(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】構造物の基礎構造およびその構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/32 20060101AFI20240627BHJP
E02D 27/08 20060101ALI20240627BHJP
E02D 27/34 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
E02D27/32 A
E02D27/08
E02D27/34 Z
(21)【出願番号】P 2021076885
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】辰濃 達
(72)【発明者】
【氏名】脇田 拓弥
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-140758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/32
E02D 27/08
E02D 27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高層部と低層部とを備える構造物の基礎の構造であって、
地盤面上に設けられて前記高層部を支持する高層部基礎と、
前記地盤面上に平面視で前記高層部基礎から所定間隔離れて設けられて前記低層部を支持する低層部基礎と、
前記地盤面上でかつ前記高層部基礎と前記低層部基礎との間に設けられた応力低減手段と、を備え、
前記応力低減手段は、両端部が前記高層部基礎および前記低層部基礎に定着された鉄筋を有するコンクリート体であ
り、
前記地盤面と前記応力低減手段との間には、前記地盤面と前記応力低減手段との付着強度を低減し、前記応力低減手段の変形追従性を高めるために、合成樹脂発泡材が介装されていることを特徴とする構造物の基礎構造。
【請求項2】
高層部と低層部とを備える構造物の基礎の構造であって、
地盤面上に設けられて前記高層部を支持する高層部基礎と、
前記地盤面上に設けられて前記高層部基礎に
鉄筋コンクリートで接合されてかつ前記低層部を支持する低層部基礎と、
前記地盤面と前記低層部基礎との間に設けられた応力低減手段と、を備え、
前記応力低減手段は、
所定間隔おきに鉛直方向に延出するリブが設けられた平版状の緩衝材であることを特徴とする構造物の基礎構造。
【請求項3】
高層部と低層部とを備える構造物の基礎の構築方法であって、
地盤面上に、平面視で所定間隔離れて、高層部を支持する高層部基礎および低層部を支持する低層部基礎を構築する工程と、
前記高層部基礎上に前記高層部の少なくとも一部を構築する工程と、
前記地盤面上でかつ前記高層部基礎と前記低層部基礎との間に、
合成樹脂発泡材を設置し、前記合成樹脂発泡材の上面に両端部が前記高層部基礎および前記低層部基礎に定着された
応力低減手段としての鉄筋を有するコンクリート体を構築する工程と、を備えることを特徴とする構造物の基礎の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高層部と低層部とを備える構造物の基礎構造、および、その構造物の基礎の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基礎と、この基礎の上に構築された低層部と、基礎の上に低層部に並んで構築された高層部と、を備える構造物がある(特許文献1~3参照)。ここで、高層部が低層部よりもかなり高い場合には、高層部は、低層部よりも建物重量がかなり大きくなる。したがって、基礎を構築し、その後、低層部および高層部を構築すると、基礎のうち高層部を支持する部分は、低層部を支持する部分よりも接地圧が大きくなって、施工中の沈下量が大きくなる。その結果、高層部を支持する基礎と低層部を支持する基礎とが不同沈下して、高層部を支持する基礎と低層部を支持する基礎との境界部分に、大きな応力が生じる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-27809号公報
【文献】特開2016-8488号公報
