(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】蓋開閉式試験機、および、蓋開閉式試験機の補強工法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2022144517
(22)【出願日】2022-09-12
【審査請求日】2024-02-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107583
【氏名又は名称】スガ試験機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】須賀 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】井上 純
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-186732(JP,A)
【文献】米国特許第06024238(US,A)
【文献】特開2009-036688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験槽と、
試験槽に開閉可能に設けられた開閉蓋と、
開閉蓋を支持するダンパーと、
ダンパーと開閉蓋とを連結する連結部材と、
ダンパーと開閉蓋とに係止し、連結部材を跨いでダンパーと開閉蓋とを連結する連結補助部材と、を備え
、
ダンパーが連結部材を介して開閉蓋を支持し、
連結部材を介したダンパーの開閉蓋の支持が解除された際に、ダンパーは連結補助部材を介して開閉蓋を支持する、
蓋開閉式試験機。
【請求項2】
開閉蓋には、蓋本体から突出する突出部が設けられ、
連結部材がダンパーと突出部を連結し、
連結補助部材がダンパーと突出部に嵌合する、
請求項1に記載の蓋開閉式試験機。
【請求項3】
連結補助部材と突出部とが嵌合する位置が、連結部材と蓋本体との間に在る、
請求項2に記載の蓋開閉式試験機。
【請求項4】
開閉蓋の開閉時に開閉蓋に連動し、開閉蓋が開放されて開閉蓋の開度が所定角度に達すると試験槽に係止して開閉蓋の開放状態を維持するロック体を備えた、
請求項1~3の何れか一項に記載の蓋開閉式試験機。
【請求項5】
試験槽に設けられ、ロック体の係止を解除する解除体を備えた、
請求項4に記載の蓋開閉式試験機。
【請求項6】
試験槽と、
試験槽に開閉可能に設けられた開閉蓋と、
開閉蓋を支持するダンパーと、
ダンパーと開閉蓋とを連結する連結部材と、を備え
、
ダンパーが連結部材を介して開閉蓋を支持する蓋開閉式試験機の補強工法であって、
補強工法は、
連結部材を跨ぐように連結補助部材をダンパーと開閉蓋とに嵌合させ、ダンパーと開閉蓋とを連結する補強工程を備え
、
補強工程により備え付けられた連結補助部材により、連結部材を介したダンパーの開閉蓋の支持が解除された際に、ダンパーは連結補助部材を介して開閉蓋を支持する、
蓋開閉式試験機の補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願における開示は、開閉式の蓋を備えた蓋開閉式試験機、および、蓋開閉式試験機の補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種部品や材料等の環境による劣化に対する耐久性の評価を行うために、噴霧腐食試験機を使用することが知られている。噴霧腐食試験機で行われる試験は、試験槽内に試料を配置し、試料を加温・加湿、噴霧環境に曝す。後掲の特許文献1には、上蓋開閉式の腐食試験装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
腐食試験機において、近年試験対象物の多様化から、大型の試験対象物の要求が増えており、これに伴い試験機の大型化や、上蓋が90°まで開く試験機が開発されている。試験機の大型化や、上蓋の大開口に伴う複雑化が進むと同時に、試験機の安全性能の向上や低コスト化が求められていた。
【0005】
そこで、本出願における開示は、簡便な構成により安全性を確保することが可能な蓋開閉式試験機を提供することを課題とする。本出願における開示のその他の任意付加的な効果は、発明を実施するための形態において明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願における開示は、以下に記載する蓋開閉式試験機、および、蓋開閉式試験機の補強工法に関する。
【0007】
(1)試験槽と、
試験槽に開閉可能に設けられた開閉蓋と、
開閉蓋を支持するダンパーと、
ダンパーと開閉蓋とを連結する連結部材と、
ダンパーと開閉蓋とに係止し、連結部材を跨いでダンパーと開閉蓋とを連結する連結補助部材と、を備えた、
蓋開閉式試験機。
(2)開閉蓋には、蓋本体から突出する突出部が設けられ、
連結部材がダンパーと突出部を連結し、
連結補助部材がダンパーと突出部に嵌合する、
上記(1)に記載の蓋開閉式試験機。
(3)連結補助部材と突出部とが嵌合する位置が、連結部材と蓋本体との間に在る、
上記(2)に記載の蓋開閉式試験機。
(4)開閉蓋の開閉時に開閉蓋に連動し、開閉蓋が開放されて開閉蓋の開度が所定角度に達すると試験槽に係止して開閉蓋の開放状態を維持するロック体を備えた、
上記(1)~(3)の何れか一つに記載の蓋開閉式試験機。
(5)試験槽に設けられ、ロック体の係止を解除する解除体を備えた、
上記(4)に記載の蓋開閉式試験機。
(6)試験槽と、
試験槽に開閉可能に設けられた開閉蓋と、
開閉蓋を支持するダンパーと、
ダンパーと開閉蓋とを連結する連結部材と、を備えた蓋開閉式試験機の補強工法であって、
連結部材を跨ぐように連結補助部材をダンパーと開閉蓋とに嵌合させ、ダンパーと開閉蓋とを連結する補強工程を備えた、
蓋開閉式試験機の補強工法。
【発明の効果】
【0008】
簡便な構成により安全性を確保することが可能な蓋開閉式試験機、および、蓋開閉式試験機の補強工法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】蓋開閉式試験機100における開閉蓋4が開放途中にある状態を斜め上方から示す概略図。
【
図2】蓋開閉式試験機100における開閉蓋4が全開した状態を斜め上方から示す概略図。
