(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】可溶性マメ科植物タンパク質の加水分解物
(51)【国際特許分類】
A23J 3/34 20060101AFI20240627BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20240627BHJP
A23L 2/66 20060101ALI20240627BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20240627BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20240627BHJP
A23L 11/60 20210101ALN20240627BHJP
A23L 33/185 20160101ALN20240627BHJP
【FI】
A23J3/34
A23J3/14
A23L2/00 J
A23L2/38 D
A23K20/147
A23L11/60
A23L33/185
(21)【出願番号】P 2021527955
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(86)【国際出願番号】 FR2019052843
(87)【国際公開番号】W WO2020109741
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-15
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンチュレイラ、ジョルジュ ルイ
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/014783(WO,A1)
【文献】特開平06-197788(JP,A)
【文献】特開昭63-036797(JP,A)
【文献】特開2015-059088(JP,A)
【文献】S.K. SATHE et al.,“Purification and biochemical characterization of tepary bean (Phaseolus acutifolius) major globulin”,Food Chemistry,1994年01月,Vol. 50, No. 3,p.261-266,DOI: 10.1016/0308-8146(94)90130-9
【文献】Akio KATO et al.,“Effects of deamidation with chymotrypsin at pH 10 on the functional properties of proteins”,Journal of Agricultural and Food Chemistry,1987年03月,Vol. 35, No. 2,p.285-288,DOI: 10.1021/jf00074a029
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 3/34
A23J 3/14
A23L 2/66
A23L 2/38
A23K 20/147
A23L 11/60
A23L 33/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の総重量に対して90重量%を超えるグロブリンを含有するマメ科植物タンパク質
のキモトリプシン様セリンプロテアーゼ酵素による加水分解物であって、
-
前記加水分解物は、80%
超の溶解度をpH5において有し、及び
-
前記加水分解物は、15%未
満の加水分解度を有
し、
前記マメ科植物タンパク質は、ソラマメタンパク質及びエンドウタンパク質から選択されることを特徴と
し、
前記溶解度は、150gの水を、磁気撹拌棒で撹拌しながら20℃±2℃で400mLビーカーに導入し、前記ビーカーに前記加水分解物を5g及び前記ビーカー内の水が200gになるように水を添加して混合物とし、前記混合物を1000rpmで30分間混合及び3000gで15分間遠心分離し、前記混合物の上清を25g収集し結晶皿に入れ、前記結晶皿を103℃±2℃のオーブンに1時間置き、前記結晶皿を乾燥器内に置いて周囲温度に冷却したとき、以下の式:
【数1】
[式中、P=前記加水分解物の重量(g)=5g、m1=乾燥後の前記結晶皿の重量(g)、m2=空の前記結晶皿の重量(g)、P1=収集した前記上清の重量(g)=25g]
により計算され、
前記加水分解度は、o-フタルアルデヒドを用いたOPA試験により決定される前記加水分解物のアミノ窒素の含有量と、規格ISO16634(2016)によるDUMAS法により決定される前記加水分解物のタンパク質窒素の含有量とから以下の式:
