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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】損傷推定装置及び損傷推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01H 1/00 20060101AFI20240627BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240627BHJP
   G01V 1/01 20240101ALI20240627BHJP
【FI】
G01H1/00 E
G01M99/00 Z
G01V1/01 100
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020159947
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2022053236
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東城 峻樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-322585(JP,A)
【文献】特開2019-144031(JP,A)
【文献】特開2018-017529(JP,A)
【文献】特開2019-164007(JP,A)
【文献】特開2016-017850(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0165588(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 - 17/00
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
G01V 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推定対象とする建物に設けられた建物センサにより平常時に得られた建物振動データを用いて、前記建物と当該建物の基礎部との相互の影響を分離して解析可能な分離モデルを適用したシステム同定により平常時建物振動モードを推定し、かつ、前記建物センサにより地震発生直後に得られた建物振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により地震直後建物振動モードを推定する建物振動推定部と、
前記建物の基礎部の上部に設けられた基礎部センサにより平常時に得られた基礎部振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により平常時基礎部振動モードを推定し、かつ、前記基礎部センサにより地震発生直後に得られた基礎部振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により地震直後基礎部振動モードを推定する基礎部振動推定部と、
前記平常時建物振動モード及び前記地震直後建物振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて前記建物の損傷の状態を推定し、かつ、前記平常時基礎部振動モード及び前記地震直後基礎部振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて前記基礎部の損傷の状態を推定する損傷推定部と、を備え、
前記建物振動推定部及び前記基礎部振動推定部は、前記平常時建物振動モード及び前記平常時基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行い、前記地震直後建物振動モード及び前記地震直後基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行う、
損傷推定装置。
【請求項2】
前記分離モデルは、スウェイ・ロッキングモデルに基づくモデルである、
請求項1に記載の損傷推定装置。
【請求項3】
前記建物センサは、前記建物の各階に設けられている、
請求項1又は請求項2に記載の損傷推定装置。
【請求項4】
前記建物振動推定部は、前記建物の剛心位置及び重心位置の少なくとも一方に配置された前記建物センサにより得られた建物振動データを用いて、前記平常時建物振動モード及び前記地震直後建物振動モードを推定する、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の損傷推定装置。
【請求項5】
前記損傷の状態は、当該損傷の有無、及び、当該損傷の度合いの少なくとも一方である、
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の損傷推定装置。
【請求項6】
推定対象とする建物に設けられた建物センサにより平常時に得られた建物振動データを用いて、前記建物と当該建物の基礎部との相互の影響を分離して解析可能な分離モデルを適用したシステム同定により平常時建物振動モードを推定し、かつ、前記建物センサにより地震発生直後に得られた建物振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により地震直後建物振動モードを推定し、
前記建物の基礎部の上部に設けられた基礎部センサにより平常時に得られた基礎部振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により平常時基礎部振動モードを推定し、かつ、前記基礎部センサにより地震発生直後に得られた基礎部振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により地震直後基礎部振動モードを推定し、
前記平常時建物振動モード及び前記地震直後建物振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて前記建物の損傷の状態を推定し、かつ、前記平常時基礎部振動モード及び前記地震直後基礎部振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて前記基礎部の損傷の状態を推定する、
処理をコンピュータに実行させるための損傷推定プログラムであって、
前記コンピュータは、前記平常時建物振動モード及び前記平常時基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行い、前記地震直後建物振動モード及び前記地震直後基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行う、
損傷推定プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷推定装置及び損傷推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物や、当該建物の基礎部の損傷状態を検出するために適用することのできる技術として、以下の技術があった。
【0003】
特許文献1には、複数の層からなる建物の複数の層に設けられたセンサであって、当該層の振動を層ごとに検知するセンサを用いて建物の安全性を検証する建物安全性検証システムが開示されている。この建物安全性検証システムでは、前記センサのうち最下層のセンサは、前記建物の基礎部又は最下層部分に設けられ、前記基礎部又は最下層部分の振動を検知する。また、この建物安全性検証システムは、前記センサが地震時に検知した当該層の振動のデータと前記基礎部又は前記最下層部分の振動のデータとから前記建物の変形を求める計測部と、前記計測部が求めた前記建物の変形に基づいて、当該地震発生後の前記建物の健全性を評価する評価部とを備えている。
【0004】
