(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】経路確認装置および経路確認方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/09 20120101AFI20240627BHJP
B60W 30/16 20200101ALI20240627BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20240627BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W30/16
G01C21/34
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2022539509
(86)(22)【出願日】2021-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2021027802
(87)【国際公開番号】W WO2022025086
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2020128558
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】項 警宇
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】篠田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】大澤 弘幸
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-131107(JP,A)
【文献】特開2000-268298(JP,A)
【文献】特開2018-195301(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0093177(US,A1)
【文献】国際公開第2019/003302(WO,A1)
【文献】特開2020-095635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/09
B60W 30/16
G01C 21/34
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転によって車両を走行させるための走行プランを生成する経路生成部(27)と、生成された前記走行プランに従って前記車両の走行を制御する走行制御部(31)と、を備えた前記車両に用いられる経路確認装置(28)であって、
前記経路確認装置が用いられる前記車両である自車(40)と障害物との近接を避けるために前記自車が前記障害物との間に最低限空けるべき安全距離を設定する安全距離設定部(281)と、
設定された前記安全距離を確保して走行中か否かを判断し、前記自車と前記障害物との距離が前記安全距離よりも小さいときは、前記自車に対して、前記走行プランに従った制御とは別に定まる緊急時の制御を実行する緊急制御部(282)と、
前記障害物が前記自車の周辺を走行する周辺車両である場合、前記安全距離よりも大きい注意距離を前記周辺車両との間に空けるべき距離として設定する注意距離設定部(284)と、を含み、
前記緊急制御部は、設定された前記注意距離を確保して走行中か否かを判断し、前記自車と前記障害物との距離が前記注意距離よりも小さいときは、前記自車と前記周辺車両との車間距離が前記注意距離以上となるように前記走行制御部を制御し、
前記安全距離が一時的に増大する場合、または前記安全距離がこの先増加する場合、前記注意距離を前記周辺車両に対して設定するか否かを判断する注意距離判断部(283)をさらに含み、
前記注意距離設定部は、前記注意距離判断部が前記周辺車両に対して前記注意距離を設定すると判断した場合には、前記注意距離を前記周辺車両に対して設定し、
前記注意距離判断部は、前記周辺車両の走行状態が安定していない場合に、前記注意距離を前記周辺車両に対して設定すると判断し、
前記注意距離判断部は、前記周辺車両の速度または加速度から定まる現在の速度関連値の変化傾向から定まる、将来の速度関連値の予測値を基準とする範囲を、将来比較するための安定範囲として、事前に設定された周期ごとに更新し、
前記注意距離判断部は、前記現在の速度関連値が、過去に将来比較するために定められていた前記安定範囲を超えたことに基づいて、前記周辺車両の走行状態が安定していないと判断する経路確認装置。
【請求項2】
前記注意距離判断部は、既に前記注意距離が設定された前記周辺車両に対して、その後、前記安全距離が安定した場合、または前記安全距離がこの先安定する場合、前記注意距離の前記周辺車両に対する設定を終了するか否かを判断し、
前記注意距離設定部は、前記注意距離判断部が前記周辺車両に対して前記注意距離の設定を終了すると判断した場合には、前記注意距離の前記周辺車両に対する設定を終了する請求項
1に記載の経路確認装置。
【請求項3】
前記注意距離判断部は、既に前記注意距離が設定された前記周辺車両の走行状態が安定している場合には、前記注意距離の前記周辺車両に対する設定を終了すると判断する請求項
2に記載の経路確認装置。
【請求項4】
前記注意距離判断部は、既に前記注意距離が設定された前記周辺車両の前記速度関連値が、前記注意距離を設定するときの前記安定範囲よりも狭くなっている終了判断用の安定範囲内になったことに基づいて、前記周辺車両に対する前記注意距離の設定を終了すると判断する、請求項
1に記載の経路確認装置。
【請求項5】
自動運転によって車両を走行させるための走行プランを生成する経路生成部(27)と、生成された前記走行プランに従って前記車両の走行を制御する走行制御部(31)と、を備えた前記車両に用いられる経路確認装置(28)であって、
前記経路確認装置が用いられる前記車両である自車(40)と障害物との近接を避けるために前記自車が前記障害物との間に最低限空けるべき安全距離を設定する安全距離設定部(281)と、
設定された前記安全距離を確保して走行中か否かを判断し、前記自車と前記障害物との距離が前記安全距離よりも小さいときは、前記自車に対して、前記走行プランに従った制御とは別に定まる緊急時の制御を実行する緊急制御部(282)と、を含み、
前記緊急制御部は、前記緊急時の制御を実行中に、前記経路生成部によって新たに生成された前記走行プランを実行したときに、設定された前記安全距離を確保して走行できるか否かを判断し、前記安全距離を確保して走行できるときは、前記緊急時の制御を中止して新たに生成された前記走行プランを実行するように前記走行制御部を制御する経路確認装置。
【請求項6】
前記障害物が前記自車の周辺を走行する周辺車両である場合、前記安全距離よりも大きい注意距離を前記周辺車両との間に空けるべき距離として設定する注意距離設定部(284)、を含み、
前記緊急制御部は、前記周辺車両に対して前記注意距離が設定されている場合、前記緊急時の制御を実行中に、前記経路生成部によって新たに生成された前記走行プランを実行したときに、設定された前記注意距離を確保して走行できるか否かを判断し、前記注意距離を確保して走行できるときは、前記緊急時の制御を中止して新たに生成された前記走行プランを実行するように前記走行制御部を制御する請求項
5に記載の経路確認装置。
【請求項7】
自動運転によって車両を走行させるための走行プランに従って走行する前記車両である自車(40)で用いられるプロセッサにより実行される経路確認方法であって、
前記自車と障害物との近接を避けるために前記自車が前記障害物との間に最低限空けるべき安全距離を設定し、
前記安全距離を確保して走行中か否かを判断し、前記自車と前記障害物との距離が前記安全距離よりも小さいときは、前記自車に対して、前記走行プランに従った制御とは別に定まる緊急時の制御を実行し、
前記障害物が前記自車の周辺を走行する周辺車両である場合、前記安全距離よりも大きい注意距離を前記周辺車両との間に空けるべき距離として設定し、
前記注意距離を確保して走行中か否かを判断し、
前記自車と前記障害物との距離が前記注意距離よりも小さいときは、前記自車と前記周辺車両との車間距離が前記注意距離以上となるように前記車両を制御し、
前記安全距離が一時的に増大する場合、または前記安全距離がこの先増加する場合、前記注意距離を前記周辺車両に対して設定するか否かを判断し、
前記周辺車両に対して前記注意距離を設定すると判断した場合には、前記注意距離を前記周辺車両に対して設定し、
前記注意距離を設定するか否かの判断において、前記周辺車両の走行状態が安定していない場合に、前記注意距離を前記周辺車両に対して設定すると判断し、
前記周辺車両の速度または加速度から定まる現在の速度関連値の変化傾向から定まる、将来の速度関連値の予測値を基準とする範囲を、将来比較するための安定範囲として、事前に設定された周期ごとに更新し、
前記現在の速度関連値が、過去に将来比較するために定められていた前記安定範囲を超えたことに基づいて、前記周辺車両の走行状態が安定していないと判断する、経路確認方法。
【請求項8】
自動運転によって車両を走行させるための走行プランに従って走行する前記車両である自車(40)で用いられるプロセッサにより実行される経路確認方法であって、
前記自車と障害物との近接を避けるために前記自車が前記障害物との間に最低限空けるべき安全距離を設定し、
前記安全距離を確保して走行中か否かを判断し、前記自車と前記障害物との距離が前記安全距離よりも小さいときは、前記自車に対して、前記走行プランに従った制御とは別に定まる緊急時の制御を実行し、
前記緊急時の制御を実行中に、新たに生成された前記走行プランを実行したときに、前記安全距離を確保して走行できるか否かを判断し、前記安全距離を確保して走行できるときは、前記緊急時の制御を中止して新たに生成された前記走行プランに従って走行するように前記自車を制御する、経路確認方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2020年7月29日に日本に出願された特許出願第2020-128558号を基礎としており、基礎の出願の内容を、全体的に、参照により援用している。
【技術分野】
【0002】
この明細書における開示は、安全距離を確保するように走行制御する経路確認装置および経路確認方法に関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1には、自動運転において、安全性を評価するための基準となる安全距離を算出し、他車および歩行者との間で最低限、安全距離を保つようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
特許文献1に記載のナビゲーションシステムでは、自動運転中に、他車が自車の安全距離を侵害した時に自車は緊急停止する緊急停止モードを実施している。安全距離は他車の速度および加速度も用いて算出するが、他車の加減速が不規則の場合は安全距離の値が安定しないので、他車の加減速が不規則であると瞬間的に安全距離を侵害することがある。これによって不要な緊急停止など、不要な緊急時の制御を実施するおそれがある。
【0006】
そこで、開示される目的は前述の問題点を鑑みてなされたものであり、不要な緊急時の制御の実施を抑制することができる経路確認装置および経路確認方法を提供することを目的とする。
【0007】
本開示は前述の目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0008】
