(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】GSM電話と直接通信する衛星通信GSMソリューション
(51)【国際特許分類】
H04B 7/185 20060101AFI20240626BHJP
H04B 7/155 20060101ALI20240626BHJP
H04W 84/06 20090101ALI20240626BHJP
H04W 36/32 20090101ALI20240626BHJP
【FI】
H04B7/185
H04B7/155
H04W84/06
H04W36/32
(21)【出願番号】P 2023546564
(86)(22)【出願日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 US2022015502
(87)【国際公開番号】W WO2022170197
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-10-02
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517362118
【氏名又は名称】エーエスティー アンド サイエンス エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】AST & Science, LLC
【住所又は居所原語表記】100 SE 2nd St,Suite 3500 Miami, Florida 33131, U.S.A
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】ユー ジー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ファウジ フェデリコ ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】アヴェラン アーベル
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/190517(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0240151(US,A1)
【文献】米国特許第11031999(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0290012(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/185
H04B 7/155
H04W 84/06
H04W 36/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアクティブなユーザー機器(UE)が配置されている第1の複数のセルを含む第1の視野を有する第1の衛星と通信する移動体通信用世界的システム(GSM)衛星通信システムであって、前記複数のアクティブなUEは前記第1の衛星と直接通信し、当該衛星通信システムは、
前記第1の複数のセルに直にサービスを提供する前記第1の衛星を介して前記複数のアクティブなUEと通信するように構成された、第1のフィーダーリンクおよび第1の追跡アンテナと、
前記複数のアクティブなUEと通信するように構成された第1の処理装置と、
前記第1の複数のセルの複数のビーム中心に対する遅延を正規化し、正規化された遅延を前記第1の処理装置に提供するように構成された第2の処理装置とを有し、前記第2の処理装置は、さらに、前記第1の複数のセルの前記複数のビーム中心に対してドップラー補償を実行し、補償された周波数を前記第1の処理装置に提供するように構成されて
おり、
地上と、前記第1の衛星から前記第1の複数のセルのうち1つのセルへのビームとの間の仰角が、所定の閾値と同等またはそれ以上である場合、通常の3GPPタイミングアドバンスの範囲が用いられ、
前記仰角が前記閾値より小さい場合、拡大されたタイミングアドバンスが用いられる、GSM衛星通信システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記複数のビーム中心のうちの1つのビーム中心における前記UEのタイミングアドバンスは、前記正規化された遅延を含むタイミングアドバンスの範囲の中間値を有する、GSM衛星通信システム。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1の処理装置は、GSM無線基地局の処理装置であり、
前記第2の処理装置は、GSMフレーム構造に応じて前記第1の複数のセルのビーム中心における遅延を正規化するように構成されている、GSM衛星通信システム。
【請求項4】
請求項1において、
前記第1の処理装置は、前記正規化された遅延に応じて、予想される受信のタイミングを調整し、タイマーを設定するように構成されている、GSM衛星通信システム。
【請求項5】
請求項1において、
前記第1の衛星は、前記第1の複数のセルに対して複数のビームを形成するように構成された複数の位相アレイアンテナ素子を含む、GSM衛星通信システム。
【請求項6】
請求項1において、
前記第1の衛星は、前記第1の衛星が前記第1の複数のセル上を通過するときに、前記第1の複数のセルを追跡するように構成されている、GSM衛星通信システム。
【請求項7】
請求項
1において、
前記閾値が43.183度である、GSM衛星通信システム。
【請求項8】
請求項1において、
前記第1の処理装置は、GSM無線基地局の処理装置であり、
前記第1の処理装置はコアネットワークに接続されている、GSM衛星通信システム。
【請求項9】
請求項1において、
前記第1の追跡アンテナは第1のゲートウェイサイトにあり、
当該GSM衛星通信システムは、さらに
第2のゲートウェイサイトと、
前記第1および第2のゲートウェイサイト間のファイバーリンクとを有する、GSM衛星通信システム。
【請求項10】
請求項1において、
前記第1の処理装置は、GSM無線基地局の処理装置であり、
前記第1の衛星は、前記GSM無線基地局および標準3GPP準拠から変更されていない複数のUEに対してトランスパレントであり、前記第1の衛星は、前記GSM無線基地局の変更された基地局用低PHY(物理層)および変更されていない前記標準3GPP準拠の複数のUEと通信するように構成されている、GSM衛星通信システム。
【請求項11】
複数のアクティブなユーザー機器(UE)が配置されている第1の複数のセルを含む第1の視野を有する第1の衛星と通信する移動体通信用世界的システム(GSM)衛星通信システムであって、前記複数のアクティブなUEは前記第1の衛星と直接通信し、当該衛星通信システムは、
前記第1の複数のセルに直にサービスを提供する前記第1の衛星を介して前記複数のアクティブなUEと通信するように構成された、第1のフィーダーリンクおよび第1の追跡アンテナと、
前記複数のアクティブなUEと通信するように構成された第1の処理装置と、
前記第1の複数のセルの複数のビーム中心に対する遅延を正規化し、正規化された遅延を前記第1の処理装置に提供するように構成された第2の処理装置とを有し、前記第2の処理装置は、さらに、前記第1の複数のセルの前記複数のビーム中心に対してドップラー補償を実行し、補償された周波数を前記第1の処理装置に提供するように構成されており、
前記第1の衛星は第1の沈みゆく衛星であり、
当該GSM衛星通信システムは、第2の視野を有する第2の昇りゆく衛星と通信しており、前記第1の沈みゆく衛星と前記第2の昇りゆく衛星は、前記第1の視野が前記第2の視野と重なる重複する視野を有し、重複する複数のセルが前記重複する視野に位置し、
当該GSM衛星通信システムは、さらに、
第2の複数のセルの複数のアクティブなUEに直接サービスを提供する前記第2の昇りゆく衛星と通信するように構成された、第2のフィーダーリンクおよび第2の追跡アンテナを有し、
前記第1の処理装置は、さらに、前記複数のアクティブなUEを制御して、前記第2の昇りゆく衛星と直接通信するように構成されている、GSM衛星通信システム。
【請求項12】
請求項
11において、
前記第1の処理装置は、指示信号に応答してビームハンドオーバーを開始または終了するように構成されている、GSM衛星通信システム。
【請求項13】
請求項
11において、
前記第1の視野内の前記複数のアクティブなUEは、複数の第1のサービスリンクビームを介して前記第1の沈みゆく衛星と直接通信し、
前記第2の視野内の前記複数のアクティブなUEは、複数の第2のサービスリンクビームを介して前記第2の昇りゆく衛星と直接通信する、GSM衛星通信システム。
【請求項14】
請求項
13において、
前記第1の
追跡アンテナは、第1のフィーダーリンクを介して前記第1の沈みゆく衛星と通信し、
前記第2の
追跡アンテナは、第2のフィーダーリンクを介して前記第2の昇りゆく衛星と通信する、GSM衛星通信システム。
【請求項15】
請求項
14において、
前記第1の処理装置は、さらに、前記第1の沈みゆく衛星との通信を停止するように前記アクティブなUEを制御するように構成されている、GSM衛星通信システム。
【請求項16】
請求項
14において、
前記第1の
追跡アンテナは、前記第1の沈みゆく衛星との通信を停止する、GSM衛星通信システム。
【請求項17】
請求項
11において、
前記第1の処理装置は、
第1の基地局カラーコード(BCC)を用いて、前記第1の沈みゆく衛星を介して、前記重複する視野内の前記アクティブなUEと通信し、
前記アクティブなUEが前記重複する視野内に入ると、第2のBCCを用いて、前記第2の昇りゆく衛星を介して、前記重複する視野内の前記アクティブなUEと通信するように構成されている、GSM衛星通信システム。
【請求項18】
請求項1において、
前記第1の処理装置は、
