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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】接合体及びパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/13 20060101AFI20240626BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20240626BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20240626BHJP
【FI】
H01L23/12 C
H01L25/04 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024516525
(86)(22)【出願日】2023-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2023041137
【審査請求日】2024-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2022188488
(32)【優先日】2022-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】尹 江
(72)【発明者】
【氏名】小宮 勝博
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/008920(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/004579(WO,A1)
【文献】特開2022-166447(JP,A)
【文献】特開2021-31310(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203787(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/13-23/15
H01L 25/07
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素板と、金属板と、前記窒化ケイ素板の主面と前記金属板の主面とを接合するろう材層と、を備え、
前記窒化ケイ素板の厚さ方向に沿うようにして前記窒化ケイ素板を切断して得られる切断面のうち、前記金属板の側部における外縁の直下を含み、前記窒化ケイ素板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値が1.9%以下であ
前記切断面の前記領域に含まれる前記気孔の円相当径の最大値が10μm以下である、接合体。
【請求項2】
前記窒化ケイ素板の厚みが0.2mm以上である、請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記金属板の厚みが0.5mm以下である、請求項1に記載の接合体。
【請求項4】
バンドギャップが1.12eVを超える半導体材料で構成される半導体素子が搭載される回路基板である、請求項1に記載の接合体。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載に接合体と、当該接合体の前記金属板と電気的に接続される半導体素子と、を備えるパワーモジュール。
【請求項6】
前記半導体素子を構成する半導体材料のバンドギャップが1.12eVを超える、請求項に記載のパワーモジュール。
【請求項7】
前記窒化ケイ素板の厚みが0.35mm以下である、請求項に記載のパワーモジュール。
【請求項8】
前記接合体における前記金属板の厚みが0.3mm以上である、請求項に記載のパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接合体及びパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モーター等の産業機器、及び電気自動車等の製品には、大電力制御用のパワーモジュールが用いられている。このようなパワーモジュールには、半導体装置から発生する熱を効率的に拡散するとともに、漏れ電流を抑制するため、セラミック板と回路パターンを備える回路基板が用いられている。例えば、特許文献1では、セラミック板と回路パターンとを接合するろう材層における接合ボイド率を所定値以下に低減することが提案されている。
【0003】
半導体装置には、ワイドギャップ半導体を用いることが提案されている(例えば、特許文献2)。ワイドギャップ半導体を用いた半導体装置は、Si半導体を備えた半導体装置よりも、耐圧性及び耐熱性に優れる。このようなワイドギャップ半導体は、耐圧性に優れ、高温動作が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/022133号
【文献】特開2018-200918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パワーモジュール等の電子部品は、高性能化及び小型化が図られている。これに伴って、電子部品に用いられる各種製品の信頼性の要求レベルが益々高くなっている。例えば、ワイドギャップ半導体を用いた半導体素子が搭載される回路基板等の接合体は、高温下において従来よりも高い絶縁性能を有することが求められる。
【0006】
そこで、本開示は、高温下における絶縁信頼性に優れる接合体を提供する。また、本開示は、そのような接合体を備えることによって信頼性に優れるパワーモジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、以下のセラミック焼結体を提供する。
【0008】
[1]セラミック板と、金属板と、前記セラミック板の主面と前記金属板の主面とを接合するろう材層と、を備え、前記セラミック板の厚さ方向に沿うようにして前記セラミック板を切断して得られる切断面のうち、前記金属板の側部における外縁の直下を含み、前記セラミック板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値が2.0%以下である、接合体。
【0009】
接合体に、例えば半導体素子等が搭載されると、半導体素子の発熱等に伴って温度が変動する。ここで、セラミック板と金属板とは熱膨張率が異なるため、接合体の温度変化に伴ってセラミック板には熱応力が生じる。この熱応力は、セラミック板のうち、金属板の端部近傍の部分で最も大きくなる。したがって、このような接合体の金属板に高電圧が印加されると、接合体の温度の上昇に伴って、セラミック板のうち金属板の端部近傍の部分で絶縁破壊が生じやすくなる。上記[1]の接合体では、大きい熱応力が生じる部分に相当する、金属板の外縁の直下を含み且つセラミック板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値を十分に低くしている。このため、上記接合体の高温下における絶縁破壊を十分に抑制することができる。したがって、上記接合体は高温下における絶縁信頼性に優れる。
