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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】分水用コアの挿入器
(51)【国際特許分類】
   B25B 27/073 20060101AFI20240627BHJP
   F16L 41/08 20060101ALI20240627BHJP
   F16L 58/02 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B25B27/073 A
F16L41/08
F16L58/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020032036
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021133464
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2019年10月7日、公益社団法人日本水道協会発行の令和元年度全国会議(水道研究発表会)講演集の第690頁~第691頁にて公表 (2)2019年11月7日、公益社団法人日本水道協会が主催する令和元年度全国会議(水道研究発表会)にて公開(3)2019年12月19日、青森市企業局水道部にて商品説明及び施工実演により公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000151025
【氏名又は名称】株式会社タブチ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】清水 彰人
(72)【発明者】
【氏名】上田 賢佳
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-107705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 27/00 - 27/30
F16L 41/08
F16L 58/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分水栓を通じて水道管に穿設された分水孔に分水用コアを水密に挿入する挿入器において、細部の形状や寸法の相違によって前記分水孔に水密に挿入するのに必要とされる固有の挿入荷重がそれぞれ異なる複数種類の分水用コアで共通して使用することができる挿入器であって、
水平回転するハンドルと、
前記分水栓側に固定されるねじ部と螺合して前記ハンドルの締め込み方向の水平回転を回転軸に沿った下降運動に変換する送りねじ機構と、
前記ハンドルの前記回転軸上を下降して、下端側に装着した前記分水用コアを前記分水孔に挿入可能な挿入棒と、
前記ハンドルの前記送りねじ機構による下降方向の締め込みによって前記挿入棒との間で圧縮し、その圧縮荷重を前記挿入棒を介して前記分水用コアに挿入荷重として付与するスプリングと、
前記ハンドルの上部には前記挿入棒の頭部が挿通自在な穴付きの基準面を備え、
前記複数種類の分水用コアのうち、最も大きい固有の挿入荷重を基準荷重として設定すると共に、前記ハンドルの締め込みによる前記スプリングの前記圧縮荷重が前記基準荷重以上となったとき、前記挿入棒の頭部に設けられた第1指標が前記穴を介して前記基準面の外部に突出するように構成され
前記複数種類の分水用コアで共通する過度な前記ハンドルの締め込みを防止するストッパ手段を更に設けたことを特徴とする分水用コアの挿入器。
【請求項2】
基準面は、ハンドルの上部に固定されるキャップの穴付きの上端面である請求項1記載の分水用コアの挿入器。
【請求項3】
基準面は、ハンドルの回転軸であるハンドル本体の穴付きの上端面である請求項1記載の分水用コアの挿入器。
【請求項4】
ストッパ手段は、ハンドルと送りねじ機構における分水栓側の固定ねじ部の一部同士が当接することで、前記ハンドルの過度な締め込みを規制する機械的規制手段である請求項1、2または3記載の分水用コアの挿入器。
【請求項5】
ストッパ手段は、挿入棒の頭部における第1指標の下側に、前記頭部が第1指標を超えて基準面から突出したことを目視する第2指標を設けた注意喚起的規制手段である請求項1から4のうち何れか一項記載の分水用コアの挿入器。
【請求項6】
