(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】医療用ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
A61L 27/56 20060101AFI20240627BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20240627BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20240627BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A61L27/56
A61L27/02
A61L27/10
A61L27/12
(21)【出願番号】P 2022002854
(22)【出願日】2022-01-12
(62)【分割の表示】P 2018546332の分割
【原出願日】2017-10-16
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2016203318
(32)【優先日】2016-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 医療分野研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進プログラム「革新的硬組組織再生・再建システム創製」研究委託、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】石川 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】都留 寛治
(72)【発明者】
【氏名】土谷 享
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】中島 康晴
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-335574(JP,A)
【文献】特開2003-320515(JP,A)
【文献】国際公開第2008/041563(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/034876(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/038083(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/035751(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052502(WO,A1)
【文献】ナノ微粒子の体内動態可視化法の開発 平成18-20年 総合研究報告書,2009年,第301-307頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/56
A61L 27/02
A61L 27/10
A61L 27/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延びる複数の貫通孔が隙間なく並べられ、前記複数の貫通孔の貫通方向の両端に2つの平面を備えた
、骨組織配向化誘導が可能な医療用ハニカム構造体であって、
前記貫通孔の側壁が欠損して形成された貫通孔溝と、該貫通孔溝に隣接する貫通孔入口とを外周側部に備え、該貫通孔溝及び貫通孔入口を備えた貫通孔の少なくとも一部には、複数の貫通孔溝及び貫通孔入口が設けられており、
前記貫通孔溝の幅方向の長さに対する長手方向の長さの比が1.5以上である
ことを特徴とする医療用ハニカム構造体。
【請求項2】
外周側部に貫通孔の貫通方向に対して傾斜する傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項3】
前記傾斜面が複数形成されていることを特徴とする請求項2記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項4】
最外層の貫通孔の数に対する貫通孔入口の数の比が0.05以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項5】
貫通孔溝及び貫通孔入口が、少なくとも最外層及び該最外層の内側の第2外層に設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項6】
外周側面における貫通孔溝及び貫通孔入口が形成された凹凸面の割合が、10%以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項7】
貫通孔の側壁に貫穿された貫穿孔が設けられていることを特徴とする請求項1~6のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項8】
貫通孔の径が5μm以上400μm以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項9】
貫通孔の隔壁の厚さが10μm以上300μm以下であることを特徴とする請求項1~8のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項10】
貫通孔の隔壁の厚さに対する貫通孔の径の比が0.2以上20以下であることを特徴とする請求項1~9のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項11】
外周側部の外周側壁の厚さが300μm以下であることを特徴とする請求項1~10のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項12】
貫通孔の径に対する長手方向の長さの比が3以上であることを特徴とする請求項1~11のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項13】
10
-8m
3以上10
-3m
3以下のブロックであることを特徴とする請求項1~12のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項14】
少なくともカルシウム化合物を含有する組成物からなることを特徴とする請求項1~13のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項15】
カルシウム化合物が、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム及びカルシウム含有ガラスからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項14記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項16】
アパタイト、β型リン酸三カルシウム、α型リン酸三カルシウム及びリン酸八カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する組成物からなることを特徴とする請求項1~15のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項17】
炭酸アパタイトを含有する組成物からなることを特徴とする請求項1~16のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項18】
高分子材料を含有する組成物からなることを特徴とする請求項1~17のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
【請求項19】
材料をハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、
該外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁の少なくとも一部を除去し、外周側部に、貫通孔溝及び貫通孔入口を形成する外周側部加工工程と、
を有することを特徴とする請求項1~18のいずれか記載の医療用ハニカム構造体の製造方法。
【請求項20】
請求項1~18のいずれか記載の医療用ハニカム構造体から医療用ハニカム構造体粉砕物を製造する方法であって、
材料をハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、
該外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁の少なくとも一部を除去し、外周側部に、貫通孔溝及び貫通孔入口を形成する外周側部加工工程と、
前記貫通孔溝及び貫通孔入口を形成したハニカム構造体を、10
-12m
3以上10
-8m
3未満の大きさに破砕する破砕工程と、
を有することを特徴とする医療用ハニカム構造体破砕物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用材料及びその製造方法に関する。より詳しくは、医療分野又は医療に関係する分野で、骨・歯などの組織再生・再建術式や、再生医療のスキャッフォールドなどに用いられるハニカム構造を有する医療用材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医科臨床及び歯科臨床においては、欠損した組織を医療材料で再生・再建する場合がある。また、その際に、医療材料が周囲組織と結合することを期待される場合がある。医療材料と周囲組織の結合などの重要な初期ステップは材料表面への細胞の接着や組織の結合である。医療材料が周囲組織に固定されないと組織の伝導や細胞の遊走は起こりにくい。
【0003】
医療材料の中でも、多孔性材料は、細胞や組織が内部に侵入しやすいため優れた機能を示すことが多い。多孔性材料は、独立気孔性多孔体と連通多孔体に分類されるが、医療材料の組織への置換を期待するなどの場合、細胞が材料内部に侵入できる連通多孔体の有用性が高い。そのため、特許文献1や2に見られるような気孔形成材を導入して焼却することによって連通多孔体を製造する方法が提案されている。
【0004】
一方、非特許文献1で報告されているように、骨などの組織は部位に応じて様々に配向しており、組織が配向することによって機能が向上することがわかってきている。しかしながら、非特許文献2や3などで指摘されているように、再生骨は配向性に乏しく機能性に乏しいため、配向化誘導が必要であることが指摘されている。
【0005】
配向性連通多孔体については、特許文献3~7に見られるような霜柱の原理を応用して製造する方法が提案されている。しかしながら、霜柱の原理を応用して製造する配向性の連通多孔体の配向性は必ずしも十分ではない。また、霜柱成長のために厳密な温度管理が必要であり、生産性に乏しく、製造コストが高い。また、形態が完全に同じである配向性連通多孔体が製造できないなどの大きな問題がある。
【0006】
一方、特許文献8や9などで報告されている押出成形などによって製造されるハニカム構造体は、理想的な配向性連通多孔体を示す。しかしながら、これまでに製造されたハニカム構造体は必ずしも十分な組織結合能や細胞接着能を示さず、組織再生・再建に満足できる医療材料ではなかった。
【0007】
そのため、特許文献10では、ハニカム構造体を貫通孔方向に平行な平面で切断して板状に形成された基板部の表面に、複数の溝を形成させる技術が開示されている。外周側壁を保ったハニカム構造体に比較して、特許文献10で開示した技術は、細胞あるいは組織の材料表面への接着性あるいは結合性に優れるが、外周側壁からハニカム構造体内部には細胞や組織が侵入できないため、周囲組織との結合などの機能は十分とはいえなかった。
【0008】
また、特許文献11では、ハニカム構造体の外周側壁を貫通する穴をあける技術が開示されている。このことによって、外周側壁からハニカム構造体内部に細胞や組織が侵入できる。そのため、外周側壁に穴がないハニカム構造体に比較して、特許文献11で開示された技術は、細胞あるいは組織の材料表面への接着性あるいは結合性に優れるが、製造コストが極めて高い。さらに、周囲組織と外周面との結合能力は十分ではなかった。また、外周側壁における周囲組織の配向性が全く制御できないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3470759号公報
【文献】特許第4802317号公報
【文献】特許第3858069号公報
【文献】特許第3940770号公報
【文献】特開2008-230910号公報
【文献】特開2010-18459号公報
【文献】特開2012-148929号公報
【文献】特開2004-298407号公報
【文献】特開2005-152006号公報
【文献】特開2004-298545号公報
【文献】特開2005-110709号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Nakano T. et al, “Unique alignment and texture of biological apatite crystallites in typical calcified tissues analyzed by micro-beam X-ray diffractometer system” Bone 31[4] (2002) 479-487.
【文献】Nakano T. et al, “Biological apatite (BAp) crystallographic orientation and texture as a new index for assessing the microstructure and function of bone regenerated by tissue engineering” Bone 51 (2012) 741-747.
