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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】軟骨病変の骨関節再生の為の複合製品
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/40 20060101AFI20240627BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20240627BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20240627BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20240627BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240627BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20240627BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20240627BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20240627BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A61L27/40
A61L27/18
A61L27/24
A61L27/52
A61L27/38
A61L27/54
A61L27/58
A61L27/20
A61L27/04
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022568430
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2020063549
(87)【国際公開番号】W WO2021228402
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】511142062
【氏名又は名称】アンスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ レシェルシュ メディカル(アンセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】511214886
【氏名又は名称】ユニベルシテ ド ストラスブール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE STRASBOURG
【住所又は居所原語表記】4, rue Blaise Pascal, F-67081 Strasbourg Cedex, France
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】ベンキーラーン-ジェセル,ナディア
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-506514(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0086602(US,A1)
【文献】特表2019-515753(JP,A)
【文献】Nature Communications,Vol.10:2156,2019年,pp.1-10,https://doi.org/10.1038/s41467-019-10165-5
【文献】Nanomedicine (Lond.),2015年,Vol.10(18),pp.2833-2845
【文献】International Journal of Nanomedicine,2015年,Vol.10,pp.1061-1075
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体材料であって、
ナノファイバーポリマースキャフォールドで作られている膜創傷パッチ(a)であって、任意的に該ポリマースキャフォールドが、
多層化された滴で作られている断続的な被覆物であって、該多層化された滴が、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である、該断続的な被覆物、又は
15超の層ペアを含む連続的な被覆物であって、各層ペアが、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる、該連続的な被覆物
のいずれかで被覆されている表面を有する、該膜創傷パッチ(a)、
幹細胞を含むハイドロゲル(b)、並びに
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドである骨創傷パッチ(c)であって、該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴であり、該骨創傷パッチ(c)が骨成長因子を更に含む、該骨創傷パッチ(c)
を含み、
該ハイドロゲル(b)が、該膜創傷パッチ(a)と該骨創傷パッチ(c)との間に含まれている、
前記生体材料。
【請求項2】
生体材料であって、
ナノファイバーポリマースキャフォールドで作られている膜創傷パッチ(a)であって、任意的に該ポリマースキャフォールドが、
多層化された滴で作られている断続的な被覆物であって、該多層化された滴が、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である、該断続的な被覆物、又は
15超の層ペアを含む連続的な被覆物であって、各層ペアが、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる、該連続的な被覆物
のいずれかで被覆されている表面を有する、該膜創傷パッチ(a)、
自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞、を含むハイドロゲル(b)、並びに
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドである骨創傷パッチ(c)であって、該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴であり、該骨創傷パッチ(c)が骨成長因子を更に含む、該骨創傷パッチ(c)
を含み、
該ハイドロゲル(b)が、該膜創傷パッチ(a)と該骨創傷パッチ(c)との間に含まれている、
前記生体材料。
【請求項3】
前記ハイドロゲル(b)が、ヒアルロン酸、及び/又はアルギン酸塩を含む、請求項1又は2に記載の生体材料。
【請求項4】
前記膜創傷パッチ(a)の前記ナノファイバーポリマースキャフォールドが、ポリエステル;ポリアミド;ポリウレタン及びポリウレア;ポリ(アミド-エナミン);ポリ無水物;微小生物供給源、植物供給源、海洋供給源又は動物供給源から産生されたポリマー;並びにそれらのポリマーの混合物からなる群から選択されるポリマーで作られている、請求項1~3のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項5】
前記膜創傷パッチ(a)の前記ナノファイバーポリマースキャフォールドが、任意的にコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含んでいてもよいポリ(ε-カプロラクトン)から作られている、請求項1~4のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項6】
前記骨創傷パッチ(c)の前記ナノファイバーポリマースキャフォールドが、ポリエステル;ポリアミド;ポリウレタン及びポリウレア;ポリ(アミド-エナミン);ポリ無水物;微小生物供給源、植物供給源、海洋供給源又は動物供給源から産生されたポリマー;並びにそれらのポリマーの混合物からなる群から選択されるポリマーで作られている、請求項1~5のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項7】
前記骨創傷パッチ(c)の前記ナノファイバーポリマースキャフォールドが、ポリ(ε-カプロラクトン)で又はコラーゲンで作られている、請求項1~6のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項8】
前記成長因子が、血管内皮成長因子(VEGF)、骨形態形成タンパク質(BMP)、例えばBMP2、トランスフォーミング成長因子(TGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、それらをコードする核酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項9】
前記骨創傷パッチ(c)が、キトサン及びBMP2滴を含むポリ(ε-カプロラクトン)スキャフォールドで作られている、請求項1~8のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項10】
前記膜創傷パッチ(a)は、コンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸滴を含むポリ(ε-カプロラクトン)スキャフォールドで作られている、請求項1~9のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項11】
骨及び/又は軟骨再生における使用の為の、請求項1~10のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項12】
骨及び/又は軟骨欠損の処置における使用の為の、請求項1~10のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項13】
変形性関節症の処置及び/又は予防の為の使用の為のキットであって、
ナノファイバーポリマースキャフォールドで作られている膜創傷パッチ(a)であって、任意的に該ポリマースキャフォールドが、
多層化された滴で作られている断続的な被覆物であって、該多層化された滴が、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である、該断続的な被覆物、又は
15超の層ペアを含む連続的な被覆物であって、各層ペアが、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる、該連続的な被覆物
のいずれかで被覆されている表面を有する、該膜創傷パッチ(a)、
幹細胞、好ましくは自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞、を含むハイドロゲル(b)、並びに
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドである骨創傷パッチ(c)であって、該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴であり、該骨創傷パッチ(c)が骨成長因子を更に含む、該骨創傷パッチ(c)
を含む、前記キット。
【請求項14】
変形性関節症の処置及び/又は予防の為の使用の為のキットであって、
ナノファイバーポリマースキャフォールドで作られている膜創傷パッチ(a)であって、任意的に該ポリマースキャフォールドが、
多層化された滴で作られている断続的な被覆物であって、該多層化された滴が、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である、該断続的な被覆物、又は
15超の層ペアを含む連続的な被覆物であって、各層ペアが、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる、該連続的な被覆物
のいずれかで被覆されている表面を有する、該膜創傷パッチ(a)、
自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞を含むハイドロゲル(b)、並びに
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドである骨創傷パッチ(c)であって、該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴であり、該骨創傷パッチ(c)が骨成長因子を更に含む、該骨創傷パッチ(c)
を含む、前記キット。
【請求項15】
変形性関節症の処置及び/又は予防の為の使用の為のキットであって、
ナノファイバーポリマースキャフォールドで作られている膜創傷パッチ(a)であって、任意的に該ポリマースキャフォールドが、
多層化された滴で作られている断続的な被覆物であって、該多層化された滴が、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である、該断続的な被覆物、又は
15超の層ペアを含む連続的な被覆物であって、各層ペアが、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる、該連続的な被覆物
のいずれかで被覆されている表面を有する、該膜創傷パッチ(a)、
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドである骨創傷パッチ(c)であって、該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴であり、該骨創傷パッチ(c)が骨成長因子を更に含む、該骨創傷パッチ(c)、
自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞、
ヒアルロン酸と、アルギン酸塩との溶液、並びに
塩化カルシウム又はリン酸カルシウムの溶液
を含む、前記キット。
【請求項16】
生体材料であって、
ナノファイバーポリマースキャフォールドで作られている膜創傷パッチ(a)であって、任意的に該ポリマースキャフォールドが、
多層化された滴で作られている断続的な被覆物であって、該多層化された滴が、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である、該断続的な被覆物、又は
