(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】円筒管用搬送装置
(51)【国際特許分類】
E21D 20/00 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
E21D20/00 Z
(21)【出願番号】P 2020174746
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】594149398
【氏名又は名称】古河ロックドリル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】能代 泰範
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-089010(JP,A)
【文献】特開平07-105760(JP,A)
【文献】特開2003-306340(JP,A)
【文献】特開昭51-014661(JP,A)
【文献】特開平11-050800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル施工、鉱山坑道掘削または補強土作業等の土木作業でのロックボルト打設工程において定着剤を注入するために使用する、注入用のパイ
プ若しくはホー
スである円筒
管をその軸方向に沿って送り出しまたは引き戻しをするための円筒
管用搬送装置であって、
前記円筒
管が挿通される入口もしくは出口となる一対の搬送口を有する筺体と、該筺体内であって前記一対の搬送口に対応する位置それぞれに設けられて前記円筒
管の外周面をその両側から対向する一対のローラ間に挟持するとともに該一対のローラがそれぞれの支軸まわりで回転することで前記円筒
管を搬送方向に沿って搬送する少なくとも二組の搬送ローラ組と、を備え、
前記二組の搬送ローラ組は、当該二組の搬送ローラ組の相互により前記搬送方向に沿ったそれぞれの搬送軸線に段差が生じるように前記一対の搬送口の位置での他方の前記搬送軸線に対して垂直な方向に前後して配置されており、
前記円筒
管が、前記段差によって前記少なくとも二組の搬送ローラ組間で屈曲した状態で前記筺体内に納められることを特徴とする円筒
管用搬送装置。
【請求項2】
前記二組の搬送ローラ組は、各搬送ローラ組を構成する前記一対のローラの支軸の軸線すべてが相互に平行に配置され、さらに、各搬送ローラ組を構成する前記一対のローラの支軸中心相互を結ぶ線分が、前記筺体の一対の搬送口の位置での各搬送軸線に対して直交するように前記筺体内に配置されている請求項1に記載の円筒
管用搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプ、ホース、ケーブルボルト若しくはワイヤケーブル等の可撓性をもつ円筒部材をその搬送方向に沿って出し入れをする搬送技術に関する。
なお、この種の円筒部材用の搬送技術の適用分野は広く、本明細書では、その一例として、トンネル施工、鉱山坑道掘削または補強土作業等の土木作業でのロックボルト打設工程において定着剤を注入するために使用する、注入用のパイプ若しくはホース等の可撓性をもつ円筒管用の搬送装置への適用例に基づいて説明する。
【背景技術】
【0002】
掘削されたトンネルや坑内の周壁面に対し、ドリルジャンボ又はロックボルト打設機等の土木作業機を用いてロックボルトを打設するロックボルト打設工程が行なわれ、トンネル、坑内の周壁面の安定化が図られている(例えば特許文献1参照)。
ここで、土木作業機を用いてロックボルトを打設する場合、まず、土木作業機に装備された穿孔装置を用いてロックボルト打設孔の穿孔を行い、次いで、その穿孔された打設孔内に定着剤を注入し、次いで、ロックボルトを挿入するまでの一連の打設作業が行われる。この一連の打設作業は、一区間内での打設角度や打設位置を変えながら連続して必要数だけ繰り返すことで、ロックボルトの打設作業が完了する。
【0003】
ところで、この一連の打設作業において、定着剤を注入する定着剤注入工程では、注入ホースをその軸方向に沿って送り出しまたは引き戻し可能な円筒部材用搬送装置が用いられる(以下、単に「搬送装置」ともいう)。この種の搬送装置は、打設孔に対して注入ホースを搬送装置の送り出し駆動により差込み、注入ホースから定着剤を打設孔に注入しながら、注入ホースを搬送装置の引き戻し駆動により引き戻す作業がある。
