(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】歯の洗浄粉末としてのシクロデキストリン
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20240627BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2022549365
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(86)【国際出願番号】 EP2021053908
(87)【国際公開番号】W WO2021165332
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-09-14
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500000485
【氏名又は名称】フェルトン ホールディング ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】Ferton Holding SA
【住所又は居所原語表記】rue Saint Maurice 34 CH-2800 Delemont,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ドネ、マルセル
(72)【発明者】
【氏名】ガッティ、シモーネ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チン
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0125814(US,A1)
【文献】特表2017-531690(JP,A)
【文献】国際公開第2012/053660(WO,A1)
【文献】特開2010-058187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 6/00- 6/90
A61C 1/00- 5/00
A61C 5/40- 5/68
A61C 5/90- 7/68
A61C 19/00-19/10
A61C 17/22-17/40
A61G 15/14-15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末噴霧による歯の表面の洗浄に使用するための粉末ジェットデバイスにて使用される粉末又は粉末混合物であって、前記粉末が、一つ以上のシクロデキストリンを含むことを特徴とする粉末又は粉末混合物。
【請求項2】
前記シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン又はその混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の粉末又は粉末混合物。
【請求項3】
前記粉末は、0.5重量%から3重量%の非晶質二酸化ケイ素をさらに含むことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の粉末又は粉末混合物。
【請求項4】
前記粉末は、前記粉末の合計重量に基づいて、少なくとも10重量%のシクロデキストリンを含むことを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の粉末又は粉末混合物。
【請求項5】
前記粉末の平均粒子サイズ(d
50)は、5μmから40μmであることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の粉末又は粉末混合物。
【請求項6】
前記粉末の最大粒子サイズ(d
100)は、200μm以下であることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の粉末又は粉末混合物。
【請求項7】
前記粉末は、グリシン、炭酸水素ナトリウム、エリスリトール、殺菌剤、漂白物質及び/又は鎮痛剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の粉末又は粉末混合物。
【請求項8】
前記粉末は、10重量%から80重量%のシクロデキストリン及び90重量%から20重量%のグリシン、炭酸水素ナトリウム、タガトース、トレハロース及び/又は、アルジトールを含むことを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の粉末又は粉末混合物。
【請求項9】
前記粉末は、20μmから220μmの平均粒子サイズを有する顆粒を含むことを特徴とし、前記顆粒は、一次粒子及びバインダを含むことを特徴とし、前記一次粒子は、前記顆粒の前記平均粒子サイズより小さい平均粒子サイズを有し、前記バインダは、シクロデキストリンを含む、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の粉末又は粉末混合物。
【請求項10】
前記粉末又は粉末混合物は、前記粉末の合計重量に基づいて、10重量%から99.5重量%のシクロデキストリン、前記粉末の合計重量に基づいて、0.5重量%から2重量%の非晶質二酸化ケイ素を含み、前記粉末の最大粒子サイズ(d
100)は、120μm以下であり、前記粉末の平均粒子サイズ(d
