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  • 特許-蛍光体粉末、波長変換体および発光装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】蛍光体粉末、波長変換体および発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/80 20060101AFI20240626BHJP
   C09K 11/79 20060101ALI20240626BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240626BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C09K11/80
C09K11/79
H01L33/50
G02B5/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023503778
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2022007868
(87)【国際公開番号】W WO2022186069
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2021032318
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】坂野 広樹
(72)【発明者】
【氏名】豊島 広朗
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102766454(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101831295(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0163896(US,A1)
【文献】国際公開第2020/015412(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
G02B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下一般式(I)で表される蛍光体を含む蛍光体粉末。
(Eu(1-x)(1-z)M1M2(1-x)z(Si1-yAl ・・・(I)
一般式(I)中、
M1は少なくともLaを含み、さらに、YおよびLa以外のランタノイド元素からなる群より選ばれる1または2以上の元素が含まれていてもよく、
M2は少なくともBaを含み、さらに、Mg、CaおよびSrからなる群より選ばれる1または2以上の元素が含まれていてもよく、
xは0.005以上0.2以下であり、
yは0より大きく0.1以下であり、
zは0.44より大きく0.99以下である。
【請求項2】
以下一般式(I)で表される蛍光体を含む蛍光体粉末。
(Eu(1-x)(1-z)M1M2(1-x)z(Si1-yAl ・・・(I)
一般式(I)中、
M1がLaであり、
M2は少なくともBaを含み、さらに、Mg、CaおよびSrからなる群より選ばれる1または2以上の元素が含まれていてもよく、
xは0.005以上0.2以下であり、
yは0以上0.1以下であり、
zは0.44より大きく0.99以下である。
【請求項3】
請求項に記載の蛍光体粉末であって、
前記一般式(I)において、yが、0より大きく0.1以下である、蛍光体粉末。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の蛍光体粉末であって、
前記蛍光体の結晶構造において、単位格子の体積が0.368nm以上0.378nm未満である、蛍光体粉末。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の蛍光体粉末であって、
前記蛍光体粉末に室温で波長452nmのレーザ光を当てたときの発光スペクトルのピーク強度をIとし、
前記蛍光体粉末を200℃で1時間加熱した後に室温まで冷却した蛍光体粉末に波長452nmのレーザ光を当てたときの発光スペクトルのピーク強度をIとしたとき、
/Iの値が0.4以上である、蛍光体粉末。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の蛍光体粉末であって、
前記蛍光体粉末に、波長450nmの光を当てたときの発光スペクトルのピーク波長が、800nm以上である、蛍光体粉末。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の蛍光体粉末を含む、波長変換体。
【請求項8】