【
図3】(a)は開閉蓋4が閉じた状態を示す側面図、(b)は開閉蓋4が開放途中にある状態を示す側面図、(c)は開閉蓋4が全開した状態を示す側面図。
【
図4】(a)はダンパー6と突出部26の連結状態を示す概略図、(b)は突出部26に破断が生じた状態を示す概略図。
【
図5】警報システムに用いられる開放維持ピン80の使用方法を示す概略図。
【
図7】ロック体9が係止ロッド62に係止した状態の一例を拡大して示す説明図。
【
図8】(a)は開閉蓋4が閉じている場合における解除体70の様子を示す概略図、(b)は開閉蓋4が開放途中である場合における解除体70の様子を示す概略図、(c)は開閉蓋4が全開した場合における解除体70の状態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、蓋開閉式試験機(以下、「試験機」と記載することがある)100の実施形態について、詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一又は類似の符号が付されている。そして、同一又は類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0011】
また、図面において示す各構成の位置、大きさ、範囲などは、理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、本出願における開示は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0012】
(試験機の第1の実施形態)
図1~
図6を参照して、第1の実施形態に係る試験機100について説明する。先ず、
図1~
図3、および、
図5に示す座標軸に関して、X軸は、試験機100を正面側(開閉蓋4の開放端側)から見た場合に、左右方向(幅方向)に一致する向きの軸である。X軸は、開閉蓋4が開閉する際の回動軸である。Y軸は、試験機100を正面側から見た場合に、奥行方向に一致する向きの軸であり、X軸と直交している。Z軸方向は、試験機100の上下方向に一致する向きの軸であり、X軸およびY軸と直交している。
【0013】
X軸の正の方向は、試験機100を正面側から見た場合の右向きの方向であり、Y軸の正の方向は、試験機100を正面側から見た場合の奥の方向である。Z軸の正の方向は、試験機100の上向きの方向(開閉蓋4が開く方向)である。また、X、Y、Z軸の正の方向とは反対側の方向が負の方向である。
【0014】
図1は、試験機100の一例における要部を示す概略図である。試験機100は、例えば、塩水噴霧試験機、キャス試験機、複合サイクル試験機、または、湿潤試験機などといった、各種の試験機のいずれであってもよい。
【0015】
試験機100は、試験槽2と、試験槽2に開閉可能に設けられた開閉蓋4と、開閉蓋4を支持するダンパー6と、ダンパー6と開閉蓋4とを連結する連結部材24と、ダンパー6と開閉蓋4とに係止し、連結部材24を跨いでダンパー6と開閉蓋4とを連結する連結補助部材8と、を備えている。なお、
図1~
図3に示す例では、試験機100は、ロック体9、ガイド装置10、および、解除装置12等も備えているが、これらは、第1の実施形態では任意付加的な構成である。
【0016】
図1~
図3に示す例では、試験槽2は、直方体状の形状を有しており、架台14(
図3(a)~(c)参照)の上に設置されている。なお、試験槽2の形状は直方体状に限定されず、試験対象となる試料や、試験に使用される各種の機器を収容できるものであればよい。例えば、Z軸の負の方向から試験槽2をみた場合、正方形状、五角形状、六角形状、円形状等が挙げられる。なお、開閉蓋4を開閉する際に、ダンパー6、連結部材24および連結補助部材8には、開閉方向以外の力が作用することは好ましくない。例えば、X軸を回動軸として開閉蓋4を開閉する際に、ダンパー6、連結部材24および連結補助部材8にX軸方向の力が作用する場合、開閉蓋4の開閉により多くの力を要する。したがって、ダンパー6、連結部材24、連結補助部材8を配置する部分の試験槽2および開閉蓋4で形成される面は、例えば、
図1に示すように、X軸と略直交する平面であることが好ましい。試験槽2を直方体状以外の形状にする場合は、ダンパー6、連結部材24、連結補助部材8を配置する部分以外で好適な形状となるように適宜設計することが好ましい。
【0017】
試験槽2の上部は開口しており、試験槽2には、試験機の種類や特性に応じた機器が収容されている。例えば、試験機100を塩水噴霧試験機やキャス試験機、複合サイクル試験機などとした場合は、図示は省略するが、試験槽2の内部に、噴霧液を放出する噴霧塔、噴霧液を溜める溶液溜め、蒸気管、および、噴霧液採取器等が配置される。
【0018】
試験槽2には、開閉蓋4が、ヒンジ(図示略)を介して装着されている。
図1、
図2、および、
図3(a)~(c)に示す例では、ヒンジは、ヒンジカバー20により隠されている。また、開閉蓋4は、山形の形状を有しており、
図3(a)に示すように、試験槽2の開口を塞ぐよう、試験槽2に被せられる。開閉蓋4を試験槽2に被せた際、開閉蓋4の開口と試験槽2の開口との間には、シール部(符号省略)が形成され、試験槽2内の環境と外部環境とが隔離される。シール部としては、試験槽2の開口縁部に形成された注水用凹部22に水を溜め、この注水用凹部22に開閉蓋4の開口縁部を嵌合させるタイプのものを採用できる。
【0019】
図1および
図2に示す例では、開閉蓋4が、矩形な開口の一片側(図中の左側に示す)を回動軸として開放された状態を示している。
図3(b)、(c)は、開閉蓋4が、図中の左側を支点として開放した状態を示している。
図1および
図3(b)は、開閉蓋4が開放途中にある状態を示しており、
図2および
図3(c)は、開閉蓋4が全開した状態を示している。開閉蓋4は、閉鎖途中にある場合も、
図1および
図3(b)に示すのと同様な状態となる。ここで、開閉蓋4は、後述するようにダンパー6により支持されているが、
図3(a)~(c)では、開閉蓋4の開閉の状態を明示するため、ダンパー6の図示が省略されている。
【0020】
開閉蓋4には、
