=-p + (1-X)
0.5≦P・・・・・・・・・・・・・Dmin=p-X
ここでpは通電率Pに対応する位相角(p=P×180度)である。xは禁止区間Xに対応する通電率(x=X/180)である。
【0029】
CPU30は、複数のヒータの開始位相角θに基づいて、シフト範囲(Damin~Damax)から最終的なシフト量Dを決定する。同一の半波内における第一ヒータ24Aの開始位相角θa’と第二ヒータ24Bの開始位相角θb’とが十分に離れるように、コントローラ15はシフト量Da、Dbを決定する。たとえば、
図3(A)および
図3(B)が示すように、同一の半波内におけるシフト量Daの符号と、シフト量Dbの符号とが反対にされてもよい。
【0030】
図8はS107における第二位相制御の詳細を示すフローチャートである。開始位相角は、禁止区間Xvの外側に位置し、かつ、制御周期ごとに異なっていればよい。たとえば、禁止期間Xvは固定され、開始位相角のシフト量が制御周期ごとに変更されてもよい。他の手法としては、制御周期ごとに禁止区間Xvを変更する手法が考えられる。ただし、禁止区間Xvの外側に位置し、かつ、制御周期ごとに異なるように開始位相角の組み合わせが決定されれば十分であるため、さらに他の決定手法が採用されてもよい。
【0031】
S301でCPU30(禁止区間変更部37)は制御周期ごとに禁止区間Xvを変更する。これにより、高調波電流が従来技術よりも低減される。たとえば、禁止区間変更部37は、予め定められた禁止区間の可変範囲の中で禁止区間Xvを変更する。記憶部31は、複数の禁止区間Xvを記憶していてもよい。この場合、禁止区間変更部37は、複数の禁止区間Xvからランダムに一つに禁止区間Xvを選択してもよい。あるいは、複数の禁止区間Xvにはそれぞれ順番が付与されていてもよい。この場合、禁止区間変更部37は、順番にしたがって複数の禁止区間Xvから一つの禁止区間Xvを選択してもよい。禁止区間Xvは、半波Wの中心位相角(90度+n×180度)が中心となるように決定されてもよい。あるいは、禁止区間Xvの中心は、半波Wの中心位相角からずれていてもよい。ただし、この場合であっても禁止区間Xvには半波Wの中心位相角が含まれるものとする。
【0032】
S302でCPU30(第二位相制御部36)はDamaxとDbmaxが第一要件満たすかどうかを判定する。
図3(A)が示すように、第二位相制御部36はDamaxを用いてθa’を求める(半波W1,W2:θa’=θa+Damax;半波W3,W4:θa’=θa-Damax)。
図3(B)が示すように、第二位相制御部36はDbmaxを用いてθb’を求める(半波W1,W2:θb’=θb-Dbmax;半波W3,W4:θb’=θb+Dbmax)。ここで、第一要件とは、4半波全てにおいて距離|θa’-θb’|が、距離|θa-θb|を超えていることである。つまり、開始位相角のシフト(補正)によって第一ヒータ24Aの開始位相角と第二ヒータ24Bの開始位相角との間の距離が増加すれば、高調波電流が削減される。第一要件が満たされていれば、CPU30は処理をS320に進める。S320でCPU30(第二位相制御部36)はシフト量DaとしてDamaxを選択し、シフト量DbとしてDbmaxを選択し、処理をS306に進める。一方、第一要件が満たされていれば、CPU30は処理をS303に進める。
【0033】
S303でCPU30(第二位相制御部36)は開始位相角θaが禁止区間Xvの内側にあるかどうかを判定する。開始位相角θaが禁止区間Xvの内側にあるとは、開始位相角θaが禁止区間Xvに含まれることをいう。開始位相角θaが禁止区間Xvの内側にある場合、CPU30は処理をS330に進める。S330でCPU30(第二位相制御部36)はDamaxとDbmaxが第二要件満たすかどうかを判定する。
図3(A)が示すように、第二位相制御部36はDamaxを用いてθa’を求める(半波W1,W2:θa’=θa+Damax;半波W3,W4:θa’=θa-Damax)。
図3(B)が示すように、第二位相制御部36はDbmaxを用いてθb’を求める(半波W1,W2:θb’=θb-Dbmax;半波W3,W4:θb’=θb+Dbmax)。ここで、第二要件とは、4半波全てにおいて開始位相角θa’と開始位相角θb’との間の距離が閾値θthを超えることである。第二要件が満たされていれば、CPU30は処理をS320に進める。つまり、シフト量DaとしてDamaxが選択され、シフト量DbとしてDbmaxが選択される。第二要件が満たされていなければ、CPU30は処理をS331に進める。S331でCPU30(第二位相制御部36)はシフト量DaとしてDaminを選択し、シフト量DbとしてDbmaxを選択し、処理をS306に進める。一方、開始位相角θaが禁止区間Xvの内側にない場合、CPU30は処理をS304に進める。
【0034】
