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特許7510570トラップイオン型量子コンピュータのための回路コンパイラの最適化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】トラップイオン型量子コンピュータのための回路コンパイラの最適化
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/80 20220101AFI20240626BHJP
【FI】
G06N10/80
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023517396
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 US2021052985
(87)【国際公開番号】W WO2022115156
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】63/086,008
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/108,786
(32)【優先日】2020-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/490,769
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ナム ユンソン
【審査官】渡辺 順哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-521143(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0219002(US,A1)
【文献】特表2021-531578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子コンピュータを使用して計算を実行する方法であって、
古典的コンピュータによって第一の量子回路を第二の量子回路に変換するステップであって、前記第一の量子回路は従来のゲートセットからなり、前記第二の量子回路は標準トラップイオンゲートセットからなる、ステップと、
前記古典的コンピュータを用いて、前記第二の量子回路を調整することにより、前記標準トラップイオンゲートセットからなる第一の最適化量子回路を生成するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前記第一の最適化量子回路を、位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第三の量子回路に変換するステップと、
前記古典的コンピュータを用いて、前記第三の量子回路を調整することにより、前記位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第二の最適化量子回路を生成するステップと、
前記第一又は第二の最適化量子回路を量子コンピュータに適用して計算を実行するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第一の量子回路を変換するステップの前に、前記第一の量子回路を前処理するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第二の量子回路を調整することは、
前記第二の量子回路で発生した[φ](π)ゲートを除去すること、又は前記[φ](π)ゲートを前記第二の量子回路の端まで伝播させること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第二の量子回路を調整することは、
[φ](π/2)ゲートを別の[φ’](π/2)ゲートと結合すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第二の量子回路を調整することは、
[φ][φ’](π/2)ゲートカウントを削減すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第二の量子回路を調整することは、
SWAPゲートを前記第二の量子回路の端に伝搬させること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第二の量子回路を調整することは、
ZZ(π/2)ゲートを[0][0](π/2)ゲートとスワップすること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第二の量子回路を調整することは、
前記第二の量子回路が開始する初期化に基づいて、ゲートカウントをさらに削減すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第二の量子回路を調整することは、
前記第二の量子回路が終了する測定に基づいて、ゲートカウントをさらに削減すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
イオントラップ型量子計算システムであって、
複数の量子キュービットを含む量子プロセッサであって、各キュービットが2つの超微細状態を有するトラップイオンを含む、量子プロセッサと、
第一のラマンレーザビーム及び第二のラマンレーザビームを放出するように構成された1つ以上のレーザであって、前記量子プロセッサ内のトラップイオンに提供される、1つ以上のレーザと、
古典的コンピュータであって、
第一の量子回路を第二の量子回路に変換するステップであって、前記第一の量子回路は従来のゲートセットからなり、前記第二の量子回路は標準トラップイオンゲートセットからなる、ステップと、
前記第二の量子回路を調整することにより、前記標準トラップイオンゲートセットからなる第一の最適化量子回路を生成するステップと、
前記第一の最適化量子回路を、位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第三の量子回路に変換するステップと、
前記第三の量子回路を調整することにより、前記位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第二の最適化量子回路を生成するステップと、
を含む操作を実行するように構成された古典的コンピュータと、
制御プログラムを実行して、前記1つ以上のレーザを制御して前記量子プロセッサ上で操作を実行するように構成されたシステムコントローラであって、前記操作は、
前記第一又は第二の最適化量子回路を前記量子プロセッサに適用して計算を実行するステップと、
前記量子プロセッサ内のキュービット状態の母集団を測定するステップと、
を含む、システムコントローラと、
を備え、
前記古典的コンピュータは、前記量子プロセッサにおいて測定された前記キュービット状態の母集団を出力するようにさらに構成される、イオントラップ型量子計算システム。
【請求項11】
前記操作は、
前記第一の量子回路を変換するステップの前に、前記第一の量子回路を前処理するステップ
をさらに含む、請求項10に記載のイオントラップ型量子計算システム。
【請求項12】
前記第二の量子回路を調整することは、
前記第二の量子回路で発生した[φ](π)ゲートを除去すること、又は前記[φ](π)ゲートを前記第二の量子回路の端まで伝播させることと、
[φ](π/2)ゲートを別の[φ’](π/2)ゲートと結合することと、
[φ][φ’](π/2)ゲートカウントを削減することと、
SWAPゲートを前記第二の量子回路の端に伝搬させることと、
を含む、請求項10に記載のイオントラップ型量子計算システム。
【請求項13】
前記第二の量子回路を調整することは、
ZZ(π/2)ゲートを[0][0](π/2)ゲートとスワップすること
を含む、請求項10に記載のイオントラップ型量子計算システム。
【請求項14】
前記第二の量子回路を調整することは、
前記第二の量子回路が開始する初期化に基づいて、ゲートカウントをさらに削減すること
を含む、請求項10に記載のイオントラップ型量子計算システム。
【請求項15】
前記第二の量子回路を調整することは、
前記第二の量子回路が開始する初期化に基づいて、ゲートカウントをさらに削減すること
を含む、請求項10に記載のイオントラップ型量子計算システム。
【請求項16】
イオントラップ型量子計算システムであって、
古典的コンピュータと、
複数のキュービットを含む量子プロセッサであって、各キュービットが2つの超微細状態を有するトラップイオンを含む、量子プロセッサと、
制御プログラムを実行して、1つ以上のレーザを制御して前記量子プロセッサ上で操作を実行するように構成されたシステムコントローラと、
内部に格納された多数の命令を有する不揮発性メモリと、
を備え、
前記命令は、1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記イオントラップ型量子計算システムに、
前記古典的コンピュータによって、第一の量子回路を第二の量子回路に変換するステップであって、前記第一の量子回路は従来のゲートセットからなり、前記第二の量子回路は標準トラップイオンゲートセットからなる、ステップと、
前記古典的コンピュータを用いて、前記第二の量子回路を調整することにより、前記標準トラップイオンゲートセットからなる第一の最適化量子回路を生成するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前記第一の最適化量子回路を、位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第三の量子回路に変換するステップと、
前記古典的コンピュータを用いて、前記第三の量子回路を調整することにより、前記位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第二の最適化量子回路を生成するステップと、
前記システムコントローラによって、前記第一又は第二の最適化量子回路を量子コンピュータに適用して計算を実行するステップと、
前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサ内のキュービット状態の母集団を測定するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前記量子プロセッサにおいて測定された前記キュービット状態の母集団を出力するステップと、
