(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】検査装置及び検査装置のキャリブレーション方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/892 20060101AFI20240627BHJP
G01N 21/93 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G01N21/892 A
G01N21/93
(21)【出願番号】P 2022117164
(22)【出願日】2022-07-22
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】梅原 将一
(72)【発明者】
【氏名】森 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】岸本 尚也
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-091219(JP,A)
【文献】特開2019-184489(JP,A)
【文献】特開2001-066262(JP,A)
【文献】特開2019-089024(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0053045(US,A1)
【文献】中国実用新案第216898747(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84 - G01N 21/958
G01B 11/00 - G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを支持する支持部と、
前記ワークの画像を含む撮像データを生成する撮像部と、
前記撮像データに対し前記ワークを評価するための画像処理を行う制御部と、を備え、
前記支持部は、その表面のうち前記ワークと接触しない非接触領域に、
前記ワークの検査の基準として用いられるマスターであって溝を含む彫刻部を有し、
前記撮像部の撮像範囲は前記彫刻部を含み、
前記制御部は、前記彫刻部の画像であるマスター画像
を検出し、前記マスター画像の画素数と予め記憶した
実物の前記彫刻部の寸法とを用いて
、前記撮像データの1画素が相当する寸法を特定し、前記特定した寸法を用いて前記ワークを評価する、検査装置。
【請求項2】
前記支持部は搬送ローラであって、
前記彫刻部は、前記搬送ローラの幅方向の端部に設けられる、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
ワークを支持する支持部と、
前記ワークの画像を含む撮像データを生成する撮像部と、
前記撮像データに対し前記ワークを評価するための画像処理を行う制御部と、を備え、
前記支持部は、その表面のうち前記ワークと接触しない非接触領域に、前記ワークの検査の基準として用いられるマスターであって溝を含む彫刻部を有し、当該彫刻部の溝は、複数の正多角形の形状を有するパターンを構成し、複数の前記正多角形は同じ形状であって、前記正多角形の形状は第1方向及び前記第1方向と直交する第2方向に並べられ、
前記撮像部の撮像範囲は前記彫刻部を含み、
前記制御部は、前記彫刻部の画像であるマスター画像と予め記憶した前記彫刻部の寸法とを用いて前記ワークを評価する、検査装置。
【請求項4】
前記ワーク及び前記支持部に対し、複数の方向から検査光を照射する照明装置をさらに備え、
前記彫刻部は、複数の方向から照射された前記検査光を拡散反射するものであり、
前記制御部は、前記撮像データを用いて、他の領域と比べ階調が低い領域を前記マスター画像として検出する、請求項1又は3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記彫刻部は、第1方向及び前記第1方向と直交する第2方向に対して斜めに延在する複数の前記溝を含む、請求項
1又は3に記載の検査装置。
【請求項6】
前記支持部は搬送ローラであって、
前記彫刻部は、前記搬送ローラの周方向に連続して設けられている、請求項
1又は3に記載の検査装置。
【請求項7】
前記支持部は搬送ローラであって、
前記彫刻部は、前記搬送ローラの周方向の複数位置に設けられている、請求項
1又は3に記載の検査装置。
【請求項8】
検査装置のキャリブレーション方法であって、
前記検査装置は、ワークを支持する支持部と、前記ワークの画像を含む撮像データを生成する撮像部と、前記撮像データに対し前記ワークを評価するための画像処理を行う制御部と、を備え、
前記支持部は、その表面のうち前記ワークと接触しない非接触領域に、
前記ワークの検査の基準として用いられるマスターであって溝を含む彫刻部を有し、