また、特許文献2には、構造物の損傷を検出する損傷検出方法が開示されている。この損傷検出方法では、前記構造物の構造フレームを形成する複数の構造部材の接合部に振動センサを設置し、前記接合部と該接合部を構成する複数の構造部材を部分構造として分割する。また、この損傷検出方法では、前記接合部に接合した各構造部材の一端部の反対側の他端部が接合する他の接合部に設置した振動センサの検出情報を入力、前記接合部の振動センサを出力として、各部分構造の動特性の入出力関係をシステム同定する。そして、この損傷検出方法では、時刻的に前後の前記部分構造のシステムを比較し、前記部分構造を構成する前記構造部材の損傷の有無及び損傷の程度を検出する。
【0005】
更に、特許文献3には、基礎杭の損傷を地表面から検知する方法が開示されている。この方法では、基礎杭の構築に際し、地上から杭先端に向かって段階的に長さの異なる検知用部材を略平行に複数本配置する。また、この方法では、杭頭から地上に突出している前記検知用部材の上端部にデータ収集装置を取り付ける。そして、この方法では、前記基礎杭に亀裂や破損が生じた場合に前記検知用部材が切断されることを利用して、杭体中の通電性や通行性の状況を前記データ収集装置にて、記録、表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-127707号公報
【文献】特開2015-004526号公報
【文献】特開平10-311813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1~特許文献3に開示されている技術では、建物そのものの地震による損傷状態と、当該建物の基礎部の当該地震による損傷状態とを同時に推定することができない、という問題点があった。
【0008】
特に、特許文献3に開示されている技術では、建物の建設時に検知用部材を埋め込む必要があり、建築済みの建物に対する損傷状態を推定することができない、という問題点があった。
【0009】
本開示は、以上の事情に鑑みて成されたものであり、建設後の建物について、建物そのものの地震による損傷状態と、当該建物の基礎部の当該地震による損傷状態とを同時に推定することができる損傷推定装置及び損傷推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の本発明に係る損傷推定装置は、推定対象とする建物に設けられた建物センサにより平常時に得られた建物振動データを用いて、前記建物と当該建物の基礎部との相互の影響を分離して解析可能な分離モデルを適用したシステム同定により平常時建物振動モードを推定し、かつ、前記建物センサにより地震発生直後に得られた建物振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により地震直後建物振動モードを推定する建物振動推定部と、前記建物の基礎部の上部に設けられた基礎部センサにより平常時に得られた基礎部振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により平常時基礎部振動モードを推定し、かつ、前記基礎部センサにより地震発生直後に得られた基礎部振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により地震直後基礎部振動モードを推定する基礎部振動推定部と、前記平常時建物振動モード及び前記地震直後建物振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて前記建物の損傷の状態を推定し、かつ、前記平常時基礎部振動モード及び前記地震直後基礎部振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて前記基礎部の損傷の状態を推定する損傷推定部と、を備え、前記建物振動推定部及び前記基礎部振動推定部は、前記平常時建物振動モード及び前記平常時基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行い、前記地震直後建物振動モード及び前記地震直後基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行う
【0011】
請求項1に記載の本発明に係る損傷推定装置によれば、建物に設けられた建物センサにより得られた建物振動データを用いて、建物と当該建物の基礎部との相互の影響を分離して解析可能な分離モデルを適用したシステム同定により平常時建物振動モード及び地震直後建物振動モードを推定する。
【0012】
また、本発明では、建物の基礎部の上部に設けられた基礎部センサにより得られた基礎部振動データを用いて、上記分離モデルを適用したシステム同定により平常時基礎部振動モード及び地震直後基礎部振動モードを推定する。
【0013】
そして、本発明では、平常時建物振動モード及び地震直後建物振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて建物の損傷の状態を推定し、かつ、平常時基礎部振動モード及び地震直後基礎部振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて基礎部の損傷の状態を推定する。
ここで、本発明では、建物振動推定部及び基礎部振動推定部は、平常時建物振動モード及び平常時基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行い、地震直後建物振動モード及び地震直後基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行う。
【0014】
以上の構成により、本発明によれば、建設後の建物について、建物そのものの地震による損傷状態と、当該建物の基礎部の当該地震による損傷状態とを同時に推定することができる。
【0015】
請求項2に記載の本発明に係る損傷推定装置は、請求項1に記載の損傷推定装置であって、前記分離モデルが、スウェイ・ロッキングモデルに基づくモデルであるものである。
【0016】
請求項2に記載の本発明に係る損傷推定装置によれば、上記分離モデルを、スウェイ・ロッキングモデルに基づくモデルとすることで、当該モデルを適用しない場合に比較して、より高精度に、建物及び基礎部の損傷状態を推定することができる。
【0017】
請求項3に記載の本発明に係る損傷推定装置は、請求項1又は請求項2に記載の損傷推定装置であって、前記建物センサが、前記建物の各階に設けられているものである。
【0018】
請求項3に記載の本発明に係る損傷推定装置によれば、建物センサを、建物の各階に設けることで、より高精度に建物の損傷状態を推定することができる。
【0019】
請求項4に記載の本発明に係る損傷推定装置は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の損傷推定装置であって、前記建物振動推定部が、前記建物の剛心位置及び重心位置の少なくとも一方に配置された前記建物センサにより得られた建物振動データを用いて、前記平常時建物振動モード及び前記地震直後建物振動モードを推定する。
【0020】
請求項4に記載の本発明に係る損傷推定装置によれば、建物センサを建物の剛心位置及び重心位置の少なくとも一方に配置することで、少ない数の建物センサによって建物の振動モードを効率的に推定することができる。
【0021】
請求項5に記載の本発明に係る損傷推定装置は、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の損傷推定装置であって、前記損傷の状態が、当該損傷の有無、及び、当該損傷の度合いの少なくとも一方であるものである。
【0022】
請求項5に記載の本発明に係る損傷推定装置によれば、損傷の状態を、当該損傷の有無、及び、当該損傷の度合いの少なくとも一方とすることで、適用した損傷の状態を把握することができる。
