(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】水圧管路更新方法
(51)【国際特許分類】
E02B 9/06 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
E02B9/06 B
E02B9/06 Z
(21)【出願番号】P 2020206911
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000178011
【氏名又は名称】山九株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】池辺 晃
(72)【発明者】
【氏名】浜田 実
(72)【発明者】
【氏名】落合 康雄
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-192983(JP,A)
【文献】特開平08-199546(JP,A)
【文献】特公昭49-007246(JP,B1)
【文献】特開昭62-200084(JP,A)
【文献】特開昭55-094081(JP,A)
【文献】特開2000-320725(JP,A)
【文献】特開2008-045728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水力発電所の水圧管路から既設鉄管を除去して新規鉄管を設置する水圧管路更新方法であって、
前記水圧管路の長手方向の途中で、地上に露出している前記既設鉄管の一部から少なくとも該既設鉄管の上半分が除去されて開口部が形成され、該開口部より下流側及び上流側の前記既設鉄管は、該既設鉄管の円周方向及び軸方向に分割されて、前記開口部まで搬送されて除去されることを特徴とする水圧管路更新方法。
【請求項2】
請求項1記載の水圧管路更新方法において、前記既設鉄管は、該既設鉄管の円周方向に分割される際に、天井部、両側面部及び底部の4つの部分に分割され、分割された前記天井部及び前記両側面部は前記底部の内周面上を該内周面に沿って搬送されることを特徴とする水圧管路更新方法。
【請求項3】
請求項2記載の水圧管路更新方法において、前記開口部より下流側の前記既設鉄管は、分割された前記天井部及び前記両側面部が除去された後、前記底部が下流側から上流側に向かって順次軸方向に分割されて、残存する上流側の前記底部の内周面上を該内周面に沿って前記開口部まで搬送されて除去され、前記開口部より上流側の前記既設鉄管は、分割された前記天井部及び前記両側面部が除去された後、前記底部が上流側から下流側に向かって順次軸方向に分割されて、残存する下流側の前記底部の内周面上を該内周面に沿って前記開口部まで搬送されて除去されることを特徴とする水圧管路更新方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1記載の水圧管路更新方法において、前記開口部は、前記水圧管路の長手方向の途中で、前記既設鉄管の外周をコンクリートで覆って該既設鉄管を固定する既設の中間固定台の下流側及び上流側にそれぞれ形成された下流側開口部位及び上流側開口部位を有し、前記開口部より下流側の前記既設鉄管は、分割されて前記下流側開口部位から取り出され、前記開口部より上流側の前記既設鉄管は、分割されて前記上流側開口部位から取り出されることを特徴とする水圧管路更新方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1記載の水圧管路更新方法において、前記新規鉄管は、前記既設鉄管が除去された後、前記開口部が形成されていた場所から輪切り状態で搬入され、該開口部より下流側及び上流側に順次搬送されて、隣り合う他の前記新規鉄管と連結されることを特徴とする水圧管路更新方法。
【請求項6】
請求項5記載の水圧管路更新方法において、前記水圧管路の長手方向に沿って仮設される複数の支持台により、前記新規鉄管の搬送を案内することを特徴とする水圧管路更新方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1記載の水圧管路更新方法において、前記新規鉄管のうち、前記水圧管路の下流側で湾曲して既設の下流側固定台に固定される部分は、円周方向に3分割され、底部壁と、該底部壁の幅方向両側に回動可能に連結された左右の回動壁とを有し、該各回動壁が前記底部壁側に折り畳まれた状態で前記開口部から下流側の設置位置まで搬送されて円管状に組立てられることを特徴とする水圧管路更新方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1記載の水圧管路更新方法において、前記既設鉄管及び前記新規鉄管の搬送、前記既設鉄管の搬出及び前記新規鉄管の搬入には、共通する1台のクレーンが使用されることを特徴とする水圧管路更新方法。
