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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】動力伝達装置およびロボット装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 17/02 20060101AFI20240627BHJP
   B25J 19/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B25J17/02 Z
B25J19/00 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020173815
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065317
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高間 正博
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-121080(JP,A)
【文献】特開2010-264519(JP,A)
【文献】国際公開第2012/164705(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 17/02
B25J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ出力軸の先端に同一構造の駆動ギアが係合された一対のアクチュエータと、
一対の前記アクチュエータを、対応する前記駆動ギアが同軸中心かつ内向きに対向するように配置した状態で固定支持する支持フレームと、
一対の前記アクチュエータの前記各駆動ギアに接触または非接触に係合される差動ギアを有し、当該差動ギアと一体となって回転しつつ、前記支持フレームに形成された切欠きを可動領域とする従動回転体と、
前記各アクチュエータの出力軸に対して軸方向が垂直関係を有するように前記支持フレームに係合された筒形出力軸を有し、当該筒形出力軸の回転に応じて一対の前記アクチュエータと一体となって前記支持フレームを回転させる追加アクチュエータと、
前記追加アクチュエータの前記筒形出力軸の軸中心に沿って形成される所定径の貫通孔と、当該筒形出力軸の貫通孔と連通して前記支持フレームに形成される同一径のフレーム貫通孔とを介して、前記支持フレームにおける相対向する一対の前記駆動ギアの間に形成される間隙と、前記従動回転体および前記差動ギアにおける当該差動ギアの回転中心に沿って形成される中空部とを挿通するように配設される電源制御用ケーブルと
を備え、一対の前記アクチュエータおよび前記追加アクチュエータは、前記電源制御用ケーブルを経由してそれぞれ電力供給される
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
一対の前記アクチュエータおよび前記追加アクチュエータをそれぞれ駆動制御する制御部を備え、
前記制御部は、両方の前記アクチュエータを同一方向に同時に回転駆動させて、非回転状態に固定される前記差動ギアおよび前記従動回転体を前記支持フレームに対して一対の前記アクチュエータの前記出力軸を回転中心として回転させる一方、両方の前記アクチュエータを反対方向に同時に回転駆動させて、前記差動ギアおよび前記従動回転体を前記支持フレームに対して相対回転させる
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記制御部は、両方の前記アクチュエータを反対方向に同時に回転駆動させる代わりに、いずれか一方の前記アクチュエータのみ所望方向に回転駆動させて、前記差動ギアおよび前記従動回転体を前記支持フレームに対して相対回転させる
ことを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の動力伝達装置を備えるロボット装置において、
関節部位を基準に特定方向に対して回動自在に連結された第1および第2アームを備え、
前記第1アームは、前記支持フレームを有するとともに、前記第2アームは、前記従動回転体を有し、
前記関節部位は、一対の前記アクチュエータ、一対の前記駆動ギア、前記追加アクチュエータおよび前記差動ギアから構成され、
前記電源制御用ケーブルは、前記第1アームおよび前記第2アームの内部に前記関節部位を介して配設される
