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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】圧縮機及び空気調和機
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/02 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
F04C29/02 351B
F04C29/02 361A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021015189
(22)【出願日】2021-02-02
(62)【分割の表示】P 2020193161の分割
【原出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021067269
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/014882
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】野崎 務
(72)【発明者】
【氏名】松永 和行
(72)【発明者】
【氏名】黒野 亮
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-317775(JP,A)
【文献】特開2002-098056(JP,A)
【文献】特開2005-282544(JP,A)
【文献】特開2008-190329(JP,A)
【文献】特開2004-239099(JP,A)
【文献】特開2016-113901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 29/02
F04C 18/02
F04B 39/02-39/04
H02K 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油が封入されている密閉容器と、
前記密閉容器の内部に設置され、固定子及び回転子を有する電動機と、
前記回転子と一体で回転する駆動軸と、
前記駆動軸の回転に伴ってガスを圧縮する圧縮機構部と、
前記圧縮機構部で圧縮されたガスを前記密閉容器の外部に導く吐出パイプと、を備えるとともに、
前記圧縮機構部と前記電動機との間に設けられる筒状の隔壁を備え、
前記固定子には、軸方向において前記固定子の一方側と他方側とを連通させる第1流路が少なくとも一つ設けられ、
前記吐出パイプの上流端は、前記隔壁の径方向内側に位置しており、
前記隔壁は、金属製であり、横断面視において、前記第1流路の径方向内側に設けられ、前記駆動軸の中心軸線の方向において前記電動機から離間しており、
前記吐出パイプが前記隔壁に挿通されている箇所を含む横断面視において、前記第1流路のうち少なくとも一部が、前記隔壁に径方向で重なっており、
筒状の前記隔壁の周壁は、前記固定子の内周面よりも径方向外側に設けられている、圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮機を有する室外機と、室内機とを備える空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機及び空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機等に用いられる圧縮機には、通常、潤滑油が封入されている。この潤滑油が吐出パイプを介して圧縮機から流出すると、圧縮機の摺動部の潤滑不足を招き、また、冷凍サイクルの効率の低下を招く。このような潤滑油の流出を抑制する技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。
【0003】
すなわち、特許文献1には、油戻し通路から流れる潤滑油と、冷媒ガス通路から吐出される圧縮ガスと、を隔離する環状の隔壁部材が設けられたスクロール圧縮機について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-3974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、吐出パイプの上流端が隔壁部材の外側に位置している。その結果、固定スクロールと密閉容器との間の隙間(前記した油戻し通路)を介して下降するミスト状の潤滑油の一部が、吐出パイプを介して流出する可能性がある。したがって、潤滑油の流出をさらに抑制し、圧縮機の信頼性を高めることが望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、信頼性の高い圧縮機等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係る圧縮機は、潤滑油が封入されている密閉容器と、前記密閉容器の内部に設置され、固定子及び回転子を有する電動機と、前記回転子と一体で回転する駆動軸と、前記駆動軸の回転に伴ってガスを圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部で圧縮されたガスを前記密閉容器の外部に導く吐出パイプと、を備えるとともに、前記圧縮機構部と前記電動機との間に設けられる筒状の隔壁を備え、前記固定子には、軸方向において前記固定子の一方側と他方側とを連通させる第1流路が少なくとも一つ設けられ、前記吐出パイプの上流端は、前記隔壁の径方向内側に位置しており、前記隔壁は、金属製であり、横断面視において、前記第1流路の径方向内側に設けられ、前記駆動軸の中心軸線の方向において前記電動機から離間しており、前記吐出パイプが前記隔壁に挿通されている箇所を含む横断面視において、前記第1流路のうち少なくとも一部が、前記隔壁に径方向で重なっており、筒状の前記隔壁の周壁は、前記固定子の内周面よりも径方向外側に設けられていることとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性の高い圧縮機等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る圧縮機の縦断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る圧縮機において、図1のX1-X1線における圧縮機の横断面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る圧縮機の密閉容器等を取り除いた状態の斜視図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る圧縮機のクランク軸、電動機、及びバランスウェイトを含む斜視図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る圧縮機が備えるオイルリングの斜視図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る圧縮機において、図1のX2-X2線で圧縮機を切断した場合の横断面図である。
図7】本発明の第1実施形態に係る圧縮機において、圧縮機構部の冷媒流路と、オイルリングの切欠きとの位置関係を示す横断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る空気調和機の冷媒回路の構成図である。
図9A】本発明の第1の変形例に係る圧縮機が備えるオイルリングの斜視図である。