【数2】
により計算される、マメ科植物タンパク質
の加水分解物。
【請求項2】
80%
超の溶解度をpH7において有することを特徴とする、請求項1に記載のマメ科植物タンパク質
の加水分解物。
【請求項3】
前記マメ科植物タンパク質は、エンドウタンパク質であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマメ科植物タンパク質
の加水分解物。
【請求項4】
前記マメ科植物タンパク質が、乾物重量に対して80重量%超のタンパク質含有量を有する単離物であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のマメ科植物タンパク質
の加水分解物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のマメ科植物タンパク質
の加水分解物を調製するための方法であって、以下の工程:
-マメ科植物タンパク質単離物の水溶液を準備する工程;
-キモトリプシン様セリンプロテアーゼ酵素を添加することによって前記単離物を加水分解して、15%未
満の加水分解度を有する加水分解されたマメ科植物タンパク質を得る工程;
-任意選択的に、前記酵素を阻害する工程;
-任意選択的に、前記加水分解されたマメ科植物タンパク質を乾燥させる工程;
を含むことを特徴と
し、
前記加水分解度は、o-フタルアルデヒドを用いたOPA試験により決定される前記加水分解されたマメ科植物タンパク質のアミノ窒素の含有量と、規格ISO16634(2016)によるDUMAS法により決定される前記加水分解されたマメ科植物タンパク質のタンパク質窒素の含有量と、から以下の式:
【数3】
により計算される、方法。
【請求項6】
添加される酵素の量が、前記単離物中のタンパク質の重量に対して、0.2重量%
超であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記加水分解が、8~1
0のpHで実施されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記加水分解が、45~65
℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記加水分解が、30分間~2時
間にわたって実施されることを特徴とする、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ヒト又は動物用の食品組成物、化粧品組成物又は医薬組成物の調製のた
めの、請求項1~4のいずれか一項に記載のマメ科植物タンパク質
の加水分解物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低加水分解度と、酸性pHにおける優れた溶解度とを有するマメ科植物タンパク質、それを製造するための方法、及び特に食品組成物、化粧品組成物又は医薬組成物におけるこのタンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの1日当たりのタンパク質必要量は、食物摂取量のうちの12~20%である。これらのタンパク質は、動物由来の製品(肉、魚、卵、乳製品)によっても、植物系の食品(穀物、マメ科の植物、海藻)によっても得られる。
【0003】
しかしながら、先進国では、タンパク質摂取は主に動物由来のタンパク質によりなされる。しかし、数多くの研究により、動物由来のタンパク質を過剰摂取し、植物性タンパク質の摂取が不足することは、がん及び心血管疾患を増加させる原因の1つであることが示されている。
【0004】
更に、特に乳又は卵に由来するタンパク質のアレルゲン性、及び集約農業による環境への悪影響の両方から、動物性タンパク質は多くの欠点を有する。
【0005】
したがって、有益な栄養特性及び機能特性を有するが、動物由来の化合物の欠点は有さない、植物由来の化合物に対し、製造業者からの需要が高まっている。
【0006】
1970年代以降、エンドウは、動物及びヒトによる食用の動物性タンパク質の代替的なタンパク質源として、欧州、特にフランスにおいて最も開発されている種子マメ科植物である。エンドウは約27重量%のタンパク質を含有する。用語「エンドウ」は、本明細書においてその最も広く許容される使用法により考慮され、特に、その品種の通常の使用目的(ヒトの食品、動物用飼料及び/又は他の用途)に関わらず、「丸エンドウ」の全ての野生品種、並びに「丸エンドウ」及び「しわのあるエンドウ」の全ての変異品種を含む。
【0007】
