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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】繊維強化金属成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 38/18 20060101AFI20240627BHJP
   B32B 38/12 20060101ALI20240627BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240627BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20240627BHJP
   B29C 43/52 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B32B38/18 B
B32B38/12
B32B15/08 105Z
B29C43/18
B29C43/52
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020020844
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021126776
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000230869
【氏名又は名称】日本金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】堀本 歴
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 英一郎
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/182038(WO,A1)
【文献】特開平06-320670(JP,A)
【文献】特開2019-150990(JP,A)
【文献】特開2017-001371(JP,A)
【文献】特開2016-196142(JP,A)
【文献】特開2018-090688(JP,A)
【文献】特開2016-083839(JP,A)
【文献】特開平05-042648(JP,A)
【文献】特開2014-185221(JP,A)
【文献】特開2013-199088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 39/00-39/24、39/38-39/44、
43/00-43/34、43/44-43/48、
43/52-43/58、63/00-63/48、
65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と繊維樹脂複合部材とを積層一体成形した繊維強化金属成形体の製造方法であって、
(1)金属板と繊維樹脂複合部材との積層体を、加熱金型内で加熱プレス成形し、
(2)前記加熱金型から成形中間体を脱型し、
(3)前記脱型した成形中間体を冷却金型内に入れて冷却プレス成形することを特徴とする繊維強化金属成形体の製造方法。
【請求項2】
前記繊維樹脂複合部材は、繊維基材にマトリックスとなる熱可塑性樹脂を付着させ熱融着させたセミプレグであり、
前記工程(1)では、金属板と前記セミプレグとの積層体を、加熱金型内で加熱プレス成形することにより、
前記熱可塑性樹脂を繊維基材中に含浸させ、
前記金属板と前記セミプレグとを接着させ、
前記積層体を賦形させる、請求項に記載の繊維強化金属成形体の製造方法。
【請求項3】
前記繊維樹脂複合部材は、繊維基材にマトリックスとなる熱可塑性樹脂が含浸されたプリプレグであり、
前記工程(1)では、金属板と前記プリプレグとの積層体を、加熱金型内で加熱プレス成形することにより、
前記金属板と前記プリプレグとを接着させ、
前記積層体を賦形させる、請求項に記載の繊維強化金属成形体の製造方法。
【請求項4】
前記金属板はマグネシウム、アルミニウム、チタンおよび/またはそれらの合金からなる請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維強化金属成形体の製造方法。
【請求項5】
前記金属板はマグネシウムまたはその合金からなる請求項に記載の繊維強化金属成形体の製造方法。
