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特許7510859位相アンラッピング処理プログラム、位相アンラッピング処理装置、および位相アンラッピング処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】位相アンラッピング処理プログラム、位相アンラッピング処理装置、および位相アンラッピング処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 9/00 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
G01H9/00 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020196621
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085115
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有岡 孝祐
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0113037(US,A1)
【文献】特開2020-085793(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117044(WO,A1)
【文献】特開2015-105909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 9/00-11/30
G01D 5/26- 5/38
G01H 1/00-17/00
G01N21/00-21/01
21/17-21/61
H04B10/00-10/90
H04J14/00-14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
光ファイバの各サンプリング位置について、前記光ファイバの伸縮により生じる位相差のデータ列を取得する処理と、
位相ラップが起きている第1サンプリング位置について取得された第1データ列に対して、位相アンラッピングを行なって第2データ列を求める第1の処理と、
前記第1サンプリング位置よりも振動に対する感度が低くかつ前記第1データ列との間で所定の相関度を有するデータ列が取得される第2サンプリング位置について取得される第3データ列を用いて、前記第2データ列と前記第3データ列との相関係数がより大きくなるように前記第2データ列のデータを修正する、または、前記第3データ列と周波数応答関数とから作成されたモデルと前記第2データ列との誤差が小さくなるように前記第2データ列のデータを修正する第2の処理と、を実行させることを特徴とする位相アンラッピング処理プログラム。
【請求項2】
前記第2の処理では、前記第2データ列と前記第3データ列との相関係数を任意の窓幅で算出し、前記第2データ列における所定時間以降に±2πの整数倍を加えることで相関係数を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の位相アンラッピング処理プログラム。
【請求項3】
前記第2の処理では、前記モデルと前記第2データ列との差が小さくなるように、前記第2データ列における所定時間以降に±2πの整数倍を加えることを特徴とする請求項1に記載の位相アンラッピング処理プログラム。
【請求項4】
前記コンピュータに、
前記各サンプリング位置における振動に対する感度と、前記各サンプリング位置同士のデータ列の相関度と、を記憶部に記憶させる処理を実行させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の位相アンラッピング処理プログラム。
【請求項5】
前記コンピュータに、
少なくとも前記第2の処理の結果を用いて、前記各サンプリング位置の振動データを作成する処理を実行させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の位相アンラッピング処理プログラム。
【請求項6】
前記コンピュータに、
作成された前記振動データの分析結果を表示装置に表示させる処理を実行させることを特徴とする請求項5に記載の位相アンラッピング処理プログラム。
【請求項7】
光ファイバの各サンプリング位置について、前記光ファイバの伸縮により生じる位相差のデータ列を取得する取得部と、
位相ラップが起きている第1サンプリング位置について取得された第1データ列に対して、位相アンラッピングを行なって第2データ列を求める第1の処理部と、
