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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】インキュベータ
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/38 20060101AFI20240627BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C12M1/38 A
C12M3/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023191650
(22)【出願日】2023-11-09
【審査請求日】2023-11-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114891
【氏名又は名称】ヤマト科学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】小林 一也
(72)【発明者】
【氏名】上田 富洋
(72)【発明者】
【氏名】丸茂 奨弥
(72)【発明者】
【氏名】高野 誠
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-152408(JP,A)
【文献】特許第7272723(JP,B1)
【文献】国際公開第2014/148058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽内の内部空間を冷却する冷凍機と、前記内部空間を加熱するヒータとを備え、冷却または加熱した空気を循環させて前記内部空間内を一定温度に保持するインキュベータにおいて、
前記内部空間の温度を測定する温度センサの測定温度が設定温度よりも第1の温度だけ高い冷凍機動作温度に達した場合に、前記ヒータを停止させて冷凍機を動作させ、測定温度が設定温度よりも第2の温度だけ低い冷凍機停止温度に達した場合に冷凍機を停止させヒータ制御に切替えることによって、測定温度が設定温度と一致するように運転する通常運転と、
前記通常運転中に、冷凍機動作温度に達しない可能性がある中高温度帯において、冷凍機を動作させる冷凍機制御運転と、
を選択可能に切替え設定するコントローラを備え、
前記冷凍機制御運転は、設定されたヒータ制御時間と、ヒータ目標温度と、設定温度とに基づき、冷凍機とヒータとを強制的に交互に運転するものであり
前記冷凍機制御運転は、ヒータ制御時間を長くすることで除湿効果を弱め温度安定と消費電力を優先する弱運転機能と、ヒータ制御時間を短くすることでより強い除湿効果を得る強運転機能とを選択可能に備え、
前記弱運転機能では、冷凍機をオンさせるとともにヒータをオフさせた状態で、弱運転時の冷凍機タイマ時間経過後または冷凍機停止温度に達したとき、冷凍機をオフさせるとともにヒータをオンさせ、強運転時よりも長い時間に設定された弱運転時のヒータタイマ時間が経過後または冷凍機動作温度に達したとき、冷凍機をオンさせるとともにヒータをオフさせ、
前記強運転機能では、冷凍機をオンさせるとともにヒータをオフさせた状態で、強運転時の冷凍機タイマ時間経過後または冷凍機停止温度に達したとき、冷凍機をオフさせるとともにヒータをオンさせ、弱運転時よりも短かい時間に設定された強運転時のヒータタイマ時間が経過後または冷凍機動作温度に達したとき、冷凍機をオンさせるとともにヒータをオフさせる、インキュベータ。
【請求項2】
前記コントローラは、PID制御によって算出される制御値にゲインを掛けることでヒータの出力値を制御する、請求項1に記載のインキュベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、槽内結露を低減させるインキュベータに関する。
【背景技術】
【0002】
インキュベータとして、槽内の内部空間を冷却する冷凍機と、内部空間を加熱するヒータとを備え、冷却または加熱した空気を循環させて内部空間内を一定温度に保持する低温恒温器の制御方式がある。
【0003】
この方式は、冷凍機を常時ONの状態としてヒータ出力により目標温度へ安定させることで、温度調整の精度には優れる反面、電流値や消費電力が多いこと、蒸発器への霜付きが発生することが課題となっている。