前記撮像部
の撮像範囲は前記彫刻部を含み、
前記制御部が、前記彫刻部の画像であるマスター画像
を検出し、前記マスター画像の画素数と
予め記憶した実物の前記彫刻部の寸法とを用いて
前記撮像データの1画素が相当する寸法を特定し、前記特定した寸法を用いて前記ワークを評価する、検査装置のキャリブレーション方法。
【請求項9】
検査装置のキャリブレーション方法であって、
前記検査装置は、ワークを支持する支持部と、前記ワークの画像を含む撮像データを生成する撮像部と、前記撮像データに対し前記ワークを評価するための画像処理を行う制御部と、を備え、
前記支持部の表面のうち前記ワークと接触しない非接触領域に、前記ワークの検査の基準として用いられるマスターであって、溝により構成される複数の同じ正多角形の形状を第1方向及び前記第1方向と直交する第2方向に並べた彫刻部を設け、
前記撮像部の撮像範囲は前記彫刻部を含み、
前記制御部が、前記彫刻部の画像であるマスター画像と前記彫刻部の寸法とを用いて前記ワークを評価する、検査装置のキャリブレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置及び検査装置のキャリブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電極ペーストの合材層の欠損、集電体のしわの有無、合材層の幅等を光学的に測定して評価する装置が知られている(例えば特許文献1参照)。検査装置の一例として、電極シートを撮像するとともに撮像した画像を画像処理する装置が既に用いられている。
【0003】
この種の検査装置として、ワークを搬送するローラに、キャリブレーションのためのマスターが設けられているものがある。マスターの実寸は予め検査装置に記憶されている。この検査装置では、撮像データを画像処理することによって、マスターの画像に相当する画素数を特定し、マスターの画像の画素数とマスターの実寸とを比較して、1つの画素に相当する画素サイズを特定する。そして、撮像部によって撮像した合材層やワークの画像に画素サイズを適用して、合材層の幅や欠損部の有無等を評価する。従来においては、ローラに設けられるマスターとして、シールが用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ローラにシールを取り付ける場合、シールとローラ表面との間に段差が生じることによって影が生じてしまう。このため、影の発生を抑制するために、シールを照明装置の直下に位置させる必要がある。しかし、照明装置の直下はワークの搬送領域であるため、シールを撮像部によって撮像するためには、ワークを取り外した状態で撮像を行う必要がある。
【0006】
また、シールは厚みがあるため、ローラにシールを設けたまま検査を行うと、シールとワークとが接触することによりワークに痕や傷がついてしまう可能性がある。特にワークが金属箔を基材とする電極シートからなる場合には、シールと金属箔とが接触することにより、金属箔に痕がついてしまう。したがってシールを撮像した後、検査を行う間、シールを貼り付けておくことはできないため、撮像した後にシールを取り外す必要があった。
【0007】
このように従来においてはマスターの画像の生成に手間を要していたため、マスターの画像を用いたキャリブレーションの頻度が低くなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する電池の検査装置は、ワークを支持する支持部と、前記ワークの画像を含む撮像データを生成する撮像部と、前記撮像データに対し前記ワークを評価するための画像処理を行う制御部と、を備え、前記支持部は、その表面のうち前記ワークと接触しない非接触領域に、検査の基準として用いられるマスターであって溝を含む彫刻部を有し、前記撮像部の撮像範囲は前記彫刻部を含み、前記制御部は、前記彫刻部の画像であるマスター画像と予め記憶した前記彫刻部の寸法とを用いて前記ワークを評価する。
【0009】
上記課題を解決する検査装置のキャリブレーション方法は、検査装置のキャリブレーション方法であって、前記検査装置は、ワークを支持する支持部と、前記ワークの画像を含む撮像データを生成する撮像部と、前記撮像データに対し前記ワークを評価するための画像処理を行う制御部と、を備え、前記支持部は、その表面のうち前記ワークと接触しない非接触領域に、検査の基準として用いられるマスターであって溝を含む彫刻部を有し、前記撮像部が、前記彫刻部を撮像してマスター画像を生成し、前記制御部が、前記彫刻部の画像であるマスター画像と前記彫刻部の寸法とを用いて前記ワークを評価する。
【0010】