【請求項9】
請求項8記載の水圧管路更新方法において、前記既設鉄管及び前記新規鉄管の搬送に、前記クレーンとチェーンブロックが併用されることを特徴とする水圧管路更新方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1記載の水圧管路更新方法において、前記既設鉄管のうち、トンネル内に設置されている部分は、該トンネルの天井内面に取り付けられるトンネル用チェーンブロックで吊下げられて分割が行われることを特徴とする水圧管路更新方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1記載の水圧管路更新方法において、前記既設鉄管のうち、地上に露出して設置されている部分は、該既設鉄管の外周を囲うように設置される門型フレームに取り付けられた地上用チェーンブロックで吊下げられて分割が行われることを特徴とする水圧管路更新方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力発電所における水圧管路の既設鉄管を新規鉄管に更新するための水圧管路更新方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電所における水圧管路が老朽化した際には、既設鉄管の撤去及び新規鉄管の搬入、組立が行われる。これらの作業は、ケーブルクレーン等の大規模な揚重設備を設置したり、水圧管路に沿って複数の作業用構台を仮設したりして行うことができるが、いずれも多くの資機材と日数を必要とし、費用が増大するという問題がある。
一方、特許文献1には、既設配管(鉄管)の上半分を下流側から上流側に向かって順次、所定長さで円周方向(例えば四分円)に分断し、既設配管(下半分)の内面をシューターとして利用して、分断した上半分の各ブロックを下流側に繰り返し運搬した後、既設配管の下半分を上流側から下流側に向かって順次、所定長さで円周方向(例えば四分円)に分断し、残存する下流側の既設配管(下半分)の内面をシューターとして利用して、分断した下半分の各ブロックを下流側に繰り返し運搬する既設配管の撤去方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、分断したブロックの滑落防止のための引っ張り手段として、ワイヤーロープ等の索条が記載され、索条の反対側が、巻取機により繰り出されることが記載されているだけで、ブロックを引っ張るために必要な機構及びその他の資機材については具体的に特定されていない。例えば、巻取機としてウインチを使う場合、ウインチそのものが大型の機材であり、現場への搬入及び設置作業が煩雑になるという課題がある。また、引っ張り手段として使用されるワイヤーロープは、折れ曲がり難く、接続や切り離しの作業が煩雑となり、重量もあるので取り扱いが難しいという課題がある。さらに、既設鉄管については、分離、溶断等の手段によりブロック化することが記載されているが、実施するには、切断されるブロックを支えるために、クレーン及びそれを据えるための仮設構台が必要になると考えられる。よって、既設鉄管に沿って幾つかの仮設構台を設置する必要があるが、既設鉄管は地上に露出している部分のみならず、トンネル内に敷設されている部分もあり、作業現場が山の中となるため、現場への資機材の搬入量はなるべく減らすことが好ましい。また、作業(設置)スペースの問題から、大型重機が現場に入ることは難しく、一つ一つの資機材の重量も軽量であることが望ましい。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、作業現場への資機材の搬入量を少なくすると共に、準備作業を削減し、特別な作業を不要にして作業の効率化を図り、大幅な工期短縮とコスト削減を可能とする水圧管路更新方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う本発明に係る水圧管路更新方法は、水力発電所の水圧管路から既設鉄管を除去して新規鉄管を設置する水圧管路更新方法であって、
