(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】偽陽性シグナルを除去した抗原検出方法及びキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20240627BHJP
G01N 33/542 20060101ALI20240627BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G01N33/543 501J
G01N33/543 501M
G01N33/543 575
G01N33/542 A
G01N21/64 F
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022000292
(22)【出願日】2022-01-04
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】10-2020-0187548
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520447617
【氏名又は名称】ジェイエル メディラブズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ、チョン チン
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/045984(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0348307(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0344508(US,A1)
【文献】HEYDUK, W. et al.,Molecular Pincers: Antibody-Based Homogenous Protein Sensors,Analytical Chemistry,2023年05月21日,Vol.80,/No.13,p.5152-5159,DOI: 10.1021/ac8004154
【文献】HEYDUK, E. & HEYDUK, T.,Nucleic Acid-Based Fluorescence Sensors for Detecting Proteins,Analytical Chemistry,2005年01月20日,Vol.77/ No.4,p.1147-1156,DOI: 10.1021/ac0487449
【文献】TIAN, L. et al.,Molecular PINCERs for Biomarker Analysis and Their Potential Application in Hepatitis C Diagnosis,Antiviral Therapy,2012年12月07日,Vol.17,p.1437-1442,DOI: 10.3851/IMP2469
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 21/64
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材;
前記基材上に取り付け可能であり、蛍光物質で標識された捕捉鎖を有する捕捉抗体;
蛍光物質で標識され、前記捕捉鎖の塩基配列の一部又は全部に相補的である検出鎖を有する検出抗体;
前記検出鎖と前記捕捉鎖とが互いに相補的に結合するのを防ぐために前記捕捉鎖又は前記検出鎖に相補的に結合することができる塩基配列を有するブロッキング鎖;及び
前記ブロッキング鎖に相補的であり、前記ブロッキング鎖に結合することを通じて前記ブロッキング鎖を除去することができる除去鎖
を含
み、
前記検出鎖が前記捕捉鎖に相補的に結合した場合に、前記捕捉鎖の蛍光物質及び前記検出鎖の前記蛍光物質が互いとFRET対を形成する、偽陽性シグナルが除去された抗原検出用キット。
【請求項2】
前記除去鎖の長さが、前記ブロッキング鎖の長さよりも短い、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記ブロッキング鎖が、前記捕捉鎖及び前記検出鎖の両方に対して相補的でない追加的塩基配列をさらに含む、請求項
1に記載のキット。
【請求項4】
前記捕捉鎖の前記蛍光物質及び前記検出鎖の蛍光物質が、前記捕捉鎖及び前記検出鎖の特定の塩基、3’末端若しくは5’末端、又は骨格上で互いにドナー又はアクセプターとして働く、請求項
1に記載のキット。
【請求項5】
以下の式によって定義されるFRET効率が、前記FRET対から生じる蛍光シグナルから測定される、請求項
