(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/535 20060101AFI20240627BHJP
A61F 13/534 20060101ALI20240627BHJP
A61F 13/53 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A61F13/535 100
A61F13/534 100
A61F13/53 300
(21)【出願番号】P 2020143860
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓑田 哲宏
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-120937(JP,A)
【文献】特開2001-046435(JP,A)
【文献】特開2019-088465(JP,A)
【文献】特開2019-170625(JP,A)
【文献】特開2013-255818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これらの間に配置された吸収体と、を含む吸収性物品であって、
前記吸収体は、肌側に位置する肌側吸収シートと、非肌側に位置する非肌側吸収シートとを有し、
前記肌側吸収シート及び前記非肌側吸収シートのいずれか一方又は両方の幅方向寸法が200mm以上300mm以下であり、
前記肌側吸収シート及び前記非肌側吸収シートは、それぞれ、非肌側面が複数の起毛繊維が立設された起毛面である親水性の基体不織布と、前記基体不織布の前記起毛面の前記起毛繊維間に高吸収性ポリマーを固着担持させた高吸収性ポリマー固着担持層と、前記基体不織布及
び体液吸収層の全体を包む親水性シートと、を備え、
前記肌側吸収シートは、
前記高吸収性ポリマーの目付が相対的に高い第1領域、及び一対の第3領域と、前記高吸収性ポリマーの目付が相対的に低い一対の第2領域と、を含み、
前記第1領域は前記肌側吸収シートの幅方向中央を長手方向に帯状に延び、前記第2領域は前記第1領域の幅方向両外縁に隣接して長手方向に帯状に延び、前記第3領域は一対の前記第2領域の幅方向各外縁に隣接して長手方向に延び、
前記非肌側吸収シートは、
前記高吸収性ポリマーの目付が相対的に低い第4領域と、前記高吸収性ポリマーの目付が相対的に高い一対の第5領域と、を含み、
前記第4領域は前記非肌側吸収シートの幅方向中央を長手方向に帯状に延び、前記第5領域は前記第4領域の幅方向両外縁に隣接して長手方向に帯状に延びる、吸収性物品。
【請求項2】
前記肌側吸収シートの前記第2領域と、前記非肌側吸収シートの前記第4領域とが、厚み方向に部分的に重なり合う、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記第3領域は、前記高吸収性ポリマーの目付が前記第1領域よりも低く、かつ前記第2領域よりも高い、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記高吸収ポリマーの目付は、前記第1領域が180g/m2以上380g/m2以下、前記第2領域が20g/m2以上70g/m2以下、前記第3領域が120g/m2以上320g/m2以下であり、前記第4領域が20g/m2以上70g/m2以下、及び前記第5領域が120g/m2以上320g/m2以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記第1領域の幅方向寸法が70mm以上100mm以下、前記第2領域の幅方向寸法が35mm以上80mm以下、前記第3領域の幅方向寸法が30mm以上60mm以下、前記第4領域の幅方向寸法が前記第1領域の幅方向寸法の110%以上150%以下、及び前記第5領域の幅方向寸法が30mm以上60mm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記基体不織布は、目付が35g/m2以上120g/m2以下のエアスルー不織布である、請求項1~5のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
吸収性物品は、一般に、液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これらの間に配置された吸収体と、を備え、トップシートを透過した尿等の体液を、吸収体で吸収及び保持するものである。吸収性物品には、成人用又は幼児用を問わず、テープタイプの紙おむつ、パンツタイプの紙おむつ、尿取りパッド、軽失禁パッド等、用途に応じて様々な種類が存在する。
【0003】
従来から、吸収体としては、フラッフパルプと高吸収性ポリマー(Super Absorbent Polymer、以下「SAP」ともいう)とを組み合わせたフラッフパルプ吸収体が一般的に使用されている。一方、吸収性物品の大半を占める吸収体を薄肉化する観点から、2枚の不織布と、これらの間に配置され、SAPをホットメルト接着剤により固着担持したSAP固着担持層と、を含み、フラッフパルプを含有しない高吸収シート(以下「SAPシート」ともいう)が開発され、種々の提案がなされている。
【0004】
特許文献1には、吸収体の吸収性能を確保すること等を目的として、それぞれ一方の面が接着剤塗布面である第1、第2シートと、第1、第2シートの各接着剤塗布面の間に長手方向に延びてストライプ状に配置された複数のSAP固着担持層と、を備え、第2シートの接着剤塗布面におけるSAP固着担持層との対面領域では接着剤が間欠的に塗布され、かつSAP固着担持層の幅方向両側でSAP固着担持層を介さずに直接対面する第1、第2シートの各接着剤塗布面には接着剤が長手方向に連続的に塗布された高吸収シートが開示されている。
【0005】
特許文献2には、着用者の股間へのフィット性を高めることを目的として、トップシートとバックシートとの間で幅方向の一方及び他方に配設された第1吸収体、及び第2吸収体を備え、第1吸収体、及び第2吸収体は、それぞれ、2枚の不織布と、その間に配置されたSAP粒子と含むSAPシートであり、かつ長手方向に延びて幅方向に対向する第1、第2の折り目で折り返された積層構造を有する、吸収性物品が開示されている。さらに、特許文献2には、SAPシートである第3吸収体を更に備え、第3吸収体が第1、第2吸収体の着用者肌側に配置された、SAPシートを2層重ね合わせた吸収体を備える、吸収性物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-158676号公報
【文献】特開2013-042882号公報(請求項1、請求項5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
