(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】光照射型美容機器
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
(21)【出願番号】P 2019122880
(22)【出願日】2019-07-01
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】若林 寿枝
(72)【発明者】
【氏名】片山 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】能勢 学
【審査官】豊田 直希
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-502642(JP,A)
【文献】特開2004-242790(JP,A)
【文献】特表2005-519692(JP,A)
【文献】特表2006-511275(JP,A)
【文献】特開平10-165524(JP,A)
【文献】特表2011-500258(JP,A)
【文献】特開2005-312641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光線を含む広波長帯域の光線を放射する光源と、該光源から放射される光線のうちの特定の波長成分を選択的に透過させる光学フィルターと、光照射エネルギー量を制御する手段とを備える光照射型美容機器であって、
該光照射エネルギー量を制御する手段は、照射部位における光照射エネルギー量を38J/cm
2以下に制限し、
該光源は、電極における色温度が摂氏3000度未満であるハロゲンランプであり、
照射光は800~2400nmの波長成分から成
り、
該光照射型美容機器は、使用者の皮膚に対し所定波長の光を照射することにより、皮膚の美観の改善を図るものである、光照射型美容機器。
【請求項2】
前記該光照射エネルギー量を制御する手段は、照射部位における光照射エネルギー量を3~38J/cm
2に制御する、請求項1に記載の光照射型美容機器。
【請求項3】
前記該光照射エネルギー量を制御する手段は、照射部位における光照射エネルギー量を3~11J/cm
2に制御する、請求項1に記載の光照射型美容機器。
【請求項4】
光源の照射形態は連続照射である、請求項1~3のいずれか一項に記載の光照射美容機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の皮膚に対し、光照射による美容効果を与える機器に関する。美容効果とは、皮膚表面の外見を含む人の容姿を美しくする効果をいう。
【背景技術】
【0002】
使用者の顔等の皮膚(即ち、肌)に対し所定波長の光を照射することにより、皮膚の美観の改善を図る美容機器は、従来から知られている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2には、使用者の皮膚に対し可視光及び近赤外線を照射して、シミ、シワの改善、殺菌等を図る美容機器が記載されている。しかしながら、これらの従来の美容機器は、光源として発光ダイオード(即ち、LED)を用いている。LEDは照射強度が小さく、照射波長範囲が狭い。それゆえ、従来の美容機器では、実質的な美容効果を得るためには、長時間にわたって照射を行う必要があり、利便性が低い。
【0004】
特許文献3には、光源として、照射強度が大きく、照射波長範囲が広いハロゲンランプを使用した光治療装置が記載されている。この光治療装置は、非レーザー光の照射により、疼痛緩和、細胞の活性化による諸種の効果を奏し得るものである。しかしながら、特許文献3には、この装置を使用して美容効果を得ることは記載されていない。
【0005】
皮膚に光を照射する場合、適切な照射エネルギー量で行われた場合は細胞を活性化させる。一方で、光照射エネルギーが過多になると、過剰な細胞刺激を引き起こし、大きな美容効果が期待できない問題がある。それゆえ、美容機器にハロゲンランプ等の照射強度の大きい光源を使用する場合は、過剰な細胞刺激が生じない光照射エネルギー量の閾値を決定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-125075号公報
【文献】特開2007-330690号公報