1に記載のキット。
FRET効率=(アクセプターによって放出される光の強度)/(ドナー及びアクセプターによって放出される光の強度の合計)
【請求項6】
(a)蛍光物質で標識された捕捉鎖を有する捕捉抗体を調製すること;
(b)蛍光物質で標識され、前記捕捉鎖の塩基配列の一部又は全部に相補的である検出鎖を有する検出抗体を調製すること;
(c)前記捕捉鎖及び前記検出鎖のうちの1つ以上にブロッキング鎖を相補的に結合させること;
(e)前記捕捉抗体を基材上に取り付けること;
(f)抗原、捕捉抗体、及び検出抗体の間で抗原-抗体反応を誘導するために前記抗原を含む試料を導入すること;
(g)前記ブロッキング鎖に相補的である除去鎖を導入することにより前記ブロッキング鎖を除去して、前記検出鎖を前記捕捉鎖に相補的に結合させること;及び
(h)前記検出鎖が前記捕捉鎖に結合することを通じて生じる蛍光シグナルを測定すること
を含
み、
前記検出鎖が前記捕捉鎖に相補的に結合した場合に、前記捕捉鎖の前記蛍光物質及び前記検出鎖の前記蛍光物質が互いとFRET対を形成する、偽陽性シグナルが除去された抗原検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、偽陽性シグナルが除去された抗原検出方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のイムノアッセイでは、捕捉抗体を用いて抗原を基材表面に固定し、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)や蛍光物質で標識した検出抗体を抗原に結合させ、HRPによる緩衝液の色の変化や蛍光物質の明るさなどを用いて抗原量を測定することを含む方法が多く用いられている。しかし、検出抗体は非特異的結合を介して抗原以外の他の部位(例えば、基材の表面)に結合し得る。その結果、測定された抗原の量は、偽陽性シグナルの存在のために不正確となりうる。このような偽陽性シグナルは、試料中に多量の抗原が存在する場合には無視することができるが、ウイルス抗原等の検出のための抗原の存在が少量である場合には大きなエラーが生じることがある。
図1は、従来技術のイムノアッセイにおいて生じ得る偽陽性の問題を示す図である。
【0003】
したがって、抗原が少量である場合には、大量の採血に伴う被験者の心理的・身体的負担を軽減し、診断の精度を高めるために、偽陽性シグナルがなく、感度の高い新規なアプローチの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許公開第20030190760号、発明の名称「高分子固相で行われるイムノアッセイにおける非特異的結合の減少」(2003年10月9日公開)
【文献】米国特許第8445293号「ラテラルフローイムノアッセイの特異性及び/又は精度を高める方法」(2013年5月21日登録)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の1つの局面は、
基材;
前記基材上に取り付け可能であり、蛍光物質で標識された捕捉鎖を有する捕捉抗体;
蛍光物質で標識され、前記捕捉鎖の塩基配列の一部又は全部に相補的である検出鎖を有する検出抗体;及び
前記検出鎖と前記捕捉鎖とが互いに相補的に結合するのを防ぐために前記捕捉鎖又は前記検出鎖に相補的に結合することができる塩基配列を有するブロッキング鎖
を含む、偽陽性シグナルが除去された抗原検出用キットを提供する。
【0006】
本発明の別の局面は、
(a)蛍光物質で標識された捕捉鎖を有する捕捉抗体を調製すること;
(b)蛍光物質で標識され、前記捕捉鎖の塩基配列の一部又は全部に相補的である検出鎖を有する検出抗体を調製すること;
(c)前記捕捉鎖及び前記検出鎖のうちの1つ以上にブロッキング鎖を相補的に結合させること;
(e)前記捕捉抗体を基材上に取り付けること;
(f)抗原、捕捉抗体、及び検出抗体の間で抗原-抗体反応を誘導するために前記抗原を含む試料を導入すること;
(g)前記ブロッキング鎖を除去して、前記検出鎖を前記捕捉鎖に相補的に結合させること;及び
(h)前記検出鎖が前記捕捉鎖に結合することを通じて生じる蛍光シグナルを測定すること
を含む、偽陽性シグナルが除去された抗原検出方法を提供する。
【0007】
本発明の上記及び他の目的、特徴及び利点は、添付の図面を参照してその例示的な実施形態を詳細に説明することによって、当業者にとってより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】従来のイムノアッセイにおいて生じ得る偽陽性の問題を示す図である。
【
図2】FRET-PAINT技術を用いて抗原を検出するプロセスにおいて生じる偽陽性の問題を示す。
