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特許7510969AIII-BV結晶から製造された基板ウエハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】AIII-BV結晶から製造された基板ウエハ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/40 20060101AFI20240627BHJP
   C30B 29/42 20060101ALI20240627BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240627BHJP
   C30B 11/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C30B29/40 501C
C30B29/42
H01L21/304 611Z
C30B11/00 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022090346
(22)【出願日】2022-06-02
(62)【分割の表示】P 2020563910の分割
【原出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2022119962
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】102019208389.7
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500562905
【氏名又は名称】フライベルガー・コンパウンド・マテリアルズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FREIBERGER COMPOUND MATERIALS GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】アイヒラー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ロッシュ,ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】シュプテル,ディミトリー
(72)【発明者】
【氏名】クレッツァー,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイナート,ベルンツ
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-143516(JP,A)
【文献】特開2009-051728(JP,A)
【文献】特開2010-064936(JP,A)
【文献】特開2015-231921(JP,A)
【文献】特開2005-132717(JP,A)
【文献】特表2010-528964(JP,A)
【文献】特開2000-203981(JP,A)
【文献】米国特許第04666681(US,A)
【文献】特開平06-298588(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008663(WO,A1)
【文献】特開平08-119800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ化ガリウム(GaAs)またはリン化インジウム(InP)を含むAIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハであって、
自身の中心軸(M)に対して垂直な前記単結晶(14)の断面領域内の平均エッジピット密度(EPDav)として求められる前記結晶の転位の平均密度が、5cm-2以下であり、
SIRD法による空間分解測定によって得られる、前記単結晶(14)または前記ウエハの表面における、最大で+/-30kPa以下の残留応力の分布を含み、
前記単結晶またはウエハの直径が150mm以上である、
AIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハ。
【請求項2】
ホウ素、ケイ素、亜鉛、硫黄、またはインジウムが、単独でまたは組合せて前記単結晶内に組み込まれている、
請求項1に記載のAIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハ。
【請求項3】
SIRD法による空間分解測定によって得られる、前記単結晶(14)または前記ウエハの表面における、最大で+/-25kPa以下の残留応力の分布を含む、
請求項1に記載のAIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハ。
【請求項4】
前記単結晶または前記ウエハの表面において、0.25mm2の大きさの全ての測定場が前記表面を完全にカバーしており、測定グリッド内における転位の全くない測定場の割合が、前記表面の全面積の99%以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のAIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハ。
【請求項5】
ヒ化ガリウム(GaAs)またはリン化インジウム(InP)を含むAIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハであって、
SIRD法による空間分解測定によって得られる、前記単結晶(14)または前記ウエハの表面における、最大で+/-30kPa以下の残留応力の分布を含み、
前記単結晶またはウエハの直径が150mm以上である、
AIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハ。
【請求項6】
SIRD法による空間分解測定によって得られる、前記単結晶(14)または前記ウエハの表面における、最大で+/-25kPa以下の残留応力の分布を含む、
請求項5に記載のAIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハ。
【請求項7】
前記空間分解測定の横方向解像度が100μmである、
請求項5又は請求項6に記載のAIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハ。
【請求項8】
自身の中心軸(M)に対して垂直な前記単結晶(14)の断面領域内の平均エッジピット密度(EPDav)として求められる前記結晶の転位の平均密度が、3cm-2以下である、
請求項1に記載のAIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハ。
【請求項9】
自身の中心軸(M)に対して垂直な前記単結晶(14)の断面領域内の平均エッジピット密度(EPDav)として求められる前記結晶の転位の平均密度が、1cm-2以下である、
請求項1に記載のAIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハ。
【請求項10】
自身の中心軸(M)に対して垂直な前記単結晶(14)の断面領域内の平均エッジピット密度(EPDav)として求められる前記結晶の転位の平均密度がゼロである、
