(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】アルカリフォスファターゼ融合抗体及びその製造方法、並びに免疫測定用試薬及び免疫測定方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20240627BHJP
G01N 33/535 20060101ALI20240627BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240627BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C12P21/08 ZNA
G01N33/535
C12N15/62 Z
C07K16/00
(21)【出願番号】P 2020093429
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-04-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】安保 紘高
(72)【発明者】
【氏名】井出 信幸
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-509744(JP,A)
【文献】特開平11-332586(JP,A)
【文献】国際公開第2012/115023(WO,A1)
【文献】J Biotechnol,1994年03月15日,vol. 33, no. 1,pp. 43-53
【文献】J Biol Chem,1985年09月15日,vol. 260, no. 20,pp. 11190-11193
【文献】Biosci Biotechnol Biochem,2017年10月03日,vol. 81, no. 10,pp. 1994-2001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質の免疫測定に用いられるアルカリフォスファターゼ融合抗体の製造方法であって、
ウシ小腸からのアルカリフォスファターゼをコードする遺伝子と、前記被検物質に結合する抗体をコードする遺伝子とを含む発現ベクターを含む細胞を、亜鉛イオンを含む培地で培養する工程と、
前記細胞により発現されたアルカリフォスファターゼ融合抗体を取得する工程と、を含み、
前記ウシ小腸からのアルカリフォスファターゼが、BIAP I、BIAP II、BIAP III、BIAP IV、BIAP V、BIAP VI及びBIAP VIIからなる群より選択される1のアルカリフォスファターゼであ
り、
前記培地中の亜鉛イオン濃度が、0.05 mM以上0.25 mM以下であり、
前記培養する工程が、前記発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすること、及び、形質転換又はトランスフェクションしてから前記アルカリフォスファターゼ融合抗体が発現するまでの間に、前記発現ベクターを含む細胞を、前記亜鉛イオンを含む培地で培養することを含む、
アルカリフォスファターゼ融合抗体の製造方法。
【請求項2】
前記発現ベクターが、前記アルカリフォスファターゼをコードする遺伝子と前記抗体をコードする遺伝子との間に、ペプチドリンカーをコードする遺伝子をさらに含み、
前記アルカリフォスファターゼ融合抗体において、前記アルカリフォスファターゼと前記抗体とが前記ペプチドリンカーを介して結合している、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記発現ベクターにおいて、前記アルカリフォスファターゼをコードする遺伝子と前記抗体をコードする遺伝子とが直接連結しており、
前記アルカリフォスファターゼ融合抗体において、前記アルカリフォスファターゼと前記抗体とが直接結合している、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリフォスファターゼ融合抗体に含まれるアルカリフォスファターゼが、2つのサブユニットを含み、前記サブユニットのそれぞれが、単量体のアルカリフォスファターゼタンパク質である請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリフォスファターゼ融合抗体に含まれる抗体が、前記2つのサブユニットの一方又は両方に結合している請求項
4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記抗体が、IgG、還元型IgG、Fab、Fab'、VHH、Fd、Fd'、軽鎖、F(ab')2、Fv及びscFvからなる群から選択される少なくとも1つである請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ペプチドリンカーが、配列番号5~10のいずれか1つで示されるアミノ酸配列からなる請求項
2及び請求項2を直接又は間接的に引用する請求項4~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記培地中の亜鉛イオン濃度が、0.1 mM以上0.25 mM以下である請求項1~
7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
被検物質の免疫測定に用いられるアルカリフォスファターゼ融合抗体の製造方法であって、
配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列を含むアルカリフォスファターゼをコードする遺伝子と、前記被検物質に結合する抗体をコードする遺伝子とを含む発現ベクターを含む細胞を、亜鉛イオンを含む培地で培養する工程と、
前記細胞により発現されたアルカリフォスファターゼ融合抗体を取得する工程と、
を含
み
前記培地中の亜鉛イオン濃度が、0.05 mM以上0.25 mM以下であり、
前記培養する工程が、前記発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすること、及び、形質転換又はトランスフェクションしてから前記アルカリフォスファターゼ融合抗体が発現するまでの間に、前記発現ベクターを含む細胞を、前記亜鉛イオンを含む培地で培養することを含む、
アルカリフォスファターゼ融合抗体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリフォスファターゼ融合抗体及びその製造方法に関する。本発明は、アルカリフォスファターゼ融合抗体を含む免疫測定用試薬に関する。本発明は、アルカリフォスファターゼ融合抗体を用いる免疫測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリフォスファターゼ(ALP)は、リン酸モノエステル結合を加水分解して無機リン酸を生じる酵素であり、酵素免疫測定法(EIA)などの免疫測定において抗体の標識によく用いられる。ALPでの抗体の標識は、従来、架橋剤などを用いてALPと抗体とを化学結合させる化学修飾法により行われる。例えば特許文献1には、架橋剤を用いてALPと抗体とを結合させ、複数のカラムクロマトグラフィにより精製して、均一なALP標識抗体を得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化学修飾法では、ALPと抗体との結合位置、及びALPと結合する抗体の数を制御することは困難である。そのため、化学修飾法で得られるALP標識抗体は不均一である。そのような不均一なALP標識抗体を免疫測定に用いると、測定精度に影響する。化学修飾法により均一なALP標識抗体を得るためには、特許文献1に記載されるように複数回の精製を要するが、煩雑である。
【0005】
本発明は、ALP融合抗体及びその製造方法、並びに免疫測定用試薬及び免疫測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ウシ小腸又はシェワネラ属細菌に由来するALPを用いたALP融合抗体が、EIAなどの免疫測定に適していることを見出して、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、ウシ小腸又はシェワネラ属細菌に由来するALPをコードする遺伝子と、抗体をコードする遺伝子とを含む発現ベクターを含む細胞を、亜鉛イオンを含む培地で培養する工程と、該細胞により発現されたALP融合抗体を取得する工程とを含む、ALP融合抗体の製造方法を提供する。
【0008】
本発明は、ウシ小腸又はシェワネラ属細菌に由来するALPと、抗体とが直接又はペプチドリンカーを介して結合した、ALP融合抗体を提供する。本発明は、上記のALP融合抗体を含む、免疫測定用試薬を提供する。本発明は、上記のALP融合抗体を用いる、免疫測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より均一性が高いALP融合抗体およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】発現ベクターの構成例を示す模式図である。
【
図1B】発現ベクターの構成例を示す模式図である。
【
図1C】発現ベクターの構成例を示す模式図である。
【
図2A】本実施形態のALP融合抗体の例を示す模式図である。
【
図2B】本実施形態のALP融合抗体の例を示す模式図である。
【
図2C】本実施形態のALP融合抗体の例を示す模式図である。
【
図3】本実施形態の免疫測定用試薬キットの一例を示す概略図である。
【
図4】本実施形態の免疫測定用試薬キットの一例を示す概略図である。
【
図5】実施例1のALP融合抗体を用いてELISA法により抗原を測定した結果を示すグラフである。
【
図6A】亜鉛イオンの添加条件が異なる培地で培養した細胞から得たALP融合抗体のALP活性を示すグラフである。
【
図6B】亜鉛イオンの添加条件が異なる培地で培養した細胞から得たALP融合抗体のALP活性を示すグラフである。
【
図6C】亜鉛イオンの濃度が異なる培地で培養した細胞から得たALP融合抗体のALP活性を示すグラフである。
【
図7A】化学修飾法で得たALP標識抗体をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図7B】本実施形態のALP融合抗体をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図8A】化学修飾法で得たALP標識抗体をSDS-PAGEで分離したときのゲルである。
【
図8B】本実施形態のALP融合抗体をSDS-PAGEで分離したときのゲルである。
【
図9A】ALP標識抗体及び本実施形態のALP融合抗体を用いた免疫測定のバックグラウンドを示すグラフである。
【
図9B】ALP標識抗体及び本実施形態のALP融合抗体を用いた免疫測定のSN比を示すグラフである。
【
図10】ALP標識抗体及び本実施形態のALP融合抗体を用いた免疫測定のバックグラウンド及びSN比を示すグラフである。
【
図11A】実施例3のALP融合抗体(抗体例1-2)をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図11B】実施例3のALP融合抗体(抗体例1-3)をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図11C】実施例3のALP融合抗体(抗体例2-1)をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図11D】実施例3のALP融合抗体(抗体例2-2)をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図11E】実施例3のALP融合抗体のALP活性を示すグラフである。
【
図11F】実施例3のALP融合抗体を用いてELISA法により抗原を測定した結果を示すグラフである。
【
図12A】実施例4のALP融合抗体のALP活性を示すグラフである。
【
図12B】実施例4のALP融合抗体をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図13A】実施例5のALP融合抗体(ウサギ抗PD-1抗体のFab)をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図13B】実施例5のALP融合抗体(ウサギ抗PD-L1抗体のFab)をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図13C】実施例5のALP融合抗体(マウス抗VEGF抗体のFab)をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図14A】実施例5のALP融合抗体(ウサギ抗PD-1抗体のFab)のALP活性を示すグラフである。
【
図14B】実施例5のALP融合抗体(ウサギ抗PD-L1抗体のFab)のALP活性を示すグラフである。
【
図15A】実施例6のALP融合抗体をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図15B】実施例6のALP融合抗体をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図15C】実施例6のALP融合抗体をゲルろ過したときの溶出曲線である。