【0004】
この課題を回避するため、従来、例えば、冷凍機の制御を一定間隔で行なう機能を用いて解決する方式もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-58113号公報
【文献】特許第2936145号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の方式でも冷凍機とヒータが同時に稼働するタイミングが発生するため、電流値や消費電力の削減については課題が残っている。
【0007】
また、インキュベータとしては、省エネ、槽内結露という課題ばかりではなく、冷凍機による除湿の機能を持ちながらも、培養物保護のため過剰な除湿は避けたいという課題がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、槽内結露の低減と電流値抑制、省エネ運転とを可能にするインキュベータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本発明の態様は、槽内の内部空間を冷却する冷凍機と、前記内部空間を加熱するヒータとを備え、冷却または加熱した空気を循環させて前記内部空間内を一定温度に保持するインキュベータにおいて、前記内部空間の温度を測定する温度センサ16の測定温度PVが設定温度SVよりも第1の温度A2だけ高い冷凍機動作温度SV+A2に達した場合に、前記ヒータを停止させて冷凍機を動作させ、測定温度PVが設定温度SVよりも第2の温度B1だけ低い冷凍機停止温度SV-B1に達した場合に冷凍機を停止させヒータ制御に切替えることによって、測定温度PVが設定温度SVと一致するように運転する通常運転と、前記通常運転中に、冷凍機動作温度SV+A2に達しない可能性がある中高温度帯において、設定された冷凍機制御時間に基づいて冷凍機を動作させる冷凍機制御運転と、
を選択可能に切替え設定するコントローラを備え、前記冷凍機制御運転は、設定されたヒータ制御時間と、ヒータ目標温度と、ヒータ制御時間と、設定温度とに応じて算出される前記冷凍機制御時間に基づき、冷凍機とヒータとを強制的に交互に運転する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって室温以上の温度域における運転においてユーザーの選択幅を広げることができる。除湿が全く必要ない場合は冷凍機制御運転機能をOFF(冷凍機運転時間ゼロ)、除湿が必要な場合は冷凍機運転時間の違う2パターン(強・弱)の合計3種類の中から選択することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るインキュベータの装置構成を示す概略図である。
図2】本実施形態に係るインキュベータの制御系の構成を示すブロック図である。
図3】通常運転の制御手順を示すフローチャートである。
図4】冷凍機制御運転[弱]の制御手順を示すフローチャートである。
図5】冷凍機制御運転[強]の制御手順を示すフローチャートである。
図6】普通運転における時間ごとの温度変化曲線を示す説明図である。
図7】冷凍機制御運転[弱]における時間ごとの温度変化曲線を示す説明図である。
図8】冷凍機制御運転[強]における時間ごとの温度変化曲線を示す説明図である。
図9】ヒータゲインによる温度上昇特性を示す説明図である。
図10】通常運転、冷凍機制御運転[弱]および冷凍機制御運転[強]の各運転例を対比して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態の構成>
《インキュベータの構成》
図1はインキュベータ1を側面から見た概略構成図である。
【0013】
インキュベータ1の筐体2は断熱性を有しており、培養室となる内部空間3が形成されている。内部空間3の下方には冷凍機が収納される機械室4が設置されている。筐体2の正面には扉5が設置され、扉5は扉パッキンを介在して筐体2に取り付けられている。内部空間3内には複数の棚板7が設置され、この棚板7には培養対象物が収納された容器(図示せず)が載置される。内部空間3の内奥部には壁を隔てて空調室8が形成されており、空調室8から所定温度に調整された空気が内部空間3に供給される。
【0014】