ここに開示された経路確認装置は、自動運転によって車両を走行させるための走行プランを生成する経路生成部と、生成された走行プランに従って車両の走行を制御する走行制御部と、を備えた車両に用いられる経路確認装置であって、経路確認装置が用いられる車両である自車と障害物との近接を避けるために自車が障害物との間に最低限空けるべき安全距離を設定する安全距離設定部と、設定された安全距離を確保して走行中か否かを判断し、自車と障害物との距離が安全距離よりも小さいときは、自車に対して、走行プランに従った制御とは別に定まる緊急時の制御を実行する緊急制御部と、障害物が自車の周辺を走行する周辺車両である場合、安全距離よりも大きい注意距離を周辺車両との間に空けるべき距離として設定する注意距離設定部と、を含み、緊急制御部は、設定された注意距離を確保して走行中か否かを判断し、自車と障害物との距離が注意距離よりも小さいときは、自車と周辺車両との車間距離が注意距離以上となるように走行制御部を制御し、安全距離が一時的に増大する場合、または安全距離がこの先増加する場合、注意距離を周辺車両に対して設定するか否かを判断する注意距離判断部をさらに含み、注意距離設定部は、注意距離判断部が周辺車両に対して注意距離を設定すると判断した場合には、注意距離を周辺車両に対して設定し、注意距離判断部は、周辺車両の走行状態が安定していない場合に、注意距離を周辺車両に対して設定すると判断し、注意距離判断部は、周辺車両の速度または加速度から定まる現在の速度関連値の変化傾向から定まる、将来の速度関連値の予測値を基準とする範囲を、将来比較するための安定範囲として、事前に設定された周期ごとに更新し、注意距離判断部は、現在の速度関連値が、過去に将来比較するために定められていた安定範囲を超えたことに基づいて、周辺車両の走行状態が安定していないと判断する経路確認装置である。
【0009】
このような経路確認装置に従えば、注意距離を周辺車両との間に空けるべき距離として注意距離設定部によって設定される。注意距離は、安全距離よりも大きい間隔である。そして緊急制御部は、注意距離を確保して走行中か否かを判断し、自車と障害物との距離が注意距離よりも小さいときは、自車と周辺車両との車間距離が注意距離以上となるように走行制御部を制御する。これによって自車と周辺車両との車間距離が注意距離未満となった場合には、緊急時の制御をすることなく、車間距離が広くなるように、たとえば減速制御または操舵制御される。したがって、たとえば周辺車両の走行状態が不安定で加減速を繰り返す場合でも、注意距離が設定されていれば、瞬間的に注意距離を侵害されても、緊急時の制御をすることなく、車間距離を伸ばして注意距離以上にすることができる。したがって不要な緊急時の制御を抑制することができる。
【0010】
また開示された別の経路確認装置のさらなる特徴は、自動運転によって車両を走行させるための走行プランを生成する経路生成部と、生成された走行プランに従って車両の走行を制御する走行制御部と、を備えた車両に用いられる経路確認装置であって、経路確認装置が用いられる車両である自車と障害物との近接を避けるために自車が障害物との間に最低限空けるべき安全距離を設定する安全距離設定部と、設定された安全距離を確保して走行中か否かを判断し、自車と障害物との距離が安全距離よりも小さいときは、自車に対して、走行プランに従った制御とは別に定まる緊急時の制御を実行する緊急制御部と、を含み、緊急制御部は、緊急時の制御を実行中に、経路生成部によって新たに生成された走行プランを実行したときに、設定された安全距離を確保して走行できるか否かを判断し、安全距離を確保して走行できるときは、緊急時の制御を中止して新たに生成された走行プランを実行するように走行制御部を制御する経路確認装置である。
【0011】
このような経路確認装置に従えば、緊急制御部によって緊急時の制御を実行中に、経路生成部によって新たに生成された走行プランを実行したときに、設定された安全距離を確保して走行できるか否かが判断される。そして緊急制御部は、安全距離を確保して走行できるときは、緊急時の制御を中止して新たに生成された走行プランを実行するように走行制御部を制御する。これによって緊急時の制御を実行中であっても、安全距離を確保して走行できるときは新しい走行プランを実施する通常の走行に復帰することができる。したがって、たとえば周辺車両の走行状態が不安定で加減速を繰り返し、瞬間的に安全距離を侵害されても、緊急時の制御を実行中に車間距離を伸ばして安全距離を確保して走行を継続することができる。したがって不要な緊急時の制御を抑制することができる。
【0012】
ここに開示された経路確認方法は、自動運転によって車両を走行させるための走行プランに従って走行する車両である自車で用いられるプロセッサにより実行される経路確認方法であって、自車と障害物との近接を避けるために自車が障害物との間に最低限空けるべき安全距離を設定し、安全距離を確保して走行中か否かを判断し、自車と障害物との距離が安全距離よりも小さいときは、自車に対して、走行プランに従った制御とは別に定まる緊急時の制御を実行し、障害物が自車の周辺を走行する周辺車両である場合、安全距離よりも大きい注意距離を周辺車両との間に空けるべき距離として設定し、注意距離を確保して走行中か否かを判断し、自車と障害物との距離が注意距離よりも小さいときは、自車と周辺車両との車間距離が注意距離以上となるように車両を制御し、安全距離が一時的に増大する場合、または安全距離がこの先増加する場合、注意距離を周辺車両に対して設定するか否かを判断し、周辺車両に対して注意距離を設定すると判断した場合には、注意距離を周辺車両に対して設定し、注意距離を設定するか否かの判断において、周辺車両の走行状態が安定していない場合に、注意距離を周辺車両に対して設定すると判断し、周辺車両の速度または加速度から定まる現在の速度関連値の変化傾向から定まる、将来の速度関連値の予測値を基準とする範囲を、将来比較するための安定範囲として、事前に設定された周期ごとに更新し、現在の速度関連値が、過去に将来比較するために定められていた安定範囲を超えたことに基づいて、周辺車両の走行状態が安定していないと判断する、経路確認方法である。
【0013】
また開示された別の経路確認方法は、自動運転によって車両を走行させるための走行プランに従って走行する車両である自車で用いられるプロセッサにより実行される経路確認方法であって、自車と障害物との近接を避けるために自車が障害物との間に最低限空けるべき安全距離を設定し、安全距離を確保して走行中か否かを判断し、自車と障害物との距離が安全距離よりも小さいときは、自車に対して、走行プランに従った制御とは別に定まる緊急時の制御を実行し、緊急時の制御を実行中に、新たに生成された走行プランを実行したときに、安全距離を確保して走行できるか否かを判断し、安全距離を確保して走行できるときは、緊急時の制御を中止して新たに生成された走行プランに従って走行するように自車を制御する、経路確認方法である。
【0016】
この車両制御方法に従えば、不要な緊急時の制御を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態の車両用システム20を示すブロック図。
【
図7】注意距離41の設定処理を示すフローチャート。
【
図8】注意距離41の設定終了処理を示すフローチャート。
【
図9】駐車場における注意距離41の設定処理を示すフローチャート。
【
図10】駐車場における注意距離41の設定終了処理を示すフローチャート。
【
図11】緊急停止プランの終了処理を示すフローチャート。
【
図12】観測時間ごとの前方車の速度差Δvを示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態を、複数の形態を用いて説明する。各実施形態で先行する実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付すか、または先行の参照符号に一文字追加し、重複する説明を略する場合がある。また各実施形態にて構成の一部を説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している実施形態と同様とする。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0019】
(第1実施形態)
本開示の第1実施形態に関して、
図1~
図11を用いて説明する。
図1に示す車両用システム20は、自動運転が可能な自動運転車両で用いられる。車両用システム20は、
図1に示すように、車両制御装置21、走行制御電子制御装置(Electronic Control Unit:略称ECU)31、ロケータ33、地図データベース34、周辺監視センサ35、通信モジュール37、車両状態センサ38、手動操作部32および運転切替部30を含んでいる。車両用システム20を用いる車両は、必ずしも自動車に限るものではないが、以下では自動車に用いる場合を例に挙げて説明を行う。
【0020】
まず、自動運転車両に関して説明する。自動運転車両は、前述したように自動運転が可能な車両であればよい。自動運転の度合いである自動化レベルとしては、例えばSAEが定義しているように、複数のレベルが存在し得る。自動化レベルは、例えばSAEの定義では、以下のようにレベルに区分される。
【0021】
レベル0は、システムが介入せずに運転者が全ての運転タスクを実施するレベルである。運転タスクは、例えば操舵及び加減速とする。レベル0は、いわゆる手動操作部32を用いた手動運転に相当する。レベル1は、システムが操舵と加減速とのいずれかを支援するレベルである。レベル2は、システムが操舵と加減速とのいずれをも支援するレベルである。レベル1およびレベル2は、いわゆる運転支援に相当する。
【0022】
レベル3は、高速道路等の特定の場所ではシステムが全ての運転タスクを実施可能であり、緊急時に運転者が運転操作を行うレベルである。レベル3では、システムから運転交代の要求があった場合に、運転手が迅速に対応可能であることが求められる。レベル3は、いわゆる条件付き自動運転に相当する。レベル4は、対応不可能な道路、極限環境等の特定状況下を除き、システムが全ての運転タスクを実施可能なレベルである。レベル4は、いわゆる高度自動運転に相当する。レベル5は、あらゆる環境下でシステムが全ての運転タスクを実施可能なレベルである。レベル5は、いわゆる完全自動運転に相当する。レベル3~5は、いわゆる自動運転に相当する。ここでいう運転タスクとは、動的運転タスク(DDT)であってよい。
【0023】
本実施形態の自動運転車両は、例えば自動化レベルがレベル3の自動運転車両であってもよいし、自動化レベルがレベル4以上の自動運転車両であってもよい。また、自動化レベルは切り替え可能であってもよい。本実施形態は、自動化レベル3以上の自動運転と、レベル0の手動運転とに切り替え可能である。自動化レベル3から自動化レベル2への切り替え、自動化レベル3から自動化レベル1への切り替えも可能としてもよい。自動化レベル2、1が可能である場合、自動化レベル2、1、0間の切り替えを可能としてもよい。
【0024】
次に、各部の構成に関して説明する。ロケータ33は、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機及び慣性センサを備えている。GNSS受信機は、複数の測位衛星からの測位信号を受信する。慣性センサは、例えばジャイロセンサ及び加速度センサを備える。ロケータ33は、GNSS受信機で受信する測位信号と、慣性センサの計測結果とを組み合わせることにより、自車の車両位置を逐次測位する。車両位置は、例えば緯度経度の座標で表されるものとする。なお、車両位置の測位には、車両に搭載された車速センサから逐次出力される信号から求めた走行距離を用いる構成としてもよい。
【0025】
地図データベース34は、不揮発性メモリであって、リンクデータ、ノードデータ、道路形状、構造物等の地図データを格納している。リンクデータは、リンクを特定するリンクID、リンクの長さを示すリンク長、リンク方位、リンク旅行時間、リンク形状、リンクの始端と終端とのノード座標、及び道路属性等の各データから構成される。一例として、リンク形状は、リンクの両端とその間の形状を表す形状補間点の座標位置を示す座標列からなるものとすればよい。道路属性としては、道路名称、道路種別、道路幅員、車線数を表す車線数情報、速度規制値等がある。ノードデータは、地図上のノード毎に固有の番号を付したノードID、ノード座標、ノード名称、ノード種別、ノードに接続するリンクのリンクIDが記述される接続リンクID等の各データから構成される。リンクデータは、道路区間別に加え、車線つまり、レーン別にまで細分化されている構成としてもよい。
【0026】