ことを特徴とするロボット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置およびロボット装置に関し、例えばロボットアームの関節機構に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から人間型ロボットにおいて、多関節型のロボットアームの各関節機構には、回転軸ごとに単一のアクチュエータを配置するようになされたものが一般的である。
【0003】
このようなロボットアームには、アーム先端のエンドエフェクタ等を駆動制御するための電源供給用や信号伝達用のケーブルが配設されている。このケーブルは、省スペースを図ったり、アームや周辺装置類との接触や干渉等を防止したりするために、ロボット内部に収容し、ロボット内部を経由して各部に接続するようになされている。
【0004】
このケーブルは可撓性部材であり、ロボットアームの内部に配設される際に、関節部を中心に回動部位では、ケーシングとの摩擦や捻り等により損傷するおそれがある。
【0005】
このため従来から、多関節型アームを備えるロボットでは、ロボットアームの中空部を挿通するようにケーブルを配置するとともに、関節部位のモータの外周にケーブルの折り返し部を設けて、当該ケーブルの捻れや断線を抑制するようになされたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また多関節型アームを備えるロボットにおいて、アームの受け部の周縁部に案内部を設けることにより、当該案内部を介してアームの一方側から他方側に可撓性のあるケーブルを案内するようにして、当該ケーブルが局所的に捻れることを防止するようになされたものが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-131969号公報
【文献】特開2018-15872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1および2のような多関節型アームを備えるロボットでは、いずれも関節部位の回動動作時に過剰な負荷がかからないようにして、ケーブルの可撓性を緩和した程度に過ぎない。このためケーブルの耐久性にも限界があり、実用上十分とは言い得ない問題があった。
【0009】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、装置全体の省スペース化およびケーブルの耐久性向上を実現可能な動力伝達装置およびロボット装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本発明においては、それぞれ出力軸の先端に同一構造の駆動ギアが係合された一対のアクチュエータと、一対のアクチュエータを、対応する駆動ギアが同軸中心かつ内向きに対向するように配置した状態で固定支持する支持フレームと、一対のアクチュエータの各駆動ギアに接触または非接触に係合される差動ギアを有し、当該差動ギアと一体となって回転しつつ、支持フレームに形成された切欠きを可動領域とする従動回転体と、各アクチュエータの出力軸に対して軸方向が垂直関係を有するように支持フレームに係合された筒形出力軸を有し、当該筒形出力軸の回転に応じて一対のアクチュエータと一体となって支持フレームを回転させる追加アクチュエータと、追加アクチュエータの筒形出力軸の軸中心に沿って形成される所定径の貫通孔と、当該筒形出力軸の貫通孔と連通して支持フレームに形成される同一径のフレーム貫通孔とを介して、支持フレームにおける相対向する一対の駆動ギアの間に形成される間隙と、従動回転体および差動ギアにおける当該差動ギアの回転中心に沿って形成される中空部とを挿通するように配設される電源制御用ケーブルとを備え、一対のアクチュエータおよび追加アクチュエータは、電源制御用ケーブルを経由してそれぞれ電力供給されるようにした。
【0011】
この結果、動力伝達装置では、追加アクチュエータに対して支持フレームを回転させる際に、電源制御用ケーブルが追加アクチュエータの筒形出力軸の回転動作および回転方向に全く影響されることがなくて済むとともに、支持フレームに対して従動回転体を回転させる際にも、電源制御用ケーブルが従動回転体の回転動作および回転方向に全く影響されることがなくて済む。したがって、動力伝達装置では、回転機構を有する可動部位に電源制御用ケーブルを全く捻りや断線などの負荷を与えることなく配設することが可能となる。
【0012】
また本発明においては、一対のアクチュエータおよび追加アクチュエータをそれぞれ駆動制御する制御部を備え、制御部は、両方のアクチュエータを同一方向に同時に回転駆動させて、非回転状態に固定される差動ギアおよび従動回転体を支持フレームに対して一対のアクチュエータの出力軸を回転中心として回転させる一方、両方のアクチュエータを反対方向に同時に回転駆動させて、差動ギアおよび従動回転体を支持フレームに対して相対回転させるようにした。