を含む操作を実行させる、イオントラップ型量子計算システム。
【請求項17】
前記第一の量子回路を変換するステップの前に、前記第一の量子回路を前処理するステップ
をさらに含む、請求項16に記載のイオントラップ型量子計算システム。
【請求項18】
前記第二の量子回路を調整することは、
前記第二の量子回路で発生した[φ](π)ゲートを除去すること、又は前記[φ](π)ゲートを前記第二の量子回路の端まで伝播させることと、
[φ](π/2)ゲートを別の[φ’](π/2)ゲートと結合することと、
[φ][φ’](π/2)ゲートカウントを削減することと、
SWAPゲートを前記第二の量子回路の端に伝搬させることと、
ZZ(π/2)ゲートを[0][0](π/2)ゲートとスワップすることと、
を含む、請求項16に記載のイオントラップ型量子計算システム。
【請求項19】
前記第二の量子回路を調整することは、
前記第二の量子回路が開始する初期化に基づいて、ゲートカウントをさらに削減すること
を含む、請求項16に記載のイオントラップ型量子計算システム。
【請求項20】
前記第二の量子回路を調整することは、
前記第二の量子回路が終了する測定に基づいて、ゲートカウントをさらに削減すること
を含む、請求項16に記載のイオントラップ型量子計算システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、量子コンピュータ上で動作する最適化量子回路を生成する方法に関し、より具体的には、変換ルール及び最適化ルールを適用して、量子回路が実際に効率的に実装できるような最適化量子回路を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子計算では、量子ビット又はキュービットは、古典的(デジタル)コンピュータにおける「0」及び「1」を表すビットに類似しており、計算プロセス中に、ほぼ完全に制御されて準備、操作、及び測定(読み出し)されることが要求される。キュービットの制御が不完全だと、計算プロセスで誤差が蓄積され、信頼性の高い計算を実行できる量子コンピュータのサイズが制限される。
【0003】
大規模な量子コンピュータを構築することが提案されている物理系の中に、電磁場によって真空中にトラップされ浮遊するイオン(すなわち、荷電原子)の鎖がある。イオンは、超微細状態を内部に有し、超微細状態は、数GHzの周波数で分離され、キュービットの計算状態(「キュービット状態」と呼ぶ)として使用することができる。これらの超微細状態は、レーザから提供される放射線を用いて制御することができ、本明細書では、レーザビームとの相互作用と呼ぶこともある。イオンは、このようなレーザとの相互作用を利用して、運動基底状態付近まで冷却することができる。また、イオンを2つの超微細状態のうちの1つに高精度で光学的に励起し(キュービットの準備)、レーザビームによって2つの超微細状態の間で操作し(単一キュービットゲート操作)、共鳴レーザビームの適用時に蛍光によってその内部の超微細状態を検出する(キュービットの読み出し)ことができる一対のイオンは、イオン間のクーロン相互作用から生じる、トラップイオンの鎖の集合運動モードにイオンを結合させるレーザパルスを用いて、キュービット状態に依存する力によって制御可能にもつれる(2キュービットゲート操作)ことができる。
【0004】
量子計算では、計算は、少数のキュービットに作用する量子論理ゲートのシーケンスとして実行される。大規模量子計算において量子回路の実装が所望の実用的効率でリソースを最も少なく使用するように、量子論理ゲートのシーケンス(量子回路と呼ばれる)を設計する必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、量子コンピュータを使用して計算を実行する方法を提供する。この方法は、古典的コンピュータによって第一の量子回路を第二の量子回路に変換するステップであって、第一の量子回路は従来のゲートセットからなり、第二の量子回路は標準トラップイオンゲートセットからなる、ステップと、古典的コンピュータを用いて、第二の量子回路を調整することにより、標準トラップイオンゲートセットからなる第一の最適化量子回路を生成するステップと、古典的コンピュータによって、第一の最適化量子回路を、位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第三の量子回路に変換するステップと、古典的コンピュータを用いて、第三の量子回路を調整することにより、位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第二の最適化量子回路を生成するステップと、第一又は第二の最適化量子回路を量子コンピュータに適用して計算を実行するステップと、を含む。
【0006】
本開示の実施形態は、さらに、イオントラップ型量子計算システムを提供する。オントラップ型量子計算システムは、複数のキュービットを含む量子プロセッサであって、各キュービットが2つの超微細状態を有するトラップイオンを含む、量子プロセッサと、第一のラマンレーザビーム及び第二のラマンレーザビームを放出するように構成された1つ以上のレーザであって、量子プロセッサ内のトラップイオンに提供される、1つ以上のレーザと、古典的コンピュータであって、第一の量子回路を第二の量子回路に変換するステップであって、第一の量子回路は従来のゲートセットからなり、第二の量子回路は標準トラップイオンゲートセットからなる、ステップと、第二の量子回路を調整することにより、標準トラップイオンゲートセットからなる第一の最適化量子回路を生成するステップと、第一の最適化量子回路を、位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第三の量子回路に変換するステップと、第三の量子回路を調整することにより、位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第二の最適化量子回路を生成するステップと、を含む操作を実行するように構成された古典的コンピュータと、制御プログラムを実行して、1つ以上のレーザを制御して量子プロセッサ上で操作を実行するように構成されたシステムコントローラであって、操作は、第一又は第二の最適化量子回路を量子プロセッサに適用して計算を実行するステップと、量子プロセッサ内のキュービット状態の母集団を測定するステップと、を含む、システムコントローラと、を含む。古典的コンピュータは、量子プロセッサにおいて測定されたキュービット状態の母集団を出力するようにさらに構成される。
【0007】
本開示の実施形態は、また、イオントラップ型量子計算システムも提供する。イオントラップ型量子計算システムは、古典的コンピュータと、複数のキュービットを含む量子プロセッサであって、各キュービットが2つの超微細状態を有するトラップイオンを含む、量子プロセッサと、制御プログラムを実行して、1つ以上のレーザを制御して量子プロセッサ上で操作を実行するように構成されたシステムコントローラと、内部に格納された多数の命令を有する不揮発性メモリと、を備え、命令は、1つ以上のプロセッサによって実行されると、イオントラップ型量子計算システムに、古典的コンピュータによって、第一の量子回路を第二の量子回路に変換するステップであって、第一の量子回路は従来のゲートセットからなり、第二の量子回路は標準トラップイオンゲートセットからなる、ステップと、第二の量子回路を調整することにより、標準トラップイオンゲートセットからなる第一の最適化量子回路を生成するステップと、古典的コンピュータを用いて、第一の最適化量子回路を、位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第三の量子回路に変換するステップと、第三の量子回路を調整することにより、位相非感受性トラップイオンゲートセットからなる第二の最適化量子回路を生成するステップと、システムコントローラによって、第一又は第二の最適化量子回路を量子コンピュータに適用して計算を実行するステップと、システムコントローラによって、量子プロセッサ内のキュービット状態の母集団を測定するステップと、古典的コンピュータによって、量子プロセッサにおいて測定されたキュービット状態の母集団を出力するステップと、を含む操作を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示の上記特徴を詳細に理解することができるように、上で簡単に概説された本開示のより具体的な記載は、実施形態を参照することによって説明することができ、実施形態のいくつかは、添付図面に示されている。しかしながら、添付図面は、本開示の典型的な実施形態のみを説明しており、その範囲を限定すると見なされるべきではないことに留意されたい。なぜなら、本開示は他の同等に有効な実施形態を認めることができるからである。
【0009】
図1】一実施形態に従うイオントラップ型量子コンピュータの部分図である。
図2】一実施形態に従って、イオンを鎖に閉じ込めるためのイオントラップの概略図を示す。
図3A】5つのトラップイオンの鎖の概略的な集合横運動モード構造を示す。
図3B】5つのトラップイオンの鎖の概略的な集合横運動モード構造を示す。
図3C】5つのトラップイオンの鎖の概略的な集合横運動モード構造を示す。
図4】一実施形態に従って、トラップイオンの鎖内の各イオンの概略エネルギー図を示す。
図5】ブロッホ球の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を示す。
図6A】一実施形態に従って、各イオンの運動側波帯スペクトルの概略図を示す。
図6B】一実施形態に従って、各イオンの運動モードの概略図を示す。
図7】一実施形態に従って、従来のゲートセットで構築された既知の量子回路をTIQCゲートセットで構築された量子回路に直接変換するために使用され得る前処理、変換、及び最適化プロセスのフロー図を示す。
図8】一実施形態に従って、標準TIQCゲートセットで構築された変換量子回路を最適化するために使用され得る最適化プロセスのフロー図を示す。
【0010】
