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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】翼及び航空機
(51)【国際特許分類】
   B64C 3/48 20060101AFI20240627BHJP
   B64C 3/26 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B64C3/48
B64C3/26
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021042990
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022142803
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】原田 正志
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-028098(JP,A)
【文献】特許第0152927(JP,C1)
【文献】特開平04-193697(JP,A)
【文献】国際公開第2020/252152(WO,A1)
【文献】特表2019-507055(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0256189(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 3/00- 3/58
B64C 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼の前縁を構成するボックス構造体と、
前記ボックス構造体の上面の後端に取り付けられ、自由端である上側後端を有し、可撓性を有する上面外板と、
前記ボックス構造体の下面の後端に取り付けられ、自由端である下側後端を有し、可撓性を有する下面外板と、
前記上側後端に設けられた上側摺動材と、
前記下側後端に設けられ、前記上側摺動材に対して翼弦方向成分を含む摺動方向に摺動可能に線接触することで、前記上面外板及び前記下面外板は互いに付勢し、前記上側後端と前記下側後端とにより構成される前記翼の後縁を閉塞する下側摺動材であって、前記上側摺動材及び前記下側摺動材の前記摺動方向の長さは、それぞれ、前記上側摺動材及び前記下側摺動材が前記上面外板及び前記下面外板の変形に伴い前記摺動方向に接線を変位しながら常時線接触することが可能な長さである、下側摺動材と、
を具備する翼。
【請求項2】
請求項1に記載の翼であって、
飛行時に、前記翼の外側と、前記ボックス構造体の後端面、前記上面外板の内面、前記下面外板の内面及び閉塞された前記後縁により規定される空間との圧力差が変動することにより、前記上面外板及び前記下面外板が変形し、前記上側摺動材及び前記下側摺動材の前記接線が前記摺動方向に変位して、前記翼のキャンバーが変化する
翼。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の翼であって、
前記上側後端と前記下側後端とは、非接触である
翼。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の翼であって、
前記下面外板が存在せず前記下面外板が前記上面外板に干渉しないと仮定したときの前記上側後端は、前記上面外板が存在せず前記上面外板が前記下面外板に干渉しないと仮定したときの前記下側後端より、下方に位置する
翼。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の翼であって、
前記上面外板の曲げ剛性は、前縁側が高く、後縁側が低い
翼。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の翼であって、
前記下面外板の曲げ剛性は、前縁側が高く、後縁側が低い
翼。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の翼であって、
前記下側後端に取り付けられ、前記下面外板の下方に傾斜するタブ
をさらに具備する翼。
【請求項8】
請求項7に記載の翼であって、
前記タブは、飛行時に、カルマン渦を発生して前記下側摺動材に上下方向の非定常力を加える
翼。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の翼であって、
前記タブは、飛行時に、前記下側摺動材を前記上側摺動材に押し付けることで、少なくとも前記下側摺動材に発生する運動エネルギーを摩擦により生じる熱エネルギーに変換して、前記上面外板及び前記下面外板に生じ得るフラッターを抑制する
翼。
【請求項10】
請求項7乃至9の何れか一項に記載の翼であって、
前記タブの翼弦に対する傾斜角度は、飛行時に、背面の流れが剥離する角度である
翼。
【請求項11】
請求項10に記載の翼であって、
前記タブの前記翼弦に対する傾斜角度は、30度以上45度以下である
翼。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の翼であって、