予想されている受信タイミングを前記正規化された遅延と一致するように調整し、
前記第2の処理装置、前記第1の追跡アンテナ、前記第1のフィーダーリンク、および前記第1の衛星を介して、前記複数のアクティブなUEと通信するように構成されている、GSM衛星通信システム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願との相互参照】
【0001】
本出願は、2021年2月5日に出願された米国仮出願第63/146322号および2021年3月24日に出願された米国仮出願第63/165,404号に対する優先権を主張するものであり、両出願の内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景】
【0002】
最初の世界的な電気通信の成功であるGSMは、地球上でのフットプリント(通信エリア)が最も広く、その商業的成功の要因は、最も長い運用の歴史だけではなく、音声通話の需要を満たす最も安価な携帯電話、さらにはよく知られているSMSである。その主要な更新であるGPRSとEGPRSはまた、モバイルインターネットを開始し、3G、4Gおよび5Gへの道を開いた。
【0003】
通信市場は5Gへとさらに移行しているが、世界のほとんどの地域ではGSMがまだ存在している。世界にはまだ携帯電話を所有したことのない人々が10億人以上おり、彼らにとってGSMサービスを受けることは生活や仕事にとって大きな改善となる。GSMは、多くの後発開発途上国(国連ではLDCと呼ばれている)でも必要とされている。彼らにとって、GSMが繋がることは多大なチャンスをもたらす。それは新たな経済成長を飛躍させ、多くの人々がより良い幸せな生活を送れるようになるだろう。
【0004】
しかしながら、LDCでのGSM地上波ネットワーク構築は、通信用に固定された回線インフラから始める必要があるため、そう簡単ではない。電気がなく、太陽光発電が始まったばかりの場所もある。大半の人々は固定回線による通信システムを全く利用できず、電力供給も100%ではない。また、ケーブル、機器、まばらに存在している資産を安全に維持することに問題を抱えているところも多い。
【0005】
GSMハンドセットやGSM電話のような標準的なGSMユーザー機器(UE)は、通常は35kmまで、拡張TA(Timing Advance、タイミングアドバンス)機能では120kmという近い距離にある地上ベースのセルタワー(通信塔)を有するGSM基地局(BTS)と通信する。しかしながら、衛星との通信が行われない、というのは、例えば、基地局-衛星-UE間の距離による遅延や、7km/sec~8km/secの速度で飛行する衛星が引き起こすドップラー効果などの問題がり、さらに、衛星が通信しているUEの上空を飛行することによる遅延やドップラー効果の動的な変化という問題があり、これはUEが地上にある場合も、飛行中の航空機にある場合も同様である。
【0006】
電力網や地上の通信インフラに頼ることなく、太陽光発電で充電可能なGSM端末と直接通話する衛星通信GSMシステムが必要とされている。これを実現するためには、BTSのSW(ソフトウェア)の変更、遅延の正規化、ドップラー補償が必要であり、本申請で開示されている。
【概要】
【0007】
本開示の出願では、ゲートウェイサイトに格納されたGSM基地局である無線基地局(BTS)の革新的な変更と、新しい衛星RAN衛星ビームハンドオーバー機構とにより、十分な大きさの位相アレイを持つ衛星コンステレーションにより、国や地域全体の主電源や地上レベルの通信インフラに依存することなく、太陽光発電で充電可能なGSM携帯端末と直接通話することを可能とする。本開示のBTS/コアネットワーク(CN)衛星通信GSMは、音声およびデータ通話のために、市販の未変更GSMの複数のUEと直接通話することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
添付の図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する。図面は、本開示のいくつかの実施例のみを示しており、図に具体的に図示されていない他の実施例または様々な実施例の組み合わせは、依然として本開示の範囲内に含まれ得ることを理解されたい。次に、実施例について、図面を用いてさらに詳細に説明する。
【0009】
【
図1A】
図1Aは、衛星の視野(FOV)と遅延との問題における等遅延線(iso-delay)の概要を示す。
【0010】
【
図1B】
図1Bは、遅延正規化後の衛星のFOVにおける中心ビームの遅延差を示す。
【0011】
【
図1C】
図1Cは、遅延正規化後の衛星のFOVの右端におけるビームの遅延差を示す。
【0012】
【0013】
【
図2B】
図2Bは、FoV(Field of View、視野)の中心にあるセルにおけるドップラー補償結果を示す。
【0014】
【
図2C】
図2Cは、FoVの端のセルにおけるドップラー補償結果を示す。
【0015】
【
図3】
図3は、ビームハンドオーバーが起こる場合のLEO衛星通信の視野(FoV)とオーバーラップ(重複する)状況を示す。
【0016】
【
図4】
図4A、4B、4Cは、ゲートウェイの相互接続リンクを示すブロック図。
【0017】
【
図5】
図5は、大型位相アレイアンテナの一例を示す。
【0018】
【
図6】
図6は、ビームハンドオーバープロセスの一例を示す。
【詳細な説明】
【0019】
米国特許出願番号17/583,992は、衛星無線アクセスネットワーク(衛星RAN)におけるビームおよびゲートウェイのシームレスなハンドオーバーを開示しており、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0020】
衛星通信GSMは、標準的なGSM電話のユーザー機器(UE)で動作することを目的としているため、GSM3GPP仕様に基づいている。GSMの詳細は3GPP(登録商標)仕様に記載されている。GSMのフレーム構造は、全ての商用GSM携帯電話が衛星通信GSMで動作することが順守されている。以下は、衛星通信GSMを可能にするGSMBTSの主な革新的変更点である。説明の効率化のため、本文では地上ネットワーク(TN)GSMシステムの詳細な記載は避け、変更点に焦点を当てる。ここでは、携帯加入者(Mobile Subscriber、MS)はユーザー機器(UE)に相当する。
【0021】
GSMフレーム構造は、GSM05.01,Digital cellular telecommunications system(Phase2+);Physical layer on the radio path;General description(GSM05.01)(etsi.org),GSM Technical Specification,Global System for Mobile Communications,Version5.0.0,May1996(以下、「GSM仕様」)に示されており、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。GSM仕様の
図1には、ダウンリンク(DL)とアップリンク(UL)の両方のフレーム構造が記述されており、3タイムスロットのオフセットのレベルでは同じである。衛星GSMの変更は、ULのRxタイミングに対するBTSのソフトウェアについてであり、GSM携帯端末およびBTSのDLに変更を加えることなく、変更されていないGSMのUEの予想(期待値)に合致するDL構造を実現する。BTSのRxタイミングは、ULが3タイムスロットでなくなるため変更が必要であり、衛星中継が関わる場合、ラウンドトリップタイム(RTT)は数10ミリ秒になる可能性がある。
【0022】
GSM仕様の
図1に示されるようなGSM仕様によると、本開示は、BTS12(例えば12A、12B)およびチャネルルーティングおよび補償装置(チャネル経路制御および補償装置、チャネルルーティングアンドコンペンセイションデバイス)10を示し、これらの装置は、衛星通信ネットワークシステムと協働するとき、GSM電話機に変更を加えることなく、GSM電話機をサットホン(すなわち、衛星電話機)に変えることができる。すなわち、本開示のBTS12およびチャネルルーティングおよび補償装置10により、通常のGSM電話機であるUE30は、地上のセルタワーを介さず、通常のGSM電話機に変更を加えることなく、ビーム(16、17など)を介して衛星(20A、20Bなど)と直接通信(直に通信)することができ、通常のGSM電話機であるUE30は、衛星20およびチャネルルーティングおよび補償装置10を介して、BTS12と通信することができる。以下に、衛星を最大限に活用するメカニズムを説明する。
【0023】
例示的な実施形態では、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第11159228号および第10979133号に示されるように、地上に固定されたセルに3GPP無線アクセスネットワーク(RAN)サービスを提供するために、電子的にステアリング(操舵)可能な数100のビームを送出するための大型フェーズアレイを使用することができる。遅延の正規化も適用可能である。ドップラー補償も適用可能である。衛星GW(ゲートウェイ)サイトのBTSファームとの衛星ビームハンドオーバーを有効にすることも可能である。
【0024】
なお、航空機に搭載された通常の電話機も、衛星によって追跡され、サービスを受けることができる。衛星RANシステムにとっては、それはセルが移動する構成にすぎず、地上のセルが配置されているのと同じように簡単にサービスを受けることができる。地上セルは、陸と海とを含む地表に固定されたものであってもよい。
【0025】
時間フレームの構造を図式化したものが、GSM仕様の