吸収性物品の着用者の中には、車椅子使用で壮年までの比較的尿量の多い人等の、足が不自由で排泄機能が健常な人がいる。このような人は日常を座位で過ごすことが比較的多く、座位の妨げになり難い、薄型で高吸収な吸収性物品が求められている。座位での着用は、仰臥位での着用よりも体重が吸収性物品の狭い領域にかかるため、大量に排尿した場合に拡散が追いつかず、モレを生じやすいという課題がある。
【0008】
特許文献1及び特許文献2に記載のように、複数のSAPシートを積層して又は1枚のSAPシートを折り返して吸収体を構成することは知られている。しかしながら、特許文献1及び特許文献2では前述の課題は考慮されていない。また、特許文献1及び特許文献2に記載のSAPシートは、大きな体圧が掛かった状態での体液の拡散性の低下を防止する構成を備えておらず、前述の課題を解決することはできない。
【0009】
本発明の目的は、薄型で吸収力が高く、座位で大きな体圧がかかる状態でも良好な拡散性を維持し、吸収力を十分活用できる吸収体を備える吸収性物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、起毛面にSAP固着担持層を設けた基体不織布の全体を親水性シートで包んだSAPシートを2層重ね合わせ、各SAPシートにSAPの目付が異なる長手方向に延びる領域を幅方向に設け、一のSAPシートのSAP目付が相対的に低い領域と、他のSAPシートの相対的にSAP目付が相対的に低い領域と、が厚み方向に部分的に重なるように構成することで、所望の吸収体及び吸収性物品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記の吸収性物品に係る。
【0011】
(1)液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これらの間に配置された吸収体と、を含む吸収性物品であって、
前記吸収体は、肌側に位置する肌側吸収シートと、非肌側に位置する非肌側吸収シートとを有し、
前記肌側吸収シート及び前記非肌側吸収シートのいずれか一方又は両方の幅方向寸法が200mm以上300mm以下であり、
前記肌側吸収シート及び前記非肌側吸収シートは、それぞれ、非肌側面が複数の起毛繊維が立設された起毛面である親水性の基体不織布と、前記基体不織布の前記起毛面の前記起毛繊維間に高吸収性ポリマーを固着担持させた高吸収性ポリマー固着担持層と、前記基体不織布及び前記体液吸収層の全体を包む親水性シートと、を備え、
前記肌側吸収シートは、
前記高吸収性ポリマーの目付が相対的に高い第1領域、及び一対の第3領域と、前記高吸収性ポリマーの目付が相対的に低い一対の第2領域と、を含み、
前記第1領域は前記肌側吸収シートの幅方向中央を長手方向に帯状に延び、前記第2領域は前記第1領域の幅方向両外縁に隣接して長手方向に帯状に延び、前記第3領域は一対の前記第2領域の幅方向各外縁に隣接して長手方向に延び、
前記非肌側吸収シートは、
前記高吸収性ポリマーの目付が相対的に低い第4領域と、前記高吸収性ポリマーの目付が相対的に高い一対の第5領域と、を含み、
前記第4領域は、前記非肌側吸収シートの幅方向中央を長手方向に帯状に延び、前記第5領域は、前記第4領域の幅方向両外縁に隣接して長手方向に帯状に延びる、吸収性物品。
(2)前記肌側吸収シートの前記第2領域と、前記非肌側吸収シートの前記第4領域とが、厚み方向に部分的に重なり合う、上記(1)の吸収性物品。
(3)前記第3領域は、前記高吸収性ポリマーの目付が前記第1領域よりも低く、かつ前記第2領域よりも高い、上記(1)又は(2)の吸収性物品。
(4)前記高吸収ポリマーの目付は、前記第1領域が180g/m2以上380g/m2以下、前記第2領域が20g/m2以上70g/m2以下、前記第3領域が120g/m2以上320g/m2以下であり、前記第4領域が20g/m2以上70g/m2以下、及び前記第5領域が120g/m2以上320g/m2以下である、上記(1)~(3)のいずれかの吸収性物品。
(5)前記第1領域の幅方向寸法が70mm以上100mm以下、前記第2領域の幅方向寸法が35mm以上80mm以下、前記第3領域の幅方向寸法が30mm以上60mm以下、前記第4領域の幅方向寸法が前記第1領域の幅方向寸法の110%以上150%以下、及び前記第5領域の幅方向寸法が30mm以上60mm以下である、上記(1)~(4)のいずれかの吸収性物品。
(6)前記基体不織布は、目付が35g/m2以上120g/m2以下のエアスルー不織布である、上記(1)~(5)のいずれかの吸収性物品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薄型で吸収力が高く、座位で大きな体圧がかかる状態でも良好な拡散性を維持し、吸収力を十分活用できる吸収体を備える吸収性物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る吸収性物品の構成を示す模式平面図である。
【
図2】
図1に示すX
1-X
1切断線による幅方向の模式断面図である。
【
図3】吸収体中のSAP目付の構成を示す模式平面図である。(a)は肌側吸収シートを示し、(b)は非肌側吸収シートを示す。
【
図4】吸収体中のSAP目付の構成による作用効果を示す模式平面図である。(a)は肌側吸収シートを示し、(b)は非肌側吸収シートを示す。
【
図5】
図3又は
図4に示すB-B切断線による幅方向の模式断面展開図である。
【
図6】車イス利用者の座位での体圧分布例を示す。図において、色が濃いほど体圧が大きいことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、吸収性物品の着用とは、体液の吸収前後を問わず、吸収性物品を身体に装着した状態をいう。吸収性物品において、長手方向とは吸収性物品を身体に着用したときに着用者の股間部を介して身体の前後に亘る、図中Yで示す方向であり、幅方向とは長手方向に対して直交する、図中Xで示す方向であり、厚み方向とは各構成部材を積層する、図中Zで示す方向である。肌側面とは、吸収性物品を着用したときに、着用者の肌に当接する表面及び肌を臨む表面であり、非肌側面とは、着用者の衣服に接触する表面又は衣服を臨む表面である。体液とは、尿や血液、軟便中の水分等の体内から体外に排出された液体をいう。
【0015】
<吸収性物品>
以下、図面を参照しつつ、第1実施形態に係る吸収性物品50について説明する。
図1及び
図2は、吸収性物品50を示す。
図3~
図5は、吸収体20を示す。これらの図面は吸収性物品50中の各構成部材の形状や寸法、大小関係等を規定するものではない。
【0016】
本実施形態の吸収性物品50は、ベビー用及び成人用の種々の吸収性物品として使用でき、例えば、軽失禁パッド、尿吸収パッド、パンツ型紙おむつ、テープ止め紙おむつ等が挙げられる。アウターとしての各種紙おむつと、インナーとしての吸収性物品50とを組み合わせてもよい。吸収性物品50の、長手方向の寸法、及び幅方向の寸法はいずれも特に限定されないが、例えば、100mm以上800mm以下の範囲、及び50mm以上500mm以下の範囲である。吸収性物品50の寸法を前記の範囲に調整すると、種々の形態の吸収性物品が容易に得られる。