前記タブの翼弦長に対する長さの割合は、1%以上10%以下である
翼。
【請求項13】
請求項10乃至12の何れか一項に記載の翼であって、
前記翼の前縁から前記ボックス構造体の後端までの、翼弦長に対する長さの割合は、30%以上70%以下である
翼。
【請求項14】
請求項に記載の翼であって、
前記空間の圧力を調整する圧力調整部
をさらに具備する翼。
【請求項15】
請求項14に記載の翼であって、
前記圧力調整部は、前記上面外板及び前記下面外板に穿孔され、前記翼の外側と前記空間とを連通する穴である
翼。
【請求項16】
請求項15に記載の翼であって、
前記穴によって、前記翼の外側と前記空間との圧力差の変化が指数関数的減衰となり、前記翼の前縁から後縁までを飛行速度で通過する際の時間をTとしたとき、前記指数関数的減衰の時定数はTの100倍以上1万倍以下である
翼。
【請求項17】
請求項1乃至16の何れか一項に記載の翼であって、
前記上側摺動材及び/又は前記下側摺動材の材料は、プラスチック、繊維、金属及び/又はエラストマーを含む複合材である
翼。
【請求項18】
請求項17に記載の翼であって、
前記複合材は、ブレーキシューに好適な材料である
翼。
【請求項19】
請求項1乃至18に記載の何れか一項に記載の翼
を具備する航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、キャンバーを可変な翼と、この翼を有する航空機とに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機は離着陸時に速度を下げるためにフラップを下げる等して、翼のキャンバーを能動的に変化させることにより、翼の揚力係数を上げる。通常はパイロットがフラップレバーを操作して、フラップ角度を操作する。
【0003】
フラップの種類として、プレーンフラップ、ファウラーフラップ等がある。プレーンフラップは、後縁で翼を分割し、ここにヒンジを設けて分割した後縁側の翼素を折り曲げてキャンバーを変化させる。ファウラーフラップは、翼後縁下面に独立した翼素を設け、後方にスライドさせながら折り曲げて面積を増大させながらキャンバーを大きくする。プレーンフラップ、ファウラーフラップ等のフラップは翼を分割し、ヒンジを介してそれらを曲げる又はスライドさせることで、キャンバーを大きくする。一方、翼を分割するため、翼表面上に隙間や段差が生じて、空気抵抗を増大させる要因になる。
【0004】
そこで、1980年代には、NASAなどがF-111を改造し、翼を分割することなく、連続的にキャンバーを変化させることができるMAW(Mission Adaptive Wing)を開発した(特許文献1)。特許文献2にも連続する外板を有する可変キャンバー翼が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第4351502号明細書
【文献】米国特許第3941334号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MAWは、翼を分割することなく連続的に翼のキャンバーを変化させることが可能である。一方、翼の内部に複雑なリンク機構を必要とする。このため、価格と信頼性の点で問題がある。加えて、パイロット又はコンピューターの指令によって、能動的に翼の形状を変えなければならない。フラップを下げる操作をパイロットが能動的に行うことは、パイロットの労力の一つになる。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本開示の目的は、フラップを有さず、且つ、キャンバーを受動的に可変な翼と、この翼を有する航空機とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一形態に係る翼は、
翼の前縁を構成するボックス構造体と、
前記ボックス構造体の上面の後端に取り付けられ、自由端である上側後端を有し、可撓性を有する上面外板と、
前記ボックス構造体の下面の後端に取り付けられ、自由端である下側後端を有し、可撓性を有する下面外板と、
前記上側後端に設けられた上側摺動材と、
前記下側後端に設けられ、前記上側摺動材に対して翼弦方向成分を含む摺動方向に摺動可能に線接触することで、前記上面外板及び前記下面外板は互いに付勢し、前記上側後端と前記下側後端とにより構成される前記翼の後縁を閉塞する下側摺動材であって、前記上側摺動材及び前記下側摺動材の前記摺動方向の長さは、それぞれ、前記上側摺動材及び前記下側摺動材が前記上面外板及び前記下面外板の変形に伴い前記摺動方向に接線を変位しながら常時線接触することが可能な長さである、下側摺動材と、
を具備する。
【0009】
前記上側摺動材及び前記下側摺動材の前記摺動方向の長さは、それぞれ、前記上側摺動材及び前記下側摺動材が前記上面外板及び前記下面外板の変形に伴い前記摺動方向に接線を変位しながら常時線接触することが可能な長さであるので、上面外板及び下面外板が成す翼の形状が変化し、翼のキャンバーも変化する。
【0010】
