(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】半導体装置、情報処理装置、及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20240627BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240627BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240627BHJP
H01L 29/16 20060101ALI20240627BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240627BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240627BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240627BHJP
【FI】
H01L29/78 618B
H01L29/78 616T
H01L29/78 627D
H01L29/78 301H
H01L29/78 301Y
H01L29/16
H01L29/06 601N
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2020199656
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-06-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「グラフェンナノリボンの合成・評価とシミュレーション」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大伴 真名歩
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-047646(JP,A)
【文献】特開2017-050424(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060419(WO,A1)
【文献】特開2014-216386(JP,A)
【文献】特開2015-101499(JP,A)
【文献】特開2018-145032(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0168722(US,A1)
【文献】特開2020-139084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H10K 10/40
H10K 85/20
H01L 21/336
H01L 29/16
H01L 29/06
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1のグラフェンナノリボンを備えた
不純物を含まない真正半導体である第1のグラフェンナノリボン層と、前記第1のグラフェンナノリボンよりもバンドギャップが狭い第2のグラフェンナノリボンを複数備えた
不純物を含まない真正半導体である第2のグラフェンナノリボン層とが積層されたチャネル層と、
前記チャネル層に接続されたソース電極と、
前記チャネル層に接続されたドレイン電極と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記チャネル層に対向する位置に設けられたゲート電極とを有し、
前記ソース電極と前記ドレイン電極のうちの少なくとも一方が、前記第2のグラフェンナノリボン層に接続されたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第1のグラフェンナノリボンは、第1の面に含まれる炭素原子の六員環を有し、
前記第2のグラフェンナノリボンは、前記第1の面に平行な第2の面に含まれる炭素原子の六員環を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
第1の触媒金属層の上に、複数の第1のグラフェンナノリボンを備えた
不純物を含まない真正半導体である第1のグラフェンナノリボン層を形成する工程と、
第2の触媒金属層の上に、前記第1のグラフェンナノリボンよりもバンドギャップが小さい第2のグラフェンナノリボンを複数備えた
不純物を含まない真正半導体である第2のグラフェンナノリボン層を形成する工程と、
前記第1のグラフェンナノリボン層と前記第2のグラフェンナノリボン層とを積層することによりチャネル層を形成する工程と、
前記チャネル層の上にソース電極とドレイン電極とを形成することにより、前記ソース電極と前記ドレイン電極の少なくとも一方を前記第2のグラフェンナノリボン層に接続する工程と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記チャネル層に対向する位置にゲート電極を形成する工程と、
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記チャネル層を形成する工程は、
前記第2のグラフェンナノリボン層を水に浮かべる工程と、
前記第1のグラフェンナノリボン層で前記第2のグラフェンナノリボン層を前記水からすくい上げることにより、前記第1のグラフェンナノリボン層と前記第2のグラフェンナノリボン層とを積層する工程とを有することを特徴とする請求項3記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
量子ビットを備えた量子回路素子と、
前記量子ビットを制御する半導体装置とを有し、
前記半導体装置は、
複数の第1のグラフェンナノリボンを備えた
不純物を含まない真正半導体である第1のグラフェンナノリボン層と、前記第1のグラフェンナノリボンよりもバンドギャップが狭い第2のグラフェンナノリボンを複数備えた
不純物を含まない真正半導体である第2のグラフェンナノリボン層とが積層されたチャネル層と、
前記チャネル層に接続されたソース電極と、
前記チャネル層に接続されたドレイン電極と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記チャネル層に対向する位置に設けられたゲート電極とを有し、