第1指標及び/または第2指標は、挿入棒の頭部に周設した環状の溝である請求項5記載の分水用コアの挿入器。
【請求項7】
溝には色彩が施されている請求項6記載の分水用コアの挿入器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水道本管の分水孔に分水栓を介して分水用コアを挿入する際、その挿入加減を適正なものとすることができる挿入器に係り、分水栓の呼び径やメーカーによって挿入荷重が異なる複数種類の分水用コアに共通して使用することができる新規な構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水道本管をサドル分水栓によって分岐する際は、サドル分水栓の開口部から水道本管に穿設した分水孔にかけて分水用コアを挿入する。これに用いる分水用コアは、外層側にシール材としての樹脂スリーブと、内層側に芯材としての金属スリーブとを備えた二層構造からなり(特許文献1~4)、挿入箇所における漏水や腐食を防止する(このため分水用コアは「防錆スリーブ」や「防食スリーブ」等と称される事もある)。
【0003】
分水用コアは当初、樹脂スリーブの上側に金属スリーブを一段だけ嵌め込んだ仮組みの状態にあり、先端にストレッチャーヘッドを装着した挿入器を用いて、金属スリーブを樹脂スリーブ内に圧入することで樹脂スリーブを拡径して分水孔等に圧着させる。
【0004】
分水用コアの挿入器としては、例えば特許文献5に開示されているように、ハンドルの水平方向の回転動作をスピンドル(挿入棒)の上下動作に変換する送りねじを備え、このスピンドルの先端には分水用コアに対応するストレッチャーヘッドが取り替え可能に装着される。そして、ハンドルを締め込むことによってスピンドルと共にストレッチャーヘッドを下降させ、金属スリーブを樹脂スリーブに押し込んで分水孔等に圧着させる。
【0005】
上述のように、分水用コアの性能を担保するには、仮組みの状態から金属スリーブを適正に樹脂スリーブに圧入する必要があるが、外部からは金属スリーブの圧入状態を目で見て確認することはできないため、従来は、ハンドルの締め込みトルクの変化やハンドルの回転角度などから挿入具合を加減していた。
【0006】
しかし、この方法では作業員の経験や勘に頼るところが大きく、金属スリーブの圧入量に過不足が生じやすかった。特に、分水用コアはメーカー毎に細部の形状や寸法が異なるため、その都度、ハンドルの締め込み量も微調整しなければならないが、この場合、相当の熟練が必要であった。
【0007】
そこで、本出願人は、水平回転するハンドルの回転操作により上下動する挿入棒を下降させて、該挿入棒の下端に設けたストレッチャーヘッドにより分水用コアを分水栓を通じて水道本管の分水孔に挿入する挿入器について、ハンドルの締め込み量が一定量となれば、キャップから挿入棒の上部(頭部)が突出するように構成した挿入器を発明した(特許文献6)。この挿入器によれば、挿入棒頭部のキャップからの突出部分をインジケータとして分水用コアの挿入加減を把握することができるため、経験や勘に頼ることなく、均質な挿入態様とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開平7-23892号公報
【文献】特開2001-304487号公報
【文献】特開2006-10047号公報
【文献】特開2017-194096号公報
【文献】特開平10-180648号公報
【文献】特開2019-107705公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、分水栓は、水道本管のサイズ等に応じて、呼び径20・25・30・40・50といった複数のサイズが用意され、分水用コアも分水栓の呼び径に応じたサイズのものが用意される。そして、分水用コアを水道本管の分水孔に挿入する際に必要な荷重(仮組み状態の金属スリーブを樹脂スリーブに押し込んで圧入する荷重)は、それぞれのサイズで異なり、サイズが大きい分水用コアほど挿入荷重も大きくなる。
【0010】
しかし、特許文献6の挿入器は、限られたサイズの分水用コアしか対応していないため、他のサイズの分水用コアの挿入作業については、やはり、作業者の経験や勘に依存することになる。この課題は、メーカーごとで挿入荷重が異なる分水用コアにも共通するものである。
【0011】