【請求項6】
前記繊維強化金属成形体の密度は1.2g/cm3~2.0g/cm3である請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維強化金属成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維樹脂複合部材と金属板とをプレス成形した繊維強化金属成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維材料である炭素繊維は、各種のマトリックス樹脂と複合化され、得られる繊維強化プラスチックは種々の分野・用途に広く利用されるようになってきた。そして、高度の機械的特性や耐熱性等を要求される航空・宇宙分野や、一般産業分野では、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする、一方向性の連続繊維が用いられている。従来から、炭素繊維基材に樹脂を完全含浸したプリプレグが用いられており、複合材料としたときの耐衝撃性が優れ、成形時間が短く、かつ成形コスト低減の可能性が示唆されている。また最近は、熱可塑性樹脂が完全含浸されていない未含浸状態のセミプレグが注目されている。セミプレグは、マトリックス樹脂が繊維基材上に付着・融着している状態または半含浸状態の未含浸の基材シートで、柔らかく賦形性が優れている。また、ダイレクトに成形を行うことができるため、成形効率も優れている。
【0003】
特許文献1には、金属板と繊維強化樹脂シートとを金型で加熱加圧成形し、繊維強化樹脂シートの形状が定まりきってない高温状態で金型から脱型することが提案されている。特許文献2には、2種類以上の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを加熱加圧プレスして積層し、冷却プレスすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-150990号公報
【文献】特開2016-196142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らは、特許文献1のように、繊維強化樹脂材料を高温状態で金型から脱型すると、繊維強化樹脂シート内にボイドが入り、強度低下などの問題が起きること、また特許文献2のように、複数枚の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを加熱加圧プレスした直後に脱型すると、前記プリプレグは形が崩れるという問題を見出した。
本発明は、前記従来の問題を解決するため、成形体の品位が高く、繊維樹脂複合部材内のボイドを低減でき、成形サイクルタイムも短い繊維強化金属成形体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維強化金属成形体の製造方法は、金属板と繊維樹脂複合部材とを積層一体成形した繊維強化金属成形体の製造方法であって、
(1)金属板と繊維樹脂複合部材との積層体を、加熱金型内で加熱プレス成形し、
(2)前記加熱金型から成形中間体を脱型し、
(3)前記脱型した成形中間体を冷却金型内に入れて冷却プレス成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、金属板と繊維樹脂複合部材との積層体を加熱プレス成形し、脱型し、冷却プレス成形し、前記繊維樹脂複合部材は冷却された緻密構造であることにより、成形体の品位が高く、繊維樹脂複合部材内のボイドを低減でき、成形サイクルタイムも短い繊維強化金属成形体とすることができる。前記加熱プレス成形した成形体は、金属板があるため高温状態でも成形体の形状を保持できるので、加熱プレス後に同一プレス機内で冷却工程を経ることなく直ちにプレス機から脱型して次工程に移ることができる。また、本発明の製造方法は、金属板と繊維樹脂複合部材との積層体を加熱金型内で加熱プレス成形し、前記加熱金型から成形中間体を脱型し、前記脱型した成形中間体を冷却金型内に入れて冷却プレス成形することにより、繊維樹脂複合部材を冷却し、プレス成形体を効率よく合理的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の一実施形態の繊維樹脂複合部材の模式的斜視図である。