図3(a)~(c)に概略的に示すように、任意付加的に所定の重さ(例えば数十キログラム程度)を有するバランスウエイト5が設けられている。このバランスウエイト5は、開閉蓋4の回動軸AX1を支点として、開閉蓋4の反対側に設けられている。
【0021】
バランスウエイト5は、常時開閉蓋4を開放させようとする向きに自重を作用させる。
図3(a)~(c)では、バランスウエイト5は、円柱状の図形によって概略的に示されているが、バランスウエイト5の形状として、矩形や円筒状、三角柱状、多角形柱状など、種々の形状を採用できる。
【0022】
図1および
図2に示すように、開閉蓋4は、ダンパー6により弾性的に支持されている。ダンパー6は、開閉蓋4の開閉時に緩衝装置として機能するものであれば特に制限はない。例えば、ダンパー6の一例として、エアダンパーが挙げられる。エアダンパーは、詳細な図示は省略するが、空気を出し入れしながら、ロッドとシリンダとを軸方向に相対変位させ、全体として伸縮する。エアダンパーは、空気の出入りを利用し、開閉蓋4の開閉時における緩衝を行う。また、エアダンパーを採用した場合には、空気の出入りを受動的に行うタイプのエアダンパーや、圧縮機を用いて能動的に(強制的に)空気を出し入れするタイプのエアダンパーであってもよい。ダンパー6の他の例として、油圧ダンパーが挙げられる。
【0023】
ダンパー6の一端(ここでは下端、
図1および
図2では図示が省略されている)は、試験槽2における一定の位置に、回動可能に連結されている。ダンパー6の他端(ここでは上端部)6aは、開閉蓋4に、連結部材24を介して回動可能に連結されている。ダンパー6と開閉蓋4との連結構造については後述する。
【0024】
図4(a)は、ダンパー6と開閉蓋4との連結構造の一例を示している。連結部材24は、ダンパー6および開閉蓋4を回動可能に連結できるものであれば特に制限はない。
図4(a)に示す例では、ダンパー6の上端部6aに連結部材24として所謂一山のナックルジョイント24が装着されている。図示は省略するが、ダンパー6とナックルジョイント24との連結にはロックナットが用いられている。
【0025】
図1および
図4に示す例では、開閉蓋4には、蓋本体31から突出する突出部26が設けられている。
図4に示す例では、突出部26は、丸棒状に加工された本体部28および本体部28の一端部(突出端部)に形成した雄ねじ部30を有している。突出部26は、ナックルジョイント24との連結シャフトとして機能する。
図1および
図4に示す例では、突出部26は、開閉蓋4の蓋本体31における一側面32に、動かないよう固定され、開閉蓋4の一側面32に対してほぼ垂直に突出している。突出部26は、開閉蓋4に付属する部品として蓋本体31と一体的に形成されてもよいし、別部品として作製しアセンブリしてもよい。
【0026】
突出部26をナックルジョイント24に挿通し、雄ねじ部30に固定具(ここではナット)42を螺合することで、ダンパー6および突出部26は、連結部材24により回動できるよう連結される。突出部26は、ナックルジョイント24およびダンパー6の上支点ピンとして機能する。
【0027】
図4(a)には、連結補助部材8としてL金具8を用いた例が示されている。このL金具8は、板金製であり、ほぼ直角なL字型に折り曲げられている。L金具8は、ほぼ90度の位置関係にある第1片36、および、第2片38を有している。第1片36、および、第2片38には、それぞれ丸い形状の穴が開けられている。第1片36の穴(図示略)には、ダンパー6が通され、第1片36がダンパー6に嵌合している。第2片38の穴40には、突出部26が通され、第2片38が突出部26に嵌合している。
【0028】
図4に示す例では、ナックルジョイント24の外径寸法は、第1片36の穴(図示略)の径寸法よりも大きく設定されており、ナックルジョイント24は、全周を第1片36に係止させることが可能である。また、ダンパー6の本体部分の外径寸法も、第1片36の穴(図示略)の径寸法よりも大きく設定されている。このため、L金具8の第1片36は、ナックルジョイント24やL金具8の分解や破損などといった特別な事情がない限り、ダンパー6から外れない。なお、必要に応じて、ロックナット(図示略)とナックルジョイント24で、L金具8の第1片36を挟み込むように固定してもよい。
【0029】
L金具8の第2片38においては、突出部26は、穴40に緩やかに通されており、第2片38に直接的には固定されていない。このため、突出部26は、穴40の範囲内で、第2片38に対し相対的に変位できる。しかし、突出部26の雄ねじ部30は、ナックルジョイント24に通され、固定具(ここではナット)42を介して、一体に固定されている。突出部26は、ナックルジョイント24に対して、相対的に変位できない。突出部26とナックルジョイント24との連結が強固になるよう、固定具42に対するゆるみ止めを行うことが好適である。
【0030】
L金具8は、第1片36と第2片38とを介し、ダンパー6と突出部26とに嵌合している。突出部26は、開閉蓋4に固定されて開閉蓋4の一部を構成しているため、L金具8は、ダンパー6と開閉蓋4に係止しているということができる。そして、L金具8は、ナックルジョイント24を跨いで、ダンパー6と開閉蓋4とに嵌合している。このため、L金具8は、ナックルジョイント24とともに、ダンパー6と開閉蓋4とを連結する機能を果たしている。
【0031】
このようなダンパー6と開閉蓋4との連結構造を採用することにより、突出部26に、例えば、
図4(b)に示すように破断等の異常が生じ、ダンパー6により開閉蓋4を支持できない状況となっても、L金具8がダンパー6と開閉蓋4に嵌合し続ける。このため、ダンパー6と開閉蓋4との連結が、L金具8により維持される。そして、開閉蓋4が、例えば、経年劣化等を原因として、予期せず閉じてしまうような事態が生じるのを防止できる。
【0032】
図4(b)は、突出部26に破損が生じた状態を概略的に示している。
図4(b)に示す例では、突出部26が、本体部28と雄ねじ部30との境界部分において破断し、本体部28と雄ねじ部30とが分離している。
図4(b)では、本体部28の、雄ねじ部30との破断部分44が、網掛けにより模式的に示されている。