また、特許文献6の挿入器は、挿入棒の頭部がキャップから適正量突出した後もハンドルの締め込みが許容されるため、このような過度な締め込みによって、分水用コアが変形したり座屈したりするおそれがあった。
【0012】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、挿入荷重が異なる複数種類の分水用コアで共通して使用することができる挿入器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するために本発明では、分水栓を通じて水道管に穿設された分水孔に分水用コアを水密に挿入する挿入器において、水平回転するハンドルと、前記分水栓側に固定されるねじ部と螺合して前記ハンドルの締め込み方向の水平回転を回転軸に沿った下降運動に変換する送りねじ機構と、前記ハンドルの前記回転軸上を下降して、下端側に装着した前記分水用コアを前記分水孔に挿入可能な挿入棒と、前記ハンドルの前記送りねじ機構による下降方向の締め込みによって前記挿入棒との間で圧縮し、その圧縮荷重を前記挿入棒を介して前記分水用コアに挿入荷重として付与するスプリングと、前記ハンドルの上部には前記挿入棒の頭部が挿通自在な穴付きの基準面を備え、前記分水用コアを前記分水孔に水密に挿入するのに必要とされる当該分水用コアに固有の挿入荷重を基準荷重として、前記ハンドルの締め込みによる前記スプリングの前記圧縮荷重が前記基準荷重以上となったとき、当該スプリングの圧縮量に見合った長さだけ前記挿入棒の頭部が前記穴を介して前記基準面の外部に突出するように構成され、前記基準荷重は、前記固有の挿入荷重がそれぞれ異なる複数種類の分水用コアのうち、最も大きい固有の挿入荷重を基準として設定すると共に、前記挿入棒の頭部には、前記設定した基準荷重に対応して、前記基準面から突出したことを目視する標準指標を設ける一方、前記複数種類の分水用コアで共通する過度な前記ハンドルの締め込みを防止するストッパ手段を設けるという手段を用いた。
【0014】
本発明でも従来と同じ作業手順にしたがって分水用コアを挿入するもので、ハンドルの締め込み量が一定量となれば、基準面から挿入棒の頭部が突出するため、作業者が前記頭部に設けた標準指標を視認し、その段階でハンドルの回転を停止することで、分水用コアの挿入作業を適正に完了させることができることは特許文献6の挿入器と基本的には同じである。
【0015】
しかし、本発明では、標準指標が基準面から目視可能に出現する基準荷重を、複数種類の分水用コアのうち最も大きい固有の挿入荷重を基準として設定しているため、標準指標を視認したときにハンドルの締め込みを停止すれば、複数種類の分水用コアに共通して適正な挿入作業を完了することができる。なお、本発明の基準荷重を上述のように設定しても、本出願人による検証では、最も固有の挿入荷重が小さい分水用コアが変形等することがなかった。また、標準指標が基準面から出現して視認可能となった後、ある程度はハンドルの締め込みが許容され、それ以降、多少、ハンドルを余分に締め込んだとしても、その分のトルクはスプリングで吸収されるため、分水用コア等を傷めることがない。
【0016】
ただし、基準荷重を大幅に超えるハンドルの締め込みがあると、スプリングの圧縮荷重が指数関数的に増大して、分水用コアが変形したり座屈するおそれがあるため、本発明では、このような過度なハンドルの締め込みを防止するストッパ手段を設けることとした。特に、本発明では、複数種類の分水用コアで共通する過度の締め込みを防止するため、複数種類の分水用コアのいずれについても上述した変形等を来す前にハンドルの過度な締め込みを防止することができる。ここで「複数種類の分水用コアで共通する過度な締め込みを防止」とは、複数種類ある何れの分水用コアも変形や座屈、また樹脂スリーブの破損等が生じないことを意味する。具体的には、本発明の挿入器を適用する複数種類の分水用コアのうち、挿入に係る許容荷重が最も小さい分水用コアを基準として定めることができる。なお、分水用コアはその使用目的から、許容荷重が必ずしも規定(数値化)されておらず、また、呼び径が最も小さい分水栓に適用する分水用コアの許容荷重が最小であるとも限らない。このように各分水用コアの許容荷重を予め把握できないことがあった場合、本出願人の検証では、基準荷重(呼び径が最も大きい分水栓に適用する分水用コアの固有の挿入荷重)の約120%の荷重を複数種類ある分水用コアの許容荷重の最小値とみなすことができる。
【0017】