【0010】
上記[1]の接合体は、以下の[2]~[5]のいずれか一つであってもよい。
【0011】
[2]前記切断面の前記領域に含まれる前記気孔の円相当径の最大値が10μm以下である、上記[1]に記載の接合体。
[3]前記セラミック板の厚みが0.2mm以上である、[1]又は[2]に記載の接合体。
[4]前記金属板の厚みが0.5mm以下である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の接合体。
[5]バンドギャップが1.12eVを超える半導体材料で構成される半導体素子が搭載される回路基板である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の接合体。
【0012】
上記[2]の接合体は、セラミック板の上記領域における気孔の円相当径の最大値が10μm以下である。大きな気孔があると、そこを起点に絶縁破壊が生じやすくなる。気孔の円相当径の最大値を小さくすることによって、絶縁信頼性のばらつきを十分に低減することができる。したがって、上記[2]の接合体は、高温での絶縁信頼性に一層優れる。上記[3]の接合体におけるセラミック板は十分な厚みを有することから、高温下における絶縁の耐久性を向上することができる。上記[4]の接合体では、金属板の厚みが0.5mm以下であることによって、セラミック板に生じる熱応力を小さくすることができる。したがって、高温での絶縁信頼性を一層向上することができる。上記[5]では、高温下における絶縁性能に優れる接合体を、バンドギャップが1.12eVを超える半導体材料で構成される半導体素子が搭載される回路基板として用いることによって、高周波で駆動することが可能なパワーモジュールを得ることができる。
【0013】
本開示の一側面は、以下のパワーモジュールを提供する。
【0014】
[6]上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の接合体と、当該接合体の前記金属板と電気的に接続される半導体素子と、を備えるパワーモジュール。
【0015】
上記パワーモジュールは、半導体素子とともに高温での絶縁性能に優れる上記接合体を備える。したがって、上記パワーモジュールは信頼性に優れる。
【0016】
上記[6]のパワーモジュールは、以下の[7]~[9]のいずれか一つであってもよい。
【0017】
[7]前記半導体素子を構成する半導体材料のバンドギャップが1.12eVを超える、[6]に記載のパワーモジュール。
[8]前記セラミック板の厚みが0.35mm以下である、[6]又は[7]に記載のパワーモジュール。
[9]前記接合体における前記金属板の厚みが0.3mm以上である、[6]~[8]のいずれか一つに記載のパワーモジュール。
【0018】
上記[7]のパワーモジュールは、バンドギャップが大きい半導体材料で構成される半導体素子を有することから、高周波で駆動して制御性能を向上することができる。このようなバンドギャップの大きい半導体を用いると、半導体素子の発熱量が増大する。そこで、上記[8]のとおりセラミック板の厚みを小さくすることによって、接合体を小型化するとともに放熱性を向上することができる。また、上記[9]のとおり、金属板の厚みを大きくすることによって放熱性を向上して、信頼性を一層高くすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示は、高温下における絶縁信頼性に優れる接合体を提供することができる。また、本開示は、そのような接合体を備えることによって信頼性に優れるパワーモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、接合体の平面図である。
図2図2は、接合体の厚さ方向に沿う断面図である。
図3図3は、セラミック板の厚さ方向に沿うようにして切断して得られる切断面のうち、金属板の側部における外縁の直下を含み、セラミック板の主面から深さ200μmまでの領域を模式的に示す拡大断面図である。
図4図4は、パワーモジュールの断面図である。
図5図5は、レーザー回折・散乱法による焼結助剤粉末の体積基準の粒子径分布の一例を示す図である。
図6図6は、製造方法の一例において焼結が進行するときの粒成長のイメージ例を示す図である。
図7図7は、V-t試験を行う検査装置の一例を模式的に示す図である。
図8図8の(A)は、走査型電子顕微鏡による実施例1のセラミック板の切断面の画像を示す写真(500倍)であり、図8の(B)は、当該画像を二値化処理して示す図である。
図9図9は、従来の製造方法において焼結が進行するときの粒成長のイメージを示す図である。
図10図10は、走査型電子顕微鏡による、従来の成形体(セラミックグリーンシート)の切断面(200倍)と、当該切断面に含まれる焼結助剤粉末の凝集体の写真である。
図11図11の(A)は、走査型電子顕微鏡による比較例1のセラミック板の切断面の画像を示す写真(500倍)であり、図11の(B)は、当該写真を二値化処理して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、「~」の記号で示される数値範囲は、下限値及び上限値を含む。すなわち、「A~B」で示される数値範囲は、A以上且つB以下を意味する。上限値のみを有する数値範囲と下限値のみを有する数値範囲を組み合わせた数値範囲も本開示に含まれる。各数値範囲の上限又は下限をいずれかの実施例の数値で置き換えたものも、本開示に含まれる。複数の材料が例示されている場合、そのうちの一種を単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
一実施形態に係る接合体は、セラミック板と、金属板と、セラミック板の主面と金属板の主面とを接合するろう材層と、を備える。セラミック板は、セラミック粒子を含むセラミック焼結体で構成される。
【0023】
セラミック焼結体を構成するセラミック粒子は、窒化ケイ素粒子、窒化アルミニウム粒子及びアルミナ粒子からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有していてもよい。セラミック板は気孔を含んでもよい。セラミック板としては、主成分として窒化ケイ素粒子を含む窒化ケイ素板、主成分として窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム板、及び、主成分としてアルミナ粒子を含むアルミナ板が挙げられる。また、複数種類のセラミック粒子を含む複合焼結体で構成されるセラミック板であってもよい。
【0024】