【0013】
この結果、動力伝達装置では、制御部は、一対のアクチュエータを同時に回転駆動させて2倍のトルクを付加しながら、支持フレームに対して従動回転体を回転させることができる。その際、制御部は、一対のアクチュエータを同方向または反対方向に切り替えて回転駆動させることにより、支持フレームに対する従動回転体の回転方向を変更することが可能となる。
【0014】
さらに本発明においては、制御部は、両方のアクチュエータを反対方向に同時に回転駆動させる代わりに、いずれか一方のアクチュエータのみ所望方向に回転駆動させて、差動ギアおよび従動回転体を支持フレームに対して相対回転させるようにした。
【0015】
この結果、動力伝達装置では、従動回転体を差動ギアの回転に応じて一体化して回転させる際に、一対のアクチュエータのいずれか一方のみ回転駆動させて他方をトルクフリーにさせることにより、差動ギアの回転トルクを一方のアクチュエータからのみ付与することができる。
【0016】
さらに本発明においては、上述の動力伝達装置を備えるロボット装置において、関節部位を基準に特定方向に対して回動自在に連結された第1および第2アームを備え、第1アームは、支持フレームを有するとともに、第2アームは、従動回転体を有し、関節部位は、一対のアクチュエータ、一対の駆動ギア、追加アクチュエータおよび差動ギアから構成され、電源制御用ケーブルは、第1アームおよび第2アームの内部に関節部位を介して配設されるようにした。
【0017】
この結果、ロボット装置では、第1アームに対して第2アームを関節部位に準じた特定方向に回転させることができる一方、第1アームに対して第2アームを特定方向に対する垂直方向を回転中心とする捻り方向に回転させることができる。これに加えて、ロボット装置では、肩関節部位や股関節部位のような人間型ロボットの四肢の根元関節に追加アクチュエータを適用することにより、当該根元関節の機構全体をコンパクト化させることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、装置全体の省スペース化およびケーブルの耐久性向上を実現可能な動力伝達装置およびロボット装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1実施の形態に係る動力伝達装置の外観構成を示す概念図である。
図2図1に示す動力伝達装置の2方向からの断面図である。
図3】動力伝達装置におけるアクチュエータの構成を示す断面図および分解図である。
図4】第1実施の形態におけるロボットアームの構成を示す概念図である。
図5図4に示すロボットアームの2方向からの断面図である。
図6】第2実施の形態における動力伝達装置の構成を示す概念図である。
図7図6に示すロボットレッグの概念図である。
図8】他の実施の形態における動力伝達装置の概念図である。
図9図8に示す動力伝達装置の断面図である。
図10】他の実施の形態における動力伝達装置を適用したロボット装置の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0029】
(1)第1実施の形態による動力伝達装置の構成
図1は、第1実施の形態による動力伝達装置1を示す。また図2(A)および(B)は、図1における動力伝達装置を矢印A-A’および矢印B-B’を基準に切断した場合の各断面図である。矢印A-A’と矢印B-B’は互いに垂直関係にある。
【0030】
図1において、動力伝達装置1は、一対のアクチュエータ2が搭載されたハウジング部3と、当該ハウジング部3に対して2種類の回転方向に回転可能に係合された従動回転体4とを有する。図1では、ハウジング部3および従動回転体4の筐体端部はそれぞれ省略されている。
【0031】
図2(A)および(B)に示すように、ハウジング部3は、それぞれ出力軸5の先端に同一構造の傘歯車6が係合された一対のアクチュエータ2を有し、それぞれ同一構造のアクチュエータ2が、対応する傘歯車6が同軸中心かつ内向きに対向するように配置した状態で固定保持されている。
【0032】
従動回転体4は、一対のアクチュエータ2の各傘歯車6に歯合される差動歯車15を有し、当該差動歯車15と一体となって回転するようになされている。
【0033】
ハウジング部3における相対向する一対の傘歯車6の間に形成される間隙G1と、従動回転体4および差動歯車15における当該差動歯車15の回転中心に沿って形成される中空部H1とを挿通するように電源制御用ケーブル20が配設されている。ハウジング部3内の一対のアクチュエータ2は、電源制御用ケーブル20を経由してそれぞれ電力供給および制御信号等の伝送がされるようになされている。