15超の層ペアを含む連続的な被覆物であって、各層ペアが、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる、該連続的な被覆物
のいずれかで被覆されている表面を有する、該膜創傷パッチ(a)、
自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞を含むハイドロゲル(b)、並びに
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドである骨創傷パッチ(c)であって、該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴であり、該骨創傷パッチ(c)が骨成長因子を更に含む、該骨創傷パッチ(c)
を、変形性関節症の処置及び/又は予防における同時の、別々の又は逐次的な使用の為の複合製剤として含む、前記生体材料。
【請求項17】
生体材料であって、
ナノファイバーポリマースキャフォールドで作られている膜創傷パッチ(a)であって、任意的に該ポリマースキャフォールドが、
多層化された滴で作られている断続的な被覆物であって、該多層化された滴が、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である、該断続的な被覆物、又は
15超の層ペアを含む連続的な被覆物であって、各層ペアが、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる、該連続的な被覆物
のいずれかで被覆されている表面を有する、該膜創傷パッチ(a)、
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドである骨創傷パッチ(c)であって、該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴であり、該骨創傷パッチ(c)が骨成長因子を更に含む、該骨創傷パッチ(c)
自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞、
ヒアルロン酸と、アルギン酸塩との溶液、並びに
塩化カルシウム又はリン酸カルシウムの溶液
を、変形性関節症の処置及び/又は予防における同時の、別々の又は逐次的な使用の為の複合製剤として含む、前記生体材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨病変の骨関節再生の為の複合先進治療医薬品(composite advanced therapy medicinal product)に関する。本発明は、特に、特に変形性関節症の予防及び/又は処置を目的とする、3つの主な要素を含む生体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
平均余命の延長及び偶発的な外傷の増加により、骨関節の外科的手技の増加が必要とされる。骨関節病変を処置する為の主な臨床オプションである関節形成術は制限及び欠点を有する。
【0003】
骨軟骨欠損の再生は、特に人口の高齢化及び公共健康システムに対する高い影響力を考慮すれば、大きな課題となる。現行で施与されている外科的手技(骨グラフト、骨軟骨柱移植術、マイクロフラクチャー、関節プロテーゼ、治療用インプラント)は、患者にとって侵襲的及び/又は有痛性であり、有効性が限られ、副作用を伴う。大腿顆の病変は特に一般的であり、重篤な帰結をもたらす可能性がある。2002年の研究では、関節鏡検査を受けている患者の60%は骨軟骨欠損を示し;症例の半分より多くにおいて、そのような病変は、国際軟骨修復学会(ICRS:International Cartilage Repair Society)スケールに従って、グレード3以上として分類されることが見出された。骨軟骨欠損は適切に治らず、処置(例えば、Pridieの骨髄刺激又は骨軟骨柱移植術(mosaicplasty)処置により)を受けた場合であっても、症例の52%において変形性関節症(OA:osteoarthritis)をもたらす。軟骨の独特の特性(多層化されている細胞構造、異なる細胞外マトリックス組成及び原線維配向性)はその修復を困難としている。マイクロフラクチャー、骨軟骨柱移植術、骨関節移植術又は自家軟骨細胞インプラントのような外科的技術は部分的な機能的回復を可能としうるが、疼痛の緩和及び病変の拡大の予防をほぼ目的としている(Ho YY,Stanley AJ,Hui JH,Wang SC. Postoperative evaluation of the knee after autologous chondrocyte implantation:what radiologists need to know.Radiographics 27,207-220; discussion 221-202 (2007))。全てのこれらの技術は変動的なアウトカム(Magnussen RA,Dunn WR,Carey JL,Spindler KP.Treatment of focal articular cartilage defects in the knee:a systematic review.Clin Orthop Relat Res 466,952-962 (2008))及び内因性の制限(Horas U,Pelinkovic D,Herr G,Aigner T,Schnettler R.Autologous chondrocyte implantation and osteochondral cylinder transplantation in cartilage repair of the knee joint.A prospective,comparative trial.J Bone Joint Surg Am 85-A,185-192 (2003); Bark S,Piontek T,Behrens P,Mkalaluh S,Varoga D,Gille J.Enhanced microfracture techniques in cartilage knee surgery:Fact or fiction? World J Orthop 5,444-449 (2014))を有し、硝子質関節表面を回復させることが示されたものはなく(Marcacci M,Filardo G,Kon E.Treatment of cartilage lesions:what works and why? Injury 44 Suppl 1,S11-15 (2013))、骨関節再生(OAR)を促進する為の代替的な療法に対する探索を正当化している。最近、前培養された自家軟骨細胞を含有する哺乳動物起源の膜ベースコラーゲン材料(Nixon AJ,Rickey E,Butler TJ,Scimeca MS,Moran N,Matthews GL.A chondrocyte infiltrated collagen type I/III membrane (MACI(R) implant) improves cartilage healing in the equine patellofemoral joint model.Osteoarthritis Cartilage 23,648-660 (2015); Volz M,Schaumburger J,Frick H,Grifka J,Anders S.A randomized controlled trial demonstrating sustained benefit of Autologous Matrix-Induced Chondrogenesis over microfracture at five years.Int Orthop 41,797-804 (2017); 12.Niethammer TR,Holzgruber M,Gulecyuz MF,Weber P,Pietschmann MF,Muller PE.Matrix based autologous chondrocyte implantation in children and adolescents:a match paired analysis in a follow-up over three years post-operation.Int Orthop 41,343-350 (2017); 及びCengiz IF,et al.Orthopaedic regenerative tissue engineering en route to the holy grail:disequilibrium between the demand and the supply in the operating room.J Exp Orthop 5,14 (2018))が、関節限局性病変を充填して軟骨再生を促進する為に使用された。しかしながら、軟骨下骨に対して行われた場合、それらは部位罹患性及び線維軟骨形成を示し(Caldwell KL,Wang J.Cell-based articular cartilage repair:the link between development and regeneration.Osteoarthritis Cartilage 23,351-362 (2015))、機能不全な修復に繋がった。これらの制限を克服する為に、自家骨髄由来間葉幹細胞(MSC)を用いてOARの効率を増加させるMSCベース療法が出現した(Magne D,Vinatier C,Julien M,Weiss P,Guicheux J.Mesenchymal stem cell therapy to rebuild cartilage.Trends Mol Med 11,519-526 (2005); Nejadnik H,Hui JH,Feng Choong EP,Tai BC,Lee EH.Autologous bone marrow-derived mesenchymal stem cells versus autologous chondrocyte implantation:an observational cohort study.Am J Sports Med 38,1110-1116 (2010); Seo S,Na K.Mesenchymal stem cell-based tissue engineering for chondrogenesis.J Biomed Biotechnol 2011,806891 (2011); 及びBeane OS,Darling EM.Isolation,characterization,and differentiation of stem cells for cartilage regeneration.Ann Biomed Eng 40,2079-2097 (2012))。それ故に、生体材料、幹細胞及び活性分子の組み合わせが、有効な組織修復を促進する為及び関節の機能的回復を達成する為に必要とされる(Henkel J,et al.Bone Regeneration Based on Tissue Engineering Conceptions - A 21st Century Perspective.Bone Res 1,216-248 (2013); 及びDrevelle O,Faucheux N.Biomimetic materials for controlling bone cell responses.Front Biosci (Schol Ed) 5,369-395 (2013))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その為、本発明の目的は、軟骨下骨及び軟骨の両方の再生に対処することができる新規な生体材料を提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、変形性関節症の予防の為に有用な生体材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、インプラント、創傷パッチ及び保護カバーにおける異なる機能を有する合成パッチの最適化に関する。この革新的な戦略は、多組織分化(骨/軟骨)及び十分な投薬量の成長因子による局所的な精密な刺激(ナノスケール)を含む、軟骨下骨及び軟骨再生の分野における大きな進歩を提供する。
【0007】
本発明は、生体材料であって、
ナノファイバーポリマースキャフォールドで作られている膜創傷パッチ(a)であって、任意的に該ポリマースキャフォールドが、
多層化された滴で作られている断続的な被覆物であって、該多層化された滴が、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である、該断続的な被覆物、又は
15超の層ペアを含む連続的な被覆物であって、各層ペアが、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる、該連続的な被覆物
のいずれかで被覆されている表面を有する、該膜創傷パッチ(a)、
幹細胞、好ましくは自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞、を含むハイドロゲル(b)、並びに
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドである骨創傷パッチ(c)であって、該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴であり、該骨創傷パッチ(c)が骨成長因子を更に含む、該骨創傷パッチ(c)
を含み、
該ハイドロゲル(b)が、該膜創傷パッチ(a)と該骨創傷パッチ(c)との間に含まれている、
上記の生体材料に関する。
【0008】
本発明はまた、生体材料であって、
ナノファイバーポリマースキャフォールドで作られている膜創傷パッチ(a)であって、任意的に該ポリマースキャフォールドが、
多層化された滴で作られている断続的な被覆物であって、該多層化された滴が、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である、該断続的な被覆物、又は
15超の層ペアを含む連続的な被覆物であって、各層ペアが、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる、該連続的な被覆物