【
図3】相補的配列を有する捕捉鎖及び検出鎖の結合がブロッキング鎖の導入によって妨げられることを示す。
【
図4】除去鎖を使用してブロッキング鎖を除去するプロセスを示す。
【
図5】検出鎖と相補的結合を形成する種々のブロッキング鎖を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書で用いる用語を簡単に説明する。
【0010】
本明細書において、用語「バイオマーカー」は、生体の正常状態又は病理学的状態をチェックするために使用され得る全てのタイプの生体材料を含む。
【0011】
本明細書において、用語「FRET」は、エネルギーが2つの隣接する蛍光物質の共鳴を介して伝達されるメカニズムを指す。具体的には、この用語が光によって励起された蛍光物質のエネルギーが別の隣接する蛍光物質に伝達される現象を指し、当業者によって認識される従来のFRETの全ての意味を含むことが意図され得る。
【0012】
本明細書において、「FRET効率」とは、蛍光体間の間隔に応じて異なるエネルギー移動効率が、光によって励起された蛍光体のエネルギーが隣り合う他の蛍光体に移動する現象を用いた数値で表されることを意味し、当業者が認識する従来のFRET効率の全ての意味を含むものとすることができる。
【0013】
本明細書において、「ドナー」という用語は光によって励起されたときにエネルギーが伝達される蛍光物質、すなわち、2つ以上の蛍光物質が互いに隣接しているときに比較的短い波長の光を吸収又は放出する蛍光物質を指す。
【0014】
本明細書において、「アクセプター」という用語は励起状態のドナーからエネルギーを受け取る蛍光物質、すなわち、2つ以上の蛍光物質が互いに隣接する場合に比較的長い波長の光を吸収又は放出する蛍光物質を指す。
【0015】
本明細書において、「鎖(strand)」という用語は、バイオポリマーの鎖(chain)、又はバイオポリマーのシミュレーションによって合成されたポリマーの鎖(chain)を指す。この場合、生体高分子は一本鎖構造又は二本鎖構造を有してもよく、核酸又は核酸類似体を含む。核酸にはデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)が含まれ、核酸類似体にはペプチド核酸(PNA)、ロック核酸(LNA)、モルホリノ核酸(MNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)などが含まれる。
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下に開示される実施形態に限定されるものではなく、様々な形態で実施することができることを理解されたい。したがって、例示的な実施形態に対するすべての改変、均等物及び置換は、本発明の範囲内に入ることが意図される。
【0017】
本明細書で使用される用語は例示のみを目的として使用され、本発明を限定することは意図されない。単数形「a」、「an」、及び「The」は文脈が明確に示さない限り、複数形も含むことを意図しており、本明細書で使用する場合、「含む(comprises、comprising)」、「含む(includes、including)」という用語は記載された特徴、整数、工程、操作、要素、構成要素及び/又はそれらのグループの存在を特定するが、1つ又は複数の他の特徴、整数、工程、操作、要素、構成要素及び/又はそれらのグループの存在又は追加を排除しないことがさらに理解されるであろう。
【0018】
要素が別の要素上にある(on)と言及される場合、それは、他の要素上に直接存在することができ、又は介在要素がそれらの間に存在することができることが理解されるであろう。
【0019】
本明細書で使用される用語(科学用語及び技術用語を含む)は特に断らない限り、当業者に一般に理解される意味を有する。さらに、一般に使用される辞書で定義される用語はその関連する領域の文脈において一貫した意味を有すると理解されるべきであり、本明細書で特に明確に定義されない限り、理想化された意味又は過度に形式的な意味として解釈されるべきではないことを理解されたい。
【0020】
また、添付図面を参照して多様な実施形態を説明する際に、特に断らない限り、同一要素の繰り返しの説明は省略する。
【0021】
