(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】射出装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/20 20060101AFI20240627BHJP
B29C 45/50 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B22D17/20 Z
B22D17/20 L
B29C45/50
(21)【出願番号】P 2020127268
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】柳屋 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕
(72)【発明者】
【氏名】川邊 主税
(72)【発明者】
【氏名】菅原 貴弘
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】実公昭46-013557(JP,Y1)
【文献】特開昭56-004445(JP,A)
【文献】特公昭46-019311(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/20
B22D 17/32
B29C 45/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱筒の軸方向に沿って駆動可能かつ回転可能に前記加熱筒内に設けられたスクリュに連結され、前記スクリュを前記軸方向に沿って駆動する射出ピストンと、
収容された前記射出ピストンを油圧によって前記軸方向に駆動する、内部が前記射出ピストンを駆動するために圧力をかけた作動油が供給される第1の室と、作動油が排出される第2の室と、に仕切られた射出用油圧シリンダと、
前記射出ピストンのピストン部が保圧切換位置まで前進したときに前記ピストン部によって塞がれるように前記射出用油圧シリンダに設けられた、前記第2の室から作動油を排出する第1の油排出口と、
前記射出ピストンの位置にかかわらず前記第2の室から作動油の排出が可能に前記射出用油圧シリンダに設けられた第2の油排出口と、
前記射出ピストンは、
前記第1の室の側に設けられた、前記軸方向に延在する第1の部材と、
前記第2の室の側に設けられ、前記ピストン部において前記第1の部材と結合された、前記軸方向に延在する第2の部材と、を備え、
前記第1の部材と前記第2の部材との接合部は、前記ピストン部において、前記ピストン部の前記第2の部材の側の端部から、前記軸方向に所定の距離だけ離隔した位置に設けら
れ、
前記接合部は、前記ピストン部の前記軸方向の中央に対して、前記第1の室の側に設けられる、
射出装置。
【請求項2】
加熱筒の軸方向に沿って駆動可能かつ回転可能に前記加熱筒内に設けられたスクリュに連結され、前記スクリュを前記軸方向に沿って駆動する射出ピストンと、
収容された前記射出ピストンを油圧によって前記軸方向に駆動する、内部が前記射出ピストンを駆動するために圧力をかけた作動油が供給される第1の室と、作動油が排出される第2の室と、に仕切られた射出用油圧シリンダと、
前記射出ピストンのピストン部が保圧切換位置まで前進したときに前記ピストン部によって塞がれるように前記射出用油圧シリンダに設けられた、前記第2の室から作動油を排出する第1の油排出口と、
前記射出ピストンの位置にかかわらず前記第2の室から作動油の排出が可能に前記射出用油圧シリンダに設けられた第2の油排出口と、
前記射出ピストンは、
前記第1の室の側に設けられた、前記軸方向に延在する第1の部材と、
前記第2の室の側に設けられ、前記ピストン部において前記第1の部材と結合された、前記軸方向に延在する第2の部材と、を備え、
前記第1の部材と前記第2の部材との接合部は、前記ピストン部において、前記ピストン部の前記第2の部材の側の端部から、前記軸方向に所定の距離だけ離隔した位置に設けられ、
前記接合部は、前記射出ピストンのピストン部が保圧切換位置まで前進したときに、前記第1の油排出口
よりも前記第1の室の側となる位置に設けられる、
射出装置。
【請求項3】
前記接合部は、前記ピストン部の前記軸方向の中央に対して、前記第1の室の側に設けられる、
請求項
2に記載の射出装置。
【請求項4】
前記射出ピストンのピストン部が保圧切換位置まで前進して前記第1の油排出口が前記ピストン部によって塞がれたときに、前記ピストン部の前記第1の油排出口に露出した第1の面にかかる圧力は、前記ピストン部の前記第1の油排出口とは反対側の第2の面にかかる圧力よりも低く、