ストッパ手段の具体的な構成としては、ハンドルと送りねじ機構における分水栓側の固定ねじ部の一部同士が当接することで、前記ハンドルの過度な締め込みを強制的に規制する機械的規制手段を採用することが有効である。作業者が標準指標を見落とすなどしてハンドルを締め増そうとしても、前記当接時にハンドルの締め込みが強制的に規制されるからである。
【0018】
また、他のストッパ手段としては、挿入棒の頭部における標準指標の下側に、前記頭部が標準指標を超えて基準面から突出したことを目視する上限指標を設けた注意喚起的規制手段であることも有効である。この場合、ハンドルを締め込むにつれて標準指標に続き上限指標が基準面から出現することになり、これら二つの指標を作業者が視認した段階でハンドルの締め込みを停止すれば、上述した機械的規制手段と同じく、分水用コアの変形等を防止し、適正な挿入状態が担保される。なお、ストッパ手段は、上限指標による注意喚起的規制手段単独で構成することも可能であるが、上述した機械的規制手段と併用して、二重の規制手段とすることが、より好ましいものである。機械的規制手段によってハンドルの締め込みが規制されたときに、作業者が上限指標を視認することで、それ以上ハンドルが回転しないことは、トラブルではなく前記機械的規制手段による正規なものであると把握することができるからである。
【0019】
こうした標準指標や上限指標は、目視を容易且つ確実に行うために、挿入棒の頭部に周設した環状の溝であることが好ましく、さらに、この溝に顔料または塗料を塗布したり、スパッタリングによって色彩が施されていることがより好ましい。特に、蓄光顔料や発光塗料を施せば、暗い中でも指標を確実に目視することができる。
【0020】
なお、本発明における挿入棒は、分水栓の呼び径に見合った分水用コアに対応する数種のストレッチャーヘッドが付け替え可能であることはもちろんである。また、本器を分水栓に固定する部分(送りねじ機構における固定ねじ部)と分水栓との間には、呼び径ごとに高さが異なるアタッチメントを適用することで、各分水栓や各分水用コアで異なる挿入ストロークを吸収することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、分水栓の呼び径やメーカーによって挿入荷重が異なる複数種類の分水用コアに共通して使用することができる。
【0022】
また、過度な締め込みはストッパ手段によって規制されるため、複数種類ある何れの分水用コアも変形等が防止され、基準荷重にしたがった分水用コアの適正な挿入態様が担保される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る挿入器の組図
図2】同、分水用コアの挿入手順を示す説明図(作業初期)
図3】同、分水用コアの挿入手順を示す説明図(基準作業時)
図4】同、分水用コアの挿入手順を示す説明図(上限作業時)
図5】分水用コアの説明図
図6】分水栓の呼び径ごとに対応する分水用コアの挿入荷重と変位量の相関図
図7】本発明の他の実施形態に係る挿入器の組図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1は、本発明の一実施形態を示した挿入器の組図、図2~4は作業手順を示す説明図であり、図中、1は挿入器本体、2はストレッチャーヘッド、3は挿入棒、4はハンドル本体、5はスプリング、6はキャップ、7は指標部、8はカバーである。
【0025】
各部材を詳細に説明すると、まず挿入器本体1は、中間部に挿入棒3の挿通孔1aを設けた中空円筒状である。この挿通孔1aにはOリング1bを上下三段に設けて、挿入棒3の上下のスライドを許容しつつ、水密性を確保している。また、挿通孔1aの下端開口にはナット部1cを設けて、この挿入器本体1をサドル分水栓Sに直接、または後述するアタッチメント9を介して、サドル分水栓Sの上部開口部S1に固定するようにしている。なお、この実施形態では、アタッチメント9を介して、挿入器本体1をサドル分水栓Sに固定するものとして説明する。そして、挿入器本体1の上端開口部には、後述するハンドル本体4の雄ネジが螺合する雌ネジ部1dを設けている。
【0026】
ストレッチャーヘッド2は、挿入棒3の下端に取り付けられて、分水用コアCをサドル分水栓Sの下部開口部S2と水道本管Pの分水孔P1に圧着状態で挿入する部分である。
【0027】