【
図16】実施例6のALP融合抗体のALP活性を示すグラフである。
【
図17】実施例6のALP融合抗体を用いてELISA法により抗原を測定した結果を示すグラフである。
【
図18A】実施例6のALP融合抗体を用いて自動測定装置で免疫測定したときの発光強度を示すグラフである。
【
図18B】実施例6のALP融合抗体を用いて自動測定装置で免疫測定したときのSN比を示すグラフである。
【
図19】参考例のシェワネラ属細菌由来ALPのALP活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態のALP融合抗体の製造方法(以下、「製造方法」ともいう)では、ウシ小腸又はシェワネラ属細菌に由来するALPをコードする遺伝子と、抗体をコードする遺伝子とを含む発現ベクターを含む細胞を、亜鉛イオンを含む培地で培養する。
【0012】
本実施形態の製造方法では、ALPと抗体とが直接又はペプチドリンカーを介してペプチド結合により結合したポリペプチド、すなわち、ALPと抗体とがアミノ酸レベルで一体となったポリペプチドが取得される。これに対して、上記の化学修飾法では、抗体とALPとを別々に取得し、これらのタンパク質を架橋剤によって結合することにより、架橋剤を介してALPが抗体に連結したALP標識抗体が取得される。
【0013】
本実施形態では、ウシ小腸由来ALP(BIAP)及びシェワネラ属細菌由来ALP(S-AP)の種類は特に限定されず、公知のBIAP及びS-APから適宜選択できる。本実施形態の製造方法では、遺伝子組み換えによりALP融合抗体を製造するので、BIAP及びS-APは、アミノ酸配列又はそれをコードする塩基配列が決定されていることが好ましい。BIAP及びS-APのアミノ酸配列又は塩基配列は、公知のデータベースから取得してもよい。データベースとしては、例えばGeneBankなどが挙げられる。
【0014】
BIAPとしては、例えばBIAP I、BIAP II、BIAP III、BIAP IV、BIAP V、BIAP VI、BIAP VIIなどが挙げられる(Manes T.ら, (1998) J.Biol.Chem., vol.273, pp.23353-23360、米国特許第6,406,899号明細書など参照)。それらの中でもBIAP IIが特に好ましい。BIAPIIのアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列をそれぞれ配列番号1及び2に示す。Manes T.ら, (1998) J.Biol.Chem., vol.273, pp.23353-23360および米国特許第6,406,899号は本明細書に参照として組み込まれる。
【0015】
S-APとしては、例えばシェワネラ・エスピーT3-3(米国特許第9,133,446号明細書参照)、シェワネラ・プトレファシエンスCN-32、シェワネラ・シアメネンシス、シェワネラ・オナイデンシス、シェワネラ・フリギディマリナ、シェワネラ・アークティカ・エスピー、シェワネラ・フリギディマリナ・NCIMB400、シェワネラ・リビングストネンシス、シェワネラ・エスピーR106(又はM2)、シェワネラ・エスピーALD9、シェワネラ・コルウェリアナ、シェワネラ・エスピーCG18、シェワネラ・ベシキュロサ、シェワネラ・ベンシカKT99、シェワネラ・ベンシカ及びシェワネラ・アルギディピシコラから選択される細菌に由来するALPが挙げられる。これらの細菌に由来するALPのアミノ酸配列自体は公知であり、例えば、NCBI(National Center for Biotechnology Information)により提供されるデータベースなどの公知のデータベースから取得できる。シェワネラ・エスピーT3-3以外のシェワネラ属細菌に由来するALPのアミノ酸配列は、後述の参考例に示したアクセッション番号でNCBIのデータベースに登録されている。米国特許第9,133,446号は本明細書に参照として組み込まれる。
【0016】
本実施形態では、シェワネラ・エスピーT3-3、シェワネラ・プトレファシエンスCN-32、シェワネラ・シアメネンシス、シェワネラ・フリギディマリナ、シェワネラ・リビングストネンシス及びシェワネラ・ベシキュロサから選択される細菌に由来するALPが好ましい。シェワネラ・エスピーT3-3由来のS-APのアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列をそれぞれ配列番号3及び4に示す。
【0017】
本実施形態では、BIAP又はS-APをコードする遺伝子(以下、「ALP遺伝子」ともいう)は、ウシ小腸又はシェワネラ属細菌のゲノムDNAから常法によりクローニングしてもよいし、公知のアミノ酸配列又は塩基配列に基づいて合成してもよい。
【0018】
本明細書において「抗体」との用語は、全長の抗体及びそのフラグメントを包含する。全長の抗体は、IgG、IgA、IgM、IgD及びIgEのいずれであってもよいが、好ましくはIgGである。抗体のフラグメントとしては、例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fd'、Fv、軽鎖、重鎖抗体の重鎖可変領域(VHH)、還元型IgG(rIgG)、一本鎖抗体(scFv)などが挙げられる。
【0019】
本実施形態では、抗体は特に限定されず、いずれの抗原を認識する抗体であってもよい。抗体は、天然のアミノ酸配列を有する抗体(野生型の抗体)であってもよいし、人工的に作出された抗体であってもよい。人工的に作出された抗体は、アミノ酸配列が人工的に変更された抗体をいう。そのような抗体としては、例えば、相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を変更した抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体などが挙げられる。抗体は、いずれの動物に由来する抗体であってもよい。そのような動物としては哺乳動物が好ましく、例えばウサギ、マウス、アルパカ、ラクダ、ラット、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ヒトなどが挙げられる。
【0020】
本実施形態では、抗体は、アミノ酸配列又はそれをコードする塩基配列が決定されていることが好ましい。そのような抗体としては、例えば、公知のデータベースに抗体のアミノ酸配列又はそれをコードする塩基配列が開示されている抗体、該抗体を産生するハイブリドーマが入手可能な抗体などが挙げられる。データベースとしては、例えばGeneBank、abYsis、IMGTなどが挙げられる。抗体をコードする遺伝子(以下、「抗体遺伝子」ともいう)は、公知のアミノ酸配列又は塩基配列に基づいて合成してもよい。抗体を産生するハイブリドーマがある場合、該ハイブリドーマから抽出したRNAを用いて公知の方法により、抗体遺伝子を取得できる。
【0021】
抗体を産生するハイブリドーマがない場合は、例えばKohler及びMilstein, Nature, vol.256, p.495-497, 1975に記載される方法などの公知の方法により、抗体を産生するハイブリドーマを作製すればよい。あるいは、所定の抗原で免疫したマウスやウサギなどの動物の末梢血又は脾臓から取得したRNAを用いてもよい。末梢血又は脾臓から取得したRNAを用いる場合、後述の実施例1に示されるように、該RNAからcDNAを合成し、得られたcDNAからFabファージライブラリを作製してもよい。このライブラリを用いて、ファージディスプレイ法などにより、抗体遺伝子として、Fabをコードする遺伝子を取得できる。
【0022】
本実施形態では、ALP遺伝子と抗体遺伝子とを含む発現ベクターを含む細胞を用いる。発現ベクターは、宿主細胞でのタンパク質発現を可能にするプロモータを有し、該プロモータの下流に所望の遺伝子の挿入が可能であれば、特に限定されない。発現ベクターは、プラスミドベクターであってもよいし、ウイルスベクターであってもよい。市販の発現ベクターを用いてもよい。必要に応じて、発現ベクターは、ALP遺伝子及び抗体遺伝子以外の遺伝子を含んでもよい。そのような遺伝子としては、例えば、後述のペプチドリンカーをコードする遺伝子、薬剤耐性遺伝子などが挙げられる。
【0023】
本実施形態では、細胞は、遺伝子組換え発現系として利用可能であれば特に限定されず、例えば哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、大腸菌などが挙げられる。ALP遺伝子と抗体遺伝子とを含む発現ベクターを細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、該発現ベクターを含む細胞を得ることができる。形質転換及びトランスフェクションは、発現ベクターの種類に応じた公知の方法で行うことができる。そのような方法としては、例えばリポフェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。市販のトランスフェクションキットを用いてもよい。
【0024】
ALP遺伝子及び抗体遺伝子は、BIAP又はS-APと抗体との融合タンパク質が発現し得るように発現ベクターに組み込まれることが好ましい。発現ベクターにおいて、ALP遺伝子は、抗体遺伝子の上流及び下流のいずれに組み込まれてもよい。ALP遺伝子が、抗体遺伝子の上流に組み込まれた場合、BIAP又はS-APのC末端のアミノ酸残基と、抗体のN末端のアミノ酸残基とが直接又は後述のペプチドリンカーを介して結合したALP融合抗体が発現される。ALP遺伝子が、抗体遺伝子の下流に組み込まれた場合、BIAP又はS-APのN末端のアミノ酸残基と、抗体のC末端のアミノ酸残基とが直接又は後述のペプチドリンカーを介して結合したALP融合抗体が発現される。
【0025】
抗体が、全長の抗体又はFabなどのフラグメントのように、重鎖の全部又は一部と、軽鎖の全部又は一部とを有する場合、抗体遺伝子は、重鎖の全部又は一部をコードする遺伝子(以下、「重鎖遺伝子」ともいう)と、軽鎖の全部又は一部をコードする遺伝子(以下、「軽鎖遺伝子」ともいう)とを含む。重鎖遺伝子及び軽鎖遺伝子は、それぞれが独立して発現し得るように1つの発現ベクターに組み込まれてもよいし、2つの発現ベクターに別個に組み込まれてもよい。ALP遺伝子は、重鎖遺伝子及び軽鎖遺伝子のいずれか一方の上流又は下流に組み込まれることが好ましい。これにより、ALPと重鎖の全部又は一部との融合タンパク質、又は、ALPと軽鎖の全部又は一部との融合タンパク質が発現される。
【0026】
本実施形態では、発現ベクターにおいて、ALP遺伝子と抗体遺伝子とは直接連結していてもよい。この場合、BIAP又はS-APと抗体とが直接結合したALP融合抗体が発現される。さらなる実施形態では、ALP遺伝子と抗体遺伝子との間に、ペプチドリンカーをコードする遺伝子(以下、「リンカー遺伝子」ともいう)をさらに含んでもよい。この場合、BIAP又はS-APと抗体とがペプチドリンカーを介して結合したALP融合抗体が発現される。ペプチドリンカーのアミノ酸配列は、抗体の抗原結合能及びALP活性に影響しない限り、特に限定されない。ペプチドリンカーの長さは特に限定されないが、例えば3~20アミノ酸残基である。本実施形態では、ペプチドリンカーは、下記のアミノ酸配列を有するGS1、GS2、GS3、EK1、EK2及びEK3から選択されるいずれかであることが好ましい。
【0027】
GS1:Gly-Gly-Gly-Gly-Ser (配列番号5)
GS2:(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)2 (配列番号6)
GS3:(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)3 (配列番号7)
EK1:Glu-Ala-Ala-Ala-Lys (配列番号8)
EK2:(Glu-Ala-Ala-Ala-Lys)2 (配列番号9)
EK3:(Glu-Ala-Ala-Ala-Lys)3 (配列番号10)
【0028】
本実施形態におけるALP遺伝子と抗体遺伝子とを含む発現ベクターの構成例を、
図1A~Cを参照して説明する。
図1A~Cにおいて、発現ベクターはプラスミドDNAとして例示され、矢印はプロモータを示す。図中、「Fd(HC)」は、Fdをコードする遺伝子を表す。Fdは、Fabの重鎖部分である。図中、「LC」は、軽鎖をコードする遺伝子を表し、「リンカー」はリンカー遺伝子を表し、「ALPサブユニット」はALP遺伝子を表す。酵素としてのALPは通常、ホモ二量体を形成して存在するところ、タンパク質としての「ALPサブユニット」は、単量体のALPを指すことを意図する。
【0029】
図1Aは、Fd又は軽鎖をコードする遺伝子と、ALP遺伝子とが直接又はペプチドリンカーをコードする遺伝子を介して連結している発現ベクターを示す。
図1Bは、VHHをコードする遺伝子と、ALP遺伝子とが直接又はペプチドリンカーをコードする遺伝子を介して連結している発現ベクターを示す。
図1Cは、