【文献】特開2008-188258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、短時間の光照射によって美容効果を得ることができ、照射過多による美容効果の低減が生じない光照射型美容機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、可視光線を含む広波長帯域の光線を放射する光源と、該光源から放射される光線のうちの特定の波長成分を選択的に透過させる光学フィルターと、光照射エネルギー量を制御する手段とを備え、
該光照射エネルギー量を制御する手段は、照射部位における光照射エネルギー量を38J/cm2以下に制限する、光照射型美容機器を提供する。
【0009】
ある一形態においては、前記該光照射エネルギー量を制御する手段は、照射部位における光照射エネルギー量を3~38J/cm2に制御する。
【0010】
ある一形態においては、前記光源は、電極における色温度が摂氏3000度未満であるハロゲンランプである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短時間の光照射によって美容効果を得ることができ、照射過多による美容効果の低減が生じない光照射型美容機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の光照射型美容機器の構成を示した模式図である。
【
図2】ヒト三次元培養表皮の細胞増殖率に及ぼす連続的光照射の影響を示したグラフである。
【
図3】ヒト三次元培養表皮の細胞増殖率に及ぼす間欠的光照射の影響を示したグラフである。
【
図4】皮膚の保湿機能に関わる遺伝子であるTGM1に関し、照射時間0分の発現量を1とした時の光照射後の発現量を示したグラフである。
【
図5】皮膚の保湿機能に関わる遺伝子であるHAS3に関し、照射時間0分の発現量を1とした時の光照射後の発現量を示したグラフである。
【
図6】抗老化に関わる遺伝子であるCOL1A1に関し、照射時間0分の発現量を1とした時の光照射後の発現量を示したグラフである。
【
図7】抗老化に関わる遺伝子であるMMP1に関し、照射時間0分の発現量を1とした時の光照射後の発現量を示したグラフである。
【
図8】抗老化に関わる遺伝子であるELNに関し、照射時間0分の発現量を1とした時の光照射後の発現量を示したグラフである。
【
図9】抗老化に関わる遺伝子であるMMEに関し、照射時間0分の発現量を1とした時の光照射後の発現量を示したグラフである。
【
図10】抗老化成分であるヒアルロン酸に関し、照射時間0分の酸産生量を100%とした場合の光照射による産生量を示したグラフである。
【
図11】抗老化成分であるヒアルロン酸に関し、照射時間0分の細胞あたりの産生量を100%とした場合の光照射による細胞あたりの産生量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の光照射型美容機器の構成を示した模式図である。光照射型美容機器は、光源1と、光源が放射する光線を遮るように配置された光学フィルター2とを、有する。光源が放射する光線は光学フィルター2を透過して、特定範囲の波長を有する照射光3になる。一般に、照射光3は皮膚の表面に照射される。
【0014】
光源としてはハロゲンランプ、キセノンランプ、LEDなどの非レーザー光源が使用可能である。これらのうち、照射強度が大きく、照射効率が高く、取り扱いが容易なハロゲンランプを光源として使用することが好ましい。
【0015】
光源の電極における色温度は3000度未満である。光源の電極における色温度が3000度以上であると、美容効果に寄与しない光が増加する。光源の電極における色温度は、好ましくは2000~2900度、より好ましくは2500~2800度である。
【0016】
光学フィルターは、光源が発した光のうち特定の波長領域の光線を選択的に透過もしくはカットする部材をいう。美容効果に寄与する光を増加させる観点から、好ましくは、透過率が50%になるカット波長が800nm未満である光学フィルターを使用する。その結果、照射光は、好ましくは800nm以上、より好ましくは800~2400nm、更に好ましくは830~2200nmの波長成分を有する。
【0017】
本発明の光照射型美容機器は、光照射エネルギー量を制御する手段(図示せず。)を有する。光照射エネルギー量を制御する手段は、放射照度を調節し、光照射時間を調節し、機器と皮膚の距離をモニターし、照射をON/OFFする機能を有する。
【0018】