前記第1サンプリング位置よりも振動に対する感度が低くかつ前記第1データ列との間で所定の相関度を有するデータ列が取得される第2サンプリング位置について取得される第3データ列を用いて、前記第2データ列と前記第3データ列との相関係数がより大きくなるように前記第2データ列のデータを修正する、または、前記第3データ列と周波数応答関数とから作成されたモデルと前記第2データ列との誤差が小さくなるように前記第2データ列のデータを修正する第2の処理部と、を備えることを特徴とする位相アンラッピング処理装置。
【請求項8】
前記第2の処理部は、前記第2データ列と前記第3データ列との相関係数を任意の窓幅で算出し、前記第2データ列における所定時間以降に±2πの整数倍を加えることで相関係数を大きくすることを特徴とする請求項7に記載の位相アンラッピング処理装置。
【請求項9】
前記第2の処理部は、前記モデルと前記第2データ列との差が小さくなるように、前記第2データ列における所定時間以降に±2πの整数倍を加えることを特徴とする請求項7に記載の位相アンラッピング処理装置。
【請求項10】
前記各サンプリング位置における振動に対する感度と、前記各サンプリング位置同士のデータ列の相関度と、を記憶しておく記憶部を備えることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の位相アンラッピング処理装置。
【請求項11】
少なくとも前記第2の処理部の結果を用いて、前記各サンプリング位置の振動データを作成する分析部を備えることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の位相アンラッピング処理装置。
【請求項12】
前記分析部によって作成された前記振動データの分析結果を表示する表示装置を備えることを特徴とする請求項11に記載の位相アンラッピング処理装置。
【請求項13】
コンピュータが、
光ファイバの各サンプリング位置について、前記光ファイバの伸縮により生じる位相差のデータ列を検出する処理と、
位相ラップが起きている第1サンプリング位置について取得された第1データ列に対して、位相アンラッピングを行なって第2データ列を求める第1の処理と、
前記第1サンプリング位置よりも振動に対する感度が低くかつ前記第1データ列との間で所定の相関度を有するデータ列が取得される第2サンプリング位置について取得される第3データ列を用いて、前記第2データ列と前記第3データ列との相関係数がより大きくなるように前記第2データ列のデータを修正する、または、前記第3データ列と周波数応答関数とから作成されたモデルと前記第2データ列との誤差が小さくなるように前記第2データ列のデータを修正する第2の処理と、を実行することを特徴とする位相アンラッピング処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、位相アンラッピング処理プログラム、位相アンラッピング処理装置、および位相アンラッピング処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバに光パルスを与えたときの後方レイリー散乱光のコヒーレントから、光ファイバ散乱位置の変形を伴う振動を測定する技術DAS(Distributed Acoustic Sensor)もしくはDVS(Distributed Vibration Sensor)が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。DASは、レーザパルスの周期タイミングで光ファイバの各位置の振動情報を取得できる。DASは、主にパイプラインの監視や地質調査で使用される。DASは干渉法の原理を使っているため、π以上の位相差は折り返されてラッピングされて測定されてしまう。ラッピングされた測定値に対して位相アンラッピングを施す手法は、非特許文献1などで開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-52938号公報
【文献】特表2018-504603号公報
【文献】特表2019-504323号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Itoh, K. 1982. Analysis of the phase unwrapping algorithm. Appl. Opt. 21: 14 2470
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の位相アンラッピングでは、2π以上の位相変化に対して補正することが困難である。
【0006】