請求項に記載の波長変換体を備える、発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粉末、波長変換体および発光装置に関する。より具体的には、赤外光を発することができる蛍光体粉末、その蛍光体粉末を含む波長変換体、および、その波長変換体を備える発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、発光装置に用いられる蛍光体としては、白色LEDに用いられる蛍光体のように、青色光を、赤色光などの、青色光より長波長の「可視光」に変換可能な蛍光体が種々開発されてきている。一方、産業用途では、青色光を、波長700nm超の赤外光(近赤外光)に変換可能な蛍光体のニーズもある。
【0003】
特許文献1の請求項13には、以下の式(I)で示される組成を有する近赤外蛍光体が記載されている。
LiSrLaSiEu・・・(I)
(a~fは、a+b+c+d+e+f=100、0≦a≦8.22、0.22≦b≦17.33、1.12≦c≦11.36、22.41≦d≦38.09、49.47≦e≦56.09、0.88≦f≦1.01、を満たす数である。)
【0004】
特許文献2には、Eu元素と、Al、Y、LaおよびGdからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Si元素と、N元素とを少なくとも含み、紫外光または可視光を照射すると760nm以上の波長の光を発する蛍光体が記載されている。具体的には、この文献の実施例35には、構成元素としてEu、Ba、La、SiおよびNを含む蛍光体が記載されている。
【0005】
非特許文献1においては、Sr2-xSi:Euで示される組成を有する蛍光体が、熱により劣化する原因について考察されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019/240150号
【文献】国際公開第2020/203234号
【非特許文献】
【0007】
【文献】J.Am.Chem.Soc.2012,134,14108-14117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発光装置の長寿命化や信頼性向上の観点で、蛍光体が熱により劣化しにくいことは重要である。
【0009】
本発明者は、今回、熱により劣化しにくい蛍光体粉末を得ること、具体的には、熱により劣化しにくく、青色光を赤外光(近赤外光)に変換可能な蛍光体粉末を得ることを目的として、様々な検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、検討を通じ、以下に提供される発明を完成させた。
【0011】
本発明によれば、以下の蛍光体粉末が提供される。
【0012】
以下一般式(I)で表される蛍光体を含む蛍光体粉末。
(Eu(1-x)(1-z)M1M2(1-x)z(Si1-yAl ・・・(I)
一般式(I)中、
M1は少なくともLaを含み、さらに、YおよびLa以外のランタノイド元素からなる群より選ばれる1または2以上の元素が含まれていてもよく、
M2は少なくともBaを含み、さらに、Mg、CaおよびSrからなる群より選ばれる1または2以上の元素が含まれていてもよく、
xは0.005以上0.2以下であり、
yは0以上0.1以下であり、
zは0.44より大きく0.99以下である。
【0013】
また、本発明によれば、
上記の蛍光体粉末を含む、波長変換体
が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、
上記の波長変換体を備える、発光装置
が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱により劣化しにくい蛍光体粉末が提供される。具体的には、本発明によれば、熱により劣化しにくく、青色光を赤外光(近赤外光)に変換可能な蛍光体粉末が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例で得られた蛍光体粉末のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図面はあくまで説明用のものである。図面により本発明は限定的に解釈されない。
【0018】
<蛍光体粉末>
本実施形態の蛍光体粉末は、以下一般式(I)で表される蛍光体を含む。
(Eu(1-x)(1-z)M1M2(1-x)z(Si1-yAl ・・・(I)
一般式(I)中、
M1は少なくともLaを含み、さらに、YおよびLa以外のランタノイド元素からなる群より選ばれる1または2以上の元素が含まれていてもよく、
M2は少なくともBaを含み、さらに、Mg、CaおよびSrからなる群より選ばれる1または2以上の元素が含まれていてもよく、
xは0.005以上0.2以下であり、
yは0以上0.1以下であり、
zは0.44より大きく0.99以下である。
【0019】
本実施形態の蛍光体粉末は、熱により劣化しにくい(熱を受けた後においても発光特性が悪化しにくい)。この理由は明らかではないが、BaとEuが共存する環境下では、Baが優先的に酸化され、発光中心であるEuが相対的に酸化されにくくなるためと推測される。Ba量が適度に多い(zが0.44より大きい)ことにより、熱劣化を十分に抑えることができる。また、Ba量が多すぎない(zが0.99以下である)ことにより、熱劣化を抑えつつ、良好な発光特性を得やすい傾向がある。