【0004】
注入ホースを挿抜するためのこの種の搬送装置の例を
図5および
図6に示す。
図5に示すように、この搬送装置200は、入口もしくは出口となる一対の搬送口213、214を有する筐体210と、この筺体210内に一対の搬送口213、214に対応する位置それぞれに設けられた二組の搬送ローラ組220、230と、を備える。各搬送ローラ組220、230は、注入ホースを挟持する一対をなすローラ221,222および231,232をそれぞれ有する。
【0005】
同図の例では、ローラ221が駆動ローラとされ、他のローラが従動ローラとされている。各ローラ221、222、231、232は、各スプロケット外周に、無端環状のチェーン250が巻回されるとともに、環状のチェーン250の内側の適所にテンショナ240が設けられている。
この搬送装置200では、一対をなすローラ221,222および231,232間に注入ホースPを挟み込み、対をなすローラ221,222および231,232と注入ホースPとの摩擦接触により、対をなすローラ221,222および231,232の回転力を注入ホースPの搬送方向に沿って伝達して前後進する構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の搬送装置200では、二組の搬送ローラ組220、230は、
図5に示すように、一対のローラ221,222の列による注入ホースPの搬送方向に沿った搬送軸線(注入ホースPの中心線)と、他の一対のローラ231,232の列による搬送方向に沿った搬送軸線と、一対の搬送口213,214の中心の位置とは、注入ホースPの搬送方向に沿って一直線上に搬送軸線が並んでいる。
【0008】
そのため、打設孔が崩れたり、打設孔に曲がりが発生したりしている場合には、注入ホースPの挿入抵抗が増えるため、搬送軸線全体が筐体内で一直線上に並んだ上記の構成であると、対をなすローラ221,222および231,232と注入ホースPとの間に滑りが生じて、押し引きする力が不足する場合がある。
また、対をなすローラ221,222および231,232による保持力が不足した場合には、注入ホースPの保持自体が困難となり、垂直姿勢での作業であれば、定着剤を含めた注入ホースPが落下するおそれもある。
【0009】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、可撓性をもつ円筒部材の押し引き力を高められ、また、可撓性をもつ円筒部材の抜け落ちに対しても抑制効果の高い、円筒部材用搬送装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る円筒部材用搬送装置は、パイプ、ホース、ケーブルボルト若しくはワイヤケーブル等の可撓性をもつ円筒部材をその軸方向に沿って送り出しまたは引き戻しをするための円筒部材用搬送装置であって、前記円筒部材が挿通される入口もしくは出口となる一対の搬送口を有する筺体と、該筺体内であって前記一対の搬送口に対応する位置それぞれに設けられて前記円筒部材の外周面をその両側から対向する一対のローラ間に挟持するとともに該一対のローラがそれぞれの支軸まわりで回転することで前記円筒部材を搬送方向に沿って搬送する少なくとも二組の搬送ローラ組と、を備え、前記二組の搬送ローラ組は、当該二組の搬送ローラ組の相互により前記搬送方向に沿ったそれぞれの搬送軸線に段差が生じるように前記一対の搬送口の位置での他方の前記搬送軸線に対して垂直な方向に前後して配置されており、前記円筒部材が、前記段差によって前記少なくとも二組の搬送ローラ組間で屈曲した状態で前記筺体内に納められることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る円筒部材用搬送装置では、二組の搬送ローラ組は、筺体内での一対の搬送口に対応する位置において、当該二組の搬送ローラ組相互により円筒部材の搬送方向に沿った相互の搬送軸線に段差が生じるように他方の搬送軸線に対して垂直な方向に前後して配置され、この段差によって少なくとも二組の搬送ローラ組間で円筒部材を屈曲した状態で筺体内に納めている。