前記ソース電極と前記ドレイン電極のうちの少なくとも一方が、前記第2のグラフェンナノリボン層に接続されたことを特徴とする情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、情報処理装置、及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数ナノメートル程度の幅のリボン状のグラフェンはGNR(グラフェンナノリボン)と呼ばれる。グラフェン自体はバンドギャップがないが、GNRは、狭い幅に起因した量子閉じ込め効果によってバンドギャップが生じ、半導体として振る舞うことが知られている。GNRはキャリアの移動度が高いため、GNRをトランジスタのチャネルに使用することにより、高速動作が可能なトランジスタを得ることができる。
【0003】
シート状のグラフェンをリソグラフィ等で加工してナノメートルオーダの幅のGNRを形成するのは技術的に難しい。そこで、触媒金属の表面で前駆体分子を重合させることによりGNRを形成する方法が報告されている。この方法によればリソグラフィでグラフェンを加工する必要がないため、技術的に容易にGNRを形成することができる。この方法で形成したGNRでFET(Field Effect Transistor)を作製すると、シリコンのMOSFET(Metal Oxide Semiconductor FET)よりも特性が向上することが報告されている。
【0004】
但し、このようにGNRを利用したトランジスタには、ドレイン電流を高めるという点で改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-101499号公報
【文献】特開2020-47646号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】“Atomically precise bottom-up fabrication of graphene nanoribbons”, Cai et al., Nature, volume 466, pages 470-473, 2010
【文献】“Graphene Nanoribbon Tunnel Transistors”, Zhang et al., Electron Device Letters, IEEE, volume 29, pages 1344-1346, 2009
【文献】“States Modulation in Graphene Nanoribbons through Metal Contacts”, Archambault et al, ACS Nano, volume 7, number 6, pages 5414-5420, 2013
【文献】“Quasiparticle energies and band gaps in graphene nanoribbons”, Li Yang et al., Physical Review Letters, volume 99, number 18, pages 186801, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一側面によれば、ドレイン電流を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一側面によれば、複数の第1のグラフェンナノリボンを備えた不純物を含まない真正半導体である第1のグラフェンナノリボン層と、前記第1のグラフェンナノリボンよりもバンドギャップが狭い第2のグラフェンナノリボンを複数備えた不純物を含まない真正半導体である第2のグラフェンナノリボン層とが積層されたチャネル層と、前記チャネル層に接続されたソース電極と、前記チャネル層に接続されたドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記チャネル層に対向する位置に設けられたゲート電極とを有し、前記ソース電極と前記ドレイン電極のうちの少なくとも一方が、前記第2のグラフェンナノリボン層に接続された半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
一側面によれば、ドレイン電流を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は、GNRの長さの分布を示す曲線である。
【
図3】
図3(a)は本願発明者が検討したトランジスタの平面図であり、
図3(b)はGNR層の断面図である。
【
図4】
図4(a)~(d)は、GNR層のDOS(Density of States)を密度汎関数法で計算して得られた図である。
【
図5】
図5は、フェルミ面のピン止めによって生じる問題について説明するためのバンド図である。
【
図6】
図6(a)~(c)は、第1実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その1)である。
【
図7】
図7(a)~(c)は、第1実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その2)である。
【
図8】
図8(a)~(c)は、第1実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その3)である。
【
図9】
図9(a)、(b)は、第1実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その4)である。
【
図10】
図10(a)~(c)は、第1実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その5)である。
【
図11】
図11(a)、(b)は、第1実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その6)である。
【
図12】
図12は、第1実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その7)である。
【
図13】
図13(a)、(b)は、第1実施形態に係る半導体装置の製造途中の平面図(その1)である。
【
図14】
図14(a)、(b)は、第1実施形態に係る半導体装置の製造途中の平面図(その2)である。
【
図15】
図15(a)は、第1実施形態に係る第1のGNR層に含まれる第1のGNRの拡大平面図であり、
図15(b)は、第1実施形態に係る第2のGNR層に含まれる第2のGNRの拡大平面図である。
【
図16】
図16(a)はGNRの短手方向の幅とGNRのバンドギャップとの関係を示すグラフであり、
図16(b)は第1実施形態に係るチャネル層の拡大断面図である。
【
図17】
図17(a)は、比較例に係る半導体装置の特性の調査結果を示すグラフであり、
図17(b)は、第1実施形態に係る半導体装置の特性の調査結果を示すグラフである。
【
図18】
図18(a)は、第1実施形態における調査で使用した計算モデルの断面図であり、