ワークを支持する支持部にシールを設ける場合に比べ、彫刻部は影が生じにくい。よって彫刻部の位置は自由度が高められるため、支持部のうちワークと接触しない非接触領域にも配置することができる。よって彫刻部を非接触領域に設けることが可能になるため、彫刻部を撮像するためにワークを取り外す必要が無くなる。また、ワークの撮像と同時に彫刻部を撮像することも可能となる。したがって、マスター画像の生成に要する手間を軽減することができる。その結果、キャリブレーションの頻度を高めることができる。
【0011】
上記検査装置について、前記支持部は搬送ローラであって、前記彫刻部は、前記搬送ローラの幅方向の端部に設けられるであることが好ましい。
上記構成によれば、彫刻部は、搬送ローラのうち検査に影響しない端部に設けられるため、彫刻部とワークとが互いに悪影響を及ぼさない。このため、ワークの撮像と彫刻部の撮像との両方を同時に行うことができる。
【0012】
上記検査装置について、第1方向及び前記第1方向と直交する第2方向に並べられた複数の前記溝からなることが好ましい。
上記構成によれば、第1方向及び第2方向に並ぶ溝により、彫刻部の周囲と異なる光学作用を発現することができる。例えば、彫刻部は、検査光を拡散反射することにより、撮像データにおいて周囲より低い階調を呈する。これにより、彫刻部の境界をエッジとして検出することが可能となる。
【0013】
上記検査装置について、前記彫刻部の前記溝は、複数の正多角形の形状を有するパターンを構成することが好ましい。
上記構成によれば、正多角形の形状を有する溝により、彫刻部の周囲と異なる光学作用を発現することができる。例えば、彫刻部は、搬送ローラに照射される検査光を拡散反射することにより、撮像データにおいて周囲より低い階調を呈する。これにより、彫刻部の境界をエッジとして検出することが可能となる。
【0014】
上記検査装置について、前記彫刻部は、第1方向及び前記第1方向と直交する第2方向に対して斜めに延在する複数の前記溝を含むことが好ましい。
上記構成によれば、第1方向及び第2方向に対して斜めに延在する溝により、彫刻部の周囲と異なる光学作用を発現することができる。例えば、彫刻部は、支持部に照射される検査光を拡散反射することにより、撮像データにおいて周囲より低い階調を呈する。これにより、彫刻部の境界をエッジとして検出することが可能となる。
【0015】
上記検査装置について、前記支持部は搬送ローラであって、前記彫刻部は、前記搬送ローラの周方向に連続して設けられていることが好ましい。
上記構成によれば、彫刻部は搬送ローラの周方向に連続して設けられているため、回転する搬送ローラのいずれの位置においても彫刻部を撮像することが可能である。このため、ワークの検査中の任意のタイミングにおいて彫刻部を撮像することができる。
【0016】
上記検査装置について、前記支持部は搬送ローラであって、前記彫刻部は、前記搬送ローラの周方向の複数位置に設けられていることが好ましい。
上記構成によれば、彫刻部は搬送ローラの周方向に複数位置に設けられているため、ワークの検査中にも彫刻部を撮像することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、検査装置のキャリブレーションの手間を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態における検査装置の模式図である。
【
図2】同実施形態における検査装置の一部を示す模式図である。
【
図3】同実施形態における検査装置の彫刻部の平面図である。
【
図4】同実施形態における検査装置の彫刻部の要部の断面図である。
【
図5】同実施形態におけるマスター画像の階調を示すグラフである。
【
図6】変形例における検査装置の彫刻部の平面図である。
【
図7】変形例における検査装置の彫刻部の平面図である。
【
図8】変形例における検査装置の彫刻部の要部の断面を含む斜視図である。
【
図9】変形例におけるマスター画像の階調を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、検査装置及び検査装置のキャリブレーション方法の一実施形態を説明する。
<検査装置の構成>
図1は、検査装置11を示す。本実施形態の検査装置11は、電池を構成する電極シートを検査する装置である。電極シートは、金属箔からなる集電シートに活物質を含む合材層を備えている。検査装置11は、集電シートに活物質ペーストを塗工する塗工装置の一部として設けられている。
図1では塗工部は図示を省略している。
【0020】
