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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】2次元フォトニック結晶面発光レーザ
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/11 20210101AFI20240627BHJP
   H01S 5/18 20210101ALI20240627BHJP
【FI】
H01S5/11
H01S5/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021542686
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2020029874
(87)【国際公開番号】W WO2021039316
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2019158767
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業「光・量子を活用したSociety5.0 実現化技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】デ ゾイサ メーナカ
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-054795(JP,A)
【文献】特開2009-231578(JP,A)
【文献】特開2013-041948(JP,A)
【文献】特開2008-288558(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1812211(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザ光を出射するレーザであって、
a) 活性層と、
b) 前記活性層の一方の側に配置された板状の母材と、該母材内において所定の格子の格子点に配置された該母材とは屈折率が異なる異屈折率部とを備え、少なくとも一部の領域である電流注入領域において位置毎のバンド端周波数が該母材に平行な一方向に関して単調に増加している2次元フォトニック結晶と、
c) 前記活性層及び前記電流注入領域に電流を連続的に注入する電極と
を備えることを特徴とする2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項2】
前記異屈折率部が前記母材よりも小さい屈折率を有し、
前記格子を構成する単位格子において前記異屈折率部が占める体積の割合であるフィリングファクタが前記電流注入領域において前記一方向に関して単調に増加している
ことを特徴とする請求項1に記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項3】
前記異屈折率部の各々の平面形状の面積が前記電流注入領域において前記一方向に関して単調に増加していることを特徴とする請求項2に記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項4】
前記異屈折率部が前記母材よりも大きい屈折率を有し、
前記格子を構成する単位格子において前記異屈折率部が占める体積の割合であるフィリングファクタが前記電流注入領域において前記一方向に関して単調に減少している
ことを特徴とする請求項1に記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項5】
前記異屈折率部の各々の平面形状の面積が前記電流注入領域において前記一方向に関して単調に減少していることを特徴とする請求項4に記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項6】
前記格子の周期長が前記電流注入領域において前記一方向に関して単調に減少していることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項7】
前記バンド端周波数が前記電流注入領域において前記一方向に関して連続的に増加していることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項8】
前記バンド端周波数が前記電流注入領域において前記一方向に関して階段状に増加していることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項9】
前記異屈折率部が非円形の平面形状を有することを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザと、
前記電極に電気的に接続された、該電極に前記電流を連続的に注入する電源と
を備えることを特徴とするパルスレーザ光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被加工物にレーザ光を照射することによって該被加工物を切削加工することが行われている。その際、照射レーザ光のパルス幅をナノ秒よりも短くしつつピーク出力を高めることで、加工物を発熱で損傷させることなく高精度に加工できる。従って、加工用途には、パルス幅が1ナノ秒未満であるパルスレーザ光が好適に用いられる。
【0003】