図1に示されている。図示の通り、1つのハイパーフレームは2048個のスーパーフレームを持ち、1つのハイパーフレームは2715648個のTDMAフレームを含む。ハイパーフレームは構造の中で最も再帰時間(繰り返し時間)の長い期間であり、継続する時間は3時間28分53秒760ミリ秒(または12,533.76秒)である。TDMAフレームには、このハイパーフレームをモジュロした番号(法とした番号、TDMAフレーム番号、または0~2715647のFN)が付けられ、この長い期間は、GSM03.20で定義されている暗号化のメカニズムをサポートするために必要である。
【0026】
1つのハイパーフレームは2048個のスーパーフレームに分割または対応し、1つのスーパーフレームは6.12秒の持続時間を持ち、1326個のTDMAフレーム(時間分解多重アクセスフレーム)を持つ。スーパーフレームは時間フレーム構造の最小公倍数である。スーパーフレームはそれ自体マルチフレームに細分化され、システムには2種類のマルチフレームが存在する。1つのスーパーフレームは、26フレームを51個含むマルチフレームと、51フレームを26個含むマルチフレームを持つか、またはそれに対応する。26フレームのマルチフレームは120msの持続時間を有し、26個のTDMAフレームから構成される。26フレームのマルチフレームは、TCH(Traffic Channel、通信用チャネル)、およびSACCH/T(Slow Associated Congrol Channel/T、低速付随制御チャネル)とFACCH(Fast Associated Congrol Channel、高速付随制御チャネル)を伝送するために使用される。51フレームのマルチフレームは、約235.4ms(3060/13ms)の持続時間を持ち、51個のTDMAフレームで構成される。51フレームのマルチフレームは、BCCH(Broadcast Congrol Channel、報知チャネル)、CCCH((Common Control Channel、共通制御チャネル(NCH(Notification Channel、連絡チャネル)、AGCH(Access Grant Channel(アクセス承認チャネル))、PCH(Paging Chanerl(ページングチャネル))、RACH(Random Access Channel(ランダムアクセスチャネル)))、SDCCH((Slow Dedicated Control Chanerl、低速個別制御チャネル)およびSACCH/C)の伝送に使用される。1つのTDMAフレームは約4.62msの持続時間を持ち、8つのタイムスロットから構成される。1つのTDMAフレームは8つのタイムスロット(120/26または4.615ms)を持ち、1つのタイムスロットは156.25ビット持続時間(15/26または0.577ms)を持ち、1ビットの持続時間は48/13または3.69μsである。
【0027】
フィーダーリンクおよびサービスリンクのRTT(Round Trip Time、往復時間、往復遅延時間)は、変動が多く、最も長いもの、例えば40msに補償することができ、その後、GSMフレーム長については、近いもの、9TDMAフレーム、または72タイムスロットであり、約RTTが41.5msのものに補償することができ、それは例えば、ルーティングおよび補償装置10(
図3)により提供できる。したがって、GW(デートウェイ、例えば、GWアンテナ、またはGWアンテナを含む)および衛星がサービスを提供する全てのセルはRTT41.5msを有し、衛星GSMシステムで機能するための簡易なBTSの変更のベースラインとなる。RFパス長やTA範囲に応じて他のRTT値を使用することもでき、同じか類似のコンセプトが適用される。
【0028】
衛星(例えば、
図3の20A、20B)は、レイヤー0(RF、最下層の物理レイヤー)のリレーの役割を果たし、ゲートウェイサイト31のBTS(
図3の12A、12Bなど)からDL信号をフィーダーリンク(例えば、Qバンド)で取り込み、ローカルに指定されたライセンスバンドでGSMサービスリンクによって地上のセルにビーミングダウンする(ビームを送る)。その後、GSM電話のUL信号がピックアップされ、衛星によってゲートウェイのBTSに送信される。ランダムアクセスチャネル(RACH)の応答タイマーは15秒(3GPPのTS44.18)であり、RTT41.5msというRFパス遅延が長くても問題ない。BTSの変更点は、主に送受信タイミングを長いRF遅延状況に適合させること、またはそれを含むものである。BTSの主な変更点は、UL受信時間遅延に関するパラメータを、一般的には、タイムスロット単位で構成可能(再構成可能)にすること、またはそれを含むものである。通常のBTSは定数が3タイムスロットに固定されており、本開示により、BTSソフトウェアに対し非常に簡単な変更をするだけで、旧来のUEを、開示された衛星RANの設計で動作させることができる。例えば、BTS(またはBTSの1つ以上の処理装置)は、予想されている(予定されている、期待される)受信タイミングを調整し、正規化された遅延にしたがってタイマーを設定するように構成することができる。
【0029】
遅延の正規化(ノーマライゼーション、ノーマライズ)は、システム内で最も長い遅延パスに信号処理の時間を加えたもので、LEO衛星の場合、DLとULとで20ミリ秒になってもよい。そのため、BTSソフトウェアの修正に必要な好適な例としての数は、GSM仕様の
図1に示されているように、9つのGSMのTDMAフレームである72のGSMタイムスロットである。GSMのUEには、TRxは地上ネットワーク(TN)と全く同じフレーム構造に見え、同様の動作に見えるため、旧来のUEは電話機に変更を加えることなく、サットホン(すなわち衛星電話)に成り代わることができる。
【0030】
GPRS(General Packet Radio Serveice、汎用パケット無線サービス)のRLCレイヤー(Radio Link Congrol、無線リンクコントロール層)のHARQ(Hybrid ARQ、自動再送要求)は、パケットデータ通話において40msを変更なしで許容する。GPRSのUSF(User State Flag、ユーザー状態フラグ)はデコードに1~4バーストかかり、BTSは次のフレームでUE(User Equipment、ユーザー機器))のULを予定し、それは4.615msのみであり、UEのTxがBTSのPCU(Packet Control Unit、パケットコントロールユニット)に到達するまでに20msかかるため、BTS側で修正が必要である。NAS(Non-Access Stratum)タイマーは通常15秒の倍数で使われるため、40ms程度の長いRTTでも問題はない。
【0031】
図1Aから
図1Cは、遅延の問題と遅延の正規化(ノーマライズ)を示している。BTSの修正を簡略化するために、最小の遅延は、BTSからセル中心までの最長のRFパスに正規化される。
図1Aは、衛星視野(FOV)における等遅延コンター(等遅延線)を示し、
図1Bは、遅延正規化後の衛星FOVにおける中心ビームに対する差分遅延を示し、
図1Cは、遅延正規化後の衛星FOVの右端のビームに対する差分遅延を示す。
【0032】
図1Aは、衛星FOV211、衛星軌道経路212、および衛星から送出され、45kmの直径を有するビーム213、214、215を示し、FOVが数千km(緯度および経度で示す)の寸法を有するため、衛星からのRF信号の遅延量は、異なる遅延時間となる。等遅延線216は、遅延が同じである線を示している。等遅延線216の曲線上に重ねた数字は、ms(すなわち、ミリ秒)の単位で遅延量を示す。例えば、等遅延線216の値は3ms、4ms、5msであり、これは3GPPのGSM仕様で許容されるRF遅延の範囲外であり、このような場合、GSM電話が3GPP仕様に準拠した標準のBTSと通話できない。さらに、他の課題もある。
図1Aは、GSMが直面している問題を次のように示している。
・RF遅延が3GPP仕様で定義された範囲(標準は35km、拡張された場合は120km)より長い。
・RF遅延が許容範囲より長く、ビームによって変化する。
・RF遅延の合計には、フィーダーリンクの遅延もカウントする必要がある。フィーダーリンクはGWSとLEO衛星間のリンクであるため、3GPPの仕様から大きく外れるだけでなく、衛星の位置によっても変化する。
【0033】
課題を解決するためには、2つのステップまたはプロセスを実行することが必要であり、これには、遅延を正規化して一定の遅延にするステップ1、および一定の遅延に適応するようにBTSソフトウェア(SW)またはプログラム命令を修正するステップ2が含まれる。BTSは、BTSのための機能または処理を実行するように構成された1つまたは複数の処理装置を含むことができ、例えば、BTSソフトウェア(SW)またはプログラム命令を変更することにより一定の遅延に適応する機能または処理を実行するようにすることができる。修正されたBTSソフトウェア(SW)またはプログラム命令は、例えば、BTSの記憶装置に格納されてもよい。
【0034】
ルーティングおよび補償装置(ルーティングアンドコンペンセイションデバイス、経路制御および補償を行う装置)10(
図3)は、ビーム213、214および215(例えば、ビーム213、214および215のビーム中心)の様々なRF遅延に様々な人工的な遅延を付加して、ビーム中心において一定の遅延を達成することができる(遅延を一定にすることができる)。例えば、0ms、1ms、2msの人工的な遅延を、それぞれ5ms、4ms、3msの遅延を有する3つの等遅延線216におけるビーム中心に加えることができ、それにより、3つの等遅延線216におけるビーム中心の遅延を同じ値である5msにすることができる。FOV内の全てのセルについて時間遅延を正規化することにより、遅延の変動範囲を3GPP仕様の許容遅延範囲内にすることができ、BTSのSWの簡易な変更で、長いRTTの問題に対処することが可能になる。
【0035】
