(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】水溶性(メタ)アクリル系樹脂およびその利用
(51)【国際特許分類】
C08F 220/10 20060101AFI20240627BHJP
C08F 2/04 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08F220/10
C08F2/04
(21)【出願番号】P 2021544017
(86)(22)【出願日】2020-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2020033363
(87)【国際公開番号】W WO2021045136
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2019163334
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】横井 宙是
(72)【発明者】
【氏名】松尾 陽一
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-053311(JP,A)
【文献】国際公開第2014/168122(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/038271(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/017619(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F、C08L43、C09D143
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)強酸と強塩基からなる塩構造を有し、かつ(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基の少なくともいずれか一方のラジカル重合性不飽和基を有する単量体と、
(B)加水分解性シリル基およびラジカル重合性不飽和を有する単量体と、
(C)前記(A)および(B)以外のラジカル重合性不飽和基を有する単量体と、を水と有機溶媒との混合溶媒中にて共重合して、(メタ)アクリル系樹脂を含む水溶液を得る工程を有する、(メタ)アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記共重合する工程の後に、脱揮により、(メタ)アクリル系樹脂を含む水溶液の水含有率を40重量%以上、アルコール含有率を10重量%以下とする工程を有する、請求項1に記載の(メタ)アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記(A)の単量体は、前記(A)~(C)の全量に対して、6重量%以上50重量%以下である、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記(B)の単量体は、前記(A)~(C)の全量に対して、1重量%以上30重量%以下であり、前記(C)は、前記(A)~(C)の全量に対して、30重量%以上93重量%以下である、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記塩構造は、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、およびスルホン酸カルシウムからなる群より選択されるいずれかである、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記加水分解性シリル基は、エトキシシリル基である、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記加水分解性シリル基は、トリエトキシシリル基である、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記混合溶媒中の水:有機溶媒が、重量比率で1:10~8:10である、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性の(メタ)アクリル系樹脂およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料の分野においても、公害対策および省資源の観点より、有機溶剤を使用するものから、水溶性あるいは水分散性樹脂への転換が試みられている。しかし、水性塗料により形成された塗膜は、溶剤系塗料を用いて形成した塗膜に比べ、一般的に性能が劣るという欠点を有していた。
【0003】
このような課題を解決するために、種々の技術が開発されている。例えば、特許文献1には、水性媒体中に分散された種粒子の存在下に、重合性単量体、特定のシリコン化合物および/またはその部分加水分解縮合物、乳化剤および/または水溶性高分子化合物、および水からなる混合物に機械的剪断を加えることによって形成した乳化液を添加し、種粒子に重合性単量体並びにシリコン化合物および/またはその部分加水分解縮合物を吸収させた後、または吸収させながら重合を行うシリコン化合物および/またはその部分加水分解縮合物が包含された重合体粒子よりなる樹脂エマルションの製造方法、並びに当該樹脂エマルションを含む水性塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1のような樹脂エマルションを用いたアクリルシリコン樹脂を含む水性塗料では、塗膜の透明性(光沢性)、含浸性(補強性)および製膜性において、さらなる改善の余地があった。また、水性塗料として流通するため、貯蔵安定性も良好であることが求められる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、水性塗料として使用した場合に、塗膜の透明性(光沢性)、含浸性(補強性)および製膜性に優れ、かつ貯蔵安定性も良好な、水溶性の(メタ)アクリル系樹脂およびその利用技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系樹脂において、さらに、強酸と強塩基からなる塩構造を付加することにより、水溶性の(メタ)アクリル系樹脂が得られるとの新規知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一態様は、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系樹脂であって、さらに、強酸と強塩基からなる塩構造を有し、水溶性である、(メタ)アクリル系樹脂に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、水性塗料として使用した場合に、塗膜の透明性(光沢性)、含浸性(補強性)および製膜性に優れ、かつ貯蔵安定性も良好な、水溶性の(メタ)アクリル系樹脂およびその利用技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0011】