特許文献1には、パルスレーザ光を出射することができる2次元フォトニック結晶面発光レーザが記載されている。この2次元フォトニック結晶面発光レーザは、活性層と2次元フォトニック結晶とを有する。ここで2次元フォトニック結晶は、板状の母材内に母材とは屈折率が異なる領域(具体的には空孔)が所定の周期で配置された光共振状態形成用フォトニック結晶構造を有している。この2次元フォトニック結晶面発光レーザでは、活性層に電流を注入することにより所定の周波数帯内の光が生成される。この周波数帯内の光のうち、前記周期により定まる周波数の光が2次元フォトニック結晶内で共振して増幅され、出射する。その際、活性層に供給する電流をオン・オフするスイッチングを繰り返せばパルスレーザ光が出射する(なお、活性層への電流の供給を間断なく続ければ連続的なレーザ光が出射する)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-144664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パルスレーザ光源では一般に、時間平均出力が高いほど、また、パルス幅が小さいほど、ピーク出力を高くすることができる。2次元フォトニック結晶面発光レーザは、端面発光型と呼ばれる通常の半導体レーザよりも時間平均出力が高いという点では優れている。一方、従来の2次元フォトニック結晶面発光レーザでは、パルス幅は最小で数ナノ秒(パルス繰り返し周波数は最大で数百MHz:特許文献1)であって、1ナノ秒未満にすることは困難である。これは、従来の2次元フォトニック結晶面発光レーザのスイッチングを活性層に供給する電流のオン・オフによって行っており、その応答時間を1ナノ秒未満にすることが困難であることによる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、パルス幅が1ナノ秒未満であって、ピーク出力が高いパルスレーザ光を出射することができる2次元フォトニック結晶面発光レーザを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、パルスレーザ光を出射するレーザであって、
a) 活性層と、
b) 前記活性層の一方の側に配置された板状の母材と、該母材内において所定の格子の格子点に配置された該母材とは屈折率が異なる異屈折率部とを備え、少なくとも一部の領域である電流注入領域において位置毎のバンド端周波数が該母材に平行な一方向に関して単調に増加している2次元フォトニック結晶と、
c) 前記活性層及び前記電流注入領域に電流を連続的に注入する電極と
を備えることを特徴とする。
【0008】
前記異屈折率部は、母材とは屈折率が異なる部材により構成されていてもよいし、空孔であってもよい。前者の場合には、異屈折率部(すなわち前記部材)の屈折率(nmとする)は母材の屈折率(nbとする)よりも低くてもよいし、高くてもよい。後者の場合には、異屈折率部(空孔)の屈折率nmは母材の屈折率nbよりも低い。
【0009】
2次元フォトニック結晶内で増幅される光の周波数は、該2次元フォトニック結晶のフォトニックバンドとフォトニックバンドギャップの境界であるバンド端と呼ばれるエネルギーに対応する値を有する。この周波数をバンド端周波数という。バンド端周波数は、2次元フォトニック結晶内の光が感じる有効屈折率が小さいほど、及び/又は、異屈折率部が配置される格子の周期長(格子定数)が小さいほど、大きくなる。ここで、nm<nbの場合には、格子を構成する単位格子において異屈折率部が占める体積の割合で定義されるフィリングファクタが大きいほど有効屈折率は小さくなり、nm>nbの場合には、フィリングファクタが小さいほど有効屈折率は小さくなる。従って、「電流注入領域において位置毎のバンド端周波数が該母材に平行な一方向に関して単調に増加している」ことは、nm<nbの場合にはフィリングファクタが電流注入領域において該一方向に関して単調に増加していることにより、nm>nbの場合にはフィリングファクタが電流注入領域において該一方向に関して単調に減少していることにより実現することができる。また、nmとnbの関係に依らず、周期長が電流注入領域において前記一方向に関して単調に減少していることによっても、「電流注入領域において位置毎のバンド端周波数が該母材に平行な一方向に関して単調に増加している」ことを実現することができる。さらには、フィリングファクタの増加(nm<nbの場合)又は減少(nm>nbの場合)と周期長の減少を組み合わせてもよい。
【0010】
本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザの動作を説明する。活性層及び2次元フォトニック結晶の電流注入領域に電流を注入すると、該活性層からは所定の周波数帯内の光が生成され、電流注入領域内の各位置においてバンド端のエネルギーに対応するバンド端周波数の光が増幅される。ここで、最もバンド端周波数が大きい位置では、増幅される光の周波数が他の位置におけるフォトニックバンドギャップ内のエネルギーに対応するため、該位置において光の閉じ込めの効果が最も高くなる。その結果、最もバンド端周波数の大きい位置付近においてレーザ発振が生じる。レーザ発振が生じた位置ではキャリアが急激に消費されて減少してゆくことによって有効屈折率が増加してゆく。この有効屈折率の増加は、最もバンド端周波数の大きい位置付近におけるバンド端周波数を小さくする作用を奏し、それによって電流注入領域内のバンド端周波数の差が小さくなる。これにより、電流注入領域内でレーザ発振が生じる範囲が拡がり、レーザ光の出力が大きくなる。すると、より広い範囲に亘ってキャリアが減少し、レーザ発振が停止する。ここまでの動作により、1パルス分のパルスレーザ光が出射される。その後、電流が注入されることによってキャリアの量が回復し、上記と同様の動作によってパルスレーザ光が繰り返し出射される。
【0011】
