(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】制振装置および可動装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240627BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/04 A
(21)【出願番号】P 2021043979
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】水上 孝一
(72)【発明者】
【氏名】千賀 岳人
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-136636(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量体と、
前記質量体と離間して互いに異なる位置に設けられた第1端部から第2端部への変位の伝達方向と異なる方向に変位可能となるように前記質量体を支持する支持部材とを備え
、
前記支持部材は、
前記第1端部に対する角度が可変な第1可変部と、
前記第2端部に対する角度が可変な第2可変部と、
前記質量体に対する角度が可変な第3可変部と、
前記質量体に対する角度が可変な第4可変部と、
前記第1可変部および前記第3可変部を連結し、前記第1可変部および前記第3可変部の角度の変化に応じて回転可能な第1連結部と、
前記第2可変部および前記第4可変部を連結し、前記第2可変部および前記第4可変部の角度の変化に応じて回転可能な第2連結部とを備え、
前記第1可変部は、前記第1端部と前記第1連結部との間に取り付けられ、
前記第2可変部は、前記第2端部と前記第2連結部との間に取り付けられ、
前記第3可変部は、前記質量体と前記第1連結部との間に取り付けられ、
前記第4可変部は、前記質量体と前記第2連結部との間に取り付けられ、
前記第1端部および前記第2端部の変位がないときに、前記第1端部および前記第2端部の取り付け面に対し、前記第1連結部および前記第2連結部は平行であり、前記第1可変部および前記第2可変部は、前記第3可変部および前記第4可変部より遠い位置にあることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
質量体と、
前記質量体と離間して互いに異なる位置に設けられた第1端部から第2端部への変位の伝達方向と異なる方向に変位可能となるように前記質量体を支持する支持部材とを備え、
前記支持部材は、
前記第1端部に対する角度が可変な第1可変部と、
前記第2端部に対する角度が可変な第2可変部と、
前記質量体に対する角度が可変な第3可変部と、
前記質量体に対する角度が可変な第4可変部と、
前記第1可変部および前記第3可変部を連結し、前記第1可変部および前記第3可変部の角度の変化に応じて回転可能な第1連結部と、
前記第2可変部および前記第4可変部を連結し、前記第2可変部および前記第4可変部の角度の変化に応じて回転可能な第2連結部とを備え、
前記第1可変部は、前記第1端部と前記第1連結部との間に取り付けられ、
前記第2可変部は、前記第2端部と前記第2連結部との間に取り付けられ、
前記第3可変部は、前記質量体と前記第1連結部との間に取り付けられ、
前記第4可変部は、前記質量体と前記第2連結部との間に取り付けられ、
前記第1端部および前記第2端部の変位がないときに、前記第1端部および前記第2端部の取り付け面に対し、前記第1連結部および前記第2連結部は平行であり、前記第1可変部および前記第2可変部は、前記第3可変部および前記第4可変部より近い位置にあることを特徴とする制振装置。
【請求項3】
質量体と、
前記質量体と離間して互いに異なる位置に設けられた第1端部から第2端部への変位の伝達方向と異なる方向に変位可能となるように前記質量体を支持する支持部材とを備え、
前記支持部材は、
前記第1端部に取り付けられ、前記第1端部に対する角度が可変な第1可変部と、
前記第2端部に取り付けられ、前記第2端部に対する角度が可変な第2可変部と、
前記質量体に取り付けられ、前記質量体に対する角度が可変な第3可変部と、
前記質量体に取り付けられ、前記質量体に対する角度が可変な第4可変部と、
前記第1可変部および前記第3可変部を連結し、前記第1可変部および前記第3可変部の角度の変化に応じて回転可能な第1連結部と、
前記第2可変部および前記第4可変部を連結し、前記第2可変部および前記第4可変部の角度の変化に応じて回転可能な第2連結部とを備え、
前記第1可変部、前記第2可変部、前記第3可変部および前記第4可変部が前記第1連結部および前記第2連結部よりも曲がりやすいことを特徴とする制振装置。
【請求項4】
前記第1可変部は、前記第1端部と前記第1連結部との間に取り付けられ、
前記第2可変部は、前記第2端部と前記第2連結部との間に取り付けられ、
前記第3可変部は、前記質量体と前記第1連結部との間に取り付けられ、
前記第4可変部は、前記質量体と前記第2連結部との間に取り付けられ、
前記第3可変部に直接連結されておらず、
前記第1端部および前記第2端部の変位がないときに、前記第1端部および前記第2端部の取り付け面に対し、前記第1連結部および前記第2連結部は傾いていることを特徴とする請求項3に記載の制振装置。
【請求項5】
前記支持部材は、前記第1端部および前記第2端部の変位に基づいて前記質量体を支持する角度を変化させることで、前記第1端部から前記第2端部への変位の伝達方向と異なる方向に前記質量体を変位させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項6】
前記第1連結部および前記第2連結部の材料は、炭素繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項
1から5のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項7】
前記第1可変部、前記第2可変部、前記第3可変部および前記第4可変部の材料は、弾性部材であることを特徴とする
請求項1から6のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項8】