S304でCPU30(第二位相制御部36)は開始位相角θbが禁止区間Xvの内側にあるかどうかを判定する。開始位相角θbが禁止区間Xvの内側にあるとは、開始位相角θbが禁止区間Xvに含まれることをいう。開始位相角θbが禁止区間Xvの内側にある場合、CPU30は処理をS310に進める。S310でCPU30(第二位相制御部36)はDamaxとDbmaxが第二要件満たすかどうかを判定する。この判定処理はS330と同様である。第二要件が満たされていれば、CPU30は処理をS320に進める。つまり、シフト量DaとしてDamaxが選択され、シフト量DbとしてDbmaxが選択される。第二要件が満たされていなければ、CPU30は処理をS311に進める。S311でCPU30(第二位相制御部36)はシフト量DaとしてDamaxを選択し、シフト量DbとしてDbminを選択し、処理をS306に進める。一方、開始位相角θbが禁止区間Xvの内側にない場合、CPU30は処理をS305に進める。
【0035】
S305でCPU30(第二位相制御部36)はシフト量Daとして0度を選択し、シフト量Dbとして0度を選択し、処理をS306に進める。これは、開始位相角が実質的に補正(シフト)されないことを意味する。
【0036】
S306でCPU30(第二位相制御部36)は、S305、S311、S320またはS331で選択されたシフト量Daを用いて開始位相角θa’を決定する。さらに、CPU30(第二位相制御部36)は、S305、S311、S320またはS331で選択されたシフト量Dbを用いて開始位相角θb’を決定する。
【0037】
このようにコントローラ15は、禁止区間Xvを制御周期ごとに変更しながら開始位相角θa’、θb’を決定する。これにより、高調波電流が低減される。
【0038】
<まとめ>
図1に示したように、セラミックヒータ23は加熱手段の一例である。定着装置12は当該加熱手段により熱を加えることでトナー画像をシートSに定着させる定着手段の一例である。サーミスタ25は加熱手段の測定温度を取得する取得手段の一例である。コントローラ15は加熱手段への交流の通電を制御する制御手段の一例である。S105が示すように、コントローラ15は加熱手段の目標温度と測定温度との差分に基づき交流における複数の半周期からなる制御周期ごとの通電率を決定する。S106やS201が示すように、コントローラ15は通電率に対応する通電開始の基準となる開始位相角を決定する。複数の制御周期にわたって同一の通電率が決定されることがある。たとえば、コントローラ15は、通電率に対応する通電開始の基準となる開始位相角が、禁止区間の外側に位置し、かつ、制御周期ごとに開始位相角の組み合わせが異なるように決定する。
図4(A)ないし
図4(C)が示すように、開始位相角の組み合わせとは、制御周期の前半(第一半波と第二半波)に適用される開始位相角と、制御周期の後半(第三半波と第四半波)に適用される開始位相角との組み合わせである。S108が示すように、コントローラ15は制御周期を構成する複数の半周期のそれぞれについて、開始位相角に加熱手段に通電を開始する。さらに、コントローラ15は交流のゼロクロスポイントが到来すると加熱手段への通電を停止するように構成されている。なお、コントローラ15は交流のゼロクロスポイントを検知する検知回路を有していてもよい。幅の広い固定の禁止区間を設けることでも高調波電流は低減されるが、温度追従性が低下する。幅の狭い固定の禁止区間を設けると温度追従性が向上するが、高調波電流の低減効果が小さくなる。これに対して、本実施形態のコントローラ15は制御周期ごとに開始位相角の組み合わせを変更するため、温度追従性と高調波電流の低減とを両立することが可能となる。
【0039】
たとえば、S301が示すように、コントローラ15は制御周期ごとに可変され、当該制御周期を構成する交流における複数の半周期のそれぞれに適用される禁止区間を決定する。S305、S311、S320、およびS311が示すように、所定のシフト量で補正された開始位相角が禁止区間の外側に位置するよう所定のシフト量を決定する。S306が示すように、コントローラ15は制御周期を構成する複数の半周期のそれぞれについて所定のシフト量で開始位相角を補正する。S108が示すように、コントローラ15は制御周期を構成する複数の半周期のそれぞれについて、所定のシフト量で補正された開始位相角に加熱手段に通電を開始する。このように、本実施形態のコントローラ15は禁止区間Xvを制御周期ごとに変更することで、温度追従性と高調波電流の低減とを両立してもよい。
【0040】
禁止区間を可変とする手法はいくつか考えられる。たとえば、コントローラ15は、予め定められた範囲内で、制御周期ごとに禁止区間を変更してもよい。また、記憶部31が、複数の禁止区間を記憶した記憶手段として使用されてもよい。この場合、コントローラ15は、制御周期ごとに記憶手段に記憶されている複数の禁止区間から一つの禁止区間を選択する。これにより、制御周期ごとに禁止区間が変更されてもよい。この場合、コントローラ15は、複数の禁止区間から一つの禁止区間を所定の選択ルールにしたがって選択してもよい。選択ルールとしては、たとえば、複数の禁止区間から一つの禁止区間をランダムに選択するルールが採用されてもよい。また、基本となる禁止区間に対して三角波を加算または減算することで、禁止期間が可変されてもよい。