本実施形態の接合体において、セラミック板の厚さ方向に沿うようにしてセラミック板を切断して得られる切断面のうち、金属板の側部における外縁の直下を含み、セラミック板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値は2.0%以下である。当該領域における面積比率の平均値は、1.9%以下、1.8%以下、1.7%以下、1.6%以下、1.5%以下、1.4%以下、又は1.3%以下であってよい。このように当該領域における面積比率の平均値が小さいセラミック板を備える接合体は、高温における絶縁信頼性に十分に優れる。当該領域における面積比率の平均値は、0.1%以上、0.3%以上、0.5%以上、又は0.8%以上であってよい。当該領域における面積比率の平均値の範囲の一例は、0.1~1.9%である。
【0025】
金属板の側面は、セラミック板に向かって拡がるように傾斜していてもよい。この場合、「金属板の側部における外縁」は、金属板のセラミック板側の主面の外縁となる。金属板の側面にはろう材が這い上がってろう材で覆われていてもよい。金属板の側面がろう材成分を含む被覆層で覆われている場合、「金属板の側部における外縁」は、金属板の側面を覆う被覆層の外縁となる。
【0026】
本明細書において、高温における絶縁信頼性とは、例えば80~100℃の環境下における絶縁信頼性をいう。接合体をパワーモジュールの部品として用いると、このような温度環境下に長時間曝されることとなる。特に、ワイドギャップ半導体を用いたパワーモジュールは、高周波で駆動されるために発熱量が大きいため、当該パワーモジュールに内蔵される接合体(回路基板)は、このような高温下に頻繁に曝されることとなる。本実施形態の接合体では、高温度下において熱応力が大きくなる部分に相当する、金属板の外縁の直下を含み且つセラミック板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値を十分に低くしている。このため、本実施形態の接合体の高温下における絶縁破壊を十分に抑制することができる。したがって、本実施形態の接合体は高温下における絶縁信頼性に優れる。
【0027】
接合体は、バンドギャップが1.12eV超、2.0eV以上、2.5eV以上、又は3.0eVを超える半導体材料で構成される半導体素子が搭載される回路基板であってよい。半導体素子はワイドギャップ半導体素子であってよい。すなわち、半導体素子を構成するワイドギャップ半導体材料としては、例えば、炭化ケイ素、ダイヤモンド、酸化ガリウム及び窒化ガリウムが挙げられる。また、これらに不純物をドープした半導体であってよい。本明細書におけるワイドギャップ半導体(ワイドギャップ半導体材料)は、2.2eV以上のバンドギャップを有するものをいう。
【0028】
当該領域における面積比率の平均値は、少なくとも5つの領域における面積比率の算術平均値である。少なくとも5つの領域は、互いに異なる領域であり、領域同士が重複しないように選定する。各領域の面積は、例えば、それぞれ0.05mmである。少なくとも5つの領域における気孔の円相当径の最大値は、10μm以下、9μm以下、8μm以下、又は7μm以下である。このように気孔の円相当径の最大値を小さくすることによって、絶縁信頼性のばらつきを十分に低減することができる。領域における気孔の面積及び円相当径の最大値は、走査型電子顕微鏡で500倍に拡大した画像において求めることができる。
【0029】
セラミック板の厚みは、0.2mm以上、0.25mm以上又は0.3mm以上であってよい。このようにセラミック板の厚みを大きくすることによって、高温下における絶縁の耐久性を向上することができる。セラミック板の厚みは、0.35mm以下、又は0.31mm以下であってよい。これによって、接合体を小型化するとともに、ワイドハンドギャップ半導体素子を有するパワーモジュールのように発熱量が大きいデバイスに搭載された場合に、放熱性を向上することができる。したがって、パワーモジュール等のデバイスの信頼性を一層高くすることができる。セラミック板の厚み範囲の一例は、上述の特性を両立する観点から、0.2~0.35mmであってよい。
【0030】
金属板の厚みは、0.5mm以下、0.45mm以下、又は0.4mm以下であってよい。このように金属板の厚みを小さくすることによって、セラミック板に生じる熱応力を小さくすることができる。したがって、高温での絶縁信頼性を一層向上することができる。金属板の厚みは、0.3mm以上、又は0.35mm以上であってよい。これによって、ワイドハンドギャップ半導体素子を有するパワーモジュールのように発熱量が大きいデバイスに搭載された場合に、放熱性を向上して、デバイスの信頼性を一層高くすることができる。金属板の厚み範囲の一例は、上述の特性を両立する観点から、0.3~0.5mmであってよい。金属板は、熱伝導性及び電気伝導性を高くする観点から、例えば銅板であってよい。
【0031】
図1は、接合体の一例を示す平面図である。図2は、図1のII-II線で切断して得られる断面図である。図1及び図2に示す接合体100は、セラミック板10と、セラミック板10の一方の主面10Aにろう材層51を介して接合された金属板41と、セラミック板10の他方の主面10Bにろう材層51を介して接合された金属板42と、を備える。金属板41は、パターン形成されており、例えば回路として機能する。本明細書では、このように金属製の回路パターンも金属板と称する。金属板42はパターン形成されておらず、例えば放熱板として機能する。
【0032】
図2は、セラミック板10の厚さ方向に沿う切断面を示している。このようにして得られる切断面のうち、金属板41の側部における外縁44の直下を含み、セラミック板10の主面10Aから深さ200μmまでの領域REにおける気孔の面積比率の平均値が2.0%以下である。金属板41の側部における外縁44の直下は、図1のように接合体100を平面視したときの金属板41の側部(側面)の外縁の直下である。図1に示すように、金属板41の側部における外縁44の少なくとも5つの外縁部分44a,44b,44c,44d,44eの直下において、領域RE1,RE2,RE3,RE4,RE5を選択する。領域RE1,RE2,RE3,RE4,RE5は、いずれも、外縁44(外縁部分44a,44b,44c,44d,44e)の直下を含み、セラミック板10の主面10Aから深さ200μmまでの領域である。なお、図2には、外縁部分44e及びその直下を含む領域RE5が示されていない。領域RE5も、領域RE1,RE2,RE3,RE4と同様に、セラミック板10の厚さ方向に沿って金属板41の外縁44の直下を通るように切断して得られる切断面を得て画定することができる。
【0033】