検査装置11は、支持部としての搬送ローラ12、照明装置13、及び撮像部14を備えている。搬送ローラ12は、電極シートであるワーク15を支持及び搬送する。搬送ローラ12は、円筒状又は円柱状の形状を有するとともに、回転軸を中心に回転することによって、電極シートであるワーク15を第1方向Xに搬送する。検査装置11は、2つの照明装置13A,13Bを備えている。照明装置13Aは、搬送ローラ12の真上に位置する。照明装置13Bは、搬送ローラ12の上方であって、照明装置13Aよりもワーク15の第1方向Xの下流に位置する。照明装置13Aは、搬送ローラ12によって搬送されるワーク15に対し、真上から検査光100を照射する。照明装置13Bは、ワーク15の表面に対する光の入射角が90°未満となるように、ワーク15に斜めに検査光100を照射する。検査光100は、白色光である。又は可視光域のうち所定の波長域を有する光であってもよい。
【0021】
撮像部14は、ワーク15に光が照射された状態でワーク15を撮像する。例えば撮像部14は、電荷結合素子(Charge Coupled Device)を備えた装置である。なお、撮像部14は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサを備えたもの等であってもよい。撮像部14によって生成される撮像データは、12ビットで表される4096階調のグレースケール画像データであるが、階調数やカラーモードは特に限定されない。撮像データは、256階調等の他の階調数であってもよい。また、撮像データは、RGB画像のデータであってもよい。
【0022】
撮像部14は、撮像データを制御装置16に出力する。制御装置16は、CPU、GPU等の1又は複数の演算回路、演算回路が読み出し及び書き込みが可能な主記憶装置(記憶媒体)であるメモリを備える。また、制御装置16は、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の補助記憶装置を備える。演算回路は、補助記憶装置に格納されたオペレーティングシステム、検査用プログラムをメモリに読み込み、メモリから取り出した各種命令を実行する。検査用プログラムは、撮像データを用いて隣り合う画素の階調差を算出する処理を演算回路に実行させる。制御装置16は、特許請求の範囲の制御部に対応する。
【0023】
図2は、ワーク15及び搬送ローラ12の平面図である。搬送ローラ12は、その表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)等からなる硬質層を備える。又は搬送ローラ12のうち回転軸を除く全体が硬質材料から構成されていてもよい。搬送ローラ12の表面12Aは、ワーク15に接触する接触領域12Bと、非接触領域12Cとを含む。搬送ローラ12は、非接触領域12Cの一部であって、長手方向の両端部に彫刻部20を備えている。彫刻部20は、検査の基準として用いられるマスターとして設けられている。
【0024】
彫刻部20は、照明装置13から検査光100が照射されることによって、ワーク15の表面及び非接触領域12Cのうち彫刻部20以外の領域とは異なる光学作用を発現する。本実施形態において、彫刻部20は、検査光100を拡散反射(乱反射)する特性を有する。彫刻部20の表面は、彫刻部20以外の表面12Aに比べて粗い。換言すると、彫刻部20は、算術平均粗さ又は最大高さ粗さが、ワーク15の表面及び非接触領域12Cのうち彫刻部20以外の領域に比べて大きい。
【0025】
彫刻部20は、搬送ローラ12の周方向に沿って連続して設けられている。彫刻部20全体は、搬送ローラ12の周方向に沿って延在する帯状の形状を有する。
彫刻部20は、表面に形成された溝と、溝の間の表面とを含む。溝を形成する方法は、特に限定されない。例えば溝は、搬送ローラ12の表面12Aにレーザー光を照射して材料を昇華させるレーザー彫刻を用いることができる。又は原版を圧力により搬送ローラ12に押し付ける機械彫刻、搬送ローラ12の所定の部分に薬品を接触させることにより腐食させるエッチング法、ダイヤモンド製の針を搬送ローラ12に触れさせて彫刻を行う電子彫刻等により形成されている。溝は、凹部及び窪みとも言い換えることができる。
【0026】
搬送ローラ12は、2つのワーク15を搬送する。搬送ローラ12の表面12Aにはワーク15と接触する接触領域12Bが位置する。接触領域12Bは1対の非接触領域12Cの間に位置する。つまり、彫刻部20及び接触領域12Bは重複しない。2つの接触領域12Bの間には非接触領域12Cが位置する。
【0027】
ワーク15は、集電シート15A、合材層15B及び絶縁保護層15Cを含む積層体である。集電シート15Aは金属箔からなる。合材層15Bは電池反応に直接的に寄与する活物質、導電助剤、結着剤等を含む。
図2に示すワーク15は、正極の電極シートであって集電シート15Aがアルミ箔である。さらに正極のワーク15は、集電シート15Aと合材層15Bとの間に、絶縁保護層15Cを備える。また、ワーク15が負極の電極シートである場合、集電シート15Aは銅箔である。