図1Bは、中心ビームに対するステップ1の効果を示す図である。
図1Bは、FOV211の中央ビーム213に対し遅延の差分が等しい線217を示している。遅延時間の正規化は全てのセル中心に対して行われるため、全てのセルに対して残される遅延はセル内の任意の点からセル中心までの相対的な遅延であり、中央ビーム213に対する遅延の差分が等しい線(等差分遅延線)217に示されるように1マイクロ秒未満である。
図1Cは、FOV211の右端にあるビーム214に対し遅延の差分が等しい線(等差分遅延線)218を示している。217、218で示す差分遅延は、遅延時間の範囲に関していずれも3GPP仕様の範囲内であり、これはBTSとUEとの両方で3GPP仕様を適用するための基本条件である。このようにすることの重要なポイントは、BTSのSWを変更することによって、BTSを変更するだけで通常のGSM電話で動作することを可能にし、通常のGSM電話に変更を加えることなく、通常のGSM電話を衛星電話に変えることである。特定の例では、BTSのSWは、正規化された遅延と一致するように、または互換性があるように変更することができる。
【0036】
変動する遅延を一定の値にする(定数化する)ことで、変更を大幅に簡素化することができ、さらに重要なことは、これによりBTSとUEとの両方で衛星を透過的に(意識せずに)利用できるようになることである。たとえば、BTSとUEとの両方が衛星にトランスペアレントである(衛星を意識せずに利用できる)場合、BTSとUEとが、どの衛星とゲートウェイ(たとえば、ゲートウェイアンテナ)とに接続するかを知る必要はない。いくつかの例では、BTSおよびUEは、衛星およびゲートウェイのアンテナが関連していることすら知る必要がないという効果がある。いくつかの例では、タイミングアドバンスは、セルの様々な位置にいるUEに対処するための標準的なメカニズムであり、最大70マイクロ秒までの遅延変動に対応できればよい。
【0037】
遅延は、例えば、衛星のエフェメリス(衛星歴)、GWまたはGWS(ゲートウェイ局)の位置および地球の回転、および/またはセルの位置の関数となり得、また、人工的な遅延は、ルーティングおよび補償装置10(
図3)内の処理装置によって、遅延正規化のために導入または追加されることができ、例えば、FPGAまたはASIC信号処理装置であってもよく、それは衛星ネットワーク(NW)制御システムから(または衛星NW制御システムの監督下にある)指示信号を受信し、指示信号に応答して遅延正規化を実行することができ、正規化された遅延がBTS(
図3の12A、12Bなど)に対して一定に見えるようにすることができる。
【0038】
ルーティングおよび補償装置10は、例えば、2つのアンテナ14Aおよび14B並びにBTS(12Aおよび12Bなど)に対して正しいチャネル信号を提供し、ルーティング(経路制御)を実行するように構成されたルーティング装置、および/または、各ビーム中心に対する遅延を正規化し、各ビーム中心に対するドップラー効果を動的に補償し、正規化された遅延および補償された周波数をそれぞれのBTSに提供する1つ以上の補償装置を含んでもよい。1つまたは複数の補償装置は、例えば、1つまたは複数の処理装置を含んでもよい。
【0039】
UE(またはMS)ごとに遅延は異なるが、セルの中心に対して中心から外れた場所でのこのようなばらつきは小さいものである(例えば、より小さい(23km)地上のセルでローミングする程度であり、3GPP仕様で定義された動作範囲内である)。
【0040】
図2Aは、衛星RANのもう1つの課題である、ドップラー効果が3GPP指定の制限を大幅に超えることを示している。
図2Aは、LEO衛星が7.5km/sの速度で周回することの結果としてのドップラー問題を示している。等ドップラー線(等ドップラー曲線、ドップラーが等しいところを結ぶ線)316は、ドップラー効果によって同じ周波数オフセット(周波数偏移)が発生する線であり、線上に数字で示されている。この周波数オフセットは、仕様で許容される範囲を遥かに超えているため、UEが処理するには大きすぎ、フィーダーリンク上ではさらにドップラーシフトが発生する。等ドップラー線316の周波数オフセットは、サービスリンク上のドップラー効果のみであり、等ドップラー線316の等ドップラーの値は12000Hz以上になるが、3GPPが想定するドップラーシフトは数100Hzである。衛星RANのドップラー補償メカニズムは、周波数オフセット(例えば、セル中心への)でビームを補償し、ドップラー効果を3GPPの許容範囲内に収めるようにすることである。
【0041】
図2Bは、FoV211の中心にある中心ビーム213のセルのドップラーを補償した結果の図であり、UEが動作可能な解決策の例を示している。等差分ドップラー線(ドップラーの差分が等しい部分を示す曲線、等差分ドップラー曲線)317の差分ドップラーは、700Hz未満の値を示す。差分ドップラー(例えば、等差分ドップラー曲線317の差分ドップラー)は、ビーム中心(またはセル中心)においてドップラーを補償した後の残留ドップラーの周波数オフセットであり、0Hzが示される。ドップラー補償において、ビーム中心(またはセル中心)のドップラーオフセットは0となる。各ビーム中心から離れると、残りのドップラーオフセット(またはビーム中心に対する差分ドップラー)は大きくなり、多くの場合、UEがビーム端またはセル端に移動するにつれて大きくなるが、ドップラー補償後のドップラーオフセットは、3GPPが想定するドップラー範囲を超えることはない。このアプローチにより、衛星RANのユースケースは、3GPP仕様に戻り、衛星GSMが通常の複数のGSMUEと直接通信できる。
【0042】
図2Cは、FoV211の端におけるセル214のドップラー補償結果の図であり、残留するドップラー効果は、GSM仕様で定義されたGSMUEの能力の範囲内である。等差分ドップラー線318の差分ドップラーは400Hz未満の値を有し、したがって、セル214内のGSMUEは3GPP仕様によってそれを扱うことができる。
【0043】
FPGAまたはASIC信号処理装置などの、ルーティングおよび補償装置(経路制御および補償装置)10の1つまたは複数の処理装置によって、ドップラー補償を実行することができる。いくつかの例では、ルーティングおよび補償装置10の1つまたは複数の処理装置により、衛星エフェメリスおよびGWS31のゲートウェイアンテナの緯度-経度-高度(すなわち、緯-経-高)およびセル位置に応じて、ドップラー事前補償がDLで実行され、事後補償がULで実行される。事前補償とは、ドップラー効果が発生する前に逆の周波数オフセットを加える処理であり、事後補償とは、ドップラー効果が発生した後に逆の周波数オフセットを加える処理である。
【0044】
ドップラー効果は、速度、方向角(方位角)の変化、および/または相対位置に関係する。そのため、衛星経路(またはUE上を通過する期間)において、ドップラー効果は自然に異なることがある。ドップラー補償(事前補償、事後補償など)は、衛星が通過中のドップラー変動を動的に補償することができる。
【0045】
いくつかの例では、ハンドオーバー中の突然のドップラーシフトは、ルーティングおよび補償装置10の1つまたは複数の処理装置によってGSM仕様内に収まるように補償することができ、衛星が通過する前に、補償の詳細を事前にアレンジまたは事前に構成しておくことができる。
【0046】
事前補償はビーム間で行われ、ビームの中心座標(緯度経度)に基づいている。UE位置に基づく小さな残留ドップラーは、GSM仕様の範囲内である。
【0047】
衛星モビリティを可能にするために、本開示は、衛星通信システムにおいてBHOを実行する方法を提供する。
図3は、LEO衛星通信のFoVおよびビームハンドオーバー(BHO)が起こる重複する状況を示す。
図3は、本開示の一実施形態によるゲートウェイサイト(GWS)31を示す。ゲートウェイサイト(GWS)31は、ルーティングおよび補償装置10、指向性ゲートウェイアンテナ14Aおよび14B、並びに複数のBTS(無線基地局、例えば、eNodeBまたは処理装置)12Aおよび12Bを含む。GWS31は、沈みゆく(下降する)衛星20Aおよび昇りゆく(上昇する)衛星20Bを介してユーザー機器(UE)30と通信する。衛星20A、20Bは、それぞれの沈みゆく衛星のTRxビーム(無線ビーム、トランシーバービーム)16および昇りゆく衛星のTRxビーム17を介して複数のUE(例えば30)と通信する。これらのUEはアイドル状態であってもよく、それらのアイドルUEは、セルをモニタし、必要なとき(例えば、ページングのため)にセルの再選択およびトラッキングエリアの更新を実行するだけでよく、ビームまたは衛星ハンドオーバー(BHO)においてBTSがそれらの面倒を見る必要はない。BHOでは、アクティブなUEのみが対象となる。アクティブUEは、通話中のUEであるか、通話中のUEを含み、下降中の衛星ビームから上昇中の衛星ビームに移動(移行)するためにBTS専用の制御が必要である。ルーティングおよび補償装置10は、アンテナ14Aおよび14Bを介し、それぞれのアウトバンドビーム14、15を介して衛星20A、20Bと通信する。
【0048】
衛星20A、20Bは、RAN(無線アクセスネットワーク)信号のFoV50A、50Bを地表にそれぞれ有する。沈みゆく衛星20Aは、沈みゆく衛星のFoV(セッティングFoV、沈みゆくFoV、下降中のFoV)50Aを有し、このFoV50A内の複数のセル51内の複数のUEに直接(例えば、地上のセルタワーなしで、さらに、通常の複数のGSMUEまたはGSM電話に変更を加えることなく)、DLおよびUL上の稼働中の(サービス中の、サービング)ビームで通信することができる。昇りゆく衛星20Bは、昇りゆく衛星のFoV(ライジングFoV、昇りゆくFoV、上昇中のFoV)50Bを有し、DLおよびULのサービングビームにより、FoV50B内の複数のセル52内の複数のUEと(例えば、地上のセルタワーなしで、通常の複数のGSMUEまたはGSM電話機に対していかなる変更もなしに)直接通信することができる。下降中および上昇中のFOV50Aおよび50Bは、重複領域(重複する領域)50ABにおいて重複する(または少なくとも部分的に重複する)。沈みゆく衛星20Aは、下降中、すなわち、地上局アンテナ14Aによる現在のフットプリント50Aから離れ、昇りゆく衛星20Bは、上昇し、地上局アンテナ14Bによるフットプリント50Bにサービスを提供する。一実施形態においては、BHOは、重複するFOV領域50ABの内側に位置する複数のセル51hに対して発生する。