図1には5箇所の領域RE(図2には4箇所)が示されているが、6箇所以上の領域REを選択して領域REにおける気孔の面積比率の平均値を求めてよい。また、セラミック板10の厚さ方向に沿って切断する位置は、図1及び図2に示す位置に限定されない。例えば、5つの切断面を得て、それぞれの切断面において領域REを確定し、各領域REにおける気孔の面積比率を求めてもよい。接合体100における気孔の面積比率の平均値は、各領域REにおいて求めた気孔の面積比率を算術平均して算定することができる。なお、セラミック板10及び金属板41,42の厚みの範囲は、上述したとおりである。金属板41,42の厚みは、互いに同じであってよいし、互いに異なっていてもよい。
【0034】
図3には、セラミック板10の切断面10Cの一部を走査型電子顕微鏡(SEM、倍率:500倍)で観察したときの画像の一例を模式的に示す図である。図3に示されるようにセラミック板10の切断面10Cにおける領域REは、セラミック粒子と気孔20とを含む。領域REには複数の気孔20が含まれている。図3には、一つの気孔20を模式的に拡大して示している。このように、気孔20の二次元画像には、真円ではないものも含まれている。なお、領域REには、通常、多数のセラミック粒子が含まれているが、図3では、便宜上、セラミック粒子の表示を省略している。各気孔20の面積は、市販の画像処理ソフトウエア(例えば、Image J)を用いて求めることができる。SEM画像を二値化処理して、各気孔20の面積を求めてもよい。
【0035】
図3に示す領域REに含まれる各気孔20の面積から、気孔20の面積の合計値を求める。この面積の合計値を領域REの面積で除することによって、各領域REにおける気孔20の面積比率を求めることができる。領域REの面積は、例えば、0.05mmである。各領域REにおける気孔20の面積比率を用いて、上述のとおり気孔20の面積比率の平均値を算定することができる。気孔20の面積比率の平均値は上述したとおり2.0%以下である。その他の数値範囲の例は上述したとおりである。
【0036】
このようなセラミック板10を備える接合体100では、温度変化に伴って領域REにおいて大きい熱応力が発生する。領域REでは、気孔20の面積比率が低いため、クラックの発生及び進展を十分に抑制することができる。したがって、接合体100は、高温における絶縁信頼性に優れる。
【0037】
図3の領域REに含まれる気孔20の円相当径は、市販の画像処理ソフトウエア(例えば、Image J)を用いて求めることができる。領域REとして5つの領域RE1,RE2,RE3,RE4,RE5を選定した場合、5つの領域における気孔20の円相当径の最大値を求める。すなわち5つの最大値の中から最大値を求める。このようにして求められる円相当径の最大値が、上述の範囲にある。
【0038】
この例では、主面10Aから深さ200μmまでの領域のみを複数選定したが、別の例では主面10Bにおいて金属板42の側部における外縁の直下を含み、セラミック板の主面から深さ200μmまでの領域REにおける気孔の面積比率を求めてもよい。例えば、主面10Aから深さ200μmまでの領域REを3つ選択し、主面10Bから深さ200μmまでの領域REを2つ選択してもよい。
【0039】
領域REは、気孔20及びセラミック粒子の他に、焼結助剤相を含んでよい。領域REにおけるセラミック粒子(セラミック相)の面積比率の平均値は、70~90%であってよく、75~85%であってもよい。領域REにおける焼結助剤相の面積比率の平均値は、10~25%であってよく、14~22%であってよい。セラミック粒子及び焼結助剤相をこのような面積比率の平均値で含む領域RE(切断面10C)を有するセラミック板10は、十分に高い熱伝導率を有する。なお、セラミック粒子及び焼結助剤相の面積比率の平均値は、気孔20の面積比率の平均値と同様に、少なくとも5つの領域REで測定されるそれぞれの面積比率の算術平均値として求められる。
【0040】
図1図2及び図3は、接合体の一例である。セラミック板10及び金属板41,42の形状は図1及び図2に示す形状に限定されない。接合体100の変形例では金属板42も回路パターンであってよい。別の変形例では、金属板41と金属板42の両方がパターン形成されていなくてよい。例えば、金属板をエッチングして回路パターンを形成する場合、回路パターンを形成する前及び回路パターンを形成する後の両方が接合体に該当する。さらに別の変形例では、セラミック板の一方の主面に接合される金属板(回路パターン)が複数であってもよい。セラミック板の一方の主面のみに金属板が接合されていてもよい。
【0041】
ろう材層51,52は、セラミック板10と金属板41,42とを接合する層であり、ろう材成分を含む。ろう材層51,52は、例えば、ろう材に由来する銀、又は銀及び銅を含んでよい。ろう材層51,52は、さらに、ろう材に由来する錫及び活性金属からなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属を含有してよい。ろう材層51,52において、二種以上の金属は合金となっていてもよい。活性金属は、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、及びニオブからなる群より選ばれる一種又は二種以上を含んでいてよい。ろう材層51,52に含まれる銀及び銅は、例えばAg-Cu共晶合金等の合金として含まれていてもよい。
【0042】
ろう材層51,52における銀の含有量は、Ag換算で45~95質量%であってよく、50~95質量%であってもよい。ろう材層51,52における銀及び銅の合計含有量は、それぞれAg及びCuに換算して65~100質量%であってよく、70~99質量%であってよく、90~98質量%であってもよい。ろう材層51,52の厚み及び組成は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0043】
一実施形態に係るパワーモジュールは、接合体(回路基板)と、接合体の金属板に電気的に接続される半導体素子と、を備える。接合体は、上述の接合体100又はその変形例であってよい。接合体、及びこれらの変形例に関する説明内容は、本実施形態のパワーモジュールに適用される。このようなパワーモジュールは、高温における絶縁信頼性に優れる接合体(回路基板)を備える。したがって、高温となる環境下で使用しても、高い性能を維持することができる。このように、上記パワーモジュールは信頼性に優れる。
【0044】
図4は、パワーモジュールの一例を示す断面図である。この例の説明内容は本例に限定されず、パワーモジュールの変形例にも適用される。図4のパワーモジュール200は、ベース板90と、ハンダ82を介してベース板90の一方面と接合される接合体100とを備える。接合体100の一方面側における金属板42(放熱板)がハンダ82を介してベース板90と接合している。
【0045】
接合体100の他方面側における金属板41(回路パターン)には、ハンダ81を介して半導体素子80が取り付けられている。半導体素子80は、アルミワイヤ(アルミ線)等の金属ワイヤ84で金属板41の所定箇所に接続されている。このようにして、半導体素子80と金属板41とは電気的に接続されている。筐体86の外部と金属板41とを電気的に接続するため、金属板41の一つである金属板41aは、ハンダ85を介して筐体86を貫通して設けられる電極83に接続されている。