【0023】
請求項6に記載の本発明に係る損傷推定プログラムは、推定対象とする建物に設けられた建物センサにより平常時に得られた建物振動データを用いて、前記建物と当該建物の基礎部との相互の影響を分離して解析可能な分離モデルを適用したシステム同定により平常時建物振動モードを推定し、かつ、前記建物センサにより地震発生直後に得られた建物振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により地震直後建物振動モードを推定し、前記建物の基礎部の上部に設けられた基礎部センサにより平常時に得られた基礎部振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により平常時基礎部振動モードを推定し、かつ、前記基礎部センサにより地震発生直後に得られた基礎部振動データを用いて、前記分離モデルを適用したシステム同定により地震直後基礎部振動モードを推定し、前記平常時建物振動モード及び前記地震直後建物振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて前記建物の損傷の状態を推定し、かつ、前記平常時基礎部振動モード及び前記地震直後基礎部振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて前記基礎部の損傷の状態を推定する、処理をコンピュータに実行させる損傷推定プログラムであって、前記コンピュータは、前記平常時建物振動モード及び前記平常時基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行い、前記地震直後建物振動モード及び前記地震直後基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行う
【0024】
請求項6に記載の本発明に係る損傷推定プログラムによれば、建物に設けられた建物センサにより得られた建物振動データを用いて、建物と当該建物の基礎部との相互の影響を分離して解析可能な分離モデルを適用したシステム同定により平常時建物振動モード及び地震直後建物振動モードを推定する。
【0025】
また、本発明では、建物の基礎部の上部に設けられた基礎部センサにより得られた基礎部振動データを用いて、上記分離モデルを適用したシステム同定により平常時基礎部振動モード及び地震直後基礎部振動モードを推定する。
【0026】
そして、本発明では、平常時建物振動モード及び地震直後建物振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて建物の損傷の状態を推定し、かつ、平常時基礎部振動モード及び地震直後基礎部振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて基礎部の損傷の状態を推定する。
ここで、本発明のコンピュータは、平常時建物振動モード及び平常時基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行い、地震直後建物振動モード及び地震直後基礎部振動モードの推定を個別、かつ、同時に行う。
【0027】
以上の構成により、本発明によれば、建設後の建物について、建物そのものの地震による損傷状態と、当該建物の基礎部の当該地震による損傷状態とを同時に推定することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、建設後の建物について、建物そのものの地震による損傷状態と、当該建物の基礎部の当該地震による損傷状態とを同時に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態に係る損傷推定装置の損傷の推定対象とする建物の一例を示す模式図(斜視図)である。
図2】実施形態に係る損傷推定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る損傷推定装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図4】実施形態に係るSRモデルの運動方程式の説明に供する図であり、入力地震動を受ける場合の多質点系SRモデルの変形状態の一例を示す模式図である。
図5】実施形態に係る2質点系SRモデルの変形状態を示す図であり、(A)は地動に対する相対変位系の一例を示す模式図であり、(B)は基礎部からの相対変位系の一例を示す模式図である。
図6】実施形態に係るSRモデルの数値解析による検証の説明に供する図であり、2質点系SRモデルの地盤と建物連成系の固有モード(Case0)の一例を示す模式図である。
図7】実施形態に係るSRモデルの数値解析による検証の説明に供する図であり、2質点系SRモデルの地盤と建物連成系の固有モード(Case4)の一例を示す模式図である。
図8】実施形態に係るSRモデルの数値解析による検証の説明に供する図であり、シミュレーションにてSRモデルの底面より入力する入力地震動の一例を示す波形図である。
図9】実施形態に係るSRモデルの数値解析による検証の説明に供する図であり、SRモデルの数値シミュレーションにより得られた応答結果(Case0)の一例を示す波形図である。
図10】実施形態に係るSRモデルの数値解析による検証の説明に供する図であり、SRモデルの数値シミュレーション(data)とシステム同定結果(sys)の比較(Case0)の一例を示す波形図である。
図11】実施形態に係るSRモデルの数値解析による検証の説明に供する図であり、システム同定により求めた固有振動数と減衰定数(Case0)の一例を示すグラフである。
図12】実施形態に係るSRモデルの数値解析による検証の説明に供する図であり、システム同定により得られた伝達関数(Case0)の一例を示すボード線図である。
図13】実施形態に係るSRモデルの水平方向の地盤ばね剛性Kの評価の改善方法の説明に供する図であり、各々頂部に加振力を受ける2質点系SRモデルについて、(A)は地動に対する相対変位系の一例を示す模式図であり、(B)は基礎部からの相対変位系の一例を示す模式図である。
図14】実施形態に係るSRモデルの水平方向の地盤ばね剛性Kの評価の改善方法の説明に供する図であり、数値シミュレーションにてSRモデルの頂部より加力する加振波の時刻歴波形の一例を示す波形図である。
図15】実施形態に係る損傷推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図16】実施形態に係る推定結果表示画面の構成の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態の一例に係る損傷推定装置について、図1図16を用いて順に説明する。
【0031】
(建物の構成)
まず、本実施形態の損傷推定装置100(図2図3参照)の損傷の推定対象とする建物10の構成を、図1を用いて説明する。
【0032】
図1に示すように、本実施形態に係る建物10は、基礎部12と、基礎部12上に設けられた上部構造物14と、を有している。基礎部12は、地盤GL中に埋設されており、上部構造物14を支持する複数の基礎杭16、図示しない基礎底版、及び図示しない基礎梁等を備えている。
【0033】
上部構造物14は、複数階(本実施形態では例えば地下1階、地上3階)からなり、地盤GL中に位置する最下階が基礎部12の基礎杭16によって支持されている。なお、図1では、地盤GL中に位置する上部構造物14の最下階をドット模様で示している。
【0034】
また、上部構造物14の各階には、建物センサ18がそれぞれ設置されている。建物センサ18は、例えば水平方向及び上下方向の3自由度の応答、及び各応答から算定される回転方向の6自由度が検出可能な加速度センサからなり、設けられた位置の振動応答の時系列データである建物振動データを検出する。