前記第1の面にかかる圧力と前記第2の面にかかる圧力差により、前記ピストン部には偏荷重がかかる、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の射出装置。
【請求項5】
前記偏荷重により、前記ピストン部の前記第2の室側の端部と前記射出用油圧シリンダとの間隙が、前記ピストン部の前記第1の室側の端部と前記射出用油圧シリンダとの間隙よりも小さくなる、
請求項
4に記載の射出装置。
【請求項6】
前記軸方向に垂直な面内の前記ピストン部の外周には、前記ピストン部と前記射出用油圧シリンダの内面との間を密閉する密閉部材が設けられ、
前記偏荷重により、前記密閉部材に対して前記第2の室側の前記ピストン部と前記射出用油圧シリンダとの間隙が、前記密閉部材に対して前記第1の室側の前記ピストン部と前記射出用油圧シリンダとの間隙よりも小さくなる、
請求項
5に記載の射出装置。
【請求項7】
前記第1の部材及び前記第2の部材は、一方の部材の端部が他方の部材の端部に嵌合するように構成される、
請求項1から6のいずれか一項に記載の射出装置。
【請求項8】
前記第1の部材及び前記第2の部材は、前記第1の部材及び前記第2の部材に設けられた雌ねじに雄ねじが設けられた部材を螺入することで結合される、
請求項7に記載の射出装置。
【請求項9】
前記第1の部材及び前記第2の部材は、一方の部材に設けられた雄ねじを他方の部材に設けられた雌ねじに螺入することで結合される、
請求項7に記載の射出装置。
【請求項10】
前記第1の部材及び前記第2の部材は、溶接又は接着により結合される、
請求項1から9のいずれか一項に記載の射出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出装置に関し、例えばマグネシウム合金やアルミニウム合金等の金属を射出成形する金属射出成形機の射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金型中のキャビティに溶融した金属材料を充填して製品の成形を行う金属射出成形機が広く用いられている。このような金属射出成形機で使用される射出成形の一例として、射出ピストンの速度を急激に減速させて射出工程から保圧工程へと移行させる構成を有する金属射出成形機の射出装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
この射出装置では、前部室に開口が大きな油排出口と、開口が小さな油排出口とが設けられており、射出ピストンが保圧切換位置まで前進すると、開口が大きな油排出口が射出ピストンによって閉塞される。これにより、作動油の排出が大幅に小さくなるため、射出ピストンには急激なブレーキが掛かる、かつ、保圧工程の間の作動用の排出は開口が小さな油排出口を通じて行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の射出装置では、射出ピストンの減速時に、射出ピストンに偏荷重が作用するという問題が有る。上述のように、開口が大きな油排出口が射出ピストンによって閉塞されると、射出ピストンの側面のうちで油排出口に暴露した部分の圧力は低圧となる。一方で、射出ピストンの側面のうちで油排出口に暴露した部分と反対の部分には高圧の作動油が存在している。そのため、この圧力差によって、射出ピストンには、せん断力又はヨー方向へ作用する力である偏荷重が作用してしまうという問題が生じる。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態にかかる射出装置は、軸方向に沿って駆動可能かつ回転可能に設けられたスクリュを前記軸方向に沿って駆動する射出ピストンと、前記射出ピストン前記軸方向に駆動する、作動油が供給される第1の室及び第2の室とに仕切られた射出用油圧シリンダと、前記射出ピストンのピストン部が保圧切換位置まで前進したときに前記ピストン部によって塞がれる、前記第2の室から作動油を排出する第1の油排出口と、前記射出ピストンの位置にかかわらず前記第2の室から作動油の排出する第2の油排出口と、を有し、前記射出ピストンは、前記第1の室の側の第1の部材と、前記ピストン部において前記第1の部材と結合された、前記第2の室の側の第2の部材と、を有し、前記第1の部材と前記第2の部材との接合部は、前記ピストン部において、前記ピストン部の前記第2の部材の側の端部から、前記軸方向に所定の距離だけ離隔した位置に設けられるものである。
【発明の効果】
【0008】
