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特許7510665疾患の進行度を判定するための装置、方法、プログラム及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】疾患の進行度を判定するための装置、方法、プログラム及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20240627BHJP
   G01N 33/49 20060101ALI20240627BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20240627BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A61B5/08
G01N33/49 W
A61B5/1455
A61B10/00 K
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020087192
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021180732
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】516305053
【氏名又は名称】株式会社CureApp
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 晃太
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-253865(JP,A)
【文献】特開2005-034472(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0296104(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0106201(US,A1)
【文献】特開2017-153581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08
G01N 33/49
A61B 5/1455
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患の進行度を判定するための装置であって、
継続的に測定された動脈血酸素飽和度を取得し、
前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定し、
運動負荷の大きさを示す情報を取得し、
前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定し、
前記低下関連指標は、動脈血酸素飽和度の低下が開始してから負荷時の定常状態になるまでの動脈血酸素飽和度の時間積分に基づく低下積分値を含み、
前記低下関連指標を決定することは、前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の低下積分値を決定すること、を含み、
前記判定することは、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下積分値に基づいて、呼吸・循環器疾患の進行度を判定すること、を含む、
装置。
【請求項2】
前記判定することは、
前記運動負荷の大きさを示す情報に基づいて、低下積分境界閾値及び当該低下積分境界閾値より小さい低下積分増悪閾値を決定することと、
前記決定された低下積分値が、前記低下積分境界閾値以下であり低下積分増悪閾値より大きい場合は境界状態と判定し、前記低下積分増悪閾値以下である場合は増悪状態と判定することと、
を含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記判定することにおいて境界状態と判定された後、新たに測定された動脈血酸素飽和度を取得し、当該取得された動脈血酸素飽和度に基づいて前記判定することを再実行し、境界状態と判定されることが所定回数以上繰り返された場合、増悪状態と判定する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
疾患の進行度を判定するための装置であって、
継続的に測定された動脈血酸素飽和度を取得し、
前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定し、
運動負荷の大きさを示す情報を取得し、
前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定し、
前記低下関連指標は、運動による負荷状態が開始してから動脈血酸素飽和度の低下が開始するまでの低下開始所要時間を含み、
前記低下関連指標を決定することは、
運動による負荷状態が開始したタイミングを示す情報を取得することと、
前記負荷状態が開始したタイミング及び前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の低下開始所要時間を決定することと、
を含み、
前記判定することは、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下開始所要時間に基づいて、疾患の進行度を判定すること、を含む、
ことを特徴とする装置。
【請求項5】
疾患の進行度を判定するための装置であって、
継続的に測定された動脈血酸素飽和度を取得し、
前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定し、
運動負荷の大きさを示す情報を取得し、
前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定し、
前記低下関連指標は、動脈血酸素飽和度の低下が開始した後、定常状態となった際の動脈血酸素飽和度である負荷時定常飽和度を含み、
前記低下関連指標を決定することは、前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、負荷時定常飽和度を決定することを含み、
前記判定することは、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された負荷時定常飽和度に基づいて、疾患の進行度を判定すること、を含む、
ことを特徴とする装置。
【請求項6】
前記判定された呼吸器疾患の進行度に基づいて警告情報を提示する、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
動脈血酸素飽和度を継続的に測定して取得する、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
ユーザの身体の動きを検出して運動負荷の大きさを示す情報を生成して取得する、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
疾患の進行度を判定するための方法であって、コンピュータに、
継続的に測定された動脈血酸素飽和度を取得する段階と、
前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定する段階と、