1つの側面では、本件は、2π以上の位相変化に対して補正を行なうことができる位相アンラッピング処理プログラム、位相アンラッピング処理装置、および位相アンラッピング処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様では、位相アンラッピング処理プログラムは、コンピュータに、光ファイバの各サンプリング位置について、前記光ファイバの伸縮により生じる位相差のデータ列を取得する処理と、位相ラップが起きている第1サンプリング位置について取得された第1データ列に対して、位相アンラッピングを行なって第2データ列を求める第1の処理と、前記第1サンプリング位置よりも振動に対する感度が低くかつ前記第1データ列との間で所定の相関度を有するデータ列が取得される第2サンプリング位置について取得される第3データ列を用いて、前記第2データ列と前記第3データ列との相関係数がより大きくなるように前記第2データ列のデータを修正する、または、前記第3データ列と周波数応答関数とから作成されたモデルと前記第2データ列との誤差が小さくなるように前記第2データ列のデータを修正する第2の処理と、を実行させる。
【発明の効果】
【0008】
2π以上の位相変化に対して補正を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は振動測定装置の全体構成を表す概略図であり、(b)は演算装置のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
図2】振動測定の詳細について説明するための図である。
図3】記憶部に記憶された時系列位相データを例示する図である。
図4】(a)は特定のサンプリング位置における位相差を例示する図であり、(b)は(a)の位相差が位相ラッピングされたものを例示する図であり、(c)は(b)の位相ラッピング結果についての位相アンラップ処理を例示する図である。
図5】位相差のウォーターフォール図である。
図6】振動測定装置の位相アンラッピング手法の一例を例示するフローチャートである。
図7】(a)~(d)は位相アンラッピング手法の詳細を説明するための図である。
図8】(a)~(d)は位相アンラッピング手法の詳細を説明するための図である。
図9】記憶部に記憶されているテーブルを例示する図である。
図10】相関係数が大きくなるような最適化処理を説明するための図である。
図11】振動測定装置の位相アンラッピング手法の他の例を例示するフローチャートである。
図12】記憶部に記憶されているテーブルを例示する図である。
図13】(a)~(c)は伝達関数による位相アンラッピングを説明する図である。
図14】振動測定システムを例示する図である。
図15】振動測定システムを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1(a)は、振動測定装置100の全体構成を表す概略図である。図1(a)で例示するように、振動測定装置100は、測定機10、演算装置20、光ファイバ30、表示装置40などを備える。測定機10は、レーザ11、光サーキュレータ12、検出器13などを備える。演算装置20は、指示部21、振動測定部22、記憶部23、第1データ取得部24、第1アンラッピング部25、第2データ取得部26、第2アンラッピング部27、分析部28などを備える。
【0012】
図1(b)は、演算装置20のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。図1(b)で例示するように、演算装置20は、CPU101、RAM102、記憶装置103、インタフェース104などを備える。これらの各機器は、バスなどによって接続されている。CPU(Central Processing Unit)101は、中央演算処理装置である。CPU101は、1以上のコアを含む。RAM(Random Access Memory)102は、CPU101が実行するプログラム、CPU101が処理するデータなどを一時的に記憶する揮発性メモリである。記憶装置103は、不揮発性記憶装置である。記憶装置103として、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなどのソリッド・ステート・ドライブ(SSD)、ハードディスクドライブに駆動されるハードディスクなどを用いることができる。CPU101が記憶装置103に記憶されている振動測定プログラムを実行することによって、演算装置20に、指示部21、振動測定部22、記憶部23、第1データ取得部24、第1アンラッピング部25、第2データ取得部26、第2アンラッピング部27、分析部28などが実現される。なお、演算装置20の各部は、専用の回路などのハードウェアであってもよい。
【0013】
レーザ11は、半導体レーザなどの光源であり、指示部21の指示に従って所定の波長範囲のレーザ光を出射する。本実施形態においては、レーザ11は、所定の時間間隔で光パルス(レーザパルス)を出射する。光サーキュレータ12は、レーザ11が出射した光パルスを振動測定対象の光ファイバ30に導き、光ファイバ30から戻ってきた後方散乱光を検出器13に導く。