【0035】
建物センサ18は、建物10の上部構造物14の各階において、剛心位置及び重心位置の少なくとも一方に設置されている。なお、本実施形態では、上部構造物14が整形建物とされており、剛心位置と重心位置とが一致するため、建物センサ18は上部構造物14の各階において平面視で略中央部に1つずつ設置されている。
【0036】
また、建物10の上部構造物14の最下階における基礎部12上には、複数の基礎部センサ20が設置されている。基礎部センサ20は、建物センサ18と同じ加速度センサからなり、設けられた位置の振動応答の時系列データである基礎部振動データを検出する。
【0037】
本実施形態では、複数の基礎部センサ20は、上部構造物14の最下階において、複数の基礎杭16の上部にそれぞれ配置されており、互いに同一平面上に配置されている。基礎部センサ20は、地震発生時に基礎杭16(基礎部12)と一体的に振動する位置に設置されていることが好ましく、例えば各基礎杭16の上面や側面上部に、図示しないアンカー等によってそれぞれ固定されている。なお、各基礎部センサ20は、必ずしも同一平面上に配置されている必要はなく、上下方向における設置高さが異なっていても構わない。
【0038】
(損傷推定装置の構成)
次に、本実施形態の損傷推定装置100の構成を、図2及び図3を用いて説明する。なお、損傷推定装置100の例としては、パーソナルコンピュータ及びサーバコンピュータ等の情報処理装置が挙げられる。
【0039】
図2に示すように、本実施形態に係る損傷推定装置100は、CPU(Central Processing Unit)102、一時記憶領域としてのメモリ104、不揮発性の記憶部106、キーボードとマウス等の入力部108、液晶ディスプレイ等の表示部110、媒体読み書き装置(R/W)112、及び通信インタフェース(I/F)部114を備えている。
【0040】
CPU102、メモリ104、記憶部106、入力部108、表示部110、媒体読み書き装置112、及び通信I/F部114は、バスB1を介して互いに接続されている。媒体読み書き装置112は、記録媒体116に書き込まれている情報の読み出し、及び記録媒体116への情報の書き込みを行う。
【0041】
記憶部106は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部106には、損傷推定プログラム106Aが記憶されている。
【0042】
損傷推定プログラム106Aは、損傷推定プログラム106Aが書き込まれた記録媒体116が媒体読み書き装置112にセットされ、媒体読み書き装置112が記録媒体116からの損傷推定プログラム106Aの読み出しを行うことで、記憶部106へ記憶される。
【0043】
CPU102は、損傷推定プログラム106Aを記憶部106から読み出してメモリ104に展開し、損傷推定プログラム106Aが有するプロセスを順次実行する。
【0044】
次に、本実施形態に係る損傷推定装置100の機能的な構成について、図3を用いて説明する。
【0045】
図3に示すように、損傷推定装置100は、振動推定部102Aと損傷推定部102Dとを含む。また、振動推定部102Aは、建物振動推定部102Bと基礎部振動推定部102Cとを含む。損傷推定装置100のCPU102が損傷推定プログラム106Aを実行することで、振動推定部102A及び損傷推定部102Dとして機能する。
【0046】
建物振動推定部102Bは、図1に示す建物10の上部構造物14の各階に設けられた建物センサ18により平常時、すなわち所定レベル以上の地震が発生する前に得られた建物振動データを用いて、平常時建物振動モードを推定する。また、建物振動推定部102Bは、建物センサ18により地震発生直後に得られた建物振動データを用いて、地震直後建物振動モードを推定する。
【0047】
なお、本実施形態では、建物振動推定部102Bによって推定された平常時建物振動モードを、基準の振動モード(基準状態)として図2に示す記憶部106に記憶(登録)する。そして、後述する損傷推定部102Dが記憶部106から読み出すことによって、基準状態の平常時建物振動モードを取得する。
【0048】
基礎部振動推定部102Cは、図1に示す建物10の基礎部12の上部に設けられた基礎部センサ20により平常時、すなわち所定レベル以上の地震が発生する前に得られた基礎部振動データを用いて、平常時基礎部振動モードを推定する。また、基礎部振動推定部102Cは、基礎部センサ20により地震発生直後に得られた基礎部振動データを用いて、地震直後基礎部振動モードを推定する。
【0049】
なお、本実施形態では、基礎部振動推定部102Cによって推定された平常時基礎部振動モードを、基準の振動モード(基準状態)として図2に示す記憶部106に記憶(登録)する。そして、後述する損傷推定部102Dが記憶部106から読み出すことによって、基準状態の平常時基礎部振動モードを取得する。
【0050】
ここで、本実施形態では、平常時建物振動モード、地震直後建物振動モード、平常時基礎部振動モード、及び地震直後基礎部振動モードを、建物10と当該建物10の基礎部12との相互の影響を分離して解析可能な分離モデルを適用したシステム同定手法を用いて推定する。システム同定手法としては、例えば部分空間法やARX(自己回帰外因性)モデルを用いた手法、有限要素モデルによるパラメータ推定手法等が挙げられる。なお、上述したシステム同定手法の具体例は、広く知られている公知技術であることから、これ以上のここでの説明は省略する。
【0051】
一般的に、上述した各振動モードの推定に用いられる建物振動データ及び基礎部振動データ(すなわち加速度記録)は、地震による建物10の上部構造物14及び基礎部12の損傷程度に応じて変化する。また、加速度記録は、建物10が損傷に至らない場合あっても、地震の振幅の大きさや位相特性(例えば、パルス波振動、長周期波振動)、ノイズ(例えば、衝突物による振動)等に応じて変化する。本実施形態では、システム同定手法を用いて各振動モードを推定することにより、地震による建物10の上部構造物14及び基礎部12の損傷によって生じる加速度記録の変化のみを抽出することが可能となる。
【0052】
また、振動推定部102Aは、建物振動推定部102Bによる各建物振動モードの推定と、基礎部振動推定部102Cによる各基礎部振動モードの推定とを、同時に(一体として)行うことにより、建物10全体(上部構造物14及び基礎部12)の振動モードを推定する。なお、建物10全体の振動モードは、基礎部12の上部の水平方向だけでなく、回転成分(基礎部センサ20の上下応答)を考慮して求める。
【0053】
このように、建物振動モードと基礎部振動モードとを、建物10全体の振動モードとして同時に(一体として)推定することで、建物振動モードと基礎部振動モードをそれぞれ別々に推定する場合と比較して、振動モードの推定精度を高めることができる。
【0054】
また、損傷推定部102Dは、振動推定部102Aで推定された建物10の各振動モードを用いて、建物10及び基礎部12が地震による損傷を受けたか否かを、建物10及び基礎部12の各々別に推定する。
【0055】
具体的には、損傷推定部102Dは、平常時建物振動モード及び地震直後建物振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて建物10の損傷の状態を推定する。また、損傷推定部102Dは、平常時基礎部振動モード及び地震直後基礎部振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて基礎部12の損傷の状態を推定する。
【0056】
ところで、本実施形態に係る振動推定部102Aでは、上記分離モデルとして、スウェイ・ロッキングモデル(以下、「SRモデル」という。)に基づくモデルを適用して、各建物振動モード及び各基礎部振動モードを推定する。