運動負荷の大きさを示す情報を取得する段階と、
前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定する段階と、
を実行させ、
前記低下関連指標は、動脈血酸素飽和度の低下が開始してから負荷時の定常状態になるまでの動脈血酸素飽和度の時間積分に基づく低下積分値を含み、
前記低下関連指標を決定する段階は、前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の低下積分値を決定する段階、を含み、
前記判定する段階は、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下積分値に基づいて、呼吸・循環器疾患の進行度を判定する段階、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
疾患の進行度を判定するための方法であって、コンピュータに、
継続的に測定された動脈血酸素飽和度を取得する段階と、
前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定する段階と、
運動負荷の大きさを示す情報を取得する段階と、
前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定する段階と、
を実行させ、
前記低下関連指標は、運動による負荷状態が開始してから動脈血酸素飽和度の低下が開始するまでの低下開始所要時間を含み、
前記低下関連指標を決定する段階は、
運動による負荷状態が開始したタイミングを示す情報を取得する段階と、
前記負荷状態が開始したタイミング及び前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の低下開始所要時間を決定する段階と、
を含み、
前記判定する段階は、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下開始所要時間に基づいて、疾患の進行度を判定する段階、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
疾患の進行度を判定するための方法であって、コンピュータに、
継続的に測定された動脈血酸素飽和度を取得する段階と、
前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定する段階と、
運動負荷の大きさを示す情報を取得する段階と、
前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定する段階と、
を実行させ、
前記低下関連指標は、動脈血酸素飽和度の低下が開始した後、定常状態となった際の動脈血酸素飽和度である負荷時定常飽和度を含み、
前記低下関連指標を決定する段階は、前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、負荷時定常飽和度を決定する段階を含み、
前記判定する段階は、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された負荷時定常飽和度に基づいて、疾患の進行度を判定する段階、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項13】
疾患の進行度を判定するためのシステムであって、
動脈血酸素飽和度を継続的に測定し、
前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定し、
運動負荷の大きさを示す情報を取得し、
前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定し、
前記低下関連指標は、動脈血酸素飽和度の低下が開始してから負荷時の定常状態になるまでの動脈血酸素飽和度の時間積分に基づく低下積分値を含み、
前記低下関連指標を決定することは、前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の低下積分値を決定すること、を含み、
前記判定することは、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下積分値に基づいて、呼吸・循環器疾患の進行度を判定すること、を含む、
ことを特徴とするシステム。
【請求項14】
疾患の進行度を判定するためのシステムであって、
動脈血酸素飽和度を継続的に測定し、
前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定し、
運動負荷の大きさを示す情報を取得し、
前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定し、
前記低下関連指標は、運動による負荷状態が開始してから動脈血酸素飽和度の低下が開始するまでの低下開始所要時間を含み、
前記低下関連指標を決定することは、
運動による負荷状態が開始したタイミングを示す情報を取得することと、
前記負荷状態が開始したタイミング及び前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の低下開始所要時間を決定することと、
を含み、
前記判定することは、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下開始所要時間に基づいて、疾患の進行度を判定すること、を含む、
ことを特徴とするシステム。
【請求項15】
疾患の進行度を判定するためのシステムであって、
動脈血酸素飽和度を継続的に測定し、
前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定し、
運動負荷の大きさを示す情報を取得し、
前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定し、
前記低下関連指標は、動脈血酸素飽和度の低下が開始した後、定常状態となった際の動脈血酸素飽和度である負荷時定常飽和度を含み、
前記低下関連指標を決定することは、前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、負荷時定常飽和度を決定することを含み、
前記判定することは、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された負荷時定常飽和度に基づいて、疾患の進行度を判定すること、を含む、
ことを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は疾患の進行度を判定するための装置、方法、プログラム及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