前記質量体を前記支持部材が支持する支持部は、前記第1端部から前記第2端部に伝わる変位が減少するように前記質量体を変位させることを特徴とする請求項
5に記載の制振装置。
【請求項9】
前記質量体を前記支持部材が支持する支持部は、前記第1端部の変位の方向と反対の方向に前記第2端部が変位するように前記質量体を変位させることを特徴とする請求項
5に記載の制振装置。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか1項に記載の制振装置が移動可能な部材に取り付けられていることを特徴とする可動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置および可動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
搬送装置などの可動装置では、可動体が移動したり停止したりすることで振動が発生することがある。例えば、レーザ加工装置および露光装置などでは、搬送機構により被処理物(例えば、基板)を外部からステージ上に搬送し、ステージ上で精密加工が実施される。このとき、搬送機構が基板を保持して移動したり停止したりする際に発生する振動がステージに伝わると、ステージの振動が十分に小さくなるまで待機しないと、加工精度の低下を招く。振動が収束するまでの時間は、実質的に装置の停止時間となり、生産性の低下を招く。
【0003】
ここで、振動の周波数が高い場合、可動装置を構成する材料を適宜選択することにより、振動の伝達を減衰させることができる。一方、振動の周波数が低い場合(特に、100Hzから500Hzの範囲)、材料を適宜選択しても、振動の伝達を減衰させることが難しい。例えば、可動装置の耐久性を向上させるために、剛性の高い材料を使用すると、周波数の低い振動を減衰させるのが難しい。また、低い周波数であるほど、振幅が大きくなる傾向があるとともに、振動が収束するまでの時間が長くなる。
【0004】
非特許文献1には、振動を減衰させるための制振装置として、ばねと重りを組み合わせた動吸振器が開示されている。
この動吸振器が吸収する振動数νは、以下の式で表される。
ν=√(k/m)
ただし、kはばね定数、mは重りの質量である。
この動吸振器の場合、周波数の低い振動を吸収しようとすると、ばね定数kを小さく(ばねを小さく)し、重りを重くすることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】谷田宏次、吉田靖夫、松本亙平、近藤潔 「動吸振器について」 日本造船学会誌 第707号 昭和63年5月 P19-P26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、重いおもりを小さなばねで支えるには限界がある。従って、従来の動吸振器を用いて周波数の低い振動を減衰させるのは困難である。
また、動吸振器の重りを重くすると、その重り自体で可動装置の重量の増大を招くとともに、その重りを支持する頑丈なフレームが必要となり、可動装置のさらなる重量の増大を引き起こす上に、コストアップを招く。
【0007】
そこで、本発明の目的は、重量の増大を抑制しつつ、制振可能な周波数を低下させることが可能な制振装置および可動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る制振装置によれば、質量体と、前記質量体と離間して互いに異なる位置に設けられた第1端部から第2端部への変位の伝達方向と異なる方向に変位可能となるように前記質量体を支持する支持部材とを備える。
【0009】
これにより、第1端部が変位したときに、第1端部の変位が第2端部に伝わるのを抑制可能となるように、質量体の変位の振幅および方向を適宜設定することができる。このため、制振装置の重量の増大を抑制しつつ、制振可能な周波数を低下させることが可能となる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記支持部材は、前記第1端部および前記第2端部の変位に基づいて前記質量体を支持する角度を変化させることで、前記第1端部から前記第2端部への変位の伝達方向と異なる方向に前記質量体を変位させる。
【0011】
これにより、制振装置の構成の複雑化を抑制しつつ、第1端部から第2端部への変位の伝達方向と異なる方向に質量体を変位させることができ、制振装置の重量の増大を抑制しつつ、制振可能な周波数を低下させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記支持部材は、前記第1端部に対する角度が可変な第1可変部と、前記第2端部に対する角度が可変な第2可変部と、前記質量体に対する角度が可変な第3可変部と、前記質量体に対する角度が可変な第4可変部と、前記第1可変部および前記第3可変部を連結し、前記第1可変部および前記第3可変部の角度の変化に応じて回転可能な第1連結部と、前記第2可変部および前記第4可変部を連結し、前記第2可変部および前記第4可変部の角度の変化に応じて回転可能な第2連結部とを備える。
【0013】
これにより、第1端部の変位が第2端部に伝わるのを抑制する方向に質量体を変位させることが可能となるとともに、第1連結部および第1連結部の寸法を変えることで制振可能な周波数領域を変化させることができる。このため、制振装置の構成の複雑化を抑制しつつ、第1連結部および第1連結部の寸法を変えるという比較的簡易な方法で制振可能な周波数領域を適宜設定することが可能となる。
【0014】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記第1可変部は、前記第1端部と前記第1連結部との間に取り付けられ、前記第2可変部は、前記第2端部と前記第2連結部との間に取り付けられ、前記第3可変部は、前記質量体と前記第1連結部との間に取り付けられ、前記第4可変部は、前記質量体と前記第2連結部との間に取り付けられ、前記第1端部および前記第2端部の変位がないときに、前記第1端部および前記第2端部の取り付け面に対し、前記第1連結部および前記第2連結部は平行であり、前記第1可変部および前記第2可変部は、前記第3可変部および前記第4可変部より遠い位置にある。
【0015】