【0012】
そのため、本発明の一態様に係る円筒部材用搬送装置によれば、パイプ、ホース、ケーブルボルト若しくはワイヤケーブル等の可撓性をもつ円筒部材が筺体内に屈曲して納められるので、円筒部材が搬送方向に沿って二組の搬送ローラ組で送り出される(若しくは引き戻される)ときに、各搬送ローラ組では、一対のローラ同士の中心方向への分力により円筒部材との摩擦力が増大する。
これにより、各搬送ローラ組での一対のローラと円筒部材との滑りを減じることが可能となり、円筒部材に対する一対のローラ同士による押し引きする力が相対的に増加する。また、同様にして、各搬送ローラ組での円筒部材に対する抜け落ち方向への抵抗力も相対的に上がることになる。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、本発明によれば、従来の円筒部材用搬送装置に比べて、円筒部材を搬送方向に沿って搬送する際の押し引きする力を高められ、また、円筒部材の抜け落ちに対しても抑制効果の高い円筒部材用搬送装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一態様に係る円筒部材用搬送装置の一実施形態の説明図であり、同図(a)は円筒管の送り出し方向への作動状態のイメージを併せて示し、(b)は円筒管の引き戻し方向への作動状態のイメージを併せて示している。
【
図2】本発明の一態様に係る円筒部材用搬送装置における二組の搬送ローラ組の配置位置の一実施形態の説明図であり、同図(a)は円筒管の送り出し方向への作動状態のイメージを併せて示し、(b)は円筒管の引き戻し方向への作動状態のイメージを併せて示している。
【
図3】本発明での「円筒部材の屈曲効果」を説明するための比較例であって、同図は、従来の円筒部材用搬送装置において、その筐体を搬送方向に対して傾斜設置した状態を示している。
【
図4】本発明の一態様に係る円筒部材用搬送装置の駆動機構の他の構成例を示す説明図である。
【
図5】従来の円筒部材用搬送装置の説明図であり、同図(a)は円筒管の送り出し方向への作動状態のイメージを併せて示し、(b)は円筒管の引き戻し方向への作動状態のイメージを併せて示している。
【
図6】従来の円筒部材用搬送装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。本実施形態は、可撓性をもつ円筒部材として、パイプ若しくはホース等の円筒管をその搬送方向に沿って出し入れする円筒管用搬送装置(以下、単に「搬送装置」ともいう)の例である。
なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の搬送装置100は、パイプ若しくはホース等の可撓性をもつ長尺な円筒管をその軸方向に沿って送り出しまたは引き戻しをするための装置である。
詳しくは、同図に示すように、搬送装置100は、円筒管Pの入口もしくは出口となる一対の搬送口13,14を有する筺体10と、筺体10内での一対の搬送口13,14に対応する位置それぞれに設けられた二組の搬送ローラ組20、30と、を備える。
本実施形態の例では、筺体10は、同図に示す筺体上側部分を構成する上ボディ11と、同図に示す筺体下側部分を構成する下ボディ12と、の組によって構成され、筐体10は、同図奥側の面が側面となって、不図示の搬送システムの側部に装備される。なお、同図では、筐体内の機構部を覆う筐体カバーの図示を省略している。
【0017】
搬送システムでの装備姿勢において、二組の搬送ローラ組20、30は、筺体10の側面から同図手前側に張り出すように設置される。同図の例では、二組の搬送ローラ組20、30のうち、第一の搬送ローラ組20は、一対の搬送口13,14のうち同図左側の搬送口13に対向する位置に設置され、第二の搬送ローラ組30は、同図右側の搬送口14に対向する位置に設置されている。
【0018】
二組の搬送ローラ組20、30のうち、第一の搬送ローラ組20は、円筒管Pの外周面をその両側から対向する一対のローラ21,22間に挟持するとともに、一対のローラ21,22がそれぞれの支軸まわりで回転することで円筒管Pを搬送方向に沿って搬送するように構成されている。