図4(b)に示すように、もし本体部28と雄ねじ部30とが分離したとしても、ダンパー6と開閉蓋4との連結が、L金具8により維持される。
【0033】
試験機100は、試験の目的に応じ、内部で塩水を使用したり、内部の湿度を高めたりして使用される。また、試験機100は、頻繁に新しいものと交換されることは少なく、ユーザーによっては、長期間に亘って使用されたりするものである。このため、試験機100における劣化の予想は立て難く、万が一に備え、
図4(b)に例示するような、突出部26の分断等の対策を行う必要がある。
【0034】
そこで、本実施形態のように、開閉蓋4とダンパー6との連結部にL金具8を付加することで、ダンパー6の支持が外れる(解除される)ようなことがあっても、L金具8により、開閉蓋4とダンパー6との連結を維持することが可能となる。そして、予期せず開閉蓋4が閉じ、作業者が手指を挟んだりすることを防止でき、試験機100の安全性が一層向上する。
【0035】
また、本実施形態においては、L金具8を追加するのみで補強を施すことができる。このため、既に使用されている試験機100を交換したり、大掛かりな追加工を行ったりすることなく、試験機100の安全性を向上できる。そして、少ない投資で、既存設備の性能を向上させることが可能となる。
【0036】
ここで、突出部26等のような試験機100の構成部品について、素材にステンレス鋼を採用したり、塗装やめっきなどの表面処理を施したりすることにより、構成部品が劣化し難くなる。そして、L金具8との組み合わせにより、試験機100の過酷な条件での長期の使用に対して、信頼性を一層向上することが可能となる。
【0037】
なお、
図4に示す連結構造等の記載は一例に過ぎない。本出願で開示する技術思想の範囲内であれば各種設計変更が可能である。例えば、
図1に示す例では、蓋本体31に突出部26を固定している。代替的に、図示は省略するが、ナックルジョイント24を蓋本体31に、ボルト等の固定具を用いて連結してもよい。この場合、突出部26を省略できる。突出部26を省略する場合は、L金具8の穴40にボルト等の固定具を挿通すればよい。ナックルジョイント24とボルト等の固定具が接触する部分は、開閉蓋4の開閉の際の摺動に伴い最も力が作用する部分である。また、ナックルジョイント24とボルト等の固定具が接触する部分は回動点となることから塩分が進入しやすい。したがって、ボルト等の固定具を用いた場合でも、ナックルジョイント24とボルト等の固定具の接触部分で破断する可能性があることから、L金具8の穴40に固定具を挿入することで、突出部26を設ける場合と同様の効果が得られる。また、
図1および
図2に示す例では、1つのダンパー6のみが図示されている。しかし、ダンパー6の数は、1本に限らず、2本以上であってもよい。例えば、ダンパー6の数を2本とする場合は、もう1本のダンパー(図示略)を、開閉蓋4を、図示されたダンパー6とともに両持ちで支持できるよう、線対称に配置すればよい。
【0038】
L金具8による安全対策に加え、
図5に模式的に示すように、任意付加的に開放維持ピン80を用いた警報システムを採用してもよい。警報システムにおいては、開閉蓋4が開放されると、ブザー音が発せられる。開閉蓋4の全開後に、開放維持ピン挿入穴82に開放維持ピン80を差し込むと、ブザー音が停止する。このような警報システムを設けることにより、開放維持ピン80による開閉蓋4の固定が忘れられてしまうことを防止できる。
【0039】
図5に矢印Aで示すように、開放維持ピン80は、開閉蓋4に開口した開放維持ピン挿入穴82に対して出し入れされる。開放維持ピン80は、金属や樹脂製である。開放維持ピン80の直径は数センチメートル程度であり、軸方向の長さは15~20センチメートル程度である。開放維持ピン80は、先細のテーパ状に加工されており、先端は更に急峻に加工されて尖っている。開放維持ピン80の形状は、全体として直棒状であってもよい。
【0040】
試験槽2と開閉蓋4とには、開放維持ピン80を差し込むための穴が形成されており、開閉蓋4が全開された場合に、両方の穴が空間的に繋がって、開放維持ピン挿入穴82を構成する。開放維持ピン挿入穴82に開放維持ピン80が差し込まれると、開閉蓋4と試験槽2が開放維持ピン80を介して一体化する。
【0041】
開放維持ピン80の、開放維持ピン挿入穴82への挿入作業は、作業者が人手により行う。開放維持ピン80には、作業者が把持するためのグリップ84や、鍔状のストッパ86が設けられている。開放維持ピン80の、開放維持ピン挿入穴82への進入量は、ストッパ86により規制される。
【0042】
開放維持ピン80には、吊り下げ紐88の一端部が接続されている。吊り下げ紐88の他端部は、試験機100に接続されており、開放維持ピン80は、試験機100に常時繋がっている。吊り下げ紐88としては、伸縮が容易なコイル状のワイヤなどを用いることが可能である。吊り下げ紐88としてコイル状のワイヤを用いることで、開放維持ピン80の差し込み作業が容易になる。
【0043】
警報システムにおいては、開閉蓋4が開放されると電気回路が接続されてブザー音が発せられる。開放維持ピン80が差し込まれると、開放維持ピン挿入穴82に電気回路が開放されてブザー音が停止する。開放維持ピン80が開放維持ピン挿入穴82に差し込まれた状態では、開閉蓋4の回動を開放維持ピン80が阻止し、開閉蓋4の閉鎖ができない。
【0044】
なお、この他にも警報システムを、例えば、開閉蓋4が開放されたことを検出する開放センサ、開放維持ピン80が孔に差し込まれたことを検出する差し込みセンサ、開放センサや差し込みセンサの出力信号を受信する制御部、および、警報音を発することが可能のスピーカを備えたものとしてもよい。制御部は、開放センサの出力信号に基づいて、スピーカから警報音が出力される制御を行う。制御部は、差し込みセンサの出力信号に基づいて、警報音を停止する制御を行う。
【0045】
第1の実施形態の試験機100を用いると、以下の効果を奏する。
(1)連結補助部材(L金具)8が、ダンパー6と開閉蓋4とに係止し、ダンパー6と開閉蓋4とを連結する連結部材(ナックルジョイント)24を跨いで、ダンパー6と開閉蓋4とに嵌合している。したがって、ダンパー6の支持が解除されるようなことがあっても、L金具8により、開閉蓋4とダンパー6との連結を維持することが可能となる。
