(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】超伝導体の極低温放射線照射向上のための技術並びに関連するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
H01B 12/00 20060101AFI20240627BHJP
C01G 3/00 20060101ALI20240627BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20240627BHJP
G21B 1/17 20060101ALI20240627BHJP
C01G 1/00 20060101ALI20240627BHJP
H05H 7/04 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
H01B12/00
C01G3/00
H01F6/06 110
H01F6/06 140
G21B1/17 B
G21B1/17 C
C01G1/00 S
H05H7/04
(21)【出願番号】P 2021518071
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 US2019054211
(87)【国際公開番号】W WO2020142119
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-04-07
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】鳥居 健一
(72)【発明者】
【氏名】ソルボム,ブランドン・ニルス
(72)【発明者】
【氏名】ハートウィグ,ザカリー
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト,デニス・ジー
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-140675(JP,A)
【文献】Modern Physics Letters B,2001年,Vol.15, No.2,pp.69-80
【文献】京都大学原子炉実験所共同利用研究報告,1989年,平成元年度下期,pp.22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/00
JSTPlus(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶超伝導体の少なくとも一部分が80ケルビンよりも低い温度である間に、イオン線及び/又は中性子線を用いて前記多結晶超伝導体の前記少なくとも一部分を照射するステップ
を含み、
前記照射するステップが、自由陽子線を含むイオン線を用いて前記多結晶超伝導体を照射するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記イオン線が1MeVよりも高い運動エネルギーを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
陽子ビームであるイオンビームの経路内に多結晶超伝導体を配置するステップと、
前記イオンビームからのイオン線が前記多結晶超伝導体の少なくとも一部分上に入射するように前記イオンビームを作動させるステップと、
前記多結晶超伝導体の前記少なくとも一部分が80ケルビンよりも低い温度である間に、前記イオン線を用いて前記多結晶超伝導体の前記少なくとも一部分を照射するステップと
を含む、方法。
【請求項4】
前記照射するステップが、中性子線を用いて前記多結晶超伝導体を照射するステップを含む、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記多結晶超伝導体の前記照射の前に核融合反応炉内部に前記多結晶超伝導体を配置するステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記中性子線が、少なくとも1×10
15のcm
2当たりの中性子のフルエンスを有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
イオン線及び/又は中性子線を用いて前記多結晶超伝導体の前記少なくとも一部分を照射するステップが、真空チャンバ内部で実行される、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項8】
超伝導磁石を製造するステップであって、前記超伝導磁石の少なくとも1つのコイルが、前記多結晶超伝導体の前記照射の後の前記多結晶超伝導体を含む、製造するステップをさらに含む、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項9】
前記多結晶超伝導体が、粒子の整列した多結晶超伝導体である、請求項1又は3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導体の極低温放射線照射向上のための技術並びに関連するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0001]超伝導体は、ある臨界温度よりも下で電流に対する電気抵抗を持たない(「超伝導性」である)材料である。多くの超伝導体にとって、臨界温度は30Kよりも下であり、その結果、超伝導状態におけるこれらの材料の動作は、液体ヘリウムを用いてなどのかなりの冷却を必要とする。
【0003】
[0002]高温超伝導体(「HTS」)は、50K~100Kの間などの、比較的高い臨界温度を有する超伝導体の種類である。希土類バリウム銅酸化物(「REBCO」)などのいくつかのHTS材料は、長い撚線として製造されることがあり、他の用途の中でも、融合装置における使用のための大口径磁石を巻くためにこれらの材料を使用する可能性につながる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
[0003]いくつかの態様によれば、多結晶超伝導体の少なくとも一部分が80ケルビンよりも低い温度である間に、イオン線(ions)及び/又は中性子線(neutrons)を用いて上記多結晶超伝導体の上記少なくとも一部分を照射するステップを含む方法が提供される。
【0005】
[0004]いくつかの実施形態によれば、上記照射するステップが、イオン線を用いて上記多結晶超伝導体を照射するステップを含む。
[0005]いくつかの実施形態によれば、上記イオン線が、自由陽子線(protons)を含む。
【0006】
[0006]いくつかの実施形態によれば、上記イオン線が、1MeVよりも高い運動エネルギーを有する。
[0007]いくつかの実施形態によれば、上記方法は、イオンビームの経路内に上記多結晶超伝導体を配置するステップと、上記イオンビームからのイオン線が上記多結晶超伝導体の上記少なくとも一部分の上に入射するように上記イオンビームを作動させるステップとをさらに含む。
【0007】
[0008]いくつかの実施形態によれば、上記イオンビームが、陽子ビームである。
[0009]いくつかの実施形態によれば、上記照射するステップが、中性子線を用いて上記多結晶超伝導体を照射するステップを含む。
【0008】
[0010]いくつかの実施形態によれば、上記方法は、上記多結晶超伝導体の前記照射の前に核融合反応炉内部に上記多結晶超伝導体を配置するステップをさらに含む。
[0011]いくつかの実施形態によれば、上記中性子線が、少なくとも1×1015のcm2当たりの中性子のフルエンスを有する。
【0009】
[0012]いくつかの実施形態によれば、イオン線及び/又は中性子線を用いて上記多結晶超伝導体の上記少なくとも一部分を照射するステップが、真空チャンバの内部で実行される。
【0010】
[0013]いくつかの実施形態によれば、上記方法は、超伝導磁石を製造するステップであって、上記超伝導磁石の少なくとも1つのコイルが上記多結晶超伝導体の前記照射の後の上記多結晶超伝導体を含む、製造するステップをさらに含む。
【0011】
[0014]いくつかの実施形態によれば、上記多結晶超伝導体が、粒子の整列した多結晶超伝導体である。
[0015]いくつかの態様によれば、多結晶超伝導体を含む磁気コイルと、上記磁気コイルの内側を通過する反応炉チャンバと、上記反応炉チャンバと上記磁気コイルとの間に配置された中性子シールドであって、上記中性子シールドがセンチメートルでP0.1の25倍と35倍との間である厚さを有し、ここでPがメガワットでの核融合反応炉の定格パワー出力である、中性子シールドとを備える、核融合反応炉が提供される。
【0012】
[0016]いくつかの実施形態によれば、上記中性子シールドが、40cmと70cmとの間の厚さを有する。
[0017]いくつかの実施形態によれば、上記中性子シールドが、水素化チタンを含む。
【0013】
[0018]いくつかの実施形態によれば、上記中性子シールドが、ホウ素を含む。
[0019]いくつかの実施形態によれば、上記多結晶超伝導体が、希土類銅酸化物超伝導体を含む。
【0014】
[0020]いくつかの実施形態によれば、上記多結晶超伝導体が、少なくとも1つの電導体を用いて被覆される。
[0021]いくつかの実施形態によれば、上記磁気コイルが、上記多結晶超伝導体のトロイダル巻線を備える。
【0015】
[0022]いくつかの態様によれば、多結晶超伝導体の少なくとも一部分が80ケルビンよりも低い温度である間に、イオン線及び/又は中性子線を用いて上記多結晶超伝導体の上記少なくとも一部分を照射するステップを含むプロセスを介して形成される、向上した多結晶超伝導体が提供される。
【0016】
[0023]いくつかの実施形態によれば、上記照射するステップが、陽子線を用いて上記多結晶超伝導体を照射するステップを含む。
[0024]いくつかの実施形態によれば、上記照射するステップが、中性子線を用いて上記多結晶超伝導体を照射するステップを含む。
【0017】
[0025]いくつかの実施形態によれば、上記多結晶超伝導体が、粒子の整列した多結晶超伝導体である。
[0026]いくつかの態様によれば、放射線照射で(radiatively)変位した原子の拡散によって生じた超伝導体の結晶粒の境界の拡幅を効果的になくす(eliminate)ように選択された極低温でイオン性物質又は中性子線を用いて多結晶超伝導体を照射するステップを含む方法が提供される。
【0018】
[0027]いくつかの実施形態によれば、上記超伝導体が、希土類銅酸化物超伝導体を含む。
[0028]いくつかの実施形態によれば、上記極低温が、高くとも80Kである。
【0019】
[0029]いくつかの実施形態によれば、照射するステップは、弱い磁束ピニングが強い磁束ピニングを支配する条件で動作するときに上記照射した超伝導体中の臨界電流密度を最大にする照射フルエンスを選択するステップを含む。
【0020】
[0030]いくつかの実施形態によれば、照射するステップが、少なくとも0.003の原子当たりの変位を生成するステップを含む。
[0031]いくつかの実施形態によれば、照射するステップが、上記超伝導体の内部に少なくとも1つの弱いピニングサイトを形成する。
【0021】
[0032]いくつかの実施形態によれば、上記方法は、少なくとも1つの電導体を用いて被覆したテープとして上記照射した超伝導体を提供するステップをさらに含む。
[0033]いくつかの実施形態によれば、上記方法は、プラズマの核を融合させるためにチャンバの周りに上記被覆テープを巻き付けるステップをさらに含む。
【0022】
[0034]いくつかの実施形態によれば、上記方法は、上記巻き付けたテープを極低温に冷却するステップと、上記テープに電流を流すステップと、これにより上記チャンバ内に上記プラズマを閉じ込めるために適した磁場を発生させるステップとをさらに含む。
【0023】
[0035]いくつかの実施形態によれば、上記巻き付けたテープを極低温に冷却するステップが、ほぼ20Kの温度まで冷却するステップを含む。
[0036]いくつかの態様によれば、放射線照射で変位した原子の拡散によって生じた超伝導体の結晶粒の境界の拡幅を効果的になくすように選択された極低温でイオン性物質又は中性子線を用いて照射された多結晶超伝導体を含む、物質の構成物(composition)が提供される。
【0024】
[0037]いくつかの実施形態によれば、上記超伝導体が、希土類銅酸化物超伝導体を含む。
[0038]いくつかの実施形態によれば、上記極低温が、高くとも80Kであった。
【0025】
[0039]いくつかの実施形態によれば、上記超伝導体は、弱い磁束ピニングが強い磁束ピニングを支配する条件で動作するときに上記照射した超伝導体中の臨界電流密度を最大にするように選択されたフルエンスにしたがって照射された。
【0026】
[0040]いくつかの実施形態によれば、上記照射が、少なくとも0.003の原子当たりの変位を生成した。
[0041]いくつかの実施形態によれば、上記照射が、少なくとも1つの弱いピニングサイトを生成した。
【0027】
[0042]いくつかの実施形態によれば、上記構成物が、少なくとも1つの電導体を用いて被覆したテープとして提供される。
[0043]いくつかの実施形態によれば、上記構成物は、プラズマの核を融合させるためのチャンバであって、上記テープが上記チャンバの周りに巻き付けられる上記構成物を含む、チャンバをさらに備える。
【0028】
[0044]いくつかの実施形態によれば、上記構成物は、上記チャンバ内に上記プラズマを閉じ込めるための磁場を発生させるために内部で循環する電流にとって適した温度まで冷却される。
【0029】
[0045]いくつかの態様によれば、放射線照射で変位した原子の拡散によって生じた超伝導体の結晶粒の境界の拡幅を効果的になくすように選択された極低温でイオン性物質又は中性子線を用いて照射された多結晶超伝導体を含む少なくとも1つのトロイダル磁場コイルを有する核融合反応炉が提供される。
【0030】