診療現場では様々な呼吸器・循環器関連疾患の治療を行っているが(先行文献1)、間質性肺炎やウィルス性肺炎やCOPDなど呼吸器疾患は、病院で診断後に内服処方で在宅で経過を見る中で一部急激増悪してしまう事例がある。現状では、患者が咳、痰、呼吸苦などの自覚症状の悪化から病院受診し、病院でSpO2/Xp/CT/採血などの診察を経て、そうした増悪を診断し、入院による治療強化や場合によっては重症化し、人工呼吸器管理など集中治療が必要となることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-127946号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした増悪を初期の段階で見つけ出し早期の追加治療を行うことで、入院加療や人工呼吸器管理を必要とせず、致死率の改善にも寄与することが可能であると考えられるが、医師及び患者は、増悪症状として咳・痰・呼吸苦などの自覚症状悪化前に早期に増悪の兆候を見つけ出すことができないため、疾患が進行し深刻な自覚症状が発現するまで病院での受診に至らない場合があるという課題がある。
【0005】
本発明は、疾患の進行度を判定するための装置、システム、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、以下のような特徴を有している。すなわち、本発明の一実施態様における装置は、疾患の進行度を判定するための装置であって、継続的に測定された動脈血酸素飽和度を取得し、前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定し、運動負荷の大きさを示す情報を取得し、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定する。
【0007】
また、前記低下関連指標は、動脈血酸素飽和度の低下が開始してから負荷時の定常状態になるまでの動脈血酸素飽和度の時間積分に基づく低下積分値を含み、前記低下関連指標を決定することは、前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の低下積分値を決定すること、を含み、前記判定することは、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下積分値に基づいて、呼吸・循環器疾患の進行度を判定すること、を含んでもよい。
【0008】
前記判定することは、前記運動負荷の大きさを示す情報に基づいて、低下積分境界閾値及び当該低下積分境界閾値より小さい低下積分増悪閾値を決定することと、前記決定された低下積分値が、前記低下積分境界閾値以下であり低下積分増悪閾値より大きい場合は境界状態と判定し、前記低下積分増悪閾値以下である場合は増悪状態と判定することと、を含んでもよい。
【0009】
前記装置は、前記判定することにおいて境界状態と判定された後、新たに測定された動脈血酸素飽和度を取得し、当該取得された動脈血酸素飽和度に基づいて前記判定することを再実行し、境界状態と判定されることが所定回数以上繰り返された場合、増悪状態と判定するようにしてもよい。
【0010】
前記低下関連指標は、運動による負荷状態が開始してから動脈血酸素飽和度の低下が開始するまでの低下開始所要時間を含み、前記低下関連指標を決定することは、運動による負荷状態が開始したタイミングを示す情報を取得することと、前記負荷状態が開始したタイミング及び前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の低下開始所要時間を決定することと、を含み、前記判定することは、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下開始所要時間に基づいて、疾患の進行度を判定すること、を含んでもよい。
【0011】
前記低下関連指標は、動脈血酸素飽和度の低下が開始した後、定常状態となった際の動脈血酸素飽和度である負荷時定常飽和度を含み、前記低下関連指標を決定することは、前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、負荷時定常飽和度を決定することを含み、前記判定することは、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された負荷時定常飽和度に基づいて、疾患の進行度を判定すること、を含んでもよい。
【0012】
前記装置は、前記判定された呼吸器疾患の進行度に基づいて警告情報を提示してもよい。
【0013】
前記装置は、動脈血酸素飽和度を継続的に測定して取得してもよい。
【0014】
前記装置は、ユーザの身体の動きを検出して運動負荷の大きさを示す情報を生成して取得してもよい。
【0015】
本発明の一実施態様における方法は、疾患の進行度を判定するための方法であって、コンピュータに、継続的に測定された動脈血酸素飽和度を取得する段階と、前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定する段階と、運動負荷の大きさを示す情報を取得する段階と、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定する段階と、を実行させる。
【0016】
本発明の一実施態様におけるプログラムは、前記方法をコンピュータに実行させるためのプログラムとすることができる。
【0017】
本発明の一実施態様におけるシステムは、疾患の進行度を判定するためのシステムであって、動脈血酸素飽和度を継続的に測定し、前記継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定し、運動負荷の大きさを示す情報を取得し、前記運動負荷の大きさを示す情報及び前記決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定する。
【発明の効果】
【0018】
本発明を用いることにより、疾患の進行度を判定するための装置、システム、方法及びプログラムを提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るシステムの構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る動脈血酸素飽和度測定器及びユーザ装置のハードウェア構成図である。
図3】本発明の一実施形態に係るフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態に係る基準指標の動脈血酸素飽和度の時間推移を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る判定補正のフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態に係る基準指標の低下積分値を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る低下積分値を用いた場合のフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態に係る判定対象の低下積分値を示す図である。
図9】本発明の一実施形態に係る低下開始所要時間を用いた場合のフローチャートである。
図10】本発明の一実施形態に係る低下開始所要時間を示す図である。
図11】本発明の一実施形態に係る負荷時定常飽和度を用いた場合のフローチャートである。