前記水圧管路の長手方向の途中で、地上に露出している前記既設鉄管の一部から少なくとも該既設鉄管の上半分が除去されて開口部が形成され、該開口部より下流側及び上流側の前記既設鉄管は、該既設鉄管の円周方向及び軸方向に分割されて、前記開口部まで搬送されて除去される。
【0006】
本発明に係る水圧管路更新方法において、前記既設鉄管は、該既設鉄管の円周方向に分割される際に、天井部、両側面部及び底部の4つの部分に分割され、分割された前記天井部及び前記両側面部は前記底部の内周面上を該内周面に沿って搬送されることが好ましい。
【0007】
本発明に係る水圧管路更新方法において、前記開口部より下流側の前記既設鉄管は、分割された前記天井部及び前記両側面部が除去された後、前記底部が下流側から上流側に向かって順次軸方向に分割されて、残存する上流側の前記底部の内周面上を該内周面に沿って前記開口部まで搬送されて除去され、前記開口部より上流側の前記既設鉄管は、分割された前記天井部及び前記両側面部が除去された後、前記底部が上流側から下流側に向かって順次軸方向に分割されて、残存する下流側の前記底部の内周面上を該内周面に沿って前記開口部まで搬送されて除去されることが好ましい。
【0008】
本発明に係る水圧管路更新方法において、前記開口部は、前記水圧管路の長手方向の途中で、前記既設鉄管の外周をコンクリートで覆って該既設鉄管を固定する既設の中間固定台の下流側及び上流側にそれぞれ形成された下流側開口部位及び上流側開口部位を有し、前記開口部より下流側の前記既設鉄管は、分割されて前記下流側開口部位から取り出され、前記開口部より上流側の前記既設鉄管は、分割されて前記上流側開口部位から取り出されてもよい。
【0009】
本発明に係る水圧管路更新方法において、前記新規鉄管は、前記既設鉄管が除去された後、前記開口部が形成されていた場所から輪切り状態で搬入され、該開口部より下流側及び上流側に順次搬送されて、隣り合う他の前記新規鉄管と連結されることが好ましい。
【0010】
本発明に係る水圧管路更新方法において、前記水圧管路の長手方向に沿って仮設される複数の支持台により、前記新規鉄管の搬送を案内することができる。
【0011】
本発明に係る水圧管路更新方法において、前記新規鉄管のうち、前記水圧管路の下流側で湾曲して既設の下流側固定台に固定される部分は、円周方向に3分割され、底部壁と、該底部壁の幅方向両側に回動可能に連結された左右の回動壁とを有し、該各回動壁が前記底部壁側に折り畳まれた状態で前記開口部から下流側の設置位置まで搬送されて円管状に組立てられることが好ましい。
【0012】
本発明に係る水圧管路更新方法において、前記既設鉄管及び前記新規鉄管の搬送、前記既設鉄管の搬出及び前記新規鉄管の搬入には、共通する1台のクレーンが使用されることが好ましい。
【0013】
本発明に係る水圧管路更新方法において、前記既設鉄管及び前記新規鉄管の搬送に、前記クレーンとチェーンブロックが併用されてもよい。
【0014】
本発明に係る水圧管路更新方法において、前記既設鉄管のうち、トンネル内に設置されている部分は、該トンネルの天井内面に取り付けられるトンネル用チェーンブロックで吊下げられて分割が行われることが好ましい。
【0015】
本発明に係る水圧管路更新方法において、前記既設鉄管のうち、地上に露出して設置されている部分は、該既設鉄管の外周を囲うように設置される門型フレームに取り付けられた地上用チェーンブロックで吊下げられて分割が行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る水圧管路更新方法は、水圧管路の長手方向の途中で、地上に露出している既設鉄管の一部から少なくとも既設鉄管の上半分が除去されて開口部が形成され、開口部より下流側及び上流側の既設鉄管が、既設鉄管の円周方向及び軸方向に分割されて、開口部まで搬送されて除去されるので、水圧管路の全長が長い場合や水圧管路が途中で湾曲している場合でも、既設鉄管の除去作業及び新規鉄管の設置作業を短時間で効率的に行うことができる。
【0017】
本発明に係る水圧管路更新方法において、既設鉄管が、既設鉄管の円周方向に分割される際に、天井部、両側面部及び底部の4つの部分に分割され、分割された天井部及び両側面部が底部の内周面上を該内周面に沿って搬送される場合、底部を有効利用して、分割された天井部及び両側面部の搬送作業を効率的に行うことができ、別途、シュートや搬送台車等を使用する必要がなく、作業現場への資機材の搬入量を削減することができる。