【文献】Ishimoto T. et al “Degree of biological apatite c-axis orientation rather than bone mineral density controls mechanical function in bone regenerated using rBMP-2” Journal of Bone and Mineral Research 28 (2013) 1170-1179.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような気孔形成材を導入して焼却することによって連通多孔体を製造する方法では、配向性がない多孔体、配向性に乏しい多孔体、連通性のない気孔が存在する多孔体が製造されていた。
【0012】
また、霜柱の原理を応用して製造する配向性連通多孔体は、配向性が十分ではなかった。さらに、霜柱成長のために厳密な温度管理が必要であり、生産性に乏しく、製造コストが高い、形態が完全に同じである一軸配向性の連通多孔体が製造できないといった問題があった。
【0013】
また、押出成形などによって製造されるハニカム構造体は、理想的な配向性連通多孔体であるため、配向性に優れる医療材料の提供が期待されていたが、これまでに提供されたハニカム構造体は必ずしも十分な細胞接着能や組織結合能力、配向組織形成能を示すものではなく、また、実用化可能な製造コストで製造できるものではなかった。
【0014】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、(1)細胞あるいは組織の材料表面への接着性あるいは結合性に優れ、(2)配向した組織が再生・再建され、(3)機械的強さに優れ、(4)組織置換材料として用いられる場合においては、迅速に所望の組織に置換され、(5)安価に製造できる、という医療用材料に望まれる要求を満足する医療用ハニカム構造体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体の外周側部に、ハニカム構造を構成する貫通孔の側壁が欠損して形成された貫通孔溝と、該貫通孔溝に隣接する貫通孔入口とを形成することにより、上記(1)~(5)の要求を満足する医療用材料とすることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]一方向に延びる複数の貫通孔を備えた医療用ハニカム構造体であって、
その外周側部に、前記貫通孔の側壁が欠損して形成された貫通孔溝と、該貫通孔溝に隣接する貫通孔入口とを備えていることを特徴とする医療用ハニカム構造体。
[2]外周側部に貫通孔の貫通方向に対して傾斜する傾斜面が形成されていることを特徴とする[1]記載の医療用ハニカム構造体。
[3]貫通孔溝の幅方向の長さに対する長手方向の長さの比が1.5以上であることを特徴とする[1]又は[2]記載の医療用ハニカム構造体。
[4]最外層の貫通孔の数に対する貫通孔入口の数の比が0.05以上であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[5]貫通孔溝及び貫通孔入口が、少なくとも最外層及びその内側の第2外層に設けられていることを特徴とする[1]~[4]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[6]外周側面における貫通孔溝及び貫通孔入口が形成された凹凸面の割合が、10%以上であることを特徴とする[1]~[5]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[7]貫通孔の側壁に貫穿された貫穿孔が設けられていることを特徴とする[1]~[6]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[8]貫通孔の径が5μm以上400μm以下であることを特徴とする[1]~[7]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[9]貫通孔の隔壁の厚さが10μm以上300μm以下であることを特徴とする[1]~[8]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[10]貫通孔の隔壁の厚さに対する貫通孔の径の比が0.2以上20以下であることを特徴とする[1]~[9]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[11]外周側部の外周側壁の厚さが300μm以下であることを特徴とする[1]~[10]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[12]貫通孔の径に対する長手方向の長さの比が3以上であることを特徴とする[1]~[11]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[13]10-8m3以上10-3m3以下のブロックであることを特徴とする[1]~[12]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[14]少なくともカルシウム化合物を含有する組成物からなることを特徴とする[1]~[13]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[15]カルシウム化合物が、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム及びカルシウム含有ガラスからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[14]記載の医療用ハニカム構造体。
[16]アパタイト、β型リン酸三カルシウム、α型リン酸三カルシウム及びリン酸八カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する組成物からなることを特徴とする[1]~[15]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[17]炭酸アパタイトを含有する組成物からなることを特徴とする[1]~[16]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[18]高分子材料を含有する組成物からなることを特徴とする[1]~[17]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体。
[19][1]~[18]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体の破砕物。
[20]10-12m3以上10-8m3未満の大きさであることを特徴とする[19]記載の破砕物。
[21]一方向に延びる複数の貫通孔を備えた医療用ハニカム構造体であって、
炭酸アパタイトを含有する組成物からなることを特徴とする医療用ハニカム構造体。
[22][21]記載の医療用ハニカム構造体の破砕物。
[23]材料をハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、
該外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁の少なくとも一部を除去し、外周側部に、貫通孔溝及び貫通孔入口を形成する外周側部加工工程と、
を有することを特徴とする[1]~[18]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体の製造方法。
[24]材料をハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、
該外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁の少なくとも一部を除去し、外周側部に、貫通孔溝及び貫通孔入口を形成する外周側部加工工程と、
前記貫通孔溝及び貫通孔入口を形成したハニカム構造体を、10-12m3以上10-8m3未満の大きさに破砕する破砕工程と、
を有することを特徴とする[19]又は[20]記載の医療用ハニカム構造体破砕物の製造方法。
[25]炭酸アパタイトを組成に含む[1]~[17]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体の製造方法であって、
水酸化カルシウムと有機バインダーとを混合した混合物を、ハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、
ハニカム構造体の脱脂を行う脱脂工程と、
前記脱脂工程と同時又はその後にハニカム構造体の炭酸化処理を行う炭酸化工程と、
前記炭酸化工程を経たハニカム構造体にリン酸塩水溶液を付与するアパタイト化工程とを有し、
前記外壁付構造体作製工程後のいずれかの段階において、外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁の少なくとも一部を除去し、外周側部に、貫通孔溝及び貫通孔入口を形成する外周側部加工工程を有することを特徴とする医療用ハニカム構造体の製造方法。
[26]炭酸アパタイトを組成に含む[1]~[17]のいずれか記載の医療用ハニカム構造体の製造方法であって、
硫酸カルシウムと有機バインダーとを混合した混合物を、ハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、
ハニカム構造体の脱脂を行う脱脂工程と、
前記脱脂工程を経たハニカム構造体に、炭酸塩及びリン酸塩を含む水溶液を付与するか、炭酸塩を含む水溶液及びリン酸塩を含む水溶液を順次付与するアパタイト化工程とを有し、
前記外壁付構造体作製工程後のいずれかの段階において、外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁の少なくとも一部を除去し、外周側部に、貫通孔溝及び貫通孔入口を形成する外周側部加工工程を有することを特徴とする医療用ハニカム構造体の製造方法。
[27][21]記載の医療用ハニカム構造体の製造方法であって、
水酸化カルシウムと有機バインダーとを混合した混合物を、ハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、
ハニカム構造体の脱脂を行う脱脂工程と、
前記脱脂工程と同時又はその後にハニカム構造体の炭酸化処理を行う炭酸化工程と、
前記炭酸化工程を経たハニカム構造体にリン酸塩水溶液を付与するアパタイト化工程と、
を有することを特徴とする医療用ハニカム構造体の製造方法。
[28][21]記載の医療用ハニカム構造体の製造方法であって、
硫酸カルシウムと有機バインダーとを混合した混合物を、ハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、
ハニカム構造体の脱脂を行う脱脂工程と、
前記脱脂工程を経たハニカム構造体に、炭酸塩及びリン酸塩を含む水溶液を付与するか、炭酸塩を含む水溶液及びリン酸塩を含む水溶液を順次付与するアパタイト化工程と、
を有することを特徴とする医療用ハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の医療用ハニカム構造体は、(1)細胞あるいは組織の材料表面への接着性あるいは結合性に優れ、(2)配向した組織が再生・再建され、(3)機械的強さに優れ、(4)組織置換材料として用いられる場合においては、迅速に所望の組織に置換され、(5)安価に製造できる、という医療用材料に望まれる要求を満足するものであり、医療分野又は医療に関係する分野での広い利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】外周側壁を有するハニカム構造体の模式図である。
【
図2】本発明の医療用ハニカム構造体の模式図(一例)である。
【
図3】本発明の医療用ハニカム構造体の外周側壁の一部が除去された状況を示す模式図(一例)である。
【
図4】本発明の医療用ハニカム構造体の外周側壁の複数の層が除去された状況を示す模式図(一例)である。
【
図5】本発明の医療用ハニカム構造体における貫通孔溝及び貫通孔入口の説明図である。
【
図6】実施例1aに係る中間体として作製された外周側壁を有する円柱状のバインダー含有水酸化カルシウムハニカム構造体の写真である。
【
図7】実施例1aに係る脱脂工程前のハニカム構造体の写真である。
【
図8】実施例1aに係る脱脂工程の後のハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【