図12】本発明の一実施形態に係る負荷時定常飽和度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明の一つの実施形態におけるシステム構成図を示す。システム100は、肺炎、COPD、慢性呼吸不全及び慢性心不全など循環呼吸動態異常で低酸素血症を引き起こす呼吸器疾患または循環器疾患(呼吸・循環器疾患)といった疾患の進行度を判定するために使用されるものであり、動脈血酸素飽和度測定器101及び被測定者であるユーザが使用するユーザ装置102を備える。動脈血酸素飽和度測定器101とユーザ装置102とは有線通信または無線通信によって接続される。
【0021】
図2は動脈血酸素飽和度測定器101及びユーザ装置102のハードウェア構成図の一例を示す。本実施形態において、動脈血酸素飽和度測定器101及びユーザ装置102は、処理装置201、251、出力装置202、252、入力装置203、253、記憶装置204、254及び通信装置205、255をそれぞれ備える電子装置である。動脈血酸素飽和度測定器101は動脈血酸素飽和度測定装置207及び身体活動センサ208を備える。これらの各構成装置はバス200、250によって接続されるが、それぞれが必要に応じて個別に接続される形態であってもかまわない。記憶装置204、254には、プログラム206、256が記憶される。プログラムはアプリと呼ぶことがある。
【0022】
処理装置201、251の各々は、プログラム206、256、入力装置203、253からの入力データまたは通信装置205、255から受信したデータ等に基づいて各種の処理を行う。処理装置201、251、動脈血酸素飽和度測定器101、ユーザ装置102の各々が備える各装置を制御するプロセッサを備えており、プロセッサが含むレジスタや記憶装置204、254をワーク領域として各種処理を行う。
【0023】
出力装置202、252は、処理装置201、251の制御に従って、画面の表示や音声を出力する。入力装置203、253は、キーボード、タッチパネル、タッチパッド、入力ボタン等のようにユーザからの入力を受け付ける機能を有するものである。
【0024】
記憶装置204、254は、メインメモリ、バッファメモリ及びストレージを含み、揮発性メモリであるRAM及び不揮発性メモリであるeMMC、UFS、SSDのようなフラッシュメモリを用いた記憶装置及び磁気記憶装置等の一般的なコンピュータが備える記憶装置である。記憶装置204、254は、外部メモリを含むこともできる。通信装置205、255は、イーサネット(登録商標)ケーブル等を用いた有線通信、Bluetooth(登録商標)及び無線LAN等の無線通信を行い、動脈血酸素飽和度測定器101とユーザ装置102との間で通信を行うことを可能とする。
【0025】
動脈血酸素飽和度測定装置207は、本実施形態においては経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定するパルスオキシメータとするが、ユーザの動脈血酸素飽和度を測定するものであればどのようなものであってもかまわない。
【0026】
身体活動センサ208は、ジャイロセンサ、加速度センサ、方位センサ及びGPSセンサのうちの少なくとも1つを用いて、ユーザの身体の動き検出して、ユーザの身体活動の状態を示す情報を生成するものである。ここでは動脈血酸素飽和度測定器101はユーザに装着可能であり、運動をしながらSpO2の測定及びユーザの身体活動の状態の測定を行うことが可能とする。
【0027】
ユーザの身体活動の状態を示す身体活動情報は、ユーザの身体の動きを示す情報を時刻情報とともに示す情報を含む。したがって、身体活動情報は、ユーザが運動を開始したタイミングを示し、さらに、運動負荷の大きさを示すことができる。ここでは、身体活動センサ208が、検出されたユーザの身体の動きに基づいて、時刻情報に対応付けられた運動負荷の大きさとして運動強度(METs)を推定するものとする。例えば、(i)歩行、(ii)自転車、早歩き、(iii)階段上り、ジョギング、(iv)ランニング、重い荷物運びのいずれの状態であるかを推定し、各推定された身体活動状態に基づいて(i)歩行=3METs、(ii)自転車、早歩き=4.5METs、(iii)階段上り、ジョギング=6METs、(iv)ランニング、重い荷物運び=8METSと運動負荷を推定するものとする。
【0028】
ユーザの身体の動きを検出して運動強度を推定する手法は一般的なものを用いることができる。このような離散的な運動負荷の値ではなく、身体活動情報に基づいて連続的な運動負荷の値を推定してもかまわない。また、運動負荷の大きさは運動強度に限定されるものではなく、運動負荷の大きさを示すことができる指標であればどのようなものであってもかまわない。
【0029】
本実施形態においては身体活動センサ208が生成した、時刻情報に対応付けられた運動負荷を含む身体活動情報をユーザ装置102へ送信するものとするが、身体活動センサ208は検出されたユーザの身体の動きを示す情報を時刻情報とともにユーザ装置102へ送信し、ユーザ装置102が受信した情報に基づいて運動の開始タイミング及び運動負荷の大きさを決定するようにしてもよい。
【0030】
さらに、動脈血酸素飽和度測定器101は身体活動センサ208を含まない構成とすることもできる。この場合、ユーザが動脈血酸素飽和度測定器101またはユーザ装置102のユーザインタフェースを介して、身体活動を開始した時刻及び運動負荷を入力することで、ユーザ装置102が身体活動を開始したタイミング及び運動負荷の大きさを示す情報を取得することができる。また、運動負荷については予め定められた運動負荷をユーザ装置102に記憶して、これを用いるようにしてもよい。
【0031】
本実施形態においては、図2に記載された処理装置において各プログラムが実行され、各ハードウェアと協働して動作することにより、以下に説明する機能が実行されるが、各機能を実現するための電子回路等を構成することによりハードウェアによっても実現できる。
【0032】
本実施形態において動脈血酸素飽和度測定器101は、例えば身体活動センサを含むスマートウォッチとするが、身体活動情報は前述のようなユーザによる手動入力し、SpO2の測定のみを行うパルスオキシメータとしてもよい。ユーザ装置102はスマートホンとするが、デスクトップコンピュータやノートパソコンであってもよいし、携帯型情報端末、携帯電話、タブレット端末であってもよい。動脈血酸素飽和度測定器101とユーザ装置102とはBluetooth(登録商標)によって無線接続されるものとする。
【0033】
次に、図3を参照しながら、本実施形態におけるシステムの動作について説明する。ユーザは、基準指標とするためのSpO2の測定を行う。例えば、呼吸・循環器疾患を患ったユーザは、医師の診察を受け、その時点においては症状が安定した状態であるため、自宅療養を行うものと判断される。そして、医師の指示により、診察時に、動脈血酸素飽和度測定器101であるスマートウォッチを装着して、所定の時間(例えば30分間)の歩行を行い、その間の身体活動情報及びSpO2を継続的に測定する。さらに、ユーザのスマートホン102に本発明を実施するための呼吸・循環器疾患進行度判定アプリをインストールし、測定されたSpO2及び身体活動情報をスマートウォッチより受信し、測定されたSpO2を身体活動情報が示す運動強度のための基準指標として記憶する(S301)。
【0034】