〔1.本発明の概要〕
本発明の一実施形態に係る(メタ)アクリル系樹脂(以下、「本アクリル系樹脂」と称する。)は、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系樹脂であって、さらに、強酸と強塩基からなる塩構造を有し、水溶性であることを特徴とする。
【0012】
従来のアクリルシリコン樹脂は水に不溶性のため、水性塗料用組成物とするためには、乳化剤を用いて、エマルションとして分散させる必要があった。しかし、エマルション型のアクリルシリコン樹脂を含む水性塗料では、塗膜の透明性(光沢性)、含浸性(補強性)および製膜性の面で改善の余地があった。これは、エマルションの粒径が比較的大きいため、塗料を塗布した際にアクリルシリコン樹脂が塗膜上で均一とならず、また基材に十分に浸透しないためと推測された。
【0013】
かかる課題を解決するために、本発明者は、乳化剤を用いたエマルション型の水性塗料以外の水性塗料を開発すべく、アクリルシリコン樹脂の水への溶解性を高める検討を行った。この検討過程において、アクリルシリコン樹脂の水溶性を高めると、今度は貯蔵安定性が低下するという新たな問題点が発生した。これは、水系溶媒中において、アクリルシリコン樹脂中の加水分解性シリル基が経時的に加水分解してしまうためと考えられた。
【0014】
そこで、水溶性と貯蔵安定性とを両立させるために、本発明者が鋭意検討を行ったところ、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系樹脂において、さらに、強酸と強塩基からなる塩構造を含む構成とすることにより、水溶性であるにも関わらず、貯蔵安定性にも優れる(メタ)アクリル系樹脂が得られることを見出した。また、かかる(メタ)アクリル系樹脂を水性塗料として用いた場合、得られる塗膜は、透明性(光沢性)、含浸性(補強性)および製膜性に優れることがわかった。
【0015】
〔2.(メタ)アクリル系樹脂〕
本アクリル系樹脂は、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系樹脂であって、さらに、強酸と強塩基からなる塩構造を有し、水溶性であればよい。
【0016】
本アクリル系樹脂は、上記のような特徴的な構成を有することにより、貯蔵安定性に優れ、かつかかる(メタ)アクリル系樹脂を水性塗料として用いた場合に、得られる塗膜が、透明性(光沢性)、含浸性(補強性)および製膜性に優れる。
【0017】
本明細書において「強酸」とは、酸解離定数pKaが0未満である電解質を意味する。強酸としては、上記定義を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。本発明の一実施形態において、強酸は、好ましくは、硫酸である。
【0018】
本明細書において「強塩基」とは、塩基解離定数pKbが0未満である電解質を意味する。強塩基としては、上記定義を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。本発明の一実施形態において、強塩基は、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムである。
【0019】
本明細書において「塩構造」とは、強酸と強塩基とを中和することにより得られる中性塩の構造を意味する。塩構造としては、上記定義を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、スルホン酸カルシウム等が挙げられる。本発明の一実施形態において、塩構造は、好ましくは、スルホン酸ナトリウムである。
【0020】
本明細書において「水溶性」とは、樹脂を、固形分濃度が20%となるように水に溶解または分散させた場合の、1気圧、25℃におけるヘイズ値が20.0以下であることを意味する。なお、ヘイズ値は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0021】
本明細書において「(メタ)アクリル系樹脂」とは、主成分としてアクリルを含む樹脂を意味し、全構成単位の70重量%以上が(メタ)アクリル単量体由来の構成単位であることが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂としては、上記定義を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、アクリルシリコン樹脂、アクリルポリオール等が挙げられる。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂は、耐候性の観点から、好ましくは、アクリルシリコン樹脂である。
【0022】
本明細書において「加水分解性シリル基」とは、加水分解可能なシリル基を意味する。加水分解性シリル基としては、上記定義を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、アルコキシシリル基が好ましく例示でき、アルコキシシリル基が有するアルコキシ基として、メトキシシリル(-SiOMe)基、エトキシシリル(-SiOEt)基、プロポキシシリル基、ブトキシシリル基等が挙げられる。本発明の一実施形態において、加水分解性シリル基は、ジアルコキシシリル基またはトリアルコキシシリル基であることが好ましい。ジアルコキシシリル基としては、例えば、メチルジエトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基、メチルジプロポキシシリル基、エチルジプロポキシシリル基、メチルジブトキシシリル基、エチルジブトキシシリル基等が挙げられる。また、トリアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、トリブトキシシリル基等が挙げられる。貯蔵安定性、加水分解速度、入手容易性等の観点から、エトキシシリル基が好ましく、トリエトキシシリル基がとりわけ好ましい。