飛行時に、前記翼の外側と、前記ボックス構造体の後端面、前記上面外板の内面、前記下面外板の内面及び閉塞された前記後縁により規定される空間との圧力差が変動することにより、前記上面外板及び前記下面外板が変形し、前記上側摺動材及び前記下側摺動材の前記接線が前記摺動方向に変位して、前記翼のキャンバーが変化する。
【0011】
上面外板及び下面外板は、上側摺動材及び下側摺動材を介して、翼の後縁を閉塞する。速度が高くなり、可撓性を有する上面外板及び下面外板の曲げモーメントが最大静止摩擦力を超えると、上側摺動材と下側摺動材が相対運動を起こし、相対的に摺動する。上側摺動材と下側摺動材とが相対的に摺動することで、上側摺動材及び下側摺動材の接線が変位する。これにより、上面外板及び下面外板の位置関係が、新しい位置関係になる。これにより、上面外板及び下面外板が成す翼の形状が受動的に変化し、翼のキャンバーも受動的に変化することができる。
【0012】
前記上側後端と前記下側後端とは、非接触である。
【0013】
言い換えれば、上面外板の上側後端と下面外板の下側後端とは、上側摺動材及び下側摺動材を介して分離されている。翼の後縁が閉塞されるとき、上面外板の上側後端と、下面外板の下側後端とは、常時非接触である。典型的な翼と異なり、上面外板の上側後端と、下面外板の下側後端とは、接続されていない。これにより、上面外板及び下面外板が成す翼の形状が変化し、翼のキャンバーも変化することができる。
【0014】
前記下面外板が存在せず前記下面外板が前記上面外板に干渉しないと仮定したときの前記上側後端は、前記上面外板が存在せず前記上面外板が前記下面外板に干渉しないと仮定したときの前記下側後端より、下方に位置してもよい。
【0015】
翼の組み立て時に、上側摺動材と下側摺動材とを接触させることにより、可撓性を有する上面外板と、可撓性を有する下面外板とは、互いに付勢する。言い換えれば、上面外板及び下面外板は、自由形状に戻ろうとして、上側摺動材及び下側摺動材を介して押し合う。上面外板の曲げモーメントと下面外板の曲げモーメントが釣り合うところで翼の初期形状が決定できる。上面外板及び下面外板は、上側摺動材及び下側摺動材を介して、強く押し付け合い付勢し合う初期形状を有する。上面外板及び下面外板の初期形状により、上側摺動材と下側摺動材との間に摩擦を発生させることができる。
【0016】
前記上面外板の曲げ剛性は、前縁側が高く、後縁側が低くてもよい。
【0017】
上面外板の前縁側の曲げ剛性が高いことで、可撓性を有する上面外板が変形した場合にも、曲率の不連続が無い様に、ボックス構造体から連続的な形状を維持でき、空気抵抗の増加を抑えることができる。
【0018】
前記下面外板の曲げ剛性は、前縁側が高く、後縁側が低くてもよい。
【0019】
下面外板の前縁側の曲げ剛性が高いことで、可撓性を有する下面外板が変形した場合にも、曲率の不連続が無い様に、ボックス構造体から連続的な形状を維持でき、空気抵抗の増加を抑えることができる。
【0020】
翼は、前記下側後端に取り付けられ、前記下面外板の下方に傾斜するタブをさらに具備する。
【0021】
タブが、揚力を発生することで、下側摺動材を上側摺動材に押し付ける。上側摺動材及び下側摺動材の摩擦力によって、上面外板及び下面外板はエネルギーを散逸するため、フラッターの発生を回避することができる。
【0022】
前記タブは、飛行時に、カルマン渦を発生して前記下側摺動材に上下方向の非定常力を加える。
【0023】
カルマン渦は、タブに加わる揚力を増減させ、非定常な揚力を発生する。これにより、タブが設けられた下面外板の下側摺動材が、タブからの非定常な力を受け、下側摺動材と上側摺動材との接触圧力が変化する。圧力変化に伴い、上側摺動材と下側摺動材との間の最大静止摩擦力も非定常に変化する。この様に、上側摺動材と下側摺動材との間の最大静止摩擦力は、タブが常時発生するカルマン渦により非定常に変化し続け、最大静止摩擦力が下側摺動材と上側摺動材との相対運動を抑制する値を下回る度に、上面外板及び下面外板が変形する。このため、上面外板及び下面外板は、時間的に滑らかに変形する。これにより、上面外板及び下面外板が成す翼の形状が時間的に滑らかに変化し、翼のキャンバーも時間的に滑らかに変化することができる。
【0024】
前記タブは、飛行時に、前記下側摺動材を前記上側摺動材に押し付けることで、少なくとも前記下側摺動材に発生する運動エネルギーを摩擦により生じる熱エネルギーに変換して、前記上面外板及び前記下面外板に生じ得るフラッターを抑制してもよい。
【0025】
タブが、揚力を発生することで、下側摺動材を上側摺動材に押し付ける。上側摺動材及び下側摺動材の摩擦力によって、上面外板及び下面外板はエネルギーを散逸するため、フラッターの発生を回避することができる。
【0026】
前記タブの翼弦に対する傾斜角度は、飛行時に、背面の流れが剥離する角度である。
【0027】
タブの傾斜を適切な値として背面の流れの周期的な剥離を適切な値に設定しておくことで、上側摺動材と下側摺動材との間の最大静止摩擦力が、一時的に下側摺動材と上側摺動材との相対運動を抑制する値を下回る。上側摺動材と下側摺動材との間の最大静止摩擦力が下側摺動材と上側摺動材との相対運動を抑制する値を下回る瞬間に、上側摺動材と下側摺動材が相対運動を起こし、相対的に摺動し、上側摺動材及び下側摺動材の接線が変位する。これにより、上側摺動材と下側摺動材との間の最大静止摩擦力が下側摺動材と上側摺動材との相対運動を抑制する値を下回る瞬間に、上面外板及び下面外板は、曲げモーメントに応じて自由に変形することができる。これにより、上面外板及び下面外板が成す翼の形状が時間的に滑らかに変化し、翼のキャンバーも時間的に滑らかに変化することができる。