(2)開閉蓋4には、蓋本体31から突出する突出部26が設けられ、ナックルジョイント24が、ダンパー6と突出部26を連結する。さらに、L金具8が、ダンパー6と突出部26に嵌合する。このように、ダンパー6と開閉蓋4との連結は、ナックルジョイント24とL金具8とにより二重に行われる。したがって、開閉蓋4に支持に係るフェイルセーフ機構を簡便に付加することができる。そして、試験機100を、簡便な構成により安全性の高いものとすることができる。
(3)L金具8は突出部26の本体部28に嵌合し、L金具8と突出部26とが嵌合する位置が、ナックルジョイント24と蓋本体31との間に在る。したがって、L金具8と突出部26とが嵌合する位置よりも、蓋本体31に近い側の位置で、突出部26の分断等が発生しない限りは、L金具8と突出部26との嵌合を維持できる。そして、試験機100を、可能な限り安全性の高いものとすることができる。
【0046】
(4)なお、ダンパー6とナックルジョイント24の組み合わせを複数組(例えば2組)設けた場合は、仮に一方の突出部26とL金具8がともに破断したとしても、開閉蓋4が急激に閉まることがなく、安全性が向上する。更に、複数組のそれぞれにL金具8を設けた場合には、安全性がより向上する。
(5)開閉蓋4にバランスウエイト5が設けられる場合は、開閉蓋4を常時開放するように作用する力を発生させることができる。したがって、開閉蓋4の解放時は、少ない力で開放することができることから、利便性が向上する。また、開閉蓋4の閉鎖時は閉じ難くなり、このことによっても、試験機100の安全性が向上する。
【0047】
(6)開放維持ピン80により、全開時の開閉蓋4の固定が行われているので、全開状態にある開閉蓋4と試験槽2との固定が可能である。さらに、警報システムにより、開放維持ピン80の差し忘れが報知されるので、より確実に、全開状態にある開閉蓋4の固定を行うことができる。
【0048】
(連結補助部材8の変形例)
図1、
図2および
図4には、連結補助部材8としてL金具を用いた例が示されているが、本出願で開示する技術思想の範囲内において、連結補助部材8は各種変更をしてもよい。例えば、L金具8において、第1片36、および、第2片38の位置関係は、ほぼ90度に限られない。例えば、突出部26と、第2片38における穴40の内周縁部との間の隙間(所謂遊び)の大きさに応じて、90度より大きくすることも、小さくすることも可能である。また、
図1、
図2および
図4に示す例では、L金具8の第1片36および第2片38はほぼ90度で連結されているが、第1片36および第2片38は円弧状に連結されてもよい。
【0049】
また、L金具8は、1枚の金属板を折り曲げて作製されたものに限定されない。例えば、L金具8に、試験機100に後付けし易くなる構造を採用することが可能である。試験機100に後付けし易くなる構造としては、分割構造を例示できる。分割構造としては、
図6に二点鎖線Bで仮想的に分けて示すように、L金具8を、L字型の板状体8a、8bにより、試験機100の前後方向(Y軸方向)に2つ分ける構造を例示できる。L金具8を分割構造とした場合には、図示は省略するが、ボルトを板状体8a、8bに側面8cから貫通させ、反対側からナットで固定することが考えられる。この場合は、ボルトが、板状体8a、8bの板面に沿った幅方向に掛け渡される。
【0050】
これとは別の分割構造として、板状体8a、8bの縁部を重ね合わせ、重なり合った部分に対し、厚さ方向にボルト等の固定具を貫通させ、反対側からナットで固定することが考えられる。この場合は、ボルトが、厚さ方向に掛け渡される。また、U字に切り欠いた部分にダンパー6および突出部26を通すことが考えられる。
【0051】
(試験機100の補強工法の実施形態)
試験機100は、試験機100の組立中、組立後、設置後、または、使用開始後などに補強を行うことができる。試験機100の補強を行うための補強工法は、試験槽2と、試験槽2に開閉可能に設けられた開閉蓋4と、開閉蓋4を支持するダンパー6と、ダンパー6と開閉蓋4とを連結する連結部材24と、を備えた試験機100の補強工法であって、連結部材24を跨ぐように連結補助部材8をダンパー6と開閉蓋4とに嵌合させ、ダンパー6と開閉蓋4とを連結する補強工程を備える。
【0052】
補強工法は、実施形態および変形例で説明した何れの連結補助部材8を用いてもよい。実施形態や変形例で説明したように、1枚の金属板を折り曲げて作製された連結補助部材8の場合は、試験機100を分解して装着すればよい。試験機100の分解は、ダンパー6とナックルジョイント24とを分離させたり、ナックルジョイント24と突出部26とを分離させたりすることで可能となる。
【0053】
図6を用いて説明したような分割タイプの連結補助部材8の場合は、試験機100を分割しなくても装着できる。このため、既存の試験機100に対し、ダンパー6とナックルジョイント24の分解や、ナックルジョイント24と突出部26との分解などを行うことなく、連結補助部材8を装着し、補強することができる。
【0054】
(試験機の第2の実施形態)
次に、試験機の第2の実施形態(以下、単に「第2の実施形態」と記載することがある。)について説明する。先ず、
図1~
図3、および、
図5のほか、
図7、
図8にもXYZ座標を示しているが、各軸の向きや方向は、試験機の第1の実施形態と同様である。
【0055】
第2の実施形態は、開閉蓋4の開閉時に開閉蓋4に連動し、開閉蓋4が開放されて開閉蓋4の開度が所定角度に達すると試験槽2に係止して開閉蓋4の開放状態を維持するロック体9を備えている点で第1の実施形態と異なるが、その他の点は第1の実施形態と同じである。第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる点を中心に説明し、第1の実施形態において説明済みの事項についての繰り返しとなる説明は省略する。よって、第2の実施形態において明示的に説明されなかったとしても、第1の実施形態で説明済みの事項を採用可能であることは言うまでもない。
【0056】