一実施の形態によれば、射出ピストンを好適に保護できる金属射出成形機の射出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1にかかる金属射出成形機の射出装置の概略構成を示す図である。
【
図2】実施の形態1にかかる射出装置の前部室近傍の拡大図である。
【
図3】実施の形態1にかかる射出ピストンの構成を模式的に示す図である。
【
図4】実施の形態1にかかる射出ピストンが第1の油排出口を塞いだ状態を示す図である。
【
図5】実施の形態1にかかる射出装置において偏荷重によって変位したピストン部近傍を示す図である。
【
図6】一般的な金属射出成形機の射出装置の概略構成を示す図である。
【
図7】一般的な射出装置の前部室近傍の拡大図である。
【
図8】一般的な射出装置における射出ピストンの構成を模式的に示す図である。
【
図9】一般的な射出装置の射出ピストンが第1の油排出口を塞いだ状態を示す図である。
【
図10】一般的な射出装置において偏荷重によって変位したピストン部近傍を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。また、同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
実施の形態1
本実施の形態にかかる金属射出成形機の射出装置を理解するための前提として、特許文献1にかかる一般的な金属射出成形機の射出装置について説明する。
図6に、上述の金属射出成形機の射出装置1000の概略構成を示す。射出装置1000は、加熱筒101と、加熱筒101内に軸方向及び回転方向に駆動自在に設けられるスクリュ102とを有する。加熱筒101内にはホッパ103から成形材料が投入され、投入された材料が、スクリュ102の回転に伴って発生する摩擦熱やせん断熱及び加熱筒101の外周に設けられているヒータ104から加えられる熱によって溶融する。そして、溶融した材料は、スクリュ102の回転により混練されて、加熱筒101の前方に送られる。加熱筒101の先端にはノズル105が取り付けられている。材料を射出するときには、加熱筒101の先端部に蓄えられた溶融状態の成形材料が、ノズル105を通して、型閉じされた金型106のキャビティ107内に注入される。
【0012】
スクリュ102は、モータ108によって回転駆動されるとともに、射出用油圧シリンダ109の内部に設けられた射出ピストン110によって軸方向に駆動される。
【0013】
射出用油圧シリンダ109内は、射出ピストン110によって2つの室に仕切られており、前方(-X方向)には前部室111Bが設けられ、後方(+X方向)には後部室111Aが設けられている。後部室111Aには、油圧ポンプ112により、アキュムレータ113へ蓄圧された圧油が流量制御弁114を介して供給される。
【0014】
図7に、射出装置100の前部室111B近傍の拡大図を示す。前部室111Bには、射出ピストン110の所望の保圧切換位置で射出ピストン110によって完全に又は大部分が塞がれる第1の油排出口115Aと、射出ピストン110の最前進位置においても射出ピストン110によって塞がれることのない第2の油排出口115Bとが設けられている。第1の油排出口115Aは射出用油圧シリンダ109の側面部に形成され、第2の油排出口115Bは射出用油圧シリンダ109の端面部に形成されている。
【0015】
第1の油排出口115Aは、流量制御弁116を介して油タンク117に繋がっており、射出工程において前部室111Bに蓄えられている作動油を油タンク117に排出するのに十分な大きさの開口面積を有している。また、第2の油排出口115Bは、流量制御弁118を介して油タンク117に繋がっており、保圧工程において前部室111Bにある作動油を油タンク117に排出する。ただし、第2の油排出口115Bは保圧工程の流量及び計量工程の射出ピストン110の後退(+X方向)に必要な流量の作動油を流せればよいので、第1の油排出口115Aに比べて開口面積が小さくてもよい。
【0016】
射出成形は、主として、計量工程、射出工程及び保圧工程からなる。計量工程では、固体状の成形材料をホッパ103から加熱筒101内に投入し、モータ108によってスクリュ102を回転駆動させると同時に射出用油圧シリンダ109で軸方向後方(+X方向)に駆動させることにより、加熱筒101内において材料を溶融させながらその前方(-X方向)に送って計量する。射出工程では、計量値が所定の大きさに達したときに射出用油圧シリンダ109に圧油を供給することによりスクリュ102を軸方向前方(-X方向)に駆動して、計量された溶融状態の材料をノズル105から金型106のキャビティ107内に射出する。保圧工程は、射出終了後に、材料の冷却に伴って生じる材料の収縮を補うために、加熱筒101内に残っている材料を通して金型106内の材料に圧力を加える工程である。これらの工程により、その材料をキャビティ107が有する所望の形状に成形することができる。