【0017】
図1及び
図2に示す吸収性物品50は、肌側に位置する、液透過性のトップシート10と、トップシート10に対向配置され、非肌側に位置する液不透過性のバックシート30と、トップシート10とバックシート30との間に配置された吸収体20と、トップシート10の肌側面に設けられた一対の立体ギャザー40と、を備える。
【0018】
本実施形態の吸収体20は、起毛面11aにSAP固着担持層を設けた基体不織布11の全体を親水性シート13で包んだ肌側吸収シート60、非肌側吸収シート70を2層重ね合わせ、肌側吸収シート60、及び非肌側吸収シート70に、それぞれ、長手方向に延びて、SAP目付が異なる領域を幅方向に設け、SAP高目付領域として、肌側吸収シート60は第1領域61、及び第3領域62を有し、非肌側吸収シート70は第5領域71を有し、肌側吸収シート60のSAP低目付領域である一対の第2領域63と、非肌側吸収シート70の幅方向中央に設けられたSAP低目付領域である第4領域72の幅方向両端部分と、が厚み方向に部分的に重なり合うように構成したものである。
【0019】
本実施形態によれば、第1に、肌側吸収シート60及び非肌側吸収シート70で交互に設けられた、拡散性向上部位(SAP低目付領域である一対の第2領域63及び第4領域72)と、高吸収部位(SAP高目付領域である第1領域61、一対の第3領域62、一対の第5領域71)との相乗効果で、薄型でありながら、高体圧下でも体液拡散性に優れ、吸収能力が高く、体液を繰り返し吸収できる吸収体20が得られる。
第2に、SAP低目付の第2領域63及び第4領域72を着用者の股間部に主に当接する股部付近に配し、適度な伸縮性、フィット感が得られることから、装着感に優れ、また、基体不織布11が起毛面11aの複数の起毛繊維11xにより適度なクッション性を示すことから、座位で使用する場合に座面の固さや脚周り腰回りの圧迫感が、着用者の負担にならない程度に軽減される、吸収体となる。
第3に、肌側吸収シート60及び非肌側吸収シート70の各幅方向両端部にSAP高目付の第3領域62、第5領域71を配したことで、横モレを十分に抑制する吸収体が得られる。
したがって、本実施形態の吸収体20を備える吸収性物品50は、薄型で、車イス使用時の座位での、身体は比較的健常で尿量の多い着用者の排尿量にも対応できる高い拡散性及び吸収量を有し、繰返し体液を吸収しても吸収速度が初期の水準に維持され、ウエットバックや横モレの心配もなく、従来のフラッフパルプ吸収体より薄く圧迫感が軽減され、フィット感や装着感に優れた履き心地の良いものとなる。
【0020】
以下、シート状又は板状の各構成部材について、トップシート10、吸収体20、バックシート30及び立体ギャザー40の順でさらに詳しく説明する。これらの構成部材は、シート状及び板状以外の立体形状を有していてもよい。
【0021】
<トップシート>
トップシート10は、吸収体20に向けて体液を速やかに通過させる液透過性のシート状部材であり、吸収体20を挟んで、バックシート30に対向して配置される。トップシート10は、着用者の肌に当接する場合あることから、柔らかな感触で、肌に刺激を与えない基材が好ましい。該基材としては、例えば、親水性シート、同種又は異種の親水性シートの積層体である複合不織布、開口ポリエチレンフィルム等の開口性フィルム、ポリエチレンフォーム、ウレタンフォーム等の発泡フィルム等が挙げられる。親水性シートとしては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等の合成樹脂からなる合成繊維、レーヨン等の再生繊維、綿等の天然繊維等を用いて作製された、エアスルー不織布、サーマルボンド不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布等が挙げられる。
【0022】
トップシート10には、液透過性を向上させる観点から、公知の方法に従ってエンボス加工や穿孔加工を表面に施してもよい。トップシート10には、肌への刺激を低減させる観点から、ローション、酸化防止剤、抗炎症成分、pH調整剤、抗菌剤、保湿剤等の1種又は2種以上を含有させてもよい。トップシート10の坪量は、強度、加工性及び液戻り量の観点から、例えば、15g/m2以上40g/m2以下の範囲である。トップシート10の形状は特に制限されず、漏れがないように体液を吸収体20へと誘導するために必要とされる、吸収体20の一部又は全部を覆う形状であればよい。
【0023】
<吸収体>
吸収体20は、例えば、トップシート10を透過してきた体液を吸収、及び保持する。本実施形態の吸収体20は、
図2に示すように、着用者の肌側(又はトップシート10側)に位置する肌側吸収シート60と、着用者の非肌側(又はバックシート30側)に位置する非肌側吸収シート70との、厚み方向の積層体として構成され、肌側吸収シート60の幅方向寸法W
1(全幅、
図3及び
図4)及び/又は非肌側吸収シート70の幅方向寸法は、200mm以上の範囲又は200mm以上300mm以下の範囲である。本実施形態の肌側吸収シート60の平面視形状は砂時計型であり、非肌側吸収シート70の平面視形状は略長方形である(
図3及び
図4)が、これに限定されず、後述する種々の平面視形状とすることができる。ここで、肌側吸収シート60と、非肌側吸収シート70とは、各々の幅方向中心を長手方向に延びる中心線(仮想線)が厚み方向に重なるように積層されている。
【0024】
好ましい実施形態では、肌側吸収シート70の幅方向寸法W1(全幅)を200mm以上の範囲又は200mm以上300mm以下の範囲とし、非肌側吸収シート70の幅方向寸法を肌側吸収シート60よりも40mm以上120mm以下の範囲で幅狭にすることで、後述する肌側吸収シート60の第3領域62と、非肌側吸収シート70の第5領域71とでカバーされる領域の面積が増加して幅広になり、横モレ防止効果がさらに大きくなる。
【0025】
図5に示すように、肌側吸収シート60、及び非肌側吸収シート70は、それぞれ、複数の起毛繊維11xが立設された起毛面11a及び起毛処理が施されていない非起毛面11bを有し、親水性不織布である基体不織布11と、起毛面11aの複数の起毛繊維11x間に固着担持され、SAP固着担持層を形成する高吸収性ポリマー12と、基体不織布11及びSAP固着担持層の全体を包む親水性シート13と、を備え、フラッフパルプ等の吸収性繊維を含まない高吸収性シートである。
【0026】
親水性シート13は、例えば、ホットメルト接着剤や熱エンボス加工によりSAP固着担持層の表面と接着された後、C折りされ、基体不織布11の非起毛面11bの肌側で幅方向両端部が厚み方向に重なり合うようにして、基体不織布11及びSAP固着担持層の全体を包んでいる。親水性シート13の幅方向両端部を、必要に応じて、ホットメルト接着剤等で固定してもよい。ここで使用されるホットメルト接着剤は、SAP固着担持層において高吸収性ポリマー12を起毛繊維11x間に固着担持するのに用いられるホットメルト接着剤と同じものの中から適宜選択される。なお、