50)は、5μmから40μmであることを特徴とする、請求項1から請求項
9のいずれか一項に記載の粉末又は粉末混合物。
【請求項11】
請求項1から請求項
10のいずれか一項に記載の粉末が、ガス又は液体の搬送媒体と共に粉末ジェットデバイスを用いて歯の表面上に噴霧されることを特徴とする、歯の表面を洗浄するためのプロセス。
【請求項12】
前記粉末は、前記粉末の合計重量に基づいて、少なくとも50重量%のシクロデキストリンを含むことを特徴とする、請求項4に記載の粉末又は粉末混合物。
【請求項13】
前記アルジトールはエリスリトールからなる請求項
8に記載の粉末又は粉末混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末噴霧によって歯の表面を洗浄するための、歯の洗浄粉末としてのシクロデキストリンの使用方法に関係する。本発明は、粉末ジェットデバイスにおいてシクロデキストリン粉末を用いて歯を洗浄するためのプロセスにさらに関係する。
【背景技術】
【0002】
専門的な歯の病気の予防の一部として歯の洗浄は、粉末ジェット洗浄又はエア研磨を含むメンテナンス処置であり、かつ患者が日々のホームケアの間に取り除くことができない歯のプラーク及び歯石を取り除くことを意図するものである。全ての歯の表面及び歯と、インプラントと、ブラケットと、歯科矯正器具との間の隙間に到達して洗浄することを可能にするため、その方法は、特に効果的である。
【0003】
粉末ジェット洗浄のプロセスにおいて、粉末は、歯の表面上にガスの搬送媒体と共に噴霧され、それにより効率的な洗浄を達成する。通常は空気である、ガスの搬送媒体に加えて又は代わりに、例えば、水のような液体の搬送媒体が、用いられ得る。粉末ジェット洗浄は、粉末ジェットデバイスを用いて実行され、繰り返しの動作又は異なる段階を必要としないため、特に効果的である。さらに、他の洗浄方法より高速であり、正確に習得するために、比較的短時間の訓練で済む。粉末が十分に滑らかでかつ粒子が十分小さい限り、エナメル象牙質及び柔らかい組織への損傷なく、この洗浄が行われる。
【0004】
重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム)の基本的な粉末を含有する歯の洗浄粉末が、特許文献1に記載される。炭酸カルシウム又はグリシンも用いられることがあり、粉末は、抗菌性化合物のような追加の活性原料又は歯の再石灰化に寄与する原料を含み得る。
【0005】
特にマンニトール及び/又はエリスリトールのようなアルジトールを基にした、粉末ジェットデバイスにおいて使用するための粉末は、特許文献2に記載される。
【0006】
特許文献3は、歯の洗浄粉末の粒子が、低刺激にもかかわらず効率的な歯の洗浄のために、約10μmから約100μmの平均粒子サイズを有するべきであることを開示する。小さい粒子サイズは、歯肉縁下の歯の表面を洗浄するために望ましく、大きい粒子サイズは、歯肉縁上の歯の表面を洗浄するために望ましい。通常、大きい粒子サイズは、歯肉縁下の歯の表面又は歯茎のような柔らかい組織に当たるときに、不快感又は痛みをもたらす。
【0007】
粉末の硬さ及び摩耗性は、歯の洗浄に使用するための粉末の重要な特徴である。粉末が過度に硬く摩耗性が高い場合、粉末は、エナメル質及び歯の修復のために用いられる複合物に損傷を与え得る。したがって、重炭酸ナトリウムのような滑らかな物質が、よく粉末ジェットデバイスにおいて用いられる。しかし、この物質でさえ、患者は不快に感じることがあり、象牙質及び歯肉のような柔らかい組織に損傷を与えるリスクが存在し、それによってこの技術は、通常、歯肉縁上のみで用いられる。
【0008】
歯肉縁下の処置のための粉末は、例えば、グリシンを基にした、EMS(Electro Medical Systems GmbH)の商品PERIOである。そのようなグリシン粉末は、ほとんど摩耗性がなく、したがって、歯肉及び露出した象牙質のような柔らかい組織上で用いる時でさえ、患者にとってより安全かつより快適である。しかし、より摩耗性の高い重炭酸粉末と比較すると、通常、洗浄効率の大幅な減少が経験され、それにより多くの時間及び粉末消費量が、同じ処置の結果のために必要とされる。
【0009】
開発されているさらなる粉末は、グリシンより硬いが重炭酸より滑らかな物質であるエリスリトールを基にした、EMSの商品PLUSである。エリスリトール粉末PLUSは、粉末ジェット洗浄においてグリシンより効率的であり、したがって、より少ない時間かつより少ない粉末消費量で、必要な処置が実行される。しかし、摩耗性は、再度、わずかに上昇した。
【0010】
このことから、低い摩耗性かつさらに高い洗浄効率を有する歯の洗浄粉末が、まだ必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】独国実用新案第20009665号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2228175号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3253359号明細書
【発明の概要】
【0012】
したがって、本発明の目的は、歯の表面を洗浄するために粉末ジェット装置において使用するための粉末を提供することにあり、その粉末は、特に低い摩耗性かつ高い洗浄効率を有し、前述の従来粉末の弱点を克服する。
【0013】
