(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】レーザ加工機
(51)【国際特許分類】
B23K 26/073 20060101AFI20240627BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20240627BHJP
【FI】
B23K26/073
B23K26/064 A
(21)【出願番号】P 2022183272
(22)【出願日】2022-11-16
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】三浦 栄朗
(72)【発明者】
【氏名】片桐 健
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-515356(JP,A)
【文献】特開2006-142335(JP,A)
【文献】特表2008-526511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームを出力するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器から出力された前記レーザビームの光軸上に配置され、前記レーザビームをワークに照射するための光学系と、を備え、
前記光学系は、
前記レーザビームをコリメート光に変換するコリメートレンズと、
前記レーザビームを集束させて、前記ワーク上にビームスポットを形成する集束レンズと、
前記レーザビームのビームプロファイルを変換するビーム形成素子と、
前記ビーム形成素子を移動させる移動機構と、を含み、
前記ビーム形成素子は、
前記レーザビームが入射する入射面と、
前記レーザビームを出射させる出射面と、
前記入射面及び前記出射面のうち一方の対象面に設けられ、前記光軸又は前記光軸と平行な軸を中心軸とする円錐状に形成された複数の円錐部と、を有し、
前記入射面及び前記出射面は、それぞれ前記光軸に対して直交する平面部で構成されており、
前記複数の円錐部は、前記平面部が隙間として残るように近接して配置され、
前記対象面に分布する前記複数の円錐部は、前記対象面の面内方向の1つである基準方向にかけて、前記平面部に対する円錐状の斜面の角が相違し、
前記移動機構は、前記ビーム形成素子を前記基準方向に沿って移動させることにより、前記平面部における前記複数の円錐部の形成範囲のなかで、前記レーザビームの入射範囲を移動させる
レーザ加工機。
【請求項2】
レーザビームを出力するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器から出力された前記レーザビームの光軸上に配置され、前記レーザビームをワークに照射するための光学系と、を備え、
前記光学系は、
前記レーザビームをコリメート光に変換するコリメートレンズと、
前記レーザビームを集束させて、前記ワーク上にビームスポットを形成する集束レンズと、
前記レーザビームのビームプロファイルを変換するビーム形成素子と、
前記ビーム形成素子を移動させる移動機構と、を含み、
前記ビーム形成素子は、
前記レーザビームが入射する入射面と、
前記レーザビームを出射させる出射面と、
前記入射面及び前記出射面のうち一方の対象面に設けられ、前記光軸又は前記光軸と平行な軸を中心軸とする円錐状に形成された複数の円錐部と、を有し、
前記入射面及び前記出射面は、それぞれ前記光軸に対して直交する平面部で構成されており、
前記複数の円錐部は、前記平面部が隙間として残るように近接して配置され、
前記対象面に分布する前記複数の円錐部は、前記対象面の面内方向の1つである基準方向にかけて、前記円錐部の面積に対する前記平面部の面積の割合が異なり、
前記移動機構は、前記ビーム形成素子を前記基準方向に沿って移動させることにより、前記平面部における前記複数の円錐部の形成範囲のなかで、前記レーザビームの入射範囲を移動させる
レーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工では、板金などのワークに照射されるレーザビームのビームプロファイルが加工品質に大きく影響する。加工の状況に応じて、適切なビームプロファイルを用いることが重要となる。例えば板厚が厚いワークを切断加工する場合、ビーム径の大きなレーザビームを照射する必要があり、レーザビーム周縁の強度が加工品質に影響する。リング型のビームプロファイルは、中央部の強度が弱く、周辺部の強度が強いビームプロファルであるため、板厚が厚いワークの切断加工においても切断品質の向上を図ることができる。