図2図2は同、繊維樹脂複合部材の幅方向の模式的断面図である。
図3図3は同、繊維樹脂複合部材の製造方法を示す模式的工程図である。
図4図4Aは同、繊維強化金属成形体の模式的斜視図、図4Bは同、模式的断面図である。
図5図5A-Eは同、加熱プレス-脱型-冷却プレス成形工程の模式的断面図である。
図6図6Aは本発明の一実施例で得られた繊維強化金属成形体の繊維樹脂複合部材層の表面写真、図6Bは同繊維樹脂複合部材層の断面写真(倍率40倍)である。
図7図7Aは比較例で得られた繊維強化金属成形体の繊維樹脂複合部材層の表面写真、図7Bは同繊維樹脂複合部材層の断面写真(倍率40倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、金属板に繊維樹脂複合部材が積層一体成形された繊維強化金属成形体である。繊維樹脂複合部材は金属板の少なくとも一方の主面に積層一体成形されている。好ましくは、金属板の一方の主面に積層一体成形されている。ここで、繊維樹脂複合部材は、繊維基材とマトリックス樹脂とからなる複合材であることが好ましい。
【0011】
成形体は、加熱プレス成形され、脱型され、冷却プレス成形されており、冷却後の成形体における繊維樹脂複合部材層は緻密構造であり、成形体の品位も高い。これは、繊維樹脂複合部材内のボイドを低減できることによるものである。繊維樹脂複合部材内に発生するボイドの割合は、5%以下であることが好ましい。また、本発明では、最初の成形の準備で、プレスを加熱プレスまたは冷却プレスに設定する作業を実施しておけば、その後の各成形においてプレスを加熱プレスまたは冷却プレスに設定する作業を省けるため時間短縮になり成形サイクルタイムも短くできる。
なお、本発明における加熱プレス成形とは、70℃~300℃程度に材料もしくは金型/もしくはその両方を加熱してプレスする成形方法である。
【0012】
成形体の繊維樹脂複合部材層の表面は、光沢を有し、光沢度はJIS Z 8741に準拠した60度鏡面光沢度が50以上であることが好ましく、より好ましくは光沢度が80以上であり、特に好ましくは90以上である。この光沢は冷却プレス成形によって生成する。冷却プレス成形をしないと、繊維樹脂複合部材にボイドが発生し、光沢度は低下する。また、成形体の繊維樹脂複合部材層の表面は、冷却プレスの転写面が形成されているのが好ましい。冷却プレスの転写面が鏡面の場合は繊維樹脂複合部材層の表面も鏡面となり、冷却プレスの転写面が梨地面の場合は繊維樹脂複合部材層の表面も梨地面となる。
【0013】
繊維樹脂複合部材としては、セミプレグ、プリプレグ、不織布等を使用することができ、繊維樹脂複合部材は、繊維基材にマトリックスとなる熱可塑性樹脂を付着させ熱融着させたセミプレグ及び繊維基材にマトリックスとなる熱可塑性樹脂が含浸されたプリプレグから選ばれる少なくとも一つの繊維樹脂複合部材であることが好ましい。このような繊維樹脂複合部材は金属板を補強するのに適している。
【0014】
前記セミプレグは、下記のものが好ましい。
A 連続繊維が開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維と、
B 前記一方向連続繊維と交錯する方向の架橋繊維と、
C 前記一方向連続繊維の少なくとも表面に存在し、かつ前記一方向連続繊維と前記架橋繊維とを一体化している熱可塑性樹脂を含む。
【0015】
前記セミプレグの主成分は、開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維である。繊維の副成分は、一方向連続繊維と交錯する方向に配列された架橋繊維である。ここで主成分とは、繊維を100質量%としたとき、75~99質量%が好ましく、副成分とは1~25質量%が好ましい。熱可塑性樹脂は、粉体で一方向連続繊維及び架橋繊維の上から付着させ、一方向連続繊維の少なくとも表面で熱融着させ、かつ一方向連続繊維と架橋繊維とを一体化している。
【0016】
前記繊維樹脂複合部材は、繊維基材にマトリックスとなる熱可塑性樹脂を付着させ熱融着させたセミプレグまたは繊維基材にマトリックスとなる熱可塑性樹脂が含侵されたプリプレグを用途に合わせて使用できる。セミプレグは、賦形性(成形性)に優れるとともに、加熱プレス成形により、表面の熱可塑性樹脂が繊維樹脂複合部材内及び繊維樹脂複合部材間に一様に浸透かつ拡散する。次いで脱型し冷却プレスすることにより、繊維樹脂複合部材内のボイドが低減された成形体が得られる。プリプレグは、繊維樹脂複合部材内に熱可塑性樹脂が含侵されているので、成形時間が短く、また、プリプレグは、つかみやすく、プレス間の移動が容易である点で取り扱いに優れる。