【0018】
本発明に係る水圧管路更新方法において、開口部より下流側の既設鉄管は、分割された天井部及び両側面部が除去された後、底部が下流側から上流側に向かって順次軸方向に分割されて、残存する上流側の底部の内周面上を該内周面に沿って開口部まで搬送されて除去され、開口部より上流側の既設鉄管は、分割された天井部及び両側面部が除去された後、前記底部が上流側から下流側に向かって順次軸方向に分割されて、残存する下流側の底部の内周面上を該内周面に沿って開口部まで搬送されて除去される場合、残存する底部を有効利用して、分割された底部を効率的に搬送することができ、施工性及び省力性に優れる。
【0019】
本発明に係る水圧管路更新方法において、開口部が、水圧管路の長手方向の途中で、既設鉄管の外周をコンクリートで覆って既設鉄管を固定する既設の中間固定台の下流側及び上流側にそれぞれ形成された下流側開口部位及び上流側開口部位を有し、開口部より下流側の既設鉄管が、分割されて下流側開口部位から取り出され、開口部より上流側の既設鉄管が、分割されて上流側開口部位から取り出される場合、一部の既設鉄管の外周がコンクリートで覆われて中間固定台で固定されていても、既設鉄管の除去作業を確実かつ効率的に行うことができる。
【0020】
本発明に係る水圧管路更新方法において、新規鉄管が、既設鉄管が除去された後、開口部が形成されていた場所から輪切り状態で搬入され、開口部より下流側及び上流側に順次搬送されて、隣り合う他の新規鉄管と連結される場合、新規鉄管の設置作業を短時間で効率的に行うことができる。
【0021】
本発明に係る水圧管路更新方法において、水圧管路の長手方向に沿って仮設される複数の支持台により、新規鉄管の搬送を案内する場合、新規鉄管の搬送作業を効率的に行うことができ、省力性に優れる。
【0022】
本発明に係る水圧管路更新方法において、新規鉄管のうち、水圧管路の下流側で湾曲して既設の下流側固定台に固定される部分が、円周方向に3分割され、底部壁と、底部壁の幅方向両側に回動可能に連結された左右の回動壁とを有し、各回動壁が底部壁側に折り畳まれた状態で開口部から下流側の設置位置まで搬送されて円管状に組立てられる場合、管路が湾曲していても、新規鉄管を確実に設置位置まで搬送して効率的に設置作業を行うことができる。
【0023】
本発明に係る水圧管路更新方法において、既設鉄管及び新規鉄管の搬送、既設鉄管の搬出及び新規鉄管の搬入に、共通する1台のクレーンが使用される場合、山中の現場でも設置スペース及び作業スペースを確保して、作業の効率化を図り、大幅な工期短縮とコスト削減を実現することができる。
【0024】
本発明に係る水圧管路更新方法において、既設鉄管及び新規鉄管の搬送に、クレーンとチェーンブロックが併用される場合、現場への搬入及び操作が容易なチェーンブロックで作業性を大幅に向上させることができる。
【0025】
本発明に係る水圧管路更新方法において、既設鉄管のうち、トンネル内に設置されている部分が、トンネルの天井内面に取り付けられるトンネル用チェーンブロックで吊下げられて分割が行われる場合、トンネル内での既設鉄管の分割作業を安全かつ効率的に行うことができる。
【0026】
本発明に係る水圧管路更新方法において、既設鉄管のうち、地上に露出して設置されている部分が、既設鉄管の外周を囲うように設置される門型フレームに取り付けられた地上用チェーンブロックで吊下げられて分割が行われる場合、地上での既設鉄管の分割作業を安全かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る水圧管路更新方法が適用される水力発電所の水圧管路を示す部分断面側面図である。
【
図2】同水圧管路更新方法において開口部を形成する工程を示す要部端面図である。
【
図3】同水圧管路更新方法において形成された開口部を示す部分断面側面図である。
【
図4】同水圧管路更新方法において開口部より下流側の既設鉄管の天井部を除去する工程を示す部分断面側面図である。
【
図5】同水圧管路更新方法において開口部より下流側の既設鉄管の天井部を除去する工程を示す要部端面図である。
【
図6】同水圧管路更新方法に用いられる搬送用のチェーンブロックを示す要部側断面図である。
【
図7】同水圧管路更新方法において開口部より下流側の既設鉄管の側面部を除去する工程を示す部分断面側面図である。