【0014】
光ファイバ30に入射した光パルスは、光ファイバ30内を伝搬する。光パルスは、伝搬方向に進行する前方散乱光および帰還方向に進行する後方散乱光(戻り光)を生成しながら徐々に減衰して光ファイバ30内を伝搬する。後方散乱光は、光サーキュレータ12に再度入射する。光サーキュレータ12に入射した後方散乱光は、検出器13に対して出射される。検出器13は、例えば、局部発信光との位相差を得るための受信機などである。
【0015】
図2は、振動測定の原理について説明するための図である。図2で例示するように、レーザパルスが入射光として光ファイバ30に入射される。後方散乱光のうち入射光と同じ周波数であるレイリー散乱光である戻り光のコヒーレント光が、振動により位相がずれて光サーキュレータ12に戻ってくる。振動測定部22は、検出器13の検出結果に基づいて、各サンプリング位置における、光ファイバ30の伸縮により生じた位相差の時系列データ(以下、時系列位相データと称する。)を作成する。光ファイバ30の伸縮により生じる位相差は、例えば、時間的な変化で生じる位相差、場所の変化で生じる位相差、入射光の位相と後方散乱光の位相差等である。記憶部23は、振動測定部22が作成した各サンプリング位置における時系列位相データを記憶する。サンプリング位置とは、光ファイバ30の延伸方向において所定の間隔で定められた点または所定の間隔で定められた区画のことである。例えば、サンプリング位置とは、光ファイバ30の延伸方向において、1.25mごとに定められた点、または1.25mごとに定められ1.25m以下の長さを有する区画のことである。時系列位相データの各位相差は、各点で検出された位相差から得られたものであってもよく、各区画で検出された位相差の合計や平均から得られたものであってもよい。なお、光ファイバ30の端部で散乱した戻り光が戻ってくる前に次のレーザパルスを発振すると、戻り光が混ざって正しい測定が行えなくなるので、レーザパルスの最小周期は測定する光ファイバの長さによって決定される。
【0016】
図3は、記憶部23に記憶された時系列位相データを例示する図である。図3で例示するように、光ファイバ30の各位置(サンプリング位置)における位相差データ(ラジアン)が時刻ごとに記憶されている。
【0017】
各サンプリング位置における時系列位相データを用いて、振動測定を行うことができる。例えば、時系列位相データから、光ファイバ30の各サンプリング位置が単位時間当たりどれだけ変位したのかを表す振動データを計算することができる。この手法は、自己干渉法として知られている。干渉させる光を局部発信光にする場合と、後方散乱光同士にする場合で測定する物理量が異なる。前者は歪みに相当する位相差であり、後者は時間的な差をとることで歪み速度に対する位相差となる。位相差をレーザパルスの周期で取得することにより光ファイバ位置に対応した時系列の歪み振動データに変換できる。振動データを計算することができれば、振動源の位置の推定、振動源の種類(地震の種別、船の種別など)の推定、振動の伝達速度、振動源の速度、振動の種別(設備の異常振動、通常振動など)を推定することができるようになる。
【0018】
図4(a)は、特定のサンプリング位置における、上述した歪みに相当する位相差を例示する図である。横軸は経過時間を示し、縦軸は歪みに相当する位相差を示す。以下の図4(b)および図4(c)でも、横軸は経過時間を示し、縦軸は歪みに相当する位相差を示す。図4(a)で例示するように、時間の経過とともに位相差が変動している。
【0019】
図4(b)は、図4(a)の位相差が位相ラッピングされたものを例示する図である。振動測定部22によって実際に取得される位相差は、図4(b)のようになる。位相ラッピングとは、位相差を-π(-3.14)から+π(+3.14)の範囲内に折り畳むラッピング処理のことである。図4(b)の測定値は図4(a)とは異なるものになってしまうため、この位相ラッピング処理結果に対して位相アンラッピングを施すことで、測定値を実際の歪みに対する位相差に補正することが求められる。
【0020】
図4(c)は、図4(b)の位相ラッピング結果について位相の変化量がπを超えた箇所に対して2πだけずらすことで補正する位相アンラップ処理を例示する図である。位相差が2π以上変化した場合には、正確に復元することは困難である。例えば、図4(c)の丸で囲まれた箇所は、図4(a)の波形と大幅に相違している。
【0021】
ここで、位相アンラッピング処理の一例について説明する。n番目の位相をs(n)とする。位相ラップの演算子をΦとする。この場合、下記式(1)および下記式(2)の関係が得られる。kは、2πの位相をいくつ加えるかを指定する変数である。
【数1】
【数2】
【0022】
位相の差分Δs(n)は、下記式(3)のように表すことができる。
【数3】
【0023】