このストレッチャーヘッド2は分水用コアCに対応したものを挿入棒3の下端に適宜付け替えて利用するが、これらストレッチャーヘッド2と分水用コアCは従来から存在するものを採用することができ、その挿入態様も従来と変わるところはない。
【0028】
これに対して分水用コアCは、図5に示すように、樹脂スリーブC1と金属スリーブC2の組合せからなる。このうち樹脂スリーブC1は、例えばポリエチレン製であり、下段には水道本管Pの分水孔P1に対応する第一密着部C1aを備え、上段にはサドル分水栓Sの下部開口部S2に対応する第二密着部C1bを備える。第一密着部C1aの下部開口部は先細のテーパ状としており、第二密着部C1bは段部C1cを介して第一密着部C1aよりも大径としている。また、第二密着部C1bの上部内面には環状の係止溝C1dを周設している。
【0029】
一方、金属スリーブC2は、例えばステンレス製であり、下端開口には樹脂スリーブCの前記段部C1cに係止する段部C2aを備え、ここから内外とも径が均一なストレート部C2bを介して外周面が拡開する拡径部C2cを備えている。また、拡径部C2cの基端外周面には樹脂スリーブCの前記係止溝C1dに係止する環状の突条C2dを突設している。
【0030】
そして分水用コアCは当初、上述した構造の係止部分によって、金属スリーブC2を樹脂スリーブC1に一段嵌め込んだ仮組みの状態にあり(図5(a)参照)、この仮組み状態でストレッチャーヘッド2に保持され、その後、挿入作業時にストレッチャーヘッド2に押し込まれて金属スリーブCが樹脂スリーブC1に圧入する(図5(b)参照)。この金属スリーブCの圧入によって、樹脂スリーブC1が拡開して、第一・第二の各密着部C1a・C1bが水道本管Pの分水孔P1とサドル分水栓Sの下部開口部S2それぞれの内面に圧着し、水密な挿入状態となる。
【0031】
次に挿入棒3は、その下部をヘッド取付部3aとして、挿入器本体1の挿通孔1aに対応した径を有する一定長の本体部3bを備え、上部は縮径段部3cを介して、本体部3bよりも細径として、スプリング(コイルスプリング)5を挿通する軸部3dとしている。このとき縮径段部3cはスプリング5の下側のスプリング受けとなる。また、軸部3dの上端には、円柱状の指標部7が螺合する雄ネジ部3eを設けている。
【0032】
この挿入棒3の雄ネジ部3eに螺合する指標部7は、挿入棒3の頭部を構成し、その外周壁には、第1の指標として標準指標Aと、その下側に第2の指標として上限指標Bとを二段に設けている。これら指標A・Bは、例えば環状の標線で構成され、本実施形態では当該標線を溝で構成し、作業員による目視を容易且つ確実にするために、溝に塗料や顔料を塗布、またはスパッタリングを施して、色彩付きの溝としている。さらにまた、より好ましい構成例として、標準指標Aは黄色、上限指標Bは赤色というように、異なる色彩を施すこともある。
【0033】
次に、ハンドル本体4は、その側方に左右一対に取り付けた棒状のハンドル4aの回転軸として機能するもので、これによりハンドル4aは挿入棒3を中心軸として水平回転するものである。言い換えれば、挿入棒3はハンドル4aの回転軸上を上下に昇降する。このハンドル本体4は、挿入棒3の上側の軸部3dが貫通する貫通孔4bを形成した穴付きの天板部4cを有し、その下側の空間はスプリング5の収容部4dとしている。このとき天板部4cの下側内面はスプリング5の上側のスプリング受けとなる。また、収容部4dの外周には、ハンドル4aの直下にカバー8が螺合する雄ネジ部4eを設けている。
【0034】
さらに、雄ネジ部4eの下側には下端側をテーパー状とした雄ネジ4fを設けている。この雄ネジ4fは挿入器本体1の雌ネジ1dに螺合するもので、ハンドル4aを水平回転操作したとき、ハンドル本体4を水平回転軸(本器の中心軸と同義)に沿って昇降させる。つまり、本実施形態では、分水栓側に固定されるねじ部としての雌ネジ1dと、ハンドル本体4の雄ネジ4fとで送りねじ機構を構成している。
【0035】
スプリング5は、例えば約100Nの耐荷重を有するコイルスプリングであり、上下の平座金5aと共に、その中心に挿入棒3の軸部3dを挿通した状態で、ハンドル本体4の収容部4dに収容される。そして、このスプリング5は、ハンドル本体4の天板部4cと挿入棒3の縮径段部3cそれぞれをスプリング受けとして、ハンドル本体4の昇降動作に伴って伸縮し、特にハンドル4aを正回転させてハンドル本体4を下降させた場合による圧縮荷重を挿入棒3を介して分水用コアCに挿入荷重として付与(伝達)する機能を有している。