図9B】本発明の第2の変形例に係る圧縮機が備えるオイルリングの斜視図である。
図10】本発明の第3の変形例に係る圧縮機が備えるオイルリングの斜視図である。
図11】本発明の第3の変形例に係る圧縮機の密閉容器等を取り除いた状態の斜視図である。
図12】本発明の第3の変形例に係る圧縮機において、圧縮機構部の冷媒流路と、オイルリングの切欠きとの位置関係を示す横断面図である。
図13】オイルリングを備えない比較例に係る圧縮機において、密閉容器等を取り除いた状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪第1実施形態≫
<圧縮機の構成>
図1は、第1実施形態に係る圧縮機100の縦断面図である。
図1に示す圧縮機100は、ガス状の冷媒を圧縮する機器である。図1に示すように、圧縮機100は、密閉容器1と、圧縮機構部2と、クランク軸3(駆動軸)と、主軸受4と、旋回軸受5と、電動機6と、オルダムリング7と、バランスウェイト8と、を備えている。また、圧縮機100は、前記した構成の他に、サブフレーム9と、副軸受10と、給油ポンプ11と、スラスト軸受12と、脚13と、返油パイプ14(図3参照)と、オイルリング15(隔壁)と、を備えている。
【0011】
密閉容器1は、圧縮機構部2、クランク軸3、電動機6、オイルリング15等を収容する殻状の容器であり、略密閉されている。密閉容器1には、圧縮機100での潤滑性を高めるための潤滑油が封入され、密閉容器1の底部に油溜りRとして貯留されている。密閉容器1は、円筒状の筒チャンバ1aと、この筒チャンバ1aの上部に溶接されている蓋チャンバ1bと、筒チャンバ1aの下部に溶接されている底チャンバ1cと、を備えている。
【0012】
図1に示すように、密閉容器1の蓋チャンバ1bには、吸込パイプPaが差し込まれて固定されている。吸込パイプPaは、圧縮機構部2の吸込室Hに冷媒を導く管である。また、密閉容器1の筒チャンバ1aには、吐出パイプPbが差し込まれて固定されている。吐出パイプPbは、圧縮機構部2で圧縮された冷媒(ガス)を圧縮機100の外部に導く管である。
【0013】
圧縮機構部2は、クランク軸3の回転に伴って冷媒を圧縮する機構である。圧縮機構部2は、固定スクロール21と、旋回スクロール22と、フレーム23と、を備え、密閉容器1内の上部空間に配置されている。
【0014】
固定スクロール21は、密閉容器1内に固定される固定部材である。固定スクロール21は、円板状の台板21aと、この台板21aに立設される渦巻状のラップ21b(図2も参照)と、ラップ21bを囲む筒状の支持部21cと、を備えている。図1に示すように、支持部21cの下面(旋回スクロール22側の面)と、ラップ21bの下端と、は略面一になっている。また、吸込パイプPaを介して冷媒が導かれる吸込室Hは、固定スクロール21の台板21aの周縁付近に設けられている。
【0015】
旋回スクロール22は、その旋回(移動)によって、固定スクロール21との間に圧縮室Cを形成する移動部材である。旋回スクロール22は、円板状の台板22aと、この台板22aに立設される渦巻状のラップ22b(図2も参照)と、クランク軸3の上端部に嵌合されるボス部22cと、を備えている。図1に示すように、ラップ22bが台板22aの上側に延びている一方、ボス部22cが台板22aの下側に延びている。
【0016】
図2は、図1のX1-X1線における圧縮機100の横断面図である。
図2に示すように、固定スクロール21の渦巻状のラップ21bと、旋回スクロール22の渦巻状のラップ22bと、が噛み合うことで、ラップ21b,22bの間に圧縮室Cが形成される。前記した圧縮室Cは、ガス状の冷媒を圧縮する空間であり、旋回スクロール22のラップ22bの外線側・内線側にそれぞれ形成される。また、固定スクロール21の台板21aの中心付近には、圧縮室Cで圧縮された冷媒を密閉容器1内の上部空間に導く吐出口Vが設けられている。
【0017】
図1に示すフレーム23は、旋回スクロール22を支持したり、主軸受4を固定したりするための部材である。フレーム23は、概ね回転対称な形状を呈し、固定スクロール21の下側に締結されている。また、フレーム23は、密閉容器1に固定されている。フレーム23には、クランク軸3が挿通される孔(符号は図示せず)が設けられている。
【0018】
図3は、圧縮機100の密閉容器1等を取り除いた状態の斜視図である。
なお、図3の白抜き矢印は、ミスト状の潤滑油の流れを示している。また、図3におけるクランク軸3の下側の矢印は、クランク軸3が回転する向きを示している(次の図4も同様)。図3の例では、軸方向において圧縮機構部2の上側(一方側)と下側(他方側)とを連通させる2つの冷媒流路M(第2流路)が、圧縮機構部2に設けられている(図2も参照)。
【0019】
前記した冷媒流路Mは、圧縮機構部2の吐出口Vを介して密閉容器1内の上部空間に吐出された冷媒等を、圧縮機構部2の下側に導く流路である。なお、冷媒流路Mを通流するガスには、冷媒の他にミスト状の潤滑油も混在している。このようなガスを「冷媒等」という。
【0020】
図2図3に示す例では、前記した支持部21cの外周壁が径方向内側に凹んでなる溝Maが、冷媒流路Mの一部として機能する。同様に、フレーム23の外周壁が径方向内側に凹んでなる溝Mbが、冷媒流路Mの一部として機能する。これらの溝Ma,Mbは、その周方向の範囲が略一致し、軸方向に順次に並んで設けられている。そして、圧縮機構部2の吐出口Vを介して吐出された冷媒等が、溝Ma,Mbを順次に介して、圧縮機構部2の下側の空間に導かれるようになっている。
【0021】
より詳しく説明すると、固定スクロール21の溝Maと、密閉容器1(図2参照)の内周面と、の間の隙間を冷媒等が通流し、さらに、フレーム23の溝Mbと、密閉容器1(図2参照)の内周面と、の間の隙間を冷媒等が通流する。したがって、密閉容器1において、圧縮機構部2の上側の空間や、フレーム23の下側の空間は、その圧力が冷媒の吐出圧力に略等しい所定の吐出圧力空間になっている。
【0022】
一方、図1に示すように、旋回スクロール22の台板22aの背面側とフレーム23との間の空間は、背圧室Bとして機能する。すなわち、旋回スクロール22を固定スクロール21に押し付けるように、背圧調整弁(図示せず)によって、旋回スクロール22に所定の背圧が作用する。
【0023】
なお、図2に示すように、2つの冷媒流路M(第2流路)が、周方向において、吐出パイプPbとは反対側に偏在していることが好ましい。例えば、吐出パイプPbの差込位置と、クランク軸3の中心軸線Yと、を通り、この中心軸線Yに垂直な直線を、直線L1とする。また、直線L1及びクランク軸3の中心軸線Yの両方に垂直に交わる直線を、直線L2とする。
【0024】
そして、前記した直線L2を基準として、吐出パイプPbとは反対側に2つの冷媒流路Mが設けられる(偏在している)ようにしてもよい。これによって、横断面視で冷媒流路Mから吐出パイプPbまでの周方向の長さが十分に確保される。したがって、冷媒流路Mを下降するミスト状の潤滑油が、吐出パイプPbを介して流出することを抑制できる。
【0025】
再び、図1に戻って説明を続ける。
クランク軸3は、電動機6の回転子6bと一体で回転する軸であり、上下方向に延びている。図1に示すように、クランク軸3は、主軸3aと、この主軸3aの上側に延びる偏心部3bと、を備えている。
【0026】