【0028】
前記タブの前記翼弦に対する傾斜角度は、30度以上45度以下であってもよい。
【0029】
タブの傾斜角度を適切に設計することで、タブがカルマン渦を発生し、カルマン渦がタブに加わる揚力を増減させて非定常な揚力を発生することができる。
【0030】
前記タブの翼弦長に対する長さの割合は、1%以上10%以下でもよい。
【0031】
タブの長さを適切に設計することで、タブがカルマン渦を発生し、カルマン渦がタブに加わる揚力を増減させて非定常な揚力を発生することができる。
【0032】
前記翼の前縁から前記ボックス構造体の後端までの、翼弦長に対する長さの割合は、30%以上70%以下でもよい。
【0033】
ボックス構造体を翼弦長に対して30%とすれば、ボックス構造体が上面外板及び下面外板の捻じれや曲げを最低限支えつつ、翼のキャンバーを最大限変化させることができる。一方、ボックス構造体を翼弦長に対して70%とすれば、ボックス構造体が上面外板及び下面外板を十分堅牢に支えつつ、翼のキャンバーを最低限変化させることができる。
【0034】
翼は、前記空間の圧力を調整する圧力調整部をさらに具備する。
【0035】
圧力調整部は、空間の圧力を調整し、圧力を適切な値を保つことで、上面外板及び下面外板がより時間的に滑らかに変形することを図れる。
【0036】
前記圧力調整部は、前記上面外板及び前記下面外板に穿孔され、前記翼の外側と前記空間とを連通する穴でもよい。
【0037】
能動的に圧力を検出及び調整する必要無く、空間の圧力を受動的に調整可能である。
【0038】
前記穴によって、前記翼の外側と前記空間との圧力差の変化が指数関数的減衰となり、前記翼の前縁から後縁までを飛行速度で通過する際の時間をTとしたとき、前記指数関数的減衰の時定数はTの100倍以上1万倍以下でもよい。
【0039】
穴を適切に穿孔することで空間の圧力を受動的に調整可能である。
【0040】
前記上側摺動材及び/又は前記下側摺動材の材料は、プラスチック、繊維、金属及び/又はエラストマーを含む複合材でもよい。
【0041】
これらの材料により、互いに摺動可能な摩擦係数を有する上側摺動材及び下側摺動材を作製できる。
【0042】
前記複合材は、ブレーキシューに好適な材料でもよい。
【0043】
上側摺動材及び/又は下側摺動材をブレーキシューに好適な材料で作製することで、長期間にわたる使用を担保することを図れる。
【0044】
本開示の一形態に係る航空機は、上記の何れかに記載の翼を具備する。
【発明の効果】
【0045】
本開示によれば、フラップを有さず、且つ、キャンバーを受動的に可変な翼と、この翼を有する航空機とを提供することができる。
【0046】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本開示の一実施形態に係る航空機を示す上面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る低速飛行時の翼を示す側面図である。
図3】翼を示す分解側面図である。
図4】上面外板の形状及び下面外板の形状の関係を仮想的に示す。
図5】高速飛行時の翼を示す側面図である。
図6】上側摺動材及び下側摺動材の別の一例を示す。
図7】上側摺動材及び下側摺動材の別の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
【0049】
1.航空機の構造
【0050】
図1は、本開示の一実施形態に係る航空機を示す上面図である。
【0051】
航空機10は、例えば、無人機、小型航空機、電動航空機である。航空機10は、機体11に設けられた翼12を有する。翼12は主翼である。翼12は、フラップを有さず、且つ、キャンバーを受動的に可変である。翼12は、ボックス構造体を構成する前面外皮1と、ボックス構造体の上面の後端に取り付けられた上面外板5とを有する。次に、前面外皮1及び上面外板5を有する翼12の構造を説明する。
【0052】
2.翼の構造
【0053】
図2は、本開示の一実施形態に係る低速飛行時の翼を示す側面図である。図3は、翼を示す分解側面図である。
【0054】
翼12は、ボックス構造体13と、上面外板5と、下面外板6と、上側摺動材7と、下側摺動材8と、タブ9と、圧力調整部(不図示)とを有する。
【0055】
ボックス構造体13は、翼12の前縁14を含む前面を構成する。ボックス構造体13は、前面外皮1、上側フランジ2、下側フランジ3及びウェブ4を有する。前面外皮1、上側フランジ2、下側フランジ3及びウェブ4は、閉じてDボックス構造を構成する。ボックス構造体13は、Dボックス構造に代えて、2本桁構造等の他の構造を有してもよい。ボックス構造体13の長さ、即ち、翼12の前縁14からボックス構造体13の後端であるウェブ4までの、翼弦長に対する長さの割合は、30%以上70%以下である。ボックス構造体13の翼弦長に対する長さの割合を30%以上とすれば、ボックス構造体13が上面外板5及び下面外板6の捻じれや曲げを最低限支えつつ、翼12のキャンバーを最大限変化させることができる。一方、ボックス構造体13の翼弦長に対する長さの割合を70%以下とすれば、ボックス構造体13が上面外板5及び下面外板6を十分堅牢に支えつつ、翼12のキャンバーを最低限変化させることができる。本実施形態で、翼弦は、翼12の前縁14から、下面外板6の下側後端62(後述)までとする。