のいずれかで被覆されている表面を有する、該膜創傷パッチ(a);
幹細胞を含むハイドロゲル(b)、並びに
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドである骨創傷パッチ(c)であって、該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴であり、該骨創傷パッチ(c)が骨成長因子を更に含む、該骨創傷パッチ(c)
を含み;
該ハイドロゲル(b)が、該膜創傷パッチ(a)と該骨創傷パッチ(c)との間に含まれている、
上記の生体材料に関する。
【0009】
本発明は、生体材料であって、
ナノファイバーポリマースキャフォールドで作られている膜創傷パッチ(a)であって、該ポリマースキャフォールドが、
多層化された滴で作られている断続的な被覆物であって、該多層化された滴が、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である、該断続的な被覆物、
又は15超の層ペアを含む連続的な被覆物であって、各層ペアが、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる、該連続的な被覆物
のいずれかで被覆されている表面を有する、該膜創傷パッチ(a);
幹細胞、好ましくは自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞、を含むハイドロゲル(b)、並びに
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドである骨創傷パッチ(c)であって、該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴であり、該骨創傷パッチ(c)が骨成長因子を更に含む、該骨創傷パッチ(c)
を含み;
該ハイドロゲル(b)が、該膜創傷パッチ(a)と該骨創傷パッチ(c)との間に含まれている、
上記の生体材料に関する。
【0010】
膜創傷パッチ(a)
好ましくは、該膜創傷パッチはナノファイバーポリマースキャフォールドで作られており、ここで、該ポリマースキャフォールドは、任意的に被覆されていてもよい表面を有する。
【0011】
好ましくは、該膜創傷パッチは、ナノファイバーポリマースキャフォールドで作られており、ここで、該ポリマースキャフォールドは、上記に説明されている被覆されている表面を有する。
【0012】
該パッチ(a)の該スキャフォールドはポリマーで作られている。好ましくは、該ポリマーは、ポリ(ε-カプロラクトン)、コラーゲン、フィブリン、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(エチレングリコール)-テレフタレート、ポリ(ブチレンテレフタレート)、又はこれらのコポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択される。該パッチ(a)の該スキャフォールドはまた、ポリマー、例えばヒアルロン酸、ヒドロキシアパタイト、コンドロイチン硫酸、キトサン、及びこれらの混合物で作られていることができる。
【0013】
一つの実施態様に従うと、該膜創傷パッチ(a)の該ナノファイバーポリマースキャフォールドは、ポリエステル;ポリアミド;ポリウレタン及びポリウレア;ポリ(アミド-エナミン);ポリ無水物;微小生物供給源、植物供給源、海洋供給源又は動物供給源から産生されたポリマー;並びにそれらのポリマーの混合物からなる群から選択されるポリマーで作られている。
【0014】
より好ましくは、該膜創傷パッチ(a)の該ポリマースキャフォールドはポリ(ε-カプロラクトン)又はコラーゲンで作られている。
【0015】
最も好ましくは、該膜創傷パッチ(a)の該ナノファイバーポリマースキャフォールドは、任意的にコンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸と混合された、ポリ(ε-カプロラクトン)で作られている。
【0016】
本発明に従うと、該膜創傷パッチは、軟骨成分、最も好ましくはコンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸、を含む。ヒアルロン酸(HA:Hyaluronic acid)は、軟骨マトリックス中に豊富に存在する多糖であり、軟骨再生の為に理想的な、理想的な軟骨形成性微環境を構成する。コンドロイチン硫酸は、軟骨の重要な構造成分であり、圧縮に対する抵抗性の多くを提供する。
【0017】
一つの実施態様に従うと、該コンドロイチン硫酸及び/又は該ヒアルロン酸は該ポリマースキャフォールド中に含まれている。そのような実施態様において、該スキャフォールドは更に被覆されていない。
【0018】
一つの実施態様に従うと、該コンドロイチン硫酸及び該ヒアルロン酸は、多層化された滴の該被覆物中に、ポリアニオンとして含まれている。
【0019】
好ましい実施態様に従うと、該膜創傷パッチ(a)は、コンドロイチン硫酸/ヒアルロン酸滴を含むポリ(ε-カプロラクトン)スキャフォールドで作られている。
【0020】
好ましい実施態様に従うと、該ポリ(ε-カプロラクトン)は好ましくはエレクトロスピニングされている。
【0021】
特定の実施態様において、該パッチ(a)の該スキャフォールドは、多層化された滴の断続的な被覆物で被覆されている表面を有する。これらの滴はまた、「ナノリザーバー」又は「ナノコンテナー」と命名されうる。
【0022】
より特には、該パッチ(a)の該スキャフォールドは、レイヤー・バイ・レイヤーを基準にして、交互に負に又は正に荷電した層で被覆されている。
【0023】
以後に説明されているように、この被覆物は、治療用分子のナノリザーバーを作出するように該スキャフォールドを治療用分子で機能化することを可能とする。
【0024】
語「多層化された滴」は、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている、滴又はパッチを云う。該滴は、異なる形状:円形状、楕円形状又は目盛り形状を示すことができる。好ましくは、該滴は、10~150nm、より好ましくは15~100nm、よりいっそう好ましくは25~50nm、のサイズを有する。
【0025】
本発明に従うと、語「多層化された滴被覆物」は、該スキャフォールドの表面に配されており、及び反対に荷電した分子で多層化された滴のレイヤー・バイ・レイヤー(LbL:layer-by-layer)堆積により得られる、滴又はパッチの被覆物を云う。
【0026】
語「多層化された滴被覆物」は更に、該スキャフォールドの断続的な被覆物、すなわち該生体材料スキャフォールドの表面に沿った連続的なフィルムの形態ではない被覆物を云う。該多層滴被覆物は、その不規則な形状により、及び/又は該スキャフォールドの表面の少なくとも部分が被覆されないように、それは該スキャフォールドの表面の全体をカバーしないという事実により、特徴付けられうる。本発明の該多層滴被覆物は、滑らかな表面を有し及び該スキャフォールドの表面の全体をカバーするところのフィルム被覆物と対比されうる。
【0027】
該被覆物の構築は、反対に荷電した分子のレイヤー・バイ・レイヤー(LbL)堆積に基づく。すなわち、該パッチ(a)の該スキャフォールドの該被覆物は、高分子電解質の多層化されたフィルムと同じ方式で作られる。その為、該骨創傷パッチ(a)は、該スキャフォールドの表面上に、多数の多層化された滴の形態の、高分子電解質多層を含む。
【0028】
より特には、本発明による該ナノファイバースキャフォールドは、レイヤー・バイ・レイヤーを基準にして、交互に負に又は正に荷電した層で被覆されている。これらの層の少なくとも1つは、該治療用分子を組み込んでいる及び/又はからなる。これらの層は、該ナノファイバースキャフォールドの表面上に「多層化された滴」を形成する。この被覆物は、治療用分子のナノリザーバーを作出するように該ナノファイバースキャフォールドを治療用分子で機能化することを可能とする。語「多層化された滴」は、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている、滴又はパッチを云う。該滴は、異なる形状:円形状、楕円形状又は目盛り形状を示すことができる。好ましくは該滴は、10~150nm、より好ましくは15~100nm、よりいっそう好ましくは25~50nm、のサイズを有する。
【0029】
好ましい実施態様に従うと、該ポリカチオンは、ポリ(リジン)ポリペプチド(PLL)、共有結合的に連結されたシクロデキストリン-ポリ(リジン)(PLL-CD)、ポリ(アルギニン)ポリペプチド、ポリ(ヒスチジン)ポリペプチド、ポリ(オルニチン)ポリペプチド、デンドリ-グラフトポリリジン(例えば、デンドリ-グラフトポリ-L-リジン)、キトサン、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0030】
より好ましくは、該ポリカチオンはキトサンである。
【0031】
好ましい実施態様に従うと、該ポリアニオンはまた、該コンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸に加えて更なるポリアニオンを含みうる。そのような更なるポリアニオンは、ポリ(グルタミン酸)ポリペプチド(PGA)、ポリ(アスパラギン酸)ポリペプチド、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0032】
一つの実施態様に従うと、多層化された滴の該被覆物は断続的であり、該多層化された滴は、少なくともコンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である。
【0033】
該パッチ(a)の該ナノファイバースキャフォールドを被覆する該高分子電解質多層は、少なくともコンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸を含むポリアニオンの層並びにポリカチオンの層からなる少なくとも1つの層ペアから構成されている。それらは、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又はそれより多くの層ペアを含みうる。好ましくは、それは3~12個の層ペアを含む。
【0034】
そのような被覆物の作製が以下において更に説明されている。
【0035】
一つの実施態様に従うと、該パッチ(a)の該ポリマースキャフォールドは、15超の層ペアを含む連続的な被覆物で被覆されており、各層ペアは、少なくともコンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸を含むポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる。
【0036】
好ましくは、そのような実施態様に従うと、該ナノファイバースキャフォールドは、各々がポリアニオンの層(負に荷電した、ヒアルロン酸及び/又はコンドロイチン硫酸を含む)、並びにポリカチオンの層(すなわち、正に荷電したDGLG5)からなる、15~30個の層ペアで被覆されている。
【0037】
BMP2を含む多層化された滴被覆物と比較したヒアルロン酸又はコンドロイチン硫酸を含む該多層化された滴被覆物の利点は、該ナノファイバースキャフォールドの機械的特性の改変である。
【0038】
結果的に、該2つの軟骨成分は、関節摩擦を低減させ、スキャフォールドの機械的な抵抗性を向上させ、治療用分子の治療効果を通じて組織再生を増強することを助ける親水性及び粘性の軟骨様組成物を与える。
【0039】
好ましい実施態様において、該ナノファイバースキャフォールドは、好ましくは、被覆されたフィルムである。本発明による該被覆物は、好ましくは、該ナノファイバーの表面上で規則的に広がっている。好ましくは、該連続的な被覆物は、15超の層ペアを含み、各層ペアはポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる。それらは、例えば、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30又はそれより多くの層ペアを含みうる。好ましくは、それは15~30個の層ペアを含む。
【0040】
本発明に従うと、語被覆されたフィルムは、該ナノファイバーの表面に配されており、及び反対に荷電した分子のレイヤー・バイ・レイヤー(LbL)堆積により得られる、被覆物を云う。該ナノファイバーを構成するポリマーの表面電荷の再分配に起因して、ポリアニオン又はポリカチオンの第1の層は、該ナノファイバーの表面に沿って吸着された小さい滴又はパッチを形成する。ポリアニオン又はポリカチオンポリマーの施与の各々の工程において、各々の滴は、ポリアニオン又はポリカチオンポリマーの新たな層によりカバーされる。被覆プロセスは、フィルム被覆物が観察された場合に停止されることができる。該フィルム被覆物が得られる場合、該多層化された滴は、該被覆されたナノファイバーの表面に沿ってこれ以上得られることはできない。
【0041】
語「連続的な被覆フィルム」は更に、該ナノファイバーの連続した被覆物、すなわち該ナノファイバーの表面に沿った連続的なフィルムの形態の被覆物を云う。該連続的な被覆フィルムは、その規則的な形状により、及び/又は該ナノファイバーの表面の少なくとも部分が被覆されないように、それは該ナノファイバーの表面の全体をカバーするという事実により、特徴付けられうる。該連続的な被覆物は、滑らかな表面を有し、及び該ナノファイバーの表面の全体を被覆する(図5を参照)。
【0042】
本発明に従うと、この好ましい連続的な被覆物は、コンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸をポリアニオンとして含む。
【0043】
該被覆されたフィルムは、該ナノファイバーに対して膜創傷パッチとしての使用の為に有利な特徴を提供する。該多層化された滴被覆物と比較した該フィルム被覆物の第1の利点は、インプラントの他の部分を固定及び保護する為のその機械的特性である。他の利点は、該ナノファイバーの、コンドロイチン硫酸及び/又はヒアルロン酸に施与されることができる、治療用分子の、遅い分解可能性と多い量との組み合わせであり、これは炎症のリスクを減少させ、及び長い時間にわたり再生を増強する。