【0057】
ここで、図4図5を参照して、本実施形態に係る各種振動モードの推定に用いるSRモデルに基づくモデルについて説明する。図4は、本実施形態に係るSRモデルの運動方程式の説明に供する図であり、入力地震動を受ける場合の多質点系SRモデルの変形状態の一例を示す模式図である。また、図5は、本実施形態に係る2質点系SRモデルの変形状態を示す図であり、(A)は地動に対する相対変位系の一例を示す模式図であり、(B)は基礎部からの相対変位系の一例を示す模式図である。また、図4及び図5や、以下の説明において、mはi層天端の質点の質量、kはi層の剛性、cはi層の減衰係数、Hはi層の層高さ、mは基礎質点の質量、Jは基礎質点の回転慣性質量、xはi層天端の質点における地動面からの相対変位、xは基礎質点における地動面からの相対変位、K,Kはそれぞれ水平方向及び回転方向の地盤ばねの剛性、C,Cはそれぞれ水平方向及び回転方向の地盤ばねの減衰係数を表す。
【0058】
(SRモデルの運動方程式)
図4に示す一般の建物を想定した入力地震動(地動加速度)y¨を受ける多質点系SRモデルの運動方程式は、次の(1)式で表される。
【0059】
【数1】
【0060】
また、(1)式における各マトリクスやベクトルはそれぞれ以下の式で表される。
【0061】
【数2】
【0062】
(SRモデルの変換によるモード分解と剛性の同定方法)
ここでは、簡単のため、図5(A)に示す建物1層(2質点系)SRモデルを検討対象とし、建物及び地盤ばね剛性を求める。そこで、同図の運動方程式から減衰マトリクスを無視すると、(1)式の運動方程式は以下の(2)式となる。
【0063】
【数3】
【0064】
(通常の地震観測を考慮した運動方程式の変換)
通常の地震観測では、地動加速度y¨を得ることは容易ではなく、基礎部の応答加速度である(x¨+y¨)は比較的容易に得られるものと考えて、図5(A)の座標系による(2)式の方程式から図5(B)の基礎質点を地震動の入力点とみなした基礎質点からの相対系の運動方程式に変換する。この時、基礎部の水平方向の変位は拘束されるものとして、建物水平及び基礎部回転に関して(3)式の運動方程式を得る。
【0065】
【数4】
【0066】
また、(2)式の地動加速度を消去するように、図5(A)と図5(B)より(4)式のように建物水平と建物と基礎部の水平相対変位に関する方程式を変換することができる。
【0067】
【数5】
【0068】
更に、(2)式について基礎部の水平方向に関する1自由度系の運動方程式に変換すると、(5)式または(6)式のように変換することができる。
【0069】
【数6】
【0070】
(建物の剛性kと回転方向の地盤ばね剛性Kの評価)
次に建物の剛性k、回転方向の地盤ばね剛性Kを求めるため、(3)式をモードの重ね合わせとしてモード分解し、固有値(固有円振動数)を得ることで各剛性(k,K)が算定できることを示す。
【0071】
(3)式の運動方程式の変位ベクトルXを、建物水平と全体回転の2つのモードの重ね合わせで表現する場合、1次モード、2次モードの一般化座標、固有ベクトルをそれぞれξとξ、{X }と{X }とすると、次の(7)式となる。
【0072】
【数7】
【0073】
この時、固有ベクトル{X }及び固有円振動数ωは次の(8)式の通り、(3)式の右辺が0の固有値方程式を解くことで求まる。
【0074】
【数8】
【0075】
各モードの固有ベクトル{X を(7)式の左から掛けて、モードの直交性を考慮すると、次の(9)式を得る。
【0076】
【数9】
【0077】
これより、
【0078】
【数10】
【0079】
e,iはi次モードの等価質量、Ke,iはi次モードの等価剛性、βは刺激係数であり、それぞれ以下の式で表される。
【0080】
【数11】
【0081】
この時、1次モードは上部建物のみの変形が支配的なモード、2次モードは基礎部の回転のみが支配的なモードと考えられることから、1次と2次の固有ベクトルをそれぞれ(11)式と仮定すると、それぞれ各次の等価質量、等価剛性、及び固有円振動数(固有振動数及び固有周期)は(12)式~(15)式で表すことができる。
【0082】
【数12】
【0083】
このとき、(13)式の固有値(ω ,f)に対応するモードは、建物のみの剛性と質量からなるため、基礎・地盤(地盤ばね)に依存しない建物自身の剛性と質量で決まるモードであり、基礎部の影響を排除した建物のみの健全性の評価が可能である。
【0084】
また、(15)式の固有値(ω ,f )に対応するモードは、回転方向の地盤ばね及び基礎部の回転慣性質量からなるため、建物に依存しない基礎・地盤の剛性と質量で決まるモードであり、建物の影響を排除した基礎部のみの健全性の評価が可能である。
【0085】
(水平方向の地盤ばね剛性Kの評価)
基礎部の水平方向に関する方程式である(5)式または(6)式において、地動加速度y¨が小さいとみなすと、基礎質点の水平加速度X¨=x¨+y¨≒x¨として、(5)式と(6)式は、それぞれ(16)式と(17)式に置き換えることができる。
【0086】
【数13】
【0087】
これらの式は、1自由度系の運動方程式であり、固有円振動数、固有振動数、及び固有周期は(18)式または(19)式で表現することができる。
【0088】
【数14】
【0089】
また、(4)式においては、建物の剛性kと水平方向の地盤ばね剛性Kに比べて、回転方向の地盤ばね剛性Kが十分に大きいと仮定できる場合、1次モードが上部建物のみの変形が支配的なモード、2次モードは基礎部の回転のみが支配的なモードとなることから、固有ベクトル{X }を(11)式と同じように(20)式とおくことで、固有値は、(21)式に近似することができる。
【0090】
【数15】
【0091】
このとき、(19)式の固有値(ω ,f)は、水平方向の地盤ばね剛性Kと基礎質点の質量mからなるため、建物状態に依存しない基礎・地盤の剛性と質量で決まる振動モードであり、建物の影響を排除した基礎・地盤のみの健全性の評価が可能である。(18)式または(21)式においては、上述したように建物の剛性kが求まっていれば、同様に基礎・地盤の健全性の評価が可能となる。
【0092】
次に、SRモデルの数値解析による検証を行う。
【0093】
(SRモデルの設定)
図5(A)に示す2質点系のSRモデルにより数値シミュレーションを行い、得られた応答結果から、上述した方法に従い、システム同定を用いて、建物の剛性、水平方向及び回転方向の地盤ばね剛性が得られることを検証する。SRモデルの諸元を表1に示す。また、(21)式、(15)式及び(18)式または(19)式により求まる建物、回転方向の地盤ばね及び水平方向の地盤ばねに関する固有振動数を表2に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
なお、減衰は、それぞれ基礎固定系の建物振動数2(Hz)に対して剛性比例型の減衰として1(%)となるように設定する。
【0096】
【表2】
【0097】
(検討ケース)
検討ケースの一覧を表3に示す。Case0を基本ケースとして、Case1~5は、それぞれ一部または全部の剛性が低下されたケースである。各ケースについて建物の剛性k、回転方向の地盤ばね剛性K、及び水平方向の地盤ばね剛性Kをモード分解により同定し、提案した手法で、それぞれの剛性が得られることを示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3には、各ケースで固有値解析を行い、建物と基礎・地盤全体(連成系)で得られた1次~3次の固有振動数を示している。これより、一部の剛性が変化した場合であっても、連成系の固有振動数が全体として変化するため、連成系の固有振動数の変化より、各部の剛性低下の割合を判断することが難しいことがわかる。また、参考として図6図7に、Case0及びCase4の固有モード図を示す。同様に単純なモード形の変化のみで、各部の剛性低下の割合を判断することが難しいことがわかる。