最近の単分子蛍光顕微鏡技術の発達により、分子を1つずつ観察することができるようになった。この技術をバイオマーカーの検出に適用すると、感度はfg/mLの単位で1000倍増加する(Nature 473巻、484~488頁、2011年)。一般的に用いられる蛍光イメージングでは、観察対象の分子に蛍光物質を固定し、蛍光シグナルを用いて異なる種類のバイオマーカーを識別する方法が用いられる。この場合、色の異なる蛍光物質を固定し、色の違いを利用してバイオマーカーの種類を区別する方法が用いられるが、従来のイメージセンサを用いて別々に観察しうるのは3~4種類の蛍光物質のみである。したがって、単分子蛍光顕微鏡技術を用いた場合、感度は従来法に比べてfg/mL単位で1,000倍に増加するが、検出されるバイオマーカーの種類は依然として3つから4つに限られている。
【0022】
一方、単分子蛍光顕微鏡の高感度を維持しつつ、種々の標的物質を同時に検出する方法として、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)-PAINT技術がFRETに基づくDNA-PAINT技術として提供されている。FRETとは、励起されたドナーのエネルギーがアクセプターに移動する現象をいう。ドナー材料は一般に、アクセプタ材料よりも短い波長の光を放出する。この場合、ドナーの発光波長は、アクセプターの励起波長とスペクトル的に重なる。エネルギー移動速度と効率は、ドナーの発光波長とアクセプターの励起波長との間のスペクトルオーバーラップの程度、ドナーの量子効率、ドナーとアクセプターの遷移双極子の相対的なアラインメントの程度、ドナーとアクセプターとの間の距離などに依存する。
【0023】
例えば、FRET-PAINT技術によれば、ドッキング鎖は、それぞれドナー鎖のための部位及びアクセプター鎖のための部位であり得る2つのDNA結合部位を有し得る。単一分子局在化のために、アクセプターのFRETシグナルが使用される。FRET-PAINT技術を使用する場合、アクセプターは直接励起されず、FRETによって励起されて、イメージャー(ドナー及びアクセプター)濃度を数十~数百倍に増加させる。このため、DNA-PAINT(韓国特許第2195625号)に比べて、撮像速度を数十~数百倍向上させることができる。
【0024】
本明細書に開示される技術は、FRET-PAINT技術にも基づいているため、抗原を高感度かつ高精度に検出する方法及びキットを提供することも意図される。しかしながら、背景技術で述べたように、FRET-PAINT技術を用いて抗原を検出した場合であっても、偽陽性シグナルに関する問題は依然として存在する。これらの問題を解決するために、例えば、捕捉抗体及び検出抗体のそれぞれにFRET対を形成することができる蛍光物質と鎖を結合させる方法が使用され得る。すなわち、FRETは、検出抗体と捕捉抗体の両方が同時に抗原に結合した場合にのみ検出され得るので、偽陽性シグナルが生成されないことが予想され得る。しかし、この場合、偽陽性という他の問題も生じる可能性がある。
【0025】
図2は、FRET-PAINT技術を用いて抗原を検出するプロセスにおいて、偽陽性の問題が生じることを示す。
図2(a)において、1つ以上の蛍光物質で標識された1つ以上の検出鎖が検出抗体に結合され、そして1つ以上の蛍光物質で標識された1つ以上の捕捉鎖が捕捉抗体に結合される。検出鎖及び捕捉鎖の塩基配列のいくつか又は全ては、互いに相補的である。捕捉鎖が検出鎖に相補的に結合する場合、検出鎖において標識とされた蛍光物質及び捕捉鎖において標識とされた蛍光物質は、1つ以上のFRET対を形成する。従って、FRETシグナルが検出された場合、検出抗体及び捕捉抗体の両方が対応する位置に存在することが分かる。
図2(b)及び
図2(c)は、捕捉鎖が検出鎖に相補的に結合した場合に形成されるFRET対の例を示す。
図2(b)及び
図2(c)に示すように、検出鎖はドナーの蛍光物質で標識されていることが好ましく、捕捉鎖はアクセプターの蛍光物質で標識されていることが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、
図2(b)に示すように、ドナーとアクセプターにそれぞれ1つの蛍光物質を用いてもよいし、
図2(c)に示すように、ドナーとアクセプターに2つ以上の蛍光物質を用いてもよい。
【0026】
しかしながら、捕捉鎖と検出鎖との間のFRETシグナルを観察して抗原を検出する方法を用いた場合であっても、
図2(d)に示すように、検出鎖と捕捉鎖との塩基配列が相補的であるため、検出抗体と捕捉抗体との間に抗原がなくても、検出鎖と捕捉鎖とが自然に結合し、偽陽性シグナルが発生することがある。
【0027】
したがって、本明細書に開示する技術の一態様によって、ブロッキング鎖を導入することにより偽陽性シグナルが除去された、抗原を検出するためのキットが提供される。
【0028】
抗原を検出するためのキットは、基材と、基材上に取り付け可能であり、蛍光物質で標識された捕捉鎖を有する捕捉抗体と、蛍光物質で標識され、捕捉鎖の塩基配列の一部又は全部に相補的である検出鎖を有する検出抗体と、ブロッキング鎖とを含む。