【0023】
本発明の一実施形態において、本アクリル系樹脂は、構成単位として、強酸と強塩基からなる塩構造を有し、かつ(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基の少なくともいずれか一方のラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位(a)を含むことが好ましい。また、別の観点から、本アクリル系樹脂は、(メタ)アクリロイルオキシ単位または(メタ)アクリルアミド単位のいずれか一方の単位を含むとも言える。なお、以下において、「強酸と強塩基からなる塩構造を有し、かつ(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基の少なくともいずれか一方のラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位(a)」を、単に「構成単位(a)」と称する。
【0024】
また、本発明の一実施形態において、本アクリル系樹脂は、構成単位として、強酸と強塩基からなる塩構造を有し、かつ(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基の少なくともいずれか一方のラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位(a)を含み、さらに、加水分解性シリル基およびラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位(b)と、前記(a)および(b)以外の、ラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位(c)とを含むことが好ましい。なお、以下において、「加水分解性シリル基およびラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位(b)」を、単に「構成単位(b)」と称し、「前記(a)および(b)以外の、ラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位(c)」を、単に「構成単位(c)」と称する。
【0025】
(構成単位(a))
構成単位(a)は、強酸と強塩基からなる塩構造を有し、かつ(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基の少なくともいずれか一方のラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位からなる。構成単位(a)が由来する単量体は、ラジカル重合反応により、構成単位(c)に結合する。
【0026】
構成単位(a)が由来する単量体が、強酸と強塩基からなる塩構造を有することにより、本アクリル系樹脂は、水溶性であるにも関わらず、貯蔵安定性にも優れる。
【0027】
また、構成単位(a)が由来する単量体が、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基の少なくともいずれか一方のラジカル重合性不飽和基を有することにより、本アクリル系樹脂の共重合の際の重合安定性が良好となり、水溶性が発現する。なお、ビニル基等のラジカル重合性不飽和基を有する単量体を用いた場合は、ラジカル重合反応速度が、構成単位(b)および構成単位(c)よりも著しく遅いため、水溶性は発現しない。
【0028】
構成単位(a)が由来する単量体としては、強酸と強塩基からなる塩構造を有し、かつ(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基の少なくともいずれか一方のラジカル重合性不飽和基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えば、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸ナトリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カリウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸カリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カルシウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸カルシウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カルシウム等が挙げられる。
【0029】
また、構成単位(a)が由来する単量体は、市販品として入手することができる。そのような市販品としては、例えば、日本乳化剤(株)製の「アントックスMS-2N-D」、東亞合成(株)製の「ATBS-Na」、三洋化成工業製の「エレミノールRS-3000」等が挙げられる。
【0030】
本発明の一実施形態において、構成単位(a)の含有量は、例えば、上記(a)~(c)の全量に対して、6重量%以上であり、好ましくは、7重量%以上であり、より好ましくは、8重量%以上であり、特に好ましくは、9重量%以上であり、とりわけ好ましくは、10重量%以上である。構成単位(a)の含有量が上記範囲内であると、水溶性の効果を奏する。また、構成単位(a)の含有量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、50重量%以下であり、好ましくは、30重量%以下であり、より好ましくは、20重量%以下であり、特に好ましくは、15重量%以下である。
【0031】
(構成単位(b))
構成単位(b)は、加水分解性シリル基およびラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位からなる。構成単位(b)が由来する化合物は、ラジカル重合反応により、構成単位(c)に結合する。
【0032】