主軸3aは、電動機6の回転子6bに同軸で固定され、この回転子6bと一体で回転する。偏心部3bは、主軸3aに対して偏心しながら回転する軸であり、前記した旋回スクロール22のボス部22cに嵌合している。そして、偏心部3bが偏心しながら回転することによって、旋回スクロール22が旋回するようになっている。
【0027】
主軸受4は、フレーム23に対して主軸3aの上部を回転自在に軸支するものであり、フレーム23の孔(符号は図示せず)の周壁面に固定されている。
旋回軸受5は、旋回スクロール22のボス部22cに対して偏心部3bを回転自在に軸支するものであり、ボス部22cの内周壁に固定されている。
【0028】
なお、クランク軸3の内部には、潤滑油が通流する通油路3cが設けられている。通油路3cを介して通流する潤滑油は、圧縮機構部2の他、主軸受4や旋回軸受5、副軸受10等に導かれる。
【0029】
電動機6は、クランク軸3を回転させる駆動源であり、密閉容器1の内部に設置されている。図1に示す例では、上下方向においてオイルリング15とサブフレーム9との間に電動機6が配置されている。この電動機6は、固定子6aと、回転子6bと、を備えている。固定子6aは、圧入等によって筒チャンバ1aの内周壁に固定されている。回転子6bは、固定子6aの径方向内側において、回転自在に配置されている。
【0030】
オルダムリング7は、偏心部3bの偏心回転を受けて、旋回スクロール22を自転させることなく旋回させる輪状部材である。オルダムリング7は、旋回スクロール22とフレーム23との間に設けられている。
バランスウェイト8は、圧縮機100の振動を抑制するための部材であり、オイルリング15の径方向内側に設けられている。より詳しく説明すると、バランスウェイト8は、圧縮機構部2の下側であり電動機6の上側の空間(圧縮機構部2と電動機6との間の空間)であって、かつ、オイルリング15(隔壁)の径方向内側に設けられている。
【0031】
図4は、クランク軸3、電動機6、及びバランスウェイト8を含む斜視図である。
図4に示すように、バランスウェイト8は、環状を呈する環状部8aと、横断面視で円弧上を呈する円弧部8bと、を備えている。
【0032】
そして、環状部8aの孔(符号は図示せず)にクランク軸3が挿通された状態で、このクランク軸3に環状部8aが固定されている。円弧部8bは、クランク軸3の半周分を囲むように横断面視で円弧状を呈し、環状部8aから軸方向上側に延びている。そして、電動機6の駆動に伴い、バランスウェイト8がクランク軸3と一体で回転するようになっている。
【0033】
図1に示すサブフレーム9は、クランク軸3の下部を回転自在に軸支するものであり、密閉容器1の内周壁に固定されている。
副軸受10は、クランク軸3の下部を軸支し、クランク軸3から径方向の荷重を受ける軸受である。副軸受10は、サブフレーム9の孔(符号は図示せず)の周壁面に圧入等で固定されている。
【0034】
給油ポンプ11は、密閉容器1の油溜りRから潤滑油を吸い上げて通油路3cに供給するポンプであり、クランク軸3の下端部に設置されている。このような給油ポンプ11として、例えば、トロコイドポンプが用いられる。
スラスト軸受12は、クランク軸3から軸方向の荷重を受ける軸受であり、クランク軸3の下端付近に設置されている。
脚13は、密閉容器1を支持するものであり、底チャンバ1cに設置されている。
【0035】
図3に示す返油パイプ14は、圧縮機構部2の冷媒等(ガス)に含まれる潤滑油の一部を密閉容器1の油溜りRに導く管である。具体的には、主軸受4を通った潤滑油が、返油パイプ14を介して、油溜りR(図1参照)に戻るようになっている。図3に示す例では、返油パイプ14は、縦方向に細長く延びて、その上端付近が径方向内側にL字状に屈曲している。
【0036】
図1に示すオイルリング15は、吐出パイプPbの上流端と、圧縮機構部2の冷媒流路M(図2図3参照)と、を隔てる筒状の「隔壁」であり、圧縮機構部2と電動機6との間に設けられている。図1に示すように、オイルリング15は、圧縮機構部2のフレーム23に接触した状態で、このフレーム23に固定されている。
【0037】
次に、密閉容器1内における冷媒等の流れについて簡単に説明した後、オイルリング15の構成について詳細に説明する。
図1に示す電動機6の駆動によって旋回スクロール22が旋回すると、これに伴って次々に形成される圧縮室Cの容積が縮小し、冷媒等が圧縮される。圧縮された冷媒等は、固定スクロール21の吐出口Vを介して、密閉容器1内の上部空間に吐出される。
【0038】
吐出口Vを介して吐出された冷媒等は、前記した冷媒流路Mを介して、圧縮機構部2の下側の空間に導かれる(図3の白抜き矢印を参照)。圧縮機構部2の下側の空間では、バランスウェイト8の回転によって冷媒等が攪拌されている。したがって、圧縮機構部2の下側の空間に導かれた冷媒等の速度ベクトルは、軸方向の速度ベクトルと、周方向(バランスウェイト8が回転する向きと同じ向き)の速度ベクトルと、の和になっている。
【0039】
図13は、オイルリング15を備えない比較例に係る圧縮機100Dにおいて、密閉容器1等を取り除いた状態の斜視図である。
なお、図13の白抜き矢印は、ミスト状の潤滑油の流れを示している。また、図13におけるクランク軸3の下側の矢印は、クランク軸3が回転する向きを示している。以下では、バランスウェイト8の円弧部8bにおける周方向の2つの端面のうち、バランスウェイト8が回転する向きを基準として、前側の面を「移動前面i」といい、後側の面を「移動後面j」という。
【0040】
バランスウェイト8の移動前面iには、バランスウェイト8の回転に伴って、冷媒等が衝突する。したがって、移動前面iの付近は、その周囲に比べて圧力が高くなる。一方、バランスウェイト8の移動後面jには、冷媒等が衝突しにくい。したがって、移動後面jの付近は、その周囲に比べて圧力が低くなる。その結果、図13の比較例の構成では、白抜き矢印で示すように、圧縮機構部2の冷媒流路Mを介して下降した冷媒等が、バランスウェイト8の移動後面jに向かって斜め下方に旋回しながら移動する。
【0041】
このようにしてバランスウェイト8の移動後面jにミスト状の潤滑油が集積すると、粒子間の衝突によって潤滑油の粒径が徐々に大きくなる。その結果、油滴状の潤滑油が電動機6に落下し、電動機6の上面に潤滑油の液面が形成される。そして、電動機6の上面に溜まった潤滑油は、クランク軸3の回転により攪拌されて再びミスト化し、その一部が吐出パイプPbを介して、圧縮機100Dの外部に流出する。
【0042】
このように圧縮機100Dの外部に潤滑油が流出すると、圧縮機100Dの各摺動部の潤滑性の低下や、圧縮機100Dを含む冷凍サイクルの効率の低下を招く。そこで、第1実施形態(図1参照)では、フレーム23と電動機6との間に筒状のオイルリング15を設けることで、圧縮機100からの潤滑油の流出を抑制するようにしている。
【0043】
図5は、圧縮機100が備えるオイルリング15の斜視図である。
図5に示すように、オイルリング15は、薄肉の円筒状を呈する円筒部15aと、この円筒部15aの上端から径方向内側に延びる円環状の固定部15b(板部)と、を備えている。
固定部15bは、フレーム23(図1参照)に固定される部分である。図5に示す例では、周方向において約120°間隔で、固定部15bに3つの孔hが設けられている。そして、それぞれの孔hにネジ(図示せず)が挿通され、さらに、フレーム23の下面に設けられたネジ穴(図示せず)に螺合される。
【0044】