【0046】
ベース板90の一方の主面上には、当該主面と一体になって接合体100を収容する筐体86が配置されている。ベース板90の一方の主面と筐体86とで形成される収容空間には樹脂95が充填されている。樹脂95は、接合体100及び半導体素子80を封止している。樹脂は、例えば、熱硬化型樹脂であってよく、光硬化型樹脂であってもよい。
【0047】
ベース板90の他方の主面には、グリース94を介して放熱部材をなす冷却フィン92が接合されている。ベース板90の端部には冷却フィン92をベース板90に固定するネジ93が取り付けられている。ベース板90及び冷却フィン92はアルミニウムで構成されていてもよい。ベース板90及び冷却フィン92は、高い熱伝導率を有することによって放熱部として良好に機能する。
【0048】
セラミック板10によって、金属板41と金属板42は電気的に絶縁される。金属板41(41a)は電気回路を構成していてよい。金属板41及び金属板42は、ろう材成分を含むろう材層(不図示)によってセラミック板10の主面10A及び主面10Bにそれぞれ接合されている。パワーモジュール200は接合体100を備えることから信頼性に優れる。
【0049】
パワーモジュール200における半導体素子80は、バンドギャップが1.12eV超、2.0eV以上、2.5eV以上、又は3.0eVを超える半導体材料で構成されていてよい。半導体素子はワイドギャップ半導体材料で構成されていてもよい。ワイドギャップ半導体材料としては、例えば、炭化ケイ素、ダイヤモンド、及び窒化ガリウムが挙げられる。接合体100及びその変形例は、高温における絶縁信頼性に優れることから、ワイドギャップ半導体素子を備えるパワーモジュール200は、高い電力レベルで動作することができる。半導体素子80を構成する半導体材料のバンドギャップは、6.0eV以下、5.5eV以下、又は5.0eV以下であってよい。半導体材料のバンドギャップの範囲の一例は、1.12eV超且つ6.0eV以下である。
【0050】
接合体100に備えられるセラミック板10の製造方法の一例を説明する。この一例の製造方法は、焼結助剤原料を粉砕機で粉砕してD50(メジアン径)が0.5~1.1μmの焼結助剤粉末を得る粉砕工程と、セラミック粉末と焼結助剤粉末とを含む混合原料を調製する混合工程と、混合原料の成形体を焼成する焼成工程と、を有する。
【0051】
焼結助剤粉末は、アルカリ土類金属酸化物、希土類酸化物、当該希土類酸化物とは異なる遷移金属酸化物、シリカ及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよく、二つ以上又は三つ以上を含んでもよい。
【0052】
アルカリ土類金属酸化物は、構成元素としてアルカリ土類金属と酸素とを有する。アルカリ土類金属酸化物は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び酸化ストロンチウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。希土類酸化物は、構成元素として希土類元素と酸素とを有する。希土類酸化物は、例えば、酸化イットリウム及び酸化セリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。当該希土類酸化物とは異なる遷移金属酸化物は、構成元素として、希土類とは異なる遷移金属と酸素とを有する。このような遷移金属酸化物は、例えば、酸化鉄を含んでよい。
【0053】
焼結助剤粉末の一例は、酸化マグネシウム、希土類酸化物、及びシリカを含む。この場合、焼結助剤粉末の全体を100質量部としたときに、希土類酸化物の含有量は、30~80質量部であってよく、40~70質量部であってもよい。このとき、酸化マグネシウムの含有量は5~40質量部であってよく、10~30質量部であってもよい。このとき、シリカの含有量は5~40質量部であってよく、10~30質量部であってもよい。
【0054】
粉砕工程における焼結助剤粉末のD50(メジアン径)は、例えば、焼結助剤原料を粉砕機で粉砕して調製してもよい。粉砕機としては、ビーズミル式粉砕機を用いることができる。ビーズミル式粉砕機のビーズの直径、周速及び粉砕時間からなる群より選ばれる少なくとも一つの条件を変更することで、焼結助剤粉末の粒子径分布を調整してもよい。ビーズの直径は0.1~0.3mmであってよい。ロータの周速は8~12m/秒であってよい。粉砕時間は5~20分間であってよい。ビーズミル式粉砕機以外の粉砕機としては、ボールミル、振動ミル、及びポットミル等が挙げられる。
【0055】
焼結助剤粉末のD50が1.1μmを超えると気孔20の個数及びサイズが増大して、領域REにおける気孔20の面積比率の平均値が高くなる傾向にある。また、焼結助剤粉末のD50が0.5μm未満になると、粉砕機から焼結助剤原料に加えられる入力エネルギーと粉砕比の関係性により、粉砕された粒子が凝集する傾向にある。この要因としては、粉砕が進むと粉砕された粒子同士の接触頻度が増加すること、及び、ポテンシャルエネルギーが引力リッチになることが考えられる。この場合も、領域REにおける気孔20の面積比率の平均値が高くなる傾向にある。
【0056】
焼結助剤粉末のD50は、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置によって測定される体積基準の粒子径分布に基づいて求められる。焼結助剤粉末のD50が上記範囲であることによって、焼結助剤粉末に含まれる粒子が十分に小さく、且つ粒子同士が凝集することを抑制できる。これによって、セラミック板(セラミック焼結体)を作製する際に、焼結助剤粉末の粒子及び凝集体に起因する気孔の発生を抑制することができる。したがって、領域REにおける気孔20の面積比率の平均値を低くするとともに、領域REに含まれる気孔20の円相当径の最大値を小さくすることができる。また、セラミック粒子の粒成長を高い均一性で進行させることができる。
【0057】
図5は、レーザー回折・散乱法による焼結助剤粉末の体積基準の粒子径分布の一例を示す図である。横軸は、対数目盛の粒径[μm]であり、縦軸は頻度[体積%]である。本開示における粒子径分布は、JIS Z 8825:2013「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に記載の方法に準拠して測定される。粒子径分布測定には、ベックマンコールター社製のLS-13 320(商品名)を用いる。測定条件としては、粒子屈折率を2.2、溶媒の屈折率を1.33とする。
【0058】