構成単位(b)が由来する化合物としては、加水分解性シリル基およびラジカル重合性不飽和基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えば、以下の式(1)で示される有機けい素化合物が挙げられる。
【0033】
R1R2
(3-n)SiXn ・・・(1)
(式中、R1は、重合性二重結合を有する炭素数5~10の1価の有機基であり、R2は、炭素数1~4のアルキル基であり、Xは、炭素数1~4のアルコキシル基であり、nは、1か2か3である。)
すなわち、上記有機けい素化合物は、1~3個のアルコキシル基を有し、かつ反応性二重結合を有する化合物である。その具体例としては、例えば、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシラン等が挙げられる。これらの化合物は、1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、貯蔵安定性の観点から、Xの炭素数は2~4であることが好ましく、貯蔵安定性および加水分解速度の観点から、Xの炭素数は2であることが好ましい。
【0034】
また、構成単位(b)が由来する化合物は、市販品として入手することができる。そのような市販品としては、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-174」、ダウ・東レ(株)製の「Z-6033」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「Y-9936」等が挙げられる。
【0035】
本発明の一実施形態において、構成単位(b)の含有量は、例えば、上記(a)~(c)の全量に対して、1重量%以上であり、好ましくは、3重量%以上であり、より好ましくは、5重量%以上である。構成単位(b)の含有量が上記範囲内であると、高耐候性の効果を奏する。また、構成単位(b)の含有量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、30重量%以下であり、好ましくは、20重量%以下であり、より好ましくは、15重量%以下であり、特に好ましくは、10重量%以下である。
【0036】
(構成単位(c))
構成単位(c)は、上記(a)および(b)以外の、ラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位からなる。構成単位(c)が由来する単量体は、ラジカル重合反応により、構成単位(a)および構成単位(b)に結合する。
【0037】
構成単位(c)が由来する単量体としては、上記(a)および(b)以外の、ラジカル重合性不飽和基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えば、以下で示すような(メタ)アクリル酸アルキルエステル、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体が挙げられる。
【0038】
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル>
本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、炭素数1~18個のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルであり、水酸基、エポキシ基等の官能基を含まない(メタ)アルキル単量体であり得る。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸アルキルエステル中のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、また、環状であるシクロアルキル基であってもよい。その具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)メタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体>
(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ラジカル重合性単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ラジカル重合性単量体;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;2-スルホエチルメタクリレートアンモニウム、ポリオキシアルキレン鎖を有するラジカル重合性単量体等の親水性を有するラジカル重合性単量体;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の重合性の不飽和結合を2つ以上有する単量体;トリフルオロ(メタ)アクリレート、ペンタフルオロ(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメタクリレート、β-(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート等のふっ素含有ラジカル重合性単量体;等が挙げられる。
【0040】
また、上記ポリオキシアルキレン鎖を有するラジカル重合性単量体としては、特に限定されないが、ポリオキアルキレン鎖を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。その具体例としては、例えば、日本油脂(株)製ブレンマーPE-90、PE-200、PE-350、AE-90、AE-200、AE-350、PP-500、PP-800、PP-1000、AP-400、AP-550、AP-800、700PEP-350B、10PEP-550B、55PET-400、30PET-800、55PET-800、30PPT-800、50PPT-800、70PPT-800、PME-100、PME-200、PME-400、PME-1000、PME-4000、AME-400、50POEP-800B、50AOEP-800B、AEP、AET、APT、PLE、ALE、PSE、ASE、PKE、AKE、PNE、ANE、PNP、ANP、PNEP-600、共栄社化学(株)製ライトエステル130MA、041MA、MTG、ライトアクリレートEC-A、MTG-A、130A、DPM-A、P-200A、NP-4EA、NP-8EA、EHDG-A、日本乳化剤(株)製MA-30、MA-50、MA-100、MA-150、RMA-1120、RMA-564、RMA-568、RMA-506、MPG130-MA、Antox MS-60、MPG-130MA、RMA-150M、RMA-300M、RMA-450M、RA-1020、RA-1120、RA-1820、新中村化学工業(株)製NK-ESTER M-20G、M-40G、M-90G、M-230G、AMP-10G、AMP-20G、AMP-60G、AM-90G、LA等があげられる。
