IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ルネサスエレクトロニクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-半導体装置 図1
  • 特許-半導体装置 図2
  • 特許-半導体装置 図3
  • 特許-半導体装置 図4
  • 特許-半導体装置 図5
  • 特許-半導体装置 図6
  • 特許-半導体装置 図7
  • 特許-半導体装置 図8
  • 特許-半導体装置 図9
  • 特許-半導体装置 図10
  • 特許-半導体装置 図11
  • 特許-半導体装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/46 20060101AFI20240627BHJP
   H03M 1/68 20060101ALI20240627BHJP
   H03M 1/08 20060101ALI20240627BHJP
   H03M 1/74 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
H03M1/46
H03M1/68
H03M1/08 A
H03M1/74
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020194037
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2022082884
(43)【公開日】2022-06-03
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江幡 友彦
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-182621(JP,A)
【文献】特開2017-060159(JP,A)
【文献】特開2013-150117(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0001747(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0317683(US,A1)
【文献】Jiaxin Liu, et al.,Error-Feedback Mismatch Error Shaping for High-Resolution Data Converters,IEEE Transactions on Circuits and Systems I: Regular Papers,米国,IEEE,2018年11月28日,Volume: 66 , Issue: 4,p.1342-1354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/00-1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ入力信号と参照電圧との逐次比較による前記アナログ入力信号のデジタル変換を行う半導体装置であって、
所定のコードに基づき前記参照電圧の高電圧領域を生成する上位DACと、
前記コードに基づき前記参照電圧の低電圧領域を生成する下位DACと、
前記下位DACと同様の構成を有し、前記参照電圧の前記低電圧領域の調整を行うインジェクションDACと、
を備え、
前記アナログ入力信号のサンプリングを行うサンプリングフェーズでは、
前記上位DACには、初期コードの上位ビットが供給され、
前記下位DACには、1つ前の前回の出力データの下位ビットが供給され、
前記インジェクションDACには、2つ前の出力データを反転した反転データの下位ビットが供給され、
前記サンプリングフェーズでサンプリングされた前記アナログ入力信号と、前記参照電圧との比較を行う比較フェーズの終了時、
前記上位DACには、現在の出力データの上位ビットが供給され、
前記下位DACには、現在の前記出力データの下位ビットが供給され、
前記インジェクションDACには、1つ前の前記出力データを反転した反転データの下位ビットが供給される、
半導体装置。
【請求項2】
請求項に記載の半導体装置において、
前記比較フェーズの開始時、
前記上位DACには、前記初期コードの前記上位ビットが供給され、
前記下位DACには、前記初期コードの下位ビットが供給され、
前記インジェクションDACには、1つ前の出力データを反転した反転データの下位ビットが供給される、
半導体装置。
【請求項3】
請求項に記載の半導体装置において、
前記比較フェーズにおける上位ビットの比較終了時、
前記上位DACには、現在の出力データの上位ビットが供給され、
前記下位DACには、前記初期コードの下位ビットが供給され、
前記インジェクションDACには、1つ前の前記出力データを反転した反転データの下位ビットが供給される、