【0029】
基材は、標的抗原を捕捉及び観察するために使用される媒体である。この場合、基材の形状は特に限定されないが、平面状、球状、棒状、又はその他の非典型的形状であってもよい。この場合、基材は、ガラス、石英、プラスチック等から形成されてもよい。基材は、一般にはガラス材料で作られている、平面形状のスライドガラス又はカバースリップでありうる。好ましくは、基材は#1又は#1.5のカバースリップであってもよい。捕捉抗体を取り付けるために、ポリエチレングリコール(PEG)-ビオチンなどの有機材料で基材を処理してもよい。
【0030】
捕捉抗体はウイルス又はバイオマーカーなどの抗原に特異的に結合し、抗原を捕捉することができる抗体である。この場合、捕捉抗体の表面にビオチンを導入し、ビオチンに結合するアビジン、ニュートラアビジン、又はストレプトアビジンを基材に導入することによって、捕捉抗体を基材に結合させることができる。検出抗体は、捕捉抗体に結合した抗原に特異的に結合し得る抗体である。
【0031】
本明細書において、捕捉抗体及び検出抗体として使用される「抗体」はモノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片(例えば、所望の生物学的活性を示す抗体の可変領域及び他のドメイン)を特に含み得る。本明細書において、抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の両方を含んでもよく、また、すべてのタイプのキメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体を含んでもよい。好ましくは、抗体はFab、F(ab)2、Fab’、F(ab’)2、Fv、ダイアボディ、ナノボディ、又はscFvを含み得る。より好ましくは、抗体はscFv、Fab、ナノボディ、及び免疫グロブリン分子を含み得る。抗体が免疫グロブリンに加えて標的物質に特異的に結合し得ることから、本明細書において、「抗体」は、抗体と同じ機能を有し得る、核酸、核酸類似体、及びペプチドからなるアプタマーを含む。
【0032】
本明細書において、「鎖(strand)」は、一般的な形状、蛍光物質を取り付けるために官能基が導入された形状、又は蛍光物質が既に付いている形状など、様々な形状を有することができる。鎖に官能基を導入する際には、所望の位置に所望の蛍光物質を取り付けてもよいし、1つの鎖に同じ官能基を取り付けてもよいし、異なる官能基を取り付けてもよい。ドナーとアクセプターとの間の距離はドナーとアクセプターとが結合する鎖の位置に応じて変化し、FRET効率も変化し得る。この性質の使用は、多重検出様式で標的抗原を検出することを可能にする。
【0033】
蛍光体は紫外線、電気エネルギー、熱エネルギーなどの外部エネルギーによって励起されて光に変換する材料であり、有機蛍光体又は無機蛍光体を含むことができる。有機蛍光体としては例えば、ローダミン、アレキサフルオル色素、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、5-カルボキシフルオレセイン(FAM)、ATTO色素、BODIPY、CF色素、シアニン(Cy)色素、DyLight Fluor、テキサスレッド等を挙げることができ、無機蛍光体としては量子ドットを挙げることができる。
【0034】
検出鎖が捕捉鎖に相補的に結合すると、捕捉鎖の蛍光物質及び検出鎖の蛍光物質が、互いにFRET対を形成する。捕捉鎖の蛍光物質及び検出鎖の蛍光物質は、捕捉鎖及び検出鎖の上の特定の塩基、3’末端若しくは5’末端、又は骨格上で互いにドナー又はアクセプターとして働きうる。この場合、次式で定義されるFRET効率は、FRET対から生成される蛍光シグナルから測定することができる。
【0035】
FRET効率=(アクセプターによって放出される光の強度)/(ドナー及びアクセプターによって放出される光の強度の合計)
【0036】
一方、捕捉鎖、検出鎖、及びブロッキング鎖は、好ましくはDNA、RNA、PNA、LNA、MNA、GNA、TNA、又はそれらの類似体(analog)のような核酸であり得る。
【0037】
ブロッキング鎖は、捕捉鎖又は検出鎖に相補的に結合することができる塩基配列を有する。好ましくは、ブロッキング鎖が捕捉鎖又は検出鎖のいずれにも相補的でない追加的塩基配列を有し得る。ブロッキング鎖の存在は、検出鎖及び捕捉鎖が互いに相補的に結合することを妨げ得る。この場合、ブロッキング鎖は、捕捉鎖、検出鎖、又は捕捉鎖及び検出鎖のすべてに既に結合していてもよい。
【0038】