【
図8】同水圧管路更新方法において開口部より下流側の既設鉄管の側面部を除去する工程を示す要部端面図である。
【
図9】同水圧管路更新方法において下流側固定台の内部に円筒状の新規鉄管を設置する工程を示す部分断面側面図である。
【
図10】同水圧管路更新方法において下流側固定台の内部に折り畳み式の新規鉄管を設置する工程を示す要部端面図である。
【
図11】同水圧管路更新方法において開口部より下流側の既設鉄管の底部を除去する工程を示す要部端面図である。
【
図12】同水圧管路更新方法において開口部より下流側に新規鉄管を設置する工程を示す部分断面側面図である。
【
図13】同水圧管路更新方法において開口部より上流側の既設鉄管の天井部を除去する工程を示す部分断面側面図である。
【
図14】同水圧管路更新方法において開口部より上流側の既設鉄管の天井部を除去する工程を示す要部端面図である。
【
図15】同水圧管路更新方法において開口部より上流側の既設鉄管の側面部を除去する工程を示す部分断面側面図である。
【
図16】同水圧管路更新方法において開口部より上流側の既設鉄管の側面部を除去する工程を示す要部端面図である。
【
図17】同水圧管路更新方法において開口部より上流側の既設鉄管の底部を除去する工程を示す部分断面側面図である。
【
図18】同水圧管路更新方法において中間固定台の内部の既設鉄管を除去する工程を示す部分断面側面図である。
【
図19】同水圧管路更新方法において新規鉄管の設置が完了した状態を示す部分断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る水圧管路更新方法は、
図1に示す水力発電所10における水圧管路11の既設鉄管12を新規鉄管に更新する際に用いられるものである。
図1に示すように、水圧管路11は、上流側の水槽(調整池)13と下流側の水車(図示せず)との間を接続し、水槽13に蓄えられた水を水車に供給するものである。既設鉄管12の一部はトンネル14内に敷設されている。そして、水圧管路11(既設鉄管12)の上流端側、長手方向の途中及び下流端側には、それぞれ既設鉄管12の外周をコンクリートで覆って既設鉄管12を固定する既設の上流側固定台16、中間固定台17及び下流側固定台18が設けられている。また、既設鉄管12の長手方向の要所は、複数の小支台20により摺動可能に支持されている。
【0029】
まず、既設鉄管12を除去するために、水圧管路11の長手方向の途中で地上に露出している既設鉄管12の一部から少なくとも既設鉄管12の上半分(ここでは、上側の2/3周分であって、
図1、
図2のハッチング部)が除去されて、
図3に示すような開口部21が形成される。このとき、
図1、
図3に示すように、水圧管路11の長手方向の途中が、中間固定台17で固定されているので、中間固定台17の下流側及び上流側にそれぞれ下流側開口部位21a及び上流側開口部位21bが形成される。これにより、開口部21より下流側及び上流側の既設鉄管12a、12b(下流側固定台18及び上流側固定台16で固定されている部分を除く)は、それぞれの円周方向及び軸方向に分割され、下流側開口部位21a及び上流側開口部位21bまで搬送されて下流側開口部位21a及び上流側開口部位21bから取り出される。
なお、開口部21(下流側開口部位21a及び上流側開口部位21b)を形成する際に既設鉄管12から除去される部分は、
図1に示すように、予めクレーン22のブーム23の先端に昇降可能に取り付けられたフック24で吊下げられることにより、分割時に落下することがなく、分割後にクレーン22で吊り上げられて除去される。このとき、開口部21の近傍であるトンネル14の上部を整地してクレーン22を設置することにより、既設鉄管12の搬出及び新規配管の搬入作業を効率的に行うことができる。クレーンとしては小型移動式クレーン(例えば25tラフタークレーン)が好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、作業現場への搬入及び設置が可能な範囲で大型化してもよい。
【0030】
本実施の形態で、開口部21を形成するために除去される範囲は、