【0017】
しかしながら、上述の射出装置1000では射出ピストン110の減速時に、射出ピストン110に偏荷重が作用するという問題が有ることが見出された。
【0018】
図8に、射出装置1000における射出ピストン110の構成を模式的に示す。 射出ピストン110は、前方(-X方向)に配置された前方部材120と、後方(+X方向)に配置された後方部材130とが、射出ピストン110の断面直径が最大であり、射出用油圧シリンダ109(すなわち、ハウジング109A)の内面に最も近接なしは接触するピストン部110Aにおいて結合されている。前方部材120及び後方部材130は円筒形状の部材であり、その中空部には軸部材140が挿通されている。
【0019】
前方部材120の後方(+X方向)側には、最大の外径を有する前方ピストン部121が設けられている。前方ピストン部121には、前方ピストン部121よりも小さな外径を有する、前方(-X方向)に延在する円筒部材122と、後方(+X方向)に延在する嵌合部材123とが連結されている。
【0020】
後方部材130の前方(+X方向)端部には、X方向に延在する円筒形状であり、かつ最大の外径を有する後方ピストン部131が設けられている。後方ピストン部131には、後方ピストン部131よりも小さな外径を有する、後方(+X方向)に延在する円筒部材132が連結されている。
【0021】
軸部材140のX方向中央部には、相対的に外形が大きな保持部140Aが設けられている。また、保持部140Aには、径方向に張り出したフランジ部140Bが設けられている。前方ピストン部121及び嵌合部材123の内面と保持部140Aとの間には、径方向の力(ラジアル荷重)を受け止めるアンギュラベアリング(アンギュラ玉軸受)151が設けられており、これにより軸部材140の径方向に位置が保持される。後方ピストン部131の前方(-X方向)側端部とフランジ部140Bとの間には、軸方向(X方向)の力(アキシャル荷重又はスラスト荷重)を受け止めるスラストベアリング(スラストころ軸受)152が設けられている。軸部材140は、前方部材120及び後方部材130に対して、X方向に沿って所定の範囲内で移動可能に構成されるが、後方(+X方向)への動きはスラストベアリング152によって制限される。
【0022】
嵌合部材123の外径及び後方ピストン部131の内径は、嵌合部材123を後方ピストン部131に挿入できる寸法となっている。これにより、例えば、スラストベアリング152を組付けた後方部材30に、アンギュラベアリング151を組付けた軸部材140を挿入し、その後、軸部材140に前方部材120を被せて、嵌合部材123と後方ピストン部131とを嵌合させることで、射出ピストン110を構成することができる。
【0023】
このとき、径方向(例えば、Y方向又はZ方向)で見た場合、後方ピストン部131が嵌合部材123を覆っているので、ピストン部110Aの外面に生じる接合部110Bは、ピストン部110Aの前方(-X方向)に偏った位置となる。
【0024】
また、作動油の漏洩を防止するため、射出ピストン110と射出用油圧シリンダ109(すなわち、ハウジング109A)との間には、ガイドリングやオイルシールなどの密閉部材119A~119Cが設けられている。密閉部材119Aは、ハウジング109Aの-X側の開口部内面にはめ込まれた環状部材であり、ハウジング109Aの内面と前方部材120の円筒部材122の外面との間を密閉するように設けられる。密閉部材119Bは、後方部材130の後方ピストン部131の外面にはめ込まれた環状部材であり、ハウジング109Aの内面と後方ピストン部131の外面との間を密閉するように設けられる。密閉部材119Cは、ハウジング109Aの+X側の開口部内面にはめ込まれた環状部材であり、ハウジング109Aの内面と後方部材130の円筒部材132の外面との間を密閉するように設けられる。
【0025】
次いで、
図9に、射出ピストン110が第1の油排出口115Aを塞いだ状態を示す。上述の射出装置1000では、第1の油排出口115Aからは作動油が大流量にて排出され、第2の油排出口115Bからは第1の油排出口115Aよりも小さな流量で作動油が排出される。射出ピストン110が-X方向に前進して第1の油排出口115Aが完全に又はその大部分が塞がれると、射出ピストン110の側面のうち、側面部S11(黒塗り太線で表示)に加わる圧力は急速に(例えば大気圧に)低下する。
【0026】