これにより、第1端部が変位したときに第1連結部および第2連結部に力のモーメントを発生させることが可能となるとともに、第1連結部および第2連結部の寸法を変えることで第1端部の変位量に応じた力のモーメントの大きさを変化させることができる。このため、第1可変部および第2可変部を第1端部および第2端部の取り付け面から遠い位置に設けるという比較的簡易な構成により、第1端部が変位したとき第1連結部および第2連結部の角度を変化させることができ、第1端部の変位が第2端部に伝わるのを抑制する方向に質量体を変位させることが可能となるとともに、第1連結部および第2連結部の寸法を変えるという比較的簡易な方法により、制振可能な周波数領域を適宜設定することが可能となる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記第1可変部は、前記第1端部と前記第1連結部との間に取り付けられ、前記第2可変部は、前記第2端部と前記第2連結部との間に取り付けられ、前記第3可変部は、前記質量体と前記第1連結部との間に取り付けられ、前記第4可変部は、前記質量体と前記第2連結部との間に取り付けられ、前記第1端部および前記第2端部の変位がないときに、前記第1端部および前記第2端部の取り付け面に対し、前記第1連結部および前記第2連結部は平行であり、前記第1可変部および前記第2可変部は、前記第3可変部および前記第4可変部より近い位置にある。
【0017】
これにより、第1端部が変位したときに第1連結部および第2連結部に力のモーメントを発生させることが可能となるとともに、第1連結部および第2連結部の寸法を変えることで第1端部の変位量に応じた力のモーメントの大きさを変化させることができる。このため、第1可変部および第2可変部を第1端部および第2端部の取り付け面から近い位置に設けるという比較的簡易な構成により、第1端部が変位したとき第1連結部および第2連結部の角度を変化させることができ、第1端部の変位が第2端部に伝わるのを抑制する方向に質量体を変位させることが可能となるとともに、第1連結部および第2連結部の寸法を変えるという比較的簡易な方法により、制振可能な周波数領域を適宜設定することが可能となる。
【0018】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記第1可変部は、前記第1端部と前記第1連結部との間に取り付けられ、前記第2可変部は、前記第2端部と前記第2連結部との間に取り付けられ、前記第3可変部は、前記質量体と前記第1連結部との間に取り付けられ、前記第4可変部は、前記質量体と前記第2連結部との間に取り付けられ、前記第1端部および前記第2端部の変位がないときに、前記第1端部および前記第2端部の取り付け面に対し、前記第1連結部および前記第2連結部は傾いている。
【0019】
これにより、第1端部が変位したときに第1連結部および第2連結部に力のモーメントを発生させることが可能となるとともに、第1連結部および第2連結部の寸法を変えることで第1端部の変位量に応じた力のモーメントの大きさを変化させることができる。このため、第1連結部および第2連結部を傾けるという比較的簡易な構成により、第1端部が変位したとき第1連結部および第2連結部の角度を変化させることができ、第1端部の変位が第2端部に伝わるのを抑制する方向に質量体を変位させることが可能となるとともに、第1連結部および第2連結部の寸法を変えるという比較的簡易な方法により、制振可能な周波数領域を適宜設定することが可能となる。
【0020】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記第1連結部および前記第2連結部の材料は、炭素繊維強化プラスチックである。
【0021】
これにより、第1連結部および第2連結部の軽量化を図りつつ、第1連結部および第2連結部の剛性を高めることができる。このため、第1連結部および第2連結部の重量の増大を抑制しつつ第1連結部および第2連結部が変形しにくくすることが可能となり、一端で受けた力をそのまま他端に伝えることが可能となるとともに、制振装置の重量の増大を抑制することができる。
【0022】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記第1可変部、前記第2可変部、前記第3可変部および前記第4可変部の材料は、弾性部材である。
【0023】
これにより、第1端部および第2端部の変位に応じて、第1可変部、第2可変部、第3可変部および第4可変部は自由に変形させることができる。このため、支持部材は、第1端部から第2端部への変位の伝達方向と異なる方向に変位可能となるように質量体を支持することができる。
【0024】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記質量体を前記支持部材が支持する支持部は、前記第1端部から前記第2端部に伝わる変位が減少するように前記質量体を変位させる。
【0025】
これにより、第1端部が変位した場合においても、第2端部の変位を抑制することができ、第1端部に加わった振動を第2端部で減衰させることが可能となる。
【0026】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記質量体を前記支持部材が支持する支持部は、前記第1端部の変位の方向と反対の方向に前記第2端部が変位するように前記質量体を変位させる。
【0027】
これにより、支持部は、第1端部から第2端部に伝わる変位を減少させることができ、第1端部に加わった振動を第2端部で減衰させることが可能となる。
【0028】
また、本発明の一態様に係る可動装置によれば、上述したいずれかの制振装置が移動可能な部材に取り付けられている。
【0029】
これにより、可動装置を構成する移動可能な部材に制振装置を取り付けることで、可動装置を構成する部材の移動および停止に伴う振動が収束するまでの時間を短縮することができ、生産性を向上させることができる。このとき、可動装置を構成する移動可能な部材に制振装置を取り付けるスペースが可動装置にあればよく、制振装置の取り付け位置に関する制約を軽減し、制振が必要な様々な部材に制振装置を容易に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】第1実施形態に係る制振装置の構成を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る制振装置の構成を示す側面図である。