図9】実施例1bに係るハニカム構造体を用いた病理組織学的検索における病理組織の弱拡大像であり、(a)は貫通孔(セル)に鉛直方向で切断した像であり、(b)は貫通孔(セル)に平行に切断した像である。
【
図10】実施例2に係るハニカム構造体顆粒の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【
図11】実施例3に係る脱脂工程の後のハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【
図12】実施例4に係るハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【
図13】実施例6に係るハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【
図14】実施例7に係るハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【
図15】実施例9に係るハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【
図16】実施例10に係るハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【
図17】実施例11aに係るハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【
図18】実施例11bに係るハニカム構造体を用いた病理組織学的検索における病理組織の弱拡大像である。
【
図19】実施例11bに係るハニカム構造体を用いた病理組織学的検索における、外周側部の貫通孔入口からハニカム構造体近心部にあるセルに侵入した組織の病理組織の強拡大像である。
【
図20】実施例12に係るハニカム構造体顆粒の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【
図21】実施例12に係るハニカム構造体を用いた病理組織学的検索における病理組織の弱拡大像である。
【
図22】実施例12に係るハニカム構造体の貫通孔方向に開口した外周側部の貫通孔入口からハニカム構造体近心部にあるセルに侵入した組織の病理組織の強拡大像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[本発明の医療用ハニカム構造体]
本発明の医療用ハニカム構造体は、一方向に延びる複数の貫通孔(中空体)を備えた医療用ハニカム構造体であって、その外周側部に、前記貫通孔の側壁が欠損して形成された貫通孔溝と、該貫通孔溝に隣接する貫通孔入口とを備えていることを特徴とする。
【0020】
以下、各構成について説明する。
<本発明の医療用ハニカム構造体におけるハニカム構造>
本発明の医療用ハニカム構造体は、ハニカム構造を有するものであるが、本発明におけるハニカム構造とは、長軸方向に貫通している貫通多角形中空柱あるいは貫通円形中空柱(貫通孔)を隙間なく並べたものをいう。この貫通孔および貫通孔の両端部によって形成される空間をセルという。
【0021】
なお、特許文献3~7に見られるような霜柱の原理を応用して製造した配向性の連通多孔体は、気孔を形成する霜柱が形成過程で連結したり、他の霜柱の成長によって成長が阻害されたりするため、上記本発明のハニカム構造を形成できない。したがって、特許文献3~7に見られるような霜柱の原理を応用して製造した配向性の連通多孔体は、本発明の医療用ハニカム構造体には含まれない。
【0022】
本発明のハニカム構造は、通常、押出成形などによって形成することができる。具体的に、例えば、水酸アパタイト粉末と有機バインダーを混合し、特許第3405536号公報や特開平10-59784号公報に開示されている方法等によって押出成形することにより、水酸アパタイトと有機バインダーを組成とする外周側壁を有するハニカム構造体(本発明のハニカム構造体の前駆体)を製造することができる。また、炭酸アパタイト粉末を、コラーゲンをバインダーとして押し出し成形し、乾燥することにより、炭酸アパタイトとコラーゲンを組成とする外周側壁を有するハニカム構造体(本発明のハニカム構造体の前駆体)を製造することができる。なお、この外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁を除去し、その外周側部に貫通孔溝及び貫通孔入口を形成することにより、本発明の医療用ハニカム構造体を得ることができる。
【0023】
ここで、
図1を用いて本発明のハニカム構造体の前駆体である外周側壁を有するハニカム構造体の一例について説明する。
図1に示すように、外周側壁を有するハニカム構造体14は、一方向に延びる複数の貫通孔11と、貫通孔を区分する隔壁12と、貫通孔からなるハニカム構造部を包囲する外周側壁13とを備えた円柱体である。以下、必要に応じて、貫通孔の貫通方向に垂直な方向をa方向、外周側壁の表面をA面、貫通孔の貫通方向をc方向、貫通孔端部により形成される面をC面という場合がある。例えば、
図1に示すように、ハニカム構造体が円柱形の場合、A面は円柱形の側面であり、C面は円である。
【0024】
<ハニカム構造体外周側壁>
図2に、本発明の医療用ハニカム構造体の模式図(一例)を示す。
図1で示したハニカム構造体14の外周側壁を除去した状態である。かかる医療用ハニカム構造体10は、上記外周側壁13を有するハニカム構造体の外周側壁(外周側部)を研磨や切削などで除去し、その外周側部に貫通孔溝16及び貫通孔入口15を形成したものである。ここで、
図3は、本発明の他の例に係る医療用ハニカム構造体の外周側壁の一部が除去された状況を示す模式図である。様々な長さの貫通孔溝16が形成され、その貫通孔溝16に隣接して貫通孔入口15が形成されている。なお、例えば、
図4に示すように、角度をつけて切削等することにより外周側部に傾斜面が形成され、これと同時に貫通孔溝16及び貫通孔入口15が形成される。このような傾斜面を設けることにより、ハニカム構造体の最外層のみならず、最外層と共により内側の複数の層に対して貫通孔溝及び貫通孔入口を形成することができる。
【0025】
なお、本発明の医療用ハニカム構造体の外周側部に形成される傾斜面とは、貫通孔の貫通方向に対して傾斜した面をいい、段状に複数の傾斜面を形成してもよい。なお、傾斜角度としては、貫通孔溝及び貫通孔入口が形成可能な角度であり、そのような条件としては、例えば、傾斜面と貫通方向がなす角の正接が、外周側壁あるいは隔壁の厚さをハニカム構造体の貫通孔方向の長さで除した値より大きい値である。
本発明において、外周側壁の厚さとは、
図1で示したハニカム構造体14において、一方向に延びる複数の貫通孔11と、貫通孔を区分する隔壁12を除いた部分、すなわち、貫通孔からなるハニカム構造部を包囲する外周側壁13の厚さである。外周側壁の厚さが均一でない場合には最も厚い部分の厚さを外周側壁の厚さとする。
本発明において、隔壁の厚さとは、
図1で示したハニカム構造体14において、貫通孔を区分する隔壁12の厚さである。隔壁の厚さが均一でない場合には、隣接する貫通孔を区分する隔壁の厚さにおいて、最も小さい厚さとする。
また、外周側部に傾斜面が設けられることが好ましいが、必ずしも設けられる必要はなく、例えば、外周側部の一部に、貫通孔の貫通方向に対して平行な第1の面と第2の面を形成する際に、ハニカム構造体中心部からの第1の面と第2の面の距離の差が隔壁の厚さより大きい値となるように第1の面と第2の面を形成することにより、貫通孔溝及び貫通孔入口を形成することができる。
【0026】
外周側壁の厚さとしては、押出成形等の成形が可能な範囲で薄い方が好ましく、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の医療用ハニカム構造体においては、ハニカム構造体周囲の組織からハニカム構造体内部への組織侵入を容易にする観点から、外周側面における貫通孔溝及び貫通孔入口が形成される凹凸面(研磨や切削を行っている箇所の表面)の割合が、外周側面の面積の10%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0028】
<貫通孔入口>
押出成形された通常のハニカム構造体は、
図1に示すように、その外周側部は、平滑な外周側壁13で覆われているが、本発明においては、外周側壁の少なくとも一部を除去して、内部の貫通孔(ハニカム構造部)を外周側面に露出させる。本発明においては、外周側面に露出した貫通孔の端部入口を貫通孔入口という。なお、貫通孔入口は、外周側面に露出した貫通孔の端部入口であり、外周側壁を除去しなくても当初よりC面に存在する貫通孔末端入口とは区分される。
【0029】
<貫通孔溝>
上記貫通孔入口と同様に、外周側壁の少なくとも一部を除去することにより、貫通孔の側壁が欠損して形成された溝が形成される。本発明においては、この溝を貫通孔溝という。なお、貫通孔の側壁には、外周側壁、隔壁の両者が含まれる。本発明においては、貫通孔溝の幅方向の長さ(
図5のa)に対する長手方向の長さ(
図5のc)の比(溝アスペクト比c/a)はハニカム構造体の外周側部に配向した組織を形成するために重要であり、溝アスペクト比が1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることがさらに好ましく、4.0以上であることが特に好ましい。なお、本発明の貫通孔溝には、貫通孔の全長にわたってその側部が欠損された溝(貫通孔全長にわたる溝)を含む。
【0030】
<本発明の医療用ハニカム構造体における貫通孔入口及び貫通孔溝の位置>
本発明のハニカム構造体の場合、C面から組織がハニカム構造体内部に侵入するだけでなく、ハニカム構造体の外周側部に形成される貫通孔入口から、例えば、周囲組織がハニカム構造体内部に侵入して、嵌合力によって周囲組織とハニカム構造体が結合する。そのため、貫通孔入口は、ハニカム構造体の最外層にだけでなく、その内側の第2外層、第3外層、第4外層等、複数層に形成することがより好ましい。すなわち、
図4に示すように、貫通孔入口がハニカム構造体の最外層だけでなく、さらに内部の層にも形成されている場合は、侵入される配向された組織によってハニカム構造体周囲の組織とハニカム構造体の最外層にある貫通孔内に侵入した配向組織だけでなく、ハニカム構造体の最外層の内部にある貫通孔内に侵入した配向組織によっても結合が確保されるため、組織の材料表面への結合性がさらに確保される。
【0031】
なお、
図4は、本発明のハニカム構造体の外周側壁の複数の層が除去された状況を示す模式図であり、15-1は、最外層(中心貫通孔から最も遠心部)にある貫通孔入口、15-2は、第2外層(中心貫通孔から見て15-1の次の最遠心部)にある貫通孔入口、15-3は、第3外層(中心貫通孔から見て15-2の次の最遠心部)にある貫通孔入口である。また、16-1、16-2、16-3はそれぞれ15-1、15-2、15-3に連続する貫通孔溝である。このような構成は、外周側部に傾斜面を設けることにより容易に形成することができる。
【0032】
<貫通孔入口の存在比率>
本発明の医療用ハニカム構造体においては、貫通孔入口の数は多いほどよい。好ましい貫通孔入口の数はハニカム構造体の大きさに依存することから、貫通孔入口の存在比率は、最外層の貫通孔の数に対する貫通孔入口の数の比として表す。本発明においては、かかる貫通孔入口存在比率としては、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.4以上であることがさらに好ましく、0.5以上であることが特に好ましく、1.0以上であることが最も好ましい。
貫通孔入口の数は、外周側部に複数の傾斜面あるいは複数の除去面を設けるなどの方法によって、一つの貫通孔に対して複数の貫通孔入口を設けることが可能であり、当該手法は極めて有用である。このような場合には、貫通孔入口存在比率が1.0以上であることが好ましく、1.3以上であることがより好ましく、1.6以上であることがさらに好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。
【0033】
<貫通孔の側壁(隔壁及び外周側壁)に貫穿された貫穿孔>
形成される組織に配向性を付与するためにはハニカム構造は理想的であるが、炭酸アパタイトなど、組織に置換される材料を用いる場合以外は、形成される組織間の結合性に乏しいという欠点がある。そのため、形成される組織に配向性を付与しつつ、形成される組織に三次元的な連続性を付与するために、外周側部の貫通孔溝及び貫通孔入口に加えて、貫通孔の側壁(隔壁及び外周側壁)に貫穿された貫穿孔が設けられていることが有効である場合があり、特に外周側壁に貫穿孔を設けることが好ましい。複数の側壁(隔壁及び外周側壁)に貫穿される貫穿孔の形成は、例えば、ドリル加工などで行うことができる。