機械室4には、冷凍機を構成する圧縮機9と凝縮器10が設置され、また空調室8には蒸発器11とヒータ12とファンモータ13とが設置されている。また、内部空間3内からのドレン水は受け皿14を介して排水口15から排出される。
【0015】
内部空間3の所定箇所には、温度センサ16が設置されており、温度センサ16の測定温度PVは図2に示すコントローラ20に出力される。
【0016】
《インキュベータの制御系構成》
図2に示すように、インキュベータ1の制御系は、温度設定部17と、メニュー選択部18と、コントローラ20と、冷凍機制御部30と、ヒータ制御部40とを備えている。
【0017】
温度設定部17は、筐体2の内部空間3の設定温度SVを設定する。
【0018】
メニュー選択部18は、サブメニューで通常運転、冷凍機制御運転(弱)、冷凍機制御運転(強)を呼び出し、コントローラ20にメニューを指示する。
【0019】
コントローラ20は、冷凍機制御指令出力部21と、ヒータ制御指令出力部22と、機能選択部23と、冷凍機タイマ24と、ヒータタイマ25とを備えている。
【0020】
冷凍機制御指令出力部21は、冷凍機制御部30に対する冷凍機制御指令を出力する。
【0021】
ヒータ制御指令出力部22は、ヒータ制御部40に対するヒータ制御指令を出力する。
【0022】
機能選択部23は、メニュー選択部18からの選択指示に基づき、冷凍機制御指令出力部21およびヒータ制御指令出力部22の選択指示と、冷凍機タイマ24とヒータタイマ25の各タイマ時間とを指示する。
【0023】
冷凍機タイマ24は、機能選択部23からの時間設定により、冷凍機制御部30の冷凍機タイマ時間を設定する。
【0024】
ヒータタイマ25は、機能選択部23からの時間設定により、ヒータ制御部40のヒータタイマ時間を設定する。
【0025】
冷凍機制御部30は、設定温度SVと測定温度PVおよび冷凍機タイマ時間とに基づき冷凍機のオン/オフを制御する。
【0026】
ヒータ制御部40は、設定温度SVと測定温度PVおよびヒータタイマ時間とに基づきヒータ12のオン/オフを制御する。
【0027】
<実施形態の作用>
次に、図3以下の図面を参照して実施形態の作用を説明する。なお、図3以下の図面では、それぞれの記号は以下のように定義される。
【0028】
SV:設定温度、PV:測定温度、REF:冷凍機、A1:冷凍機/ヒータ交互制御におけるヒータ目標値、A2:冷凍機/ヒータ交互制御における冷凍機ON閾値、B1:冷凍機/ヒータ交互制御における冷凍機OFF閾値、COFF:冷凍機制御運転OFF、CTYPE:冷凍機制御運転タイプ(High:強、Low:弱)、E1:冷凍機制御運転におけるヒータ目標値、E2:冷凍機制御運転における冷凍機ON閾値、F1:冷凍機制御運転における冷凍機OFF閾値、XH:冷凍機制御運転Highにおける冷凍機タイマ、YH:冷凍機制御運転Highにおけるヒータタイマ、XL:冷凍機制御運転Lowにおける冷凍機タイマ、YL:冷凍機制御運転Lowにおけるヒータタイマ。
【0029】
また、本発明の実施形態において、「通常運転」は、除湿が全く必要ない場合の運転である。「冷凍機制御運転」とは、通常運転ではヒータのみの制御になる温度領域において、強制的に冷凍機をON/OFFさせることで結露を抑制することを目的とした運転をいう。「冷凍機制御運転」には、「冷凍機制御運転[弱]」と、「冷凍機制御運転[強]」の2種類が設定可能である。本発明の実施形態では、通常運転と冷凍機制御運転(弱:Low)と、冷凍機運転制御(強:High)の3つの機能を使い分けている。
【0030】
《通常運転》
図3のフローチャートに示すように、制御が開始されると、先ず、制御が「通常運転」か、「冷凍機制御運転が弱(Low)」か、「冷凍機制御運転が強:High)」かを判定する必要がある(ステップS1,S2)。
【0031】
すなわち、先ず、目標温度SVが室温以下(ここでは20℃以下)か否かが判定される(ステップS1)。目標温度SVが20℃以下である場合(ステップS1=YES)、または目標温度SVが20℃以上であるが除湿を必要としないため冷凍機制御運転がオフ(COFF)の場合(ステップS2=YES)は、ステップS3~S11に示す「通常運転」が実施される。
【0032】
通常運転では、先ず、測定温度PVが目標温度SVである20℃以上であるか否かが判定される(ステップS3)。