本発明者が行った計算によれば、本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザでは、10~12Aの電流を注入することにより、パルス繰り返し周波数が1GHzを超え、パルス幅が1ナノ秒未満であって、従来の2次元フォトニック結晶面発光レーザにおいて同程度の電流を注入した場合よりも高い40~80Wというピーク出力を有するパルスレーザ光を出射することができる。このようなパルスレーザ光は活性層に継続的に電流を注入する間に出射されるため、従来の2次元フォトニック結晶面発光レーザにおいてパルス幅を1ナノ秒未満にすることを妨げる原因となっていた、電流をオン・オフするスイッチングは本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザでは行う必要がない。
【0012】
フィリングファクタが該母材に平行な一方向に関して単調に増加(nm<nbの場合)又は減少(nm>nbの場合)している構成は、各々の異屈折率部の平面形状の面積(以下、単に「面積」とする)が前記一方向に関して単調に増加(nm<nbの場合)又は減少(nm>nbの場合)していることによって具現化することができる。あるいは、異屈折率部の深さが前記一方向に関して単調に増加(nm<nbの場合)又は減少(nm>nbの場合)していることによっても具現化することができる。また、面積と深さの双方を調整することで、異屈折率部の体積が前記一方向に関して単調に増加(nm<nbの場合)又は減少(nm>nbの場合)するようにしてもよい。異屈折率部を位置毎に異なる深さとするためには作製時に母材をエッチングする時間を位置毎に調整する必要があるのに対して、位置毎に異なる面積とするためにはそのような調整が不要であるため、各々の異屈折率部は面積が前記一方向に関して単調に増加(nm<nbの場合)又は減少(nm>nbの場合)している方が好ましい。
【0013】
バンド端周波数は、前記電流注入領域において前記一方向に関して連続的に増加していてもよいし、階段状に増加していてもよい。バンド端周波数が連続的に増加している構成は、前記一方向に向かってフィリングファクタを連続的に(1個ずつ)増加(nm<nbの場合)又は減少(nm>nbの場合)か、周期長を連続的に(1周期ずつ)減少させることにより具現化することができる。バンド端周波数が階段状に増加している構成は、同じフィリングファクタを有する複数個の異屈折率部から成る組を前記一方向に向かって複数組並べ、該一方向に向かって組毎にフィリングファクタを単調に増加(nm<nbの場合)又は減少(nm>nbの場合)させることや、同じ周期長を有する複数周期分の異屈折率部から成る組を前記一方向に向かって複数組並べ、該一方向に向かって組毎に周期長を減少させることによって具現化することができる。階段状の増加の段数は、最低限である2段であってもよいし、3段以上であってもよい。より安定したパルスレーザ光を発振させるために、バンド端周波数は前記一方向に関して連続的に増加していることが好ましい。一方、設計及び作製を容易にするという点では、バンド端周波数は前記一方向に関して階段状に増加しているとよい。この場合においても、フィリングファクタの増加(nm<nbの場合)又は減少(nm>nbの場合)と周期長の減少を組み合わせてもよい。
【0014】
前記異屈折率部は非円形の平面形状を有することが望ましい。これにより、ビームに垂直な断面において中心の強度が最も高い単峰形のレーザビームを得ることができる。非円形の平面形状には、例えば三角形等の多角形や楕円形等が挙げられる。また、平面形状又は面積が異なる2個以上の、母材とは屈折率が異なる部分から成る群である異屈折率部群を1個の異屈折率部とみなし、該異屈折率部群を前記格子点に配置してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、パルス幅が1ナノ秒未満であって、ピーク出力が高いパルスレーザ光を出射することができる2次元フォトニック結晶面発光レーザが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザの一実施形態を示す斜視図(a)、及び該2次元フォトニック結晶面発光レーザが有するフォトニック結晶層(2次元フォトニック結晶)の平面図(b)。
図2】本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザにおける電流注入領域を示す図。
図3】本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザにおけるフォトニック結晶層の他の例を示す平面図。
図4】本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザにおけるフォトニック結晶層の他の例を示す平面図。
図5】本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザにおける、フォトニック結晶層内の位置によるフィリングファクタの相違(上図)、周期長の相違(中図)、及びそれらの相違により生じるバンド端周波数の相違(下図)を示すグラフ。
図6図5の例におけるパルスレーザ発振の動作を説明する図であって、1パルスの初期、中期、及び終期のそれぞれにおけるフォトニック結晶層内の位置によるバンド端周波数の相違及び光子密度を示すグラフ。
図7】本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザから出射するレーザ光の強度の時間変化を計算により求めた結果を示すグラフ(計算例1)。
図8図7のグラフの一部を、時間(横軸)を拡大して示す図、並びにパルスレーザの発振の初期、中期、及び終期におけるフォトニック結晶層の電流注入領域内の光子分布を示す図。