図18(b)は、この計算モデルを使用した場合の第1実施形態に係るチャネル層のDOSを密度汎関数法で計算して得られた図である。
【
図19】
図19(a)は、第1実施形態における調査で使用した別の計算モデルの断面図であり、
図19(b)は、この計算モデルを使用した場合の第1実施形態に係るチャネル層のDOSを密度汎関数法で計算して得られた図である。
【
図20】
図20(a)~(d)は、第2実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その1)である。
【
図21】
図21(a)~(d)は、第2実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その2)である。
【
図22】
図22(a)~(d)は、第2実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その3)である。
【
図23】
図23(a)、(b)は、第2実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その4)である。
【
図24】
図24(a)、(b)は、第2実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その5)である。
【
図25】
図25は、第3実施形態に係る情報処理装置の模式図である。
【
図26】
図26は、シリコン基板に形成されたMOSFETを備えた半導体装置で量子回路素子を制御する場合の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の説明に先立ち、基礎となる事項について説明する。
【0012】
図1は、GNRの模式平面図である。
図1に示すように、GNR1は、長さDが幅Wよりも長いリボン状の平面形状を有すると共に、平面内に炭素原子Cの六員環が配置された構造を有する。グラフェン自体はギャップレスであるが、GNR1は幅Wをナノメートルオーダにすると量子閉じ込め効果によって数eV程度のバンドギャップが形成される。
【0013】
このようなGNR1の形成方法としては、前述のように触媒金属の表面で前駆体分子を重合させる方法がある。
【0014】
図2は、この方法で形成したGNR1の長さDの分布を示す曲線である。
【0015】
図2に示すように、GNR1の長さDの最頻値は20nm程度しかない。20nm程度の長さでは、トランジスタのソース電極とドレイン電極とを接続するのには短すぎ、GNR1をトランジスタのチャネルとして使用することはできない。
【0016】
この問題を解決するため、
図3(a)に示すトランジスタについて検討する。
【0017】
図3(a)は、本願発明者が検討したトランジスタの平面図である。
このトランジスタ5は、複数のGNR1を備えたGNR層6と、そのGNR層6の上に間隔をおいて設けられたソース電極7及びドレイン電極8とを有する。なお、ソース電極7とドレイン電極8との間にあるゲート電極については図示を省略してある。
【0018】
このうち、GNR1は、触媒金属の表面で前駆体分子を重合させることにより形成される。各GNR1は同一面内にあり、GNR層6は1原子層の厚みしかない。
【0019】
このような構造によれば、複数のGNR1が上下に重なることはなく、上面視で隣同士のGNR1同士が接することによりGNR層6が電気伝導性を有することになる。
【0020】
図3(b)は、GNR層6の断面図である。
炭素の六員環の分子軌道にはπ軌道9がある。そのπ軌道9は、六員環の対称性からGNR1の厚さ方向zに対して伸びる。そのため、厚さ方向zに対して垂直な方向xに並ぶ二つのGNR1の各々のπ軌道9同士は重複せず、重複したπ軌道9を介して電子が二つのGNR1を流れることができない。
【0021】
その結果、ホッピング伝導により電子が二つのGNR1を伝導するようになるため、GNR層6の電気伝導性が極めて悪くなり、トランジスタ5のドレイン電流は極めて小さくなる。
【0022】
また、このGNR層6には次のような問題もある。
図4(a)~(d)は、GNR層6のDOS(Density of States)を密度汎関数法で計算して得られた図である。
【0023】
このうち、
図4(a)は、ソース電極7とドレイン電極8とを形成しない場合のGNR層6のDOSである。この場合は、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)とHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)の各々からほぼ等しい位置にフェルミ面Fが存在しており特に問題はない。
【0024】
一方、
図4(b)~(d)は、ソース電極7とドレイン電極8とを形成した場合のGNR層6のDOSである。
図4(b)はソース電極7とドレイン電極8の各々の材料として金を使用した場合のDOSであり、
図4(c)はソース電極7とドレイン電極8の各々の材料としてパラジウムを使用した場合のDOSである。そして、
図4(d)は、ソース電極7とドレイン電極8の各々の材料としてチタンを使用した場合のDOSである。
【0025】
図4(b)~(d)においては、ソース電極7とドレイン電極8の各材料がGNR1と反応し、MIGS(Metal-Induced Gap State)と呼ばれるギャップ内準位が形成される。その結果、フェルミ面がMIGSにピン止めされてしまい、HOMOとLUMOのいずれかに偏った位置にフェルミ面Fが位置してしまう。
【0026】
図5は、フェルミ面のピン止めによって生じる問題について説明するためのバンド図である。
【0027】
図5に例示するように、ピン止めによってGNR層6のHOMOとLUMOの各々のバンドが曲がってしまい、ソース電極7とGNR層6との間にショットキー障壁Vが形成される。この状態でソース電極7からGNR層6にホールを注入するには、曲がったバンドをフラットにするための強い電界をソースドレイン間に印加する必要が生じ、トランジスタの駆動電圧が高くなってしまう。
【0028】
以下に、これらの問題を解消し得る各実施形態について説明する。
【0029】
(第1実施形態)
本実施形態では、GNRをチャネル層に利用した半導体装置を以下のようにして製造する。
【0030】
図6~
図12は、本実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図である。
【0031】
まず、
図6(a)に示すように、第1の支持基板10として厚さが500μm~600μm程度のマイカ基板を用意する。そして、第1の支持基板10の上に第1の触媒金属層11として金層を蒸着法で200nm程度の厚さに形成する。