【0034】
<ハニカム構造におけるセル断面(貫通孔断面)の形状及びセル(貫通孔)の径>
本発明の医療用ハニカム構造体のハニカム構造におけるセル断面は、多角形あるいは円である。
【0035】
本発明の医療用ハニカム構造体における貫通孔の径としては、5μm以上400μm以下であることが好ましく、10μm以上300μm以下であることがより好ましく、20μm以上250μm以下であることがさらに好ましい。なお、貫通孔の径とは、例えば、断面が円である場合には円の直径の長さであり、断面が正方形等の多角形である場合には対角線の長さである。
【0036】
また、この断面の径をセル(貫通孔)のアスペクト比の計算に用いる。貫通孔の径に対する長手方向の長さの比(セルアスペクト比)としては、細胞の接着や配向した組織形成の観点から、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。
【0037】
<貫通孔の隔壁の厚さ>
本発明の医療用ハニカム構造体の貫通孔の隔壁の厚さは、ハニカム構造体の機械的強さや医療用ハニカム構造体の組織への置換速度などに影響を及ぼす因子である。
【0038】
すなわち、隔壁の厚さが大きいと、医療用ハニカム構造体の機械的強さが大きくなる一方で、骨に置換される炭酸アパタイトを組成とする医療用ハニカム構造体の場合などは医療用ハニカム構造体の組織への置換が遅くなる。
【0039】
また、例えば、炭酸カルシウムハニカム構造体を、リン酸塩水溶液に浸漬して、溶解析出型の組成変換反応によって医療用炭酸アパタイトハニカム構造体に変換する場合、溶解析出型の組成変換反応は前駆体の表面から進行するため、隔壁の厚さが大きいと、反応に時間がかかったり、水熱反応など高い温度で製造したりしないと炭酸アパタイトハニカム構造体が製造できないなどの問題がある。例えば、水熱条件など、高い温度で製造した炭酸アパタイトハニカム構造体は、100℃以下の温度で製造した炭酸アパタイトハニカム構造体と比較して結晶性が高く、骨伝導性などの組織反応が劣るため、隔壁の厚さは極めて重要である。
【0040】
これらのバランスが重要であるため、医療用ハニカム構造体の貫通孔の隔壁の厚さは、10μm以上300μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましく、30μm以上150μm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の医療用ハニカム構造体の組成が炭酸アパタイトであり、より骨伝導性などの組織親和性に優れる医療用炭酸アパタイトハニカム構造体を製造する場合には、隔壁の厚さは10μm以上200μm以下であることが好ましく、20μm以上150μm以下であることがより好ましく、30μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
<隔壁の厚さに対する貫通孔径の比>
本発明の医療用ハニカム構造体の隔壁の厚さだけでなく、セルの貫通孔の大きさも、ハニカム構造体の機械的強さや医療用ハニカム構造体の組織への置換速度などに影響を及ぼす因子である。
【0043】
隔壁の厚さに対する貫通孔径(貫通孔断面における径)の比が大きくなると、医療用ハニカム構造体の気孔率は大きくなり、細胞や組織は内部に侵入しやすくなる一方で、医療用ハニカム構造体の機械的強さは小さくなる。これらのバランスを考慮し、ハニカム構造体の隔壁の厚さに対する貫通孔径の比としては、0.2以上20以下であることが好ましく、0.25以上10以下であることがより好ましく、0.5以上5以下であることがさらに好ましい。
【0044】
<ハニカム構造体の大きさ(体積)>
本発明の医療用ハニカム構造体(ブロック)の外形の大きさとしては、10-8m3以上10-3m3以下であることが好ましく、7×10-5m3以上4×10-4m3以下であることがさらに好ましい。
本発明の医療用ハニカム構造体の外形の大きさは、ハニカム構造体の長さを測定して計算して求める。例えば、ハニカム構造体が円柱状である場合、円であるC面の直径の長さおよびC面の貫通孔方向の長さを測定し、両者から計算する。なお、この際にハニカム構造体の重さを測定し、重さを体積で除することによってハニカム構造体の見掛け密度を求めることができる。これによって、ハニカム構造体破砕物(顆粒)の重量から体積を計算することができる。
<ハニカム構造体破砕物(顆粒)>
本発明の医療用ハニカム構造体の破砕物は、上記ブロック状の医療用ハニカム構造体を破砕することによって得られる。かかる破砕物の大きさ(外形)としては、10-12m3以上10-8m3未満であることが好ましく、4×10-12m3以上10-8m3未満であることがより好ましく、6×10-12m3以上10-8m3未満であることがさらに好ましい。
上記のように、ハニカム構造体破砕物(顆粒)の大きさ(外形)は、ハニカム構造体破砕物(顆粒)の重量をハニカム構造体破砕物(顆粒)の製造に用いた破砕していないハニカム構造体の見かけ密度で除することによって求めることができる。
【0045】
<組成>
医療用ハニカム構造体の組成(材料)としては、特に限定されるものではないが、細胞親和性や組織親和性に優れるカルシウム化合物を少なくとも含むことが好ましい。医療用ハニカム構造体の組成として、カルシウム含有化合物が好ましい機序は十分に解明されていないが、細胞接着にはカルシウムが重要な役割を示していることからカルシウム含有化合物を組成とすることが好ましいと考えられる。
【0046】
本発明においては、カルシウム化合物の中でも、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム及びカルシウム含有ガラスからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。リン酸カルシウムは、カルシウム以外にリン酸成分が含有されており、リン酸成分も細胞接着等に重要な役割を担っていることから好ましく、炭酸カルシウムおよび硫酸カルシウムは、細胞へのカルシウム供給に適切な溶解度を示すため好ましい。
【0047】
本発明におけるリン酸カルシウムとは、リン酸とカルシウムの塩であり、オルソリン酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、縮合リン酸カルシウムなどを例示することができる。比較的優れた骨伝導性と組織親和性を示すことからリン酸カルシウムの中でもオルソリン酸カルシウムが好ましい。本発明におけるオルソリン酸カルシウムとは、オルソリン酸とカルシウムの塩をいい、例えば、リン酸四カルシウム、水酸アパタイト及び炭酸アパタイトを含めたアパタイト、α型リン酸三カルシウム、β型リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウムなどを例示することができる。
【0048】
また、リン酸カルシウムの中でも、炭酸アパタイト等のアパタイト、β型リン酸三カルシウム(β-TCP)及びα型リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
【0049】
本発明における炭酸アパタイトとは、アパタイトのリン酸基又は水酸基の一部又は全部が炭酸基に置換されているアパタイトである。水酸基が炭酸基に置換されているアパタイトをAタイプ炭酸アパタイト、リン酸基が炭酸基に置換されているアパタイトをBタイプ炭酸アパタイト、両者が炭酸基に置換されているアパタイトをABタイプ炭酸アパタイトという。なお、リン酸基が炭酸基に置換されるに伴い、NaやKなどが結晶構造に含有される場合が多く、炭酸アパタイトの一部が他の元素又は空隙で置換された化合物も本発明の炭酸アパタイトに含まれる。
【0050】
この炭酸アパタイトからなるハニカム構造体は、比較的大きいサイズのものも製造可能であるという利点がある。
例えば、特許第4854300号公報に開示された炭酸アパタイトを主成分とする医療用骨補填材の製造方法では、前駆体である炭酸カルシウムブロックリン酸塩水溶液に浸漬して、炭酸アパタイトブロックを製造する。この反応は、溶解析出反応であり、前駆体である炭酸カルシウムが水溶液に溶解して、Ca2+とCO3
2-を水溶液中に遊離する。水溶液中にリン酸塩が存在する場合、Ca2+、CO3
2-とPO4
3-は三者が共存する水溶液は、炭酸アパタイトに対して過飽和となり前駆体の表面に析出する。このように溶解析出反応によって、前駆体である炭酸カルシウムが基本的組成を維持したまま、組成は炭酸アパタイトに変換される。溶解析出反応は、前駆体の表面から内部に進行するため、前駆体が緻密体である場合、反応時間は前駆体における表面からの深さが大きくなるにつれ、著しく長くなる。
【0051】
特許第4854300号公報に開示されているフォームなどの多孔体は全体の見かけの大きさが大きい場合においても、内部にリン酸塩水溶液が侵入し、材料の内部表面から溶解析出反応が進行するため、比較的短時間で溶解析出反応による組成変換が終了する。
【0052】
この反応メカニズムからわかるように、析出反応においては材料表面においてCa2+、CO3
2-とPO4
3-の三者が共存する必要がある。炭酸カルシウムブロックが緻密体である場合、材料表面から溶出したCa2+とCO3
2-は拡散によって材料表面から消失するため、析出反応が比較的起こりにくい。一方、フォームなどは多孔体であるため、フォームの骨梁表面から溶出したCa2+とCO3
2-の拡散による材料表面からの消失は連通気孔のないブロック状の場合と比較して少なくなる。
【0053】
多孔体がハニカム構造の場合、ハニカムは一軸方向に貫通孔がある多孔体であるため、ハニカム隔壁から溶出したCa2+とCO3
2-の拡散による材料表面からの消失は極めて限定的である。そのため、ハニカム構造の前駆体を用いれば、大きいサイズの炭酸アパタイトブロックの調製が可能となる。
【0054】
本発明におけるアパタイトとは、A10(BO4)6C2を基本構造として有する化合物であり、Aとしては、Ca2+、Cd2+、Sr2+、Ba2+、Pb2+、Zn2+、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Ra2+、H+、H3O+、Na+、K+、AL3+、Y3+、Ce3+、Nd3+、La3+、C4+、空隙などが挙げられ、BO4としては、PO4
3-、CO3
2-、CrO4
3-、AsO4
3-、VO4
3-、UO4
3-、SO4
2-、SiO4
4-、GeO4
4-、空隙などが挙げられ、Cとしては、OH-、OD-、F-、Br-、BO2-、CO3
2-、O2-、空隙などが挙げられる。
【0055】
なお、A10(BO4)6C2は、アパタイトの基本構造式であり、Ca10(PO4)6(OH)2はリン酸カルシウム系アパタイトの基本構造式であるが、本発明のアパタイトは当該基本構造式に限定されるものではない。例えば、リン酸カルシウム系アパタイトの場合、Ca欠損アパタイトCa10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-xや、炭酸アパタイト、置換アパタイトなど知られており、これらすべてが本発明のアパタイトに含まれる。
【0056】
本発明におけるリン酸三カルシウムとは、Ca3(PO4)2を代表的組成とするリン酸カルシウム化合物であり、カルシウムの一部がナトリウムなど他の金属イオンで置換されたものを含む。リン酸三カルシウムには、高温安定相のα’型リン酸三カルシウム、α型リン酸三カルシウムと、低温安定相のβ型リン酸三カルシウムがあるが、本発明ではα’型リン酸三カルシウム、α型リン酸三カルシウムをα型リン酸三カルシウムという。
【0057】
α型リン酸三カルシウムとβ型リン酸三カルシウムは、組成が同じであるが溶解度が大きく異なり、生体内の挙動が全く異なる。β型リン酸三カルシウムは、溶解度が小さく、骨置換材として臨床応用されていることから、一般的にはβ型リン酸三カルシウムの方がα型リン酸三カルシウムより好ましい。一方、α型リン酸三カルシウムは、溶解度が大きく生体活性セメントの成分などとして用いられている。しかしながら、骨欠損が大きくない場合や多孔体とした場合には、β型リン酸三カルシウムよりα型リン酸三カルシウムをコア部として用いた方が好ましい場合がある。
【0058】
本発明におけるリン酸八カルシウムとは、リン酸第八カルシウム、リン酸オクタカルシウムとも呼ばれ、Ca8H2(PO4)6・5H2Oを代表的組成とするリン酸カルシウムである。
【0059】
本発明における炭酸カルシウムとは、CaCO3を基本組成とするカルシウム成分の一つである。また、Caの一部が、Mgなどの他の元素に置換された化合物も本発明の炭酸カルシウムに含まれる。
【0060】