【0044】
好ましい実施態様において、PCLは、好ましくは、二相性のエレクトロスピニングされたPCL膜である。好ましくは、そのような実施態様に従うと、この膜は、並べられた繊維の層でカバーされているランダムな繊維から構成されていることができる。この二相性の膜は、例えば、実施例1の最初の2つの段落に記載されているようにCS/HAのナノリザーバーを用いて得られることができる。
【0045】
ハイドロゲル(b)
好ましくは、該ハイドロゲル(b)は、ヒアルロン酸及び/又はアルギン酸塩を含む。
【0046】
上記に言及されているように、該ハイドロゲルは、自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞である生細胞を含む。好ましくは、該ハイドロゲルは自家骨髄由来間葉幹細胞を含む。該生細胞は、好ましくは、人工多能性幹細胞(iPSC:induced pluripotent stem cells)技術により得られる。
【0047】
特定の実施態様において、該生細胞は、該骨創傷パッチ(c)のスキャフォールド上に堆積されたハイドロゲル(例えば、アルギン酸塩ハイドロゲル又はコラーゲンハイドロゲル)内に含まれる。
【0048】
ハイドロゲルは当業者に周知である。アルギン酸塩ハイドロゲルは、例えば、アルギン酸塩とヒアルロン酸との混合物(例えば、アルギン酸塩:ヒアルロン酸溶液(4:1);これは0.15M NaCl溶液中pH7.4で調製されうる)でありうる。
【0049】
骨創傷パッチ(c)
該パッチ(c)の該スキャフォールドはポリマーで作られている。
【0050】
好ましくは、該ポリマーは、ポリ(ε-カプロラクトン)、コラーゲン、フィブリン、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(エチレングリコール)-テレフタレート、ポリ(ブチレンテレフタレート)、又はこれらのコポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0051】
一つの実施態様に従うと、該骨創傷パッチ(c)の該ナノファイバーポリマースキャフォールドは、ポリエステル;ポリアミド;ポリウレタン及びポリウレア;ポリ(アミド-エナミン);ポリ無水物;微小生物供給源、植物供給源、海洋供給源又は動物供給源から産生されたポリマー;並びにそれらのポリマーの混合物からなる群から選択されるポリマーで作られている。
【0052】
より好ましくは、該骨創傷パッチ(c)の該ポリマースキャフォールドは、ポリ(ε-カプロラクトン)で又はコラーゲンで作られている。
【0053】
上記に言及されているように、該パッチ(c)の該スキャフォールドは、多層化された滴の断続的な被覆物で被覆されている表面を有する。これらの滴はまた「ナノリザーバー」又は「ナノコンテナー」と命名され得、該パッチ(a)について上記に定義される通りである。
【0054】
一部の実施態様に従うと、該スキャフォールドは、多層化された滴で被覆されている。
【0055】
該パッチ(c)の該被覆物は、好ましくは、該スキャフォールドの表面上で不規則的に広がっている。
【0056】
より特には、該パッチ(c)の該スキャフォールドは、レイヤー・バイ・レイヤーを基準にして、交互に負に又は正に荷電した層で被覆されている。
【0057】
以後に説明されているように、この被覆物は、治療用分子のナノリザーバーを作出するように該スキャフォールドを治療用分子で機能化することを可能とする。
【0058】
語「多層化された滴被覆物」は更に、(c)の該スキャフォールドの断続的な被覆物、すなわち(c)の該ポリマースキャフォールドの表面に沿った連続的なフィルムの形態ではない被覆物を云う。該多層滴被覆物は、その不規則な形状により、及び/又は該スキャフォールドの表面の少なくとも部分が被覆されないように、それは該スキャフォールドの表面の全体をカバーしないという事実により、特徴付けられうる。そのような多層滴被覆物は、滑らかな表面を有し、及び該スキャフォールドの表面の全体をカバーする、フィルム被覆物と対比されうる。
【0059】
該被覆物の構築は、反対に荷電した分子のレイヤー・バイ・レイヤー(LbL)堆積に基づく。すなわち、該パッチ(c)の該スキャフォールドの該被覆物は、高分子電解質の多層化されたフィルムと同じ方式で作られる。その為、該骨創傷パッチ(c)は、該スキャフォールドの表面上に、多数の多層化された滴の形態の高分子電解質多層を含む。
【0060】
スキャフォールド表面全体をカバーするフィルム被覆物とは対照的に、該多層化された滴被覆物は、好ましくは、該スキャフォールドの表面を部分的にのみカバーする。本発明による該被覆物は、レイヤー・バイ・レイヤー(LbL)で施与され、過剰な量のポリアニオン又はポリカチオンは、連続する吸着工程の間のリンスする工程を用いて各々の工程において除去される。表面電荷の再分配に起因して、ポリアニオン又はポリカチオンの第1の層は、該スキャフォールドの表面に沿って吸着された小さい滴又はパッチを形成する。該ポリアニオン又はポリカチオン施与の各々の工程において、各々の滴はポリアニオン又はポリカチオンの新たな層によりカバーされる。被覆プロセスは、該多層化された滴被覆物が観察される場合及びフィルム被覆の前に停止される。該多層化された滴被覆物は、フィルム被覆物では観察されない有利な特徴を該スキャフォールドに提供する。該フィルム被覆物が得られる場合、該多層化された滴は、該被覆されているスキャフォールドの表面に沿ってこれ以上得られることはできない。
【0061】
該フィルム被覆物又は該被覆されていないスキャフォールドと比較した該多層化された滴被覆物の第1の利点はその不規則な表面である。この不規則な形状は、該スキャフォールドへの細胞の付着を向上させる。更に、この不規則な形状は、該被覆物と細胞との間の接触の表面の増加を提供して、該被覆物と細胞との間の交換を最適化する。結果的に、低い濃度の治療用分子(存在する場合)が、細胞増殖のより良好な刺激を観察する為に必要とされる。
【0062】
追加的に、本発明の該被覆物は、該フィルム被覆物よりも少ないポリアニオン及びポリカチオン層を使用する。その為、低減された数の層が、該多層化された滴被覆物を得る為に必要とされる。
【0063】
本明細書において更に使用される場合、語「高分子電解質多層」はとりわけ、本発明による該パッチ(c)の該スキャフォールドを被覆する該多層化された滴を包含する。
【0064】
本明細書の枠内において、語「高分子電解質」は、幾つかの電解質基を有する化合物、特にその繰り返し単位が電解質基を有するポリマーを呼称する。該基は、水性溶液中で解離して、場合に応じて、ポリアニオン又はポリカチオンを生じさせて、該ポリマーを荷電させる。
【0065】
該パッチ(c)の該ナノファイバースキャフォールドを被覆する該高分子電解質多層は、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている。それらは、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又はそれより多くの層ペアを含みうる。好ましくは、それは3~12個の層ペアを含む。
【0066】
高分子電解質多層、及び特に本明細書に記載されている多層化された滴は、ポリアニオン及びポリカチオン溶液中への該パッチ(c)の該スキャフォールドの交互の浸漬により容易に得られることができる。
【0067】
当業者に明らかなように、該ポリアニオン及びポリカチオンの選択の為の唯一の要求は該分子の電荷であり、すなわち該ポリアニオンは負に荷電しており、該ポリカチオンは正に荷電している。本発明による該ポリアニオン及びポリカチオンは、任意の種類の分子、例えばポリペプチド(任意的に、化学的に修飾されている)又は多糖(シクロデキストリン、キトサン等を包含する)、に対応しうる。
【0068】
好ましい実施態様に従うと、該ポリカチオンは、ポリ(リジン)ポリペプチド(PLL)、共有結合的に連結されたシクロデキストリン-ポリ(リジン)(PLL-CD)、ポリ(アルギニン)ポリペプチド、ポリ(ヒスチジン)ポリペプチド、ポリ(オルニチン)ポリペプチド、デンドリ-グラフトポリリジン(例えば、デンドリ-グラフトポリ-L-リジン)、キトサン、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0069】
より好ましくは、該ポリカチオンはキトサンである。
【0070】
好ましい実施態様に従うと、該ポリアニオンは、ポリ(グルタミン酸)ポリペプチド(PGA)、ポリ(アスパラギン酸)ポリペプチド、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0071】
上記に言及されているように、該骨創傷パッチ(c)は成長因子を含む。
【0072】
好ましくは、該成長因子は、血管内皮成長因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)、骨形態形成タンパク質(BMP:bone morphogenetic protein)、例えばBMP2、トランスフォーミング成長因子(TGF:transforming growth factor)、線維芽細胞成長因子(FGF:fibroblast growth factor)、それらをコードする核酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0073】
より好ましくは、該骨創傷パッチ(c)は、キトサン/BMP2滴を含むポリ(ε-カプロラクトン)スキャフォールドで作られている。
【0074】
例えば、国際公開第02/085423号パンフレット、国際公開第2006/079928号パンフレット、Lynn (2006 Soft Matter 2:269-273)、Decher (1997 Science 277:1232-1237)及びJessel et al.(2003 Advanced Materials 15:692-695)に記載されているように、治療用分子、例えば成長因子、は、高分子電解質多層中に組み込まれることができる。
【0075】
本発明による該生体材料が骨及び/又は軟骨再生の為に使用される場合、該成長因子は、最も好ましくは、骨形態形成タンパク質2(BMP2)、骨形態形成タンパク質4(BMP4)、骨形態形成タンパク質7(BMP7)、線維芽細胞成長因子1(FGF1)、線維芽細胞成長因子2(FGF2)、線維芽細胞成長因子4(FGF4)、線維芽細胞成長因子8(FGF8)、線維芽細胞成長因子9(FGF9)及び線維芽細胞成長因子18(FGF18)からなる群から選択される。
【0076】
特定の実施態様において、該高分子電解質多層は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又はそれより多くの層ペアを含むか又はそれらからなり、各層ペアは、
該治療用分子(例えば、ポリペプチド、特に成長因子)を含むか又はそれらからなるポリアニオンの層;及び
キトサン又はリジンのポリマー(例えば、ポリ(リジン)ポリペプチド(PLL)若しくはデンドリ-グラフトポリリジン(DGL))を含むか又はそれらからなるポリカチオンの層からなる。
【0077】
本発明はまた、上記に定義されている該骨創傷パッチ(c)を作製する為の方法であって、該スキャフォールドを、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアで被覆する工程を含む上記の方法に関する。
【0078】
好ましくは、少なくとも1つの層ペアで被覆する上記に言及される工程は、以下の工程:
i.該スキャフォールドを、該ポリカチオンを含む溶液に(例えば、約5~60分間、好ましくは約15分間)浸漬する工程;
ii.工程(i)の終わりに得られた該スキャフォールドを(例えば、約5~60分間、好ましくは約15分間)リンスする工程;
iii.工程(ii)の終わりに得られた該スキャフォールドを、該ポリアニオンを含む溶液に(例えば、約5~60分間、好ましくは約15分間)浸漬する工程;
iv.工程(iii)の終わりに得られた該スキャフォールドを(例えば、約5~60分間、好ましくは約15分間)リンスする工程;及び、任意的に;
v.工程(i)~(iv)を少なくとももう一度繰り返す工程;及び、任意的に;
vi.工程(iv)又は(v)の終わりに得られた該スキャフォールドを(例えば、紫外光への曝露により)滅菌する工程
を含む。
【0079】
工程(i)及び(iii)において、該ポリカチオン又はポリアニオンを含む該溶液は、例えば、約20μM~約500μM、好ましくは約50μM~約200μM、の範囲内の濃度のポリカチオン又はポリアニオンを含みうる。該溶液は、例えば、該ポリアニオン又はポリカチオンに加えて、0.02M 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)及び0.15M NaClを含みうるか又はそれらからなりうる。該溶液のpHは好ましくは中性(例えば、7.4のpH)である。
【0080】
工程(ii)及び(iv)において、該スキャフォールドは、例えば、中性pH(例えば、7.4のpH)を有する溶液でリンスされうる。該溶液は、例えば、0.02M MES及び0.15M NaClを含みうるか又はそれらからなりうる。
【0081】
工程(v)は、該スキャフォールドを被覆するべき層ペアの数に依存して、任意の回数を繰り返されうる。
【0082】
工程(vi)は、例えば、紫外光への曝露(例えば、254nm、30W、20cmの照明距離、約15分~約1時間、好ましくは約30分間)により実行されうる。
【0083】
使用の前に、本発明による該骨創傷パッチ(c)は、(例えば、それを無血清培地と接触させることにより)平衡化されうる。
【0084】
当業者に直ちに明らかとなるように、該ナノファイバースキャフォールドが、ポリカチオン又はポリアニオンを含む溶液に浸漬される該工程は、該溶液が該スキャフォールドに噴霧される工程で置き換えられうる。
【0085】
上記に定義されている該ハイドロゲル(b)は、以下の工程:
a)上記に定義されている該生細胞を提供するか又は得る工程;
b)該生細胞をハイドロゲル(例えば、コラーゲンハイドロゲル又はアルギン酸塩ハイドロゲル)と混合する工程;及び
c)任意的に、この混合物を該骨創傷パッチ(c)に堆積させる工程