【0032】
第1の触媒金属層11の面方位は特に限定されないが、本実施形態では第1の触媒金属層11の表面11aに金の(111)面が現れるようにする。なお、(111)面に代えて、(110)面や(778)面等の金の高指数面が表面11aに現れるようにしてもよい。その後、表面11aを真空中で清浄化する。
【0033】
次に、
図6(b)に示すように、真空中で第1の触媒金属層11を200℃程度に加熱する。そして、この状態で第1の前駆体分子のモノマーを表面11aに蒸着することにより、第1の触媒金属層11の上に第1の分子層12を一分子層程度の厚さに形成する。
【0034】
その第1の前駆体分子として、本実施形態では3’,6’-dibromo-1,1’:2’,1”-terphenylや1,2-bis-(2-anthracenyl)-3,6-dibromobenzene等のハロゲン基として臭素を含む芳香族化合物を使用する。
【0035】
これらの芳香族化合物を使用すると、第1の分子層12において芳香族化合物からハロゲンが脱離してUllmann反応が生じ、芳香族化合物のポリマーが形成される。
【0036】
次いで、
図6(c)に示すように、第1の触媒金属層11の温度を350℃~450℃程度にまで加熱し、第1の分子層12に含まれる芳香族化合物から水素を脱離させる。これにより第1の触媒金属層11の触媒作用によって第1の分子層12が芳香環化し、第1の触媒金属層11の上に複数の第1のGNR13が形成される。その第1のGNR13は、不純物を含まない真正半導体である。
【0037】
また、このように第1の触媒金属層11の触媒作用を利用すると、第1の分子層12に含まれる複数のポリマーのうち、第1の触媒金属層11に接しているポリマーのみが芳香環化により第1のGNR13となる。そのため、第1のGNR13の厚さは1分子層の厚さとなる。
【0038】
ここまでの工程により、複数の第1のGNR13を備えた第1のGNR(グラフェンナノリボン)層14が形成されたことになる。
【0039】
図13(a)は、第1のGNR層14の平面図である。
図13(a)に示すように、第1のGNR層14に含まれる複数の第1のGNR13の各々は、平面視でランダムな方向に延在する。
【0040】
この後は、第1のGNR層14と積層する第2のGNR層を以下のようにして形成する。
【0041】
まず、
図7(a)に示すように、第2の支持基板20として厚さが500μm~600μm程度のマイカ基板を用意し、その上に第2の触媒金属層21として金層を蒸着法で200nm程度の厚さに形成する。
【0042】
第2の触媒金属層21の面方位は特に限定されない。本実施形態では、第1の触媒金属層11と同様に、第2の触媒金属層21の表面21aに金の(111)面が現れるようにする。なお、(111)面に代えて、(110)面や(778)面等の金の高指数面が表面21aに現れるようにしてもよい。その後、表面21aを真空中で清浄化する。
【0043】
次に、
図7(b)に示すように、真空中で第2の触媒金属層21を200℃程度に加熱する。そして、この状態で第2の前駆体分子のモノマーを表面21aに蒸着することにより、第2の触媒金属層21の上に第2の分子層22を一分子層程度の厚さに形成する。
【0044】
第1の分子層12を形成する第1の前駆体分子と同様に、本実施形態ではハロゲン基として臭素を含む芳香族化合物を第2の前駆体分子として使用する。そのような芳香族化合物としては、前述の3’,6’-dibromo-1,1’:2’,1”-terphenylや1,2-bis-(2-anthracenyl)-3,6-dibromobenzeneがある。
【0045】
これらの芳香族化合物を使用すると、第2の分子層22において芳香族化合物からハロゲンが脱離してUllmann反応が生じ、芳香族化合物のポリマーが形成される。
【0046】
次いで、
図7(c)に示すように、第2の触媒金属層21の温度を350℃~450℃程度にまで加熱し、第2の分子層22に含まれる芳香族化合物から水素を脱離させる。これにより第2の触媒金属層21の触媒作用によって第2の分子層22が芳香環化し、第2の触媒金属層21の上に複数の第2のGNR23が1分子層の厚さに形成される。第1のGNR13と同様に、第2のGNR23も不純物を含まない真正半導体である。
【0047】
ここまでの工程により、複数の第2のGNR23を備えた第2のGNR(グラフェンナノリボン)層24が形成されたことになる。
【0048】
図13(b)は、第2のGNR層24の平面図である。
図13(b)に示すように、第2のGNR層24に含まれる複数の第2のGNR23の各々は平面視でランダムな方向に延在する。
【0049】
次に、
図8(a)に示すように、第2のGNR層24の上にレジストをスピンコート法で塗布し、それをキュアすることにより支持層25を形成する。そのレジストの材料として、本実施形態ではPMMA(ポリメチルメタクリレート)を使用する。
【0050】
続いて、
図8(b)に示すように、塩酸やフッ酸等の酸で第2の支持基板20を溶解して除去する。
【0051】
そして、
図8(c)に示すように、ヨウ素とヨウ化カリウムの水溶液で第2の触媒金属層21を溶解して除去する。
【0052】
以上により、第2のGNR層24が支持層25で支持された構造が得られる。この後は、第1のGNR層14と第2のGNR層24とを積層する工程に移る。
【0053】
まず、
図9(a)に示すように、水31を溜めた容器30を用意し、第1のGNR層14を第1の支持基板10と共に水31に浸漬する。そして、第2のGNR層24を下にして支持層25を水31に浮かべる。このとき、本実施形態では第2のGNR層24が支持層25で支持されているため第2のGNR層24の取り扱いが容易となり、簡単に水31に浮かべることができる。
【0054】
次に、
図9(b)に示すように、第1の支持基板10を水31から引き上げることにより、第1のGNR層14で第2のGNR層24を水31から大気中にすくい上げる。これにより、第1のGNR層14と第2のGNR層24との間に残存する僅かな水を介して各GNR層14、24が相互に密着し、これらのGNR層14、24を積層したチャネル層33を得ることができる。
【0055】
前述のように各GNR13、23は真正半導体であるため、これらのGNR13、23から形成されるチャネル層33も不純物を含まない真正半導体となる。
【0056】
その後に、各GNR層14、24の各々を大気中で80℃程度の温度に加熱することにより両者の間に残存する水を乾燥させ、各GNR層14、24をファンデルワールス力で相互に確実に密着させる。
【0057】
図14(a)は、チャネル層33の平面図である。