光照射は適度に行うことで細胞を活性化させて、美容効果を実現する。一方、光照射が過多になると過剰な細胞刺激が発生し、美容効果が期待できない問題がある。照射過多による美容効果の低減を防止するために、光照射エネルギー量を制御する手段は、光照射エネルギー量が、照射対象である人体の照射部位に過剰な細胞刺激が発生する量に達する前に光照射を停止する。
【0019】
照射部位に過剰な細胞刺激を発生させない光照射エネルギーの最大量は、放射照度に依存して変化する。放射照度が低い場合はその照射時間が長くなり、放射照度が高い場合はその照射時間が短くなる。光照射エネルギーは、光源の出力、照射の断続性、照射距離、フィルターの特性に依存して変化する。
【0020】
照射部位に過剰な細胞刺激を発生させない光照射エネルギーの最大量が最も高くなる照射形態は、光源の出力が最大、連続照射、及び近接照射である。安全性を重視する場合、照射部位に過剰な細胞刺激を発生させない光照射エネルギーの最大量は、上記最大量が最も高くなる照射形態の下で決定することが好ましい。
【0021】
本発明の光照射型美容機器において、照射部位に過剰な細胞刺激を発生させない光照射エネルギーの最大量は、好ましくは38J/cm2である。上記最大量が38J/cm2を超えると皮膚の美容に美容効果が期待できない問題が生じる可能性がある。
【0022】
本発明の光照射型美容機器において、照射部位に過剰な細胞刺激を発生させない光照射エネルギー量は、より好ましくは3~19J/cm2である。上記光照射エネルギー量が3J/cm2未満であると、美容効果が不十分となり、19J/cm2を超えて照射しても、光照射エネルギー量の増大に対応した美容効果が得られない。
【0023】
光照射エネルギーは、放射照度、照射時間および照射距離の調整を行うことにより決定することができる。
【0024】
照射光は人体のいずれかの表面、例えば、皮膚の表面に照射される。光照射部位は、一般に、人体の美容効果が要求される部位、例えば、外部に露出する部位における皮膚の表面である。光照射部位は、例えば、顔面、手足の甲、上腕、前腕、上腿、下肢、手のひら、頭皮、首筋の皮膚の表面である。
【0025】
照射部位から光源までの距離、即ち、照射距離は2~50cmである。照射距離が2cm以下であると、照射過多による美容効果の低減が生じ易くなり、50cmを超えると、美容効果を得るために長時間の照射が必要になり、利便性が低下する。照射距離は、好ましくは5~45cm、より好ましくは10~40cmである。
【実施例】
【0026】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
<実施例1>
ヒト三次元培養表皮に光照射し、細胞生存率試験を実施した。材料、試験方法及び結果を以下に説明する。
【0028】
1.細胞と培地
ヒト三次元培養表皮(LabCyte EPI-MODEL24、J-TEC社製)は、アッセイ培地(J-TEC社製)を用い、CO2インキュベータ(CO2濃度5%、37℃)内で培養した。
【0029】
2.被験機器
1)ハロゲンランプ(ウシオ電機社製)
出力:600W、100V
色温度:2800K
発光波長:300~2400nm
2)光学フィルター(伊藤光学社製「カットフィルター」(商品名))
透過波長:800nm以上
【0030】
3.試験操作
1)EPI-MODEL24の説明書に従いウェルプレートに培地を加え、ヒト三次元培養表皮を移し、CO2インキュベータ内で15時間培養後、PBS(―)で洗浄した。
2)ハロゲンランプと細胞を入れたディッシュとの間に光学フィルターを設置した。ディッシュ内の細胞に対し、光学フィルターを介して光照射した。ハロゲンランプからディッシュまでの距離は40cmとした。照射は連続して行い、照射時間は計9種類(0分、1分、2分、4分、8分、15分)とした。
3)分光分布および放射照度の測定を行うことにより、照射光(波長300~2400nm)の照射部位(照射距離40cm)における照射エネルギーを決定したところ、1秒当たり80mJ/cm2であった。照射時間を照射エネルギーに換算した結果を以下の表に示す。
【0031】
【0032】
4)培地を加えたウェルに、光照射及び洗浄したヒト三次元培養表皮を移して42時間CO2インキュベータ内で培養した。
5)培養終了後、MTT溶液(0.5mg/mL培地)を加えたヒト三次元培養表皮を移して3時間CO2インキュベータ内で培養した。
6)3時間後、2-プロパノール(Wako社製)を加えたマイクロチューブに、ピンセットで取り出した培養表皮片を移した。
