(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】正負圧緩和装置
(51)【国際特許分類】
E03B 11/08 20060101AFI20240627BHJP
F16K 24/06 20060101ALN20240627BHJP
F16K 24/04 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
E03B11/08
F16K24/06 A
F16K24/04 E
(21)【出願番号】P 2020087717
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000157212
【氏名又は名称】丸一株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永原 徹
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-296979(JP,A)
【文献】特開2015-021466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03B 1/00-11/16
E03C 1/12- 1/33
F16K 21/00-24/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備機器内外を連通する通気孔と、
前記通気孔の周囲に設けられた弁座と、
前記弁座に当接することで前記通気孔を常時閉塞する弁体と、
を備えた正負圧緩和装置であって、
前記設備機器内部が正圧又は負圧となった際に
前記弁体が水平方向にスライドし、
前記通気孔を開口
し、
前記弁座又は前記弁体の一方は、ガイド部を有し、
前記弁座又は前記弁体の他方は、ガイド受け部を有し、
前記ガイド部は、前記ガイド受け部に案内されることで前記弁体の傾きを防止し、
前記ガイド部又は前記ガイド受け部は直線形状を成し、水平面及び垂直面に対して傾斜する角度に設けられたことを特徴とする正負圧緩和装置。
【請求項2】
前記正負圧緩和装置は、
前記設備機器内部が負圧時に作動する吸気弁と、
前記設備機器内部が正圧時に作動する排気弁から成り、
前記吸気弁及び
前記排気弁は、水平方向に列設されていることを特徴とする請求項1に記載の正負圧緩和装置。
【請求項3】
前記ガイド受け部は、直線状のリブであることを特徴とする請求項
1又は請求項2に記載の正負圧緩和装置。
【請求項4】
前記弁体は、弾性体によって
前記弁座に付勢されていることを特徴とする請求項
1乃至請求項3のいずれか1つに記載の正負圧緩和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受水槽や汚水槽等の設備機器内部の圧力変動を緩和させる正負圧緩和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルやマンション等の建物への給水や汚水を貯蔵するための槽として受水槽や汚水槽が知られている。
特許文献1に記載された受水槽は、水/排水が出入りする際の内部圧力を調整するための通気管が設けられている。即ち、受水槽や汚水槽内の水位が上昇した際には内部圧力が高まり正圧となるために排気を行う必要があり、逆に、水位が下降した際には内部圧力が低下して負圧となるために吸気を行う必要がある。ここで、上記通気管は常時開放されていることから、臭気漏れや虫の侵入等の恐れを有している。そこで、平時には閉塞状態となっており、設備機器内部が正圧又は負圧となった際に起動する正負圧緩和装置を取り付けることが検討されている。
【0003】
従来から知られている正負圧緩和装置として以下のものが知られている。
特許文献2には、排水トラップの下流に正圧緩和装置と負圧緩和装置が構成されている。排水管内部の管内圧力が正圧になった際には、緩和装置の内部のジャバラ部が収縮し、管内の正圧を緩和し、また、管内圧力が負圧となった際には、負圧緩和装置の吸気弁が作動し、管内の負圧を緩和する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平5-61253号公報
【文献】特開2009-57780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献2に記載された正負圧緩和装置は、上下に動作する正圧緩和装置と負圧緩和装置が横並びとなっているため、装置が大型化してしまうという問題がある。
本発明は上記問題に鑑み、正負圧緩和装置の小型化を課題とする。
【0006】
上記課題を解決する為の請求項1に記載の本発明は、
設備機器内外を連通する通気孔と、
前記通気孔の周囲に設けられた弁座と、