本発明でいう硫酸カルシウムとは、CaSO4を基本組成とするカルシウム成分の一つであり、半水和物及び二水和物も知られており、これらの水和物も本発明の硫酸カルシウムに含まれる。
【0061】
本発明におけるカルシウム含有ガラスは、カルシウム成分の一つで、カルシウムを含むガラス又はガラスセラミックスである。カルシウムを含むガラス成分を溶融、急冷し公知の方法で製造することができる。カルシウム含有ガラスを粉砕、焼成し、結晶化させたカルシウム含有結晶化ガラスも、本発明のカルシウム含有ガラスに含まれる。例えば、Bioglass(登録商標)とよばれるNa2O-CaO-SiO2-P2O5系ガラス(代表的組成はNa2Oが24.5質量%、CaOが24.5質量%、SiO2が45質量%、P2O5が6質量%)、Cerabone(登録商標)A-Wとよばれる結晶化ガラス(代表的組成はMgOが4.6質量%、CaOが44.7質量%、SiO2が34.0質量%、P2O5が16.2質量%、CaF2が0.5質量%)などを挙げることができる。これらのカルシウム含有ガラスは、公知の方法で製造することができる。
【0062】
本発明における高分子材料とは、分子量が10000を超える有機材料をいう。具体的に、高分子材料としては、コラーゲン、ゼラチン、キチン、キトサンなどの生体高分子、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトンなどの吸収性高分子、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)やポリエーテルケトンエステル、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどを例示することができる。高分子材料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。特に、上記カルシウム化合物などと高分子材料とを混合することによって、柔軟性を持つ医療用ハニカム構造体を製造することができる。すなわち、医療用ハニカム構造体に柔軟性を付与する場合には、後述の脱脂処理のような高熱処理を行わず、組成中に高分子材料が存在するようにする。
【0063】
<ハニカム構造体の製造法>
本発明の医療用ハニカム構造体の製造方法は、材料をハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、該外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁を除去し、外周側部に、貫通孔溝及び貫通孔入口を形成する外周側部加工工程とを有することを特徴とし、好ましくは脱脂工程を有する。さらに、焼成工程等の他の工程を有していてもよい。なお、脱脂工程と焼成工程は、同時に行ってもよい。
【0064】
具体的に、水酸アパタイトからなる本発明の医療用ハニカム構造体を製造するには、例えば、まず、水酸アパタイト粉末と有機バインダーを混合し、特許第3405536号公報や特開平10-59784号公報等に開示されている方法によって押出成形して、水酸アパタイトと有機バインダーを組成とする
図1に示すような外周側壁を有するハニカム構造体を作製する(外壁付構造体作製工程)。次に、外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁の少なくとも一部を研磨や切削などで除去し、外周側部に、貫通孔溝及び貫通孔入口が形成されるよう加工する(外周側部加工工程)。外周側壁の除去は、脱脂工程の後で行ってもよいが、一般的に脱脂工程の前に行う方が、加工性が良好である。ここで、脱脂とは、有機バインダーを除去することをいう。例えば、水酸アパタイト粉末と有機バインダーから作製したハニカム構造を有する構造体から有機バインダーを除去することをいう。脱脂には、従来から行われている一般的な方法を用いることができ、例えば、有機バインダーを加熱焼却して脱脂することができる。脱脂工程の後に、必要に応じて焼成を行ってもよい。これらの工程によって、水酸アパタイトからなる本発明の医療用ハニカム構造体が製造できる。
【0065】
有機バインダーは、セラミックス粉末粒子に押出に必要な粘性を付与するために用いられる。有機バインダーは、ワックス系バインダー、アクリル系バインダーなど公知のものを制限なく用いることができる。
なお、セラミックスのみを組成とするハニカム構造体を製造する場合には脱脂が必要であるが、柔軟性を優先してセラミックスと高分子からなるハニカム構造体を製造する場合には脱脂工程は必要ない。
【0066】
水酸アパタイトハニカム構造体は、高温でも安定であり、800℃から1300℃の高温焼成によって分解されることなく焼結されるため、ハニカム構造体の製造が容易である。
【0067】
一方、細胞接着性や組織接着性に優れる炭酸アパタイトハニカム構造体は、高温焼成によって熱分解を受けたり、細胞接着性や組織接着性が低下したりするため、組成の異なるハニカム構造体(前駆体)を製造して、当該ハニカム構造体のマクロ形態を保ったまま、溶解析出型の組成変換反応によって、炭酸アパタイトに組成変換する方法が有効な製造法として例示される。
【0068】
炭酸アパタイトハニカム構造体の組成の異なる前駆体としては、炭酸カルシウムハニカム構造体、硫酸カルシウムハニカム構造体、α型リン酸三カルシウムハニカム構造体などが溶解度の観点から有効であるが、これらの中でも、炭酸カルシウムハニカムはリン酸塩水溶液に浸漬した際に、炭酸カルシウムに比較した安定相が炭酸アパタイトしか存在しないため、特に前駆体として有用である。
【0069】
しかしながら、炭酸カルシウムは焼結性に乏しく、高温においては熱分解されるため、水酸化カルシウムを用いた方法が有用である。
すなわち、水酸化カルシウムと有機バインダーとを混合した混合物を、ハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、ハニカム構造体の脱脂を行う脱脂工程と、前記脱脂工程と同時又はその後にハニカム構造体の炭酸化処理を行う炭酸化工程と、前記炭酸化工程を経たハニカム構造体にリン酸塩水溶液を付与するアパタイト化工程とを有し、前記外壁付構造体作製工程後のいずれかの段階において、外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁の少なくとも一部を除去し、外周側部に、貫通孔溝及び貫通孔入口を形成する外周側部加工工程を有する方法が好ましい。外周側部加工工程は、脱脂工程の前後、炭酸化工程の前後、アパタイト化工程の前後のいずれの段階に行ってもよい。
【0070】
ハニカム構造体を脱脂中に炭酸化するには、当該ハニカム構造体を加熱する際に二酸化炭素と酸素が共存する条件で脱脂することが好ましい。酸素は、バインダーを脱脂、すなわち、焼却するために必須である。理論的には酸素が存在すれば脱脂されるが、酸素分圧が少ないと脱脂されにくいため、当該ハニカム構造体を脱脂する環境中における酸素の体積パーセントは、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。
【0071】
一方、水酸化カルシウムを炭酸化するには二酸化炭素が必要である。有機バインダー(高分子材料)には炭素が含まれており、有機バインダーの脱脂によって二酸化炭素が発生するため、必ずしも二酸化炭素を供給する必要はない。しかしながら、脱脂された後には二酸化炭素は存在せず、そのような環境においては炭酸カルシウムが熱分解を受けやすい。そのため、当該ハニカム構造体を脱脂する環境中における二酸化炭素の体積パーセントは、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。
【0072】
脱脂温度は、当該ハニカムを脱脂する環境中における酸素および二酸化炭素の体積パーセントや製造する炭酸カルシウムハニカム構造体にどの程度の白色度を求めるかなどによって異なるが、400℃以上900℃以下であることが好ましく、450℃以上800℃以下であることが好ましく、500℃以上700℃以下であることがさらに好ましい。
【0073】
脱脂と同時に炭酸化処理し、炭酸カルシウムハニカムを製造する方が、工程が少なく経済的であるが、脱脂後に炭酸化することも可能である。酸素と二酸化炭素の同時供給が困難である場合には酸素のみで、あるいは酸素の供給も困難である場合には大気中で高温脱脂する。この手法では、炭酸カルシウムあるいは水酸化カルシウム、あるいは、その両方が熱分解され、酸化カルシウムが形成される。ハニカム構造体に酸化カルシウムが存在すると消化の原因となり、水に浸漬すると形態を保てず崩れたり、機械的強さが弱くなったりする。そのため、酸化カルシウムが形成された場合には、炭酸化処理を改めて行う。炭酸化処理は、ハニカム構造体を二酸化炭素に接触させて行う。乾式の場合、炭酸カルシウムが熱分解する920℃以下の温度でハニカム構造体を二酸化炭素に接触させる。湿式の場合、湿度50%以上でハニカム構造体を二酸化炭素に接触させる。
【0074】
次に、製造された炭酸カルシウムハニカムをリン酸塩水溶液に浸漬して溶解析出型の組成変換反応によってハニカム構造を維持したまま、組成を炭酸アパタイトに変換して炭酸アパタイトハニカム構造体を製造する。なお、浸漬処理が好ましいが、連続的に噴霧する処理等であってもよい。
【0075】
硫酸カルシウムハニカム構造体を前駆体として用いて、炭酸アパタイトハニカム構造体を製造する製造方法も有用である。硫酸カルシウムは熱的に安定であるため、水酸アパタイトハニカム構造体の製造法と同様な手法で製造できる。
【0076】
すなわち、硫酸カルシウムと有機バインダーとを混合した混合物を、ハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、ハニカム構造体の脱脂を行う脱脂工程と、前記脱脂工程を経たハニカム構造体に、炭酸塩及びリン酸塩を含む水溶液を付与するか、炭酸塩を含む水溶液及びリン酸塩を含む水溶液を順次付与するアパタイト化工程とを有し、前記外壁付構造体作製工程後のいずれかの段階において、外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁の少なくとも一部を除去し、外周側部に、貫通孔溝及び貫通孔入口を形成する外周側部加工工程を有する方法を挙げることができる。脱脂工程は、外周側部加工工程の前又は後に行うことができる。外周側部加工工程は、脱脂工程の前後、アパタイト化工程の前後のいずれの段階に行ってもよい。
【0077】
具体的に、硫酸カルシウム粉末と有機バインダーを混合し、特許第3405536号公報や特開平10-59784号公報に開示されている方法等によって押出成形して、硫酸カルシウムと有機バインダーを組成とする
図1に示すような外周側壁を有するハニカム構造体を作製する(外壁付構造体作製工程)。
【0078】
次に、公知の脱脂工程によって、バインダーを脱脂、すなわち、焼却除去する。
【0079】
この硫酸カルシウムハニカム構造体を、例えば、リン酸塩および炭酸塩の両者を含有する水溶液に浸漬して、溶解析出型の組成変換反応によってハニカム構造を維持したまま、組成を炭酸アパタイトに変換して炭酸アパタイトハニカム構造体を製造する。この製造方法は簡便であるが、炭酸アパタイトハニカム構造体の組成として硫酸基が検出される場合がある。これは、ハニカム構造体がセル構造を示すため、セル構造内部における溶液の拡散が限定的となるためであると推察される。
【0080】
そのため、硫酸カルシウムハニカム構造体を、炭酸塩を含む溶液に浸漬し、溶解析出型の組成変換反応によってハニカム構造を維持したまま、組成を炭酸カルシウムに変換して炭酸カルシウムハニカム構造体を製造し、その後、炭酸カルシウムハニカム構造体を、リン酸塩を含む溶液に浸漬し、溶解析出型の組成変換反応によってハニカム構造を維持したまま、組成を炭酸アパタイトに変換して炭酸アパタイトハニカム構造体を製造する製造方法がより好ましい場合がある。
【0081】
<ハニカム構造体破砕物の製造法>
本発明の医療用ハニカム構造体破砕物の製造方法は、材料をハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、該外周側壁を有するハニカム構造体の外周側壁の少なくとも一部を除去し、外周側部に、貫通孔溝及び貫通孔入口を形成する外周側部加工工程と、前記貫通孔溝及び貫通孔入口を形成したハニカム構造体を、10-12m3以上10-8m3未満の大きさに破砕する破砕工程とを有することを特徴とし、脱脂工程、焼成工程等を備えていてもよい。
【0082】