医師の診断時に測定されたSpO2は必ずしも健常状態の測定値ではないが、医師によって安定状態と判定されたときの測定値であるから、これを基準として用いることができる。医師の診察時に測定することに代えて、普段からパルスオキシメータを備えるスマートウォッチ101を装着して使用し、その間に測定された運動強度及びSpO2を基準指標として用いることもできる。通常の生活から取得された測定値は健常状態における測定値であると考えられるため、基準指標として用いることができる。
【0035】
基準指標となるデータの一例を表1及び図4に示す。
【表1】
【0036】
表1及び図4は、パルスオキシメータを備えるスマートウォッチを装着して、30分間の歩行を行い、その間に測定されたSpO2及び運動強度を示している。12:00:00にMETsが1(安静)から3(歩行)に変化したから、歩行を開始したことが示されている。そして、100%であったSpO2が歩行による運動負荷により12:10:00に99%に低下し、12:19:00に97%に低下し、97%にて定常状態となったことが示されている。負荷時定常状態の動脈血酸素飽和度を負荷時定常飽和度ということとする。
【0037】
定常状態と判定するために、所定期間のSpO2の変動を監視し、所定割合以上の変動がない状態が、一定期間以上継続した場合に定常状態と判定し、その一定期間のSpO2の平均値を負荷時定常飽和度としてもよい。ここでは、1分間の平均値に対する変動率が5%以内(例えば平均値が97%であり変動幅が96.515~97.485%以内)の状態が10分間継続した場合に定常状態とし、その10分間の平均値を負荷時定常飽和度とする。その他の基準により定常状態と判定されたときのSpO2を負荷時定常飽和度としてもよい。
【0038】
その後、スマートウォッチ101を用いて、呼吸・循環器疾患進行度判定のためのSpO2及び身体活動情報の継続的な測定を開始する(S302)。継続的な測定は、動脈血酸素飽和度測定器101としてのスマートウォッチを装着している間は常に測定するようにしてもよいし、運動を開始する直前に動脈血酸素飽和度測定器101を装着して、手動にて開始してもよい。例えば、一日に数回、決まった時間に歩行を行うようにし、その歩行開始の直前に継続測定を開始してもよい。
【0039】
スマートウォッチ101は測定されたSpO2を所定間隔毎に送信し、スマートホンであるユーザ装置102はこれを受信して、取得する(S304)。また、スマートウォッチ101は測定された運動強度を示す情報を含む身体活動情報も所定間隔毎に送信し、スマートホンであるユーザ装置102はこれを受信して、取得する(S306)。運動強度を示す情報及びSpO2は時刻情報が関連付けられ、いつの推定値ないし測定値であるかを示しているものとする。SpO2の測定値及び身体活動情報は一つの情報としてまとめて送受信されてもかまわない。
【0040】
ユーザ装置102は、取得されたSpO2測定値に基づいて、測定されたSpO2の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定し、運動負荷の大きさを示す情報及び決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定する(S308)。
【0041】
SpO2の運動負荷による低下に関連する低下関連指標は、運動負荷によってSpO2が低下する際の低下の仕方や程度等の低下の態様を示す指標であり、例えば、(i)動脈血酸素飽和度の低下が開始してから負荷時の定常状態になるまでの動脈血酸素飽和度の時間積分に基づいて決定される低下積分値、(ii)運動による負荷状態が開始してから動脈血酸素飽和度の低下が開始するまでの低下開始所要時間及び(iii)動脈血酸素飽和度の低下が開始した後、定常状態となった際の動脈血酸素飽和度である負荷時定常飽和度とすることができる。
【0042】
本発明は、1つの低下関連指標のみを用いて実施することもできるし、2以上の低下関連指標を用いても実施可能である。例えば、低下関連指標として低下積分値、低下開始所要時間及び負荷時定常飽和度の3つについて並列ないし直列に処理を実行し、それぞれの判定結果のうちもっとも深刻な判定結果を最終的な判定結果として決定することができる。
【0043】
次に、ユーザ装置102は、以前の判定結果の履歴に基づいて、S308における判定結果を補正する(S310)。例えば、継続的に境界状態と判定された場合には、増悪状態と判定を補正することができる。判定結果の履歴に基づいて判定結果を補正するために以前の判定結果を記憶装置254に記憶する。ここでは、記憶される判定結果は補正後の判定結果とする。
【0044】
図5に示した処理フローに基づいて判定結果の補正処理の一例について説明する。本実施形態では、判定される状態は、安定状態、境界状態及び増悪状態の3つの状態とするが、安定状態及び増悪状態の2つだけとしてもよいし、4つ以上の状態としてもよい。安定状態は、呼吸器疾患または循環器疾患の悪化なく落ち着いている状態であり、境界状態は、呼吸器疾患または循環器疾患悪化の可能性を否定できないが悪化しているとまではいえない状態であり、増悪状態は、呼吸器疾患または循環器疾患が悪化している可能性が高く、医療機関での精査加療を要する状態である。
【0045】
S308における判定結果が境界状態であるか否かを判定する(S501)。境界状態であった場合には、一回前の判定結果が増悪状態であったか否かを判定する(S502)。前の判定結果が増悪状態であった場合には、今回の判定結果が境界条件であったとしても、判定結果を増悪状態に補正する(S504)。増悪状態は医師による緊急の診察が必要な深刻な状態であり、一度でも増悪状態と判定された場合には、医師による診断なしに増悪状態が解消したと判定されることは好ましくないからである。
【0046】
前回の状態が増悪状態でない場合には、以前の判定結果の履歴に基づいて、所定回数以上境界状態が維持されているか否かを判定する(S506)。所定回数以上境界状態が維持されている場合には、判定結果を増悪状態に補正する(S504)。所定回数以上境界状態が維持されていない場合には、境界状態という判定結果を維持する(S508)。
【0047】
S501において、判定結果が境界条件ではない場合、判定結果の状態が維持される(S508)。すなわち、安定状態または増悪状態と判定された場合には、その安定状態または増悪状態との判定結果の状態を維持し、判定結果の補正は行わない。
【0048】
本実施形態においては、以前の判定結果の履歴に基づいて、S308における判定結果を補正するものとしたが、履歴に基づく補正を行わず、判定結果をそのまま用いてもかまわない。
【0049】
次に、ユーザ装置102は、判定結果が境界状態または増悪状態であるか否かを判定する(S312)。境界状態または増悪状態である場合には、判定結果に基づいた警告情報を提示する(S314)。例えば、警告情報をユーザ装置102の出力装置252であるディスプレイに警告情報を表示したり、音声で警告音を出力したり、警告情報を出力することができる。
【0050】
例えば、境界状態であると判定されたときには「負荷時の血中酸素飽和度の悪化を認めますが、そこまで程度は強くなく、肺炎増悪を積極的に疑う状態ではありません。データを今後注意深く測定し、肺炎増悪の兆候があれば、お伝えします。」との警告情報をユーザ装置102の出力装置としてのディスプレイに表示し、増悪状態であると判定されたときには「負荷時の血中酸素飽和度の悪化を認め、肺炎の増悪の可能性を示唆されます。病院を受診し、医師の診察を受けてください。」と表示することができる。また、例えば、医師が使用する電子装置(図示せず)に警告情報をインターネットを介して送信し、医師に対して警告情報を提示してもよい。