[0046]前述の装置及び方法実施形態は、上に又は下記にさらに詳細に記述した態様、構成(feature)、及び行為のいずれかの適切な組み合わせを用いて実装されることがある。本教示のこれらの及び他の態様、実施形態、及び構成は、添付の図面とともに下記の説明からより十分に理解され得る。
【0031】
[0047]様々な態様及び実施形態が、次に続く図を参照して説明されるだろう。図が必ずしも等尺で描かれる必要がないことが高く評価されるべきである。図面では、様々な図に図示される各々の同一の構成要素又はほぼ同一の構成要素が類似した数字によって表される。明確さのために、すべての構成要素がすべての図面で符号を付けられないことがある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】[0048]希土類バリウム銅酸化物(「REBCO」)化合物に関する例示の結晶構造の図である。
【
図2】[0049]例示の被覆導体REBCOテープの層の断面図である。
【
図3】[0050]多種多様な銅酸塩超伝導体に関する正孔濃度の規格化した臨界温度(Tc)依存性のプロットである。
【
図4】[0051]例示のYBCO超伝導体のTEM像である。
【
図5】[0052]超伝導材料の図であり、強いピニングサイトと弱いピニングサイトとの間の違いを図示する。
【
図5A】[0053](上)電子オーダリング及び磁化からの自由エネルギー密度の寄与、及び(下)これらの和の2つのプロットであり、常電導-超伝導境界が熱力学的に安定であることを示し、一部のフラックスの浸透を可能にすることを示す図である。
【
図6】[0054]異なる温度で1×10
16p/cm
2及び5×10
16p/cm
2のフルエンスに照射された試料の5T及び30Kでの、臨界電流密度Jcのプロットである。
【
図7-1】[0055]様々な測定磁場及び温度での陽子照射に起因するREBCO Jc悪化についての照射温度効果を図示するプロットの抜粋である。
【
図7-2】[0055]様々な測定磁場及び温度での陽子照射に起因するREBCO Jc悪化についての照射温度効果を図示するプロットの抜粋である。
【
図8】[0056]照射した超伝導体の臨界温度対照射温度のプロットである。
【
図9】[0057]測定した臨界電流密度Jcと弱いピニングについての予測した依存性に対するフィッティングとの比較の図である。
【
図10A】[0058]低温、低フルエンス照射(80K及び5×10
15p/cm
2)におけるJcと測定角θとの比較の図である。
【
図10B】[0059]低温、中フルエンス照射(80K及び1×10
16p/cm
2)におけるJcとθとの比較の図である。
【
図10C】[0060]低温、高フルエンス照射(80K及び5×10
16p/cm
2)におけるJcとθとの比較の図である。
【
図10D】[0061]高温、低フルエンス照射(423K及び5×10
15p/cm
2)におけるJcとθとの比較の図である。
【
図10E】[0062]高温、中フルエンス照射(423K及び1×10
16p/cm
2)におけるJcとθとの比較の図である。
【
図10F】[0063]高温、高フルエンス照射(423K及び5×10
16p/cm
2)におけるJcとθとの比較の図である。
【
図11A】[0064]べき乗則にフィッティングした非照射のコントロール試料についてのJcと磁場強度Bとの比較の図である。
【
図11B】[0065]各々のフルエンスにおけるべき乗則への計算したフィッティングとともに、中フルエンス及び高フルエンスへと80Kにおいて照射した超伝導体についてのJcとBとの比較の図である。
【
図11C】[0066]各々のフルエンスにおけるべき乗則への計算したフィッティングとともに、中フルエンス及び高フルエンスへと423Kにおいて照射した超伝導体についてのJcとBとの比較の図である。
【
図12A】[0067]1×10
15p/cm
2の低フルエンスへの80Kにおける照射についてのピニング律速Jcのプロットである。
【
図12B】[0068]5×10
15p/cm
2の低フルエンスへの80Kにおける照射についてのピニング律速Jcのプロットである。
【
図12C】[0069]1×10
16p/cm
2の中程度のフルエンスへの80Kにおける照射についての結晶粒界律速Jcレジームとピニング律速Jcレジームとの間のクロスオーバーを示すプロットである。
【
図12D】[0070]5×10
16p/cm
2の高フルエンスへの80Kにおける照射についての結晶粒界律速Jcレジームとピニング律速Jcレジームとの間のクロスオーバーを示すプロットである。
【
図13】[0071]高フルエンスへの80K照射及び423K照射についてのJcレジームを比較した図である。
【
図14】[0072]80K及び423Kにおける照射についての一次ノックオン原子(PKA)当たりのシミュレーションしたフレンケル対の生成に対するPKAエネルギーのプロットである。
【
図15】[0073]小型融合モデル(「ARC」と記す)にしたがって1MeV陽子線及び中性子線からもたらされるPKAエネルギー関数の累積分布の比較の図である。
【
図16】[0074]800Kにおける模擬YBCO格子内の拡散係数を決定するための二乗平均分布(「MSD」)フィッティングのプロットである。
【
図17】[0075]実施形態にしたがってREBCOテープを製造するための例示のプロセスについてのフローチャートである。
【
図18A】[0076]HTSを照射するためのターゲット搭載台の図であり、最上部に第1のコリメータ、次いで電子抑制電極、次いで底部に二次G-10コリメータ搭載台を示す。
【
図18B】[0077]コリメータ及び抑制電極を取り除いた状態のターゲットエリアのクローズアップ図であり、動作中にターゲット上のビームを中心に置くために使用する電流ピックアップを示す。
【
図19】[0078]いくつかの実施形態による、中性子線及び/又はイオン線を用いた多結晶超伝導体の照射を図示する模式図である。
【
図20A】[0079]いくつかの実施形態による、融合反応炉の断面を図示する模式図である。
【
図20B】[0080]いくつかの実施形態による、反応炉の様々な構成要素を図示する切り欠き部を有する融合反応炉の3次元グラフィックである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[0081]上に論じたように、いくつかの高温超伝導体(HTS)材料が、長い撚線として製造され、そして磁石を形成するために(他の材料とともに)巻き付けられることがある。これらの磁石は、核磁気共鳴(NMR)装置、磁気共鳴撮像(MRI)装置、発電機(例えば、風力タービン)、医療用加速器(例えば、陽子線治療システム)、超伝導エネルギー蓄積装置、核融合反応炉(例えば、トカマク)、磁気流体力学(MHD)発電機、等を含め、多種多様な異なる装置内に配置されることがある。
【0034】
[0082]いくつかの用途に関して、HTS材料は、しばしば「テープ」と呼ばれる、長く薄い撚線として製造されることがある。テープ内のHTS材料は、その長さ及びテープが製造される技術のために典型的には多結晶である。多結晶材料では、「結晶粒界」として知られる微結晶同士の間の界面が、しかしながら、材料の電気的特性の妨げになることがある。特に、超伝導材料にとって、ずれて並んだ結晶粒界の存在は、材料の臨界電流を低くすることがあり、臨界電流は超伝導体が抵抗なしに維持することができる最大輸送電流密度である。結果として、多結晶超伝導体にとって、超伝導体の電気的特性への結晶粒界の効果が最小にされ得るように、隣り合う粒子同士の間に高いレベルのアライメントがあることが望ましい。したがって、HTSテープは、高いレベルの粒子アライメントでしばしば製造される。
【0035】
[0083]発明者は、多結晶超伝導体の結晶粒界が中性子線及び/又はイオン線の十分に高いフルエンスに曝されたときに変質することがあることを認識し察知している。さらにその上、発明者は、結晶粒界の変質の大きさが照射中の多結晶超伝導体の温度の関数として変化し得ることを認識し了解しており、温度が低いほど小さな変質しか作らないことをともなう。理論によっては縛られずに、入射中性子線及び/又はイオン線によって引き起こされる第1の効果は、多結晶超伝導体内部の欠陥が結晶粒界まで拡散することを可能にすることが考えられる。欠陥のこの放射線照射増速拡散の結果として、結晶粒界は、広くなることがある及び/又は低いアライメントに悩まされることがあり、超伝導体の電気的特性への上に説明した負の効果につながる。
【0036】
[0084]結晶粒界の変質が単結晶超伝導体には結晶粒界がないことのために単結晶超伝導体では予想されないことに留意されたい。加えて、焼結した多結晶超伝導体上へと入射する中性子線及び/又はイオン線が結晶粒界のいくらかの変質を生成する一方で、これらの材料には初期粒子アライメントがないことは、結晶粒界の変質が焼結した多結晶超伝導体の電気的性能の測定可能な低下につながらないことがあり得ることを意味する。対照的に、発明者によって認識され了解されたように、長く粒子が整列した多結晶超伝導体の上へと入射する中性子線及びイオン線は、材料の電気的特性の著しい低下を引き起こすことがある。
【0037】
[0085]多結晶超伝導体の上へと入射する中性子線及びイオン線の上に記述した効果は、多結晶超伝導体を含む装置を長時間にわたって低い性能で機能させることがあり得る。例えば、多結晶超伝導体を含む磁石(例えば、MRIシステム内の磁石)は、長時間にわたり、超伝導体の結晶粒界の変質を引き起こす放射線照射に曝されることがあり、超伝導体の低い臨界電流につながり、これにより磁石の性能を変える。
【0038】
[0086]発明者は、入射中性子線及び/又はイオン線への曝露が、多結晶超伝導体中のピニングサイトを形成する及び/又は増加させることがあり、この効果が極低温(例えば、80ケルビンよりも下)でより強調されることをともなうことをさらに認識し了解している。ピニングサイトは、磁束線が決まった場所に保持される超伝導体内部の場所である。タイプII超伝導体では、磁束線は、超伝導体を通過する電流のためにロレンツ力を経験することがあるが、この力はピニングサイトにより発揮される「ピニング」力により相殺されることがある。超伝導材料中の欠陥は、例えば、ピニングサイトとして作用することがある。一般的に言って、ピニングサイトによって与えられる全ピニング力が大きいほど、大きな臨界電流につながる。結果として、入射中性子線及び/又はイオン線に多結晶超伝導体を曝すことは、超伝導体中のピニングサイトを形成すること及び/又は増加させることによって超伝導体の電気的特性を向上させることができ、そして超伝導体が極低温であるときに前記曝露が実行されるとより大きく向上させることができる。
【0039】
[0087]発明者は、装置内で超伝導体の使用中の多結晶超伝導体の電気的特性の低下が、装置への超伝導体の組込みの前に極低温で中性子線及び/又はイオン線に超伝導体を曝すことによって緩和されることがあることをさらに認識し高く評価している。上に論じたように、発明者は、入射中性子線及び/又はイオン線に曝された多結晶超伝導体の結晶粒界の変質の量が、より低い温度では減少することを認識している。さらにその上、より低い温度で入射中性子線及び/又はイオン線に多結晶超伝導体を曝すことは、超伝導体中にピニングサイトを作り出す及び/又は増加させることがある。これら2つの効果の最終的な(net)結果は、臨界電流の増加などの超伝導体の電気的特性の最終的な向上であり得る。少なくともいくつかのケースでは、超伝導体の結晶粒界の変質は、上に論じたようにその後に依然として生じることがあるが、その電気的特性を向上させるための超伝導体の前「処理」が、結晶粒界の変質に起因する悪化を部分的に又は完全に打ち消すことができる。
【0040】
[0088]例えば、多結晶超伝導体を含む磁石は、ある期間にわたって環境からの放射線照射に曝されることがあり、上に論じたような多結晶超伝導体の結晶粒界の変質につながる。磁石内に多結晶超伝導体の組込みの前に、超伝導体は、超伝導体が極低温であるときに入射中性子線及び/又はイオン線に曝されることがある。このことは、結晶粒界を著しく変質させないままで超伝導体中にピニングサイトを作り出す及び/又は増加させ、超伝導体の電気的特性の最終的な改善をもたらす。したがって、磁石の動作中に生じる結晶粒界の何らかの変質は、磁石に超伝導体の組込みの前に超伝導体を「処理すること」によって生み出される改善によって相殺されることがある。
【0041】
[0089]いくつかのケースでは、トカマクなどの磁石を含む融合反応炉は、磁石中へと多結晶超伝導体を組み込むことができる。そのようなケースでは、多結晶超伝導体は、反応炉内部で生成されそして磁石によっては影響を受けない軌道を有する中性子線に曝されることがあり得る。一般に、中性子線を阻止することに有効なシールドが、磁石を保護するために炉心と反応炉内の超伝導磁石との間に配置される。所与のパワー出力の反応炉がより小型に作られるので、比例方式で中性子シールドのサイズを縮小することが望ましい。しかしながら、シールド厚さの直線的な減少は、指数関数的に高い中性子フラックスにつながり、これが十分な中性子シールドを有する小型の大パワー反応炉を作る際の難題を提示する。
【0042】
[0090]上に論じたように、発明者は、多結晶超伝導体の結晶粒界の変質が極低温で最小化され得ること、及び入射中性子線への曝露が多結晶超伝導体内にピニングサイトを作り出す及び/又は増加させることがあり、この効果が極低温でより明確にされることをともなうことを認識し高く評価している。融合反応炉内で動作する磁石内の多結晶超伝導体が極低温で保持されるので、これらの効果の発明者の認識は、中性子シールド厚さが従来から考えられているものよりも小さくてもよいことを示す。すなわち、これらの効果の発明者の認識は、多結晶超伝導体上の入射中性子線の最終的な効果が超伝導体の限定された悪化を引き起こすことがあり、そしていくつかのケースでは、その電気的特性を高めることさえあり得ることを示す。結果として、より少ないシールドを有する融合反応炉が製造されることがあり、より小型の反応炉が作られることを可能にする。
【0043】