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラーシェーピング機構を備えた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、非特許文献1には、下位DAC(Digital to Analog Converter)のリファレンス誤差のミスマッチエラーシェーピング(MES)を、逐次比較(SAR:Successive Approximation Register)により行うADC(Analog to Digital Converter)が開示されている。具体的には、非特許文献1では、下位DACのリファレンス誤差を、1次のエラーシューピングで排除している。
【0003】
非特許文献2には、下位DACのリファレンス誤差を2次のエラーシューピングで排除する技術が開示されている。
【0004】
非特許文献3には、入力レンジ拡大のため上位DACに2Vのリファレンス電圧を印加し、下位DACに1.2Vのリファレンス電圧を印加する構成が開示されている。リファレンス電圧の誤差は、エラーシェーピング機構によって排除される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Y.-S. Shu, “An oversampling SAR ADC with DAC mismatch error shaping achieving 105 dB SFDR and 101 dB SNDR over 1 kHz BW in 55 nm CMOS,”
【文献】J. Liu, “Second-order DAC MES for SAR ADCs,”
【文献】W.-H Huang, “An Amplifier-Less Calibration-Free SAR ADC Achieving>100dB SNDR for Multi-Channel ECG Acquisition with 667mVpp Linear Input Range”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高電圧の入力に対応させるため、例えば上位DACには高電圧のリファレンスが供給されるため、高耐圧のトランジスタが用いられる。しかしながら、高耐圧のトランジスタは低耐圧のトランジスタよりも応答速度が遅いため、変換速度の低下、ひいては変換精度が低下する。
【0007】
本発明は、このようなことに鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、動作電圧が異なる複数のDACを用いた場合の変換精度を向上させた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。代表的な半導体装置は、アナログ入力信号と参照電圧との逐次比較によるアナログ入力信号のデジタル変換を行う。半導体装置は、所定のコードに基づき参照電圧の高電圧領域を生成する上位DACと、コードに基づき参照電圧の低電圧領域を生成する下位DACと、下位DACと同様の構成を有し、参照電圧の低電圧領域の調整を行うインジェクションDACと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、動作電圧が異なる複数のDACを用いた場合の変換精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態1に係る半導体装置の一例を示す構成図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るADCの動作を例示するフロー図である。
図3】サンプリングフェーズにおける各DACの設定状況を例示する図である。
図4】比較フェーズの初期状態における各DACの設定状況を例示する図である。
図5】比較フェーズ終了時における各DACの設定状況を例示する図である。
図6】本発明の実施の形態2に係る半導体装置の一例を示す構成図である。
図7】本発明の実施の形態2の比較フェーズにおける各DACの出力電圧を比較して示す図である。
図8】本発明の実施の形態2に係るADCを備えたシステム構成と伝達関数とを例示する図である。
図9】本発明の実施の形態3に係る半導体装置の一例を示す構成図である。
図10】本発明の実施の形態4に係るマルチチャネルADCシステムのベースとなるADCを説明する図である。
図11】本発明の実施の形態4に係るマルチチャネルADCシステムの構成を例示する図である
図12】本発明の実施の形態5に係るサンプリング方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するためのすべての図において、同一部分には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0012】
(実施の形態1)