理解を容易にするために、可能な場合には、図に共通する同一の要素を示すために同一の参照番号を使用する。図及び以下の説明では、X軸、Y軸、及びZ軸を含む直交座標系を使用する。図面の矢印で表される方向は、便宜上、正の方向であると想定される。いくつかの実施形態で開示された要素は、具体的な明記なく、他の実装で有益に利用されてよいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
量子計算において、計算は、少数のキュービットに作用する量子論理ゲートのシーケンスとして実行される。このシーケンスは、量子回路とも呼ばれ、普遍的な量子論理ゲートの利用可能なセット(以下では、単に「ゲートセット」又は「量子ゲートセット」と呼ばれる)を用いて実装されてもよい。大規模量子計算において量子回路の実装が所望の実用的効率でリソースを最も少なく使用するように、量子回路をコンパイルする方法を見つけることは有利である。
【0012】
量子アルゴリズムを分解して実行するタスクを実行するためのソフトウェアプログラムは、古典的コンピュータ内の不揮発性メモリ、又は古典的コンピュータにアクセス可能な不揮発性メモリに格納されている。量子レジスタには、様々なハードウェアと結合されたトラップイオンが含まれ、これらのハードウェアには、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するレーザ、及びレーザビームを変調し、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を読み取る音響光学変調器が含まれる。量子アルゴリズムを分解して実行するタスクを実行するためのソフトウェアプログラムは、古典的コンピュータ内の不揮発性メモリ、又は古典的コンピュータにアクセス可能な不揮発性メモリに格納されている。量子レジスタには、様々なハードウェアと結合されたトラップイオンが含まれ、これらのハードウェアには、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するレーザ、及びレーザビームを変調し、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を読み取る音響光学変調器が含まれる。システムコントローラは、古典的コンピュータから、量子レジスタで選択されたアルゴリズムの実行の開始時にパルスの事前計算されたパラメータを受け取り、量子レジスタで選択されたアルゴリズムを実行するために使用されるいずれか及び全ての態様の制御に関連する様々なハードウェアを制御し、量子レジスタの読み取り値を戻し、こうして、アルゴリズムの実行の最後に、量子計算の結果を古典的コンピュータに出力する。
【0013】
任意の量子アルゴリズムが分解され得る普遍的量子論理ゲートのいくつかの既知のセットのうち、普遍的量子論理ゲートのセットは、一般に{[φ](θ),[φ][φ’](θ)}として示され、本明細書に記載のトラップイオンの量子計算システムに固有である。ここで、[φ](θ)ゲートは、単一キュービット操作(すなわち、トラップイオンの個々のキュービット状態の操作、「単一キュービットゲート」とも呼ばれる)に対応し、[φ][φ’](θ)ゲートは、2キュービット操作(すなわち、2つのトラップイオンのもつれ操作、「もつれゲート」とも呼ばれる)に対応している。当業者にとって、[φ](θ)ゲートは完璧な忠実度で実装できるのに対し、[φ][φ’](θ)ゲートの形成は複雑で、所与のトラップイオンの種類、トラップイオンの鎖内のイオンの数、トラップイオンがトラップされるハードウェア及び環境など、いくつかの要因を挙げても、最適化が必要で、こうして、[φ][φ’](θ)ゲートの忠実度を高め、量子コンピュータ内の計算エラーを回避又は低減することは明らかであろう。
【0014】
I.一般的なハードウェア構成
図1は、一実施形態に従うイオントラップ型量子コンピュータ又はシステム100の部分図である。システム100は、古典的(デジタル)コンピュータ101と、システムコントローラ118と、Z軸に沿って延びる、トラップイオン(すなわち、5つを図示)の鎖102である量子レジスタとを含む。トラップイオンの鎖102内の全てのイオンは、核スピンI及び電子スピンsを有するイオンであり、核スピンIと電子スピンsとの差がゼロであるようになっており、例えば、正のイッテルビウムイオン171Yb、正のバリウムイオン133Ba、正のカドミウムイオン111Cd又は113Cdであり、これらの全ては、核スピンI=1/2及び1/2超微細状態を有するいくつかの実施形態では、トラップイオンの鎖102内の全てのイオンは、同じ種及び同位体(例えば、171Yb)である。いくつかの他の実施形態では、トラップイオンの鎖102は、1つ以上の種又は同位体を含む(例えば、いくつかのイオンは171Ybであり、いくつかの他のイオンは133Baである)。なおさらなる実施形態では、トラップイオンの鎖102は、同じ種の様々な同位体(例えば、Ybの異なる同位体、Baの異なる同位体)を含んでもよい。トラップイオンの鎖102内のイオンは、別々のレーザビームで個別に処理される。
【0015】
古典的コンピュータ101は、中央処理ユニット(CPU)、メモリ、及びサポート回路(又はI/O)を含む。メモリは、CPUに接続されており、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フロッピーディスク、ハードディスク、又は任意の他の形式のデジタルストレージなどで、ローカル又はリモートで、すぐに利用できるメモリの1つ以上であってもよい。ソフトウェア命令、アルゴリズム、及びデータは、CPUに命令するためにコード化し、メモリ内に格納することができる。サポート回路(図示せず)も、従来の方法でプロセッサをサポートするためにCPUに接続されている。サポート回路は、従来のキャッシュ、電源、クロック回路、入力/出力回路、サブシステムなどを含んでもよい。
【0016】
イメージング対物レンズ104は、例えば、開口数(NA)が0.37の対物レンズなどであり、イオンからY軸に沿って蛍光を収集し、個々のイオンを測定するために、各イオンをマルチチャネル光電子増倍管(PMT)106にマッピングする。レーザ108からの非共伝搬ラマンレーザビームは、X軸に沿って提供され、イオンに対して操作を実行する。回折ビームスプリッタ110は、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)114を使用して個別に切り替えられる静的ラマンビーム112のアレイを作成し、かつ個々のイオンに選択的に作用するように構成される。グローバルラマンレーザビーム116は、イオンを一度に照射する。いくつかの実施形態では、個々のラマンレーザビーム(図示せず)のそれぞれは、個々のイオンを照射する。システムコントローラ(「RFコントローラ」とも呼ばれる)118は、AOM114を制御する。システムコントローラ118は、中央処理ユニット(CPU)120、読み取り専用メモリ(ROM)122、ランダムアクセスメモリ(RAM)124、ストレージユニット126などを含む。CPU120は、RFコントローラ118のプロセッサである。ROM122は、様々なプログラムを格納し、RAM124は、様々なプログラム及びデータの作業メモリである。ストレージユニット126は、ハードディスクドライブ(HDD)又はフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含み、電源が切られても様々なプログラムを格納する。CPU120、ROM122、RAM124、及びストレージユニット126は、バス128を介して相互接続されている。RFコントローラ118は、ROM122又はストレージユニット126に格納され、RAM124を作業領域として使用する制御プログラムを実行する。制御プログラムは、プロセッサによって実行され得るプログラムコード(例えば、命令)を含む1つ以上のソフトウェアアプリケーションを含むが、それは、データの受信、解析、及び本明細書で説明されるイオントラップ型量子コンピュータシステム100を作成するために使用される方法及びハードウェアの任意の全ての態様の制御に関連する様々な機能を実行するためである。
【0017】
図2は、一実施形態に従って、イオンを鎖102内に閉じ込めるイオントラップ200(パウルトラップ(Paul trap)とも呼ばれる)の概略図を示す。閉じ込め電位は、静的(DC)電圧と無線周波数(RF)電圧の両方によって印加される。静的(DC)電圧Vがエンドキャップ電極210及び212に印加されて、Z軸(「軸方向」、「長手方向」又は「第一の方向」とも呼ばれる)に沿ってイオンを閉じ込める。鎖102内のイオンは、イオン間のクーロン相互作用のために、軸方向にほぼ均等に分布している。いくつかの実施形態では、イオントラップ200は、Z軸に沿って延びる4つの双曲線形状の電極202、204、206、及び208を含む。
【0018】
操作中、(振幅VRF/2を有する)正弦波電圧Vは、対向する一対の電極202、204に印加され、正弦波電圧Vから180°の位相シフト(及び振幅VRF/2)を有する正弦波電圧Vは、駆動周波数ωRFで対向する他対の電極206、208に印加されて、四重極電位を生成する。いくつかの実施形態では、正弦波電圧は、対向する一対の電極(例えば、202、204)のみに印加され、対向する他対の電極206、208は、接地される。四重極電位は、トラップイオンのそれぞれに対してZ軸に垂直なX-Y平面(「半径方向」、「横方向」又は「第二の方向」とも呼ばれる)に有効な閉じ込め力を生成し、その閉じ込め力は、RF電界が消失する鞍点(すなわち、軸方向(Z方向)の位置)からの距離に比例する。各イオンの半径方向(すなわち、X-Y平面の方向)の運動は、半径方向の鞍点に向かう復元力を伴う調和振動(経年運動と呼ばれる)として近似され、それぞれ以下でより詳細に説明されるようなばね定数kとkによってモデル化できる。いくつかの実施形態では、半径方向のばね定数は、四重極電位が半径方向に対称である場合に等しいものとしてモデル化される。しかしながら、望ましくない場合には、半径方向のイオンの運動は、物理的なトラップ構成のある程度の非対称性、電極の表面の不均一性による小さなDCパッチ電位などのために歪む場合があり、これら及び他の外部の歪みの原因により、イオンは、鞍点から中心を外れる場合がある。
【0019】
II.トラップイオン構成及び量子ビット情報