図1Aに示される各発現ベクターにおいて、軽鎖又はFdをコードする遺伝子をさらに含む発現ベクターを示す。しかし、本発明に用いられる発現ベクターは、これらの例に限定されない。例えば、Fdをコードする遺伝子に替えて、全長の重鎖又はFd'をコードする遺伝子を用いてもよい。また、VHHをコードする遺伝子に替えて、scFvをコードする遺伝子を用いてもよい。
【0030】
構成例1-1の発現ベクターは、プロモータの下流に、Fdをコードする遺伝子、リンカー遺伝子及びALP遺伝子をこの順で含む。この発現ベクターは、FdのC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合した融合タンパク質を発現する。構成例1-1の発現ベクターと、軽鎖をコードする遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、上記の融合タンパク質及び軽鎖を含むFabが得られる。
【0031】
構成例1-2の発現ベクターは、プロモータの下流に、軽鎖をコードする遺伝子、リンカー遺伝子及びALP遺伝子をこの順で含む。この発現ベクターは、軽鎖のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合した融合タンパク質を発現する。構成例1-2の発現ベクターと、Fdをコードする遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、上記の融合タンパク質及びFdを含むFabが得られる。
【0032】
構成例1-3の発現ベクターは、プロモータの下流に、Fdをコードする遺伝子及びALP遺伝子をこの順で含む。この発現ベクターは、FdのC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とが直接結合した融合タンパク質を発現する。構成例1-3の発現ベクターと、軽鎖をコードする遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、上記の融合タンパク質及び軽鎖を含むFabが得られる。
【0033】
構成例1-4の発現ベクターは、プロモータの下流に、軽鎖をコードする遺伝子及びALP遺伝子をこの順で含む。この発現ベクターは、軽鎖のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とが直接結合した融合タンパク質を発現する。構成例1-4の発現ベクターと、Fdをコードする遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、上記の融合タンパク質及びFdを含むFabが得られる。
【0034】
構成例2-1の発現ベクターは、プロモータの下流に、ALP遺伝子、リンカー遺伝子及びFdをコードする遺伝子をこの順で含む。この発現ベクターは、FdのN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合した融合タンパク質を発現する。構成例2-1の発現ベクターと、軽鎖をコードする遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、上記の融合タンパク質と軽鎖とを含むFabが得られる。
【0035】
構成例2-2の発現ベクターは、プロモータの下流に、ALP遺伝子、リンカー遺伝子及び軽鎖をコードする遺伝子をこの順で含む。この発現ベクターは、軽鎖のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合した融合タンパク質を発現する。構成例2-2の発現ベクターと、Fdをコードする遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、上記の融合タンパク質とFdとを含むFabが得られる。
【0036】
構成例2-3の発現ベクターは、プロモータの下流に、ALP遺伝子及びFdをコードする遺伝子をこの順で含む。この発現ベクターは、FdのN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とが直接結合した融合タンパク質を発現する。構成例2-3の発現ベクターと、軽鎖をコードする遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、上記の融合タンパク質と軽鎖とを含むFabが得られる。
【0037】
構成例2-4の発現ベクターは、プロモータの下流に、ALP遺伝子及び軽鎖をコードする遺伝子をこの順で含む。この発現ベクターは、軽鎖のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とが直接結合した融合タンパク質を発現する。構成例2-4の発現ベクターと、Fdをコードする遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、上記の融合タンパク質とFdとを含むFabが得られる。
【0038】
構成例3-1の発現ベクターは、プロモータの下流に、VHHをコードする遺伝子、リンカー遺伝子及びALP遺伝子をこの順で含む。構成例3-1の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、VHHのC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合したALP融合抗体が得られる。
【0039】
構成例3-2の発現ベクターは、プロモータの下流に、VHHをコードする遺伝子及びALP遺伝子をこの順で含む。構成例3-2の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、VHHのC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とが直接結合したALP融合抗体が得られる。
【0040】
構成例3-3の発現ベクターは、プロモータの下流に、ALP遺伝子、リンカー遺伝子及びVHHをコードする遺伝子をこの順で含む。構成例3-3の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、VHHのN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合したALP融合抗体が得られる。
【0041】
構成例3-4の発現ベクターは、プロモータの下流に、ALP遺伝子及びVHHをコードする遺伝子をこの順で含む。構成例3-4の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、VHHのN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とが直接結合したALP融合抗体が得られる。
【0042】
構成例4-1の発現ベクターは、2つのプロモータを含む発現ベクターであって、一方のプロモータの下流に、Fdをコードする遺伝子、リンカー遺伝子及びALP遺伝子をこの順で含み、他方のプロモータの下流に、軽鎖をコードする遺伝子を含む。構成例4-1の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、FdのC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合した融合タンパク質と、軽鎖とを含むFabが得られる。
【0043】
構成例4-2の発現ベクターは、2つのプロモータを含む発現ベクターであって、一方のプロモータの下流に、軽鎖をコードする遺伝子、リンカー遺伝子及びALP遺伝子をこの順で含み、他方のプロモータの下流に、Fdをコードする遺伝子を含む。構成例4-2の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、軽鎖のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合した融合タンパク質と、Fdとを含むFabが得られる。
【0044】
構成例4-3の発現ベクターは、2つのプロモータを含む発現ベクターであって、一方のプロモータの下流に、Fdをコードする遺伝子及びALP遺伝子をこの順で含み、他方のプロモータの下流に、軽鎖をコードする遺伝子を含む。構成例4-3の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、FdのC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とが直接結合した融合タンパク質と、軽鎖とを含むFabが得られる。
【0045】
構成例4-4の発現ベクターは、2つのプロモータを含む発現ベクターであって、一方のプロモータの下流に、軽鎖をコードする遺伝子及びALP遺伝子をこの順で含み、他方のプロモータの下流に、Fdをコードする遺伝子を含む。構成例4-4の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、軽鎖のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とが直接結合した融合タンパク質と、Fdとを含むFabが得られる。
【0046】
構成例5-1の発現ベクターは、2つのプロモータを含む発現ベクターであって、一方のプロモータの下流に、ALP遺伝子、リンカー遺伝子及びFdをコードする遺伝子をこの順で含み、他方のプロモータの下流に、軽鎖をコードする遺伝子を含む。構成例5-1の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、FdのN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合した融合タンパク質と、軽鎖とを含むFabが得られる。
【0047】
構成例5-2の発現ベクターは、2つのプロモータを含む発現ベクターであって、一方のプロモータの下流に、ALP遺伝子、リンカー遺伝子及び軽鎖をコードする遺伝子をこの順で含み、他方のプロモータの下流に、Fdをコードする遺伝子を含む。構成例5-2の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、軽鎖のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合した融合タンパク質と、Fdとを含むFabが得られる。
【0048】
構成例5-3の発現ベクターは、2つのプロモータを含む発現ベクターであって、一方のプロモータの下流に、ALP遺伝子及びFdをコードする遺伝子をこの順で含み、他方のプロモータの下流に、軽鎖をコードする遺伝子を含む。構成例5-3の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、FdのN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とが直接結合した融合タンパク質と、軽鎖とを含む
【0049】
構成例5-4の発現ベクターは、2つのプロモータを含む発現ベクターであって、一方のプロモータの下流に、ALP遺伝子及び軽鎖をコードする遺伝子をこの順で含み、他方のプロモータの下流に、Fdをコードする遺伝子を含む。構成例5-4の発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、ALP融合抗体として、軽鎖のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とが直接結合した融合タンパク質と、Fdとを含むFabが得られる。
【0050】
ALPは亜鉛酵素の一種であることが知られている。本実施形態では、ALP遺伝子と抗体遺伝子とを含む発現ベクターを含む細胞を、亜鉛イオンを含む培地で培養することが望ましい。培地中の亜鉛イオン濃度は、好ましくは0.01 mM以上、より好ましくは0.05 mM以上、さらに好ましくは0.07 mM以上である。培地中の亜鉛イオン濃度が高すぎると細胞の培養に影響を与える可能性があるため、亜鉛イオン濃度は、好ましくは0.25 mM以下、より好ましくは0.20 mM以下、さらに好ましくは0.15 mM以下である。細胞の培養は、用いる細胞に応じた公知の培養法により適宜行うことができる。亜鉛イオンを含む培地は、用いる細胞に適した培地に、亜鉛イオンを供給できる化合物又はその溶液を添加することで調製できる。そのような化合物は、亜鉛と無機酸又は有機酸との塩が好ましい。そのような塩としては、例えば塩化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛などが挙げられる。本実施形態では、亜鉛と無機酸又は有機酸との塩を培地に添加する場合、培地における亜鉛イオンの濃度は、当該塩の終濃度で表してもよい。
【0051】
試験例2に示されるように、細胞においてALP融合抗体が発現した後に亜鉛イオンを含む培地を用いて培養しても、得られたALP融合抗体中のALPは活性を示さなかった。よって、本実施形態では、発現ベクターを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションしてから、該細胞においてALP融合抗体が発現するまでの間に、培地に亜鉛イオンを添加するか又は亜鉛イオンを含む培地に交換することが好ましい。
【0052】