これによって、オイルリング15の上面が、周方向の全周に亘ってフレーム23(図1参照)の下面に密着する。したがって、オイルリング15とフレーム23との間には、ほとんど隙間がない。なお、冷媒流路M(図2図3参照)を出た直後の冷媒等には、ミスト状の潤滑油が比較的多く混在しているが、前記したように、オイルリング15とフレーム23との間にはほとんど隙間がないため、ミスト状の潤滑油がバランスウェイト8の移動後面j(図4参照)に向かうことを抑制できる。
【0045】
なお、吐出パイプPb(図1参照)の上流端が、平面視において、固定部15b(板部)の径方向内側の端部と、固定部15bの径方向外側の端部と、の間に設けられていることが好ましい。言い換えると、平面視において、吐出パイプPbの上流端が固定部15bに重なっていることが好ましい。このような構成によれば、吐出パイプPbの上流端が固定部15bの径方向内側の端部よりもさらに径方向内側にまで入り込んでいる構成に比べて、吐出パイプPbを介した潤滑油の流出を抑制できる。例えば、バランスウェイト8の移動後面j(図4参照)に油滴状の潤滑油が集積していても、吐出パイプPbの上流端までの距離が比較的長いため、吐出パイプPbを介した潤滑油の流出を抑制できる。
【0046】
図5に示す円筒部15aは、吐出パイプPb(図1参照)の上流端と、圧縮機構部2(図3参照)の冷媒流路Mと、を隔てる機能を有している。ここで、円筒部15aが吐出パイプPbと冷媒流路Mとを「隔てる」とは、冷媒流路Mから吐出パイプPbに潤滑油がそのまま向かう流れが、円筒部15aでいったん遮られることを意味している。なお、冷媒流路Mから吐出パイプPbに向かう潤滑油の流れが完全には遮られない場合でも、この流れが抑制されていれば、前記した「隔てる」という意味に含まれる。
【0047】
図1に示すように、円筒部15aの外周面と、密閉容器1の内周面と、の間には、径方向の隙間k(環状の隙間)が円筒部15aの全周に亘って設けられている。そして、圧縮機構部2の冷媒流路Mを介して下降した冷媒等が、円筒部15aと密閉容器1との間の隙間kを介して、旋回しながら下降するようになっている。つまり、オイルリング15の円筒部15aは、吐出パイプPbからの潤滑油の流出を抑制する機能の他に、冷媒等の流れをガイドする機能も担っている。
【0048】
なお、クランク軸3の中心軸線Yを基準として、円筒部15aの外周面の径は、冷媒流路Mを形成している溝Ma,Mb(図3参照)の底の径以下であることが好ましい。このような構成によれば、オイルリング15の固定部15b(図5参照)が、前記した溝Ma,Mbの径方向内側に隠される。したがって、冷媒流路Mを介して下降する冷媒等の流れが、オイルリング15の固定部15bで阻害されることを防止できる。
【0049】
図5に示すように、オイルリング15には、3つの切欠きs1,s2,s3が設けられている。一つ目の切欠きs1(第1挿通部)には、吐出パイプPb(図1参照)が挿通される。二つ目の切欠きs2(第2挿通部)には、電源端子E(ハーメチック端子ともいう:図2参照)が挿通される。電源端子Eは、電動機6の巻線61bに接続される端子である。そして、三つ目の切欠きs3(第3挿通部)には、返油パイプ14(図3参照)が挿通される。これらの切欠きs1,s2,s3の位置や構成については、後記する。
【0050】
図6は、図1のX2-X2線で圧縮機100を切断した場合の横断面図である。
なお、図1のX2-X2線で圧縮機100を切断した場合において、実際には見えていない吐出パイプPbや電源端子Eを、図6では説明のために投射して図示している。
図6に示すように、電動機6の固定子6aは、電磁鋼板が積層されてなるコアバック61aと、コアバック61aに所定に巻回される巻線61bと、を備えている。固定子6aのコアバック61aには、軸方向において固定子6aの上側(一方側)と下側(他方側)とを連通させる複数の油流路N(第1流路:図3も参照)が設けられている。なお「油流路N」を通流する冷媒等には、ミスト状の潤滑油の他に、ガス状の冷媒も混在している。
【0051】
前記した油流路Nは、オイルリング15と密閉容器1との間の環状の隙間k(図1参照)を通流する冷媒等を電動機6の下側に導く流路である。すなわち、固定子6aのコアバック61aの外周壁において、周方向の所定箇所が径方向内側に凹んでなる溝が、油流路Nとして、縦方向に設けられている。
【0052】
図6の例では、固定子6aのコアバック61aにおいて、周方向で略等間隔に6つの油流路Nが設けられている。そして、コアバック61aの溝(油流路N)と密閉容器1の内周面との間の隙間を介して、冷媒等が電動機6の下側に導かれるようになっている。
【0053】
また、オイルリング15は、横断面視において、それぞれの油流路Nの径方向内側に設けられることが好ましい。このような構成によれば、オイルリング15と密閉容器1との間の環状の隙間k(図1参照)を通流する冷媒等が、コアバック61aの油流路Nを介して、電動機6の下側にそのまま導かれる。また、ミスト状の潤滑油が、油流路Nを介して吹き上げられた場合でも、この潤滑油がオイルリング15の内側に入り込むことを抑制できる。
【0054】
さらに、図1図6に示すように、オイルリング15(隔壁)は、横断面視において、その下端が油流路N(第1流路)の内壁面よりも径方向内側に設けられることが好ましい。このような構成によれば、オイルリング15と密閉容器1との間の環状の隙間k(図1参照)を介して旋回しながら下降する冷媒等が、オイルリング15の下端付近でガイドされつつ、油流路Nに導かれる。したがって、オイルリング15の下端が、平面視で油流路Nに重なっている構成に比べて、油流路Nを介した潤滑油の通流が阻害されにくくなる。
また、詳細については後記するが、図1の例では、電動機6とオイルリング15との間に、絶縁距離を確保するための空間Dが設けられている。このような構成でも、前記したように、油流路Nの内壁面よりも径方向内側にオイルリング15を設けることで、空間Dを介して、オイルリング15の内側に潤滑油が入り込むことを抑制できる。
【0055】
また、図6に示す切欠きs1,s2,s3(吐出パイプPbがオイルリング15の切欠きs1(第1挿通部)に挿通されている箇所)を含む横断面視において、6つの油流路Nのうち少なくとも一部が、オイルリング15に径方向で重なっていることが好ましい。言い換えると、切欠きs1,s2,s3を含む横断面視において、6つの油流路Nのうち少なくとも一部が、オイルリング15の切欠きs1,s2,s3がない箇所に径方向で重なっていることが好ましい。さらに、切欠きs1,s2,s3を含むオイルリング15の下端も同様に、横断面視において、6つの油流路Nのうち少なくとも一部が、径方向で重なっていることが好ましい。なお、横断面視における「横断面」は、クランク軸3の中心軸線Y(図1参照)に対して垂直な平面であるものとする。
【0056】
その具体例として、切欠きs1,s2,s3を含む横断面視において、6つの油流路Nの周方向の長さの合計値の60%以上が、オイルリング15に径方向で重なっていることが好ましい。このような構成によれば、オイルリング15と密閉容器1との間の環状の隙間k(図1参照)を介して旋回しながら下降する潤滑油が、切欠きs1,s3,s3の隙間を介してオイルリング15の内側に入ることを抑制できる。
【0057】
また、オイルリング15は、横断面視において電動機6の巻線61bの径方向外側に設けられることが好ましい。このような構成によれば、電動機6の下側に導かれたガス状の冷媒が、巻線61bの隙間等を介してオイルリング15の内側の空間に導かれる際、オイルリング15と密閉容器1との間の隙間k(図1参照)に入り込みにくくなる。そして、冷媒等が電動機6の下側に移動した後、ミスト状の潤滑油が油溜りRに一体化する一方、ガス状の冷媒がオイルリング15の内側に吹き上がって循環する流れが形成される。