【0056】
上面外板5は、ボックス構造体13の上面の後端である上側フランジ2に取り付けられた固定端である前端51と、自由端である上側後端52とを有する。即ち、上面外板5は、片持ち梁の状態でボックス構造体13に取り付けられる。上面外板5は、曲率の不連続が無い様に、ボックス構造体13の上面から連続的に取り付けられる。上側後端52は、下側後端62(後述)とともに翼12の後縁15を構成する。上面外板5は、可撓性を有する。言い換えれば、上面外板5は、曲げ及び上下移動の自由度を2以上持つ。上面外板5の曲げ剛性は、翼12の前縁14側である前端51が高く、後縁15側である上側後端52側が低い。翼12の前縁14側である前端51の曲げ剛性が高いことで、可撓性を有する上面外板5が変形した場合にも、曲率の不連続が無い様に、ボックス構造体13から連続的な形状を維持でき、空気抵抗の増加を抑えることができる。上面外板5は、金属又は複合材製である。上側摺動材7は、上面外板5の上側後端52の内面に、下面外板6に対向して設けられる。
【0057】
下面外板6は、ボックス構造体13の下面の後端である下側フランジ3に取り付けられた固定端である前端61と、自由端である下側後端62とを有する。即ち、下面外板6は、片持ち梁の状態でボックス構造体13に取り付けられる。下側後端62は、曲率の不連続が無い様に、ボックス構造体13の下面から連続的に取り付けられる。下側後端62は、上側後端52とともに翼12の後縁15を構成する。下面外板6は、可撓性を有する。言い換えれば、下面外板6は、曲げ及び上下移動の自由度を2以上持つ。下面外板6の曲げ剛性は、翼12の前縁14側である前端61が高く、後縁15側である下側後端62側が低い。翼12の前縁14側である前端61の曲げ剛性が高いことで、可撓性を有する下面外板6が変形した場合にも、曲率の不連続が無い様に、ボックス構造体13から連続的な形状を維持でき、空気抵抗の増加を抑えることができる。下面外板6は、金属又は複合材製である。下側摺動材8は、下面外板6の下側後端62の内面に、上面外板5に対向して設けられる。
【0058】
図4は、上面外板の形状及び下面外板の形状の関係を仮想的に示す。
【0059】
上面外板5は、上に凸となるように予め曲げられている。一方、下面外板6は、低速飛行時及び高速飛行時に翼12が適切な形状となる様に、ほぼ曲率がない形状を有する。下面外板6が存在せず下面外板6が上面外板5に干渉しないと仮定したときの上面外板5の上側後端52は、上面外板5が存在せず上面外板5が下面外板6に干渉しないと仮定したときの下面外板6の下側後端62より、下方に位置する。言い換えれば、下面外板6が存在せず下面外板6が上面外板5に干渉しないと仮定したときの上面外板5と、上面外板5が存在せず上面外板5が下面外板6に干渉しないと仮定したときの下面外板6とは、交差する。
【0060】
上側摺動材7及び下側摺動材8は、翼弦方向成分を含む摺動方向に互いに摺動可能に線接触する形状の接触面をそれぞれ有する。上側摺動材7及び下側摺動材8の摺動方向の長さは、それぞれ、上側摺動材7及び下側摺動材8が上面外板5及び下面外板6の変形に伴い摺動方向に接線を変位しながら常時線接触することが可能な長さである。本実施形態で「接線」は上側摺動材7と下側摺動材8とが線接触する線を意味し、翼弦方向成分を含む摺動方向に直交する方向(即ち、図2の紙面奥行き方向)に延びる直線である。上側摺動材7及び下側摺動材8は、線接触し、且つ、面接触が不可能な形状の接触面をそれぞれ有する。例えば、上側摺動材7は、上面外板5の内面から下面外板6に向けて円弧状に膨出した接触面を有する。下側摺動材8は、下面外板6の内面から上面外板5に向けて円弧状に膨出した接触面を有する。翼12の組み立て時に、上側摺動材7と下側摺動材8とを線接触させることにより、可撓性を有する上面外板5と、可撓性を有する下面外板6とは、互いに付勢する。言い換えれば、上面外板5及び下面外板は、自由形状に戻ろうとして、上側摺動材7及び下側摺動材8を介して押し合う。上面外板5の曲げモーメントと下面外板6の曲げモーメントが釣り合うところで翼12の初期形状(図2参照)が決定される。
【0061】