【0020】
また、理由は必ずしも明らかではないが、おそらくは熱劣化が抑えられていることと関係して、本実施形態の蛍光体粉末は、高温環境下における発光強度の低下が比較的小さい(熱消光が抑えられている)傾向がある。このことは、本実施形態の蛍光体粉末を、車載用途など、温度変化が過酷な用途に好ましく適用できることを表す。
【0021】
一般式(I)で表される蛍光体は、通常、一般式EuSiで表される蛍光体の、Euの一部がM1(少なくともLaを含む)およびM2(少なくともBaを含む)で置換された組成を有するものである。
また、一般式(I)で表される蛍光体は、好ましくは、一般式EuSiで表される蛍光体の、Siの一部がAlで置換された組成を有するものである。つまり、一般式(I)で表される蛍光体は、好ましくは、EuSiで表される蛍光体において、Euの一部がM1およびM2で置換され、かつ、Siの一部が少なくともAlで置換されたものである。
【0022】
一般式(I)におけるxは、一般式EuSiで表される蛍光体において、EuがM1に置換されている程度を表す。
一般式(I)におけるyは、SiがAlで置換されている程度を表す。
一般式(I)におけるzは、EuがM2に置換されている程度を表す。
x、yおよびzを適切に調整することにより、良好な蛍光特性を得つつ、熱劣化のしにくさを一層高められる傾向がある。
【0023】
M1は少なくともLaを含めばよいが、発光特定の一層の向上などの観点から、M1に該当する全元素のうち50原子%以上がLaであることが好ましく、70原子%以上がLaであることがより好ましく、90原子%以上がLaであることがさらに好ましく、M1の実質的にすべてがLaであることが特に好ましい。
M2は少なくともBaを含めばよいが、発光特定の一層の向上などの観点から、M2に該当する全元素のうち50原子%以上がBaであることが好ましく、70原子%以上がBaであることがより好ましく、90原子%以上がBaであることがさらに好ましく、M2の実質的にすべてがBaであることが特に好ましい。
【0024】
xは0.005以上0.2以下であればよいが、好ましくは0.01以上0.2以下、より好ましくは0.01以上0.1以下、さらに好ましくは0.02以上0.07以下である。
yは0以上0.1以下であればよいが、好ましくは0より大きく0.1以下、より好ましくは0.01以上0.06以下、さらに好ましくは0.01より大きく0.04以下である。
zは0.44より大きく0.99以下であればよいが、好ましくは0.44より大きく0.9以下、より好ましくは0.45以上0.8以下、さらに好ましくは0.5以上0.8以下である。
蛍光体の組成(x、yおよびzの値)は、ICP発光分光分析を通じて知ることができる。
【0025】
x、yおよび/またはzの値を適切に調整することで、諸性能を最適化しうる。一観点として、zの値が0.8以下であることにより、熱劣化しにくく、かつ、比較的大きな発光強度を得ることができる傾向がある。別の観点として、zの値が0.5以上であることにより、熱劣化が一層抑えられたり、熱消光が一層抑えられたりする傾向がある。
【0026】
ちなみに、一般式(I)で表される蛍光体が、一般式EuSiで表される蛍光体のSiの一部がAlで置換された組成を有すること(yが0より大きいこと)が好ましい理由の1つは、電荷中性則を成立させるためである。電荷中性則の成立の観点では、例えば以下(i)~(iii)のようにすることも考えられる。ただし、得られる蛍光体粉末の蛍光特性などの観点で、一般式(I)で表される蛍光体は、一般式EuSiで表される蛍光体のSiの一部がAlで置換された組成を有することが好ましい。
(i)Laと同モル量のAlをSiサイトに固溶させる(上述)。ちなみに、Alを選択するのは、3価の陽イオンの中では、Alの有効イオン半径がSiと近いためである。AlではなくGaを用いることも可能と考えられる。
(ii)Laと同モル量のLiをEuサイトに固溶させる。LiではなくNa、K、Rbもあり得ると考えられる。
(iii)Laの1/3のモル量のNを追加(N過剰)、または、Laの1/2のモル量のO追加もあり得ると考えられる。
【0027】
参考のため述べておくと、「一般式EuSiで表される蛍光体」は、各元素の組成比を表す数字に基づき「258蛍光体」として知られている(特開2010-270196号公報など参照)。前述のとおり、一般式(I)で表される蛍光体は、通常、一般式EuSiで表される蛍光体を母核構造とする。
【0028】
一般式EuSiで表される蛍光体の結晶系は直方晶系である。文献によれば、一般式EuSiで表される蛍光体の格子定数は、a=0.57094(4)nm、b=0.68207(4)nm、c=0.93291(6)nm、α=γ=β=90.00°である。そして、格子体積(a*b*c)は、おおよそ0.363nmである。
【0029】
X線回折法を通じて得られる格子定数または格子体積は、Ba等の置換の程度の良い指標となる(参考:ヴェガード則)。