図5では、SAP低目付領域である、肌側吸収シート60の第2領域63、非肌側吸収シート70の第4領域72を、高吸収性ポリマー12が固着担持されていない領域として示しているが、これに限定されず、後述する範囲で高吸収性ポリマー12を固着担持していてもよい。
【0027】
肌側吸収シート60、及び非肌側吸収シート70には、それぞれ、長手方向に延びる複数のSAP目付の異なる領域を幅方向に設け、体液の長手方向への拡散を促進し、体液の幅方向の拡散を高吸収ポリマー12による吸収で抑制している。
【0028】
(肌側吸収シート)
肌側吸収シート60は、その幅方向中央部を長手方向に帯状に延びる、SAP高目付領域としての第1領域61と、第1領域61の幅方向両外縁に隣接して長手方向に帯状に延びる、SAP低目付領域としての一対の第2領域63と、第2領域63の幅方向各外縁に隣接して長手方向に延びる、SAP高目付領域又はSAP中間目付領域としての一対の第3領域62と、を含んでいる。ここで、第3領域62のSAP中間目付領域とは、第1領域61と同程度又は相対的に低いSAP目付を有し、かつ第2領域63と同程度又は相対的に高いSAP目付を有する領域である。
【0029】
第1領域61は、幅方向寸法a(
図3(a)及び
図4(a))が70mm以上100mm以下の範囲であり、第1領域61のSAP固着担持層における高吸収ポリマー12の目付(以下「SAP目付」ともいう)は180g/m
2以上の範囲又は180g/m
2以上380g/m
2以下の範囲である。幅方向寸法a及びSAP目付をそれぞれ前記範囲内とすることで、第1領域61が主に着用者の臀裂部付近に当接し、排出された体液を効率よく吸収できる。幅方向寸法aが70mm未満では、多量の体液が急激に排出された場合に、体液の吸収が不十分になる傾向がある。幅方向寸法aが100mmを超えると、体液拡散性が低下する傾向がある。また、SAP目付が180g/m
2未満では、吸収体20ひいては吸収性物品50の吸収性能が低下する傾向がある。また、SAP目付が多すぎると、高吸収性ポリマー12の体液吸収に伴うゲルブロッキングが発生し、吸収速度が低下する傾向があるので、SAP目付が必要以上に多くならないように適宜選択する必要がある。また、第1領域61は、排出された体液が肌側に戻るウエットバックの防止にも有効である。
【0030】
第2領域63は、第1領域61の幅方向両外縁に隣接して長手方向に帯状に延びる一対の領域であり、幅方向寸法b
1、b
2(
図3(a)及び
図4(a))が35mm以上80mm以下の範囲であり、SAP目付が70g/m
2以下の範囲である。吸収性物品50の着用者が車イスに座ると、
図4(a)のように、第2領域63の点線で囲まれた領域Aに着用者の臀部が当接し、領域Aには大きな荷重が掛かる。しかしながら、第2領域63はSAP低目付領域であり、高吸収性ポリマー12が存在しないか又は比較的少量存在し、体液の拡散を妨げるものがない。したがって、第2領域63に大きな荷重が掛かっても、大部分が液体である体液の拡散が妨げられず、良好な体液拡散性が保持される。また、第2領域63は、
図4(a)に示すように体液を長手方向の両側に拡散させ、吸収体20全体の体液拡散性を向上させる。
【0031】
また、第2領域63は、基体不織布11の柔軟性やクッション性が十分に維持され、第1領域61よりもフィット感に富む領域になる。第1領域61の幅方向寸法aに対して幅方向寸法b1、b2を設定することで、SAP低目付領域としての第2領域63は主に臀部付近に当接する。このため、吸収性物品50の着用者が車イスを長時間利用しても、着用者は臀部の痛みを感じにくい傾向にある。
【0032】
第2領域63の幅方向寸法b1、b2が35mm未満では、体液拡散性が低下する傾向があり、80mmを超えると、体液吸収性が低下する傾向がある。また、第2領域63のSAP目付が70g/m2を超えると、第2領域63の体液拡散性や柔らかな肌触りが低下する傾向がある。
【0033】
第3領域62は、第2領域63の幅方向各外縁に隣接して長手方向に延び、主に体側部(足の付け根から太ももの内側等)に当接する領域であり、幅方向寸法c
1、c
2(
図3(a)及び
図4(a))が30mm以上の範囲又は30mm以上60mm以下の範囲であり、SAP目付が120g/m
2以上の範囲、又は120g/m
2以上320g/m
2以下の範囲である。第3領域62は、SAP中目付領域として、第1領域61よりも少なく、かつ第2領域63よりも多いSAP目付とすることで、第2領域63の幅方向外側への体液の流れを抑制しつつ、第2領域63から幅方向外側に流れ出た体液を確実に吸収し、横モレを防止するように機能する。第3領域62の幅方向寸法c
1、c
2が30mm未満であるか及び/又は第3領域62のSAP目付が120g/m
2未満であると、第2領域63から幅方向外側に漏れ出した体液を十分に吸収できない傾向がある。第3領域62の幅方向寸法、及びSAP目付の各上限は、第3領域62の機能が十分に発揮される範囲内で適宜選択できる。
【0034】
(非肌側吸収シート)
非肌側吸収シート70は、
図2及び
図3に示すように、その幅方向中央部を長手方向に帯状に延びる、SAP低目付領域としての第4領域72と、第4領域72の幅方向外縁に隣接して長手方向に帯状に延びる、SAP高目付領域としての一対の第5領域71と、を含んでいる。SAP低目付領域である第4領域72の幅方向両側を、SAP高目付領域である第5領域71で囲むことで、第4領域72を拡散する体液の、吸収性物品50外へのモレを抑制し、第5領域71や肌側吸収シート60の第1領域61、第3領域62に体液が効率良く吸収されるように構成している。
【0035】
第4領域72は、非肌側吸収シート70の幅方向中央部を長手方向に帯状に延びて着用者の主に臀裂部付近に当接し、幅方向寸法d(
図3(b)及び
図4(b))が第1領域61の幅方向寸法aの110%以上の範囲又は110%以上150%以下の範囲であり、SAP目付が70g/m
2以下又は20g/m
2以上70g/m
2以下の範囲である。第4領域72は、SAP低目付領域であり、
図4(b)に示すように長手方向への体液の拡散経路になる。第4領域72の幅方向寸法dを、肌側吸収シート60の第1領域61の幅方向寸法aの110%以上とすることで、肌側吸収シート60の低目付領域である第2領域63と、非肌側吸収シート70の低目付領域である第4領域72とが、第4領域72の幅方向両端付近で厚み方向に重なり合って相互に補完し合い、肌側吸収シート60から非肌側吸収シート70にわたる、体液の拡散経路が形成される。その結果、吸収体20全体としての高体圧下での体液拡散性が向上する。
【0036】