本実施形態の製造方法では、上記の細胞からALP融合抗体を回収する。これにより、BIAP又はS-APと、抗体とが直接又はペプチドリンカーを介して結合した、本実施形態のALP融合抗体が得られる。例えば、ALP融合抗体を発現した細胞を、適当な可溶化剤を含む溶液に溶解して、該溶液中に遊離したALP融合抗体を回収してもよい。上記の細胞がALP融合抗体を培地中に分泌する場合は、培養上清を回収する。遊離したALP融合抗体は、アフィニティクロマトグラフィなどの公知の方法により回収できる。必要に応じて、回収したALP融合抗体を、ゲルろ過などの公知の方法により精製してもよい。
【0053】
本実施形態のALP融合抗体は、ALPのC末端のアミノ酸残基と、抗体のN末端のアミノ酸残基とが直接又はペプチドリンカーを介して結合していてもよい。あるいは、本実施形態のALP融合抗体は、ALPのN末端のアミノ酸残基と、抗体のアミノ酸配列のC末端のアミノ酸残基とが直接又はペプチドリンカーを介して結合していてもよい。
【0054】
上述のように、酵素としてのALPは通常、ホモ二量体を形成して存在する。よって、本実施形態では、ALP融合抗体に含まれるALPは2つのサブユニットを含んでもよい。2つのサブユニットは、二量体を形成してもよい。この場合、ALP融合抗体に含まれる抗体は、2つのサブユニットの一方に結合していてもよいし、両方に結合していてもよい。すなわち、本実施形態のALP融合抗体は、抗体が結合したALPサブユニットと、抗体が結合していないALPサブユニットとを含むか、又は、抗体が結合したALPサブユニットを2つ含む。抗体が結合していないALPサブユニットは、ALP遺伝子を含む発現ベクターにより得ることができる。
【0055】
本実施形態のALP融合抗体の例を、
図2A~Cを参照して説明する。
図2A~Cにおいて、「Fd(HC)」はFdを表し、「LC」は軽鎖を表し、「リンカー」はペプチドリンカーを表し、「ALPサブユニット」は単量体のALPを表す。図中、Fd(HC)とLCとの間の線はジスルフィド結合を表し、ALPサブユニット間の線は二量体の形成を表す。しかし、本実施形態のALP融合抗体は、これらの例に限定されない。例えば、ALP融合抗体中のFdは、全長の重鎖又はFd'であってもよい。また、ALP融合抗体中のVHHは、scFvであってもよい。
【0056】
抗体例1-1のALP融合抗体では、重鎖部分(Fd)のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合している2分子のALP融合Fabが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。抗体例1-2のALP融合抗体では、軽鎖のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合している2分子のALP融合Fabが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。
【0057】
抗体例1-3のALP融合抗体では、重鎖部分(Fd)のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とが直接結合している2分子のALP融合Fabが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。抗体例1-4のALP融合抗体では、軽鎖のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とが直接結合している2分子のALP融合Fabが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。
【0058】
抗体例2-1のALP融合抗体では、重鎖部分(Fd)のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合している2分子のALP融合Fabが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。抗体例2-2のALP融合抗体では、軽鎖のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合している2分子のALP融合Fabが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。
【0059】
抗体例2-3のALP融合抗体では、重鎖部分(Fd)のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とが直接結合している2分子のALP融合Fabが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。抗体例2-4のALP融合抗体では、軽鎖のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とが直接結合している2分子のALP融合Fabが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。
【0060】
抗体例3-1のALP融合抗体では、VHHのC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合している2分子のALP融合VHHが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。抗体例3-2のALP融合抗体では、VHHのC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とが直接結合している2分子のALP融合VHHが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。
【0061】
抗体例3-3のALP融合抗体では、VHHのN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合している2分子のALP融合VHHが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。抗体例3-4のALP融合抗体では、VHHのN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とが直接結合している2分子のALP融合VHHが、ALPサブユニット間の二量体形成により、複合体を形成している。
【0062】
抗体例3-5のALP融合抗体では、VHHのC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合しているALP融合VHHと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例3-5のALP融合抗体は、構成例3-1の発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0063】
抗体例3-6のALP融合抗体では、VHHのC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とが直接結合しているALP融合VHHと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例3-6のALP融合抗体は、構成例3-2の発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0064】
抗体例3-7のALP融合抗体では、VHHのN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合しているALP融合VHHと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例3-7のALP融合抗体は、構成例3-3の発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0065】
抗体例3-8のALP融合抗体では、VHHのN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とが直接結合しているALP融合VHHと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例3-8のALP融合抗体は、構成例3-4の発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0066】
抗体例4-1のALP融合抗体では、重鎖部分(Fd)のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合しているALP融合Fabと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例4-1のALP融合抗体は、例えば構成例1-1の発現ベクターと、軽鎖をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0067】
抗体例4-2のALP融合抗体では、軽鎖のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合しているALP融合Fabと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例4-2のALP融合抗体は、例えば構成例1-2の発現ベクターと、Fdをコードする遺伝子を含む発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0068】
抗体例4-3のALP融合抗体では、重鎖部分(Fd)のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とが直接結合しているALP融合Fabと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例4-3のALP融合抗体は、例えば構成例1-3の発現ベクターと、軽鎖をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0069】
抗体例4-4のALP融合抗体では、軽鎖のC末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのN末端のアミノ酸残基とが直接結合しているALP融合Fabと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例4-4のALP融合抗体は、例えば構成例1-4の発現ベクターと、Fdをコードする遺伝子を含む発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0070】
抗体例5-1のALP融合抗体では、重鎖部分(Fd)のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合しているALP融合Fabと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例5-1のALP融合抗体は、例えば構成例2-1の発現ベクターと、軽鎖をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0071】
抗体例5-2のALP融合抗体では、軽鎖のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とがペプチドリンカーを介して結合しているALP融合Fabと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例5-2のALP融合抗体は、例えば構成例2-2の発現ベクターと、Fdをコードする遺伝子を含む発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0072】
抗体例5-3のALP融合抗体では、重鎖部分(Fd)のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とが直接結合しているALP融合Fabと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例5-3のALP融合抗体は、例えば構成例2-3の発現ベクターと、軽鎖をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0073】
抗体例5-4のALP融合抗体では、軽鎖のN末端のアミノ酸残基とALPサブユニットのC末端のアミノ酸残基とが直接結合しているALP融合Fabと、抗体が結合していないALPサブユニットとが、ALPサブユニット間で二量体を形成している。抗体例5-4のALP融合抗体は、例えば構成例2-4の発現ベクターと、Fdをコードする遺伝子を含む発現ベクターと、ALP遺伝子を含む発現ベクターとを用いて細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより得ることができる。
【0074】
本実施形態のALP融合抗体は、免疫測定において被検物質を検出するために用いることができる。よって、本発明の一実施形態は、上記のALP融合抗体を含む免疫測定用試薬である。免疫測定の種類は特に限定されず、例えばELISA法、ウェスタンブロット法、免疫複合体転移法(特開平1-254868号公報参照)などの公知の免疫測定方法から適宜選択できる。それらの中でもELISA法が好ましい。ELISA法の種類は、サンドイッチ法、競合法、直接法、間接法などのいずれであってもよい。