車線数情報及び/又は道路種別からは、道路区間つまり、リンクが、片側複数車線、片側一車線、中央線がない対面通行の道路等のいずれに該当するか判別可能とすればよい。中央線がない対面通行の道路には、一方通行の道路は含まないことになる。なお、中央線はセンターラインと言い換えることもできる。ここで言うところの中央線がない対面通行の道路は、高速道路、自動車専用道路を除く一般道路のうちの、中央線がない対面通行の道路を示す。
【0027】
地図データは、道路形状及び構造物の特徴点の点群からなる3次元地図も含んでいてもよい。地図データとして、道路形状及び構造物の特徴点の点群からなる3次元地図を用いる場合、ロケータ33は、GNSS受信機を用いずに、この3次元地図と、道路形状及び構造物の特徴点の点群を検出するLIDAR(Light Detection and Ranging/Laser Imaging Detection and Ranging)若しくは周辺監視カメラ等の周辺監視センサ35での検出結果とを用いて、自車位置を特定する構成としてもよい。なお、3次元地図は、REM(Road Experience Management)によって撮像画像をもとに生成されたものであってもよい。
【0028】
周辺監視センサ35は、自車の周辺を監視する自律センサである。一例として、周辺監視センサ35は、歩行者、人間以外の動物、自車以外の車両等の移動する移動体、及びガードレール、縁石、樹木、路上落下物等の静止している静止物体といった自車周辺の物体を検出する。他にも、自車周辺の走行区画線等の路面標示も検出する。周辺監視センサ35としては、例えば、自車周囲の所定範囲を撮像する周辺監視カメラ、自車周囲の所定範囲に探査波を送信するミリ波レーダ、ソナー、LIDAR等の測距センサがある。
【0029】
車両状態センサ38は、自車の各種状態を検出するためのセンサ群である。車両状態センサ38としては、車速センサ、操舵センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等がある。車速センサは、自車の車速を検出する。操舵センサは、自車の操舵角を検出する。加速度センサは、自車の前後加速度、横加速度等の加速度を検出する。加速度センサは負方向の加速度である減速度も検出するものとすればよい。ヨーレートセンサは、自車の角速度を検出する。
【0030】
通信モジュール37は、自車の周辺車両に搭載された車両用システム20の通信モジュール37との間で、無線通信を介して情報の送受信である車車間通信を行う。また通信モジュール37は、路側に設置された路側機との間で、無線通信を介して情報の送受信である路車間通信を行ってもよい。この場合、通信モジュール37は、路側機を介して、自車の周辺車両に搭載された車両用システム20の通信モジュール37から送信されるその周辺車両の情報を受信してもよい。
【0031】
また、通信モジュール37は、自車の外部のセンタとの間で、無線通信を介して情報の送受信である広域通信を行ってもよい。広域通信によってセンタを介して車両同士が情報を送受信する場合には、車両位置を含んだ情報を送受信することで、センタにおいてこの車両位置をもとに、一定範囲内の車両同士で車両の情報が送受信されるように調整すればよい。以降では、通信モジュール37は、車車間通信、路車間通信、及び広域通信の少なくともいずれかによって、自車の周辺車両の情報を受信する場合を例に挙げて説明を行う。
【0032】
他にも、通信モジュール37は、地図データを配信する外部サーバから配信される地図データを例えば広域通信で受信し、地図データベース34に格納してもよい。この場合、地図データベース34を揮発性メモリとし、通信モジュール37が自車位置に応じた領域の地図データを逐次取得する構成としてもよい。
【0033】
手動操作部32は、運転手が自車を運転するために操作する部分であって、ハンドル、アクセルペダル、およびブレーキペダルを含む。手動操作部32は、運転手が操作した操作量を運転切替部30に出力する。操作量は、アクセル操作量、ブレーキ操作量およびステアリング操作量である。車両制御装置21は、自動運転モードの場合は、自動運転を実行するための指示値を出力する。
【0034】
運転切替部30は、運転モードを、自動運転が行われる自動運転モードと、手動運転が行われる手動運転モードとの間で切り替える。換言すると、運転切替部30は、自車両を運転操作する権限を、車両制御装置21とするか、運転手とするかを切り替える。運転切替部30は、自車両を運転操作する権限を車両制御装置21とする場合には、車両制御装置21から出力される指示値を走行制御ECU31に伝達する。運転切替部30は、自車両を運転操作する権限を運転手とする場合には、操作量を走行制御ECU31に伝達する。
【0035】
運転切替部30は、モード切替要求に従って、運転モードを自動運転モードか手動運転モードに切り替える。モード切替要求は、運転モードを自動運転モードから手動運転モードにする手動運転モード切替要求、および、運転モードを手動運転モードから自動運転モードにする自動運転モード切替要求の2種類がある。モード切替要求は、たとえば、運転手のスイッチ操作により発生して、運転切替部30に入力される。またモード切替要求は、たとえば車両制御装置21の判断により発生して、運転切替部30に入力される。運転切替部30は、モード切替要求に応じて、運転モードを切替える。
【0036】
走行制御ECU31は、走行制御部であって、自車両の走行制御を行う電子制御装置である。走行制御としては、加減速制御及び/又は操舵制御が挙げられる。走行制御ECU31としては、操舵制御を行う操舵ECU、加減速制御を行うパワーユニット制御ECU及びブレーキECU等がある。走行制御ECU31は、自車に搭載された電子制御スロットル、ブレーキアクチュエータ、EPS(Electric Power Steering)モータ等の各走行制御デバイスへ制御信号を出力することで走行制御を行う。
【0037】
車両制御装置21は、例えばプロセッサ、メモリ、I/O、これらを接続するバスを備え、メモリに記憶された制御プログラムを実行することで自動運転に関する処理を実行する。自動運転に関する処理を実行することは、自車40の走行を自動で制御する車両制御方法を実行することを意味する。ここで言うところのメモリは、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。また、非遷移的実体的記憶媒体は、半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。
【0038】
続いて、
図1を用いて、車両制御装置21の概略構成を説明する。
図1に示すように、車両制御装置21は、自車位置取得部19、センシング情報取得部22、地図データ取得部23、通信情報取得部24、走行環境取得部25、および自動運転部26を機能ブロックとして備えている。なお、車両制御装置21が実行する機能の一部又は全部を、一つ或いは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。また、車両制御装置21が備える機能ブロックの一部又は全部は、プロセッサによるソフトウェアの実行とハードウェア部材の組み合わせによって実現されてもよい。この車両制御装置21が車載装置に相当する。
【0039】
自車位置取得部19は、ロケータ33で逐次測位する自車の車両位置を取得する。センシング情報取得部22は、周辺監視センサ35で逐次検出する検出結果であるセンシング情報を取得する。またセンシング情報取得部22は、車両状態センサ38で逐次検出する検出結果である車両状態情報を取得する。
【0040】
地図データ取得部23は、地図データベース34に格納されている地図データを取得する。地図データ取得部23は、自車位置取得部19で取得する自車の車両位置に応じて、自車周辺の地図データを取得してもよい。地図データ取得部23は、周辺監視センサ35の検出範囲よりも広い範囲についての地図データを取得することが好ましい。
【0041】
通信情報取得部24は、通信モジュール37で自車の周辺車両の情報を取得する。周辺車両の情報としては、例えば周辺車両の識別情報、速度の情報、加速度の情報、ヨーレートの情報、位置情報等が挙げられる。識別情報は、個々の車両を識別するための情報である。識別情報には、例えば自車が該当する車種、車格等の所定の区分を示す分類情報を含んでいてもよい。
【0042】
走行環境取得部25は、自車の走行環境を取得して、自動運転部26に取得した走行環境を模擬した仮想空間を生成する。走行環境取得部25は、具体的には、自車位置取得部19で取得する自車の車両位置、センシング情報取得部22で取得するセンシング情報と車両状態情報、地図データ取得部23で取得する地図データ、通信情報取得部24で取得する周辺車両の情報等から、自車の走行環境を認識する。一例として、走行環境取得部25は、これらの情報を用いて、自車の周辺物体の位置、形状、移動状態等であったり、自車の周辺の路面標示の位置等であったりを認識し、実際の走行環境を再現した仮想空間を生成する。
【0043】
走行環境取得部25では、センシング情報取得部22で取得したセンシング情報から、自車の周辺物体との距離、自車に対する周辺物体の相対速度、周辺物体の形状及びサイズ等も走行環境として認識するものとすればよい。また、走行環境取得部25は、通信情報取得部24によって周辺車両の情報を取得できる場合には、この周辺車両の情報を用いて走行環境を認識する構成としてもよい。例えば、周辺車両の位置、速度、加速度、ヨーレート等の情報から、周辺車両の位置、速度、加速度、ヨーレート等を認識すればよい。また、周辺車両の識別情報から、周辺車両の最大減速度、最大加速度等の性能情報を認識してもよい。一例として、車両制御装置21の不揮発性メモリに識別情報と性能情報との対応関係を予め格納しておくことで、この対応関係を参照して識別情報から性能情報を認識する構成とすればよい。なお、識別情報として前述の分類情報を用いてもよい。
【0044】
走行環境取得部25は、周辺監視センサ35で検出する周辺物体が移動体であるか静止物体であるかを区別して認識することが好ましい。また、周辺物体の種別も区別して認識することが好ましい。周辺物体の種別については、例えば周辺監視カメラの撮像画像にパターンマッチングを行うことで種別を区別して認識すればよい。種別については、例えばガードレール等の構造物、路上落下物、歩行者、自転車、自動二輪車、自動車等を区別して認識すればよい。周辺物体の種別は、周辺物体が自動車の場合には、車格、車種等とすればよい。周辺物体が移動体であるか静止物体であるかについては、周辺物体の種別に応じて認識すればよい。例えば、周辺物体の種別が構造物、路上落下物の場合は静止物体と認識すればよい。周辺物体の種別が歩行者、自転車、自動二輪車、自動車の場合は移動体と認識すればよい。なお、駐車車両のように直ちに移動する可能性の低い物体は、静止物体として認識してもよい。駐車車両については、停止しており、且つ、画像認識によってブレーキランプが点灯していないことが認識できること等から認識すればよい。
【0045】
自動運転部26は、運転者による運転操作の代行に関する処理を行う。自動運転部26は、
図1に示すように、経路生成部27、経路確認部28、および自動運転機能部29をサブ機能ブロックとして備えている。自動運転におけるパフォーマンスを向上させるために、自動運転部26は、不合理なリスクの回避及びポジティブリスクバランスを考慮して設計されている。
【0046】
経路生成部27は、走行環境取得部25で取得した走行環境を用いて、自動運転によって自車を走行させるための走行プランを生成する。ここでの走行環境は、交通シナリオ(以下、単にシナリオという)そのものであってもよく、走行プランの生成での走行環境が用いられる過程において、シナリオが選択されてもよい。例えば、中長期の走行プランとして、経路探索処理を行って、自車位置から目的地へ向かわせるための推奨経路を生成する。また、中長期の走行プランに沿った走行を行うための短期の走行プランとして、車線変更の走行プラン、レーン中心を走行する走行プラン、先行車に追従する走行プラン、及び障害物回避の走行プラン等が生成される。これらの走行プランは、自車40の走行を継続させるプランであると言える。自車40を緊急停止させるための極短期的な走行に対するプランは、ここでの走行プランには含まれなくてもよい。ここでの走行プランの生成は、経路プランニング(route planning, path planning)、戦略的挙動プランニング(tactical behavior planning)、及び軌道プランニング(trajectory planning)のうち少なくとも1つに相当していてもよい。