破砕は、押出工程の後、脱脂行程の後、焼成工程の後で行うことができるが、セラミックスハニカム構造体の場合、脱脂行程の後、および焼成工程の後に製造されるハニカム構造体は脆性であり、破砕によって所望の顆粒を製造することが困難であったり、収率が低かったりする。そのため、脱脂行程の前に破砕を行うことが好ましい。破砕は、カッティングミルなど公知の破砕機や粉砕機を用いて行うことができる。破砕後、必要に応じて、ふるいなどを用いて分級を行い、所望のサイズのハニカム構造体破砕物を製造する。
【0083】
[本発明の第2の医療用ハニカム構造体]
本発明の第2の医療用ハニカム構造体は、一方向に延びる複数の貫通孔を備えた医療用ハニカム構造体であって、炭酸アパタイトを含有する組成物から構成されることを特徴とする。すなわち、上記説明した医療用ハニカム構造体の外周側壁を除去したもの(例えば、
図2で示す構造体)と除去しないもの(例えば、
図1で示す構造体)の両者を含む。各構成の説明は、上記説明した医療用ハニカム構造体のものがそのまま適用できる。
【0084】
また、本発明の第2の医療用ハニカム構造体の破砕物は、上記第2の医療用ハニカム構造体を破砕して得られる。各構成の説明は、上記説明した医療用ハニカム構造体破砕物のものがそのまま適用できる。
【0085】
上記のような本発明の第2の医療用ハニカム構造体の製造方法としては、上記説明した炭酸アパタイトを組成に含む本発明の医療用ハニカム構造体の製法そのもの(外周側壁除去)や、外周側部加工工程を行わない方法(外周側壁あり)を挙げることができる。
【0086】
具体的に、第2の医療用ハニカム構造体の製造方法としては、水酸化カルシウムと有機バインダーとを混合した混合物を、ハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、ハニカム構造体の脱脂を行う脱脂工程と、前記脱脂工程と同時又はその後にハニカム構造体の炭酸化処理を行う炭酸化工程と、前記炭酸化工程を経たハニカム構造体にリン酸塩水溶液を付与するアパタイト化工程とを有する方法や、硫酸カルシウムと有機バインダーとを混合した混合物を、ハニカム構造形成用型を通して押し出し、外周側壁を有するハニカム構造体を作製する外壁付構造体作製工程と、ハニカム構造体の脱脂を行う脱脂工程と、前記脱脂工程を経たハニカム構造体に、炭酸塩及びリン酸塩を含む水溶液を付与するか、炭酸塩を含む水溶液及びリン酸塩を含む水溶液を順次付与するアパタイト化工程とを有する方法を挙げることができる。
【0087】
[本発明の医療用ハニカム構造体の作用効果]
本発明の医療用ハニカム構造体は、(1)細胞あるいは組織の材料表面への接着性あるいは結合性に優れ、(2)配向した組織が再生・再建され、(3)機械的強さに優れ、(4)組織置換材料として用いられる場合においては、迅速に所望の組織に置換され、(5)安価に製造できる、という医療用材料に望まれる要求を満足するものである。このような要求を満足する本発明の医療用ハニカム構造体の機序は次のように考えられる。
【0088】
<(1)細胞あるいは組織の材料表面への接着性あるいは結合性に優れること>
医療用材料を生体内に埋植した場合に、周囲組織と結合することが求められる場合が多い。ハニカム構造体の貫通孔端部から構成される面(
図1のC面)は開口構造であるので問題がないが、一般的に外周側面(
図1のA面)には外周側壁があり、周囲組織と結合しにくい。本発明のハニカム構造体においては、A面には、貫通孔溝、及び貫通孔方向に開口した貫通孔入口を形成している。そのため、当該部位から、例えば骨組織がハニカム構造体内部に侵入し、周囲骨とハニカム構造体は強く結合される。
【0089】
ハニカム構造体の組成に炭酸アパタイトを含有している場合、炭酸アパタイトは破骨細胞などによって吸収されるため、当初の炭酸アパタイトハニカム構造体に外周側壁がある場合でも、破骨細胞がA面を吸収し、結果として、貫通孔方向に開口した貫通孔入口が形成され、当該部位から、例えば骨組織がハニカム構造体内部に侵入し、周囲骨とハニカム構造体は強く結合される。すなわち、炭酸アパタイトを含有している場合、外周側部に貫通孔溝及び貫通孔入口を有している必要はない。
【0090】
なお、外周側部に貫通孔溝及び貫通孔入口を有し、かつ組成に炭酸アパタイトを含む医療用ハニカム構造体は、周囲骨などとの結合性に極めて優れる。
【0091】
<(2)配向した組織が再生・再建されること>
配向した組織の形成については、再生・再建組織の機能性の観点から重要である。非特許文献1で報告されているように、骨などの組織は部位に応じて様々な配向している。しかしながら、非特許文献2や3などで指摘されているように、再生骨は配向性に乏しく機能性に乏しいため、配向化誘導が必要であることが指摘されている。
【0092】
本発明のハニカム構造体内部は配向連通多孔体であり、ハニカム構造体の貫通孔表面に沿って組織再生・再建がなされるため、理想的に組織配向化誘導を行うことができる。また、本発明のハニカム構造体の外周側部にも、貫通孔溝や、貫通孔方向に開口した貫通孔入口が存在するため、これに沿って組織再生・再建がなされるため、理想的に組織配向化誘導を行うことができる。
【0093】
ハニカム構造体の組成に炭酸アパタイトを含有している場合、炭酸アパタイトは破骨細胞などによって吸収されるため、当初の炭酸アパタイトハニカム構造体に外周側壁がある場合でも、破骨細胞がA面を吸収し、結果として、貫通孔方向に開口した貫通孔入口が形成され、理想的に組織配向化誘導を行うことができる。すなわち、炭酸アパタイトを含有している場合、外周側部に貫通孔溝及び貫通孔入口を有している必要はない。
なお、外周側部に貫通孔溝及び貫通孔入口を有し、かつ組成に炭酸アパタイトを含む医療用ハニカム構造体は、外周側面に配向性組織を形成させる極めて優れるハニカム構造体である。
【0094】
<(3)機械的強さに優れること>
医療用材料が埋植された部位で破壊されずに機能することは必須条件である。本発明の医療用ハニカム構造体は、ハニカム構造を有しており、他の多孔性材料と比較して機械的強さに優れるため、この要求は満たされる。ハニカム構造体の機械的強さは、セル方向およびセルに垂直な方向に対する圧縮強さなどを測定して評価することが一般的であるが、ハニカム構造体であることによって気孔率が同じである他の多孔体以上の機械的強さを示す。
【0095】
<(4)組織置換材料として用いられる場合においては、迅速に所望の組織に置換されること>
医療用材料の組成によっては、材料が組織に置換される。この観点から、炭酸アパタイト、リン酸三カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムは優れた材料であり、その中でも炭酸アパタイト、リン酸三カルシウムはより優れた材料であり、炭酸アパタイトはさらに優れた材料である。材料は、細胞によって組織に置換される。例えば、炭酸アパタイトの場合、破骨細胞が材料を吸収し、骨芽細胞によって骨が形成されるという骨リモデリングと同様な機序で材料が組織に置換される。このため、組成要因だけでなく、細胞が材料内部に侵入できることや、比表面積が大きいことが必要とされる。この点、本発明の医療用ハニカム構造体は、上記のような理想的な材料を用いることができ、また、連通性を示すセルに細胞が内部にまで侵入でき、かつ、比表面積は極めて大きい。
【0096】
<(5)安価に製造できること>
本発明のハニカム構造体は、ハニカム形成用の型を通し、材料を押出成形し、外周側壁を除去するだけ、あるいは、必要に応じて、脱脂したり、水溶液に浸漬するなどの極めて簡便な製造方法で製造できる。このことから本発明の医療用ハニカム構造体は安価に製造できる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0098】
(実施例1)炭酸カルシウムからなるハニカム構造体(ブロック)
<外壁付構造体作製工程>
株式会社ナカライテスク製水酸化カルシウム粉末をジェットミルで平均粒径1μmに粉砕し、水酸化カルシウムと株式会社長峰製作所製ワックス系バインダーを重量比で75:25に混合した。その後、株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミルにハニカム成形用金型を取り付け、押出成形を行った。押出成形の結果、水酸化カルシウムとバインダーの混合物を組成とし、外周側壁を有する円柱状のバインダー含有水酸化カルシウムハニカム構造体を中間体として作製した。作製された外周側壁を有する円柱状のバインダー含有水酸化カルシウムハニカム構造体の写真を
図6に示す。
【0099】
<外周側部加工工程>
次に、円柱状のバインダー含有水酸化カルシウムハニカム構造体の外周側壁を電動カンナで除去し、外周側部に貫通孔入口、溝アスペクト比が1.5以上である貫通孔溝を貫通孔入口に連続して形成した。その写真を
図7に示す。
【0100】
<脱脂工程>
次に、当該バインダー含有水酸化カルシウムハニカム構造体を、二酸化炭素を50%含有する酸素の気流下で、700℃で脱脂した。脱脂後のハニカム構造体の組成を、BRUKER製D8 ADVANCE型粉末X線回折装置を用い、出力は40kV、40mA、X線源はCuKα(λ=0.15418nm)の条件で分析したところ、炭酸カルシウムであることがわかった。
【0101】
脱脂工程の後のハニカム構造体(実施例1aに係るハニカム構造体)の電子顕微鏡写真(SEM写真)を
図8に示す。脱脂後もセルが保持されており、外周側壁のない円柱状炭酸カルシウムハニカム構造体ブロックが製造できていること、外周側部に貫通孔入口が形成されたことを確認した。また、貫通孔溝があり、溝アスペクト比が30以上のものが確認された。さらに、一部には、貫通孔入口が最外層だけでなく、第2外層にもあることを確認した。外周側壁除去率(外周側部における貫通孔溝及び貫通孔入口が形成された凹凸面の割合)は100%であった。
【0102】
貫通孔径は210μmであり、隔壁の厚さは150μm、貫通孔の長さは30mmであった。また、製造したハニカム構造体の体積は、2×10-6m3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約1.4であり、貫通孔のアスペクト比は約140であった。
【0103】
次に、炭酸カルシウムハニカム構造体ブロックの組織親和性、再生・再建組織の配向性、骨への置換性を解析するために、日本白色兎の頭蓋骨に形成した骨欠損部に、上記実施例1aと同様に製造した実施例1bに係る炭酸カルシウムハニカム構造体(直径7.2mm、高さ4.5mm)を埋植し、埋植1ヶ月後に周囲組織と一塊に摘出、病理組織学的に検索した。
【0104】
図9にヘマトキシリン・エオジン染色した病理組織の弱拡大像を示す。
図9(a)はハニカム構造体の貫通孔(セル)に対して鉛直方向で切断した像であり、
図9(b)はハニカム構造体の貫通孔(セル)に対して平行に切断した像である。
病理組織学的検索の結果から、炭酸カルシウムハニカム構造体ブロックが外周側面も含めて周囲組織と極めて良好に結合していること、炭酸カルシウムハニカム構造体ブロック内部に骨組織が完全に侵入していることがわかった。また、再生・再建された骨組織が炭酸カルシウムハニカム構造体顆粒のセルの長軸方向に配向していることがわかった。さらに、炭酸カルシウムハニカム構造体顆粒の表面に骨芽細胞および破骨細胞が認められた。これらのことから、炭酸カルシウムハニカム構造体ブロックは骨組織に置換されることがわかった。
【0105】
(実施例2)炭酸カルシウムからなるハニカム構造体破砕物(顆粒)
実施例1で製造した円柱状のバインダー含有水酸化カルシウムハニカム構造体を、2.0mmのふるいを取り付けたカッティングミル(フリッツジャパン、P-15)で破砕した。その後、実施例1と同じ条件で脱脂工程を行った。
【0106】
脱脂工程後のハニカム構造体顆粒の組成を粉末X線回折装置で分析したところ、炭酸カルシウムであった。製造されたハニカム構造体顆粒の電子顕微鏡写真を
図10に示す。脱脂後もセルが保持されていることが確認された。
また、貫通孔径の一例は210μmであり、隔壁の厚さは150μm、貫通孔の長さの一例は2mmであった。また、製造したハニカム構造体顆粒の体積は、9×10
-10m
3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約1.4であった。貫通孔のアスペクト比の一例は約10であった。
【0107】
(実施例3)セルサイズの異なる炭酸カルシウムからなるハニカム構造体(ブロック)
実施例1とは異なるハニカム成形用金型を用いた以外は、実施例1と同じ製造方法で外周側壁のない円柱状の炭酸カルシウムハニカム構造体を製造した。
【0108】
脱脂工程後のハニカム構造体の組成が炭酸カルシウムであることは粉末X線回折装置で確認した。脱脂工程の後の電子顕微鏡写真を