【0041】
本発明の一実施形態において、構成単位(c)の含有量は、例えば、上記(a)~(c)の全量に対して、30重量%以上であり、好ましくは、50重量%以上であり、より好ましくは、60重量%以上である。構成単位(c)の含有量が上記範囲内であると、柔軟性等の効果を奏する。また、構成単位(c)の含有量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、93重量%以下であり、好ましくは、90重量%以下であり、より好ましくは、85重量%以下であり、特に好ましくは、80重量%以下である。
【0042】
構成単位(c)の平均分子量は、数平均分子量(Mn)換算で、例えば、1,000~1,000,000の範囲内であり、10,000~200,000がより好ましい。構成単位(c)の数平均分子量が上記範囲内であれば、耐候性等の利点を有する。
【0043】
(物性)
本発明の一実施形態において、本アクリル系樹脂のヘイズ値は、後述する実施例に記載の方法で測定した場合に、本明細書における水溶性の基準である20.0以下であればよく、好ましくは、15.0以下であり、より好ましくは、13.0以下である。
【0044】
本発明の一実施形態において、本アクリル系樹脂の貯蔵安定性は、後述する実施例に記載の方法で測定した場合に、例えば、2週間以上である。貯蔵安定性が上記範囲内であると、貯蔵安定性に優れる。
【0045】
本発明の一実施形態において、本アクリル系樹脂の最低成膜温度は、後述する実施例に記載の方法で測定した場合に、例えば、15℃未満であり、好ましくは、10℃以下であり、より好ましくは、5℃以下であり、特に好ましくは、0℃以下である。最低成膜温度が上記範囲内であると、高い成膜性を有する塗料として利用することが可能である。
【0046】
〔3.水性塗料、塗膜、水溶液〕
本発明の一実施形態に係る水性塗料(以下、「本水性塗料」と称する。)は、上記〔2.(メタ)アクリル系樹脂〕に記載の(メタ)アクリル系樹脂を含む水性塗料である。本水性塗料は、貯蔵安定性に優れ、かつ水性塗料として用いた場合に、得られる塗膜が、透明性(光沢性)、含浸性(補強性)および製膜性に優れる(メタ)アクリル系樹脂を含むため、塗料用途において有用である。
【0047】
本水性塗料は、〔2.(メタ)アクリル系樹脂〕に記載の(メタ)アクリル系樹脂の他に、硬化触媒を含んでいてもよい。本水性塗料を塗装する際に、アルコキシシリル基の加水分解縮合反応を促進させる硬化触媒を添加することにより、架橋反応が促進される。
【0048】
硬化触媒としては、特に限定されないが、例えば、有機金属化合物、酸性触媒、塩基性触媒等が挙げられる。なかでも、活性の観点から、有機錫化合物、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルとアミン化合物との反応物が好ましい。
【0049】
有機錫化合物としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ジオレイルマレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジメトキサイド、ジブチル錫チオグリコレート、ジブチル錫ビスイソノニル3-メルカプトプロピオネート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコレート、ジブチル錫ビス2-エチルヘキシルチオグリコレート、ジメチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジメチル錫ビス(オクチルチオグルコール酸エステル)塩、オクチル酸錫等が挙げられる。
【0050】
なかでも、水中での安定性の観点から、ジブチル錫チオグリコレート、ジブチル錫ビスイソノニル3-メルカプトプロピオネート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコレート、ジブチル錫ビス2-エチルヘキシルチオグリコレート、ジメチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジブチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジメチル錫ビス(オクチルチオグルコール酸エステル)塩等のメルカプチド系のものが好ましい。
【0051】
酸性リン酸エステル化合物としては、例えば、プロピルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルホスフェート、モノイソデシルアシッドホスフェート、ジイソデシルホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0052】
また、上記の酸性リン酸エステル化合物と反応させ得るアミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、n-ブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン、アンモニア等が挙げられる。
【0053】
本発明の一実施形態において、硬化触媒の添加量は、(メタ)アクリル系樹脂の固形分100重量部に対し、0.1~10重量部配合することが好ましく、特に、0.5~5重量部が好ましい。0.1重量部未満では、硬化活性が低く、10重量部を超えると塗料の可使時間が短くなり、また、塗膜の耐水性、耐候性が低下する等の懸念がある。
【0054】