焼結助剤粉末は、図5に示されるように、粒子径分布(頻度%)におけるピークが一つのみであってよい。このような焼結助剤粉末は、凝集が十分に抑制されているため、セラミック焼結体における気孔のサイズ及び個数を十分に低減することができる。粒子径分布におけるピークは、シャープであってよい。例えば、焼結助剤粉末のD100は、5.5μm以下であってよく、5.0μm未満であってもよい。例えば、D50に対するD100の比は、5以下であってよい。D100の下限の一例は2μmである。D50に対するD100の比の下限の一例は2である。
【0059】
混合工程では、粉砕によって得られた焼結助剤粉末と、セラミック粉末、及び、必要に応じて添加剤を配合し、例えばボールミル等を用いて混合する。このようにして、焼結助剤粉末とセラミック粉末を含む混合原料を調製する。添加剤としては、バインダ、可塑剤、分散媒、及び離型剤等が挙げられる。バインダとしては、例えば、可塑性又は界面活性効果を有するメチルセルロース系のもの、熱分解性に優れたアクリル酸エステル系のものが挙げられる。可塑剤としては、例えばグリセリンが挙げられる。分散媒としては、イオン交換水及びエタノール等が挙げられる。
【0060】
セラミック粉末としては、例えば、窒化ケイ素粉末、窒化アルミニウム粉末、又は酸化アルミニウム粉末等を用いることができる。セラミック粉末のD50(メジアン径)は、0.1~6μmであってよく、0.5~4μmであってもよい。これによって、十分に緻密化したセラミック焼結体を得ることができる。セラミック粉末のD50は、焼結助剤粉末のD50と同じ方法で求められる。セラミック粉末の粒子径分布(頻度%)のピークの数も一つであってよい。
【0061】
セラミック粉末に対する焼結助剤粉末の質量基準の配合比は、0.03~0.12であってよく、0.05~0.1であってもよい。これによって、セラミック焼結体が緻密化し易くなり、抗折強度を十分に高くすることができる。
【0062】
混合工程で得られた混合原料を、ドクターブレード法、カレンダー法、又は押し出し法等によって離型フィルム上に所定の厚みで塗布して乾燥し、成形して成形体を得る。成形圧力は3~30MPaであってよい。成形体は一軸加圧して作製してもよいし、CIPによって作製してもよい。また、ホットプレスによって成形しながら焼成してもよい。例えば、ドクターブレード法等の上記方法によってセラミックグリーンシート基材を作製した後、ダイとパンチを備える金型を用いてセラミックグリーンシート基材を打ち抜いて成形体を得てもよい。
【0063】
金型で打ち抜かれる際のセラミックグリーンシート基材の固形分の含有量は、65~85質量%であってよく、75~85質量%であってもよい。固形分の含有量は、金型で打ち抜く前に、セラミックグリーンシート基材を乾燥する乾燥工程を行って調節してもよい。
【0064】
焼成工程で成形体を焼成する前に、成形体の脱脂を行ってもよい。脱脂方法は特に限定されず、例えば、成形体を空気中又は窒素等の非酸化雰囲気中で300~700℃に加熱して行ってよい。加熱時間は、例えば1~10時間であってよい。
【0065】
セラミック板(板状のセラミック焼結体)は、成形体を焼成して得ることができる。焼成時の雰囲気、温度及び時間等は、セラミック焼結体の種類に応じて適宜設定することができる。セラミック板として窒化ケイ素板を製造する場合、窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行ってよい。焼成時の圧力は、0.7~1MPaであってよい。焼成温度は1800~2100℃、1800~2000℃、又は1800~1900℃であってよい。当該焼成温度における焼成時間は3~20時間であってよく、4~16時間であってよい。
【0066】
セラミック板として窒化アルミニウム板を製造する場合、焼成温度は例えば1760~1840℃であってよい。1760~1840℃の温度範囲における保持時間は、例えば1~10時間であってよい。焼成は大気圧下で行ってよい。窒化ケイ素板及び窒化アルミニウム板以外のセラミック板(例えば、及び酸化アルミニウム板)を製造する場合、焼結体の緻密化が十分に進行するような焼結条件を適宜設定すればよい。
【0067】
図6は、本例の製造方法において焼結が進行するときの粒成長のイメージを示す図である。この例では、図6の(a)に示されるように、成形体において、微細な焼結助剤粉末32がセラミック粒子12中に高い均一性で分散している。このような成形体を焼成すると、図6の(b)に示されるように液化した焼結助剤相32aが毛細管現象によって粒界に拡散する。焼結助剤相32aが拡散すると成形体(セラミック焼結体)の収縮が進行し、図6の(c)のように気孔22が消滅する。加熱を継続すると、セラミック粒子12が焼結助剤相32a中に溶けて、図6の(d)に示されるように柱状のセラミック粒子14が生成する。このように、液相焼結が進行する際に、セラミック粒子の円滑な粒成長に伴って気孔22が十分に消滅するため、セラミック板10に含まれる気孔20を十分に低減することができる。焼結助剤相32aの一部はセラミック板に残存してもよい。
【0068】
図9は、従来例の製造方法において焼結が進行するときの粒成長のイメージを示す図である。従来例の製造方法では、図9の(a)に示されるように、成形体において、焼結助剤粉末の凝集体132がセラミック粒子112中に含まれている。そのような従来例の成形体の断面写真が図10に示されている。このような成形体を焼成すると、図9の(b)に示されるように液化した焼結助剤相132aが凝集体132を起点に毛細管現象によって粒界に拡散する。毛細管現象による拡散が進行すると、凝集体132のサイズが大きいため、凝集体132の部分に気孔122が生じる。気孔122は大きいサイズを有するため、成形体が収縮しても消滅せず、図9の(c)に示されるように気孔122がセラミック板中に残存する。このようにして、セラミック板中に含まれるサイズの大きな気孔の個数が増加する。
【0069】
従来例の製造方法に対し、本例のセラミック板10の製造方法では、焼結助剤粉末の粒子が十分に微細であり、且つ粒子同士の凝集が抑制されている。このため、焼結助剤粉末の痕跡として残存する気孔を低減できる。これによって、焼結過程で生じる気孔の個数を低減するとともに、気孔のサイズを小さくすることができる。このようにして得られるセラミック板10の領域REにおける気孔20の面積比率の平均値は十分に小さくなる。また、領域REにおける気孔20の円相当径の最大値も十分に小さくなる。このようなセラミック板は、温度変化に伴って熱応力が発生したときに、クラックの発生及び進展を十分に抑制することができる。このため、高温における絶縁信頼性に優れる。
【0070】
図7は、接合体(回路基板)のV-t試験を行う検査装置の一例を模式的に示す図である。検査装置400は、交流電源60と、交流電源60に接続された耐電圧試験器50とを備える。耐電圧試験器50の一方の端子は、セラミック板10に接合された金属板41に接触する導電性支持部72aと電気的に接続される。耐電圧試験器50の他方の端子は、絶縁油76を貯留する貯留槽77内に配置される電極70を介して、金属板42に接触する導電性支持部72bと電気的に接続される。