前記弁座に当接することで前記通気孔を常時閉塞する弁体と、
を備えた正負圧緩和装置であって、
前記設備機器内部が正圧又は負圧となった際に前記弁体が水平方向にスライドし、前記通気孔を開口し、
前記弁座又は前記弁体の一方は、ガイド部を有し、
前記弁座又は前記弁体の他方は、ガイド受け部を有し、
前記ガイド部は、前記ガイド受け部に案内されることで前記弁体の傾きを防止し、
前記ガイド部又は前記ガイド受け部は直線形状を成し、水平面及び垂直面に対して傾斜する角度に設けられたことを特徴とする正負圧緩和装置である。
【0007】
上記課題を解決する為の請求項2に記載の本発明は、
前記正負圧緩和装置は、
前記設備機器内部が負圧時に作動する吸気弁と、
前記設備機器内部が正圧時に作動する排気弁から成り、
前記吸気弁及び前記排気弁は、水平方向に列設されていることを特徴とする請求項1に記載の正負圧緩和装置である。
尚、「列設」とは弁体の移動方向に沿って吸気弁及び排気弁が並んで配置されていることを示す表現である。これにより、弁体が進退する方向視において複数の弁体が重なるように配置される。
【0009】
上記課題を解決する為の請求項3に記載の本発明は、
前記ガイド受け部は、直線状のリブであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の正負圧緩和装置である。
【0010】
上記課題を解決する為の請求項4に記載の本発明は、
前記弁体は、弾性体によって前記弁座に付勢されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の正負圧緩和装置である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1、請求項2に記載の正負圧緩和装置は弁体が水平方向に動作し、通気孔を開口するため、上下方向に動作する弁体を取り付けた場合と比較して装置を小型化することができる。
請求項2に記載の正負圧緩和装置は吸気弁と排気弁が列設されて、弁体が進退する方向視において重なるようにいるため、弁体が進退する方向視において重ならないように弁体を配置した場合と比較して装置を小型化することができる。
請求項1、請求項3に記載の正負圧緩和装置は、弁座又は弁体の一方にガイド部、他方に斜設された直線状のガイド受け部を設け、ガイド部がガイド受け部に案内されることで、弁体が倒れなくなり、弁体の傾きを防止する。
請求項4に記載の正負圧緩和装置は弁体が弾性体によって付勢されるため、確実に弁体が弁座に当接し、通気孔を閉塞することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の排気弁、吸気弁の両方が閉塞状態の断面図である。
【
図4】実施例1の正負圧緩和装置の部材構成を示す分解図である。
【
図5】(a)取り付け筒に弁本体を取り付けた状態の断面図である。(b)
図5(a)のA矢視図である。
【
図8】正負圧緩和装置を設備機器に取り付けた状態の参考図である。
【実施例】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の正負圧緩和装置1を説明する。尚、以下に記載する説明は実施形態の理解を容易にするためのものであり、これによって発明が制限して理解されるものではない。
【0015】
実施例1の正負圧緩和装置1は、
図1乃至
図3に記載の通り、設備機器100内外への空気が連通する通気部2と、吸気弁4b及び排気弁4aを備えた取り付け筒3と、取り付け筒3を収納すると共に、設備機器100等に接続されるケーシング5と、正負圧緩和装置1全体を覆うカバー部6備えている。
【0016】
通気部2は、ケーシング5外周とカバー部6内周の間に設けられており、正負圧緩和装置1の内外に空気を通過させる。
【0017】
取り付け筒3は、
図4乃至
図6に記載の通り、下方に凸部分を有する断面視略T字形状に形成されている部材であり、この凸部分に吸気弁4b及び排気弁4aとなる逆流防止弁4を列設してなる。尚、「列設」とは後述する弁体411の開閉の際の移動方向に沿って吸気弁4b及び排気弁4aが並んで配置されているという意味であり、吸気弁4b及び排気弁4aの移動する方向視、吸気弁4b及び排気弁4aの一部又は全部が重なるように配置されていることによって、正負圧緩和装置1を小型化することが可能となっている。
また、取り付け筒3は上端部外周にケーシング5と嵌合する被嵌合部31を備えてなる。
逆流防止弁4の内、設備機器100内が正圧となった際に水平方向にスライドすることで開口し、通気孔32を通じて設備機器100内の空気を排気する逆流防止弁4が排気弁4aであり、設備機器100内が負圧となった際に水平方向にスライドすることで開口し、通気孔32を通じて設備機器100外の空気を設備機器100内に吸気する逆流防止弁4が吸気弁4bである。