第4領域72の幅方向寸法dが第1領域61の幅方向寸法aの110%未満であると、第2領域63と第4領域72との厚み方向での重なり幅が小さくなり、体液の拡散性が不十分になる傾向がある。また、第4領域72のSAP目付が70g/m2を超えると、第4領域72の体液拡散性が低下し、吸収体20全体としての体液拡散性が不十分になる傾向がある。第4領域72の幅方向寸法d及びSAP目付の各上限は、第2領域63と第4領域72との連結領域の体液拡散性が低下しない範囲から適宜選択することができる。
【0037】
第5領域71は、第4領域72の幅方向各外縁に隣接して長手方向に帯状に延び、着用者の主に臀部付近に当接する一対のSAP高目付領域であり、幅方向寸法e
1、e
2(
図3(b)及び
図4(b))が30mm以上の範囲又は30mm以上60mm以下の範囲、SAP目付が120g/m
2以上の範囲又は120g/m
2以上320g/m
2以下の範囲である。第5領域71は、肌側吸収シート60の第3領域62と協働して、横モレを防止する。第5領域71の幅方向寸法e
1、e
2が30mm未満であるか及び/又はSAP目付が120g/m
2を超えると、体液の横モレを防止する効果が不十分になる傾向がある。なお、幅方向寸法の上限は、例えば、吸収体20ひいては吸収性物品50のフィット感が損なわれない範囲で適宜選択できる。また、SAP目付の上限は、体液吸収に伴って第5領域71にごつごつした肌触りが生じやすくなることから、吸収体20ひいては吸収性物品50の着用感が損なわれない範囲で適宜選択できる。
【0038】
次に、吸収体20を構成する肌側吸収シート60及び非肌側吸収シート70を構成する基体不織布11、高吸収性ポリマー12、親水性シート13について、この順で説明する。
【0039】
(基体不織布)
図3に示すように、基体不織布11の片側表面11aには、基体不織布11を構成する繊維が起毛した起毛繊維11xが複数立設されている。そのため、不織布本来の嵩高さに加えて、側吸収シート60や非肌側吸収シート70に適度な厚みとやわらかさが付与され、良好なクッション性が発生し、着用時のフィット感が向上する。また、基体不織布11を起毛させると、起毛繊維11x間に高吸収性ポリマー12を分散させて固着担持させることができる。基体不織布11の片側表面11aを起毛させる方法としては、回転ノコ刃、ニードルパンチ等を用いる方法が挙げられ、インラインでの生産性やコストの観点から回転ノコ刃を用いる方法が好ましい。
【0040】
基体不織布11における起毛の程度は特に限定されず、目視で起毛を確認できればよいが、例えば、起毛の程度としての起毛率が5%以上90%以下の範囲、又は8%以上80%以下の範囲である。起毛率とは、起毛加工による基体不織布11の厚さの増加率を意味する。起毛前の基体不織布11の厚さをT1、起毛後の基体不織布11の厚さをT2としたとき、起毛率(%)=[(T2―T1)/T1]×100である。厚さT1、T2は、ハイトゲージ((株)ミツトヨ製)を用いて無荷重下で測定される。また、基体不織布11の非起毛面11bでも、繊維を起毛させてもよい。
【0041】
基体不織布11を構成する基材としては、例えば、エアスルー不織布、ポイントボンド不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布等の不織布や、スパンボンド不織布/メルトブロー不織布積層体、スパンボンド不織布/メルトブロー不織布/スパンボンド不織布積層体等の複合不織布等が挙げられる。これらの不織布の中でも、嵩を高くする観点等から、エアスルー不織布が好ましい。
【0042】
基体不織布11の厚さは特に限定されないが、着用感及び吸収性能のバランスの観点から、0.3mm以上11.0mm以下の範囲、0.5mm以上5.0mm以下の範囲又は0.5mm以上2.0mm以下の範囲である。また、基体不織布11の坪量は特に限定されないが、例えば、35g/m2以上120g/m2以下の範囲である。
【0043】
基体不織布11としてエアスルー不織布を用いる場合、エアスルー不織布の坪量が35g/m2以上120g/m2以下の範囲である。好ましい実施形態では、エアスルー不織布を構成する繊維の太さが1.6dtex以上14dtex以下の範囲、1.8dtex以上9.0dtex以下の範囲又は2.0dtex以上6.0dtex以下の範囲である。エアスルー不織布を構成する繊維の太さを上述の範囲に調整することにより、エアスルー不織布の起毛繊維11x間に高吸収性ポリマー12を分散させて固着担持させやすくなり、起毛面11aにおける高吸収性ポリマー12の均一分散性が向上する。
【0044】
(高吸収性ポリマー)
高吸収性ポリマー12としては、尿を吸収し、かつ、逆流を防止できるものであれば特に制限はなく、ポリアクリル酸塩、ポリアスパラギン酸塩、(デンプン・アクリル酸)グラフト共重合体、(アクリル酸・ビニルアルコール)共重合体、(イソブチレン・無水マレイン酸)共重合体及びそのケン化物等が挙げられる。これらの中でも、重量当たりの吸収量の観点から、ポリアクリル酸塩が好ましく、ポリアクリル酸ナトリウムがより好ましい。肌側吸収シート60及び非肌側吸収シート70における高吸収性ポリマー12の坪量(目付)は、前述した範囲である。
【0045】
粉体としての流動性が悪い微粉末の高吸収性ポリマー12の使用を避けると、吸収速度や吸収量等の吸収性能を高め、ごつごつとした触感の発生を低減できる。したがって、中位粒子径を有する粒子状の高吸収性ポリマー12が好ましい。中位粒子径は、例えば、50μm以上600μm以下の範囲又は100μm以上500μm以下の範囲である。
【0046】
好ましい実施形態では、高吸収性ポリマー12は、ホットメルト接着剤により、起毛繊維11x間に固着担持される。ホットメルト接着剤は、基体不織布11の坪量が比較的低いとき等に、高吸収性ポリマー12の固着担持を補強する。ホットメルト接着剤の含有量は、高吸収性ポリマー12の吸収性及び着用時の肌触りを損なわない観点から、例えば10g/m2以下の範囲である。なお、高吸収性ポリマー12の吸収性を阻害せず、かつ、着用時の肌触りを損なわないという観点から、ホットメルト接着剤の含有量は例えば10g/m2以下の範囲である。ホットメルト接着剤としては融点が100℃以上180℃以下のものを特に限定なく使用でき、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレン系共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン系共重合体等の合成ゴム系ホットメルト接着剤、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のオレフィン系ホットメルト接着剤等が挙げられる。ホットメルト接着剤の塗布方法としては、ノズルから溶融状態のホットメルト接着剤を非接触式で塗布するカーテンコート法やスパイラル法、接触式で塗布するスロット法等、公知の方法が利用できる。
【0047】
(親水性シート)