請求項1に記載のAIII-BV単結晶(14)または前記単結晶(14)からの分離により得られるウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AIII-BV単結晶、特に、残留応力および転位のないヒ化ガリウム単結晶またはリン化インジウム単結晶から、製造対象の半導体単結晶と同じ半導体材料から形成される種結晶を使用して、半導体材料の溶融物をフリーズ、すなわち凝固させることにより製造されるウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、端面発光半導体レーザや垂直キャビティ面発光半導体レーザなどの高パワー密度を有する発光部品を製造するためのヒ化ガリウムまたはリン化インジウム基板ウエハの用途に関しては、転位が、非発光再結合中心として作用するため、収率および寿命にそれぞれ影響を及ぼす欠陥となってしまう。したがって、今日、低転位のAIII-BV基板ウエハがそのような用途に使用されている。本明細書において、AIII-BV単結晶またはウエハは、元素周期系のIIIおよびV族から選択される化合物からの結晶を指す。転位は、材料の弾性および可塑性、ならびに結晶の(凝固後の)冷却中の応力につながる温度場の曲率の存在に基づいて発達する。成長方法としては、温度場の比較的小さな曲率のゆえに、垂直ブリッジマン(VB)もしくは垂直温度勾配凝固VGF法のみが実質的に検討され得る、または熱的に類似の方法で行われる方法(例えば、M.Jurischら、「Handbook of Crystal Growth Bulk Crystal Growth: Basic Techniques VOLUME II, Part A, Second Edition, Chapter 9 “Vertical Bridgman Growth of Binary Compound Semiconductors”, 2015)を参照)が検討され得る。
【0003】
DE 199 12 486 A1は、ヒ化ガリウム結晶を成長させる装置を記述している。この装置は、炉内に配置されたるつぼを含む。この装置は、最終的に製造される単結晶の直径にほぼ相当するより大きな直径を有する第1の断面領域を含む第1のセクション内と、溶融物の結晶化の起点となる種結晶を特に収容する第2のセクションであって、比較的小さい直径を有し種チャネルと呼ばれる第2のセクション内において、原溶融物を収容するように構成されている。種結晶自体は、種チャネルの直径に対応する約8mmの直径と約40mmの長さを有する。上記文献で提案された手段(種結晶は種チャネル内において自由に存在し、種結晶と種チャネルのセクションにおけるるつぼとの間の空間は液体酸化ホウ素(B)に満たされている)により、成長後結晶の断面領域における1,000~10,000cm-2の範囲の転位密度が達成される。
【0004】
転位の形成は、いわゆる格子硬化ドーパント(例えば、ホウ素、ケイ素、亜鉛、硫黄)を添加することによって阻止できる。例えば、A.G.Elliotら、Journal of Crystal Growth 70 (1984) 169-178またはB.Pichaudら、Journal of Crystal Growth 71 (1985) 648-654を参照。例えば、US 2006/0081306 A1またはUS 7,214,269 B2は、垂直ブリッジマン(VB)法または垂直温度勾配凝固(VGF)法に従ったケイ素ドープヒ化ガリウム単結晶の製造を記述している。したがって、使用するるつぼは、pBN(熱分解窒化ホウ素)から形成され、80mmの直径および300mmの長さを有し、種チャネルは10mmの直径を有する。ケイ素を添加することにより、結晶の断面領域において平均転位密度5,000cm-2が達成される。
【0005】
今日、ケイ素ドープGaAsの製造に関して、直径100mmもしくは150mmを有するウエハについては100cm-2未満の平均転位密度が、直径200mmを有するウエハについては、5,000cm-2未満の平均転位密度が典型的に達成される。(例えばM.Morishitaら、「Development of Si-doped 8-inch GaAs substrates」, Conference Proceedings CS MANTECH 2018, http://csmantech2018.conferencespot.org/65967-gmi-1.4165182/t0017-1.4165620/f0017-1.4165621/0128-0199-000053-1.4165656/ap074-1.4165657からダウンロード;または、DOWAエレクトロニクス(株)、東京、日本、による製品カタログ、http://www.dowa-electronics.co.jp/semicon/e/gaas/gaas.html#semiからダウンロード;AXT,Inc.,Freemont,CAもしくは住友電気工業株式会社、大阪、日本、による製品カタログ)。格子硬化ドーパントを添加しない場合は、100mm~150mmの直径を有するウエハについては、1,500~10,000cm-2の範囲の平均転位密度であり、200mmの直径を有するウエハについては、12,000cm-2未満の平均転位密度である(上記参考文献を参照のこと)。
【0006】
転位密度の求め方については、標準測定方法が存在する(SEMI M83: Test method for determination of dislocation etch pit density in monocrystals of III-V compound semiconductors, SEMI M36 - Test method for measuring etch pit density (EPD) in low dislocation density gallium arsenide wafers)。表面配向が結晶配向{100}から15°よりも大きく異ならないウエハについては、転位は選択エッチングによって可視化できる。それにより、約30~60μmに延びるエッチピットが発達し、これらは、光学顕微鏡(倍率約50x~200x)を使用してカウントできる。低転位密度を有する材料については、典型的には、0.25mm2~1mm2の範囲の面積を有する測定場が適用される。それによって、例えば1mmのエッジ除外を考慮した全ウエハ表面が分析される。各測定場について測定される量としては、ローカルエッチピット密度EPDが得られる。ローカルエッチピット密度の演算手段が、ウエハの平均エッチピット密度EPDavを算出する。さらに、所定の限界値以下であるEPDの値を有する測定場の数の、測定場の総数に対する相対量が、例えば、0cm-2のローカルエッチピット密度を有する測定場(転位なしの測定場)の相対量として、P(EPD=0cm-2)として特定される。非常に低い転位を有する材料についても、EPC(エッチピットカウント)のような測定場に含まれる転位エッチピットの総数を特定することは有意義であり得る。測定場が全ウエハ表面をカバーする場合、ウエハに含まれる転位の総数EPCtotal(総エッチピットカウント数)を得てもよい。単結晶の転位密度を求めるために、複数のウエハ、いずれにせよ少なくとも1つのウエハ、に対して、最初(最初にフリーズすなわち凝固する結晶の領域)と最後(結晶の最後にフリーズすなわち凝固した領域)に測定される。
【0007】
US 2006/0081306 A1またはUS 7,214,269 B2では、結晶から製造された基板ウエハの開示された特性は、5,000cm-2以下の転位密度で(0.1~5.0)・1018cm-3の電荷担体濃度を含む。しかし、高い電気および光パワー密度を有する電気および/または光学部品には、さらにきわめて低い転位密度が要求される。