本発明にしたがって、この目的は、粉末の噴霧によって歯の表面を洗浄するために粉末ジェットデバイスにおける粉末の使用により達成され、その粉末は一つ以上のシクロデキストリンを含む。この目的は、歯の表面を洗浄するためのプロセスによってさらに達成され、シクロデキストリンを含む粉末が、ガス及び/又は液体の搬送媒体と共に歯の表面上に粉末ジェットデバイスを用いて噴霧される。この目的は、粉末噴霧によって歯の表面を洗浄するために粉末ジェットデバイスにおいて使用するための粉末によっても達成され、その粉末は、シクロデキストリンを含む。
【0014】
本発明の望ましい実施形態は、以下の説明と同様に従属請求項の対象とされる。
【0015】
驚いたことに、シクロデキストリン粉末は、重炭酸ナトリウム、エリスリトール、グリシン、タガトース又はトレハロースを基にした商業的に利用できる従来の歯の洗浄粉末よりも低い摩耗性及びさらに高い洗浄効率を提供することが見いだされている。さらに、これらの商業用粉末と組み合わせて又は混合してシクロデキストリンを用いることは、この物質を低濃度で使用するときでさえ、摩耗性を著しく低下させることも可能にする。
【0016】
本発明の意図の範囲内で、歯の表面を洗浄することは、部分的又は完全に歯のプラーク及び/又は歯石を歯の表面から取り除くことである。洗浄は、上述のように、粉末の噴霧による歯の洗浄のための従来の粉末ジェットデバイスを用いて実行される。
【0017】
複数のシクロデキストリンが知られており、本発明にしたがったシクロデキストリンは、六個のグルコース分子を含んだα-シクロデキストリン、七個のグルコース分子を含んだβ-シクロデキストリン、八個のグルコース分子を含んだγ-シクロデキストリン又は九個のグルコース分子を含んだδ-シクロデキストリンであり得る。シクロデキストリンは、望ましくはα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンである。それらの化合物は、以下に示される。
【化1】
【0018】
本発明の望ましい実施形態では、シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン又はβ-シクロデキストリンであり、より望ましくはα-シクロデキストリンである。
【0019】
効率的な歯の洗浄を確立するために、本発明にしたがった粉末の最大粒子サイズ(d100)は、望ましくは200μm以下であり、より望ましくは150μm以下であり、さらに望ましくは120μm以下であり、最も望ましくは100μm以下である。平均粒子サイズ(d50)は、望ましくは5μmから75μmであり、特に10μmから70μmである。粒子サイズは、提供される歯の洗浄の利用分野に適合され得る。例えば、粒子のより小さい平均粒子サイズは、歯肉縁下の歯の表面を洗浄するために望ましく、特に約5μmから約40μmであり、より望ましくは10μmから30μmである。歯肉縁上の歯の表面を洗浄するために、より大きな平均粒子サイズが望ましく、特に約20μmから約75μmであり、より望ましくは30μmから60μmである。
【0020】
本発明によると、d50の値は、粒子の50%が、体積に関してd50の値より小さく、粒子の50%が、体積に関してd50の値より大きい粒子サイズである。これは、d10、d90及びd100の値にも適用する。最大粒子サイズはd100の値であり、体積に関して粒子の100%が、この値より小さい。特定の最大粒子サイズを有する粉末は、適切な網の目の大きさを有するふるいを用いて粉末をふるい分けすることで整えられる。d100の値は、後に、レーザ回折測定によっても決定される。
【0021】
本発明にしたがったd値は、乾燥分散ユニット(Sciroccoの乾燥分散ユニットを備え、1.5bar(150kPa)で操作されるMalvernのMastersizer 2000)を用いたレーザ回折によって決定される。測定方法は、実施例にさらに記載される。
【0022】
本発明の望ましい実施形態では、シクロデキストリンを含む粉末は、フローエイド、漂白物質、殺菌剤、鎮痛剤及び/又は香料をさらに含む。これらの追加物質の合計量は、粉末の合計重量に基づいて、望ましくは0.03重量%から5重量%であり、より望ましくは0.05重量%から3重量%であり、最も望ましくは0.05重量%から2重量%である。
【0023】
本発明の望ましい実施形態によると、粉末は、特に二酸化ケイ素(シリカ)、ケイ酸アルミニウム及び/又は水酸化アルミニウムからなるグループから選ばれるようなフローエイドを含む。粉末の合計重量に基づいて、特に0.5重量%から2重量%の量の二酸化ケイ素が、最も望ましい。
【0024】
本発明にしたがった粉末は、望ましくは少なくとも10重量%のシクロデキストリンを含み、より望ましくは少なくとも20重量%のシクロデキストリンを含み、さらに望ましくは少なくとも50重量%のシクロデキストリンを含み、最も望ましくは少なくとも60重量%のシクロデキストリンを含み、特に95重量%から99.5重量%のシクロデキストリンを含む。
【0025】
本発明の意図の範囲内で、粉末の複数の成分の量は、wt.-%(重量%)で与えられ、合計すると100%であることは理解されるべきである。例として、2重量%の非晶質二酸化ケイ素を含む粉末は、合計で98重量%の他の成分を含む。
【0026】