親水性シート13は、例えば、SAP固着担持層全体に体液をほぼ均一に拡散させたり、SAP固着担持層からの高吸収性ポリマー12の脱落を防止したりする。親水性シート13としては、この分野で常用されるものをいずれも使用でき、例えば、ティシュペーパー、吸収紙、親水性不織布等が挙げられる。親水性不織布としては、例えば、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布、エアレイド不織布、エアスルー不織布パルプ含有不織布等が挙げられる。これらの中でも、入手性やコスト等の観点から、ティシュペーパー、親水性不織布等が好ましく、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布、エアスルー不織布、パルプ含有不織布等の親水性不織布がより好ましく、エアスルー不織布、パルプ含有不織布等がさらに好ましい。
【0048】
ここで、パルプ含有不織布とは、スパンボンド不織布と、スパンボンド不織布の少なくとも一方の表面にパルプ繊維ウェブを一体化した不織布である(例えば、米国特許第5284703号明細書)。パルプ含有不織布は、例えば、スパンボンド不織布に水流交絡法によりパルプ繊維を高圧水流下に打ち付けることにより製造される。この方法で得られたパルプ含有不織布は、スパンボンド不織布の繊維と、パルプ繊維ウェブのバルブパルプ繊維とが絡み合い、かつパルプ繊維の一部がスパンボンド不織布を厚み方向に貫通することで、スパンボンド不織布とパルプ繊維ウェブとを強固に一体化したものである。
【0049】
親水性シート13の坪量は、例えば15g/m2以上80g/m2以下の範囲である。本実施形態の3層積層体の中では、複数層の親水性シート13が厚み方向に重ね合わされるが、親水性シート13の坪量を前述の範囲から選択すると、吸収体20や吸収体全体としての体液拡散性が高水準に維持される。また、親水性シート13の坪量を前述の範囲にすると、その厚みを薄くすることが可能になり、吸収体20や吸収体が必要以上に嵩高になることが防止される。その結果、吸収性物品50の良好な着用感が維持される。
【0050】
(吸収体の寸法、形状)
吸収体20は、長さが例えば100mm以上800mm以下の範囲、150mm以上650mm以下の範囲、又は270mm以上600mm以下の範囲であり、幅が例えば50mm以上500mm以下の範囲、60mm以上400mm以下の範囲、又は90mm以上380mm以下の範囲である。また、吸収体20の平面視形状が砂時計型である場合は、長さが180mm以上580mm以下の範囲、着用者の腹部及び背部にそれぞれ当接する腹側部及び背側部の幅がともに180mm以上380mm以下の範囲であり、着用者の股下部に当接する股部の幅が90mm以上200mm以下の範囲である。また、吸収体20、の全面又は一部にエンボス加工を施してもよい。吸収体20の平面視形状としては、例えば、砂時計型、Iの字状、長方形、4角が丸まった角丸四角形、長円等が挙げられる。
【0051】
また、SAP粒子の漏洩防止や吸収体20の形状のさらなる安定化を図るために、吸収体20、をキャリアシートで包んでもよい。キャリアシートの基材としては親水性を有するものであればよく、ティシュー、吸収紙、エアレイド不織布等の親水性不織布等が挙げられる。キャリアシートを複数備える場合は、複数のキャリアシートの基材は同一でも異なるものでもよい。
【0052】
<吸収体の製造方法>
吸収体20の製造方法としては、特に制限はないが、以下の方法が一例として挙げられる。基体不織布11の片側表面を回転ノコ刃又はニードルパンチを用いて、起毛させる。その後、高吸収性ポリマー12を散布してホットメルト接着剤等により、基体不織布11の起毛面11aの起毛繊維11x間に固着担持させ、SAP固着担持層を形成する。このとき、SAP散布量を、肌側吸収シート60では第1領域61、第2領域63及び第3領域62毎に所定の範囲に変更し、非肌側吸収シート70では第4領域72及び第5領域71毎に所定の範囲に変更する。その後、基体不織布11のSAP固着担持層と親水性シート13とをホットメルト接着剤等で接着し、肌側吸収シート60及び非肌側吸収シート70を作製する。この肌側吸収シート60及び非肌側吸収シート70を厚み方向に積層することにより、吸収体20が得られる。
【0053】
<バックシート>
バックシート30には、吸収体20が保持する体液が衣類を濡らさないような液不透過性を有する基材を用いる。該基材としては、例えば、樹脂フィルム、樹脂フィルムと不織布との積層体である複合シート等が挙げられる。複合シートに用いられる不織布としては、製法を特に限定せず、例えば、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布/メルトブロー不織布の積層体である複合不織布、スパンボンド不織布/メルトブロー不織布/スパンボンド不織布の積層体である複合不織布、これらの2種以上の積層体である複合材料等が挙げられる。また、樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン等のフィルム、ポリエチレンとポリプロピレンとの複合フィルム等が挙げられる。
【0054】
バックシート30の坪量は、例えば強度及び加工性の点から、15g/m2以上40g/m2以下の範囲である。また、着用時の蒸れを防止する観点から、通気性を有するバックシート30が好ましい。バックシート30に通気性を付与するには、例えば、樹脂フィルムにフィラーを配合する方法、バックシート30に穿孔のためにエンボス加工を施す方法等を利用できる。ここで、フィラーとしては炭酸カルシウムが挙げられ、フィラーを公知の方法に従って配合できる。
【0055】
<立体ギャザー>
立体ギャザー40は、例えば、吸収性物品50の着用者が排泄した体液の横モレを防止するために、吸収性物品50の幅方向両端付近で吸収性物品50の長手方向に沿ってトップシート10の肌側面に固定される。立体ギャザー40は、弾性伸縮部材40aと、撥水性及び/又は防水性のシート部材40bと、を含む。
【0056】
弾性伸縮部材40aは、シート部材40bの自由端(他端)付近に長手方向に沿って配設され、該自由端に起立性を付与し、シート部材40bの自由端及びその近傍領域を着用者の体型に合わせて変形可能にする。シート部材40bは、本実施形態では幅方向一端(固定端)がバックシート30の肌側面の幅方向両端付近に固定され、幅方向途中部がトップシート10の肌側面の幅方向両端付近に固定され、幅方向他端が起立性を有する自由端である。シート部材40bの固定端(幅方向一端)の固定位置は、本実施形態に限定されず、例えば、バックシート30の非肌側面、内部に吸収体20を収納したトップシート10とバックシート30との各縁辺の全部又は一部接合体の肌側面又は非肌側面の幅方向両端付近、トップシート10の肌側面の幅方向両端付近等が挙げられる。
【0057】