【0047】
経路生成部27では、例えば、認識した走行区画線から一定距離又は中央となる経路を走行プランとして生成したり、認識した先行車の挙動又は走行軌跡に沿う経路を走行プランとして生成したりすればよい。また、経路生成部27は、同一進行方向の隣接車線の空いた領域に自車を車線変更させる経路を走行プランとして生成すればよい。経路生成部27は、障害物を回避して走行を維持する経路を走行プランとして生成したり、障害物の手前で停車する減速を走行プランとして生成したりすればよい。ここでいう障害物とは、他の道路ユーザであってもよい。他の道路ユーザは、他の脆弱な道路ユーザ(例えば歩行者)、他の脆弱でない道路ユーザ(例えば周辺車両)を含んでいてもよい。また、障害物は、安全関連オブジェクトと位置付けられていてもよい。経路生成部27は、機械学習等によって最適と判断される走行プランを生成する構成としてもよい。経路生成部27は、短期の走行プランとして、例えば1以上の経路を算出する。例えば、経路生成部27は、短期の走行プランとして、算出した経路における速度調整のための加減速の情報も含む構成とすればよい。
【0048】
一例として、経路生成部27は、走行環境取得部25で認識した前方障害物が、自車の走行を妨げる走行阻害物である場合に、後述する経路確認部28で妥当性を評価しつつ、状況に応じた走行プランを生成すればよい。以下では、走行阻害物を認識して特定した場合を例に挙げて説明を続ける。なお、走行阻害物とは、自車の走行車線内の路上落下物、駐車車両であってもよいし、自車の走行車線内の先行車であってもよい。走行阻害物に該当する先行車とは、渋滞路でないのにもかかわらず、平均車速が走行路の速度規制値と比較して大幅に低い先行車等とすればよい。なお、狭路については、徐行が必要な場合も多いため、先行車を走行阻害物としない構成とすることが好ましい。以下では、自車の走行路が中央線のない対面通行の道路に該当する場合には、先行車といった移動体を走行阻害物と特定せず、駐車車両等の静止物体を走行阻害物と特定するものとして説明を行う。
【0049】
例えば、経路生成部27は、走行環境取得部25で走行阻害物を認識して特定した場合に、自車の走行路に応じた処理を行う。例えば、経路生成部27は、自車の走行路が中央線のない対面通行の道路に該当する場合には、走行阻害物との間に閾値以上の左右方向の距離を確保して、自車の走行車線内を走行できるか否かを判断すればよい。ここで言うところの閾値とは、後述する安全距離として設定可能な下限値とすればよい。下限値は、例えば自車の速度を最低限度に低く抑えて走行する際に設定される安全距離の値等とすればよい。言い換えると、経路生成部27は、走行阻害物との間に左右方向の安全距離を確保して、自車の走行車線内を走行できるか否かを判断する。なお、閾値は予め設定される固定値としてもよいし、走行阻害物が移動体の場合にはその移動体の挙動に応じて変化する値としてもよい。
【0050】
一例として、経路生成部27は、自車の走行車線の車線幅のうちの走行阻害物で塞がれていない部分の幅が、自車の車幅に前述の閾値を加算した値よりも大きい場合に、走行阻害物との間に左右方向の安全距離を確保して自車の走行車線内を走行できると判断すればよい。走行阻害物との間に左右方向の安全距離を確保して自車の走行車線内を走行できると判断した場合には、自車の走行車線を維持して対向車を避けつつ走行阻害物の側方を通過する走行プランを生成すればよい。
【0051】
一方、自車の走行車線の車線幅のうちの走行阻害物で塞がれていない部分の幅が、自車の車幅に前述の閾値を加算した値以下の場合に、走行阻害物との間に左右方向の安全距離を確保して自車の走行車線内を走行できないと判断すればよい。自車の車幅の値については、車両制御装置21の不揮発性メモリに予め格納しておいた値を用いる構成とすればよい。走行車線の車線幅については、地図データ取得部23で取得する地図データから特定する構成とすればよい。走行阻害物との間に左右方向の安全距離を確保して自車の走行車線内を走行できないと判断した場合には、停車する走行プランを生成すればよい。これは、自車の走行路が中央線のない対面通行の道路に該当する場合において、走行阻害物との間に左右方向の安全距離を確保して自車の走行車線内を走行できないと判断する場合には、通行が可能でないためである。この場合、例えば車両制御装置21が自動運転から手動運転へ運転交代させる構成とすればよい。なお、自動運転から手動運転に切り替える場合には、運転交代を要求する通知を事前に行った上で手動運転に移行する構成とすればよい。
【0052】
経路生成部27は、自車の走行路が片側複数車線の道路に該当する場合には、自車の走行車線と同方向の隣接車線に車線変更する走行プランを生成すればよい。経路生成部27は、自車の走行路が片側一車線の道路に該当する場合には、前述したのと同様にして、走行阻害物との間に閾値以上の左右方向の距離を確保して、自車の走行車線内を走行できるか否かを判断すればよい。走行阻害物との間に左右方向の安全距離を確保して自車の走行車線内を走行できると判断した場合には、自車の走行車線を維持しつつ走行阻害物の側方を通過する走行プランを生成すればよい。一方、経路生成部27は、自車の走行路が片側一車線の道路に該当する場合であって、走行阻害物との間に左右方向の安全距離を確保して自車の走行車線内を走行できないと判断した場合には、自車の走行車線をはみ出して対向車を避けつつ走行阻害物の側方を通過する走行プランを生成すればよい。
【0053】
経路確認部28は、経路生成部27で生成する走行プランを評価する。走行プランは走行経路と言うこともできる。走行プランを評価することは、走行経路の妥当性を確認する経路確認方法を実行することを意味する。経路確認部28は、走行プランの評価をより容易にするために、安全運転の概念を数式化した数学的公式モデルを用いて、走行プランを評価すればよい。経路確認部28は、自車と周辺物体との対象間の距離である対象間距離が、予め設定された数学的公式モデルによって算出される、対象間の関係性を評価するための基準となる安全距離以上か否かで走行プランを評価すればよい。対象間距離は、一例として、自車の前後方向及び左右方向の距離とすればよい。
【0054】
なお、数学的公式モデルは、事故が完全に生じないことを担保するものではなく、安全距離未満となった場合に衝突回避のための適切な行動を取るためのものである。適切な行動は、適切な応答(proper response)であってもよい。適切な応答は、運転ポリシ(driving policy)が意図された機能の安全性(SOTIF)を維持するために必要となる可能性がある一連の調整的な行動であってもよい。適切な応答は、他の道路ユーザが合理的に予見可能な仮定に従ってふるまう場合の危機的な状況を解決する行動であってよい。適切な応答の一例として、最小リスク状態への移行が実行されてもよい。ここで言うところの衝突回避のための適切な行動の一例としては、合理的な力での制動が挙げられる。合理的な力での制動とは、例えば、自車にとって可能な最大減速度での制動等が挙げられる。数学的公式モデルによって算出される安全距離は、自車と障害物との近接を避けるために自車が障害物との間に最低限空けるべき距離と言い換えることができる。
【0055】
自動運転機能部29は、経路確認部28から出力される走行プランに従い、自車の加減速及び/又は操舵を走行制御ECU31に自動で行わせることで、運転者による運転操作の代行、つまり、自動運転を行わせればよい。自動運転機能部29は、経路確認部28で自動運転に用いると評価された走行プランに沿った自動運転を行わせる。走行プランが経路の走行の場合には、この経路に沿った自動運転を行わせる。走行プランが停車、減速の場合には、停車、減速を自動で行わせる。自動運転機能部29は、経路確認部28から出力される走行プランに従い自動運転を行わせることで、自車と周辺物体との近接を避けつつ自動運転を行わせる。
【0056】
次に、経路確認部28に関してさらに詳細に説明する。経路確認部28は、
図2に示すように、安全距離設定部281、注意距離設定部284、注意距離判断部283および緊急停止部282をサブ機能ブロックとして備える。安全距離設定部281は、前述した数学的公式モデルを用いて安全距離を算出し、算出した安全距離42を、安全距離42として設定する。安全距離設定部281は、少なくとも車両の挙動の情報を用いて安全距離42を算出して設定するものとする。安全距離設定部281は、数学的公式モデルとしては、例えばRSS(Responsibility Sensitive Safety)モデルを用いればよい。ここで、数学的公式モデルは、安全関連モデルそのものであってもよく、安全関連モデルの一部に相当していてもよい。
【0057】
安全距離設定部281は、自車40と障害物との近接を避けるために自車40が障害物との間に最低限空けるべき安全距離42を設定する。安全距離設定部281は、例えば自車40の前方及び左右方向の安全距離42を設定する。安全距離設定部281は、基準として、
図3に示すように、自車40の前方については、自車40の挙動の情報から、例えば自車40が最短で停止できる距離を安全距離42と算出すればよい。具体例として、自車40の速度、最大加速度、最大減速度、応答時間から、自車40が現在の車速から応答時間の間に最大加速度で前方に走行した後、最大減速度で減速して停止できる距離を前方の安全距離42と算出すればよい。ここでの自車40の速度、最大加速度、最大減速度は、自車40の前後方向についてのものとする。ここでの応答時間は、自動運転によって自車40を停止させる際の、制動装置への動作の指示から動作開始までの時間とすればよい。一例として、自車40の最大加速度、最大減速度、応答時間については、車両制御装置21の不揮発性メモリに予め格納しておくことで特定可能とすればよい。安全距離設定部281は、自車40の前方に移動体は認識していないが静止物体を認識している場合も、この基準としての前方の安全距離42を設定すればよい。
【0058】
安全距離設定部281は、自車40の前方に移動体を認識している場合は、自車40とこの前方移動体との挙動の情報から、自車40と前方移動体とが接触せずに停止できる距離を前方の安全距離42と算出すればよい。ここでは、移動体が自動車である場合を例に挙げて説明を行う。前方移動体としては、先行車、対向車等が挙げられる。具体例として、自車40と前方移動体との移動方向が逆方向の場合には、自車40と前方移動体との速度、最大加速度、最大減速度、応答時間から、自車40と前方移動体とがそれぞれ現在の速度から応答時間の間に最大加速度でそれぞれの前方に走行した後、最大減速度で減速してお互いに接触せずに停止できる距離を前方の安全距離42と算出すればよい。一方、自車40と前方移動体との移動方向が順方向の場合には、前方移動体が現在の速度から最大減速度で減速するのに対して、自車40が現在の速度から応答時間の間に最大加速度で前方に走行した後に最大減速度で減速してお互いに接触せずに停止できる距離を前方の安全距離42と算出すればよい。
【0059】
移動体の速度、最大加速度、最大減速度、応答時間は、通信情報取得部24によって取得できる場合には、通信情報取得部24によって取得した情報を安全距離設定部281が用いる構成とすればよい。また、走行環境取得部25で認識できる情報については、走行環境取得部25で認識した情報を用いればよい。他にも、移動体の最大加速度、最大減速度、応答時間について、一般的な車両の値を車両制御装置21の不揮発性メモリに予め格納しておくことで、この一般的な車両の値を安全距離設定部281が用いる構成としてもよい。すなわち、移動体の挙動についての合理的に予見可能な仮定の最小セットは、当該移動体の運動学的特性と、シナリオとに依存して定義され得る。