[0091]下記に続くものは、超伝導体の極低温放射線照射の向上のための技術に関する様々な概念、及び実施形態のより詳細な説明である。本明細書において記述する様々な態様が数多くの方法のうちのいずれかで実装されてもよいことを高く評価すべきである。具体的な実装形態の例が、単に例示の目的で本明細書に提供される。加えて、下記の実施形態に記載される様々な態様は、単独で又は任意の組み合わせで使用されてもよく、そして明示的に本明細書において説明した組み合わせに限定されない。
【0044】
[0092]
図19は、いくつかの実施形態による、中性子線及び/又はイオン線を用いた多結晶超伝導体の照射を描く模式図である。
図19の例では、システム1900は、イオン線及び/又は中性子線の線源1920を含み、この線源が多結晶超伝導体1920の一部分1921の上に入射する中性子ビーム及び/又はイオンビーム1915を生成する。多結晶超伝導体1920、又は多結晶超伝導体の少なくとも一部分1921が、極低温であってもよく、その例が下記に説明される。
【0045】
[0093]いくつかの実施形態によれば、線源1910は、中性子線を出力するように及び/又は、限定されないが、電子線、陽子線、アルファ粒子線、等などのイオン線を出力するように構成された装置を備えることができる。いくつかの実施形態では、例えば、線源1910は、デュオプラズマトロン、マグネトロンなどの陽子ビーム源、及び/又は陽子線を生成するために材料の上へとレーザビーム(例えば、金属箔の上へとレーザビーム)を向けるように構成されたレーザを備えることができる。いくつかの実施形態では、線源1910は、電子銃を備えることができる。いくつかの実施形態では、線源1910は、核破砕線源又は粒子加速器などの中性子線の線源であってもよい。
【0046】
[0094]いくつかの実施形態によれば、線源1910は、多結晶半導体の一部分1921の上へと入射する1012粒子/cm2と1016粒子/cm2との間の粒子のフルエンスを生成するように相当の期間にわたって運転されることがある。フルエンスは、ある面積の全体にわたり生成される粒子の総数である。いくつかの実施形態では、線源1910は、1012、1013、1014、1015又は1016粒子/cm2以上の粒子のフルエンスを生成することができる。いくつかの実施形態では、線源1910は、1016、5×1015、1014、又は1013粒子/cm2以下の粒子のフルエンスを生成することができる。上に言及した範囲の任意の適切な組み合わせ(例えば、1014と5×1015粒子/cm2との間のフルエンス)もまた可能である。フルエンス値が入射粒子の総数を表すので、上記値が多結晶半導体の一部分1921の上へと入射するように指定された数の粒子を生じさせるためにかかる時間とは無関係であることが察知されるだろう。実例として、線源1910は、1016粒子/cm2のフルエンスを生成するために1000秒の間1012粒子/cm2/sである多結晶半導体の一部分1921の表面のところでの粒子のフラックスを生成することができる。
【0047】
[0095]いくつかの実施形態では、線源1910は、1015、5×1015、1016又は5×1016陽子/cm2以上の陽子線のフルエンスを生成するように構成されることがある。いくつかの実施形態では、線源1910は、1017、5×1016、1016又は5×1015陽子/cm2以下の陽子線のフルエンスを生成するように構成されることがある。上に言及した範囲の任意の適切な組み合わせ(例えば、5×1015と1016陽子/cm2との間のフルエンス)もまた可能である。
【0048】
[0096]いくつかの実施形態では、線源1910は、1017、5×1017、1018、5×1018、1019、又は5×1019中性子/cm2以上の中性子線のフルエンスを生成するように構成されることがある。いくつかの実施形態では、線源1910は、5×1019、1019、5×1018、1018又は5×1017中性子/cm2以下の中性子線のフルエンスを生成するように構成されることがある。上に言及した範囲の任意の適切な組み合わせ(例えば、5×1017と1018中性子/cm2との間のフルエンス)もまた可能である。
【0049】
[0097]いくつかの実施形態では、線源1910は、0.5MeV、1MeV、2MeV、5MeV、又は10MeV以上の平均運動エネルギーを有する陽子線を生成するように構成されることがある。いくつかの実施形態では、線源1910は、20MeV、15MeV、10MeV、5MeV、又は2MeV以下の平均運動エネルギーを有する陽子線を生成するように構成されることがある。上に言及した範囲の任意の適切な組み合わせ(例えば、1MeVと2MeVとの間の陽子運動エネルギー)もまた可能である。いくつかの実施形態では、線源1910は、0.1MeV、0.2MeV又は0.5MeV以上の平均運動エネルギーを有する中性子線を生成するように構成されることがある。
【0050】
[0098]いくつかの実施形態によれば、多結晶超伝導体1920は、希土類バリウム銅酸化物(REBCO)材料、イットリウムバリウム銅酸化物(YBCO)材料、いずれかの希土類銅酸塩材料、又はこれらの組み合わせを含むことができる。いくつかの実施形態によれば、多結晶超伝導体1920は、REBCOテープなどの、いわゆる超伝導体テープを含むことができる。テープの例示の寸法は、0.001mmと0.1mmとの間の厚さ、及び1mmと12mmとの間の幅を含むことができる。いくつかの実施形態によれば、多結晶超伝導体1920は、粒子の高いアライメントを示すことがある(「粒子が整列する」ことがある)。本明細書において使用するように、「粒子の整列した」多結晶超伝導体は、10%未満の結晶粒界ミスアライメントを示す多結晶超伝導体を含むことができるが、これに限定されない。
【0051】
[0099]上に記したように、「REBCO」は、「希土類バリウム銅酸化物」の頭字語である。本明細書において使用するように、少なくともいくつかのケースでは、「REBCO」は、任意の希土類銅酸塩HTSをより一般的に呼ぶために使用されることがある。したがって、別なふうに明確に述べない限り、バリウムは、REBCO中に存在することがあるが、存在することが必ずしも必要ではない。
【0052】
[00100]いくつかの実施形態によれば、多結晶超伝導体1920は、超伝導体材料だけを含むことがある。あるいは、多結晶超伝導体1920は、他の材料に加えて被覆した超伝導体材料を含むことができる。例えば、REBCOテープは、
図2の例に示したような被覆導体テープを生成するために導体層及びバッファ層とともに配置され、次いで中性子線及び/又はイオン線が被覆導体テープの上へと入射するようにシステム1900内に配置されることがある。
【0053】
[00101]いくつかの実施形態によれば、システム1900の動作中に、多結晶半導体の一部分1921は、10K、20K、40K、60K又は70K以上の温度で保持されることがある。いくつかの実施形態によれば、システム1900の動作中に、多結晶半導体の一部分1921は、80K、77K、70K、40K又は30K以下の温度で保持されることがある。上に言及した範囲の任意の適切な組み合わせ(例えば、20Kと70Kとの間の温度)もまた可能である。多結晶半導体の一部分1921の温度は、液体ヘリウム又は液体窒素などの極低温液体とのスルーコンタクトを含め、いずれかの適切な技術又は装置を通して達成されることがある。
【0054】
[00102]
図20Aは、いくつかの実施形態による、融合反応炉の断面を図示する模式図である。上に論じたように、融合反応炉内部の磁石は、多結晶超伝導体から形成されることがあり、そして中性子シールドによって炉心(そこではプラズマが核融合を受けるために形成される)から分離されることがある。
図20Aは、反応炉を通る断面を示し、そして多結晶超伝導体から製造される、又はそうでなければ含む、磁石コイル2011、中性子シールド2012、及び炉心領域2013を含む。
【0055】
[00103]いくつかの実施形態によれば、中性子シールド2012は、高エネルギー中性子線(「高速中性子線」)を和らげるために適した及び/又は熱中性子線を吸収するために適した1つ又は複数の材料を含むことができる。例えば、中性子シールド2012は、多数の軽原子を含む、ポリエチレン(これはホウ素化される及び/又は重水素化さえることがある)などの1つ又は複数のポリマ、及び/又は水素化チタン(TiH2)を含むことができる。いくつかのケースでは、中性子シールド2012は、鋼板(例えば、ホウ化鋼板及び/又はフェライト系ステンレス鋼板)などの金属を含むことができる。いくつかの実施形態では、中性子シールドは、中性子線を和らげるための内側層(例えば、ポリエチレン)及び熱中性子線を捕らえるための外側層(例えば、ホウ化鋼)などの多数の層を含むことができる。いくつかの実施形態によれば、中性子シールド2012は、炭化ホウ素(B4C)を含むことができる。
【0056】
[00104]上に論じたように、発明者は、多結晶超伝導体上に入射する中性子線が、超伝導体に限定された変質を引き起こすことがあり、そしていくつかのケースではその電気的特性を向上させることさえあること、及び結果として、少ないシールドを有する融合反応炉が製造されることがあり、より小型の反応炉が作られることを可能にすることを認識し高く評価している。中性子シールド2012の厚さは、これゆえこれらの効果の理解に基づき、そして下記のように、反応炉のパワー出力及び寿命時間の関数として決定されることがある。
【0057】
[00105]融合反応炉内に配置された多結晶HTSの予想される寿命時間は、下記のように表されることがある、
【0058】
【0059】
ここで、Lは予想される寿命時間であり、φは、臨界電流がある公称値(例えば、HTSが反応炉に最初に取り付けられたときの臨界電流の値)より下に低下するようにHTSの変質を引き起こすことが予想される中性子線の臨界フルエンスであり、frは中性子減衰係数でありそしてシールド厚さの関数であり、Pは寿命時間Lにわたる反応炉のメガワット(MW)での予想される平均パワー出力(今後「定格パワー出力」と呼ばれる)であり、そしてCは次元目的の一定の変換係数であり、そして寿命時間Lにわたる反応炉の予想される使用可能時間/稼働時間を含む。frは中性子シールドの厚さtの指数関数であり、上記は、臨界中性子フルエンスφ=3×1019中性子/cm2と仮定して、
【0060】
【0061】
と表現し直されることがある。
[00106]この実験式は、発明者の上に述べた認識に基づいて、MWでの所与の定格パワー出力を有しそして年での所与の寿命期間にわたる反応炉用の中性子シールドの(センチメートルでの)適切な厚さを決定するために利用されることがある。例えば、500MWの定格パワー出力を有し15年の寿命時間を有する反応炉に関して、厚さはほぼ60cmである。これは、15年の寿命時間を有する500MW反応炉用の融合反応炉において実行可能であると従来から理解されるものよりも小さな厚さを表すことができる。
【0062】
[00107]上記の式は、MWでの定格パワー出力をcmでのシールドの厚さの範囲にさらに関係付けるために、近似されそして単純化されることがあり、ここでは、寿命時間の妥当な値が、値の範囲によってもたらされる。特に、cmでの厚さは、下記、
t=APB
のようにMWでのパワーの関数として記述されることがあり、ここで、A及びBは定数である。
【0063】
[00108]いくつかの実施形態によれば、Aは、20、22、25、27、又は30以上の値を有することがある。いくつかの実施形態によれば、Aは、42、40、37、35、32、又は30以下の値を有することがある。上に言及した範囲の任意の適切な組み合わせもまた可能である(例えば、Aは、25と35との間であってもよい)。いくつかの実施形態によれば、Bは、0.08、0.09、0.10、0.11、又は0.12の値を有することがある。Aの値についての上に言及した範囲の任意の適切な組み合わせが、Bのこれらの値のうちのいずれかと組み合わせられることがある。例えば、いくつかの実施形態では、tは、25×P0.1と35×P0.1との間(500MWの定格の反応炉に関してほぼ47cmと65cmとの間)であってもよく、いくつかの実施形態では、tは、22×P0.11と32×P0.11との間(500MWの定格の反応炉に関してほぼ44cmと63cmとの間)であってもよい。
【0064】
[00109]
図20Bは、いくつかの実施形態による、反応炉の様々な構成要素を図示する切り欠き部を有する融合反応炉の3次元グラフィックである。例示の反応炉2000は、多結晶超伝導体から製造される又はそうでなければ含む磁石コイル2021、及び炉心領域2023を描く。中性子シールドは、
図20Aの例には描かれていないが、白い楕円で強調され設置された2021のところにコイル2021と炉心領域2023との間に配置されることがある。
【0065】
[00110]いくつかの実施形態によれば、動作では、磁石コイル2011及び/又は磁石コイル2021は、多結晶HTSを含み、そしてHTSの超伝導遷移温度よりも下である温度で保持されることがある。上に論じたように、多結晶HTS上への入射中性子線の負の効果(結晶粒界の変質)がより低い温度において緩和され、そして多結晶HTS上への入射中性子線のプラスの効果(ピニングサイトの生成及び/又は増加)がより低い温度で増大するので、超伝導状態で多結晶HTSを動作させるために必要な低温でそしていくつかのケースでははるかに低い温度で多結晶HTSを動作させるという利点があり得る。例えば、50Kよりも上の臨界温度を有する多結晶HTSが、20K付近で動作されることがある、又は30Kよりも上の臨界温度を有する多結晶HTSが、20K付近で動作されることがある。
【0066】
[00111]上に記述した技術に関するさらなる補足情報が、下記に説明される。下記の説明は、背景材料に加えて実験の検討を含み、決して限定するように見られるべきではない。
REBCO超伝導体のさらなる検討
[00112]上に論じたように、希土類バリウム銅酸化物(「REBCO」)は、セラミック系の高温超伝導体(「HTS」)である。REBCOについての例示の結晶構造が