【0003】
例えば特許文献1、2には、リング型のビームプロファイルを得るための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-028428号公報
【文献】米国特許出願公開第2017/0031105号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示される手法は、リング型のビームプロファイルを得るために複数の光学部品が必要となる。このため、光学系全体での光学部品の数が多くなり、光効率及びコストの面で不利となる。
【0006】
一般に、1~2μmレベルの微細な凹凸又は縞模様を素子表面に形成した回折光学素子が知られている。回折光学素子は、光の回折を利用して光線を制御するものであり、素子表面のパターン設計により、リング型を含む任意の形状のビームプロファイルを形成することができる。しかしながら、回折光学素子は、高次回折光による光のロスが大きく、光効率が低下するというデメリットがある。特にノイズ光のうち、二次回折光はビームスポット周辺にゴーストとして現れるため、レーザ加工においては加工品質に大きく影響する。
【0007】
また、ファセットレンズと呼ばれる、レンズが規則的に配列されたレンズアレイは、通常レンズと同じく光の屈折を利用した光学素子である。このファセットレンズは、中央部が平坦状となるトップハット型のビームプロファイルを得ることができるが、リング型のビームプロファイルを得ることはできない。
【0008】
このように、従来より、光学部品の点数を増やすことなく、高い光効率でリング型のビームプロファイルを実現したいという要求があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様のレーザ加工機は、レーザビームを出力するレーザ発振器と、レーザ発振器から出力されたレーザビームの光軸上に配置され、レーザビームをワークに照射するための光学系と、を備え、光学系は、レーザビームをコリメート光に変換するコリメートレンズと、レーザビームを集束させて、ワーク上にビームスポットを形成する集束レンズと、レーザビームのビームプロファイルを変換するビーム形成素子と、を含み、ビーム形成素子は、レーザビームが入射する入射面と、レーザビームを出射させる出射面と、入射面及び出射面のうち一方の対象面に設けられ、光軸又は光軸と平行な軸を中心軸とする円錐状に形成された複数の円錐部と、を有する。
【0010】
このレーザ加工機によれば、複数の円錐部が設けられたビーム形成素子により、環状のリング成分を含むビームプロファイルを得ることができる。従来の光学系にビーム形成素子を追加するだけでよいので、光学部品の点数の増加を抑制することができる。また、ビーム形成素子は、光の回折を利用することなく、屈折を利用するものであるので、光効率が低下するというデメリットも抑制される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、光効率及びコストの面で有利な構成で、リング型のビームプロファイルを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るレーザ加工機の全体構成を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、ビーム形成素子の構成を示す斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、ビーム形成素子の入射面側の構成を示す説明図である。
【
図4】
図4は、レーザビームにおける代表的なビーム軌跡を示す説明図である。
【
図5】
図5は、レーザビームの
ビームプロファイルを示す図である。
【
図6】
図6は、出射面に円錐部が形成されたビーム形成素子を示す断面図である。
【
図7】
図7は、第2の実施形態に係るビーム形成素子の構成を示す断面図である。
【
図8】
図8は、第3の実施形態に係るビーム形成素子の構成を示す