を含む方法により作製されうる。
【0086】
本発明はまた、上記に定義されている該生体材料を使用して軟骨病変を処置する方法であって、該骨創傷パッチ(c)を施与する工程、該ハイドロゲル(b)を施与する工程及び該膜創傷パッチ(a)を施与する工程を含む上記の方法に関する。
【0087】
本発明はまた、骨及び/又は軟骨再生における使用の為の、上記に定義されている生体材料に関する。
【0088】
本発明はまた、骨及び/又は軟骨欠損の処置における使用の為の、上記に定義されている生体材料に関する。
【0089】
本発明はまた、変形性関節症の処置及び/又は予防の為の使用の為のキットであって、
上記に定義されている膜創傷パッチ(a);
上記に定義されているハイドロゲル(b)、及び
上記に定義されている骨創傷パッチ(c)
を備えている、上記のキットに関する。
【0090】
本発明はまた、変形性関節症の処置及び/又は予防の為の使用の為のキットであって、
上記に定義されている膜創傷パッチ(a);
上記に定義されている骨創傷パッチ(c);
自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞、
ヒアルロン酸及びアルギン酸塩の溶液、並びに
塩化カルシウム又はリン酸カルシウムの溶液
を含む、上記のキットに関する。
【0091】
本発明はまた、生体材料であって、
上記に定義されている膜創傷パッチ(a);
自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞を含むハイドロゲル(b)、及び
上記に定義されている骨創傷パッチ(c)
を、変形性関節症の処置及び/又は予防における同時の、別々の又は逐次的な使用の為の複合製剤(combined preparation)として含む、
上記の生体材料に関する。
【0092】
本発明はまた、生体材料であって、
上記に定義されている膜創傷パッチ(a)、
自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞、
ヒアルロン酸と、アルギン酸塩との溶液、並びに
塩化カルシウム又はリン酸カルシウムの溶液
を、変形性関節症の処置及び/又は予防における同時の、別々の又は逐次的な使用の為の複合製剤として含む、
上記の生体材料に関する。
【0093】
本発明はまた、ARTiCAR、すなわち軟骨下骨及び軟骨の両方の再生に対処する為に2つの先進治療医薬品を組み合わせた、骨関節病変の処置の為の革新的なインプラント、に関する。
【0094】
その為、本発明は、個別化されたOARの為のARTiCAR(関節軟骨及び軟骨下骨インプラント;ARTicular CArtilage and subchondRal bone implant)組み合わせ先進治療医薬品(ATMP:dvanced Therapy Medicinal Product)に基づく(図1A、B)。該インプラントは、i)治療剤の細胞接触依存性局所送達の為の骨形態形成因子2(BMP2)-ナノリザーバーでナノ機能化された、ナノファイバーFDA承認済み吸収性ポリマー(ポリ-ε-カプロラクトン:PCL)創傷ドレッシング、及びii)ヒアルロン酸/アルギン酸塩ベースのハイドロゲル中に被包された自家骨髄由来MSCで作られている(図1A)。該ナノリザーバー技術は、BMP2の用量を生理学的レベルまで低減させることを可能にする為、局所的に及び持続可能に利用可能であり、例えば診療所において現行で使用されている浸漬されたコラーゲンスポンジからの、その大量の放出の有害効果を低減させる。
【0095】
その為、本発明はまた、
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドであって;該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴である、該スキャフォールド、並びに
任意的に自家又は同種の骨髄由来間葉幹細胞を含む、ハイドロゲル
を含む生体材料に関する。
【0096】
一つの実施態様に従うと、この生体材料は、
自家骨髄由来間葉幹細胞を含むハイドロゲル(b)、並びに
ポリマーで作られているナノファイバースキャフォールドである骨創傷パッチ(c)であって、該スキャフォールドが、多層化された滴で作られている断続的な被覆物で被覆されている表面を有し、該多層化された滴が、ポリアニオンの1つの層とポリカチオンの1つの層とからなる少なくとも1つの層ペアから構成されている滴であり、並びに該骨創傷パッチ(c)が骨成長因子を更に含む、該骨創傷パッチ(c)
を含み、
該ハイドロゲル(b)及び該骨創傷パッチ(c)は上記に定義されている。
【0097】
好ましくは、該ナノファイバースキャフォールドは、ポリ(ε-カプロラクトン)又はコラーゲンで作られている。
【0098】
好ましくは、該ハイドロゲルは、ヒアルロン酸/アルギン酸塩ベースのハイドロゲルである。
【0099】
一つの実施態様に従うと、この生体材料は、少なくとも1つの多層化された滴内にあるか、又は治療用分子がチャージされた場合に少なくとも1つの多層化された滴を形成する、該治療用分子を更に含む。好ましくは、該治療用分子は、血管内皮成長因子(VEGF)、骨形態形成タンパク質(BMP)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、それらをコードする核酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される成長因子である。
【0100】
本発明はまた、この生体材料を使用する軟骨病変の処置の為の方法であって、ナノファイバースキャフォールド施与の工程及びハイドロゲル施与の工程を含む、該方法に関する。
【0101】
ARTiCARは、軟骨下骨再生を促進する為の成長因子、及び軟骨再生の為の、ハイドロゲル中に包埋された骨髄間葉幹細胞でナノ機能化された、ポリマーナノファイバー骨創傷ドレッシングからなる。この研究において、ARTiCARは、i)大型動物モデルにおける骨軟骨欠損の処置における実現可能性、ii)非侵襲的な治癒をモニターする為の可能性及びiii)GLP前臨床標準下での2つの動物モデルにおける全体的な安全性について試験された。データは、フェーズI臨床試験を行いうる、国際規制ガイドラインに従ったARTiCARの前臨床安全性を指し示す。
【0102】
ARTiCAR組み合わせATMPの安全性は、2つの異なる動物モデルにおけるOARの促進において試験された。細胞療法及び医療用デバイスの為の国際規制ガイドライン並びにグッド・ラボラトリー・プラクティス(GLP:Good Laboratory Practice)に従って実行された、実現可能性、毒性及び体内分布試験の結果は、ARTiCAR組み合わせATMPの生体内安全性を証明し、それ故に、ARTiCAR組み合わせATMPは、軟骨及び軟骨下骨の両方の再生に対処する為の、使用準備済みの、柔軟なインプラントとして、フェーズI臨床試験の為に使用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
図1図1は、軟骨限局性病変の骨関節再生(OAR:osteoarticular regeneration)の為に開発された複合先進治療医薬品(ATMP:advanced therapy medicinal product)を示す。(A)ARTiCARは、FDA承認済み合成創傷ドレッシングと、アルギン酸塩/ヒアルロン酸ハイドロゲル中に包埋された、自家間葉幹細胞(MSCs:mesenchymal stem cells)で作られた生きた治療剤と、を組み合わせた複合物ATMPである。ナノM1-BMP2と命名された該創傷ドレッシングは、骨形態形成タンパク質2でナノ機能化されたナノファイバーポリ-ε-カプロラクトンで作られており、軟骨下骨再生を目的とする。該細胞ハイドロゲルは関節軟骨再生を目的とする。ナノ(Nano)M1-BMP2は、イン・ビトロ(in vitro)での細胞傷害性について試験され(工程1);ARTiCAR全体は、骨軟骨欠損ヌードラットモデルにおいて急性毒性、体内分布及び持続性について試験され(工程2)、並びにヒツジ関節内モデルにおいて手技の実現可能性、安全性、及び非侵襲的モニタリングについて試験された(工程3)。(B)ARTiCARは、1工程の外科的手技における関節軟骨及び軟骨下骨の両方の同時の再生を目的とする。MSCを患者の骨髄から採取した後に、ナノM1-BMP2は、傷害を受けた軟骨下骨と接触させて施与され;その後、該ハイドロゲルと混合された該MSCは、欠損を充填するように施与される。
図2図2は、ナノM1-BMP2創傷ドレッシングの細胞傷害性のイン・ビトロ評価を示す。MRC-5細胞系は、ポリウレタンフィルム(RM-A;A~E)、ナノM1-BMP2創傷ドレッシング(F~J)又は高密度ポリエチレンフィルム(RM-C;K~Q)の存在下で培養された。5つのサイズ(20、16、9、4、1mm)の膜が使用された。細胞は、3日の期間にかけて形態学的変化について調べられた。増殖/生存がWST-1アッセイ(P~N)を介して24時間時に評価された(C.Ris Pharma、CRO、フランス国)。スケールバー:100μm。
図3図3は、骨軟骨欠損ヌードラットモデルにおけるARTiCARの安全性の臨床的、血液学的、生化学的及び病理組織学的評価を示す。(A)ARTiCAR ATMPの埋め込み後の、5匹のオス(M1~M5)及び5匹のメス(F1~F5)ラットの個々の体重曲線。(B、C)埋め込みの7日後に、埋め込みされたラットの心室血液が収集され(群1:ARTiCAR、群2:hMSCなしのハイドロゲル;(n=20);血液学的及び生化学的パラメータについて分析された。WBC:白血球細胞;RBC:赤血球細胞;HGB:ヘモグロビン;HCT:ヘマトクリット;MCV:平均血球体積;PLT:血小板。データは平均±SDとして提示される。一元配置ANOVA、続いてボンフェローニ事後検定が有意性の為に行われた。p値≦0.05が有意と考えられた。(C.Ris Pharma、CRO、フランス国)。(D、E)5倍の倍率での、群1(D)及び群2(E)についての手術の7日後の、大腿骨/軟骨欠損を有するヌードラット(n=20)における関節内埋め込み部位の組織学的切片。骨治癒プロセスに関与する同等の炎症応答が両方の群において観察され、全身性変化は観察されなかった。星印は欠損の限界を表す。
図4図4は、ヒツジ関節内欠損モデルにおいて埋め込まれたARTiCAR組み合わせATMPの実現可能性、非侵襲的モニタリング及び安全性評価を示す。(A~E)ARTiCAR埋め込み後のOARプロセスが、非侵襲的にMRIによって手術の直後(A)並びに埋め込みの12週後(B)及び26週後(C)にモニターされた。マイクロCTスキャン(D)、続いて3D表面レンダリング(E)が、新たに外植された関節に対して行われた。(F)軟骨再生のレベルがICSRスコアシステムに基づいて巨視的に評価された。(G、H)外植片全体が切片化され、サフラニンo-ファストグリーン(青:骨;赤:軟骨)で染色され、4倍でイメージングされ、縫い合わせられて(G)、ICRS IIスコアシステムに従って該OARが評価された(G)。スケールバー:1mm。ICRS IIパラメータがARTiCAR及び検討された対照群について調べられ、二元配置ANOVA、続いてボンフェローニ事後検定によって分析された(H)。=p≦0.1;**=p≦0.05。(I~N)埋め込みの12又は26週後の、AG(I、L)、NT(J、M)及びARTiCAR(K、N)群からの動物における処置された欠損内の骨軟骨再構築の区域。骨(白アステリスク)、軟骨(黒アステリスク)、線維軟骨(黒矢印)及び軟骨下骨(黄矢印)が示される。スケールバー:500μm。
図5図5は、フィルムで被覆されたナノファイバーの図式的表現の前面図及び断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0104】
材料及び方法
化学物質
分析グレードのポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)はSigma Aldrichから購入された。PCLが15% wt/volでジクロロメタン/ジメチルホルムアミド(DCM/DMF 50/50vol/vol)の混合物に溶解させられ、使用前に終夜撹拌された。デンドリグラフトポリ-L-リジン(DGL)はCOLCOM(Montpellier、フランス国)から購入された。この研究において、第五世代DGLG5が使用された。ヒト組換えBMP2はPeproTechから購入された。粘性アルギン酸ナトリウム培地(Sodium alginate medium viscosity)はSigmaから、ヒアルロン酸(M.W.132300)はLifecoreからのものであった。ラット尾I型コラーゲンはInstitut de Biotechnologies Jacques Boyから購入された。ポリ(L-リジン)(PLL)はSigmaから、キトサン(CHI)、すなわちProtasan up CL 113はFMC Biopolymer(ノルウェー)から購入された。ヒト組換えBMP-2はPeproTechから購入された。
【0105】
エレクトロスピニング
自家製標準エレクトロスピニング装置が、該PCLスキャフォールドを作製する為に使用された。該PCL溶液が5mLのシリンジに注がれ、プログラム可能なポンプ(Harvard Apparatus)によって、0.5mmの直径を有する針を通して1.2ml/hの流速で排出された。高電圧電力供給(SPELLMAN、SL30P10)が、該針において15kVに設定する為に使用された。該針から17cmの距離で地面に接続されたアルミニウム箔(20×20cm)が、該エレクトロスピニングされたPCLスキャフォールドを収集する為に使用された。該収集されたスキャフォールドは、均一な無作為に方向付けされている繊維を含む(Li et al,Figure 1,Biomaterials,Volume 26,Issue 6,February 2005,Pages 599-609)。
【0106】