【0028】
撮像部14の撮像範囲Zは彫刻部20及びワーク15の一部を含む。撮像範囲Zは、2つのワーク15の幅よりも大きい幅を有する。撮像範囲Zは、第1方向Xに直交する方向であって搬送ローラ12の長手方向と平行である第2方向Yにおいて両方のワーク15全体を含み、第1方向Xにおいてワーク15の一部を含む。制御装置16は、取得した撮像データに対し公知の画像処理を行うことにより、キャリブレーション及びワーク15の評価を行う。
【0029】
制御装置16は、合材層15Bの幅(第2方向Yの長さ)、合材層15Bの欠損、集電シート15Aの皺等を検出する。例えば、合材層の幅は、撮像データの1画素(1ピクセル)が相当する実寸(寸法)である画素サイズと、画像において合材層15Bが占有する画素数とに基づいて特定される。例えば、合材層15Bの幅を特定する工程は、画素サイズに、合材層15Bの画素数を乗算する工程を含む。また、合材層15Bの欠損や、集電シート15Aの皺の有無は、撮像データの画素の階調差に基づき検出したエッジの特徴や大きさから判定することができる。
【0030】
<彫刻部>
図3及び
図4を参照して、彫刻部20について詳述する。
図3は、彫刻部20の拡大図である。彫刻部20を構成する溝21は、搬送ローラ12の平面(表面12A)からみて正多角形を並べたパターンを構成する。溝21は、壁部21Cによって区画されている。
図3の例では、彫刻部20は、搬送ローラ12の平面視において複数の正六角形を第1方向X及び第2方向Yに並べたハニカム状(又は亀甲型)のパターンを構成する。このように溝21が、搬送ローラ12の第1方向X及び第2方向Yの両方に設けられることにより、彫刻部20において照明装置13から照射された検査光100が多数の異なる方向に反射される。これにより、撮像部14により受光される彫刻部20の反射光の光量は、その周囲における反射光の光量よりも小さくなる。つまり、搬送ローラ12の表面12Aのうち、彫刻部20とそれ以外の部分との間で所定の階調差を得ることができれば、溝21が形成するパターン(図柄)や溝21の製造方法は特に限定されない。なお、
図3は機械彫刻により溝21を形成した例を示す。レーザー彫刻の場合はレーザー光の熱で材料が昇華するため、正六角形のエッジが丸くなる。
【0031】
彫刻部20が、第1方向Xと平行に延在する溝、又は第2方向Yと平行に延在する溝から構成される場合、彫刻部20の撮像データにおいてモアレが生じてしまうことが判明している。一方、本実施形態のように溝21が複数の正多角形のパターンを構成する場合には、モアレが生じない。また、正多角形のパターンとすることで、彫刻部20内においても検査光100を均一に拡散することができる。これにより、撮像データにおいて彫刻部20内における階調を均一にすることができる。
【0032】
図4は、彫刻部20の断面図である。溝21は、底面21Aと内側面21Bとを有する。
図4の例では、底面21Aに対する内側面21Bの角度θは90°未満である。又は、溝21は、断面がU字状の溝であってもよい。又は、溝21は、内側面21Bの角度が90°であってもよい。つまり、彫刻部20は、断面が台形状のセルを複数有する。
【0033】
(作用)
次に彫刻部20の作用について、キャリブレーションの方法とともに説明する。
検査工程においては、検査装置11は、搬送ローラ12によってワーク15を搬送しながら、検査光100が照射されたワーク15を撮像する。制御装置16は、撮像データを用いてワーク15の評価を行う。この検査工程において、意図せず撮像部14の位置のずれが生じることがある。撮像部14に位置ずれが生じると、ワーク15と撮像部14との相対距離が変化する。このようにワーク15と撮像部14との相対距離が変化することにより、検査の基準とする撮像データの画素サイズが変わってしまうため、ワーク15の評価の精度が低下してしまう可能性がある。
【0034】
このため、制御装置16は、彫刻部20を用いたキャリブレーションを定期的に行って画素サイズを更新する。キャリブレーションでは、制御装置16は、彫刻部20とその周囲の搬送ローラ12の表面12Aとの境界をエッジ(輪郭)として検出する。
【0035】
制御装置16は、彫刻部20の第2方向Yにおける実寸L(
図2参照)を記憶部に記憶している。制御装置16は、撮像データのうち、彫刻部20が撮像された画像をマスター画像とする。制御装置16は、マスター画像の幅方向(第2方向Y)に並ぶ画素の数を特定する。そして、マスター画像の画素数と彫刻部20の実寸Lとを比較することによって、撮像データの1つの画素の長さに相当する画像サイズを特定する。
【0036】