同様に、第二の搬送ローラ組30は、円筒管Pの外周面をその両側から対向する一対のローラ31,32間に挟持するとともに、一対のローラ31,32がそれぞれの支軸まわりで回転することで円筒管Pを搬送方向に沿って搬送するように構成されている。
【0019】
本実施形態の搬送装置100では、第一の搬送ローラ組20のうち、同図下側のローラ21が、スプロケット付の駆動ローラとされており、このローラ21の支軸がカップリングを介して不図示の駆動モータの出力軸に連結されている。なお、駆動モータの本体部は、筐体10の裏面側に装着されている。
【0020】
二組の搬送ローラ組20、30を構成する他のローラ22、31,32は、いずれもスプロケット付の従動ローラとされている。そして、各ローラ21、22、31、32のスプロケット外周には、無端環状のチェーン50が巻回されるとともに、環状のチェーン50の内側の適所にテンショナ40が設けられて、巻回されたチェーン50を適切に張設可能になっている。
これにより、本実施形態の搬送装置100は、駆動モータに直結された駆動ローラ21が回転駆動されると、その回転駆動力が、チェーン50を介して、各従動ローラ22,31,32に伝達されることで、二組の搬送ローラ組20、30が同期して同じ搬送方向に向けて円筒管Pをその軸方向に沿って送り出しまたは引き戻し可能になっている。
【0021】
本実施形態の搬送装置100では、各ローラ21、22、31、32のローラ本体の外周面には、
図6に示す従来例同様の、横断面がV字状の溝が全周に亘って形成されたV溝プーリになっており、対向するV溝同士の間で円筒管Pの外周面を上下から挟圧しつつ円筒管Pを搬送軸線(
図5での一点鎖線)に沿って案内可能になっている。なお、各ローラ21、22、31、32に形成されている歯車状段部は、対向するローラ相互による挟圧に必要な対向距離を取りつつ、注入剤や泥等の排出、搬送物に食い込んで摩擦力を増すための溝であって歯車として機能するものではない。
【0022】
ここで、
図2に示すように、本実施形態の搬送装置100では、二組の搬送ローラ組20、30は、当該二組の搬送ローラ組20、30相互の協働により、円筒管Pの搬送方向に沿ったそれぞれの搬送軸線に段差が生じるように、一対の搬送口13,14の位置での他方の搬送軸線に対して垂直な方向に前後して配置されて段差Dを設けている。これにより、本実施形態の搬送装置1では、円筒管Pが、この段差Dによって二組の搬送ローラ組20、30間で屈曲した状態で筺体10内に納められる。
【0023】
また、同図に示すように、本実施形態の搬送装置100では、各搬送ローラ組20、30を構成する一対のローラ21,22、31,32の支軸の軸線すべてが相互に平行に配置されている。本実施形態の搬送装置100では、一対のローラ21,22、31,32の支軸の軸線すべては水平に配置される。
さらに、本実施形態の搬送装置100では、第一の搬送ローラ組20を構成する一対のローラ21,22の支軸中心相互を結ぶ線分、および、第二搬送ローラ組30を構成する一対のローラ31,32の支軸中心相互を結ぶ線分は、筺体10の一対の搬送口13,14の位置での各搬送軸線に対して直交するように筺体10内に配置されている。
換言すれば、一対のローラ21,22の支軸中心相互を結ぶ線分と、他の一対のローラ31,32の支軸中心相互を結ぶ線分とは、搬送装置1の各搬送口13,14に対して平行となるように配置されている(同図での符号Aに示す箇所参照)。
【0024】
次に、本実施形態の搬送装置100の動作およびその作用効果について説明する。
上述したように、例えば、土木作業機を用いてロックボルトを打設する場合、一連の打設作業において、定着剤を注入する定着剤注入工程では、打設孔に対して注入ホースを搬送装置により差込み、打設孔に定着剤を注入しながら注入ホースを引き戻す。
この打設作業において、本実施形態の搬送装置100を適用する場合であれば、円筒管Pが注入ホースに対応するところ、注入ホースPが、上記段差Dによって二組の搬送ローラ組20、30間で屈曲した状態で筺体10内に納められる。
【0025】