上側摺動材7及び下側摺動材8は、互いに摺動可能に線接触することで、上面外板5の上側後端52と下面外板6の下側後端62とにより構成される翼12の後縁15を常時閉塞する。翼12の後縁15が閉塞されるとき、上面外板5の上側後端52と、下面外板6の下側後端62とは、常時非接触である。言い換えれば、上面外板5の上側後端52と下面外板6の下側後端62とは、上側摺動材及び下側摺動材を介して分離されている。一般的な航空機の場合、航空機の上面外板の上側後端と下面外板の下側後端とは、接着やリベット留めにより接続される。一方、典型的な翼と異なり、上面外板5の上側後端52と、下面外板6の下側後端62とは、接続されていない。上側摺動材7及び下側摺動材8が互いに摺動することで、上側摺動材7及び下側摺動材8の接線が翼弦方向成分を含む方向に変位しながら常時線接触する。上側摺動材7及び下側摺動材8は、互いに摺動可能な摩擦係数を有する材料で作製される。例えば、上側摺動材7及び/又は下側摺動材8の材料は、プラスチック、繊維、金属及び/又はエラストマーを含む複合材である。複合材は、具体的には、ブレーキシューに好適な材料である重合または架橋構造を含む複合材でよい。典型的には、架橋構造を有するゴムを含む複合材であり、架橋剤や放射線による架橋反応を用いて生成される。架橋剤の一例としては、酸化亜鉛、メタクリル酸亜鉛、酸化マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ビス(1-フェニル-1-メチルエチル)ペルオキシド、アミン類などの過酸化物や硫黄が挙げられる。生成される架橋構造を有するゴムの例としては、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムが挙げられる。架橋構造を有する複合材は、酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸バリウム、カーボンブラックなどの微粒子や、ガラスファイバ、カーボンファイバなどの繊維を含み、パラフィン、ワックスエステルなどの添加剤を含んでもよい。複合材を構成する原料の選択や原料の混合比によって、上側摺動材7と下側摺動材8との間に、適切な摩擦・摩耗状態を達成することができる。このように、上側摺動材7及び/又は下側摺動材8をブレーキシューに好適な材料で作製することで、長期間にわたる使用を担保することを図れる。
【0062】
タブ9は、下面外板6の下側後端62の最後端に取り付けられ、下面外板6の下方に傾斜する。タブ9の翼弦に対する傾斜角度及び長さは、飛行時に、背面の流れが周期的に剥離する角度及び長さである。例えば、タブ9の翼弦に対する傾斜角度は、30度以上45度以下である。タブ9の翼弦長に対する長さの割合は、1%以上10%以下である。タブ9は、金属又は複合材、例えば、ジュラルミン板で作製される。
【0063】
圧力調整部(不図示)は、ボックス構造体13の後端面(即ち、ウェブ4の後縁15に対向する面)、上面外板5の内面、下面外板6の内面及び閉塞された翼12の後縁15により規定される空間16の圧力を調整し、圧力を適切な値を保つ。圧力調整部は、上面外板5及び下面外板6に穿孔され、翼12の外側と空間16とを連通する無数の微細な穴である。穴によって、翼12の外側と空間16との圧力差の変化が指数関数的減衰となり、翼12の前縁14から後縁15までを飛行速度で通過する際の時間をTとしたとき、指数関数的減衰の時定数はTの100倍以上1万倍以下となるように、穴の大きさが決定される。圧力調整部は、穴に加えて又は穴に代えて、圧力センサ及び圧力調整弁でもよい。しかしながら、圧力センサ及び圧力調整弁を用いて能動的に圧力を検出及び調整する必要無く、穴を適切に穿孔することで空間16の圧力を受動的に調整可能である。
【0064】
3.翼のキャンバーの受動的変化
【0065】
低速飛行時の翼12の形状は、組み立て時即ち停止時の翼12の形状(図2に示す)と同様である。本実施形態では、翼12のキャンバーは、翼12の前縁14から下面外板6の下側後端62までの、キャンバーラインと翼弦との差を意味する。
【0066】
図5は、高速飛行時の翼を示す側面図である。
【0067】
飛行時に航空機10の速度が増加し、低速飛行時の翼型(図2参照)から高速飛行時の翼型(図5参照)に移行するときには、上面外板5の上面側に負圧が生じ、下面外板6の下面側に正圧が生じる。上面外板5の上面側に生じる負圧と空間16との圧力差により、上面外板5に上方に反ろうとする曲げモーメントが発生する。下面外板6の下面側に生じる正圧と空間16との圧力差により、下面外板6に上方に反ろうとする曲げモーメントが発生する。
【0068】
下面外板6に下方に傾斜して設けられたタブ9は、揚力を発生し、下面外板6の下側摺動材8を上面外板5の上側摺動材7に押し付け、上面外板5及び下面外板6を持ち上げるモーメントを発生する。上面外板5及び下面外板6が圧力差により発生する曲げモーメントと、タブ9が揚力により発生する上面外板5及び下面外板6を持ち上げるモーメントとの合力が、上面外板5及び下面外板6に加わる。上面外板5及び下面外板6の剛性分布に応じて、上面外板5及び下面外板6の曲率がそれぞれ定まり、上面外板5及び下面外板6が変形する。この様に、翼12の外側と空間16との圧力差が変動することにより、上面外板5及び下面外板6が変形する。
【0069】
翼12の外側と空間16との圧力差の変動に応じて、上面外板5及び下面外板6に穿孔された穴を介して、翼12の外側と空間16との間で、空気が出入りする。これにより、空間16の圧力が、受動的に、適切な値に変化する。言い換えれば、上面外板5及び下面外板6に穿孔された穴を介して、空間16の圧力が、受動的に調整される。
【0070】
