(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ディスペンサ装置
(51)【国際特許分類】
B05C 5/00 20060101AFI20240627BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05C11/10
(21)【出願番号】P 2019220821
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087000
【氏名又は名称】上島 淳一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 貴文
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125751(WO,A1)
【文献】特開平10-057867(JP,A)
【文献】特開2014-104453(JP,A)
【文献】特開2012-081378(JP,A)
【文献】特開平08-126860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部位にノズルを備えるとともに粘性流動体を収容するシリンジと、前記シリンジを対象物に対して相対的に三次元方向に移動する移動機構とを備え、前記ノズルの先端部から前記シリンジに収容された前記粘性流動体を
前記対象物に対して予め設定された量だけ吐出するディスペンサ装置において、
前記ノズルの前記先端部を中心とする円弧状の溝が形成されたガイド部材と、一方の端部が前記溝内に摺動自在に支持されるとともに他方の端部が前記シリンジに固定されたアーム部材とを有して構成され、前記ノズルの前記先端部を中心として、前記シリンジを鉛直方向に対して任意の傾き角度だけ傾ける傾け機構を備え、
前記ノズルの前記先端部から
前記対象物に対して予め設定された量の前記粘性流動体の吐出を終了した後に前記シリンジを上方に移動させるとき、前記シリンジは、前記傾け機構により、前記粘性流動体の吐出開始時における傾き角度よりも角度が大きい傾き角度まで傾いた状態であ
り、前記対象物の向きは前記粘性流動体の吐出開始時における向きと同じである
ことを特徴とするディスペンサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のディスペンサ装置において、
前記傾き角度は、鉛直方向に対して90°以内である
ことを特徴とするディスペンサ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のディスペンサ装置において、
前記傾き角度は、鉛直方向に対して30°~70°である
ことを特徴とするディスペンサ装置。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれか1項に記載のディスペンサ装置において、
前記傾け機構は、前記ノズルの前記先端部から
前記対象物に対して予め設定された量の前記粘性流動体の吐出を終了すると、前記シリンジを、前記粘性流動体の吐出開始時における傾き角度よりも角度が大きい傾き角度まで傾いた状態とする
ことを特徴とするディスペンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスペンサ装置に関する。さらに詳細には、本発明は、接着剤や三次元造形用材料などの粘性を備えた各種の流動体をノズルから吐出して供給するディスペンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、先端部位にノズルを備えるとともに接着剤や三次元造形用材料などの粘性を備えた各種の流動体(以下、本明細書および特許請求の範囲においては、単に「粘性流動体」と総称する。)を収容するシリンジと、このシリンジを対象物に対して相対的に三次元方向に移動する移動機構を備え、ノズルからシリンジに収容された粘性流動体を予め設定された量だけ対象物に向けて吐出して供給するディスペンサ装置が知られている。
【0003】
こうしたディスペンサ装置は、ノズルから粘性流動体を吐出するものであるため、ノズルから予め設定された量だけ吐出した後に、粘性流動体が糸を曳くという現象が発生するものであった。
【0004】
粘性流動体の糸曳きが生じると、粘性流動体を本来供給すべき位置の周囲に粘性流動体がひげ状にはみ出してしまい、本来供給すべき位置に粘性流動体を正確に供給することができないという問題点があった。
【0005】
従来、こうした問題点に鑑みて、粘性流動体の糸曳きを低減する種々の手法が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1として提示する特開平5-220433号公報においては、超音波振動によって糸曳きを低減する手法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2として提示する特開平6-126228号公報においては、放電やレーザー光源を用いて加熱することにより糸曳きを低減する手法が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献3として提示する特開平7-273437号公報においては、吸引ノズルを用いて糸曳きを低減する手法が開示されている。