【0049】
衛星20A、20Bは、ゲートウェイアンテナ14A、14Bを介して、ルーティングおよび補償装置10にリンクしている。BTS12A、12Bの処理装置は、GSM制御チャネル上で、衛星20A、20Bを介して複数のUEとの通信を制御する(GSM仕様書の
図1を参照)。衛星通信システム5は、地上局またはGWS31を含み、GWS31は、アンテナ14A、14Bを介して2つの衛星20A、20Bと通信するファーム(eNodeBまたはBTSファームなど)3およびルーティングおよび補償装置10を含む。衛星が重複する領域50AB内のビームHOセル51h内に複数のUE30が存在してもよい(ここでは、重複する地上の複数のセルを51hとラベル付けし、重複しない複数のセルを51、52とラベル付けする。衛星が経路または軌道22に沿って地球の周りを周回するにつれて、セル51は52に変更されることになる)。複数のUE30がビームHOセル51h内にある場合、それらのUE30は、より具体的には「複数のUE30h」として参照される。
【0050】
第1の衛星20Aは、下降し、それにより地上局アンテナ14Aによる現在のフットプリント50Aから離脱し、第2の衛星20Bは、上昇し、それにより地上局アンテナ14Bによるフットプリント50Bにサービスを提供する。
【0051】
重複する領域50AB内の複数のセル51hでは、例えば、1つまたは複数のHOセル51h内のアクティブな複数のUEに対して衛星ビームハンドオーバ(BHO)を行うことになる。すなわち、セル51が重複する領域(重複エリア)50ABに入ると、それらの重複するセル51hの通信を、沈みゆく衛星のビーム16hから昇りゆく衛星のビーム17hに切り替えるために、衛星ビームハンドオーバープロセスが開始される。なお、ビーム16hおよび17hは、ビーム16および17の他のビームとはわずかに異なり、ビーム16hおよび17hは、BHOでは同じBTS12Aからのものであり、それは以前においては沈みゆく衛星20Aに関連付けられていたが、ビームHO(BHO)では、BTS12Aは沈みゆく衛星20Aおよび昇りゆく衛星20Bの両方に関連付けられることになる。ビーム16hは、ビーム16と同じように、ベース局カラーコード(Base-station-colour-code、BCC)13A(1)を維持する。しかしながら、その最優先事項はデータトラフィックではなく、ビーム17hへのアクティブなUEのHOであり、ビーム17hは、同じBTS12Aが別のRFポート12A(2)上で、昇りゆく衛星20Bを介して新たに開始されたものであり、異なるBCC13A(2)を持つ。ビーム17hは昇りゆく衛星のビームに新たに追加され、BHO期間中は16hと17hとが共存する。したがって、BHOは、沈みゆく衛星20Aと昇りゆく衛星20Bとの複数の衛星が重複するセル51hでのみ発生する。HOビーム17hは、ユーザートラフィックのために同じ構成を維持し、ビーム17の1つとなる。
【0052】
図3は、ある1つのセルのBTS12Aを示しており、それは2つの衛星20Aおよび20Bにサービスを提供する2つのGWアンテナ14Aおよび14Bを介してDL信号およびUL信号を送出する2つのRFポート12A(1)および12A(2)を有し、あるセルの各ベースバンドユニット(BBU)は、BTS12Aの2つのRFポート12A(1)および12A(2)への2つのTRx経路のためのフィーダーリンク14/15を介してHOサービスリンク16h/17hのためのビーム信号を提供する。新たに追加されたビーム17hは、細線で示すインタフェース1214Bを有するターゲットGWアンテナ14Bから開始する。さらに、BHO後、ビーム17hがビーム17の1つになると、BHOセルは50Bの現在の複数のセルとパック(一体に)され、BTS12Bに対応するようになり、IQストリームでゲートウェイアンテナ14Bインタフェースに供給され、そのような信号は、BTS上では12Aから12Bへ、GWアンテナでは14Aから14Bへ、フィーダーリンク14から15へ引き渡され、衛星20Aから20BへのBHOを達成する。その後、BHOセルのデータは衛星20Aから供給される必要はなくなり、20Bから供給されるようになる。これは2つのセルのHOとして同等に扱える。なお、デフォルトでは各セルに2つのRFポートがあり、BHOは短期間だけそのうちの1つを借りることができ、初期の衛星RANが、フィーダリンクのバンド幅を節約するために1T1Rを用いて地球規模でのカバーを提供していることを考慮すると、余分なハードウェアは必要ない。MIMOの運用では、1つのポートを一時的にBHOに使用できる。いくつかの例では、衛星GSMシステムは、同じハンドオーバーセルにオーバーラップ(重複)している2つの衛星からの2つのビームにより、UEのRF状態を同期してハンドオーバーさせることができる。
【0053】
この動作において、各衛星20A、20BのFOV内のセル51、52は、指定されたRFポートを介してそれぞれのBTS12A、12Bと通信する。具体的には、沈みゆく衛星20AのFoV50A内の複数のセル51は、沈みゆく衛星20Aを介し、第1のビーム16を介して通信する。沈みゆく衛星20Aは、第1のGWアンテナ14Aを介し、第1の(プライマリ)RFの送受信(TRx)ポート12A(1)を介して、ゲートウェイサイト31におけるクラスタ12CAの1つまたは複数の第1のBTS(例えば、eNodeB)12Aと通信する。そして、昇りゆく衛星20BのFOV50B内の複数のセル52は、昇りゆく衛星20Bを介し、第2のビーム17を介して通信する。そして、昇りゆく衛星20Bは、第2のアンテナ14Bを介し、第1の(プライマリ)RFのTRxポート12B(1)を介して、クラスタ12(CB)の1つまたは複数の第2のBTS(例えば、eNodeB)12Bと通信する。各BTSは、単一のセル51、52と通信してもよい。
【0054】
セルがオーバーラップ領域(重複領域、重複する領域)50ABに入ると、スムーズでシームレスなBHOがトリガーされる(開始される)。ビームHOの際(その期間)には、2つのRFポート(12A(1)と12B(1)など)が別々に利用されるが、簡略化のため、両方の衛星についてSIMO(Single Input Multiple Output、1入力多出力、1送信多受信)の構成だけを図示する。非重複エリアのセル51、52は、2つのRFのTRxポート12A(1)、12B(1)のうちの1つだけを使用し、各フットプリントでは、通常のユーザーデータトラフィックの動作のために独自のビーム16、17を有する。BTS12Bは、第1のBCC13B(1)を使うプライマリRFのTRxポート12B(1)と、第2のBCC13B(2)を使う第2の(セカンダリ)RFのTRxポート12B(2)とを有する。
【0055】
図6は、例示的なビームハンドオーバープロセスを示す。
図3および
図6の両方を参照すると、アクティブなセル51が重複する領域50ABに入ると、衛星通信システムは、BTS(例えば、eNodeB)にBHOを開始するように指示する(
図6の701)。例えば、BTSは、アクティブなセルが重複領域50ABに入ったときに衛星通信コムシステムから送信されるBHOの開始の指示信号を受信することに応答して、BHOを開始してもよい。複数のセル51が重複する領域50ABに入ると、BHOがオンとなり、それらのセル51はBHOセル51hとなり、複数のビーム16はビーム16hとなり、複数のUE30はUE30hとなる。BHOは、重複する領域50ABで発生する。全てのアクティブなUEを沈みゆく衛星のビーム16から昇りゆく衛星のビーム17に移動させるプロセスが開始される。
【0056】
BTS12Aは、ビーム16hを第1のBCC13A(1)の第1のRFポート12A(1)を介して維持したまま、ビーム17hのために第2のBCC13A(2)の第2のRFポート12A(2)をオンに切り替える(
図6の702)。ソースビーム16hおよびターゲットビーム17hは、それぞれ、2つの異なるBCC13A(1)および13A(2)を持って、地面に固定された同じ物理セル51h上に重畳される。したがって、セル51h内の複数のUE30hは、ビーム16hおよび17hを2つの異なるセルに対応するものとして認識することができ、BCCを交互に使用することによって衛星BHOを実現することができる。BTSの2つのRFポート12A(1)、12A(2)は、2つのRF経路16h、17hおよび2つの衛星20A、20Bを介して、セル51hにピンポンBBC(ピンポンのように順番に異なるBCC)を配信する。
【0057】
アクティブなセル51h内の全てのアクティブなUEが新しいビーム17hに引き渡される(ハンドオーバーされる)ことに応答して、アクティブなセル51h内のアクティブなUEのために古いビーム16hを維持したり用意しておく必要がないため、2つの重複するビーム16hおよび17hの後方にいるBTS12A(例えば、BTSのeNodeBまたはベースバンドユニット(BBU))は、古いビーム16hをオフに切り替える(またはオフに切り替えるように制御する)(