具体的には、一般式(I)で表される蛍光体の結晶構造において、単位格子の体積(格子体積)は、好ましくは0.368nm以上0.378nm未満、より好ましくは0.368nm以上0.377nm以下である。格子体積が上記範囲である蛍光体は、Ba等の置換の程度が適度であり、良好な蛍光特性を得つつ、熱劣化のしにくさを一層高められる傾向がある。
【0030】
ちなみに、結晶格子のa軸長は、好ましくは0.574nm以上0.579nm以下、より好ましくは0.575nm以上0.578nm以下である。
また、結晶格子のb軸長は、好ましくは0.685nm以上0.695nm以下、より好ましくは0.686nm以上0.694nm以下である。
また、結晶格子のc軸長は、好ましくは0.935nm以上0.941nm以下、より好ましくは0.936nm以上0.940nm以下である。
【0031】
本実施形態の蛍光体粉末の熱劣化のしにくさは、例えば、以下のようにして測定されるIおよびIの値から、I/Iを計算することで定量化することができる。I/Iの値は、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.6以上、さらにより好ましくは0.8以上である。I/Iの値の上限は、通常、1である。
・蛍光体粉末に室温(典型的には23℃)で波長452nmのレーザ光を当てたときの発光スペクトルのピーク強度をIとする。
・200℃で1時間加熱した後に室温まで冷却した蛍光体粉末に、室温で波長452nmのレーザ光を当てたときの発光スペクトルのピーク強度をIとする。
【0032】
青色光を照射された本実施形態の蛍光体粉末は、典型的には、赤外光(近赤外光)を放出する。別の言い方として、本実施形態の蛍光体粉末は、通常、(近)赤外蛍光体である。
定量的には、本実施形態の蛍光体粉末に、波長450nmのレーザ光を当てたときの発光スペクトルのピーク波長は、典型的には800nm以上、具体的には800nm以上940nm以下、より具体的には800nm以上900nm以下ある。
【0033】
本実施形態の蛍光体粉末の粒径分布は、蛍光体粉末の用途や所望する蛍光特性などに応じて適宜調整すればよい。
本実施形態の蛍光体粉末の、レーザ回折散乱法で測定した体積基準累積50%径(メジアン径)D50は、例えば0.1~50μm、具体的には0.1~10μm、より具体的には0.5~5μmである。
本実施形態の蛍光体粉末の、レーザ回折散乱法で測定した体積基準累積90%径D90は、例えば1~150μm、具体的には1~20μm、より具体的には2~10μmである。
本実施形態の蛍光体粉末の、レーザ回折散乱法で測定した体積基準累積10%径D10は、例えば0.05~10μm、具体的には0.05~5μm、より具体的には0.05~2μmである。
【0034】
<蛍光体粉末の製造方法>
本実施形態の蛍光体粉末は、例えば、以下の(1)~(3)を含む一連の工程により製造可能である。
(1)原料混合粉の調製工程
(2)焼成工程
(3)焼成物の粉砕工程
【0035】
以下、(1)~(3)について具体的に説明する。
【0036】
(1)原料混合粉の調製工程
原料混合粉の調製工程においては、通常、適当な原料粉末を、乳鉢などを用いて十分に混合して、原料混合粉を得る。酸素や水分との反応を避ける観点から、原料粉末の取り扱いおよび混合は、窒素ガスや希ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0037】
原料粉末としては、窒化物を好ましく挙げることができる。具体的には、LaN、EuN、Ba、Siなどの粉末を挙げることができる。一般式(I)においてyが0より大きい(つまりAlを含む)蛍光体を得ようとする場合には、さらにAlNの粉末を用いることが好ましい。その他、ターゲットとする蛍光体の元素組成を考慮して原料粉末の種類および量を調整すればよい。
各原料粉末の混合比率は、ターゲットとする組成に合わせて適宜調整すればよい。
【0038】
(2)焼成工程
焼成工程では、(1)原料混合粉の調製工程で調製した原料混合粉を、適当な容器に充填して、焼成炉などを用いて加熱する。
【0039】
焼成の温度は、反応を十分に進める観点と、成分の揮発を抑える観点から、1400℃以上2000℃以下が好ましく、1500℃以上1800℃以下がより好ましい。
焼成時間は、反応を十分に進める観点と、成分の揮発を抑える観点から、2時間以上24時間以下が好ましく、2時間以上16時間以下がより好ましい。
【0040】
焼成工程は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。また、焼成雰囲気の圧力を適切に調整することが好ましい。具体的には、焼成雰囲気の圧力は、0.5MPa・G以上が好ましい。焼成温度が高温である場合、蛍光体が分解しやすい傾向があるが、焼成雰囲気の圧力が高いことで、蛍光体の分解を抑制することができる。
ちなみに、工業的生産性を考慮すると、焼成雰囲気の圧力は1MPa・G以下が好ましい。
【0041】