図1に示す例では、ロック体9として帯板状の部材が記載されているが、開閉蓋4の全開時に試験槽2に係止して開閉蓋4の開放状態を維持できるものであれば、例えば、棒状などであってもよい。また、ロック体9は、リンク機構を有し、開閉蓋4の閉鎖時には折れ曲がり、開放時には伸びる構造のものであってもよい。
【0057】
図1に示す例では、開閉蓋4の開度に係る「所定角度」は、開閉蓋4が全開した場合の開度を意味しているが、後述するように、「所定角度」には幅がある。
【0058】
第2の実施形態は、試験槽2に設けられ、ロック体9の係止を解除する解除体70を任意付加的に備えてもよい。
図1に示す例では、解除体70は板状体であるが、ロック体9の係止を解除できるものであれば、例えば、角棒体や、丸棒体などであってもよい。
【0059】
図1~
図3に示す例では、ロック体9は、長尺状に加工された帯状の金属板である。ロック体9の長手方向における一方の端部(
図3中の上端部9c)は、開閉蓋4に、ピン状のロック体支持体50を介して、回動できるよう連結されている。
【0060】
以下では、開閉蓋4の回動軸を、開閉蓋4の回動軸AX1(第1の実施形態と同様)と称する。また、ロック体9の回動軸を、ロック体9の回動軸AX2と称し、解除体70の回動軸を、解除体70の回動軸AX3と称する。これらの回動軸AX1~AX3の位置関係については後述する。
図3(a)~(c)では、各回動軸AX1~AX3の位置は、直交する一点鎖線の交点に符号AX1~AX3を付すことにより示されている。
【0061】
図1、
図2、および、
図7に示すように、ロック体9は、ガイド装置10(後述する)の隙間60に差し込まれている。ロック体9は、開閉蓋4の開閉に伴い、開閉蓋4に吊り下げられた状態(ロック体9の回動軸AX2から吊り下げられた状態)で、ガイド装置10の中で変位する。
【0062】
ロック体9の、開閉蓋4に支持されていない側の端部(自由端の側の部位である図中の下端部9d)は、切り欠かれた形状を有しており、ロック体9の下端部9dには係止凹部52が形成されている。
図1に示す例では、係止凹部52は、ロック体9が有する直線状の縁部(後述する縁部9a)に、凹んだ形状で形成され、開閉蓋4に係る回動軸AX1の側を向いて開口している。代替的に、係止凹部52は、例えば、ロック体9の下端部9dにおいて下向き(ロック体9の長手方向の端部の向き)に凹んだ形状で形成されていてもよい。
【0063】
係止凹部52は、ロック体9の、上端部9cを支軸とした変位に伴い、ガイド装置10に設けられた係止体62(後述する)に、係止凹部52の縁部9bを係止させる。係止凹部52がガイド装置10の係止体62に係止すると、開閉蓋4が開放位置で固定される。開閉蓋4の開放や閉鎖の際におけるロック体9の動作については後述する。
【0064】
続いて、ガイド装置10について説明する。
図1に示す例では、試験槽2の側面58にガイド装置10が取り付けられている。ガイド装置10は、ロック体9を係止させる係止体62を有し、ロック体9が、開閉蓋4の開度が所定角度に達するまで係止体62に接触する第1接触部9aと、開閉蓋4の開度が所定角度に達すると係止体62に接触する第2接触部9bと、を有する。
図1に示す例では、係止体62として係止ロッド62を用いている。
【0065】
図8(a)~(c)に示す例では、開閉蓋4の開放動作中に、解除体70が、ロック体9に接触しながら立ち上がるように回動し、ロック体9が、第1接触部9aを係止ロッド62に接触させ、開閉蓋4の開度が所定角度に達すると、解除体70が、開閉蓋4の回動軸AX1の側に倒れ、ロック体9が、第2接触部9bを係止ロッド62に接触させて係止ロッド62に係止する。
【0066】
ガイド装置10は、
図1~
図3、
図7に示すように、ロック体9を係止させて固定したり、ロック体9の変位を案内したりする。ガイド装置10は、平板状の拘束板54を有している。拘束板54は、複数の固定具56を介して、試験槽2の、X軸に係る負の方向を向いた側面58に固定されている。
図7では、拘束板54や固定具56が2点鎖線で示されている。また、
図7では、後述する係止ロッド62やガイドロッド63を明示するため、固定具56は、
図1~
図3よりも、数を減らして記載されている。
【0067】
拘束板54と、試験槽2の側面58との間には、ロック体9を通すことが可能な隙間60が形成されている。隙間60は、図示は省略するが、拘束板54と、試験槽2の側面58との間に、スペーサを挟むことにより形成されている。スペーサとしては、例えば、円板状の座金や、矩形な板状スペーサなどを利用することが可能である。
【0068】
なお、拘束板54は、例えば、XY平面に沿った断面がコの字形になるように加工されたものであってもよい。この場合、拘束板54は、内側の凹みによって、試験槽2の側面58との間に隙間60を確保する。
【0069】
ガイド装置10には、係止ロッド62やガイドロッド63が備えられている。係止ロッド62は、例えば丸棒状に加工されており、拘束板54を貫通して試験槽2にねじ込まれている。係止ロッド62は、試験槽2および拘束板54に固定され、拘束板54の、中央寄りの部位に配置されている。
【0070】
ガイドロッド63は、例えば丸棒状に加工されており、拘束板54を貫通して試験槽2に差し込まれている。ガイドロッド63は、拘束板54にも、試験槽2にもねじ込まれておらず、作業者が手指で自由に抜き差しできる。ガイドロッド63は、ロック体9の位置ずれを防止し、ロック体9による開放状態の維持に係る安全性を向上する。
【0071】
代替的に、係止ロッド62やガイドロッド63を試験槽2の側面58にねじ込み(或いは、係止ロッド62やガイドロッド63を試験槽2と一体的に形成し)、その後に、係止ロッド62やガイドロッド63を貫通するように拘束板54を試験槽2の側面58に取り付けてもよい。
【0072】
続いて、解除装置12について説明する。
図8(a)~(c)は、解除装置12の一例を示している。解除装置12は、ロック体9と係止ロッド62との係止を可能としたり、係止を解除したりする機能を有している。解除装置12は、試験槽2の、開口部2a(
図1および
図2に示す)に近い位置に固定されており、解除体70、解除体支持部72、および、解除体ストッパ74等を備えている。
【0073】