図1に示される。セラミック系のHTSが1987年に初めて発見されたが、REBCO HTS導線の大規模生産は、高い性能を維持したままでREBCOの長い撚線を製造する際の困難さのために最近まで不可能であった。ローリングアシステッドバイアキシャルテクスチャードサブストレート(「RABiTS」)及びイオンビームアシステッドデポジション(「IBAD」)などの堆積前躯体法における進歩は、過去数年でREBCOのキロメートル長さの撚線の製造を可能にし、他の用途の中で、融合装置での使用のために大口径磁石を巻くためにHTSを使用することの可能性を開拓している。
【0067】
[00113]これまでは、超伝導トカマク融合装置内の最大コイル上磁場強度は、ほぼ13テスラ(13T)に制限され、標準アスペクト比に関して約6Tに軸上磁場強度を制約した。しかしながら、REBCOの磁場、電流、及び温度における動作空間の拡大がこの制約を取り除いた。高磁場におけるREBCOの著しい臨界電流低下の欠如は、トカマクがはるかに高い軸上磁場で設計されることを可能にする。より高い磁場の利用(access)は、プラズマ物理の制約を著しく緩和し、そしてより高い磁場でより小さな装置がより低い磁場を用いたより大きな装置と同じ性能を利用することを可能にする。
【0068】
[00114]すべてのタイプの超伝導磁石、低温超伝導体(「LTS」)及びHTSの両者は、高エネルギー中性子放射線照射に敏感である。典型的には、しかしながら、融合関連HTS放射線照射研究は、放射状構造内に十分なシールドを有する大きな(すなわち、主半径R>6m)反応炉に集中する傾向がある。LTS磁石もまた、超伝導体自体よりも放射線照射に対して典型的により敏感である大量の電気的絶縁物を必要とする。結果として、中性子照射研究は、単位面積当たりの照射した粒子のフルエンスとして測定した、大きな融合反応炉における使用のために被覆導体を認定するのに「十分である」ある量に単に至るまで放射線照射損傷の効果に焦点を当てることがある。例えば、>0.1ミリオン電子ボルト(0.1MeV)のエネルギーを有する「高速」中性子線のほぼ3×1018中性子/cm2のフルエンスは、大きな反応炉にとって十分であり得る。ITERトカマクなどの大きな融合反応炉では、そのコイルに対する寿命フルエンスは、約2×1018中性子/cm2になると予想される。
【0069】
[00115]HTSを利用する小型、高磁場反応炉では、しかしながら、この状況は著しく変化する。高磁場磁石は小さな高性能装置が設計されることを可能にするので、特にインボードレグ内の磁石中性子シールドの厚さは、装置のサイズとともに低下する。一方で中性子線が重水素-トリチウム(「D-T」)融合における一次エネルギー源であるので、中性子線が電荷を搬送しないという理由で、中性子線の軌跡は高い磁場によっては影響されない。中性子の減衰が、直線的な効果とは反対に指数関数的であるので、シールド厚さの直線的な減少が、磁石に到達する指数関数的に高い中性子フラックスにつながる。加えて、遮断されていないHTS融合磁石を設計する可能性は、電気的な絶縁よりはむしろ、このような磁石内の一次放射線照射律速材料を超伝導体にさせる。最後に、高磁場磁石に対して望まれる高性能を得るために、小型装置内のHTSは、その臨界温度よりもはるかに低い、例えば、10~20Kの間の温度まで「サブクール」されることがある。これらの新たな条件は、小型の高磁場設計において存在するであろう低温及び高磁場で実行される測定を用いて、より高いフルエンスへのREBCO照射研究の拡大を動機づける。
【0070】
[00116]多種多様なREBCOテープ製造方法は、極低温照射温度など小型反応炉に関連する動作条件の下で異なるテープ成分についての放射線照射効果を比較するために大規模な照射研究を動機づける。このような研究がNb
3Snに実行されたとはいえ、極低温中性子照射を実行できる施設は現在のところ存在しない。このような施設が1990年代に段階的に廃止される前に、少数の極低温YBCO中性子照射が実行された。これらの研究が、極低温照射と室温照射との間の違いを示したが、小型HTS融合反応炉に関連するより高いフルエンス及び低温/高磁場条件でのデータはない。加えて、これらの研究の照射したYBCO試料は、今日利用可能な長い長さで、高品質で、粒子の整列した、被覆導体超伝導体とは対照的に、HTS開発の初期からの単結晶試料又は焼結した多結晶試料のどちらかであった。
図2は、例示の被覆導体REBCOテープの層の断面を示す。
【0071】
[00117]融合磁石用の超伝導体性能の文脈では、超伝導体への「損傷」又は「改善」を評価するための1つの適切な性能指数は、臨界電流Icである。Icが直接測定可能な量であるとはいえ、顕微鏡的な物理性能パラメータは、実際のところ、(市販のテープに存在する機械的層及び安定化層の追加を無視して)超伝導体自体の断面を通る臨界電流密度Jcである。量Jcは、測定したIcを、例えば、トンネル電子顕微鏡(「TEM」)測定によって決定されるような、被覆導体の幅及びREBCO層の厚さで割り算することによって決定されることがあり、下記ではテープ性能測定基準と呼ばれる。
【0072】
[00118]REBCOが照射されるにつれて、多種多様な変化が規則正しい超伝導結晶格子の内部に生じることがあり、そしてJcについての競合効果が現れることがある。一方で、原子の変位及び欠陥クラスターの生成が、(a)超伝導臨界温度Tcの抑制、(b)格子非晶質化、(c)粒子間電流転送の低下、及び(d)固有のピニングサイトの乱れ、のうちの1つ又は複数を通してJcを低下させる傾向を有する。他方で、(e)点欠陥及び欠陥クラスターが、人工的なピニング中心として作用することがあり、有益なピニングサイトの生成によってJcを大きくする。これらのメカニズムの累積の効果が、測定されるJcの最終的な増加又は減少として観測されることがある。メカニズムのうちのいくつかが簡潔に上に既に説明されたこれらのメカニズムの要約が、下記に提示される。
【0073】
(a)臨界温度の抑制
[00119]Jcが超伝導体の照射を通して悪化されることがある1つのメカニズムが、放射線照射誘起欠陥の蓄積による臨界温度Tcの抑制を表面化させる。Tcの近くでは、温度についてのJcの依存性は、Ginzburg-Landau〈「GL」〉理論により次式、
【0074】
【0075】
として与えられることがある。
[00120]このように、Tcの悪化は、臨界電流Jcの低下をもたらすだろう。YBCO超伝導体内のTc悪化に関する化学的理由は、CuO
2平面内のCu原子当たりの正孔の濃度として定義される、「ドープト正孔濃度」pの尺度であるYB
2Cu
3O
7-δの酸素欠損δに関係すると理解される。Tcは、
図3に見られるように、p≒0.16の最適正孔濃度の状態で、正孔濃度とともに放物線的に変化する。
【0076】
[00121]Tcについて正孔濃度の効果に関する説明は、超伝導電流を搬送するクーパー対の「デペアリング」につながる添加した磁性不純物及び非磁性不純物に起因する強められた電子散乱であるように理論化されてきている。この散乱は、より多くのCu及びO空格子点が導入されるので超伝導性CuO2平面内で生じる。
【0077】
[00122]対破壊についての他の微細構造的な説明は、銅酸塩格子の構造に関係する。上に述べたように、銅酸塩超伝導体の酸素の化学量論性は、格子定数及び超導電性結晶の構造に大きな影響を有することがある。ほぼ0.6のδ値で、正方晶から斜方晶への相転移が、銅酸塩の結晶格子内に生じる。この観測が、「電荷貯蔵/移動」モデルの開発につながり、このモデルでは、Cu-OチェーンがCuO2超伝導性平面における電荷に関する貯蔵部として作用する。Cu-Oチェーンの乱れは、CuO2平面に対して利用可能な電子ホール(すなわち、電荷キャリア)の数に影響を及ぼす。Tc悪化をもたらす放射線照射損傷は、上に説明したように損傷を受けたCuO2平面がまだ超伝導電流を搬送できるので、超伝導格子の完全な非晶質化とは異なる。微細構造的な観点から、Tc悪化に結びつく損傷のタイプは、欠陥又は点欠陥の小さなクラスターである。
【0078】
(b)格子非晶質化
[00123]超伝導体内で生じることがある放射線照射損傷の第2の一般的なタイプは、超伝導格子の完全な非晶質化であり、超伝導体内部に常電導性(すなわち、非超伝導性)領域をもたらす。Moeckly他のフィラメンタリモデルは、超伝導コヒーレンス長、ξ、のオーダーであるフィラメントのサイズを有する「非超伝導母材中に埋め込まれた超伝導フィラメントのネットワークから構成される複合系」として高温超伝導体を記述する。欠陥クラスター及びカスケードが超伝導材料へと導入されるので、超伝導フィラメントのネットワークは、超伝導性状態が完全に崩壊するまで密度がどんどん小さくなる。
【0079】
[00124]いくつかの実験は、照射されたYBCO結晶内の高度に非晶質な領域によって囲まれた約5~10nmの直径を有する超伝導セルの粒間「セル状」微細構造の形成を観察している。この微細構造の始まりが、これらのセル状境界による超伝導電流の完全な遮断を示唆しているTc(及びしたがってJc)の急速な悪化に対応した。興味深い観察結果は、セル状構造の始まりが当初の超伝導体品質(超伝導状態と通常状態との間の遷移の素早さとして定義される)及び照射のタイプの両方に大きく依存したことであった。セル化の始まりは、イオン照射に関して0.07の計算された原子当たりの変位(「DPA」)で観測されたが、中性子照射に関してはたった0.003であり、この構造が中性子照射の高エネルギーはね返り特性によって生成される大きなカスケードによって作り出されるだけであったことを示唆している。より高い品質のYBCO結晶を用いた他の実験は、8×1017n/cm2に至るまでのフルエンスに対してセル状微細構造の始まりを観察しなかった、そして改善したYBCO結晶の高フルエンスイオン照射に基づいてセル状微細構造の始まりを観察するために約5~10×1018n/cm2のオーダーのフルエンスを必要とするだろうということが仮定された。
【0080】
(c)結晶粒界の乱れ
[00125]REBCOテープなどの被覆導体に関して、粒子内部の臨界電流と粒子同士の間の臨界電流との間に違いがある。2~3度でさえの結晶粒界の配向ズレは、10から50倍の試料Jcのバルク悪化につながり、そして磁場の印加は、この有害な効果を増加させるだけである。格子(粒子内)電流低下と結晶粒界(粒子間)電流低下との間の微細構造的なメカニズムは、同様でありそして超伝導フィラメント同士の間の弱いカップリングと関係する。
【0081】
[00126]弱いカップリングは、「ジョセフソン効果」、超伝導体の量子力学的性質の巨視的な兆候のために生じる。ジョセフソン効果は、量子トンネリングのために薄い(約1nm)絶縁性層(「ジョセフソン接合」と呼ばれる)を通って流れる超伝導電流の特性である。HTS超伝導体のフィラメントモデル内で、フィラメントが、これらの弱いリンクによって接続されることがあり、いわゆる「ガラス状」超伝導性相が単一粒子内に生じることを可能にする。初期の実験が臨界電流密度に対する2つの別々の寄与、「弱いリンクカップリング」が支配する寄与及びピニング寄与、に関する証拠を示した。前者の寄与は、低磁場で支配的であり、後者の寄与が高磁場で支配的である。粒子内の弱いカップリングが極端に低い磁場で存在することが示されたが、融合用途にとってより関連性のある弱いカップリングレジームが、粒子間(結晶粒界)カップリングに関して存在し、非照射超伝導体中に数テスラの磁場に至るまで存在できる。
【0082】
[00127]被覆導体内の典型的な結晶粒界は、ナノメートルのオーダーである。例えば、
図4は、その構造的単位が結晶粒界のおおよその幅(約1nm)を示すように強調されてきている30度[001]チルトの結晶粒界を有する例示のYBCO超伝導体のTEM像を示す。バルクHTS被覆導体が照射されるので、その結晶粒界は、欠陥に対するシンクとして作用しそして広がるだろう、粒子がコヒーレンス長を超えるにつれて電流を輸送するために徐々により強い障壁になる。結晶粒界を通る電流輸送はJc=J
0exp(-2κΔ)として計算されることがあり、ここでJcが境界を通るトンネル電流密度であり、J
0が境界のところの電流密度であり、κが減衰係数、例えば、7.7nm
-1であり、そしてΔが境界界面の幅である。このように、HTSが照射されるにつれて、結晶粒界の拡幅に起因する弱いリンクカップリングが、Jcがピニング律速のJcより下に低下するのでもっともっと高い磁場における臨界電流密度を制限する支配的な効果になるだろう。照射した被覆導体及び非照射の被覆導体に関する輸送Jc対B曲線の観測されるクロスオーバーは、臨界電流が結晶粒界律速のレジームからフラックスピニング律速のレジームへと変化する磁場をおおよそ決定するために使用されることがある。
【0083】
(d)(e)フラックスピニング
[00128]照射が超伝導体特性に影響することがある最終的な方法は、フラックスピニング効果を通してである。特に、磁束線が超伝導体に浸透することを可能にするタイプII超伝導体の特性は、臨界電流に影響を及ぼすことがある。電流が超伝導体を通過するので、常電導芯内のフラックス線は、ロレンツ力:
【0084】
【0085】
を経験することがある。
この力は、磁束線を動かすだろう、そして下記に説明する欠陥構成の異なるタイプに対して
図5に示したように、決まった場所でフラックス線を保持する超伝導体材料内の欠陥により働かせられる「ピニング」力によって相殺されるだけである。
【0086】
[00129]ピニング力の原因になるメカニズムは、上に説明したタイプII超伝導体のフラックス包含の原因である同じ熱力学的メカニズムであり、これに関して、自由エネルギー密度プロットが
図5Aに示される。タイプII超伝導体では、超伝導性領域の一部に浸入することが(第1の臨界磁場よりも高い)印加した磁場からのフラックス線にとってエネルギー的に好ましく、純粋な超伝導体を超伝導領域と常電導領域との混合状態へと変換する。このようにして、系は、フラックスのある量が超伝導体に浸入したときに平衡に達する。しかしながら、常電導領域又は部分的に常電導の領域が欠陥の存在のために既に存在する場合には、フラックス渦の自由エネルギー密度は、フラックス渦がピニングサイトのところにあるときに減少し、フラックス線に関するポテンシャル井戸を作り出す。