【
図3】第1実施形態に係る制振装置の動作を示す側面図である。
【
図4】第2実施形態に係る制振装置の装着例を示す側面図である。
【
図5】
図4の連結部材の厚さを変化させたときの振動の伝達性と周波数との関係を示す図である。
【
図6】
図4の連結部材の厚さを変化させたときの振動の伝達性と周波数との関係を示す図である。
【
図7】
図4の連結部材の厚さを変化させたときの振動の伝達性と周波数との関係を示す図である。
【
図8】第2実施形態に係る制振装置の装着時の水平方向における振動の変位分布を示す図である。
【
図9】第3実施形態に係る制振装置の構成を示す側面図である。
【
図10】第4実施形態に係る制振装置の構成を示す側面図である。
【
図11】第5実施形態に係る制振装置が装着された可動装置を示す側面図である。
【
図12】第6実施形態に係る制振装置が装着された可動装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。また、以下の説明に用いる図面は、各構成を分かり易くするため、実際の構造と縮尺および形状などを異ならせることがある。
【0032】
図1は、第1実施形態に係る制振装置の構成を示す斜視図、
図2は、第1実施形態に係る制振装置の構成を示す側面図である。
【0033】
図1および
図2において、制振装置1Aは、質量体Mおよび支持部PA、PBを備える。制振装置1Aは、制振対象JAに取り付けられる。このとき、制振装置1Aは、制振対象JAの取り付け面MJに取り付けることができる。取り付け面MJは、平面であってもよいし、曲面であってもよいし、凹凸があってもよい。制振装置1Aは、制振対象JAに複数取り付けてもよい。例えば、制振対象JAの両面に制振装置1Aを取り付けてもよいし、制振対象JAの上下面および側面に制振装置1Aを取り付けてもよい。
【0034】
質量体Mは、ある程度の重さを有する重り部材として用いることができる。質量体Mの材料は、例えば、鉄または鉛などの金属を用いることができる。質量体Mの形状は、円柱であってよいし、球体であってもよい。
【0035】
支持部材PAは、制振装置1Aの第1端部TA側で質量体Mを支持し、支持部材PBは、制振装置1Aの第2端部TB側で質量体Mを支持する。このとき、質量体Mは、取り付け面MJ、第1端部TAおよび第2端部TBと離間した状態で第1端部TAと第2端部TBの中央に位置することができる。また、支持部材PA、PBは、質量体Mに対して制振装置1Aの長さ方向DLに対称となるように構成することができる。
【0036】
ここで、支持部材PA、PBは、第1端部TAから第2端部TBへの変位の伝達方向と異なる方向に変位可能となるように質量体Mを支持する。このとき、支持部材PA、PBは、第1端部TAおよび第2端部TBの変位に基づいて質量体Mを支持する角度を変化させることで、第1端部TAから第2端部TBへの変位の伝達方向と異なる方向に質量体Mを変位させることができる。例えば、支持部材PA、PBは、第1端部TAから第2端部TBに伝わる変位が減少するように、第1端部TAから第2端部TBへの変位の伝達方向と異なる方向に質量体Mを変位させることができる。支持部材PA、PBは、第1端部TAから第2端部TBに伝わる変位を減少させるために、第1端部TAの変位の方向と反対の方向に第2端部TBが変位するように、第1端部TAから第2端部TBへの変位の伝達方向と異なる方向に質量体Mを変位させるようにしてもよい。
【0037】
なお、第1端部TAおよび第2端部TBの変位の方向は、制振装置1Aの長さ方向DLであってもよいし、制振装置1Aの幅方向DWであってもよいし、制振装置1Aの高さ方向DHであってもよい。また、第1端部TAおよび第2端部TBの変位の方向は、制振装置1Aの幅方向DWを軸とする回転方向(ピッチング方向)であってもよい。
【0038】
ここで、支持部材PA、PBは、第1端部TAから第2端部TBへの変位の伝達方向と異なる方向に変位可能となるように質量体Mを支持することにより、第1端部TAが変位したときに、第1端部TAの変位が第2端部TBに伝わるのを抑制可能となるように、質量体Mの変位の振幅および方向を適宜設定することができる。このため、制振装置1Aの重量の増大を抑制しつつ、制振可能な周波数を低下させることが可能となる。
【0039】
支持部材PAは、取り付け部2A、可変部3A、5Aおよび連結部4Aを備える。支持部材PBは、取り付け部2B、可変部3B、5Bおよび連結部4Bを備える。
【0040】
各可変部5A、5Bは、質量体Mに対する角度が可変である。各可変部5A、5Bは、質量体Mと各連結部4A、4Bとの間に取り付けられる。このとき、制振装置1Aの長さ方向DLにおいて、各可変部5A、5Bの一端を質量体Mに取り付け、各可変部5A、5Bの他端を各連結部4A、4Bに取り付けることができる。各可変部5A、5Bの材料は、制振対象JAの振動の方向に合わせて自由に変形可能とするために、ナイロン系の樹脂などの弾性体を用いることができる。各可変部5A、5Bを質量体Mと各連結部4A、4Bとの間に取り付けるために、接着剤を用いるようにしてもよいし、ボルトなどの締結部材を用いるようにしてもよい。
【0041】
連結部4Aは、可変部3A、5Aを連結し、連結部4Bは、可変部3B、5Bを連結する。このとき、制振装置1Aの長さ方向DLにおいて、各連結部4A、4Bの一端を各可変部3A、3Bに取り付け、各連結部4A、4Bの他端を各可変部5A、5Bに取り付けることができる。各連結部4A、4Bは変形することなく、各可変部3A、3Bから受けた力をそのまま各可変部5A、5Bに伝える。そのため、各連結部4A、4Bの材料は、剛性が高いことが好ましい。また、各連結部4A、4Bは、自重でたわみが生じないように軽量であることが好ましい。さらに、各連結部4A、4B、実質的に制振装置1Aの大部分を占めるため、制振装置1A全体が重くならないように軽量であることが好ましい。そのため、各連結部4A、4Bの材料は、繊維方向が一方向の炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)を用いるのが好ましい。各連結部4A、4Bの形状は、矩形状であってもよいし、棒状であってもよい。
【0042】