本水性塗料は、本発明の効果を奏する範囲で、当該技術分野(とりわけ、塗料の分野)において通常用いられる添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤としては、例えば、料、充填剤、可塑剤、成膜助剤、湿潤・分散剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、沈降防止剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、凍結防止剤、抗菌剤、抗かび剤、粘着付与剤、防錆剤等が挙げられる。添加剤としては、1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。これら添加剤の量は、その使用目的に応じて当業者が適宜設定可能である。
【0055】
また、本発明の一実施形態において、上記〔2.(メタ)アクリル系樹脂〕に記載の(メタ)アクリル系樹脂を含む水溶液(以下、「本水溶液」と称する。)を提供し得る。
【0056】
本明細書において「水溶液」とは、上記「水溶性」の定義を満たす樹脂を含み、かつ、水が全媒体の40重量%以上を占める溶液を意味する。したがって、本水溶液は、水以外の媒体(例えば、溶剤)を10%未満の量で含み得る。
【0057】
本水溶液は、貯蔵安定性に優れ、かつ水性塗料として用いた場合に、得られる塗膜が、透明性(光沢性)、含浸性(補強性)および製膜性に優れるとの効果を奏する(メタ)アクリル系樹脂を含むため、とりわけ水性塗料用途において有用である。
【0058】
本発明の一実施形態において、本水溶液の水含有率は、後述する実施例に記載の方法で測定した場合に、例えば、40重量%以上であり、好ましくは、50重量%以上であり、より好ましくは、60重量%以上である。水含有率が上記範囲内であると、水性の塗料として利用が可能である。
【0059】
本発明の一実施形態において、本水溶液のアルコール含有率は、後述する実施例に記載の方法で測定した場合に、例えば、10重量%以下であり、好ましくは、8重量%以下であり、より好ましくは、5重量%以下である。アルコール含有率が上記範囲内であると、水性の塗料として利用が可能である。
【0060】
本発明の一実施形態において、本水溶液を使用した場合の塗膜の光沢値は、後述する実施例に記載の方法で測定した場合に、例えば、65以上であり、好ましくは、70以上であり、より好ましくは、75以上である。光沢値が上記範囲内であると、塗膜の外観(光沢性や透明性)に優れる。
【0061】
また、本発明の一実施形態において、上記〔2.(メタ)アクリル系樹脂〕に記載の(メタ)アクリル系樹脂を硬化した塗膜を提供し得る。本塗膜は、上述した水性塗料を硬化して得られた塗膜、また上述した水溶液から得られた塗膜を含む。
【0062】
〔4.製造方法〕
本発明の一実施形態に係る水溶性の(メタ)アクリル系樹脂の製造方法(以下、「本製造方法」と称する。)は、(A)強酸と強塩基からなる塩構造を有し、かつ(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基の少なくともいずれか一方のラジカル重合性不飽和基を有する単量体と、(B)加水分解性シリル基およびラジカル重合性不飽和を有する単量体と、(C)前記(A)および(B)以外のラジカル重合性不飽和基を有する単量体と、を水と有機溶媒との混合溶媒中にて共重合する工程を有することを特徴とする。
【0063】
上述の通り、従来のアクリルシリコン樹脂は水に不溶性のため、水性塗料用組成物とするためには、乳化剤を用いて、エマルションとして分散させる必要があった。しかし、本製造方法では、特定の構造を有する、上記(A)の単量体、上記(B)の化合物および上記(C)の単量体を用いることにより、水と有機溶媒との混合溶媒中での共重合が可能となる。
【0064】
なお、「上記(A)の単量体」、「上記(B)の化合物」および「上記(C)の単量体」は、それぞれ、〔2.(メタ)アクリル系樹脂〕に記載の「構成単位(a)が由来する単量体」、「構成単位(b)が由来する化合物」および「構成単位(c)が由来する単量体」に対応する。
【0065】
本製造方法における水と有機溶媒との混合溶媒中での共重合は、当該技術分野で公知の方法により行うことができる。例えば、本アクリル系樹脂は、(A)の単量体、(B)の化合物および(C)の単量体を含む混合物に重合開始剤を添加し、水と有機溶媒との混合溶媒中で共重合することにより得られる。
【0066】
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等が挙げられる。
【0067】
上記重合開始剤の使用量は、例えば、単量体全量100重量部に対して0.01~10部であり、好ましくは0.05~5重量部である。かかる重合開始剤の使用量が0.01重量部未満である場合には、重合が進行しにくくなることがあり、10重量部を超える場合には、生成する重合体の分子量が低下する傾向がある。
【0068】
本発明の一実施形態において、(A)の単量体の量は、例えば、前記(A)~(C)の全量に対して、6重量%以上であり、好ましくは、7重量%以上であり、より好ましくは、8重量%以上であり、特に好ましくは、9重量%以上であり、とりわけ好ましくは、10重量%以上である。(A)の単量体の量が上記範囲内であると、水溶性の効果を奏する。また、(A)の単量体の量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、50重量%以下であり、好ましくは、30重量%以下であり、より好ましくは、20重量%以下であり、特に好ましくは、15重量%以下である。
【0069】
共重合の際に用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、ブタノール、ペンタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、テトラヒドロフラン等の水溶性溶媒等を挙げることができ、なかでも、2-プロパノールが好ましい。
【0070】
水と有機溶媒の混合比率としては、水:有機溶媒が、重量比率で1:10~8:10が好ましく、2:10~5:10がより好ましい。
【0071】
本発明の一実施形態において、重合温度は、重合中の混合液の安定性を保持し、重合を安定に行なう観点から、例えば、40~100℃であり、好ましくは、60~80℃である。また、本発明の一実施形態において、重合時間は、重合中の混合液の安定性を保持し、重合を安定に行なう観点から、例えば、3時間以上であり、好ましくは、4~8時間である。
【0072】
〔5.用途〕