図2に示すように、既設鉄管12の全周のうち、小支台20で支持されている下側の1/3の領域に相当する部分を除く、上側の2/3の部分であって、開口部21(下流側開口部位21a及び上流側開口部位21b)を形成することにより、後に開口部21より下流側及び上流側で円周方向及び軸方向に分割される既設鉄管12a、12bがスムーズに搬出されるようにした。なお、開口部(下流側開口部位及び上流側開口部位)の形状及び大きさは、分割された既設鉄管が搬出可能な範囲で適宜、選択することができるが、少なくとも既設鉄管12の上半分が除去されることが好ましい。
【0031】
次に、
図4、
図5に示すように、開口部21より下流側の既設鉄管12a(ここでは、トンネル14内に設置されている)の天井部26(
図4、
図5のハッチング部)を分割する。このとき、天井部26は、予めトンネル14の天井内面27に取り付けたトンネル用チェーンブロック28で吊下げられた状態で分割され、分割後に既設鉄管12aの底部29に載置される。また、天井部26の下側の幅方向両側には、支持部材30を介してスライドシュー31が取り付けられ、上面側の幅方向中央部には、
図6に示す搬送用のチェーンブロック33を連結するための連結具34が取り付けられている。これにより、分割された天井部26は底部29の内周面上を内周面に沿って開口部21までスムーズに搬送され、下流側開口部位21aから取り出される。天井部26の分割及び搬出は上流側から下流側に向かって順次行われ、分割時の軸方向長さは適宜、選択することができる。例えば、最初から下流側開口部位21aから取り出すことが可能な長さ毎に天井部26を分割して順次、上流側に搬送してもよいし、下流側開口部位21aの軸方向長さよりも長目(例えば、下流側開口部位21aの軸方向長さの2~3倍)に分割した天井部26を上流側に搬送し、下流側開口部位21aの下方で、下流側開口部位21aの軸方向長さと同程度の長さに分割を繰り返してもよい。よって、トンネル用チェーンブロック28及びスライドシュー31の数と配置は、天井部の分割時の軸方向長さに応じて、適宜、選択することができるが、少なくとも軸方向の2箇所(前後)に左右2つずつ計4つ設置することが好ましい。なお、チェーンブロック33は、中間固定台17の周壁部を利用して取り付けることができる。
【0032】
以上のようにして既設鉄管12aの天井部26を全て除去した後、
図7、
図8に示すように、両側面部35a、35b(
図7、
図8のハッチング部)を分割する。まず、一方の側面部35aが、トンネル用チェーンブロック28で吊下げられた状態で分割され、分割後に既設鉄管12aの底部29に載置される。このとき、側面部35aの外周側の幅方向両側には、スライドシュー36が取り付けられ、内周側の幅方向中央部には、天井部26と同様に、連結具34が取り付けられている。これにより、分割された側面部35aは底部29の内周面上を内周面に沿って開口部21までスムーズに搬送され、下流側開口部位21aから取り出される。ここで、側面部35aの軸方向の分割及び搬送の手順については、前述の天井部26と同様なので説明を省略する。また、他方の側面部35bの分割及び搬送の手順は、側面部35aと同様なので説明を省略する。なお、一方の側面部35aと他方の側面部35bを軸方向に所定の長さずつ交互に分割して除去することが好ましいが、一方の側面部35aを全て除去してから、他方の側面部35bの除去を行うこともできる。
このように、円周方向に分割される既設鉄管12の底部29を利用して天井部26及び両側面部35a、35bを搬送することにより、別途、搬送台車等を使用する必要がなくなり、作業現場への資機材の搬入量を削減することができる。
【0033】
次に、既設鉄管12のうち、下流側固定台18で固定されている部分(
図7の網掛部)を撤去する。この部分は湾曲しており、下流端側に向かって縮径しているので、下流側固定台18の内部で周囲のコンクリートと共に解体され、バケツ等で回収されて下流端から搬出される。このとき、水車及び発電機は一時的に撤去されている。
次に、
図9に示すように、下流側固定台18の内部に設置される新規鉄管が、クレーン22によって開口部21(下流側開口部位21a)から搬入される。このとき、下流側固定台18の内部(空洞部)は湾曲しており、下流端側が部分的に縮径しているので、設置場所に応じて、円筒状の新規鉄管38と、
図10に示す折り畳み式の新規鉄管39を使い分ける。
新規鉄管39は、
図10に示すように、円周方向に3分割され、底部壁40と、底部壁40の幅方向両側に回動可能に連結された左右の回動壁41とを有しており、各回動壁41を底部壁40側に折り畳むことにより、背を低くすることができるので、円筒状の新規鉄管38が通過できない場所を通過することができる。よって、新規鉄管39は、各回動壁41が底部壁40側に折り畳まれた状態で、下流側の設置位置まで搬送されて円管状に組立てられる。