図である。
【
図9】
図9は、ビーム形成素子の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照し、本実施形態に係るレーザ加工機について説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るレーザ加工機の全体構成を示す図である。
図2Aは、ビーム形成素子の構成を示す斜視図である。本実施形態に係るレーザ加工機1は、レーザビームLBを出力するレーザ発振器2と、レーザ発振器2から出力されたレーザビームLBの光軸OA上に配置され、レーザビームLBをワークWに照射するためのレーザ加工光学系と、を備え、レーザ加工光学系は、レーザビームLBをコリメート光に変換するコリメートレンズ5と、レーザビームLBを集束させて、ワークW上にビームスポットを形成する集束レンズ6と、レーザビームLBのビームプロファイルを変換するビーム形成素子7と、を含む。ビーム形成素子7は、レーザビームLBが入射する入射面70と、レーザビームLBを出射させる出射面75と、入射面70及び出射面75のうち一方の対象面に設けられ、光軸OA又は光軸OAと平行な軸を中心軸とする円錐状に形成された複数の円錐部72と、を有する。
【0015】
以下、
図1を参照し、レーザ加工機1の詳細な構成を説明する。レーザ加工機1は、板金などのワークWに対してレーザビームLBを照射することで、ワークWに対して切断などの加工を行う加工機である。レーザ加工機1は、レーザ発振器2、加工ヘッド4、及び制御装置9を主体に構成されている。
【0016】
レーザ発振器2は、レーザビームLBを生成し、生成したレーザビームLBを射出する。レーザ発振器2より射出されたレーザビームLBは、プロセスファイバ3を介して、加工ヘッド4へと伝送される。
【0017】
レーザ発振器2は、例えばファイバレーザ発振器であるが、これに限らない。ファイバレーザ発振器は、波長1060nm~1080nmのレーザビームLBを射出する。
【0018】
加工ヘッド4は、ワークWに対してレーザビームLBを照射して、ワークWに対してレーザ加工を行う。加工ヘッド4は、レーザビームLBをワークWに照射するためのレーザ加工光学系を備えている。
【0019】
レーザ加工光学系は、レーザビームLBの光軸OA上に配置されており、コリメートレンズ5と、集束レンズ6と、ビーム形成素子7と、を含んでいる。本実施形態においては、ビーム形成素子7、コリメートレンズ5、集束レンズ6の順番で、これらの光学素子が、レーザビームLBの進行方向にかけて配置されている。
【0020】
プロセスファイバ3の射出端より射出されるレーザビームLBは発散光である。プロセスファイバ3より射出されるレーザビームLBのビームプロファイルは、周辺部から中央部に向かって強度が急峻に大きくなるガウシアン型である。
【0021】
プロセスファイバ3の射出端より射出されるレーザビームLBは、後述するビーム形成素子7に入射する。ビーム形成素子7から射出されるレーザビームLBは、コリメートレンズ5に入射する。コリメートレンズ5は、入射した発散光のレーザビームLBを、略平行なコリメート光に変換する。コリメートレンズ5から射出されるレーザビームLBは、集束レンズ6に入射する。集束レンズ6は、入射した平行光のレーザビームLBを集束させて、ワークWの表面にビームスポットを形成する。
【0022】
加工ヘッド4は、ビーム形成素子7を移動させる移動機構8を備えている。移動機構8は、ビーム形成素子7を第1方向F1及び第2方向F2に移動させることができる。ここで、第1方向F1は、レーザビームLBの光軸OAと直交する方向である。第2方向F2は、レーザビームLBの光軸OAと平行な方向である。
【0023】
もっとも、本実施形態に係るレーザ加工機1において、移動機構8は必須の構成ではなく、ビーム形成素子7が固定的に配置される構成であってもよい。また、移動機構8は、第1方向F1及び第2方向F2のそれぞれにビーム形成素子7を移動させることができるが、少なくとも第2方向F2のみにビーム形成素子7を移動させることができる構成であってもよい。ビーム形成素子7の第1方向F1への移動は、後述する第2及び第3の実施形態において明らかとなるであろう。
【0024】