図6の703)。BTS12Aが第2のアンテナ14Bおよび昇りゆく衛星20Bを介してセカンダリポート12A(2)でセル51h内の複数のアクティブなUE30hと通信すると、BTS12Aは、プライマリポート12A(1)および第1のアンテナ14Aを介してセル51h内の複数のアクティブなUE30hと通信することを停止し、セル51hは、セカンダリRFポート12A(2)および第2のアンテナ14Bを介してBTS12Aと通信し続けることができ、クラスタ12CAのそれぞれのBTS(例えば、eNodeBまたはベースバンドユニット(BBU))は、クラスタ12CBのBTS(例えば、eNodeBまたはBBU)12Bになり、または置き換えられ、さらに、クラスタ12CAのBTS12AのそれぞれのセカンダリRFポート12A(2)およびBCC13A(2)は、クラスタ12CBのBTS12BのプライマリRFポート12B(1)およびBCC13B(1)になるか、または成り代わることができる。
【0058】
2つのGWアンテナ14A、14Bおよび2つの衛星20A、20Bを介した2つのRFポート12A(1)、12A(2)からの共存するビーム16h、17hは、BHOの信頼性を向上させることができる。BTS12Aは、ビーム17hが引き継がれたときに、ビーム16hのみをオフにし、BHOは、セルに対するBTS(例えば、BTSのeNodeBまたはBBU)を変更することまではしなくてもよく、BHOの前後で同じBTSがサービスするため、全てのアクティブなUEのコンテキストが保持され、必要に応じてシームレスに効果を得ることができる。BHOの後、ビーム17hはビーム17になり、複数のUE30hは次のBHOまで一般的なUE30に戻る。
【0059】
BHOの詳細については、米国特許出願番号17/583,992を参照することができ、LTEのシナリオで使用される物理セルID(PCI)がGSMのシナリオのBCCに置き換えられることに留意されたい。例えば、PCI13A(1)はBCC13A(1)と置き換えることができ、PCI13A(2)はBCC13A(2)と置き換えることができ、PCI13B(1)はBCC13B(1)と置き換えることができ、PCI13B(2)はBCC13B(2)と置き換えることができる。
【0060】
図4A、4B、4Cは、ゲートウェイの相互接続リンクを示す。特定のゲートウェイは、数100から1000km以上離れている場合があり、異なるゲートウェイサイト(異なるゲートウェイサイト31、32など)の稼働中の(サービス中の、サービング)BTSを有するセル間のUEのモビリティに対応している。
【0061】
図4A、
図4B、
図4Cは、セル51からセル53へのUEモビリティ(移動性)を確保するためのゲートウェイハンドオーバー(GHO)の例を示す(
図3にて図示)。GHOは、準備(
図4A)、実行(
図4B)、および完了(
図4C)の3つのフェーズを有することができる。
【0062】
準備段階(
図4A)において、UE30はGWS31内のソースGWのBTSに接続され、そこからコアネットワーク35に接続される。いくつかの例では、コアネットワーク35は複数のノードによって形成され、これらのノードは、モビリティ管理、認証、セッション管理、ベアラの設定、および様々なサービス品質の適用など複数の機能を提供する。ある時点で、UE30が、ターゲットGWのBTSが異なるGWS32であるセル53に移動すると、そのターゲットGWのBTSは、ビームHOのハンドオーバー通知を受信し、ターゲットGWのBTSは、新規に参入したもののタイミングを受信し、そのUEおよびアクティブなサービスを正確に知ることにより、コアネットワークが、そのトラフィックを正しいBTSに再ルーティング(リルート)する。実行フェーズ(
図4B)の間、そのUE30はGWS32内のターゲットGWのBTSに接続されるが、トラフィックはゲートウェイ相互接続リンク(転送リンク、フォワードリンク)34を介してGWS31内のソースGWのBTSにルーティングされ、その後コアネットワーク35にルーティングされる。最後に、完了フェーズ(
図4C)では、UE30はGWS32のターゲットGWのBTSに接続され、そこからコアネットワーク35に接続される。このように、衛星20とコアネットワーク35との間の通信は、本来、ソースGWS31のソースGWのBTSを経由したものが、GWS32のターゲットGWのBTSに渡される(転送される)。
【0063】
図5は、ビルドイン大型位相アレイ衛星602の例を示す。位相アレイ衛星602は、地上の複数の固定したセルに連続的なサービスを提供するために電子的にステアリング可能な複数の(例えば、数100の)ビーム17を形成する複数の位相アレイアンテナ素子603を含む。GWS追跡アンテナ14Bからのフィーダーリンク15は、衛星とGWSとの間のDLおよびULメカニズムを提供しており、衛星は、同時に多数のGWSと通信することができる。衛星20A、20Bは、それぞれ、例えば、大型位相アレイ衛星602になり得る(または、有することができる)。
【0064】
複数のGSMUE(またはMS(携帯加入者))と通信する衛星通信技術の第1の課題は、モビリティ、ページング、およびロケーションエリアが全てセルに基づくため、GSMUEが把握している地上ネットワーク(TN)の展開と同じようにセルを提供することである。衛星通信は、地上でのタワー、アンテナのようなインフラストラクチャおよび装置の必要性は回避できるが、
図3に示すように、衛星20A、20BのFOV下のセル51、52に衛星からのビームを提供して、未変更のUE(または未変更のMS)が稼働または動作するするようなBTSが、ゲートウェイサイトのBTSファームに依然として必要とされる。
【0065】
第1の課題に対する衛星通信GSMの革新的なソリューションの例を以下に示す。
【0066】
いくつかの例では、
図3に示すGWS31や他のGWSなどの地上の複数のゲートウェイサイト(GWS)は、地球上に分布しており、十分な数の衛星を制御することにより、それらのFOV50A、50Bにより地表をカバーすることができる。
【0067】
ある実施例では、各衛星20Aまたは20Bは、十分な数の位相アレイアンテナ素子(アンテナ素子603など)を有し、これらの素子は、地表の衛星FoV内の多くのセルにサービスを提供するために、TxおよびRx用の数100のビームを形成するのに十分な素子を有する。これらの衛星がセル51、52を通過するとき、各セルは、サービングビーム(サービス中のビーム)を取得し、それらの衛星は、各地上セル上の通過または経路(22)の間、それらのセルを追跡している。
【0068】
別の例では、LEO(低軌道)を周回し、複数の軌道面に分布する衛星が十分にあれば、動的に地表全体をカバーすることができる。沈みゆく衛星(20Aなど)は、昇りゆく衛星(20Bなど)にサービスを中断することなくスムーズに引き渡すことができる。
【0069】
GWS(31など)は次に多数のDL信号を所定のパッキングの順番で複数の衛星に送り、それらの衛星が複数のビームをアレンジ(準備)して、それらを予め用意され固定された複数のセルに配信し、それにより多数のビームがそれぞれのDLを複数のセルに配信するように整えられる。
【0070】
同じ位相アレイ(または同じ位相アレイアンテナ素子)を用いて、各セルのRxビームを形成することができ、各セルでは、BTS(12A、12Bなど)に対するのと同様にUL信号を受信することができる。
【0071】
衛星通信を、未変更のGSM電話で使えるようにするためには、BTS側で変更することが必要であり、特に、通常、10kmを超えないタワーに対して稼働するのに対し、700kmのLEO軌道のフィーダーリンクおよびサービスリンクという長いRF経路に起因する追加の遅延を処理するための変更が必要である。
【0072】
第2の課題は、GWS-衛星-UE間の距離に起因する遅延であり、遅延は約5~16msになる可能性があり、
図1Aで示されるように、それは衛星がセル上を飛ぶと動的に変化する。BTSおよびUEは、それらの衛星が何時、どの段階で関与するかは予想できないので、そのような要因をBTSおよびUEが処理することは困難になり得る。問題は、(1)BTSおよびUEは、衛星がどの瞬間にどこにいるか分からないこと、および(2)そのような変動は、
図1に示されるように、GSM仕様のGSMのフレーム構造を乱すことである。
【0073】
第2の課題に対する第2の革新的な解決策の例としては、最も長いRFパスに対応する遅延を取得し、以下に示すような(これらに限定されないが)様々な要因の遅延に対処(を含めてしまう、をカウント)することである。
【0074】
まず、各衛星と地球上の各セルの情報、例えば、それらの位置(緯度、経度、高度)などは十分に把握され、完全にGWSの管理下にある。
【0075】
複数のBTS(12A、12Bなど)は、IQ形式のDL信号を生成し、ルーティングおよび補償装置10およびアンテナ14A、14Bに渡し、さらに、サービス中の(サービング)衛星(20A、20Bなど)に渡し、サービス中の衛星は、対応するセル(51、52など)内の複数のUEに渡す。UL信号は、それらのセル(51、52など)内の複数のUEからサービス中の衛星(20A、20Bなど)へ、そして、アンテナ14A、14Bおよびルーティングおよび補償装置10へ、さらにBTS(12A、12Bなど)へ戻る。
【0076】
いくつかの例では、ビームの位置に応じて、異なる量の人工的な遅延が導入され、その遅延はルーティングおよび補償装置10の遅延およびドップラー補償器によって正規化され、各IQ上の積(プロダクト)を生成するために必要な位相を有する複素ユニット(コンプレックスユニット)を使用して、BTS(12A、12Bなど)によって観測される際に一定の遅延および予想周波数を有するようにされる。例えば、衛星(21A、20Bなど)の位置、およびGWS31のGWアンテナ(14A、14Bなど)およびUEの位置(例えば、地上からの高度)に応じて、レイテンシー(待ち時間)または遅延は変化し得る。補償または正規化された遅延が、衛星の位置に関係なく、BTS(12A、12Bなど)によって観察される(見られる)のと同じ値(またはほぼ同じ値)を有するように、人工的な遅延を追加することができる。そして、一定の遅延(一定化された遅延)はBTSのソフトウェア(SW)の修正によって処理することができるため、遅延の問題は単純化され、BTSは衛星がLEO上のどこにあるかを考慮する必要がなくなる。全てのBTSは、衛星がどこにあるかに関係なく、同じかまたは同様の方法で動作することができる。