図14(a)に示すように、チャネル層33においては、第1のGNR13と第2のGNR23とが平面視で交差する。
【0058】
次に、
図10(a)に示すように、塩酸やフッ酸等の酸で第1の支持基板10を溶解して除去する。
【0059】
更に、
図10(b)に示すように、ヨウ素とヨウ化カリウムの水溶液で第1の触媒金属層11を溶解して除去する。
【0060】
次いで、
図10(c)に示すように、シリコン基板35aの上に酸化シリコン層35bが形成された基板35を用意し、その基板35の表面35cにチャネル層33を載置する。これにより、表面35cとチャネル層33との間のファンデルワールス力によってチャネル層33が基板35に貼付されることになる。
【0061】
次に、
図11(a)に示すように、アセトンで支持層25を溶解して除去する。
【0062】
続いて、
図11(b)に示すように、チャネル層33の上側全面に蒸着法で金層を形成し、リフトオフ法でその金層をパターニングすることにより、チャネル層33の上にソース電極36とドレイン電極37とを形成する。なお、金層に代えてパラジウム層でソース電極36とドレイン電極37とを形成してもよい。
【0063】
図14(b)は、本工程を終了した時点でのチャネル層33の平面図である。
【0064】
前述のように、チャネル層33においては第1のGNR13と第2のGNR23とが平面視で交差している。そのため、各GNR13、23の長さがソース電極36とドレイン電極37との間隔Lより短い場合でも、各GNR13、23を介してソース電極36とドレイン電極37とを接続できる。
【0065】
次に、
図12に示すように、ソース電極36とドレイン電極37の間のチャネル層33の上にゲート絶縁層38として酸化ハフニウム層をALD(Atomic Layer Deposition)法で形成する。なお、ゲート絶縁層38は酸化ハフニウム層に限定されない。例えば、六方晶窒化ホウ素層の単結晶層をゲート絶縁層38としてチャネル層33に貼付してもよい。
【0066】
その後に、ゲート絶縁層38の上にゲート電極39として金層を蒸着法で形成することにより、ゲート電極39をチャネル層33に対向させる。なお、金層に代えて、プラチナ層又はアルミニウム層をゲート電極39として形成してもよい。
【0067】
以上により、本実施形態に係る半導体装置40の基本構造が完成する。
この半導体装置40は、FETであって、第1のGNR層14と第2のGNR層24とを積層したチャネル層33を有する。
【0068】
図15(a)は、第1のGNR層14に含まれる第1のGNR13の拡大平面図である。
【0069】
図15(a)に示すように、第1のGNR13は、基板35の表面35cに平行な第1の面P1内に炭素原子Cの六員環を複数備える。
【0070】
その第1のGNR13の短手方向Y1に沿った炭素原子Cの個数N1は、第1のGNR13の成膜に使用する第1の前駆体分子で制御できる。なお、個数N1を計数する場合には、線M1のように短手方向Y1に沿って隣接する炭素原子Cを数え上げるものとする。
【0071】
例えば、3’,6’-dibromo-1,1’:2’,1”-terphenylから第1のGNR13を形成すると個数N1は9個となる。このように短手方向に沿った炭素原子Cの個数N1が9個のGNRは「N9」とも呼ばれる。
【0072】
また、1,2-bis-(2-anthracenyl)-3,6-dibromobenzeneから第1のGNR13を形成すると個数N1が17個となり、「N17」の第1のGNR13を得ることができる。
【0073】
図15(b)は、第2のGNR層24に含まれる第2のGNR23の拡大平面図である。
【0074】
第1のGNR13と同様に、第2のGNR23は、基板35の表面35cと第1の面P1の各々に平行な第2の面P2内に炭素原子Cの六員環を複数備える。
【0075】
第1のGNR13と同様に、第2のGNR23の短手方向Y2に沿った炭素原子Cの個数N2は、第2のGNR23の成膜に使用した第2の前駆体分子で制御できる。例えば、3’,6’-dibromo-1,1’:2’,1”-terphenylを使用すると「N9」の第2のGNR23となり、1,2-bis-(2-anthracenyl)-3,6-dibromobenzeneを使用すると「N17」の第2のGNR23となる。
【0076】
なお、個数N2を計数する場合には、線M2のように短手方向Y2に沿って隣接する炭素原子Cを数え上げるものとする。
【0077】
図16(a)は、GNRの短手方向の幅とGNRのバンドギャップとの関係を示すグラフである。
【0078】
図16(a)においては、GNRの短手方向の沿った炭素原子Cの個数Nが、整数pを利用して3p、3p+1、及び3p+2の各々で表現される各系列のグラフを併記してある。
【0079】
例えば、3pのグラフは、Nの値が3、6、9、…のときのバンドギャップを示すグラフである。また、3p+1のグラフは、Nの値が1、4、7、…のときのバンドギャップを示すグラフである。そして、3p+2のグラフは、Nの値が2、5、7、…のときのバンドギャップを示すグラフである。
【0080】
図16(a)に示すように、3p、3p+1、及び3p+2のいずれの系列においても、幅が狭いほどバンドギャップが大きくなる。但し、同一の幅で見た場合は、3p、3p+2、及び3p+1の系列の順にバンドギャップが大きくなる。
【0081】
よって、第1のGNR13のバンドギャップは、幅を定める個数N1の値と、その個数N1が属する系列(3p、3p+1、及び3p+2)とを選択することにより制御できる。これらは第1のGNR13を形成するときに使用する第1の前駆体分子の種類で制御できる。例えば、第1の前駆体分子として3’,6’-dibromo-1,1’:2’,1”-terphenylを使用するとN1=9となり、N1が属する系列が「3p」となる。また、第1の前駆体分子として1,2-bis-(2-anthracenyl)-3,6-dibromobenzeneを使用するとN1=17となり、個数N1が属する系列が「3p+2」となる。
【0082】
これと同様に、第2のGNR23のバンドギャップも、幅を定める個数N2の値と、その個数N2が属する系列(3p、3p+1、及び3p+2)とを選択することにより制御できる。
【0083】
このようにバンドギャップを制御することにより、本実施形態では第2のGNR23のバンドギャップを第1のGNR13のバンドギャップよりも小さくする。これにより、第2のGNR23に接続されたソース電極36からチャネル層33にホールを注入するときの障壁が小さくなり、チャネル層33に効率的にホールを注入できる。
【0084】
なお、