図3は、相補的配列を有する捕捉鎖及び検出鎖の結合がブロッキング鎖の導入によって妨げられることを示す。
図3に示すように、ブロッキング鎖は、検出鎖又は捕捉鎖のいずれか一方又は両方に取り付けることができる。
【0039】
ブロッキング鎖を用いた基本的な分析手順は、1)基材の表面上に捕捉抗体を固定し、残留した捕捉抗体を洗浄すること、2)抗原を捕捉抗体に結合させること、及び3)検出抗体を抗原に結合させ、残留した検出抗体を洗浄すること、を含みうる。
【0040】
図3に示すように、検出鎖及び捕捉鎖の少なくとも一方が別個の相補鎖の全部又は一部に結合している場合、検出鎖及び捕捉鎖は、互いに安定して相補的に結合しないことがある。このように検出鎖及び捕捉鎖が互いに相補的に結合するのを防止する別個の追加の鎖を、ブロッキング鎖と称しうる。一方、ブロッキング鎖の一部は検出鎖又は捕捉鎖のいずれにも相補的でない塩基配列を含んでもよく、このような塩基配列はこれらの鎖に結合せず、したがってブロッキング鎖を除去するために使用されうる。偽陽性の問題は、ブロッキング鎖の導入を実現することによって解決することができる。次いで、ブロッキング鎖が除去されると、捕捉鎖は、検出鎖に相補的に結合して、FRET対を形成し得る。
【0041】
1つの実施形態によれば、抗原を検出するためのキットは、除去鎖をさらに含み得る。除去鎖はブロッキング鎖に相補的であり、ブロッキング鎖への結合を通して捕捉鎖からブロッキング鎖を除去するのに役立つ。
【0042】
図4は、除去鎖を使用してブロッキング鎖を除去するプロセスを示す。ブロッキング鎖が捕捉鎖に結合する一例を
図4に示す。まず、ブロッキング鎖に相補的な除去鎖(点線で示す)を注入する。この場合、ブロッキング鎖の露出領域は、除去鎖と相補的に結合して除去鎖と十分な数の塩基対を形成することができるように、十分に長い。その結果、ブロッキング鎖と除去鎖との間の結合は安定する(
図4(a))。
【0043】
塩基配列の2つの相補鎖の結合は、塩基間の水素結合を介して維持される。この場合、水素結合は非常に弱い結合であるため、捕捉鎖の末端とブロッキング鎖との結合が断続的に切断されることがある。この場合、除去鎖はブロッキング鎖に結合することができる(
図4(b))。
【0044】
次に、除去鎖全体がブロッキング鎖に結合すると、ブロッキング鎖の一部が捕捉鎖への結合を維持することができる。この場合、ブロッキング鎖と捕捉鎖との間に相補的に結合する塩基対の数は十分ではなく、結合を不安定にする(
図4(c))。
【0045】
その結果、ブロッキング鎖は捕捉鎖から分離され、検出鎖に相補的な捕捉鎖の領域を露出させ、検出鎖は最終的に捕捉鎖に相補的に結合する(
図4(d))。
【0046】
ブロッキング鎖は捕捉鎖と相補的であり、除去鎖はブロッキング鎖と相補的であるため、除去鎖は捕捉鎖と同じ塩基配列を有する。また、捕捉鎖は検出鎖と相補的であるため、除去鎖も検出鎖と相補的な配列を有する。したがって、除去鎖は、ブロッキング鎖以外の検出鎖に結合することができる。
【0047】
したがって、除去鎖の長さは、ブロッキング鎖の長さよりも短いことが好ましい。互いに相補的に結合している2本の鎖間の結合親和性は、鎖の長さに比例する。したがって、この場合、除去鎖と検出鎖との結合は安定的でないため、検出鎖と除去鎖が互いに結合しても検出鎖は短時間で除去鎖から分離され、検出鎖は大部分の時間、一本鎖状態に維持される。除去鎖がブロッキング鎖に結合して捕捉鎖からブロッキング鎖を除去すると、検出鎖及び捕捉鎖は、互いに相補的に結合することができる。
【0048】
除去鎖の長さは、特に限定されず、鎖を構成する材料の種類、塩基配列、塩基配列中のグアニン(G)又はシトシン(C)の比率、緩衝液の種類及び温度、pH、カチオンの濃度などによって異なる。この場合、除去鎖は例えば、5~100bpの長さを有し得る。
【0049】
先の実施形態によれば、ブロッキング鎖を除去し、検出鎖と捕捉鎖との間の相補的結合を誘導するために、緩衝液の置換なしに、除去鎖のみを添加することができる。しかしながら、他の実施形態によれば、緩衝液が使用される場合、ブロッキング鎖は、除去鎖を使用せずに除去されうる。
【0050】
図5は、検出鎖と相補的結合を形成する種々のブロッキング鎖を示す。
図5に示すように、検出鎖又は捕捉鎖のいずれかの少なくとも1つの鎖の一部又は全部をブロッキング鎖に結合させ、次いで抗原-抗体反応を完了させる。その後、ブロッキング鎖は、相補的結合を切断する緩衝液で既存の緩衝液を置換することによって、除去鎖なしに除去され得る。次いで、捕捉鎖は、緩衝液を前の緩衝液で置換することによって、検出鎖に結合され得る。この場合、ブロッキング鎖は検出鎖及び捕捉鎖の両方に相補的ではない追加的塩基配列を有ており、これは望ましいが、ブロッキング鎖が追加的塩基配列を有さないことも可能である。