<半導体装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態1に係る半導体装置の一例を示す構成図である。アナログ-デジタル変換器(以下、「ADC」とも表記する)1は、入力されたアナログ信号をデジタル変換し、デジタル変換後のデジタル信号(以下では、デジタルコードとも称する)を出力する半導体装置である。アナログ-デジタル変換器(半導体装置)1は、図1に示すように、上位DAC(Digital to Analog Converter)10、下位DAC20、インジェクションDAC30、コンパレータ40、逐次比較処理部50、MESレジスタ61、62、セレクタ71、72、レベルシフタ75、サンプリング容量80、スイッチ回路SW1、SW2、SW3等を備えている。なお、以下では、アナログ-デジタル変換器をADCと称する場合がある。
【0013】
サンプリング容量80は、ADCに入力されるアナログ入力信号を保持する回路である。サンプリングフェーズ時は、例えば、サンプリング信号SMPがアクティブ(例えばハイレベル)になると、スイッチ回路SW1、SW2がオンされ、スイッチ回路SW3がオフされて、サンプリング容量80にアナログ入力信号が保持される。一方、比較フェーズ時は、例えば、サンプリング信号SMPが非アクティブ(例えばローレベル)になると、スイッチ回路SW3がオンされ、スイッチ回路SW1、SW2がオフされて、サンプリング容量80に保持されたアナログ入力信号がコンパレータ40へ供給される。
【0014】
上位DAC10、下位DAC20、インジェクションDAC30は、逐次比較処理部50やMESレジスタ61、62から入力されるデジタルコードに基づきアナログ信号を生成するデジタル-アナログ変換器である。具体的には、上位DAC10、下位DAC20、インジェクションDAC30は、ACD1に入力されるアナログ入力信号との比較を行うための参照電圧を生成する。
【0015】
上位DAC10は、デジタルコードの上位ビットの情報に基づき電圧を生成する。下位DAC20およびインジェクションDAC30は、デジタルコードの下位ビットの情報に基づき電圧を生成する。インジェクションDAC30は、下位DAC20と同様の構成を備えている。インジェクションDAC30は、下位DAC20と協働して、参照電圧の電圧値をより詳細に調整することが可能である。上位DAC10は、高電圧(例えば3V)のリファレンスで動作する。下位DAC20、およびインジェクションDAC30は、定電圧(例えば1V)で動作する。
【0016】
コンパレータ40は、アナログ入力信号と参照電圧との比較を行う回路である。コンパレータ40は、高電圧(例えば3V)で動作する回路である。コンパレータ40は、例えば、サンプリングサイクルTcyごとにアナログ入力信号と参照電圧との比較を行い、比較結果を逐次比較処理部50へ出力する。
【0017】
図1に示すように、逐次比較処理部50は、コンパレータ40から出力される比較結果に基づいて逐次比較処理を行うことで、アナログ入力信号のデジタル変換を行い、出力信号であるデジタルコードを生成する。逐次比較処理部50は、生成したデジタルコードを、例えば上位DAC10、下位DAC20、図示しない後段の回路等へ出力する。また、逐次比較処理部50は、生成したデジタルコードをMESレジスタ61、62に保持させる。
【0018】
MESレジスタ61、62は、逐次比較処理部50で生成されたデジタルコードを保持する記憶装置である。MESレジスタ61、62は、1つ前のサンプリングサイクルTcyにおいて生成されたデジタルコードと、2つ前のサンプリングサイクルTcyにおいて生成されたデジタルコードとをそれぞれ保持する。ここでは、MESレジスタ61が、1つ前のサンプリングサイクルTcyにおいて生成されたデジタルコードを保持し、MESレジスタ62が、2つ前のサンプリングサイクルTcyにおいて生成されたデジタルコードを保持するものとする。
【0019】
したがって、今回(現在)のサンプリングサイクルTcyのデジタルコードが生成されると、MESレジスタ62に保持されていた2つ前のサンプリングサイクルTcyのデジタルコードが消去され、今回のサンプリングサイクルTcyのデジタルコードが保持される。その際、MESレジスタ61に保持されていた1つ前のサンプリングサイクルTcyのデジタルコードは、MESレジスタ62に移動し、今回生成されたデジタルコードがMESレジスタ61に保持される。なお、MESレジスタ61、62は、対応するデジタルコードの下位ビットのみを保持してもよい。なお、MESレジスタ62は、対応するデジタルコードを反転させた反転コード、あるいは下位ビットの反転コードを保持してもよい。
【0020】
セレクタ71は、サンプリング信号SMPに基づき、下位DAC20へ供給するデジタルコードを切り換える回路である。セレクタ71の入力側は、逐次比較処理部50およびMESレジスタ61と接続されている。セレクタ71の出力側は、下位DAC20と接続されている。
【0021】
セレクタ72は、サンプリング信号SMPに基づき、インジェクションDAC30へ供給するデジタルコードを切り換える回路である。セレクタ72の入力側は、MESレジスタ61、62と接続されている。セレクタ72の出力側は、インジェクションDAC30と接続されている。
【0022】
レベルシフタ75は、上位DAC10へ供給されるデジタルコードの電圧を高電圧に変換し、高電圧のデジタルコードを供給する回路である。レベルシフタ75の入力側は、逐次比較処理部50と接続されている。レベルシフタ75の出力側は、上位DAC10と接続されている。