7)15時間以上遮光冷蔵で不溶性ホルマザンを抽出した。
8)マイクロチューブ内の色素を均一分散した後、96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダーを用いて570nm及び650nmの吸光度(OD570、OD650)を測定した。また、ブランクには2-プロパノールを用いた。
【0033】
9)細胞生存率の計算
各ウェルのOD570から、それぞれのOD650を差し引いた。算出した光照射の吸光度(OD570-OD650)から、ブランクの値(OD570-OD650)を差し引いた。それらの値を用いて、0分の光照射に対する各照射時間の細胞生存率を以下の式に従い算出した。
細胞生存率(%)=(照射時間1~4分の測定値/ 照射時間0分の測定値)×100
測定値:(A-B)-(C-D)
A:照射時間0~4分の570nmでの吸光度
B:照射時間0~4分の650nmでの吸光度
C:ブランクの570nmでの吸光度
D:ブランクの650nmでの吸光度
【0034】
4.試験結果
ヒト三次元培養表皮の細胞増殖率に及ぼす光照射の影響を
図2に示した。
【0035】
<実施例2>
ハロゲンランプの電源を12秒周期でON/OFFさせて、光を間欠的に照射したこと以外は実施例1と同様にして、ヒト三次元培養表皮の細胞増殖率試験を実施した。ヒト三次元培養表皮の細胞増殖率に及ぼす光照射の影響を
図3に示した。
【0036】
<実施例3>
皮膚の保湿機能に関わる遺伝子の発現に対する光照射の効果を、リアルタイムPCR法により評価した。材料、試験方法及び結果を以下に説明する。
【0037】
1.細胞
ヒト由来表皮角化細胞株「HaCaT」細胞を、CO2インキュベータ(CO2濃度5%、37℃)を用いて培養した。
【0038】
2.培地
10.0%(v/v)のFetal Bovine Serum(FBS、Hyclone社製)、及び1.0%(v/v)の抗真菌剤(Antibiotic-Antimycotic 100X、Invitrogen社製)を含むDulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM、Wako社製)を用いた。
【0039】
3.被験機器
1)ハロゲンランプ(岩崎電機社製)
出力:600W、100V
色温度:2800K
発光波長:300~2400nm
2)光学フィルター(渋谷光学社製「CM030」)
透過波長:800nm以上
【0040】
4.遺伝子
TaqMan Assay(Applied Biosystems社製)を用いて遺伝子発現解析を実施した。
【0041】
4-1.対象遺伝子
1)皮膚のバリア機能に関わる CE 形成や成熟を促進する酵素をコードするトランスグルタミナーゼ1遺伝子である、Human Transglutaminase-1(TGM1,Assay ID. Hs00165929_m1)
2)表皮細胞で産生され、皮膚の水分保持に関与するヒアルロン酸合成酵素3をコードする遺伝子である、Human Hyaluronan Synthase 3(HAS3,Assay ID. Hs00193436_m1)
【0042】
4-2.内部標準遺伝子
Human Glyceraldehyde 3 Phosphate Dehydrogenase (GAPDH, Assay ID. Hs02786624_g1)
【0043】
5.試験方法
光照射を含め、試験に関わる操作は別途記載のないかぎり室温で実施した。
【0044】
5-1.細胞培養および照射
1)ディッシュに8×104cells/mLの「HaCaT」細胞を播種し、CO2インキュベータ内で24時間培養した。
2)細胞の培地を除去し、PBS(-)で洗浄、置換した。
3)ハロゲンランプと細胞を入れたディッシュとの間に光学フィルターを設置した。ディッシュ内の細胞に対し、光学フィルターを介して光照射した。ハロゲンランプからディッシュまでの距離は40cmとした。照射は連続して行い、照射時間は計5種類(0分、0.25分、0.5分、1分、2分)とした。
放射照度測定を行うことにより、照射光(波長300~2400nm)の照射部位(照射距離40cm)における照射エネルギーを決定したところ、1秒当たり91mJ/cm2であった。照射時間を照射エネルギーに換算した結果を以下の表に示す。
【0045】
【0046】
4)細胞へ光照射した後、PBS(-)を培地に置換し、CO2インキュベータ内で18時間培養した。