【0087】
[00130]一般に、より多くのピニングサイトの存在が、全体のピニング力、したがって臨界電流値を大きくする。ピニングサイトは、多くの異なるカテゴリに分類されることがあり、下記にまとめられる。
【0088】
[00131]第1のピニング分類は、単純にピニングサイトが理想的な超伝導格子に固有であるかどうか又はピニングサイトが外因性であるもしくは人工的に作られたかどうかである。REBCOでは、例えば、磁場の向きに依存する電流搬送能力間の大きな非対称性は、Cu-Oチェーン層がテープのab平面に平行な磁束線に対する2D固有ピニング中心として作用するという事実から生じる。
【0089】
[00132]第2のピニング分類は、その全体にわたってピニング力が働く長さに関係する。
図5Aを参照して、フラックス渦に関係する2つの長さスケールは、浸入深さ(λ)及び前述のコヒーレンス長(ξ)であり、ここでλはスクリーニング電流渦に関する長さスケールであり、ξは常電導芯に関する長さスケールである。YBCOに関して、λがξの値のほぼ100倍であるので、ピニング密度を最大にするためにξのオーダー(約1から4nm)のピンを導入することがさらに有効であることがあり、そのため数nmのオーダーのBZOナノロッド又はRE
2O
3析出物などの人工的なサイトが性能を高めるために導入されることがある。放射線照射損傷の文脈では、中性子照射によってREBCO内に作られた観察される欠陥クラスターの多くは、ξと同等の数ナノメートルのオーダーである。
【0090】
[00133]第3の分類は、ピンの強さである。強いピニングサイトはフラックス線格子自体を歪め、そして高温における格子原子の振動に起因する熱運動に対して一般に非常に安定である。弱いピニングサイトは、集合的に作用し、フラックス線格子の形状が保存されることがある。強いピニングサイトの例は、BZOナノロッド又はRE
2O
3析出物であろう。弱いピニングサイトは、点欠陥又は小さな欠陥クラスターなどのサイズの小さなものである。違いを図説するために、
図5は、磁場のフラックス線を変形させる強いピニングサイト12及び変形させない弱いピニングサイト14を含む超伝導材料10を示す。
【0091】
[00134]強いピンに関係する体積ピニング力は、次のように表現されることがある、
Fp,s=na,ffp,l (3)
ここでna,fは面積フラックス渦密度を表し、fp,lはピニングされたフラックス線に沿った単位長さ当たりのピニング力である。弱いピニング力密度は、次のように表されることがある、
【0092】
【0093】
ここでnv,wは弱いピンの体積密度であり、fp,0は弱いピン当たりの力であり、VCは単一のフラックス線をピニングするために作用する弱いピンの体積である。
[00135]「強い」及び「弱い」という術語は、本明細書において使用するように、格子内の熱揺らぎと比較したピニングサイトの強さを指し、より強い又は弱い印加磁場のピンニングにおけるその有効性を必ずしも指す必要がない。実際に、その集合的な性質のために、「弱い」ピニングサイトは、熱運動が極低温において自然に抑制されることがあるという理由で、高い磁場条件ではしばしば支配的である。
【0094】
[00136]第4の分類は、ピニングサイトの方向性である。ランダムなピニング中心は、すべての印加磁場角度で特定の方向を持たずそしてJcの増加もない。しかしながら、関連付けられたピニングサイトは、1つの向きのフラックス線を主にピンニングするように作用する。例えば、超伝導体のc-軸に平行に導入されたBZOナノロッドは、c-軸に平行な印加された磁場を効果的にピニングするだろうが、そのピニングの有効性は、他の角度では失われる。この効果は、低温及び高磁場では減少するが、撚線ケーブル構成がAC損失を防止するために典型的に使用されたそして最小Jcが制限される融合磁石を設計する目的で角度分解されたJc測定値を得ることの望ましさを示唆する。
【0095】
[00137]第5のピン分類は、ピニングサイトの次元性である。点欠陥は、0Dピニングサイトと考えられ、そしてすべてのより大きなピニングサイトが、1D、2D、又は3Dとして分類され得る。大きなピニングサイトの例は、1D欠陥としてBZO柱、2D欠陥としてCu-Oチェーン層、及び3D欠陥としてRE2O3析出物であろう。
例示の実験-概要
[00138]異なるフルエンス及び照射温度で陽子照射したREBCOテープのJc変化に関する結果が下記に提示される。簡潔に、極低温でのイオン照射は、高フルエンスに照射したREBCO試料中のJc悪化の量を実質的に減少させることが見出され、結果は放射線照射がT≦80Kで生じるだろう融合用途における超伝導REBCO磁石に関連する。Jcの温度、磁場、及び角度依存性の解析は、所与のフルエンスに対する照射温度でのJcの違いの背景にある微細構造メカニズムが2倍であることを示唆する。
【0096】
[00139]Jcを悪化させる大きな効果は、高温照射が著しく多くの結晶粒界損傷を生じさせ、高温照射に関するすべての磁場にわたるJcの大きな測定される減少によって証明される。理論に拘われずに、この効果は、(分子動力学シミュレーションを通してモデル化される)高温におけるはるかに大きな酸素拡散係数によって説明されることがあり、照射中に結晶粒界シンクへの欠陥の増速マイグレーションにつながる。分子動力学シミュレーションは、イオン(例えば、陽子)照射のための試料温度制御について実験的に観察した依存性の背景の同じメカニズム(すなわち、増速結晶粒界乱れ)が中性子照射にも当てはまることを示唆する。
【0097】
[00140]より小さな効果は、有効な弱く無関係のピニングサイトの生成が、Jc悪化とは反対に、より低温照射においてわずかに高められるように見えることである。この効果は、低い照射温度における欠陥移動度の低下によって引き起こされる可能性が最も高く、より有効な弱いピニングサイトとして作用する点欠陥又は小さな欠陥クラスターの選択的な生成につながる。この効果の実際的な結果は、高磁場でのREBCO性能が高められ、照射からの格子の乱れに起因する有害な効果を部分的に取り消すことである。
【0098】
[00141]これゆえ、これらの知見の第1の実施形態は、放射線照射で変位した原子の拡散によって生じた超伝導体の結晶粒の境界の拡幅を効果的になくすように選択した極低温で、陽子線、大きなイオン線、又は中性子線を用いて多結晶超伝導体を照射するステップを含む方法である。第2の関連する実施形態は、このプロセスによって形成された物質の構成物である。
【0099】
[00142]方法又は物質の構成物のいずれかのいくつかの実施形態では、超伝導体は、限定されないがREBCO化合物を含む希土類銅酸化物超伝導体を含む。いくつかの実施形態では、超伝導体の極低温は、液体窒素冷却によって達成可能な、高くても80Kである。いくつかの実施形態では、照射するステップは、弱い磁束ピニングが強い磁束ピニングを支配する条件で動作するときに照射した超伝導体内の臨界電流密度を最大にするイオンフルエンス又は中性子フルエンスを選択するステップを含む。いくつかの実施形態では、照射するステップは、少なくとも0.003の原子当たりの変位(DPA)を生成するステップを含む。いくつかの実施形態では、照射するステップは、超伝導体内部に少なくとも1つの弱いピニングサイトを形成する。
【0100】
[00143]いくつかの用途特定実施形態は、テープとして照射した超伝導体を提供するステップを含む。テープは、少なくとも1つの電導体を用いて被覆されることがある。この被覆導体テープが、例えば、手頃で、堅固で、小型(ARC)の核融合反応炉で使用されることがあり、そして特に、プラズマの核を融合するためのチャンバの周りに巻き付けられることがある。反応炉の運転は、テープを極低温に冷却するステップ、及びテープに電流を流すステップ、これによってチャンバ内にプラズマを閉じ込めるために適した磁場を発生させるステップを含むことができる。いくつかの実施形態では、巻き付けたテープを極低温に冷却するステップは、照射温度及び超伝導臨界温度よりもはるかに低い-ほぼ20Kの温度までテープを「サブクールするステップ」を含む。
【0101】
[00144]この点について、第3の実施形態は、放射線照射で変位した原子の拡散によって生じた超伝導体の結晶粒の境界の拡幅を効果的になくすように選択した極低温でイオン線又は中性子線を用いて照射された多結晶超伝導体を含む少なくとも1つのトロイダル磁場コイルを有する核融合反応炉である。
【0102】
[00145]当業者は、本明細書において開示された概念、結果、及び技術の他の実施形態を高く評価することができる。本明細書において説明した概念及び技術にしたがって照射した超伝導体が多種多様な用途に対して有用であり得ることが高く評価される。1つのそのような用途は、このような超伝導体が既存のシステムよりも高い磁場(10Tから25T)及びより簡単な設計を提供できる、例えば、固体物理学、生理学、又はタンパク質類への核磁気共鳴(NMR)研究を実施することである。もう1つの用途は、小型の高磁場超伝導体が高価なクリオゲン(液体ヘリウムなど)又は費用のかかる保守管理を必要とせずに有機体又はそのタンパク質の医療用スキャニングのために臨床的な磁気共鳴撮像(MRI)を実行することである。さらにもう1つの用途は、大口径ソレノイドが必要とされる高磁場MRIである。さらにもう1つの用途は、物理学、化学、及び材料科学において磁気研究を実行するためである。さらなる用途は、小さな双極子磁石のような超伝導体が小型さ、高磁場、安定性、及び可搬性を提供する材料処理又は照合のための小型の粒子加速器においてである。もう1つの用途は、開示した実施形態が小型で、軽量であり、高温及び高磁場に耐えるので、風力タービンを含め発電機においてである。もう1つの用途は、とりわけ、陽子線療法、放射線療法、及び一般に放射線発生のための医療用加速器である。さらにもう1つの用途は、開示した実施形態がより高温、より高磁場、より高い安定性、及びより簡単な蓄積装置設計を提供する超伝導エネルギー蓄積装置においてである。もう1つの用途は、磁場が大きいほど高い発電効率に変換する磁気流体力学(MHD)発電機においてである。もう1つの用途は、開示した小口径双極子実施形態が既存のシステムよりも堅固であり、そして大電流密度及び高温を許容するので、鉱山、半導体製造、及びリサイクルなどの材料分離においてである。応用の上記の列挙が網羅的ではなく、そして本明細書において開示した概念、プロセス、及び技術がその意図から乖離せずに行われ得るさらなる用途が存在することが高く評価される。
例示の実験-手順
[00146]マサチューセッツ工科大学(「MIT」)のDANTE加速器によって提供される1.2MeV陽子線を使用して、REBCO試料が3つの異なる照射温度(80K、323K、及び423K)で4つの異なるフルエンス(1×1015p/cm2、5×1015p/cm2、1×1016p/cm2、及び5×1016p/cm2)に照射された。最大のフルエンス値は、以前の研究が中性子照射に起因するJc悪化を観測した0.003の原子当たりの変位(「DPA」)にほぼ一致するように選択された。ロビンソン研究所(「RRI」)SuperCurrentシステムが、照射した試料中の臨界電流Icを解析するために引き続いて使用された、これからJcが計算された。
【0103】
[00147]上に論じたように、照射温度は、照射中に引き起こされるJc悪化において、そしてJcへの引き続く強い影響において役割を担った。この効果が、1×10
16p/cm
2及び5×10
16p/cm
2のフルエンスに異なる温度で照射された試料の臨界電流密度を表示する
図6に見られる。小型の高磁場融合反応炉に関連する測定条件(例えば、磁場強度5T及び温度30K)で、照射温度は、高いフルエンスでの80K照射と423K照射との間でほぼ2倍だけ最小Jcを悪化させることが示される。この結果は、融合環境における超伝導体の寿命時間を決定するためにすべてのこれまでのREBCO照射が323Kと383Kとの間の温度で実行されているので、融合磁石に関する重要な掛かり合いを有する。
【0104】
[00148]少なくともいくつかのケースでは、Jcが悪化する支配的なメカニズムは、放射線照射増速拡散によって生じるREBCO結晶粒界変質であり得る。拡散速度が温度低下とともに指数関数的に減少するので、この知見は、耐放射線照射動作を促進させるために臨界温度よりもはるかに低い融合磁石のREBCOの「サブクーリング」を動機づける。
【0105】
[00149]
図7は、多種多様な動作条件及びフルエンスについて最小Jc対照射温度を表示する。プロットは、各々の列が異なる磁場強度(左から右へ増加する)でありそして各々の行が異なる温度(上から下へ増加する)であるように配置される。示した条件のすべてにわたり、
図7は、照射温度が大きな効果を有し、Jc悪化に対する普遍的な傾向が極低温の後でははるかに弱いことを示している。この結果は、したがって、動作条件中の放射線照射がT<80Kで起きるだろう融合用途では超伝導REBCO磁石に対して妥当である。
例示の実験結果-臨界温度修正
[00150]臨界温度を決定するために、Jc対Tのスキャンが求められ、そして上記の式(1)で説明したGL理論的依存性を使用してフィッティングされた。臨界温度がすべての照射した試料について計算された、そして
図8に示される。先ず注目に値する傾向は、照射フルエンスが増加するにつれて臨界温度Tcが低下することである。予想に反して、すべての3つのフルエンスについて、臨界温度は、照射温度についての依存性が存在せず弱いことが観察される。1×10
16p/cm
2フルエンスと5×10
16p/cm
2フルエンスとの間でTcの明確な低下がある。この低下は、
図7に示したJc悪化対照射温度の明確な変化(break)と一致し、このようにTc効果がJc悪化に少なくとも互いに関係することを示唆する。
図8の結果は、TcがT