【0071】
電極70は、貯留槽77の底面及び一側面に沿って配置されている。電極70は、図7に示されるように、鉛直方向断面でみたときにL字型形状を有している。電極70には、導電性支持部72bに隣接して、2つの絶縁性支持部74が設置されている。2つの絶縁性支持部74は、金属板42とそれぞれ接し、接合体100を絶縁油76中において支持している。
【0072】
電極70及び導電性支持部72a,72bとしては、例えば無酸素銅製のものを用いることができる。絶縁油76としては、例えばフッ素系不活性液体が用いることができる。耐電圧試験器50としては市販のものを用いることができる。このような検査装置400では、セラミック板10を挟む金属板41,42の間に例えば10~15kV程度の電圧を印加し、耐電圧試験器50において漏れ電流の有無を測定する。絶縁油76を加熱することによって、例えば100℃以上の高温下における接合体100におけるセラミック板10の絶縁性能を評価することができる。
【0073】
検査装置は図7の構成に限定されず、例えば100℃以上の温度下で、金属板41,42間に電圧を印加したときのV-t試験を行うことが可能な検査装置であれば、特に制限なく用いることができる。
【0074】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。セラミック焼結体の実施形態に関する説明内容は、接合体、パワーモジュール、及びセラミック焼結体の製造方法にも適用される。セラミック焼結体の製造方法の実施形態に関する説明内容は、セラミック焼結体にも適用される。
【0075】
上記各実施形態で具体的に記載された数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせた数値範囲も、本開示に含まれる。また、数値範囲の上限値及び/又は下限値を、以下に説明する実施例の値で置換したものも本開示に含まれる。
【実施例
【0076】
実施例、参考例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の具体例に限定されるものではない。
【0077】
(焼結助剤粉末の調製)
焼結助剤粉末の原料として、市販の酸化イットリウム粉末、酸化マグネシウム粉末及びシリカ粉末を準備した。これらを、Y:MgO:SiO=5:2:2の質量比となるように配合して混合粉末を得た。ビーズミル式粉砕機(アシザワ・ファインテック株式会社製、装置名:スターミルLMZ)を用いて混合粉末を粉砕し、焼結助剤粉末を得た。ビーズミル式粉砕機による粉砕条件(ビーズの直径、ロータの周速及び粉砕時間)を表1及び表2に示すとおりに変更して、粉砕条件が互いに異なる8種類の焼結助剤粉末を調製した。
【0078】
レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、装置名:粒子径分布測定器 MT3000II)を用いて、各焼結助剤粉末の体積基準の粒子径分布を測定した。これらの粒子径分布の測定結果から、D50(メジアン径)、及び、D100(最大粒子径)を求めた。結果は、表1及び表2に示すとおりであった。表1及び表2には、D50に対するD100の比も示した。番号5~8の粒子径分布(頻度%)は、いずれもピークを一つのみ有していた。すなわち、これらの粒子径分布は図5に示すような形状を有していた。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1の番号1~3の結果から、ビーズの直径を小さくすることによって、焼結助剤のD50及びD100を小さくできることが確認された。また、表1及び表2の番号3,4,5の結果から、ロータの周速を大きくすることによって、D50及び/又はD100を小さくできることが確認された。番号5,6の結果から、粉砕時間を長くするとD50及びD100を小さくできることが確認された。一方、番号6,7,8の結果から、粉砕時間を長くし過ぎると、D50及びD100が大きくなることが確認された。これは、粉砕粉が凝集することに起因すると考えられる。
【0082】
(実施例1)
[窒化ケイ素板の作製]
市販の窒化ケイ素粉末(D50:0.7μm)、表2の番号6の焼結助剤粉末、及び添加剤(溶剤系のバインダ)を、ビーズミルに入れて混合し、原料スラリーを調製した。窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末の配合比は、窒化ケイ素粉末:焼結助剤粉末=91:9とした。次に、離型フィルム上にドクターブレード法によって、上述の原料スラリーを塗布してグリーンシートを作製した。作製したセラミックグリーンシートを、縦×横=250mm×180mmとなるように切断し、70枚積層して積層体を得た。上記積層体を、カーボンヒータを備える電気炉中に配置し、空気中、500℃で20時間加熱して脱脂した。
【0083】
脱脂後の成形体を焼成炉内に置いて、焼成炉内を100Pa以下に減圧し、900℃まで昇温した。その後、焼成炉内に窒素ガスを導入し、約0.9MPaの加圧下で1500℃まで昇温し、4時間保持した。保持後、1830℃まで昇温し、1830℃で5時間保持した。このようにして厚さ3mmの窒化ケイ素板を得た。
【0084】
[接合体の作製]
Ag粉末(福田金属箔粉工業株式会社製、商品名:Ag-HWQ、平均粒子径D50:2.5μm、比表面積0.4m/g)89.5質量部、Cu粉末(福田金属箔粉工業株式会社製、商品名:Cu-HWQ、平均粒子径D50:3.0μm、比表面積:0.4m/g、)9.5質量部、Sn粉末(福田金属箔粉工業株式会社製:Sn-HPN、平均粒子径D50:3μm、比表面積0.1m/g)1.0質量部の合計100質量部に対して、水素化チタン粉末(トーホーテック株式会社製、商品名:TCH-100)を3.5質量部含むろう材を調製した。このろう材を、塗布量が8mg/cmとなるように、窒化ケイ素板の両主面の上にスクリーン印刷法で塗布した。
【0085】
窒化ケイ素板の一方の主面のろう材層の上に回路形成用銅板を、他方の主面のろう材層の上に放熱板形成用銅板(いずれも厚さ0.3mm、純度99.60質量%のC1020無酸素銅板)を重ね合わせて積層体を得た。この積層体を、1.0×10-3Pa以下の真空中にて830℃、30分間の条件で加熱して、接合体を得た。接合した回路形成用銅板にエッチングレジストを印刷し、塩化第二鉄溶液で回路形成用銅板をエッチングして図1に示すような回路パターンを形成した。さらに、フッ化アンモニウム/過酸化水素溶液で、金属板の側面よりも外方にはみ出ているろう材層を除去した。このようにして回路基板を作製した。回路基板は、以下の切断面観察及びV-t試験に用いるため、複数枚作製した。
【0086】
[切断面観察]