シート部材40bは撥水性及び/又は防水性を有するシートであり、例えば不織布から構成される。第1シート部材用不織布としては、疎水性繊維にて形成された撥水性及び/又は防水性(液不透過性)の不織布を特に限定なく使用でき、例えば、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布/メルトブロー不織布/スパンボンド不織布積層体である複合不織布(SMS不織布)等が挙げられる。シート部材40bの坪量は、例えば、13g/m2以上20g/m2以下の範囲である。弾性伸縮部材40aとしては、例えば、天然ゴム、合成ゴム、ポリウレタン等からなる、糸状、紐状、帯状のものを適宜使用することができる。
【0058】
<トランスファシート>
吸収性物品50は、トランスファシート(不図示)を備えていてもよい。トランスファシーは、例えば、トップシート10と吸収体20との間に配置される。トランスファシートとしては透液性を有する基材であれば特に限定されないが、例えば、エアスルー不織布、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布等の不織布、サーマルボンド不織布/スパンボンド不織布積層体等の同種又は異種の不織布を積層した複合不織布、ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム等からなる発泡フィルム、これらの2種以上の積層体である複合シート等が挙げられる。これらの中でも、体液の立体ギャザー40への移行を防止する観点から、エアスルー不織布が好ましい。トランスファシートの坪量は例えば20g/m2以上の範囲又は20g/m2以上60g/m2以下の範囲である。
【0059】
<吸収性物品の製造方法>
吸収性物品50は、公知の製造方法により製造できるが、例えば、吸収体20をトップシート10とバックシート30との間に配置する工程と、トップシート10の縁辺とバックシート30の縁辺とを一部又は全周に亘ってホットメルト接着剤やヒートエンボス、超音波エンボス、高周波エンボス等を用いて固定する工程と、バックシート30及びトップシート10の所定位置に立体ギャザー40を設置する工程と、を含む製造方法が挙げられる。そして、吸収性物品50が尿取りパッドや軽失禁パッドである場合は、これを包装体に個別包装した後、長手方向に3つ折りにして折りたためばよい。また、吸収性物品50の用途や形態に応じて、レッグギャザー、ウエストギャザー、サイドフラップ等が適宜設けられる。
【0060】
以上、本発明を、実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態に記載の発明の範囲には限定されないことは言うまでもなく、上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例】
【0061】
以下に本実施形態の実施例及び比較例を挙げ、本実施形態を更に具体的に説明する。
【0062】
(実施例1)
表1及び表2に記載のエアスルー不織布の片側表面を回転ノコ刃で物理的に起毛させ、毛羽立ち加工を施した(起毛後厚さ1.2mm、起毛率25%)。この片面起毛エアスルー不織布、高吸収性ポリマー、及び親水性シート(スパンボンド不織布、坪量15g/m2)を用い、表1に記載の構成を有する肌側吸収シートと、表2に記載の構成を有する非肌側吸収シートとを作製し、それぞれの幅方向中央を長手方向に延びる中心線(仮想線)が厚み方向に重なるように積層した。なお、肌側吸収シートは、全幅260mm、第1領域80mm、一対の第2領域各35mm、及び一対の第3領域各55mmとした。非肌側吸収シートは、180mm、第4領域100mm、及び一対の第5領域各40mmとした。
【0063】
トップシートとしてエアスルー不織布(坪量25g/m2)を用い、上記で得られた吸収体を用い、液不透過性のバックシートとして、通気性ポリエチレンシート(坪量30g/m2)を用い、立体ギャザーとして、スパンボンド不織布/メルトブローン不織布/スパンボンド不織布の積層体である複合不織布(坪量15g/m2)を用いて、実施例1のパッドタイプ紙おむつである吸収性物品を作製した。
【0064】
(実施例2)
表1に記載のように肌側吸収シートの第1領域~第3領域の各SAP目付を順に180g/m2、20g/m2、120g/m2に変更し、表2に記載のように非肌側吸収シートの第4領域~第5領域の各SAP目付を順に、20g/m2、120g/m2に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例2及び実施例3のパッドタイプ紙おむつである吸収性物品を作製した。
【0065】
(実施例3)
表1に記載のように肌側吸収シートの第1領域~第3領域の各SAP目付を380g/m2、70g/m2、320g/m2に変更し、表2に記載のように非肌側吸収シートの第4領域~第5領域の各SAP目付を順に70g/m2、320g/m2に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例2及び実施例3のパッドタイプ紙おむつである吸収性物品を作製した。
【0066】
(実施例4)
表1に記載のように肌側吸収シートの第1領域~第3領域の各SAP目付を順に180g/m2、20g/m2、120g/m2に変更し、及び各幅(散布幅)を順に70mm、65mm、30mmに変更し、表2に記載のように非肌側吸収シートの第4領域~第5領域の各SAP目付を順に20g/m2、120g/m2に変更し、及び各幅(散布幅)を順に105mm、37.5mmに変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例4のパッドタイプ紙おむつである吸収性物品を作製した。
【0067】
(実施例5)
表1に記載のように肌側吸収シートの第1領域~第3領域の各SAP目付を順に380g/m2、70g/m2、320g/m2に変更し、及び各幅(散布幅)を順に90mm、35mm、50mmに変更し、表2に記載のように非肌側吸収シートの第4領域~第5領域の各SAP目付を順に70g/m2、320g/m2に変更し、及び各幅(散布幅)を順に120mm、30mmに変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例5のパッドタイプ紙おむつである吸収性物品を作製した。
【0068】
(比較例1)
表3に記載の構成を有する肌側吸収シート(全幅260mm)と、表4に記載の構成を有する非肌側吸収シート(全幅180mm)とを、それぞれの幅方向中央を長手方向に延びる中心線(仮想線)が厚み方向に重なるように積層し、吸収体を作製した。肌側吸収シート及び非肌側吸収シートには、幅方向のSAP目付の変化を付けず、
図1及び
図2に示す一律のSAP目付(200g/m
2)とした。こうして得られた吸収体を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例1のパッドタイプ紙おむつである吸収性物品を作製した。
【0069】
(比較例2)
非肌側吸収シートの第4領域の目付を260g/m2とし、かつ第5領域の目付を40g/m2とする以外は、実施例1と同様にして、吸収体を作製した。こうして得られた吸収体を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例2のパッドタイプ紙おむつである吸収性物品を作製した。