【0100】
(入力地震動)
図8に、シミュレーションにてSRモデルの底面より入力する入力地震動を示す。入力地震動は、時間間隔0.01(s)のホワイトノイズとする。シミュレーションの継続時間は81.92(s)とした。
【0101】
(システム同定による検証)
提案手法におけるモード分解を行うため、多入力・他出力システムのシステム同定に利用される部分空間法を用いる。図9に代表としてCase0のSRモデルの数値シミュレーションにおいて得られた各質点の水平方向及び回転方向の加速度応答、変位応答の時刻歴波形を示す。Case1~5に対しても同様に、これらの時刻歴応答を一般の地震観測で得られる時刻歴波形と想定して、部分空間法を用いたシステム同定により、建物の剛性、並びに地盤ばねの剛性の変化を評価して、提案手法の有効性を検証する。
【0102】
(部分空間法によるシステム同定精度の確認)
部分空間法によるシステム同定では、入出力関係を指定することで、ブラックボックス的に系のシステムを求め、伝達関数、固有振動数、減衰定数、システムによる時刻歴応答のフィッティング結果等を得ることができる。そのため、一般の運動方程式である(2)式、並びに(3)式~(6)式により提案するモード分解で、固有振動数(剛性)等を求める場合、入出力に用いる時刻歴応答の選び方が重要となる。
【0103】
はじめに、(2)式に対して、入力を地動加速度y¨、出力に各質点の加速度応答(x¨,x¨,θ¨)を指定して、システム同定を行い、部分空間法を用いて適切に系の出力、伝達関数、固有振動数(剛性)、減衰定数が求められることを確認する。ここで、システム同定において指定するモード次数は、実際のSRモデルの自由度数の2倍である6次としている。これは後述する通り、システム同定において求まる固有モードが、複素共役によりペアで求まるためである。
【0104】
図10に、数値シミュレーションにより得られた応答結果(data)と部分空間法により求めたシステム同定結果の出力(sys)の時刻歴波形の比較を示す。また、sysと共に、次の(22)式より求めた、両者の適合率fitを示す。同図より、SRモデルの運動方程式に併せて、適切な入力と出力を指定することで、部分空間法により、精度の高い同定結果が得られることがわかる。
【0105】
【数16】
【0106】
ここに、ydataは数値シミュレーションによる応答、(ydataは数値シミュレーションによる応答の平均値、ysysはシステム同定結果の出力である。
【0107】
図11に部分空間法によるシステム同定より得られた、固有モードの次数と固有振動数、及び減衰定数を示す。ここで、システム同定は、複素共役により実際の2倍のモード数が求まるが、例えば同図の1,2次はSRモデルの1次、3,4次はSRモデルの2次という対応関係となる。これより、表3のCase0に示した1次~3次の振動数が部分空間法においても、1,2次で1.77(Hz)、3,4次で9.97(Hz)、5,6次で19.8(Hz)とモード分解が精度良く行われ、適切な固有振動数(剛性)が得られることがわかる。また、同図(B)の減衰定数においても、設定したSRモデルの剛性比例型の減衰定数(2(Hz)で1(%))に対応して、1,2次で0.9(%)、3,4次で5(%)、5,6次で10(%)と精度良く同定されていることがわかる。
【0108】
図12(A)~図12(C)は、部分空間法によるシステム同定結果から得られる伝達関数(出力/入力)と位相(出力/入力)を各階の出力毎に示す。同図より、図11で示した1~6次(SRモデルの1~3次に相当)に対応する振動数付近において伝達関数並びに位相が比較的大きく変化しているが、各出力で伝達関数のピーク振動数、及び対応する位相変化の大きさが異なることから、システム同定を精度良く行うためには、各モードが表れる出力を適切に選択する必要があるといえる。
【0109】
表4にCase0~5について、SRモデルのシミュレーションとシステム同定より求めた1次~3次の固有振動数の比較を示す。これより、(2)式による通常の運動方程式に基づくモード分解では、すべてのケースにおいて同定精度が確保できることがわかる。
【0110】
【表4】
【0111】
(提案手法による有効性の検証)
続いてCase0~5において、提案した手法に基づくモード分解を用いて部分空間法によるシステム同定を行い、提案手法の有効性を検証する。
【0112】
表5にSRモデルの固有値解析による連成系の固有振動数と設定した各部(建物の剛性k、地盤ばね剛性K、K)の固有振動数(真値)、及びシステム同定より得られた連成系の固有振動数((2)式に対応)、各部の固有振動数((3)式~(6)式に対応)の比較を示す。ここで、提案手法に基づくシステム同定では(3)式に対応する入力としてX¨+Hθ¨(基礎質点の水平加速度応答+建物高さ×基礎質点の回転加速度応答)、出力にx¨、θ¨の2つ(建物質点の水平加速度応答、基礎質点の回転加速度応答)を指定する。また、(5)式、(6)式に対応する入力としてx-Hθ,x-x-Hθ(建物質点の水平変位応答-建物高さ×基礎質点の回転変位応答、建物質点と基礎質点の相対水平変位応答-建物高さ×基礎質点の回転変位応答)、出力にx¨(建物質点の水平加速度応答)を指定する。(4)式に対応する入力としてx、出力にX¨=x¨-x¨,θ¨の2つ(建物質点の基礎質点に対する水平相対加速度応答、基礎質点の回転加速度応答)を指定する。
【0113】
【表5】
【0114】
ここで、Kを直接求める方法は、精度が低下したため、非表示(-)とした。
【0115】
表5より、部分空間法による提案した建物の剛性k、回転方向の地盤ばね剛性Kについては、良い精度で固有振動数(剛性)が評価可能であることがわかる。また、水平方向の地盤ばねに関わるk+K,m+m+mについては、概ね建物の剛性kまたは水平方向の地盤ばね剛性Kが変化した場合に応じた固有振動数(剛性)が評価できるが、回転方向の地盤ばね剛性Kが変化した場合にも、k+K,m+m+mを仮定して求まる固有振動数が変化しており、やや精度が低下する。更に、水平方向の地盤ばね剛性Kを直接求めようとする場合には、同定が困難であった。
【0116】
以上より、建物の剛性k、回転方向の地盤ばねの剛性Kは提案手法を用いて評価可能である。k+K,K,m+m+mにより水平方向の地盤ばねを含む変動を評価する場合には、これらに比べて、回転方向の地盤ばね剛性Kが十分に高くない場合にやや精度が低下するが、k+K,K,m+m+mより求まる固有振動数の変化を用いて、建物の剛性kや水平方向の地盤ばね剛性Kの変動に対しては、提案手法が概ね有効であることが示された。
【0117】
(水平方向の地盤ばね剛性Kの評価の改善方法)
上記の(提案手法による有効性の検証)の結果に対し、水平方向の地盤ばね剛性Kに関する固有振動数の変化を捉えるための改善方法を示す。当該(提案手法による有効性の検証)の結果では、(5)式または(6)式において、地動加速度y¨が小さいとみなしていたが、実際にはその影響が含まれるため、精度が低下したと考えられる。また、(4)式の方法においても、回転方向の地盤ばねの低下による回転加速度(または回転変位)の影響が大きくなる場合に精度が低下する傾向であった。
【0118】
そこで、ここでは、図13(A)ないし図13(B)に示すように、SRモデルの頂部に加振力fを作用させた数値シミュレーションの応答に対し、(4)式~(6)式で提案した手法を用いて有効性を確認する。
【0119】
(入力加振波)
図14に、数値シミュレーションにてSRモデルの頂部より加力する加振波の時刻歴波形を示す。ここでは、入力地震動は、時間間隔0.01(s)の神戸位相の告示波を使用した。シミュレーションの継続時間は同様に81.92(s)とした。加振波の継続時間である60(s)以降は0を入力している。
【0120】