【0017】
前記繊維樹脂複合部材の繊維体積(Vf)は、20~65体積%、熱可塑性樹脂80~35体積%が好ましく、より好ましくは繊維体積25~60体積%、熱可塑性樹脂75~40体積%である。これにより、繊維樹脂複合部材の樹脂成分を、そのまま成形体のマトリックス樹脂成分にすることができる。すなわち、成形体を製造する際に、新たな樹脂の追加は不要である。繊維樹脂複合部材の単位面積当たりの質量(目付)は10~3000g/m2が好ましく、より好ましくは20~2000g/m2であり、さらに好ましくは30~1000g/m2である。
【0018】
前記繊維は、炭素繊維、ガラス繊維及び弾性率が380cN/dtex以上の高弾性率繊維から選ばれる少なくとも一つが好ましい。高弾性率繊維としては、例えばアラミド繊維、とくにパラ系アラミド繊維(弾性率:380~980cN/dtex)、ポリアリレート繊維(弾性率:600~741cN/dtex)、ヘテロ環ポリマー(PBO,弾性率:1060~2200cN/dtex)繊維、高分子量ポリエチレン繊維(弾性率:883~1413cN/dtex)、ポリビニルアルコール繊維(PVA,強度:14~18cN/dtex)などがある(繊維の百科事典,522頁,2002年3月25日,丸善)。これらの繊維は樹脂強化繊維として有用である。とくに炭素繊維は有用である。
【0019】
前記繊維樹脂複合部材の1枚の厚みは0.05~5.0mmが好ましく、より好ましくは0.05~3.0mmであり、更に好ましくは0.05~1.0mmである。この範囲の厚さの繊維樹脂複合部材は加熱プレス、脱型、冷却プレス成形しやすい。成形の際には、この繊維樹脂複合部材を1枚又は2枚以上積層する。
【0020】
前記繊維樹脂複合部材の熱可塑性樹脂は、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン系樹脂などが使用可能であるが、これらに限定されない。
【0021】
前記セミプレグの樹脂の付着状態は、開繊された繊維シート(繊維基材)の表面付近に樹脂が溶融固化して付着しており、樹脂は繊維シート内部には含浸していないか又は一部含浸しているのが好ましい。
【0022】
開繊された繊維シート(以下、「開繊シート」ともいう)の幅は、炭素繊維の場合、構成繊維本数1000本当たり0.1~5.0mmが好ましい。具体的には、開繊シートの幅は、50Kまたは60Kなどのラージトウの場合は構成繊維本数1000本当たり0.1~1.5mm程度であり、12Kまたは15Kなどのレギュラートウの場合は構成繊維本数1000本当たり0.5~5.0mm程度である。ここでKは1000本のことである。1本当たりのトウの構成繊維本数が増加するほど、繊維の捩れが大きくなり開繊しにくくなるので、開繊シートの幅も狭くなる。これにより、炭素繊維メーカーの販売する未開繊トウを拡開し、使用し易い開繊シートとし、様々な成形物に供給できる。供給糸の炭素繊維束(トウ)は5,000~50,000本/束が好ましく、この炭素繊維束(トウ)を10~280本供給するのが好ましい。このように炭素繊維束(トウ)を複数本供給して開繊し、1枚のシートにすると、炭素繊維束(トウ)と炭素繊維束(トウ)の間が開裂しやすいが、様々な方向性を有する架橋繊維が樹脂によりシートに接着固定されていると、トウ間の開裂も防止できる。
【0023】
架橋繊維の平均長さは、1mm以上が好ましく、さらに好ましくは5mm以上である。架橋繊維の平均長さが前記の範囲であれば、幅方向の強度が高く、取り扱い性に優れた炭素繊維シートとなる。
【0024】
前記金属板の厚みは0.03~5.0mmが好ましく、より好ましくは0.1~3.0mmであり、さらに好ましくは0.2~2.0mmである。前記であれば、繊維樹脂複合部材と積層一体化することにより、充分な実用強度となる。金属板の材質は、特段制限されるものではなく、例えば、密度が8.0g/cm3以下の金属またはその合金が挙げられ、好ましくは密度が1.0~3.0g/cm3の金属またはその合金である。密度が8.0g/cm3以下の金属またはその合金の具体例としては、鉄、チタン、アルミニウム、マグネシウムおよびこれらの合金などが挙げられる。ここで、合金の例としては、例えば、鉄系合金(ステンレス鋼を含む)、チタン系合金、アルミニウム系合金、マグネシウム合金などが挙げられる。前記金属板は、マグネシウム、アルミニウム、チタンおよび/またはそれらの合金からなることが好ましく、より好ましくはマグネシウム、アルミニウムまたはそれらの合金からなり、さらに好ましくはマグネシウムまたはその合金からなる。