エンドウタンパク質、主にエンドウグロブリンは、長年にわたって工業的に抽出及び利用されてきた。エンドウタンパク質を抽出するための方法の一例として、欧州特許第1400537号に言及することができる。この方法では、種子を水の非存在下で粉砕して(「乾式製粉」と呼ばれる方法)エンドウ粉を得る。次いで、この粉を水に懸濁させて、タンパク質を抽出する。
【0008】
残念ながら、このタンパク質は、特に酸性pHで比較的不溶性であることが知られている。例えば、A.C.Y.Lam,A.Can Karaca,R.T.Tyler&M.T.Nickerson(2018)「Pea protein isolates:Structure,extraction,and functionality.」Food Reviews International,34:2,126-147による論文は、エンドウタンパク質単離物の溶解度は、そのpH約4.5である等電点の当たりで最小になることを記載している。市販のエンドウタンパク質単離物の溶解度はpH4~pH5では20%を超えない。
【0009】
本出願人らの業績として、これまでに国際公開第2011124862号により、かかる溶解度を改良するための解決策を提案している。上記出願では、植物タンパク質の機能特性、特に溶解度を改良することができる正確な熱処理の実施を提案している。しかしながら、この溶解度は中性pH(7.5)で測定されるものであり、酸性pH(4~5)では常に20%未満である。
【0010】
タンパク質の酸及び/又は酵素加水分解は、ペプチド結合を加水分解し、したがってタンパク質の重合度を低減するための周知の方法である。タンパク質の平均サイズが小さくなるほど、その溶解度が上昇することが当業者には周知である。したがって、タンパク質を加水分解することにより、その溶解度を上昇させることができる。しかしながら、タンパク質は、加水分解により、粘度あるいは乳化能などの他の性質を損なわれもする。Poonam R.Bajaj,Kanishka Bhunia,Leslie Kleiner,Helen S.Joyner(Melito),Denise Smith,Girish Ganjyal&Shyam S.Sablani(2017)による論文、「Improving functional properties of pea protein isolate for microencapsulation of flaxseed oil.」Journal of Microencapsulation,34:2,218-230は、市販のエンドウタンパク質単離物に対し様々なプロテアーゼを用いて実施した酵素加水分解について記載している。この論文により、溶解度は加水分解により高めることができることが裏付けられる。しかしながら、国際公開第2011124862号と同様に、この溶解度は中性pH(加水分解のpHであり、7.4)で測定されものである。その一方で酸性pHにおける溶解度は30%未満のままである。
【0011】
アルブミンなどの他のタンパク質画分の使用を想定することができる。しかしながら、アルブミンは実際に酸性pHでより可溶性であるものの、一部の工業用途において望ましくない場合がある機能特性、特に非常に高い発泡性をも有する。
【0012】
したがって、加水分解度は低く、例えば15%未満であるものの、酸性pH、例えばpH5における溶解度は80%超であるマメ科植物タンパク質単離物、特にエンドウタンパク質を得ることは、なお当業者の関心事である。
【0013】
本出願人らは、これらの基準を満たすマメ科植物タンパク質を開発した。
本発明の開示
【0014】
本発明は第1に、タンパク質の総重量に対して90重量%を超えるグロブリンを含有するマメ科植物タンパク質であって、
-80%超、好ましくは85%超、更により好ましくは90%超の溶解度をpH5において有し、及び
-15%未満、好ましくは12%未満の加水分解度を有する、マメ科植物タンパク質に関する。
【0015】
本発明は第2に、本発明によるマメ科植物タンパク質を調製するための方法であって、以下の工程:
-マメ科植物タンパク質単離物の水溶液を準備する工程;
-キモトリプシン様セリンプロテアーゼ酵素を添加することによって単離物を加水分解して、15%未満、好ましくは12%未満の加水分解度を有する加水分解されたマメ科植物タンパク質を得る工程;
-任意選択的に、酵素を阻害する工程;
-任意選択的に、加水分解されたマメ科植物タンパク質を乾燥させる工程;
を含む、方法に関する。
【0016】
最後に、本発明はまた、ヒト又は動物用の食品組成物、化粧品組成物又は医薬組成物の調製のための、本発明によるマメ科植物タンパク質の使用にも関する。