【文献】特開2017-71955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高層部を支持する基礎と低層部を支持する基礎との境界部分に、大きな応力が生じるのを防止できる、構造物の基礎構造およびその構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明の構造物の基礎構造は、高層部(例えば、後述の高層部3)と低層部(例えば、後述の低層部4)とを備える構造物(例えば、後述の建物1)の基礎(例えば、後述の基礎10)の構造であって、地盤面(例えば、後述の地盤面2)上に設けられて前記高層部を支持する高層部基礎(例えば、後述の高層部基礎20)と、地盤面上に平面視で前記高層部基礎から所定間隔離れて設けられて前記低層部を支持する低層部基礎(例えば、後述の低層部基礎30A)と、地盤面上でかつ前記高層部基礎と前記低層部基礎との間に設けられた応力低減手段(例えば、後述の第1応力低減部40)と、を備え、前記応力低減手段は、両端部が前記高層部基礎および前記低層部基礎に定着された鉄筋(例えば、後述の鉄筋42)を有するコンクリート体(例えば、後述のコンクリート体41)であることを特徴とする。
【0006】
この発明によれば、以下の手順で構造物を構築する。
まず、高層部基礎および低層部基礎を地盤面上に構築する。次に、高層部基礎の上に高層部を構築し、低層部基礎の上に低層部を構築する。このとき、少なくとも高層部の一部を構築して、高層部基礎が一定量沈下した後に、応力低減手段を構築する。このように、高層部基礎を一定量沈下させた後に、応力低減手段を構築するので、高層部基礎と低層部基礎との境界部分に大きな応力が生じるのを防止できる。
また、応力低減手段の鉄筋を高層部基礎および低層部基礎に定着させたので、高層部を支持する高層部基礎と、低層部を支持する低層部基礎とが、応力低減手段を介して連結されるから、応力低減手段を介して、高層部基礎と低層部基礎とを一体化できる。
地盤面上に、高層部基礎、低層部基礎、および応力低減手段を設けたので、地盤面で高層部および低層部を支持でき、構造的な安定性を確保できる。
【0007】
第2の発明の構造物の基礎構造は、高層部と低層部とを備える構造物の基礎の構造であって、地盤面上に設けられて前記高層部を支持する高層部基礎と、地盤面上に設けられて前記高層部基礎に接合されてかつ前記低層部を支持する低層部基礎(例えば、後述の低層部基礎30B)と、地盤面と前記低層部基礎との間に設けられた応力低減手段(例えば、後述の第2応力低減部50)と、を備え、前記応力低減手段は、平版状の緩衝材(例えば、後述のフラットデッキ52)であることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、まず、高層部基礎および低層部基礎を地盤面上に構築する。このとき、地盤面と低層部基礎との間に、応力低減手段として平版状の緩衝材を設けることで、この緩衝材が地盤面と低層部基礎との間で伝わる力を低減する。よって、地盤面から低層部基礎に作用する地反力が低減され、低層部基礎が高層部基礎から延出した片持ち梁となる。この状態で、高層部基礎の上に高層部を構築し、低層部基礎の上に低層部を構築する。よって、高層部を構築して、高層部基礎とともに低層部基礎が沈下しても、高層部基礎と低層部基礎との境界部分に大きな応力が生じるのを防止できる。
【0009】
第3の発明の構造物の基礎の構築方法は、高層部と低層部とを備える構造物の基礎の構築方法であって、地盤面上に、平面視で所定間隔離れて、前記高層部を支持する高層部基礎(例えば、後述の高層部基礎20)および前記低層部を支持する低層部基礎(例えば、後述の低層部基礎30A)を構築する工程(例えば、後述のステップS1)と、前記高層部基礎上に前記高層部の少なくとも一部を構築する工程(例えば、後述のステップS2)と、地盤面上でかつ前記高層部基礎と前記低層部基礎との間に、応力低減手段として両端部が前記高層部基礎および前記低層部基礎に定着された鉄筋を有するコンクリート体を構築する工程(例えば、後述のステップS3)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、少なくとも高層部の一部を構築して、高層部基礎を一定量沈下させた後に、応力低減手段を構築するので、高層部基礎と低層部基礎との境界部分に大きな応力が生じるのを防止できる。
また、応力低減手段の鉄筋を高層部基礎および低層部基礎に定着させたので、高層部を支持する高層部基礎と、低層部を支持する低層部基礎とが、応力低減手段を介して連結されるから、応力低減手段を介して、高層部基礎と低層部基礎とを一体化できる。
地盤面上に、高層部基礎、低層部基礎、および応力低減手段を設けたので、地盤面で高層部および低層部を支持でき、構造的な安定性を確保できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高層部を支持する基礎と低層部を支持する基礎との境界部分に、大きな応力が生じるのを防止できる、構造物の基礎構造およびその構築方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る建物の基礎の平面図である。