これらのうち解除体70は、
図1、
図2、
図7、
図8(a)~(c)に示す例では、長手方向の端部を半円形状とした長方形状(角丸長方形状などともいう)の板状体である。解除体70は板状体であるが、ロック体9の係止を解除できるものであれば、例えば、角棒体や、丸棒体などであってもよい。解除体70の材料としては、金属や合成樹脂などを採用することができる。ただし、後述するように、解除体70は、変位する金属製のロック体9と摩擦を生じながら接触するため、塩化ビニルなどの合成樹脂を採用し、定期的に、または、不定期に交換される消耗品とすることが可能である。これによりロック体9の摩耗を防止することが可能である。
【0074】
解除体70の長手方向の一端部は、枢軸体71を介して、解除体支持部72に回動自在に連結されている。解除体70の長手方向の他端部は、自由端76であり、この自由端76は、解除体70の回動に伴い、
図8(a)に示すようにロック体9の側を向いたり、
図8(c)に示すようにロック体9の逆の側を向いたりすることが可能である。
【0075】
図7および
図8(a)~(c)では、解除体70に係る回動軸AX3の位置は、直交する一点鎖線の交点に符号AX3を付すことにより示されている。また、解除体70が、
図8(a)に示すように自由端76をロック体9の側に向けた姿勢を「第1姿勢」と称し、
図8(c)に示すように、自由端76をロック体9の逆側に向けた姿勢を「第2姿勢」と称する。
【0076】
解除体70の自由端76には、位置決め凹部78が設けられている。位置決め凹部78は、三日月状の凹みにより構成されている。位置決め凹部78の幅(解除体70の厚さ方向における開口幅)は、ロック体9の板の厚みよりも幾分大きく設定されている。解除体70は、位置決め凹部78に、ロック体9の側縁部における一部を受け入れて挟むことができる。位置決め凹部78内では、ロック体9が、側縁部を位置決め凹部78の壁面の少なくとも一部に接触させながら変位できる。なお、位置決め凹部78は必須ではなく、解除体70とロック体9との接触を確保できれば、位置決め凹部78を省略してもよい。
【0077】
解除体ストッパ74は、棒状の形状を有しており、解除体支持部72に固定されている。解除体ストッパ74は、解除体支持部72において、上向きに突出している。解除体ストッパ74の位置や突出量は、
図8(a)に示すように、解除体70が第1姿勢をとった場合に、解除体70を所定の傾斜角度αで支えるよう設定されている。
【0078】
解除体ストッパ74として、ボルト等を利用できる。解除体ストッパ74としてボルトを利用した場合は、ボルトを、解除体支持部72に上向きにねじ込み、解除体支持部72に固定する。解除体ストッパ74となるボルトの固定のための手段としては、ナット(図示略)等の固定具や、溶接等を採用できる。
【0079】
続いて、ロック体9および解除装置12の機能について説明する。
図3(a)~(c)に示すように、開閉蓋4の回動軸AX1を中心とした回動動作に伴い、ロック体9は、回動軸AX2を中心として姿勢を変化させる。ロック体9の姿勢の変化は、ガイド装置10における係止ロッド62と、ガイドロッド63との間で行われる。
図3(a)に示すように、開閉蓋4が閉鎖されている状況では、ロック体9は、係止凹部52が形成された下端部9dを、ほぼ真下に向けている。このとき、解除装置12においては、
図8(a)に示すように、解除体70が第1姿勢にある。解除体70とロック体9は接触せず、離れている。
【0080】
図3(b)、(c)に示すように、開閉蓋4が開放されると、ロック体9の回動軸AX2の位置が、Y軸とZ軸に囲まれた平面(YZ平面)内で、各軸の正方向に変位する。これに伴い、ロック体9は、上方(Z軸の正方向)に引き上げられるとともに、Y軸の正方向への変位を開始する。
【0081】
ロック体9の長手方向に延びる一方の縁部9aは、ガイド装置10の係止ロッド62に当たり、係止ロッド62に接触する。この縁部9aは「第1接触部」と称することができる。これに対し、後述するように、開閉蓋4の全開時には、ロック体9の下端部9dに位置する係止凹部52が、その縁部9bを係止ロッド62に接触させる。このことから、係止凹部52の縁部9bは「第2接触部」と称することが可能である。
【0082】
ロック体9は、係止ロッド62に当たると、長手方向に延びる一方の縁部9aを係止ロッド62に接触させながら移動する。開閉蓋4の開放動作に伴い、ロック体9の、係止ロッド62との接触位置は、徐々に、ロック体9における下端部9dの側へ移動する。このような開閉蓋4の開放途中においては、ロック体9の姿勢は、YZ平面において、上端部9cがY軸の正方向を斜めに向き、下端部9dがY軸の負方向を斜めに向いた状態となっている。換言すれば、ロック体9の姿勢は、YZ平面において、上端部9cが、試験機100に係る後方の斜め上方を向き、下端部9dが、試験機100に係る前方の斜め下方を向いた状態となっている。なお、上述の説明は、解除体70を具備した実施形態の説明であるが、解除体70を具備しない場合であっても、開閉蓋4の開放前後におけるロック体9の姿勢は同じである。
【0083】
ロック体9が開閉蓋4に引き上げられて変位を開始するのに伴い、解除装置12においては、ロック体9が、解除体70に徐々に接近する。ロック体9の縁部9aが、
図8(b)に示すように、解除体70の位置決め凹部78に入り込むと、解除体70によりロック体9が厚さ方向に挟まれ、ロック体9が解除体70に係止する。ロック体9が解除体70の位置決め凹部78に入り込むことにより、ロック体9と解除体70との位置関係が規制され、ロック体9が、解除体70に対し、厚さ方向(X軸方向)に位置ずれし難くなる。
【0084】
ロック体9は、解除体70との間に摩擦力を発生させながら変位し、解除体70は、
図8(b)に矢印Cで示すように、ロック体9とともに回動変位する。解除体70の重心位置は、解除体70の回動軸AX3よりも上方にあり、更にロック体9の変位に伴って、解除体70の回動軸AX3の真上に到達する。
【0085】