上記式(1)~(3)から、下記式(4)の関係が得られる。
【数4】
【0024】
位相差分が-πから+πであると仮定すると、下記式(5)の関係が得られる。
【数5】
【0025】
したがって、下記式(6)の関係が得られる。
【数6】
【0026】
このように、位相差分がπ以上になる場合には、2πの位相差が加えられる。位相差分が-π以下になる場合には、-2πの位相差が加えられる。
【0027】
図5は、位相差のウォーターフォール図である。図5において、横軸は光ファイバ30における入射端からの距離を示し、縦軸は経過時間を示し、濃淡は振動の大きさを表している。濃淡については、色が薄いほど(白いほど)プラスの歪み、すなわち伸びが大きいことを表し、色が濃いほど(黒いほど)マイナスの歪み、すなわち縮みが大きいことを表している。図5の例では、所定時刻に自然地震が発生している。当該自然地震が発生すると、光ファイバ30の各位置において振動が大きくなっている。
【0028】
一例として、光ファイバ30の伸縮は、数十cmから数mのサンプル間隔で取得される。振動測定装置100は、ウォーターフォール図を用いることで、自然地震のような波長の長い振動の伝搬を見やすく表現することができる。ここで、光ファイバ30の伸縮による位相差を測定する場合においては、光ファイバ30の被覆の素材や、敷設された環境によって感度すなわち周波数応答が異なるようになる。自然地震のような大規模の振動においても、大きな位相差が得られる箇所と、小さな位相差が得られる箇所とが存在する。大きな位相差が得られる箇所は、環境雑音の影響を受けやすい箇所であるが、感度の大きい箇所である。小さな位相差が得られる箇所は、環境雑音の影響を受けにくい箇所であるが、感度の小さい箇所である。光ファイバ30の状態の違いにより生じる感度の違いは、カップリングと呼ばれる。大きな位相差が得られるところでは、位相ラッピングしやすく、小さな位相差が得られるところでは、位相ラッピングしにくい。地震などの大規模な振動の場合、位相差の大きさの違いはあるが、振動の相関としては大きくなる。
【0029】
図6は、振動測定装置100の位相アンラッピング手法の一例を例示するフローチャートである。図7(a)~図7(d)および図8(a)~図8(d)は、本実施例における位相アンラッピング手法の詳細を説明するための図である。
【0030】
まず、前提条件として、図7(a)で例示するウォーターフォール図などを用いて、光ファイバ30のサンプリング位置ごとに、振動に対する感度と、他のサンプリング位置との相関度を事前に求めておく。図9は、記憶部23に記憶されているテーブルを例示する図である。図9で例示するように、サンプリング位置ごとに、振動に対する感度と、取得される時系列データと他のサンプリング位置で取得される時系列データとの相関度と、が記憶されている。このテーブルを参照することで、特定のサンプリング位置よりも振動に対する感度が低く、かつ、当該特定のサンプリング位置で取得される時系列データとの間で所定の相関度(例えば閾値以上となる相関度)を有する時系列データが取得されるサンプリング位置を特定することができるようになる。
【0031】
第1データ取得部24は、記憶部23に記憶されている各サンプリング位置における時系列データを取得する(ステップS1)。次に、第1データ取得部24は、記憶部23に記憶されている各サンプリング位置における時系列データのうち、位相アンラッピングが必要な位相差時系列データを探す(ステップS2)。具体的には、第1データ取得部24は、位相ラッピングが生じている箇所の時系列データを探す。例えば、第1データ取得部24は、位相差が+π以上変化している箇所または位相差が-π以下変化している箇所、位相特異点などを、位相ラッピングが生じている箇所として特定する。図7(b)および図8(a)は、位相ラッピングが生じているサンプリング位置の時系列データAである。
【0032】
次に、第1アンラッピング部25は、ステップS1で取得された時系列データAに対して、上記式(1)~(6)で説明した位相アンラッピング処理を行なう(ステップS3)。図8(b)は、位相アンラッピング処理によって得られた結果を例示する図である。
【0033】
次に、第2データ取得部26は、時系列データAに対する参考情報を記憶部23から取得する(ステップS4)。参考情報は、時系列データAが取得されたサンプリング位置よりも振動に対する感度が低く、かつ、当該サンプリング位置で取得される時系列データとの間で所定の相関度を有する時系列データが取得されるサンプリング位置における時系列データBである。時系列データBの時間範囲幅および各時刻は、時系列データAと一致する。図7(c)および図8(c)は、時系列データBを例示する図である。
【0034】