図11に示す。脱脂後もセルが保持されており、外周側壁のない円柱状炭酸カルシウムハニカム構造体ブロックが製造できていること、外周側部に貫通孔入口が形成されたことを確認した。また、貫通孔溝があり、溝アスペクト比が30以上のものが確認された。さらに、一部には、貫通孔入口が最外層だけでなく、第2外層にもあることを確認した。外周側壁除去率(外周側部における貫通孔溝及び貫通孔入口が形成された凹凸面の割合)は100%であった。
【0109】
貫通孔径は170μmであり、隔壁の厚さは70μm、貫通孔の長さは30mmであった。また、製造したハニカム構造体の体積は1.5×10-6m3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約2.4であり、貫通孔のアスペクト比は約180であった。
【0110】
(実施例4)水酸アパタイトからなるハニカム構造体(ブロック)
水酸化カルシウム粉末に代えて、太平化学製水酸アパタイトを用い、実施例1と同様に、外壁付構造体作製工程、及び外周側部加工工程を行った。
【0111】
<脱脂工程>
次に、当該バインダー含有水酸アパタイトハニカム構造体を、大気中にて脱脂し、900℃で焼成した。脱脂後のハニカム構造体の組成を、BRUKER製D8 ADVANCE型粉末X線回折装置を用い、出力は40kV、40mA、特性X線源としてCuのKα線(λ=0.15418nm)の条件で分析したところ、水酸アパタイトであることがわかった。
【0112】
脱脂工程の後のハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)を
図12に示す。脱脂後もセルが保持されており、外周側壁のない円柱状水酸アパタイトハニカム構造体ブロックが製造できていること、外周側部に貫通孔入口が形成されたことを確認した。また、貫通孔溝があり、溝アスペクト比が30以上のものが確認された。さらに、一部には、貫通孔入口が最外層だけでなく、第2外層にもあることを確認した。外周側壁除去率(外周側部における貫通孔溝及び貫通孔入口が形成された凹凸面の割合)は100%であった。
【0113】
貫通孔径は210μmであり、隔壁の厚さは150μm、貫通孔の長さは40mmであった。また、製造したハニカム構造体の体積は、約1.1×10-6m3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約1.4であり、貫通孔のアスペクト比は約190であった。
【0114】
(実施例5)水酸アパタイトからなるハニカム構造体破砕物(顆粒)
実施例4で製造した、外周側部を除去した円柱状のバインダー含有水酸アパタイトハニカム構造体を粉砕、ふるい分けし、1000μmのふるいは通過するが、850μmのふるいは通過しない顆粒に分級した。得られた顆粒は、実施例4と同じ条件で脱脂工程を行った。
【0115】
脱脂工程後のハニカム構造体顆粒の組成を粉末X線回折装置で分析したところ、水酸アパタイトであった。脱脂後もセルが保持されていることが確認された。また、貫通孔径は210μmであり、隔壁の厚さは150μm、貫通孔の長さの一例は0.9mmであった。また、製造したハニカム構造体顆粒の体積の一例は、約5×10-10m3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約1.4であった。貫通孔のアスペクト比の一例は約4であった。
【0116】
(実施例6)石膏(硫酸カルシウム)からなるハニカム構造体(ブロック)
<外壁付構造体作製工程>
和光純薬株式会社製半水石膏を、1000℃で加熱処理し、無水石膏(無水硫酸カルシウム)とした。調製した無水石膏と、株式会社長峰製作所製ワックス系バインダーを重量比で80:20に混合した。その後、株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミルにハニカム成形用金型を取り付け、押出成形を行った。押出成形の結果、無水石膏とバインダーの混合物を組成とし、外周側壁を有する円柱状のバインダー含有無水石膏ハニカム構造体を中間体として作製した。
【0117】
<外壁側部加工工程>
次に、円柱状のバインダー含有無水石膏ハニカム構造体の外周側壁を電動カンナで除去し、外周側部に貫通孔入口、溝アスペクト比が1.5以上である貫通孔溝を貫通孔入口に連続して形成した。
【0118】
<脱脂工程>
次に、当該バインダー含有無水石膏ハニカム構造体を、大気中にて、脱脂し、1000℃で焼成した。脱脂後のハニカム構造体の組成を、BRUKER製D8 ADVANCE型粉末X線回折装置を用い、出力は40kV、40mA、特性X線源としてCuのKα線(λ=0.15418nm)の条件で分析したところ、無水石膏であることがわかった。
【0119】
脱脂工程の後のハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)を
図13に示す。脱脂後もセルが保持されており、外周側壁のない円柱状無水石膏ハニカム構造体ブロックが製造できていること、外周側部に貫通孔入口が形成されたことを確認した。また、貫通孔溝があり、溝アスペクト比が10以上のものが確認された。さらに、一部には、貫通孔入口が最外層だけでなく、第2外層にもあることを確認した。外周側壁除去率(外周側部における貫通孔溝及び貫通孔入口が形成された凹凸面の割合)は100%であった。
【0120】
貫通孔径は210μmであり、隔壁の厚さは150μm、貫通孔の長さは21mmであった。また、製造したハニカム構造体の体積は、約6×10-7m3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約1.4であり、貫通孔のアスペクト比は約100であった。
【0121】
(実施例7)β型リン酸三カルシウムからなるハニカム構造体(ブロック)
<外壁付構造体作製工程>
太平化学産業株式会社製β型リン酸三カルシウム粉末(β-TCP-A)と、株式会社長峰製作所製ワックス系バインダーを重量比で75:25に混合した。その後、株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミルにハニカム成形用金型を取り付け、押出成形を行った。押出成形の結果、β型リン酸三カルシウムとバインダーの混合物を組成とし、外周側壁を有する円柱状のバインダー含有β型リン酸三カルシウムハニカム構造体を中間体として作製した。
【0122】
<外壁側部加工工程>
次に、円柱状のバインダー含有β型リン酸三カルシウムハニカム構造体の外周側壁を電動カンナで除去し、外周側部に貫通孔入口、溝アスペクト比が1.5以上である貫通孔溝を貫通孔入口に連続して形成した。
【0123】
<脱脂工程>
次に、当該バインダー含有β型リン酸三カルシウムハニカム構造体を、大気中にて、脱脂し、1050℃で焼成した。脱脂後のハニカム構造体の組成を、BRUKER製D8 ADVANCE型粉末X線回折装置を用い、出力は40kV、40mA、特性X線源としてCuのKα線(λ=0.15418nm)の条件で分析したところ、β型リン酸三カルシウムであることがわかった。
【0124】
脱脂工程の後のハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)を
図14に示す。脱脂後もセルが保持されており、外周側壁のない円柱状β型リン酸三カルシウムハニカム構造体ブロックが製造できていること、外周側部に貫通孔入口が形成されたことを確認した。また、貫通孔溝があり、溝アスペクト比が30以上のものが確認された。さらに、一部には、貫通孔入口が最外層だけでなく、第2外層にもあることを確認した。外周側壁除去率(外周側部における貫通孔溝及び貫通孔入口が形成された凹凸面の割合)は100%であった。
【0125】
貫通孔径は210μmであり、隔壁の厚さは150μm、貫通孔の長さは18mmであった。また、製造したハニカム構造体の体積は、約5×10-7m3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約1.4であり、貫通孔のアスペクト比は約90であった。
【0126】
(実施例8)β型リン酸三カルシウムからなるハニカム構造体破砕物(顆粒)
実施例7の外壁側部加工工程後の円柱状バインダー含有β型リン酸三カルシウムハニカム構造体を、カッターと、乳鉢を用いて粉砕した。粉砕したバインダー含有β型リン酸三カルシウムハニカム構造体をふるい分けし、1000μmのふるいは通過するが、850μmのふるいは通過しない顆粒に分級した。得られた顆粒は、実施例7と同じ条件で脱脂工程を行った。
【0127】
脱脂工程後のハニカム構造体顆粒の組成を粉末X線回折装置で分析したところ、β型リン酸三カルシウムであった。脱脂後もセルが保持されていることが確認された。また、貫通孔径は210μmであり、隔壁の厚さは150μm、貫通孔の長さの一例は0.9mmであった。また、製造したハニカム構造体顆粒の体積の一例は、約5×10-10m3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約1.4であった。貫通孔のアスペクト比の一例は約4であった。
【0128】
(実施例9)α型リン酸三カルシウムからなるハニカム構造体(ブロック)
<組成変換工程>
実施例7にて調製したβ型リン酸三カルシウムハニカム構造体を、大気中にて、1500℃で焼成し、α型リン酸三カルシウムに組成変換した。焼成後のハニカム構造体の組成を、BRUKER製D8 ADVANCE型粉末X線回折装置を用い、出力は40kV、40mA、特性X線源としてCuのKα線(λ=0.15418nm)の条件で分析したところ、α型リン酸三カルシウムであることがわかった。
【0129】
組成変換工程後のハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)を
図15に示す。組成変換工程後もセルが保持されており、外周側壁のない円柱状α型リン酸三カルシウムハニカム構造体ブロックが製造できていること、外周側部に貫通孔入口が形成されたことを確認した。また、貫通孔溝があり、溝アスペクト比が30以上のものが確認された。さらに、一部には、貫通孔入口が最外層だけでなく、第2外層にもあることを確認した。外周側壁除去率(外周側部における貫通孔溝及び貫通孔入口が形成された凹凸面の割合)は100%であった。
【0130】
貫通孔径は210μmであり、隔壁の厚さは150μm、貫通孔の長さは21mmであった。また、製造したハニカム構造体の体積は、約6×10-7m3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約1.4であり、貫通孔のアスペクト比は約100であった。
【0131】
(実施例10)高分子材料からなるハニカム構造体
<外壁付構造体作製工程>
株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミルにハニカム成形用金型を取り付け、三井化学株式会社製ポリオレフィン系樹脂であるタフマーMY-2の押出成形を行った。押出成形の結果、タフマーを組成とし、円柱状の外周側壁を有するタフマーハニカム構造体を中間体として作製した。得られたタフマーハニカム構造体は柔軟性を持ち、手で容易に曲げることができた。
【0132】
<外壁側部加工工程>
次に、円柱状の外周側壁を有するタフマーハニカム構造体の外周側壁をカッターで除去し、外周側部に貫通孔入口、溝アスペクト比が1.5以上である貫通孔溝を貫通孔入口に連続して形成した。
【0133】
外周側壁除去後のハニカム構造体の電子顕微鏡写真(SEM写真)を
図16に示す。外周側壁除去後もセルが保持されており、外周側壁のないタフマーハニカム構造体ブロックが製造できていること、外周側部に貫通孔入口が形成されたことを確認した。また、貫通孔溝があり、溝アスペクト比が30以上のものが確認された。さらに、一部には、貫通孔入口が最外層だけでなく、第2外層にもあることを確認した。外周側壁除去率(外周側部における貫通孔溝及び貫通孔入口が形成された凹凸面の割合)は100%であった。
【0134】
貫通孔径は210μmであり、隔壁の厚さは100μm、貫通孔の長さは30mmであった。また、製造したハニカム構造体の体積は、約2×10-7m3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約2.1であり、貫通孔のアスペクト比は約140であった。
【0135】
(実施例11)炭酸アパタイトからなるハニカム構造体(ブロック)
実施例1で製造した炭酸カルシウムハニカムブロックを80℃の1モル濃度リン酸水素二ナトリウム水溶液に7日間浸漬した。
【0136】
製造されたハニカム構造体の組成を粉末X線回折装置およびフーリエ変換赤外分光光度計で分析したところ、炭酸アパタイトであった。炭酸基含有量をCHN元素分析装置で分析したところ、10.8重量パーセントであった。製造された炭酸アパタイトハニカム構造体(実施例11aに係るハニカム構造体)の電子顕微鏡写真を