【0034】
このように、動力伝達装置1では、電源制御用ケーブル20をハウジング部3内の間隙G1と差動歯車15を含む従動回転体4内の中空部H1とを挿通するように配設したことにより、ハウジング部3に対して従動回転体4を回転させる際に電源制御用ケーブル20が、従動回転体4の回転動作および回転方向に全く影響されることがなくて済む。
【0035】
従って、動力伝達装置1では、回転機構を有する可動部位に電源制御用ケーブル20を全く捻りや断線などの負荷を与えることなく配設することが可能となる。
【0036】
アクチュエータ2は、図3(A)および(B)に示すように、例えば扁平形のブラシレスDCモータからなり、電機子巻線を有する固定子30と、当該固定子に対して回転可能に支持された永久磁石群を含む回転子40とを備える。
【0037】
このアクチュエータ2の回転子40は、ハルバッハ配列の永久磁石群(個別磁石の円形配列)41と、当該永久磁石群41の外周を囲むように高磁化率材料から成形される円環状バンド42とからなる。
【0038】
ここでハルバッハ配列の永久磁石群41は、回転子40の径方向にN極とS極とを交互に配置した主磁極磁石と、当該主磁極磁石の周方向両面に径方向以外(周方向)に着磁された補助磁石とを組み合わせたものであり、磁極の方向を最適化することにより特定の方向への磁場強度を強めることが可能となる。
【0039】
永久磁石群41の各個別磁石は、磁場が配列セグメント(例えば8個単位)内の隣接する磁石同士で45度傾いた状態で配列されており、合成磁場が配列方向に対して垂直方向(内側中心方向)に出るとともに、磁場形状が正弦波形に近似するようになされている。
【0040】
円環状バンド42は、永久磁石群41からでる磁力線を閉じ込めて内部磁場を増大させるように、外周部分の厚みが所定幅となるように設計されている。
【0041】
アクチュエータ2の固定子30は、鉄製の各コアに巻回された電機子巻線からなるリング状固定極31と、アクチュエータ2の回転子40の回転速度を所定の減速比に変換して出力する減速機32とを有する。リング状固定極31は、コアの寸法、体積および外径と当該コアの配置数(歯数)とを回転子との関係で最大磁場を確保できるように設計されている。またリング状固定極31は、発生する磁場を閉じ込めて回転中心方向に磁束漏れを生じないように、各コアを円環状に支持するリング部材の厚みが設計されている。
【0042】
なお、アクチュエータ2において、回転子40の永久磁石群41の各個別磁石の数と、固定子30のリング状固定極31のコア数(極数)とは、駆動トルクが最大限出力できるように最適な磁極対を有するように設定されている。
【0043】
動作伝達装置1には、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等が搭載されたMCM(Multi-Chip Module)からなるアクチュエータ制御部(図示せず)が内蔵され、一対のアクチュエータ2を駆動制御するようになされている。
【0044】
アクチュエータ制御部は、両方のアクチュエータ2を同一方向に同時に回転駆動させて、非回転状態に固定される差動歯車15および従動回転体4をハウジング部3に対して一対のアクチュエータ2の出力軸5を回転中心として回転させる一方、両方のアクチュエータ2を反対方向に同時に回転駆動させて、差動歯車15および従動回転体4をハウジング部3に対して相対回転させるように制御する。
【0045】
この結果、動力伝達装置1では、アクチュエータ制御部は、一対のアクチュエータ2を同時に回転駆動させて2倍のトルクを付加しながら、ハウジング部3に対して従動回転体4を回転させることができる。その際、アクチュエータ制御部は、一対のアクチュエータ2を同方向または反対方向に切り替えて回転駆動させることにより、ハウジング部3に対する従動回転体4の回転方向を変更することが可能となる。
【0046】
(2)第1実施の形態におけるロボットアームの構成
上述した図1に示す動力伝達装置1をロボットアーム60に適用した場合について、図4図5(A)および(B)とを用いて説明する。図4におけるロボットアーム60を矢印A-A’および矢印B-B’を基準に切断した場合の各断面図が図5(A)および(B)に相当する。
【0047】
ロボットアーム60において、動力伝達装置1を肩関節および肘関節にそれぞれ適用するとともに、ロボット装置本体から引き出した電源制御用ケーブル20を肩関節および肘関節の両方を通じて手先側に配設するようになされている。
【0048】