【0009】
さらにまた、特許文献4として提示する特開2004-330075号公報においては、糸曳き現象により発生した糸を物理的に切断する回転部材を設けるようにした手法が開示されている。
【0010】
しかしながら、上記した特許文献1乃至特許文献4に開示されたいずれの手法においても、超音波振動発生装置、放電設備、レーザー光源、吸引ノズルあるいは回転部材などのような複雑かつ高コストの付帯設備が必要となるとともに、装置構成も巨大化するという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平5-220433号公報
【文献】特開平6-126228号公報
【文献】特開平7-273437号公報
【文献】特開2004-330075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の技術の有する上記したような種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複雑かつ高コストの付帯設備を用いることなく、かつ、装置構成の巨大化をもたらすことなしに、粘性流動体の糸曳きを低減することのできるディスペンサ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、本発明は、先端部位にノズルを備えるとともに粘性流動体を収容するシリンジと、このシリンジを対象物に対して相対的に三次元方向に移動する移動機構を備え、ノズルからシリンジに収容された粘性流動体を予め設定された量だけ鉛直方向に沿って吐出するディスペンサ装置において、シリンジを鉛直方向から予め設定された角度だけ傾ける傾け機構を備え、ノズルから予め設定された量の粘性流動体の吐出を終了すると、傾け機構によりシリンジを鉛直方向から予め設定された角度だけ傾けた状態とし、その状態でシリンジを移動機構により上昇するようにしたものである。
【0014】
これにより、
図1(a)(b)を参照しながら説明する本発明の原理により、ノズルから吐出された粘性流動体の糸曳きを低減することができるようになる。
【0015】
即ち、粘性流動体の粘性が糸曳きの主要因である場合には、「平井(日本化学雑誌75巻第10号1019頁)、後藤ら(材料試験6巻43号245頁)(付録1)」によると、曳糸長については、
【0016】
L~R×V×η/Y
L:曳糸長[m] R:糸の半径[m] V:曳糸速度[m/s]
η:粘度[Pa・s] Y:表面張力[N/m]
という関係式が導ける。
【0017】
従って、粘性流動体として同一の材料を用いる場合(この場合には、粘度ηと表面張力Yとの値は一定となる。)において曳糸長Lを変化させるには、曳糸速度Vを一定とすると、糸の半径Rを変化させればよい。
【0018】
そして、本願発明者は、シリンジを鉛直方向から傾けることにより、擬似的に糸の半径Rを小さくすることが可能となるという知見を得て、本発明をなすに至ったものである。
【0019】
より詳細には、シリンジに収容された粘性流動体をノズルから半径R1で鉛直方向へ吐出するディスペンサ装置においては、
図1(a)に示すように、吐出終了後にそのままの状態でシリンジを上方へ移動すると、半径R1の糸を曳くことになる。
【0020】
一方、
図1(b)に示すように、吐出終了後にシリンジを鉛直方向から傾けた状態で上昇すると、糸の半径R2は、
【0021】
R2=R1×cosθ1
と計算され、
R1>R2
であるので、糸の半径Rを小さくすることができる。
【0022】
その結果、曳糸長が短縮されて、粘性流動体の糸曳きを低減することができるようになる。
【0023】
即ち、本発明は、先端部位にノズルを備えるとともに粘性流動体を収容するシリンジと、上記シリンジを対象物に対して相対的に三次元方向に移動する移動機構とを備え、上記ノズルの先端部から上記シリンジに収容された上記粘性流動体を予め設定された量だけ吐出するディスペンサ装置において、上記ノズルの上記先端部を中心として、上記シリンジを鉛直方向に対して任意の傾き角度だけ傾ける傾け機構を備え、上記ノズルの上記先端部から予め設定された量の上記粘性流動体の吐出を終了した後に上記シリンジを上方に移動させるとき、上記シリンジは、上記傾け機構により、上記粘性流動体の吐出開始時における傾き角度よりも角度が大きい傾き角度まで傾いた状態であるようにしたものである。
【0024】
また、本発明は、上記した本発明において、上記傾け機構は、円弧状の溝を形成されたガイド部材と、一方の端部が上記溝内に摺動自在に支持されるとともに他方の端部が上記シリンジに固定されたアーム部材とを有して構成されるようにしたものである。