図1乃至
図3においては、図面上右側が排気弁4a、左側が吸気弁4bである。
本実施例では、逆流防止弁4としては排気弁4aも吸気弁4bも同じ構造であり、設備機器100内の圧力に対して開口する方向を異なるように設けることで、それぞれ排気弁4a及び吸気弁4bとして機能するように構成されている。
以下に、排気弁4aまた吸気弁4bとなる逆流防止弁4の構成について説明する。
逆流防止弁4は、通気孔32と、通気孔32の周囲に設けられた弁座34と、該弁座34を閉塞する弁体411を備えた弁本体41と、から構成される。
取り付け筒3の凸部分において、同心円状に2か所、通気孔32が設けられている。
通気孔32の中央には、弁体411の弁軸412が取り付けられる、貫通部331を備えた取り付け部33を備え、また通気孔32の周縁には弁体411の当接部411aが当接する弁座34を備えてなる。
取り付け部33は、取り付け筒3に水平方向に列設され、弁軸412が貫通する円形の貫通部331と、貫通部331から通気孔32の内周面にかけて斜設された4つの直線状のガイド受け部332を備えてなる。尚、ここで、「斜設された直線状のガイド受け部332」とは、施工完了時、直線形状を成すガイド受け部332が設けられた方向が、
図5(b)及び
図6のように、水平面また垂直面に対して傾斜した角度に設けられている、という意味である。
ガイド受け部332は弁座34から取り付け部33にかけて斜設された直線状のリブであり、取り付け部33を通気孔32上に支持している。
弁座34は、弁体411の当接部411aが当接することで通気孔32を閉塞する通気孔32の周縁に設けられた箇所であり、排気弁4a側の弁座34は取り付け筒3の凸部分の内側に、吸気孔4b側の弁座34は取り付け筒3の凸部分の外側に、それぞれ設けられてなる。
弁本体41は、硬質素材から構成され、通気孔32を閉口する円盤状の弁体411と、弁体411から垂直方向に突出する弁軸412と、弁軸412を覆うキャップ部材413とを有している。また、弁体411を弁座34に向けて付勢する弾性体414(本実施例ではスプリング)を備えてなる。
弁体411は、その外周に、取り付け筒3の弁座34と当接する、ゴムなどの弾性体からなる当接部411aと、弁軸412が形成された面に、弁軸412を中心として、ガイド受け部332と合致するリブ片からなる直線状のガイド部411bを備えてなる。
弁軸412は弁体411の中央から垂直に突出している軸体であり、端部に溝部412aを設け、該溝部412aは、後述するキャップ部材413の爪部413aと嵌合する。
弾性体414は弾性力によって弁体411を付勢するスプリングであって、弁体411が弁座34に当接する方向に付勢することで、通気孔32を閉塞し、逆流防止弁4の開口時には弾性体414が圧縮し、通気孔32が開口する。
キャップ部材413は円筒状の部材であり、爪部413aを有し、当該爪部413aが弁軸412の溝部412aと嵌合されることで、弁本体41が取り付け部33から抜けることを防止すると共に、弾性体414を取り付け部33と弁本体41との間で作用させる部材である。
ケーシング5は円筒状の部材であり、外周にカバー部6を固定するための固定部51を備え、また内側面に取り付け筒3の被嵌合部31と嵌合する嵌合部52を備え、下方には設備機器100と接続するための接続部53を設けてなる。
カバー部6は正負圧緩和装置1の上方を覆う部材であり、被固定部51を備え、ケーシング5の外周の固定部51に固定されている。
カバー部6がケーシング5に固定されることで、カバー部6とケーシング5の間に通気部2が形成される。
【0018】
正負圧緩和装置の施工方法について説明する。
最初に、取り付け筒3に弁本体41を取り付けることで、排気弁4aまた吸気弁4bとなる逆流防止弁4を構成する方法を説明する。尚、弁本体41の取付方法は、特に分けて記載しない場合、排気弁4a側、吸気弁4b側とも同様である。
まず、当接部411aを取り付けた弁本体41の弁軸412を、取り付け部33の貫通部331に挿通する。
この時、弁体411に設けたガイド部411bを、取り付け筒3の弁座34に設けたガイド受け部332に案内されるように配置する。
弁本体41の弁軸412の周囲に弾性体414を取り付け、弁軸412の溝部412aにキャップ部材413の爪部413aを嵌合することで、弁本体41が取り付け部33から抜脱しないようにすると共に、弁本体41と取り付け部33の間に弾性体414が作用し、弁体411が弁座34側に付勢するようにすることで、逆流防止弁4が構成される。
上記の作業を、排気弁4a側、吸気弁4b側ともに行い、排気弁4a、及び吸気弁4bを構成する。
次に、取り付け筒3の嵌合部52とケーシング5の被嵌合部31を嵌合させ、取り付け筒3をケーシング5に接続する。