【0033】
目標温度SVは20℃以下であるが、測定温度PVが20℃を超えている場合(ステップS3=YES)には、冷凍機をオンして測定温度PVを降下させる。このとき、ヒータ制御はオフである(ステップS4)。
【0034】
次いで、測定温度PVが冷凍機停止温度SV-B1以下になったか否かが判定される(ステップS5)。
【0035】
測定温度PVが冷凍機停止温度SV-B1以下になった場合(ステップS5=YES)には冷凍機はオフされ、ヒータ目標温度SV+A1としてヒータ制御がオンとなる(ステップS6)。測定温度PVが冷凍機動作温度SV+A2となった場合(ステップS7=YES)には、ステップS4に戻り、冷凍機はオン、ヒータ制御はオフとなる。
【0036】
一方、測定温度PVが目標温度SV以下である場合(ステップS3=NO)には、冷凍機オフおよびヒータ制御オンが確認される(ステップS8)。このときのヒータ目標温度はSV+A1である。次いで、測定温度PVが冷凍機動作温度SV+A2以上になったか否かが判定される(ステップS9)。
【0037】
測定温度PVが冷凍機動作温度SV+A2以上になった場合(ステップS9=YES)には冷凍機はオンされ、ヒータ制御がオフとなる(ステップS10)。測定温度PVが冷凍機停止温度SV-B1となった場合(ステップS11=YES)には、ステップS8に戻り、冷凍機はオフ、ヒータ制御はオンとなる。
【0038】
図3のステップS2の判定処理で、冷凍機制御運転がオン(COFF)である場合には、図4に示すフローチャートに移行して、冷凍機制御運転が強(High)であるか、弱(Low)であるかが判定される(ステップS21)。
【0039】
冷凍機制御運転が弱(Low)である場合(ステップS21=NO)には、図5のフローチャートに移行し、冷凍機制御運転が強(High)の場合ステップS21=YES)には、図4のステップS41以下の処理が実行される。
【0040】
《冷凍機制御運転が弱(Low)の場合》
初めに、図5に従って、冷凍機制御運転が弱(Low)」の手順を説明する。
【0041】
図5に示す冷凍機制御運転が弱(Low)の場合の処理では、先ず、測定温度PVは設定温度SV以上か否かが判定される(ステップS31)。測定温度PVが設定温度SV以上である場合(ステップS31=YES)にはステップS32~S35の処理が実行される。測定温度PVが設定温度SV以下である(下回る)場合(ステップS31=NO)にはステップS36~S39の処理が実行される。
【0042】
ステップS32では、冷凍機オンおよびヒータ制御のオフが確認される。次いで、冷凍機タイマ24が設定時間XLを経過したか、または測定温度PVが冷凍機停止温度SV-F1以下になったか否かが判定される(ステップS43)。
【0043】
冷凍機タイマ24が設定時間XHを経過した場合、または測定温度PVが冷凍機停止温度SV-F1以下になった場合(ステップS33=YES)には冷凍機はオフされ、ヒータ制御がオンされる。このときのヒータ目標温度はSV+E1である(ステップS34)。
【0044】
ヒータタイマ25が設定時間YLを経過するか、または測定温度PVが冷凍機動作温度SV+E2となった場合(ステップS35=YES)には、ステップS32に戻り、冷凍機はオン、ヒータ制御はオフとなる。
【0045】
一方、測定温度PVが設定温度SV以下である(下回る)場合(ステップS31=NO)には、冷凍機オフおよびヒータ制御のオンが確認される。このときのヒータ目標温度はSV+E1である。次いで、ヒータタイマ25が設定時間YLを経過したか、または測定温度PVが冷凍機動作温度SV+E2を超えたか否かが判定される(ステップS37)。
【0046】
ヒータタイマ25が設定時間YLを経過した場合、または測定温度PVが冷凍機動作温度SV+E2以上になった場合(ステップS37=YES)には冷凍機はオンされ、ヒータ制御がオフとなる。冷凍機タイマ24が設定時間XLを経過するか、または測定温度PVが冷凍機停止温度SV-F1となった場合には、ステップS36に戻り、冷凍機はオフ、ヒータ制御はオンとなる。
【0047】
《冷凍機制御運転が強(High)の場合》
図4のフローチャートに戻り、「冷凍機制御運転が強(High)」の手順を説明する。
【0048】