【0058】
次に、オイルリング15とバランスウェイト8との位置関係について説明する。
図1に示すように、軸方向において、バランスウェイト8の上面(圧縮機構部2側の端部)の位置は、オイルリング15の上面(圧縮機構部2側の端部)と、オイルリング15の下端(電動機6側の端部)と、の間であることが好ましい。
また、軸方向において、バランスウェイト8の下面(電動機6側の端部)の位置は、オイルリング15の下端(電動機6側の端部)の位置よりも高いことが好ましい。
【0059】
このような構成によれば、軸方向において、オイルリング15の中にバランスウェイト8が収まった状態になる。したがって、オイルリング15と密閉容器1との間の環状の隙間kを通流する潤滑油が、バランスウェイト8の方に向かうことを抑制できる。その結果、バランスウェイト8の移動後面j(図4参照)における潤滑油の集積を抑制し、ひいては、吐出パイプPbを介した潤滑油の流出を抑制できる。
【0060】
なお、径方向において、オイルリング15の下端付近がバランスウェイト8から比較的離れている場合には、バランスウェイト8の下面の高さ位置が、オイルリング15の下端の高さ位置よりも低い構成であってもよい。このような構成でも、吐出パイプPbを介した潤滑油の流出を抑制できる。
【0061】
また、図1に示すように、電動機6とオイルリング15との間には、軸方向において所定の空間Dが設けられていることが好ましい。より詳しく説明すると、電動機6のコアバック61aの上面と、オイルリング15の下端と、の間に所定の空間Dが設けられていることが好ましい。これによって、金属製のオイルリング15と、電動機6との間に所定の絶縁距離を確保できる。さらに、オイルリング15を金属製にすることで、樹脂製の場合に比べて、オイルリング15の強度が高くなる。したがって、3つの切欠きs1,s2,s3が設けられる構成でも、オイルリング15の変形や破損を抑制できる。また、電動機6とオイルリング15との間に所定の間隔(図1の空間Dを参照)が空いている構成においては、オイルリング15が樹脂製である場合よりも金属製である場合の方が、特にオイルリング15の下端付近での変形を抑制できる。
【0062】
また、軸方向において、バランスウェイト8の上面と下面との間に吐出パイプPbの上流端が設けられることが好ましい。このような構成によれば、バランスウェイト8から滴り落ちて電動機6の上面に溜まっている潤滑油が再びミスト化した場合でも、吐出パイプPbの上流端がバランスウェイト8の下面よりも上側に位置しているため、吐出パイプPbを介した潤滑油の流出を抑制できる。また、バランスウェイト8の環状部8a(図4参照)の上面に溜まっている潤滑油が再びミスト化して、上方に吹き上げられた場合でも、吐出パイプPbの上流端がバランスウェイト8の上面よりも下側に位置しているため、吐出パイプPbを介した潤滑油の流出を抑制できる。
【0063】
図5に示すオイルリング15には、前記したように、3つの切欠きs1,s2,s3が設けられている。1つ目の切欠きs1(第1挿通部)には、吐出パイプPb(図1参照)が挿通される。この切欠きs1は、オイルリング15において高さ方向の中間付近からオイルリング15の下端まで縦方向に設けられ、オイルリング15の下端(電動機6側)で開口している。そして、この切欠きs1を介して、吐出パイプPb(図1参照)の上流端付近が挿通されている。このように、オイルリング15(隔壁)の下部(又は下端)には、吐出パイプPbが挿通される「第1挿通部」として、切欠きs1が設けられている。
【0064】
また、図1に示すように、吐出パイプPbの上流端は、オイルリング15の径方向内側に位置している。言い換えると、吐出パイプPbの上流端は、オイルリング15の内側に臨んでいる。これによって、オイルリング15と密閉容器1との間の環状の隙間kを通流する潤滑油が、吐出パイプPbを介して流出することを抑制できる。ここで、オイルリング15の切欠きs1(第1挿通部)は、吐出パイプPbの上流端と密閉容器1の内壁面との間であって、吐出パイプPbの上流端よりも密閉容器1の内壁面に近い位置に設けられていることが好ましい。このような構成によれば、オイルリング15の外周面と、密閉容器1の内壁面と、の間の環状の隙間kの径方向の距離を短くすることができる。したがって、環状の隙間kを介して、旋回しながら下降するミスト状の潤滑油が、オイルリング15の外周面や、密閉容器1の内壁面に付着して、油滴化しやすくなる。
【0065】
また、前記したように、オイルリング15の下部に切欠きs1が設けられている(オイルリング15の下部が切り欠かれている)。これによって、オイルリング15の上部に切欠き(図示せず)を設ける構成(つまり、オイルリング15の上側に切欠きが開口している構成)に比べて、オイルリング15の上面と、切欠きs1と、の間の縦方向の長さを十分に確保できる。
【0066】
なお、オイルリング15の内側における冷媒等の流れ(乱流)が、オイルリング15と電動機6との間の隙間を介して、オイルリング15の外側(環状の隙間k)における冷媒等の流れにも影響する。しかしながら、図1に示すように、吐出パイプPbが挿通される切欠きs1は、オイルリング15の下部に設けられている。つまり、環状の隙間kを介して、旋回しながら下降する冷媒等の流れの下流側に切欠きs1が設けられている。したがって、オイルリング15の内側における冷媒等の流れ(乱流)から、環状の隙間kにおける冷媒等の流れへの悪影響を抑制できる。
【0067】
また、切欠きs1の位置がオイルリング15の下部であるため、環状の隙間kを介して通流する冷媒等の速度ベクトルにおいて、周方向の成分(旋回成分)の占める割合を小さくすることができる。これによって、環状の隙間kを介して冷媒等が適度に旋回しながら下降する、という流れが生じやすくなる。
さらに、オイルリング15の上面と、切欠きs1と、の間の縦方向の長さを十分に確保できるため、環状の隙間k(図1参照)を介して旋回しながら下降するミスト状の潤滑油が、切欠きs1に達する前に、オイルリング15の外周面や密閉容器1の内壁面で油滴化しやすくなる。
【0068】
なお、図5に示すように、切欠きs1がオイルリング15の下側に開口している構成(切欠きs1がオイルリング15の下端に設けられている構成)は、切欠きs1がオイルリング15の「下部」に設けられている、という事項に含まれる。
【0069】
また、吐出パイプPbの上流端がオイルリング15の内側に突出している長さは、吐出パイプPbの上流端とバランスウェイト8との間の距離よりも短いことが好ましい。このような構成によれば、仮に、バランスウェイト8の移動後面j(図4参照)に多少の潤滑油が集積した場合でも、この潤滑油が吐出パイプPbの方に飛散しにくくなる。したがって、吐出パイプPbを介して潤滑油が流出することを抑制できる。また、前記したように、バランスウェイト8の上面と下面との間に吐出パイプPbの上流端が設けられていることと相まって、吐出パイプPbからの潤滑油の流出を効果的に抑制できる。
【0070】
図5に示す2つ目の切欠きs2(第2挿通部)は、電源端子E(図2参照)を挿通したり、電源ケーブル(図示せず)を引き回したりするための切欠きである。図5に示す例では、オイルリング15には、電源端子Eが挿通される「第2挿通部」として、切欠きs1(第1挿通部)よりも大きい切欠きs2が設けられている。つまり、切欠きs1の面積よりも、別の切欠きs2の面積のほうが大きくなっている。ここで、切欠きs1の「面積」とは、オイルリング15において、下端(高さ位置が最も低い複数の円弧状の部分)を含む仮想的な円と、切欠きs1の縁と、で形成される領域の面積である。なお、切欠きs2の面積についても同様である。これらの切欠きs1,s2等が設けられていても、オイルリング15として金属製のものを用いることで強度が確保されるため、オイルリング15の変形や破損を抑制できる。