次に、ケーシング5の外周の固定部51に、カバー部6の被固定部51を固定し、更にケーシング5の接続部53と設備機器100を接続することで正負圧緩和装置1の設備機器100への施工が完了する。
【0019】
正負圧緩和装置の動作について説明する。まず、平常時において吸気弁4b及び排気弁4aの弁体411は弾性体414によって弁座34当接することで、
図1のように、通気孔32が閉塞されている。
ここで、設備機器100内部の水位が上昇する等して、外部に比べて設備機器100内部の圧力が高くなると、設備機器100に接続されたケーシング5内が正圧となり、排気弁4aの弁本体41が正圧によって開弁方向に圧力を受け、排気弁4aに備えた弾性体414が圧力により圧縮することで、排気弁4a側の弁体411の当接部411aが弁座34から離間し、
図2のように、弁体411が水平方向にスライドすることで通気孔32を開口し、設備機器100内部の空気を排気する。排気により設備機器100内の圧力が低下すると排気弁4aの弁体411に作用する圧力の応力が下がり、弾性体414が伸張することで弁体411の当接部411aが取り付け筒3の弁座34に当接し、排気弁4a側の通気孔32を閉塞する。
また、設備機器100内部の水位が下降する等して、外部に比べて設備機器100内部の圧力が低くなると、設備機器100に接続されたケーシング5内が負圧となり、吸気弁4bの弁本体41が負圧によって開弁方向に圧力を受け、吸気弁4bに備えた弾性体414が圧力により圧縮することで、吸気弁4b側の弁体411の当接部411aが弁座34から離間し、
図3のように、弁体411が水平方向にスライドすることで通気孔32を開口し、設備機器100外部の空気を吸気する。吸気により設備機器100内の圧力が上昇すると吸気弁4bの弁体411に作用する圧力の応力が下がり、弾性体414が伸張することで弁体411の当接部411aが取り付け筒3の弁座34に当接し、吸気弁4b側の通気孔32を閉塞する。
【0020】
これら排気弁4a及び吸気弁4bの動作において、弁軸412側に比べ弁体411側は重いので、弁本体41が水平方向に動作する際に、弁体411側が下方に傾くように重力が作用する。
しかし、この時、弁体411に設けたガイド部411bが弁座34に設けたガイド受け部332に案内されており、弁本体41が、弁体411側が下方となるように傾くことを防止している。
特に本実施例では、ガイド受け部332を斜設し、ガイド部411bをガイド受け部332に合致するように構成している。
重力の作用する方向は直下方向であり、弁本体41には弁体411が直下方向に向かうように重力が作用する。この時、直線状のガイド部411b及びガイド受け部332が、直下方向に沿って設けられていると、ガイド部411b及びガイド受け部332を設けていても、弁本体41の傾く方向とガイド部411b及びガイド受け部332の方向が同じ直下方向であるため、弁本体41の弁体411が下方に傾いてしまう場合があるが、本実施例ではガイド部411b及びガイド受け部332を斜設しているため、弁本体41の傾く方向とガイド部411b及びガイド受け部332の方向が異なっており、弁本体41が傾くことを防止している。
尚、上記実施例は一例として記載したものであって、ガイド受け部332又はガイド部411bは弁体411又は弁座34のどちらに形成されてもよい。
【0021】
本発明の正負圧緩和装置1によれば、吸気弁4bと排気弁4aの弁本体41を水平方向に列設することで、正負圧緩和装置を小型化することができ、吸気弁4b及び排気弁4aの弁体411に設けたガイド部411bが、取り付け筒3に設けたガイド受け部332にガイドされるという構成によって、弁体411が倒れず、弁体411が弁座34に当接するという作用効果を奏することができる。
【0022】
本発明の正負圧緩和装置1は以上であるが、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えても良い。例えば、その他の実施例として通気孔32を常時閉塞している吸気弁4bと排気弁4aの弁本体41が垂直方向にスライドし、垂直方向から見た時、通気孔32の開口が、一部又は全部重なるように並んで配置することで正負圧緩和装置1を小型化する構成としてもよい。
【0023】
1 正負圧緩和装置
2 通気部
3 取り付け筒
31 被嵌合部
32 通気孔
33 取り付け部
331 貫通部
332 ガイド受け部
34 弁座
4 逆流防止弁
4a 排気弁
4b 吸気弁
41 弁本体
411 弁体
411a 当接部
411b ガイド部
412 弁軸
412a 溝部
413 キャップ部材
413a 爪部
414 弾性体
5 ケーシング
51 固定部
52 嵌合部
53 接続部
6 カバー部
61 被固定部
100 設備機器