irradでは強く変化しないが、低いフルエンスで異なる照射温度についてのTc値同士の間に測定可能な違いがあることを示す。
例示の実験結果-強いピニング領域と弱いピニング領域との区別
[00151]下記での解析の目的に関して、Jc測定パラメータ空間を2つの広いレジーム:強いピニング及び弱いピニングへと分解することは有用である。
図5に関連して上に述べたように、強いピニングサイトは、フラックス線格子自体を歪めそして熱格子振動に対して一般に非常に安定である、一方で弱いピニングサイトは、フラックス格子の形状を保存するように集団として作用しそして熱振動に対してより不安定になる傾向がある。このように、強いピンは、高温及び低磁場の条件でより効果的である、ところが弱いピニングサイトは、小型の融合反応炉で見られることがある低温及び高磁場においてより効果的である。
【0106】
[00152]これらの領域を特徴付けるための1つの方法は、Tによるlog(Jc)の変化を解析することによることである。弱いピニングについての臨界電流密度依存性は、関係式、
【0107】
【0108】
にしたがい、
ここで、J0,w及びT0,wは、臨界電流密度並びに(例えば、フラックスクリープ及び熱的に活性化されるピニング解離につながる熱揺らぎのない)ゼロ温度におけるピニング障壁エネルギーに比例するフィッティングパラメータである。式5は、データの領域を大雑把に近似するために使用されることがある。Jc対T傾向が式5に上手くフィッティングする場合には、データが弱いピニングレジームに関係することが推測されることがあり、そしてTが増加するにつれて、データ傾向が式5から外れる場合、これは強いピニングレジームへの遷移温度として特定される。
【0109】
[00153]
図9は、非照射のコントロール試料並びに423Kで5×10
16p/cm
2に照射した試料におけるいくつかの磁場(テープに垂直に向いた磁場)に関する温度とのJc依存性を比較する。垂直の破線は、データが式5へのフィッティングから5%を超えて外れた点に目を導くためにプロットされた。ゼロ磁場では、強いピニングと弱いピニングとの間の遷移温度はほぼ64Kで生じ、印加した磁場が増加するにつれて着実に減少し、B=7Tに対して約52Kで終わる。高磁場データ中の温度点の悪い分解能は、真の遷移温度が示したものよりも高いはずである一方で、プロットした結果が、おおよその遷移温度として使用されることがあることを意味する。
【0110】
[00154]本明細書において開示した測定磁場の範囲に関して、次いで、弱いピニングによって一般に支配される約40Kよりも低い動作温度の領域及び強いピニングによって一般に支配される約65Kよりも高い領域がある。この決定は、2つのレジームのうちの一方における振る舞いを区別するために使用されることがある。これら2つの温度の間の範囲は、より複雑であり、そして照射フルエンス及び印加される磁場のレベルに依存するように見える。より高いフルエンス及びより高い印加される磁場の両者は、クロスオーバー温度を低い値へ押し下げる効果を有する。データの低い分解能のために、ピニングレジームについての照射温度の効果に関する強い結論を引き出すことは困難である、とはいえ、遷移温度は、照射温度よりもフルエンスの関数としてより強くシフトすることが見える。
例示の実験結果-Jc対θ比較
[00155]RRIにおいて実行された高分解能測定の主なグループは、いくつかの異なる温度と磁場との組み合わせで行われた高忠実度角度分解Jc測定であった。
図10Aから
図10Fは、異なる動作レジーム下での角度Jc依存性についての放射線照射フルエンス及び放射線照射温度の測定した効果を示す。各々の試料は、Jcの向上又は悪化の程度を立証するために非照射コントロール試料に対して比較された。
【0111】
[00156]強いピニングレジーム及び弱いピニングレジームの両者での角度Jc変化を調査するために、2つのケースが各々の試料について比較された。前のセクションの結果に基づいて、強いピニング条件が77K、1Tであると選択された、そして弱いピニング領域が30K、5Tであると選択された。弱いピニングレジームにおける同じ振る舞いが、(予想されたように)15Kの温度に低下するまで観測されたが、関係する大きな測定電流及び測定装置の限界のために、すべての照射した試料について15K測定値を得ることが不可能であった、そのため30Kが比較のベースラインとして使用された。
【0112】
[00157]
図10Aでは、80K及び低フルエンス(5×10
15p/cm
2)での照射の後で、試料の臨界電流密度Jcは、角度の全範囲にわたりそして両方のピニングレジームにおいてほぼ一様に増加し、両方のレジームで照射に起因する有効なピニングサイトの含有を示唆する。照射フルエンスが
図10Bの中(1×10
16p/cm
2)フルエンス及び
図10Cの高(5×10
16p/cm
2)フルエンスに増加されるにつれて、Jcは、超伝導体動作の強いピニングレジーム内のすべての角度にわたり低下する。弱いピニングレジームにおけるJcの振る舞いは、もっと複雑である。フルエンスが増加するにつれて、90度のところのJcは低下する。0度のところでは、しかしながら、Jcは事実上変化しないままであり、0度と90度との間の領域での最小Jcは、フルエンスとともに実際には増加する。このことは、フルエンスが増加するにつれてコヒーレントな弱いピニング中心の追加があるが、Cu-Oチェーン層からの強い互いに関係するピニングの破壊を強く示唆する。
【0113】
[00158]
図10Aから
図10Cが、80Kにおいて異なるフルエンスでの照射の結果を示す一方で、
図10Dから
図10Fは、423Kのより高い照射温度における増加するフルエンスの同じ範囲を示す。80Kにおいて実行した照射とは対照的に、423K照射のどれもが、強いピニングレジーム又は弱いピニングレジームに関してJc増大を生み出さなかった。Jcの減少は、強いレジームで実行された測定のためのすべての照射にわたり一致しており、より高いフルエンスにおける相対的なJc悪化が増えることをともなう。第1のフルエンスに関して、この悪化は、角度では多かれ少なかれ一定である、とはいえ、最大の照射(
図10F)に関して、90度ピークがほとんど完全に消失しているように見える。臨界電流Icが測定するためには小さ過ぎたという理由で
図10Fの強いピニングレジームに関する77K測定データがなかった、そのため50K測定値が代わりに使用されたことに留意すべきである。弱いピニングレジームでは、Jcもまた、より高いフルエンスでますます悪化する、とはいえ、この効果は、他の角度と比較して90度ピークエリアに関してはるかに明白である。
【0114】
[00159]2つの照射温度におけるJc対θ測定値の比較は、CuO
2平面の部分的な破壊が90度ピークの低下によって観察されたように、より高いフルエンスにおける両方の照射温度で生じることを示唆する。加えて、両方の照射温度についての強いピニング領域内のすべての角度にわたるJcの減少は、大きな欠陥カスケードがいずれの温度における照射によっても生成されないことを示す。
例示の実験結果-Jc対Bの比較
[00160]0度の角度での磁場に関する(弱いピニングレジームにおける)ピニングの効果を研究する一般的な方法は、3Tの磁場よりも上で形式Jc∝B
-αのべき乗則を用いて印加した磁場Bに対するJcの依存性をフィッティングすることである。αの値が大きいほど、印加した磁場に対するJcの感度が高いことに対応し(すなわち、JcはBの増加とともにより早く悪化する)、効果の低いフラックスピニングを意味する。
図11Aは、非照射コントロール試料についてJcの磁場依存性を示し、ほぼ0.65のα値を有し、BZOナノロッドドーパントを有する非照射テープについて以前に報告された値と矛盾しない。
【0115】
[00161]80Kの照射温度に関する
図11BのB-磁場依存性の第1のセットは、フルエンスの増加にともなうαの減少を示し、この温度での照射で導入される有効な弱いコヒーレントピニング中心の生成に関するさらなる証拠を示唆する。より低い動作温度におけるαの減少は、ξがTとともに減少するのでより有効なピニングサイトであるはずの小さなサイズの欠陥を示唆する。実際的な視点から、αが小さいほど、Jc対B曲線を平坦にし、小型のトカマク反応炉に存在することがある高い絶対磁場においてテープ実現性を改善するという理由で非常に魅力的である。
【0116】
[00162]423Kの照射温度に関する
図11CのB-磁場依存性の第2のセットもまた、フルエンスの増加及び動作温度の低下とともにαの減少を示し、小さく有効なピニングサイトもまたこの照射温度で生成されることを示唆している。しかしながら、αのこの減少は小さく、80Kにおける照射とは違って、絶対Jcの減少によって同時に起きることもある。
【0117】
[00163]これらの結果の組み合わせは、より高温の照射が、照射によって超伝導体に作られた損傷の量を増幅することよりもピニングサイトの生成の抑制における効果が少ないことを意味する、とはいえ、ピニングサイトの生成は、より低温照射においてはわずかに効果的であることがある。もう1つの可能性は、点欠陥(すなわち、ピニングサイト)が結晶粒界までより早く移動することを、より高温の照射での増速された欠陥移動度が意味し、超伝導領域内に有効でないピニングサイトを残すことである。高い照射温度及び低い照射温度の両方がアルファの減少をもたらすので、このことは、照射温度の依存性が異なる温度における異なるピニングメカニズム、破壊、又は生成に起因することの可能性を見掛け上なくす。このことが、支配的なピニングメカニズムに関するクロスオーバー温度の照射温度への依存性の欠如と矛盾しないことに留意されたい。
例示の実験結果-結晶粒界対ピニング領域
[00164]Tcで、ピニングサイトの抑制及び生成又は破壊が、高温照射と低温照射との間のJcの違いを生じさせる可能なメカニズムとしては削除され、423K照射試料内のJcのはるかに大きな悪化に関する2つの残っている可能な説明は、格子非晶質化及び結晶粒界非晶質化である。実行した最大フルエンス照射(5×1016p/cm2)が約0.003のDPAに対応するので、粒子内部の格子非晶質化に起因するセル状の微細構造の生成は、予想されない。結晶粒界の乱れを調査するために、Jc対Bの照射した曲線及びコントロール曲線が、上に述べたように、結晶粒界律速Jcがピニング律速Jcへと遷移するクロスオーバー領域を見つけるために解析された。
【0118】
[00165]
図12Aから
図12Dは、80Kでの照射について結晶粒界律速Jcレジームとピニング律速Jcレジームとの間のクロスオーバーを示す。
図12A及び
図12Bの1×10
16p/cm
2よりも低い低フルエンスでは、クロスオーバーがない。フルエンスは、Jc対θの目立った変化が認められ、
図12Cの1×10
16p/cm
2及び
図12Dの5×10
16p/cm
2まで増加するので、そのときにはクロスオーバーが現れ、そしてこれらの2つのフルエンスの間で約4.5Tから約5.5Tまで増加する。フルエンスとともに増加するクロスオーバー磁場のこの振る舞いは、文献の結果と矛盾せず、そして本明細書において開示した323K及び423K照射の系列についても観察される。
【0119】
[00166]
図12C及び
図12Dの2つの高いフルエンスにおいて、照射は、クロスオーバー磁場の位置に影響するJc対B曲線について2つの別個の効果を有するように見えることに留意すべきである。第1の効果は、曲線の勾配のゆるやかな「平坦化」であり、このことはαの値を低くさせそしてより高い磁場における小さなJc悪化に結びつく有益なピニング中心の増加のためであると上に論じられた。第2の効果は、印加した磁場の全体の範囲わたるJcの減少であり、照射した曲線を下方へと効果的にシフトさせる。この下方へのシフトは、結晶粒界の乱れの効果を表す。上に論じたように、REBCO試料が照射されるので、その結晶粒界は、欠陥に対するシンクとして作用しそして幅広くなり、電流を輸送することへのより強い障壁を徐々に作り出す。試料の結晶粒界が広くなるにつれて、Jcはすべての印加した磁場で減少するだろう。
【0120】
[00167]
図13では、5×10
16p/cm
2のフルエンスでの80K及び423K照射が比較される。このフルエンスでは、(右側の)423K照射曲線は、クロスオーバー磁場が(たとえ存在するとしても)利用可能な試験用磁石の能力を超えるのに十分過ぎるほど下方にシフトしている。観察されるクロスオーバー磁場がないことは、全体の磁場領域にわたりJcが結晶粒界輸送律速であることを示唆する。約5.6Tのクロスオーバー磁場を有する(左側の)同じフルエンスでの低温照射と比較したときに、このことは、試料が高温で照射されると、結晶粒界損傷がはるかに早い速度で生じることを強く示唆する。同じフルエンスでの極低温照射と加熱照射との間のクロスオーバー磁場における大きな違いは、結晶粒界の乱れが、異なる照射温度についてJcの全体的な観察される違いの背景にある最も支配的な効果の可能性であることを示す。
例示の実験結果-分子動力学モデル化との比較
[00168]上記の実験的研究をガイドし解釈するために、シミュレーションワークフローが、いくつかのソフトウェアの構成要素を組み合わせることによって開発された。1番目は、DART、French Commissariat a l‘Energie Atomiqueによって開発された二体衝突近似コードであった。2番目は、陽子照射をモデル化するために使用される、James Ziegler及びJochen Biersackによって開発されたSRIM、Monte Carlo simulator for the Stopping and Range of Ions in Matter(物質中のイオンの停止及び飛程用のモンテカルロシミュレータ)であった。3番目は、比較のため中性子照射をモデル化するために使用される、ロスアラモス国立研究所によって開発されたMCNP、a Monte Carlo simulator for N-Particle radiation(N-粒子放射線照射用のモンテカルロシミュレータ)であった。4番目のコードは、サンディア国立研究所によって開発されたLAMMPS、a Large-scale Atomic/Molecular Massively Parallel Simulator(大量原子/分子大規模並列シミュレータ)であった。