【0060】
また、安全距離設定部281は、自車40の後方に移動体を認識している場合は、自車40とこの後方移動体との挙動の情報から、自車40と後方移動体とが接触せずに停止できる距離を後方の安全距離42と算出してもよい。後方移動体としては、後続車、自車40より後方の隣接車線の後側方車が挙げられる。安全距離設定部281は、例えば前方の安全距離42を算出するのと同様にして、後方移動体にとっての安全距離42を推算することで、自車40の後方の安全距離42を設定すればよい。
【0061】
安全距離設定部281は、
図6に示すように、基準として、自車40の左右方向については、自車40の挙動情報から、自車40が左右方向の速度を最短で0にできるまでに左右方向に移動する距離を安全距離42として算出すればよい。例えば、自車40の左右方向の速度、最大加速度、最大減速度、応答時間から、自車40が現在の左右方向の速度から応答時間の間に最大加速度で左右方向に移動した後、最大減速度で減速して左右方向の速度が0にできるまでに自車40が左右方向に移動する距離を、左右方向の安全距離42と算出すればよい。ここでの応答時間は、自動運転によって自車40を操舵させる際の、操舵装置への動作の指示から動作開始までの時間とすればよい。安全距離設定部281は、自車40の左右方向に移動体は認識していないが静止物体を認識している場合も、この基準としての左右方向の安全距離42を設定すればよい。
【0062】
安全距離設定部281は、自車40の左右方向に移動体を認識している場合は、移動体が存在する方向については、自車40と移動体との挙動の情報から、自車40と移動体とが接触せずにお互いの左右方向の速度が0にできるまでに左右方向に移動する距離をその方向の安全距離42と算出すればよい。具体例として、自車40と移動体との速度、最大加速度、最大減速度、応答時間から、自車40と移動体とがそれぞれ現在の速度から応答時間の間に最大加速度で左右方向それぞれに走行した後、最大減速度で減速してお互いに接触せずに停止できる距離を左右方向の安全距離42と算出すればよい。安全距離42及び安全エンベロープ(safety envelope、詳細は後に述べる)の少なくとも1つを算出するための障害物の最大加速度、最大限速度及び応答時間の値は、シナリオにおいて考慮された合理的に予見可能な仮定の最小セットにおいて定義された上限又は下限に応じて、設定されてよい。
【0063】
注意距離設定部284は、障害物が自車40の周辺を走行する周辺車両43であり、安全距離42よりも大きい注意距離41を周辺車両43との間に空けるべき距離として設定する。注意距離41は、安全距離42を包含し、緊急回避モードになることを防ぐための距離である。緊急回避モードは、車両を安全のために急減速して緊急停止する停止プランを実行する制御モードである。周辺車両43は、自車40の周囲を走行する他車であり、たとえば自車40の前方を走行する前方車、自車40の後方を走行する後方車、および自車40が走行する車線に隣接する車線を走行する左右車である。
【0064】
安全距離42は、前述のように前方車の速度および加速度も用いて計算するが、前方車の加減速が不規則の場合は、安全距離42の計算結果が安定しない。そこで注意距離41を設け、車間距離44が注意距離41以上となる走行プランを極力採用する。これによって前方車の急減速で注意距離41が車間距離44より大きくなったら、車間距離44を注意距離41以上に広げる走行プランを選択する。したがって注意距離41は、
図3にて仮想的にコイルバネによって図示しているように、緩衝材的な役割を有する。
【0065】
ここで、前方車の加減速が不規則であることは、前方車の現在の挙動が合理的に予見可能な挙動でないことの一例であってよい。ここでいう現在の挙動とは、例えば挙動判定時の所定時間前から挙動判定時までの期間の挙動から算出される。前方車の現在の挙動が合理的に予見可能であるか否かの判定結果は、事後的に検証可能に、もしくは妥当性確認可能に、自車40に搭載された記憶媒体又は記憶装置に、記憶されてもよい。注意距離41を設定することは、安全エンベロープの時間的な不安定度を低減するための安定化条件を設定することの一例であってよい。安定化条件の設定は、条件を更新することにより実施されてもよく、既存の条件に追加の条件を付加することにより実施されてもよい。さらにこの条件の設定状況は、事後的な検証可能に、もしくは妥当性確認可能に、自車40に搭載された記憶媒体又は記憶装置に、記憶されてもよい。記憶媒体は、例えば車両制御装置21の不揮発性メモリであってもよい。
【0066】
注意距離設定部284は、例えば自車40の前方、後方及び左右方向の注意距離41を設定する。注意距離設定部284は、
図3に示すように、自車40の前方の周辺車両43については、前方車の挙動の情報から、例えば自車40が緩やかな減速で車間距離44を確保できる距離を注意距離41と算出すればよい。緩やかな減速は、乗員に不快感を与えない減速度であり、この減速度は実験等により事前に設定される。また緩やかな減速は、シートベルトがロックしない減速度とすることもできる。車間距離44を確保できる距離とは、この緩やかな減速度でも、予測される安全距離42の変動による緊急停止モードが実施されない車間距離44が確保できることを意味する。
【0067】
具体例として、前方車の速度が不安定であり、不自然な速度差Δvがある場合には、速度差Δvによる変動距離をオフセット距離Δdとして算出し、安全距離42にオフセット距離Δdを加算した距離を注意距離41として算出すればよい。ここでの前方車の速度が不安定であり、不自然な速度差Δがあることは、前方車の現在の挙動が合理的に予見可能な挙動でないことの一例であってよい。速度差Δvは、事前に設定した単位観測時間での前方車の最高速度と最低速度との差である。単位観測時間は、前方車の速度が不安定、換言すれば、前方車の速度がふらついていると判断するための時間である。したがって、長くても1分未満であることが好ましく、10秒以下であってもよい。上記速度差Δvにオフセット時間を乗じて得られる距離がオフセット距離Δdである。注意距離41は、上述したように、安全距離42に対して緩衝材的な役割を有する距離である。緩衝材的な役割をするものであるため、安全距離42に加算するオフセット距離Δdは安全距離42よりも短いことが好ましい。オフセット距離Δdが安全距離42よりも短くなるように上記オフセット時間は設定される。
【0068】
また安全距離42を算出するRSSモデルから、前方車の制動距離に関する項を削除して、注意距離41として算出してもよい。ここで注意距離41は、安全距離42の拡張状態を意図する、安全距離42の一態様として位置づけられていてもよい。さらに安全距離42及び注意距離41のうち少なくとも1つに対応する概念、又は安全距離42及び注意距離41を総称する概念として、安全エンベロープが定義されてもよい。安全エンベロープの定義は、運転ポリシが準拠するであろうすべての原則に対処するために使用できる共通の概念であってよい。この概念によれば、自動運転車両は自車両の周囲に1つ以上の境界をもち、これらの境界の1つ以上の違反が自動運転車両による異なる応答を引き起こす。安全エンベロープは、許容可能なリスクレベルでの操車を維持するための制御の対象となる、システムが操車するように設計されている一連の制限及び条件であってもよい。
【0069】
図4には、前方車の距離を削除していないRSSモデルを示す。
図4は、追突を判定する状況における安全距離42を算出する式である。
図4において、安全距離42はd
minと表示している。
図4における中辺の意味を、
図5を参照しつつ説明する。追突を判定する状況における安全距離d
minと、先行車である車両c
fの停止距離d
brake,frontと、後続車である車両c
rの空走距離d
reaction,rearと、車両c
rの制動距離d
brake,rearとの間には、
図5に示す関係がある。これを式で表したものが、
図4の左辺と中辺の関係である。
【0070】
車両cfは、減速開始時の速度がvfであり、停止するまで一定の減速度amax,breakであるとすると、中辺の第3項は、右辺の第4項に変換できる。車両crが速度vrで走行していた状態から、反応時間ρの間、最大加速度amax,accelで加速したとすると、中辺の第1項は右辺の第1、2項に変換できる。車両crが、減速開始後、停止するまで一定の減速度amin,breakで減速する場合、中辺の第2項は、右辺の第3項に変換できる。以上により、右辺が得られる。前方車の制動距離に関する項は右辺の第4項である。
【0071】
注意距離設定部284は、
図6に示すように、自車40の左右方向の周辺車両については、左右方向の周辺車両43の挙動の情報から、例えば自車40が緩やかな操舵で車間距離44を確保できる距離を注意距離41と算出すればよい。緩やかな操舵は、乗員が通常時にステアリングを操作することにより生じる横加速度と同程度の横加速度になる操舵である。この横減速度は実験等により事前に設定される。また緩やかな操舵は、シートベルトがロックしない操舵とすることもできる。車間距離44を確保できる距離とは、この緩やかな操舵でも、予測される安全距離42の変動による緊急停止モードが実施されない車間距離44が確保できることを意味する。
【0072】
また注意距離設定部284は、自車40が駐車場など非定常走行の場所を走行するときに、注意距離41を設定する。駐車場を走行する各車両は、設定される注意距離41を有して走行する。そして各車両は、互いに注意距離41が重複しないような走行プランを選択する。駐車場を走行するとき、車速よりも車格に応じた注意距離41が設定される。また仮に、注意距離41が重複した場合は、重複が解消する方向に向かうように、車間距離44を注意距離41以上となるような走行プランを選択する。駐車場にて、たとえば進行方向が逆の周辺車両43と自車40の注意距離41が重複した場合は、前進することで重複が解消できる場合は、後退よりも前進を優先して注意距離41の重複を解消する。
【0073】
注意距離設定部284は、駐車場を走行するときは、自車40の車格に基づいて注意距離41を設定する。また周辺車両43の注意距離41は、自車40が周辺車両43の車格から計算してもよく、車車間通信で取得してもよい。
【0074】
このような注意距離41の設定をするか否かは、注意距離判断部283によって判断される。したがって注意距離41は、設定されるか否かにかかわらず、随時、注意距離設定部284によって計算がされている。注意距離判断部283は、注意距離41を周辺車両43に対して設定するか否かを判断する。注意距離判断部283は、安全距離42が一時的に増大する場合、または安全距離42がこの先増加する場合、注意距離41を周辺車両43に対して設定するか否かを判断する。注意距離41は、周辺車両43に対して常に設定してもよいが、本実施形態では所定の設定条件を満たしたときに注意距離41を設定する。たとえば周辺車両43との安全距離42が一時的に増大する場合、具体的には周辺車両43の走行状態が安定していないとき、前方に大きなカーブがあるときなど、注意距離判断部283は注意距離41を設定すると判断する。またたとえば周辺車両43との安全距離42がこの先増加する場合、具体的には前方の路面状況が悪化する方向に変化するときなど、注意距離判断部283は注意距離41を設定すると判断する。したがって算出する安全距離42の時間変化が大きくなる可能性が高い条件に合致した場合、および安全距離42が所定経過時間の平均値に比べて、一定値、あるいは一定比率、増加する極大値が発生する可能性がある場合には、注意距離判断部283は注意距離41を設定すると判断する。
【0075】
また注意距離41は周辺車両43に設定した場合は、その周辺車両43が周囲に存在する限り、設定をし続けてもよいが、所定の終了条件を満たしたときは、注意距離41の設定を終了してもよい。本実施形態では、注意距離判断部283は、既に注意距離41が設定された周辺車両43に対して、その後、自車40の走行妥当性が確保されていると判断した場合には、注意距離41の周辺車両43に対する設定を終了すると判断する。
【0076】