各可変部3A、3Bは、各取り付け部2A、2Bに対する角度が可変である。各可変部3A、3Bは、各取り付け部2A、2Bと各連結部4A、4Bとの間に取り付けられる。このとき、制振装置1Aの長さ方向DLにおいて、各可変部3A、3Bの一端を各取り付け部2A、2Bに取り付け、各可変部3A、3Bの他端を各連結部4A、4Bに取り付けることができる。各可変部3A、3Bの材料は、制振対象JAの振動の方向に合わせて自由に変形可能とするために、ナイロン系の樹脂などの弾性体を用いることができる。各可変部3A、3Bを各取り付け部2A、2Bと各連結部4A、4Bとの間に取り付けるために、接着剤を用いるようにしてもよいし、ボルトなどの締結部材を用いるようにしてもよい。
【0043】
なお、可変部3A、5A、3B、5Bおよび連結部4A、4Bは、3Dプリントなどの方法により、ナイロン系の樹脂などを母材として一体的に構成してもよい。このとき、連結部4A、4Bの剛性を向上させるために、3Dプリントで連結部4A、4Bを構成するときに、炭素繊維強化プラスチックを添加するようにしてもよい。また、可変部3A、5A、3B、5Bは、弾性体を用いた構成の他、開閉可能なヒンジを用いて構成するようにしてもよい。このとき、ヒンジを構成する2枚の羽根および2枚の羽根を開閉可能に連結するピンは、金属などの硬質材料で構成してもよい。また、可変部3A、5A、3B、5Bの部材は、自由な方向に曲がればよく、例えば、球体を利用した自由関節(ジョイント)であってもよい。
【0044】
取り付け部2A、2Bは、制振装置1Aを制振対象JAに取り付けるために設ける台座である。このとき、各取り付け部2A、2Bの一端を各可変部3A、3Bに取り付け、各取り付け部2A、2Bの他端を制振対象JAの取り付け面MJに取り付けることができる。取り付け部2A、2Bは、制振対象JAと間隔をあけて質量体Mおよび支持部PA、PBを取り付け面MJ上に保持する。取り付け部2A、2Bは、変形の必要がなく、特別な材質である必要はない。取り付け部2A、2Bを取り付け面MJに取り付けるために、接着剤を用いるようにしてもよいし、ボルトなどの締結部材を用いるようにしてもよい。
【0045】
ここで、
図2に示すように、第1端部TAおよび第2端部TBの変位がないときに、各連結部4A、4Bは、制振対象JAの取り付け面MJに対し平行である。また、制振対象JAの取り付け面MJに対し、各可変部5A、5Bは、各可変部3A、3Bより遠い位置にある。すなわち、制振装置1Aの高さ方向DHにおいて、各可変部5A、5Bと取り付け面MJとの距離をh1、各可変部3A、3Bと取り付け面MJとの距離をh2とすると、h1>h2である。
ここで、h1>h2とすることにより、制振対象JAのA点に押す力が加わった場合は、質量体Mを取り付け面MJから離れる方向に移動させる力を生じさせ、制振対象JAのA点に引く力が加わった場合は、質量体Mを取り付け面MJに接近させる方向に移動させる力を生じさせることができる。これにより、制振対象JAのA点に押す力が加わった場合は、制振対象JAのB点に引く力を作用させ、制振対象JAのA点に引く力が加わった場合は、制振対象JAのB点に押す力を作用させることができ、制振対象JAのA点の振動がB点に伝わるのを抑制することができる。
【0046】
図3は、第1実施形態に係る制振装置の動作を示す側面図である。なお、
図3(a)は、制振装置1Aの取り付け前の制振対象JA、
図3(b)は、制振装置1Aの取り付け後の制振対象JA、
図3(c)および
図3(d)は、制振対象JAに振動が発生したときの制振装置1Aの挙動を示す。
【0047】
図3(a)において、制振対象JAに振動が発生し、制振対象JAの一端(A点)に押す力が加わったものとする。このとき、制振装置1Aが制振対象JAに取り付けられていなければ、制振対象JAの他端(B点)も、A点に加わった力の方向と同じ方向に移動する。すなわち、A点に加わった振動は減衰することなくB点に伝えられる。
【0048】
図3(b)において、制振対象JAには制振装置1Aが取り付けられる。制振装置1Aが制振対象JAに取り付けられた状態は、
図1および
図2の制振装置1Aの状態と同様である。
【0049】
図3(c)において、制振対象JAに振動が発生し、制振対象JAの一端(A点)に押す力が加わったものとする(P1)。このとき、A点に加わった力の方向と同一の方向の力が取り付け部2Aに加わる(P2)。これにより、取り付け部2Aは、可変部3Aを介して取り付け部2Aに加わった力の方向と同一の方向に連結部4Aを押す(P3)。連結部4Aは高剛性の材料で構成されているため、連結部4Aが押されても縮まない。従って、連結部4Aは、連結部4Aに加わったそのままの力で可変部5Aを押す(P4)。
【0050】
一方、可変部3A、5Aは弾性を有する樹脂構成されているため、可変部3A、5Aに加わった力に応じて変形可能である。ここで、制振対象JAの取り付け面MJに対し、可変部5Aは、可変部3Aより遠い位置にある。また、連結部4Aが可変部5Aを押すと、その反作用として連結部4Aは可変部5Aから押し返される。このとき、連結部4Aは、可変部3A、5Aから押されると、連結部4Aに力のモーメントが働き、
図1の幅方向DWを軸とする回転方向に回転し、取り付け面MJに対する連結部4Aの角度が変化する。可変部3A、5Aは、連結部4Aの角度の変化に応じて変形し、連結部4Aとともに質量体Mに対して取り付け面MJから離れる方向に移動させる力を加える。質量体Mは、連結部4Aの角度の変化に応じて働く力に基づいて、取り付け面MJから離れる方向に移動する(P5)。
【0051】
取り付け面MJから離れる方向に質量体Mが移動すると、質量体Mは、可変部5Bを介して取り付け面MJから離れる方向に連結部4Bを引く(P6)。連結部4Bは高剛性の材料で構成されているため、連結部4Bが引かれても伸びない。従って、連結部4Bは、連結部4Bに加わったそのままの力で可変部3Bを引く(P7)。
【0052】
一方、可変部3B、5Bは弾性を有する樹脂構成されているため、可変部3B、5Bに加わった力に応じて変形可能である。ここで、制振対象JAの取り付け面MJに対し、可変部5Bは、可変部3Bより遠い位置にある。また、連結部4Bが可変部3Bを引くと、その反作用として連結部4Bは可変部3Bから引き返される。このとき、連結部4Bは、可変部3B、5Bから引かれると、連結部4Bに力のモーメントが働き、