【0008】
半導体結晶の転位密度は、結晶格子の硬化に影響を与えるドーパントを添加することによって低減できる。JP 2000-086398 Aでは、さらにケイ素とホウ素をドープすることにより、p-伝導型亜鉛ドープヒ化ガリウム結晶の転位密度が500cm-2以下の値に低減できる方法を開示している。
【0009】
転位密度をさらに低減する方法が、US 2004/0187768 A1に開示されている。等電子的にヒ化ガリウムの結晶格子へ組み込まれる元素、例えば、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)に加えて、インジウムを結晶にさらにドープすることにより、ドーパント原子の具体的かつ相互調和的濃度が保たれた場合、p-伝導型ヒ化ガリウム結晶の転位密度は、100cm-2以下の値に低減され得る。こうして得られた単結晶の電荷担体濃度は、1.0・1017~6.0・1018cm-3になる。
【0010】
US 2004/0187768 A1の一実施形態によってVB法に従って製造される単結晶(当該文献の図4を参照)は、約3インチ(75mm)の直径および180mmの長さ(円筒状領域)を有する。ローカル転位密度を測定するために、ウエハはGaAs単結晶から分離され、その表面はKOHエッチング溶液にさらされる。表面は、エッチング中に形成されたエッチピットの数に関して、5mmのグリッド幅を有する矩形測定グリッド内に配置された1x1mmの大きさの各測定場につき、測定されていた。1x1mmの大きさの177の測定場のうち134において、転位は検出されなかった。平均転位密度は28cm-2であった。インジウムがドーパントとして添加されなかった比較例(上記文献の図5を参照)では、転位のない測定場は、1x1mmの大きさの177測定場のうち58にしか検出されなかった。したがって、平均転位密度は428cm-2であった。
【0011】
しかし、文献に記載された値を反映するこれらの結晶およびそこから製造されるウエハは、依然として以下に示すような残留応力の知覚可能な量を示す。これは、転位の結果から生じ得、さらに、元からあるまたは内在する欠陥と相互作用し得、そして今度は、製造される電気および/または光学部品それぞれの特性に影響を与え得る。したがって、残留応力の量を著しく低減することも望ましい。半導体結晶から形成されたウエハの残留応力の量を数量化する敏感で効率的な方法が、例えば、Geiler,H.D.ら、「Photoelastic characterization of residual stress in GaAs-wafers」Materials Science, Semiconductor Processing 9 (2006) S. 345-350に開示されており、一般にSIRD法(SIRD: rapid scanning infrared transmission polarimeter)と呼ばれている。
【0012】
SIRD法により、結晶またはウエハそれぞれについて、100μmの典型的な横方向解像度を有する、全面せん断応力画像が得られる。赤外波長範囲(1.3μm)の直線偏波レーザ光が、結晶/ウエハの表面に対して垂直に向けられ、それを通り抜ける。結晶/ウエハにおける応力誘導複屈折のため、電場ベクトルは互いに直交する2つの成分、常光線と異常光線、に分かれる。2つの光線成分間の、結晶/ウエハを出た後に存在する、材料および厚さ依存の位相推移が測定される。測定された位相推移は、表面に対する所与の物理的関係によって、せん断応力を評価するのに使用され得る。適切な装置により、レーザ光を、任意に結晶/ウエハの表面上の多数の点に向けることができ、それによって、せん断応力を各位置において求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】DE 199 12 486 A1
【文献】US 2006/0081306 A1
【文献】US 7,214,269 B2
【文献】JP 2000-086398 A
【文献】US 2004/0187768 A1
【文献】US9,368,585 B2
【非特許文献】
【0014】
【文献】Handbook of Crystal Growth Bulk Crystal Growth: Basic Techniques VOLUME II, Part A, Second Edition, Chapter 9 “Vertical Bridgman Growth of Binary Compound Semiconductors”, 2015
【文献】Journal of Crystal Growth 70 (1984) 169-178
【文献】Journal of Crystal Growth 71 (1985) 648-654
【文献】Development of Si-doped 8-inch GaAs substrates, Conference Proceedings CS MANTECH 2018, http://csmantech2018.conferencespot.org/65967-gmi-1.4165182/t0017-1.4165620/f0017-1.4165621/0128-0199-000053-1.4165656/ap074-1.4165657
【文献】http://www.dowa-electronics.co.jp/semicon/e/gaas/gaas.html#semi
【文献】SEMI M83: Test method for determination of dislocation etch pit density in monocrystals of III-V compound semiconductors
【文献】SEMI M36: Test method for measuring etch pit density (EPD) in low dislocation density gallium arsenide wafers
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、例えばホウ素、ケイ素、亜鉛、硫黄、インジウムなどの格子硬化ドーパントを使用してまたは使用せずに、単結晶および単結晶から製造されるウエハの品質のさらなる著しい向上を達成可能な、単結晶、好ましくはGaAs単結晶であって、向上した電気および/または光パワー密度を有する部品を製造する基礎となる、単結晶、好ましくはAIII-BV-単結晶、より好ましくはGaAs単結晶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的は、請求項1又は5に記載の単結晶または基板ウエハによって解決される。
【0017】
本発明は、結晶またはウエハの外側エッジに対して局所的に近いところに位置する転位、およびその中心(対称軸の周り)に位置する転位が、二つの異なる効果から発生し得るという、気づきに基づくものである。結晶のエッジでは、るつぼとの接触において熱応力および接触応力が生じるため、転位が、結晶的に都合のよい面におけるずれにより発達する。典型的には、これらの転位は、結晶内へ数ミリメートル延びる(この点については、図7に模式的に示す単結晶14aの断面領域を比較のこと)。中心における転位は、種位置から発生する(この点については、図8に模式的に示す単結晶14bの断面領域を比較のこと)。中心では、種結晶と溶融物とが接触して熱衝撃が生じ、これが今度は転位の形成につながる。これらの転位のいくつかは、結晶化フロントまたは凝固フロントの進行とともに転位が円錐状の領域内へ延び、続いて結晶の隣接する円筒状領域へ延びる。