たとえば前方車との車間距離44が安全距離42以下、または、安全距離42が侵害されそうな場合であって、安全距離42の計算結果が安定せず、変動が激しいときに注意距離判断部283は、前方車に注意距離41を設定する。これは、周辺車両43である前方車の走行が不安定であると判断した場合に注意距離41を設定していることになる。このことは、自車40の安定的な走行に寄与する。前方車の走行が不安定であると判断したことにより注意距離41を設定した場合には、前方車に対する安全距離42と車間距離44が安定したときは、注意距離判断部283は、前方車に対する注意距離41の設定を終了する。
【0077】
またたとえば、前方車の前方に大きなカーブがあり、緊急回避モードでは安全に停止できない判断したときに、注意距離判断部283は、前方車に注意距離41を設定する。そしてカーブの走行が終了したときは、注意距離判断部283は、前方車に対する注意距離41の設定を終了する。
【0078】
さらに、たとえば、前方車の前方に制動距離を伸ばす原因があり、事前に車間距離44を長くした方が良いと判断したときに、注意距離判断部283は、前方車に注意距離41を設定する。そしてこの原因が安全距離42の計算に組み込まれたときは、注意距離判断部283は、前方車に対する注意距離41の設定を終了する。
【0079】
また、たとえば、安全距離42が伸びて車間距離44が短くなっているとき、具体的には自車40の前方が開けて加速しているときに、注意距離判断部283は、前方車に注意距離41を設定する。そして前方車に対して安全距離42と車間距離44が安定したときは、注意距離判断部283は、前方車に対する注意距離41の設定を終了する。
【0080】
さらに、たとえば左右に隣接する車線を走行する左右車について、安全距離42の計算結果が安定せず、変動が激しいときに注意距離判断部283は、左右車に注意距離41を設定する。そして安全距離42と車間距離44が安定したときは、注意距離判断部283は、左右車に対する注意距離41の設定を終了する。
【0081】
またたとえば、左右車が車線中心を安定して走行しておらず、蛇行しているときに、注意距離判断部283は、左右車に注意距離41を設定する。そして、その後、安定した走行していると判断したときは、注意距離判断部283は、左右車に対する注意距離41の設定を終了する。
【0082】
さらにたとえば、前方に大きなカーブがあり左右車がカーブで安定して走行していないとき、注意距離判断部283は、左右車に注意距離41を設定する。そしてカーブの走行が終了したときは、注意距離判断部283は、左右車に対する注意距離41の設定を終了する。
【0083】
またたとえば、左右車が何かを回避するために車線中央から逸脱しているときは、注意距離判断部283は、左右車に注意距離41を設定する。そして逸脱が終了したときは、注意距離判断部283は、左右車に対する注意距離41の設定を終了する。
【0084】
またたとえば、自車40が駐車場を走行しているときは、注意距離判断部283は、注意距離41を設定する。そして駐車場の走行を終了したときは、注意距離判断部283は、注意距離41の設定を終了する。
【0085】
注意距離41の設定を終了するときは、終了と同時に注意距離41を0にしてもよく、徐々に注意距離41を短くして、その後、0にしてもよい。また徐々に注意距離41を短くしているときに、再び、注意距離41を設定すべきと判断した場合は、注意距離41を再度設定する。
【0086】
緊急停止部282は緊急制御部の一例である。緊急停止部282は、経路生成部27が生成した走行プランから、自動運転機能部29に指示する走行プランを選択する。選択した走行プランは、慎重プランまたは準慎重プランであることが条件となる。慎重プランは、対象車両に対して安全距離42を確保する走行プランである。準慎重プランは、対象車両に対して注意距離41を確保する走行プランである。
【0087】
また緊急停止部282は、駐車場など非定常走行場所を走行しているときは、経路生成部27が生成した走行プランから駐車プランを選択する。駐車プランは、自車40および周辺車両43に注意距離41を設定した走行プランである。駐車プランは、自車40と周辺車両43の注意距離41が重複しないような走行プランであり、重複した場合も重複を緩やかに解消する走行プランである。
【0088】
緊急停止部282は、事前に設定されている緊急停止プランを自動運転機能部29に提供する。緊急停止プランは、慎重プランがない場合に選択する走行プランである。緊急停止プランは、たとえば、操舵角は変更せずに自車40が停止するまで最大限速度で自車40を減速させる経路である。
【0089】
緊急停止部282は、随時、安全距離設定部281によって設定された安全距離42を確保して走行中か否かを判断する。そして緊急停止部282は、安全距離42を確保して走行できないときは、自車40を緊急停止させるよう制御する。
【0090】
緊急停止部282は、自車40を緊急停止させるとき、事前に設定されている緊急停止プランを自動運転機能部29に提供する。したがって緊急停止プランは、慎重プランがない場合に選択する走行プランである。緊急停止プランは、たとえば、操舵角は変更せずに自車40が停止するまで最大限速度で自車40を減速させる走行プランである。
【0091】
緊急停止させるときは、好ましくは、急減速とならないようにしつつ、自車40を緊急停止させる走行プランを経路生成部27に生成させてもよい。緊急停止プランの一例は、自車40が停止するまで、可能な最大の減速度を維持して自車40を減速させる走行プランである。ただし、緊急停止は、自車40を停止させるために、ただちに減速を開始しさえすれば、必ずしも可能な最大の減速度を維持する必要はない。
【0092】
また緊急停止部282は、注意距離41が設定されている場合、随時、注意距離41を確保して走行中か否かを判断する。そして緊急停止部282は、車間距離44が注意距離41未満となったときは減速させて、自車40と周辺車両43との車間距離44が注意距離41以上となるように走行制御ECU31を制御する。
【0093】
また緊急停止部282の制御によって緊急停止させるように走行制御ECU31を制御中に、経路生成部27によって新たに生成された走行プランを実行したときに、設定された安全距離42を確保して走行できるか否かを判断する。そして緊急停止部282は、安全距離42を確保して走行できるときは、緊急停止を回避して新たに生成された走行プランを実行するように走行制御ECU31を制御する。ここで、走行制御部を制御することとは、適切な車両モーション制御要求の生成に相当しているか、それを含んでいてもよい。
【0094】
次に、このような車両制御装置21の処理に関して、
図7~
図11のフローチャートを用いて説明する。各フローチャートは、車両制御装置21が電源投入状態において、短時間に繰り返し実行される処理である。たとえば経路確認部28の安全判断周期と同じか、それよりも短い時間に、これらの処理は繰り返し実行される。
【0095】
まず、
図7のフローチャートに関して説明する。
図7に示すフローチャートは、注意距離41が設定される前の通常走行時に実行される。
図7に示すフローチャートが開始されると、ステップS11では、注意距離判断部283は周辺車両43が安定して走行しているか否かを判断し、安定して走行している場合は、ステップS12に移り、安定して走行していない場合は、ステップS13に移る。ステップS12では、周辺車両43が安定して走行しているので、緊急停止部282は安全距離42を用いた慎重プランを選択するように制御され、本フローを終了する。
【0096】
ステップS13では、周辺車両43が安定して走行していないので、注意距離設定部284は、注意距離41を計算し、ステップS14に移る。
図3に示したように、注意距離41は、自車40の前後方向、すなわち、自車40が走行中の道路に沿った方向に対して設定できる。加えて、
図6に示したように、注意距離41は、自車40の左右方向、すなわち、道路幅方向に対しても設定できる。したがって、S11では、周辺車両43の走行が安定しているかどうかを、道路に沿った方向および道路幅方向についてそれぞれ判断する。
【0097】
周辺車両43には、前方車が含まれる。前方車については、当然、道路に沿った方向の走行が安定しているかを判断する。加えて、前方車について、道路幅方向の走行が安定しているか、換言すれば、横揺れがあるか、を判断してもよい。
【0098】
周辺車両43には、自車40が走行する車線に隣接する左右車も含まれる。左右車については、道路幅方向の走行が安定しているかを判断する。加えて、左右車について、道路に沿った方向の走行が安定しているかを判断してもよい。
【0099】
前述したように、安全距離42の計算結果が安定しない場合に注意距離41を設ける。したがって、S11における「安定して走行しているか否か」は、安全距離42の計算結果が安定しているか否かを判断する趣旨である。安全距離42に影響するパラメータには、周辺車両43の速度、加速度、前方車との車間距離44が含まれる。したがって、S11における「安定して走行しているか否か」は、周辺車両43の速度、加速度、車間距離44のいずれか1つ以上のパラメータが安定しているかを判断すればよい。これらのパラメータが安定しているか否かを判断する手法の一例は、事前に設定した判断時間における、これらのパラメータの変化量、変化率が閾値以上であるかである。ここで、パラメータの変化量、変化率が閾値以上であることは、前方車の現在の挙動が合理的に予見可能な挙動でないことの一例であってよい。
【0100】
ステップS14では、安定して走行していない周辺車両43に対して注意距離41を設定する。設定する注意距離41は、S11において、道路に沿った方向および道路幅方向のうち、周辺車両43の走行が安定していないと判断した側を少なくとも含む。注意距離41を設定することで、緊急停止部282は注意距離41を用いた準慎重プランを選択するように制御され、本フローを終了する。
【0101】
準慎重プランは、対象車両に対して注意距離41を確保する走行プランである。注意距離41を確保する走行プランは、車間距離44が注意距離41よりも長い場合には、車間距離44が注意距離41よりも短くならない走行プランである。注意距離41を確保する走行プランは、車間距離44が注意距離41よりも短い場合には、車間距離44を広くする走行プランである。
【0102】
このように周辺車両43の走行が安定しているときは、安全距離42を用いた走行プランが選択され、周辺車両43の走行が安定していないときは、注意距離41を用いた走行プランが選択される。前方車の車速が不安定で,安全距離42の計算結果が安定しない状況では、間違って安全距離42を侵害される可能性がある。それに対して注意距離41を設けることで、緩衝材となり、自車40の安全距離42が即座に侵害されることを抑制できる。
【0103】
図7におけるステップS11では、周辺車両43の走行が安定しているか否かを判断しているが、このような判断に限るものではない。ステップS11で、前方車の前方にカーブがあるか否かを判断し、カーブがあるときに、ステップS13およびステップS14にて、注意距離41を設定してもよい。カーブでの急ブレーキは特に好ましくないため、前方車がカーブに入る前から注意距離41を設けることで、カーブ中に前方車が急に減速しても、自車40が急ブレーキになることを抑制できる。またカーブが所定の半径よりも大きいときに、注意距離41を設定してもよい。
【0104】
またステップS11で、前方車の前方に制動距離が延びる原因があるか否かを判断し、原因があるときに、ステップS13およびステップS14にて、注意距離41を設定してもよい。前方に安全距離42が長くなる要素が存在するときは、たとえばアスファルトを走行中に路面がアスファルトから石畳に変わるときである。石畳は、アスファルトに比べて制動距離が長くなるので、安全距離42は長くなる。アスファルト走行中に路面が石畳に変わると、安全距離42が長くなるので、前方車がいきなり安全距離42を侵害するおそれがある。そこで事前に注意距離41を設けて、車間距離44を長くなるようにする。これによって安全距離42が急に長くなっても緊急停止プランを実施することなく、対応することができる。
【0105】