【0017】
本発明は、以下に記載される詳細な説明によって更に良好に理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のマメ科植物タンパク質は、特に、マメ科の植物から抽出されたタンパク質の混合物を含む組成物であってもよい。
【0019】
本発明によるマメ科植物タンパク質は、タンパク質の総重量に対して、90重量%超のグロブリンを含有する。
【0020】
用語「タンパク質」は、本出願において、ペプチド結合によって互いに結合したアミノ酸残基の配列からなる1つ以上のポリペプチド鎖から形成される巨大分子を意味するものと理解されたい。エンドウタンパク質の特定の文脈において、本発明は、より詳細には、グロブリン(エンドウのタンパク質の約50~60%)及びアルブミン(20~25%)に関する。エンドウグロブリンは、主にレグミン、ビシリン及びコンビシリンの3種類のサブファミリーに分類される。
【0021】
「マメ科の植物」又は「マメ科植物」は、本出願において、マメ目の双子葉植物の科を意味することが理解されるであろう。マメ科は、種の数がラン科及びキク科に次いで3番目に多い顕花植物科である。マメ科には約765属、19,500種超が含まれる。ダイズ、莢豆(beans)、エンドウ、ヒヨコマメ、ソラマメ(faba bean)、ピーナッツ、栽培レンズマメ、栽培アルファルファ、様々なクローバー、ソラマメ(broad bean)、イナゴマメ及び甘草を含む、いくつかのマメ科の植物は、重要な作物植物である。
【0022】
これらのマメ科の植物から抽出されたタンパク質は、主に、グロブリン及びアルブミンのサブグループに属する。本発明において、マメ科植物タンパク質は主にグロブリンからなり、具体的には、タンパク質の総重量に対して90重量%超のグロブリンを含有する。グロブリンは、当業者に周知の様々な方法によりアルブミンと区別することができる。具体的には、アルブミンが純水に可溶性であるのに対し、グロブリンは塩水にのみ可溶性であるという、それぞれの溶解度により区別できる。混合物中に存在するアルブミン及びグロブリンを電気泳動又はクロマトグラフィーによって同定することもできる。好ましい方法は、論文「Peptide and protein molecular weight determination by electrophoresis using a high-molarity tris buffer system without urea.」Fling SP,Gregerson DS,Anal.Biochem.1986;155:83-88に記載されている。本発明によるマメ科植物タンパク質は、タンパク質の総重量に対して、90重量%超のグロブリンを含有する。
【0023】
本発明によるマメ科植物タンパク質は、80%超、好ましくは85%超、更により好ましくは90%超の溶解度をpH5において有する。
【0024】
特定の実施形態によると、本発明によるマメ科植物タンパク質は、80%超、好ましくは85%超、更により好ましくは90%超の溶解度をpH7において有し得る。
【0025】
溶解度は、蒸留水にマメ科植物タンパク質を希釈し、混合物を遠心分離し、以下に記載される溶解度の試験Aに従って上清を分析することによって測定することができる。
【0026】
本発明によるマメ科植物タンパク質は、15%未満、好ましくは12%未満の加水分解度を有する。
【0027】
加水分解度は、以下に記載される加水分解度の試験B(OPA試験と呼ばれる試験)に従って、全窒素に対する遊離アミノ窒素の含有量を測定することによって求めることができる。
【0028】
マメ科植物タンパク質は、好ましくは、ソラマメタンパク質又はエンドウタンパク質である。エンドウタンパク質が特に好ましい。
【0029】
用語「エンドウ」は、本明細書においてその最も広く許容される使用法により考慮され、特に、その品種の通常の使用目的(ヒトの食品、動物用飼料及び/又は他の用途)に関わらず、「丸エンドウ」及び「しわのあるエンドウ」の全ての品種、並びに「丸エンドウ」及び「しわのあるエンドウ」の全ての変異品種を含む。
【0030】
本出願において用語「エンドウ」は、エンドウ属、より詳細には、sativum及びaestivum種に属するエンドウ品種を含む。この変異品種は、C-L HEYDLEYらによる論文、題名「Developing novel pea starches.」Proceedings of the Symposium of the Industrial Biochemistry and Biotechnology Group of the Biochemical Society,1996,pp.77-87に記載されているように、特に、「変異体r」、「変異体rb」、「突然変異体rug3」、「変異体rug4」、「変異体rug5」及び「変異体lam」と命名されたものである。