図3A図3B、及び図3Cは、例えば、5つのトラップイオンの鎖102のいくつかの概略的な集合横運動モードの構造(単に「運動モード構造」とも呼ばれる)を示す。ここで、エンドキャップ電極210及び212に印加された静的電圧Vによる閉じ込め電位は、半径方向の閉じ込め電位と比較して弱い。トラップイオンの鎖102の横方向の集合運動モードは、イオントラップ200によって生成された閉じ込め電位と組み合わされたトラップイオン間のクーロン相互作用によって決定される。トラップイオンは、集合横方向運動(「集合横運動モード」、「集合運動モード」、又は単に「運動モード」と呼ばれる)を起こし、各モードは、それに関連する個別のエネルギー(又は同等に、周波数)を有する。以下では、エネルギーがp番目に低い運動モードを│nphと呼び、ここで、nphは、運動モードの運動量子の数(エネルギー励起の単位で、フォノンと呼ばれる)を表し、所与の横方向の運動モードの数Pは、鎖102内のトラップイオンの数Nに等しい。図3A図3Cは、鎖102内に配置された5つのトラップイオンによって経験され得る異なるタイプの運動モードの例を概略的に説明する。図3Aは、最も高いエネルギーを有する一般的な運動モード│nphの概略図であり、ここで、Pは、モードの数と運動モードの総数の両方である。一般的な運動モード│nphでは、全てのイオンは、横方向に同位相で振動する。図3Bは、2番目に高いエネルギーを有する傾斜運動モード│nphP-1の概略図である。傾斜運動モードでは、両端のイオンは、横方向に位相がずれて(すなわち、反対方向に)移動する。図3Cは、傾斜運動モード│nphP-1よりもエネルギーが低く、イオンがより複雑なモードパターンで移動する高次運動モード│nphP-3の概略図である。
【0020】
上記の特定の構成は、本開示に従ってイオンを閉じ込めるためのトラップのいくつかの可能な例のうちの1つに過ぎず、本開示に従うトラップの可能な構成、仕様などを限定するものではないことに留意されたい。例えば、電極の形状は、上記の双曲線電極に限定されない。他の例では、調和振動として半径方向にイオンの運動を引き起こす実効電界を生成するトラップは、複数の電極層が積層され、対角線上にある2つの電極にRF電圧が印加される多層トラップであっても、あるいは全ての電極がチップ上の単一平面に配置されている表面トラップであってもよい。さらに、トラップは、複数のセグメントに分割してもよく、その隣接するペアは、1つ以上のイオンを往復させてリンクしてもよく、あるいは光子相互接続によって結合してもよい。トラップは、また、微細加工されたイオントラップチップ上に互いに近接して配置された個々のトラップ領域のアレイであってもよい。いくつかの実施形態では、四重極電位は、上記RF成分に加えて、空間的に変化するDC成分を有する。
【0021】
図4は、一実施形態に従って、トラップイオンの鎖102内の各イオンの概略エネルギー図400を示す。トラップイオンの鎖102内の各イオンは、核スピンI及び電子スピンsを有するイオンであり、核スピンIと電子スピンsとの差がゼロになるようになっている。一例では、各イオンは、核スピンI=1/2及び1/2超微細状態(すなわち、2つの電子状態)を有する正のイッテルビウムイオン171Ybであってもよく、ω01/2π=12.642821GHzの周波数差(「キャリア周波数」と呼ばれる)に対応するエネルギー分割を有する他の例では、各イオンは、正のバリウムイオン133Ba、正のカドミウムイオン111Cd又は113Cdであってもよく、その全てが、核スピンI=1/2及び1/2超微細状態を有する。キュービットは、│0>と│1>で表される2つの超微細状態で形成され、ここで、超微細状態(すなわち、1/2超微細状態のうちの低エネルギー状態)は、│0>を表すように選択される。以下では、「超微細状態」、「内部超微細状態」及び「キュービット」という用語は、│0>と│1>を表すために交換可能に使用することがある。各イオンは、ドップラー冷却又は分解サイドバンド冷却などの既知のレーザ冷却方法で、フォノン励起なし(すなわち、nph=0)で任意の運動モードpの運動基底状態│0>の近くまで冷却し(すなわち、イオンの運動エネルギーが低下し得る)、次にキュービット状態を光ポンピングによって超微細基底状態│0>で準備することができる。ここで、│0>は、トラップイオンの個々のキュービット状態を表し、下付き文字pが付いた│0>は、トラップイオンの鎖102の運動モードpの運動基底状態を表す。
【0022】
各トラップイオンの個々のキュービット状態は、例えば、励起された1/2レベル(|e>で表される)を介して355ナノメートル(nm)のモードロックレーザ(mode-locked laser)によって操作することができる。図4に示すように、レーザからのレーザビームは、ラマン構成で一対の非共伝搬レーザビーム(周波数ωを有する第一のレーザビームと周波数ωを有する第二のレーザビーム)に分割され、図4で説明するように、|0>と|e>の間の遷移周波数ω0eに関して、一光子遷移離調周波数Δ=ω-ω0eによって離調されてもよい。二光子遷移離調周波数δは、トラップイオンに第一及び第二のレーザビームによって提供されるエネルギー量の調整を含み、それらを組み合わせて使用すると、トラップイオンが超微細状態|0>と|1>との間で移動する。一光子遷移離調周波数Δが二光子遷移離調周波数(単に「離調周波数」とも呼ばれる)δ=ω-ω-ω01(以下、±μで表され、μは正の値である)よりもはるかに大きい場合、それぞれ状態|0>と|e>の間、状態|1>と|e>の間でラビフロップが発生する単一光子ラビ周波数Ω0e(t)とΩ1e(t)(時間に依存し、第一と第二のレーザビームの振幅と位相によって決定される)、励起状態|e>からの自然放出率、2つの超微細状態│0>と│1>の間のラビフロップ(「キャリア遷移」と呼ばれる)は、二光子ラビ周波数Ω(t)(「ラビレート」とも呼ばれる)で誘導される。二光子ラビ周波数Ω(t)は、Ω0eΩ1e/2Δに比例する強度(すなわち、振幅の絶対値)を有し、ここで、Ω0eとΩ1eは、それぞれ第一と第二のレーザビームによる単一光子ラビ周波数である。以下、キュービットの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するためのラマン構成におけるこの非共伝搬レーザビームのセットは、「複合パルス」、あるいは、単に「パルス」と呼ばれてもよく、結果として得られる二光子ラビ周波数Ω(t)の時間依存パターンは、パルスの「振幅」、あるいは単に「パルス」と呼ばれてもよく、これについては、以下に図示し、さらに説明する。離調周波数δ=ω-ω-ω01は、複合パルスの離調周波数又はパルスの離調周波数と呼ばれてもよい。二光子ラビ周波数Ω(t)の振幅は、第一及び第二のレーザビームの振幅によって決定され、複合パルスの「振幅」と呼ばれてもよい。
【0023】
本明細書に提供される説明で使用される特定の原子種は、イオン化されたときに安定し、かつ明確に定義された2レベルエネルギー構造と、光学的にアクセス可能な励起状態とを有する原子種の一例にすぎないため、本開示のイオントラップ型量子コンピュータの可能な構成、仕様などを制限することを意図するものではないことに留意されたい。例えば、他のイオン種は、アルカリ土類金属イオン(Be、Ca、Sr、Mg、及びBa)又は遷移金属イオン(Zn、Hg、Cd)を含む。
【0024】
図5は、方位角φ及び極性角θを有するブロッホ球500の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を視覚化するのを助けるために提供される。上述のような複合パルスを適用すると、キュービット状態│0>(ブロッホ球の北極として表される)と│1>(ブロッホ球の南極として表される)との間でラビフロップが発生する。複合パルスの持続時間と振幅を調整すると、キュービット状態は│0>から│1>に(すなわち、ブロッホ球。複合パルスのこの適用は、「πパルス」と呼ばれる。の北極から南極へ)反転するか、あるいはキュービット状態は│1>から│0>に(すなわち、ブロッホ球の南極から北極に)反転する。複合パルスのこの適用は、「πパルス」と呼ばれる。さらに、複合パルスの持続時間と振幅を調整することにより、キュービット状態│0>を、2つのキュービット状態│0>と│1>が加算され、同位相で均等に重み付けされた重ね合わせ状態│0>+│1>(重ね合わせ状態の正規化係数は、便宜上、以下省略される)に変換しても、またキュービット状態│1>を、2つのキュービット状態│0>と│1>が加算され、均等に重み付けされるが、位相がずれる重ね合わせ状態│0>-│1>に変換してもよい。複合パルスのこの適用は、「π/2パルス」と呼ばれる。より一般的には、加算されて均等に重み付けされた2つのキュービット状態│0>と│1>の重ね合わせは、ブロッホ球の赤道上にある点によって表される。例えば、重ね合わせ状態│0>±│1>は、方位角φがそれぞれゼロとπである赤道上の点に対応する。方位角φの赤道上の点に対応する重ね合わせ状態は、│0>+eiφ│1>として表される(例えば、φ=±π/2の場合は│0>±i│1>である)。赤道上の2点間の変換(すなわち、ブロッホ球のZ軸の周りの回転)は、複合パルスの位相をシフトすることで実装できる。
【0025】