図17に示す。外周側壁のない炭酸アパタイトハニカム構造体ブロックが製造できていることが確認された。セルが保持されており、外周側壁のない円柱状炭酸カルシウムハニカム構造体ブロックが製造できていること、外周側部に貫通孔入口が形成されたことを確認した。また、貫通孔溝があり、貫通孔溝アスペクト比が30以上のものが確認された。さらに、一部には、貫通孔入口が最外層だけでなく、第2外層にもあることを確認した。外周側壁除去率(外周側部における貫通孔溝及び貫通孔入口が形成された凹凸面の割合)は100%であった。
【0137】
貫通孔径は210μmであり、隔壁の厚さは150μm、貫通孔の長さは30mmであった。また、製造したハニカム構造体の体積は2×10-6m3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約1.4であり、貫通孔のアスペクト比は約140であった。
【0138】
また、製造した炭酸アパタイトハニカムブロックの貫通方向(
図1のc方向)圧縮強さは90MPaであり、貫通方向に垂直な方向(
図1のa方向)の圧縮強さは2MPaであった。
【0139】
次に、炭酸アパタイトハニカム構造体ブロックの組織親和性、再生・再建組織の配向性、骨への置換性を解析するために、日本白色兎の大腿骨に形成した骨欠損部に上記実施例11aと同様に製造した実施例11bに係る炭酸アパタイトハニカム(直径6mm、高さ5mm)を埋植し、埋植1ヶ月後に周囲組織と一塊に摘出、病理組織学的に検索した。
【0140】
図18にヘマトキシリン・エオジン染色した病理組織の弱拡大像を示す。炭酸アパタイトハニカム構造体ブロックが外周側面も含めて周囲組織と極めて良好に結合していること、炭酸アパタイトハニカム構造体ブロック内部に骨組織が完全に侵入していることがわかった。
【0141】
図19に、貫通孔方向に開口した外周側部の貫通孔入口からハニカム構造体近心部にあるセルに侵入した組織の病理組織の強拡大像を示す。炎症性所見は認められない。形成された骨組織が炭酸アパタイトハニカム構造体ブロックのセルの長軸方向に高度に配向していることがわかる。また、炭酸アパタイトハニカム構造体ブロックの隔壁表面に形成された配向骨の表面に、多核の破骨細胞および骨芽細胞、形成された骨内部に骨細胞が認められる。このことから、ハニカム構造体内部に形成された骨が活発に骨リモデリングしていること、そのため、炭酸アパタイトハニカム構造体ブロックは骨組織に置換されることがわかった。また、炭酸アパタイトハニカムのセルの内部に血管内皮細胞が認められ、血管内皮細胞の中に赤血球が確認された。このことから、炭酸アパタイトハニカム内部に血管が形成されていることがわかった。血管形成によって形成された骨には酸素と栄養が供給されるため、炭酸アパタイトハニカム構造体によって極めて高度に骨が再生されることがわかった。
【0142】
(実施例12)炭酸アパタイトからなるハニカム構造体破砕物(顆粒)
実施例2で製造した炭酸カルシウムハニカム構造体顆粒を80℃の1モル濃度リン酸水素二ナトリウム水溶液に7日間浸漬した。ハニカム構造体顆粒の組成を粉末X線回折装置およびフーリエ変換赤外分光光度計で分析したところ、炭酸アパタイトであった。炭酸基含有量をCHN元素分析装置で分析したところ、10.8重量パーセントであった。
【0143】
製造された炭酸アパタイトハニカム構造体顆粒の電子顕微鏡写真を
図20に示す。組成変換後も基本的に構造が保持されていた。
貫通孔径は210μmであり、隔壁の厚さは150μm、貫通孔の長さの一例は1mmであった。また、製造したハニカム構造体顆粒の体積の一例は8×10
-10m
3であった。隔壁の厚さに対する貫通孔径の比は約1.4であった。貫通孔のアスペクト比は約5であった。
【0144】
次に、炭酸アパタイトハニカム構造体顆粒の組織親和性、再生・再建組織の配向性、骨への置換性を解析するために、日本白色兎の大腿骨に形成した骨欠損部に炭酸アパタイトハニカムを埋植し、埋植1ヶ月後に周囲組織と一塊に摘出、病理組織学的に検索した。
【0145】
図21にヘマトキシリン・エオジン染色した病理組織の弱拡大像を示す。炭酸アパタイトハニカム構造体顆粒が周囲組織と極めて良好に結合していること、炭酸アパタイトハニカム構造体顆粒内部に骨組織が完全に侵入していることがわかった。
【0146】
図22に、貫通孔方向に開口した外周側部の貫通孔入口からハニカム構造体近心部にあるセルに侵入した組織の病理組織の強拡大像を示す。再生・再建された骨組織が炭酸アパタイトハニカム構造体顆粒のセルの長軸方向に配向していることがわかる。また、炭酸アパタイトハニカム構造体顆粒の表面に破骨細胞が認められる。このことから、炭酸アパタイトハニカム構造体顆粒は骨組織に置換されることがわかった。
【0147】
(実施例13)外周側壁のある炭酸アパタイトハニカムブロック
実施例1と同様な方法で外周側壁加工を行わずに、外周側壁のある炭酸カルシウムハニカム構造体を中間体として製造し、80℃の1モル濃度リン酸水素二ナトリウム水溶液に7日間浸漬した。
【0148】
ハニカム構造体ブロックの組成を粉末X線回折装置およびフーリエ変換赤外分光光度計で分析したところ、炭酸アパタイトであった。炭酸基含有量をCHN元素分析装置で分析したところ、10.5重量パーセントであった。製造された炭酸アパタイトハニカム構造体は基本的に中間体である炭酸カルシウムハニカム構造体の構造が維持されており、外周側壁のある炭酸アパタイトハニカム構造体ブロックが製造できていることが確認された。
【0149】
次に、炭酸アパタイトハニカム構造体ブロックの組織親和性、再生・再建組織の配向性、骨への置換性を解析するために、日本白色兎の大腿骨に形成した骨欠損部に炭酸アパタイトハニカムを埋植し、埋植1ヶ月後に周囲組織と一塊に摘出、病理組織学的に検索した。
【0150】
炭酸アパタイトハニカム構造体ブロックが外周側壁面も含めて周囲組織と極めて良好に結合していること、炭酸アパタイトハニカム構造体ブロック内部に骨組織が完全に侵入していることがわかった。炭酸アパタイトハニカムの外周側壁の一部は吸収されており、外周側壁からもハニカム構造体の内部に配向した骨組織が侵入していることがわかった。
【0151】
(比較例1)外周側壁のある水酸アパタイトハニカムブロック
実施例13に示した炭酸アパタイトハニカムの有用性を検証する目的で、実施例13の炭酸アパタイトと構造が同じで組成が水酸アパタイトである水酸アパタイトハニカムを調製した。
【0152】
水酸アパタイト粉末をジェットミルで平均粒径1μmに粉砕し、水酸アパタイト粉末とワックス系バインダーを重量比で75:25に混合した。その後、ラボプラストミルにハニカム成形用金型を取り付け、押出成形を行った。押出成形の結果、水酸アパタイト粉末とバインダーの混合物を組成とし、外周側壁を有する円柱状のバインダー含有水酸アパタイト粉末ハニカム構造体を中間体として製造した。
【0153】
次に、当該バインダー含有水酸アパタイト粉末ハニカム構造体を、空気中、700℃で脱脂した。さらに、1200℃で6時間焼成した。
【0154】
焼成後のハニカム構造体の組成を、BRUKER製D8 ADVANCE型粉末X線回折装置で分析したところ、水酸アパタイトであることがわかった。
【0155】
次に、外周側壁のある水酸アパタイトハニカム構造体ブロックの組織親和性、再生・再建組織の配向性、骨への置換性を解析するために、日本白色兎の大腿骨に形成した骨欠損部に外周側壁のある水酸アパタイトハニカム構造体を埋植し、埋植1ヶ月後に周囲組織と一塊に摘出、病理組織学的に検索した。
【0156】
外周側壁のある水酸アパタイトハニカム構造体の貫通孔端部で構成される面(
図1のC面)は周囲組織と良好に結合していたが、その程度は実施例13の炭酸アパタイトハニカムに比べて劣っていた。また、外周側壁面も周囲組織との結合性は限定的であった。また、炭酸アパタイトハニカム構造体ブロック内部への骨組織と比較して、水酸アパタイトハニカム構造体への骨組織の侵入は限定的であった。このことから、炭酸アパタイトハニカム構造体のセルへの骨組織の侵入は水酸アパタイトに比較しても優れることがわかった。また、炭酸アパタイトを含むハニカム構造体でない場合には、外周側壁があると周囲組織とハニカム構造体の結合に問題があることがわかった。
【0157】
<貫通孔への骨侵入確認試験>
次に、炭酸アパタイトハニカムと水酸アパタイトハニカムにおける貫通孔への骨の侵入の程度を比較した。
実施例13及び比較例1に示したように、外周側壁がある炭酸アパタイトと水酸アパタイトを比べた場合、同じ気孔サイズでも貫通孔端部で構成される面(
図1のC面)からの骨の侵入量が異なることがわかった。そこで、外周側壁のある炭酸アパタイトハニカム及び外周側壁のある水酸アパタイトハニカムについて、C面からの骨の侵入の程度を確認した。その結果を表1に示す。
【0158】
【0159】
気孔内部への組織侵入は気孔径が小さくなるほど起こりにくいことが一般的に知られている。また、気孔内部に侵入した組織が機能しつづけるためには血管形成が必須である。表1に示したように、炭酸アパタイトハニカムは少なくとも貫通孔径が280μm以下の場合には水酸アパタイトに比較してC面からの骨侵入に優れることがわかった。特に、貫通孔径が70μmの場合および170μmの場合、組成が水酸カルシウムであるとハニカム構造体内部への骨の侵入が極めて限定的あるいは限定的であるのに対し、炭酸アパタイトはC面全面からハニカム構造体内部に骨侵入が認められた。すなわち、貫通孔径が170μm以下の場合、水酸アパタイトとの顕著な効果の差がみられる。
【0160】
また、水酸アパタイトの場合は、埋入4週目の段階で最大貫通気孔径が280μmのものでも血管形成が認められなかった。それに対して、炭酸アパタイトハニカムは最大貫通気孔径が70μmのものでも、骨組織が侵入し、当該骨組織の中に血管形成が認められることがわかった。
【0161】
炭酸アパタイトハニカムが、他の組成のハニカムと著しく異なる機能を発現し、ハニカム構造を持たない炭酸アパタイトブロックなどとも著しく異なる機能を発現するメカニズムは不明であるが、マクロファージなどの細胞による組成認識とハニカム構造による微小環境の形成によるシナジー効果が発生したと考えられる。
【0162】
すなわち、医療材料を生体組織に埋入するとマクロファージが生体材料を異物として認識し、貪食しようとする。その結果、炭酸アパタイトハニカムや水酸アパタイトハニカムは一部溶解され、カルシウムイオンやリン酸イオンが体液に供給される。マクロファージはCa-sensing receptor(CaSR)などでカルシウムイオンやリン酸イオンを認識し、活性化されてサイトカインや増殖因子を放出する。炭酸アパタイトは、生体骨と同じ組成であり、溶出されるカルシウムイオンやリン酸イオンの比率が生体骨と同じであったり、マクロファージによる貪食過程における酸性環境での溶解度が水酸アパタイトに比較して大きかったりするので、マクロファージの活性化によるサイトカインや増殖因子の放出量が多いと考えられる。
【0163】
一方、炭酸アパタイトがハニカム構造によって一方向に伸びる貫通孔を保持しない場合、例えば緻密体の場合、マクロファージが放出したサイトカインや増殖因子は拡散されるため、骨芽細胞などの活性化は限定的である。炭酸アパタイトが多孔体であっても一方向に伸びる貫通孔を保持しない場合、すなわち、フォーム状多孔体などの場合は、緻密体炭酸アパタイト表面と比較するとマクロファージが放出したサイトカインや増殖因子の拡散は限定的であるが、三次元的に拡散されるため、やはりマクロファージが放出したサイトカインや増殖因子の局在化は限定的である。一方、炭酸アパタイトハニカムは一方向に伸びる貫通孔を保持しており、マクロファージが放出したサイトカインや増殖因子を局在化させると考えられる。その結果、骨芽細胞などが高度に活性化されて骨形成や、形成された骨の機能維持に必須である血管が形成されると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明の医療用ハニカム構造体は、(1)細胞あるいは組織の材料表面への接着性あるいは結合性に優れ、(2)配向した組織が再生・再建され、(3)機械的強さに優れ、(4)組織置換材料として用いられる場合においては、迅速に所望の組織に置換され、(5)安価に製造できる、という医療用材料に望まれる要求を満足するものであり、医療分野又は医療に関係する分野での広い利用が可能となる。
【符号の説明】
【0165】
10 本発明の医療用ハニカム構造体
11 貫通孔
12 隔壁
13 外周側壁
14 外周側壁を有するハニカム構造体
15 貫通孔入口
16 貫通孔溝