【0031】
更により好ましくは、本発明によるマメ科植物タンパク質は単離物であり、そのタンパク質含有量は、乾物重量に対して80重量%超である。
【0032】
本出願において「単離物」は、組成物の乾物重量に対して、80重量%超、好ましくは90重量%超のタンパク質含有量を含む組成物を意味することを意図する。
【0033】
タンパク質含有量は、当業者に周知の任意の技術によって測定される。好ましくは、全窒素(%/粗製)をアッセイし、その結果に係数6.25を乗算する。植物タンパク質の分野におけるこの周知の方法論は、タンパク質が平均で16%窒素を含有するという観察に基づく。当業者に周知の任意の乾燥物アッセイ法も使用することができる。
【0034】
本発明のマメ科植物タンパク質は、特に、以下の工程:
-マメ科植物タンパク質単離物の水溶液を準備する工程;
-キモトリプシン様セリンプロテアーゼ酵素を添加することによって単離物を加水分解して、15%未満、好ましくは12%未満の加水分解度を得る工程;
-任意選択的に、酵素を阻害する工程;
-任意選択的に、加水分解されたマメ科植物タンパク質を乾燥させる工程;
を含む方法によって得ることができる。
【0035】
好ましい実施形態によると、マメ科植物タンパク質単離物は、ソラマメタンパク質単離物又はエンドウタンパク質単離物から選択される。エンドウタンパク質単離物が特に好ましい。
【0036】
使用するマメ科植物タンパク質単離物は、市販のもの又はカスタムメイドのものなど複数の供給源に由来するものであってよいものの、当該単離物は、それを構成するタンパク質分子のサイズを減じる加水分解を事前に受けていないものでなければならない。好ましくは、単離物は、本出願人からの欧州特許第1400537号又は欧州特許第1909593号に記載されている方法を実施することによって得られる。
【0037】
好ましくは、マメ科植物タンパク質の水溶液は、水溶液の重量に対して5重量%~20重量%、好ましくは8重量%~12重量%の乾燥物を含む。
【0038】
次に、この方法で調製した溶液にキモトリプシン様セリンプロテアーゼ型酵素を添加して、15%未満、好ましくは12%未満の加水分解度を有する加水分解されたマメ科タンパク質を得る。
【0039】
本出願において、「プロテアーゼ」は、ペプチド結合を加水分解することによってタンパク質又はペプチドを切断することができる酵素を意味することを意図する。本出願において、「セリンプロテアーゼ」は、触媒作用において重要な役割を果たすセリン残基を含有する活性部位を有するプロテアーゼを意味することを意図する。様々なセリンプロテアーゼが、国際分類EC3.4.21の同じファミリーに分類される。
【0040】
本発明で使用されるセリンプロテアーゼはキモトリプシン様である。「キモトリプシン様」は、ペプチド結合の切断が、チロシン、フェニルアラニン又はロイシンなどの芳香族及び疎水性アミノ酸の後に特異的に位置することを特徴とする作用様式を有するセリンプロテアーゼを意味することを意図する。
【0041】
所望の加水分解度を得るために添加する必要のある酵素の重量は、本発明による方法で用いられる単離物中のタンパク質の重量に対して定量される。特定の実施形態によると、添加される酵素の量は、単離物中のタンパク質の重量に対して、0.2重量%超、好ましくは0.25重量%~0.50重量%である。0.5%超の量の酵素を添加することも可能である。この結果、同一の結果が、より短い時間でもたらされる。当業者であれば、所望の反応時間を達成するために酵素の量を調整する方法をご存知であろう。
【0042】
酵素を添加した後、撹拌しながら加水分解反応を実施することができる。特定の実施形態によると、加水分解は、30分間~2時間、好ましくは約1時間にわたって実施される。上記のように、この時間は、酵素量を増加させることによって短縮され得る。この調整は、当業者により明瞭に実施可能である。
【0043】
特定の実施形態によると、加水分解は、45~65℃、好ましくは50~60℃、より好ましくは約55℃の温度で実施される。加熱は、浸漬型熱交換器などの当業者に周知の任意の設備を使用して実施されてもよい。好ましくは、温度は、酵素を添加する前に45~65℃に調整され、次いで、加水分解の持続時間にわたって±2℃に調節される。
【0044】