原料混合粉を充填する容器は、高温の不活性ガス雰囲気下において安定で、原料混合粉やその反応生成物と反応しない材質で構成されることが好ましい。容器の材質は、好ましくは窒化ホウ素である。
【0042】
(3)焼成物の粉砕工程
(2)で得られる焼成物は、通常、塊状である。よって、塊状の焼成物に機械的に力を加えて粉砕して、粉末状とすることが好ましい。
粉砕には、クラッシャー、乳鉢、ボールミル、振動ミル、ジェットミル、スタンプミル等の各種装置を用いることができる。これら装置のうち2つ以上を組み合わせて粉砕してもよい。
粉砕条件を変更することで、蛍光体粉末の粒径を調整することができる。
【0043】
本実施形態の蛍光体粉末の製造工程は、上記(1)~(3)以外の任意工程を含んでもよい。
任意工程としては、例えば、酸処理工程、分級工程などが挙げられる。蛍光体粉末を酸と接触させることで、例えば、不純物や、蛍光体の粒子表面の異相(所望の発光に寄与しない相)などを除去または低減できる場合がある。また、分級工程により蛍光体粉末中の微細すぎる蛍光体の粒子を除くことで、発光特性を向上させられる場合がある。さらに、分級工程により蛍光体粉末中の粗大な蛍光体の粒子を除くことで、より高品質な波長変換体を製造できる場合がある。
【0044】
<波長変換体および発光装置>
本実施形態の波長変換体は、上述の蛍光体粉末を含む。
波長変換体は、照射された光(励起光)を変換して、励起光とは異なる波長範囲に発光ピークを有する光を発光する。
波長変換体は、後述する発光装置の少なくとも一部を構成することができる。
波長変換体は、例えば、600nm以上900nm以下の波長範囲に発光ピークを有する光を発光することができる。
波長変換体は、上述の蛍光体粉末以外の蛍光体を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0045】
波長変換体は、上述の蛍光体粉末のみで構成されてもよく、上述の蛍光体粉末が分散した母材で構成されてもよい。母材は特に限定されず、例えば、ガラス、樹脂、無機材料などが挙げられる。
【0046】
本実施形態の発光装置は、上述の波長変換体を備える。発光装置は、センサー・検査・分析用、セキュリティ用、光通信用、医療用などの各種の用途に用いることができる。発光装置としては、例えば、LEDパッケージ、光源、分光光度計、食品分析計、ウェアラブルデバイス、赤外線カメラ、水分測定装置、ガス検出装置等が挙げられる。
【0047】
例えば、発光装置は、発光素子と、発光素子から照射された光を波長変換する波長変換体と、を備える。波長変換体の形状は特に限定されない。一例として、波長変換体は、プレート状に構成される。別の例として、波長変換体は、発光素子の一部または発光面全体を封止するように構成される。
発光素子としては、通常、青色発光ダイオードが選択される。
【0048】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0049】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0050】
<原料>
以下の原料を準備した。
LaN:高純度化学社製
EuN:太平洋セメント社製
Ba:マテリオン社製、♯325 mesh
Si:宇部興産社製、E10グレード
AlN:トクヤマ社製、Eグレード
【0051】
<蛍光体粉末の製造>
以下手順で行った。
(1)原料の混合
各原料を、表1の「秤量値」に示す質量で秤量し、乳鉢を用いて十分に混合して混合物を得た。これら秤量と混合は窒素ガス雰囲気下で行った。
表1には、参考のため、各元素の設計組成と、一般式(I)におけるx、yおよびzの値(原料の全てが適切に反応した場合を仮定)についても記載した。
【0052】
【表1】
【0053】
(2)焼成
(1)で得られた混合物を、窒化ホウ素製容器(容器サイズ:6mL)に入れ、昇温速度20℃/minで、1600℃まで昇温した。そして、1600℃で4時間保持した。このようにして、塊状の焼成物を得た。
焼成の雰囲気は以下の通りとした。
雰囲気ガス:N、雰囲気圧力:0.80MPa・G、ガス導入温度:400℃
【0054】
(3)粉砕
(2)で得られた塊状の焼成物を、アルミナ乳鉢を用いて粉砕した。これにより蛍光体粉末を得た。ちなみに、粉砕の程度は、各実施例および比較例の蛍光体粉末のD10、D50およびD90が後掲の表2の数値になるように適宜調整した。特に、実施例4および5については、他の実施例および比較例よりも、粉砕力を弱くするか粉砕時間を短くするかした。
【0055】
<粒径分布の測定>
LC13 320(ベックマン・コールター社製)を用い、JIS Z 8825:2013に準拠したレーザ回折散乱法により粒径分布を測定した。具体的な手順は以下のようにした。
分散剤としてヘキサメタりん酸ナトリウムを0.05重量%加えた水溶液に少量の蛍光体粉末を投入し、ホーン式の超音波ホモジナイザー(出力300W、ホーン径26mm)で分散処理を行い、粒子径分布を測定した。得られた体積頻度粒度分布曲線から、D10、D50およびD90を求めた。
結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