イオントラップ型量子コンピュータでは、運動モードは、2つのキュービット間のもつれを仲介するデータバスとして機能してもよく、このもつれを使用して、[φ][φ’](θ)ゲート操作を実行する。つまり、2つのキュービットのそれぞれが運動モードともつれて、次いで、もつれは、以下に説明するように、運動側波帯励起を使用することによって、2つのキュービット間のもつれに転送される。図6A及び図6Bは、一実施形態に従って、周波数ωを有する運動モード│nphでの鎖102内のイオンの運動側波帯スペクトルの図を概略的に示す。図6Bに示すように、複合パルスの離調周波数がゼロの場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差がキャリア周波数δ=ω-ω-ω01=0に調整される場合)、キュービット状態│0>と│1>の間で単純なラビフロップ(キャリア遷移)が発生する。複合パルスの離調周波数が正の場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差が、キャリア周波数よりも高く調整されている場合、δ=ω-ω-ω01=μ>0、青側波帯と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0>│nphと│1>│nph+1>の間でラビフロップが発生する(すなわち、キュービット状態│0>が│1>に反転する場合、│nphで表されるnフォノン励起を伴うp番目の運動モードから│nph+1>で表される(nph+1)フォノン励起を伴うp番目の運動モードへの遷移が発生する)。複合パルスの離調周波数が負の場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差が、運動モード│nphの周波数ωによってキャリア周波数よりも低く調整されている場合、δ=ω-ω-ω01=-μ<0、赤側波帯と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0>│nphと│1>│nph-1>の間のラビフロップが発生する(すなわち、キュービット状態│0>から│1>に反転する場合、運動モード│nphから、フォノン励起が1つ少ない運動モード│nph-1>への遷移が発生する)。キュービットに適用された青側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0>│nphを、│0>│nphと│1>│nph+1>の重ね合わせに変換する。キュービットに適用された赤側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0>│nphを、│0>│nphと│1>│nph-1>の重ね合わせに変換する。二光子ラビ周波数Ω(t)が離調周波数δ=ω-ω-ω01=±μと比較して小さい場合、青側波帯遷移又は赤側波帯遷移を選択的に駆動することができる。したがって、キュービットは、π/2パルスなどの適切なタイプのパルスを適用することにより、所望の運動モードでもつれることができ、その後、別のキュービットともつれることができ、2つのキュービットの間にもつれをもたらす。イオントラップ型量子コンピュータで[φ][φ’](θ)ゲート操作を実行するには、キュービット間のもつれが必要である。
【0026】
上記のように、組み合わされたキュービット運動状態の変換を制御及び/又は指示することにより、2つのキュービット(i番目及びj番目のキュービット)に対して[φ][φ’](θ)ゲート操作を実行することができる。一般に、[φ][φ’](θ)ゲート操作(もつれが最大、すなわち、θ=π/2)は、2キュービット状態|0>|0>、|0>|1>、|1>|0>及び|1>|1>を、正規化までそれぞれ次のように変換する。
【数1】
例えば、2つのキュービット(i番目とj番目のキュービット)が両方とも最初に超微細基底状態|0>(|0>|0>で表される)にあり、その後、青側波帯のπ/2パルスがi番目のキュービットに適用される場合、i番目のキュービットと運動モード|0>|nphの組み合わせ状態は、|0>|nphと|1>|nph+1>の重ね合わせに変換されるため、2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、|0>|0>|nphと|1>|0>|nph+1>の重ね合わせに変換される。赤側波帯のπ/2パルスがj番目のキュービットに適用される場合、j番目のキュービットと運動モード|0>|nphの組み合わせ状態は、|0>|nphと|1>|nph-1>の重ね合わせに変換されるため、組み合わせ状態|0>|n+1>は、|0>|nph+1>と|1>|nphの重ね合わせに変換される。
【0027】
したがって、i番目のキュービットにπ/2青側波帯のパルスを適用し、j番目のキュービットにπ/2赤側波帯のパルスを適用すると、2つのキュービットと運動モード|0>|0>|nphの組み合わせ状態を|0>|0>|nphと|1>|1>|nphの重ね合わせに変換することができ、2つのキュービットは、今やもつれ状態にある。当業者にとって明らかであるように、フォノン励起の初期数nとは異なる数(すなわち、|1>|0>|nph+1>と|0>|1>|nph-1>)のフォノン励起を有する運動モードともつれる2キュービット状態は、十分に複雑なパルスシーケンスによって除去できるため、[φ][φ’](θ)ゲート操作後の2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、p番目の運動モードでのフォノン励起の初期数nphが[φ][φ’](θ)ゲート操作の終了時に変化しないので、もつれが解消された(disentangled)と考えてもよい。したがって、[φ][φ’](θ)ゲート操作の前後のキュービット状態は、一般に、運動モードを含まずに、以下で説明する。
【0028】
より一般的には、側波帯の複合パルスを持続時間τ(「ゲート持続時間」と呼ばれる)にわたって適用することによって変換され、振幅Ω(t)及び離調周波数μ(t)とをそれぞれ有するi番目とj番目のキュービットの組み合わせ状態は、もつれ相互作用χij(τ)の観点から、次のように記述することができる。
【数2】
ここで、
【数3】
であり、ηi,pは、i番目のイオンと周波数ωを有するp番目の運動モードの間の結合強度を定量化するラムディッケパラメータであり、ψ(t)はパルスの累積位相
【数4】
であり、ψは、一般性を失うことなく、簡単にするために以下ゼロ(0)と見なすことができる初期位相であり、Pは運動モードの数(鎖102内のイオンの数Nに等しい)である。
【0029】
III.もつれゲート操作のためのパルスの構築
上記の2つのキュービット(トラップイオン)のもつれを使用して、[φ][φ’](θ)ゲート操作を実行できる。[φ][φ’](θ)ゲート操作は、単一キュービット操作([φ](θ)ゲート)とともに、量子コンピュータを構築するために使用できるユニバーサル量子ロジックゲート{[φ](θ),[φ][φ’](θ)}のセットを形成して、所望の計算プロセスを実行する。トラップイオンの鎖102に送達するためのパルスを、当該鎖102内の2つのトラップイオン(例えば、i番目及びj番目のトラップイオン)の間で[φ][φ’](θ)ゲート操作を実行することを目的として、構築する際に、パルスの振幅関数Ω(t)及び離調周波数関数μ(t)は、次の条件を課すことによって、パルスが目的のXXゲート操作を確実に実行するように制御パラメータとして調整される。第一に、運動モードがパルスの送達によって励起されるにつれて初期位置から移動する鎖102内の全てのトラップイオンは、[φ][φ’](θ)ゲート操作の終わりに初期位置に戻らなければならない。この第一の条件は、トラップイオンがそれらの元の位置及び運動量値に戻るための条件、又は位相空間軌道の閉鎖の条件と呼ばれ、下記に詳述する。第二に、[φ][φ’](θ)ゲート操作は、運動モードの周波数の変動に対してロバストで安定していなければならない。この第二の条件は、安定化の条件と呼ばれる。第三に、パルスによってi番目とj番目のトラップイオンの間に生成されるもつれ相互作用χi,j(τ)は、所望の値θi,j(0<θi,j≦π/2)を有しなければならない。この第三の条件は、ゼロ以外のもつれ相互作用の条件と呼ばれる。第四に、パルスを実装するために必要なレーザ出力を最小限にすることができる。この第四の条件は、出力最小化の条件と呼ばれる。
【0030】
上述のように、第一の条件(トラップイオンがそれらの元の位置及び運動量値に戻るための条件、又は位相空間軌道の閉鎖の条件とも呼ばれる)は、パルスの送達によって運動モードが励起されるにつれて、初期位置から移動しているトラップイオンがそれらの初期位置に戻ることである。重ね合わせ状態|0>±|1>にあるl番目のトラップイオンは、ゲート持続時間τの間のp番目の運動モードの励起のために移動し、p番目の運動モードの位相空間(位置及び運動量)内の軌道±αl,p(t’)に従う位相空間軌道
【数5】
は、パルスの振幅関数Ω(t)及び累積位相関数
【数6】
によって決定され、ここで、g(t)は、g(t)=Ω(t)sin(ψ(t))として定義されるパルス関数である。したがって、N個のトラップイオンの鎖102の場合、条件αl,p(τ)=0(すなわち、軌道αl,p(τ)は閉鎖している)は、P個全ての運動モード(p=1,2,…,P)に課さなければならない。
【0031】
第二の条件(安定化の条件とも呼ばれる)は、パルスによって生成される[φ][φ’](θ)ゲート操作が、運動モードの周波数ωの変動及びレーザビームの強度などの外部エラーに対してロバストで安定であることである。イオントラップ型量子コンピュータ、又はシステム100では、漂遊電場、光イオン化又は温度変動によって引き起こされるイオントラップ200内の蓄積電荷のために、運動モードの周波数ωに変動がある可能性がある。典型的には、数分間の時間スパンで、運動モードの周波数ωは、Δω/(2π)≒1kHzのエクスカーションでドリフトする。運動モードの周波数ωに基づく位相空間軌道の閉鎖の条件は、運動モードの周波数がω+Δωにドリフトするともはや満たされず、[φ][φ’](θ)ゲート操作の忠実度が低下する。運動モードフォノンのゼロ温度でのi番目とj番目のトラップイオンの間の[φ][φ’](θ)ゲート操作の平均不忠実度1-Fは、
【数7】
によって与えられることが知られている。これは、位相空間軌道αl,p(l=i,j)が、ωの変動Δωに対してK次まで静止していること、
【数8】
(K次安定化と呼ばれる)を要求することにより、運動モードの周波数ωのドリフトΔωに対して[φ][φ’](θ)ゲート操作を安定化できることを示唆している。
ここで、Kは、安定化の所望の最大程度である。安定化のためにこの条件を要求することによって計算されたパルスは、ノイズ(すなわち、運動モードの周波数ωのドリフト)に対して回復力のある[φ][φ’](θ)ゲート操作を実行できる。
【0032】
第三の条件(ゼロ以外のもつれ相互作用の条件とも呼ばれる)は、パルスによってi番目とj番目のトラップイオンの間で生成されるもつれ相互作用χi,j(τ)が、所望のゼロ以外の値θi,j(0<θi,j≦π/2)を有することである。上記のi番目とj番目のトラップイオンの組み合わせた状態の変換は、|θi,j|=π/2の場合に、最大もつれを伴う[φ][φ’](θ)ゲート操作に対応する。以下に説明する例では、同じパルスが、i番目とj番目のトラップイオンの両方に適用される。しかしながら、いくつかの実施形態では、異なるパルスが、i番目とj番目のトラップイオンに適用される。
【0033】