【0023】
<A/D変換処理>
次に、ADC1におけるA/D変換処理を具体的に説明する。図2は、本発明の実施の形態1に係るADCの動作を例示するフロー図である。図2には、ステップS10~S40が含まれる。
【0024】
まず、ステップS10は、入力データのサンプリングが行われるサンプリングフェーズである。図3は、サンプリングフェーズにおける各DACの設定状況を例示する図である。図3に示すように、サンプリングフェーズPHsでは、サンプリング信号SMPがアクティブになる。このとき、上位DAC10には、逐次比較処理部50から出力される所定のイニシャルコードの上位ビット(INITIAL CODES1)がセットされる。
【0025】
セレクタ71は、MESレジスタ61を選択する。これにより、下位DAC20には、MESレジスタ61から供給される1つ前のデジタルコードの下位ビット(Dout2・Z-1)がセットされる。セレクタ72は、MESレジスタ62を選択する。これにより、インジェクションDAC30には、2つ前のデジタルコードの下位ビットの反転コード(-Dout2・Z-2)がセットされる。
【0026】
そして、サンプリングフェーズPHsでは、スイッチ回路SW1、SW2がオンされて、サンプリング容量80にアナログ入力信号が供給され、サンプリング容量80が充電される。すなわち、サンプリング容量80の充電は、各DACにデジタルコードがセットされた状態で行われる。
【0027】
サンプリング信号SMPが非アクティブになると、サンプリングフェーズPHsが終了する。
【0028】
ステップS20-S40は、各DACにより生成される参照電圧と、アナログ入力信号とを比較する比較フェーズPHcである。
【0029】
ステップS20は、比較フェーズの初期状態である。図4は、比較フェーズの初期状態における各DACの設定状況を例示する図である。図4に示すように、比較フェーズPHcでは、サンプリング信号SMPが非アクティブになり、クロックCLK1がコンパレータ40へ供給される。
【0030】
このとき、上位DAC10には、ステップS10において所定のイニシャルコードの上位ビット(INITIAL CODES1)がセットされた状態がそのまま継続される。
【0031】
セレクタ71は、逐次比較処理部50を選択する。これにより、下位ビット20には、逐次比較処理部50から供給される所定のイニシャルコードの下位ビット(INITIAL CODES2)がセットされる。セレクタ72は、MESレジスタ61を選択する。これにより、インジェクションDAC30には、1つ前のデジタルコードの下位ビットの反転コード(-Dout2・Z-1)がセットされる。各DACから出力されるアナログ信号により参照電圧が生成され、コンパレータ40へ供給される。
【0032】
また、比較フェーズPHcでは、スイッチ回路SW1、SW2がオフされ、スイッチ回路SW3がオンされる。これにより、スイッチ回路SW2を介して、サンプリング容量80に保持されたアナログ入力信号がコンパレータ40へ供給される。
【0033】
ステップS30は、比較フェーズPHcの前半であり、上位DAC10の各ビットにデジタルコードが設定される。
【0034】
コンパレータ40による比較処理が開始されると、逐次比較処理部50は、コンパレータ40の比較結果に基づき、アナログ入力信号のデジタル変換を行い、最上位ビットからデジタルコード(出力データ)を順次生成する。デジタルコードの生成は、例えば、アナログ入力信号をデジタル変換する際に生じる誤差(量子化誤差)を検出し、検出した量子化誤差をA/D変換することで実行される。
【0035】
逐次比較処理部50は、逐次比較が完了するごとに、上位側から1ビット分ずつ、生成したデジタルコードを出力する。ステップS30では、上位DAC10の各ビットにデジタルコードが供給されるまで実行される。図2では、上位DAC10のすべてのビットにデジタルコードが供給された状態が示されている。すなわち、ステップS30終了時、上位DAC10は、図2に示すように、デジタルデータの上位ビットがセットされた状態となる(DOUT1)。
【0036】
また、ステップS30では、下位DAC20は、図2に示すように、デジタルデータはまだ供給されない。このため、ステップS30終了時、下位DAC20は、所定のイニシャルコードの下位ビット(INITIAL CODES2)がセットされた状態が維持される。また、ステップS30終了時、インジェクションDAC30は、図2に示すように、1つ前のデジタルコードの下位ビットの反転コード(-Dout2・Z-1)がセットされた状態が維持される。
【0037】
ステップS40は、比較フェーズPHcの後半であり、下位DAC20の各ビットにデジタルコードが設定される。逐次比較処理部50は、比較結果に基づく逐次比較を引き続き行い、下位DAC20の各ビットに供給するデジタルコードを順次生成する。逐次比較処理部50は、生成したデジタルコードを1ビット分ずつ順次出力し、下位DAC20へ供給する。