彫刻部20は、マスターとしてシールを取り付ける場合に比べ影が生じにくい。シールを取り付ける場合は、照明装置13の直下にシールを位置させる必要があるが、彫刻部20はその位置の制限が少ない。このため、彫刻部20を、搬送ローラ12のうちワーク15と干渉しない端部に設けることが可能となる。彫刻部20はワーク15と重ならないため、検査中も常に撮像範囲Zに含まれる。このため、キャリブレーションを行うために、ワーク15を取り外したり取り付けたりする必要が無い。また、キャリブレーションを、ワーク15の評価と同時に行うことも可能である。
【0037】
図5は、撮像データの第2方向Yにおける階調を示す。
図5では、ワーク15を、正極の電極シートに例示して説明する。横軸は、搬送ローラ12の一方の端部からの長さ、縦軸は階調を示す。また、互いに隣接する画素において一方の画素の階調が他方の画素に対して所定倍以上である場合にエッジが検出される。所定倍は例えば1.05倍以上である。特に1.5倍であることが好ましい。
【0038】
撮像データのうち搬送ローラ12の表面12Aを撮像した領域は、階調T1である。本実施形態における彫刻部20(マスター画像)の階調T2は、階調T1よりも低い。階調T1は、階調T2の所定倍以上であるため、制御装置16は、彫刻部20と、彫刻部20の周囲の表面12Aとの境界をエッジとして検出可能である。制御装置16は、彫刻部20に対応し幅方向に並ぶ1対のエッジを検出すると、エッジ間の画素数を特定する。そして、画素数と彫刻部20の実寸Lに基づいて画素サイズを特定する。
【0039】
集電シート15Aは、搬送ローラ12及びワーク15のうち、反射率が高い。このため集電シート15Aの階調T3は、搬送ローラ12の表面12Aの階調T1,彫刻部20の階調T2よりも高い。制御装置16は、集電シート15Aの画像における階調T3を最大値となるように、撮像データの階調の値を補正する。
【0040】
絶縁保護層15Cの階調T4は、集電シート15Aの階調T3よりも低い。また、合材層15Bの階調T5は、絶縁保護層15Cの階調T4及び搬送ローラ12の表面12Aの階調T1よりも低い。集電シート15Aの階調T3は、隣り合う領域である、搬送ローラ12の表面12Aの階調T1及び絶縁保護層15Cの階調T4の所定倍以上である。また、絶縁保護層15Cの階調T4は、隣り合う合材層15Bの階調T5の所定倍以上である。さらに、搬送ローラ12の表面12Aの階調T1は、合材層15Bの階調T5の所定倍以上である。よって、検査において、制御装置16は、搬送ローラ12の表面12A、集電シート15A、絶縁保護層15C、合材層15Bの境界を認識することができる。
【0041】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下に記載するような効果が得られるようになる。
(1)搬送ローラ12にマスターとしてシールを設ける場合に比べ、彫刻部20は影が生じにくい。よって彫刻部20の位置は自由度が高められるため、搬送ローラ12のうちワーク15と接触しない非接触領域12Cにも配置することができる。このように彫刻部20を非接触領域12Cに設けると、彫刻部20を撮像するためにワーク15を取り外す必要が無くなる。また、ワーク15の撮像と同時に彫刻部20を撮像することも可能となる。したがって、マスター画像の生成に要する手間を軽減することができる。その結果、キャリブレーションの頻度を高めることができる。
【0042】
(2)彫刻部20は、搬送ローラ12のうち検査に影響しない端部に設けられるため、彫刻部20とワーク15とが互いに悪影響を及ぼさない。このため、ワークの撮像と彫刻部の撮像との両方を同時に行うことができる。
【0043】
(3)第1方向X及び第2方向Yに並ぶ溝21により、彫刻部の周囲と異なる光学作用を発現することができる。すなわち、彫刻部20は、搬送ローラ12に照射される検査光100を拡散反射することにより、撮像データにおいて周囲より低い階調を呈する。これにより、彫刻部20の境界をエッジとして検出することが可能となる。
【0044】
(4)彫刻部20は、正多角形の形状を有する複数の溝21により、彫刻部20の周囲と異なる光学作用を発現することができる。すなわち、彫刻部20は、搬送ローラ12に照射される検査光100を拡散反射することにより、撮像データにおいて周囲より低い階調を呈する。これにより、彫刻部20の境界をエッジとして検出することが可能となる。
【0045】
(5)彫刻部20は搬送ローラ12の周方向に連続して設けられているため、回転する搬送ローラ12の周方向におけるいずれの位置においても彫刻部20を撮像することが可能である。このため、ワーク15を搬送している検査中であっても、任意のタイミングにおいて彫刻部20を撮像することができる。
【0046】