第四の条件(出力最小化の条件とも呼ばれる)は、パルスが出力最適であり、必要なレーザ出力が最小化されることである。必要なレーザ出力はゲート持続時間τに反比例ので、出力最適パルスは、ゲート持続時間τが固定されている場合は最小出力の要件で、あるいはレーザ出力バジェットが固定されている場合は最短ゲート持続時間τで、[φ][φ’](θ)ゲート操作を実装する。
【0034】
いくつかの実施形態では、振幅関数Ω(t)及び離調周波数関数μ(t)は、ゲート持続時間の中間点t=τ/2に対して、時間的に対称又は反対称になるように選択され、すなわち、
【数9】
となる。以下に説明する例では、振幅関数Ω(t)及び離調周波数関数μ(t)は、簡単にするために、対称になるように選択されており(Ω(+)(t)とμ(+)(t))、上付き文字(+)なしでΩ(t)及びμ(t)と呼ぶこともできる。対称な離調周波数関数μ(t)では、累積位相関数ψ(t)は、反対称、すなわち、
【数10】
となる。
【0035】
位相空間軌道の閉鎖の条件は、パルス関数g(t)の反対称成分g(-)(t)(以下で、「負のパリティパルス関数」又は単に「パルス関数」とも呼ぶ)に関して、
【数11】
として書き直すことができ、ここで、Mpnは、
【数12】
として定義される。ここで、パルス関数g(-)(t)は完全基底で展開され、例えば、基底関数sin(2πnt/τ)とフーリエ係数B(n=1,2,…,N)を使用して、ゲート持続時間τにわたってフーリエ正弦基底で
【数13】
となる。同等に、位相空間軌道の閉鎖の条件は、行列形式で
【数14】
と書くことができ、ここで、Mは、MpnのP×N係数行列であり、Bは、BのN個のフーリエ係数ベクトルである。基底関数の数Nは、運動モードの数Pよりも大きく、パルス関数g(-)(t)の計算で収束を達成するのに十分な大きさになるように選択される。
【0036】
運動モードの周波数ωの変動に対するK次安定化の条件は、
【数15】
のような行列形式で書き直すことができ、
ここで、
【数16】
は、
【数17】
と定義される。同等に、K次安定化の条件は、行列形式で、
【数18】
として書き直すことができ、ここで、Mは、
【数19】
のP×N係数行列であり、
【数20】
は、BのN個のフーリエ係数ベクトルである。
【0037】
位相空間軌道の閉鎖の条件及びK次安定化の条件は、次の形式
【数21】
で簡潔に記述することができ、ここで、k=0は、位相空間軌道の閉鎖の条件に対応する。したがって、N(=N-P(K+1))個の自明ではない(すなわち、一般的に、フーリエ係数Anのうちの少なくとも1つはゼロではない)フーリエ係数ベクトル(ヌル空間ベクトルと呼ばれる)
【数22】
が存在し、これらのフーリエ係数ベクトルは、位相空間軌道の閉鎖の条件及び安定化の条件
【数23】
を満たす。これらのヌル空間ベクトル
【数24】
が計算されると、Bのフーリエ係数ベクトル
【数25】
を、フーリエ係数ベクトル
【数26】
の線形結合
【数27】
を計算することによって構築することができ、係数Λαは、残りの条件(ゼロ以外のもつれ相互作用の条件、及び出力最小化の条件)が満たされるように決定される。
【0038】
ゼロ以外のもつれ相互作用の条件は、
【数28】
としてパルス関数g(-)(t)の観点から書き直すことができ、ここで、Dnmは、
【数29】
又は同等に、行列形式で、
【数30】
として定義され、ここで、Dは、DnmのN×N係数行列であり、
【数31】
は、
【数32】
の転置ベクトルである。
【0039】
出力最小化の条件は、出力関数
【数33】
を最小化することに対応し、これは、ゲート持続時間τにわたって平均化されたパルス関数g(-)(t)の二乗絶対値である。
【0040】
したがって、パルスの振幅関数Ω(t)及び離調周波数関数μ(t)は、フーリエ係数B(n=1,2,…,N)(すなわち、パルス関数g(-)(t)の周波数成分)又は同等なフーリエ係数ベクトル
【数34】
を有するパルス関数g(-)(t)に基づいて計算でき、これは、位相空間軌道の閉鎖の条件、安定化の条件、ゼロ以外のもつれ相互作用の条件、及び出力最小化の条件を満たす。これらの条件は、フーリエ係数ベクトル
【数35】
に関して線形代数形式であることに留意されたい。したがって、これらの条件を満たすフーリエ係数Bは、近似又は反復なしで既知の線形代数計算方法によって計算できる。フーリエ係数Bを計算すると、パルス関数g(-)(t)を計算できる。
【0041】
基底関数sin(2πnt/τ)とフーリエ係数B(n=1,2,…,N)を用いてパルス関数
【数36】
を計算すると、計算したパルス関数g(-)(t)=Ω(t)sin(ψ(t))からパルスの振幅関数Ω(t)及び離調周波数関数μ(t)を復調する必要があるが、ここで、位相関数
【数37】
は、離調周波数関数μ(t)による累積位相とする。すなわち、振幅関数Ω(t)と離調周波数関数μ(t)を有するパルスを実現できるように、パルス関数g(-)(t)から振幅関数Ω(t)と離調周波数関数μ(t)とを抽出する。この復調プロセスが、固定離調周波数で実行される場合、すなわち、μ(t)=μ0の場合、結果として生じるパルスは、振幅変調(AM)パルスであり、振幅関数Ω(t)は変調される。この復調プロセスが固定振幅で実行される場合、すなわち、Ω(t)=Ωの場合、結果として生じるパルスは、位相変調(PM)パルスであり、位相関数ψ(t)は変調される。位相関数ψ(t)が、離調周波数関数μ(t)を変調することによって実装される場合、結果として生じるパルスは、周波数変調(FM)パルスになる。復調プロセスは、振幅関数Ω(t)、位相関数ψ(t)(これにより、離調周波数関数μ(t))、及び信号処理の分野で知られている従来の復調方法によってパルスを構築するための周波数の任意の組み合わせ変調で実行できる。
【0042】
例示的な復調プロセスの第一のステップは、補助関数
【数38】
を定義することであり、ここで、H[g(-)(t)]は、パルス関数g(-)(t)のヒルベルト変換であり、複素補助関数f(t)=G(t)+ig(-)(t)である。複素補助関数f(t)は、複素補助関数f(t)の絶対値|f(t)|(以下、R(t)と表記)と、複素補助関数f(t)の引数arg(f(t))(以下、φ(t)と表記)を用いて極形式で、f(t)=R(t)eiφ(t)と書くことができる。
【数39】
と表記される複素補助関数f(t)の虚部は、パルス関数g(-)(t)に相当する。複素補助関数f(t)の虚部
【数40】
とパルス関数g(-)(t)=Ω(t)sin[ψ(t)]の定義の比較から、振幅関数Ω(t)は、解析的に
【数41】
と計算することができる。
振幅関数Ω(t)には、パルス関数g(-)(t)の正包絡関数とパルス関数g(-)(t)の負包絡関数に対応する2つの枝がある。パルス関数g(-)(t)と補助関数G(t)の同時ゼロがない場合、振幅関数Ω(t)の正の枝と負の枝の交差は生じない。すなわち,振幅関数Ω(t)の正の枝は,ゲート持続時間τ(0≦t≦τ)にわたって連続的である。振幅関数Ω(t)の負の枝も、ゲート持続時間τ(0≦t≦τ)にわたって連続的である。
【0043】
位相関数ψ(t)は、範囲[-∞,∞]で変化し、したがって、複素補助関数f(t)の引数φ(t)は、結果として生じる位相関数ψ(t)がゲート持続時間τ(0≦t≦τ)にわたって連続であるように計算される。
【数42】
を満たすarccos関数の枝と、
【数43】
として定義される関数Arg[z]を使用して、位相関数ψ(t)は、
【数44】
として解析的に計算することもでき、ここで、
【数45】
は複素数z=x+iyについて定義され、関数N(t)は、結果として生じる位相関数ψ(t)がゲート持続時間τ(0≦t≦τ)にわたって連続であるように定められる整数であるtのステップ関数である。
【0044】
また、離調周波数関数μ(t)は、解析的に計算された位相関数
【数46】
と解析的に計算された振幅関数Ω(t)を用いて、
【数47】
として解析的に計算することができ、ここで、ψ’(t)、Ω’(t)、g(-)’(t)は、それぞれ位相関数ψ(t)、振幅関数Ω(t)、パルス関数g(-)(t)の時間微分である。本明細書の実施形態において解析的に計算される振幅関数Ω(t)及び位相関数ψ(t)は、時間領域で値が急激に変化しない連続関数であることに留意されたい。
【0045】
IV.最適化回路コンパイラ
量子計算では、量子コンピュータ上の少数のキュービットに作用する量子論理ゲートのシーケンスを含む量子回路を適用することによって、計算が実行される。特定の量子コンピュータシステム(本明細書で説明する例では、トラップイオン型量子コンピュータ(TIQC))に最適化された量子回路は、実用的な実装に必要なリソースを削減し、大規模量子計算を可能にするために有利である。
【0046】
本節は、以下のように構成されている。第IV.A小節では、従来のゲートセット及びトラップイオン型量子コンピュータ(TIQC)ゲートセットの定義及び表記を紹介する。第IV.B小節では、標準的ゲートセットで構築された量子回路を前処理する方法を提示する。第IV.C小節では、標準ゲートセットで構築された量子回路を標準TIQCゲートセットで構築された量子回路に変換する効率的な方法を提示する。第IV.D小節では、標準TIQCゲートセットにおける多数の最適化サブルーチンを提示する。第IV.E小節では、位相非感受性TIQCゲートセットに適用可能な最適化サブルーチンを説明する。図7は、従来のゲートセットで構築された既知の量子回路を位相非感受性TIQCゲートセットで構築された量子回路に直接的に変換するために使用され得る前処理、変換、及び最適化プロセス700のフロー図を示す。
【0047】
IV.A ゲートセットの定義及び表記
従来の量子ゲートセット
量子論理操作を実行する回路を構築するための従来の量子ゲートセットには、単一キュービットゲートであるNOTゲート、ハダマードゲートH、及び位相シフトゲートR(θ)と、2キュービットゲートであるCNOTゲートとが含まれる。NOTゲートは、キュービット状態を反転させる(すなわち、キュービット状態│0>、│1>をそれぞれ│1>、│0>に変換する)。ハダマードゲートHは、キュービット状態│0>と│1>を、それぞれ
【数48】

【数49】
に変換する。位相シフトゲートR(θ)は、図5に示すブロッホ球のZ軸周りの回転に対応し、キュービット状態│0>と│1>を、それぞれ
【数50】

【数51】
に変換する。これらのゲートは、マトリックス形式で表され、以下のように表記される。
【数52】
【0048】