また、図示を省略しているが、加工ヘッド4は、ヘッド駆動機構などを介して、ワークWの表面に沿って移動自在に構成されている。
【0025】
制御装置9は、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサと、メモリと、各種のインターフェースとを有するコンピュータによって構成されている。メモリ、各種のインターフェースは、バスを介してハードウェアプロセッサに接続されている。ハードウェアプロセッサによってメモリに格納されたプログラムを実行させることにより、制御装置9が備える種々の機能が実現される。
【0026】
制御装置9は、レーザ発振器2、移動機構8、ヘッド駆動機構などを制御し、ワークWに対してレーザ加工を行う。例えば、制御装置9は、ヘッド駆動機構を制御して、ワークWから所定形状の製品を切り出すように、加工ヘッド4を、ワークWと平行な2次元方向に移動させる。また、制御装置9は、必要に応じて移動機構8を制御して、ビーム形成素子7の位置を制御する。
【0027】
以下、
図2A、
図2B、及び
図3を参照し、本実施形態に係るビーム形成素子7について説明する。
図2Bは、ビーム形成素子の入射面側の構成を示す説明図である。
図3は、
図2A及び
図2Bに示すビーム形成素子の断面図である。
【0028】
ビーム形成素子7は、通過するレーザビームLBに対して角度補正を行うことで、レーザビームLBのビームプロファイルをガウシアン型から、後述するようなリング型へと変換する。ビーム形成素子7は、合成石英などの高透過率の材料から形成されている。
【0029】
ビーム形成素子7は、レーザビームLBが入射する入射面70と、レーザビームを出射させる出射面75と、を有している。入射面70及び出射面75には、反射低減膜(例えばAR(Anti Reflection)コーティング)が形成されていてもよい。
【0030】
入射面70及び出射面75は、それぞれレーザビームLBの光軸OAに対して直交する平面部71、76で構成されている。入射面70及び出射面75は、互いに平行に形成されている。
【0031】
ビーム形成素子7は、複数の円錐部72を有している。複数の円錐部72は、入射面70及び出射面75のうち一方の面(対象面)に設けられている。
図2A、
図2B及び
図3に示す例では、入射面70に対して複数の円錐部72が設けられている。
【0032】
個々の円錐部72は、レーザビームLBの光軸OA又は光軸OAと平行な軸を中心軸とする円錐状に形成されている。具体的には、個々の円錐部72は、頂点に向かって傾斜する円錐状の斜面からなり、平面部71よりも内側に窪んだ凹状の穴である。
図3に示すように、円錐部72の形状及び大きさは、平面部71に対する斜面の角度(円錐角)θ、及び平面部71における直径Dcから定義される。
【0033】
図2A、
図2B、及び
図3に示す例では、入射面70に設けられた全ての円錐部72は、同じ形状及び大きさに設定されている。平面部71に配列された各円錐部72の間には隙間が存在しており、平面部71を隔てて円錐部72が隣接するような形態となっている。
【0034】
例えば、複数の円錐部72は、一定の規則に従って配列されている。
図2A及び
図2Bに示す例では、ある1つの円錐部72を基準としたときに、基準の円錐部72に対して外接する最大6つの円錐部72が、基準の円錐部72と同一中心の正六角形の各頂点に位置するように、複数の円錐部72が規則的に配列されている(以下、このような配列を六方配列と称す)。もっとも、複数の円錐部72は、基準の円錐部72に対して外接する最大4つの円錐部72が基準の円錐部72と同一中心の正方形の各頂点に位置するような規則的な配列(以下、四方配列と称す)、又はその他の周期的な配列でもよいし、平面部71上にランダムに配列されてもよい。
【0035】
複数の円錐部72は、入射面70におけるレーザビームLBの入射範囲に、2つ以上の円錐部72が含まれるように設定されている。すなわち、円錐部72の形状及び大きさ、並びに配列は、入射面70におけるレーザビームLBの入射範囲の大きさに応じて決定される。
【0036】
なお、円錐部72の大きさ、すなわち直径Dcが小さいほど、入射範囲における円錐部72の個数を増やすことができる。しかしながら、直径Dcが極端に小さくなると、回折現象による光の損失が発生するので、レーザ波長の10倍、より好ましくは100倍程度の直径Dcであることが好ましい。