【0038】
上位DAC10および下位DAC20へのデジタルコードの設定が完了すると、比較フェーズPHcが終了する。
【0039】
図5は、比較フェーズ終了時における各DACの設定状況を例示する図である。ステップS40終了時、上位DAC10は、図5に示すように、デジタルデータの上位ビットがセットされた状態(DOUT1)が維持される。また、ステップS40終了時、下位DAC20は、図5に示すように、デジタルデータの下位ビットがセットされた状態(DOUT2)となる。また、ステップS40終了時、インジェクションDAC30は、図5に示すように、1つ前のデジタルコードの下位ビットの反転コード(-Dout2・Z-1)がセットされた状態が維持される。
【0040】
このように、1サンプリングサイクルにおける処理が行われる。そして、ADC1は、次のサンプリングサイクルTcyにおいてもステップS10~S40を実行し、デジタル変換処理を継続して行う。
【0041】
<本実施の形態による主な効果>
本実施の形態によれば、インジェクションDAC30に書き込まれるコードは、サンプリングフェーズPHsでは2つ前のデジタルコードの反転コード、比較フェーズPHcでは1つ前のデジタルコードの反転コードとしている。これにより、インジェクションDACの容量ミスマッチは、一次のエラーシェーピングで排除される。
【0042】
また、サンプリングフェーズPHsでは、下位DAC20に1つ前のデジタルコードを書き込むことで、高電圧で動作する上位DAC10と、低電圧で動作する下位DAC20とのリファレンス誤差は、2次のエラーシェーピングにより排除される。
【0043】
また、下位DAC20の容量ミスマッチは、一次のエラーシェーピングで排除される。これらより、動作電圧が異なるDACを用いた場合の変換精度を向上させることが可能となる。
【0044】
また、本実施の形態によれば、下位DAC20と、インジェクションDAC30とは、1回分ずれて、かつ反転させたデジタルコードが書き込まれる。この構成によれば、リファレンスのセトリング誤差を、1次のエラーシェーピングで排除することが可能となる。
【0045】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。前述した実施の形態1では、DACの出力電圧のダイナミックレンジが大きいため、コンパレータ40に低電圧デバイスを使用することができない。また、上位DAC10の比較時は、レベルシフタ75によりデジタルコードを高電圧にレベルシフトさせる必要があるため、レベルシフタ75の遅延時間が存在する。
【0046】
そこで、本実施の形態では、上位DAC10の比較をサブDACとコンパレータとで構成されるサブADCで実施し、サブADCの比較結果を上位DAC10のコードとして用いる。
【0047】
図6は、本発明の実施の形態2に係る半導体装置の一例を示す構成図である。図6のADC1Aは、図1のADC1と類似するメインADC101にサブADC201が追加された構成となっている。
【0048】
<メインADC>
メインADC101は、図6に示すように、上位DAC10、下位DAC20、コンパレータ40、逐次比較処理部50、MES部160、セレクタ170、レベルシフタ75、サンプリング容量80、スイッチ回路SW1、SW2、SW3等を備えている。
【0049】
コンパレータ40は、後述するクロックCLK12に基づき、下位DAC20に対応する低電圧領域の比較のみを行い、比較結果を逐次比較処理部50へ出力する。本実施の形態では、コンパレータ40は、低電圧(例えば1V)で動作する。
【0050】
逐次比較処理部50は、コンパレータ40から出力される下位DAC20に対応する低電圧領域の比較結果に基づいて逐次比較処理を行うことで、アナログ入力信号のデジタル変換を行い、デジタルコードの下位ビットを生成する。逐次比較処理部50で生成されたデジタルコードの下位ビットは、後述するサブADC201で生成されるデジタルコードの上位ビットとともに出力される。また、デジタルコードの下位ビットは、MES部160に保存される。
【0051】
MES部160は、例えば図1に示すようなMESレジスタ等で構成される。MES部160は、例えば、前回(1つ前)のサンプリングサイクルTcyで生成されたデジタルコード、今回のサンプリングサイクルTcyで生成されたデジタルコード等を保持する。MES部160は、前回のサンプリングサイクルTcyで生成されたデジタルコードを、セレクタ170および後述するサブ下位DAC220へ出力する。
【0052】
セレクタ170は、サンプリング信号SMPに基づき、下位DAC20へ供給するデジタルコード(下位ビット)を切り換える回路である。セレクタ170の入力側は、逐次比較処理部50およびMES部160と接続されている。セレクタ170の出力側は、下位DAC20と接続されている。
【0053】