本アクリル系樹脂、本水溶液および本水性塗料は、例えば、建築内外装用、メタリックベースあるいはメタリックベース上のクリアー等の自動車用、アルミニウム、ステンレス、銀等の金属直塗用、スレート、コンクリート、瓦、モルタル、石膏ボード、石綿スレート、アスベストボード、プレキャストコンクリート、軽量気泡コンクリート、珪酸カルシウム板、タイル、レンガ等の窯業系直塗用、ガラス用、天然大理石、御影石等の石材用の塗料あるいは上面処理剤として好適に用いられる。
【0073】
すなわち、本発明の一態様は、以下の発明を包含する。
<1>加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系樹脂であって、
さらに、強酸と強塩基からなる塩構造を有し、
水溶性である、(メタ)アクリル系樹脂。
<2>構成単位として、強酸と強塩基からなる塩構造を有し、かつ(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基の少なくともいずれか一方のラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位(a)を含む、<1>に記載の(メタ)アクリル系樹脂。
<3>構成単位として、さらに、加水分解性シリル基およびラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位(b)と、
前記(a)および(b)以外の、ラジカル重合性不飽和基を有する単量体に由来する構成単位(c)と、を含む、<2>に記載の(メタ)アクリル系樹脂。
<4>前記構成単位(a)は、前記(a)~(c)の全量に対して、6重量%以上50重量%以下である、<2>または<3>に記載の(メタ)アクリル系樹脂。
<5>前記構成単位(b)は、前記(a)~(c)の全量に対して、1重量%以上30重量%以下であり、前記構成単位(c)は、前記(a)~(c)の全量に対して、30重量%以上93重量%以下である、<3>または<4>に記載の(メタ)アクリル系樹脂。
<6>前記塩構造は、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、およびスルホン酸カルシウムからなる群より選択されるいずれかである、<1>~<5>のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂。
<7>前記加水分解性シリル基は、エトキシシリル(-SiOEt)基である、<1>~<6>のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂。
<8>前記加水分解性シリル基は、トリエトキシシリル基である、<1>~<7>のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル系樹脂。
<9>前記(メタ)アクリル系樹脂を、固形分濃度が20%となるように水に溶解または分散させた場合の、1気圧、25℃におけるヘイズ値が20.0以下である、<1>~<8>のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂。
<10><1>~<9>のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂を含む、水溶液。
<11>前記水溶液の水含有率が40重量%以上であり、アルコール含有率が10重量%以下である、<10>に記載の水溶液。
<12><1>~<9>のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂を含む水性塗料。
<13><1>~<9>のいずれかに記載の(メタ)アクリル系樹脂を硬化した塗膜。
<14>(A)強酸と強塩基からなる塩構造を有し、かつ(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基の少なくともいずれか一方のラジカル重合性不飽和基を有する単量体と、
(B)加水分解性シリル基およびラジカル重合性不飽和を有する単量体と、
(C)前記(A)および(B)以外のラジカル重合性不飽和基を有する単量体と、を水と有機溶媒との混合溶媒中にて共重合する工程を有する、<3>~<9>のいずれかに記載の水溶性の(メタ)アクリル系樹脂の製造方法。
<15>前記(A)の単量体は、前記(A)~(C)の全量に対して、6重量%以上50重量%以下である、<14>に記載の(メタ)アクリル系樹脂の製造方法。
【0074】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0076】
〔材料〕
実施例および比較例において、以下の材料を使用した。
【0077】
(a成分)
・構成単位(c)が由来する単量体
メチルメタクリレート(略称「MMA」):三菱ガス化学株式会社製
ブチルアクリレート(略称「BA」):株式会社日本触媒製
・構成単位(b)が由来する化合物
γ-メタアクリロキシプロピルトリエトキシシラン(略称「TESMA」):モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「Y-9936」
・構成単位(a)が由来する単量体
アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム:東亞合成(株)製の「ATBS-Na」、市販分類「モノマー」
スルホエチルメタクリル酸ナトリウム:日本乳化剤(株)製の「アントックスMS-2N-D」、市販分類「乳化剤」
エレミノールRS-3000:三洋化成工業製、スルホン酸(強酸)および水酸化ナトリウム(強塩基)からなる塩構造を有する化合物、市販分類「乳化剤」
アクリル酸ナトリウム(略称「AANa」):浅田化学工業(株)製、弱酸と強塩基からなる塩構造を有する(強酸と強塩基からなる塩構造を有さない)化合物、市販分類「モノマー」
アデカリアソープSR-10:(株)アデカ製、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基のいずれも含まない化合物、市販分類「乳化剤」
・重合開始剤
2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル):東京化成工業(株)
・その他
2-プロパノール:ナカライテスク(株)製
(b成分)
・その他
純水
2-プロパノール:ナカライテスク(株)製
