(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】防災用製本物
(51)【国際特許分類】
B42D 15/00 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
B42D15/00 331Z
(21)【出願番号】P 2020098253
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】513190586
【氏名又は名称】田中手帳株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚寛
【審査官】市川 勝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/099153(WO,A1)
【文献】特開2014-141013(JP,A)
【文献】特開昭50-085430(JP,A)
【文献】登録実用新案第3106225(JP,U)
【文献】中国実用新案第204586179(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の防水紙と、
前記複数枚の防水紙を綴じる綴じ部と、
を備えた防災用製本物であって、
前記複数枚の防水紙は、それぞれ前記綴じ部の反対側において一部が切り取られ、一部が表面に露出する露出部を有し、
前記露出部は、前記複数枚の防水紙のうち一番上の頁に直交する方向から見たときに、全頁を開いてない状態で前記複数枚の防水紙のそれぞれの一部が表面に露出する部分であり、
前記複数枚の防水紙は、それぞれ厚みが200μm以下であ
り、
前記複数枚の防水紙は、切り取られる部分を有していない表紙または裏表紙を含み、
前記露出部は、前記表紙を開き、かつ前記表紙以外を開いていない状態で一番上の頁に直交する方向から見たときに、前記表紙を除く前記複数枚の防水紙のそれぞれの一部が表面に露出する部分である、
防災用製本物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害時に利用する防災用製本物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、災害に遭遇したときに備えて、水に強く破れにくい防水性の高い紙を用いた手帳が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、全体をラミネートフィルムにより被覆することで、災害時にも利用することができる防災マニュアル用カードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第3018564号公報
【文献】実用新案登録第3106225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、製本物を構成する複数の紙は、水に濡れると、表面張力により互いに張り付いて分離できなくなってしまう。特許文献1および特許文献2は、いずれも、防水性の高い紙を用いることで、紙そのものは水に濡れても問題無く利用できる。しかし、防水性の高い紙であっても、製本物にした場合に、水に濡れると互いに張り付いてしまうことは変わらない。そのため、水害に被災した場合には各頁をめくることが難しくなり、防災備品として用いることができなくなる。
【0006】
また、災害発生時には軍手をはめる場合があるが、軍手をはめたまま目的のページをめくることは非常に難しい。
【0007】
そこで、本発明は、災害時にも容易に目的の頁をめくることができ、防災備品として用いることができる防災用製本物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の防災用製本物は、複数枚の防水紙と、前記複数枚の防水紙を綴じる綴じ部と、を備えている。そして、前記複数枚の防水紙は、それぞれ前記綴じ部の反対側において一部が切り取られ、一部が表面に露出する露出部を有し、前記露出部は、前記複数枚の防水紙のうち一番上の頁に直交する方向から見たときに、前記複数枚の防水紙のそれぞれの一部が表面に露出する部分であり、前記複数枚の防水紙は、それぞれ厚みが200μm以下である。
【0009】
この様に、本発明の防災用製本物は、各防水紙に露出部を有するため、たとえ複数の防水紙が水に濡れて張り付いたとしても、容易に目的の頁を開くことができる。特に、電気製品は、災害により停電したり、水害に被災して水没したり、バッテリー切れ等により使えなくなることが多いが、本発明の防災用製本物は、水害に被災した場合でも容易に目的のページを開くことができ、記載内容を参照したり、新たに記載を追加することも容易である。したがって、本発明の防災用製本物は、防災用の備品として非常に優れた機能を発揮する。
【0010】