新規鉄管38、39は、いずれも既設鉄管12aの底部29を利用して下流側固定台18まで搬送され、搬送には、前述の搬送用のチェーンブロック33が用いられる。なお、新規鉄管39は、搬送台車42に載置することにより、スムーズに搬送することができる。本実施の形態では、チェーンブロック33を連結するための連結具34を底部壁40の上面側の幅方向中央部に取り付けたが、搬送台車に取り付けてもよい。
【0034】
次に、既設鉄管12aの底部29(
図9のハッチング部)を除去する。底部29は、下流側から上流側に向かって順次軸方向に分割されて、
図11に示すように、残存する上流側の底部29の内周面上を内周面に沿って開口部21まで搬送されて除去される。このとき、底部29も、前述の天井部26及び両側面部35a、35bと同様に、トンネル用チェーンブロック28で吊下げられた状態で分割される。そして、底部29の内周(上面)側の幅方向中央部に、前述の連結具34が取り付けられているので、搬送用のチェーンブロック33を連結して上流側に引っ張ることにより、分割された底部29を上流側の底部29に載置して搬送することができる。
以上のようにして底部29が全て除去され、既設鉄管12aの除去が完了する。
【0035】
次に、
図12に示すように、新規鉄管44が、開口部21(下流側開口部位21a)が形成されていた場所から輪切り状態で搬入されて、開口部21より下流側に順次搬送され、隣り合う他の新規鉄管44と連結されて設置される。なお、クレーン22で搬入される新規鉄管44は、1つずつチェーンブロック33で下流側に搬送されて、先に設置された他の新規鉄管44と連結されてもよいし、トンネル14の入口(上流端)付近で他の新規鉄管44と連結された後、まとめて下流側に搬送されて、先に設置された他の新規鉄管44とさらに連結されてもよい。このとき、新規鉄管44の搬入位置で小支台20が設置されていない場所に、水圧管路11の長手方向に沿って支持台45を仮設することにより、新規鉄管44を確実に支持して案内し、搬送作業をスムーズに行うことができる。なお、小支台20の上流端側の周縁に、小支台20の内周面(円周方向)に沿って2~3個のスライドシューを取り付け、新規鉄管44の底面側の外周面にスライドレールを取り付けることにより、新規鉄管44を小支台20の軸方向に沿ってスムーズに移動させることができる。
【0036】
次に、開口部21(上流側開口部位21b)より上流側の既設鉄管12bの除去を行う。まず、天井部46(
図13、
図14のハッチング部)を除去するが、既設鉄管12aの天井部26を除去した場合とは異なり、天井部46の分割及び搬出は、下流側から上流側に向かって順次行われる。また、既設鉄管12bは、地上に露出して設置されているので、トンネル用チェーンブロック28(
図5参照)の代わりに、
図14に示すように、既設鉄管12bの外周を囲うように設置される門型フレーム47に取り付けられた地上用チェーンブロック48で吊下げられた状態で分割され、分割後に既設鉄管12bの底部49に載置される。そして、天井部26の場合と同様の支持部材30、スライドシュー31及び連結具34を用いることにより、底部49の内周面上を内周面に沿って開口部21までスムーズに搬送され、上流側開口部位21bから取り出される。なお、
図13に示すように、既設鉄管12bの搬送用のチェーンブロック50は、上流側固定台16の入口(上流)側(例えば水槽13内の適切な位置)に取り付けられ、連結具34までの経路の途中に適宜、設置されるチェーン滑車51により方向転換及びルート選択を行うことができる。
【0037】
以上のようにして既設鉄管12bの天井部46を全て除去した後、
図15、
図16に示すように、両側面部53a、53b(
図15、
図16のハッチング部)を除去するが、既設鉄管12aの両側面部35a、35bを除去した場合とは異なり、両側面部53a、53bの分割及び搬出は、下流側から上流側に向かって順次行われる。なお、両側面部53a、53bを分割する際に、トンネル用チェーンブロック28(
図8参照)の代わりに、地上用チェーンブロック48を使用し、両側面部53a、53bを搬送する際に、チェーンブロック50を使用する以外は、既設鉄管12aの両側面部35a、35bを分割、搬送する場合と同様の手順で行われるので、説明を省略する。