【0025】
前記繊維強化金属成形体の密度は1.2~2.0g/cm3であることが好ましく、より好ましくは1.3~1.7g/cm3である。
【0026】
本発明の製造方法は、
(1)金属板と繊維樹脂複合部材との積層体を、加熱金型内で加熱プレス成形し、
(2)加熱金型から成形中間体を脱型し、
(3)脱型した成形中間体を冷却金型内に入れて冷却プレス成形する。
【0027】
前記工程(1)では、繊維樹脂複合部材が、繊維基材にマトリックスとなる熱可塑性樹脂を付着させ熱融着させたセミプレグである場合、金属板とセミプレグとの積層体を、加熱金型内で加熱プレス成形することにより、前記熱可塑性樹脂を繊維基材中に含浸させ、前記金属板と前記セミプレグとを接着させ、前記積層体を賦形させることができる。
前記工程(1)では、繊維樹脂複合部材が、繊維基材にマトリックスとなる熱可塑性樹脂が含浸されたプリプレグである場合、金属板と前記プリプレグとの積層体を、加熱金型内で加熱プレス成形することにより、前記金属板と前記プリプレグとを接着させ、前記積層体を賦形させることができる。
【0028】
前記工程(1)において、金属板と繊維樹脂複合部材との間には接着層を入れてもよいし、入れずに金属板および繊維樹脂複合部材を重ねただけでも良い。接着層を入れずに金属板および繊維樹脂複合部材を重ねる場合、繊維樹脂複合部材のマトリックス樹脂で金属板と接着させてもよい。
接着層を入れる場合、繊維樹脂複合部材との間に加熱プレスの温度で軟化又は溶融する接着フィルムを介在させてもよい。接着フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン(ポリアミド)樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂フィルムが好適に用いられる。前記熱可塑性接着フィルムは、融点が50~250℃が好ましく、さらに好ましくは60~180℃である。また、熱可塑性接着フィルムの厚さは10~800μmが好ましく、さらに好ましくは20~500μmである。
【0029】
加熱プレス成形の圧力は、0.1~20MPaが好ましく、より好ましくは1~10MPaである。また、加熱プレス成形の温度は、繊維樹脂複合部材の樹脂の融点Tm~Tm+80℃が好ましく、より好ましくはTm(℃)+10~Tm+60℃である。加熱プレス成形の時間は0.1~30分が好ましい。
【0030】
冷却プレス成形の圧力は、0.1~20MPaが好ましく、より好ましくは1~10MPaである。また、冷却プレス成形の温度は、10~100℃が好ましく、より好ましくは20~60℃である。冷却プレス成形の時間は0.1~10分が好ましい。
【0031】
成形体の成形サイクルタイムは、0.2~10分であるのが好ましい。これにより、効率よく成形できる。なお、加熱プレスも冷却プレスも一定温度に保って成形できる。
【0032】
本発明で好ましく使用するセミプレグの製造方法は、次の工程を含む。繊維シート(繊維基材)として炭素繊維シートを挙げて説明する。
(i)炭素繊維フィラメント群を複数のロールを通過、開繊バーを通過、及びエアー開繊から選ばれる少なくとも一つの手段により開繊させ、一方向に並列状に配列させるに際し、開繊時もしくは開繊後に架橋繊維を炭素繊維フィラメント群から発生させるか、又は開繊時もしくは開繊後に架橋繊維を炭素繊維シートに落下させ、前記架橋繊維は炭素繊維シートの面積10mm2あたり平均1本以上とする。ロール又は開繊バーを通過させて炭素繊維フィラメント群を開繊する場合、炭素繊維フィラメント群に張力をかけることで、開繊時に炭素繊維フィラメント群から架橋繊維を発生させることができる。炭素繊維フィラメント群の張力は、例えば、15,000本あたり2.5~30Nの範囲とすることができる。エアー開繊を採用する場合は、この後にロール又は開繊バーにより架橋繊維を発生させるのが好ましい。架橋繊維を炭素繊維フィラメント群から発生させた場合は、架橋繊維は、炭素繊維シートを構成する炭素繊維と交錯した状態となる。ここで交錯とは、絡み合いを含む。例えば、架橋繊維の一部または全部は炭素繊維シート内に存在し、一方向に配列されている炭素繊維と立体的に交錯している。