【0051】
警告情報の提示が終了するとS304へ戻り、SpO2測定値を新たに取得し、S306~S314までの処理を繰り返し実行する。動脈血酸素飽和度測定器101はSpO2及び身体活動情報の測定をS304~S314の間も継続的に行っている。
【0052】
増悪状態と判定された場合には、警告情報を提示した後、S304へ戻らずに進行度判定処理を終了してもよい。S312において境界状態又は増悪状態ではないと判定された場合、すなわち、安定状態と判定された場合には、警告情報が出されることなく、S304へ戻る。安定状態と判定された場合は安定状態であることを伝える情報をユーザに提示してもよい。
【0053】
次に、低下関連指標として(i)低下積分値、(ii)低下開始所要時間及び(iii)負荷時定常飽和度を用いた場合の低下関連指標決定及び進行度判定(S308)の具体的な処理についてそれぞれ説明する。
【0054】
[低下積分値]
まず、低下関連指標として低下積分値を用いた場合の実施形態を説明する。前述のとおり、低下積分値は、動脈血酸素飽和度の低下が開始してから負荷時の定常状態になるまでの動脈血酸素飽和度の時間積分に基づいて決定される。
【0055】
ここでは、低下積分値Iは、数1に示すように、動脈血酸素飽和度の低下が開始した時点(Ts)から負荷時の定常状態になった時点(TK)までの動脈血酸素飽和度(SpO2(t))と負荷時定常飽和度(K)の差分の時間積分値とする。例えば、図4に示した基準指標の低下積分値は、図6の部分Aの面積である。負荷時定常飽和度(K)との差分とせずに、動脈血酸素飽和度の低下が開始した時点(Ts)から負荷時の定常状態になった時点(TK)までの動脈血酸素飽和度(SpO2(t))の時間積分値としてもよい。
【0056】
【数1】
【0057】
図3に示した進行度判定処理フローのうち、低下関連指標決定及び進行度判定(S308)について、低下関連指標として低下積分値を用いた場合の具体的な処理フローを図7に示す。
【0058】
まず、S304においてこれまでに取得されたSpO2測定値に基づいてSpO2の低下が開始したか否かを判定する(S701)。開始していなければ、低下関連指標決定及び進行度判定処理を終了し、S304へ戻る。開始していれば、SpO2が負荷時定常状態となっているか否かを決定する(S702)。定常状態となっていなければ、低下関連指標決定及び進行度判定処理を終了し、S304へ戻る。
【0059】
補正処理(S310)は判定結果がS308により出力されなければ実行されないようにしてもよいし、判定結果は境界状態ではない(S501)と判断し、判定結果の状態を維持(S508)として、処理を終了してもよい。その後、S312においては境界状態でも増悪状態でもないからS304へ戻る。
【0060】
定常状態となっていれば、低下積分値を決定する(S704)。より具体的には、取得されたSpO2測定値に基づいてSpO2の低下が開始したタイミング(Ts)、SpO2が負荷時定常状態となったタイミング(TK)及び負荷時定常飽和度(K)を決定し、前述の数式1に従って低下積分値を算出する。
【0061】
疾患の進行度の判定対象となっているSpO2測定値及び運動負荷の一例を表2及び図8に示す。図8において線801は基準指標のSpO2の遷移を示し、線802は判定対象となっている測定されたSpO2の遷移を示している。
【0062】
【表2】
【0063】
判定対象の測定値においては、12:00:00から歩行が開始され、12:09:30にSpO2が99%となり、12:15:15にSpO2が定常状態(96%)となったことがわかる。したがって、低下開始タイミング(Ts)は12:09:30であり、負荷定常状態となったタイミング(TK)は12:15:15であり、負荷時定常飽和度(K)は96%である。このときの測定されたSpO2の低下積分値は図8に示された部分Bの面積である。
【0064】
なお、低下開始タイミングは、本実施形態においては、100%から低下した最初のタイミングとしたが100%から低下したタイミングの一つ前のタイミング(12:09:15)を開始点としてもよいし、100%から所定値以上低下したタイミングとしてもよい。動脈血酸素飽和度が低下したことを示すタイミングであればどのようなタイミングであってもよい。
【0065】
次に、ユーザ装置102は、低下積分閾値を決定する(S706)。低下積分閾値は判定対象となっている測定されたSpO2が安定状態、境界状態及び増悪状態と判定されるための閾値である。ここでは低下積分境界閾値及び当該低下積分境界閾値より小さい低下積分増悪閾値を決定する。決定された低下積分値が、低下積分境界閾値以上である場合は安定状態と判定し、低下積分境界閾値より小さく低下積分増悪閾値以上である場合は境界状態と判定し、低下積分増悪閾値より小さい場合は増悪状態と判定する。
【0066】
低下積分境界閾値及び低下積分増悪閾値は運動強度の関数として決定することができ、本実施形態において、以下の数2及び3により算出するものとするが、これに限定されるものではない。負荷時METsは、判定対象のMETsである。
〔数2〕
低下積分境界閾値=基準低下積分値×0.85
〔数3〕
低下積分増悪閾値=基準低下積分値×(100-(15+2log2(負荷時METs)))/100
【0067】
基準低下積分値は基準指標となる低下積分値であり、運動負荷に基づいて決定することができる。本実施形態では、判定対象における運動負荷も歩行(3METs)であり、S301において医師の診察時に実際に歩行を行って測定した測定値に基づいて算出された低下積分値を基準低下積分値として用いる。ジョギング等についても実測を行い運動負荷に対応する基準指標を記憶し、判定対象の運動負荷に応じて基準指標を選択してもよい。ユーザによる実測値によらず、ユーザの性別、年齢、体重等のデータに基づいて、基準低下積分値を決定してもよいし、全ユーザに対して予め決められた基準低下積分値を用いてもよい。
【0068】
また、一つの運動負荷に対して決められた基準低下積分値に基づく演算によって他の運動負荷についての基準低下積分値を算出してもよい。例えば、以下に示す数4に基づいて算出することができる。
〔数4〕
基準低下積分値(負荷時METs)=
基準低下積分値(基準METs)×log2(基準METs)/log2(負荷時METs)
【0069】
基準低下積分値(基準METs)は例えば前述のように実際に歩行を行って決定された基準低下積分値であり、基準METsはその際の運動強度、ここでは3METsである。負荷時METsは、判定対象となる測定された動脈血酸素飽和度の測定時のMETsである。歩行時の基準低下積分値が決定されれば、ジョギングなどその他の運動負荷に対する基準低下積分値を算出し、これに基づいて進行度判定を行うことができる。
【0070】
ここでは負荷時METs=3であるから、表1に示した歩行時の測定値を基準指標とする。基準指標低下積分値(A)=660、負荷時METs=3であるから、数2及び3に基づいて、低下積分境界閾値=561、低下積分増悪閾値=540.08と算出され、判定対象低下積分値(B)=525と算出される。
【0071】