図12の例ではドレイン電極37が第2のGNR層24に接続されていない例を示しているが、ソース電極36とドレイン電極37の少なくとも一方が第2のGNR層24に接続されればよい。これにより、ソース電極36とドレイン電極37のうち、第2のGNR層24と接続されている方の電極からチャネル層33に効率的にキャリアを注入できる。
【0085】
また、
図16(a)によれば、以下の(1)~(3)の条件のいずれかを採用することにより、凡そ第2のGNR23のバンドギャップを第1のGNR13のバンドギャップよりも小さくできる。
【0086】
(1)N1=3p+1のとき
個数N2は、3p+1の系列に属するN2>N1の自然数。又は、個数N2は、3pと3p+1のいずれかの系列に属する自然数。
【0087】
(2)N1=3pのとき
個数N2は、3pの系列に属するN2>N1の自然数。又は、個数N2は、3p+2の系列に属する自然数。
【0088】
(3)N1=3p+2のとき
個数N2は、3p+2の系列に属するN2>N1の自然数。
【0089】
次に、チャネル層33の伝導性について説明する。
図16(b)は、チャネル層33の拡大断面図である。
図16(b)に示すように、第1のGNR13のπ軌道13pは、炭素の六員環の空間対称性に起因して、該六員環が位置する面P1に垂直な方向Z1に向かって伸びる。同様の理由により、第2のGNR23のπ軌道23pも面P2に垂直な方向Z2に向かって伸びる。
【0090】
その結果、本実施形態ではπ軌道13p、23p同士が相互に重複し、上下に隣接する各GNR13、23を電子が移動するのが容易になる。そのため、単層の第1のGNR層14の内部や単層の第2のGNR層24の内部を電子がホッピング伝導する場合と比較して、チャネル層33の全体の電気伝導性を高めることができる。
【0091】
本願発明者は、これを確かめるために半導体装置40の特性を調査した。その調査では、比較例として、チャネル層33として単層の第1のGNR層14のみを使用した場合も調べた。
【0092】
図17(a)は、その比較例に係る半導体装置40の特性の調査結果を示すグラフである。このグラフの横軸は、ソース電極36とドレイン電極37との間の電圧として定義されるドレイン電圧である。また、グラフの縦軸は、ソース電極36とドレイン電極37との間を流れるドレイン電流である。なお、ソース電極36とドレイン電極37との間隔L(
図14(b)参照)は0.5μmとした。本願発明者は、ゲート電極を様々に変えることにより複数のグラフを得た。
【0093】
図17(a)に示すように、この比較例においては、ドレイン電流の大きさが最大でも40pA程度しかない。このように小さなドレイン電流しか得られないのは、比較例では単層の第1のGNR層14に含まれる複数の第1のGNR13の各々を電子がホッピング伝導するためと考えられる。
【0094】
一方、
図17(b)は、
図17(a)におけるのと同じ調査を本実施形態に係る半導体装置40に対して行って得られたグラフである。そのグラフの縦軸と横軸の意味は
図17(a)におけるのと同じなのでその説明は省略する。また、比較例と同様に、ソース電極36とドレイン電極37との間隔Lは0.5μmとした。
【0095】
図17(b)に示すように、本実施形態においてはドレイン電流の大きさが最大で3nAとなっており、比較例と比べてドレイン電流が二けたも増大している。
【0096】
本実施形態では各GNR層14、24を積層してチャネル層33としているため、比較例と比べてチャネル層33の厚さは2倍程度しか増加していない。これにも関わらず比較例よりもドレイン電流が二けたも増大したのは、本実施形態では
図16(b)のように各GNR13、23のπ軌道13p、23p同士が重複し、チャネル層33の電気伝導性が高められたためと考えられる。
【0097】
また、本願発明者は、本実施形態に係るチャネル層33においてフェルミ面のピン止めがどの程度生じているのかを以下のように調査した。
【0098】
図18(a)は、その調査で使用した計算モデルの断面図である。
この例では、ソース電極36やドレイン電極37を形成する金属原子43としてパラジウム原子を想定している。また、短手方向Y1(
図15(a)参照)に沿った第1のGNR層14の炭素原子の個数N
1を9とし、短手方向Y2(
図15(b)参照)に沿った第2のGNR層24の炭素原子の個数N
2を11とした。
【0099】
図18(b)は、この場合のチャネル層33のDOSを密度汎関数法で計算して得られた図である。
【0100】
図18(b)に示すように、第2のGNR層24は、金属原子43との反応によってバンドギャップが消失し、金属的な電子状態となっている。
【0101】
一方、第1のGNR層14は、金属原子43との反応が抑制されており、HOMOとLUMOの略中央にフェルミ面Fが位置している。
【0102】
図19(a)は、その調査で使用した別の計算モデルの断面図である。
図18(a)の例と同様に、本例でも金属原子43としてパラジウム原子を想定している。但し、本例では、短手方向Y1(
図15(a)参照)に沿った第1のGNR層14の炭素原子の個数N
1を11とし、短手方向Y2(
図15(b)参照)に沿った第2のGNR層24の炭素原子の個数N
2も11とした。
【0103】
図19(b)は、この場合のチャネル層33のDOSを密度汎関数法で計算して得られた図である。
【0104】
図19(b)に示すように、本例においても、第2のGNR層24は金属原子43との反応によって金属的な電子状態となっている。
【0105】
一方、第1のGNR層14は、金属原子43との反応が抑制されており、HOMOとLUMOの略中央にフェルミ面Fが位置している。
【0106】
このように、
図18(b)と
図19(b)のいずれにおいても、第1のGNR層14のフェルミ面FがHOMOとLUMOの略中央に位置しており、フェルミ面Fのピン止めが抑制されている。これにより、
図5に示したようなバンドの曲がりが抑制され、ソース電極36と第1のGNR層14との間にショットキー障壁が形成されるのを防止できる。その結果、僅かなドレイン電圧でもソース電極36からチャネル層33にホールを注入でき、トランジスタの駆動電圧を低減することが可能となる。
【0107】
(第2実施形態)
図20~
図24は、本実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図である。
【0108】
まず、第1実施形態で説明した
図6(a)~(c)の工程を行うことにより、
図20(a)に示すように、第1の支持基板10の上に第1の触媒金属層11と第1のGNR層14とがこの順に積層された構造を作製する。
【0109】
次に、
図20(b)に示すように、塩酸やフッ酸等の酸で第1の支持基板10を溶解して除去する。