特定の実施形態によると、加水分解は、8~10、好ましくは約9のpHで実施される。pHは、酸及び/又は塩基、例えば水酸化ナトリウム又は塩酸を添加することによって調整することができる。緩衝液の使用は、不要ではあるものの、想定することができる。好ましくは、pHは、酵素を添加する前に8~10に調整され、次いで、加水分解の持続時間にわたって±0.5pH単位に調節される。
【0045】
任意選択的に、加水分解反応が完了した時点で酵素を阻害することができる。この目的のために、例えば、反応媒体を5分間、pH7及び90℃に調整してもよい。
【0046】
任意選択的に、加水分解されたマメ科植物タンパク質は、噴霧乾燥(一回又は複数回)又は凍結乾燥などの任意の周知の乾燥方法によって乾燥させることができる。この乾燥の前に、任意選択的に、望ましくない固体粒子を除去できる濾過工程を実施してもよい。
【0047】
本発明のマメ科植物タンパク質は、ヒト又は動物用の食品組成物、化粧品組成物、又は医薬組成物の調製に使用され得る。
【0048】
実際、かかるマメ科植物タンパク質は、酸性pHにおける溶解度が優れているため、数多くの工業用途、特に、農産物、化粧品又は医薬品産業、及び動物用飼料において特に興味深いものである。
【0049】
特定の実施形態によると、本発明によるマメ科植物タンパク質は、酸性飲料、例えばソーダの調製に使用される。
【0050】
酸性飲料への本発明によるタンパク質の組込みは、特に有利である。実際、標準的なタンパク質とは異なり、本発明のタンパク質は溶解したままであり、保存時間中に沈殿する傾向はない。したがって、本発明によるタンパク質の使用により、保存安定な酸性飲料を得ることが可能になる。
【0051】
「食品組成物」は、ヒト又は動物の食物としての組成物を意味することを意図する。食品組成物という用語は、食品製品、栄養補助食品及び飲料を包含する。「化粧品組成物」は、化粧品用途のための組成物を意味することを意図する。「医薬組成物」は、治療用途のための組成物を意味することを意図する。
【0052】
本発明は、以下の実施例によって更に良好に理解されるであろう。
【実施例】
【0053】
試験方法
【0054】
溶解性の試験A
【0055】
150gの蒸留水を、磁気撹拌棒で撹拌しながら20℃±2℃で400mLビーカーに導入し、試験するマメ科植物タンパク質試料を正確に5g添加する。必要に応じて、pHを0.1N NaOHで所望の値に調整する。ビーカーの内容物に、水が200gになるように水を添加する。1000rpmで30分間混合し、3000gで15分間遠心分離を実施する。25gの上清を収集し、予め乾燥し風袋を計量した結晶皿に入れる。結晶皿を103℃±2℃のオーブンに1時間置く。次いで、結晶皿を乾燥器(乾燥剤を含む)内に置いて、周囲温度に冷却し、秤量する。
【0056】
溶解度は、可溶性乾燥物の含有量に相当し、試料の重量に対する重量%として表される。溶解度は、以下の式で計算される:
【0057】
【数1】
[式中、
P=試料の重量(g)=5g
m1=乾燥後の結晶皿の重量(g)
m2=空の結晶皿の重量(g)
P1=収集した試料の重量(g)=25g]
【0058】
加水分解度の試験B(いわゆるOPA試験)
【0059】
最初に、本発明のタンパク質試料のアミノ窒素(遊離NH2)の含有量を、MEGAZYMEキット(参照K-PANOPA)を用いて決定する。試料のタンパク質窒素(全窒素)の含有量も決定する。次いで、加水分解度を計算することができる。
【0060】
アミノ窒素の含有量の決定:
【0061】
試料中の遊離アミノ酸の「アミノ窒素」基は、N-アセチル-Lシステイン及びo-フタルアルデヒド(o-Phthaldialdehyde、OPA)と反応してイソインドール誘導体を形成する。
【0062】
この反応中に形成されるイソインドールの量は、遊離アミノ窒素の量と化学量論的である。かかるイソインドール誘導体は、340nmにおける吸光度の増加によって測定される。
【0063】
正確に秤量した被検査試料P*を、100mLビーカーに導入する。被検査試料は、試料のアミノ窒素含有量に基づいて、0.5~5.0gである。約50mLの蒸留水を添加し、均質化を実施し、混合物を100mLのメスフラスコにデカントする。5mLの20%ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate、SDS)を添加し、100mLの体積になるまで混合物に蒸留水を添加する。磁気撹拌器を用いて、1000rpmで15分間撹拌する。no.1の溶液は、Megazymeキットのボトル1の錠剤1つを3mLの蒸留水に溶解することによって調製し、完全に溶解するまで撹拌する。試験ごとに錠剤を1つ準備する必要がある。no.1の溶液は使用直前に調製する。
【0064】