図4に示す冷凍機制御運転が強(High)の場合の処理では、先ず、測定温度PVは設定温度SV以上か否かが判定される(ステップS41)。測定温度PVが設定温度SV以上である場合(ステップS41YES)にはステップS42~S45の処理が実行される。測定温度PVが設定温度SV以下である(下回る)場合(ステップS41=NO)にはステップS46~S49の処理が実行される。
【0049】
ステップS42では、冷凍機オンおよびヒータ制御のオフが確認される。次いで、冷凍機タイマ24が設定時間XHを経過したか、または測定温度PVが冷凍機停止温度SV-F1以下になったか否かが判定される(ステップS43)。
【0050】
冷凍機タイマ24が設定時間XHを経過した場合、または測定温度PVが冷凍機停止温度SV-F1以下になった場合(ステップS43=YES)には冷凍機はオフされ、ヒータ制御がオンされる。このときの温度目標値はSV+E1である(ステップS44)。
【0051】
ヒータタイマ25が設定時間YHを経過するか、または測定温度PVが冷凍機動作温度SV+E2となった場合(ステップS45=YES)には、ステップS42に戻り、冷凍機はオン、ヒータ制御はオフとなる。
【0052】
一方、測定温度PVが設定温度SV以下である(下回る)場合(ステップS41=NO)には、冷凍機オフおよびヒータ制御のオンが確認される。このときのヒータ目標温度はSV+E1である。次いで、ヒータタイマ25が設定時間YHを経過したか、または測定温度PVが冷凍機動作温度SV+E2を超えたか否かが判定される(ステップS47)。
【0053】
ヒータタイマ25が設定時間YHを経過した場合、または測定温度PVが冷凍機動作温度SV+E2以上になった場合(ステップS47=YES)には冷凍機はオンされ、ヒータ制御がオフとなる。冷凍機タイマ24が設定時間XHを経過するか、または測定温度PVが冷凍機停止温度SV-F1となった場合には、ステップS46に戻り、冷凍機はオフ、ヒータ制御はオンとなる。
【0054】
<グラフの説明>
次に、本発明の実施形態における通常運転時、冷凍機制御運転(弱)時、冷凍機制御運転(強)時の各温度変化について説明する。
【0055】
《通常運転時の温度変化曲線》
時刻t1で冷凍機停止温度に達すると、ヒータオン、冷凍機オフとなり、時刻t1~t3では、ヒータ目標温度SV+A1を目標にヒータ12をPID制御していく(ポイントP1,P2)。この場合、冷凍機/ヒータ交互制御におけるヒータ目標値A1を冷凍機/ヒータ交互制御における冷凍機ON閾値A2に近づけて設定することで冷凍機制御域に入りやすくすることができる。
【0056】
時刻t2~t3では、ヒータ12のみのPID制御は継続されるが、冷凍機動作温度SV+A2を超える(ポイントP3)と冷凍機は再起動される。
【0057】
ヒータ目標温度SV+A1を目標値にPID制御を行う場合、出力0~100%×β1で制御する。このように、ゲインβ1を乗ずることでヒータ12の出力を絞ることができる。このため、容量の大きなヒータを載せても出力を絞ることができるのでオーバーシュートしにくく安定した昇温ができる。なお、ゲインβ1は設計時に任意に決めることができるパラメータである。決め方としては、各ゾーンの最高温度に到達できるゲイン数を実験的に求め決定する。
【0058】
値A1を設けているのは、設定温度SVに到達せずに安定してしまうパターンを防ぎ、冷凍機動作温度に到達させやすくするためである。この場合、A1>A2にすればヒータのみ制御にならず全域ON/OFF制御にすることもできる。
【0059】
図6の時刻t4では、測定温度PVが冷凍機停止温度SV-B1を下回るので、冷凍機はオフされ、ヒータ12がPID制御される。このようにして、ポイントP4に示すように、測定温度PVが設定温度SVに収束していく。図中、破線で囲んだ部分P5に示すヒータのみの運転では、温度が安定しており、また、消費電力抑制が可能となる。
【0060】
《冷凍機制御運転(弱)時の温度変化曲線》
図7に示す時刻t11~t12は、ヒータオフ、冷凍機オン制御がされ、冷凍機タイマ24がオンとなっている。時刻t12で冷凍機タイマ24がオフになると、冷凍機がオフ、ヒータ12がヒータ目標温度SV+E1を目標値にPID制御される(P11)。この場合、出力0~100%×β2で制御する。ゲインβ2を乗ずることでヒータの出力を絞ることができる。このため、容量の大きなヒータ12を設置しても出力を絞りオーバーシュートしにくく安定した昇温が可能となる。なお、ゲインβ2も設計時に任意に決めることができる。