なお、判定対象の測定値がジョギング時の測定データであれば、数4、基準低下積分値(A)及びジョギングの運動負荷(6METs)に基づいて基準低下積分値(6METs)=404.68と算出することができる。
【0072】
S704において決定された低下積分値が低下積分境界閾値以上であるか否か判定し(S708)、真である場合には、安定状態であると判定し(S712)、偽である場合には、さらに低下積分増悪閾値以上であるか否かを判定する(S710)。真である場合には境界状態と判定し(S714)、偽である場合は増悪状態と判定する(S716)。本実施形態においては判定対象低下積分値(B)は低下積分境界閾値以下であり、低下積分増悪閾値より小さいから、増悪状態と判定される。
【0073】
その後、S310において履歴情報に基づいて再判定が行われる。低下積分値による疾患進行度の判定は、運動負荷による動脈血酸素飽和度の低下から負荷時定常状態に至るまでの一回の運動に対して一回のみ行われる。一回判定が行われるとその際の判定結果をユーザ装置102の記憶装置254に記憶する。身体活動情報及び動脈血酸素飽和度の測定値に基づいて、一度運動が終了して動脈血酸素飽和度が安静時定常状態に至ったと判定されるまで進行度判定処理を行わず、安静時定常状態に至ったと判定された後、再度運動を開始して、低下積分値による疾患進行度の判定を行うようにすることができる。これを繰り返した場合に、所定回数、例えば2回連続で、境界状態と判定された場合、増悪状態と判定される。
【0074】
判定対象の低下積分値が基準低下積分値と比較して低下しているということは、運動負荷による動脈血酸素飽和度が基準指標に比べて短時間で低下していることを示しており、疾患によるガス交換予備機能の低下を検出することができ、その低下の程度に基づいて疾患の進行度を判定することができる。
【0075】
[低下開始所要時間]
次に、低下関連指標として低下開始所要時間を用いた場合の実施形態について説明する。低下積分値の実施例と異なる部分について詳細に説明し、同様の部分については説明を省略する。前述のとおり、低下開始所要時間は、運動による負荷状態が開始してから動脈血酸素飽和度の低下が開始するまでの所要時間である。
【0076】
図3に示した進行度判定処理フローのうち、低下関連指標決定及び進行度判定(S308)について、低下関連指標として低下開始所要時間を用いた場合の具体的な処理フローを図9に示す。
【0077】
まず、S304においてこれまでに取得されたSpO2測定値に基づいてSpO2の低下が開始したか否かを判定する(S901)。開始していなければ、低下関連指標決定及び進行度判定処理を終了し、S304へ戻る。開始していれば、SpO2の低下開始所要時間を決定する(S902)。
【0078】
SpO2の低下開始所要時間は、運動による負荷状態が開始したタイミングと測定されたSpO2の低下が開始したタイミングを特定することにより決定することができる。すなわち、SpO2の低下が開始した時刻から運動による負荷状態が開始した時刻を減算することにより、低下開始所要時間を算出することができる。
【0079】
判定対象となっている取得されたSpO2の例を図10に示す。図10において線1001は基準指標のSpO2の遷移を示し、線1002、1003、1004は判定対象となっている測定されたSpO2の遷移を示している。
【0080】
図10に示されたSpO2の各測定値によれば基準指標はTs0(12:10:00)の時点で、判定対象1はTs1(12:09:00)の時点で、判定対象2はTs2(12:08:15)の時点で、判定対象3はTs3(12:07:30)の時点でそれぞれ低下が開始している。
【0081】
本実施形態においては、S306において取得される身体活動情報は、表1及び2に示されるように運動強度の情報が時刻情報に対応付けたデータとして取得されるものとし、ここでは基準指標、判定対象1~3のそれぞれの身体活動情報はいずれも12:00:00から歩行(3METs)を開始したことを示しているものとする。したがって、基準指標、判定対象1~3のそれぞれの低下開始所要時間はt0(10:00)、t1(9:00)、t2(8:15)及びt3(7:30)である。
【0082】
次に、低下開始所要時間閾値を決定する(S904)。低下開始所要時間閾値は判定対象となっている測定されたSpO2が安定状態、境界状態及び増悪状態と判定されるための閾値である。ここでは所要時間境界閾値及び当該所要時間境界閾値より小さい所要時間増悪閾値を決定する。決定された低下開始所要時間が、所要時間境界閾値以上である場合は安定状態と判定し、所要時間境界閾値より小さく所要時間増悪閾値以上である場合は境界状態と判定し、所要時間増悪閾値より小さい場合は増悪状態と判定する。
【0083】
低下開始所要時間閾値は運動強度の関数として決定することができ、本実施形態において、以下の数5及び6により算出するものとするが、これに限定されるものではない。
〔数5〕
所要時間境界閾値=基準所要時間×0.85
〔数6〕
所要時間増悪閾値=基準所要時間×(100-(15+2log2(負荷時METs)))/100
【0084】
基準所要時間は運動負荷に基づいて決定することができる。本実施形態では前述のとおり診断時に行った歩行による実測に基づいて決定された低下開始所要時間を歩行時の基準所要時間とし、判定対象における運動負荷も歩行(3METs)であるから、歩行時の基準所要時間を用いる。ジョギング等についても実測を行い運動負荷に対応する基準指標を記憶し、判定対象の運動負荷に応じて基準所要時間を選択してもよい。
【0085】
一つの基準指標、例えば、歩行時の基準所要時間に基づく演算によって他の運動負荷についての基準所要時間を算出してもよい。例えば、以下に示す数7に基づいて算出することができる。
〔数7〕
基準所要時間(負荷時METs)=
基準所要時間(基準METs)+log3(基準METs/負荷時METs)
【0086】
ここでは診断時の実測値に基づいて基準所要時間=10:00とし、基準指標及び判定対象いずれもMETs=3であるから、数5及び6に基づいて、所要時間境界閾値tt1=8:30、所要時間増悪閾値tt2=8:11と算出される。
【0087】
S902において決定された低下開始所要時間が所要時間境界閾値以上であるか否か判定し(S906)、真である場合には、安定状態であると判定し(S910)、偽である場合には、さらに所要時間増悪閾値以上であるか否かを判定する(S908)。真である場合には境界状態と判定し(S912)、偽である場合は増悪状態と判定する(S914)。
【0088】
ここでは、判定対象1は、低下開始所要時間t1=9:00であり、所要時間境界閾値tt1=8:30以上であるから、安定状態と判定される。判定対象2は、低下開始所要時間t2=8:15であり、所要時間境界閾値tt1=8:30より小さく、所要時間増悪閾値tt2=8:11以上であるから、境界状態と判定される。判定対象3は、低下開始所要時間t3=7:30であり、所要時間増悪閾値より小さいから、増悪状態と判定される。
【0089】
判定対象の低下開始所用時間が基準開始所用時間と比較して短くなっているということは、疾患によるガス交換予備機能が低下していることを意味し、その短くなっている程度に基づいて疾患の進行度を判定することができる。
【0090】
[負荷時定常飽和度]