【0051】
本明細書の別の態様によれば、ブロッキング鎖を導入することによって偽陽性シグナルが除去された抗原検出方法が提供される。前記抗原検出方法は、(a)蛍光物質で標識された捕捉鎖を有する捕捉抗体を調製すること;(b)蛍光物質で標識され、前記捕捉鎖の塩基配列の一部又は全部に相補的である検出鎖を有する検出抗体を調製すること;(c)前記捕捉鎖及び前記検出鎖のうちの1つ以上にブロッキング鎖を相補的に結合させること;(e)前記捕捉抗体を基材上に取り付けること;(f)抗原、捕捉抗体、及び検出抗体の間で抗原-抗体反応を誘導するために前記抗原を含む試料を導入すること;(g)前記ブロッキング鎖を除去して、前記検出鎖を前記捕捉鎖に相補的に結合させること;及び(h)前記検出鎖が前記捕捉鎖に結合することを通じて生じる蛍光シグナルを測定すること、を含む。
【0052】
工程(c)におけるブロッキング鎖の結合は、工程(e)における捕捉抗体の基材への取り付けの前又は後に行うことができる。
【0053】
基材に取り付けられた捕捉抗体を用いる場合には、例えば、捕捉抗体を0.06 M炭酸塩緩衝液又は重炭酸塩緩衝液(pH9.5)で希釈し、希釈された液体を所定の温度で所定時間、基材と接触させることにより、取り付けることができる。
【0054】
そして、基材に取り付けられた捕捉抗体は、検体試料中の抗原と複合体を形成する。複合体形成後、非特異的に結合した抗体や汚染物質等を除去する目的で、洗浄緩衝液のような洗浄剤(Tween 20等)、蒸留水などで複合体を洗浄することが好ましい。
【0055】
試料の種類は、検出対象物質を含む試料であれば特に限定されない。この場合、試料は、組織、血液、血清、血漿、唾液、粘膜液、尿などでありうる。例えば、試料は、疾患を有することが疑われる動物又はヒト被験体から得られうる。
【0056】
抗原は、ウイルス、細菌、核酸、ペプチド、タンパク質、小胞体、miRNA、エキソソーム、循環腫瘍細胞、バイオマーカーなどを含み得る。好ましくは、抗原はバイオマーカーであり得る。
【0057】
本明細書に開示する技術は、細胞、組織、臓器等を観察するために用いることができる。特に、本明細書に開示される技術は早期に疾患を迅速に診断するために、一度の検査によって様々なタイプの生体材料を検出することができるという点で、バイオマーカーを検出するために非常に有効に使用することができる。
【0058】
バイオマーカーは生物学的処理過程、病原性誘発過程、及び処置のための薬理的過程の測定又は評価のために、従来の科学及び医学の分野で使用される限り、いかなる制限もなく使用され得るが、本発明は特にそれらに限定されない。
【0059】
例えば、バイオマーカーは、血液、唾液、尿などの生物学的流体から検出され得るポリペプチド、ペプチド、核酸、タンパク質、又は代謝産物であり得る。具体的には、バイオマーカーがα-フェトプロテイン(AFP)、CA15-3、CA27-29、CA19-9、CA-125、カルシトニン、カルレチニン、がん胎児性抗原(CEA)、CD34、CD99、MIC-2、CD117、クロモグラニン、サイトケラチン(様々なタイプ:TPA、TPS、Cyfra21-1)、デスミン、上皮膜抗原(EMA)、第VIII因子、CD31、FL1、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、グロス嚢胞性疾患流体タンパク質(GCDFP-15)、HMB-45、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、免疫グロブリン、インヒビン、ケラチン(様々なタイプのケラチン)、リンパ球マーカー、MART-1(Melan-A)、Myo D1、筋肉特異的アクチン(MSA)、ニューロフィラメント、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)、前立腺特異抗原(PSA)、PTPRC(CD45)、S100タンパク質、平滑筋アクチン(SMA)、シナプトフィジン、チミジンキナーゼ(TK)、サイログロブリン(Tg)、甲状腺転写因子-1(TTF-1)、M2-PK、ビメンチン、インターロイキン、CD24、CD40、インテグリン、シスタチン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)、MCP、VEGF、GLP、ICA、HLA-DR、ICAM、EGFR、FGF、BRAF、GFEB、FRS、LZTS、CCN、ムチン、レクチン、アポリポタンパク質、チロシン、神経細胞接着分子様タンパク質、フィブロネクチン、グルコース、尿酸、炭酸脱水酵素、コレステロールなどを含み得る。