さらにステップS11で、次式(1)を満足するか否かを判断し、満足するときに、ステップS13およびステップS14にて、注意距離41を設定してもよい。{ls(t)-ls(t-1)}-{lv(t)-lv(t-1)}≧lth …(1)
ここで、lv(t)は、時刻tでの車間距離44であり、ls(t)は、時刻tでの安全距離42である。たとえば道路の分岐で前方車がいなくなった後、別の車両が前方車になった時、自車40が前方車に近づく可能性がある。その時、車間距離44が縮まるような制御入力と結果は安全距離42を長くすることにつながる。その結果、急接近から急減速になる可能性がある。このような急接近から急減速を無くすために、式(1)の条件を満たしたら注意距離41を設けることで、急な接近による緊急停止プランの実施を抑えることができる。
【0106】
次に、
図8のフローチャートに関して説明する。
図8に示すフローチャートは、注意距離41が既に設定されている時に実行される。
図8に示すフローチャートが開始されると、ステップS21では、注意距離判断部283は注意距離41の設定を終了する終了条件を満足するか否かを判断し、満足する場合はステップS23に移り、満足しない場合はステップS22に移る。
【0107】
ステップS22では、終了条件を満足しないので、引き続き、緊急停止部282は注意距離41を用いた準慎重プランを選択するように制御され、本フローを終了する。ステップS23では、終了条件を満足したので、緊急停止部282は注意距離41を用いた制御を終了し、安全距離42を用いた慎重プランを選択するように制御され、本フローを終了する。
【0108】
このように注意距離41の設定を終了する終了条件を満足すると、注意距離41の設定を終了するので、注意距離41が必要な場合に適切に設定することができる。
【0109】
次に、
図9のフローチャートに関して説明する。
図9に示すフローチャートは、注意距離41が設定される前の通常走行時に実行される。
図9に示すフローチャートが開始されると、ステップS31では、注意距離判断部283は自車40が駐車場を走行しているか否かを判断し、駐車場を走行している場合は、ステップS33に移り、駐車場を走行していない場合は、ステップS32に移る。ステップS32では、駐車場を走行していないので、緊急停止部282は安全距離42を用いた慎重プランを選択するように制御され、本フローを終了する。
【0110】
ステップS33では、駐車場を走行しているので、注意距離設定部284は、駐車場用の注意距離41を計算し、ステップS34に移る。ステップS34では、自車40と周辺車両43に対して注意距離41を設定し、緊急停止部282は駐車場用の注意距離41を用いた駐車プランを選択するように制御され、本フローを終了する。このように自車40が駐車場を走行しているときは、駐車場用の注意距離41を用いた走行プランが選択される。
【0111】
次に、
図10のフローチャートに関して説明する。
図10に示すフローチャートは、駐車場用の注意距離41が既に設定されている時に実行される。
図10に示すフローチャートが開始されると、ステップS41では、注意距離判断部283は駐車場用の注意距離41の設定を終了する終了条件を満足するか否かを判断し、満足する場合はステップS43に移り、満足しない場合はステップS42に移る。
【0112】
ステップS42では、終了条件を満足しないので、引き続き、緊急停止部282は駐車場用の注意距離41を用いた駐車プランを選択するように制御され、本フローを終了する。ステップS43では、終了条件を満足したので、緊急停止部282は駐車場用の注意距離41を用いた制御を終了し、安全距離42を用いた慎重プランを選択するように制御され、本フローを終了する。
【0113】
このように駐車場用の注意距離41の設定を終了する終了条件を満足すると、駐車場用の注意距離41の設定を終了するので、駐車場用の注意距離41が必要な場合に適切に設定することができる。
【0114】
次に、
図11のフローチャートに関して説明する。
図11に示すフローチャートは、緊急停止プランを実行中に実行される。
図11に示すフローチャートが開始されると、ステップS51では、注意距離41が車間距離44よりも小さいか否かを判断し、注意距離41が車間距離44よりも小さい場合は、ステップS54に移り、小さくない場合は、ステップS52に移る。
【0115】
ステップS52では、安全距離42が車間距離44よりも小さいか否かを判断し、安全距離42が車間距離44よりも小さい場合は、ステップS53に移り、小さくない場合は、ステップS55に移る。ステップS53を実行する場合、安全距離42は確保されている。ステップS53では、経路生成部27から与えられた走行プランに慎重プランがあるか否かを判断し、慎重プランがある場合は、ステップS54に移り、慎重プランがない場合は、ステップS55に移る。
【0116】
ステップS54では、注意距離41が確保されたか、または安全距離42が確保されかつ慎重プランがある場合であるので、緊急プランの実行を停止して、慎重プランを実施する通常走行に戻し、本フローを終了する。ステップS55では、安全距離42が確保されていないか、または慎重プランがない場合なので、緊急停止プランの実行を継続し、本フローを終了する。
【0117】
このように緊急停止プランを実行中に、経路生成部27によって新たに生成された走行プランを実行した場合に、設定された安全距離42を確保して走行できる慎重プランがあるときには、緊急停止プランの実行を停止する。
【0118】
以上説明したように本実施形態の車両制御装置に従えば、周辺車両43との間に空けるべき距離として注意距離設定部284によって注意距離41が設定される。注意距離41は、安全距離42よりも大きい間隔である。そして緊急停止部282は、注意距離41を確保して走行できないときは自車40を減速させて、自車40と周辺車両43との車間距離44が注意距離41以上となるように走行制御ECU31を制御する。これによって周辺車両43との車間距離44が注意距離41未満となった場合には、緊急停止することなく、車間距離44が広くなるように減速する。したがって、たとえば周辺車両43の走行状態が不安定で加減速を繰り返す場合でも、注意距離41が設定されていれば、瞬間的に注意距離41を侵害されても、緊急停止することなく、減速することで車間距離44を伸ばして注意距離41以上にすることができる。したがって不要な緊急停止を抑制することができる。
【0119】
また本実施形態では、注意距離判断部283によって周辺車両43に対して注意距離41を設定すると判断した場合に注意距離41を周辺車両43に対して設定している。したがって必要な場合に、注意距離41を設定することができ、不要に車間距離44が大きくなることを抑制することができる。
【0120】
さらに本実施形態では、周辺車両43の走行状態が安定していない場合に、注意距離41を周辺車両43に対して設定する。これによって走行状態が不安定な周辺車両43に対して、緊急停止の実施を抑制しつつも、周辺車両43との適切な関係を継続することができる。
【0121】
注意距離41を設定しないと、安全距離42の計算結果が絶えず大きく変化し、自車40の制御入力が安定せず、緊急停止プランに陥る可能性が大きいことがある。これに対して本実施形態のように注意距離41を設けることで、緊急停止プランへの緩衝材となり、前方車の不規則な加減速が直接自車40の制御入力に影響を与えず、安定した走行が可能となる。
【0122】
また本実施形態では、所定の終了条件を満足した場合は、注意距離41の設定を終了する。これによって必要でない場合は、注意距離41の設定を抑制し、不要に車間距離44が大きくなることを抑制することができる。
【0123】
さらに本実施形態では、周辺車両43の走行状態が安定した場合に、設定している注意距離41の設定を終了する。これによって走行状態が安定している周辺車両43に対して、注意距離41の設定を抑制し、不要に車間距離44が大きくなることを抑制することができる。
【0124】
また本実施形態の車両制御装置に従えば、緊急停止部282の制御によって緊急停止させるように走行制御ECU31を制御中に、経路生成部27によって新たに生成された走行プランを実行したときに、設定された安全距離42を確保して走行できるか否かが判断される(S53)。そして緊急停止部282は、安全距離42を確保して走行できるときは、緊急停止を回避して新たに生成された走行プランを実行するように走行制御ECU31を制御する(S54)。これによって緊急停止を制御中であっても、安全距離42を確保して走行できるときは新しい走行プランを実施するので、完全に停止する前に通常の走行に復帰することができる。したがって、たとえば周辺車両43の走行状態が不安定で加減速を繰り返す場合でも、瞬間的に安全距離42を侵害されても、完全に停止することなく、緊急停止による減速中に車間距離44を伸ばして安全距離42を確保して走行を継続することができる。したがって不要な緊急停止を抑制することができる。
【0125】
さらに本実施形態では、緊急停止させるように走行制御ECU31を制御中に、経路生成部27によって新たに生成された走行プランを実行したときに、設定された注意距離41を確保して走行できるか否かを判断する(S51)。そして注意距離41を確保して走行できるときは、緊急停止を回避して新たに生成された走行プランを実行するように走行制御ECU31を制御する。これによって緊急停止を制御中であっても、注意距離41を確保して走行できるときは新しい走行プランを実施するので、完全に停止する前に注意距離41を考慮したより安全な走行に復帰することができる。
【0126】
(第2実施形態)
第2実施形態では、注意距離41の算出方法が第1実施形態と相違する。第1実施形態では、注意距離41の算出方法の具体例として、速度差Δvによる変動距離をオフセット距離Δdとし、このオフセット距離Δdを安全距離42に加算して注意距離41としていた。
【0127】
S11がNOになる場合に、S13において注意距離41を計算するので、注意距離41を計算する状況では、周辺車両が安定走行ではない。そのため、上記速度差Δvをもとに算出するオフセット距離Δd、および、オフセット距離Δdから算出する注意距離41は、時間経過に伴い変動する恐れがある。
【0128】
自動運転部26は、注意距離41を計算した場合、車間距離44が注意距離41よりも長くなるように自車40の運転を制御する。そのため、注意距離41が変動すると、車間距離44が変化しなくても、車間距離44が、注意距離41よりも長くなったり短くなったりする。したがって、注意距離41が短時間で大きく変動すると、自車40の走行が安定しなくなる恐れも生じる。
【0129】
そこで、第2実施形態では、不要な緊急停止を抑制するだけでなく、自車40の走行が不安定になることを抑制する。そのために、第2実施形態では、一度、注意距離41を計算した後は、注意距離41を短くなりにくくする。注意距離41を短くなりにくくすることは、安全エンベロープの時間的な不安定度を低減するための安定化条件を設定することの一例であってよい。
【0130】
一例としては、注意距離41の算出に用いる速度差Δvを、前述した単位観測時間の過去、複数区間の最大値とする。
図12を用いて具体的に説明する。
図12には、前方車の速度vの変化を概念的に示している。
図12において、T1~T5は観測時間Tであり、各観測時間Tの長さは単位観測時間である。
図12には、各観測時間Tの速度差Δvも示している。各観測時間Tの速度差Δvをそのまま用いて注意距離41を算出する場合、速度差Δvの変動に比例して注意距離41も変動する。
【0131】
そこで、第2実施形態では、慎重プランの生成に使う注意距離41は、過去複数区間分の速度差Δvの最大値とする。たとえば、過去3区間分の速度差Δvの最大値を使い注意距離41を算出するとする。この場合、速度差Δv2、速度差Δv3は、速度差Δv1よりも小さいので、速度差Δv2、速度差Δv3が算出されても、注意距離41を算出する速度差Δvは、速度差Δv1のままである。その結果、注意距離41の短時間での変動が抑制される。
【0132】
(第3実施形態)