【
図3】
図1の基礎の破線Bで囲まれた部分の拡大図である。
【
図6】
図5の基礎の破線Eで囲まれた部分の拡大図である。
【
図7】建物の基礎を構築する手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、高層部と低層部とを備える構造物の基礎構造、およびその構造物の基礎の構築方法である。具体的には、高層部基礎と低層部基礎との間に、鉄筋コンクリート造の応力低減手段として、両端部が高層部基礎および低層部基礎に定着された鉄筋を有するコンクリート体を設けた。さらに、応力低減手段と地盤面との間に合成樹脂発泡材を設けて、地盤面と応力低減手段との付着強度を低減し、応力低減手段の変形追従性を高めて、内部応力を低減させた。
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る構造物としての建物1の基礎10の平面図である。
建物1は、地盤面2上に構築された基礎10と、この基礎10上に構築された高層部3と、基礎10上に構築されて高層部3よりも低い低層部4と、からなる。
基礎10は、地盤面2上に構築されて高層部3を支持する高層部基礎20と、地盤面2上に構築されて低層部4を支持する低層部基礎30A、30Bと、を備える。
図1中、破線で囲まれた部分が高層部基礎20であり、残る部分が低層部基礎30A、30Bである。
【0014】
低層部基礎30Aは、平面視で高層部基礎20から所定間隔離れて構築されており、地盤面2上でかつ高層部基礎20と低層部基礎30Aとの間には、応力低減手段としての第1応力低減部40(
図1中斜線で示す)が設けられている。
低層部基礎30Bは、高層部基礎20に接合されており、地盤面2と一部の低層部基礎30Bとの間には、応力低減手段としての第2応力低減部50が設けられている。
【0015】
図2は、
図1の基礎10のA-A断面図である。
図3は、
図1の基礎10の破線Bで囲まれた部分の拡大図である。
図4は、
図3の基礎10のC-C断面図である。
高層部基礎20は、マットスラブである。この高層部基礎20は、低層部4よりも高い高層部3を支持しているため、低層部基礎30A、30Bよりも大きな荷重が作用している。
低層部基礎30Aは、基礎梁31と、基礎梁31の下端部に設けられた耐圧盤32と、基礎梁31の上端部に設けられた床スラブ33と、を備える。
第1応力低減部40は、低層部基礎30Aの耐圧盤32とマットスラブである高層部基礎20との間に構築された鉄筋コンクリート造の下側ジョイント部40Aと、低層部基礎30Aの床スラブ33とマットスラブである高層部基礎20との間に構築された鉄筋コンクリート造の上側ジョイント部40Bと、を備える。
下側ジョイント部40Aは、高層部基礎20と低層部基礎30Aの耐圧盤32との間に構築されたコンクリート体41と、このコンクリート体41に埋設されて両端部が高層部基礎20および低層部基礎30Aの耐圧盤32に定着された鉄筋42と、を備える。
上側ジョイント部40Bは、高層部基礎20と低層部基礎30Aの床スラブ33との間に構築されたコンクリート体41と、このコンクリート体41に埋設されて両端部が高層部基礎20および低層部基礎30Aの床スラブ33に定着された鉄筋42と、を備える。
【0016】
図3および
図4に示すように、第1応力低減部40の両端部でかつ高層部基礎20と低層部基礎30Aとの間には、本設の外周壁43が構築されている。
外周壁43の外側でかつ高層部基礎20と低層部基礎30Aとの間には、外周壁43を構築するための仮設壁60が構築されている。仮設壁60と外周壁43との間には、合成樹脂発泡材62が介装されており、これにより、仮設壁60と外周壁43との付着強度が低減され、第1応力低減部40の変形追従性が高められている。合成樹脂発泡材62としては、押出発泡ポリスチレン材や発泡スチロール材が挙げられる。
また、
図2に示すように、下側ジョイント部40Aの直下でかつ低層部基礎30Aの耐圧盤32と高層部基礎20との間には、下側ジョイント部40Aを構築するための鉄筋コンクリート造の仮設床61が構築されている。仮設床61と下側ジョイント部40Aとの間には、合成樹脂発泡材62が介装されており、これにより、仮設床61と下側ジョイント部40Aとの付着強度が低減され、第1応力低減部40の変形追従性が高められている。
【0017】
図5は、
図1の基礎10のD-D断面図である。
図6は、
図5の基礎10の破線Eで囲まれた部分の拡大図である。
低層部基礎30Bは、高層部基礎20と同様に、マットスラブとなっている。