図1の幅方向DWを軸とする回転方向に回転し、取り付け面MJに対する連結部4Bの角度が変化する。可変部3B、5Bは、連結部4Bの角度の変化に応じて変形し、連結部4Bとともに取り付け部2Bに対してA点に加わった力の方向と反対の方向の力を加える(P8)。これにより、制振装置1Aは、取り付け部2Bを介してA点の移動方向と反対の方向にB点を移動させ(P9)、A点に加わった振動をB点で減衰させることができる。
【0053】
図3(d)において、制振対象JAの一端(A点)に引く力が加わったものとする(Q1)。このとき、A点に加わった力の方向と同一の方向の力が取り付け部2Aに加わる(Q2)。これにより、取り付け部2Aは、可変部3Aを介して取り付け部2Aに加わった力の方向と同一の方向に連結部4Aを引く(Q3)。そして、連結部4Aは、連結部4Aに加わったそのままの力で可変部5Aを引く(Q4)。
【0054】
このとき、連結部4Aが可変部5Aを引くと、その反作用として連結部4Aは可変部5Aから引き返される。そして、連結部4Aは、可変部3A、5Aから引かれると、連結部4Aに力のモーメントが働き、
図1の幅方向DWを軸とする回転方向に回転し、取り付け面MJに対する連結部4Aの角度が変化する。可変部3A、5Aは、連結部4Aの角度の変化に応じて変形し、連結部4Aとともに質量体Mに対して取り付け面MJに接近する方向に移動させる力を加える。質量体Mは、連結部4Aの角度の変化に応じて働く力に基づいて、取り付け面MJに接近する方向に移動する(Q5)。
【0055】
取り付け面MJに接近する方向に質量体Mが移動すると、質量体Mは、可変部5Bを介して取り付け面MJに接近する方向に連結部4Bを押す(Q6)。このとき、連結部4Bは、連結部4Bに加わったそのままの力で可変部3Bを押す(Q7)。
【0056】
このとき、連結部4Bが可変部3Bを押すと、その反作用として連結部4Bは可変部3Bから押し返される。そして、連結部4Bは、可変部3B、5Bから押されると、連結部4Bに力のモーメントが働き、
図1の幅方向DWを軸とする回転方向に回転し、取り付け面MJに対する連結部4Bの角度が変化する。可変部3B、5Bは、連結部4Bの角度の変化に応じて変形し、連結部4Bとともに取り付け部2Bに対してA点に加わった力の方向と反対の方向の力を加える(Q8)。これにより、制振装置1Aは、取り付け部2Bを介してA点の移動方向と反対の方向にB点を移動させ(Q9)、A点に加わった振動をB点で減衰させることができる。
【0057】
このように、制振装置1Aは、制振対象JAの一端に生じた振動の方向に対して、制振対象JAの他端において反対方向の動きを生じさせることにより、制振対象JAの一端から他端に伝わる振動を減衰させることができる。
【0058】
なお、
図3の説明では、制振対象JAの一端が長さ方向DLに変位するときに高さ方向DHに質量体Mが変位することで、制振対象JAの一端から他端に伝わる振動を減衰させる場合を例にとった。制振装置1Aは、制振対象JAの一端が幅方向DWまたは高さ方向DHに変位する場合においても、制振対象JAの一端から他端に伝わる振動の伝達方向と異なる方向に質量体Mを変位させることにより、制振対象JAの一端から他端に伝わる振動を減衰させることができる。また、制振装置1Aは、制振対象JAの一端にピッチングが発生する場合においても、制振対象JAの一端から他端に伝わる振動の伝達方向と異なる方向に質量体Mを変位させることにより、制振対象JAの一端から他端に伝わる振動を減衰させることができる。
【0059】
図4は、第2実施形態に係る制振装置の装着例を示す側面図である。
図4において、制振装置1A、1A´を平板状の制振対象JAの両面に設けた。制振装置1A´の構成は、制振装置1Aの構成と同様である。なお、
図4では、
図2の構成に対し、取り付け部2A、2B、可変部3A、3B、5A、5Bおよび連結部4A、4Bの寸法を異ならせて示した。
図4の構成について、制振対象JAのA点に水平方向の振動を加えたときのB点の振動について連結部4A、4Bの厚さtを変えてシミュレーションした。なお、制振対象JAは、長さ=150mm、厚さ=5mmの樹脂を想定した。
【0060】
図5から
図7は、
図4の連結部材の厚さを変化させたときの振動の伝達性と周波数との関係を示す図である。なお、
図5から
図7において、横軸は振動の周波数であり、縦軸は振動の伝達率である。伝達率は、制振装置1A、1A´が装着されている場合、制振装置1A、1A´が装着されてない場合に比べて、B点での振動が大きくなれば正の値、B点での振動が小さくなれば負の値、B点での振動に変化がなければ0であることを示す。すなわち、B点での振動が負の値を取っている領域が、振動が減衰している周波数範囲である。また、
図5は、t=10mmの場合、
図6は、t=12mmの場合、
図7は、t=14mmの場合を示す。
【0061】
図5に示すように、t=10mmの場合、およそ220Hz~300Hzの周波数範囲R1の振動が減衰した。
図6に示すように、t=12mmの場合、およそ240Hz~350Hzの周波数範囲R2の振動が減衰した。
図7に示すように、t=14mmの場合、およそ270Hz~400Hzの周波数範囲R3の振動が減衰した。
【0062】
このように、連結部4A、4Bの厚さtを変えると、振動が減衰する周波数範囲が変化することが確かめられた。すなわち、連結部4A、4Bの厚さtを適宜調整すれば、所望の周波数範囲の振動を減衰させることができる。
なお、
図5~
図7にも示されるとおり、制振装置1A、1A´を設けることにより、振動が増大する周波数領域が存在する。これは、制振装置1A、1A´を含む構造物全体の共振によるものである。構造物である以上、共振は必ず存在するので、このように振動が増大する領域が生じる。
【0063】
ここで、制振装置1A、1A´を制振対象JAに装着することにより、100Hzから500Hzという低い周波数の振動の減衰領域を設けることが可能となるとともに、連結部4A、4Bの厚さtを変えるという比較的簡単な方法で、振動の減衰領域を適宜設定することができる。
ただし、連結部4A、4Bの重さが重くなると共振を生じやすくなり、振動が増大する周波数領域が広がる。そのため、連結部4A、4Bの材料は比重の小さいものが好ましく、CFRPは好適である。
【0064】