【0110】
次いで、
図20(c)に示すように、シリコン基板35aの上に酸化シリコン層35bが形成された基板35を用意する。そして、第1のGNR層14を下に向けた状態で基板35の表面35cの上に第1の触媒金属層11を載置する。これにより、表面35cと第1のGNR層14との間のファンデルワールス力によって第1のGNR層14が基板35に貼付されることになる。
【0111】
続いて、
図20(d)に示すように、ヨウ素とヨウ化カリウムの水溶液で第1の触媒金属層11を溶解して除去する。
【0112】
ここまでの工程により、基板35に第1のGNR層14が貼付された構造が完成する。この後は、第1のGNR層14と積層する第2のGNR層24を以下のようにして形成する。
【0113】
まず、第1実施形態で説明した
図7(a)~(c)の工程を行うことにより、
図21(a)に示すように、第2の支持基板20の上に第2の触媒金属層21と第2のGNR層24とがこの順に積層された構造を作製する。
【0114】
次いで、
図21(b)に示すように、塩酸やフッ酸等の酸で第2の支持基板20を溶解して除去する。
【0115】
次に、
図21(c)に示すように、第3の支持基板51として二酸化シリコン基板を用意する。そして、第2のGNR層24を下に向けた状態で第3の支持基板51の上に第2の触媒金属層21を載置し、第3の支持基板51と第2のGNR層24とをファンデルワールス力で相互に吸着させる。
【0116】
その後、
図21(d)に示すように、ヨウ素とヨウ化カリウムの水溶液で第2の触媒金属層21を溶解して除去する。
【0117】
次いで、
図22(a)に示すように、第2のGNR層24の上側全面に蒸着法で金層を形成し、リフトオフ法でその金層をパターニングすることによりソース電極36とドレイン電極37とを形成する。
【0118】
次に、
図22(b)に示すように、ソース電極36とドレイン電極37の各々をマスクにしながら、ソース電極36とドレイン電極37で覆われていない部分の第2のGNR層24をドライエッチングして除去する。このドライエッチングは、例えば、酸素プラズマを使用するRIE(Reactive Ion Etching)により行われる。
【0119】
次に、
図22(c)に示すように、ソース電極36、ドレイン電極37、及び第3の支持基板51の各々の上にレジスト層をスピンコート法で塗布し、それをキュアすることにより支持層53を形成する。また、支持層53の材料としては、例えばPMMAがある。
【0120】
続いて、
図22(d)に示すように、第3の支持基板51をフッ酸溶液で溶解して除去する。
【0121】
ここまでの工程により、第2のGNR層24が支持層53で支持された構造が完成する。この後は、第1のGNR層14と第2のGNR層24とを積層する工程に移る。
【0122】
まず、
図23(a)に示すように、水31を溜めた容器30を用意し、第1のGNR層14を基板35と共に水31に浸漬する。このとき、本実施形態では第1のGNR層14が基板35で支持されているため第1のGNR層14の取り扱いが容易となり、水31に簡単に第1のGNR層14を浸漬することができる。
【0123】
その後、第2のGNR層24を下にして支持層53を水31に浮かべる。支持層53で支持された第2のGNR層24は取り扱いが容易であり、簡単に水31に浮かべることができる。
【0124】
次に、
図23(b)に示すように、基板35を水31から引き上げることにより、第1のGNR層14で第2のGNR層24を水31から大気中にすくい上げる。これにより、第1実施形態と同様に、第1のGNR層14と第2のGNR層24との間に残存する僅かな水を介して各GNR層14、24が相互に密着し、これらのGNR層14、24を積層したチャネル層33を得ることができる。
【0125】
第1実施形態と同様に、そのチャネル層33は、不純物を含まない真正半導体である。
【0126】
その後に、各GNR層14、24の各々を大気中で80℃程度の温度に加熱することにより両者の間に残存する水を乾燥させ、各GNR層14、24をファンデルワールス力で相互に確実に密着させる。
【0127】
次いで、
図24(a)に示すように、アセトンで支持層53を溶解して除去する。
【0128】
次に、
図24(b)に示すように、ソース電極36とドレイン電極37の間のチャネル層33の上にゲート絶縁層38として酸化ハフニウム層をALD法で形成する。なお、六方晶窒化ホウ素層の単結晶層をゲート絶縁層38としてチャネル層33に貼付してもよい。
【0129】
その後に、ゲート絶縁層38の上にゲート電極39として金層を蒸着法で形成することにより、チャネル層33に含まれる第1のGNR層14にゲート電極39を対向させる。ゲート電極39の材料としては、金の他にプラチナやアルミニウムもある。
【0130】
以上により、本実施形態に係る半導体装置60の基本構造が完成する。
【0131】
この半導体装置60においては、ソース電極36とドレイン電極37の各々の下のチャネル層33が、第1のGNR層14と第2のGNR層24とを積層した構造を有する。そのため、第1実施形態と同様にチャネル層33の電気伝導性が高まり、半導体装置60のドレイン電流を増大させることができる。
【0132】
しかも、第1実施形態で説明したように第1のGNR層14のフェルミ面のピン止めを抑制できるため、ソース電極36とチャネル層33との間にショットキー障壁が形成されるのを抑えることができる。その結果、僅かなドレイン電圧でソース電極36からチャネル層33にホールを注入でき、トランジスタの駆動電圧を低減できる。
【0133】
また、第1実施形態と同様に、本実施形態でも第2のGNR層24に含まれる第2のGNR23のバンドギャップを第1のGNR層14に含まれる第1のGNR13のそれよりも小さくする。これにより、ソース電極36やドレイン電極37からチャネル層33にキャリアを注入するときの障壁が小さくなり、チャネル層33に効率的にキャリアを注入できる。
【0134】
(第3実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に係る半導体装置40を備えた情報処理装置について説明する。
【0135】
図25は、本実施形態に係る情報処理装置70の模式図である。
この情報処理装置70は、量子コンピュータであって、希釈冷凍機71とその内部に収容された量子回路素子72とを有する。
【0136】
このうち、希釈冷凍機71は、液相の4Heを液相の3Heで希釈するときの希釈熱を利用した冷凍機であって、量子回路素子72を10mK程度の極低温に冷却する。
【0137】