ところで、上面外板5及び下面外板6は、曲げ及び上下移動の自由度をそれぞれ2以上持つ。このため、上面外板5及び下面外板6が圧力差により発生する曲げモーメントと、タブ9が揚力により発生する上面外板5及び下面外板6を持ち上げるモーメントとの合力は、上面外板5及び下面外板6が自由に変形する力になる。上面外板5及び下面外板6が自由に変形すると、上面外板5及び下面外板6がフラッターを発生し、上面外板5及び下面外板6の破壊につながるおそれがある。一方、フラッターを記述する運動方程式からは、運動に粘性項を加えるとフラッターが効果的に抑えられることがわかる。
【0071】
そこで、上面外板5及び下面外板6は、上側摺動材7及び下側摺動材8を介して、強く押し付け合い付勢し合う初期形状を有する。さらに、飛行時に、タブ9が、揚力を発生することで、下側摺動材8を上側摺動材7に押し付ける。上面外板5及び下面外板6の初期形状と、タブ9が発生する揚力とにより、上側摺動材7と下側摺動材8との間に摩擦が発生する。速度が高くなり、上面外板5及び下面外板6が上方に反ろうとする曲げモーメントが最大静止摩擦力を超える。このとき、上側摺動材7と下側摺動材8が相対運動を起こし、翼弦方向成分を含む摺動方向に相対的に摺動する。上側摺動材7と下側摺動材8とが翼弦方向成分を含む摺動方向に相対的に摺動することで、上側摺動材7及び下側摺動材8の接線が翼弦方向成分を含む摺動方向に変位する。これにより、上面外板5及び下面外板6の位置関係が、新しい位置関係に変化する。その結果、上面外板5及び下面外板6が成す翼12の形状が変化し、翼12のキャンバーも変化する。飛行時に、上側摺動材7及び下側摺動材8の摩擦力によって、上面外板5及び下面外板6はエネルギーを散逸するため、フラッターの発生を回避することができる。言い換えれば、タブ9は、飛行時に、少なくとも下側摺動材8に発生する運動エネルギーを摩擦により生じる熱エネルギーに変換して、熱エネルギーを散逸し、上面外板5及び下面外板6に生じ得るフラッターを抑制する。
【0072】
静的には上記の様な挙動を示すが、図5の拡大部分に示すように、タブ9は飛行時に常時カルマン渦を発生する。
【0073】
タブ9は、下面外板6の下側後端62に、適切な角度で下方に傾斜して設けられる。タブ9の翼弦に対する傾斜角度及び長さは、飛行時に、背面の流れが周期的に剥離する角度及び長さである。タブ9は、飛行時に、カルマン渦を発生する。カルマン渦は、タブ9に加わる揚力を増減させ、非定常な揚力を発生する。これにより、タブ9が設けられた下面外板6の下側摺動材8が、タブ9からの非定常な力を受け、下側摺動材8と上側摺動材7との接触圧力が変化する。圧力変化に伴い、上側摺動材7と下側摺動材8との間の最大静止摩擦力も非定常に変化する。タブ9の傾斜を適切な値として背面の流れの周期的な剥離を適切な値に設定しておくことで、上側摺動材7と下側摺動材8との間の最大静止摩擦力が、一時的に下側摺動材8と上側摺動材7との相対運動を抑制する値を下回る。上側摺動材7と下側摺動材8との間の最大静止摩擦力が下側摺動材8と上側摺動材7との相対運動を抑制する値を下回る瞬間に、上側摺動材7と下側摺動材8が相対運動を起こし、相対的に摺動する。上側摺動材7と下側摺動材8とが相対的に摺動することで、上側摺動材7及び下側摺動材8の接線が変位する。これにより、上側摺動材7と下側摺動材8との間の最大静止摩擦力が下側摺動材8と上側摺動材7との相対運動を抑制する値を下回る瞬間に、上面外板5及び下面外板6は、曲げモーメントに応じて自由に変形する。この様に、上側摺動材7と下側摺動材8との間の最大静止摩擦力は、タブ9が常時発生するカルマン渦により非定常に変化し続け、最大静止摩擦力が下側摺動材8と上側摺動材7との相対運動を抑制する値を下回る度に、上面外板5及び下面外板6が変形する。このため、上面外板5及び下面外板6は、時間的に滑らかに変形する。これにより、上面外板5及び下面外板6が成す翼12の形状が時間的に滑らかに変化し、翼12のキャンバーも時間的に滑らかに変化する。
【0074】
具体的には、低速飛行時の翼12(図2参照)のキャンバーに比べて、高速飛行時の翼12(図5参照)のキャンバーは、小さくなる。速度が増すに連れ、上面外板5及び下面外板6に加わる空気圧分布が変化して、上面外板5及び下面外板6がなすキャンバーは小さくなり、揚力係数が減る。この様に、飛行速度に応じて好ましい揚力変化が、パイロットの能動的な操作なしに、受動的に実現される。
【0075】
これに対して、仮に、適切な長さを有し適切な角度で下方に傾斜するタブ9が無いと仮定する。適切なタブ9が無いと、速度が増加したとき、上側摺動材7及び下側摺動材8の最大静止摩擦力によって、上面外板5及び下面外板6の変形が抑制される。このため、速度が増加したとき、上面外板5及び下面外板6が変形しようとする力が、上側摺動材7と下側摺動材8との間の最大静止摩擦力を超えるまで、上面外板5及び下面外板6は変形しない。言い換えれば、速度が増加したとき、上面外板5及び下面外板6が変形しようとする力が、上側摺動材7と下側摺動材8との間の最大静止摩擦力を超えて初めて、上面外板5及び下面外板6が変形する。このため、キャンバーは、速度の増加に比例して時間的に滑らかに変化することができない。
【0076】