次に、第2アンラッピング部27は、時系列データAと時系列データBとの相関係数が大きくなるように、図7(b)の位相アンラッピング処理結果に対してさらに位相アンラッピングを試行する(ステップS5)。図10は、相関係数が大きくなるような最適化処理を説明するための図である。図10で例示するように、まず、時系列データAと時系列データBとの相関係数を、任意の窓幅(同一の時間範囲)で算出する。算出された相関係数が、ノイズを考慮した閾値を下回った場合、任意の時間以降のデータに±2πの整数倍を加えることで相関係数を大きくする。例えば、相関係数を最大化する。窓の位置をずらしながら補正することで全時間データを位相アンラッピングすることができる。
【0035】
次に、第2アンラッピング部27は、位相アンラッピング結果を分析部28に出力する(ステップS6)。分析部28は、例えば、記憶部23に記憶された各サンプリング位置における時系列データと、第2アンラッピング部27のアンラッピング処理結果とを用いて、各サンプリング位置における振動データを作成する。分析部28は、作成した振動データと、データベースなどに予め格納されたデータとを照合し、保存や分析を行う。例えば振動のスペクトルデータを照合すれば、振動源が何であるかを判断することができる。表示装置40は、分析部28による分析結果などを表示する。
【0036】
本実施例によれば、参考情報として、時系列データAが取得されたサンプリング位置よりも振動に対する感度が低いサンプリング位置における時系列データBが採用される。時系列データBでは、位相ラッピングが生じにくい。また、時系列データBは、時系列データAが取得されたサンプリング位置で取得される時系列データとの間で所定の相関度を有する時系列データが取得されるサンプリング位置における時系列データである。このような時系列データBに対して相関係数が高くなるように時系列データAに位相アンラッピングを施すことによって、時系列データAに2π以上の位相変化が生じていても、正確に時系列データAに対して補正を行なうことができるようになる。
【0037】
本実施例においては、振動測定部22が、光ファイバの各サンプリング位置について、前記光ファイバの伸縮により生じる位相差のデータ列を取得する取得部の一例である。第1アンラッピング部25が、位相ラップが起きている第1サンプリング位置について取得された第1データ列に対して、位相アンラッピングを行なって第2データ列を求める第1の処理部の一例である。時系列データAが第1データ列の一例である。第2アンラッピング部27が、前記第1サンプリング位置よりも振動に対する感度が低くかつ前記第1データ列との間で所定の相関度を有するデータ列が取得される第2サンプリング位置について取得される第3データ列を用いて、前記第2データ列と前記第3データ列との相関係数がより大きくなるように前記第2データ列のデータを修正する第2の処理部の一例である。時系列データBが、第3データ列の一例である。記憶部23が、前記各サンプリング位置における振動に対する感度と、前記各サンプリング位置同士のデータ列の相関度と、を記憶しておく記憶部の一例である。分析部28が、少なくとも前記第2の処理部の結果を用いて、前記各サンプリング位置の振動データを作成する分析部の一例である。表示装置40が、前記分析結果によって作成された前記振動データの分析結果を表示する表示装置の一例である。
【0038】
(変形例)
図11は、振動測定装置100の位相アンラッピング手法の他の例を例示するフローチャートである。
【0039】
まず、前提条件として、図7(a)で例示するウォーターフォール図などを用いて、光ファイバ30のサンプリング位置ごとに、振動に対する感度と、他のサンプリング位置との周波数応答関数を事前に求めておく。図12は、記憶部23に記憶されているテーブルを例示する図である。図12で例示するように、サンプリング位置ごとに、振動に対する感度と、取得される時系列データと他のサンプリング位置で取得される時系列データとの相関度と、他のサンプリング位置との周波数応答関数と、が記憶されている。このテーブルを参照することで、特定のサンプリング位置よりも振動に対する感度が低く、かつ、当該特定のサンプリング位置で取得される時系列データとの間で所定の相関度(例えば閾値以上となる相関度)を有する時系列データが取得されるサンプリング位置との周波数応答関数を特定することができるようになる。
【0040】
第1データ取得部24は、記憶部23に記憶されている各サンプリング位置における時系列データを取得する(ステップS11)。次に、第1データ取得部24は、記憶部23に記憶されている各サンプリング位置における時系列データのうち、位相アンラッピングが必要な位相差時系列データを探す(ステップS12)。
【0041】
次に、第1アンラッピング部25は、ステップS11で取得された時系列データAに対して、上記式(1)~(6)で説明した位相アンラッピング処理を行なう(ステップS13)。