(提案手法による有効性の検証)
表5に示したCase0~5のうち、水平方向の地盤ばね剛性Kに関わる固有振動数(真値)、及びシステム同定より得られた固有振動数((5)式、(6)式に対応)の比較を表6に示す。ここで、提案手法に基づくシステム同定では(5)式、(6)式に対応する入力としてx-Hθ,x-x-Hθ(建物質点の水平変位応答-建物高さ×基礎質点の回転変位応答、建物質点と基礎質点の相対水平変位応答-建物高さ×基礎質点の回転変位応答)、出力にx¨(建物質点の水平加速度応答)を指定する。
【0121】
以上より、k+K,Kにより水平方向の地盤ばねを含む変動を評価する場合には、建物の頂部に加振力(加震源がある)を作用させることで、k+K,Kに対応して求まる固有振動数の変化を用いて、回転方向の地盤ばね剛性Kの変動にも影響されることなく、精度良く変化を捉えることができた。
【0122】
【表6】
【0123】
以上、SRモデルによる数値シミュレーションに対し、提案したモード分解法を用いて建物の剛性、回転方向及び水平方向の地盤ばねの剛性(地盤と杭の健全性に対応)の変動を精度良く評価できることを示した。
【0124】
(損傷推定処理)
次に、本実施形態に係る損傷推定装置100による損傷推定処理の手順について、図15を用いて説明する。
【0125】
例えばユーザによって損傷推定プログラム106Aの実行を開始する指示入力が入力部108を介して行われた場合に、損傷推定装置100のCPU102が損傷推定プログラム106Aを実行することにより、図15に示す損傷推定処理が実行される。
【0126】
まず、ステップ200で、振動推定部102Aは、建物10の上部構造物14の各階に設置された建物センサ18、及び建物10の基礎部12の上部に設置された複数の基礎部センサ20から、平常時の建物振動データ及び基礎部振動データをそれぞれ取得する。なお、平常時の振動データ(建物振動データ及び基礎部振動データ)としては、例えば建物10の竣工直後等の地震前の所定期間の振動データ(建物振動データ及び基礎部振動データ)の平均値が利用される。
【0127】
次に、ステップ202で、振動推定部102Aの建物振動推定部102Bは、平常時に得られた建物振動データを用いて、平常時建物振動モードを推定する。また、振動推定部102Aの基礎部振動推定部102Cは、平常時に得られた基礎部振動データを用いて、平常時基礎部振動モードを推定する。
【0128】
振動推定部102Aは、これらの建物振動推定部102Bによる平常時建物振動モードの推定と、基礎部振動推定部102Cによる平常時基礎部振動モードの推定とを、上述したSRモデルに基づくモデルを適用したシステム同定により、各々、個別、かつ、同時に(一体として)行うことにより、建物10全体(上部構造物14及び基礎部12)の平常時の振動モードを推定する。
【0129】
次に、ステップ204で、振動推定部102Aは、ステップ202で推定した平常時建物振動モード及び平常時基礎部振動モードを記憶部106にそれぞれ記憶する。そして、ステップ206で、損傷推定部102Dは、所定レベル(例えば震度3)以上の地震が発生するまで待機する。所定レベルの地震が発生した場合、ステップ206が肯定判定となって、ステップ208に移行する。
【0130】
ステップ208で、振動推定部102Aは、建物10の上部構造物14の各階に設置された建物センサ18、及び建物10の基礎部12の上部に設置された複数の基礎部センサ20から、地震発生直後の建物振動データ及び基礎部振動データをそれぞれ取得する。
【0131】
なお、地震発生直後の振動データ(建物振動データ及び基礎部振動データ)としては、例えば地震の主要動発生直後の建物10が自由振動している期間(例えば5分)のうち、所定の時間(例えば30秒)毎に取得した振動データ(建物振動データ及び基礎部振動データ)の平均値が利用される。
【0132】
次に、ステップ210で、振動推定部102Aの建物振動推定部102Bは、地震発生直後に得られた建物振動データを用いて、地震直後建物振動モードを推定する。また、振動推定部102Aの基礎部振動推定部102Cは、地震発生直後に得られた基礎部振動データを用いて、地震直後基礎部振動モードを推定する。
【0133】
振動推定部102Aは、これらの建物振動推定部102Bによる地震直後建物振動モードの推定と、基礎部振動推定部102Cによる地震直後基礎部振動モードの推定とを、上述したSRモデルに基づくモデルを適用したシステム同定により、各々、個別、かつ、同時に(一体として)行うことにより、建物10全体(上部構造物14及び基礎部12)の地震発生直後の振動モードを推定する。
【0134】
ステップ212で、損傷推定部102Dは、地震前後の建物10の剛性の変化量、すなわち平常時建物振動モード及び地震直後建物振動モードの各振動モードで得られる剛性の差分が予め定められた第1変化量未満であるか否かを判定する。そして損傷推定部102Dは、この判定において肯定判定となった場合はステップ216に移行する一方、否定判定となった場合はステップ214に移行する。
【0135】
なお、本実施形態では、上記第1変化量として、上記剛性の差分が当該変化量以上である場合に建物に地震動に起因して損傷が生じると見なすことのできる量として、過去の実績値や、コンピュータ・シミュレーション等によって予め得られた量を適用している。但し、これに限定されるものではなく、例えば、損傷推定装置100のユーザに対して、損傷推定処理に要求される推定精度や、損傷推定処理の用途等に応じて第1変化量を予め入力させる形態としてもよい。
【0136】
ステップ214で、損傷推定部102Dは、発生した地震によって建物10が損傷していると推定されることを示す情報(以下、「建物損傷状況情報」という。)を記憶部106に記憶し、その後にステップ216に移行する。
【0137】
ステップ216で、損傷推定部102Dは、地震前後の基礎部12の剛性の変化量、すなわち平常時基礎部振動モード及び地震直後基礎部振動モードの各振動モードで得られる剛性の差分が予め定められた第2変化量未満であるか否かを判定する。そして損傷推定部102Dは、この判定において肯定判定となった場合はステップ206に戻る一方、否定判定となった場合はステップ218に移行する。本実施形態では、基礎部12の剛性として、回転方向の地盤ばね剛性K及び水平方向の地盤ばね剛性Kの2種類の剛性が得られる。このため、本実施形態に係る損傷推定処理のステップ216では、これら2種類のうちの少なくとも一方の剛性が上記第2変化量未満であるか否かを判定する。
【0138】
なお、本実施形態では、上記第2変化量としても、基礎部12の上記剛性の差分が当該変化量以上である場合に基礎部に地震動に起因して損傷が生じると見なすことのできる量として、過去の実績値や、コンピュータ・シミュレーション等によって予め得られた量を適用している。但し、これに限定されるものではなく、基礎部12についても、例えば、損傷推定装置100のユーザに対して、損傷推定処理に要求される推定精度や、損傷推定処理の用途等に応じて第2変化量を予め入力させる形態としてもよい。
【0139】
ステップ218で、損傷推定部102Dは、発生した地震によって基礎部12が損傷していると推定されることを示す情報(以下、「基礎部損傷状況情報」という。)を記憶部106に記憶し、その後にステップ220に移行する。
【0140】
ステップ220で、損傷推定部102Dは、平常時基礎部振動モード及び地震直後基礎部振動モードの各振動モードの振動モード形の変化から、基礎部12における、おおよその損傷位置を以下に示すように推定する。
【0141】
すなわち、本実施形態に係る損傷推定部102Dは、一例として図1に示す建物10を平面視した場合における、建物10の基礎部12の中心部より奥手側の位置が損傷している、といったように、基礎部12を平面視した場合の損傷している位置の方向を推定する。
【0142】