回路基板を、窒化ケイ素板の厚さ方向に沿うようにして窒化ケイ素板を切断して切断面を得た。複数箇所で切断を行って、回路パターンの側部における外縁直下を含み、窒化ケイ素板の主面から深さ200μmまでの領域を5つ選択した。特定した領域REを、走査型電子顕微鏡(SEM)で500倍に拡大して観察した。5つの領域RE(各面積:0.05mm)における気孔の合計面積と気孔の円相当径の最大値を求めた。各領域は回路パターンの側部における外縁直下を含んでいた。気孔のサイズと個数は、画像処理ソフトウエア(ImageJ)を用いて測定した。気孔の合計面積を視野の面積(0.05mm)で除して気孔の面積比率を求めた。5つの領域REのそれぞれにおいて、気孔の円相当径の最大値と気孔の面積比率を求めた。気孔の面積比率の算術平均値と、気孔の円相当径の最大値(5つの領域REにおける最大値)は、表3に示すとおりであった。
【0087】
[絶縁性試験]
図7に示すような検査装置を用い、JIS C2110-1:2010に準拠して回路基板のV-t試験を行った。この検査には、株式会社計測技術研究所製のAC20kV耐電圧試験器(型式:7473)を用いた。絶縁油としては、シリコンオイルを用いた。貯留槽77、電極70、導電性支持部72a,72b、及び絶縁性支持部74として、大西電子株式会社製の検査治具を用いた。電極70は無酸素銅製のものを、導電性支持部72a,72bは炭素工具鋼鋼材(SK材)にロジウムめっきが施されたものを、それぞれ用いた。
【0088】
検査装置の絶縁油を100℃に加熱し、当該絶縁油中に回路基板100を固定して、回路パターン41と銅板42との間に10kVの電圧を印加して、絶縁破壊するまでの時間(最大:746時間)を測定した。結果は、表3に示すとおりであった。
【0089】
(実施例2)
表2の番号6の焼結助剤粉末に代えて、表2の番号5の焼結助剤粉末を用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で、窒化ケイ素板及び接合体を作製し、各評価を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0090】
(実施例3)
表2の番号6の焼結助剤粉末に代えて、表2の番号7の焼結助剤粉末を用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で、窒化ケイ素板及び接合体を作製し、各評価を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0091】
(実施例4)
表2の番号6の焼結助剤粉末に代えて、表2の番号8の焼結助剤粉末を用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で、窒化ケイ素板及び接合体を作製し、各評価を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0092】
(比較例1)
表2の番号6の焼結助剤粉末に代えて、表1の番号3の焼結助剤粉末を用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で、窒化ケイ素板及び接合体を作製し、各評価を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0093】
(比較例2)
表2の番号6の焼結助剤粉末に代えて、表1の番号1の焼結助剤粉末を用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で、窒化ケイ素板及び接合体を作製し、各評価を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0094】
(比較例3)
表2の番号6の焼結助剤粉末に代えて、表1の番号2の焼結助剤粉末を用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で、窒化ケイ素板及び接合体を作製し、各評価を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0095】
【表3】
【0096】
表3に示すとおり、D50が小さい焼結助剤粉末を用いることによって、気孔の面積比率が小さくなることが確認された。D50及びD100/D50が最も小さい番号6の焼結助剤粉末を用いた実施例1では、気孔の面積比率を最も小さくすることができた。この実施例1は、絶縁破壊が生じず、最も優れた絶縁信頼性を有していた。図8の(A)は実施例1の窒化ケイ素板の切断面で選択された上記領域の一つのSEM画像(500倍)を示す写真であり、図8(B)は当該SEM画像を二値化処理して示す図である。図11(A)は比較例1の窒化ケイ素板の切断面で選択された上記領域の一つのSEM画像(500倍)を示す写真であり、図11(B)は当該SEM画像を二値化処理して示す図である。図8図11の対比から、比較例1よりも実施例1の方が明らかに気孔の個数が少なく、気孔のサイズも小さかった。
【0097】
表3に示す結果から、窒化ケイ素板の上記領域における気孔の面積比率の平均値及び気孔の円相当径の最大値は、実施例1~4の方が、比較例1~3よりも小さかった。実施例1の回路基板のV-t試験では試験終了(746時間)まで絶縁破壊が生じなかった。また、実施例2~4も、比較例1~3よりも破壊に要する時間が長く、絶縁信頼性に優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本開示によれば、高温下における絶縁信頼性に優れる接合体が提供される。また、本開示によれば、上記接合体を備えることによって信頼性に優れるパワーモジュールが提供される。
【符号の説明】
【0099】
10…セラミック板、10A,10B…主面、10C…切断面、12,14…セラミック粒子、20,22,122…気孔、32…焼結助剤粉末、32a,132a…焼結助剤相、41…金属板(回路パターン)、42…金属板(銅板)、44…外縁、44a,44b,44c,44d,44e…外縁部分、50…耐電圧試験器、51,52…ろう材層、60…交流電源、70,83…電極、72a,72b…導電性支持部、74…絶縁性支持部、76…絶縁油、77…貯留槽、80…半導体素子、81,82,85…ハンダ、84…金属ワイヤ、86…筐体、90…ベース板、92…冷却フィン、93…ネジ、94…グリース、95…樹脂、100…接合体(回路基板)、132…凝集体、200…パワーモジュール、400…検査装置、RE,RE1,RE2,RE3,RE4,RE5…領域。
【要約】
セラミック板と、金属板と、セラミック板の主面と金属板の主面とを接合するろう材層と、を備え、セラミック板の厚さ方向に沿うようにしてセラミック板を切断して得られる切断面のうち、金属板の側部における外縁の直下を含み、セラミック板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値が2.0%以下である、接合体を提供する。
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