また、量子回路素子72は複数の量子ビットを備えた回路素子である。その量子ビットのオンオフを制御する制御チップとして、第1実施形態に係る半導体装置40が量子回路素子72に貼付される。なお、半導体装置40に代えて、第2実施形態に係る半導体装置60を量子回路素子72に貼付してもよい。
【0138】
このような情報処理装置70によれば、量子回路素子72と半導体装置40とを共に希釈冷凍機71に収容する。そのため、外部から希釈冷凍機71に熱が流入する経路がなくなり、希釈冷凍機71で効率的に量子回路素子72を冷却することができる。
【0139】
しかも、各GNR層14、24(
図12参照)は不純物を含まない真正半導体であるため、キャリアは各GNR層14、24の不純物から発生せずに、ソース電極36やドレイン電極37から各GNR層14、24に注入される。そのため、不純物から発生するキャリアの活性化率が低温において低下するという問題が発生せず、低温においても各GNR層14、24におけるキャリア濃度を維持することが可能となる。
【0140】
図26は、本実施形態とは異なり、シリコン基板に形成されたMOSFETを備えた半導体装置81で量子回路素子72を制御する場合の模式図である。そのMOSFETにおいては、シリコン基板に注入されたp型不純物やn型不純物からキャリアが生成する。そのため、低温においてキャリアの活性化率が低下してしまい、MOSFETにおけるキャリア濃度が低下してしまう。これを避けるため、
図26の例では希釈冷凍機71の外部に半導体装置81を置き、半導体装置81を室温に維持する。そして、半導体装置81と量子回路素子72とをケーブル82で接続する。
【0141】
この場合は、ケーブル82を介して希釈冷凍機71の外部から内部に熱が流入し、希釈冷凍機71で量子回路素子72を冷却するのが困難となってしまう。
【0142】
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) 複数の第1のグラフェンナノリボンを備えた第1のグラフェンナノリボン層と、前記第1のグラフェンナノリボンよりもバンドギャップが狭い第2のグラフェンナノリボンを複数備えた第2のグラフェンナノリボン層とが積層されたチャネル層と、
前記チャネル層に接続されたソース電極と、
前記チャネル層に接続されたドレイン電極と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記チャネル層に対向する位置に設けられたゲート電極とを有し、
前記ソース電極と前記ドレイン電極のうちの少なくとも一方が、前記第2のグラフェンナノリボン層に接続されたことを特徴とする半導体装置。
(付記2) 前記第1のグラフェンナノリボンは、第1の面に含まれる炭素原子の六員環を有し、
前記第2のグラフェンナノリボンは、前記第1の面に平行な第2の面に含まれる炭素原子の六員環を有することを特徴とする付記1に記載の半導体装置。
(付記3) 第1の触媒金属層の上に、複数の第1のグラフェンナノリボンを備えた第1のグラフェンナノリボン層を形成する工程と、
第2の触媒金属層の上に、前記第1のグラフェンナノリボンよりもバンドギャップが小さい第2のグラフェンナノリボンを複数備えた第2のグラフェンナノリボン層を形成する工程と、
前記第1のグラフェンナノリボン層と前記第2のグラフェンナノリボン層とを積層することによりチャネル層を形成する工程と、
前記チャネル層の上にソース電極とドレイン電極とを形成することにより、前記ソース電極と前記ドレイン電極の少なくとも一方を前記第2のグラフェンナノリボン層に接続する工程と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記チャネル層に対向する位置にゲート電極を形成する工程と、
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
(付記4) 前記チャネル層を形成する工程は、
前記第2のグラフェンナノリボン層を水に浮かべる工程と、
前記第1のグラフェンナノリボン層で前記第2のグラフェンナノリボン層を前記水からすくい上げることにより、前記第1のグラフェンナノリボン層と前記第2のグラフェンナノリボン層とを積層する工程とを有することを特徴とする付記3に記載の半導体装置の製造方法。
(付記5) 前記第2のグラフェンナノリボン層の上に支持層を形成する工程を更に有し、
前記第2のグラフェンナノリボン層を前記水に浮かべる工程は、前記第2のグラフェンナノリボン層を下にして前記支持層を前記水に浮かべることにより行われることを特徴とする付記4に記載の半導体装置の製造方法。
(付記6) 基板に前記第1のグラフェンナノリボン層を貼付する工程を更に有し、
前記第1のグラフェンナノリボン層と前記第2のグラフェンナノリボン層とを積層する工程は、前記基板と前記第1のグラフェンナノリボン層とを前記水に浸漬し、前記水から前記基板を引き上げて前記第1のグラフェンナノリボン層で前記第2のグラフェンナノリボン層を前記水からすくい上げることにより行われることを特徴とする付記4に記載の半導体装置の製造方法。
(付記7) 量子ビットを備えた量子回路素子と、
前記量子ビットを制御する半導体装置とを有し、
前記半導体装置は、
複数の第1のグラフェンナノリボンを備えた第1のグラフェンナノリボン層と、前記第1のグラフェンナノリボンよりもバンドギャップが狭い第2のグラフェンナノリボンを複数備えた第2のグラフェンナノリボン層とが積層されたチャネル層と、
前記チャネル層に接続されたソース電極と、
前記チャネル層に接続されたドレイン電極と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記チャネル層に対向する位置に設けられたゲート電極とを有し、
前記ソース電極と前記ドレイン電極のうちの少なくとも一方が、前記第2のグラフェンナノリボン層に接続されたことを特徴とする情報処理装置。
【符号の説明】
【0143】
5…トランジスタ、6…GNR層、7…ソース電極、8…ドレイン電極、9…π軌道、10…第1の支持基板、11…第1の触媒金属層、11a…表面、12…第1の分子層、13…第1のGNR、13p…π軌道、14…第1のGNR層、20…第2の支持基板、21…第2の触媒金属層、21a…表面、22…第2の分子層、23…第2のGNR、23p…π軌道、24…第2のGNR層、25…支持層、30…容器、31…水、33…チャネル層、35…基板、35a…シリコン基板、35b…酸化シリコン層、35c…表面、36…ソース電極、37…ドレイン電極、38…ゲート絶縁層、39…ゲート電極、40…半導体装置、43…金属原子、51…第3の支持基板、53…支持層、60…半導体装置、70…情報処理装置、71…希釈冷凍機、72…量子回路素子、81…半導体装置、82…ケーブル。