図9】比較例の2次元フォトニック結晶面発光レーザから出射するレーザ光の強度の時間変化を計算により求めた結果を示すグラフ。
図10】フィリングファクタの最大値と最小値の差ΔFFがそれぞれ0.15%(a)、0.20%(b)、及び0.30%(c)である例において、出射するレーザ光の強度の時間変化を計算により求めた結果を示すグラフ(計算例2)。
図11】フィリングファクタが一方向に関して1次関数状に連続的に(a)、2次関数状に連続的に(b)、2段の階段状に(c)、それぞれ変化する場合について、出射するレーザ光の強度の時間変化を計算により求めた結果を示すグラフ(計算例3)。
図12】平面形状が直角三角形である1個の空孔から成るシングルホール型の異屈折率部を有する2次元フォトニック結晶面発光レーザの例において、出射するレーザ光の強度の時間変化を計算により求めた結果を示すグラフ(計算例4)。
図13】フィリングファクタが、正方格子に対して45°傾斜した一方向に関して単調に増加している例(a)、及び1個の原点から放射状に延びる方向に向かってFFが増加してゆく例(b)を、それぞれ模式的に示す図。
図14図13(b)に示した例において、出射するレーザ光の強度の時間変化を計算により求めた結果を示すグラフ(計算例5)。
図15】フィリングファクタが一方向に関して2次関数状に連続的に変化し、図13(b)の例よりも電流注入領域、ΔFF、及び注入される電流が大きい例において、出射するレーザ光の強度の時間変化を計算により求めた結果を示すグラフ(計算例6)。
図16】本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザにつき、出射するレーザ光の強度の時間変化を実験で求めた結果を示すグラフ。
図17】本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザにつき、注入する電流の大きさと出射するレーザ光のピーク強度の関係を実験で求めた結果を示すグラフ。
図18】本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザにつき、注入する電流の大きさと出射するレーザ光のピーク幅の関係を実験で求めた結果を示すグラフ。
図19】本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザにつき、フォトニック層内の位置による波長の相違を実験で求めた結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1図19を用いて、本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザの実施形態を説明する。
【0018】
(1) 本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザの構成
本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザ10は、図1(a)に示すように、第1電極191、第1クラッド層141、活性層11、スペーサ層13、フォトニック結晶層(2次元フォトニック結晶)12、第2クラッド層142、及び第2電極192がこの順で積層された構成を有する。但し、活性層11とフォトニック結晶層12の順番は、上記のものとは逆であってもよい。図1では便宜上、第1電極191を下側、第2電極192を上側として示しているが、使用時における2次元フォトニック結晶面発光レーザ10の向きは、この図で示したものは限定されない。また、図1では便宜上、第1電極191を他の構成要素と離して示しているが、実際には第1クラッド層141の下面に接触している。
【0019】
以下、各層及び電極の構成を説明する。以下ではまず、フォトニック結晶層12以外の構成を説明した後、フォトニック結晶層12の構成を詳述する。
【0020】
活性層11は、第1電極191及び第2電極192から電荷が注入されることにより、所定の波長帯を有する光を発光するものである。活性層11の材料には、例えばInGaAs/AlGaAs多重量子井戸(発光波長帯:935~945nm)を用いることができる。
【0021】
スペーサ層13は本発明における必須の構成要素ではないが、材料の異なる活性層11とフォトニック結晶層12を接続するために設けられている。スペーサ層13の材料は、活性層11及びフォトニック結晶層12の材料に応じて適宜定めることができる。例えば、活性層11の材料がInGaAs/AlGaAs多重量子井戸であって、フォトニック結晶層12の母材121(後述)の材料がGaAsである場合には、スペーサ層13の材料にはGaAs又はAlGaAsを好適に用いることができる。
【0022】
第1クラッド層141及び第2クラッド層142は、第1電極191と活性層11、及び第2電極192とフォトニック結晶層12を接続し、第1電極191及び第2電極192から活性層11に電流を注入すると共に、活性層11との屈折率の差によって光を活性層11付近に閉じ込める役割を有する。これらの役割を果たすために、第1クラッド層141の材料には活性層11よりも屈折率が低いp型半導体が、第2クラッド層142の材料には活性層11よりも屈折率が低いn型半導体が、それぞれ用いられている。第1クラッド層141は、例えば、第1電極191側から順にp-GaAsから成る層とp-AlGaAsから成る層の2層構造とすることができ、同様に、第2クラッド層142は、第2電極192側から順にn-GaAsから成る層とn-AlGaAsから成る層の2層構造とすることができる(いずれも2層構造は図示せず)。
【0023】