なお、切り取りは、全ての防水紙に対して設けられている必要はない。例えば、表紙または裏表紙には、切り取り部分がなくてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、災害時にも容易に各頁をめくることができる。したがって、本発明の防災用製本物は、防災備品として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】変形例1に係る防災用製本物の構成を示す模式図である。
【
図4】変形例2に係る防災用製本物の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1(A)は、本発明の実施形態に係る製本物の模式図である。本実施形態の製本物1は、複数枚の防水紙10と、複数枚の防水紙10を綴じる綴じ部11と、を備える。
【0014】
図1(A)および
図1(B)に示す様に、防水紙10は、平面視して長方形状である。ただし、本発明の防災用製本物において、防水紙10の平面視した形状は、長方形状に限らない。防水紙10は、平面視して正方形状であってもよいし、円形状あるいは多角形状であってもよい。
【0015】
防水紙10の2つの長辺のうち、一方の長辺には、綴じ部11が配置されている。綴じ部11は、複数枚の防水紙10の長辺部分を接着する接着剤を含む。なお、本実施形態において、表紙および裏表紙は、1枚の防水紙10からなる。表紙または裏表紙を構成する防水紙10は、綴じ部11の箇所で折り曲げられ、綴じ部11の表面、背面、および裏面を覆う様に構成されている。無論、本発明において、表紙および裏表紙は、それぞれ別の防水紙10で構成されていてもよい。
【0016】
防水紙10の2つの長辺のうち、他方の長辺には、露出部13が配置されている。露出部13は、
図1(B)および
図1(C)に示す様に、防水紙10の一部の領域50を切り取ることにより構成される。露出部13は、複数枚の防水紙10のうち一番上の頁に直交する方向から見たときに、全頁を開いていない状態で複数枚の防水紙10のそれぞれの一部が表面に露出する部分である。これにより、複数枚の防水紙10は、全頁を開いていない状態でもそれぞれ一部が表面に露出する。なお、領域50の切り取りは、全頁に対して行なってもよいし、一部の頁に対して行なってもよい。また、切り取りの形状は、どの様な形状であってもよい。さらに、各頁は、異なる形状で切り取られてもよいし、同じ形状で切り取られてもよい。
【0017】
図2に示す様に、利用者は、露出部13を抑えたり摘まんだりすることで、目的のページを容易にめくることができる。
【0018】
防水紙10は、防水性を有する紙であればどの様な構成であってもよい。防水紙10は、例えば、ポリオレフィン等の合成樹脂からなる。合成樹脂は、多数の空孔を有することで、白色性、印刷性、および筆記適性を有する。また、防水紙10は、無機フィラー分散系の複合材料等であってもよい。防水紙10の露出部13には、頁番号等の見出しが印刷されていてもよい。見出しを印刷することで、露出部13は、インデックスとして機能する。
【0019】
防水紙10の厚みは薄く、200μm以下である。
【0020】
防水紙10には、カレンダー、住所を記入する欄、電話番号を記入する欄、地図、または罫線等が印刷されていてもよい。無論、白紙であってもよい。
【0021】
製本物1は、この様な複数の防水紙10を綴じ部11で綴じることで構成される。製本は、通常の紙を製本する場合と同様に、折り、丁合、綴じ、および背加工などにより行われる。製本物1は、例えば、手帳、アドレス帳、ノート、またはメモ帳等に用いることができる。各防水紙10に印刷を行なう場合には、製本前に行なう。製本の後、綴じ部11の反対側の一部の領域50を切り取ることで、露出部13を構成する。
【0022】
なお、露出部13に対する印刷は、製本後に行なうことが好ましい。防水紙10は、印刷または製本の過程において縮んだり、位置のズレ(誤差)が生じる。このため、製本後に露出部13を構成し、かつ露出部13に印刷を行なうことが好ましい。これにより、本実施形態の製本物1は、防水紙10の不規則な縮み、および位置のズレ(誤差)に影響されることなく、整った文字14を印刷することができる。
【0023】
そして、本実施形態の製本物1は、各防水紙10に露出部13を有するため、たとえ複数の防水紙10が水に濡れて表面張力により張り付いたとしても、容易に目的の頁を開くことができる。
【0024】
電気製品は、水害に被災して水没すると使えなくなる。また、仮に電気製品そのものに問題はなくとも、災害により停電が発生して通信ができなくなったり、バッテリー切れ等により利用できなくなる場合もある。しかし、本実施形態の製本物1は、防水紙10を備えるため、水害に被災した場合でも利用することができ、かつ露出部13により、容易に目的のページを開くことができる。また、本実施形態の製本物1は、停電等が生じても製本物としての機能は全く損なわれない。無論、本実施形態の製本物1は、バッテリー切れを起こして利用できなくなることもない。また、災害発生時には軍手をはめる場合があるが、本実施形態の製本物1によれば、軍手をはめていても露出部13により目的のページを容易にめくることができる。これにより、利用者は、災害、特に水害に被災した場合でも、製本物1に記載された内容を参照する、あるいは、新たに記載を追加することも容易である。