(その他の実施形態)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0047】
・上記実施形態では、溝21は正六角形のパターンを構成するようにしたが、正六角形以外の正多角形のパターンを構成するようにしてもよい。
図6は、溝21が平面視において正方形を並べたパターンを構成した彫刻部20を示している。溝21は、四角錐の形状の空間である。溝21は、深くなるに伴い断面積が小さくなる形状である。言い換えると、彫刻部20は、複数のピラミッド型のセルを有する。また、溝21は、壁部21Dと、壁部21Eが延在する方向と交差する方向に延びる壁部21Eとによって区画される。壁部21D,21Eは、それぞれ異なる高さを有していてもよい。この彫刻部20によれば、彫刻部20の周囲と異なる光学作用を発現することができる。
【0048】
溝21は、正多角形以外のパターンを構成するようにしてもよい。
図7及び
図8は、溝21は、斜線型のパターンを構成した彫刻部20を示している。
図7に示すように、溝21は、第1方向X及び第2方向Yに対して斜めに延在する。溝21は、壁部21Fによって区画される。溝21は、搬送ローラ12の周方向に沿って設けられている。
図8に示すように、溝21は、2つの傾斜面を有するとともに、断面においてV字状の形状を有する。
【0049】
斜線型の溝21を有する彫刻部20によれば、彫刻部20の周囲と異なる光学作用を発現することができる。すなわち、彫刻部20は、搬送ローラ12に照射される検査光100を拡散反射することにより、撮像データにおいて周囲より低い階調を呈する。これにより、彫刻部20の境界をエッジとして検出することが可能となる。
【0050】
また、斜線型の溝21は、一方向に延びる溝21と、一方向とは異なる他方向に延びる溝21とが交差するパターンであってもよい。
また、溝21は、深さが互いに異なる複数の溝から構成されていてもよい。さらに溝21を区画する壁部が切り欠きを有するものであってもよい。
【0051】
また、溝21は、平面視において円形状であってもよい。また、溝21は、曲線の溝であってもよい。溝21は幾何学模様を構成するようにしたが、不規則に位置する図形又は、不規則且つ微小な凹凸形状を有する模様からなるパターンであってもよい。要は、彫刻部20は、その周囲と異なる光学作用を発現することにより、その境界を画像処理により認識できるものであればよい。
【0052】
・上記実施形態では、彫刻部20の階調T2が、搬送ローラ12の表面12Aの階調T1に対して低くなる態様について説明した。これに代えて、
図9に示すように、彫刻部20の階調T6が搬送ローラ12の表面12Aの階調T1に対して1.05倍等の所定倍以上であれば、彫刻部20の階調T6が、搬送ローラ12の表面12Aの階調T1に対して高い値であってもよい。つまり、彫刻部20は、その周囲に対して異なる光学作用を発現することによってその境界が検出できればよい。例えば溝21が浅い場合には、溝21の底面に反射する反射光が検出されやすくなるため、階調T6が階調T1に対して高くなる。この場合でも、階調T6が階調T2に対して所定倍以上であれば彫刻部20の境界を認識することができる。
【0053】
・彫刻部20は、搬送ローラ12の端部の非接触領域12Cではなく、2つの接触領域12Bの間の非接触領域12Cに設けられていてもよい。
・彫刻部20は搬送ローラ12の周方向の複数位置に設けられていてもよい。つまり、搬送ローラ12の周方向に、複数の彫刻部20が間隔を空けて設けられていてもよい。この態様においてもワーク15の検査中に彫刻部20を撮像することができる。
【0054】
・上記実施形態では、撮像部14と制御装置16とを接続したが、撮像部14が制御部としての演算回路や記憶部を備えていてもよい。
・上記実施形態では、検査装置11を、合材層15Bを塗工した電極シートを検査する装置として具体化した。検査装置11の用途は、電極シートの評価に限定されない。電極シートに所定の圧力を加えるプレス装置であってもよい。又は、検査装置11は、製造装置の一部を構成するのではなく、単体の装置であってもよい。また、検査装置11は、ロール・ツー・ロール方式の製造装置が備えるもの、又は枚葉式の製造装置が備えるものであってもよい。また、ワーク15を搬送する支持部は、搬送ローラ12に限定されない。例えば、支持部はワークを搬送するベルトコンベア等の搬送部、又は1枚のワークを載置する載置台であってもよい。
【0055】
[参考例]
参考例について説明する。これらの参考例は、本発明を限定するものではない。
(参考例1)
検査装置11の撮像部14として、6000画素モノクロデジタルカメラを用いた。照明装置13は、白色光である検査光100を照射するLED照明装置とした。
【0056】