【0041】
加熱手段は、第一ヒータ24Aと第二ヒータ24Bとを有してもよい。コントローラ15は第一ヒータ24Aのための通電率である第一通電率(例:Pa)と、第二ヒータ24Bのための通電率である第二通電率(例:Pb)とを決定する。コントローラ15は第一通電率に対応する開始位相角である第一位相角(例:θa)と、第二通電率に対応する開始位相角である第二位相角(例:θb)とを決定する。コントローラ15は、第一ヒータのためのシフト量である第一シフト量(例:Da)と第二ヒータのためのシフト量である第二シフト量(例:Db)とを決定する。コントローラ15は第一位相角を第一シフト量で補正するともに、第二位相角を第二シフト量で補正する。コントローラ15は、制御周期を構成する複数の半周期のそれぞれについて、第一シフト量で補正された第一位相角に第一ヒータに通電を開始し、交流のゼロクロスポイントが到来すると第一ヒータへの通電を停止する。コントローラ15は、第二シフト量で補正された第二位相角に第二ヒータに通電を開始し、交流のゼロクロスポイントが到来すると第二ヒータへの通電を停止する。
【0042】
コントローラ15は第一位相角θaと第二位相角θbとの距離|θa-θb|と、第一シフト量Daで補正された第一位相角θa-Daと第二シフト量Dbで補正された第二位相角θb-Dbとの距離|θa’-θb’|を求める。コントローラ15は、距離|θa-θb|よりも距離|θa’-θb’|が大きくなるように、第一シフト量Daと第二シフト量Dbを決定してもよい。これにより、第一ヒータ24Aと第二ヒータ24Bとの合計での高調波電流のピークが低減される。
【0043】
距離|θa-θb|よりも距離|θa’-θb’|が大きくなるような、第一シフト量と第二シフト量とが存在しない場合もある。この場合、コントローラ15は第一シフト量で補正された第一位相角と第二シフト量で補正された第二位相角との距離が予め定められた閾値よりも大きくなるように、第一シフト量と第二シフト量を決定してもよい。
【0044】
コントローラ15は第一最小シフト量(例:Damin)と第一最大シフト量(例:Damax)とのうちから第一シフト量を選択してもよい。コントローラ15は第二最小シフト量(D例:bmin)と第二最大シフト量(例:Dbmax)とのうちから第二シフト量Dbを選択してもよい。
【0045】
コントローラ15は第一要件が満たされているかどうかを判定してもよい。第一要件とは、第一位相角と第二位相角との距離よりも、第一最大シフト量で補正された第一位相角(θa-Damax)と第二最大シフト量で補正された第二位相角(θb-Dbmax)との距離が大きいという要件である。第一要件が満たされている場合、コントローラ15は第一シフト量として第一最大シフト量を選択し、第二シフト量として第二最大シフト量を選択してもよい。
【0046】
第一要件が満たされていない場合、コントローラ15は第一位相角が禁止区間の内側であるかどうかを判定してもよい。第一位相角が禁止区間の内側である場合、コントローラ15は第二要件が満たされているかどうかを判定してもよい。第二要件とは、第一最大シフト量で補正された第一位相角と第二最大シフト量で補正された第二位相角との距離が予め定められた閾値よりも大きいことである。第二要件が満たされている場合、コントローラ15は第一シフト量として第一最大シフト量を選択し、第二シフト量として第二最大シフト量を選択してもよい。
【0047】
第二要件が満たされていない場合、コントローラ15は、第一シフト量として第一最小シフト量を選択し、第二シフト量として第二最大シフト量を選択してもよい。
【0048】
第一位相角が禁止区間の内側でない場合、コントローラ15は、第二位相角が禁止区間の内側であるかどうかを判定してもよい。コントローラ15は、第二位相角が禁止区間の内側である場合、第一シフト量として0を選択し、第二シフト量として0を選択してもよい。
【0049】
コントローラ15は、第二位相角が禁止区間の内側でない場合に、第二要件が満たされているかどうかを判定してもよい。第二要件が満たされている場合、コントローラ15は第一シフト量として第一最大シフト量を選択し、第二シフト量として第二最大シフト量を選択してもよい。
【0050】
第二位相角が禁止区間の内側でなく、かつ、第二要件も満たされていない場合、コントローラ15は第一シフト量として第一最大シフト量を選択し、第二シフト量として第二最小シフト量を選択してもよい。
【0051】
特許請求の範囲において何からの要素に参照符号が付与されている場合、参照符号は明細書および図面における要素の一例を示しているにすぎない。よって、参照符号は限定解釈の根拠として用いられてはならない。
【符号の説明】
【0052】
1…画像形成装置、12…定着装置、24A、24B…ヒータ、15…コントローラ