そのため、本実施形態の搬送装置100によれば、二組の搬送ローラ組20、30の同期駆動により、二対のローラ21,22、31,32間に注入ホースPを挟み込み、二対のローラ21,22、31,32と注入ホースPとの摩擦接触により、二対のローラ21,22、31,32の回転力を前後進方向に伝達することで、注入ホースPの出し入れを搬送方向に沿って行うことができる。
ここで、打設孔が崩れたり、打設孔に曲がりが発生したりしている場合には、注入ホースPの挿抜時の抵抗が増えるため、
図5および
図6に示した従来の搬送装置200であると、対をなすローラと注入ホースPとの間に滑りが生じ、押し引きする力が不足する場合がある。
【0026】
つまり、上述したように、従来の搬送装置200は、
図5に一点鎖線で示すように、一対のローラ221,222の列による搬送軸線と、もう一対のローラ231,232の列による搬送軸線と、出入り口213,214の中心の位置とは、一直線上に並んでいる。
そのため、一対のローラ221,222および231,232との挟持により、注入ホースPが挟まれた状態で抑えられてはいるものの、この挟持力が弱ければ、注入ホースPの滑りが生じたり、空回りが生じたり、また、注入ホースPの抜け落ちが生じたりするおそれがある。
【0027】
また、ロックボルト打設作業は、一区間内で角度や位置を変えて施工をするため、定着剤の注入作業も、注入ホースPの角度や位置を変えながら施工をすることになる。特に、天端(垂直方向)付近での作業となると、定着剤を含めた注入ホースPの自重を、対をなすローラと注入ホースPとの摩擦接触により支えることになる。
そのため、対をなすローラと注入ホースとの間での滑りがより一層生じ易い傾向にある。最悪の場合、対をなすローラでの注入ホースPの保持自体が困難となり、定着剤を含めた注入ホースが落下するおそれもある。
【0028】
これに対し、本実施形態の搬送装置100では、二組の搬送ローラ組20、30は、一対の搬送口13,14の位置において、当該二組の搬送ローラ組20、30相互により搬送方向に沿った相互の搬送軸線に段差Dが生じるように他方の搬送軸線に対して垂直な方向に前後して筐体10内に配置され、この段差Dによって少なくとも二組の搬送ローラ組20、30間で屈曲した状態で筺体10内に注入ホースPを納めている。
そのため、本実施形態の搬送装置100によれば、パイプ若しくはホース等の可撓性をもつ円筒管である注入ホースPが、筺体10内に屈曲して納められているので、注入ホースPが搬送方向に沿って二組の搬送ローラ組20、30で送り出される(若しくは引き戻される)ときに、各搬送ローラ組20、30は、注入ホースPに対して二対のローラ21,22および31,32同士の中心方向への分力により摩擦力が増大する。
【0029】
これにより、各搬送ローラ組20、30での注入ホースPの滑りを減じることが可能となり、注入ホースPに対する二対のローラ21,22、31,32同士による押し引き力が相対的に増加する。また、同様にして、各搬送ローラ組20、30での注入ホースPの抜け落ち方向への抵抗力も相対的に上がることになる(以下、「円筒部材の屈曲効果」ともいう)。
ここで、上述したように、本実施形態の搬送装置100においては、各搬送ローラ組20、30を構成する各対のローラ21,22および31,32の支軸中心相互を結ぶ線分は、筺体10の一対の搬送口13,14の位置での各搬送ローラ組20、30の搬送軸線に対して直交するように筺体10内に配置されている。
【0030】
これにより、搬送装置100の筺体10内で屈曲して納められている注入ホースPは、搬送装置1の一対の搬送口13,14の位置において、各搬送ローラ組20、30の一対のローラ21,22および31,32で、所望の搬送方向に沿って直進する方向に向くように他方での搬送軸線の位置が矯正される。そのため、注入ホースPが筺体10の一対の搬送口13,14やその近傍で引っ掛かることはなく、所期の搬送方向に沿って安定した搬送を行う上で好適である。
【0031】
なお、従来の円筒管用搬送装置200において、
図3に比較例を示すように、注入ホースPの搬送方向に対して、搬送装置200の筐体210自体を傾斜させて設置すれば、「円筒部材の屈曲効果」は得られる。