【0042】
次に、第2データ取得部26は、時系列データAに対する参考情報を取得する(ステップS14)。参考情報は、時系列データAが取得されたサンプリング位置よりも振動に対する感度が低く、かつ、当該サンプリング位置で取得される時系列データとの間で所定の相関度を有する時系列データが取得されるサンプリング位置における時系列データBである。また、参考情報は、当該時系列データBのサンプリング位置における周波数応答関数も含む。
【0043】
次に、第2アンラッピング部27は、時系列データBと周波数応答関数とからモデルを作成する(ステップS15)。次に、第2アンラッピング部27は、時系列データAと、ステップS15で作成されたモデルとの誤差が小さくなるように、位相アンラッピングを試行する(ステップS16)。図13(a)~図13(c)は、光ファイバ30を用いて測定された位相差を線形システムとみなしたときの伝達関数による位相アンラッピングを説明する図である。まず、第2アンラッピング部27は、参考情報として選んだ時系列データB(図13(b))と、周波数応答関数すなわち伝達関数とから、参考となるモデルを作成する。第2アンラッピング部27は、作成したモデルと、通常の位相アンラッピングを施した時系列データA(図13(a))との誤差を求める。第2アンラッピング部27は、任意の時間以降のデータに±2πの整数倍を加えることで、当該誤差を小さくする。例えば、当該誤差を最小化する。図13(c)は、誤差の最小化によって得られた位相差である。
【0044】
なお、一般的な伝達関数においては、入力と出力とについて伝達信号を考えることが多いが、本変形例においては、あるサンプリング位置における信号を入力信号とし、別のサンプリング位置における信号を出力信号としている。
【0045】
次に、第2アンラッピング部27は、位相アンラッピング結果を分析部28に出力する(ステップS17)。
【0046】
本変形例によれば、参考情報として、時系列データAが取得されたサンプリング位置よりも振動に対する感度が低いサンプリング位置における時系列データBが採用される。また、当該時系列データBのサンプリング位置の周波数応答関数が採用される。時系列データBでは、位相ラッピングが生じにくい。また、時系列データBは、時系列データAが取得されたサンプリング位置で取得される時系列データとの間で所定の相関度を有する時系列データが取得されるサンプリング位置における時系列データである。このような時系列データBに対して、時系列データBと伝達関数とからモデルが作成される。作成されるモデルは、時系列データAの本来のデータに近づく。したがって、作成されたモデルとの誤差が小さくなるように時系列データAに位相アンラッピングを施すことによって、時系列データAに2π以上の位相変化が生じていても、正確に時系列データAに対して補正を行なうことができるようになる。
【0047】
本変形例においては、第2アンラッピング部27が、第1サンプリング位置よりも振動に対する感度が低くかつ第1データ列との間で所定の相関度を有するデータ列が取得される第2サンプリング位置について取得される第3データ列を用いて、第3データ列と周波数応答関数とから作成されたモデルと第2データ列との誤差が小さくなるように第2データ列のデータを修正する第2の処理部の一例である。
【0048】
(他の例)
図14は、振動測定システムを例示する図である。図14で例示するように、振動測定システムは、振動測定装置100が、インターネットなどの電気通信回線301を通じてサーバ302と接続された構成を有していてもよい。サーバ302は、データセンタなどに設置され、図1(b)のCPU101、RAM102、記憶装置103、インタフェース104などを備え、演算装置20の分析部28などの機能を実現する。
【0049】
または、図15で例示するように、振動測定システムは、測定機10が、電気通信回線301を通じてサーバ302と接続された構成を有していてもよい。この場合、サーバ302は、演算装置20の各部の機能を実現する。
【0050】
上記各例においては、時系列データBとして光ファイバ30から得られた位相差を用いているが、それに限られない。例えば、変位計や速度計などの外部センサで得られた位相差を用いてもよい。
【0051】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 測定機
11 レーザ
12 光サーキュレータ
13 検出器
20 演算装置
21 指示部
22 振動測定部
23 記憶部
24 第1データ取得部
25 第1アンラッピング部
26 第2データ取得部
27 第2アンラッピング部
28 分析部
30 光ファイバ
40 表示装置
100 振動測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15