ステップ222で、損傷推定部102Dは、以上の処理によって得られた各種情報を用いて、予め定められた構成とされた推定結果表示画面を表示するように表示部110を制御する。
【0143】
図16には、本実施形態に係る推定結果表示画面の一例が示されている。図16に示すように、本実施形態に係る推定結果表示画面では、建物10及び基礎部12の各々別に、損傷が生じていると推定されるか否かを示す情報が表示される。また、本実施形態に係る推定結果表示画面では、基礎部12に損傷が生じていると推定される場合において、おおよその損傷位置を示す情報が表示される。従って、損傷推定装置100のユーザは、推定結果表示画面を参照することにより、これらの情報を把握することができる。
【0144】
ステップ224で、損傷推定部102Dは、終了タイミングが到来したか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ206に戻る一方、肯定判定となった場合には本損傷推定処理を終了する。なお、上記終了タイミングとしては、例えば地震後に一定の時間が経過したタイミングや、ユーザによって損傷推定処理の終了が指示されたタイミング等が挙げられる。
【0145】
以上説明したように、本実施形態によれば、推定対象とする建物に設けられた建物センサにより平常時に得られた建物振動データを用いて、建物と当該建物の基礎部との相互の影響を分離して解析可能な分離モデルを適用したシステム同定により平常時建物振動モードを推定し、かつ、建物センサにより地震発生直後に得られた建物振動データを用いて、分離モデルを適用したシステム同定により地震直後建物振動モードを推定する建物振動推定部102Bと、建物の基礎部の上部に設けられた基礎部センサにより平常時に得られた基礎部振動データを用いて、上記分離モデルを適用したシステム同定により平常時基礎部振動モードを推定し、かつ、基礎部センサにより地震発生直後に得られた基礎部振動データを用いて、上記分離モデルを適用したシステム同定により地震直後基礎部振動モードを推定する基礎部振動推定部102Cと、平常時建物振動モード及び地震直後建物振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて建物の損傷の状態を推定し、かつ、平常時基礎部振動モード及び地震直後基礎部振動モードの各振動モードで得られる剛性に関する物理量の差分を用いて基礎部の損傷の状態を推定する損傷推定部102Dと、を備えている。従って、建設後の建物について、建物そのものの地震による損傷状態と、当該建物の基礎部の当該地震による損傷状態とを同時に推定することができる。
【0146】
また、本実施形態によれば、上記分離モデルを、スウェイ・ロッキングモデルに基づくモデルとしている。従って、当該モデルを適用しない場合に比較して、より高精度に、建物及び基礎部の損傷状態を推定することができる。
【0147】
また、本実施形態によれば、建物センサを、建物の各階に設けている。従って、より高精度に建物の損傷状態を推定することができる。
【0148】
また、本実施形態によれば、建物センサを建物の剛心位置及び重心位置の少なくとも一方に配置している。従って、少ない数の建物センサによって建物の振動モードを効率的に推定することができる。
【0149】
更に、本実施形態によれば、上記損傷の状態を、当該損傷の有無としている。従って、損傷の有無を把握することができる。
【0150】
(その他の実施形態)
以上、本発明について実施形態の一例を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能である。
【0151】
例えば、上記実施形態では、上記損傷の状態として、当該損傷の有無を適用しているが、これに限定されるものではない。上記損傷の状態として、例えば、損傷の度合いを適用する形態としてもよく、損傷の有無及び損傷の度合いの双方を適用する形態としてもよい。この場合、ユーザは、損傷の有無のみならず、損傷の度合いまで把握することができる結果、その後の対処策の策定等に寄与することができる。
【0152】
また、上記実施形態では、本発明の分離モデルとしてSRモデルに基づくモデルを適用しているが、これに限定されるものではない。本発明の分離モデルとして、例えば、FEM(Finite Element Method)モデルを適用する形態としてもよい。
【0153】
また、上記実施形態では、上部構造物14の剛心位置と重心位置とが一致しており、上部構造物14の各階において建物センサ18が1つずつ設置されていた。しかし、上部構造物14の剛心位置と重心位置とが異なる場合(すなわち不整形な建物の場合)には、剛心位置と重心位置の双方に建物センサ18を設置することが好ましい。
【0154】
また、上記実施形態では、上部構造物14の剛心位置及び重心位置に建物センサ18が設置されていたが、上部構造物14の各階の四隅等、上部構造物14の外周部に沿って複数の建物センサ18を設置する構成としてもよい。この場合、上部構造物14の外周部に設置された複数の建物センサ18を用いて、重心位置及び剛心位置における建物振動モードを推定することができる。
【0155】
さらに、上記実施形態では、基礎部12の複数の基礎杭16の上部に基礎部センサ20がそれぞれ設置されていたが、基礎部センサ20は必ずしも全ての基礎杭16の上部に設置する必要はなく、分離モデル(ここでは、SRモデルに基づくモデル)の運動方程式を立てるのに必要最低限の数が設置されているだけでもよい。また、各基礎杭16の上部だけでなく、基礎部12の図示しない基礎底版や基礎梁の上部に複数の基礎部センサ20をそれぞれ設置する構成としてもよい。
【0156】
また、上記実施形態では、建物センサ18と基礎部センサ20とが同じ加速度センサで構成されていたが、異なるセンサで構成されていてもよい。さらに、建物センサ18及び基礎部センサ20は、運動方程式に乗る限り、加速度センサではなく速度センサや変位センサで構成されていてもよい。
【0157】
また、上記実施形態では、所定レベル以上の地震が発生した場合に損傷判定を実行する構成としていたが、本損傷推定処理を地震発生時だけではなく、所定の間隔で常時実行する構成としてもよい。
【0158】
また、上記実施形態では、本発明の剛性に関する物理量として剛性そのものを適用した場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、上記物理量として、固有振動数を適用する形態としてもよい。
【0159】
また、上記実施形態において、例えば、振動推定部102A及び損傷推定部102Dの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。
【0160】
上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0161】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0162】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0163】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0164】
10 建物
12 基礎部
14 上部構造物
16 基礎杭
18 建物センサ
20 基礎部センサ
100 損傷推定装置
102 CPU
102A 振動推定部
102B 建物振動推定部
102C 基礎部振動推定部
102D 損傷推定部
104 メモリ
106 記憶部
106A 損傷推定プログラム
108 入力部
110 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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図16