上位DAC10には、後述するサブADC201から出力されるデジタルコードの上位ビットが、レベルシフタ75で高電圧にレベルシフトされた後供給される。上位DAC10には、メインDAC(Main)とともに拡張DAC(Extended)が設けられている。この拡張DACは、MES部160により下位DAC20に注入される前回のDAC出力電圧を吸収するために用いられるDACである。
【0054】
<サブADC>
次に、サブADC201Aは、上位DAC10の比較を低電圧のリファレンスで実行し、デジタルコードの上位ビットを生成する回路である。サブDAC201は、図6に示すように、サブ上位DAC210、サブ下位DAC220、コンパレータ240、逐次比較処理部250、サンプリング容量280、スイッチ回路SW201、SW202、SW203等を備えている。
【0055】
サブ上位DAC210は、上位DAC110に対応するDACである。サブ下位DAC220は、下位DAC20に対応するDACである。サブ上位DAC210およびサブ下位DAC220は、低電圧(例えば1V)で動作する。サブ上位DAC210には、メインDACとともに拡張DAC(図示は省略)が設けられている。この拡張DACは、MES部160によりサブ下位DAC220に注入される前回のDAC出力電圧を吸収するために用いられるDACである。
【0056】
なお、サブADC201は、サブ下位DACを設けない構成としてもよい。この場合、サブ上位DAC210の拡張DACを設けなくてもよい。これにより、サブADC201の回路構成を簡略化することが可能となる。
【0057】
コンパレータ240は、後述するクロックCLK11に基づき、上位DAC110に対応する高電圧領域の比較のみを行い、比較結果を逐次比較処理部250へ出力する。コンパレータ240は、低電圧(例えば1V)で動作する。
【0058】
逐次比較処理部250は、コンパレータ240から出力されるサブ上位DAC210に対応する高電圧領域の比較結果に基づいて逐次比較処理を行うことで、アナログ入力信号のデジタル変換を行い、デジタルコードの上位ビットを生成する。逐次比較処理部250で生成されたデジタルコードの上位ビットは、メインADC101で生成されるデジタルコードの下位ビットとともに出力される。また、デジタルコードの上位ビットは、サブ上位DAC210へ供給される。また、デジタルコードの上位ビットは、レベルシフタ75を介して上位DAC110へ供給される。
【0059】
スイッチ回路SW201~SW203は、メインADC101のスイッチ回路SW1~3にそれぞれ対応している。サンプリング容量280は、メインADCのサンプリング容量80に対応している。
【0060】
<A/D変換処理>
次に、ADC1AにおけるA/D変換処理を具体的に説明する。サンプリングフェーズPHsでは、サンプリング容量80、280にアナログ入力信号が保持される。
【0061】
比較フェーズPHcは、図6に示すように、サブADC201においてデジタルコードの上位ビットを生成する第1比較フェーズPHc1と、メインADC101においてデジタルコードの下位ビットを生成する第2比較フェーズPHc2とを含む。
【0062】
第1比較フェーズPHc1では、コンパレータ240にクロックCLK11が供給され、アナログ入力信号に対する上位ビットのデジタル変換処理が行われる。逐次比較処理部250は、最上位ビットからデジタルコードを順次生成し、生成した各ビットのデジタルコードをサブ上位DAC210および上位DAC110へ出力する。
【0063】
アナログ入力信号に対する上位ビットのデジタル変換処理が完了すると、クロックCLK11の供給が停止され、第1比較フェーズPHc1が終了する。
【0064】
次に、第2比較フェーズPHc2では、コンパレータ40にクロックCLK12が供給され、アナログ入力信号に対する下位ビットのデジタル変換処理が行われる。逐次比較処理部50は、下位DAC20の最上位ビットからデジタルコードを順次生成し、生成した各ビットのデジタルコードを出力し、MES部160へ保持させる。
【0065】
アナログ入力信号に対する下位ビットのデジタル変換処理が完了すると、クロックCLK12の供給が停止され、第2比較フェーズPHc2が終了する。これにより、比較フェーズPHcが終了する。
【0066】
このように、1サンプリングサイクルにおける処理が行われる。そして、ADC1Aは、次のサンプリングサイクルTcyにおいてもステップS10~S40を実行し、デジタル変換処理を継続して行う。
【0067】
図7は、本発明の実施の形態2の比較フェーズにおける各DACの出力電圧を比較して示す図である。まず、第1比較フェーズPHc1では、サブ上位DAC210から出力される電圧(DACOUT_C)は、低電圧になっている。このように、サブADC201では、高電圧(例えば3V)の入力信号が、低電圧のリファレンスでデジタル変換され、デジタルコードの上位ビットが生成される。
【0068】
また、第2比較フェーズPHc2では、メインADC101では、低電圧領域に対応する下位ビットのデジタル変換処理が行われるので、下位DAC20から出力される電圧(DACOUT)は、図7に示すように、低電圧である。メインADC101では、低電圧のリファレンスで、デジタルコードの下位ビットに対応する低電圧の入力信号に対するデジタル変換が行われ、デジタルコードの下位ビットが生成される。