これに対し、射出ピストン110の回りの作動油は、側面部S11以外の場所では、小流量の第2の油排出口115Bを通じてしか排出されないため、作動油の圧力が高圧となる(太線ハッチングで表示)。その結果、射出ピストン110の中心軸を挟んで側面部S11と対向する側面部S12に加わる作動油の圧力は高圧となる。これにより、射出ピストン110には、側面部S12から側面部S11の方向へ向かう偏荷重Fが作用することとなる。
【0027】
このとき、偏荷重Fによって、ピストン部110Aが下方(-Z方向)側に押しつけられる。そのため、後方ピストン部131にはめ込まれた密閉部材119Cに、荷重が集中することとなり、密閉部材119Bの偏摩耗などの劣化原因となる。また、密閉部材119Bの偏摩耗が進行すると、ピストン部110Aを十分に保持することができなくなり、ピストン部110Aが下方(-Z方向)側に変位してしまうことが考え得る。
【0028】
図10に、偏荷重によって変位したピストン部近傍を示す。このとき、ピストン部の変位が大きくなると、前方ピストン部121の前方(-X方向)側の角部121Aが第1の油排出口115Aの開口部に衝突する事態が生じ得る。なお、
図10では、変位がない場合の射出ピストンの輪郭線を破線で表示している。上述したように、接合部110Bがピストン部110Aの前方(-X方向)側、すなわち衝突部に近接した位置に存在するため、接合部110Bに大きな力が加わるおそれが有る。
【0029】
また、接合部110Bにおいては、前方ピストン部121及び後方ピストン部131が、2つの部材を結合する結合手段によって結合されている。例えば、結合手段としては、ボルトを用いることができ、前方ピストン部121の冠面121Cからは、前方ピストン部121及び後方ピストン部131を後方(+X方向)へ向けて貫通する雌ねじ(不図示)を設け、この雌ねじに雄ねじが設けられたボルト(不図示)を螺入することで、前方部材120と後方部材130とが締結される。なお、ボルトは結合手段の一例であり、後述するようにボルト以外の各種の結合手段を用いることができる。
【0030】
このように、結合手段を用いて前方部材120と後方部材130とを結合する場合、接合部110Bがピストン部110Aの前方(-X方向)側、すなわち衝突部に近接した位置に存在するためにこの結合手段にも大きな力が加わるおそれが有ることが理解できる。
【0031】
さらに、衝突部は、互いに直径が異なる前方ピストン部121と円筒部材122と間の、接続部の材料の厚みが比較的薄い接続部121Bにも近接しているため、この薄い部分にも大きな力が加わるおそれが有る。
【0032】
そこで、以下、実施の形態においては、射出ピストンの接合部へ大きな力が加わることを防止できる金属射出成形機の射出装置について説明する。
【0033】
図1は、実施の形態1にかかる金属射出成形機の射出装置の概略構成を示す図である。
図1に示す射出装置100は、加熱筒1と、加熱筒1の内部に軸方向及び回転方向に駆動自在に設けられるスクリュ2とを有する。加熱筒1の内部にはホッパ3から成形材料が投入され、投入された材料が、スクリュ2の回転に伴って発生する摩擦熱やせん断熱及び加熱筒1の外周に設けられているヒータ4から加えられる熱によって溶融する。そして、溶融した材料は、スクリュ2の回転により混練されて、加熱筒1の前方(-X方向)に送られる。加熱筒1の先端にはノズル5が取り付けられている。材料を射出するときには、加熱筒1の先端部に蓄えられた溶融状態の成形材料が、ノズル5を通して、型閉じされた金型6のキャビティ7内に注入される。
【0034】
スクリュ2は、モータ8によって回転駆動されるとともに、射出用油圧シリンダ9の内部に設けられた射出ピストン10によって軸方向に駆動される。
【0035】
射出用油圧シリンダ9内は、射出ピストン10によって2つの室に仕切られており、前方(-X方向)には前部室11B(第2の室とも称する)が設けられ、後方(+X方向)には後部室11A(第1の室とも称する)が設けられている。後部室11Aには、油圧ポンプ12により、アキュムレータ13へ蓄圧された圧油が流量制御弁14を介して供給される。
【0036】
なお、
図1~10では、射出ピストン10の中心軸に沿って前部室11Bから後部室11Aへ向かう方向をX方向、紙面に垂直かつ手前から奥へ向かう方向をY方向、紙面を下から上に向かう鉛直方向をZ方向としている。
【0037】
以下、前部室11Bの構成について具体的に説明する。