(ii)開繊された炭素繊維シートに粉体樹脂を付与する。
(iii)加圧フリー(加圧なし)状態で粉体樹脂を加熱溶融し、冷却し、炭素繊維シートの少なくとも表面の一部に部分的に樹脂を存在させる。この際に、架橋繊維を表面の樹脂により炭素繊維シートに接着固定させる。
【0033】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施形態の繊維樹脂複合部材1の模式的斜視図、図2は同、繊維樹脂複合部材1の幅方向の模式的断面図である。開繊された一方向炭素繊維2の表面には架橋繊維3が様々な方向に配置している。また一方向炭素繊維2の表面付近に樹脂4が溶融固化して付着しており、樹脂4は一方向炭素繊維2の内部には含浸していないか又は一部含浸している程度である。樹脂4は架橋繊維3を一方向炭素繊維2の表面に接着固定している。図2に示すように、一方向炭素繊維2の表面には架橋繊維3a,3bが存在する。架橋繊維3aは全部が一方向炭素繊維2の表面にある。架橋繊維3bは一部が一方向炭素繊維2の表面にあり、一部は内部に入って炭素繊維と交錯した状態である。樹脂4は架橋繊維3を一方向炭素繊維2の表面に接着固定している。また、樹脂4が付着している部分と、樹脂が付着していない部分5がある。樹脂が付着していない部分5は、繊維樹脂複合部材1を複数枚積層状態で加熱し、真空して繊維強化金属成形品に成形する際に、繊維樹脂複合部材内部の空気がこの部分から抜ける通路となり、加圧により表面の樹脂が繊維樹脂複合部材内全体に含浸しやすくなる。これにより樹脂4は繊維強化金属成形体のマトリックス樹脂となる。
【0034】
図3は本発明の一実施形態の繊維樹脂複合部材の製造方法を示す模式的工程図である。多数個の供給ボビン7から炭素繊維フィラメント群(トウ)8を引き出し、開繊ロール21a-21jの間を通過させることで、開繊させる(ロール開繊工程23)。ロール開繊に代えて、エアー開繊としてもよい。開繊ロールは固定又は回転してもよく、幅方向に振動してもよい。
開繊工程の後、開繊されたトウをニップロール9a,9b間でニップし、この間に設置した複数のブリッジロール12a-12bの間を通過させ、トウの張力を例えば15,000本あたり(1個の供給ボビンから供給される炭素繊維フィラメント群に相当)2.5~30Nの範囲でかけることで、架橋繊維を発生させる(架橋繊維発生工程24)。ブリッジロールは回転してもよく、幅方向に振動してもよい。ブリッジロールは、例えば表面が梨地、凹凸、鏡面、複数ロールで炭素繊維フィラメント群を屈曲、固定、回転、振動又はこれらの組み合わせにより架橋繊維を発生させる。13a-13gはガイドロールである。
その後、粉体供給ホッパー14からドライパウダー樹脂15を開繊シートの表面に振りかけ、圧力フリー状態で加熱装置16内に供給し加熱し、ドライパウダー樹脂15を溶融し、ガイドロール13e-13g間で冷却する。その後、開繊シートの裏面にも粉体供給ホッパー17からドライパウダー樹脂18を振りかけ、圧力フリー状態で加熱装置19内に供給し加熱し、ドライパウダー樹脂18を溶融し、冷却し、巻き上げロール20に巻き上げられる(粉体樹脂付与工程25)。ドライパウダー樹脂15、18は、例えばフェノキシ樹脂(流動開始温度180℃)とし、加熱装置16,19内の各温度は例えば樹脂の融点又は軟化点又は流動開始温度の+20~60℃、滞留時間は例えば各4秒とする。これにより、炭素繊維開繊シートは幅方向の強度が高くなり、構成炭素繊維がバラバラになることはなく、シートとして扱えるようになる。
【0035】
粉体樹脂の付与は、粉体塗布法、静電塗装法、吹付法、流動浸漬法などが採用できる。炭素繊維シート表面に粉体樹脂を落下させる粉体塗布法が好ましい。例えばドライパウダー状の粉体樹脂を開繊された炭素繊維シートに振りかける。
【0036】
図4Aは同、繊維強化金属成形体の模式的斜視図、図4Bは同、模式的断面図である。この繊維強化金属成形体31は、金属板32に繊維樹脂複合部材33が積層一体成形されている。
【0037】
図5A-Eは本発明の一実施形態における加熱プレス-脱型-冷却プレス成形工程の模式的断面図である。