また、搬送ローラ12は、DLCからなる硬質層を表面に備えるものとした。この搬送ローラ12の両端に、彫刻部20をレーザ照射により形成した。彫刻部20は、溝21により正六角形を並べたパターンを構成する。彫刻部20の詳細は以下の通りである。
【0057】
線数:250線/インチ
深さ:25μm
体積:10cm3/m2
角度θ:60°
線数は、搬送ローラ12の第2方向Yにおける1インチあたりの溝21の数である。深さは、溝21のうち最も深い位置(底面21A)を基準としている。体積は、搬送ローラ12の表面12Aにおける1m2の領域内の溝21の体積を示す。角度θは、底面21Aに対する内側面21Bの傾斜角度である。
【0058】
(参考例2)
彫刻部20の構成を以下のように変えた以外は、参考例1と同様に検査装置11を構成した。
【0059】
線数:495線/インチ
深さ:14μm
体積:5.7cm3/m2
角度θ:57°
(参考例3)
彫刻部20の構成を以下のように変えた以外は、参考例1と同様に検査装置11を構成した。
【0060】
線数:1000線/インチ
深さ:9μm
体積:3.7cm3/m2
角度θ:78°
(評価)
参考例1~3の彫刻部20が、ワークの検査工程においてマスター画像として検出可能であるかを評価した。ワーク15は正極の電極シートを用いた。ワーク15は、集電シート15Aをアルミ箔とし、絶縁保護層15Cをベーマイトを含むものとした。合材層15Bは、NCM(ニッケルコバルトマンガン酸化物)系の正極活物質、アセチレンブラック及びカーボンナノチューブを含む導電助剤、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)である結着剤を含む構成とした。
【0061】
搬送ローラ12にワーク15をセットした後、ワーク15を搬送させながらワーク15及び彫刻部20を撮像して4096階調のグレースケール画像のデータを生成した。また、集電シート15Aの階調が最大値(4095)となるように補正を行った後、彫刻部20の階調T2と搬送ローラ12の表面12Aの階調T1を特定した。そして、階調T1に対して所定倍以上の階調T2が得られているか否かを評価した。又は、階調T1よりも高い彫刻部20の階調T2が高い場合に、階調T2が階調T1に対して所定倍以上であるか否かを評価した。所定倍が1.05倍以上1.5倍未満を「△」、1.5倍以上4.2倍未満を「〇」、4.2倍以上を「◎」とした。評価が「△」から「◎」にむかうにつれて、エッジ検出処理において彫刻部20の境界が明瞭なエッジとして現れる。なお、搬送ローラ12の表面12A、集電シート15A、絶縁保護層15C、合材層15Bの境界においては隣接する画素同士で1.5倍以上の階調が得られ、エッジとして検出可能であった。
【0062】
【0063】
表1に評価の結果を示す。搬送ローラ12の表面12Aの階調T1は、608であった。参考例1は、彫刻部20の階調T2が144であった。参考例1の階調T1は、彫刻部20の階調T2に対して4.22倍であったため、評価を「◎」とした。
【0064】
参考例2は、彫刻部20の階調T2が576であった。階調T1は、彫刻部20の階調T2に対して1.05倍であるため、評価を「△」とした。
参考例3は、彫刻部20の階調T2が704であった。つまり、溝21が浅い場合、
図9に階調T1,T6で例示するように、彫刻部20の階調T2が搬送ローラ12の表面12Aの階調T1よりも高くなった。彫刻部20の階調T2は階調T1に対しておよそ1.15倍であったため、評価を「△」とした。
【0065】
また、ワーク15を負極の電極シートに代えて評価を行った。ワーク15は、集電シート15Aを銅箔とした。合材層15Bは、黒鉛である負極活物質、カルボキシメチルセルロース(CMC)である増粘剤、スチレンブタジエンゴム(SBR)である結着剤を含む構成とした。正極の電極シートであるワーク15と同様にして撮像データを取得した。また、負極の集電シート15Aの階調が最大値(4095)となるように補正を行った後、彫刻部20の階調T2と搬送ローラ12の表面12Aの階調T1を特定した。
【0066】
搬送ローラ12の表面12Aの階調T1は、1352であった。参考例1は、彫刻部20の階調T2が176であった。階調T1は、彫刻部20の階調T2の7.68倍であったため、評価を「◎」とした。
【0067】
参考例2は、彫刻部20の階調T2が848であった。階調T1は、彫刻部20の階調T2の1.59倍であったため、評価を「〇」とした。
参考例3は、彫刻部20の階調T2が992であった。階調T1は、彫刻部20の階調T2の1.36倍であったため、評価を「△」とした。
【符号の説明】
【0068】
11…検査装置
12…支持部としての搬送ローラ
14…撮像部
15…ワーク
16…制御部としての制御装置
20…彫刻部
21…溝