第1電極191は、2次元フォトニック結晶面発光レーザ10で生成されるレーザ光に対して不透明な金属から成る板状部材である。第1電極191の面積は活性層11の面積よりも小さい。第1電極191の周囲には、第1電極191との間に絶縁体を介して、レーザ光に対して不透明な金属から成る反射層(図示せず)が設けられている。反射層は第1電極191と共に、2次元フォトニック結晶面発光レーザ10の内部で生じたレーザ光を反射して、第2電極192側から外部に放出させる役割を有する。第1電極191の平面形状は、本実施形態では円形としたが、それ以外の形状であってもよい。
【0024】
第2電極192は、レーザ光に対して不透明な金属から成る正方形の板状部材の中央が正方形状にくり抜かれた構成を有する。板状部材がくり抜かれた部分を窓部1921と呼び、板状部材が残された部分を枠部1922と呼ぶ。この板状部材は第1電極191よりも面積が大きい。なお、第2電極192には、このような窓部を有するものの代わりに、レーザ光に対して透明な導電性材料(例えばインジウム錫酸化物)から成る板状の電極を用いてもよい。板状部材の平面形状は、本実施形態では正方形としたが、それ以外の形状であってもよい。
【0025】
第2クラッド層142の厚みは、活性層11、フォトニック結晶層12、スペーサ層13及び第1クラッド層141の厚みよりも十分に大きくする。これにより、活性層11及びフォトニック結晶層12において電流が注入される領域である電流注入領域120(図2参照)の平面形状及び大きさは、第1電極191と略等しい円形であって第1電極191よりもわずかに大きくなる。なお、電流注入領域120の大きさは上記の例には限定されず、フォトニック結晶層12と同じであってもよいし、(上記の例を含めて)フォトニック結晶層12よりも小さくてもよい。後者の場合、フォトニック結晶層12のうち電流注入領域120よりも外側の部分はレーザ発振に与える影響が小さいため、以下では、電流注入領域120内におけるフォトニック結晶層12の構成を説明する。
【0026】
フォトニック結晶層12は、図1(b)に示すように、板状の母材121と、母材121内に正方格子状に(正方格子の格子点に)配置されている異屈折率部122とを有する。母材121の材料には、例えばGaAsを用いることができる。本実施形態では、個々の異屈折率部122は、互いに平面形状及び面積が異なる主異屈折率部1221と副異屈折率部1222を組み合わせた、前記異屈折率部群に相当するものである。主異屈折率部1221及び副異屈折率部1222の平面形状は、前者では楕円形、後者では円形としたが、それ以外の形状であってもよい。本実施形態では、主異屈折率部1221及び副異屈折率部1222はいずれも、母材121に設けられた空孔から成る。この場合、異屈折率部122の屈折率nmは母材121の屈折率nbよりも低く(すなわちnm<nbと)なる。空孔の代わりに、母材121よりも屈折率が低い(nm<nb)、又は高い(nm>nb)物質から成る部材を母材121に埋め込むことにより異屈折率部122を形成してもよい。
【0027】
個々の異屈折率部122は、上述の例には限らず、母材121とは屈折率が異なる部分が1つのみであってもよいし、3つ以上であってもよい。母材121とは屈折率が異なる部分が1つのみの場合には、例えば、平面形状が直角三角形(図3)や、直角三角形以外の三角形、三角形以外の多角形、楕円形等であってもよい。ここまでに例示した異屈折率部122の平面形状はいずれも非円形である。このような非円形の平面形状を有する異屈折率部122を用いることにより、2次元フォトニック結晶面発光レーザ10はフォトニック結晶層12に垂直な方向に単峰形の出射ビームでレーザ発振する。但し、本発明において円形の平面形状を有する異屈折率部122を用いることは妨げられない。
【0028】
異屈折率部122を配置する正方格子の周期長は、発振させようとするレーザ光のフォトニック結晶層12内における波長と同程度とすればよい。具体的には、真空中での波長(空気中での波長もほぼ同じ)がλ0であるレーザ光を発振させる場合には、周期長aは、フォトニック結晶層12中で光が感じる有効屈折率neff(母材121及び異屈折率部122の材料、並びにフォトニック結晶層12中で異屈折率部122が占める面積率で定まる)でλ0を除した値であるa=λ0/neffとすればよい。なお、異屈折率部122を配置する格子点は正方格子のものには限られず、三角格子や長方格子等であってもよい。
【0029】
以下、図1(b)及び図3に例示した、電流注入領域120内においてnm<nbであるフォトニック結晶層12におけるフィリングファクタ(FF)について説明する。FFは、異屈折率部122が配置されている格子点の格子(図1(b)及び図3の例では正方格子)を構成する単位格子123において、異屈折率部122が占める体積の割合により定義される。異屈折率部122が柱状であって各異屈折率部122の深さが同じである場合は、FFは異屈折率部122が占める面積の割合と等しくなる。
【0030】
図1(b)及び図3に一点鎖線で示した、正方格子に対して45°傾斜した方向に並ぶ複数個の異屈折率部122は、面積が互いに等しい。そして、それら異屈折率部122の面積は、図1(b)及び図3に右上から左下に向かう矢印Aで示した、前記一点鎖線に垂直な方向(この方向も正方格子に対して45°傾斜している)に向かって単調に増加している。一方、単位格子の面積は位置に依らずに等しい。従って、フォトニック結晶層12におけるFFは、母材121に平行な一方向である矢印Aの方向に向かって単調に増加している。
【0031】