【0025】
また、本発明は、上記した本発明において、上記傾き角度は、鉛直方向に対して90°以内であるようにしたものである。
【0026】
また、本発明は、上記した本発明において、上記傾き角度は、鉛直方向に対して30°~70°であるようにしたものである。
【0027】
また、本発明は、上記した本発明において、上記傾け機構は、上記ノズルの上記先端部から予め設定された量の上記粘性流動体の吐出を終了すると、上記シリンジを、上記粘性流動体の吐出開始時における傾き角度よりも角度が大きい傾き角度まで傾いた状態とするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、以上説明したように構成されているので、複雑かつ高コストの付帯設備を用いることなく、かつ、装置構成の巨大化をもたらすことなしに、粘性流動体の糸曳きを低減することができるようになるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1(a)(b)は、本発明の原理を示す説明図である。
【
図2】
図2(a)(b)は、本発明の実施の形態の一例によるディスペンサ装置を模式的に示す構成説明図である。
図2(a)は正面説明図であり、
図2(b)は
図2(a)のA矢視における要部の説明図である。
【
図3】
図3(a)(b)(c)(d)(e)は、本発明の実施の形態の一例によるディスペンサ装置の動作の遷移を模式的に示す説明図である。
【
図4】
図4は、本願発明者による実験結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明によるディスペンサ装置の実施の形態の一例を詳細に説明することとする。
【0031】
図2(a)(b)には、本発明の実施の形態の一例によるディスペンサ装置を模式的に示す構成説明図があらわされており、
図2(a)は正面説明図であり、
図2(b)は
図2(a)のA矢視における要部の説明図である。
【0032】
この
図2(a)(b)に示す本発明の実施の形態の一例によるディスペンサ装置10は、先端部にノズル12aを配設したシリンジ12を備えている。このシリンジ12には、粘性流動体が充填されている。
【0033】
シリンジ12の後端部12bにはチューブ14の一方の端部14aが接続されており、チューブ14の他方の端部14bはコンプレッサー16に接続されている。
【0034】
コンプレッサー16からチューブ14を介してシリンジ12へエアーを送出することにより、シリンジ12に収容されている粘性流動体がノズル12aから吐出される。
【0035】
シリンジ12は、支持装置18に支持されている。支持装置18は、ワーク100に対してシリンジ12をXYZ直交座標系における三次元方向に移動可能な三次元移動機構を備えている。
【0036】
なお、上記した支持装置18に設けられた三次元移動機構は、従来から公知の技術を適宜に適用することができるので、その詳細な説明は省略する。
【0037】
支持装置18は、ノズル12aの先端部12aaを中心として、シリンジ12を鉛直方向(Z軸方向)に沿った初期位置(傾き角度θ0=0°)から任意の傾き角度θ2だけ傾けることのできる傾け機構20が設けられている。
【0038】
本実施の形態における傾け機構20は、先端部12aaを中心とする円弧状の溝22aを形成されたガイド部材22と、一方の端部24aが円弧状の溝22a内に摺動自在に支持されるとともに、他方の端部24bがシリンジ12に固定されたアーム部材24とを備えている。
【0039】
アーム部材24の一方の端部24aは、図示しない駆動源に接続されている。この駆動源により端部24aを溝22a内における任意の位置に移動させることにより、シリンジ12を鉛直方向に沿った初期位置(傾き角度θ0=0°)から任意の傾き角度θ2だけ傾けることができる。
【0040】
以上の構成において、
図3(a)(b)(c)(d)(e)を参照しながら、ディスペンサ装置10による粘性流動体を吐出する動作について説明する。
【0041】
図3(a)(b)(c)(d)(e)には、本発明の実施の形態の一例によるディスペンサ装置の動作の遷移を模式的に示す説明図があらわされている。
【0042】
ディスペンサ装置10によりワーク100に対して粘性流動体を吐出するには、まず、三次元移動機構によりシリンジ12を鉛直方向(Z軸方向)に沿って予め定められた吐出高さ位置まで下降する(
図3(a))。
【0043】
次に、三次元移動機構によりシリンジ12をXY平面上で移動しながら、ノズル12aからワーク100おける予め設定された箇所に予め設定された量だけ粘性流動体を吐出する(
図3(b))。
【0044】
粘性流動体の吐出を終了すると、傾け機構20によりシリンジ12を初期位置(傾き角度θ0=0°)から予め設定された傾き角度θ2だけ傾け(