【0121】
[00169]最初に、照射用粒子エネルギーが見出された。イオン照射に関して、HTS超伝導テープの幾何学形状及び構成がSRIMでモデル化された、そして所望のエネルギー及び種類の模擬粒子が超伝導性層における粒子エネルギーを決定するために材料の中へと送られた。融合照射条件に関して、MCNPモデルが、融合磁石の内部中間平面位置のところの中性子エネルギースペクトルを決定するために使用された。イオンエネルギースペクトル又は中性子エネルギースペクトルは、次いで、(イオン照射に対して)実験的に測定したフラックス又は(中性子に対して)予測されるフラックス、並びに上に記述したようなYBCOの材料組成とともに、DARTコードへの入力として渡された。DARTコードは、次いで、入射照射粒子によって発生される一次ノックオン原子(PKA)エネルギーの累積分布関数を出力する。DARTによって発生されたPKAエネルギーの代表試料を使用して、VESTA(日本国立科学博物館のKoichi Mommaによって開発されたthe Visualization for Electronic and Structural Analysis(電子的及び構造的解析のための可視化)プログラム)で発生されたYBa2Cu3O7格子についての分子動力学シミュレーションが、アイダホ国立研究所のFalconスーパーコンピュータでLAMMPSを使用して実行された。LAMMPSシミュレーションの結果が、Alexander Stukowskiによって開発されたOVITO(Open Visualization Tool(オープン可視化ツール))科学データ可視化パッケージで後処理され解析された。多数のシミュレーションが、実験結果の背後にあるメカニズムを理解すること及びこのメカニズムを融合条件に適用することの最終的なゴールとともに、異なるイオンエネルギー、入射粒子方向、及び照射温度を使用することの結果を比較するために実行された。
【0122】
[00170]完全変位カスケードが伝播することを可能にするため十分に大きな体積を提供するために、YBCO単位格子(
図1参照)が、VESTA可視化ソフトウェアを使用して構築され、そして斜方晶[100]、[010]、及び[001]方向に対応するa、b、及びc軸を有するYBa
2Cu
3O
7の40×40×16単位格子模擬体積を作り出すために繰り返された。これは、YBCOのほぼ15nm×15nm×19nmの体積に対応し、そして10keVまでのカスケードが体積の完全に内部で行われることを可能にするためには十分に大きいが、扱いやすい計算時間を可能にするために十分に小さくなるように選択された。周期的境界条件が体積の面に割り当てられた。モデル内の原子同士の間の電位をモデル化するために、Chaplotの4部分電位が長距離相互作用のために利用された、そしてZiegler-Biersack-Littmark(ZBL)スクリーンド電位が短距離(すなわち、ノックオン)相互作用をモデル化するために使用された。
例示の実験結果-欠陥形成比較
[00171]様々なPKAエネルギーに関する欠陥形成を評価するために、Wigner-Seitz欠陥解析が、基準として時間t=0フレームを使用してt=30ピコ秒(ps)でOVITOパッケージを使用して実行された。クラスター解析が、クラスターの選択のための、欠陥から熱運動によって生成されるフレンケル対(FP)を実効的に「フィルタして除去する」ためのカットオフ半径を決定するためにベースラインフレンケル対発生しきい値を使用して実行された。80Kと423Kとの間の陽子照射条件の比較が、多数の異なるPKAエネルギーに対して発生されたフレンケル対の数を計算することによって実行された。各々のエネルギー条件が、各々のエネルギーについてのFP生成の平均値及び標準偏差を決定するために3回シミュレーションされた。
図14は、2つの温度におけるFP生成を比較し、そして低エネルギーで、フレンケル対のほぼ等しい数がカスケードで生成される、ところがエネルギー≧1keVでは、曲線がずれ始め、そしてより多くのFPがより高い照射温度で生成されることを示す。
【0123】
[00172]陽子照射に関して、上に記述した結果は、より高い温度では、より大きなエネルギー(E≧1keV)のPKAが低エネルギーPKAよりも連続的により多くの損傷を生成することを示す。しかしながら、
図15に示したPKAエネルギー分布関数は、1keV(すなわち、10
3eV)より高いPKAエネルギーが非常に稀であり、そしてすべての衝突の数パーセントを構成するに過ぎないことを示す。
図14に示した10keV(すなわち、10
4eV)の非常に稀なPKAエネルギーでさえ、高温FP生成と低温FP生成との間の比率は、約1.5に過ぎず、比率は、PKAエネルギーが低くされるにつれて減少する。このように、クラスター形成への照射温度の効果は、イオン照射に関して実験的に観察されたJc悪化効果において大きな役割を果たすことは期待されなかった。
例示の実験結果-YBCO中の酸素拡散
[00173]照射がYBCOの微細構造に影響することがあるもう1つの方法は、結晶粒界への欠陥の放射線照射増速拡散を通してである。材料が照射されるので、単純化した放射線照射増速拡散係数は、
D
rad=D
vC
v+D
iC
i (6)
として与えられることがあり、ここで、それぞれ、D
v及びD
iは空孔及び格子間原子の拡散係数、そしてC
v及びC
iは空孔及び格子間原子の濃度分率である。C
v及びC
iが照射中に増加するので、(所与の温度における)拡散係数もまた増加する。前のセクションの結果は、イオン照射に関して、欠陥サイズが照射温度に実質的に影響されず、そのため照射中のフレンケル対の生成によるC
v及びC
iの増加は高温及び低温の両方について(短い時間尺度で)同様になることが予想されるはずであることを示す。しかしながら、非照射の拡散係数は、下記に示されるように、照射温度に大きく依存する。
例示の実験結果-二乗平均変位(「MSD」)シミュレーション
[00174]系が熱平衡である(そして照射されていない)ときの拡散係数を決定するために、二乗平均変位(「MSD」)解析がLAMMPSで実行された。最初に、シミュレーション体積は、各々の原子の速度が目標温度に中心を置かれた分布からランダムに選択される初期構成から100psにわたって緩和された。系緩和の後で、基準状態に比較した原子の動きが追跡された、そして原子変位長が各々の原子について各々の主要な方向に沿って記録された、次いで、シミュレーション体積内の原子を全体として平均して、各々の時間ステップにおいて各々の成分(principle)方向(dx、dy、及びdz)の変位の平均値を求めた。全二乗平均変位(MSD)は、
〈r
2(t)〉=〈dx
2(t)〉+〈dy
2(t)〉+〈dz
2(t)〉 (7)
として二乗した方向の寄与率を加えことによって決定された。
【0124】
[00175]全MSDは、拡散係数を決定するために時間に対してプロットされた。一旦系が平衡に達すると、MSDは時間に対して直線的であるはずであり、拡散係数がアインシュタインの関係、
〈r2(t)〉=B+6DΔt (8)
から決定されることがある。
【0125】
ここでBは定数であり、Dは全自己拡散係数であり、そしてΔtは経過した時間である。統計的に有意な結果を決定するために、大きな(すなわち、1オングストロームよりも大きな)全MSDが望ましいことがあり、このことは、熱振動によるブラウン運動が大きくなる高温でさえ長いシミュレーション時間を必要とすることがある。シミュレーションを計算的に扱いやすくさせるために、シミュレーション体積が、10×10×4セルに減らされ、シミュレーションは、700K以上の温度に対して可能であるだけであった。
図16は、2500psの時間までの800K MSDシミュレーションの結果を表示する。最初の約500~1000psは、MSDの直線でない勾配から分かるように平衡ではない。したがって、式8へのフィッティングは、時間t>1000psまで適用されなかった。
例示の実験結果-拡散係数の計算
[00176]上に記述した方法を使用して、酸素(YBCOの中で最も早く拡散する原子)についての原子拡散係数が700、800、900、及び1000Kの温度について決定された。上に述べたように、長い計算時間は、低い温度の拡散係数を直接計算することを不可能にさせるが、拡散係数が温度の指数関係式にしたがうので、より高い温度の拡散係数が、温度に対してプロットされることがあり、許容される精度でより低い温度の拡散係数まで外挿するために使用される曲線とフィッティングされてもよい。
【0126】
[00177]フィッティングは、必要とされる計算上扱いにくいシミュレーション時間のために分子動力学モデリングでは現在のところ得ることができない温度まで外挿するために使用されることがある。本明細書において開示した照射温度までの外挿の結果が、下記の表に提示され、実験の加熱した(423K)照射と極低温(80K)照射との間で拡散係数値の非常に大きな(17桁の大きさの)減少を示す。加えて、20Kまでの外挿は、80Kにおけるよりもさらにほぼ100桁小さい拡散係数を示す。この知見は、
図20Bに関連して上に論じたように、結晶粒界への損傷の放射線照射増速拡散を抑制する放射線照射環境において動作するときに、「サブクーリング」REBCO磁石が望ましいことがあることを示唆する。
【0127】
【0128】
[00178]この表の結果がいくつかの近似値を用いた理想的な材料のシミュレーションにそれ自体が基づく外挿であることは、何度も繰り返す価値がある。このように、上に提示された絶対値は、照射されたREBCO中の真の酸素拡散係数の粗い近似値であり得る。しかしながら、極低温照射と加熱照射との間の大きな相対的な違いは、結晶粒界乱れの増速が欠陥に対するシンクとして作用する結晶粒界への欠陥の拡散の増大のために高温照射で生じるという仮定と矛盾しない高温における大きく増速された放射線照射支援拡散を指し示す。
【0129】
[00179]所与の時間tにわたって、粒子が拡散するだろう距離dは、
【0130】
【0131】
として近似的に与えられることがある。
高フルエンス(5×1016p/cm2)照射は、ほぼ80分(4800s)かかる。この時間を使用して、80K照射及び423K照射についてのおおよその平均拡散距離が計算され得る。423Kにおいて、d=2.8μmであり、これは最近のREBCO導体における粒子サイズ程度である。しかしながら、80Kにおいては、酸素原子の幅よりもはるかに小さいd=1.2×10-9Aでさえあり、拡散に起因する結晶粒の境界の拡幅が効果的になくされていることを意味する。これらの数字が近似値であるとはいえ、これらの数字は、2つの異なる照射温度における拡散同士の間の極端な違いを例証する。
【0132】
[00180]結晶粒界拡幅の大きさが、それ自体照射温度の関数である拡散係数の関数であることが高く評価される。このように、結晶粒界拡幅の大きさは、照射温度を選択することによって制御されることがある。その上、結晶粒界拡幅をなくすことの有効性は、(例えば、TEMによって測定されるような)実際の拡幅距離と粒子サイズとの間の比率として計算されることがあることが高く評価される。この開示の目的で、結晶粒界拡幅は、この比率が所定の設計しきい値よりも下であるときに「実効的になくされる」、この設計しきい値は(例えば)粒子サイズの10%、5%、1%、0.1%、又は他の割合であってもよい。あるいは、結晶粒界拡幅は、拡散距離の絶対的な大きさが所定の設計しきい値よりも下であるときに「効果的になくされる」、この設計しきい値は(例えば)1μm、100nm、10nm、1nm、0.1nm、又は他の距離であってもよい。
【0133】
[00181]フレンケル対生成を解析するこのセクション及び前のセクションの結果は、両者とも、高温において照射したREBCOに関するJc輸送を制限する支配的なメカニズムとして結晶粒界の乱れについての実験的な証拠を支持する。
REBCOテープでの結果の実施形態
[00182]上の結果によれば、
図17は、高磁場及び高エネルギー中性子照射の動作条件で向上した臨界電流密度を有する超伝導体を製造するために実施形態にしたがった例示の方法20に関するフローチャートである。
図17の方法は、例えば、上に論じた
図19のシステムを動作させるための一つの可能な方法を表すことがある。
【0134】
[00183]方法20は、多結晶銅酸塩超伝導体を得るプロセス22で始まる。超伝導体の選択は、用途特定であってもよく、例えば、極めて粒子の整列したREBCO超伝導体(すなわち、バリウムを含んでも含まなくてもよい希土類銅酸塩超伝導体又は別のセラミック超伝導体)が使用されることがある。上に論じたように、多結晶超伝導体は、照射によって効果的に変位されることがある酸素の相当の原子分率を少なくとも含むはずであることが高く評価される。
【0135】
[00184]プロセス24では、方法は、照射を受けたときの超伝導格子内の酸素についての拡散係数の温度依存性を決定する。この決定プロセス24は、分子動力学シミュレーションによる、又はこの分野では知られている他の技術による直接の(しかし定型の)実験的観察によってこのような拡散係数の既存の表を調べることによって実施されることがある。室温照射と極低温照射との間の係数変化が何桁の大きさであるかが与えられると、拡散係数に関する正確な値が必ずしも決定される必要はないが、むしろ係数と温度との間のおおよその関係が次のプロセス26を遂行するためには十分であることが高く評価される。
【0136】
[00185]プロセス26では、方法は、少なくとも部分的に超伝導体の物理的特性に基づいて、所与のフルエンスまでの陽子照射が結晶粒界を実効的に拡幅しないはずの最大温度を決定する。すなわち、超伝導体の平均結晶粒界直径及び所与のフルエンスに対する照射時間が与えられると、式(9)又はこの分野で知られている同様の手段を使用して最大の許容可能な拡散係数を計算し、次いでおおよその最大の許容可能な照射温度を特定するために、この最大の許容可能な拡散係数をプロセス24において決定した関係に対して比較する。所与のフルエンス自体は、弱い磁束ピニングが強いピニングを支配する条件で動作するときに、照射した超伝導体中の臨界電流密度Jcを最大にするために決定されることがある。