(a)まず図5Aに示すように、加熱された下金型34と上金型35の間に金属板32と繊維樹脂複合部材33を重ねて置く。このとき金属板32と繊維樹脂複合部材33との間に接着フィルムを介在させてもよい。
(b)次に図5Bに示すように、下金型34と上金型35で加圧加熱プレスする。
(c)次に図5Cに示すように、下金型34と上金型35を開き、成形中間体36を脱型する。
(d)次に図5Dに示すように、成形中間体36を冷却された下金型37と上金型38の間に置き、下金型37と上金型38で冷却プレスする。下金型37と上金型38は水冷されている。
(e)最後に図5Eに示すように、繊維強化金属成形体39を取り出す。
【実施例
【0038】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0039】
<光沢度測定>
光沢度測定は、JIS Z 8741にしたがって測定した。
装置:デジタル変格光沢計 VG-1D 日本電色工業株式会社製にて測定
方法:60度鏡面光沢度
鏡面光沢度の測定は、規定された入射角θに対して、試料面からの鏡面反射光束φsを測定した。
但し、同一条件における屈折率n=1.567のガラス表面の鏡面反射光束φsを基準とし、その比で表す。Gs(θ)=(φs/φos)×100(%)
【0040】
(実施例1)
(1)炭素繊維未開繊トウ
炭素繊維未開繊トウは三菱ケミカル社製、品番:PYROFILE TR 50S15L、形状:レギュラートウ フィラメント15K(15,000本)、単繊維直径7μmを使用した。この炭素繊維未開繊トウの炭素繊維にはエポキシ系化合物がサイジング剤として付着されている。
(2)未開繊トウの開繊手段
図3の開繊装置を使用して開繊した。開繊工程において、炭素繊維フィラメント群(トウ)の張力は15,000本あたり15Nとした。このようにして炭素繊維フィラメント構成本数50K、開繊幅500mm、厚み0.08mmの開繊シートとした。一方向連続繊維は96.7質量%、架橋繊維は3.3質量%であった。
(3)セミプレグ
ドライパウダー樹脂としてフェノキシ樹脂(流動開始温度180℃)を使用し、繊維樹脂複合部材を100体積%としたとき、前記フェノキシ樹脂を50体積%となるように両面に付与した。すなわち、炭素繊維シート50g/m2当たり、前記フェノキシ樹脂を片面に各16.2g/m2、両面で計32.4g/m2付与した。加熱装置11,15内の温度は各180℃、滞留時間は各2秒とした。得られた繊維樹脂複合部材(セミプレグ)の単位面積当たりの質量(目付)は82.4g/m2であった。セミプレグの厚みは0.05mmであった。
(4)金属板
日本金属株式会社製、商品名"AZ31B",板厚0.5mmのマグネシウム合金を使用した。
(5)加熱プレス-脱型-冷却プレス成形
(a)図5A-Eに示すように加熱プレス-脱型-冷却プレス成形を行った。下金型34と上金型35は230℃に加熱しておき、図5Aに示すように、下金型34と上金型35の間に金属板32と、前記セミプレグを2枚からなる繊維樹脂複合部材33を重ねて置いた。金属板32と繊維樹脂複合部材33との間には接着フィルムとして厚さ60μmの倉敷紡績株式会社製、商品名"クランベター P-6700"(融点150℃)を配置した。
(b)次に図5Bに示すように、下金型34と上金型35で加圧加熱プレスした。プレス圧力は3MPaとした。加熱プレス温度は230℃、加熱プレス時間は5分とした。この間にセミプレグ表面の樹脂は融解し炭素繊維内に含浸する。
(c)次に図5Cに示すように、下金型34と上金型35を開き、成形中間体36を脱型した。
(d)次に図5Dに示すように、成形中間体36を冷却された下金型37と上金型38の間に置き、下金型37と上金型38で冷却プレスした。下金型37と上金型38は水冷(25℃)されている。プレス圧力は3MPaとした。
(e)図5Eに示すように、下金型37と上金型38を開き、繊維強化金属成形体39を取り出した。取り出し温度は60℃とした。加熱プレス温度230℃から取り出し温度60℃までの冷却時間は20秒であった。
得られた繊維強化金属成形体39の繊維樹脂複合部材層33の表面は図6Aに示すように金属光沢があり、光沢度は93.2%であった。また、断面は図6Bに示すようにボイドは少なく緻密膜であった。実施例1の成形体の密度は1.49g/cm3であった。
【0041】
(比較例1)