【0069】
<伝達関数>
図8は、本発明の実施の形態2に係るADCを備えたシステム構成と伝達関数とを例示する図である。図8に示すシステム構成において、入力を「X」、出力を「Y」とすれば、伝達関数は、図8の式(1)~(3)で表される。これらの式のうち式(3)の「(ED1-z-1D3)(1-z-1)」、「Eref(1-z-1」は、図8の「DAC4」、「2Z-1-Z-2」に対応している。そして、これらは、図6の下位DAC20、サブ下位DAC220に対応している。
【0070】
このように、サブASC201にサブ下位DAC220を備えることで、サブADC201のレプリカ精度を向上させることが可能となる。
【0071】
<本実施の形態による主な効果>
本実施の形態によれば、上位ビットのデジタル変換を行うサブADC201と、下位ビットのデジタル変換を行うメインADC101とが独立している。この構成によれば、サブADC201のコンパレータ240のダイナミックレンジを低電圧デバイスの耐圧まで減衰させることが可能となる。
【0072】
これにより、サブ上位DAC210を低電圧のリファレンスで駆動させることが可能となる。これにより、サブADC201を低電圧デバイスのみ構成することができる。また、サブADC201では、サブ上位DAC210にデジタルコードを供給する際のレベルシフトを行う必要がない。これらより、比較処理を高速化することが可能となる。
【0073】
サブADC201は、比較的大きな誤差を持つが、この誤差は、メインADC101の下位DAC20の冗長性により抑えられる。また、サブ下位DAC220がメインADC101の下位DAC20のレプリカとしてMES動作されるので、サブADC201の誤差を縮小することができる。
【0074】
また、本実施の形態によれば、メインADC101は、下位DAC20からの比較となるため、コンパレータ40のダイナミックレンジを小さくすることができ、コンパレータ40を低電圧デバイスのみで構成することが可能となる。
【0075】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。本実施の形態では、実施の形態2のADC1Aの上位DAC110に供給されるリファレンス電圧を高電圧(例えば3V)と低電圧(例えば1V)とで切り換えられるように構成される。
【0076】
図9は、本発明の実施の形態3に係る半導体装置の一例を示す構成図である。図9のADC1Bは、図6のADC1Aに、セレクタ191、デジタル乗算回路292、およびセレクタ293が追加された構成となっている。
【0077】
デジタル乗算回路292は、入力側が逐次比較処理部250と接続され、出力側がセレクタ293と接続されている。デジタル乗算回路292は、逐次比較処理部250の出力データ(デジタルコード)を所定の倍率(例えば3倍)でデジタル乗算した乗算デジタルコードを生成する回路である。デジタル乗算回路292は、生成した乗算デジタルコードを出力する。
【0078】
セレクタ293は、メインADC101の上位DAC110へ供給するデジタルコードを切り換える回路である。メインADC101の上位DAC110へ供給するデジタルコードは、出力データに対応する電圧値に応じて切り換えられる。
【0079】
例えば出力データに対応する電圧値が高電圧であれば、セレクタ293は、逐次比較処理部250から出力される乗算されないデジタルコードを選択し出力する。一方、出力データに対応する電圧値が低電圧であれば、セレクタ293は、デジタル乗算回路292から出力される乗算デジタルコードを選択し出力する。セレクタ293で選択されたデジタルコードは、レベルシフタ75で電圧レベルがシフトされた後、上位DAC110へ供給される。
【0080】
セレクタ191は、上位DAC110へ供給するリファレンス電圧の切り換えを行う回路である。上位DAC110へ供給されるリファレンスは、アナログ入力信号のデジタル変換に要求される変換精度に応じて切り換えられる。
【0081】
例えば中精度の変換精度が要求される場合、セレクタ191は、低電圧のリファレンスを選択し出力する。この場合、上位DAC110および下位DAC20には、同電位のリファレンスが供給される。
【0082】
一方、高精度の変換精度が要求される場合、セレクタ191は、高電圧のリファレンスを選択し出力する。セレクタ293で選択されたリファレンスは、上位DAC110へ供給される。この場合、実施の形態1と同様に、上位DAC110には高電位のリファレンスが供給され、下位DAC20には低電圧のリファレンスが供給される。
【0083】
本実施の形態によれば、中精度の変換精度が要求される場合には、上位DAC110および下位DAC20に同電圧のリファレンスが供給され、デジタル変換を高速に行うことが可能となる。一方、高精度の変換精度が要求される場合には、上位DAC110に高電圧のリファレンスが供給され、下位DAC20に低電圧のリファレンスが供給され、デジタル変換の精度を向上させることが可能となる。このように、1つのADC1Bに、デジタル変換の速度向上および精度向上という互いに相反する特徴を持たせることが可能となる。