【0018】
本発明の第1の実施形態によれば、原材料の溶融物から結晶を製造するための装置が、第1の断面領域を有する第1のセクションと第2の断面領域を有し種結晶を収容するように構成された第2のセクションとを含む、溶融物を収容するように構成されたるつぼを備え、第2の断面領域は第1の断面領域よりも小さく、第1のセクションおよび第2のセクションは、直接、または第1のセクションから第2のセクションへ先細りする第3のセクションを介して互いに接続されて、有向温度場内において種結晶から始まるフリーズすなわち凝固する溶融物内への結晶化を可能とする。第2のセクションは、種チャネルとも呼ばれる。るつぼの第1のセクションは、中心軸を含み、第2のセクションは第1のセクションの中心軸に対してオフセットされて側方に配置されている。
【0019】
本実施形態において、第2のセクションまたは種チャネル内に位置する種結晶と溶融物すなわち種位置との間の各接触ゾーンは、るつぼの中心軸周りの中心位置からエッジ領域、好ましくはるつぼ断面の最も外側のエッジ、に向かってオフセットしている。その結果、単結晶へとフリーズすなわち凝固していく溶融物の断面領域の比較的広範囲にわたる量が、実質的に転位のない状態に維持される。そして、転位によってより強い影響を受ける可能性のあるエッジ領域は、例えばグラインディング、ポリッシング、カッティングにより、または材料を除去する代替方法を介して除去されてもよい。つまり、転位のほぼまたは全くない単結晶を本装置によって得ることができる。例えば、ホウ素、ケイ素、亜鉛、硫黄、インジウム(ヒ化ガリウム用)、ガリウム(リン化インジウム用)などの格子硬化ドーパントを個別にまたは組合せて、上記対策に加えて溶融物に添加した場合、所望の効果をさらに高めることができる。
【0020】
本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態におけるように、原材料の溶融物から結晶を製造するための装置が、第1の断面領域を有する第1のセクションと、第2の断面領域を有し種結晶を収容するように構成された第2のセクションとを含む、溶融物を収容するように構成されたるつぼを備え、第2の断面領域は第1の断面領域より小さく、第1のセクションおよび第2のセクションは、直接、または第1のセクションから第2のセクションへ先細りする第3のセクションを介して互いに接続されて、有向温度場内において種結晶から始まるフリーズすなわち凝固する溶融物内への結晶化を可能とする。
【0021】
これにより、半導体製造においてはよくあることだが、装置は、公称径を有する単結晶を製造するように構成され、公称径は、そのような成長プロセスが完了した後の後処理において達成される。ここで、本実施形態において、第1のセクションは、中心軸に対して垂直な自身の断面領域に伴う内径を有する。内径は、公称径よりも、2mm以上、好ましくは3mm以上、さらにより好ましくは5mm以上大きい。同時に、この内径は、公称径よりも最大で10mmまたは最大で20mm大きくてもよい。
【0022】
本実施形態の1つの利点は、製造対象の単結晶の所与の公称径では、そのような成長後結晶は、初めに、例えば2~10mm、3~10mm、または5~10mmのオーバーサイズで形成される。そのようなオーバーサイズ部分は、公称径を得るために、ドリリング、ポリッシング、グラインディング、ラッピング、または同様の方法ステップなどの適切な成長工程の後のプロセスにおいて除去され得る。
【0023】
上述したように、転位の大多数は、単結晶のそのようにして除去されたエッジ領域内に位置するため、公称径を有しかつ転位のほぼまたは全くない単結晶を得ることができる。従来技術では、1mmまでしかなく、いずれにせよ明らかに2mmより小さい、後処理前のオーバーサイズが知られているかもしれない。勿論、より大きな直径を得るために、後処理における工程は増大する。それでもなお、公称径にしたときに転位のほぼまたは全くない単結晶は、そのような増大した工程およびそれからくるコストを正当化する。
【0024】
本発明の特に有利な実施形態は、初めの2つの実施形態を組合せたものに関する。それにより、るつぼ壁と結晶化する溶融物との間の相互作用から発生する転位、ならびに種位置から発生する転位は、成長後単結晶のエッジ領域において発達するが、そのエッジ領域は、公称径を達成するために、オーバーサイズを鑑みて後続のプロセスで除去できる。
【0025】
本発明の第3の実施形態によれば、原材料の溶融物から結晶を製造するための装置が、上述の実施形態におけるように、第1の断面領域を有する第1のセクションと、第2の断面領域を有し種結晶を収容するように構成された第2のセクションとを含む、溶融物を収容するように構成されたるつぼを備え、第2の断面領域は第1の断面領域より小さく、第1のセクションおよび第2のセクションは、直接、または第1のセクションから第2のセクションへ先細りする第3のセクションを介して互いに接続されて、有向温度場において種結晶から始まる凝固する溶融物への結晶化を可能とする。
【0026】
本実施形態の第2のセクションは、中心軸の方向に沿ったまたは平行な長さを有し、その長さは、10mm~100mm、好ましくは20mm~75mm、さらにより好ましくは30~50mm(それぞれ境界値を含む)である。
【0027】
本実施形態の利点は、第2のセクションまたは種チャネルが、従来技術から既知である種チャネルと比較して著しく延長された長さを含むことから生じる。したがって、そこに配置された種結晶は、相当する大きさ又は程度を考慮して、種チャネルのより深いところ、つまり、公称径プラス任意のオーバーサイズを有する単結晶の経済的に使用可能な部分が成長中に得られる、るつぼの第1のセクションからより遠いところに配置されている。
【0028】
これは、結晶内の転位が種位置から始まり中心軸に対してある角度で延びる、ということが発見されたからである。長さが拡張された種チャネルにより、少なくとも、中心軸(ここでは種チャネル)に対し大きな角度を有する転位の大部分は、まだ種チャネル内にあるるつぼ壁のところで終焉し、したがって、成長後単結晶の経済的に使用可能な部分であるるつぼの第1のセクションに向かう方向にさらに延びることはない。
【0029】
さらに有利な実施形態が、単結晶を製造するための上記装置にそれぞれに関連づけられる方法から生じる。
【0030】
本装置は、1つ以上の加熱装置を備えてもよい。当該加熱装置により、有向温度場が生成され、有向温度場内にるつぼが配置され、これにより、今度は、種結晶から始まる溶融物の後続の結晶化が可能となる。本発明は、加熱装置の特定の配置に限定されない。加熱装置は、例えば、熱放射、高周波発生器、磁場ヒータなどに基づく加熱要素を含んでよい。しかし、温度場は、結晶成長中、実質的に平面状の(またはほんのわずかに曲面状の)界面が形成されるように、配置されるべきである。
【0031】
上述した装置は、可動式るつぼまたは炉を採用する垂直ブリッジマン(VB)法を適用し、または垂直温度勾配凝固(VGF)法を適用して、成長を実施するように構成されてもよい。それでもなお、本発明は、これらの特定の方法に限定されない。例えば、本発明は、フローティングゾーン法などの場合も、適用してよい。
【0032】
るつぼは、黒鉛、窒化ホウ素、もしくは熱分解析出窒化ホウ素から形成され得る、または、溶融物の種類および対応する溶融物温度にそれぞれ適応させ選択された、他の一般に適用される材料から形成され得る。るつぼおよび/または加熱装置は、例えば石英ガラスから作成された、さらなるライナー、シースまたはエンベロープを備えてもよい。