なお、上述したシミュレーションでは、振動の減衰領域を適宜設定するために、連結部4A、4Bの厚さtを変化させたが、質量体Mを重くすると、低い周波数の振動の伝達を減衰させることができる。また、連結部4A、4Bの長さを長くすることにより、低い周波数の振動の伝達を減衰させることができる。
【0065】
図8は、第2実施形態に係る制振装置の装着時の水平方向における振動の変位分布を示す図である。なお、
図8の変位の数値の単位はメートルである。
図8において、
図4の構成について制振対象JAのA点に水平方向の振動を加えたときのB点の240Hzでの振動の変位分布についてシミュレーションした。このとき、振動の変位は、水平方向において同一位相かつ同一周期で発生し、A点からB点に向かって減衰する。
【0066】
図9は、第3実施形態に係る制振装置の構成を示す側面図である。
図9において、制振装置1Bは、質量体MBおよび支持部PAB、PBBを備える。制振装置1Bは、制振対象JAに取り付けられる。なお、支持部PAB、PBBは、制振対象JAのA点に加わる力の方向に対して、
図2の支持部PA、PBと反対方向に回転し、
図2の質量体Mの移動方向に対して質量体MBを反対方向に移動させる。
【0067】
支持部材PABは、取り付け部2AB、可変部3AB、5ABおよび連結部4ABを備える。支持部材PBBは、取り付け部2BB、可変部3BB、5BBおよび連結部4BBを備える。ここで、制振装置1Bの第1端部TABおよび第2端部TBBの変位がないときに、各連結部4AB、4BBは、制振対象JAの取り付け面MJに対し平行である。また、制振対象JAの取り付け面MJに対し、各可変部5AB、5BBは、各可変部3AB、3BBより近い位置にある。すなわち、制振装置1Bの高さ方向DHにおいて、各可変部5AB、5BBと取り付け面MJとの距離をh1、各可変部3AB、3BBと取り付け面MJとの距離をh2とすると、h1<h2である。取り付け部2AB、2BB、可変部3AB、3BB、5AB、5BBおよび連結部4AB、4BBのそれ以外の構成については、
図2の取り付け部2A、2B、可変部3A、3B、5A、5Bおよび連結部4A、4Bと同様に構成することができる。
【0068】
ここで、h1<h2とすることにより、制振対象JAのA点に押す力が加わった場合は、質量体Mを取り付け面MJに接近させる方向に移動させる力を生じさせ、制振対象JAのA点に引く力が加わった場合は、質量体Mを取り付け面MJから離れる方向に移動させる力を生じさせることができる。これにより、制振対象JAのA点に押す力が加わった場合は、制振対象JAのB点に押す力を作用させ、制振対象JAのA点に引く力が加わった場合は、制振対象JAのB点に引く力を作用させることができ、制振対象JAのA点の振動がB点に伝わるのを抑制することができる。
【0069】
図10は、第4実施形態に係る制振装置の構成を示す側面図である。
図10において、制振装置1Cは、質量体MCおよび支持部PAC、PBCを備える。制振装置1Cは、制振対象JAに取り付けられる。なお、支持部PAC、PBCは、制振対象JAのA点に加わる力の方向に対して、
図2の支持部PA、PBと同一方向に回転し、
図2の質量体Mの移動方向と同一方向に質量体MCを移動させる。
【0070】
支持部材PACは、取り付け部2AC、可変部3AC、5ACおよび連結部4ACを備える。支持部材PBCは、取り付け部2BC、可変部3BC、5BCおよび連結部4BCを備える。ここで、各連結部4AC、4BCは、制振装置1Cの第1端部TACおよび第2端部TBCの変位がないときに、質量体MCが取り付け面MJから離れる方向に取り付け面MJに対し傾いている。このとき、各連結部4AC、4BCの傾きは、質量体MCに対して対称になるように設定することができる。この場合、可変部3AC、5ACは、連結部4ACの両端に直線上に配置してもよいし、可変部3BC、5BCは、連結部4BCの両端に直線上に配置してもよい。取り付け部2AC、2BC、可変部3AC、3BC、5AC、5BCおよび連結部4AC、4BCのそれ以外の構成については、
図2の取り付け部2A、2B、可変部3A、3B、5A、5Bおよび連結部4A、4Bと同様に構成することができる。
【0071】
ここで、制振対象JAの取り付け面MJに対し質量体MCが取り付け面MJから離れる方向に各連結部4AC、4BCを傾けて設置することにより、制振対象JAのA点に押す力が加わった場合は、質量体MCを取り付け面MJから離れる方向に移動させる力を生じさせ、制振対象JAのA点に引く力が加わった場合は、質量体MCを取り付け面MJに接近させる方向に移動させる力を生じさせることができる。これにより、制振対象JAのA点に押す力が加わった場合は、制振対象JAのB点に引く力を作用させ、制振対象JAのA点に引く力が加わった場合は、制振対象JAのB点に押す力を作用させることができ、制振対象JAのA点の振動がB点に伝わるのを抑制することができる。
【0072】
なお、
図10では、各連結部4AC、4BCは、制振装置1Cの第1端部TACおよび第2端部TBCの変位がないときに、質量体MCが取り付け面MJから離れる方向に取り付け面MJに対し傾いている例を示した。各連結部4AC、4BCは、制振装置1Cの第1端部TACおよび第2端部TBCの変位がないときに、質量体MCが取り付け面MJに接近する方向に取り付け面MJに対し傾いていてもよい。
【0073】
図11は、第5実施形態に係る制振装置が装着された可動装置を示す側面図である。なお、
図11では、制振装置が装着された可動装置として基板搬送装置を例にとった。
図11において、基板搬送装置10は、プリント基板や液晶パネル用のガラス基板等を真空吸着にて保持し搬送する。
【0074】
基板搬送装置10は、基板の上面側を吸着する吸着部22を備える。吸着部22は、複数の吸着パッド19、吸着パッド19を支持するパッド支持部20および吸着パッド19に陰圧を与える真空配管21を備える。吸着パッド19は、変形可能な樹脂で構成され、その内部に真空供給路が形成されている。吸着パッド19は、搬送される基板に合わせて2次元平面上に複数配置される。パッド支持部20は、2次元平面上に配置された複数の吸着パッド19を同一水平面内で保持可能なように平板状に形成される。パッド支持部20は、例えば、金属の板材からなるプレート状の支持具である。
【0075】