この切欠きs2には、電源端子Eが挿通される端子挿通部sa2と、電源ケーブル(図示せず)を引き回すための幅広部sb2と、が含まれている。端子挿通部sa2は、オイルリング15における高さ方向の所定位置からオイルリング15の下端まで縦方向に設けられ、オイルリング15の下端で開口している。
【0071】
幅広部sb2は、端子挿通部sa2の下部から周方向で所定範囲に亘って設けられ、オイルリング15の下端で開口している。すなわち、クランク軸3が回転する向き(図5では図示せず、図3参照)を基準として、周方向で端子挿通部sa2の下流側に幅広部sb2が設けられている。
そして、電源端子E(図2参照)の真上にもオイルリング15が存在している。これによって、オイルリング15と密閉容器1との間の環状の隙間k(図1参照)を介して、旋回しながら下降する冷媒等の流れが、電源端子Eで乱されることを抑制できる。また、電源端子Eと切欠きs2との間の隙間を介して、ミスト状の潤滑油がオイルリング15の内側に入り込むことを抑制できる。なお、前記した電源端子Eの「真上」とは、オイルリング15の周方向において、電源端子Eが設けられている範囲内での上側のことを意味している。
【0072】
3つ目の切欠きs3(第3挿通部)には、返油パイプ14(図3参照)が挿通される。すなわち、オイルリング15には、返油パイプ14が挿通される「第3挿通部」として、切欠きs3が設けられている。この切欠きs3は、オイルリング15において高さ方向の上部付近からオイルリング15の下端まで縦方向に細長く設けられ、オイルリング15の下端で開口している。また、返油パイプ14の真上にもオイルリング15が存在している。これによって、オイルリング15と密閉容器1との間の環状の隙間k(図1参照)を介して、旋回しながら下降する冷媒等の流れが返油パイプ14で乱されることを抑制できる。また、返油パイプ14と切欠きs3との間の隙間を介して、ミスト状の潤滑油がオイルリング15の内側に入り込むことを抑制できる。なお、前記した返油パイプ14の「真上」とは、オイルリング15の周方向において、返油パイプ14が設けられている範囲内での上側のことを意味している。
【0073】
そして、図3に示すように、縦方向に細長く延びるL字状の返油パイプ14が、切欠きs3に挿通される。なお、切欠きs3の隙間は、縦方向に延びる返油パイプ14でほとんど塞がれている。したがって、切欠きs3の縁と返油パイプ14との間の微小な隙間を介して、オイルリング15の内側に入り込む潤滑油はほとんどない。
【0074】
図7は、圧縮機構部の冷媒流路Mと、オイルリング15の切欠きs1,s2,s3との位置関係を示す横断面図である。
なお、図7では、図1のX2-X2線で圧縮機100を切断した場合の断面(図6と同様の断面)において、電動機6等の図示を省略している。また、図1のX2-X2線で圧縮機100を切断した場合において、実際には見えていない冷媒流路M、吐出パイプPb、及び電源端子Eを、図7では説明のために投射して図示している。
さらに、周方向の位置を示す図7の位置X3は、図6の位置X3に対応している。また、図7に示す紙面右回りの矢印は、クランク軸3が回転する向きを示している。
【0075】
図7に示すように、クランク軸3の中心軸線Yを含むとともに、クランク軸3が回転する向きを基準として、冷媒流路M(第2流路)の上流側の端点mを含む仮想平面Tでオイルリング15を2つに分割した場合、次の関係が成り立っていることが好ましい。すなわち、前記した仮想平面Tでオイルリング15を2つに分割した場合、オイルリング15において、冷媒流路M側(吐出パイプPbとは反対側)である一方側A1の側面積は、他方側A2の側面積よりも大きいことが好ましい。
【0076】
別の観点から説明すると、電源端子Eが挿通される切欠きs2の少なくとも一部、及び、吐出パイプPbが挿通される切欠きs1が、前記した他方側A2に設けられることが好ましい。さらに、2つの冷媒流路Mの周方向の位置が、吐出パイプPbとは反対側に偏在していることが好ましい。このような構成によれば、冷媒流路Mを出た冷媒等が、まず、オイルリング15の一方側A1と密閉容器1との間の隙間k(図1参照)を介して、図7の紙面右回りに旋回しながら下降する。
【0077】
ここで、オイルリング15の一方側A1は、他方側A2よりも側面積が大きい(つまり、潤滑油が入り込む隙間が狭い)ため、冷媒等に含まれる潤滑油が、一方側A1からオイルリング15の内側に入り込みにくくなる。そして、冷媒流路Mから出た潤滑油の大部分が、オイルリング15の一方側A1を通流する間に電動機6に達し、さらに、油流路Nを介して電動機6の下側に導かれる。
【0078】
なお、図7の例では、クランク軸3が回転する向きを基準として、上流側に位置する冷媒流路Mが、径方向において、横断面視で切欠きs2の幅広部sb2(図5参照)に重なっている。しかしながら、幅広部sb2の切欠きの深さは浅く、また、上流側の冷媒流路Mから出たミスト状の潤滑油は、図7の紙面右回りに旋回しながら下降する。したがって、幅広部sb2の隙間を介して、オイルリング15の内側にそのまま入り込む潤滑油はほとんどない。
【0079】
また、前記した仮想平面Tでオイルリング15を2つに分割した場合、オイルリング15において、冷媒流路Mとは反対側の領域(つまり、他方側A2)には、吐出パイプPbが挿通される切欠きs1が設けられるとともに、電源端子Eが挿通される切欠きs2の一部が存在している。これによって、冷媒流路Mから出て旋回しながら移動する潤滑油が、切欠きs1,s2の隙間からオイルリング15の内側に入り込むことを抑制できる。
【0080】
さらに、冷媒流路M、吐出パイプPb、及び電源端子Eの周方向の並びは、クランク軸3が回転する向きを基準として、冷媒流路M、吐出パイプPb、及び電源端子Eの順であることが好ましい。このような構成によれば、冷媒流路Mから電源端子E用の切欠きs2までの周方向の長さを十分に確保できる。したがって、オイルリング15と密閉容器1との間の隙間k(図1参照)を介して旋回しながら下降するミスト状の潤滑油が、切欠きs2に達する前に、油流路N(図3図6参照)を介して電動機6の下側に導かれる。その結果、ミスト状の潤滑油が、オイルリング15の内側に入り込むことを抑制できる。
【0081】
なお、切欠きs1において吐出パイプPbの下側には、所定の隙間が存在している(図1参照)。しかしながら、前記した仮想平面Tでオイルリング15を2つに分割した場合、吐出パイプPb用の切欠きs1は、他方側A2(図7参照)に位置している。したがって、切欠きs1の隙間を介して、オイルリング15の内側に入り込む潤滑油はほとんどない。
【0082】
<効果>
第1実施形態によれば、図1に示すように、吐出パイプPbの上流端が、オイルリング15の径方向内側に位置している。これによって、オイルリング15と密閉容器1との間の環状の隙間kを通流する潤滑油が、吐出パイプPbを介して流出することを抑制できる。
【0083】
また、図2に示すように、冷媒流路Mが、周方向において、吐出パイプPbとは反対側に偏在している。これによって、横断面視で冷媒流路Mから吐出パイプPbまでの周方向の長さが十分に確保される。したがって、冷媒流路Mを下降するミスト状の潤滑油が、吐出パイプPbを介して流出することを抑制できる。