【0037】
図4は、レーザビームにおける代表的なビーム軌跡を示す説明図である。ビーム形成素子7の入射面70には、複数の円錐部72が設けられており、円錐部72同士の隙間には平面部71が存在している。
図4に示すように、平面部71に入射したレーザビームLB1は、角度補正が行われることなく通過する。このレーザビームLB1は、所定の位置P1で焦点を結ぶこととなる。一方、円錐部72に入射したレーザビームLB2、LB3は、円錐部72(円錐状の斜面)の入射位置に応じて角度補正が行われる。例えばある位置に入射したレーザビームLB2は、所定の位置P1より奥側で焦点を結び、別の位置に入射したレーザビームLB3は、所定の位置P1より手前側で焦点を結ぶこととなる。
【0038】
図5は、レーザビームの
ビームプロファイルを示す図である。ビーム形成素子7によって変換されレーザビームLBのビームプロファイルは、円状の中心成分LBaと、この中心成分LBaの外側において中心成分LBaと同心円となる環状のリング成分LBbとから構成される。
【0039】
平面部71を通過したレーザビームLB1(
図4参照)は、
図5に示す中心成分LBaを形成する。円錐部72を通過したレーザビームLB2、LB3(
図4参照)は、
図5に示すリング成分LBbを形成する。中心成分LBaの直径dcは、リング成分LBbの幅Wrと同じである。
【0040】
このとき、円錐角θ、すなわち円錐部72の斜面と平面部71とのなす角が大きいほど角度補正量が大きくなる。したがって、各円錐部72の円錐角θを大きくすれば、リング成分LBbの径(内径及び外径)が大きくなる。また、入射面70に入射するレーザビームLBの入射範囲における、円錐部72の面積に対する平面部71の面積の割合(平面部71の占有比率)が小さいほど角度補正されるレーザビームLBの割合が大きくなる。したがって、中心成分LBaに対してリング成分LBbの出力比率が大きくなる。このように、円錐部72の円錐角θに応じて、リング成分LBbの径(リングビーム径)を調整することができる。また、平面部71の占有比率に応じて、中心成分LBaとリング成分LBbとの出力比率を調整することができる。
【0041】
また、ビーム形成素子7の中心と光軸OAとの位置が変動しても、レーザビームLBの入射範囲が、円錐部72が形成され領域内に収まっている限り、ビーム形成素子7は、中心成分LBa且つリング成分LBbからなるビームプロファイルを形成することができる。このため、ビーム形成素子7によれば、高いアライメント精度を必要としないという特徴的な効果を奏する。
【0042】
図6は、出射面に円錐部が形成されたビーム形成素子を示す断面図である。なお、上述した実施形態では、入射面70に複数の円錐部72を設ける例を説明した。
図6に示すように、入射面70に代えて、出射面75に対して複数の円錐部77を設けてもよい。なお、円錐部77は、出射面75に設けられている点を除き、上述した円錐部72の構造と同じである。
【0043】
ここで、ビーム形成素子7に関するシミュレーション結果を説明する。シミュレーションの条件は、以下の通りである。レーザビームLBが射出されるプロセスファイバ3のコア径は100μm、レーザ発振器2より射出されるレーザビームLBのビーム品質、レーザ光のビームパラメータ積(Beam Parameter Products)は4.0mm・mradとする。また、コリメートレンズ5の焦点距離は150mm、集束レンズ6の焦点距離は200mmである。
【0044】
ビーム形成素子7は、プロセスファイバ3の出射端面から入射面70までの距離が50mmとなるように配置されている。このシミュレーションでは、
図6に示すように、出射面75に複数の円錐部77が設けられたビーム形成素子7を用いた。また、シミュレーションでは、ビーム形成素子7は、光透過率100%に設定している。
【0045】
ビーム形成素子7の入射面70のサイズは30mm×30mmである。円錐部72の直径Dcを1mm、円錐角θを0.3degとした。各円錐部72の配置は四方配列とし、29個×29個、合計841個の円錐部72が入射面70に配置されている。
【0046】