すなわち、図4に示すように、ロボットアーム60は、肩関節部位となる動力伝達装置1を基準に特定方向に対して回動自在に連結された肩本体フレーム61および上腕アーム62と、肘関節部位となる動力伝達装置1を基準に特定方向に対して回動自在に連結された上腕アーム62および前腕アーム63とを備える。
【0049】
図5(A)および(B)に示すように、肩関節部位となる動力伝達装置1において、ハウジング部3が肩本体フレーム61の一部を構成するとともに、従動回転体4が上腕アーム62の一部を構成し、肩関節部位は一対の傘歯車6および差動歯車15から構成される。そして電源制御用ケーブル20は、肩本体フレーム61および上腕アーム62の内部に肩関節部位を介して配設されている。
【0050】
このようにロボットアーム60では、動力伝達装置1は、肩本体フレーム61に対して上腕アーム62を肩関節部位に準じた特定方向に回転させることができる一方、肩本体フレーム61に対して上腕アーム62を特定方向に対する垂直方向を回転中心とする捻り方向に回転させることができる。
【0051】
また肘関節部位となる動力伝達装置1において、ハウジング部3が上腕アーム62の一部を構成するとともに、従動回転体4が前腕アーム63の一部を構成し、肘関節部位は一対の傘歯車6および差動歯車15から構成される。そして肩関節部位を介して引き出された電源制御用ケーブル20は、上腕アーム62および前腕アーム63の内部に関節部位を介して配設されている。
【0052】
このようにロボットアーム60では、動力伝達装置1は、上腕アーム62に対して前腕アーム63を肘関節部位に準じた特定方向に回転させることができる一方、上腕アーム62に対して前腕アーム63を特定方向に対する垂直方向を回転中心とする捻り方向に回転させることができる。
【0053】
(3)第2実施の形態における動力伝達装置の構成
図6(A)および(B)に、第2実施の形態による動力伝達装置70を示す。この図6(A)および(B)に示す動力伝達装置70において、一対のアクチュエータ2が搭載されたハウジング部71は、それぞれアクチュエータ2の出力軸5に係合された駆動用プーリ72と、当該各駆動用プーリ72とそれぞれワイヤ73を介して係合され、同軸中心かつ内向きに対向するように同一構造からなる一対の傘歯車(従動用プーリ)74とを有する。
【0054】
このハウジング部71には、各傘歯車74に差動歯車75が歯合され、当該差動歯車75と一体となって従動回転体76が回転するようになされている。図6(A)および(B)では、従動回転体76の筐体端部は省略されている。
【0055】
ハウジング部71における相対向する一対の傘歯車74の間に形成される間隙と、従動回転体76および差動歯車75における当該差動歯車75の回転中心に沿って形成される中空部とを挿通するように電源制御用ケーブル20が配設されている。ハウジング部71内の一対のアクチュエータ2は、電源制御用ケーブル20を経由してそれぞれ電力供給されるようになされている。
【0056】
このように、動力伝達装置70では、電源制御用ケーブル20をハウジング部71内の間隙と差動歯車75を含む従動回転体76内の中空部とを挿通するように配設したことにより、ハウジング部71に対して従動回転体76を回転させる際に電源制御用ケーブル20が、従動回転体76の回転動作および回転方向に全く影響されることがなくて済む。
【0057】
従って、動力伝達装置70では、回転機構を有する可動部位に電源制御用ケーブル20を全く捻りや断線などの負荷を与えることなく配設することが可能となる。
【0058】
なお、アクチュエータ2および当該アクチュエータ2の構造は上述した図3(A)および(B)と同一である。動力伝達装置70におけるアクチュエータ制御部は、両方のアクチュエータ2を同一方向に同時に回転駆動させて、非回転状態に固定される差動歯車75および従動回転体76をハウジング部71に対して一対のアクチュエータ2の出力軸5を回転中心として回転させる一方、両方のアクチュエータ2を反対方向に同時に回転駆動させて、差動歯車75および従動回転体76をハウジング部71に対して相対回転させるように制御する。
【0059】
この結果、動力伝達装置70では、アクチュエータ制御部は、一対のアクチュエータ2を同時に回転駆動させて2倍のトルクを付加しながら、ハウジング部71に対して従動回転体76を回転させることができる。その際、アクチュエータ制御部は、一対のアクチュエータ2を同方向または反対方向に切り替えて回転駆動させることにより、ハウジング部71に対する従動回転体76の回転方向を変更することが可能となる。
【0060】
(4)第2実施の形態におけるロボットレッグの構成