図1Bおよび
図1Cに示すように、残留遅延の差は小さく、仕様で定義された範囲内である。
【0077】
残留するタイミング差はBTSの許容範囲内であるため、そのような残留するタイミング差はBTS(12A、12Bなど)の通常のタイミングアドバンス(TA)制御で対応可能である。したがって、実装が簡素化され、信号処理が効率化される。
【0078】
いくつかの例では、セルサイズが48kmの場合、通常の3GPPTA範囲は35kmまでである(または35kmに対応する)ため、仰角acos(35/48)=43.183°であれば、セルサイズが48kmの場合であってもビーム差分TAを35kmにすることができる。ここでは仰角は、地上と、衛星からセルへのビームとの間の角度のことである。仰角が43.183°より大きい場合、ビーム差TAは通常の3GPPのTAの範囲内に収まる。仰角が43.183°より小さい場合は、拡張されたTAの範囲を使用する必要がある。BTS(12A、12Bなど)では、通常の3GPP関連RATのTA範囲および/または拡張TA(GSM用)範囲を使用できる。
【0079】
遅延量は、ルーティングおよび補償装置10の遅延補償器によって構成することが可能であり、例えば、FPGA処理装置およびメモリに必要な時間だけIQ信号を保持することができ、各セルのセンターのUEが、3GPPのTA範囲などのTA値の範囲の中点値である中間のTA値を有するようにすることができる。
【0080】
システムの同期メカニズムについては、DL/ULはGPSクロックに従い、LTEと同様にUTC(Coordinated Universal Time、協定世界時)に同期する(BTSによって実行または制御される)。
【0081】
いくつかの例では、ゲートウェイ-衛星-UEの長いRFパス遅延に対応するために、BTSに変更が加えられる(通常のDLとULは通常通り3タイムスロットのままであってもよい)。必要な変更の1つはタイマーに関するものである。Txから、UEのULからの予想されるRx信号までのギャップをより長く(例えば、41.5ms+3タイムスロット期間)設定できるように、BTSのタイマーが設定される。いくつかの例では、片方向のギャップは20msの場合がある。
【0082】
固定待ち時間(数GSMフレーム)により、特別に長いRACH遅延をさらに処理することができ、BTS(12A、12Bなど)は最初の数RACHを受信できず(またはスキップし)、後のRACHに応答してもよい。RACHを受信するためのBTS側のGSMタイマーは、問題がない程度に十分長く設定してもよい。衛星通信GSM用のGSMRACHの良い点は、最も強い電力レベルで開始することであり、衛星が受信をミスすることがない。いくつかの例では、電力レベルは30dBmである。したがって、衛星(20A、20Bなど)はRACHを受信し、タイマー設定期間(たとえば、15秒)内に応答することができる。
【0083】
第3の課題は、
図2Aに示すように、衛星速度が7km/sec~8km/secになることによるドップラー効果である。
【0084】
GWS(31など)は、
図2Bおよび
図2Cに示すように、各セルの位置のDL信号およびUL信号のドップラー効果を補償するように構成することができる。この目的のために、ルーティングおよび補償装置10の、遅延およびドップラー補償装置を使用することができる。残留するドップラー効果は、例えば、±600Hz以内とすることができる。残留するドップラー効果は十分にGSM仕様の範囲内であるため、通常のGSMUEとBTSの両方が円滑に動作する。
【0085】
UEのUL信号の復路において、GWSは、ドップラー効果の補償と遅延の正規化においてBTSのDL信号に対してと同じ(または同様の)処理を行うことができる。
【0086】
第4の課題はUSF(ユーザー状態フラグ)の処理である。TN(地上ネットワーク)の展開では、BTSは次のフレームでULのTxを予定するが、衛星通信の場合RFパスが長いので、ULのTxにはもっと長い時間がかかる。したがって、GPRS/EGPRSのパケットデータでは、延長され(拡大され)正規化された遅延時間でUL信号を予定するようにBTSのソフトウェアを変更することができる。このような変更により、RTTによる遅延の問題を適切に調整することができる。特定の例では、BTSソフトウェアを延長され正規化された遅延時間でUL信号を予定するように変更することができ、延長され正規化された遅延時間と一致するように、または延長され正規化された遅延時間と互換性があるようにすることができる。
【0087】
第5の課題は、地上の複数のセルにおけるビームトラッキングであり、衛星から衛星へのビームハンドオーバーおよびゲートウェイハンドオーバーの処理である。これは、低軌道(LEO)の衛星が地球の周りを回転しており、さらに、地球が自転していることによるものである。解決策は、衛星通信GSMシステムに組み込まれた以下の機能を組み合わせることである。
【0088】
衛星(20A、20Bなど)は、巨大な位相アレイ(または位相アレイアンテナ素子)を含むことができ、ビームフォーミングすることにより、地上セルとそのサービング(サービス中の)衛星との間の相対位置が変化するにつれてビームを動的にステアリングすることが可能であり、サービス中の複数のセルは、そのセルが衛星のFOV内にある限り追跡される。
【0089】
オーバーラップ領域(重複する領域、例えば、50AB)で、衛星のFoV(例えば、50A、50B)はそれら同士がオーバーラップ(重複)し、サービスが必要とされる地上にギャップ(空間、空きエリア)を残さないようにカバーする。
【0090】
あるセルが沈みゆく衛星20AのFOV50Aからシフトアウトするとき、そのセルは昇りゆく衛星20BのFOV50Bにも入る。2つの衛星20A、20B間のビームハンドオーバーは、そのセルが2つの衛星20A、20Bの重複する領域50ABにある間に実行される。
【0091】
各BTSは、
図3に示すように、2つのBTSRFポート12A(1)および12A(2)にそれぞれ割り当てられた2つのBCC13A(1)および13A(2)を有し、各BTSRFポートは、2つの衛星20Aおよび20Bにサービスを提供するルーティングおよび補償装置10に対してIQベースバンド信号をストリーミングしており、2つの衛星20Aおよび20Bは、ビームハンドオーバーセル51hがあるオーバーラップ(重複する)FOVエリア50ABを有する。2つのビーム16hおよび17hは同じセルに重なっており、BTSはビームHOを開始し、UEに対し、そのセルに供給されている別のBCCを有する昇りゆく衛星ビームを検知するように指示し、その別のBCCのビームは、BTSが昇りゆく衛星用に生成したものである。
【0092】
沈みゆく衛星20Aと昇りゆく衛星20Bの重複する領域で、そのUEから測定レポートを取得した後、そのBTSは昇りゆく衛星20Bを使用して、そのUEへのサービスを継続できる。ビームHOはシームレスに達成される。
【0093】
図4に示すように、ゲートウェイハンドオーバーは、ゲートウェイ配置が適当なときに行われ、1つの衛星は2つのGW(
図4に示すGWS31および32のGWなど)を見ることができ、その衛星のFoVが2つのゲートウェイ(例えば、2つのGWアンテナ)によってサービスを提供されるセルを有しているような配置である。衛星には、関連する複数のGWと通信できる十分なトランスポンダー(中継器)があり、衛星はそれら複数のセルにサービスを提供できるものである。GWハンドオーバーは、衛星がそれらのセルを通過するときに行われる。
【0094】
TN(地上ネットワーク)の展開(ディプロイメント)と同様に、CS(Circuit Switched、回線交換)およびPS(Packet Switched、パケット交換)サービスに対して、コアNW(ネットワーク)のGW/BTSへのサポートが想定(または提供)される。GWのHO(すなわちGHO)は、
図4および関連する文章で説明したように、3つのフェーズを経ることができる。タイミングと手順はTNと同様であり、転送リンク(フォワードリンク)34(ファイバリンクなど)を介してより長い距離をカバーできる。
【0095】
第6の課題は、UEモビリティ(UEの移動性)のサポートであり、2つのセル間でセルハンドオーバーを行う際に、それらのセルのBTSが互いに遠く離れた(例えば1000km離れた)2つのゲートウェイサイトにある場合である。これはGSM仕様の標準機能であるが、衛星通信で実現するメカニズムには、
図4に示すような特定のゲートウェイ間のリンクが必要である。このHOは、制御チャネルからトラフィックへのセットアップと、HO後の余分なリンクのクリアダウンとの間の3つのフェーズを含む。これらのフェーズには、上述したような衛星通信無線の革新的なアプローチ(第1から第5の課題に対処するためのアプローチなど)が含まれ、複数のサイトと複数のエンティティとの間で実行される3GPPのHOプロトコルを、TNの展開(ディプロイメント)におけるプロトコルと同様に有効にする。RTT40msに対応するために、いくつかのタイマーを調整する必要がある。例えば、2Gでは、ほとんどのタイマーが5秒から15秒に設定されているため、GWや衛星によってもたらされる長い遅延に対する耐性がある。
【0096】
本開示では、BTS/コアネットワークの解決と改善により、衛星GSMは、音声およびデータ通話のために商用GSMUEと直接通話できる。
【0097】