図2に、射出装置100の前部室11B近傍の拡大図を示す。前部室11Bには、射出ピストン10の所望の保圧切換位置で射出ピストン10によって完全に又は大部分が塞がれる第1の油排出口15Aと、射出ピストン10の最前進位置においても射出ピストン10によって塞がれることのない第2の油排出口15Bと、が設けられている。
【0038】
第1の油排出口15Aは、流量制御弁16を介して油タンク17につながっており、後述する射出工程において前部室11Bに蓄えられている作動油を油タンク17に排出するのに十分な大きさの開口面積を有している。
【0039】
第2の油排出口15Bは、射出用油圧シリンダ9の端面部に形成されている。第2の油排出口15Bは、流量制御弁18を介して油タンク17に繋がっており、後述する保圧工程において前部室11Bにある作動油を油タンク17に排出する。第2の油排出口15Bは保圧工程の流量及び後述する計量工程の射出ピストン10の+X方向への後退に必要な流量の作動油を流せればよいので、第1の油排出口15Aに比べて開口面積が小さくてもよい。例えば、第2の油排出口15Bの開口面積は第1の油排出口15Aの開口面積の1/10以下であってもよい。
【0040】
次いで、射出ピストン10について詳細に説明する。
図3に、実施の形態1にかかる射出ピストン10の構成を模式的に示す。
【0041】
射出ピストン10は、前方(-X方向)に配置された前方部材20(第2の部材とも称する)と、後方(+X方向)に配置された後方部材30(第1の部材とも称する)とが、射出ピストン10の断面直径が最大であり、射出用油圧シリンダ9(すなわち、ハウジング9A)の内面に最も近接なしは接触するピストン部10Aにおいて結合されている。前方部材20及び後方部材30は円筒形状の部材であり、その中空部には軸部材40が挿通されている。
【0042】
前方部材20の後方(+X方向)端部には、X方向に延在する円筒形状であり、かつ最大の外径を有する前方ピストン部21が設けられている。前方ピストン部21には、前方ピストン部21よりも小さな外径を有する、前方(-X方向)に延在する円筒部材22が連結されている。
【0043】
後方部材30の前方(-X方向)側には、最大の外径を有する後方ピストン部31が設けられている。後方ピストン部31には、後方ピストン部31よりも小さな外径を有する、後方(+X方向)に延在する円筒部材32と、前方(-X方向)に延在する嵌合部材33とが連結されている。
【0044】
軸部材40のX方向中央部には、相対的に外形が大きな保持部40Aが設けられている。また、保持部40Aには、径方向に張り出したフランジ部40Bが設けられている。前方ピストン部21の内面と保持部40Aとの間には、径方向の力(ラジアル荷重)を受け止めるアンギュラベアリング(アンギュラ玉軸受)51が設けられており、これにより軸部材40の径方向に位置が保持される。後方ピストン部31の前方(-X方向)側端部とフランジ部40Bとの間には、軸方向(X方向)の力(アキシャル荷重又はスラスト荷重)を受け止めるスラストベアリング(スラストころ軸受)52が設けられている。軸部材40は、前方部材20及び後方部材30に対して、X方向に沿って所定の範囲内で移動可能に構成されるが、後方(+X方向)への動きはスラストベアリング52によって制限される。
【0045】
嵌合部材33の外径及び前方ピストン部21の内径は、嵌合部材33を前方ピストン部21に挿入できる寸法となっている。これにより、例えば、スラストベアリング52を組付けた後方部材30に、アンギュラベアリング51を組付けた軸部材40を挿入し、その後、軸部材40に前方部材20を被せて、嵌合部材33と前方ピストン部21とを嵌合させることで、射出ピストン10を構成することができる。
【0046】
後方ピストン部31の冠面31Aからは、後方ピストン部31及び前方ピストン部21を前方(-X方向)へ向けて貫通する雌ねじ(不図示)が設けられており、この雌ねじに雄ねじが設けられたボルト60を螺入することで、前方部材20と後方部材30とが締結される。
【0047】
本構成では、径方向(例えば、Y方向又はZ方向)で見た場合、前方ピストン部21が嵌合部材33を覆っているので、ピストン部10Aの外面に生じる接合部10Bは、ピストン部10Aの後方(+X方向)に偏った位置となる。
【0048】
また、作動油の漏洩を防止するため、射出ピストン10と射出用油圧シリンダ9(すなわち、ハウジング9A)との間には、ガイドリングやオイルシールなどの密閉部材19A~19Cが設けられている。密閉部材19Aは、ハウジング9Aの-X側の開口部内面にはめ込まれた環状部材であり、ハウジング9Aの内面と前方部材120の円筒部材122の外面との間を密閉するように設けられる。密閉部材19Bは、後方部材130の後方ピストン部131の外面にはめ込まれた環状部材であり、ハウジング9Aの内面と後方ピストン部131の外面との間を密閉するように設けられる。密閉部材19Cは、ハウジング9Aの+X側の開口部内面にはめ込まれた環状部材であり、ハウジング9Aの内面と後方部材130の円筒部材132の外面との間を密閉するように設けられる。