これらの例では、任意の異屈折率部122において、該異屈折率部122よりも、矢印Aの方向に隣接する異屈折率部122の方が、面積は大きいか、又は等しい。但し、少なくとも一部の異屈折率部122では、該異屈折率部122よりも矢印Aの方向に隣接する異屈折率部122の方が面積が大きい(等しくはない)。全ての異屈折率部122において矢印Aの方向に隣接する異屈折率部122の方が面積が大きい構成は、FFが連続的に増加しているものに該当する。一方、一部の異屈折率部122において矢印Aの方向に隣接する異屈折率部122と面積が等しい構成は、FFが階段状に増加しているものに該当する。
【0032】
なお、図1(b)及び図3では矢印Aの方向に向かって異屈折率部122の面積が増加してゆくことを誇張して示している。実際のフォトニック結晶層12では、例えば後述の計算で示す例では、矢印Aの方向に数千個分(正方格子の周期長の数千×21/2倍)離れた異屈折率部122同士の面積の相違を1%未満あるいは0.1%未満としている。
【0033】
FFを一方向に関して単調に増加させるための構成は、ここまでに述べた異屈折率部122の平面形状の面積を一方向に関して単調に増加させたものの他に、異屈折率部122の深さを一方向に関して単調に増加させたものであってもよい。また、平面形状の面積と深さを組み合わせて、異屈折率部122の体積を一方向に関して単調に増加させたものであってもよい。
【0034】
上述の例では、電流注入領域120内においてnm<nbである場合に異屈折率部122のFFを所定の一方向に関して単調に増加させる例を示したが、電流注入領域120内においてnm>nbである場合には同様の方法により、異屈折率部122のFFを所定の一方向に関して単調に減少させることができる。例えば、図1(b)及び図3に示したものと同じように各異屈折率部122のFFが設定されている場合には、矢印Aとは逆向きの方向に関してFFが単調に減少していることとなる。
【0035】
上述の例で示した異屈折率部122のFFの代わりに、又はFFと共に、電流注入領域120内において、異屈折率部122が配置される格子の周期長(格子定数)を所定の一方向に関して単調に減少させるようにしてもよい。図4に示した例では、同図中の矢印Aの(左から右に向かう)方向に関して、周期長a1, a2…が単調に減少している。なお、矢印Aに垂直な方向(同図の上下方向)の周期長bは、位置に依らず同じである。この例では矢印Aの方向の周期長は連続的に減少させているが、階段状に減少させてもよい。
【0036】
ここまでに述べた、フォトニック結晶層12内の位置によるFFや周期長の相違は、電流注入領域120内に形成されていればよく、電流注入領域120の外には形成されていなくてもよい(電流注入領域120の外に形成されていてもよい)。
【0037】
(2) 本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザの動作
本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザ10の動作を説明する。第1電極191と第2電極192の間に所定の電圧を印加することにより、両電極から活性層11に電流が注入される。その際、第1電極191よりも第2電極192の方が面積が広いことから、活性層11及びフォトニック結晶層12には、第2電極192よりも狭く且つ第1電極191よりも広い範囲である電流注入領域120内に電流(電荷)が集中的に注入される(図2参照)。これにより、活性層11から所定の周波数帯内の周波数を有する発光が生じ、そのうち所定の周波数を有する光は、以下に述べるようにフォトニック結晶層12の電流注入領域120内において増幅されてレーザ発振する。
【0038】
フォトニック結晶層12内で増幅される周波数の値は、該2次元フォトニック結晶のフォトニックバンドとフォトニックバンドギャップ(図6ではPBGと略記)の境界であるバンド端と呼ばれるエネルギーに対応する。nm<nbである場合には、FFを所定の一方向に向かって単調に増加させる(図5の上図中の実線)と、バンド端周波数は該一方向に向かって単調に増加する(同・下図)。それに対して、nm>nbである場合には、FFを所定の一方向に向かって単調に減少させる(図5の上図中の破線)と、バンド端周波数は該一方向に向かって単調に増加する(同・下図)。一方、nmとnbの関係に依らず、周期長を所定の一方向に向かって単調に減少させる(図5の中図)と、バンド端周波数は該一方向に向かって単調に増加する(同・下図)。これらのいずれの場合も、バンド端周波数が最大値となる位置(図5の右端)では、該バンド端周波数が他の位置(図5の左側)におけるフォトニックバンドギャップ内のエネルギーに対応するため、該位置において光の閉じ込めの効果が最も高くなる(図6の左上図)。そのため、まず、バンド端周波数が最大値となる位置付近においてレーザ発振が生じる(同・左下図)。
【0039】
すると、当該位置付近ではキャリアが急激に消費されて減少してゆくことによって屈折率が増加してゆく。この屈折率の増加は、当該位置付近でのバンド端周波数が小さくなり、フォトニック結晶層12内のバンド端周波数の差が小さくなることに相当する(図6の中上図)。これにより、フォトニック結晶層12内でレーザ発振が生じる範囲が拡がり、レーザ光の出力が大きくなる(同・中下図)。すると、より広い範囲に亘ってキャリアが減少し(同・右上図)、レーザ発振が生じる範囲及びレーザ光の出力が小さくなり(同・右下図)、レーザ発振が停止する。ここまでの動作により、1パルス分のパルスレーザ光が出射される。その後、電流が注入されることによってキャリアの量が回復し、図6の左上図及び左下図に示した状態に戻り、ここまでに述べたのと同様の動作によってパルスレーザ光が繰り返し出射される。
【0040】
このようにフォトニック結晶層12内で生成されたパルスレーザ光は、フォトニック結晶層12に垂直な方向に回折され、第2電極192の窓部1921から出射する。