ブランク、標準及び試料を、以下の条件下で分光光度計のキュベット内で直接調製する:
-ブランク:no.1の溶液3.00mL及び蒸留水50μLを入れる
-標準:no.1の溶液3.00mL及びMegazymeキットのボトル3の溶液50μLを入れる
-試料:no.1の溶液3.00mL及び試料調製物50μLを入れる。
【0065】
各キュベットの内容物を混合し、溶液の吸光度(A1)の測定値を、分光光度計(1.0cmの光路を有するキュベットを備えた分光光度計、340nmの波長で測定することができ、関連する製造業者の技術マニュアルに記載される手順に従って検証)において、340nmで約2mn後に取得する。
【0066】
次いで、各分光光度計キュベットに、Megazymeキットのボトル2のOPA溶液に対応するno.2溶液100μLを添加することによって反応を直ちに開始する。
【0067】
各キュベットの内容物を混合し、次いで、それらを約20分間暗所に置く。
【0068】
次いで、ブランク、標準及び試料の吸光度A2の測定値を340nmの分光光度計から取得する。
【0069】
生成物の重量に対する重量パーセンテージとして表される遊離アミノ窒素含有量は、以下の式によって得られる:
【0070】
【0071】
【0072】
ΔAech=Aech2-Aech1
ΔAblc=Ablc2-Ablc1
Aech2=no.2の溶液を添加した後の試料の吸光度
Aech1=no.1の溶液を添加した後の試料の吸光度
Ablc2=no.2の溶液を添加した後のブランクの吸光度
Ablc1=no.1の溶液を添加した後のブランクの吸光度
V=フラスコの体積
m=被検査試料の重量(g)
6803=340nmにおけるイソインドール誘導体の吸光係数(l.mol-1.cm-1)。
14.01=窒素のモル質量(g.mol-1)
3.15=キュベット内の最終体積(mL)
0.05=キュベット内の被検査試料(mL)
【0073】
タンパク質窒素の含有量の決定:
【0074】
タンパク質窒素の含有量は、規格ISO16634(2016)によるDUMAS法に従って決定する。これは、生成物の重量に対する重量パーセンテージとして表される。
【0075】
加水分解度の計算
【0076】
加水分解度(degree of hydrolysis、DH)は、以下の式で計算される。
【0077】
【0078】
例1:本発明によるタンパク質単離物の製造
【0079】
ROQUETTEにより製造された市販のエンドウタンパク質単離物NUTRALYS(登録商標)S85Fを使用する。単離物は、乾物重量に対して83重量%のタンパク質を含有する。
【0080】
この単離物150gを、1290gの飲料水と共に、1.5Lの容積の撹拌反応器に20℃で導入する。温度調節システムに接続した内部浸漬管のシステムを使用して、その温度を55℃に調整する。1M HCl及びNaOHの溶液及び好適に較正されたpHメーターを使用して、pHを9に調整する。
【0081】
次いで、NOVOZYMES製の酵素Formea(登録商標)CTL600(キモトリプシン様セリンプロテアーゼ)0.3gを添加する。
【0082】
持続的に撹拌しながら、この方法で反応を1時間制御する。
【0083】
次いで、pHを7に、かつ温度を90℃に、5分間調整して、酵素を阻害する。
【0084】
生成物を凍結乾燥によって乾燥した。これは、「本発明による生成物no.1」に対応する。
【0085】
例2:本発明による第2のタンパク質単離物の製造
【0086】
「本発明による生成物no.2」は、酵素Formea(登録商標)CTL600を0.3gではなく0.6g使用して、例1に従って得られる。
【0087】
例3:比較目的のための本発明によらないタンパク質単離物の製造
【0088】
この例の加水分解プロトコルは、上記例1に由来する。例に関連する変更を、以下の表に詳述する。酵素量は、単離物中のタンパク質の重量に対する重量パーセンテージとして表される。
【0089】
【0090】
この比較例で使用される酵素はキモトリプシン様セリンプロテアーゼではないことに留意されたい。
【0091】
例4:得られた様々な生成物の比較
【0092】
各試料について、加水分解度(DH)、pH5における溶解度、及びpH7における溶解度を、上記の試験に従って測定する。
【0093】
結果を以下の表に要約する。
【0094】
【0095】
本明細書において、80%超の溶解度をpH5において有し、及び80%超の溶解度をpH7において有しながら、12未満の加水分解度を有する、マメ科植物(この場合はエンドウ)のタンパク質単離物を得ることを可能にするのは、キモトリプシン様セリンプロテアーゼの使用のみであることが明白である。