しかし、この比較例の場合、同図に示すように、搬送装置200の外側前後に、注入ホースPの方向を矯正する円筒管ガイド61、62が必要となる上、所望の搬送方向に沿って直進する方向には向かないため、その円筒管ガイド61、62内での接触部61s、62sにおいて注入ホースPとの引っ掛かり等の不具合が発生する確度が高くなり、また、接触部61s、62sでの抵抗によって注入ホースPの送り出しが困難となるおそれがある。そのため、本実施形態の搬送装置100に比べて「円筒部材の屈曲効果」が不十分であるといえる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の搬送装置100は、例えば、ロックボルト打設施工に適用すれば、打設孔が崩れたり、打設孔の曲がりなどが生じたりした悪状況下であっても、定着剤を注入するパイプ若しくはホース等の円筒管を円滑に且つ確実に送り出し可能となり、更に、円筒管の搬送方向が垂直方向であっても、円筒管が落下することなく、安定した動作で確実に且つ効率良く作業を進めることが可能となる。
なお、本発明に係る円筒部材用搬送装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
【0033】
例えば、上記実施形態では、可撓性をもつ円筒部材として、パイプ若しくはホース等の円筒管をその搬送方向に沿って出し入れする円筒管用搬送装置の例に基づき説明したが、本発明に係る円筒部材用搬送装置の適用分野は、円筒管に限らず、例えば、ケーブルボルトやワイヤケーブル等の円筒部材をその搬送方向に沿って出し入れする用途に適用可能である。
また、例えば上記実施形態では、各搬送ローラ組20、30を構成する一対のローラ21,22、31,32の支軸の軸線すべてが相互に平行に配置されている例を示したが、これに限らず、本発明に係る円筒部材用搬送装置は、二組の搬送ローラ組20、30相互により円筒管Pの搬送方向に沿ったそれぞれの搬送軸線に段差Dが生じるように他方の搬送軸線に対して垂直な方向に前後して配置されていればよい。
【0034】
また、注入ホースPが、筺体10の一対の搬送口13,14やその近傍で引っ掛かることなく所期の搬送方向に沿って安定した搬送を行う上では、各搬送ローラ組20、30が、所望の搬送方向に沿って直進する方向に向くように他方での搬送軸線の位置を矯正するように配置されることが好ましい。
つまり、上記実施形態で例示したように、各搬送ローラ組20、30を構成する各対のローラ21,22および31,32の支軸中心相互を結ぶ線分が、筺体10の一対の搬送口13,14の位置での各搬送ローラ組20、30の搬送軸線に対して直交するように筺体10内に配置されていることが好ましい。
【0035】
また、例えば上記実施形態では、駆動モータに直結された駆動ローラ21が回転駆動されると、その回転駆動力が、チェーン50を介して各従動ローラ22,31,32に伝達される駆動機構の例を示したが、駆動機構の構成についてもこれに限定されない。
例えば、
図4に駆動機構の他の構成例を示す。
同図に示す例では、動力伝達手段として、チェーン50に替えてベルト50Bを用いるとともに、ベルト50Bは、駆動ローラ21から曲率中心側の従動ローラ32に限って、たすき掛けによって掛け回されている。
【0036】
なお、各ローラのスプロケット構造は廃止されている。また、他の従動ローラ22,31については、例えば円筒コイルばねを用いた押圧機構22t、31tがそれぞれに付設されることによって、それぞれの搬送ローラ組20、30を構成するローラ側に向けた押圧力Fによりフリクションが付加されるようになっている。
このような構成であれば、トラクションの大きい曲率中心側のローラにのみ駆動力を印加するので、装置の簡素化および低騒音化が期待できる。
【符号の説明】
【0037】
10 筺体
11 上ボディ
12 下ボディ
13 搬送口
14 搬送口
20 第一の搬送ローラ組
21 駆動ローラ
22 従動ローラ
30 第二の搬送ローラ組
31 従動ローラ
32 従動ローラ
40 テンショナ
50 チェーン
61 円筒管ガイド
62 円筒管ガイド
100 円筒管用搬送装置(円筒部材用搬送装置)
200 従来の円筒部材用搬送装置
P パイプ・ホース(円筒管:円筒部材)