第3実施形態は、第2実施形態に類似する。速度差Δvは単位時間変動値であり、第2実施形態では、過去複数区間分の速度差Δvの最大値を、慎重プランの生成に使う注意距離41としていた。第3実施形態では、過去複数区間分の速度差Δvの平均値を慎重プランの生成に使う注意距離41とする。このようにしても、注意距離41の短時間での変動が抑制される。
【0133】
(第4実施形態)
第1実施形態で説明したように、周辺車両が安定走行でない場合以外にも、注意距離41を設定することがある。たとえば、前方に大きなカーブがあるとき、前方に制動距離が延びる原因があるときにも、注意距離41を設定する。これらのときに設定する注意距離41は、安全距離42に、事前に設定された加算距離(以下、固定加算距離)を加えた距離とすることもできる。なお、周辺車両が安定走行していないと判断した場合に計算する注意距離41も、安全距離42に固定加算距離を加えた距離とすることもできる。
【0134】
ただし、注意距離41を、安全距離42に固定加算距離を加えた距離とすると、前方車との車間距離44の時間変化が大きい場合に、車間距離44と注意距離41との大小関係が、短時間で変動する恐れがある。その結果、自車40の走行が安定しなくなる恐れが生じる。
【0135】
そこで、第4実施形態では、注意距離41を、安全距離+固定加算距離+変動加算距離とする。変動加算距離は、車間距離変動を考慮した距離である。前方車の速度変動、加速度変動も、車間距離44の変動に影響する。したがって、変動加算距離は、前方車の速度変動、加速度変動を考慮した距離ということもできる。変動加算距離を設定することは、安全エンベロープの時間的な不安定度を低減するための安定化条件を設定することの一例であってよい。
【0136】
第1実施形態は、安全距離42に、前方車の単位観測時間の速度差Δvを考慮したオフセット距離Δdを加算して注意距離41としている。したがって、第1実施形態は、上記固定加算距離をゼロとした態様と考えることもできる。
【0137】
車間距離変動を考慮した距離の一例は、第1実施形態で説明したオフセット距離Δdである。車間距離変動を考慮した他の例は、第2実施形態で説明した態様である。すなわち、オフセット距離Δdの算出において、速度差Δvに代えて、速度差Δvの複数区間の最大値を用いて算出する距離である。
【0138】
車間距離変動を考慮した距離の他の例は、第3実施形態で説明した態様である。すなわち、オフセット距離Δdの算出において、速度差Δvに代えて、速度差Δvの複数区間の平均値を用いて算出する距離である。
【0139】
(第5実施形態)
第1実施形態では、周辺車両43の走行が安定しているかを、周辺車両43の速度、加速度、車間距離44が安定しているかで判断していた。第5実施形態では、周辺車両43の走行が安定しているかを判断する他の手法を説明する。
【0140】
第5実施形態では、周辺車両43の走行が安定しているかどうかを判断する条件として、周辺車両43が車線変更する頻度を用いる。頻繁に車線変更を繰り返す車両は、安定走行しているとは言えないからである。
【0141】
たとえば1分などの所定時間内あるいは数百メートルなどの所定距離以内に、3回などの所定回数以上、周辺車両43が車線変更をした場合、周辺車両43の走行が安定していないと判断する。
【0142】
もちろん、車線変更する頻度だけでなく、第1実施形態で説明した条件も加えて、周辺車両43の走行が安定しているかどうかを判断することができる。
【0143】
(第6実施形態)
第6実施形態では、周辺車両43の走行が安定しているかを判断するさらに他の手法を説明する。第6実施形態では、周辺車両43の速度関連値が安定範囲を超えた場合に、周辺車両43の走行が安定していないと判断する。
【0144】
周辺車両43の速度が不安定であれば、周辺車両43の走行が不安定であると言える。そこで、速度関連値により、周辺車両43の走行が安定走行かどうかを判断する。速度関連値の具体例には、速度の時間変化である加速度、加速度の時間変化である加加速度(躍度)が含まれる。また、速度関連値には、速度を車間距離44で割った値、すなわち、衝突余裕時間(TTC:Time To Collision)が含まれる。
【0145】
安定範囲は、速度関連値の下限値から上限値までの範囲である。安定範囲は、具体的な速度関連値ごとに、実験等に基づいて事前に決定しておくことができる。安定範囲の下限値と上限値は、絶対値ではなく、速度関連値を基準値(すなわちゼロ)とする相対値でもよい。
【0146】
また、上記基準値を、現在の速度関連値ではなく、速度関連値の予測値としてもよい。
図13には、TTC、および、安定範囲の下限値を示している。TTCは、大きい値であれば問題はない。したがって、下限値よりも大きい範囲が安定範囲である。
【0147】
各時刻の下限値は、同じ時刻の予測値から一定値を引いた値である。下限値により規定される安定範囲は、予測値を基準として範囲が定まっていると言える。
【0148】
時刻t1が現在時刻であるとする。時刻t1よりも左側のTTCは実測値である。実測値は測定した速度と車間距離44とをもとに算出したTTCであることを意味する。予測値は、過去一定時間分の実測値をもとに予測した値である。予測値は、たとえば、過去一定時間分の実測値を線形近似した直線上の点である。予測値は、
図13では、時刻t2までの予測値を算出している。予測値を算出する過去一定時間は、予測値を算出する時間と同じでもよいし、異なっていてもよい、
図13では、時刻t0から時刻t1までの実測値を使い、予測値を算出している。時刻t0から時刻t1までの時間は、時刻t1から時刻t2までの時間の2倍である。予測値および下限値は、予測値の時間長さ、あるいは、その半分の時間など、事前に設定された周期ごとに更新する。
【0149】
周辺車両43に対して算出するTTCの絶対値はそれほど小さくなくても、急にそのTTCの低下率が大きくなる場合、その周辺車両43に注意したほうがよい。このように、予測値を基準として安定範囲を定めることで、TTCの低下率が大きくなった場合に、周辺車両43の走行が不安定であると判断できる。
【0150】
TTC以外の対の速度関連値についても、予測値を基準として安定範囲を定めることで、周辺車両43の走行が不安定であるかどうかを判断できる。
【0151】
(第7実施形態)
第7実施形態では、S11にて、周辺車両43が安定走行かどうかを判断する条件を、注意距離41を設定しているときと、注意距離41を設定していないときとで異ならせる。
【0152】
具体的には、S11において、注意距離判断部283は、注意距離41を設定していない周辺車両43については、速度関連値が安定範囲内であるか、安定範囲を超えているかにより、安定走行かどうかを判断する。
【0153】
一方、既に注意距離41が設定されている周辺車両43については、注意距離判断部283は、走行関連値が、注意距離41を設定するときの安定範囲よりも狭くなっている終了判断用の安定範囲であるかどうかを判断する。走行関連値が終了判断用の安定範囲内であれば、その周辺車両43に対する注意距離41の設定を終了する。
【0154】
このようにすることで、走行関連値が、注意距離41を設定する際に使う安定範囲の境界付近にある場合であっても、周辺車両43に対して、注意距離41の設定と解除が頻繁に切り替わってしまうことを抑制できる。
【0155】
(第8実施形態)
第1実施形態では、緊急制御部の一例として緊急停止部282を示した。緊急停止部282は、安全距離42を確保して走行できないときは、自車40を緊急停止させる。
【0156】
安全距離42を確保して走行できないときは、走行プランを採用することはできない。そこで、安全距離42を確保して走行できないときのために、走行プランに従った制御とは別に、緊時の制御を定めておけばよく、その制御は、自車40を緊急停止させる制御以外でもよい。たとえば、走行プランに従わなければ、車線変更により安全距離42が確保できるのであれば、車線変更する制御を、緊急時の制御とすることができる。また、緊急時の制御を、クラクションを鳴らす制御としてもよい。まずは、クラクションを鳴らすことで、周辺車両43の挙動が変化し、周辺車両43の挙動変化により安全距離42が確保できる可能性もあるからである。
【0157】
(その他の実施形態)
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は前述した実施形態に何ら制限されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0158】
前述の実施形態の構造は、あくまで例示であって、本開示の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本開示の範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0159】
前述の第1実施形態では、経路確認装置は、自動運転部26の機能ブロックの1つである経路確認部28として実現されているがこのような構成に限るものではない。経路確認装置は、自動運転部26とは異なる制御装置によって実現してもよい。
【0160】
前述の第1実施形態では、デフォルトの安全距離42を数学的公式モデルによって算出する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、デフォルトの安全距離42を数学的公式モデル以外で算出する構成としてもよい。例えばTTC(Time To Collision)等の他の指標によって自車40及び自車40周辺の移動体の挙動の情報を用いて安全距離設定部281が安全距離42を算出する構成としてもよい。
【0161】
前述の第1実施形態では、非定常走行の場所として、駐車場を例に挙げているが、非定常走行の場所は駐車場に限るものではない。たとえば徐行や低速走行が義務づけられた敷地内であってもよい。
【0162】
前述の第1実施形態において、車両制御装置21によって実現されていた機能は、前述のものとは異なるハードウェアおよびソフトウェア、またはこれらの組み合わせによって実現してもよい。車両制御装置21は、たとえば他の制御装置と通信し、他の制御装置が処理の一部または全部を実行してもよい。車両制御装置21が電子回路によって実現される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、またはアナログ回路によって実現することができる。
【0163】
(付言)
本開示には、以上の実施形態に基づく以下の技術思想も含まれる。
【0164】
<技術的特徴1>
自動運転によって車両を走行させるための1つ以上の走行プランを生成する経路生成部(27)と、生成された走行プランに従って車両の走行を制御する走行制御部(31)と、を備えた車両に用いられる経路確認装置(28)であって、
経路確認装置が用いられる車両である自車(40)と障害物との近接を避けるために自車が障害物との間に最低限空けるべき安全距離を設定する安全距離設定部(281)と、
障害物が自車の周辺を走行する周辺車両である場合、安全距離よりも大きい注意距離を周辺車両との間に空けるべき距離として設定する注意距離設定部(284)と、
周辺車両に対して注意距離が設定されている場合であって、自車と周辺車両との距離が注意距離よりも小さいときは、自車と周辺車両との車間距離が注意距離以上となるように走行制御部を制御する緊急制御部と、を含み、
緊急制御部は、経路生成部が生成した走行プランに、車間距離を広げる走行プランがあれば、当該走行プランを実行して、自車と周辺車両との車間距離が注意距離以上となるように走行制御部を制御する。
【0165】
技術的特徴1によれば、車間距離を広げるために、経路生成部が姿勢した走行プランを利用できる。
【0166】
<技術的特徴2>
技術的特徴1に記載された経路確認装置であって、
緊急制御部は、周辺車両に対して注意距離が設定されている場合であって、自車と周辺車両との距離が注意距離以上であるときは、経路生成部が生成した走行プランに、注意距離以上に車間距離を維持する走行プランがあれば、当該走行プランを実行する。
【0167】
技術的特徴2によれば、車間距離を注意距離以上に維持するために、経路生成部が姿勢した走行プランを利用できる。