<ICP発光分光分析による組成の分析>
Agilent社の装置(型番:5110VDV)を用いて組成を分析した。具体的には以下の手順で分析した。
まず、蛍光体粉末10mgを白金るつぼに入れ、アルカリ性融剤2gを加えたうえで、電気炉で融解した。放冷後、白金るつぼにHCl 20mLを加え、温浴中で加温溶解して溶液を得た。その後、得られた溶液を100mLに定容した。この100mLの溶液を純水で10倍に希釈し試験液とした。この試験液を、上記装置にセットして、組成を分析した。また、分析結果に基づき、一般式(I)におけるx、yおよびzを求めた。
組成の分析結果を表3に示す。表3において「組成分析の結果/mol」に記載の値は、相対的なモル量である。
【0058】
【表3】
【0059】
<X線粉末回折測定>
Rigaku社の装置UltimaIVを用いて、蛍光体粉末のXRDパターンを得た。得られたXRDパターンを図1に示す。
得られたスペクトルを、ソフトウェアを用いて解析することで、実施例1~5の蛍光体粉末は、直方晶系の、一般式EuSiで表される蛍光体を母核構造とする蛍光体を含むことを確認した。
また、得られたXRDパターンの解析から、格子定数a、bおよびc、ならびに、格子体積Vを求めた。これら値を表4に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
<発光スペクトル測定>
HORIBA社製、Fluorolog-3-iHR-NIRを用いて、蛍光体粉末に波長450nmの励起光(キセノンランプから発せられる連続波長光を回折格子で単色化した光)を当てたときの発光スペクトルを得た。そして、得られたスペクトルのピーク波長と、500~1400nmの波長範囲の積分強度と、を読み取った。
各蛍光体粉末のピーク波長と、比較例1における積分強度を1.00としたときの強度比を表5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
表5に示されるとおり、実施例1~5の蛍光体粉末は、青色光を照射されたときに近赤外光を発した。
また、実施例1~5の蛍光体粉末から発せられる蛍光の強度は、比較例1および2と同程度であった。特に、実施例1および2の蛍光体粉末から発せられる蛍光の強度は、比較例1および2と遜色なかった。
【0064】
<熱劣化の評価>
オリンパス社製の正立顕微鏡と、大塚電子社製のマルチチャンネル分光器MCPD-9800 3095と、澤木工房社製の青色レーザ光源(ピーク波長452nm)と、リンカム社の温度特性評価用ステージHFS600(加熱用ヒータおよび冷却用水冷機構を備える)と、を組み合わせて、蛍光体の単粒子の発光を評価可能な装置を組み立てた。
この装置を用いて、以下(1)~(5)の手順により、熱劣化の程度を評価した。
(1)上記の評価用ステージの上に、蛍光体粉末0.1gを入れた石英製のシャーレを置いた。
(2)室温(23℃)で、蛍光体粉末に青色レーザ光を当て、発光スペクトルを測定した。そして、得られた発光スペクトルのピーク強度(スペクトルの極大値)をIとした。
(3)加熱用ヒータにより、室温から100℃/minの速度で蛍光体粉末を昇温し、そして200℃で1時間保持した。
(4)加熱用ヒータをオフにし、冷却用水冷機構により蛍光体粉末を冷却した。1時間程度経過後、室温まで冷却された蛍光体粉末に青色レーザ光を当て、発光スペクトルを測定した。そして、得られた発光スペクトルのピーク強度(スペクトルの極大値)をIとした。
(5)I/Iの値を算出し、熱劣化の指標とした。
【0065】
結果を表6に示す。
【0066】
【表6】
【0067】
表6に示されるとおり、実施例1~5の蛍光体粉末(一般式(I)においてzが0.44より大きく0.99以下である蛍光体を含む)は、比較例1および2の蛍光体粉末(一般式(I)においてzが0.44以下)に比べて、熱劣化が抑えられていた。特に、zが比較的大きい(Ba置換率が大きい)蛍光体を含む実施例2および3の蛍光体粉末の熱劣化は抑えられていた。
【0068】
<熱消光の評価>
上記<熱劣化の評価>の(3)において、蛍光体粉末が200℃となってから10分後に、蛍光体粉末に青色レーザ光を当て、発光スペクトルを測定した。そして、得られた発光スペクトルのピーク強度(スペクトルの極大値)をI'とした。そして、I'/Iの値を熱消光の指標とした。
【0069】
結果を表7に示す。
【0070】
【表7】
【0071】
表7に示されるとおり、実施例1~5の蛍光体粉末(一般式(I)においてzが0.44より大きく0.99以下である蛍光体を含む)は、比較例1および2の蛍光体粉末(一般式(I)においてzが0.44以下)に比べて、熱消光しにくかった。特に、zが比較的大きい(Ba置換率が大きい)蛍光体を含む実施例2および3の蛍光体粉末は、熱消光しにくかった。
【0072】
この出願は、2021年3月2日に出願された日本出願特願2021-032318号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1