【0075】
本実施形態では、試薬の形態は特に限定されず、固体(例えば粉末、結晶、凍結乾燥品など)であってもよいし、液体(例えば溶液、懸濁液、乳濁液など)であってもよい。試薬が液体である場合、溶媒は、本実施形態のALP融合抗体を溶解して保存できる限り特に限定されない。溶媒としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、グッドの緩衝液などが挙げられる。グッドの緩衝液としては、例えばMES、Bis-Tris、ADA、PIPES、Bis-Tris-Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPSなどが挙げられる。
【0076】
本実施形態の免疫測定用試薬は、公知の添加物を含んでいてもよい。添加物としては、例えばウシ血清アルブミン(BSA)などタンパク質安定化剤、アジ化ナトリウムなどの防腐剤、塩化ナトリウムなどの無機塩類などが挙げられる。
【0077】
本実施形態では、免疫測定用試薬を収容した容器を箱に梱包するなどし、試薬キットとしてユーザに提供してもよい。箱には、添付文書を同梱してもよい。添付文書には、免疫測定用試薬の組成、使用方法、保存方法などについて記載されてもよい。試薬キットの一例を
図3に示す。
図3において、11は、本実施形態の試薬キットを示し、12は、本実施形態のALP融合抗体を含む免疫測定用試薬を収容した第1容器を示し、13は、梱包箱を示し、14は、添付文書を示す。
【0078】
免疫測定がサンドイッチELISA法による測定である場合、本実施形態のALP融合抗体の他に、被検物質と特異的に結合する捕捉物質が用いられる。よって、本発明のさらなる実施形態は、上記のALP融合抗体を含む第1試薬と、被検物質と特異的に結合する捕捉物質を含む第2試薬とを含む免疫測定用試薬キットである。第1試薬の詳細は、上記の本実施形態の免疫測定用試薬について述べたことと同様である。
【0079】
被検物質と特異的に結合する捕捉物質は、自身が固相に固定されることにより、被検物質を固相上に捕捉するための物質をいう。捕捉物質の種類は特に限定されず、被検物質の種類によって適宜選択できる。捕捉物質としては、例えば抗体、抗原、オリゴヌクレオチドプローブ、受容体、受容体に結合するリガンド、アプタマーなどが挙げられる。以下、捕捉物質として用いられる抗体を「捕捉抗体」とも呼ぶ。捕捉抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれでもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。捕捉抗体がモノクローナル抗体である場合、捕捉抗体が認識するエピトープは、本実施形態のALP融合抗体が認識するエピトープと異なっていることが好ましい。
【0080】
本実施形態の免疫測定用試薬キットにおいて、第1試薬に含まれる本実施形態のALP融合抗体は、サンドイッチELISA法における検出抗体として用いられることが好ましい。検出抗体とは、被検物質と特異的に結合し、且つ標識物質を有する抗体であって、該標識物質を介して検出可能なシグナルを提供する抗体をいう。検出抗体は、固相に固定されないことが好ましい。
【0081】
本実施形態では、第1試薬及び第2試薬をそれぞれ収容した容器を箱に梱包するなどし、試薬キットとしてユーザに提供してもよい。箱には、添付文書を同梱してもよい。添付文書には、本実施形態の免疫測定用試薬キットの構成、各試薬の組成、使用方法、保存方法などについて記載されてもよい。試薬キットの一例を、
図4に示す。
図4において、21は、本実施形態の試薬キットを示し、22は、本実施形態のALP融合抗体を含む第1試薬を収容した第1容器を示し、23は、被検物質と特異的に結合する捕捉物質を含む第2試薬を収容した第2容器を示し、24は、梱包箱を示し、25は、添付文書を示す。
【0082】
本実施形態の免疫測定用試薬キットは、捕捉物質を固定化するための固相をさらに含んでもよい。固相は、捕捉物質を固定可能な不溶性の担体であればよい。固相の素材は特に限定されず、例えば、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えばマイクロプレート、マイクロチューブ、試験管、粒子、膜などが挙げられる。それらの中でも、マイクロプレート及び粒子(特に磁性粒子)が好ましい。
【0083】
本実施形態の免疫測定用試薬キットは、ALPの基質をさらに含んでもよい。基質としては、例えばCDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。
【0084】
本実施形態の免疫測定用試薬キットは、被検物質のキャリブレータをさらに含んでもよい。キャリブレータの一例としては、被検物質の定量用キャリブレータが挙げられる。このキャリブレータは、例えば、被検物質を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、被検物質を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。被検物質がタンパク質である場合、キャリブレータに含まれる被検物質は、組換えタンパク質であってもよいし、被検物質のアミノ酸配列に基づいて合成したポリペプチドであってもよい。
【0085】
本発明のさらなる実施形態は、上記のALP融合抗体を用いる免疫測定方法である。この測定方法は、例えば、本実施形態のALP融合抗体を用いて、試料中の被検物質を測定することを含む。被検物質は、本実施形態のALP融合抗体が特異的に結合できる物質であれば、特に限定されない。被検物質としては、例えばタンパク質、核酸、多糖類、脂質、ハプテン、化合物、細菌、ウイルスなどが挙げられる。試料は、被検物質を含む限り特に限定されない。試料としては、例えば、血液、リンパ液などの生体試料、尿、便などの排泄物、河川水、海水、土壌などの環境サンプルなどが挙げられる。
【0086】
一例として、サンドイッチELISA法により測定する場合について、以下に説明する。この例において、本実施形態のALP融合抗体は検出抗体として用いられる。まず、被検物質と、被検物質と特異的に結合する捕捉物質と、本実施形態のALP融合抗体(検出抗体)とを含む複合体を固相上に形成させる。該複合体は、被検物質を含み得る試料と、捕捉物質と、検出抗体とを混合することにより形成できる。そして、複合体を含む溶液を、捕捉物質を固定できる固相と接触させることにより、上記の複合体を固相上に形成させることができる。あるいは、捕捉物質をあらかじめ固定した固相を用いてもよい。すなわち、捕捉物質を固定した固相と、被検物質を含み得る試料と、検出抗体とを接触することにより、上記の複合体を固相上に形成させることができる。そして、固相上に形成された複合体を、当該技術において公知の方法で検出することにより、試料に含まれる被検物質を測定できる。本実施形態では、検出抗体に含まれるALPにより生じるシグナルを検出することにより、試料中の被検物質を測定できる。
【0087】
捕捉物質の固相への固定の態様は、特に限定されない。例えば、捕捉物質と固相とを直接結合させてもよいし、捕捉物質と固相とを別の物質を介して間接的に結合させてもよい。直接の結合としては、例えば、物理的吸着などが挙げられる。間接的な結合としては、例えば、ビオチン類とアビジン類との組み合わせを介した結合が挙げられる。この場合、捕捉物質をあらかじめビオチン類で修飾し、固相にアビジン類をあらかじめ結合させておくことにより、ビオチン類とアビジン類との結合を介して、捕捉物質と固相とを間接的に結合させることができる。ビオチン類とは、ビオチン、及びデスチオビオチンなどのビオチン類縁体を含む。アビジン類とは、アビジン、並びにストレプトアビジン及びタマビジン(登録商標)などのアビジン類縁体を含む。
【0088】
本実施形態においては、複合体の形成と複合体の検出との間に、複合体を形成していない未反応の遊離成分を除去するB/F(Bound/Free)分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、複合体を構成しない成分をいう。例えば、被検物質と結合しなかった捕捉物質及び検出抗体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、固相が粒子であれば、遠心分離により、複合体を捕捉した固相だけを回収することによりB/F分離ができる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、固相が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができ、自動化の観点で好ましい。未反応の遊離成分を除去した後、複合体を捕捉した固相をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0089】
本明細書において「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」などのように段階的に示すことをいう。本実施形態では、シグナルの強度を定量的又は半定量的に検出することが好ましい。
【0090】
シグナルを検出する方法自体は、当該技術において公知である。本実施形態では、固相上の複合体とALPの基質とを反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、分光光度計などの公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。ALPの基質は上記のとおりである。
【0091】
シグナルの検出結果は、被検物質の測定結果として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から取得される値を、被検物質の測定結果として用いることができる。シグナル強度の測定値から取得される値としては、例えば、該測定値から陰性対照試料の測定値又はバックグラウンドの値を差し引いた値などが挙げられる。また、シグナル強度の測定値を検量線に当てはめて、被検物質の量又は濃度の値を決定してもよい。陰性対照試料は適宜選択できるが、例えば、被検物質が含まれないことが既知の試料などが挙げられる。
【0092】
本実施形態では、磁性粒子に固定された捕捉抗体と、本実施形態のALP融合抗体(検出抗体)とを用いるサンドイッチELISA法により、試料中の被検物質を測定することが好ましい。この場合、測定は、HISCLシリーズ(シスメックス株式会社製)などの市販の全自動免疫測定装置を用いて行ってもよい。
【0093】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0094】
[実施例1] ウシ小腸由来ALP融合抗体の作製
ウサギ抗体のFabとウシ小腸由来ALPサブユニットとが結合した融合タンパク質を作製した。該融合タンパク質は、ALPサブユニットが二量体を形成することにより、2分子のFabを有するALP融合抗体となる。これは、上記の抗体例1-1で示される構造のALP融合抗体に当たる。
【0095】
(1) 発現ベクターの調製
(1.1) ウサギ抗体の遺伝子の取得
CD80で免疫したウサギの末梢血からリンパ球を取得し、該リンパ球からmRNAを抽出してcDNAを合成した。得られたcDNAを、抗体遺伝子をクローニングするための公知のプライマーを用いて増幅し、Fabファージライブラリを作製した。得られたライブラリを用いて、公知のFabファージディスプレイ法及びバイオパニング(Lang IM, Barbas CF 3rd, Schleef RR., Recombinant rabbit Fab with binding activity to type-1 plasminogen activator inhibitor derived from a phage-display library against human alpha-granules, (1996) Gene 172(2):295-8及びPhilippa M. O'Brien, Robert Aitken, Antibody Phage Display, (2002) Methods in Molecular Biology Volume No. 178参照)により、ウサギ抗CD80抗体のFabクローンを得た。取得したウサギ抗CD80抗体のFabクローンの遺伝子を、ウサギ抗体のFc領域をコードする遺伝子を含むプラスミドDNAに組み込んで、ウサギ抗CD80抗体の遺伝子を含むプラスミドDNAを取得した。ウサギ抗CD80抗体のFd(Fabの重鎖部分)及び軽鎖のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号11及び12に示す。また、それらのアミノ酸配列をコードする塩基配列をそれぞれ配列番号13及び14に示す。
【0096】
(1.2) ウシ小腸由来ALPの遺伝子の取得