【0049】
次いで、射出装置100による射出成形について説明する。射出成形は、主として、計量工程、射出工程及び保圧工程からなる。以下、工程ごとに説明する。
【0050】
計量工程は、キャビティ内へ充填する材料を計量する工程である。本工程では、固体状の成形材料をホッパ3から加熱筒1の内部へ投入し、スクリュ2を、モータ8によって回転駆動させつつ、射出用油圧シリンダ9で軸方向後方(+X方向)に駆動させる。これにより、加熱筒1の内部において、材料が溶融した状態でスクリュ2の前方に送られる。ここで、スクリュ2の移動量を測定することで、加熱筒1内に導かれた材料を計量することができる。
【0051】
射出工程は、キャビティ7内へ材料を充填する工程である。射出工程においては、計量値が所定の値に達したならば、射出用油圧シリンダ9に圧油を供給することでスクリュ2を軸方向前方に駆動し、計量された溶融状態の材料をノズル5から金型6のキャビティ7内に射出する。合金材料を射出成形する場合、溶融材料を比較的高速で射出しなければ溶湯が急速に冷却されてしまい、キャビティ7への充填が不十分となる。そこで、金属材料用の一般的な射出成形では、射出用油圧シリンダ9ヘの圧油供給源としてアキュムレータ13を使用して、スクリュ2を軸方向に高速(例えば、1~5m/s)で駆動して、溶融状態の材料を射出する。
【0052】
保圧工程は、材料の射出の終了後に、材料が冷却されることで生じる収縮を補うために、加熱筒1内に残っている材料へ加える圧力を保つことで、キャビティ7に充填された材料に圧力を加える工程である。その後、保圧圧力を加えながら、キャビティ7内の材料を冷却する。これにより、その材料をキャビティ7が有する所望の形状に成形することができる。
【0053】
このとき、射出工程から保圧工程への切換が早すぎると、材料のキャビティ7内への充填が不十分となり、成形品にショート(未充填)やヒケが生じてしまう。また、射出工程から保圧工程への切換が遅すぎると、材料のキャビティ7内への充填が過剰となり、バリが発生し、射出装置100や金型6の耐久性が低下してしまう。そのために、射出成形においては、射出終了時の保圧切換位置が一定に保つことが求められる。
【0054】
以下、本実施の形態での射出工程から保圧工程への移行時の動作について具体的に説明する。本実施の形態では、射出工程において、射出用油圧シリンダ9の後部室11Aにアキュムレータ13から圧油が供給されると、前部室11Bの第1の油排出口15Aから作動油が排出されつつ、射出ピストン10が射出方向(-X方向)に前進する。その後、射出ピストン10が保圧切換位置に達すると、第1の油排出口15Aは、射出ピストン10によって完全に又は大部分が塞がれた状態となる。
【0055】
本構成では、いかなる射出速度においても、射出ピストン10によって第1の油排出口15Aが閉塞されたとき(射出ピストン10が保圧切換位置まで達したとき)に前部室11Bからの作動油の排出が制限され、直ちにブレーキ圧(破線で表示)が発生する。これにより、射出ピストン10を急激に減速させることができる。射出工程から保圧工程への切換位置(保圧切換位置)は、射出ピストン10が第1の油排出口15Aを塞ぐ固定された位置とすることができる。
【0056】
なお、保圧切換位置は固定された位置となるので、成形品に対する保圧切換の時期は計量完了位置を調節することで制御可能である。
【0057】
また、流量制御弁18の排出流量を保圧工程で保持すべき圧力を実現できる値に設定しておくことで、射出ピストン10の減速後に、流量制御弁18を通じて、作動油を所望の流量だけ第2の油排出口15Bから排出することができる。これにより、後部室11Aに供給する圧油の圧力を制御して、射出工程から保圧工程へ円滑に移行させることができる。なお、第2の油排出口15Bからの作動油の排出流量の調節は、上記のように流量制御弁18を用いることに代えて、第2の油排出口15Bの数量や開口面積を適宜設定することで行うこともできる。
【0058】
次いで、本構成における射出ピストン10の破損防止について説明する。
図4に、射出ピストン10が第1の油排出口15Aを塞いだ状態を示す。上述の通り、第1の油排出口15Aからは作動油が大流量にて排出され、第2の油排出口15Bからは第1の油排出口15Aよりも小さな流量で作動油が排出される。よって、