【0084】
また、図6に示すように、オイルリング15は、横断面視において、それぞれの油流路Nの径方向内側に設けられる。しおたがって、ミスト状の潤滑油が、油流路Nを介して吹き上げられた場合でも、この潤滑油がオイルリング15の内側に入り込むことを抑制できる。
【0085】
また、図7に示すように、冷媒流路M、吐出パイプPb、及び電源端子Eの周方向の並びは、クランク軸3が回転する向きを基準として、冷媒流路M、吐出パイプPb、及び電源端子Eの順になっている。したがって、冷媒流路Mから電源端子E用の切欠きs2までの周方向の長さを十分に確保できる。その結果、ミスト状の潤滑油が、オイルリング15の内側に入り込むことを抑制できる。
【0086】
このように第1実施形態によれば、圧縮機100の内部において冷媒と潤滑油とを十分に分離できる。したがって、吐出パイプPbを介して、圧縮機100の外部に潤滑油が流出することを抑制し、簡素な構造で信頼性と性能の高い圧縮機100を提供できる。
【0087】
≪第2実施形態≫
第2実施形態では、第1実施形態で説明した圧縮機100(図1参照)を備える空気調和機W(冷凍サイクル装置:図8参照)について説明する。
【0088】
図8は、第2実施形態に係る空気調和機Wの冷媒回路Kの構成図である。
なお、図8の実線矢印は、暖房運転時における冷媒の流れを示している。
一方、図8の破線矢印は、冷房運転時における冷媒の流れを示している。
空気調和機Wは、冷房や暖房等の空調を行う機器である。図8に示すように、空気調和機Wは、圧縮機100と、室外熱交換器Eoと、室外ファンFoと、膨張弁Veと、四方弁Vfと、室内熱交換器Eiと、室内ファンFiと、を備えている。
【0089】
図8に示す例では、圧縮機100、室外熱交換器Eo、室外ファンFo、膨張弁Ve、及び四方弁Vfが、室外機Woに設けられている。一方、室内熱交換器Ei及び室内ファンFiは、室内機Wiに設けられている。
【0090】
圧縮機100は、ガス状の冷媒を圧縮する機器であり、第1実施形態(図1参照)と同様の構成を備えている。
室外熱交換器Eoは、その伝熱管(図示せず)を通流する冷媒と、室外ファンFoから送り込まれる外気と、の間で熱交換が行われる熱交換器である。
室外ファンFoは、室外熱交換器Eoに外気を送り込むファンである。室外ファンFoは、駆動源である室外ファンモータMoを備え、室外熱交換器Eoの付近に設置されている。
【0091】
室内熱交換器Eiは、その伝熱管(図示せず)を通流する冷媒と、室内ファンFiから送り込まれる室内空気(空調対象空間の空気)と、の間で熱交換が行われる熱交換器である。
室内ファンFiは、室内熱交換器Eiに室内空気を送り込むファンである。室内ファンFiは、駆動源である室内ファンモータMiを備え、室内熱交換器Eiの付近に設置されている。
【0092】
膨張弁Veは、「凝縮器」(室外熱交換器Eo及び室内熱交換器Eiの一方)で凝縮した冷媒を減圧する弁である。なお、膨張弁Veによって減圧された冷媒は、「蒸発器」(室外熱交換器Eo及び室内熱交換器Eiの他方)に導かれる。
【0093】
四方弁Vfは、空気調和機Wの運転モードに応じて、冷媒の流路を切り替える弁である。例えば、冷房運転時(図8の破線矢印を参照)には、圧縮機100、室外熱交換器Eo(凝縮器)、膨張弁Ve、及び室内熱交換器Ei(蒸発器)が、四方弁Vfを介して順次接続されてなる冷媒回路Kにおいて、冷凍サイクルで冷媒が循環する。
【0094】
一方、暖房運転時(図8の実線矢印を参照)には、圧縮機100、室内熱交換器Ei(凝縮器)、膨張弁Ve、及び室外熱交換器Eo(蒸発器)が、四方弁Vfを介して順次接続されてなる冷媒回路Kにおいて、冷凍サイクルで冷媒が循環する。
【0095】
このように、圧縮機100、「凝縮器」、膨張弁Ve、及び「蒸発器」を順次に介して冷媒が循環するようになっている。なお、圧縮機100、室外ファンFo、膨張弁Ve、室内ファンFi等の機器は、制御装置(図示せず)からの指令に基づいて駆動される。
【0096】
<効果>
第2実施形態によれば、圧縮機100から潤滑油が流出することを抑制できるため、空気調和機Wの信頼性と性能を高めることができる。
【0097】
≪変形例≫
以上、本発明に係る圧縮機100や空気調和機Wについて各実施形態で説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、第1実施形態では、オイルリング15(図5参照)に3つの切欠きs1,s2,s3が設けられる構成について説明したが、切欠きの個数はこれに限らない。すなわち、オイルリング15に少なくとも一つの切欠きが設けられ、その切欠きに吐出パイプPb、電源端子E、又は返油パイプ14が挿通される構成であってもよい。
【0098】
また、吐出パイプPb、電源端子E、及び返油パイプ14のうちの複数(例えば、吐出パイプPb及び返油パイプ14)が、一つの切欠きに挿通される構成であってもよい。
【0099】
また、第1実施形態では、圧縮機構部2に2つの冷媒流路M(第2流路:図7参照)が設けられ、また、電動機6のコアバック61aに6つの油流路N(第1流路:図6参照)が設けられる構成について説明したが、冷媒流路Mや油流路Nの個数は、これに限定されない。すなわち、冷媒流路M及び油流路Nが、それぞれ、少なくとも一つ設けられる構成であってもよい。
【0100】
図9Aは、本発明の第1の変形例に係る圧縮機が備えるオイルリング15Aの斜視図である。
第1実施形態では、オイルリング15(図5参照)に切欠きs1,s2,s3が設けられる構成について説明したが、これに限らない。例えば、切欠きs1に代えて、図9Aに示すように、吐出パイプPb(図1参照)が挿通される孔s11(第1挿通部)を設けてもよい。なお、他の切欠きs2,s3についても同様である。
【0101】
また、吐出パイプPbが挿通される孔s11(第1挿通部)は、オイルリング15の下部に設けられることが好ましい。これによって、環状の隙間k(図1参照)における冷媒等の流れが、オイルリング15の内側の冷媒等の流れ(乱流)からの悪影響を受けにくくなり、冷媒等の流れが乱されにくくなる。なお、孔s11がオイルリング15の「下部」に設けられているとは、孔s11において、オイルリング15の下部に存在している部分の面積の方が、オイルリング15の上部に存在している部分の面積よりも大きいことを意味している。
【0102】
また、図9Aに示す切欠きs2に代えて、孔(図示せず)が設けられてもよい。すなわち、オイルリング15には、電源端子E(図6参照)が挿通される「第2挿通部」として、孔s11(第1挿通部)よりも大きい切欠きs2又は孔(図示せず)が設けられ、電源端子Eの真上にもオイルリング15が存在するように構成されてもよい。
また、図9Aに示す切欠きs3に代えて、孔(図示せず)が設けられてもよい。すなわち、オイルリング15には、返油パイプ14(図3参照)が挿通される「第3挿通部」として、切欠きs3又は孔(図示せず)が設けられ、返油パイプ14の真上にもオイルリング15が存在するように構成されてもよい。
【0103】
図9Bは、本発明の第2の変形例に係る圧縮機が備えるオイルリング15Bの斜視図である。