ある例では、本開示の衛星通信システムにおいて、ゲートウェイの配置は、複数のゲートウェイの、複数の衛星がサービスする複数のセルが、円滑なGWHOのためにそれらのゲートウェイに対し見通し線(LOS)を有するものである。
【0098】
このように、本開示は、第1の複数のUE30が配置される第1の複数のセル51を含む第1の視野50Aを有する第1の衛星20Aと通信するGSM(Global System for Mobile Communications)衛星通信システム5を提供する。UE30は、第1の衛星20Aと直接通信する。システム5は、第1の複数のセル51に直接サービスを提供する第1の衛星20Aを介して複数のアクティブなUE30と通信するように構成された第1のフィーダーリンク14および第1の追跡アンテナ14Aを含む。システム5はまた、複数のアクティブなUE30と通信するように構成された第1のBTS12A(例えば、第1の処理装置)と、第1の複数のセル51の複数のビーム中心に対する遅延を正規化し、正規化された遅延を第1のBTS12Aに提供するように構成されたルーティングおよび補償装置(例えば、第2の処理装置)とを備える。ルーティングおよび補償装置10は、遅延を正規化し、ドップラー効果を補償し、正規化された遅延および補償された周波数をBTS12に提供することによって、BTS12Aが第1の衛星20Aを介してUE30との通信を許容することを可能にし得る。本開示において、セル51内に残留するタイミング差は、BTS12Aの通常のタイミングアドバンス(TA)制御で処理することができ、それは遅延正規化後に残留するタイミング差がBTS12Aの許容範囲内だからである。この衛星RANの設計の利点は、2つの技術が互いに透過的(トランスパレント)である衛星RAMを製造することであり、すなわち、そのBTS(またはeNBおよびgNB)およびUEは、それらがどの衛星およびゲートウェイと通信する必要があるかを管理する必要がなく、一方、衛星側の技術(テクノロジー)は、RANの詳細を管理する必要がなく、しかしながら、通信条件としてのRF条件を提供することができる。複数の衛星と複数のUEとの間にダイレクトにリンクするための物理的なメカニズムは、衛星上の十分な大きさの位相アレイであり、またはそれを含むことである。BTSとUEは通常通りモデム動作を実行し、一方、BTS(またはeNBおよびgNB)は、数10ミリ秒の長いRTTを処理するために必要な修正を備えていればよい。
本書には、複数のアクティブなユーザー機器(UE)が配置されている第1の複数のセルを含む第1の視野を有する第1の衛星と通信するGSM衛星通信システムが開示されている。前記複数のアクティブなUEは前記第1の衛星と直接通信し、当該衛星通信システムは、前記第1の複数のセルに直にサービスを提供する前記第1の衛星を介して前記複数のアクティブなUEと通信するように構成された、第1のフィーダーリンクおよび第1の追跡アンテナと、前記複数のアクティブなUEと通信するように構成された第1の処理装置と、前記第1の複数のセルの複数のビーム中心に対する遅延を正規化し、正規化された遅延を前記第1の処理装置に提供するように構成された第2の処理装置とを有する。前記第2の処理装置は、さらに、前記第1の複数のセルの前記複数のビーム中心に対してドップラー補償を実行し、補償された周波数を前記第1の処理装置に提供するように構成されてもよい。前記複数のビーム中心のうちの1つのビーム中心における前記UEのタイミングアドバンスは、前記正規化された遅延を含むタイミングアドバンスの範囲の中間値を有してもよい。前記第1の処理装置は、GSM無線基地局の処理装置であり、前記第2の処理装置は、GSMフレーム構造に応じて前記第1の複数のセルのビーム中心における遅延を正規化するように構成されていてもよい。前記第1の処理装置は、前記正規化された遅延に応じて、予想される受信のタイミングを調整し、タイマーを設定するように構成されていてもよい。前記第1の衛星は、前記第1の複数のセルに対して複数のビームを形成するように構成された複数の位相アレイアンテナ素子を含んでもよい。前記第1の衛星は、前記第1の衛星が前記第1の複数のセル上を通過するときに、前記第1の複数のセルを追跡するように構成されていてもよい。地上と、前記第1の衛星から前記第1の複数のセルのうち1つのセルへのビームとの間の仰角が、所定の閾値と同等またはそれ以上である場合、通常の3GPPタイミングアドバンスの範囲が用いられ、前記仰角が前記閾値より小さい場合、拡大されたタイミングアドバンスが用いられてもよい。前記閾値が43.183度であってもよい。前記第1の処理装置は、GSM無線基地局の処理装置であり、前記第1の処理装置はコアネットワークに接続されていてもよい。前記第1の追跡アンテナは第1のゲートウェイサイトにあり、当該GSM衛星通信システムは、さらに、第2のゲートウェイサイトと、前記第1および第2のゲートウェイサイト間のファイバーリンクとを有してもよい。前記第1の処理装置は、GSM無線基地局の処理装置であり、前記第1の衛星は、前記GSM無線基地局および標準3GPP準拠から変更されていない複数のUEに対してトランスパレントであり、前記第1の衛星は、前記GSM無線基地局の変更された基地局用低PHY(物理層)および変更されていない前記標準3GPP準拠の複数のUEと通信するように構成されていてもよい。前記第1の衛星は第1の沈みゆく衛星であり、当該GSM衛星通信システムは、第2の視野を有する第2の昇りゆく衛星と通信しており、前記第1の沈みゆく衛星と前記第2の昇りゆく衛星は、前記第1の視野が前記第2の視野と重なる重複する視野を有し、重複する複数のセルが前記重複する視野に位置し、当該GSM衛星通信システムは、さらに、第2の複数のセルの複数のアクティブなUEに直接サービスを提供する前記第2の昇りゆく衛星と通信するように構成された、第2のフィーダーリンクおよび第2の追跡アンテナを有し、前記第1の処理装置は、さらに、前記複数のアクティブなUEを制御して、前記第2の昇りゆく衛星と直接通信するように構成されていてもよい。前記第1の処理装置は、指示信号に応答してビームハンドオーバーを開始または終了するように構成されていてもよい。前記第1の視野内の前記複数のアクティブなUEは、複数の第1のサービスリンクビームを介して前記第1の沈みゆく衛星と直接通信し、前記第2の視野内の前記複数のアクティブなUEは、複数の第2のサービスリンクビームを介して前記第2の昇りゆく衛星と直接通信してもよい。前記第1のアンテナは、第1のフィーダーリンクを介して前記第1の沈みゆく衛星と通信し、前記第2のアンテナは、第2のフィーダーリンクを介して前記第2の昇りゆく衛星と通信してもよい。前記第1の処理装置は、さらに、前記第1の沈みゆく衛星との通信を停止するように前記アクティブなUEを制御するように構成されていてもよい。前記第1のアンテナは、前記第1の沈みゆく衛星との通信を停止してもよい。前記第1の処理装置は、第1の基地局カラーコード(BCC)を用いて、前記第1の沈みゆく衛星を介して、前記重複する視野内の前記アクティブなUEと通信し、前記アクティブなUEが前記重複する視野内に入ると、第2のBCCを用いて、前記第2の昇りゆく衛星を介して、前記重複する視野内の前記アクティブなUEと通信するように構成されていてもよい。前記第1の処理装置は、予想されている受信タイミングを前記正規化された遅延と一致するように調整し、前記第2の処理装置、前記第1の追跡アンテナ、前記第1のフィーダーリンク、および前記第1の衛星を介して、前記複数のアクティブなUEと通信するように構成されていてもよい。前記第1の複数のセルは、陸および海を含む地表に固定された地上の複数のセルであってもよい。前記第1の複数のセルは、1つまたは複数の航空機上の移動セルであり、前記複数のアクティブなユーザー機器(UE)は、前記1つまたは複数の航空機に搭載されていてもよい。
本書には、複数のアクティブなユーザー機器(UE)が配置される第1の複数のセルを含む第1の視野を有する第1の衛星と通信するGSM衛星通信システムが開示されている。前記複数のアクティブなUEは、前記第1の衛星と直接通信し、当該衛星通信システムは、前記第1の複数のセルに直接サービスを提供する前記第1の衛星を介して前記複数のアクティブなUEと通信するように構成された、第1のフィーダーリンクおよび第1の追跡アンテナと、第1の処理装置とを有し、前記第1の処理装置は、前記第1の追跡アンテナ、前記第1のフィーダーリンク、および前記第1の衛星を介して、前記複数のアクティブなUEと通信し、予想される受信タイミングを、前記第1の複数のセルの複数のビーム中心の正規化された遅延に対応して調整するように構成されている。GSM衛星通信システムは、前記第1の複数のセルの複数のビーム中心に対する遅延を正規化し、前記正規化された遅延を前記第1の処理装置に提供するように構成された第2の処理装置を有し、前記第1の処理装置は、前記第2の処理装置、前記第1の追跡アンテナ、前記第1のフィーダーリンク、および前記第1の衛星を介して、前記複数のアクティブなUEと通信するように構成されていてもよい。前記第2の処理装置は、さらに、前記第1の複数のセルの複数のビーム中心に対してドップラー補償を実行し、補償された周波数を前記第1の処理装置に提供するように構成されていてもよい。前記第1の処理装置は、GSM無線基地局の処理装置であり、前記第2の処理装置は、ルーティングおよび補償装置の処理装置であってもよい。
【0099】
図面に図示された例示的で非限定的な実施形態を説明する際に、明確さのために特定の用語に頼る。しかしながら、本開示は、そのように選択された特定の用語に限定されることを意図するものではなく、各特定の用語は、同様の目的を達成するために同様の方法で動作する全ての技術的等価物を含むことを理解されたい。いくつかの実施形態が例示の目的で記載されているが、本明細書および特許請求の範囲は図示された実施形態に限定されるものではなく、図面に具体的に示されていない他の実施形態も本開示の範囲内にあり得ることが理解される。