図5Aに示す下金型34と上金型35のみを用いて加熱冷却をした以外は実施例1と同様に実施した。加熱プレス温度230℃から取り出し温度60℃までの冷却時間は10分であった。得られた比較例1の成形体の密度は1.49g/cm3であった。
実施例1及び比較例1の工程時間を表1にまとめて示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から明らかなとおり、実施例1は比較例1に比べて成形サイクルタイムが大幅に短縮できた(約1/4.5)。
なお、比較例1の成形サイクルタイムを短縮するため、金型を冷却しないで加熱状態のまま脱型した場合は、比較例1の成形体の繊維樹脂複合部材層の表面は図7Aに示すように金属光沢はなく、光沢度は7.7%であった。表面はボソボソとした感じであった。また、断面は図7Bの丸マークに示すようにボイドが多く認められた。このようなボイドは成形品に好ましくない。
【0044】
実施例1で得られたプレス成形品のたわみ量を測定した。たわみ量は、株式会社島津製作所製のオートグラフ(AG-Xplus)を使用し、圧子φ50mm、ストローク5mm/分で、プレス成形品の中央部付近に載荷する方法で測定した。なお、ブランクとしてマグネシウム合金の測定値を記載する。測定結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
(実施例2)
繊維樹脂複合部材のセミプレグに代えてプリプレグとしたこと、およびプリプレグを溶融状態にするために予め赤外線ヒーターにより30秒間加熱すること以外は実施例1と同様に実施した。プリプレグとしては、実施例1と同様のセミプレグを加熱プレス圧力3MPa、加熱プレス温度は230℃、加熱プレス時間は5分で含浸したプリプレグを使用した。
プリプレグは炭素繊維シート内に樹脂が含浸しているため、加熱金型内での成形時間は実施例1に比べて短い。実施例2の成形体の繊維樹脂複合部材層の表面は実施例1と同様に金属光沢があり、光沢度は91.5%であった。また、断面にはボイドは少なく緻密膜であった。実施例2の成形体の密度は1.48g/cm3であった。
【0047】
(比較例2)
図5Aに示す下金型34と上金型35のみを用いて加熱冷却をした以外は実施例2と同様に実施した。加熱プレス温度230℃から取り出し温度60℃までの冷却時間は10分であった。得られた比較例2の成形体の密度は1.49g/cm3であった。
実施例2及び比較例2の工程時間を表3にまとめて示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3から明らかなとおり、実施例2は比較例2に比べて成形サイクルタイムが大幅に短縮できた(約1/22.4)。
なお、比較例2の成形サイクルタイムを短縮するため、金型を冷却しないで加熱状態のまま脱型した場合は、比較例2の成形体の繊維樹脂複合部材層の表面は比較例1と同様に金属光沢はなく、光沢度は9.0%であった。表面はボソボソとした感じであった。また、断面にはボイドが多く認められた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の繊維強化金属成形体は、建築部材、ノートパソコンの筐体、スピーカーコーン、ICトレイ、靴やスティックなどのスポーツ用品、風車、自動車、鉄道、船舶、航空、宇宙などの一般産業用途等において広く応用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 繊維樹脂複合部材
2 一方向炭素繊維
3,3a,3b 架橋繊維
4 樹脂
5 樹脂が付着していない部分
6 開繊装置
7 供給ボビン
8 炭素繊維フィラメント群(炭素繊維未開繊トウ)
9a,9b ニップロール
12a-12b ブリッジロール
13a-13g ガイドロール
14,17 粉体供給ホッパー
15,18 ドライパウダー樹脂
16,19 加熱装置
20 巻き上げロール
21a-21j 開繊ロール
23 ロール開繊工程
24 架橋繊維発生工程
25 粉体樹脂付与工程
31 繊維強化金属成形体
32 金属板
33 繊維樹脂複合部材
34 加熱下金型
35 加熱上金型
36 成形中間体
37 冷却下金型
38 冷却上金型
39 繊維強化金属成形体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7