このような条件でシミュレーションを行ったところ、集束されたビームスポットのリングビーム径は、D4σで432μmであった。また、リング成分LBbのビーム出力比率は78%、中心成分LBaのビーム出力比率は22%となった。
【0047】
次に、円錐角θを0.3degから0.6degに変更し、その他のパラメータはそのままでシミュレーションを行った。この場合、ビームスポットのリングビーム径は、D4σで784μmであった。リング成分LBbのビーム出力比率は78%、中心成分のビーム出力比率は22%となった。
【0048】
また、円錐角θは0.3degのままで、円錐部72の配列を四方配列よりも平面部71の占有比率が小さい六方配列に変更して、シミュレーションを行った。この場合、ビームスポットのリングビーム径は、D4σで448μmであった。リング成分LBbのビーム出力比率は91%、中心成分LBaのビーム出力比率は9%であった。
【0049】
このように、各円錐部72の円錐角θが大きいほどリングビーム径が大きくなることが、シミュレーションでも示された。同様に、平面部71の占有比率が小さいほどリング成分LBbの出力比率が大きくなることが、シミュレーションでも示された。
【0050】
また、円錐部72の直径Dcを1mm、円錐角θを0.3deg、円錐部72の配置を六方配列としたビーム形成素子7を光軸OAと平行な第2方向F2に動かしながら、ビームスポットのリングビーム径についてシミュレーションを行った。プロセスファイバ3の出射端面から入射面70までの距離が40mm、50mm、60mmとなるようにビーム形成素子7を配置したところ、それぞれリングビーム径は、384μm、448μm、504μmであった。
【0051】
このように、ビーム形成素子7を光軸OAと平行な第2方向F2に動かすと、リングビーム径が変化する。ビーム形成素子7を光源側に近づけるとリングビーム径は小さくなり、光源から遠ざけるとリングビーム径は大きくなる。移動機構8によって、ビーム形成素子7を第2方向F2へと移動させることで、リングビーム径を任意に調節することができる。
【0052】
このように本実施形態によれば、複数の円錐部72が設けられたビーム形成素子7により、円状の中心成分LBaと、この中心成分LBaの周囲にある環状のリング成分LBbとで構成されるビームプロファイルを得ることができる。従来のレーザ加工光学系に対してビーム形成素子7を追加するだけでよいので、光学部品の点数の増加を抑制することができる。また、ビーム形成素子7は、光の回折を利用することなく、屈折を利用するものであるので、光効率が低下するというデメリットも抑制される。これにより、光効率及びコストの面で有利な構成で、リング型のビームプロファイルを実現することができる。
【0053】
また、このようなビームプロファイルを用いて厚板の加工を行った場合には、ビーム端の強度が大きいので、切断加工時のドロス(加工部裏面に付着する溶融金属)の発生が少なくなり、切断品質の向上を図ることができる。
【0054】
また、本実施形態において、入射面70及び出射面75は、それぞれレーザビームLBの光軸OAに対して直交する平面部71、76で構成されている。複数の円錐部72(77)は、平面部71(76)が隙間として残るように近接して配置されている。
【0055】
この構成によれば、ビーム形成素子7を通過するレーザビームLBが、角度補正の機能を有しない平面部71、76を通過する成分と、角度補正の機能を有する円錐部72、77を通過する成分とに分けられる。これにより、円状の中心成分LBaと、この中心成分LBaの周囲に同心円となる環状のリング成分LBbとからなるビームプロファイルを適切に形成することができる。
【0056】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態に係るビーム形成素子の構成を示す断面図である。第2の実施形態に係るビーム形成素子7では、入射面70における円錐部72の位置に応じて、円錐部72の円錐角θが相違している。具体的には、入射面70に分布する複数の円錐部72は、入射面70の面内方向の1つである基準方向にかけて、平面部71に対する円錐状の斜面の円錐角θが相違している。
図7に示す例では、紙面左側から右側に向かうほど、円錐部72の円錐角θが小さくなっている。円錐角θが小さくなる割合は、線形的であってもよいし、非線形的であってもよい。この基準方向は、移動機構8によるビーム形成素子7の移動方向である第1方向F1と一致している。