【0047】
5-2.RNA抽出・精製および定量
PureLinkTM RNA mini Kit(商品名、Invitrogen社製)を用い、説明書に従いRNAを抽出及び精製した。その後、Tris―EDTA Buffer(pH8.0)により希釈して、RNA濃度を10μg/mLに調整した。
【0048】
5-3.リアルタイム PCR 法による遺伝子発現解析
1)SuperScript(商品名) IV VILO(商品名) Master Mix with ezDNase(Invitrogen社製)を用いて、説明書に従いcDNAを合成した。
2)PCRプレートに10μLのTaqMan(商品名) Fast Advanced Master Mix(Biosystems社製)、1μLのTaqMan Gene Expressior、7μLのUltraPure(商品名) Distilled Water(Invitrogen社製)及び2μLのcDNAを加えた。
3)Real-Time qPCRを行い、照射時間0~2分における各遺伝子の蛍光シグナルが任意の閾値に達する時のサイクル数であるThreshold Cycle(Ct)値を算出した。内部標準遺伝子によりCt値を補正し、ΔCt値とした。光未照射のΔCt値によりΔCt値を補正し、これをΔΔCt値とした。ΔΔCt法によって1サイクルあたりの検出差を2倍量とし、2-ΔΔCtに代入して照射時間0分の遺伝子発現量を1とした場合の光照射時の遺伝子発現量を評価した。
【0049】
6.試験結果
TGM1及びHAS3に関し、照射時間0分の発現量を1とした時の光照射時の発現量を、
図4及び
図5に示した。
【0050】
7.得られる美容効果
トランスグルタミナーゼ1遺伝子の発現により、肌のバリア機能や水分保持が維持向上する。
ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子の発現により、表皮中のヒアルロン酸産生が増加し、水分量が保たれ保湿機能が維持される。
【0051】
<実施例4>
抗老化に関わる遺伝子の発現に対する光照射の効果を、リアルタイムPCR法により評価した。材料、試験方法及び結果を以下に説明する。
【0052】
1.細胞
ヒト新生児由来の真皮線維芽細胞株「NB1RGB」細胞を、CO2インキュベータ(CO2濃度5%、37℃)を用いて培養した。
【0053】
2.培地
10.0%(v/v)のFetal Bovine Serum (FBS、Hyclone社製)、及び1.0%(v/v)の抗真菌剤(Antibiotic-Antimycotic 100X、Invitrogen社製)を含むEagle’s minimal Essential Medium(EMEM、Wako社製)を用いた。
【0054】
3.被験機器
実施例3と同様
【0055】
4.遺伝子
TaqMan Assay(Applied Biosystems社製)を用いて遺伝子発現解析を実施した。
【0056】
4-1.対象遺伝子
1)真皮線維芽細胞によって産生され、皮膚のハリ弾力に関与するI型コラーゲンをコードする遺伝子である、Human Collagen Type 1 Alpha 1(COL1A1,Assay ID. Hs00164004_m1)
2)皮膚のハリ弾力に関与するコラーゲンの分解酵素をコードする遺伝子である、Human Matrix Metallopeptidase 1(MMP1,Assay ID. Hs00899658_m1)
3)真皮線維芽細胞によって産生され、皮膚のハリ弾力に関与するエラスチンをコードする遺伝子である、Human Elastin(ELN,Assay ID. Hs00355783_m1)。
4)皮膚のハリ弾力に関与するエラスチンの分解酵素をコードする遺伝子である、Human Membrane Metalloendopeptidase(MME,Assay ID. Hs00153510_m1)。
【0057】
4-2.内部標準遺伝子
Human Glyceraldehyde 3 Phosphate Dehydrogenase (GAPDH,Assay ID. Hs02786624_g1)
【0058】
5.試験条件及び試験方法
実施例3と同様
【0059】
6.試験結果
COL1A1、MMP1、ELN及びMMEに関し、照射時間0分の発現量を1とした時の光照射後の発現量を、
図6、
図7、
図8及び
図9に示した。
【0060】
7.得られる美容効果