【0033】
さらに、実施形態はヒ化ガリウム単結晶またはインジウム単結晶の製造に限定されない。例えば、(GaP-、GaSb-、InSb-、InAs-など)単結晶も含まれる。本装置の実施形態は、全般に、AIII-BV単結晶を製造する能力に関するものである。
【0034】
本発明のさらなる実施形態によれば、るつぼの第1のセクションに向かう方向、つまり成長後単結晶の経済的に使用可能な部分内へ転位が全くまたはほとんど伝播しない、種結晶の使用が提供される。
【0035】
転位密度は、ドーパント濃度を含む不純物濃度に密接に関連しているため、これらの材料の添加なしでは、本方法において記述した他の可能性との兼ね合いで、条件付き程度でしか低減できない。しかし、ドーパント濃度≦5x1016atoms/cmが存在する場合は、転位密度≦500cm-2が達成され得ることが分かった。
【0036】
本発明のさらなる実施形態によれば、単結晶、特にAIII-BV単結晶、さらに特には、ヒ化ガリウム(GaAs)またはリン化インジウム(InP)単結晶が提供される。これら単結晶は、格子硬化ドーパントを含み、自身の中心軸に対して垂直な単結晶の断面領域内における平均エッチピット密度EPDavから求められる転位の平均密度が、10cm-2以下、好ましくは5cm-2以下、より好ましくは3cm-2以下、さらにより好ましくは1cm-2以下であり、さらにより好ましくは、転位が全くない。150mmの直径を有するウエハについては、エッチピット総数EPCtotalは、2,000未満、好ましくは900未満、さらにより好ましくは360より少なく、またさらにはゼロであってもよい。
【0037】
本発明のさらなる実施形態によれば、単結晶、特にAIII-BV単結晶、さらに特には、ヒ化ガリウム(GaAs)またはリン化インジウム(InP)を含むAIII-BV単結晶が提供される。これら単結晶は、格子硬化ドーパントを含まず、自身の中心軸に対して垂直な単結晶の断面領域内における平均エッチピット密度EPDavとして求められる結晶の原子格子における転位の平均密度が700cm-2以下、好ましくは500cm-2以下、より好ましくは200cm-2以下である。
【0038】
単結晶の転位密度が特に低い場合、単結晶の中心軸に対して垂直な断面領域には転位が全くないままの部分がある。この割合は、SEMI M83に従った標準測定方法により求めることができ、単結晶の断面領域内において、断面領域を完全にカバーしている測定グリッド内における、転位の全くない0.25mm2の大きさの測定場の、断面領域の全面積に対する割合P(EPDL=0cm-2)が、95%以上である。しかし、97%以上が好ましく、99%以上が特に好ましい。
【0039】
結果として、端面発光半導体レーザまたは垂直キャビティ面発光半導体レーザなどの、より高い電気および/または光パワー密度を有する部品の製造での収率が著しく上昇し、それによって、部品製造の経済効率が向上する。
【0040】
単結晶は、必須ではないが、格子硬化ドーパントを含んでよい。ヒ化ガリウム(GaAs)の場合は、例えば、US 2004/0187768 A1(当該文献の段落10および11を参照)に記載されているように、ケイ素(Si)、硫黄(S)、テルル(Te)、スズ(Sn)、セレン(Se)、亜鉛(Zn)、炭素(C)、ベリリウム(Be)、カドミウム(Cd)、リチウム(Li)、ゲルマニウム(Ge)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、リン(P)、インジウム(In)などのドーパントを、少量、個別にまたは部分的に組合せるなどして原溶融物に添加することが考えられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明に係る原溶融物から単結晶を製造するための装置の第1の実施形態の模式図であり、るつぼの種チャネルが延長されているまたは長くなっている様子を示す(上:側方断面図、下:上面図)。
図2】本発明に係る原溶融物から単結晶を製造するための装置の第2の実施形態の模式図であり、種チャネルが直径の外縁に向かってオフセットされている様子を示す(上:側方断面図、下:上面図)。
図3】本発明に係る原溶融物から単結晶を製造するための装置の第3の実施形態の模式図であり、第2の実施形態(短い種チャネルを有する)から派生したものであり、公称径に向かってオーバーサイズを非対称に低減することが意図されている様子を示す(上:側方断面図、下:上面図)。
図4】本発明に係る原溶融物から単結晶を製造するための装置の第4の実施形態の模式図であり、第3の実施形態から派生したものであり、第1の実施形態と同様に、種チャネルが延長されているまたは長くなっている様子を示す(上:側方断面図、下:上面図)。
図5図3に示す装置3つから構成される、共通の中心軸Zの方向に向かってオフセットされた種チャネルを有する複数るつぼ配置の実施形態の模式図を示す。
図6図3に示す装置5つから構成される、図5におけるものと同様の複数るつぼ配置の実施形態の模式図を示す。
図7】エッジ転位を示す単結晶の断面領域の模式図を示す。
図8】るつぼの中心軸上に配置された種チャネルから延びるまたは伝播する転位を示す単結晶の断面領域の模式図を示す。
図9】150mmの直径をそれぞれ有する従来の成長後単結晶またはウエハによる比較例の、自身の中心軸Mに対して垂直なウエハの断面領域内における空間分解測定から求めた結晶の原子格子における転位の密度の値の分布をグレースケール画像で示す。
図10図9の比較例について空間分解測定から求めたそれぞれのせん断応力の値の分布をグレースケール画像で示す。
図11】本発明の対応する実施形態について、空間分解測定から求めた結晶の原子格子内の転位の密度の値の分布を、図9におけるようなグレースケール画像で示す。
図12図11の本発明の対応する実施形態について、空間分解測定から求めたそれぞれのせん断応力の値の分布を、図10におけるようなグレースケール画像で示す。
図13】Materials Science in Semi-conductor Processing 9 (2006), S. 345 -350におけるGeiler,H.D.;Karge,H.;Wagner,M.;Eichler,St.;Jurisch,M.;Kretzer U.Scheffer-Czygan,M.「Photoelastic characterization of residual stress in GaAs-wafers」で公開された従来技術に従い、3つの比較例(“ウエハ22”、“ウエハ27”、“ウエハ37”)についてSIRD法に基づいてそれぞれ測定した、せん断応力の分布例(ウエハ毎に生じたせん断応力τの値の間隔毎の頻度P)としての図の例を示す。
図14】本発明により成長させた単結晶またはその単結晶から分離されたウエハの、図12および図13の実施形態の、図13と同様の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、さらなる特徴、利点、および目的を有する実施形態を、図面とともに好ましい実施形態に関する限定されない実施形態を記載することにより、さらに詳しく記載する。
【0043】
本発明による原溶融物から単結晶を製造するための装置の第1の実施形態を図1に示す。装置1は、るつぼ2と、るつぼを包囲する環状に配置された加熱要素を有する加熱装置10を含む。図1の上部に断面図を示し、下部には、加熱装置10を省略したるつぼ2の上面図を示す。るつぼは石英ガラス容器(図示せず)内に収容され、外の環境に対して閉じていてもよい。この配置は、垂直温度勾配凝固(VGF)法に従った結晶成長のための装置に対応していてもよい。