第2応力低減部50は、地盤面2上に敷設された構造用合板51と、構造用合板51の上に敷設された緩衝材としてのフラットデッキ52と、を備える。フラットデッキ52には、所定間隔おきにリブ53が設けられている。フラットデッキ52は、リブ53が上向きとなるように敷設されており、低層部基礎30Bは、このフラットデッキ52のリブ53の上に構築されている。なお、低層部基礎30Bのフラットデッキ52のリブ53に接する部分は、増打ち部34となっている。
これにより、フラットデッキ52のリブ53は、地盤面2と低層部基礎30Bとの間の緩衝材として機能し、隣り合うリブ53同士の間は空隙となっている。よって、地盤面2と高層部基礎20に接合された低層部基礎30Bとの間には、空隙を含む平版状のフラットデッキ52が設けられ、低層部基礎30Bが高層部基礎20からはね出した状態となっている。
また、
図5および
図6中の一点鎖線は、マットスラブである低層部基礎30Bおよび高層部基礎20の打ち継ぎ面Pを示す。
【0018】
以下、建物1の基礎10を構築する手順について、
図7のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1では、地盤面2上に、高層部基礎20および低層部基礎30A、30Bを構築する。
このとき、第2応力低減部50を構築する。具体的には、第2応力低減部50を以下の手順で構築する。まず、地盤面2上に構造用合板51を敷設し、この構造用合板51の上にフラットデッキ52を敷設する。このフラットデッキ52上に低層部基礎30Bを構築する。
また、仮設壁60および仮設床61を構築し、仮設壁60の内側面および仮設床61の上面に合成樹脂発泡材62を設置する。
【0019】
ステップS2では、高層部基礎20上に高層部3の大部分を構築する。具体的には、高層部3の所定階まで構築する。なお、これに限らず、高層部3をあるいは最上階まで構築してもよい。その結果、高層部基礎20には、構築した高層部3の重量が加わり、高層部基礎20が一定量沈下する。
ステップS3では、
図2に示すように、地盤面2上でかつ高層部基礎20と低層部基礎30Aとの間に、仮設床61を底型枠として利用して、第1応力低減部40を構築する。また、仮設壁60を側型枠として利用して外周壁43を構築する。
ステップS3では、残りの高層部3および低層部4を構築する。
【0020】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)高層部3の大部分を構築して、高層部基礎20が一定量沈下した後に、第1応力低減部40を構築したので、高層部基礎20と低層部基礎30Aとの境界部分に大きな応力が生じるのを防止できる。
また、仮設床61と第1応力低減部40の下側ジョイント部40Aとの間に合成樹脂発泡材62を設置したので、仮設床61と第1応力低減部40との付着強度を低減でき、第1応力低減部40の変形追従性を高めて、仮設床61と第1応力低減部40との境界部分に生じる内部応力を低減できる。
(2)第1応力低減部40の鉄筋42を高層部基礎20および低層部基礎30Aに定着させたので、高層部3を支持する高層部基礎20と、低層部4を支持する低層部基礎30Aとが、第1応力低減部40を介して連結されるから、第1応力低減部40を介して、高層部基礎20と低層部基礎30Aとを一体化できる。
(3)地盤面2上に、高層部基礎20、低層部基礎30A、および第1応力低減部40を設けたので、地盤面2で高層部3および低層部4を支持でき、構造的な安定性を確保できる。
(4)高層部基礎20および低層部基礎30Bを構築する際に、地盤面2と低層部基礎30Bとの間に緩衝材として第2応力低減部50のフラットデッキ52を設けることで、このフラットデッキ52が地盤面2と低層部基礎30Bとの間で伝わる力を低減する。よって、地盤面2から低層部基礎30Bに作用する地反力が低減され、低層部基礎30Bが高層部基礎20から延出した片持ち梁となる。よって、高層部3を構築して、高層部基礎20とともに低層部基礎30Bが沈下しても、高層部基礎20と低層部基礎30Bとの境界部分に大きな応力が生じるのを防止できる。
【0021】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0022】
1…建物(構造物) 2…地盤面 3…高層部 4…低層部
10…基礎 20…高層部基礎 30A、30B…低層部基礎
31…基礎梁 32…耐圧盤 33…床スラブ 34…増打ち部
40…第1応力低減部(応力低減手段) 40A…下側ジョイント部
40B…上側ジョイント部 41…コンクリート体 42…鉄筋 43…外周壁
50…第2応力低減部(応力低減手段) 51…構造用合板
52…フラットデッキ(緩衝材) 53…リブ
60…仮設壁 61…仮設床 62…合成樹脂発泡材 P…打ち継ぎ面