また、基板搬送装置10は、吸着部22を垂直方向および水平方向に移動させるために、垂直駆動部14および水平駆動部15を備える。垂直駆動部14は、垂直駆動部14を垂直方向に案内する垂直案内部12にて支持される。垂直案内部12は、基台11上に支持される。水平駆動部15は、水平駆動部15を水平方向に案内する水平案内部13にて支持される。水平案内部13は、垂直駆動部14にて水平方向に支持される。
【0076】
パッド支持部20は、連結部材16~18を介して水平駆動部15にて支持される。連結部材16~18は、吸着パッド19が基台11側を向くようにパッド支持部20を基台11上に保持する。このとき、連結部材18は、パッド支持部20上の真空配管21の邪魔にならない位置に設けられる。連結部材18上には、
図2の制振装置1Aが装着される。
図2の制振装置1Aの代わりに、
図9の制振装置1Bまたは
図10の制振装置1Cを装着してもよい。
【0077】
例えば、基板搬送装置10が露光装置に適用される場合、吸着パッド19を基板に接触させた後、吸着パッド19を真空引きして基板を吸着パッド19に吸着させる。そして、垂直駆動部14および水平駆動部15を動作させて吸着部22を移動させることで基板をワークステージ上まで搬送し、ワークステージ上に基板を載置した後、吸着パッド19の真空引きを解除して吸着部22をワークステージ上から退避させる。
【0078】
ここで、ワークステージ上に基板が載置されるときに、基板の搬送に用いられた吸着部22および連結部材16の移動がワークステージ上で停止される。このとき、吸着部22および連結部材16の移動の停止時に発生する振動がワークステージに伝わると、ワークステージの振動が十分に小さくなるまで待機される。ここで、連結部材18上には制振装置1Aが装着されているので、制振装置1Aが装着されていない場合に比べて、吸着部22および連結部材16の移動の停止時に発生する振動をより速やかに減衰させることができる。このため、ワークステージの振動が十分に小さくなるまで待機時間を短くすることができ、生産性を向上させることができる。ワークステージの振動が十分に小さくなると、ワークステージ上で基板の露光処理が行われる。
【0079】
図12は、第6実施形態に係る制振装置が装着された可動装置を示す斜視図である。なお、
図12では、制振装置が装着された可動装置として、多関節型の基板搬送ロボットを例にとった。
図12において、基板搬送ロボット30は、半導体ウエハ、ディスプレイ用のガラス基板または実装用のプリント基板等を真空吸着にて保持し搬送する。
【0080】
基板搬送ロボット30は、アーム33~35を備える。各アーム33~35は、例えば、アルミナなどのセラミックスで構成され、長尺な平板状である。アーム33は支持軸32を介して基台上に31に支持される。アーム33の一端は関節部36を介して支持軸32に連結され、アーム33の他端は関節部37を介してアーム34の一端に連結され、アーム34の他端は関節部38を介してアーム35の一端に連結されている。アーム35の他端はフォーク状に形成され、フォークの先端には突出部40が設けられ、フォークの付け根には吸着穴39が設けられている。
【0081】
基板搬送ロボット30は、支持軸32および各関節部36~38が駆動されることによるアーム33~35の伸縮運動、支持軸32の回りにアーム33~35が全体として回転する回転運動およびアーム33~35が全体に上下に移動する上下運動が可能である。
【0082】
各アーム33~35は内部に吸引路を有し、吸着穴39を真空引きすることができる。突出部40は、例えば、コムなどの弾性部材で柱状に構成される。基板搬送ロボット30にて基板を搬送する場合、基板の中心が吸着穴39上に位置し、基板の周辺が突出部40上に位置するようにアーム35上に基板が保持される。ここで、吸着穴39を介して基板が吸着されたときに、基板が突出部40を圧縮することで基板と突出部40との間に摩擦力を働かせ、基板に反りがある場合においても、基板がアーム35上から脱落するのを抑制することができる。
【0083】
アーム35上には、
図2の制振装置1Aが装着される。制振装置1Aは、アーム35上での基板の保持の邪魔にならない位置に設置される。
図2の制振装置1Aの代わりに、
図9の制振装置1Bまたは
図10の制振装置1Cを装着してもよい。
【0084】
例えば、基板搬送ロボット30が露光装置に適用される場合、基板下にアーム35を挿入した後、吸着穴39を真空引きして基板を吸着穴39に吸着させる。そして、支持軸32および各関節部36~38を駆動させてアーム33~35を移動させることで基板をワークステージ上まで搬送し、ワークステージ上に基板を載置した後、吸着穴39の真空引きを解除してアーム33~35をワークステージ上から退避させる。
【0085】
ここで、ワークステージ上に基板が載置されるときに、基板の搬送に用いられたアーム33~35の移動がワークステージ上で停止される。このとき、アーム33~35の移動の停止時に発生する振動がワークステージに伝わると、ワークステージの振動が十分に小さくなるまで待機される。ここで、アーム35上には制振装置1Aが装着されているので、制振装置1Aが装着されていない場合に比べて、アーム33~35の移動の停止時に発生する振動をより速やかに減衰させることができる。このため、ワークステージの振動が十分に小さくなるまで待機時間を短くすることができ、生産性を向上させることができる。ワークステージの振動が十分に小さくなると、ワークステージ上で基板の露光処理が行われる。
【0086】
なお、上述した実施形態では、基板搬送アームおよび多関節型ロボットアームに制振装置を装着した例を示したが、振動が発生する可動装置ならば任意の可動装置に制振装置を装着可能である。例えば、放電加工装置、切削加工装置、レーザ加工装置または露光装置などのステージに制振装置を装着してもよいし、部品のハンドラなどに制振装置を装着してもよい。また、地震による建築物、棚または家具などの揺れを低減させるために、建築物、棚または家具などに制振装置を装着してもよい。このとき、制振装置の制振周波数を地震の揺れの周波数に対応させることができる。
【符号の説明】
【0087】
1A 制振装置、PA、PB 支持部、2A、2B 取り付け部、3A、3B、5A、5B 可変部、4A、4B 連結部、M 質量体、JA 制振対象