上述した図6(A)および(B)に示す動力伝達装置70をロボットレッグ80に適用した場合について、図7(A)および(B)を用いて説明する。ロボットレッグ80において、動力伝達装置70を膝関節および足首関節にそれぞれ適用するとともに、ロボット装置本体から引き出した電源制御用ケーブル20を膝関節およびの両方を通じて手先側に配設するようになされている。
【0061】
なお、このロボットレッグ80において、股関節には上述した第1実施の形態による動力伝達装置1を適用しており、当該動力伝達装置1の従動回転体4がハウジング部としての大腿フレーム81の股関節側と一体に固定された構造を有する。
【0062】
ロボットレッグ80は、膝関節部位となる動力伝達装置70を基準に特定方向に対して回動自在に連結された大腿フレーム81および脛フレーム82と、足首関節部位となる動力伝達装置70を基準に特定方向に対して回動自在に連結された脛フレーム82および足甲フレーム83とを備える。
【0063】
膝関節部位となる動力伝達装置70において、ハウジング部71が大腿フレーム81の一部を構成するとともに、従動回転体76が脛フレーム82の一部を構成し、膝関節部位は一対の傘歯車74および差動歯車75から構成される。そして股関節部位を介して引き出された電源制御用ケーブル20は、大腿フレーム81および脛フレーム82の内部に脛関節部位を介して配設されている。
【0064】
このようにロボットレッグ80では、動力伝達装置70は、大腿フレーム81に対して脛フレーム82を膝関節部位に準じた特定方向に回転させることができる一方、大腿フレーム81に対して脛フレーム82を特定方向に対する垂直方向を回転中心とする捻り方向に回転させることができる。
【0065】
また足首関節部位となる動力伝達装置70において、ハウジング部71が脛フレーム82の一部を構成するとともに、従動回転体76が足甲フレーム83の一部を構成し、足首関節部位は一対の傘歯車74および差動歯車75から構成される。そして膝関節部位を介して引き出された電源制御用ケーブル20は、脛フレーム82および足甲フレーム83の内部に関節部位を介して配設されている。
【0066】
このようにロボットレッグ80では、動力伝達装置70は、脛フレーム82に対して足甲フレーム83を肘関節部位に準じた特定方向に回転させることができる一方、脛フレーム82に対して足甲フレーム83を特定方向に対する垂直方向を回転中心とする捻り方向に回転させることができる。
【0067】
(5)他の実施の形態
なお上述の第1および第2実施の形態においては、2種類の動力伝達装置1、70をロボットアーム60およびロボットレッグ80に適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、人間型や動物型など種々の関節部位を有するロボット装置に広く適用するようにしてもよい。
【0068】
例えば、人間型のロボット装置(図示せず)において、肩関節部位および肘関節部位のみならず、腰関節部位や駆動輪との連結部位などに応用することも可能である。
【0069】
また上述の第1実施の形態においては、動力伝達装置1における一対のアクチュエータ2を保持するハウジング部3自体が固定されている場合について述べたが、本発明はこれに限らず、動力伝達装置をハウジング部全体と一体となって直接回転駆動させるようにしてもよい。
【0070】
すなわち、例えば図8および図9に示す動力伝達装置100は、全体として略球殻構造のハウジング部101の内部に、一対のアクチュエータ2を支持する支持フレーム102が保持されている。この支持フレーム102には、一端に従動回転体4の可動領域に応じた切欠き102Aが形成されるとともに、他端に追加アクチュエータ103の出力軸104が係合された構造を有する。
【0071】
なお、図8には従動回転体は省略されている。また一対のアクチュエータ2および対応する各傘歯車6は、第1実施の形態における動力伝達装置1と同一構成のものを適用してもよい。図示しないが従動回転体4および差動歯車15も第1実施の形態における動作伝達装置1と同一構成のものを適用してもよい。
【0072】
この追加アクチュエータ103は、出力軸104の軸中心に沿って所定径の貫通孔104Aが形成されている。支持フレーム102にも、出力軸104の貫通孔104Aと連通して同一径の貫通孔102Bが形成されている。これにより、電源制御用ケーブル20は、追加アクチュエータ103の出力軸104の貫通孔104Aおよび支持フレーム102の貫通孔102Bに挿通可能となる。
【0073】
この結果、動力伝達装置100は、外部から引き出された電源制御用ケーブル20を、追加アクチュエータ103の出力軸104の貫通孔104Aを介して、ハウジング部101における相対向する一対の傘歯車6の間に形成される間隙G1と、従動回転体4および差動歯車15における当該差動歯車15の回転中心に沿って形成される中空部H1とを挿通するように配設することが可能となる。