次に、
図17に示すように、既設鉄管12のうち、上流側固定台16で固定されている部分(
図17の網掛部)を撤去する。この部分は、上流側固定台16の内部で周囲のコンクリートと共に解体されてバケツ等で回収され、搬送用のチェーンブロック50を利用して開口部21(上流側開口部位21b)が形成されていた場所まで搬送される。
次に、既設鉄管12bの底部49(
図17のハッチング部)を除去する。底部49は、上流側から下流側に向かって順次軸方向に分割されて、残存する下流側の底部49の内周面上を内周面に沿って開口部21まで搬送されて除去される。底部49を分割する際に、
図14、
図16に示した地上用チェーンブロック48を使用し、底部49を搬送する際に、チェーンブロック50を使用する以外は、既設鉄管12aの底部29を分割、搬送する場合と同様の手順で行われるので、説明を省略する。
【0038】
以上のようにして既設鉄管12bの底部49を全て除去した後、
図18に示すように、既設鉄管12のうち、中間固定台17で固定されている部分(
図18の網掛部)を撤去する。この部分は、中間固定台17の内部で周囲のコンクリートと共に解体されてバケツ等で回収され、開口部21(下流側開口部位21a)が形成されていた場所からクレーン22で搬出される。
次に、
図19に示すように、上流側固定台16の出口(下流側)から、先に設置した最上流の新規鉄管44の入口(上流端)までの間に、新規鉄管55~60を設置する。ここで、新規鉄管55~58は、開口部21(下流側開口部位21a又は上流側開口部位21b)が形成されていた場所から輪切り状態で搬入され、順次、上流側に搬送されて、隣り合う他の新規鉄管56~58と連結される。このとき、水圧管路11の長手方向に沿って、小支台20が設置されていない場所に仮設される複数の支持台45により、新規鉄管56~58の搬送を案内することができ、新規鉄管56~58を所定の位置に配置することができる。なお、ストレート形状の新規鉄管55の他に、側面視して台形状に形成され、上流側固定台16の湾曲部に設置される新規鉄管56、テーパ状に形成された新規鉄管57、軸方向に伸縮可能に形成された新規鉄管58を適宜、組み合わせて、所定の位置に設置する。そして、最後に、下流側開口部位21aが形成されていた場所に短尺の新規鉄管59と軸方向に伸縮可能な新規鉄管60を搬入し、前後(上流側及び下流側)の新規鉄管57、44との隙間を調整して、それぞれ連結することにより、更新作業が完了する。なお、ストレート形状の新規鉄管55の軸方向長さは全てが同一である必要はなく、長さの異なるものを組み合わせてもよい。また、その他の新規鉄管57~60の数及び配置も適宜、選択することができる。
【0039】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、既設鉄管の除去及び新規鉄管の設置の手順は、上記実施の形態で説明した通りである必要はなく、一部の順序を入れ替えたり、複数の工程を同時に(並行して)行ったりしてもよい。
また、上記実施の形態では、既設鉄管及び新規鉄管の搬送に、クレーンとチェーンブロックを併用する場合について説明したが、チェーンブロックを使用せず、クレーンのみを使用することも可能である。クレーンのみを使用する場合、一側がクレーンのフックに連結されたチェーンを、要所に方向転換用のチェーン滑車が設置された経路(ルート)に沿って配置し、チェーンの他側を搬送対象となる既設鉄管又は新規鉄管に連結すれば、フックの上下動(昇降)により引き上げや送り出しを行うことができる。
【符号の説明】
【0040】
10:水力発電所、11:水圧管路、12、12a、12b:既設鉄管、13:水槽、14:トンネル、16:上流側固定台、17:中間固定台、18:下流側固定台、20:小支台、21:開口部、21a:下流側開口部位、21b:上流側開口部位、22:クレーン、23:ブーム、24:フック、26:天井部、27:天井内面、28:トンネル用チェーンブロック、29:底部、30:支持部材、31:スライドシュー、33:チェーンブロック、34:連結具、35a、35b:側面部、36:スライドシュー、38、39:新規鉄管、40:底部壁、41:回動壁、42:搬送台車、44:新規鉄管、45:支持台、46:天井部、47:門型フレーム、48:地上用チェーンブロック、49:底部、50:チェーンブロック、51:チェーン滑車、53a、53b:側面部、55~60:新規鉄管