【0060】
また、試料はバイオマーカーを含まない溶液で希釈されてもよく、試料に含まれるバイオマーカーの濃度はバイオマーカーの種類に応じてfg/mLからmg/mLまで異なってもよい。好ましくは、試料が画像センサを使用して適切な数のバイオマーカー分子を検出するために、様々な比率で希釈され得る。好ましくは、異なる比率で希釈された同じ試料を希釈してもよい。最も好ましくは、試料が1:10~1,000の重量比で数回希釈され、使用され得る。
【0061】
捕捉抗体又は検出抗体に鎖を取り付ける方法は、当技術分野で公知の従来のタンパク質分子に核酸分子を結合させる方法を使用して実施され得る。例えば、鎖は、2つの異なる反応性基を共に有する化合物を用いて核酸分子とタンパク質分子との間で結合反応を行うことによって取り付けることができる。一例として、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)は、アミンと反応するNHSエステル基及びチオールと反応するマレイミド基を有する。この場合、チオール基が取り付いた鎖をSMCCと反応させ、反応生成物を検出抗体と反応させると、鎖は検出抗体のN末端又はリジン中に存在するアミン基と反応し、鎖が検出抗体に取り付けられる。
【0062】
一方、ブロッキング鎖は上記のように、検出鎖及び捕捉鎖が互いに相補的に結合するのを防止する別個の追加の鎖である。ブロッキング鎖が検出鎖又は捕捉鎖に結合した後、捕捉鎖は、ブロッキング鎖の除去によって検出鎖に相補的に結合してFRET対を形成することができる。ブロッキング鎖の長さは、検出鎖又は捕捉鎖への相補的結合を維持するために適切に制御され得る。
【0063】
検出鎖又は捕捉鎖の長さは特に限定されないが、例えば、鎖を構成する材料の種類、塩基配列、塩基配列におけるグアニン(G)又はシトシン(C)の比率、緩衝液の種類及び温度、pH、カチオンの濃度などの結合親和性に影響を及ぼす要因、並びに標識する蛍光物質の数を考慮して、10~300bpの範囲でありうる。ブロッキング鎖の長さは、5~150bpの範囲でありうる。
【0064】
一実施形態によれば、ブロッキング鎖に相補的な除去鎖を導入してブロッキング鎖を除去することができる。ここで、除去鎖の長さが長すぎる場合、除去鎖は、検出鎖に安定的に相補的結合し得る。一方、除去鎖の長さが短すぎる場合、除去鎖はブロッキング鎖に相補的に結合するが、ブロッキング鎖の残りの領域は捕捉鎖に安定的に相補的結合するのに十分な長さであるため、ブロッキング鎖が捕捉鎖から分離されないことがある。除去鎖の適切な長さは、鎖を構成する材料の種類、塩基配列、塩基配列中のグアニン(G)又はシトシン(C)の比率、緩衝液の種類及び温度、pH、カチオンの濃度などに応じて適宜決定することができる。除去鎖が検出鎖又は捕捉鎖に安定的に結合するのを防ぐため、除去鎖の長さはブロッキング鎖の長さより短いことが好ましい。
【0065】
別の実施形態によれば、相補的結合を切断する緩衝液を使用して、ブロッキング鎖を除去することができる。
【0066】
なお、蛍光シグナルの測定は、単分子顕微鏡を用いて蛍光シグナルを撮像することにより行ってもよい。2つの異なる蛍光物質が非常に近い位置にある場合に、蛍光物質(ドナー)のエネルギーが別の蛍光物質(アクセプター)に移動する現象をFRETと呼ぶ。検出鎖が捕捉鎖に相補的に結合する場合、捕捉鎖の蛍光物質及び検出鎖の蛍光物質は、互いにFRET対を形成し得る。従って、標的抗原は、上記のようなFRET対の形成によって蛍光シグナルが生成される位置に存在することがわかる。
【0067】
結論として、上記の偽陽性シグナルが除去された抗原検出用キット及び抗原の検出方法によれば、複数の診断を行うことが容易であり、FRET-PAINT技術を高感度に用いても、除去鎖又は緩衝液の交換とブロッキング鎖の導入により、偽陽性シグナルを容易に除去することができる。したがって、検体中の種々のバイオマーカー又は抗原(ウイルスなど)の痕跡を検出しつつ、生じうる誤差を顕著に低減することができる。
【0068】
以上、添付図面を参照して様々な実施形態を説明したが、当業者には詳細な説明から様々な技術的変更及び変形がなされうる。例えば、本明細書に記載された技術は本明細書に記載された方法とは異なる順序で実施されてもよく、及び/又は本明細書に記載された構成要素は、組み合わされてもよく、又は本明細書に記載された方法とは異なる形態で、又は他の構成要素と、組み合わされてもよい。あるいは、取り換えた場合又は等価物で置換した場合であっても、適切な結果を得うる。したがって、他の実施形態、他の実施態様、及び特許請求の範囲と同等のものは、後述の特許請求の範囲の範囲内にある。