【0074】
したがって、動力伝達装置100では、追加アクチュエータ103に対してハウジング部101を回転させる際に、電源制御用ケーブル20が追加アクチュエータ103の出力軸104の回転動作および回転方向に全く影響されることがなくて済むとともに、ハウジング部101に対して従動回転体4を回転させる際にも、電源制御用ケーブル20が従動回転体4の回転動作および回転方向に全く影響されることがなくて済む。従って、動力伝達装置100では、回転機構を有する可動部位に電源制御用ケーブル20を全く捻りや断線などの負荷を与えることなく配設することが可能となる。
【0075】
このような追加アクチュエータ103を含む動力伝達装置100は、例えば図10に示すようなロボット装置110として、肩関節部位や股関節部位のような人間型ロボットの四肢の根元関節に適用することにより、当該根元関節の機構全体をコンパクト化させることが可能となる。
【0076】
さらに上述の第1および第2実施の形態の動力伝達装置1、70においては、アクチュエータ制御部は、両方のアクチュエータ2を反対方向に同時に回転駆動させる代わりに、いずれか一方のアクチュエータ2のみ所望方向に回転駆動させて、差動歯車15、75および従動回転体4、76をハウジング部3、71に対して相対回転させるようにしてもよい。
【0077】
この結果、動力伝達装置1、70では、従動回転体4、76を差動歯車15、75の回転に応じて一体化して回転させる際に、一対のアクチュエータ2のいずれか一方のみ回転駆動させて他方をトルクフリーにさせることにより、差動歯車15、75の回転トルクを一方のアクチュエータ2からのみ付与することができる。
【0078】
なお、上述の第1および第2実施形態においては、アクチュエータ制御部を動力伝達装置1、70に内蔵した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、動力伝達装置1、70、100および当該動力伝達装置1、70、100を含むロボット装置(ロボットアームやロボットレッグを含む)の全体または一部を制御するためのアクチュエータ制御部を適用するようにしてもよい。この場合、アクチュエータ制御部からの制御信号は電源制御用ケーブル20に含まれる信号線を介して各アクチュエータ2に伝達するようにしてもよい。
【0079】
また、上述の第1および第2実施形態における動力伝達装置1、70、100においては、一対のアクチュエータ2に係合される駆動ギアを傘歯車6、74から構成するとともに、従動回転体4、76と一体となって回転する差動ギアを差動歯車15、75から構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、駆動ギアとしては、傘歯車以外にもマグネットギアのような非接触式の同軸中心伝達ギアや、摩擦ローラのような接触式の同軸中心伝達ギアを適用するようにしてもよく、当該駆動ギアに接触または非接触に係合される差動ギアも駆動ギアに応じた差動伝達機構を有するものを適用するようにしてもよい。
【0080】
さらに、第2実施の形態による動力伝達装置70においては、一対のアクチュエータ2が搭載されたハウジング部71は、それぞれアクチュエータ2の出力軸5に駆動用プーリ72が係合されるとともに、当該各駆動用プーリ72と駆動ギア(従動用プーリ)74とがそれぞれワイヤ73を介して係合されるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、駆動用プーリおよびワイヤ以外にも、種々の構成からなる駆動用索輪と索状体(ベルトやロープ等)を伝達機構として適用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1、70、100…動力伝達装置、2…アクチュエータ、3、71、101…ハウジング部、4、76…従動回転体、5、104…出力軸、6、74…傘歯車、15、75…差動歯車、20…電源制御用ケーブル、30…固定子、31…リング状固定極、32…減速機、40…回転子、41…永久磁石群、42…円環状バンド、60…ロボットアーム、61…肩本体フレーム、62…上腕アーム、63…前腕アーム、72…駆動用プーリ、73…ワイヤ、80…ロボットレッグ、81…大腿フレーム、82…脛フレーム、83…足甲フレーム、110…ロボット装置、102…支持フレーム、103…追加アクチュエータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10