米国特許第6,406,899号明細書に記載のBIAPIIのアミノ酸配列を基に、GenScript社に遺伝子合成を委託して、BIAPII遺伝子を含むプラスミドDNAを取得した。BIAPIIのアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列はそれぞれ配列番号1及び2に示される。
【0097】
(1.3) Fd-リンカー-BIAPII発現ベクターの作製
(i) BIAPII発現ベクターの作製
BIAPII遺伝子を含むプラスミドDNAを鋳型に用いて、PCR法により、BIAPIIをコードするDNA断片(BIAPIIインサート)を取得した。pcDNA3.4ベクターを鋳型に用いて、インバースPCR法により線状化ベクターDNAを得た。PCRは、KOD Plus neo(東洋紡株式会社)を用いて、添付文書に記載に従って行った。PCRに用いたプライマーの塩基配列は下記のとおりであった。
【0098】
・ベクター用プライマーセット
Forward:5'-TGATAAAAGGGTTCGATCCCTACC-3'(配列番号15)
Reverse:5'- GCAGTGCACGGTGGCGCAGTACACC-3'(配列番号16)
・BIAPIIインサート用プライマーセット
Forward:5'- GCCACCGTGCACTGCTTAATTCCGGCAGAAGAAGAAAACC-3'(配列番号17)
Reverse:5'- CGAACCCTTTTATCACGCAGGTGCAGGCAAGTTACAATC-3'(配列番号18)
【0099】
In-Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて、pcDNA3.4の線状化ベクターDNAにBIAPIIインサートを連結させて、BIAPII発現ベクターを得た。In-Fusion反応は、キットの添付文書の記載に従って行った。
【0100】
(ii) BIAPII発現ベクターへのFd遺伝子の挿入
上記のウサギ抗CD80抗体の遺伝子を含むプラスミドDNAを鋳型に用いて、PCR法により、Fd及びペプチドリンカーをコードするDNA断片(Fd-リンカーインサート)を取得した。得られたFdインサートでは、ウサギ抗CD80抗体のFdをコードする遺伝子の下流に、ペプチドリンカーをコードする遺伝子が連結していた。ペプチドリンカーの種類は、上記のGS1、GS2、GS3、EK1、EK2及びEK3であった。上記のBIAPII発現ベクターを鋳型に用いて、インバースPCR法により、BIAPII遺伝子を含む線状化ベクターDNAを得た。PCRは、KOD Plus neo(東洋紡株式会社)を用いて、添付文書に記載に従って行った。PCRに用いたプライマーの塩基配列は下記のとおりであった。
【0101】
・ベクター用プライマーセット
Forward GS1:5'- GGTGGCGGTGGATCCTTAATTCCGGCAGAAGAAGAAAACC-3'(配列番号19)
Forward GS2:5'- GTGGATCCGGAGGGGGCGGAAGTTTAATTCCGGCAGAAGAAGAAAACC-3'(配列番号20)
Forward GS3:5'- GGAGGGGGCGGAAGTGGCGGGGGAGGTTCATTAATTCCGGCAGAAGAAGAAAACC-3'(配列番号21)
Forward EK1:5'- GAAGCCGCTGCTAAGTTAATTCCGGCAGAAGAAGAAAACC-3'(配列番号22)
Forward EK2:5'- CTGCTAAGGAGGCAGCCGCGAAATTAATTCCGGCAGAAGAAGAAAACC-3'(配列番号23)
Forward EK3:5'- GAGGCAGCCGCGAAAGAAGCAGCGGCTAAATTAATTCCGGCAGAAGAAGAAAACC-3'(配列番号24)
Reverse:5'- GCAGTGCACGGTGGCGCAGTACACC-3'(配列番号25)
【0102】
・Fdインサート用プライマーセット
Forward:5'-GCCACCGTGCACTGCCAGTCGGTGGAGGAGTCCGG-3'(配列番号26)
Reverse GS1:5'-GGATCCACCGCCACCCGTGGGCTTGCTGCATGTCGAGGG-3'(配列番号27)
Reverse GS2:5'-CCCCCTCCGGATCCACCGCCACCCGTGGGCTTGCTGCATGTCGAGGG-3'(配列番号28)
Reverse GS3:5'- ACTTCCGCCCCCTCCGGATCCACCGCCACCCGTGGGCTTGCTGCATGTCGAGGG-3'(配列番号29)
Reverse EK1:5'-CTTAGCAGCGGCTTCCGTGGGCTTGCTGCATGTCGAGGG-3'(配列番号30)
Reverse EK2:5'-GCTGCCTCCTTAGCAGCGGCTTCCGTGGGCTTGCTGCATGTCGAGGG-3'(配列番号31)
Reverse EK3:5'-TTTCGCGGCTGCCTCCTTAGCAGCGGCTTCCGTGGGCTTGCTGCATGTCGAGGG-3'(配列番号32)
【0103】
In-Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて、BIAPII遺伝子を含む線状化ベクターDNAにFdインサートを連結させて、Fd-リンカー-BIAPII発現ベクターを得た。In-Fusion反応は、キットの添付文書の記載に従って行った。この発現ベクターでは、ウサギ抗CD80抗体のFdをコードする遺伝子の下流に、ペプチドリンカーをコードする遺伝子及びBIAPII遺伝子が連結していた。これらの発現ベクターは、上記の構成例1-1で示される構造の発現ベクターに当たる。
【0104】
(1.4) 軽鎖発現ベクターの作製
上記のウサギ抗CD80抗体の遺伝子を含むプラスミドDNAを鋳型に用いて、PCR法により、軽鎖をコードするDNA断片(LCインサート)を取得した。pcDNA3.4ベクターを鋳型に用いて、インバースPCR法により線状化ベクターDNAを得た。PCRは、KOD Plus neo(東洋紡株式会社)を用いて、添付文書に記載に従って行った。PCRに用いたプライマーの塩基配列は下記のとおりであった。
【0105】
・ベクター用プライマーセット
Forward:5'-TAATCTAGATAATTAAAGGGTTCG-3'(配列番号33)
Reverse:5'-GCTGCGATAGCCCGGAAACAGTACC-3'(配列番号34)
・LCインサート用プライマーセット
Forward:5'-CCGGGCTATCGCAGCGAGCTCGTGATGACCCAGAC-3'(配列番号35)
Reverse:5'-TAATTATCTAGATTATCAACAGTCACCCCTATTGAAGC-3'(配列番号36)
【0106】
In-Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて、pcDNA3.4の線状化ベクターDNAにLCインサートを連結させて、軽鎖発現ベクターを得た。In-Fusion反応は、キットの添付文書の記載に従って行った。
【0107】
(2) 抗体産生細胞の作製及び培養
(2.1) 宿主細胞へのトランスフェクション
Expi293F(商標)細胞は、塩化亜鉛(キシダ化学)の溶液を終濃度0.1 mMとなるよう添加した培地中で、5%CO2雰囲気下、37℃にて振とう培養(125 rpm)した。サンプル数に応じた数の25.5 mLの細胞培養物(3.0 x 106 cells/mL)を準備した。Fd-リンカー-BIAPII発現ベクター(約15μg)及び軽鎖発現ベクター(約15μg)の混合物に適量のOpti-MEMI(商標
)を添加して1.5 mLとし、穏やかに撹拌してDNA溶液を調製した。ExpiFectamine 293試薬(80μL)とOpti-MEMI(1.5 mL)とを穏やかに撹拌して、室温で5分間静置してトランスフェクション試薬を調製した。DNA溶液とトランスフェクション試薬とを穏やかに撹拌して、室温で20分間静置した。得られた混合液(3 mL)を細胞培養物(25.5 mL)に添加して、5%CO2雰囲気下、37℃にて20時間振とう培養(125 rpm)した。20時間後、各培養物に、ExpiFectamine(商標)トランスフェクションエンハンサー1及び2をそれぞれ150μL及び1.5 mLを添加して、5%CO2雰囲気下、37℃にて5日間振とう培養(125 rpm)した。
【0108】
(2.2) 抗体の回収及び精製
トランスフェクションから5日後に培養上清を回収した。培養上清には、トランスフェクションされたExpi293F(商標)細胞から分泌された各ALP融合抗体が含まれる。回収した培養上清を遠沈管に移して遠心分離(1000 g、5分間、4℃)し、上清を新しい遠沈管に移した。上清を再度、遠心分離(10000 g、10分間、4℃)し、上清を新しい遠沈管に移した。上清をAmicon Ultra-4, 30k(Merck社)を用いて濃縮した。濃縮した上清を、AKTA avant 25(GEヘルスケア社)及びSuperdex 200 Increase 10/300GL(GEヘルスケア社)を用いたゲルろ過により精製した。ゲルろ過では、インジェクション量は500μLとし、ランニングバッファーにはALP用バッファー(100 mMトリエタノールアミン(TEA)、150 mM NaCl、1 mM MgCl2、0.1 mM ZnCl2、pH 7.0)を用い、1mL/minの流速で分離した。ゲルろ過精製したALP融合抗体の濃度を、nanodrop-1000(Thermo Fisher社)を用いて280 nmの吸光度から測定した。
【0109】
[試験例1] ALP融合抗体の抗原検出能
実施例1のALP融合抗体を検出抗体として用いてELISA法を行い、抗原検出能を検討した。
【0110】
(1) 化学発光ELISAによる測定
ウサギ抗CD80抗体(IgG)をPBSで1μg/mLに希釈した。得られた抗体溶液を96ウェルブラックプレートに100μL/ウェルで添加し、4℃で一晩静置して、抗体をウェルに固定化した。プレートから抗体溶液を除去した後、BufferI’(100 mM HEPES、1%BSA、0.05% ProClin(商標)、1 mM MgCl2、0.1 mM ZnCl2、pH 8.0)を300μL/ウェルで添加し、4℃で一晩静置してブロッキングした。プレートから溶液を除去した後、抗原溶液としてヒトCD80/B7-1プロテイン(Hisタグ)溶液(0.005、0.020、0.078、0.313、1.25、5.0又は20 ng/mL)を100μL/ウェルで添加した。プレートを室温にて500 rpmで1時間振とうして、抗原抗体反応を行った。プレートをHISCL洗浄液(シスメックス株式会社)で3回洗浄した後、BufferI’で希釈した実施例1の各ALP融合抗体(200 ng/mL)を100μL/ウェルで添加した。プレートを室温にて500 rpmで1時間振とうして、抗原抗体反応を行った。プレートをHISCL洗浄液で3回洗浄した後、ALPの化学発光基質の溶液であるHISCL R5試薬(シスメックス株式会社)を100μL/ウェルで添加し、直ちにFLUOstar OPTIMA(BMG LABTECH社)で発光強度を測定した。
【0111】
(2) 結果
測定結果を
図5に示す。図中、GS1、GS2、GS3、EK1、EK2及びEK3は、ALP融合抗体中のペプチドリンカーの種類である。図に示されるように、いずれのALP融合抗体を用いても、抗原濃度に応じて発光強度が増大していた。よって、いずれのALP融合抗体も同程度の抗原検出能を保持していたことが示された。
【0112】
[試験例2] 亜鉛イオンの影響の検討
実施例1で得た発現ベクターを含む細胞を、種々の条件で亜鉛を添加した培地又は亜鉛を添加していない培地で培養して、ALP融合抗体のALP活性を測定した。
【0113】
(1) 抗体産生細胞の培養及び抗体の回収
(1.1) 亜鉛を添加していない培地を用いた細胞培養
亜鉛を添加していない通常の培地中で培養したExpi293F(商標)細胞を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、該細胞にFd-リンカー-BIAPII発現ベクター及び軽鎖発現ベクターをトランスフェクションした。20時間後、培地を、亜鉛を添加していない培地又は塩化亜鉛溶液を添加した培地(終濃度0.1 mM)に交換した。そして、ExpiFectamine(商標)トランスフェクションエンハンサー1及び2を添加して、5%CO2雰囲気下、37℃にて5日間振とう培養(125 rpm)した。培養後、実施例1と同様にして、培養上清からALP融合抗体(GS1リンカー)を回収及び精製した。
【0114】
(1.2) ALP融合抗体の発現後に亜鉛添加培地を用いた細胞培養
上記(1.1)と同様にして、トランスフェクション、20時間後の培地交換及び5日間の培養を行った。5日後、培地を、亜鉛を添加していない培地又は塩化亜鉛溶液を添加した培地(終濃度0.1 mM)に交換して、さらに1時間培養した。培養後、実施例1と同様にして、培養上清からALP融合抗体を回収及び精製した。
【0115】
(1.3) 高濃度の亜鉛添加培地を用いた細胞培養