第2の方法はポリカプロラクトン(PCL)溶液(5% w/w)の使用を含み、該溶液は、18G針を有する2mLプラスチックシリンジにロードされ、シリンジポンプを使用して0.5mL/hの一定速度で供給される。10kVの正電圧が、高電圧電力供給を使用して該針に印加された。捕集器と該針の先端との間の距離が15cmに設定された。回転するディスクが、エレクトロスピニングされた繊維状スキャフォールドの該捕集器として使用された。高い回転速度(1000~3000rpm)が、並べられた繊維から構成されているスキャフォールドを製作する為に使用され、低い回転速度(200~800rpm)が、無作為に方向付けされている繊維を有するスキャフォールドを収集する為に使用された。その後の実験の前に該スキャフォールドが終夜真空乾燥された。
【0107】
高分子電解質多層の作製
パッチ(c)の該スキャフォールドの該被覆物の作製
全ての生物学的活性実験の為に、高分子電解質多層が、Electrospun PCL膜上に作製された。(DGLG5-BMP2)n又は(PLL-BMP2)n又は(CHI-BMP2)nにより構成されている多層が、0.02M MES及び0.15M NaCl(pH=7.4)の存在下でのDGLG5又はPLL又はCHIについて50μM及びBMP2について200nMのそれぞれの濃度でのそれぞれの溶液(300μl)中の15分間の表面の交互の浸漬により構築された。各々の堆積工程の後に、該膜が0.02M MES及び0.15M NaCl(pH=7.4)で15分間リンスされた。全ての膜が、紫外(UV)光(254nm、30W、照明距離20cm)への曝露により30分間滅菌された。使用の前に、全ての膜が1mlの無血清培地との接触で平衡化された(細胞培養を参照)。
【0108】
追加的に、Electrospun PCL膜の代わりに、Bio-Gide(商標)吸収性コラーゲン膜(Geistlich Pharma AG、Germany)上の高分子電解質多層も構築された。
【0109】
パッチ(a)の該スキャフォールドの該不連続の被覆物の作製
全ての生物学的活性実験の為に、高分子電解質多層がElectrospun PCL膜上に作製された。(DGLG5-CS/HA)n又は(PLL-CS/HA)n又は(CHI-CS/HA)nにより構成されている多層が、0.02M MES及び0.15M NaCl(pH=7.4)の存在下でのDGLG5又はPLL又はCHIについて50μM並びにコンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸の混合物について200nMのそれぞれの濃度でのそれぞれの溶液(300μl)中の15分間の表面の交互の浸漬により構築された。各々の堆積工程の後に、該膜が0.02M MES及び0.15M NaCl(pH=7.4)で15分間リンスされた。全ての膜が、紫外(UV)光(254nm、30W、照明距離20cm)への曝露により30分間滅菌された。使用の前に、全ての膜が1mlの無血清培地との接触で平衡化された(細胞培養を参照)。
【0110】
追加的に、Electrospun PCL膜の代わりに、Bio-Gide(商標)吸収性コラーゲン膜(Geistlich Pharma AG、Germany)上の高分子電解質多層も構築された。
【0111】
パッチ(a)の該スキャフォールドの該連続的な被覆物の作製
全ての生物学的活性実験の為に、高分子電解質多層がElectrospun PCL膜上に作製された。(DGLG5-CS/HA)n又は(PLL-CS/HA)n又は(CHI-CS/HA)nにより構成されている多層が、0.02M MES及び0.15M NaCl(pH=7.4)の存在下でのDGLG5又はPLL又はCHIについて50μM並びにコンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸の混合物について200nMのそれぞれの濃度でのそれぞれの溶液(300μl)中の15分間の表面の交互の浸漬により構築された。各々の堆積工程の後に、該膜が0.02M MES及び0.15M NaCl(pH=7.4)で15分間リンスされた。
【0112】
繊維表面が、いかなる多層化された滴もなしに、均一な高分子電解質被覆物により完全に被覆されるまで、該堆積工程が行われた。少なくとも15個の二重層が、少なくとも30回の堆積工程で繊維上に堆積された。
【0113】
全ての膜が、紫外(UV)光(254nm、30W、照明距離20cm)への曝露により30分間滅菌された。使用の前に、全ての膜が1mlの無血清培地との接触で平衡化された(細胞培養を参照)。
【0114】
細胞培養
ヒト初代骨芽細胞(HOB:Human primary osteoblasts)がCell Applicationsから得られ、50U/mLのペニシリン、50μg/mLのストレプトマイシン、2.5μg/mLのアムホテリシンB及び10%のFBS(Life Technologies、Paisley、UK)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(D-MEM(商標))中で培養された。該培養物が、37℃で5%のCOの加湿された雰囲気中でインキュベートされた。該細胞がサブコンフルエンスに達した時に、それらはトリプシンを用いて採取され、継代培養された。
【0115】
腸骨稜から採取されたMSCが、細胞培養プラスチックへのそれらの付着に従って単離された。最初に、骨髄吸引液が、等しい体積のリン酸緩衝食塩水(PBS;Sigma-Aldrich、フランス国)の添加により洗浄され、220×gで5分間遠心分離された。細胞ペレットが、10%の熱不活化ウシ胎仔血清(Gibco、Thermo Fisher Scientific、フランス国)、50U/mLのペニシリン(Lonza、Germany)、50μg/mLのストレプトマイシン(Lonza、Germany)、2.5μg/mLのFungizone(Lonza、Germany)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Lonza、Germany)に懸濁され、標準的な細胞培養条件下で、T75培養フラスコに播種された。翌日、培地が廃棄され、付着した細胞がPBSで数回穏やかに洗浄されて、非付着細胞を除去した。次にフラスコが数日間DMEM中でインキュベートされ、DMEMが72h毎に交換されて付着細胞からのコロニーの出現を促進した。細胞が最終的にサブコンフルエンスに達した時に、細胞が継代2まで継代培養され、継代2において細胞が幹細胞性特徴付けの為に拡大増殖された。
【0116】
インプラント2型及び3型の作製
5×10個のヒト骨芽細胞が播種され、72hインキュベートされた後にゲル作製が行われた。コラーゲン格子の作製の為に、3mlのRat Tail Type-I Collagen(Institut de Biotechnologies Jacques Boy)が、10%のFBS、0.5mLの0.1M NaOH溶液及び2×105細胞/mlで1mlの細胞懸濁物を含有する5.5mlの培地と混合された。0.5mLの該細胞懸濁物:コラーゲン調製物が、該エレクトロスピニングされた膜の上に注がれ、それを37℃で30分間インキュベートすることにより重合させられた。重合後に、0.15M NaCl(pH=7.4)中に調製されたアルギン酸塩ヒアルロン酸溶液(4:1)中の0.5mlのヒト軟骨細胞懸濁物(1×105細胞/ml)が該コラーゲン格子の上に注がれ、3層構築物を得た。5mm又は2mmシリンダーが、無菌生検パンチを使用して切断(cute)され、37℃で5%のCOの加湿された雰囲気中で終夜インキュベートされた後に、イン・ビボ(in vivo)実験が行われた。
【0117】
細胞生存及び増殖
細胞生存がトリパンブルー排除により決定された。AlamarBlue(商標)(Serotec)が、細胞増殖を評価する為に使用された。Alamar Blue試験は、細胞代謝に応答して色を変化させる非毒性の、水溶性の、比色レドックス指示薬である。この研究において、2×10個のヒト骨芽細胞が、24ウェルプレート上に置かれたLbLで被覆された14mmの直径の膜(n=3)の上に播種された。2日の培養後に、細胞が、10% AlamarBlue/DMEM溶液中、37℃及び5%のCOの加湿された雰囲気中でインキュベートされた。4時間後に、100mLのインキュベーション培地が96ウェルプレートに移され、590nm及び630nmで測定されてAlamarBlue低減のパーセンテージを決定した。
【0118】
研究設計:
この研究における全ての実験は、細胞療法及び医療用デバイスの為の国際規則ガイドラインに従って計画され、行われた。全てのプロトコールの為にグッド・ラボラトリー・プラクティス及び標準作業手順書(SOP:Standard Operating Procedures)が使用された。イン・ビトロ細胞傷害性アッセイはISO 10993-5(2009及び2012)ガイドラインに従って行われた。OARの評価は、ICRS IIスコアシステムに従って行われた。
【0119】
ARTiCARのナノファイバー区画(該骨創傷パッチ(c)に対応する)の製造
以前に記載されたように(Mendoza-Palomares C,et al.Smart hybrid materials equipped by nanoreservoirs of therapeutics.ACS Nano 6,483-490 (2012))、ARTiCARのナノファイバー成分が、PCLのエレクトロスピニングを介して得られた。簡潔に述べれば、PCL(PURASORB(商標)、PURAC、Corbion、Amsterdam、Netherlands)が25%(wt/vol)のジメチルホルムアミド/ジクロロメタン溶液(3/2、v/v)に溶解させられ、1ml/hの一定速度で、高電圧(20+/-3kV)に設定されたEC-DIGエレクトロスピニングデバイス(IME Technologies、Eindhoven、Netherlands)に送達された。エレクトロスピニング後に、PCL膜が45℃のデシケーター中に保たれて残留溶媒を除去し、ガンマ照射(25kGy)により滅菌された。次に膜が、12回にわたり、40mMの4-モルホリノエタンスルホン酸(Sigma-Aldrich、Saint-Quentin Fallavier、フランス国)、150mMの塩化ナトリウム(Sigma-Aldrich)、pH 5.5(MES緩衝液)及び0.5mg/mlのキトサン(Protasan UP CL 113、Novamatrix、Sandvika、ノルウェー)中の200μg/mlのBMP2溶液(rh-BMP2、Inductos、Medtronic、フランス国)に交互に浸漬された。各々の浴が、MES緩衝液中での3回の洗浄により後続された。
【0120】
ARTiCARの該ハイドロゲル区画の製造
12mg/mlのアルギン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)及び3mg/mlのヒアルロン酸(Lifecore Biomedical、Chaska、米国)が9mg/mlの塩化ナトリウム(Sigma-Aldrich)に溶解させられた。埋め込みの前に、該ハイドロゲル(b)がヒトMSC又はヒツジMSCのいずれかと混合された。該MSC/ハイドロゲル区画が該欠損を埋めるように施与された後に、102mMの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich)を使用してゲル化が達成された。
【0121】
細胞培養
腸骨稜から採取されたMSCが、細胞培養プラスチックへのそれらの付着に従って単離された。最初に、骨髄吸引液が、等しい体積のリン酸緩衝食塩水(PBS;Sigma-Aldrich、フランス国)の添加により洗浄され、220×gで5分間遠心分離された。細胞ペレットが、10%の熱不活化ウシ胎仔血清(Gibco、Thermo Fisher Scientific、フランス国)、50U/mLのペニシリン(Lonza、Germany)、50μg/mLのストレプトマイシン(Lonza、Germany)、2.5μg/mLのFungizone(Lonza、Germany)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Lonza、Germany)に懸濁され、標準的な細胞培養条件下で、T75培養フラスコに播種された。翌日、培地が廃棄され、付着した細胞が、PBSで数回穏やかに洗浄されて、非付着細胞を除去した。次に、フラスコが数日間DMEM中でインキュベートされ、DMEMが72h毎に交換されて付着細胞からのコロニーの出現を促進した。最終的に、細胞がサブコンフルエンスに達した時に、細胞が継代2まで継代培養され、継代2において細胞が幹細胞性特徴付けの為に拡大増殖された。
【0122】
イン・ビトロでの細胞傷害性評価
MRC5細胞が24ウェルプレートにプレーティングされた。ナノM1-BMP2創傷ドレッシングが、0.1%のジエチルジチオカルバミン酸亜鉛を含有するポリウレタンフィルム(細胞傷害性効果を誘導することが既知;食品薬品安全センター秦野研究所、日本)及び高密度ポリエチレンフィルム(陰性対照;秦野研究所)と隣り合わせて試験された。細胞傷害性を評価する為に、70~80%のコンフルエンスが到達された時に、異なるサイズ(20mm、16mm、9mm、4mm、1mm)の小片が該培養された細胞に接触させて置かれた。細胞が該膜の存在下で3日間培養された後に、全般的形態における変化、空胞形成の存在、剥離、溶解及び膜完全性について、ISO 10993ガイドライン、パート5(2009)及びパート12(2012):クラス0、反応性なし(試料の周囲にも下にも効果なし);クラス1、わずかな反応性(形成異常はほとんどない又は変性した細胞);クラス2、軽度の反応性(小さい面積の、該試料の下の形成異常の又は変性した細胞);クラス3、中等度の反応性(該試料のサイズより大きいが≦1cmの面積の、形成異常の又は変性した細胞);クラス4、重度の反応性(該試料のサイズより大きく>1cmの面積の、形成異常の又は変性した細胞)に従って細胞傷害性の定性的評価の為の基準に従って顕微鏡により調べられた。2より高いグレードが細胞傷害性として考えられた。
【0123】
定量的細胞生存アッセイ