いくつかの実施形態では、ブロッホ球のY軸周りの回転に対応するRゲート、及びブロッホ球のX軸周りの回転に対応するRゲートなどの他の単一キュービットゲート([φ](θ)ゲート)が、量子回路を構築するために使用される。これらの単一キュービットゲートは、ハダマードゲートHと位相シフトゲートR(θ)の組み合わせとして形成できることに留意されたい。いくつかの他の実施形態では、S:=R(π/2)、T:=R(π/4)、及びこれらの逆数が、ゲートセット内の単一キュービットゲートの一部として使用される。
【0049】
トラップイオン型量子コンピュータのゲートセット
トラップイオン型量子コンピュータ(TIQC)では、異なるゲートセットが使用されることがある。トラップイオン型量子コンピュータにおける標準ゲートセット(「標準TIQCゲートセット」と呼ばれる)には、単一キュービットゲートである[φ](π)及び[φ](π/2)と、2キュービットゲートである[φ][φ’](π/2)とが含まれる。
【数53】
ここで、σφ=cos(φ)σ+sin(φ)σであり、σ及びσは、それぞれパウリx行列及びy行列である。いくつかの実施形態では、[φ]及び[φ][φ’]ゲートの回転角π又はπ/2は、原則として、例えば、化学系の量子シミュレーションにおいて有用な実自由度を仮定するように変更することができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、量子回路を構築するために、さらにいくつかの2キュービットゲートが追加的に使用される。拡張TIQCゲートセットは、2キュービットゲートであるZZゲート及びSWAPゲートを追加的に含んでもよい。
【数54】
ここで、σはパウリz行列である。
【0051】
一例では、単一キュービットゲートである[φ](π)及び[φ](π/2)と、2キュービットゲートであるZZ(π/2)を含む位相非感受性TIQCゲートセット:
【数55】
が使用される。標準TIQCゲートセットにおける単一キュービットゲート及び2キュービットゲートは、TIQC上で容易に実装することができるが、この位相非感受性TIQCゲートセットは、よりロバストな様式で量子回路を構築するのに使用できることが当技術分野で知られている。その理由は、この位相非感受性TIQCゲートセットと標準TIQCゲートとの間の物理的実現における差異(例えば、単一及び2キュービットゲートの実装に用いられるレーザビームの幾何学的形状)によるものである。
【0052】
古典的ゲートセット
本明細書に記載の量子回路の最適化方法に使用され得る古典的ゲートセットには、SWAPゲートとFLIPゲートが含まれる。
【数56】
【0053】
これらの古典的ゲートは、必要であれば、常に量子コンピュータ上で直接実装することができることに留意されたい。完全なキュービット間接続を提供するTIQCでは、SWAPゲートは、常にキュービットの適切な再インデックスで置き換えることができ、これは古典的操作である。同様に、FLIPゲートは、量子NOTゲートと機能的に等価であり、NOTゲートがキュービットの古典的状態に適用される場合など、可能な限り古典的操作として実装してもよい。
【0054】
表現
量子回路は、従来、以下の2つの表現のいずれかで表現される。その第一は、ネットリストであり、量子回路は、順次適用される量子論理ゲートのリストとして格納される。その第二は、有向非循環グラフ(DAG)表現であり、DAGの頂点は量子回路の量子論理ゲートを表し、DAGのエッジはその入出力関係を表している。この2つの表現間の変換は、効率的であり、当技術分野で知られている。以下に詳細に説明する異なる変換及び最適化ステップをより効率的に実施するために、異なる表現を使用できることは、当業者にとって明らかである。
【0055】
従来のゲートセットで構築された量子回路は、以下の前処理、変換、及び最適化プロセス700において、標準TIQCゲートで構築された量子回路に変換され、最適化される。入力回路と出力回路の両方が、プロセス700の間に全く別々に処理できる古典的ゲートセットのみのゲートで構成される回路事前固定又は事後固定を有し得ると仮定される。従来のゲートセットで構築された量子回路は、まず、ブロック730の後続の変換ステップ及び最適化サブルーチン800で、2キュービットゲートカウントが削減し得るように前処理される。
【0056】
IV.B 前処理
ブロック710では、従来のゲートセットで構築された量子回路を入力として受信する。量子回路が作用するキュービットの数はNであり、従来のゲートセットには、単一キュービットゲートであるNOTゲート、ハダマードゲートH、及び位相シフトゲートR(θ)と、及び2キュービットゲートであるCNOTゲートとが含まれる。
【0057】
ブロック720では、従来のゲートセットを用いて構築された受信量子回路を、まず、プロセス700における回路変換と、以下に詳述するその後の最適化サブルーチン800とをより良く活用するために前処理する。
【数57】
などの置換ルールは、ブロック730の後続の変換ステップ及び最適化サブルーチン800において、そのような置換が2キュービットゲート数のより良い削減を認めるかどうかに応じて、適用してもよい。
【0058】
IV.C 変換
任意の単一キュービットユニタリUは、
【数58】
としてパラメータ化される。ここで、α’、β’、γ’、θは、調整されるパラメータである。標準TIQCゲートセットを用いて単一キュービットユニタリUを実装する場合、上記のユニタリUは、4つの異なるケースに分類することができ、各ケースで、TIQCゲートセットにおける単一キュービットゲートの数が異なる。その4つのケースとは、
・ケースI、[φ]ゲートが不要な場合、
・ケースII、単一の[φ](π)ゲートが必要な場合、
・ケースIII、単一の[φ](π/2)ゲートが必要な場合、及び
・ケースIV、2つの異なる位相角φとφ’を有する2つの[φ](π/2)ゲートが必要な場合
である。
【0059】
ケースI:単一キュービットユニタリUが対角行列である場合、[φ]ゲートは必要ないが、その理由は、グローバル位相まで、この単一キュービットユニタリUは、アイデンティティゲート又はRゲートとして表現できるからである。グローバル位相までアイデンティティゲートである場合、アクションは一切必要ない。グローバル位相までRゲートである場合、Rゲートのアクションは、TIQCゲートセットの位相角の一部として吸収することができる。したがって、ケースIでは、実装すべき単一キュービットユニタリUは、
【数59】
となる。
【0060】
ケースII:単一キュービットユニタリUが非対角行列である場合、単一の[φ](π)だけが、単一キュービットユニタリUを実装するのに必要である。したがって、ケースIIでは、実装すべき単一キュービットユニタリUは、
【数60】
となる。
【0061】
この行列UIIは、
【数61】
のように再パラメータ化することができる。ここで、行列の乗算部分は、[φ](π)と等価である。
【0062】
ケースIII:θがπ/2の奇数整数倍でβ’=0のとき、実装すべき単一キュービットユニタリUは、
【数62】
となる。この行列UIIIは、
【数63】
のように再パラメータ化することができる。ここで、行列の乗算部分は、[φ+π](π/2)と等価である。
【0063】
ケースIV:他の全てのケースにおいて、2つの[φ](π/2)ゲートが、単一キュービットユニタリUを
【数64】
として実装するのに必要である。ここで、φ=θ-π+φ’、φ’=α’+β’+3π/2、φ’’=θ+2β’である。
【0064】
次いで、従来のゲートセットで構築された量子回路は、標準TIQCゲートで構築された量子回路に変換される。
【0065】
ブロック730では、従来のゲートセットで構築された受信量子回路は、出力として、標準TIQCゲートで構築された量子回路に変換される。
【0066】
まず、Nのサイズを有する単一キュービットユニタリのアレイが作成され、アイデンティティに初期化される。次に、受信量子回路に現れる各ゲートを出現順に検索する。検索したゲート又はゲートの組み合わせが位相シフトゲートR(θ)と交わるとき(すなわち、測定結果に影響を与えずに検索したゲートと位相シフトゲートR(θ)の順序を逆にできるとき)、
【数65】
であり、位相シフトゲートR(θ)は、検索したゲートの後に配置してもよい。検索したゲートが、キュービットインデックスq上のNOTゲート、ハダマードゲートH、又は位相シフトゲートR(θ)である単一キュービットゲートであるとき、q番目の位置の単一キュービットユニタリ配列に対するゲートの行列表現は、単に乗算される。これにより、受信量子回路内の全ての単一キュービットゲートをループするプロセス中に、各キュービットに適用する必要がある単一キュービットユニタリUが、任意のタイミングで効果的に格納される。検索したゲートが2キュービットゲート(すなわち、CNOTゲート)であるとき、CNOTゲートは、標準TIQCゲートセットを用いて、
【数66】
のように構築してもよい。ここで、vとsは±1であってもよく、vとsは、結果として得られる出力量子回路が少数の単一キュービットゲートを含むように選択されてもよい。v=1、s=1の例では、制御キュービット上に[π/2](π/2)ゲートを蓄積する必要があり得るが、[-π](π/2)操作は、[0][0](π/2)ゲートを介して交換されてもよい。同様に、ターゲットキュービット上では、[-π](π/2)操作も、交換されてもよい。制御キュービットとターゲットキュービットの両方について選択がなされると仮定すると、ケースI~IVは、[0][0](π/2)ゲートの前に、2つのキュービット上の単一キュービットゲートの変換に、単に使用されてもよい。交換するかしないかの具体的な選択は、原則として、上記のケースI~IVに基づいて(ケースIが最も好ましく、ケースIVが最も好ましくない)、変換量子回路に必要な単一キュービットゲートの数を最適に減らすために行うことができる。両キュービット上のプレ[0][0](π/2)単一キュービットゲートと[0][0](π/2)ゲートが変換プロセスにおいて考慮されると、制御キュービットとターゲットキュービット上の単一キュービットユニタリアレイがリセットされて、アイデンティティに再初期化する。各キュービット上の[-π](π/2)ゲートが交換されたか否かに応じて、対応するキュービットインデックスに対するゲートの行列表現が乗算される場合とされない場合があり、次に、制御キュービットの単一キュービットユニタリに対する[3π/2](π/2)のゲート行列表現が乗算される。