【0041】
(3) 本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザにおけるレーザ発振の計算及び実験
以下、本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザ10においてフォトニック結晶層12の構成が異なる複数の例について計算を行った結果、並びに一例について実験を行った結果を示す。
【0042】
[計算例1]
計算例1では、フォトニック結晶層12には、図1(b)に示した、平面形状が楕円形である主異屈折率部1221と円形である副異屈折率部1222を組み合わせたダブルホール型の異屈折率部122を正方格子状に配置したものを用いた。周期長(正方格子の格子定数)は276nmとした。各異屈折率部122のFFは、フォトニック結晶層12内の電流注入領域120を直径1mmの円として、その円内において図1(b)の矢印Aの方向に向かって最小値FFmin=0.0750から最大値FFmax=0.0755まで連続的に変化するように設定した。ここで、電流注入領域120におけるFF(以下、電流注入領域120におけるFFを単に「FF」と記載する)の最大値FFmaxと最小値FFminの差をΔFF=(FFmax-FFmin)と定義する。計算例1では、ΔFF=0.0005(0.05%)である。計算例1のFFの分布を有するフォトニック結晶層12では、電流注入領域120におけるバンド端周波数(以下、電流注入領域120におけるバンド端周波数を単に「バンド端周波数」と記載する)の最大値と最小値の差を該最小値で除した値であるδfは0.007%となる。なお、各異屈折率部122における主異屈折率部1221と副異屈折率部1222の面積の比は、FFの値に関わらず3:2とした。
【0043】
このようなフォトニック結晶層12を備える2次元フォトニック結晶面発光レーザ10において、前記電流注入領域に10Aの電流を連続的に注入した場合に出射するレーザ光の強度の時間変化を計算により求めた。その結果を図7に示す。電流の注入開始から約1.5ナノ秒後に、最初のパルスレーザ光が出射し、その後、約0.5ナノ秒の周期でパルスレーザ光が繰り返し発振している。1パルスあたりのパルス幅は、半値全幅で0.057ナノ秒である。
【0044】
図7に示した複数のパルスのうち、同図中に破線で囲んで示した1つにつき、時間(横軸)を拡大して図8に示す。図8は併せて、1つのパルスレーザの発振の初期、中期、及び終期におけるフォトニック結晶層12の電流注入領域内の光子分布をそれぞれ示す。光子分布の図では、破線の円内が電流注入領域且つFFの分布が形成されている領域であり、FFの分布は該円内の右上から左下に向かってFFが大きくなるように形成されている。これら光子分布の図より、初期にはFFが最も大きい左下に近い位置を中心にレーザ発振が生じ、中期には発振が電流注入領域の全体に拡がって単峰形となっており、終期には、FFが最も大きい左上に近い位置を中心にレーザ発振が生じている。
【0045】
[比較例]
比較例として、図1(b)と同様のダブルホール型の異屈折率部122のFFが位置に依らずに0.075という同じ値を有する点を除いて、計算例1と同じ構成を有するフォトニック結晶層12を備える2次元フォトニック結晶面発光レーザにつき、計算例1と同じ10Aの電流を連続的に電流注入領域に注入した場合に出射するレーザ光の強度の時間変化を計算により求めた。その結果を図9に示す。その結果、電流注入の開始直後にはややレーザ光の強度が変動するものの、約4ナノ秒経過した以降には5W程度の一定の出力で連続的にレーザ発振する。従って、比較例の構成で電流を連続的に注入すると、パルスレーザ光を得ることはできない。
【0046】
[計算例2]
図1(b)に示したダブルホール型の異屈折率部122を有するフォトニック結晶層12において、FFminは計算例1と同じ0.075とし、ΔFFを(a)0.0015(0.15%)、(b)0.0020(0.20%)、(c)0.0030(0.30%)とした場合についてレーザ光の強度の時間変化を計算した。この計算例では、周期長は計算例1と同じ276nmとし、電流注入領域に注入する電流は12Aとした。計算結果を図10に示す。いずれの例においてもパルスレーザ光が繰り返し発振している。パルス繰り返し周期は、ΔFFが0.0015のときに最も短く、ΔFFが0.0020、0.0030に増加するに従って長くなっている。ピーク強度は、ΔFFが0.0015及び0.0020のときに80Wを超える高い値が得られている。
【0047】
[計算例3]
図1(b)に示したダブルホール型の異屈折率部122を有するフォトニック結晶層12において、図11の上段に示すように、母材121に平行な前記一方向(矢印Aの方向)の位置に関してFFを(a)1次関数状に連続的に、(b)2次関数状に連続的に、(c)2段の階段状に、それぞれ変化させた場合についてレーザ光の強度の時間変化を計算した。(a)~(c)のいずれも、周期長は276nm、FFminは0.075、ΔFFは0.0005(0.05%)、電流注入領域に注入する電流は12Aとした。計算結果を図11の下段に示す。(a)~(c)のいずれにおいてもパルスレーザ光が繰り返し発振している。1パルスの波形は、位置に関するFFの変化が連続的である(a)及び(b)の例では出力の最小値が0Wまで減少するのに対して、FFの変化が階段状である(c)の例では出力の最小値が常に0Wよりも大きく、パルス発振と連続発振の中間の状態となっている。この結果は、位置に関するFFの変化が階段状である場合よりも連続的である場合の方が、安定したパルスレーザの発振が得られることを示している。
【0048】
[計算例4]