図3(c))、シリンジ12を傾き角度θ2だけ傾けた状態のままで、三次元移動機構によりシリンジ12を上昇する(
図3(d))。
【0045】
その後に、傾け機構20によりシリンジ12を鉛直方向に沿った初期位置(傾き角度θ0=0°)へ戻す。
【0046】
次に、本願発明者が上記したディスペンサ装置10を用いて行った実験結果について説明する。
【0047】
なお、本実験の実験環境は、以下の通りである。
・粘性流動体:市販UV硬化型接着剤(ThreeBond3030,スリーボンド製)
・シリンジ:PP製シリンジ(PSY-30FU-OR,武藤エンジニアリング製)
・ノズル:φ0.4mmテフロン(登録商標)製ニードル(TN-UV-0.4-25,岩下エンジニアリング製)
・コンプレッサーのエアー圧:0.1MPa
・吐出時間:1秒
【0048】
本実験は、粘性流動体の吐出後に上昇速度(50mm/s)でシリンジを上昇したときにおける曳糸長を計測した。
【0049】
なお、計測にあたっては、家庭用ビデオカメラ(HC-V750M、Panasonic製)を用いて撮影を行い、撮影された映像に基づき曳糸長を計測した。
【0050】
図4には、本願発明者による実験結果を示す図表があらわされている。この実験結果によれば、シリンジ12を鉛直方向に沿った初期位置(傾き角度θ0=0°)で上昇させた場合および傾き角度θ2が20°の場合には曳糸長は23mmであったが、傾き角度θ2を20°より徐々に大きくしていくと曳糸長は徐々に短くなっていった。
【0051】
具体的には、傾き角度θ2が30°の場合には曳糸長20mmとなり、傾き角度θ2が40°の場合には曳糸長19mmとなり、傾き角度θ2が50°の場合には曳糸長17mmとなり、傾き角度θ2が60°の場合には曳糸長16mmとなり、傾き角度θ2が70°の場合には曳糸長15mmとなった。
【0052】
上記した実験結果から明らかなように、傾き角度θ2が30°~70°の範囲では曳糸長を低減すされており、傾き角度θ2を大きくするに従って曳糸長はより短くなっていった。
【0053】
以上において説明したように、本発明によるディスペンサ装置10によれば、簡潔な構成の傾け機構20を設けるだけでよいので、複雑かつ高コストの付帯設備を用いることなく、かつ、装置構成の巨大化をもたらすことなしに、粘性流動体の糸曳きを低減することができるようになる。
【0054】
なお、上記した実施の形態は例示に過ぎないものであり、本発明は他の種々の形態で実施することができる。即ち、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0055】
例えば、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(4)に示すように変形するようにしてもよい。
【0056】
(1)上記した実施の形態においては、ガイド部材22とアーム部材24とにより傾け機構20を構成するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。即ち、ノズル12aの先端部12aaを中心として、シリンジ12を鉛直方向に沿った初期位置(傾き角度θ0=0°)から任意の傾き角度θ2だけ傾けることができるのであれば、どのような構造の傾け機構を用いてもよい。
【0057】
(2)上記した実施の形態においては、傾き角度θ2が70°の場合までの実験例を示したが、傾き角度θ2はこれに限られるものではないことは勿論である。即ち、傾き角度θ2は、粘性流動体の種類、シリンジ12やノズル12aの寸法などのような種々の条件に応じて、「0°<θ2≦90°」の範囲の任意の角度において適正な角度を設定すればよい。
【0058】
(3)上記した実施の形態においては、支持装置18がシリンジ12を三次元方向に移動する三次元移動機構を備えるようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。即ち、シリンジ12はワーク100に対して相対的に三次元方向に移動可能であればよいので、例えば、シリンジ12をZ軸方向に移動可能とし、ワーク100をXY方向に移動可能とするように構成してもよい。
【0059】
(4)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(3)に示す各種の他の実施の形態や変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、対象物に対して接着剤や三次元造形用材料などの粘性を備えた各種の材料を供給する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 ディスペンサ装置
12 シリンジ
12a ノズル
12aa 先端部
12b 後端部
14 チューブ
14a 端部
14b 端部
16 コンプレッサー
18 支持装置
20 傾け機構
22 ガイド部材
22a 溝
24 アーム部材
24a 端部
24b 端部
100 ワーク