【0067】
従来のゲートセットで構築された受信量子回路のゲートがなくなるまで上記の手順を繰り返し適用すると、Rゲートまで、標準TIQCゲートセットで構築された変換量子回路になる。明示的なR依存性を除去するために、以下の
【数67】
のRゲート伝搬規則を考慮する。変換量子回路の端に存在し得る伝播されたRゲートは、回路の端がキュービット基底における測定を意味する場合、落とすことができる。注意すれば、この伝搬プロセスは、上述の各単一キュービット又は2キュービットゲート変換手順と並行して、簡単に実装することができる。実装の詳細に関係なく、変換プロセスの複雑さは、O(g)であり、ここで、gは、従来のゲートセットで構築された受信量子回路のゲート数である。
【0068】
IV.D 最適化サブルーチン
ブロック740において、標準TIQCゲートセットで構築された変換量子回路は、図8に示すように、以下のサブルーチン800で最適化される。
【0069】
ブロック810において、(サブルーチン:[φ](π)伝搬)において、標準TIQCゲートセットで構築された変換量子回路で発生する[φ](π)ゲートの全ては、量子回路から除去するか、量子回路の端に伝搬させることができる。特に、
【数68】
であり、Rゲートが再び導入される。したがって、追加の規則、すなわち
【数69】
を含めることが好都合である。
【0070】
上記の規則を繰り返し適用することにより、量子回路の一番端にある[φ](π)ゲートの可能な例外を除いて、[φ](π)ゲートは、量子回路から排除することができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、これらの補助Rゲートは、伝搬プロセスが完了すると、クリーンアップサブルーチンによってクリーンアップされ得る。以下、この最終Rクリーンアップ処理は、[φ](π)伝搬サブルーチンの一部として含まれる。このサブルーチンの出力回路は、標準TIQCゲートセットで構築されている。このサブルーチンの複雑さは、O(g)である。
【0072】
ブロック820において(サブルーチン:[φ](π/2)マージ)において、[φ](π/2)ゲートに対して、2股アプローチが取られ、まず、[φ](π/2)ゲートを、より最適化に適したゲートを形成するために別の[φ’](π/2)ゲートと結合することができるか、別のゲートを通して伝搬することができるかが決定される。そして、与えられた[φ](π/2)の組み合わせや伝播の機会を特定することができない場合、[φ](π/2)ゲート最適化のために考慮された伝播は元に戻される。そうでなければ、組み合わせの機会が見つかるまで伝播は継続される。
【0073】
組み合わせ回路は、
【数70】
である。伝搬回路は、
【数71】
であり、Rゲートが含まれる。したがって、追加のルール、すなわち
【数72】
を含めるのが好都合である。Rクリーンアップサブルーチンは、上記のルールが適用された直後に使用され、[φ](π/2)ゲートカウントを最適化する。以下、[φ](π/2)マージは、このクリーンアップ操作を含む。このサブルーチンの出力回路は、標準TIQCゲートセットで構築されている。このサブルーチンの複雑さは、O(g)である。最大伝搬長を設定することで、複雑さをO(g)に低減することができる。
【0074】
ブロック830において(サブルーチン:[φ][φ’](π/2)マージ)において、[φ][φ’](π/2)ゲートカウントが削減さする。このサブルーチンでは、入力量子回路は、前のサブルーチンの出力であり、標準TIQCゲートセットで構築されている。出力回路は、拡張TIQCゲートセットで構築される。前のサブルーチンと同様に、2股アプローチも使用される。
【0075】
組み合わせ回路は、
【数73】
である。伝搬規則は、
【数74】
である。最適化戦略は、前のサブルーチンと同じである。すなわち、最初に、[φ][φ’](π/2)ゲートが最適化され、上記の伝搬規則を使用して伝搬され、これ以上伝搬が適用できなくなるまで、あるいは組み合わせ規則が適用されるまで、伝搬される。伝播ルールが適用されなくなった場合、又は組み合わせルールが適用されないことが判明した場合、ゲートを非伝播することによって、回路が元の状態に戻される。全ての[φ][φ’](π/2)ゲートを考慮すると、Rゲートは、上述の伝搬規則を使用してクリーンアップされる。このルーチンで使用される拡張TIQCゲートセットには、SWAPゲートが含まれていることに留意されたい。Rゲートの伝搬は、あらゆるSWAP操作に従って適切なキュービットに沿って移動することにより、SWAPゲートの効果を考慮する。このサブルーチンの複雑さは、O(g)であり、これは、最大伝搬長を考慮することによってO(g)に低減され得る。
【0076】
ブロック840(サブルーチン:スワップ・アンワインド(Swap unwind))において、拡張TIQCゲートセットで構築された前のサブルーチンの出力量子回路は、標準TIQCゲートセットで書き直される。このサブルーチンでは、拡張TIQCゲートセットに含まれるSWAPゲートがアドレス指定される。トラップイオンアーキテクチャでは、完全なキュービット接続が提供されることが多いことに留意されたい。この場合、量子SWAPゲートを実装する必要はない。キュービットインデックスは、
【数75】
に従って、SWAP動作の後に、適切に単純に更新することあり、ここで、θは、任意の回転角とすることができる。上記の規則を繰り返し適用することにより、SWAPゲートの全ての発生を量子回路の端まで伝播させることができる。実際には、SWAPゲートによって暗示される転置によって形成されるキュービットの順列は、単に保持されてもよく、キュービットの順列は、各ゲートに適用されてもよい。順列は、量子回路の開始時に各キュービットの固定点に初期化され、後続の各量子ゲートに適用される。順列は、SWAPゲートに遭遇するたびに更新される。量子回路の端に到達すると、キュービットインデックスの順列は保存される。
【0077】
このサブルーチンの複雑さは、量子回路を1回通過すればよいので、O(g)である。
【0078】
ブロック850(サブルーチン:ZZ(±π/2)から[0][0](π/2)への基底変更)では、前のサブルーチンからSWAPゲートが回路全体に伝搬されると、ZZ(π/2)ゲートが予めスワップされる。このサブルーチンでは、回路内の全てのZZ(π/2)ゲートは、単純に
【数76】
のように書き直される。このサブルーチンの複雑さは、O(g)である。
【0079】
ブロック860(サブルーチン:初期ゼロ)において、量子回路の全てのゲートが初期化(すなわち、全てがゼロ、古典的状態などのよく定義された量子状態から開始すること)で始まり、測定で終わることがあるという考察に基づいて、ゲートカウントは、さらに削減される。この場合、しばしば、以下に示す回路アイデンティティを考慮することで、さらにゲートカウントを削減することが可能である。
【数77】
このサブルーチンの複雑さは、O(g)である。
【0080】
ブロック870(サブルーチン:最終測定)において、量子回路における全てのゲートは、その計算基底におけるキュービットの測定で終わり得るという考察に基づいて、ゲートカウントがさらに削減される。つまり、測定前に対角操作がある場合は、測定結果に影響を与えないため、操作を行う必要はない。標準TIQCゲートセットでは、以下の回路アイデンティティが、この文脈で有用である。
【数78】
このサブルーチンの複雑さは、O(g)である。
【0081】
ブロック810及び840のサブルーチンは、量子回路の終端に向かって、それぞれ[φ](π)及びSWAPゲートを伝播することに留意されたい。量子回路が常に全てのキュービットに対する測定操作に続いていると仮定すると、これらの操作は、古典的に適用することができる。具体的には、[φ](π)ゲートに続く測定は、FLIPゲートに続く測定と同等である。
【0082】
IV.D 位相非感受性変換
ブロック750では、標準TIQCゲートセットで構築された量子回路を、位相非感受性TIQCゲートセットで構築された量子回路に変換する。標準TIQCゲートセットと位相非感受性TIQCゲートセットとの唯一の違いは、2キュービットゲートである。標準TIQCセットでは、[φ][φ’]ゲートは、一対のキュービットをもつれせるために使用される。位相非感受性TIQCセットでは、ZZゲートは、一対のキュービットをもつれさせるために使用される。このように、標準TIQCゲートセットで構築された量子回路を、位相非感受性TIQCゲートセットで構築されたものに変換するには、以下の回路アイデンティティを使用する。
【数79】
標準TIQCゲートセットで構築された入力量子回路の[φ][φ’]ゲートの全ての出現に対して示されたアイデンティティを適用すると、位相非感受性TIQCゲートセットで構築された出力量子回路になる。このルーチンの複雑さは、O(g)である。
【0083】
ブロック760では、位相非感受性TIQCゲートセットで構築された変換量子回路が最適化される。いくつかの実施形態では、2キュービットゲート変換プロセスの後に、変換プロセスで導入された可能性のある単一キュービットゲート非効率を除去するために、当該技術分野で既知の単一キュービットゲート最適化ルーチンが適用されてもよい。
【0084】
ZZゲートに基づく位相非感受性TIQCゲートセットは、[φ][φ’]ゲートに基づく標準TIQCゲートセットよりも機敏(nimble)でないが、それは、ZZゲートには自由パラメータがないのに対し、[φ][φ’]ゲートには、追加の量子情報を符号化するために使用できる実自由度が2つあるという点からであることに留意されたい。このため、位相非感受性TIQCゲートセットで構築される量子回路は、標準TIQCゲートセットと同等以上のゲート数を有することが期待される。位相非感受性TIQCゲートセットが提供する利点、例えば、忠実度が高く、位相ドリフトに対する量子ゲートのロバスト性が改善されたことは、潜在的に増加するゲート操作数と慎重に比較検討する必要がある。
【0085】
上記は特定の実施形態を対象としているが、他のさらなる実施形態は、その基本的な範囲から逸脱することなく考案することができ、その範囲は、以下の特許請求の範囲によって決定される。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8