第1実施形態で説明した切欠きs1(図5参照)に代えて、図9Bに示すように、オイルリング15の上端から下端までのスリットs12を設け、このスリットs12に吐出パイプPbが挿通されるようにしてもよい。なお、他の切欠きs2,s3についても同様である。この例のように、固定部15b(板部)の一部が周方向で欠けている(つまり、固定部15bが円環状ではない)場合でも、次の大小関係が成り立っていれば、「吐出パイプPb(図1参照)の上流端が、平面視において、固定部15b(板部)の径方向内側の端部と、固定部15b(板部)の径方向外側の端部と、の間に設けられている」、という事項に含まれるものとする。すなわち、クランク軸3の中心軸線Y(図9Bでは不図示、図1参照)から固定部15bの径方向内側の端部(周方向でスリットs12以外の任意の箇所)までの第1の距離よりも、中心軸線Yから吐出パイプPbの上流端までの第2の距離の方が長く、かつ、この第2の距離よりも、中心軸線Yから固定部15bの径方向外側の端部までの第3の距離の方が長いという構成も、前記した事項に含まれる。
その他、吐出パイプPbが挿通される「第1挿通部」、電源端子Eが挿通される「第2挿通部」、及び、返油パイプ14が挿通される「第3挿通部」の形状として、切欠き、孔、及びスリットのうち2つ又は3つが混在していてもよい。
【0104】
また、前記した構成において、冷媒流路M側とは反対側の領域に設けられた少なくとも一つの切欠き(例えば、切欠きs1:図5参照)、孔(例えば、孔s11:図9A参照)、又はスリット(例えば、スリットs12:図9B参照)に、吐出パイプPbが挿通されるようにしてもよい。
【0105】
なお、オイルリング15にスリット(図示せず)を設ける構成において、オイルリング15が、周方向で冷媒流路Mの上流側の端点m(図7参照)から吐出パイプPbの差込位置を含む範囲で設けられていてもよい。このような構成でも、冷媒流路Mから出た潤滑油が、吐出パイプPbを介して流出することを抑制できる。
【0106】
図10は、第3の変形例に係る圧縮機が備えるオイルリング15Cの斜視図である。
図10に示すオイルリング15Cは、第1実施形態で説明したオイルリング15(図5参照)から、返油パイプ14(図3参照)が挿通される切欠きs3を省略した構成になっている。このような構成でも、第1実施形態と同様の効果が奏される。
【0107】
図10に示すように、オイルリング15Cにおいて、吐出パイプPb(図1参照)よりも上側(切欠きs1よりも上側)の少なくとも一部には、周方向の全周に亘ってオイルリング15Cが存在する領域G(円筒状の領域)が設けられている。
なお、第1実施形態でも、周方向の全周に亘ってオイルリング15(図5参照)が存在する領域(図5では、符号を図示せず)が設けられているが、第3の変形例の方が領域Gの縦幅が長くなっている。
【0108】
図11は、第3の変形例に係る圧縮機100Cの密閉容器等を取り除いた状態の斜視図である。
前記した領域G(図10参照)を設けることで、オイルリング15Cと密閉容器1(図1参照)との間の環状の隙間k(図1参照)を介して、適度に旋回しながら下降する冷媒の流れが生じやすくなる。また、環状の隙間k(図1参照)を通流する過程で、ミスト状の潤滑油がオイルリング15Cの外周面や密閉容器1の内壁面で油滴化しやすくなる。したがって、吐出パイプPbを介した潤滑油の流出を抑制できる。
【0109】
図12は、第3の変形例に係る圧縮機100Cにおいて、圧縮機構部の冷媒流路Mと、オイルリングの切欠きs1,s2との位置関係を示す横断面図である。
なお、図12は、返油パイプ14(図7参照)や切欠きs3(図7参照)が省略されている点以外は、図7と同様である。図12に示す圧縮機構部2には、2つの冷媒流路M(第2流路)が設けられている。また、クランク軸3(駆動軸)が回転する向きを基準として、複数の冷媒流路Mのうち、周方向で最も下流側に位置する端点m2から90°以上離れた位置に切欠きs1(第1挿通部)が設けられている。つまり、中心軸線Yを含み、端点m2を通る仮想平面Taと、中心軸線Yを含み、吐出パイプPbの上流端付近を通る仮想平面Tbと、のなす角θの大きさが90°以上になっている。さらに、クランク軸3が回転する向きを基準とする周方向において、前記した端点m2と切欠きs1との間には、所定の切欠き又は孔が設けられていないことが好ましい。このような構成によれば、冷媒流路M及び環状の隙間k(図1参照)を順次に介して旋回しながら下降する冷媒等が、オイルリング15Cの内側に入り込みにくくなる。したがって、オイルリング15Cが吐出パイプPbの上流端と冷媒流路Mとを隔てていることと相まって、吐出パイプPbを介した潤滑油の流出をさらに抑制できる。
【0110】
なお、前記した端点m2と切欠きs1との間に所定の切欠き又は孔(例えば、第1実施形態で説明した切欠きs3:図7参照)が設けられていてもよい。このような構成において、前記した所定の切り欠き又は孔の面積が、切欠きs1の面積よりも小さいことが好ましい。これによって、所定の切欠き又は孔を介して、ミスト状の潤滑油がオイルリング15の内側に入り込むことを抑制できる。なお、切欠きの「面積」の定義については、前記したとおりである。
【0111】
また、各実施形態では、圧縮機100が縦置きで設置される構成について説明したが、これに限らない。例えば、圧縮機100が横置きで設置される構成にも各実施形態を適用できる。
また、各実施形態では、圧縮機100がスクロール式の圧縮機である場合について説明したが、これに限らない。すなわち、各実施形態は、ロータリ式等の別タイプの圧縮機にも適用可能である。
また、各実施形態では、オイルリング15が金属製である場合について限定したが、これに限らない。例えば、オイルリング15が樹脂製であってもよい。
また、各実施形態では、オイルリング15の切欠きs1,s2,s3(図5参照)において、切欠きs2の周方向の長さが最も長く、切欠きs3の周方向の長さが最も短い場合について説明したが、これに限らない。すなわち、切欠きs1,s2,s3の周方向の長さの大小関係は、適宜に変更可能である。同様に、切欠きs1,s2,s3の軸方向の長さの大小関係も、適宜に変更可能である。
【0112】
また、第2実施形態では、圧縮機100を備える空気調和機W(冷凍サイクル装置:図8参照)について説明したが、これに限らない。例えば、冷蔵庫、給湯機、空調給湯装置、チラーといった他の「冷凍サイクル装置」にも、第2実施形態を適用可能である。
【0113】
また、各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換を適宜に行うことが可能である。
また、前記した機構や構成は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての機構や構成を示しているとは限らない。
【符号の説明】
【0114】
100 圧縮機
1 密閉容器
2 圧縮機構部
21 固定スクロール
22 旋回スクロール
23 フレーム
3 クランク軸(駆動軸)
4 主軸受
5 旋回軸受
6 電動機
6a 固定子
61a コアバック
61b 巻線
6b 回転子
7 オルダムリング
8 バランスウェイト
9 サブフレーム
10 副軸受
11 給油ポンプ
12 スラスト軸受
13 脚
14 返油パイプ
15 オイルリング(隔壁)
15a 円筒部
15b 固定部(板部)
A1 一方側
A2 他方側
D 空間
E 電源端子
G 領域
i 移動前面
j 移動後面
k 隙間
m2 端点
M 冷媒流路(第2流路)
Ma 溝
Mb 溝
N 油流路(第1流路)
Pa 吸込パイプ
Pb 吐出パイプ
R 油溜り
s1 切欠き(第1挿通部)
s11 孔(第1挿通部)
s12 スリット
s2 切欠き(第2挿通部)
s3 切欠き(第3挿通部)
T 仮想平面
Y 中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13