【0137】
[00186]プロセス28では、方法は、最大の許容可能な照射温度よりも下まで銅酸塩超伝導体を極低温に冷却するステップを含む。例えば、いくつかの実施形態では、最大の許容可能な照射温度は、80Kなどの少なくとも77.36K(液体窒素の沸点)であり、そのためこれらの実施形態では、プロセス28は、液体窒素を使用して冷却するステップを含む。他の実施形態では、最大の許容可能な照射温度は、80Kよりも低いことがあり、そのため液体ネオン、液体水素、又は超臨界もしくは液体ヘリウムなどの他のクリオゲンが、照射中に使用されることがある。いくつかのケースでは、最大の許容可能な照射温度よりも下で冷却するステップは、液体クリオゲンを用いずに実現することができ、そして代わりに伝導冷却を利用する。
【0138】
[00187]プロセス30では、方法は、所与のフルエンスまで銅酸塩超伝導体を極低温で照射するステップを含む。照射は、例えば、下記に説明するようなこの分野において知られた装置及び技術を使用して実行されることがある。いくつかの特に有利な実施形態では、照射プロセス30は、格子の少なくとも0.003の原子当たりの酸素の変位(DPA)を生成する。照射は、これにより超伝導体内部に少なくとも1つの弱いピニングサイト、理想的には多くのこのようなピニングサイトを生成し、これにより超伝導結晶粒界の拡幅を介して臨界電流密度を悪化させずに高磁場及び高エネルギー中性子照射の動作条件下で超伝導体の臨界電流密度を向上させる。
【0139】
[00188]いくつかの用途は、超伝導体がテープ形式で使用されることを必要とする。このように、方法20は、照射した超伝導体をテープへと形成し、
図2の構造と類似の(又は同じ)構造を形成するためにテープを少なくとも1つの電導体で被覆するプロセス32に拡張されることがある。あるいは、銅酸塩超伝導体は、プロセス22において既にテープ構成で得られることがある。
【0140】
[00189]上に記述した概念、技術、及び構造の1つの特に有利な用途は、このような被覆導体テープを小型核融合反応炉のトロイダル磁場コイルとして使用する。このように、テープは、加熱したプラズマの核を融合させるためのチャンバの周りに巻き付けられることがある。磁場コイルは、(以前に照射した)超伝導体についての臨界温度よりも低くまでテープを極低温冷却するステップ、次いで、被覆導体テープに電流を流すステップ、これによりチャンバ内にプラズマを閉じ込めるために適した磁場を発生させるステップによって動作される。
照射装置
[00190]REBCO劣化についての照射温度の効果を調査するために、SuperPowerからの2G REBCO試料のイオン照射が、1.2MeV陽子ビームを使用してMITのDANTE線形タンデム加速器施設において実行された。YBCO上の陽子線の一次ノックオン(PKA)エネルギースペクトルは、YBCO中の中性子線のものよりもはるかに低く、陽子線は、重たいイオン線よりもYBCO中でのはるかに低いストッピングパワーを有し、そして超伝導層ではほぼ単一エネルギーと考えられ得る。上に記述したSRIMを用いて実行されるモンテカルロ計算は、ビームが2μmの銀キャップ層中で200keV遅くなるだろうこと及び平均陽子エネルギーがほぼ一定であることを示す。このことは、層の中へとより深くはね返る大きく増加するエネルギーを有するより重いイオン線とは対照的であり、超伝導体の異なる深さに異なる損傷を効果的に生成する。
【0141】
[00191]全体の試料にわたって面積的に一様な照射を確実にするように努力した。4探針輸送法を使用して測定した臨界電流は、テープ上の最も損傷した領域によって制限され、そのため不均一なビームカバレッジによって引き起こされた何らかの照射「ホットスポット」が、不自然に低い臨界電流測定値という結果をもたらすはずである。ビーム一様性を確実にするために、陽子ビームプロファイルが、隣接するビームラインのREBCOターゲットホルダと同じビームドリフト空間内の距離の金被覆した石英窓上のビームのCCD画像の強度分析を実行することによって最初に決定された。ビーム焦点は、ピーク強度の75%でのビームスポットサイズが全HTSターゲット面積を覆うためには十分に大きいように調節された。
【0142】
[00192]満足のいくビームスポットが実現された後で、ビームは、REBCO試料ホルダ上へと向けられた、このホルダでは、ビームはREBCOターゲット上に当たる前にコリメータのセットを通過した(
図18A参照)。第1のコリメータは、所望のターゲット外形よりもわずかに大きかったそしてビームの使用されない部分からの熱負荷を除去した。G-10から作成された第2のコリメータには、REBCO上の6×4mmの照射エリアの外形を作ったそして瞬間的なビーム電流を測定するために開口部の各々の辺の端部のところに4個の銅ピックアップがあった(
図18B参照)。ビームは、測定したビーム電流が長方形のコリメータ開口部の対向する辺の上で同じであることを確実にすることによってターゲット上に中心を置かれた。HTSテープ上の典型的な瞬間ビーム電流値は、300nAであった。試料ホルダは、80Kの低温に達することが可能な伝導冷却型の極低温ステージに張り付けられたそして試料が同様に加熱されることを可能にするカートリッジヒータとともに機器に取り付けられた。カートリッジヒータは、照射エリアの直ぐ隣の試料に取り付けられた熱電対からのフィードバックを使用するディジタル比例-積分-微分(PID)コントローラを使用して制御され、ビームがターゲット上であったときに試料温度が80Kから423K±3Kの範囲内に維持されることを可能にした。すべての照射中に、チャンバ内の真空条件は、10
-7と10
-6Torr(1.33×10
-5と1.33×10
-4Pa)との間に保たれた。-200Vにバイアスされた二次電子抑制電極が、正確なビーム電流(したがって正確なフルエンス)測定を確実にするために使用された。
SuperCurrent測定システムを用いた臨界電流解析
[00193]大きなスキャンの高忠実度測定を実現するために、加速器照射試料が、自動SuperCurrent測定システムを用いた解析のためにニュージーランドのRobinson Research Institute(RRI)に持ち込まれた。SuperCurrentは、所望のセットの磁場(0~8T)、温度(15~90K)、及び磁場角度(0~180度)を通して掃引すること、並びに各々の組み合わせでのV-I輸送曲線を得ることの自動モードで動作され得る。この方式で動作させることで、RRI SuperCurrentは、照射した試料及びコントロール試料のほぼ18,000のIc測定値を集めた。
測定値の再現性及び誤差解析
[00194]製造プロセスに起因する試料バラツキを減少させるために、すべての試料は、処理条件が可能な限り同等であることを確実にするために連続する3メートルの長さから取られた。残っているバラツキの効果を取り除くために、実験テープスプールの臨界電流の十分な特性評価が行われた。磁気ヒステリシスIc測定値が理論モデルの解釈に依存するので、磁気ヒステリシス測定値は、Icの絶対測定を行うことが不可能なことがあり、代わりに輸送測定対して較正することが望ましい。しかしながら、3メートルの長からの各々の試料の位置が既知である場合には、相対Ic測定値が、長さから「初期」臨界電流を規格化するために使用されることがある。この補正係数を適用するために、コントロール試料の位置は、「標準」臨界電流であるように選択された、そしてすべての他の電流値がこの値に対してスケーリングされた。
【0143】
[00195]エラーバーが臨界電流測定値に対して一般に報告されないとはいえ、測定値の不確定性を定量化するための試みが行われた。同じ試料の繰返し測定が、SuperCurrent装置の測定不確定性を立証するために実行された。各々のJc測定に対して個々にエラーバーを計算するために多数の繰返し測定を行うことは実行不可能であるはずであるとはいえ、専用のスキャンが1つの試料に複数回実行された。
【0144】
[00196]各々の測定条件(磁場、温度、及び磁場角度)についてのJcの3つの値が、平均された、そしてグループの標準偏差が算出された。計算された標準偏差は、90度付近の7T、30K測定値を除いて、すべての角度、磁場、及び温度全体にわたり相対的に矛盾がなかった。これについての説明は、試料を曲げる大電流及び高磁場における試料上の大きなロレンツ力のためである可能性が最も高く、そのため試料ロッドの内部にマウントされたホールセンサを有する試料は、平坦ではない。90度付近のIcの鋭いピークのために、磁場を有する試料の、測定したホール角と実際の角度との間の小さな相違でさえ、2つの測定値同士の間に大きな相違を生じさせることがある。生憎、測定中に試料のたわみを測定することは実行できそうではなかった、そのためこの誤差を補正するための唯一の方法は、測定値同士の間の全角度スキャンを比較し、90度ピークがシフトするときを記録することである。臨界電流測定値についてのエラーバーを設定するために、標準偏差が平均されて、1.3%のグローバル標準偏差が生み出され、これが上記のデータ解析に適用された。
【0145】
[00197]この発明の少なくとも1つの実施形態のいくつかの態様をこのように説明すると、様々な変更、修正、及び改善が、当業者には容易に思い浮かぶだろうことが高く評価されるべきである。
【0146】
[00198]このような、変更、修正、及び改善は、この開示の一部をなすものであり、本発明の思想及び範囲内になるものとする。さらに、本発明の利点が示されたが、本明細書において記述した技術のすべての実施形態がすべての記述した利点を必ずしも含まないだろうことが高く評価されるべきである。いくつかの実施形態は、本明細書において有利であると記述したいずれかの特徴を実装しなくてもよく、いくつかの事例では、記述した特徴のうちの1つ又は複数がさらなる実施形態を実現するために実装されてもよい。したがって、前述の記載及び図面は、単に例に過ぎない。
【0147】
[00199]本発明の様々な態様は、単独で、組み合わせて、又は上記で説明した実施形態において具体的に検討しなかった様々な配置で使用されることがあり、これゆえ、上記の説明に記述された又は図面に図示された構成要素の詳細及び配置への適用に限定されない。例えば、1つの実施形態において記述した態様は、他の実施形態において記述した態様と任意の方式で組み合わせられてもよい。
【0148】
[00200]また、発明は、方法として具体化されることがあり、その例が提供されてきている。方法の一部として実行された行為は、任意の適切な方法で順序づけてもよい。したがって、行為が図示したものとは異なる順序で実行される実施形態が構築されてもよく、例示の実施形態では連続的な行為として示されたとしても、同時にいくつかの行為を実行することを含むことができる。
【0149】
[00201]さらに、いくつかの行為が、「ユーザ」によって行われるように記載されることがある。「ユーザ」が必ずしも単一の個人である必要がなく、そしていくつかの実施形態では、「ユーザ」に帰属する行為が、個人個人のチーム及び/又はコンピュータ支援ツールもしくは他のメカニズムと組み合わせて個人によって実行されてもよいことが高く評価されるはずである。
【0150】
[00202]クレーム要素を修飾するため特許請求の範囲における「第1の」、「第2の」、「第3の」、等のような順序を示す用語の使用は、それ自体によっては、何らかの優先順位、優先権、又は1つのクレーム要素のもう1つのものに対する順序もしくは方法の行為が実行される一時的な順序を含まないが、クレーム要素を区別するために、ある名前を有する1つのクレーム要素を同じ名前を有する(しかし、順序を示す用語の使用のために)もう1つの要素とは区別するための符号として単に使用される。
【0151】
[00203]「ほぼ(approximately)」及び「約(about)」という用語は、いくつかの実施形態では目標値の±20%以内、いくつかの実施形態では目標値の±10%以内、いくつかの実施形態では目標値の±5%以内、そしてさらにいくつかの実施形態では目標値の±2%以内を意味するように使用されることがある。「ほぼ」及び「約」という用語は、目標値を含んでもよい。「実質的に等しい(substantially equal)」という用語は、いくつかの実施形態では互いに±20%以内、いくつかの実施形態では互いに±10%以内、いくつかの実施形態では互いに±5%以内、そしてさらにいくつかの実施形態では互いに±2%以内である値に言及するために使用されることがある。
【0152】
[00204]「実質的に(substantially)」という用語は、いくつかの実施形態では比較の尺度の±20%以内、いくつかの実施形態では±10%以内、いくつかの実施形態では±5%以内、そしてさらにいくつかの実施形態では±2%以内である値に言及するために使用されることがある。例えば、第2の方向に「実質的に」垂直である第1の方向は、いくつかの実施形態では第2の方向と90度の角度を作る±20%以内、いくつかの実施形態では第2の方向と90度の角度を作る±10%以内、いくつかの実施形態では第2の方向と90度の角度を作る±5%以内、そしてさらにいくつかの実施形態では第2の方向と90度の角度を作る±2%以内である第1の方向に言及することができる。
【0153】
[00205]また、本明細書において使用した表現法及び用語法は、説明の目的のためであり、制限するように考えられるべきではない。「含むこと(including)」、「備えること(comprising)」、又は「有すること(having)」、「含有すること(containing)」、「取り込むこと(involving)」及び本明細書におけるこれらの変形の使用は、以降に列挙する項目及びその等価物並びに追加項目を包含することを意味する。