I型コラーゲン遺伝子の発現により、肌の弾力や強度に関与するコラーゲンが真皮線維芽細胞から産生される。さらにコラーゲン分解酵素遺伝子が抑制され、より肌に弾力を与えハリのある肌を保つ。
エラスチン遺伝子の発現により、肌の弾力を維持しコラーゲンを支えるエラスチンが真皮線維芽細胞から産生される。さらにエラスチン分解酵素遺伝子が抑制され、より肌に弾力やしなやかさを与え、ハリのある肌を保つ。
【0061】
<実施例5>
抗老化成分であるヒアルロン酸の産生に対する光照射被験物質の効果を評価した。材料、試験方法及び結果を以下に説明する。
【0062】
1.細胞、培地及び被験機器
実施例4と同様
【0063】
2.試験方法
光照射を含め、試験に関わる操作は別途記載のないかぎり室温で実施した。
【0064】
1)ディッシュに3×105cells/mLの「NB1RGB」細胞を播種し、CO2インキュベータ内で24時間培養した。
2)細胞の培地を除去し、PBS(-)で置換、洗浄した。
3)ハロゲンランプと細胞を入れたディッシュとの間に光学フィルターを設置した。ディッシュ内の細胞に対し、光学フィルターを介して光照射した。ハロゲンランプからディッシュまでの距離は40cmとした。照射は連続して行い、照射時間は計5種類(0分、0.25分、0.5分、1分、2分)とした。
4)放射照度測定を行うことにより、照射光(波長300~2400nm)の照射部位(照射距離40cm)における照射エネルギーを決定したところ、1秒当たり91mJ/cm2であった。照射時間を照射エネルギーに換算した結果を以下の表に示す。
【0065】
【0066】
5)光照射した後、PBS(-)を培地に置換し、CO2インキュベータ内で18時間培養した。
【0067】
3.細胞賦活作用評価
1)培地を除去、およびPBS(-)洗浄後、テトラゾリウム塩WST-8含有培地を加えてCO2インキュベータ内で2時間培養した。
2)培養終了後、ウェルプレートに培養上清を分取し、マイクロプレートリーダーを用いて水溶性WST-8ホルマザンの極大吸収波長である450nmの吸光度(OD450)を測定した。
3)照射時間0~2分のOD450からブランクを減算し、照射時間0分 の OD450 を 100%として細胞賦活作用(%)を算出した。
【0068】
4.ヒアルロン酸産生促進作用評価
ヒアルロン酸産生促進作用評価は、サンドイッチELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)で評価した。
1)高吸着型プレートにHyaluronan binding protein(HABP)溶液を静置固定後、余分なHABP溶液を除去、洗浄した。
2)Bovine Serum Albumin(BSA)溶液を加え、4℃で17時間静置後、BSA溶液を除去し、プレートを洗浄、乾燥させた。
3)照射時間0~2分の真皮繊維芽細胞の培養上清を0.5MのNaCl、0.02%のTween20および1%のBSAを含有するPBS(-)で適宜希釈し、プレートに添加し2時間静置した。
4)洗浄後、100μLのビオチン標識HABP溶液を加え30分静置、洗浄後、ストレプトアビジン標識HRP(horseradish peroxidase)溶液を加え、30分静置した。
5)洗浄後、2,2’-azinobis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid)diammonium salt (ABTS)を加えて10分静置した。
6)405nmの吸光度(OD405)を測定し、照射時間0分のOD405を100%として、光照射のヒアルロン酸産生率を算出した。
7)照射時間0~2分のOD405を、細胞賦活作用評価で測定したブランク減算後のOD450で除して細胞あたりのヒアルロン酸産生率を求めた。照射時間0分の細胞あたりのヒアルロン酸産生率を100%として光照射によるヒアルロン酸産生率を算出した。
【0069】
5.試験結果
照射時間0分のヒアルロン酸産生量を100%とした場合の光照射によるヒアルロン酸産生量を
図10に示した。照射時間0分の細胞あたりのヒアルロン酸産生量を100%とした場合の光照射による細胞あたりのヒアルロン酸産生量を
図11に示した。
【0070】
6.得られる美容効果
ヒアルロン酸産生が増加することで、コラーゲンやエラスチンの間に水分を抱え込み、真皮に水分を保持してハリのある肌を保つ。
【符号の説明】
【0071】
1…光源
2…光学フィルター
3…照射光