解除体70がロック体9に接触している間は、ロック体9のYZ平面内における位置も、解除体70によって規制される。ロック体9は、解除体70に接触している間は、縁部9aを、ガイド装置10の係止ロッド62の外周面にも接触させている。このため、解除体70がロック体9に接触している間は、係止ロッド62は、ロック体9における係止凹部52に係止せず、係止凹部52の外側に位置している。
【0086】
このように、開閉蓋4の開放の際には、ロック体9の回動軸AX2が、水平方向であるY軸方向において、解除体70の回動軸AX3よりも開閉蓋4の回動軸AX1に対して遠い位置から、開閉蓋4の回動軸AX1に近づく方向に移動する。
【0087】
開閉蓋4の開放角度(以下、単に「開度」と記載することがある)が、全開に対応した所定角度、或いは所定角度付近に達すると、解除体70は、ロック体9から離れる側に倒れ、第2姿勢となる。解除体70が第2姿勢となる際には、解除体70の自由端76側は、回動軸AX3を中心として、解除体70の自重により変位(落下)する。解除体70は、第2姿勢になるとロック体9から離れる。解除体70がロック体9から離れると、解除体70によるロック体9に対する位置の規制が解除される。
【0088】
ロック体9の係止凹部52は、解除体70がロック体9から離れた際に、係止ロッド62に面する位置に形成されている。解除体70がロック体9から離れると、ロック体9が、回動軸AX2を中心として、Y軸の正方向に揺動する。ロック体9は、係止凹部52の内側に係止ロッド62を受け入れ、ロック体9の縁部9aが、係止ロッド62よりも、Y軸の正方向の側へ移動する。
【0089】
このように、開閉蓋4の開放動作中には、解除体70が、ロック体9に接触しながら立ち上がるように回動する。ロック体9が、第1接触部である縁部9aを係止ロッド62に接触した状態で変位し、開閉蓋4の開度が、全開に対応する所定角度に達すると、解除体70が、開閉蓋4の回動軸AX1の側に倒れる。ロック体9は、係止凹部52の第2接触部である縁部9bを係止ロッド62に接触させて係止ロッド62に係止する。
【0090】
続いて、開閉蓋4が全開した状況で、開閉蓋4を閉じる際には、先ず、作業者が手動等の方法により、解除体70を回動させてY軸の負の方向に戻す。解除体70は、位置決め凹部78にロック体9の縁部を受け入れ、ロック体9に寄り掛かった状態で係止する。さらに、作業者は、解除体70を第1姿勢となるように回動させる。ロック体9が、解除体70を介してY軸の負の方向へ押され、解除体70が、ロック体9を係止ロッド62から離脱させる。ロック体9は、上端部9cの回動軸AX2を中心として、係止ロッド62が係止凹部52の外側に抜け出す位置へ回動変位する。図には示さないが、解除体70を操作できる棒などの別の部材を設け、解除体70に直接触れずに回動できるようにしてもよい。
【0091】
この状態で、作業者は、開閉蓋4を押し下げ、ダンパー6を収縮させながら、開閉蓋4を下方へ回動させる。ロック体9は、ロック体支持体50を中心として回動しながら、開閉蓋4と共に、開放時とは逆の軌跡を描き、下方へ変位する。開閉蓋4が試験槽2に被せられて閉鎖すると、ロック体9は、
図3(a)に示すようにほぼ真下に垂れ下がる。
【0092】
第2の実施形態の試験機100を用いると、以下の効果を奏する。
(1)先ず、開閉蓋4の開放の際には、解除体70の有無によらず、ダンパー6により開閉蓋4が押し上げられ、作業者が、変位するロック体9に触れることなく、開閉蓋4を開放することが可能である。さらに、開閉蓋4が全開すると、ロック体9の係止凹部52に、ガイド装置10の係止ロッド62が係止し、開閉蓋4の開放状態が、ロック体9により維持される。したがって、簡便な構成により、開閉蓋4の開放の際の安全性を確保することが可能である。
【0093】
(2)解除体70を具備する場合は、開閉蓋4を閉じる際には、作業者が、手動等の方法で解除体70を動かし、静止した状態のロック体9を変位させて、係止凹部52と、ガイド装置10における係止ロッド62との係止を解除する。作業者は、動いた状態のロック体9に直接触れることなく、開閉蓋4を下方に回動させ、ロック体9を開閉蓋4に追従させながら、開閉蓋4を閉鎖する。したがって、簡便な構成により、開閉蓋4の閉鎖の際の安全性を確保することが可能である。なお、解除体70を具備しない場合は、ロック体9の縁部9aが係止ロッド62に接触するまで、作業者がロック体9を保持すればよい。
【0094】
(3)これらのことから、解除体70を具備する場合は、開閉蓋4の開放の際や、閉鎖の際に、変位する部材であるロック体9に、作業者が直接触れることなく、開閉蓋4を回動させることができる。このため、作業者にとって安全な試験機100を提供することが可能である。
【0095】
(4)連結補助部材(L金具)8とロック体9とを備えていることから、開閉蓋4の開閉動作の途中において、ロック体9の係止凹部52が係止ロッド62に係止していない状態で、突出部26の破断等が生じても、L金具8により、開閉蓋4の落下を防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本出願で開示する蓋開閉式試験機、および、蓋開閉式試験機の補強工法は、簡便な構成により安全性を確保することが可能である。したがって、蓋開閉式試験機を扱う業者にとって有用である。
【符号の説明】
【0097】
2…試験槽、2a…開口部、4…開閉蓋、5…バランスウエイト、6…ダンパー、6a…上端部、8…連結補助部材(L金具)、8a、8b…板状体、8c…側面、9…ロック体、9a、9b…縁部、9c…上端部、9d…下端部、10…ガイド装置、12…解除装置、14…架台、20…ヒンジカバー、22…注水用凹部、24…連結部材(ナックルジョイント)、26…突出部、28…本体部、30…雄ねじ部、31…蓋本体、32…一側面、36…第1片、38…第2片、40…穴、42…固定具、44…破断部分、50…ロック体支持体、52…係止凹部、54…拘束板、56…固定具、58…側面、60…隙間、62…係止ロッド(係止体)、63…ガイドロッド、70…解除体、71…枢軸体、72…解除体支持部、74…解除体ストッパ、76…自由端、78…位置決め凹部、80…開放維持ピン、82…開放維持ピン挿入穴、84…グリップ、86…ストッパ、88…吊り下げ紐、100…蓋開閉式試験機、AX1…開閉蓋の回動軸、AX2…ロック体の回動軸、AX3…解除体の回動軸