【0070】
(比較例3)
肌側吸収シートの第1領域の幅を80mmとし、一対の第2領域の各幅を90mmとし、第3領域を設けない以外は、実施例1と同様にして、全幅260mmの吸収体を作製した。こうして得られた吸収体を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例3のパッドタイプ紙おむつである吸収性物品を作製した。
【0071】
(比較例4)
肌側吸収シートにおいて、第1領域、第2領域及び第3領域の各目付をそれぞれ160g/m2、90g/m2、及び110g/m2に変更し、かつ非肌側吸収シートにおいて、第4領域、及び第5領域の各目付をそれぞれ100g/m2、及び90g/m2に変更する以外は、実施例1と同様にして、吸収体を作製した。こうして得られた吸収体を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例4のパッドタイプ紙おむつである吸収性物品を作製した。
【0072】
(比較例5)
肌側吸収シートにおいて、第1領域、第2領域及び第3領域の各幅をそれぞれ50mm、35mm、及び70mmに変更し、かつ非肌側吸収シートにおいて、第4領域、及び第5領域の各幅をそれぞれ60mm、及び60mmに変更する以外は、実施例1と同様にして、吸収体を作製した。こうして得られた吸収体を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例5のパッドタイプ紙おむつである吸収性物品を作製した。
【0073】
実施例1~5及び比較例1~5のパッドタイプ紙おむつについて、次の評価を実施した。結果を表2及び表4に示す。
(荷重下厚み)
35gf/cm2の荷重下における吸収体中央の厚みを測定した。
(モニターの装着感評価)
実施例1~5及び比較例1~5のパッドタイプ紙おむつについて、車イス使用者モニター(被介護者モニター)及び介護者モニターの回答を得、装着感及びモレの有無を評価した。
ある施設において比較的尿量の多い8人の車イス使用者モニターの協力の下、実施例1~5及び比較例1~5のパッドタイプ紙おむつを着用してもらい、日中及び夜間装着時の装着感を評価し、1週間使用を継続し、次の基準で評価した。また、表2の装着感の欄には、車イス使用者モニターの、実施例1~5及び比較例1~5のパッドタイプ紙おむつに当接する肌の状態を付記した。
「違和感が少ない」の評価が6人以上8人以下のときを「〇」、「違和感が少ない」の評価が3人以上5人以下のときを「△」、「違和感が少ない」の評価が1人若しくは2人のとき又は「違和感が少ない」の評価が1人もいないときを「×」とした。
また、モレの有無については、介護者モニターが車イス使用者モニターのモレの状態を確認し、「モレが少ない」の評価が6人以上8人以下のときを「〇」、「モレが少ない」の評価が3人以上5人以下のときを「△」、「モレが少ない」の評価が1人若しくは2人のとき又は「違和感が少ない」の評価が1人もいないときを「×」とした。
【0074】
(吸収速度(繰返し吸収速度))
実施例1~5及び比較例1~5のパッドタイプ紙おむつを平面に伸ばして広げた状態で固定し、その肌側面の幅方向、長さ方向の中央に内径30mmの筒状の吸収速度治具を設置し、1回あたり150mlの0.9%生理食塩水を注入し、紙おむつ表面に液面が吸収されるまでの時間を計測した。吸収後から3分後に次の150mlを注入し、同様に吸収されるまでの時間を計測した。この操作を繰り返し、150ml×3回の吸収に要する時間の合計を吸収速度(秒)とした。吸収速度治具の重量により35g/cm2加圧下で測定を行った。
【0075】
(逆戻り量)
実施例1~5及び比較例1~5のパッドタイプ紙おむつを平面に伸ばして広げた状態で固定し、パッドタイプ紙おむつの肌側面の幅方向、長さ方向の中央に0.9%生理食塩水150mlを3分間隔で8回注水し、注水完了後10分間静置した。パッドタイプ紙おむつの肌側面の幅方向、長さ方向の中央に濾紙を置き、さらにその上へ35g/m2荷重となる重りを置いて1分間静置した。その後に重りを取りのぞき、濾紙が吸収した0.9%生理食塩水の重量を、吸収前後の重量差より求め、逆戻り量(ウエットバック、g)とした。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
(実施例1)車イス使用時の臀部の体圧下で、肌側吸収シートの第2領域(SAP低目付領域)の拡散効果と、肌側吸収シート及び非肌側吸収シートの各幅方向両側端部の第3領域及び第5領域(いずれもSAP高目付領域)でモレを防ぎ、さらに肌側吸収シートの第1領域(SAP高目付領域)でウエットバックを抑制することができた。
(実施例2)拡散性が実施例1より若干よく、ウエットバック防止性が実施例1よりも若干悪いものの、実用上問題ない程度であり、全体として良好な結果が得られた。
(実施例3)拡散性が実施例1より若干悪いものの、実用上問題ない程度であり、ウエットバック防止性が実施例1よりも若干良く、全体として良好な結果が得られた。
(実施例4)拡散性が実施例1よりも良好であり、ウエットバック防止性が実施例1よりも悪いものの、実用上問題ない程度であり、全体として良好な結果が得られた。
(実施例5)拡散性が実施例1より低下したものの、横モレは発生せず、着用者の肌状態も良好であることから、実用上問題のない程度であり、ウェットバック防止性は実施例1よりも良化傾向であり、全体として良好な結果が得られた。
(比較例1)高吸収性ポリマーが全体に均一で高密度なため、体圧下での体液拡散が不十分になり、多量の排尿時にはモレに至った。
(比較例2)肌側吸収シートの第2領域を、本実施形態とは逆にSAP高目付領域としたことから、臀部の体圧下で体液が拡散せずモレに至った。また、ウエットバックを十分に防止できず、着用者の肌がかぶれ気味となった。
(比較例3)臀部の体圧下で体液の拡散は良好ながら、幅方向両端部からの尿の横方向への広がりを規制できず、横モレに至った。
(比較例4)肌側吸収シートの、SAP高目付領域である第1領域及び第3領域のSAP目付を低くし、かつSAP低目付領域である第2領域のSAP目付を高くしたことから、第1領域による体液吸収が不足し、第2領域での体液拡散が不十分となり、ウエットバックが増加し、着用者の肌がかぶれ気味となった。
(比較例5)SAP低目付領域である、肌側吸収シートの第2領域、及び非肌側吸収シートの第4領域の各幅が着用者の座位姿勢に合わず、体圧をうまく拡散できなかったため、これらの領域での体液の拡散が不十分になり、モレに至った。
【符号の説明】
【0081】
10 トップシート
20 吸収体
30 バックシート
40 立体ギャザー
40a 弾性伸縮部材
40b シート部材
50 吸収性物品
60 肌側吸収シート
61 第1領域
62 第3領域
63 第2領域
70 非肌側吸収シート
71 第5領域
72 第4領域