図4に示すように、射出ピストン10が-X方向に前進して第1の油排出口15Aが完全に又はその大部分が塞がれると、射出ピストン10の側面のうち、第1の油排出口15Aに露出した側面部S1(黒塗り太線で表示、第1の面とも称する)に加わる圧力は急速に(例えば大気圧に)低下する。
【0059】
これに対し、射出ピストン10の回りの作動油は、側面部S1以外の場所では、小流量の第2の油排出口15Bを通じてしか排出されないため、作動油の圧力が高圧となる(太線ハッチングで表示、第2の面とも称する)。その結果、射出ピストン10の中心軸を挟んで側面部S1と対向する側面部S2に加わる作動油の圧力は高圧となる。これにより、射出ピストン10には、側面部S2から側面部S1の方向へ向かう偏荷重Fが作用することとなる。換言すれば、射出ピストン10の軸方向(X方向)を基準とした場合、偏荷重Fは、射出ピストン10に対するせん断力又はヨー方向へ作用する力であると理解できる。
【0060】
このとき、偏荷重Fによって、ピストン部10Aが下方(-Z方向)側に押しつけられる。そのため、後方ピストン部31にはめ込まれた密閉部材19Bに、荷重が集中することとなり、密閉部材19Bの偏摩耗が生じ得る。また、密閉部材19Bの偏摩耗が進行すると、ピストン部10Aを十分に保持することができなくなり、ピストン部10Aが下方(-Z方向)側に変位することが考え得る。なお、このときの変位は、射出ピストン10がY方向に平行移動する場合や、射出ピストン10が軸方向(X方向)と直交する方向(例えばY方向)を軸として回転する、すなわちヨーイングが生じる場合などが想定され得る。
【0061】
図5に、偏荷重によって変位したピストン部近傍を示す。ピストン部10Aの変位が大きくなると、前方ピストン部21の前方(-X方向)側の角部21Aが第1の油排出口15Aの開口部やハウジング9Aの内面に衝突する事態が生じ得る。なお、
図5では、変位がない場合の射出ピストンの輪郭線を破線で表示している。しかし、本構成では、接合部10Bがピストン部10Aの後方(+X方向)側、すなわち衝突部から離隔した位置に存在するため、衝突時に力が加わったとしても、接合部10Bに対する影響が無い、ないしは小さいものと考えられる。そのため、接合部10Bが破損するおそれを防止できる。
【0062】
また、本構成においては、接合部10Bが第1の油排出口15Aに露出することもないため、圧力差によって接合部10Bに荷重がかかることも防止できる。この観点からも、接合部10Bが破損防止にとって有利である。
【0063】
以上、本構成によれば、密閉部材19Bの偏摩耗によって前方ピストン部21がハウジング9Aと接触する場合でも、2つの部材を結合して構成された射出ピストン10の破損を防止することができる。
【0064】
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述の実施の形態では、前方部材20と後方部材30とがボルトによって締結される場合について説明したが、結合方法はこれに限られない。前方ピストン部21の内面に雌ねじを設け、嵌合部材33の外面に雄ねじを設け、嵌合部材33を前方ピストン部21に螺入することで、前方部材20と後方部材30とを締結してもよい。また、前方ピストン部21と嵌合部材33とを溶接又は接着剤で接着することで、前方部材20と後方部材30とを結合してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1、101 加熱筒
2、102 スクリュ
3、103 ホッパ
4、104 ヒータ
5、105 ノズル
6、106 金型
7、107 キャビティ
8、108 モータ
9、109 射出用油圧シリンダ
9A、109A ハウジング
10、110 射出ピストン
10A、110A ピストン部
10B、110B 接合部
11A、111A 後部室
11B、111B 前部室
12、112 油圧ポンプ
13、113 アキュムレータ
14、114 流量制御弁
15A、115A 油排出口
15B、115B 油排出口
16、116 流量制御弁
17、117 油タンク
18、118 流量制御弁
19A-19C、119A-119C 密閉部材
20、120 前方部材
21、121 前方ピストン部
21A、121A 角部
22、122 円筒部材
30、130 後方部材
31、131 後方ピストン部
31A、121C 冠面
32、132 円筒部材
33 嵌合部材
40、140 軸部材
40A 保持部
40B フランジ部
60 ボルト
51 アンギュラベアリング
52 スラストベアリング
100 射出装置
121B 接続部
123 嵌合部材
1000 射出装置