【0061】
P12で示す区間は、ヒータタイマ時間であり、設定時間SVを超えてからスタートする。タイマ時間を超えると、測定温度PVが冷凍機動作温度SV+E2に達していなくてもヒータ制御は停止され、冷凍機がオンとなる。これにより、ポイントP13に示すように、測定温度PVは測定温度SVに向けて低下していく。測定温度PVが設定温度SVを超えた時刻t15になると、時刻t16に至るまで冷凍機タイマ24がオンとなる。冷凍機タイマのオン時間が経過すると、冷凍機停止温度SV-F1に達していなくてもヒータ12がオン、冷凍機がオフとなり、P14で示す地点の測定温度PVは時刻t16で下限となる。時刻t16~t18の間は、ヒータ12によるPID制御がオン、冷凍機制御がオフとなる。測定温度PVは再び設定温度SVに向けて上昇していき、設定温度SVを超えると時刻t17~t18の時間で、ヒータタイマ25がオンとなる。時刻t18でタイマオフまたは、測定温度PVがヒータ目標温度SV+E1に達すると、ヒータがオフ、冷凍機がオンとなる。
【0062】
このように、本実施形態では、冷凍機動作温度に達していなくとも、時間経過によって、確実に冷凍機制御に移行することができる。また、冷凍機停止温度に到達していなくとも、時間経過によって、確実にヒータ制御に移行することができる。このため、ON/OFFの周期を安定させることが可能となる。
【0063】
《実施形態における冷凍機制御とヒータ制御の時間について》
本実施形態では、従来の冷凍機サイクル運転に近い考え方で、冷凍機とヒータそれぞれにON時間を設け、「動作温度」ではなく「時間」で交互運転を行うようにしている。
【0064】
冷凍機とヒータのON時間は数式で関係性を作ることができる。例えば、ヒータON時間をXとすると、冷凍機ON時間Yは、
Y=(Ct-X)×(1-(T1/(Tmax-Tmin)))+Rt
となる。ここで、T1=設定温度、Tmax=最大設定温度、Tmin=最低設定温度、Rt=冷凍機動作最低時間、Ct=サイクル周期である。
【0065】
この数式によれば、ヒータON時間が延びると、冷凍機ON時間が縮み、ヒータON時間が縮むと、冷凍機ON時間が伸びるという関係となり、ヒータON時間を縮める(=冷凍機ON時間は伸びる)と結露抑制を強くすることができる。
【0066】
《冷凍機制御運転(強)時の温度変化曲線》
図8において、時刻t31~t32では、冷凍機タイマ24が作動しているが、測定温度PVが冷凍機停止温度SV-F1以下になる時刻t32では、冷凍機がオフされ、ヒータ12のPID制御がされる。
【0067】
このとき、結露抑制効果を強くしようとして、PID制御の調整が効かない冷凍機オン時間を伸ばすと温度変動幅が広がってしまうため、冷凍機停止温度SV-F1以下になる時刻t32で冷凍機とヒータの切り替えをするようにしている。このため、冷凍機タイマ時間が短くなっても時間当たりのオン/オフ回数が増えるので、温度変動幅の広がりを抑えながら結露抑制効果を強くすることができる。
【0068】
測定温度PVが設定温度SVを超えた時刻t33では、ヒータタイマ25が作動し、ヒータタイマ25の設定時間が経過すると、ヒータ目標温度SV+E1に到達前であってもヒータ12がオフされ、冷凍機がオンされる(時刻t34)。
【0069】
測定温度PVが低下し、設定温度SVを下回る時刻t35では冷凍機タイマ24が作動するが、測定温度PVが冷凍機停止温度SV-F1を下回ると、冷凍機はオフされ、ヒータ12がPID制御される。
【0070】
図9は、ヒータゲインによる温度上昇特性を示す説明図である。
【0071】
ヒータゲインβが無い場合とヒータゲインβが有る場合を比較して示している。
【0072】
図9に示す比例制御帯において、デフロストなどの都合により容量の大きなヒータを搭載した場合、実線で示すように、加熱時の余熱の影響によりブレーキがかからず、オーバーシュートしてしまうことがある。すなわち、ヒータゲインβが無い場合には、比例制御帯まではヒータ出力100%で制御する。比例制御帯ではPID演算によりヒータ出力0~100%にて変動させるので、オーバーシュートを避けることができない。