【0084】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4について説明する。本実施の形態では、前述した実施の形態に係るADCを用いたマルチチャネルADCシステムについて説明する。このようなマルチチャネルADCシステムは、例えば、MCU(Memory Control Unit)やSoC(System-on-a-chip)等に搭載される。
【0085】
まず、本実施の形態のマルチチャネルADCシステムのベースとなるADCについて説明する。図10は、本発明の実施の形態4に係るマルチチャネルADCシステムのベースとなるADCを説明する図である。図10(a)は従来のΔΣADCを示し、図10(b)は、ベースのADCを示している。
【0086】
従来のΔΣADCでは、各入力信号を共通のアナログ積分器で積分すると、チャネル間で干渉するため、チャネルごとにΔΣADCを設ける必要があった。一方、前述の各実施の形態に係るADC(以下、HybridADCとも称する)では、DAC型積分器が用いられるため、積分器の出力データをデジタル領域で扱うことができる。HybridADCでは、チャネルごとに積分データ用のレジスタを用意することで、チャネル間の干渉を防ぐことができる。
【0087】
図11は、本発明の実施の形態4に係るマルチチャネルADCシステムの構成を例示する図である。図11(a)には、2入力1出力のマルチチャネルADCシステム401が示されている。マルチチャネルADCシステム401には、入力チャネルを選択するセレクタが設けられている。このため、マルチチャネルADCシステム401には、1入力に対応する1つの積分器レジスタ411が設けられている。なお、マルチチャネルADCシステム401には、2チャネルのそれぞれに対応する2つの積分器レジスタが設けられてもよい。
【0088】
図11(b)には、3入力3出力のマルチチャネルADCシステム451が示されている。図1(b)の構成では、並行して複数の入力チャネルに対するA/D変換が行われる。このため、マルチチャネルADCシステム451には、3入力の各チャネルにそれぞれ対応する3つの積分器レジスタ461~463が設けられる。
【0089】
本実施の形態によれば、複数チャネルの各アナログ入力信号を、1つのADCでデジタル変換することができる。これにより、ΔΣADCに比べADCの面積を低減できる。また、積分器レジスタのデータ量が少ないため、積分器レジスタの面積が抑えられ、消費電力の増大を抑えることが可能となる。
【0090】
(実施の形態5)
次に、実施の形態5について説明する。本実施の形態では、マルチチャネルADCシステムにおいて、複数チャネルのサンプリングを並行して実行する方法を説明する。
【0091】
図12は、本発明の実施の形態5に係るサンプリング方法を説明する図である。図12には、5チャネル(CH1~CH5)のサンプリングを並行して実行する例が示されている。ここでは、CH1~3に対しては、オーバーサンプリングモードでサンプリングが行われ、CH4~5に対しては、ナイキストモードでサンプリングを行われるものとする。オーバーサンプリングモードでは、周期的にサンプリングを行う必要があるのに対し、ナイキストモードでは、必要に応じて間欠的にサンプリングを行えばよい。
【0092】
この例では、4つのA/D変換シーケンス(図12の4ブロック分に相当)を1つのグループとし、1~3回目のA/D変換をオーバーサンプリングモードのチャネル(CH1~3)にそれぞれ割り当て、4回目のA/D変換をナイキストモードのCH(CH4またはCH5)に割り当てる。すなわち、ナイキストモードのA/D変換は、オーバーサンプリングモードのA/D変換の合間に割り当てられる。
【0093】
オーバーサンプリングA/D変換では、正常な出力結果を得るまでに大きな初期遅延を必要とする。これは、デジタルフィルタのタップを全て埋めるため、多くのA/D変換が必要だからである。従来は、チャネルを切り替える度に、大きな初期遅延を待つ必要があった。
【0094】
これに対し、本実施の形態では、常に連続してA/D変換を実行するため、初期応答の待ち時間が発生しない。また、ナイキストモードで動作するA/D変換器は、必要に応じて間欠動作させることが要求されるが、図12のようなチャネル割り当てを行うことで、このような動作を実現するシステムを構築可能である。
【0095】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0096】
1、1A、1B…ADC、10、110…上位DAC、20…下位DAC、30…インジェクションDAC、40、240…コンパレータ、50、250…逐次比較処理部、61、62…MESレジスタ、101…メインADC、160…MES部、201…サブADC、210…サブ上位DAC、220…サブ下位DAC。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12