【0044】
るつぼ2は、窒化ホウ素または熱分解析出窒化ホウ素(pBN)から形成される。るつぼ2は、(本明細書ではヒ化ガリウムGaAsからなる)原溶融物16を収容する第1の円筒形状のセクション4と、種チャネルとして形成された第2のセクション6と、第1のセクション4と第2のセクション6との間の移行部を形成し、これらのセクションを接続する第3のセクション8と、を備える。第2のセクションの領域において、るつぼ2は、少なくとも152mmの内径を有する。このるつぼ2の内径152mmは、完成単結晶のために綿密にもたらされ達成される150mmの公称径dと、成長プロセスにおいて従来から加えられる2mmまでのオーバーサイズとからなり、このオーバーサイズは、製造対象の単結晶の外側円筒シェル部分に対して続いて適用されるグラインディング工程のためのものである(そしてその工程で除去される)。グラインディング工程は、続いて分離されるウエハに関して、後続のアライメント工程に要求される、結晶の位置的に正確で高品質な円筒表面を提供するためのものである。
【0045】
この特定の実施形態において、種チャネルまたは第2のセクション6もまた、それぞれ円筒形状であり、例えば10mmの直径、100mmの長さk’を有する。本発明による種チャネルはまた、円筒とは異なる空間的形状を必要としてもよく、本発明は上記特定の形状に限定されない。種チャネルはまた、立方形の形状を有してもよく、断面が多角形または卵型形状などであってもよい。
【0046】
種結晶12(本明細書ではGaAsから形成される)は、第2のセクション6内に収容され、種チャネルにおいてるつぼ壁からの距離が確実に存在するように10mmに満たない直径(例えば、8または9mm)と20mmの長さとを有する。種チャネル内の間隙を、液体酸化ホウ素(B)で満たして、結晶化の間、溶融物および結晶が液体内に浮遊するようにしてもよい。種結晶12の長さと種チャネルの長さk’とがかなり異なるため、種結晶12は第2のセクション6の底深くに配置される。したがって、種結晶の種面の上面は、第2のセクション6または種チャネルそれぞれの上端から80mm離れている。したがって、種結晶によって占領されていない自由空間部分の内径に対する長さの比は、8:1となる。
【0047】
図1に示す状態において、ヒ化ガリウムからなる原溶融物16は、るつぼ2へ提供されており、種チャネル内の種結晶12における種面または種位置から始まって円錐状の移行部または第3のセクション8のそれぞれを超えて円筒状第2のセクション6内へと延びる、ドープGaAs単結晶14へと既に結晶化されている。さらに、例えばケイ素、ホウ素、インジウム、亜鉛、硫黄などの格子硬化ドーパントが溶融物に添加されている。
【0048】
対応する方法(VGF)では、例えば、溶融物(またはその小型のもしくは顆粒状の前駆体)を加熱する前または後に、ある量のケイ素が溶融物に添加される。原溶融物16の上かつ結晶とるつぼ壁との間には、液体(溶融)三酸化二ホウ素(B)の層18が、そのより低い密度のゆえに存在し、上述したように、下のGaAs溶融物を保護する役割を果たす。加熱装置により、図示しない制御装置を使用して、有向温度場Tが生成される(図1の矢印は種結晶12から上方へより高い温度に向かっている)。種結晶12が溶融し始めると、原溶融物16の冷却が、温度勾配を維持しつつ(加熱装置10のさらなる制御により)開始され、単結晶14が、種結晶12の種面から始まって上方へ(最初はまだ、第2のセクション6または種チャネルそれぞれ内において)成長し始める。
【0049】
種チャネルにおける、結晶化に使用可能な自由長さと狭い内径との比率が大きいため、そのような種プロセスのため避けがたい、図8に示す中心転位101が、るつぼの中心軸M(この中心軸Mは本実施形態において、種チャネルの中心軸にも一致する)に対して鋭角で結晶化プロセスにおいて伝播し、種チャネル(第2のセクション6)の上端に到達する原溶融物16と単結晶14との間の結晶化フロントより前に、るつぼ壁に衝突する。その結果、そのように生成された転位は、さらなる成長に対してさらなる影響を与えない。一般に、転位は、わずかに曲線状の界面に対して垂直に伝播する。
【0050】
転位101が、るつぼ2の第2のセクション6(種チャネル)において、単結晶の断面領域から消えた後、エッジ領域(80cm)除外を考慮した実質的に転位のない結晶化フロントがさらに伝播することより、単結晶14が成長する。表1にいくつかの試料の関連パラメータを列挙する。表1において、試料1aは、従来の種チャネルを有するるつぼを使用して製造されたGaAs単結晶である。試料1aは比較例である。一方、試料2~5は、図1に示するつぼにおいて本発明の方法により製造したものである(これらもGaAs)。表1に列挙したパラメータEPDavおよびEPCtotalの値は、成長後単結晶から分離した後のウエハから得られた。試料の直径は150mmである。
【0051】
【表1】
【0052】
本発明に係る第2の実施形態の装置1’を図2に示す。繰り返しを避けるために、図1と同一の参照番号は同一又は類似の特徴を示し、以下においては、第1の実施形態に対する装置の関連する変更点のみを記載する。第1の実施形態に関して記載した他の特徴は、第2の実施形態及びその後続の実施形態についても有効である。
【0053】
第1の実施形態と同様に、第2の実施形態のるつぼ2’は、原溶融物16を収容する第1のセクション4’と、種チャネルとして機能する第2のセクション6’と、種チャネルと第1のセクション4’との間の移行領域として機能する第3のセクション8’とを含む。第2のセクション6’は、第1の実施形態と同様に直径10mmを有するが、その長さkは、例えば従来の結晶成長装置のように、30mmであり、種チャネルへ挿入された長さ20mmの種結晶12の種面は、種チャネル12の上端からの距離が10mmしかない。全般的に制限することなく、本実施形態における種チャネルもまた、単なる例としての円筒状に形成される。第3のセクションは、第2のセクション6’のオフセットvを鑑みると、もはや第1のセクション4’に関して回転対称ではなく、むしろ、より大きな内径を有する円筒状の第1のセクション4’からより小さな直径を有する第2のセクション6’に向けて非対称に側方外向きに先細りしている。
【0054】
代わりに、第2のセクション6’は、第1のセクションの中心軸Mに対して側方にオフセットして配置されている。換言すれば、第2のセクションの中心軸M’は、第1のセクション4’の中心軸Mに対して、両者間の相互のオフセットvに基づいて平行である。本実施形態において、第2のセクション6’または種チャネルそれぞれの中心軸M’が、そのような中心軸M’を第1のセクション4’内へ延長させた場合、第1のセクション4’の断面領域のエッジ除外領域を通って延びるように、オフセットvは十分な寸法を有する。
【0055】
第2の実施形態において、第1のセクションは、172mmの内径d’’’を有する。しかし、製造対象の単結晶14の公称径dは、本実施形態においても152mmしかない。したがって、所与の公称径を有する単結晶を製造する第1の実施形態のるつぼ2と比較して、また、従来のるつぼに対しても、るつぼ2’は著しく大きな直径d’’’を有する。第2の実施形態において、第2のセクション6’または種チャネルそれぞれの(延長した)中心軸M’は、したがって、図2に示した断面領域のエッジ領域(エッジ領域は、製造対象の単結晶14の公称径dの外側且つそれを超えたところにある)を通って延びる(種チャネルが内径10mmを有するので、中心軸M’はるつぼ壁から5mmの距離にある。成長が実際の方向において妨害されないことを確実にするために、中心軸M’は、中心軸M(図2の下部を参照)に沿って投影された場合、完全にるつぼの断面領域を通る。)本実施形態における側方オフセットvは80mmである。