過硫酸カリウム:三菱ガス化学(株)製
(c成分)
・重合開始剤
2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル):東京化成工業(株)
・その他
2-プロパノール:ナカライテスク(株)製
過硫酸カリウム:三菱ガス化学(株)製。
【0078】
〔測定および評価方法〕
実施例および比較例における測定および評価を、以下の方法で行った。
【0079】
(重合安定性)
重合中の増粘により流動性がなくなり攪拌が不可能になるか否かにより、重合安定性(重合中のゲル化)を評価した。問題なく重合が行われた場合を「可」とし、重合中の増粘により流動性がなくなり攪拌が不可能になった場合を「不可」とした。
【0080】
(水含有率)
減圧蒸留し、水希釈を行った後の固形分濃度の測定により、水溶液中の水含有率を測定した。
【0081】
(アルコール含有率)
減圧蒸留し、水希釈を行う前の固形分濃度の測定により、水溶液中のアルコール含有率を測定した。
【0082】
(水溶性評価)
特許第5252758号公報を参照して、(メタ)アクリル系樹脂の水溶性を評価した。簡潔には、合成例で得られた(メタ)アクリル系樹脂(共重合体)を純水で希釈し、樹脂固形分濃度を20%とした。1気圧、25℃下において、日本電色工業(株)製COH400を用いて、純水を標準液にして、(メタ)アクリル系樹脂のヘイズ値を測定した。上記ヘイズ値が20.0以下である場合を水溶性(表中では「○」)と判断した。
【0083】
(貯蔵安定性)
固形分濃度40%に調整した樹脂含有水溶液をガラス瓶内に密閉した状態で、25℃に昇温した熱風乾燥機内に静置し、前記ガラス瓶を45度傾けた際に内溶液に流動性が確認できなくなった時点をゲル化点として、貯蔵安定性(室温ゲル化日)を評価した。
【0084】
(最低成膜温度)
最低成膜温度(MFT)を、ヨシミツ精機製最低造膜温度測定装置 MFT-1を用いて測定した。MFTが低いほど成膜性が高いことを示す。
【0085】
(光沢値)
特許第5695950号公報を参照して、(メタ)アクリル系樹脂の水溶液を使用した場合の塗膜の光沢値を測定した。簡潔には、合成例で得られた固形分濃度が40%の(メタ)アクリル系樹脂(共重合体)の水溶液を15cm×7cmのガラス基板上に6milのアプリケーターで塗工し、23℃、50%RHにて1週間養生後、ミノルタ(株)製光沢計Multi-Gloss268を用いて、入射角60°の光沢値を測定した。光沢値が高いほど外観に優れることを示す。
【0086】
(付着性試験)
特開2014-118557号公報を参照して、付着性試験(碁盤目密着性試験)を行った。簡潔には、ケイ酸カルシウム板に、固形分濃度が30%の樹脂を1平方メートあたり100gの量で塗装し、その後、23℃、50%RHにて1週間養生し、JIS K5600に準拠して、1mm間隔の25マスからなる碁盤目の密着性試験を行った。試験後にケイ酸カルシウム板上に樹脂が残存するマスの数を基準として、以下のとおり評価した。尚、評価は、A、B、Cの順に良好である。すなわち、Aが最良であり、Bが良であり、Cは不可である。
【0087】
A:20マス以上
B:10マスから19マス
C:9マス以下。
【0088】
〔合成例1~8〕
(水溶性共重合体:A-1~A-8)
表1に記載の各種成分を表1に記載の量で用いて、各共重合体(A-1~A-8)を合成した。
【0089】
具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に、表1に記載の種類および量のb成分を仕込み、窒素ガスを導入しつつ75℃に昇温した後、表1に記載の種類および量のa成分の混合溶液を滴下ロートから5時間かけて等速滴下した。次に、表1に記載の種類および量のc成分の混合溶液を1時間かけて等速滴下した。その後、引き続き、75℃で2時間攪拌した後、ロータリーエバポレーターにより不揮発成分が90%以上になるまで脱揮を行い、続いて、不揮発成分が40%になるように水で希釈を行った。室温まで冷却し、各共重合体(A-1~A-8)を得た。
【0090】
〔合成例9〕
(水性エマルション共重合体:A-9)
表1に記載の各種成分を表1に記載の量で用いて、共重合体(A-9)を合成した。
【0091】
具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に、表1に記載の種類および量のb成分を仕込み、窒素ガスを導入しつつ75℃に昇温した後、表1に記載の種類および量のa成分の混合溶液を滴下ロートから5時間かけて等速滴下した。次に、表1に記載の種類および量のc成分の混合溶液を1時間かけて等速滴下した。その後、引き続き、75℃で2時間攪拌した後、室温まで冷却し、共重合体(A-9)を得た。
【0092】
【表1】
〔実施例1~6および比較例1~3〕
上記合成例1~9で得られた各共重合体(A-1~A-9)を用いて、上記に記載の方法により、各種パラメータの測定および/または評価を行った。結果を表2に示す。なお、各共重合体(A-1~A-9)は、それぞれ実施例1~6および比較例1~3に対応する。
【0093】
【表2】
〔結果〕
表2より、実施例1~6では、光沢値(塗膜の透明性)、付着性(含浸性、補強性)および最低成膜温度(成膜性に関連し、低い方が好ましい。)に優れ、かつ貯蔵安定性も良好であった。
【0094】
一方、比較例1では、ATBS-Naの量が少ないため(5重量%)光沢値が低く、含浸性(補強性)が低いことにより付着性も不良であった。また、最低成膜温度が高く成膜性も劣る結果となった。
【0095】
比較例2では、弱酸と強塩基からなる塩構造を有するアクリル酸ナトリウムを用いたため、重合安定性が悪くなり、目的の樹脂を得ることができなかった。
【0096】
比較例3では、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基のいずれも含まないアデカリアソープSR-10を用いたため、光沢値が低く、付着性も不良であった。また、最低成膜温度が高く成膜性が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本アクリル系樹脂は、水性塗料として使用した場合に、塗膜の透明性(光沢性)、含浸性(補強性)および製膜性に優れ、かつ貯蔵安定性も良好である。したがって、本発明は、様々なコーティング剤の分野に好適に利用することができる。