ここまで、航空機10の速度が増加し、低速飛行時の翼型(図2参照)から高速飛行時の翼型(図5参照)に翼12の形状が変化しキャンバーが小さくなる挙動を説明した。逆に、航空機10の速度が減少し、高速飛行時の翼型(図5参照)から低速飛行時の翼型(図2参照)に復元するときには、上面外板5の上面側の負圧が小さくなり、下面外板6の下面側の正圧が小さくなる。この場合も、高速飛行時に移行する場合と同様に、運動エネルギーを上側摺動材7と下側摺動材8の間の摩擦力で散逸してフラッターを抑えながら、キャンバーが大きい翼型(図2参照)へと時間的に滑らかに移行ことができる。
【0077】
4.上側摺動材及び下側摺動材の変形例
【0078】
上述のように、上側摺動材7及び下側摺動材8は、翼弦方向成分を含む摺動方向に互いに摺動可能に線接触する形状の接触面をそれぞれ有する。上側摺動材7及び下側摺動材8の摺動方向の長さは、それぞれ、上側摺動材7及び下側摺動材8が上面外板5及び下面外板6の変形に伴い摺動方向に接線を変位しながら常時線接触することが可能な長さである。上側摺動材7及び下側摺動材8は、線接触し、且つ、面接触が不可能な形状の接触面をそれぞれ有する。上側摺動材7及び下側摺動材8は、固着状態(即ち、動き出すときに静止摩擦が生じる)と、摺動状態(即ち、動いているときに動摩擦が生じる)とを有し、且つ、固着期間が短い。固着期間は、航空機の仕様、例えば飛行条件を満たすように定めることができ、それに伴い材料や形状を選定することができる。上側摺動材7及び下側摺動材8は、接触面がこの様な性質を有すれば、如何なる材料で作製されてもよく、如何なる形状を有してもよい。
【0079】
図6は、上側摺動材及び下側摺動材の別の一例を示す。
【0080】
上側摺動材7Aは、平面状の接触面を有する。下側摺動材8Aは、下面外板6の内面から上面外板5に向けて円弧状に膨出した接触面を有する。この形状に拠っても、上側摺動材7A及び下側摺動材8Aは、互いに摺動可能に線接触可能であり、上面外板5の上側後端52と下面外板6の下側後端62とにより構成される翼12の後縁15を常時閉塞する。上側摺動材7Aの平面状の接触面及び下側摺動材8の円弧状に膨出した接触面は、翼弦方向成分を含む摺動方向に互いに摺動可能に線接触する。上側摺動材7A及び下側摺動材8Aの摺動方向の長さは、それぞれ、上側摺動材7A及び下側摺動材8Aが上面外板5及び下面外板6の変形に伴い摺動方向に接線を変位しながら常時線接触することが可能な長さである。上側摺動材7A及び下側摺動材8Aは、線接触し、且つ、面接触が不可能な形状の接触面をそれぞれ有する。
【0081】
図7は、上側摺動材及び下側摺動材の別の一例を示す。
【0082】
下側摺動材8Bは、平面状の接触面を有する。上側摺動材7Bは、上面外板5の内面から下面外板6に向けて円弧状に膨出した接触面を有する。この形状に拠っても、上側摺動材7B及び下側摺動材8Bは、互いに摺動可能に線接触可能であり、上面外板5の上側後端52と下面外板6の下側後端62とにより構成される翼12の後縁15を常時閉塞する。上側摺動材7Bの円弧状に膨出した接触面及び下側摺動材8の平面状の接触面は、翼弦方向成分を含む摺動方向に互いに摺動可能に線接触する。上側摺動材7B及び下側摺動材8Bの摺動方向の長さは、それぞれ、上側摺動材7B及び下側摺動材8Bが上面外板5及び下面外板6の変形に伴い摺動方向に接線を変位しながら常時線接触することが可能な長さである。上側摺動材7B及び下側摺動材8Bは、線接触し、且つ、面接触が不可能な形状の接触面をそれぞれ有する。
【0083】
5.結語
【0084】
航空機の翼の揚力係数を変化させるため、通常はパイロットがフラップレバーを能動的に操作して、フラップ角度を操作する。航空機において、パイロットは、降着装置を降ろす、燃料タンクを切り替える等のワークロードが高い。フラップ操作も、それらワークロードの高い操作の一つである。これに対して、本実施形態によれば、航空機の速度に応じて翼のキャンバーを受動的に変化することができる。翼のキャンバーを受動的に変化することができるので、パイロットのワークロードを下げることができる。
【0085】
プレーンフラップ、ファウラーフラップ等のフラップは翼を前後に分割してヒンジなどでつないでいる。このため、屈曲部に隙間や曲率の不連続があり空気抵抗が大きい。これに対して、本実施形態では、つなぎ目及び曲率の不連続が無いため、空気抵抗が小さい。
【0086】
1980年代に開発されたMAWは、翼を分割することなく、連続的にキャンバーを変化させることができる。しかしながら、翼の内部に複雑なリンク機構を設ける必要があり、価格と信頼性の点で問題がある。これに対して、本実施形態では、翼の内外の圧力差が変動することにより、翼のキャンバーが受動的に変化する。このため、リンク機構やパイロット又はコンピューターの指令が不要であり、価格や重量を抑えることができ、信頼性が高い。
【0087】
本技術の各実施形態及び各変形例について上に説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0088】
前面外皮1
上側フランジ2
下側フランジ3
ウェブ4
上面外板5
下面外板6
上側摺動材7
下側摺動材8
タブ9
航空機10
機体11
翼12
ボックス構造体13
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7