【0056】
単結晶の製造の方法は、上記の実施形態(例えば1つ以上の格子硬化ドーパントを溶融物に添加することを含む)におけるものと同様である。しかし、従来技術によるドープされてもよいGaAs単結晶14の円筒表面を平滑化し仕上げるための後処理を行う後続グラインディング工程は、さらなる工程によって補われる、または置き換えられさえする。そこでは、本明細書では直径において20mm(または本明細書では半径において10mm)というオーバーサイズが、単結晶の円筒状表面から材料をより強力に除去できるドリリングまたは他の工程によって低減または解消される。それによって、第2の実施形態においては、材料が、単結晶14の中心軸(これはるつぼ2’の第1のセクションの中心軸Mと一致する)に対して対称に単結晶の円筒状表面から除去される。有利には、成長中において壁に近く、したがって図7に示すように、製造に伴い比較的大きな転位密度にさらされた、単結晶14のエッジ領域が除去される。特に、これと関連して、模式的に示した単結晶14bの図7に示すエッジ転位102が除去される。
【0057】
さらにそれぞれ特定の配置またはオフセットvにより、エッジ領域へ伝播した、種プロセスから発生する転位101(図8を参照)が後処理工程で除去されるため、転位のないまたは少なくとも実質的に転位のない単結晶14が得られる。表2にいくつかの試料の関連パラメータを列挙する。表2において、試料1bは従来の種チャネルを有するるつぼを使用して製造されたGaAs単結晶であり、比較例である。一方、試料6~9(これらもGaAs)は、図2に示するつぼを使用して本発明の方法により製造されたものである。表2に列挙したパラメータEPDavおよびEPCtotalの値は、成長後単結晶から分離した後のウエハから得られた。試料の直径は150mmである。
【0058】
【表2】
【0059】
本発明に係る第3の実施形態の装置1’’を図3に示す。単結晶の製造方法ならびに本装置の構造は第2の実施形態のものと同様である。違いは、るつぼ2’’の第1のセクション4’’の直径d’’のみである。図3の上面図の下部の描写からわかるように、第3の実施形態の根底をなす方法において、るつぼ2’’における適切な成長の後の後処理工程において、オーバーサイズが非対称的に低減されて、単結晶14の152mmの公称径dが得られる。この一連の作用により、図3の右側下部に示す実質的にエッジ領域のみを除去することができ、すなわち、種プロセスから生じる転位101によって影響を受けるエッジ領域を特に後処理工程において除去することができ、結果として、るつぼ2’’の内径d’’として全体的によりオーバーサイズでないものが選択できる。本実施形態では、内径d’’は、162mmであり、すなわち、単結晶(その製造装置1’’は(d=152mm)のために構成されている)の公称径dより10mm大きい。図3から明らかになるように、るつぼ2’’の第1のセクション4’’の断面領域に投影された、種チャネルまたは第2のセクション6’’それぞれの断面は、後処理工程において除去される、製造対象の単結晶14の断面領域のエッジ領域の内側に完全に入る。第1のセクション4’’の中心軸Mに対する種チャネルの中心軸M’のオフセットvは、本実施形態では75mmしかない。
【0060】
本実施形態では、成長中に内側るつぼ壁との接触から発生し得る、特に図3の左側下部に位置するエッジ転位102は、後処理工程後も単結晶14に残る可能性がある。しかし、後処理工程で求められる除去対象の材料の量は、第2の実施形態と比較して著しく低減される。これにより、経済的視点から見て最適な費用便益比率が生み出される。さらに、平均転位密度については、10cm-2以下または5cm-2以下という素晴らしい値も達成され、SEMI-M83による標準測定方法に従った、転位の全くない測定場の割合P(EPD=0cm-2)について、97%以上の値、さらには99%以上の値が達成される。表3に2つの試料についての関連パラメータを列挙する。表3において、試料1cは従来の種チャネルを有するるつぼを使用して製造したGaAs単結晶であり、比較例である。一方、試料10は、図3に示するつぼを使用して本発明の方法により製造したものである(これもGaAs)。表3に列挙したパラメータEPDavおよびEPCtotalの値は、成長後結晶から分離されたウエハから得られた。試料の直径は150mmである。
【0061】
【表3】
【0062】
本発明に係る第4の実施形態の装置1’’’を図4に示す。本実施形態は、第1の実施形態および第3の実施形態の両方の特徴を含み、それらを組み合わせたものである。したがって、装置1’’’は、公称径に対して2mm以上(本実施形態では10mm)オーバーサイズの円筒形状の第1のセクション4’’を有する、窒化ホウ素または熱分解窒化ホウ素から形成されたるつぼ2’’’を含み、るつぼ2’’’は、(本明細書ではヒ化ガリウムからなる)原溶融物16を収容する。装置1’’’はさらに、種チャネルとして形成されかつ長さk’=100mmを有して延びる第2のセクション6と、非対称の第3のセクション8とを含む。第3のセクション8は、第1のセクション4’’と第2のセクション6との間の移行部を形成し、両者を互いに接続する。
【0063】
利点および効果は第1~第3の実施形態を参照に上述したものと同様であり、それらの利点が集積されている。表4に、本装置を使用して製造した単結晶14の試料の関連パラメータを示す。表4において、試料1dは、従来の種チャネルを有するるつぼを使用して製造したGaAs単結晶であり、比較例である。一方、試料11は、図4に示するつぼを使用して製造したものである(これもGaAs)。表4に列挙したパラメータEPDavおよびEPCtotalの値は、成長後結晶から分離した後のウエハから得られた。試料の直径は150mmである。なお、試料1b~1dは同一である。
【0064】
【表4】
【0065】
図3に示すようなるつぼ2’’をそれぞれ3つまたは5つ含む、複数のるつぼを配置した実施形態である装置1’’’’または1’’’’’を、それぞれ図5および図6に示す。例えば、磁場ヒータなどの1つ以上の加熱要素を有する加熱装置10が、上記配置のるつぼを囲み加熱する。磁場ヒータに加えて、異方的に熱を伝導することにより、温度場Tの基本構成に特に貢献する例えば黒鉛などの充填体(図示せず)を、るつぼ2’’の間に配置してもよい。1つのそのような特に有利な配置が、例えばUS9,368,585 B2に記載されている。当該文献の図1~3および図11~12に示されたその配置の特徴は、対応する記述とともに参照により本明細書に援用される。当該特許に記載される複数のるつぼ配置は、エッチピット密度の向上した分布、すなわち特に均一な転位密度のゆえに、非常に優れている。
【0066】
これら2つの実施形態において、るつぼ配置は、当該配置の中心を通り各るつぼ2’’の対応する中心軸Mに平行に延びる、対称軸Zを有する。それぞれの中心軸から見ると、オフセットvの方向は、正確に対称軸Zに向かって方向づけられている。換言すれば、各るつぼ2’’の対応する第2のセクション6’は、配置の中心に向かってオフセットしている。
【0067】