【0036】
続いて、キャップ6は、ハンドル本体4の上部に螺合等により固定され、その上部に指標部7(挿入棒3の頭部)が挿通自在な穴6aを上下貫通して形成したものである。
【0037】
また、カバー8は、上部にハンドル本体4の雄ネジ部4eと螺合する雌ネジ部8aを有すると共に、下部は挿入器本体1の上端開口部の外周壁の径に見合った内径からなる筒部8bで構成しており、全部材を組み立てたときに、ハンドル本体4を正確に上下に昇降させるように、ぐらつきを抑制するガイド部材として機能する。
【0038】
上記各部材の組み立て手順は、挿入棒の本体部3bを挿入器本体1に挿入したうえで、上側の軸部3dにスプリング5を挿入すると共にハンドル本体4の貫通孔4bを貫通させてから当該軸部3dに指標部7を取り付け、ハンドル本体4に、ハンドル4a、キャップ6、及びカバー8を取り付けて、組み立てが完了する。
【0039】
上述のように組み立てた挿入器に、挿入しようとする分水用コアCに適合するストレッチャーヘッド2を取り付ると共に、当該ストレッチャーヘッド2に仮組み状態の分水用コアCをセットしたうえで、挿入器本体1をアタッチメント9を介してサドル分水栓Sに固定すれば、分水用コアCの挿入作業の準備が整う(図2参照)。
【0040】
図2の状態からハンドル4aを正方向に回転操作すると、ハンドル本体4が同方向に回転して、雄ネジ4fと挿入器本体1の雌ネジ1dとで構成される送りねじ機構により、ハンドル本体4が下降する。ハンドル本体4が下降し始めると、スプリング5を介して挿入棒3も下降し始める。そして、挿入棒3の下降により、ストレッチャーヘッド2に仮組み状態でセットした分水用コアCが水道本管Pの分岐孔P1等に係止すると、それ以降は、ハンドル本体4の下降に伴ってスプリング5が圧縮し始める。もちろん、図2に示した初期の段階で、仮組み状態の分水用コアCが分岐孔P1に係止しているときは、ハンドル4aを正回転し始めたと同時に、スプリング5が圧縮し始める。つまり、分水用コアCが分岐孔P1に係止していることで挿入棒3の下降が抑制されるため、それ以降、スプリング5の圧縮量が徐々に大きくなり、その分、挿入棒3の下降量はハンドル本体4の下降量よりも小さくなる。したがって、ハンドル4aを締め込むほどにスプリング5の圧縮量が増すことで、挿入棒3を介して分水用コアCに作用する反力、即ち圧縮荷重は徐々に大きくなり、この圧縮荷重が分水用コアCに固有の挿入荷重以上となった段階で、分水用コアCの金属スリーブC2が樹脂スリーブC1に完全に圧入され、分水孔P1に水密な適正な挿入状態となる(図3)。
【0041】
このようにハンドル4aを締め込むほどにスプリング5の圧縮量が増して、その分、ハンドル本体4が挿入棒3に先行して下降するため、ハンドル本体4に固定したキャップ6も同様に挿入棒3に先行して下降する。言い換えれば、先行下降するキャップ6に対して挿入棒3の頭部(指標部7)は相対的に上位に変位し、いずれキャップ6の穴6aから外部に突出することになる。
【0042】
そして、本実施形態では、図3に示す適正な挿入状態となったときに、指標部7の標準指標Aがキャップ6の外部に突出する。このため、作業者はキャップ6の穴6a付きの上端面6bを基準面として標準指標Aを視認できた段階でハンドル4aの締め込みを停止することで、挿入作業を完了させることができる。
【0043】
ところで、上記実施形態では、呼び径が50mmの分水栓Sに適用する分水用コアCの挿入作業について説明した。しかし、この他に分水栓には、呼び径20mm、25mm、30mm、40mmといった複数種類があり、それぞれに対応する分水用コアも分水栓の呼び径ごとにサイズ等が異なる。そして、本発明では、分水用コアを水密に挿入するために必要な荷重を、その分水用コアに固有の挿入荷重と定義しているのであるが、この固有の挿入荷重もそれぞれの分水用コアで異なる。つまり、本出願人の検証では、図6に示すように、呼び径が大きい分水栓に対応するものほど、固有の挿入荷重が大きくなる。
【0044】
そこで、本実施形態では、分水用コアの挿入が完了すると同時に、ハンドル本体4と挿入棒3との下降量の差によって指標部7の標準指標Aが目視可能となるように、そのときのスプリング5の圧縮量として示されるスプリング5の圧縮荷重を、図6に示した呼び径20~50の分水用コアのうち、固有の挿入荷重が最も大きい呼び径50対応の分水用コアCに係る固有の挿入荷重の最大荷重よりも若干大きい荷重(図6中の点で示した挿入最大荷重)を基準荷重として設定した。