細胞傷害性の定量的な指標として、細胞生存が評価された。3日目に、内部SOPに従って、膜が廃棄され、細胞がPBSで2回洗浄され、1mlの培養培地が供給され、100μl/ウェルのCell Viability Reagent WST-1(Lonza)が各々のウェルに加えられた。該細胞が3hにわたり37℃で5%のCO中でインキュベートされ、100μlの上清が96ウェルプレートに移された。吸光度がMultiskan EXデバイス(Thermo Fisher Scientific、Graffenstaden、フランス国)で450及び620nmにおいて測定された。データ分析がAscent 2.6(Thermo Fisher Scientific)で行われた。結果がブランク対照に対する生存細胞のパーセンテージとして表された。30%の生存の減少が細胞傷害性として考えられた。
【0124】
動物での実験
動物実験が動物実験の為の倫理的ガイドラインに従って行われた。プロジェクト「Toxicologie Reglementaire」に含まれる、使用されたプロトコールは「Ministere de l’Enseignement superieur et de la Recherche」 No.01191.02により認可された。7週齢のラットが少なくとも5日間Specific Pathogen Free room(the French Ministries of Agriculture and Researchにより認可されている;承認番号A35 288-1)中に、該研究の開始前に、内部SOPに従って、温度(22±3℃)、湿度(50±20%)、光周期(12h明/12h暗)及び空気交換の制御された条件下で、内部SOPに従って維持された。動物は標準サイズのポリカーボネートケージ(フィルター蓋を有する)中で飼育され、寝具は週に2回置き換えられた。
【0125】
ヌードラットにおけるARTICARの関節内埋め込み
イン・ビボでの急性毒性の評価は、RH-Foxn1 rnu/rnuヌードラット(Harlan、Gannat、フランス国)における誘導された骨軟骨欠損のモデルにおいてARTiCARの関節内埋め込みを介して達成された。簡潔に述べれば、無菌ナノM1-BMP2が無菌PBS中でリンスされ、埋め込みの前に4つ(1.77mm)に切断された。以前に報告(Keller L,et al.Bi-layered nano active implant with hybrid stem cell microtissues for tuned cartilage hypertrophy.Journal of Stem Cell Research & Therapeutics 1,9 (2015);及びKeller L,Wagner Q,Schwinte P,Benkirane-Jessel N.Double compartmented and hybrid implant outfitted with well-organized 3D stem cells for osteochondral regenerative nanomedicine.Nanomedicine (Lond) 10,2833-2845 (2015))されたように、サブコンフルエントのヒト骨髄MSC(Promocell、Heidelberg、Germany)が洗浄され、ヒアルロン酸/アルギン酸塩混合物に3.0×107細胞/mlの濃度まで再懸濁された。埋め込みの前に、ラットは70mg/kgのケタミン及び10mg/kgのキシラジンの溶液の腹腔内注射で麻酔された。右後肢の剃毛及び消毒後に、軟骨下骨(約2mm)の出血まで、大腿滑車の正中における、大腿の膝蓋溝において丸い1.5mmの骨軟骨欠損がショートドリルで誘導された。ナノM1-BMP2膜が該欠損の底部に置かれ、次いで該欠損がhMSC/ハイドロゲルミックスで充填され、5分にかけて102mMの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich)の滴下の添加を介してゲル化された。これらのラットは実験群1(ARTiCAR;n=20匹のラット;10匹のオス及び10匹のメス;105,000±10%の細胞を含有する3.5μlのハイドロゲル)を構成した。他のラットが同じ手技に供されたが、(ビヒクルとして)ハイドロゲルのみが埋め込まれ、該ラットは群2(n=20匹のラット;10匹のオス及び10匹のメス;3.5μlのハイドロゲル)を構成した。ゲル化後に、関節嚢が閉じられ、筋肉及び皮膚が縫合され、該創傷がポビドンヨード溶液で徹底的に殺菌された。手術後に、ラットが麻酔後の回復についての観察下に保たれた。回復後に、0.05~0.1mg/kgのブプレノルフィンが皮下注射により投与された。動物は、該研究の持続期間(90日)にわたり制約されない運動を許容された。ラットが1日毎に創傷治癒、脚可動性、罹病、死亡及び毒性の著明な徴候についてモニターされた。
【0126】
血液の分析
埋め込み後7日目に、5匹のオス及び5匹のメスの絶食させたラット/群(n=20)が過剰なイソフルランで麻酔され、心室血液がEDTA含有チューブ又はヘパリン含有チューブのいずれかにそれぞれ血液学的又は生化学的分析の為に収集された。7~90日目に、残存するラットが観察され、体重の任意の損失について週に2回モニターされた。ヘマトクリット、ヘモグロビン濃度、赤血球数、白血球数、平均血球体積及び血小板数が、インピーダンス変動及び測光法により収集の日に該血液試料において決定された(MINDRAY BC 2800 haematology analyser、4M、フランス国)。生化学評価の為に、血漿試料が内部SOPに従って調製された。ナトリウム、カリウム、塩化物、カルシウム、無機リン酸塩、グルコース、尿素、クレアチニン、総ビリルビン、総コレステロール、トリグリセリド、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASAT)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)、総タンパク質、アルブミン、及びアルブミン/グロブリン比が定量化された(Cobas Mira biochemistry analyser、4M、フランス国)。
【0127】
ヌードラットへの埋め込みの病理組織学的分析
病理組織学的分析が、血液検査の為に使用された該絶食された動物において実行された。簡潔に述べれば、肉眼的検死が、新たに安楽死させたラットにおいて行われた。臓器(処置された膝、脾臓、腸間膜リンパ節、肝臓、気管支及び細気管支を伴う肺、腎臓並びに心臓)が巨視的に観察され、外植され、収集された。右後肢が、埋め込みに供される膝関節を回収する為に大腿骨及び脛骨の両方の骨端において切片化された。脾臓、肝臓、腎臓及び心臓が計量され、該他の臓器と共に室温で4%のホルマリン(Sigma-Aldrich)中に組織学的分析まで保存された。臓器は、4%のパラホルムアルデヒド中に固定され、脱水され、パラフィン中に包埋され、切片化され、病理組織学の為に調べられた。
【0128】
ヒトDNA QPCRの為の組織採取
埋め込みの90日後に、5匹のオス及び5匹のメスラット/群(n=20)が、麻酔下での失血により安楽死させられた。肉眼的検死後に、臓器(卵管を伴う卵巣、精巣、脳、処置された膝、脾臓、肝臓、腎臓、肺、骨髄、心臓及び該処置された膝関節をカバーする皮膚)が計量され、生産者の指示書に従ってNucleoBond AXG100 kit(Macherey Nagel、Hoerdt、フランス国)を使用してDNA抽出の為に収集された。簡潔に述べれば、膝関節を除く全ての組織試料が、バッファーG2を含有するM-チューブ(Miltenyi Biotec、Paris、フランス国)中、GentleMACS Dissociator(Miltenyi Biotec、Paris、フランス国)でホモジナイズされた。膝関節が、バッファーG2中でUltra-Turrax(商標)解離機器を使用してホモジナイズされた。抽出後に、DNAペレットが分子生物学グレードの水に溶解させられ、20℃で貯蔵された。iTaq Universal Probes Supermix(BioRad、Marnes-la-Coquette、フランス国)を用いる定量PCR(qPCR)が、TaqMan AluYB8 Probe(Thermo Fischer Scientific)を用いてヒトAlu配列を定量化する為に使用された。該埋め込みされたラットの該異なる組織からのゲノムDNAが、対照ラットからのDNAと並べて増幅され、U87-MGヒト細胞からの可変量のDNA(22、7、0.7ng;70、7、2.2、0.7、0.07pg又はDNAなし)をスパイクされて、標準曲線を構築した。試料はCFX System(Bio-Rad)上で35サイクルにわたり3連で実行された。検出限度は、ヒトDNAをスパイクされなかった対照ラットDNAからの平均シグナルに対応した。
【0129】
ヒツジ骨髄からのMSCの採取
関節間手術の4週(28±2日)前に、成体ヒツジメス(Rideau Arcott Hybrids系統)が骨髄吸引手技に供された。簡潔に述べれば、動物は腹側横臥に置かれ、筋肉内(IM)に投与されたグリコピロラート(glycopyrolate)、キシラジン及びケタミンの混合物で麻酔された。IVカテーテルが適切な静脈中に置かれた。喉頭はリドカインを噴霧され、該動物は、適切なサイズのカフ付き経口気管内チューブを挿管された。挿管法がIM麻酔下で可能でない場合、誘導は、O中のイソフルラン(1~5%)又はプロポフォールを使用して静脈内に行われた。次に、該ヒツジは、O中のイソフルランで機械的に人工呼吸された。採取部位が消毒され、針が腸骨稜に導入された。無菌の10mLのシリンジが1mLの5,000IU/mLのヘパリンで充填され、及び約8mLの骨髄で充填された。骨髄試料及びヘパリンを含有する該シリンジが、間葉幹細胞の単離、特徴付け及び該外科的手技の為の調製の為に適切な無菌のキャップで密閉された。
【0130】
ヒツジにおける骨軟骨欠損の誘導
計16匹の成体ヒツジは、内側大腿顆への骨軟骨欠損の外科的誘導を受けた。ヒツジの3つの群(ARTiCAR、AG対照、NT対照)が検討され;各々のヒツジは、後肢の右顆又は左顆の近位部分又は遠位部分のいずれかにおいて埋め込みされた。手術の為に、該後肢は、内側顆が皮膚下で触診されうる位置に曲げられた。15cmの内側傍膝蓋骨皮膚切開が行われた。皮下組織の鈍的切開後に、内側広筋を覆う筋膜が、筋肉繊維と平行な小さい切開で腹筋の遠位でのみ切開され、広筋が近位に陥没させられた。鈍的切開が、大腿骨の内側顆まで骨膜を露出させる為に使用された。関節包及び骨膜が、内側側副靭帯の起源の近位でのみ切開された。覆う軟組織が、ドリル穴の近傍においてのみ骨から除去された。穴は、該穴が6mmの深さを有する該AG群を除いて、3mmの深さまで6mmドリルビットを使用して予めドリルされた。
【0131】
ヒツジにおけるARTICARの関節内埋め込み
欠損の誘導後に、ナノM1-BMP2が置かれ、該欠損がMSC/ハイドロゲルミックス(ARTiCAR組み合わせATMP、n=9)で充填された。該AG群(n=10)において、6mmの直径及び6mmの深さの骨試料が顆から採取され、該欠損中に置かれた。該NT群(n=13)において、該欠損は処置も充填もされなかった。最大5mLの0.25%のブピバカインが手術部位中に浸潤させられて局所麻酔を達成し、手術後の疼痛を管理した。該組織が再配置され、適切な縫合糸を使用してレイヤー・バイ・レイヤーで閉じられた。術後の鎮痛及び抗生物質療法が行われ、5mg/kgのExcede(IM)が麻酔からの回復の間に投与され、4mg/kgのカプロフェン(IM)が手術の3日後に投与された。
【0132】
MRIを介するARTICAR埋め込みの非侵襲的モニタリング
膝修復の縦断的分析の為に、ヒツジが3回、MRIを介して、手術の直後、15及び26週時に、Magnetom Verio 3T(Siemens)を使用して調べられた。該手技の為に、ヒツジは、0.05mg/kgのキシラジン及び5mg/Kgのケタミンの静脈内注射で麻酔され、背側臥位に置かれた。計6つの手術の部位が各々の群についてイメージングされた。重み付けされたプロトン密度、獲得された脂肪飽和矢状切片が、Osirixオープンソースソフトウェアを使用して分析された。
【0133】
外植された大腿顆の三次元マイクロCT
骨石灰化の分析の為に、手術の26週後にヒツジは麻酔され、計量され、540mg/mlのEuthanyl急速IVボーラスの致死的な注射により安楽死させられた。心電図又は聴診のいずれかでの、心停止又は心室細動の観察により死が確認され、記録された。大腿顆が、安楽死させられたヒツジから外植され、3DマイクロCT(Quantum Fx mCT、Julien Becker、ICS、IGBMC、Strasbourg、フランス国)を介してイメージングされた。計6つの手術の部位が各々の群についてイメージングされた。三次元表面レンダリングが、Osirixオープンソースソフトウェアを使用してマイクロCT 2D画像から得られた。
【0134】
ヒツジにおけるインプラントの病理組織学的分析
処置された大腿が、安楽死させられた動物から除去され、関節表面の肉眼的検査に供された。肉眼的検査後に、遠位大腿骨端(顆を伴う)が個々に同定され、10%の中性緩衝化ホルマリン中に収集された。その長手方向の軸に沿って該試料の中央においてノコギリで切ることにより骨ブロックは二等分に切断された。切片が、該欠損を通じてそのより深い軸に沿って、骨表面から該ドリル穴の終わりまで切断されて、矩形状の欠損半切片を生成した。全厚さの大腿骨-軟骨欠損部位は、脱灰されていない骨の調製を受け、メチルメタクリル酸塩を浸潤させられ、重合された。該欠損の幅全体に及ぶ単一の8μmの切片が、傍矢状面に沿って各々の内側大腿顆から切断された。軟骨及び骨の両方の染色の為に、該切片はサフラニンo-ファストグリーンで染色された。該大腿欠損部位が慎重に評価され、以下の表に従ってICRS組織学的スコアシステムに従ってスコア付けされた。
【0135】
【表1】
【0136】
埋め込みの12又は26週後に、安全性パラメータがARTiCAR(12週時にn=4~7;26週時にn=4~7)について評価され、自家移植片(12週時にn=4;26週時にn=6)処置(手術における軟骨処置の為に現行で行われている骨軟骨柱移植術に相当する)及び処置なし(12週時にn=6;26週時にn=7)と比較された。値は平均±SDとして提示されている。差異が一元配置ANOVA/クラスカル-ウォリス検定で評価された。=ARTiCARと自家移植片との間でp≦0.05。
【0137】
また、該欠損の下の及び隣接する組織が、該処置の安全性及び有効性を評価する為の多数のパラメータ(下記の表2を参照)について評価された。
【0138】
【表2】