【0073】
これに対して、ヒータゲイン有りの場合には、比例制御帯までヒータ出力100%×β%で制御する。比例制御帯ではPID演算によりヒータ出力(0~100%)×β%にて変動させる。
【0074】
このため、破線で示すように、ゲインβ%を入れることでヒータ出力に制限を掛け、オーバーシュートを防止し、安定性を改善することができる。
【0075】
また、1回のPID制御周期の中でのヒータ出力演算イメージとしては、ヒータゲインβが無い場合には、ヒータゲインβが有る場合と比較してON時間X(PID周期×PID演算結果%)が長くなり、OFF時間Yが短くなる。これに対して、ヒータゲインβが有る場合には、ヒータゲインβが無い場合と比較してON時間X'(X×β%)が短くなり、OFF時間Y'が長くなる。
【0076】
このように、ヒータゲインβを入れることにより、オーバーシュートの発生を回避することができる。
【0077】
図10は、各運転例における湿度変化を示すグラフである。同(a)は通常運転例(冷凍機動作温未達で制御の場合)、同(b)は冷凍機制御運転(弱)の運転例、同(c)は冷凍機制御運転(強)の運転例である。各図において、実線は、槽内に水気のある試料を入れた想定での槽内湿度(%)、破線は、槽内中心温度(℃)を示す。
【0078】
同(a)では、槽内湿度は変化しないが、同(b)に示す冷凍機制御運転(弱)では、冷凍機動作に応じ湿度が下がる除湿効果が確認できる。また、破線で示すように、冷凍機動作に応じ温度も少し低下するため変動が起きることが確認できる。
【0079】
同(c)に示す冷凍機制御運転(強)では、冷凍機制御運転(弱)と比較してヒータON時間を短くすることで冷凍機動作の頻度を増やし、除湿効果を強まることが確認できる。
【0080】
<実施形態の効果>
以上の実施形態によれば、冷凍機停止温度と冷凍機動作温度との間で、冷凍機制御とヒータ制御とが被らないよう「時間」で制御するようにしている。「時間」で制御することで、同じ温度変動幅の範囲でON/OFF周期を調整することができる。このため、除湿量と温度安定性・消費電力の調整が可能となる。
【0081】
また、「時間」で制御しているので、室温変化により温度上昇・降下速度が変化しても冷凍機制御時間・ヒータ制御時間は変わらないため、安定した除湿をすることができる。
【0082】
また、冷凍機制御運転中も冷凍機とヒータのオン時間が被ることが無いので、電流値を抑制でき、省エネ運転に寄与できる。
【0083】
さらに、メニュー選択部18からサブメニューで通常運転、冷凍機制御運転(弱)、冷凍機制御運転(強)を呼び出すことができるので、運転実行中でも運転モードを変更せずに運転機能を切り替えることが可能となる。
【0084】
以上、本発明の態様について実施形態を例示して説明したが、これは一例に過ぎない。特許請求の範囲に記載される発明の範囲は、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更できるものである。
【符号の説明】
【0085】
1…インキュベータ、2…筐体、3…内部空間、4…機械室、5…扉、6…扉パッキン、7…棚板、8…空調室、9…圧縮機、10…凝縮器、11…蒸発器、12…ヒータ、13…ファンモータ、14…受け皿、15…排水口、16…温度センサ、17…温度設定部、18…メニュー選択部、20…コントローラ、21…冷凍機制御指令出力部、22…ヒータ制御指令出力部、23…機能選択部、24…冷凍機タイマ、25…ヒータタイマ、30…冷凍機制御部、40…ヒータ制御部。
【要約】
【課題】槽内結露の低減と省エネ運転とを可能にするインキュベータを提供する。
【解決手段】冷凍機動作とヒータ制御とを切替えることによって、測定温度が設定温度と一致するように運転する通常運転と、通常運転中に、冷凍機動作温度に達しない可能性がある中高温度帯において、設定された冷凍機制御時間に基づいて冷凍機を動作させる冷凍機制御運転とを選択可能に切替え設定する制御であって、冷凍機制御運転では、設定されたヒータ制御時間と、ヒータ目標温度と、ヒータ制御時間と、設定温度とに応じて算出される冷凍機制御時間に基づき、冷凍機とヒータとを強制的に交互に運転する。
【選択図】図2
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