このような複数のるつぼ配置により、特にその中心に向かう方向において、均一で安定した優れた温度場が得られる。同じ様に種チャネルをオフセットすることにより、各るつぼにおいて結晶化の条件が同一となる。図3に示す本発明の装置1’’(図1、2および4に示す他の実施形態も同様)の特徴を、複数のるつぼ配置と組合せることにより、極めて高い相乗効果を得られる。
【0068】
上述した実施形態は、VGF法を実施するように構成された装置に関するものである。しかし、本発明は上記特定の装置に限定されず、注目対象の装置は垂直ブリッジマン法に基づいてもよい。
【0069】
上述したるつぼは、第1のセクションにおいて円筒形状を有する。しかし、注目すべきことに、正方形または長方形の断面領域を有する立方形形状のるつぼなどの他の形状、または(例えばフラット部の形成のために)総じて丸い断面領域から円形セグメントが分離された形状もまた使用してよい。
【0070】
上述した実施形態の変形例が、添付の請求の範囲内で可能である。また、第4の実施形態におけるように、各実施形態の単一要素を他の実施形態の要素と組合せてもよい。例えば、対称配置された種チャネルを有する第1の実施形態において、本発明の各態様に従って直径を拡大した、すなわち内径を大きくした(例えばd’’’=172mm)、第1のるつぼセクションを配置して、後処理工程(ドリリング、ポリッシング、ラッピング、グラインディング、など)を行い、そこにおいても単結晶14の円筒壁形状または管状壁形状のエッジ領域における材料を除去することも、考えられ、実施可能である。
【0071】
後処理工程については、ドリリング、ポリッシング、ラッピング、またはグラインディングを上記実施形態において例として挙げたが、当業者にとって、材料除去のための、材料科学の技術分野において既知である他の方法も適応可能であることは言うまでもない。
【0072】
驚くべきことに、基準値に対して上記した範囲で転位密度が低減されると、結晶およびその結晶から製造されたウエハのせん断応力がさらに著しく低減されることが分かった。この目的のために、上述したようなSIRDの測定方法が採用された。
【0073】
実際の単結晶/ウエハのための統一パラメータを得るために、ウエハの表面上の各位置について得られたせん断応力の値(符号を考慮して頻度対せん断応力)を記録する(例えばGeilerらにおける図4を参照)、そして、これらのデータに合わせたローレンツ曲線について、例えば、この曲線の半値全幅の値をkPa単位で求める。
【0074】
図13は、3つの比較例(“ウエハ22”、“ウエハ27”、“ウエハ37”)についてSIRD法に従い測定したせん断応力に基づく、Geilerら(2006)において得られるような分布関数を示す。図において、それぞれのせん断応力間隔において得られた測定値の割合P(ウエハ毎のせん断応力τの生じた値の間隔ごとの相対度数)が示されている。これによれば、Geilerら(2006)では、従来技術に関する3つの比較例すべてに関して半値全幅FWHMが約100kPaとなっている。同じ値が、測定されたせん断応力の最大値として(本明細書では絶対値として)も近似的に求められる。最大値は曲線のベースの左側および/または右側で読み取ってもよい。
【0075】
図14に示すように、Geilerら(2006)に従った3つの比較例に関して図9に示すような残留応力またはせん断応力の値を超えて、本発明により製造された単結晶またはウエハそれぞれにおける残留応力またはせん断応力の対応する値が、+/-40kPa以下、特に+/-30kPa以下、さらには+/-25kPaに低減された。このようにして得られたローレンツ曲線は特に幅が狭い。
【0076】
これは、各実施形態による、参照結晶から得られたウエハにおいて実施された測定により、SIRD法によるGeilerら(2006)で検討されたウエハと比較して残留応力が著しく低減されていることが分かったことを意味する。この点については、表5に示す比較例と実施形態との比較も参照のこと。
【0077】
【表5】
【0078】
表5の比較例において、対応するGaAs単結晶から分離された、直径150mmを有する(Geilerら(2006)に記載のような)従来方式で製造されたGaAsウエハについて検討する。図9は、測定されたローカルエッチ密度EPDの分布をグレースケールで示し、図10は、測定された残留またはせん断応力の分布をグレースケールで示す。
【0079】
最大せん断応力の対応する値が、特に比較例と実施形態とについて、表5に示されている。図11および図12において、右上角のグレースケールのスケールを考慮しなければならない。このスケールは、本明細書で記述する対応する値の範囲を示している。
【0080】
なお、実際には今日まで、せん断応力の消失値、すなわち約0kPa(本分析中、符号がない場合はせん断応力の絶対量のみが与えられる)のせん断応力の最大値は到達されていない。したがって、この値または0.1kPa以下の値、さらには1kPa以下の値が除外又は破棄されてもよい。
【0081】
上述した実施形態および様々な態様において、第2のセクションは長手方向軸を含む。この長手方向軸は、第1のセクションの領域へ延ばした場合、第1のセクション内においてるつぼの内側壁から、15mm以下の距離、好ましくは10mm以下の距離、さらにより好ましくは5mm以下の距離のところで、延びてもよい。
【0082】
さらに、そのような実施形態および態様に関し、第2のセクション6’は、少なくとも部分的に円筒形状に形成されてよく、15mm以下、特に10mm~15mmまたは5mm~10mmの範囲の内径を有してよい。
【0083】
上述した実施形態および様々な態様において、装置1は、公称径を有する結晶を製造するように構成され、公称径は、結晶を成長させる工程に続く後処理工程において達成され、第1のセクションは、中心軸に垂直な自身の断面領域に伴う内径を有する。この内径は、公称径よりも2mm以上、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上大きくてよい。内径は、公称径よりも最大10mm大きい。
【0084】
上述した実施形態および様々な態様において、第2のセクション6、6’は、その中心軸Mの方向に沿った長さk’を有し、当該長さは、40mm~120mm、好ましくは50mm~90mm、より好ましくは60mm~80mm(各範囲は境界値を含む)である。
【0085】
上述した実施形態および様々な態様は、AIII-BV単結晶またはAIII-BV単結晶からの分離により得られるウエハ、すなわち、特に半導体化合物材料に関する。これらは、具体的には、例えばヒ化ガリウム(GaAs)またはリン化インジウムまたは(InP)などを含む。
【0086】
上述した実施形態および様々な態様のいくつかにおいて、格子硬化ドーパントが、製造される単結晶内に含まれる。そのような場合、格子硬化ドーパントは、ホウ素、ケイ素、亜鉛、硫黄、インジウムからなる群から選択される少なくとも1つであってよい。しかし、代替の適切な元素も含まれてよく、上記態様および実施形態は上記列挙した特定のドーパントに限定されない。
図1
図2
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図5
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図8
図9
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図11
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図14