塩化亜鉛の濃度が0.25 mM又は0.5 mMである培地を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、トランスフェクション、20時間後の培地交換及び5日間の培養を行った。培養後、実施例1と同様にして、培養上清からALP融合抗体(GS1リンカー)を回収及び精製した。比較のため、塩化亜鉛の濃度が0.1 mMである培地を用いて、実施例1と同様にしてALP融合抗体(GS1リンカー)を回収及び精製した。
【0116】
(2) ALP活性の測定
ALP融合抗体をALP用バッファーで希釈した。得られた抗体溶液を96ウェルブラックプレートに10μL/ウェルで添加した。HISCL R5試薬(シスメックス株式会社)を100μL/ウェルで添加し、直ちにFLUOstar OPTIMA(BMG Labtech社)で発光強度を測定した。測定結果を
図6A~Cに示す。
図6A及びBでは、トランスフェクション後から亜鉛添加培地で培養した細胞から得たALP融合抗体のALP活性を100%とした場合の、亜鉛を添加していない培地で培養した細胞、及びALP融合抗体の発現後に亜鉛添加培地で培養した細胞から得たALP融合抗体のALP活性を示す。
図6Cでは、塩化亜鉛の濃度が0.1 mMである培地で培養した細胞から得たALP融合抗体のALP活性を100%とした場合の、塩化亜鉛の濃度が0.25 mM又は0.5 mMである培地で培養した細胞から得たALP融合抗体のALP活性を示す。
【0117】
(3) 結果
図6Aに示されるように、亜鉛を添加していない培地で培養した細胞から得たALP融合抗体では、ALP活性が顕著に低かった。この結果から、ALP融合抗体のALP活性を発揮するためには、培地への亜鉛の添加が必要であることが示された。
図6Bに示されるように、ALP融合抗体の発現後に亜鉛添加培地で培養した細胞から得たALP融合抗体でも、ALP活性が顕著に低かった。この結果から、ALP融合抗体が発現していると考えられる時期に亜鉛を培地に添加しても、ALP融合抗体のALP活性は増大せず、トランスフェクション時から亜鉛の添加が必要であることが示された。
【0118】
図6Cに示されるように、0.25 mMの塩化亜鉛を含む培地を用いた場合でも、ALP活性が十分に認められた。0.5 mMの塩化亜鉛を含む培地を用いた場合、細胞が死滅していたため、ALP活性は測定できなかった。
【0119】
[試験例3] 実施例1のALP融合抗体の均一性
実施例1のALP融合抗体及び化学修飾法で得たALP標識抗体について、抗体分子の均一性を比較した。
【0120】
(1) ALP標識抗体の作製
実施例1で得たウサギ抗CD80抗体の遺伝子を含むプラスミドDNAを用いて、ウサギ抗CD80抗体を得た。得られた抗体から、常法によりFabを得た。得られたFabと、ウシ小腸由来ALP(ALP55、オリエンタル酵母株式会社)又は組換え型ALP(rALP、Roche社)とを、架橋剤を用いて結合させて、ALP標識抗体を得た。
【0121】
(2) サイズ排除カラムクロマトグラフィ(SEC)及びSDS-PAGE
実施例1のALP融合抗体(GS1リンカー)及びALP標識抗体のそれぞれを、KTA avant 25(GEヘルスケア社)及びSuperdex 200 Increase 10/300GL(GEヘルスケア社)を用いたゲルろ過により分離した。ゲルろ過は実施例1と同様にして行った。また、ゲルろ過により分離したALP融合抗体及びALP標識抗体の各フラクションを、非還元条件のSDS-PAGEにより分析した。
【0122】
(3) 結果
ゲルろ過の溶出曲線を
図7A及びBに示す。また、SDS-PAGEの結果を
図8A及びBに示す。図中、「Fab+」は、1分子のALPと1分子のFabとが結合した標識抗体を指し、「Fab++」は、1分子のALPと2分子のFabとが結合した標識抗体を指し、「Fab+++」は、1分子のALPと3分子のFabとが結合した標識抗体を指す。
図7Aを参照して、ゲルろ過において、Fab+++は10 mL~10.5 mLの画分に溶出し、Fab++は11 mL~11.5 mLの画分に溶出し、Fab+は12 mL~12.5 mLの画分に溶出した。
図7Bを参照して、ゲルろ過において、ALP融合抗体は12 mL~12.5 mLの画分に溶出した。
図7Aに示されるように、化学修飾法で得たALP標識抗体には、様々な分子量の標識抗体、未修飾のALP及びFab'が混在していることがわかった。
図8Aからも、化学修飾法で得たALP標識抗体は均一ではないことが示された。一方、
図7B及び
図8Bに示されるように、ALP融合抗体の溶出曲線ではシャープなシングルピークが認められた。よって、本実施形態のALP融合抗体は、均一な分子の集団であることがわかった。
【0123】
[試験例4] 実施例1のALP融合抗体を含む試薬の性能
実施例1のALP融合抗体を用いて全自動免疫測定装置のための試薬を調製し、この試薬の性能を検討した。比較のため、試験例3で分離したALP標識抗体の各フラクションを用いた試薬についても検討した。
【0124】
(1) 試薬の調製
R1試薬(捕捉抗体試薬)は、ウサギ抗CD80抗体(半IgG)を慣用の手法によりビオチンで標識して、R1試薬用バッファー(50 mM HEPES、150 mM NaCl、1%BSA、pH 7.4)に溶解して調製した。R2試薬(固相)として、ストレプトアビジン結合磁性粒子を含むHISCL R2試薬(シスメックス株式会社)を用いた。R3試薬(検出抗体試薬)は、実施例1のALP融合抗体(GS1リンカー)をR3試薬用バッファー(50 mM HEPES、1 mM MgCl2、0.1 mM ZnCl2、1%BSA、pH 7.3)に溶解して調製した。R3試薬中のALP融合抗体の濃度は200 ng/mLであった。比較のため、ALP標識抗体の各フラクション(Fab+、Fab++又はFab+++)を含むR3試薬を同様に調製した。R3試薬中のALP標識抗体の濃度は、ALP融合抗体を含むR3試薬のALP活性と同程度となるように調整した。R4試薬(測定用バッファー)として、HISCL R4試薬(シスメックス株式会社)を用いた。R5試薬(基質溶液)として、HISCL R5試薬(シスメックス株式会社)を用いた。抗原溶液は、ヒトCD80/B7-1プロテイン(Hisタグ)をBufferI’で段階希釈して調製した。磁性粒子の洗浄液として、HISCL洗浄液(シスメックス株式会社)を用いた。
【0125】
(2) 測定
上記の試薬を用いて全自動免疫測定装置HISCL-800(シスメックス株式会社製)により測定を行った。この測定は、磁性粒子上でのサンドイッチELISAをベースとしている。具体的な操作は、次のとおりである。R1試薬(50μL)に抗原溶液(20μL)を加えて混合した後、R2試薬(30μL)を加えて混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子にR3試薬(100μL)を添加して混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子にR4試薬(50μL)及びR5試薬(100μL)を添加し、よく混合して、化学発光強度を測定した。また、測定のバックグラウンドを検討するため、抗原溶液に替えて、抗原を含まないBufferI’を用いたこと以外は上記と同様にして、測定を行った。各抗原溶液の測定値及びバックグラウンドから測定のSN比を算出した。
【0126】
(3) 結果
測定結果を
図9A及びBに示す。
図9Aに示されるように、バックグラウンドは、検出抗体としてALP融合抗体を用いた場合の方が、ALP標識抗体を用いた場合に比べて顕著に低かった。
図9Bに示されるように、SN比は、検出抗体としてALP融合抗体を用いた場合の方が、ALP標識抗体を用いた場合に比べて顕著に高かった。これらの結果より、化学修飾法で得たALP標識抗体を含む検出抗体試薬を用いるよりも、ALP融合抗体を含む検出抗体試薬を用いた方が、抗原を高感度に検出できることがわかった。
【0127】
[実施例2] ウシ小腸由来ALP融合抗体の作製(2)
実施例1のALP融合抗体とは抗体部分が異なるALP融合抗体として、マウス抗ヒトIgG抗体のFabとALPサブユニットとが結合した融合タンパク質を作製した。これは、上記の抗体例1-1で示される構造のALP融合抗体に当たる。
【0128】
(1) 発現ベクターの作製
ヒトIgGで免疫したマウスの末梢血からリンパ球を取得し、該リンパ球からmRNAを抽出してcDNAを合成した。得られたcDNAを用いて、実施例1と同様にして、マウス抗ヒトIgG抗体の遺伝子を含むプラスミドDNAを取得した。この抗体遺伝子を含むプラスミドDNAと、実施例1のBIAPII発現ベクターとを用いて、実施例1と同様にして、Fd-リンカー-BIAPII発現ベクターを得た。得られた発現ベクターでは、マウス抗ヒトIgG抗体のFdをコードする遺伝子の下流に、ペプチドリンカーGS1、GS3、EK1又はEK3をコードする遺伝子及びBIAPII遺伝子が連結していた。また、上記のマウス抗ヒトIgG抗体の遺伝子を含むプラスミドDNAを用いて、実施例1と同様にして、軽鎖発現ベクターを得た。
【0129】
(2) 抗体産生細胞の作製及び培養
実施例1と同様にして、上記の発現ベクターを、塩化亜鉛溶液を添加した培地で培養したExpi293F(商標)細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションから5日後に培養上清を回収し、実施例1と同様にして、ALP融合抗体を濃縮及び精製した。
【0130】
[試験例5] 実施例2のALP融合抗体を含む試薬の品質
実施例2で得たALP融合抗体と、化学修飾法で得たALP標識抗体との分子の均一性を比較した。また、実施例2で得たALP融合抗体を用いて全自動免疫測定装置のための試薬を調製し、この試薬の性能及び保存安定性を検討した。比較のため、ALP標識抗体を用いた試薬についても検討した。
【0131】
(1) ALP標識抗体の作製及び抗体分子の均一性の確認
試験例3と同様にして、マウス抗ヒトIgG抗体のFabと、ALP55(オリエンタル酵母株式会社)又はrALP(Roche社)とを結合させて、ALP標識抗体を得た。実施例2で得たALP融合抗体及びALP標識抗体のそれぞれを、試験例3と同様にして、ゲルろ過により分離した。また、ゲルろ過により分離したALP融合抗体及びALP標識抗体の各フラクションを、非還元条件のSDS-PAGEにより分析した。ゲルろ過及びSDS-PAGEの結果は、試験例3の結果と同様、化学修飾法で得たALP標識抗体には、様々な分子量の標識抗体、未修飾のALP及びFab'が混在していた。一方、ALP融合抗体は、均一な分子の集団であった。
【0132】
(2) 試薬の調製及び測定
試験例4と同様にして、ビオチン標識したマウス抗ヒトIgG抗体(半IgG)を含むR1試薬、及び実施例2で得たALP融合抗体を含むR3試薬を調製した。比較のため、ゲルろ過で得たフラクションのALP標識抗体を含むR3試薬を同様に調製した。ALP標識抗体のフラクションとして、1分子のALPと2分子のFabとが結合した標識抗体を含むフラクション(rALP-2Fab Fr.B4、rALP-2Fab Fr.B5及びALP55-2Fab Fr.B4)と、1分子のALPと1分子のFabとが結合した標識抗体を含むフラクション(ALP55-1Fab Fr.B6)を用いた。各R3試薬中の抗体濃度は、各抗体のALP活性に基づいて調整した。抗原溶液は、ヒトIgG抗体をBufferI’で希釈して調製した。R2試薬、R4試薬、R5試薬及び洗浄液は、試験例4と同じであった。これらの試薬を用いてHISCL-800(シスメックス株式会社製)により測定を行い、測定のバックグラウンドとSN比を算出した。測定結果を
図10に示す。
図10中、◆で示される点は、バックグラウンドの値を示し、グラフのバーはSN比を示す。
【0133】
(3) 試薬の保存安定性の検討
4℃で保存したR3試薬と、40℃で1週間保存したR3試薬とを用いて、HISCL-800(シスメックス株式会社製)により、抗原溶液及び抗原を含まないBufferI’を測定し、測定値を比較した。結果を表1に示す。表中、「NC」は、抗原を含まないBufferI’を示し、PCは抗原溶液を示し、「Counts」は測定値を示し、「vs.4℃」は、4℃で保存したR3試薬を用いて得た測定値に対する、40℃で1週間保存したR3試薬を用いて得た測定値の割合を示す。
【0134】
【0135】
(4) 結果
図10に示されるように、バックグラウンドは、ALP融合抗体を用いた場合の方が、ALP標識抗体を用いた場合に比べて顕著に低かった。SN比は、ALP融合抗体を用いた場合の方が、ALP標識抗体を用いた場合に比べて顕著に高かった。表1に示されるように、各R3試薬を40℃で1週間保存した場合、ALP融合抗体を含むR3試薬によるPCの測定値は、ALP標識抗体を含むR3試薬によるPCの測定値に比べて、あまり低下しないことがわかった。よって、ALP融合抗体を含む試薬の方がALP標識抗体を含む試薬に比べて、保存安定性が高いことが示された。
【0136】
[実施例3] ウシ小腸由来ALP融合抗体の作製(3)
実施例2で得た抗体遺伝子を含むプラスミドDNA及びBIAPII発現ベクターを用いて、実施例1と同様の方法により、上記の構成例1-2、1-3、2-1及び2-2で示される構造の発現ベクターを作製した。これらの発現ベクターを用いて、上記の抗体例1-2、1-3、2-1及び2-2で示されるALP融合抗体を作製した。