【0045】
このように設定することで、本器を固有の挿入荷重が小さい他の呼び径対応の分水用コアにした場合も、挿入完了後のスプリング5の圧縮量は変わらないため、それぞれに固有の挿入荷重を上回る圧縮荷重によって挿入作業が可能であると同時に、図3に示したのと同じく、標準指標Aを目視することも可能となる。つまり、本器は、どの呼び径の分水用コアにも共通して使用することができる。したがって、メーカー間で固有の挿入荷重が異なる複数種類の分水用コアについても同様に共通して使用することができる。
【0046】
一方、図3の状態から、さらにハンドル4aを締め込むことも可能であるが、多少の締め増しを行ったとしても、その荷重はスプリング5がさらに圧縮することで吸収されるため、分水用コアC等を傷めるには至らない。
【0047】
ただし、作業者が標準指標Aを見落とすなどして、スプリング5の圧縮荷重が基準荷重(この実施形態では、分水用コアCに固有の挿入荷重)を大幅に超えるような過度な締め込みが行われると、分水用コアCが変形したり、最悪、座屈してしまう。そこで、本実施形態では、図3の状態から、さらに一定量、ハンドル4aを締め増したときは、図4に示すように、ハンドル本体4の雄ネジ部4eを形成したフランジ部4gの下面4g’が挿入器本体1の上端1’と当接することで、それ以降、ハンドル4aを締め増すことを機械的に規制する第一のストッパ手段(機械的規制手段)を採用している。
【0048】
これと同時に、挿入棒3の頭部を構成する指標部7には、標準指標Aの下側に別途、上限指標Bを第二のストッパ手段(注意喚起的規制手段)として設けている。具体的には、第一のストッパ手段によって機械的にハンドル4aの締め増しが強制規制されると同時に、上限指標Bがキャップ6から出現するときのスプリング5の圧縮荷重を、図6に基準荷重と共に併記したように、基準荷重の約120%の荷重で示される上限荷重として設定した。
【0049】
したがって、図4の状態では、ハンドル4aの締め増しが機械的に規制されることで、分水用コアCの変形等を防止することができると共に、作業者は上限指標Bを視認することで、既に適正な挿入が完了したので、不正なハンドル4aの締め込みが規制されたと正しく理解することができる。
【0050】
なお、標準指標Aや上限指標Bは、それぞれ色彩を有することが作業者による視認を容易にし、また、互いに異なる色彩とすることで、各指標を容易に判別することができる。
【0051】
ところで、上記実施形態は、上述のように呼び径が50mmのサドル分水栓Sについて例示したものであるが、他の呼び径のサドル分水栓については、その高さに応じたアタッチメントに付け替えることで、本器の基本的構成をそのままに利用することができる。このとき、最も呼び径が小さいサドル分水栓については、アタッチメントを省略して、挿入器本体1を直接、当該サドル分水栓に固定するようにしてもよいことはもちろんである。
【0052】
図7は、本発明の他の実施形態を示したものであり、上記実施形態で採用していたキャップ6と指標部7を割愛する一方、挿入棒3の軸部3dの上部(挿入棒3の頭部)に直接、標準指標Aと上限指標Bとを設けている。その他の構成は上記実施形態と同じである。そして、この実施形態では、ハンドル本体4の天板部4cの上端面を基準面4c’として、標準指標Aを視認できた段階でハンドル4aの締め込みを停止することで、挿入作業を完了させることができ、さらなる締め込み時に、上限指標Bを視認することで、既に適正な挿入が完了したことを認識できることは、上記実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0053】
1 挿入器本体
1e 雌ネジ(送りねじ機構)
2 ストレッチャーヘッド
3 挿入棒
4 ハンドル本体
4a ハンドル
4b 貫通孔
4c’ 天板部の穴付きの上端面(基準面)
4f 雄ネジ(送りねじ機構)
5 スプリング
6 キャップ
6a 穴
6b キャップの穴付きの上端面(基準面)
7 指標部
A 標準指標(第1指標)
B 上限指標(第2指標)
8 カバー
9 アタッチメント
C 分水用コア
C1 樹脂スリーブ
C2 金属スリーブ
S サドル分水栓
P 水道本管
P1 分水孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7