【0057】
このようなビーム形成素子7によれば、移動機構8によってビーム形成素子7を第1方向F1へと移動させることで、入射面70における複数の円錐部72の形成範囲のなかで、レーザビームLBの入射範囲を移動させることができる。上述したように、リングビーム径は、円錐部72の円錐角θに応じて定まる。このため、レーザビームLBの入射範囲を移動させれば、その入射範囲に含まれる円錐部72の円錐角θに応じて、リングビーム径を調整することができる。
【0058】
(第3の実施形態)
図8は、第3の実施形態に係るビーム形成素子の構成を示す
図である。第3の実施形態に係るビーム形成素子7では、入射面70における円錐部72の位置に応じて、円錐部72の直径Dcが相違している。具体的には、入射面70に分布する複数の円錐部72は、入射面70の面内方向の1つである基準方向にかけて円錐部72の直径Dcが異なっている。すなわち、複数の円錐部72は、基準方向にかけて、単位面積あたりの平面部71と円錐部72との割合が異なっている。
図8に示す例では、紙面右側から左側に向かうほど、円錐部72の直径Dcが大きくなっている、すなわち、円錐部72の面積に対する平面部71の面積の割合(平面部71の占有比率)が小さくなっている。平面部71の占有比率が小さくなる割合は、線形的であってもよいし、非線形的であってもよい。この基準方向は、移動機構8による移動方向である第1方向F1と一致している。
【0059】
このようなビーム形成素子7によれば、移動機構8によってビーム形成素子7を第1方向F1へと移動させることで、入射面70における複数の円錐部72の形成範囲のなかで、レーザビームLBの入射範囲を移動させることができる。上述したように、中心成分LBaとリング成分LBbとの出力比率は、平面部71の占有比率に応じて定まる。このため、レーザビームLBの入射範囲を移動させれば、その入射範囲における平面部71の占有比率に応じて、リング成分LBbと中心成分LBaとのビーム出力比率を調整することができる。
【0060】
なお、第2の実施形態に示す手法と、第3の実施形態に示す手法とを組み合わせてもよい。この場合、ビーム形成素子7に対するレーザビームLBの照射位置を変更することで、リング成分LBbと中心成分LBaとのビーム出力比率、並びにリング成分LBbの径を調整することができる。
【0061】
以下、
図9及び
図10を参照し、ビーム形成素子7の変形例について説明する。
図9及び
図10は、ビーム形成素子の変形例を示す図である。上述した各実施形態では、隙間(平面部71)を設けて円錐部72を配列したが、
図9に示すように、隙間が生じないように円錐部72同士を密着して配列してもよい。この場合、円錐部72の形成された範囲にレーザビームLBが入射していれば、平面部71を通過するレーザビームLBがない。よって、中心成分を持たない純粋なリング成分のみのビームプロファイルを形成することができる。
【0062】
また、上述した各実施形態では、個々の円錐部72は、平面部71よりも内側に窪むように凹状の穴として形成されている。しかしながら、
図10に示すように、個々の円錐部72は、平面部71よりも外側に突き出すように凸状の突起として形成されてもよい。
【0063】
また、個々の円錐部72は、その頂部が尖った完全な円錐形状でなく、平坦な形状や湾曲した形状であってもよい。
【0064】
また、各実施形態では、レーザビームLBの進行方向に対して、ビーム形成素子7をコリメートレンズ5の手前側に配置したが、コリメートレンズ5の奥側に配置してもよい。もっとも、コリメートレンズ5の手前側の方がレーザビームLBのビーム径が小さいので、ビーム形成素子7をコリメートレンズ5の手前側に配置したが方が、素子の小型化を図ることができる。
【0065】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0066】
1 レーザ加工機
2 レーザ発振器
3 プロセスファイバ
4 加工ヘッド
5 コリメートレンズ
6 集束レンズ
7 ビーム形成素子
8 移動機構
9 制御装置
70 入射面
71 平面部
72 円錐部
75 出射面
76 平面部
77 円錐部