【0137】
(1) 発現ベクターの作製及び抗体の取得
(1.1) 抗体例1-2のALP融合抗体
実施例2で得た抗体遺伝子を含むプラスミドDNAを鋳型に用いて、軽鎖及びペプチドリンカーをコードするDNA断片を取得した。得られたDNA断片を、線状化したBIAPII発現ベクターDNAに連結させて、LC-リンカー-BIAPII発現ベクターを作製した。この発現ベクターでは、軽鎖をコードする遺伝子の下流に、ペプチドリンカーをコードする遺伝子及びBIAPII遺伝子が連結していた。また、上記の抗体遺伝子を含むプラスミドDNAを鋳型に用いて、FdをコードするDNA断片を取得し、実施例1と同様にして、Fdをコードする遺伝子を含む発現ベクター(Fd発現ベクター)を作製した。これらの発現ベクターをExpi293F(商標)細胞にトランスフェクションして、抗体例1-2のALP融合抗体を得た。
【0138】
(1.2) 抗体例1-3のALP融合抗体
実施例2で得た抗体遺伝子を含むプラスミドDNAを鋳型に用いて、FdをコードするDNA断片を取得した。得られたDNA断片を、線状化したBIAPII発現ベクターDNAに連結させて、Fd-BIAPII発現ベクターを作製した。この発現ベクターでは、Fdをコードする遺伝子の下流にBIAPII遺伝子が連結していた。この発現ベクターと、実施例2で得た軽鎖発現ベクターとをExpi293F(商標)細胞にトランスフェクションして、抗体例1-3のALP融合抗体を得た。
【0139】
(1.3) 抗体例2-1のALP融合抗体
実施例2で得た抗体遺伝子を含むプラスミドDNAを鋳型に用いて、ペプチドリンカー及びFdをコードするDNA断片を取得した。得られたDNA断片を、線状化したBIAPII発現ベクターDNAに連結させて、BIAPII-リンカー-Fd発現ベクターを作製した。この発現ベクターでは、BIAPII遺伝子の下流に、ペプチドリンカーをコードする遺伝子及びFdをコードする遺伝子が連結していた。この発現ベクターと、実施例2で得た軽鎖発現ベクターとをExpi293F(商標)細胞にトランスフェクションして、抗体例2-1のALP融合抗体を得た。
【0140】
(1.4) 抗体例2-2のALP融合抗体
実施例2で得た抗体遺伝子を含むプラスミドDNAを鋳型に用いて、ペプチドリンカー及び軽鎖をコードするDNA断片を取得した。得られたDNA断片を、線状化したBIAPII発現ベクターDNAに連結させて、BIAPII-リンカー-LC発現ベクターを作製した。この発現ベクターでは、BIAPII遺伝子の下流に、ペプチドリンカーをコードする遺伝子及び軽鎖をコードする遺伝子が連結していた。この発現ベクターと、上記のFd発現ベクターとをExpi293F(商標)細胞にトランスフェクションして、抗体例2-2のALP融合抗体を得た。
【0141】
(2) 抗体分子の均一性及び試薬の性能の検討
作製した各ALP融合抗体を用いて、試験例3と同様にして、抗体分子の均一性を検討した。ゲルろ過の結果を
図11A~Dに示す。試験例2と同様にして、各ALP融合抗体のALP活性を測定した。比較のため、実施例1のALP融合抗体(抗体例1-1)を用いた測定も行った。結果を
図11Eに示す。実施例1のALP融合抗体に替えて、上記(1)で得た抗体例1-2、1-3及び2-1の各ALP融合抗体を検出抗体として用いたこと以外は試験例1と同様にしてELISA法を行った。比較のため、実施例1のALP融合抗体(抗体例1-1)を用いた測定も行った。結果を
図11Fに示す。
【0142】
図11A~Dを参照して、ゲルろ過において、抗体例1-2、1-3、2-1及び2-2のALP融合抗体はいずれも11 mL~11.5 mLの画分に溶出した。
図11A~Dに示されるように、得られたALP融合抗体は、均一な分子の集合体であった。また、
図11Eに示されるように、得られたALP融合抗体はALP活性を有していた。
図11Fに示されるように、抗体例1-1のALP融合抗体と同様に、抗体例1-2、1-3及び2-1の各ALP融合抗体は、抗原濃度に応じて発光強度が増大した。よって、抗体例1-2、1-3及び2-1のALP融合抗体はいずれも抗原検出能を有していた。
【0143】
[実施例4] ウシ小腸由来ALP融合抗体の作製(4)
アルパカ抗CTLA-4抗体のVHHとALPサブユニットとが結合した融合タンパク質を作製し、ALP融合抗体を得た。これは、上記の抗体例3-1で示される構造のALP融合抗体に当たる。
【0144】
(1) 発現ベクターの調製及び抗体の取得
アルパカ抗CTLA-4抗体のVHHをコードする遺伝子を含むプラスミドDNAを鋳型に用いて、VHH及びペプチドリンカー(GS1リンカー)をコードするDNA断片を取得した。得られたDNA断片を、線状化したBIAPII発現ベクターDNAに連結させて、VHH-リンカー-BIAPII発現ベクターを作製した。この発現ベクターでは、VHHをコードする遺伝子の下流に、ペプチドリンカーをコードする遺伝子及びBIAPII遺伝子が連結していた。VHH-リンカー-BIAPII発現ベクターをExpi293F(商標)細胞にトランスフェクションして、抗体例3-1のALP融合抗体を得た。
【0145】
(2) ALP活性の測定及び抗体分子の均一性の検討
試験例2と同様にして、ALP融合抗体のALP活性を測定した。比較のため、実施例1のBIAPII発現ベクターをExpi293F(商標)細胞にトランスフェクションして得たBIAPIIのALPの活性も測定した。結果を
図12Aに示す。また、試験例3と同様にして、抗体分子の均一性をゲルろ過により検討した。溶出曲線を
図12Bに示す。ゲルろ過において、抗体例3-1のALP融合抗CTLA4抗体は12 mL~12.5 mLの画分に溶出した。
図12Aに示されるように、得られたALP融合抗体は、ALP活性を有していた。また、
図12Bに示されるように、得られたALP融合抗体は、均一な分子の集合体であった。
【0146】
[実施例5] ウシ小腸由来ALP融合抗体の作製(5)
実施例1のALP融合抗体とは抗体部分が異なるALP融合抗体として、ウサギ抗PD-1抗体、ウサギ抗PD-L1抗体又はマウス抗VEGF抗体のFabとALPサブユニットとが結合した融合タンパク質を作製した。これは、上記の抗体例1-1で示される構造のALP融合抗体に当たる。
【0147】
(1) 発現ベクターの作製
免疫原としてPD-1又はPD-L1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ウサギ抗PD-1抗体又はウサギ抗PD-L1抗体のFdをコードする遺伝子を含むFd-リンカー-BIAPII発現ベクター、及び該抗体の軽鎖をコードする遺伝子を含む軽鎖発現ベクターを得た。抗PD-1抗体の抗体遺伝子については、複数のクローンを得られたので、各クローンのALP融合抗体を作製した。また、免疫原としてVEGFを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、マウス抗VEGF抗体のFdをコードする遺伝子を含むFd-リンカー-BIAPII発現ベクター、及び該抗体の軽鎖をコードする遺伝子を含む軽鎖発現ベクターを得た。ペプチドリンカーは、GS1リンカーであった。
【0148】
(2) 抗体分子の均一性の検討及びALP活性の測定
試験例3と同様にして、各ALP融合抗体の分子の均一性をゲルろ過により検討した。溶出曲線を
図13A~Cに示す。また、ALP融合抗PD-1抗体又はALP融合抗PD-L1抗体を用いて、試験例2と同様にしてALP活性を測定した。結果を
図14A及びBに示す。
図13A~Cを参照して、ゲルろ過において、ALP融合抗PD1抗体、ALP融合抗PD-L1抗体及びALP融合抗VEGF抗体はいずれも11.5 mL~12 mLの画分に溶出した。
図13A~Cに示されるように、得られたALP融合抗体は、均一な分子の集合体であった。また、
図14A及びBに示されるように、得られたALP融合抗体はALP活性を有していた。
【0149】
[実施例6] シェワネラ属細菌由来ALP融合抗体の作製
実施例1のALP融合抗体とはALP部分が異なるALP融合抗体として、ウサギ抗体のFabとシェワネラ属細菌に由来するALPとが結合した融合タンパク質を作製した。これは、上記の抗体例1-1で示される構造のALP融合抗体に当たる。
【0150】
(1) 発現ベクターの作製及び抗体の取得
ウサギ抗体の発現ベクターとして、実施例1のウサギ抗CD80抗体の遺伝子を含むプラスミドDNAを用いた。T3-3AP発現ベクターとして、米国特許第9,133,446号明細書に記載のT3-3株由来ALP(T3-3AP)のアミノ酸配列を基に、GenScript社に遺伝子合成を委託して、T3-3AP遺伝子を含むプラスミドDNAを取得した。T3-3APのアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列はそれぞれ配列番号3及び4に示される。BIAPII発現ベクターに替えて、T3-3AP発現ベクターを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、Fd-リンカー-T33AP発現ベクターを得た。ペプチドリンカーは、GS1、EK1及びEK3リンカーであった。この発現ベクターと、実施例1で得た軽鎖発現ベクターとをExpi293F(商標)細胞にトランスフェクションして、ALP融合抗体を得た。
【0151】
(2) 抗体分子の均一性の検討及びALP活性の測定
試験例3と同様にして、各ALP融合抗体の分子の均一性をゲルろ過により検討した。溶出曲線を
図15A~Cに示す。ゲルろ過において、各ALP融合抗CD80抗体は11.5 mL~12 mLの画分に溶出した。また、各ALP融合抗体を用いて、試験例2と同様にしてALP活性を測定した。比較のため、実施例1のALP融合抗体(Fab-GS1-BIAPII)のALP活性も測定した。結果を
図16に示す。
図15A~Cに示されるように、得られたALP融合抗体は、均一な分子の集合体であった。また、
図16に示されるように、BIAPIIを有するALP融合抗体と同様に、T3-3APを有するALP融合抗体も高いALP活性を示した。
【0152】
(3) ALP融合抗体を用いた免疫測定
(3.1) ELISA法
実施例1のALP融合抗体に替えて、上記(1)で得たALP融合抗体を検出抗体として用いたこと以外は試験例1と同様にしてELISA法を行った。比較のため、実施例1のALP融合抗体を用いた測定も行った。結果を
図17に示す。
図17に示されるように、BIAPIIを有するALP融合抗体と同様に、T3-3APを有するALP融合抗体は、抗原濃度に応じて発光強度が増大した。よって、3-3APを有するALP融合抗体はいずれも抗原検出能を有していた。
【0153】
(3.2) 自動測定装置を用いた免疫測定
実施例1のALP融合抗体に替えて、上記(1)で得たALP融合抗体を含むR3試薬を用いたこと以外は試験例4と同様にして、測定を行った。比較のため、実施例1のALP融合抗体を含むR3試薬を用いた測定も行った。結果を
図18A及びBに示す。
図18Aに示されるように、T3-3APを有するALP融合抗体を含むR3試薬を用いた測定では、抗原濃度に応じて発光強度が増大した。また、
図18Bに示されるように、該R3試薬を用いた測定は、高いSN比を示した。
【0154】
[参考例] T3-3AP以外のシェワネラ属細菌由来ALPの探索
T3-3AP以外に、ALP融合抗体に有用なシェワネラ属細菌由来ALPを次のようにして探索した。相同性検索プログラムBLAST(NCBI)により、T3-3APのアミノ酸配列(シグナル配列を除く)と69%以上の相同性を有するシェワネラ属由来ALPを検索した。その結果、T3-3AP以外のシェワネラ属細菌由来ALPとして、表2に示す21種のALPが選別された。
【0155】
【0156】
上記のALPのアミノ酸配列を、配列解析ソフトGENETYX(登録商標)(株式会社ゼネティックス)を用いてクラスタリングを行った。クラスタリング結果に基づいて、表3に示す6種のALP(S-AP1、S-AP2、S-AP3、S-AP4、S-AP5及びS-AP6)を選定した。
【0157】
【0158】
シグナルペプチド予測プログラムSingalP-5.0(DTU Health Tech)により、これらのALPのシグナル配列を予測した。これらのALPのアミノ酸配列を基に、GenScript社に遺伝子合成を委託して、各ALP遺伝子を含むプラスミドDNAを取得した。サブクローニングの際に、予測したシグナル配列に替えて、ルシフェラーゼのシグナル配列を挿入した。S-AP1、S-AP2、S-AP3、S-AP4、S-AP5及びS-AP6の各発現ベクターをExpi293F(商標)細胞にトランスフェクションしてALPを回収し、ゲルろ過により精製した。精製したALPを用いて、試験例2と同様にしてALP活性を測定した。比較のため、T3-3APのALP活性も測定した。結果を
図19に示す。
図19に示されるように、S-AP1、S-AP2、S-AP3、S-AP4、S-AP5及びS-AP6は、T3-APよりも活性は低いものの、ALP融合抗体に用いるALPとして有望な候補であることが示された。
【符号の説明】
【0159】
11、21: 試薬キット
12、22: 第1容器
13、24: 梱包箱
14、25: 添付文書
23: 第2容器
【配列表】