【0139】
埋め込みの12又は26週後に、安全性パラメータがARTiCAR(12週時にn=4~7;26週時にn=4~7)について評価され、自家移植片(12週時にn=4;26週時にn=6)処置(手術における軟骨処置の為に現行で行われている骨軟骨柱移植術に相当する)及び処置なし(12週時にn=6;26週時にn=7)と比較された。値は平均±SDとして提示されている。NA:該当せず、phf:高倍率(×400)視野当たり。
【0140】
統計分析
WST1アッセイからの結果が、一元配置ANOVA、続いてチューキー事後検定を使用してPrism 4.03(GraphPad)上で統計的に評価された。p値≦0.05が有意と考えられた。一元配置ANOVA、続いてボンフェローニ事後検定が、Prism 4.03を使用して、血液検査において血液学的及び生化学的パラメータを比較する為に使用された。p値≦0.05が有意と考えられた。SigmaPlot(SYSTAT Software)及びPrism 5.0(GraphPad)の両方が、ヒツジにおけるイン・ビボ実験からのICSR IIスコアを比較する為に使用された。等分散検定及び正規性検定が行われた。一元配置ANOVA(処置により誘導された差異)又は二元配置ANOVA(処置及び時間の両方により誘導された差異)のいずれか、続いてボンフェローニ事後検定が、研究群の連続変数の間の有意な差異を評価する為に使用された。等分散検定又は正規性検定のいずれかが失敗した場合、ダンの補正を伴うクラスカル-ウォリス一元配置ANOVAが実行された。p値≦0.1が有意と考えられた。
【実施例
【0141】
実施例1:イン・ビトロでのナノM1-BMP2創傷ドレッシングの細胞傷害性(工程1):
ARTiCAR組み合わせATMPの該骨創傷パッチ(c)の為の該ナノファイバーPCL創傷ドレッシング構成要素(ナノM1-BMP2;図1A)が、イン・ビトロでのMRC-5胎仔肺線維芽細胞に対する細胞傷害性について試験された。細胞が、ナノM1-BMP2創傷ドレッシングの存在下で播種され、陽性(ポリウレタンフィルム;RM-A)及び陰性(高密度ポリエチレンフィルム;RM-C)対照と比較された。異なるサイズのナノM1-BMP2膜及び該対照フィルムの両方が、1~20mmの範囲内で試験された。細胞密度及び形態が明視野顕微鏡法により定性的に評価された。RM-Aの存在下で培養された細胞は、24時間後に既に脱着し始めた(図2A~E)。対照的に、ナノM1-BMP2スキャフォールドの存在下で培養された細胞はいかなる形態学的異常も示さず(図2F図2J)、RM-Cフィルムの存在下で培養された細胞は形態学的異常を示した(図2K図2O)。次に、我々は、WST-1生/死細胞アッセイを使用して、試験された該3つの条件における該MRC-5細胞の生存を評価した。RM-A及びナノM1-BMP2の両方は、24時間にかけて細胞生存における減少を示し、これは、補間された傾向線(図2P図2Rにおける太黒線)が指し示したように、使用された膜のサイズに直接的に比例した。しかしながら、20mmのRM-Aの存在下で、該細胞生存はt0と比較して72±5%まで低減し(図2P、p≦0.05)、同じサイズのナノM1-BMP2の断片の存在下で、該細胞生存は97±5%まで低減した(図2Q)。細胞数の有意な低減はまた、該陰性対照フィルムの存在下で観察された(図2R)。これらの結果は、ナノM1-BMP2はイン・ビトロでMRC-5細胞に対して毒性でないことを指し示す。
【0142】
実施例2:ヌードラットにおけるARTiCAR組み合わせATMPの関節内埋め込み後のヒト細胞の急性毒性、体内分布及び持続性(工程2):
ARTiCARの急性毒性がヌードラットにおいてイン・ビボで評価され、ビヒクルとしての該インプラントの非活性部分(hMSCを有しないハイドロゲル)と比較された。臨床的、血液学的及び生化学的パラメータが評価された。該移植された細胞の体内分布及び持続性も評価された。簡潔に述べれば、ARTiCAR組み合わせATMP(群1)又はビヒクル(群2)がヌードラットにおける大腿欠損に埋め込まれた。埋め込みの7日後に該動物が安楽死させられる前に心室血液が採取され、大腿が病理組織学的分析の為に収集された。ARTiCAR組み合わせATMPも該ビヒクルも、該埋め込み後90日の期間にかけて、メスラット又はオスラットのいずれにおいても、体重に対するいかなる有意な効果のトリガーともならなかった(図3A)。血液学的パラメータ(図3B)は、動物の該4つの群(群1のオス、群1のメス、群2のオス、群2のメス)の間で有意な差異を示さなかった。生化学的パラメータもまた評価された(図3C)。群1におけるメスラットは、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT;群1及び群2についてそれぞれ17.0±2.0U/l対13.2±1.6U/l;p≦0.05)並びにカルシウム(群1及び群2についてそれぞれ91.74±1.02mg/l対88.46±0.91mg/l;p≦0.05)の両方の、群2におけるよりも有意に高い血漿濃度を示した。これらの差異は、いかなる追加の症状とも関連付けられず、全体として、検討された該血液学的及び生化学的パラメータの分析は、ARTiCARで処置された動物と該対照群との間でいかなる臨床的に関連する差異も示さなかった。大腿骨-脛骨関節もまた収集され、組織学的分析に供された。ARTiCAR及び該ビヒクルの両方は、該誘導された骨欠損の骨治癒プロセスと適合性の、埋め込み部位(図3D図3Eにおいてアステリスクにより区切られる)における同等のレベルの炎症応答を誘導した(図3D図3E)。最終的に、埋め込み後90日目における該ヒトMSCの体内分布もまた、ヒトDNAを検出する為のqPCRを使用して評価された。hMSC DNAからのシグナルは、群1における1匹のオスラットの精巣を除いて、閾値レベルを上回っては決して検出されなかった。2.5%のアガロースゲル上のPCR産物の泳動は増幅産物の特異性を裏付けた。以上を合わせると、臨床的、血液学的及び生化学的データは、ARTiCARインプラントはいかなる臨床的に関連する症状も誘導しなかったことを示唆し;該埋め込み部位の組織学的分析から検出された炎症応答は該対照群との差異を明らかにせず、骨欠損の処置の為のARTiCARインプラントの安全性を強く指し示した。
【0143】
実施例3:大型動物モデルにおけるARTiCAR関節内埋め込みの病理組織学的分析(工程3):
ARTiCAR組み合わせATMPの安全性を更に確認する為に、及び大型動物におけるその使用の実現可能性を評価する為に、骨関節欠損が成体ヒツジの大腿顆において誘導され、充填しないままとされたか(無処置対照:NT)、又はARTiCARインプラント若しくは自家移植片(AG)で充填された。治癒プロセスが、非侵襲的に磁気共鳴イメージング(MRI)によって0、12及び26週時にモニターされた(図4A~C)。埋め込みから12又は26週後に、ヒツジは安楽死させられ、大腿骨-脛骨関節が外植され、マイクロコンピューティング断層撮影法(マイクロCT;図4D)を介して走査され;該関節の3D表面レンダリングもまた2D断面画像から構築された(図4E)。該外植された関節が、以下:グレードI=正常な軟骨、グレードII=ほぼ正常、グレードIII=異常な軟骨及びグレードIV=重度に異常な軟骨のようにICRSスコアシステムに従って巨視的にスコア付けされた(図4F)。最終的に、該外植片がサフラニンo-ファストグリーンの溶液中で染色され、組織学的に調べられた(図4G)。以下のパラメータが該修復された組織内で考慮に入れられ、ICRS IIスコアシステムに従ってスコア付けされた:軟骨下骨異常/髄線維化、組織形態、細胞形態、基礎の一体化、タイドマークの形成、血管新生、全体的な評価及び中央/深部区域評価(表1)。一般に、正確な軟骨下骨形成、適切な骨軟骨再構築区域及びグラフトと宿主組織との間の良好な一体化が、検討された全ての実験群において処置の26週後に該誘導された骨欠損内で観察された(図4G図4H)。興味深いことに、埋め込みの12週後に、ARTiCARで処置された欠損は、血管新生の低減(66±16%)、軟骨下骨のより不良な質(25±24%)及びタイドマークの低減(29±34%)(図4H、左パネル)を示した。これらのスコアは該NT群に対して整合されたが(それぞれ80±14%;54±30%;44±30%)、該AG群とは有意に異なった(それぞれ100±0%、p≦0.05;88±6%、p≦0.05;80±16%;p≦0.1)。しかしながら、ARTiCAR群は、該欠損に隣接する組織において該AG群より良好な血管新生(2.5±0.5)及びより高い程度の線維化(2.75±0.5)を示したが(両方のパラメータについてp≦0.1)、該NT対照におけるほどの高さの線維軟骨形成のレベルを示さなかった(埋め込みの12及び26週後にそれぞれp≦0.1及びp≦0.05)(図4H、右パネル、図4Jにおける黒矢印)。これらの結果は、ARTiCARは、低い炎症応答を誘導する可能性があり、それが再生38のトリガーとなって、軟骨下骨形成を誘導し(図4K図4Nにおける黄矢印)、長期間の有効な治癒を促進することを示唆する。更に、埋め込みの26週後に、マトリックス染色、表面/表在性評価、中央/深部区域評価及び全体的な評価は、ARTiCAR群について最も高いスコアを示し(表1)、多形核細胞、感染、線維素性滲出物及び脂肪浸潤物は、ARTiCAR群及び該AG群の両方において該欠損に隣接する組織において検出されず(表2)、ARTiCAR組み合わせATMP処置は、自家移植片と同等に長期間にかけて安全性を有することを指し示した。
【0144】
結論として、世界的な軟骨修復/再生市場は2016年に42億USドルの価値があり、平均余命の増加の為、2014~2025年の期間の間に5.4%のCAGRで増大することが予想される。現行で、OAに対する国際的な標準処置は全人工膝関節全置換術(TKA)である。その急速に増加している利用(米国において55歳未満の77,000人の患者/年)にもかかわらず、TKAは、線維軟骨形成、細胞肥大又は発育不全及び軟骨と軟骨下骨との間の適切な境界面の欠如を誘導するので、若年の身体的に活発な患者において最適以下である。再生ナノ医療は、生体材料、ナノテクノロジー及び細胞の使用を組み合わせて、複雑な境界面再生が要求されるOARのような問題に対するより良好な解決策を与える。この研究において、我々は、ARTiCAR組み合わせATMPの実現可能性、非侵襲的モニタリング及び安全性を評価した。骨軟骨分化を促進する他の洗練されたインプラント挿入可能なスキャフォールドと同様に、ARTiCARはBMP2を放出する。しかしながら、細胞接触依存性の空間的-時間的放出を提供するナノリザーバー技術のおかげで、ARTiCARにおいて使用されるBMP2の総量は、診療所において使用されるBMP2を浸漬させたコラーゲン膜の総量よりも10,000倍低く(McKay WF,Peckham SM,Badura JM.A comprehensive clinical review of recombinant human bone morphogenetic protein-2 (INFUSE Bone Graft).Int Orthop 31,729-734 (2007))、潜在的な炎症性副作用(図3D図4G、H、K、N)及び手技の全体的なコストの両方を低減させる。不良な軟骨下骨再生が達成される他のアプローチ(Buda R,Vannini F,Cavallo M,Grigolo B,Cenacchi A,Giannini S.Osteochondral lesions of the knee:a new one-step repair technique with bone-marrow-derived cells.J Bone Joint Surg Am 92 Suppl 2,2-11 (2010);及びGiannini S,et al.One-step repair in talar osteochondral lesions:4-year clinical results and t2-mapping capability in outcome prediction.Am J Sports Med 41,511-518 (2013))とは異なり、ARTiCARは、軟骨下骨及び軟骨の両方の同時の再生に対処し(図4G、K、N)、局在化された骨軟骨欠損においてOARを促進する為の革新的な技術となる。軟骨再生の為に、ARTiCARはMSCを組み込んでいる。ヒトMSCは、免疫調節効果に連結されたそれらの分化転換潜在能力の為に、OARを促進する為に臨床試験において現行で使用されている。しかしながら、MSCの腫瘍原性が議論されているので、hMSCの体内分布は前臨床安全性の不可欠な懸念である(Goldring CE,et al.Assessing the safety of stem cell therapeutics.Cell Stem Cell 8,618-628 (2011);及びSensebe L,Fleury-Cappellesso S.Biodistribution of mesenchymal stem/stromal cells in a preclinical setting.Stem Cells Int 2013,678063 (2013))。ARTiCARの埋め込み後に、40匹の埋め込みされた動物のうちの1匹のオスヌードラットの精巣において微量のhMSC DNAが見出され(図3C)、ARTiCARインプラントの安全性を強調した。
【0145】
要約すると、本発明は、大型動物モデルにおけるARTiCARインプラントの実現可能性、及びMRIによって非侵襲的にOARを追跡する可能性を示した(図4A図4C)。より重要なことに、ヌードラット(図3D)においてもヒツジ(図4G図4H図4K図4N)においても急性毒性も長期毒性も検出されなかったので、ARTiCARの安全性が示された。それ故に、ARTiCARは、OA、腱変性症及び他の年齢関連の変性性筋骨格の問題に対する処置としてフェーズI臨床試験に入ることができる。その為、ARTiCARは、現行の侵襲的な処置を置き換えることができる可能性があり、米国だけでも300,000~450,000人の患者/年に影響する潜在能力を有する(40~50億ドルの世界的な市場)。
図1
図2
図3
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図5