次に、低下関連指標として負荷時定常飽和度を用いた場合の実施形態について説明する。低下積分値及び低下開始所要時間の実施例と異なる部分について詳細に説明し、同様の部分については説明を省略する。前述のとおり、負荷時定常飽和度は、動脈血酸素飽和度の低下が開始した後、定常状態となった際の動脈血酸素飽和度である。
【0091】
図3に示した進行度判定処理フローのうち、低下関連指標決定及び進行度判定(S308)について、低下関連指標として負荷時定常飽和度を用いた場合の具体的な処理フローを図11に示す。
【0092】
まず、S304においてこれまでに取得されたSpO2測定値に基づいてSpO2が運動負荷により低下した後、定常状態になったか否かを判定する(S1101)。定常状態となっていなければ、低下関連指標決定及び進行度判定処理を終了し、S304へ戻る。定常状態となっていれば、負荷時定常飽和度を決定する(S1102)。
【0093】
判定対象となっている取得されたSpO2測定値の例を図12に示す。図12において線1201は基準指標のSpO2の遷移を示し、線1202、1203は判定対象となっている測定されたSpO2の遷移を示している。
【0094】
図12に示されたSpO2の各測定値によれば基準指標(1201)は12:10:00で低下を開始し、12:19:00に定常状態に至った。負荷時定常飽和度は97%である。判定対象1(1202)は12:09:00に低下を開始し、12:18:30に定常状態に至り、負荷時定常飽和度は96%である。判定対象2(1203)は12:08:30に低下を開始し、12:17:00に負荷時定常状態に至り、負荷時定常飽和度は94%である。
【0095】
次に、負荷時定常閾値を決定する(S1104)。負荷時定常閾値は判定対象となっている測定されたSpO2が安定状態、境界状態及び増悪状態と判定されるための閾値である。ここでは負荷時定常境界閾値及び当該境界状閾値より小さい負荷時定常増悪閾値を決定する。決定された負荷時定常飽和度が、負荷時定常境界閾値以上である場合は安定状態と判定し、負荷時定常境界閾値より小さく負荷時定常増悪閾値以上である場合は境界状態と判定し、負荷時定常増悪閾値より小さい場合は増悪状態と判定する。
【0096】
負荷時定常閾値は運動強度の関数として決定することができ、本実施形態において、以下の数8及び9により算出するものとするが、これに限定されるものではない。
〔数8〕
負荷時定常境界閾値=基準負荷時定常飽和度×0.98
〔数9〕
負荷時定常増悪閾値=基準負荷時定常飽和度×(100-(2+log2(負荷時METs)))/100
【0097】
基準負荷時定常飽和度は運動負荷に基づいて決定することができる。本実施形態では前述のとおり診断時に行った歩行による実測に基づいて決定された負荷時定常飽和度を歩行時の基準負荷時定常飽和度とし、判定対象における運動負荷も歩行(3METs)であるから、歩行時の基準負荷時定常飽和度を用いる。ジョギング等についても実測を行い運動負荷に対応する基準指標を記憶し、判定対象の運動負荷に応じて基準負荷時定常飽和度を選択してもよい。
【0098】
また、一つの運動負荷に対して決められた基準負荷時定常飽和度に基づく演算によって他の運動負荷についての基準負荷時定情報飽和度を算出してもよい。例えば、以下に示す数10に基づいて算出することができる。
〔数10〕
基準負荷時定常飽和度(負荷時METs)=
基準負荷時定情飽和度(基準METs)+log2(基準METs/負荷時METs)
【0099】
ここでは歩行時に実測された負荷時定常飽和度を基準負荷時定常飽和度=97%とし、基準指標及び判定対象いずれもMETs=3であるから、数8及び9に基づいて、負荷時定常境界閾値=95.06%(線1204)であり、負荷時定常増悪閾値=93.42%(線1205)である。
【0100】
S1106において決定された負荷時定常飽和度が負荷時定常境界閾値以上であるか否か判定し、真である場合には、安定状態であると判定し(S1110)、偽である場合には、さらに負荷時定常増悪閾値以上であるか否かを判定する(S1108)。真である場合には境界状態と判定し(S1112)、偽である場合は増悪状態と判定する(S1114)。
【0101】
判定対象1は負荷時定常飽和度が96%であるから、負荷時定常境界閾値(95.06%)以上であり、安定状態と判定され、判定対象2は負荷時定常飽和度が94%であるから、負荷時定常境界閾値(95.06%)より小さく、負荷時定常増悪閾値(93.42%)以上であるから、境界状態であると判定される。
【0102】
判定対象の負荷時定常飽和度が基準負荷時定常飽和度と比較して低下しているということは、疾患によるガス交換予備機能の低下していることを意味し、その低下の程度に基づいて疾患の進行度を判定することができる。
【0103】
呼吸器疾患または循環器疾患といった疾患が進行すると運動により増加する酸素需要に対しての、ユーザ(被測定者)のガス交換の予備能が低下する。本発明は、動脈血酸素飽和度の運動負荷による低下関連指標に基づいて、ガス交換予備機能の低下を検出することで疾患の進行度を判定することを可能とする。
【0104】
運動負荷の大きさによって動脈血酸素飽和度の低下の仕方、程度が変動する。前述の本発明の実施形態においては、継続的に測定された動脈血酸素飽和度に基づいて、測定された動脈血酸素飽和度の、運動負荷による低下に関連する低下関連指標を決定し、運動負荷の大きさを示す情報を取得し、運動負荷の大きさを示す情報及び決定された低下関連指標に基づいて、疾患の進行度を判定する。運動負荷の大きさを考慮することにより、運動負荷によって低下する動脈血酸素飽和度に関連する低下関連指標に基づいて疾患の進行度を適切に判定することが可能となる。
【0105】
前述の各実施形態においては、閾値の決定は判定処理(S308)において実行するものとしたが、基準指標を取得した際(S301)に決定してもよい。例えば、歩行時に判定を行うことが決まっている場合には、運動負荷の大きさは決まっているから、基準指標を取得した段階で各閾値を決定することができる。
【0106】
前述の実施形態においては、動脈血酸素飽和度測定器101とユーザ装置102という2つの装置を用いて本発明を実現するものとしたが、一つの装置ですべての機能を実現するようにしてもよい。例えば、ユーザが装着可能なユーザ装置102が動脈血酸素飽和度測定装置207及び身体活動センサ208を備え、前述の動脈血酸素飽和度測定器101の機能を実施することも可能である。また、3つ以上の装置が前述の機能を分担して実施することによって実現することも可能である。
【0107】
以上に説明してきた各実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0108】
100 :システム
101 :動脈血酸素飽和度測定器
102 :ユーザ装置
200 :バス
201 :処理装置
202 :出力装置
203 :入力装置
204 :記憶装置
205 :通信装置
206 :プログラム
207 :動脈血酸素飽和度測定装置
208 :身体活動センサ
250 :バス
251 :処理装置
252 :出力装置
253 :入力装置
254 :記憶装置
255 :通信装置
256 :プログラム
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