図3に示した、平面形状が直角三角形である1個の空孔から成るシングルホール型の異屈折率部122を有するフォトニック結晶層12を備える2次元フォトニック結晶面発光レーザ10についてレーザ光の強度の時間変化を計算した。この例では、電流注入領域は直径200μmの円とし、周期長は276nm、FFminは0.18、ΔFFは0.004(0.4%)とした。この場合におけるδfは0.028%である。計算結果を図12に示す。この例においてもパルスレーザ光が繰り返し発振している。
【0049】
[計算例5]
ここまでに示した計算例1~4ではいずれも、FFは正方格子に対して45°傾斜した一方向に関して単調に増加している。図13(a)に、このようなFFの位置による変化を模式図で示す。この図では、FFが増加してゆく方向を実線の矢印で示し、同じFFを有する位置を結んだ線(この線を「等FF線」と呼ぶ)を一点鎖線で示している。本発明では、図13(a)に示した例の他にも、例えば図13(b)に模式図で示すようにFFの位置による変化を形成してもよい。図13(b)の例では、円形の電流注入領域の境界(同図中に破線で示す)上に位置する1個の原点Oから放射状に延びる、実線の矢印で示した方向に向かってFFが増加してゆき、等FF線は原点Oを中心とする円弧状になっている。この図13(b)の例について、FFminを0.075、ΔFFを0.0015(0.15%)、周期長を276nm、電流注入領域を直径1mmの円、電流注入領域に注入する電流を10Aとしてレーザ光の強度の時間変化を計算した。この場合のδfは0.021%である。計算結果を図14に示す。この例においてもパルスレーザ光が繰り返し発振している。
【0050】
[計算例6]
次に、図11(b)と同様にFFを母材121に平行な一方向に向かって2次関数状に連続的に増加させる例において、電流注入領域を直径1.6mmの円に拡大すると共に、ΔFFを0.003(0.3%)に増加させ、電流注入領域に注入する電流を30A, 50A及び70Aにそれぞれ増加させた3つの場合につき、レーザ光の強度の時間変化を計算した。なお、図11(b)と同様に、異屈折率部の形状はダブルホール型、周期長は276nm、FFminは0.063とした。計算結果を図15に示す。この計算結果によれば、電流注入領域に注入する電流が50Aのときに350W以上、同電流が70Aのときに500W以上という、高いピーク出力を得ることができる。
【0051】
[実験例]
ダブルホール型の異屈折率部を正方格子状に配置した構成であって、周期長を276nm、FFminを0.075、ΔFFを0.22%、電流注入領域を直径1mmの円形とし、計算例1及び2と同様に母材に平行な一方向に関してFFを1次関数状に連続的に増加させたフォトニック結晶を有する2次元フォトニック結晶面発光レーザを作製した。作製した2次元フォトニック結晶面発光レーザにつき、電流注入領域に10Aの電流を注入する実験を行った。その結果、図16に示すように、パルス状のレーザ光が1ns(ナノ秒)未満の繰り返し周期で出力されることが確認された。なお、レーザ光の強度はストリークカメラにより測定した。
【0052】
次に、作製した2次元フォトニック結晶面発光レーザにつき、電流注入領域に注入する電流の大きさが10A~50Aの範囲内で異なる複数の実験を行い、各実験で得られたパルスレーザ光の出力及びパルス幅(半値全幅)を測定した。出力の測定結果を図17に、パルス幅の測定結果を図18に、それぞれ示す。電流注入領域に注入する電流が大きくなるほど、出力は大きくなり、パルス幅は狭く(パルスが急峻に)なる。電流が50Aのときに、ピーク出力が約100W、パルス幅が50ピコ秒未満というパルスレーザ光が得られた。
【0053】
次に、作製した2次元フォトニック結晶面発光レーザにつき、電流注入領域に注入する電流の大きさを4Aとして、フォトニック結晶層内の面内方向の各位置から出力される自然放出光の波長を測定した。ここでは、電流注入領域内の25個の部分領域の各々を測定対象とした。測定結果を図19に示す。図19では、これら25個の部分領域のうち、FFが最も大きい部分領域(同図における最も左且つ最も下の部分領域21)から出射する自然放出光の波長を基準波長とし、他の部分領域では基準波長からのずれの大きさを数値及び背景の色の濃淡で示した。この図によれば、FFが減少する方向である左下から右上に向かって、基準波長からのずれが正の方に大きくなっている。最も右且つ最も上の部分領域22と上記部分領域21との波長の相違は0.28nmであり、これはΔFFが0.22%である場合に相当する。このように、本実施形態の2次元フォトニック結晶面発光レーザでは、出射される光の波長がフォトニック結晶層内の面内方向の位置に依って最大で0.3nm程度相違するものの、その相違は波長の中央値(937.5nm)よりも十分に小さい。
【0054】
以上、本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザの実施形態を、幾つかの変形例を含めて説明したが、本発明はこれらの実施形態及び変形例には限定されず、本発明の主旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0055】
10…2次元フォトニック結晶面発光レーザ
11…活性層
12…フォトニック結晶層
120…電流注入領域
121…母材
122…異屈折率部
1221…主異屈折率部
1222…副異屈折率部
123…単位格子
13…スペーサ層
141…第1クラッド層
142…第2クラッド層
191…第1電極
192…第2電極
1921…窓部
1922…枠部
21、22…フォトニック結晶層中の部分領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19