【0025】
したがって、利用者は、例えば、本実施形態の製本物1に、災害発生時の行動マニュアル、緊急連絡先、または利用者自身の情報等を記載しておき、万が一災害に遭遇したときに備えて本実施形態の製本物1を所持しておくことで、製本物1を、防災用の備品として用いることができる。この様に、本実施形態の製本物1は、災害用の備品として非常に優れた機能を発揮する。なお、本実施形態で言う防災とは、災害、特に水災が発生した場合に被害を防ぐ、または低減させることを含む概念である。
【0026】
本発明者は、厚み200μmおよび100μmの防水紙10をそれぞれ用いた2種類の製本物1を試作した。そして、試作した2種類の製本物1を水に浸し、表紙を含む全頁のそれぞれを、軍手をはめた指でめくれるか否かを実験により確かめた。その結果、厚み200μmの防水紙10を用いた製本物1も、100μmの防水紙10を用いた製本物1も、目的の頁を容易にめくれることを確認した。一方で、発明者は、参考例として、厚み200μmおよび100μmの防水紙を用いて、特開昭50-85430号公報に開示された様な、各防水紙の側面に半円状の切り欠きを設けた製本物も2種類作成した。そして、製本物1と同様に、参考例の2種類の製本物を水に浸し、表紙を含む全頁のそれぞれを、軍手をはめた指でめくれるか否かを実験により確かめた。その結果、参考例の製本物では、厚み200μmであっても100μmであっても、表紙を含むいずれの頁もめくることが困難であることを確認した。したがって、参考例の様な製本物では、厚み200μm以下の様な薄い防水紙では、目的の頁をめくることが困難である。一方で、上述の本発明の構成は、厚み200μmの様な薄い防水紙で、かつ軍手をはめていても目的の頁を容易にめくることができ、顕著な効果を奏する。
【0027】
図3(A)は、変形例1に係る防災用製本物の構成を示す模式図である。
図3(B)は
図3(A)のA-A線の断面図である。ただし、厚みは、説明のための誇張している。変形例1に係る製本物1Aは、表紙10Aを備えている。その他の構成は、
図1(A)に示した製本物1と同様である。
【0028】
表紙10Aは、他の防水紙10と同様に防水性を有する。表紙10Aは、裏表紙とあわせて1枚の紙からなり、綴じ部11の表面、背面、および裏面を覆う様に構成されている。無論、表紙10Aおよび裏表紙は、それぞれ別の防水紙で構成されていてもよい。
【0029】
表紙10Aには、露出部13が設けられていない。この場合、露出部13は、表紙10Aを開き、かつ表紙10A以外の頁を開いていない状態で複数枚の防水紙10のうち一番上の頁に直交する方向から見たときに、複数枚の防水紙10のそれぞれの一部が表面に露出する部分となる。この様に、露出部13は、全ての防水紙に設ける必要はない。
【0030】
内側に配置される防水紙10には、露出部13が設けられているため、表紙10Aおよび裏表紙との間には、空間Sが存在する。より正確に述べると、表紙10Aおよび裏表紙の間には、表紙10Aおよび裏表紙を開いていない状態で表紙10Aおよび裏表紙を除く複数枚の防水紙10が存在しない空間Sが存在する。利用者は、この空間Sに指を入れて表紙10Aだけを摘まんで容易にめくることができる。したがって、切り取られる部分を有していない表紙10Aを備えている場合でも、利用者は、目的の頁を容易にめくることができる。
【0031】
次に、
図4は、変形例2に係る防災用製本物の構成を示す模式図である。変形例2に係る製本物1Bは、リングおよび孔により構成された綴じ部11Aを備えている。
【0032】
この様に、本発明の綴じ部は、接着剤で接着する例に限らない。
【0033】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲は、特許請求の範囲と均等の範囲を含む。
【0034】
なお、本実施形態の製本物は、防災用途に限らない。本実施形態の製本物は、水害に被災していない状況で水に濡れた場合でも、目的の頁を容易にめくることができる効果を発揮する。例えば、本実施形態の製本物は、水道工事等の水に触れる作業に対するマニュアルとして用いることもできる。この場合も、製本物は、水に濡れても目的の頁を容易にめくることができる効果を発揮する。したがって、作業者は、水に濡れた場合でも、本実施形態の製本物をマニュアルとして参照しながら作業を行なうことができる。また、本実施形態の製本物は、上述の軍手のように、作業用の保護手袋をはめる場合や、寒冷地で防寒用に手袋をはめる場合でも、目的のページを容易にめくることができる。
【符号の説明】
【0035】
1,1A,1B…製本物
10…防水紙
10A…表紙
13…露出部
14…文字
50…領域