シクロデキストリンの有利な摩耗性及び効率は、特にグリシン、炭酸水素ナトリウム、望ましくはタガトースである単糖、望ましくはトレハロースである二糖及び/又は望ましくはエリスリトールであるアルジトールのような、追加の洗浄粉末と組み合わされることも望ましい。シクロデキストリンと組み合わされ得る追加の洗浄粉末は、一つ以上の商業的に利用できる洗浄粉末であり得る。追加の洗浄粉末は、望ましくは、エリスリトールを基にした粉末、重炭酸ナトリウムを基にした粉末及びグリシンを基にした粉末からなるグループから一つ以上選ばれる。
【0027】
本発明の望ましい粉末は、10重量%から80重量%のシクロデキストリン及び90重量%から20重量%のグリシン、炭酸水素ナトリウム及び/又は、望ましくはエリスリトールであるアルジトールを含む。より望ましくは、20重量%から70重量%のシクロデキストリン及び80重量%から30重量%のグリシン、炭酸水素ナトリウム及び/又は、望ましくはエリスリトールであるアルジトールを含む粉末混合物である。エリスリトールとシクロデキストリンの混合物は、これら二つの物質が、任意の脱混合問題を避けることができる極めて類似した密度を有するため、特に望ましい。粉末組成は、例えば、フローエイド、殺菌剤、漂白物質及び/又は鎮痛剤のような、本明細書に記載された他の成分をさらに含み得る。アルジトールは、望ましくは、エリスリトール、ソルビトール、キシリト(キシリトール)、マンニト(マンニトール)、ラクチトール、トレイット(トレイトール)、アラビトール、及びイソマルトからなるグループから選ばれる。望ましい漂白物質は、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウム又は過酸化亜鉛のような過酸化塩、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は過硫酸アンモニウムのような過硫酸塩又は過ホウ酸塩である。殺菌剤は、望ましくは、クロルヘキシジン、クロルヘキシジンジグルコン酸塩、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、ヘキセチジン、スズ(II)塩及び亜鉛塩である。望ましい鎮痛剤は、リドカイン及びアーティカインである。
【0028】
本発明のさらなる実施形態は、粉末噴霧によって歯の表面を洗浄するために粉末ジェットデバイスにおいて使用するための粉末(歯の洗浄粉末)であり、粉末は、20μmから220μmの平均粒子サイズ(平均顆粒サイズ)を有する顆粒を含み、顆粒は、一次粒子及びバインダを含み、一次粒子は、顆粒の平均粒子サイズより小さい平均粒子サイズを有し、バインダは、シクロデキストリンを含む。
【0029】
粉末噴霧によって歯の表面を洗浄するために粉末ジェット洗浄デバイスにおける、本発明にしたがった粉末の使用方法も、本発明の実施形態である。
【0030】
この実施形態は、二つの相反する作用の利点、すなわち大きい粒子の利点と小さい粒子の利点とを組み合わせたものである。これは、小さい粒子(ここで一次粒子と呼ばれる)を大きい粒子(ここで顆粒と呼ばれる)に結合することによって達成される。顆粒は、洗浄プロセスが始まる前の取扱中、すなわち、粉末生成において粉末ボトルを満たしている間及び歯の洗浄のために粉末ジェットデバイスを満たしている間に存在するが、一次粒子又は顆粒の少なくとも断片は、粉末ジェットデバイスのノズル内又はその近辺において、又は顆粒の分裂によって顆粒が歯の表面の方へ飛び、又は歯の表面に当たるときに、形成される。結果として、特に摩耗性のような洗浄効果は、一次粒子(小さい粒子)に対応し、取り扱い性は顆粒(大きい粒子)に対応する。
【0031】
この実施形態にしたがった粉末の摩耗性は、一次粒子単独の摩耗性よりもさらに低い。この説明に縛られることなく、この肯定的な効果は、それ自体が低い摩耗性を有し、顆粒を壊して粒子にすることを許容するほど十分に滑らかで、摩耗性及び洗浄効果を担う粒子表面の部分に未だ存在するバインダのシクロデキストリンによって達成されることが推測される。
【0032】
顆粒は、望ましくは20μmから180μmの平均粒子サイズ(平均顆粒サイズd50,g)を有し、より望ましくは20μmから150μmの平均粒子サイズを有し、さらに望ましくは20μmから100μmの平均粒子サイズを有し、最も望ましくは20μmから600μmの平均粒子サイズを有する。この大きさの範囲内の顆粒は、効率的な無塵での取り扱いを可能にし、微粒子から成る粉末の遅い成形がもたらす問題を避ける。
【0033】
低刺激にもかかわらず効率的な歯の洗浄のために、バインダと共に顆粒を形成する一次粒子は、望ましくは5μmから75μmの平均粒子サイズ(d50,p)を有し、より望ましくは10μmから70μmの平均粒子サイズを有する。粒子サイズは、提供される歯の洗浄粉末の利用分野に適合され得る。例えば、一次粒子のより小さい平均粒子サイズは、歯肉縁下の歯の表面を洗浄するために望ましく、特におよそ5μmからおよそ40μm、望ましくは10μmから30μmである。歯肉縁上の歯の表面の歯の洗浄のために、一次粒子のより大きい平均粒子サイズが望ましく、特におよそ20μmからおよそ75μm、より望ましくは30μmから50μmである。
【0034】
バインダは、シクロデキストリンを含み、顆粒内の一次粒子に結合する。望ましくは、バインダは、少なくとも50重量%のシクロデキストリンを含み、より望ましくは少なくとも75重量%のシクロデキストリンを含み、最も望ましくは95重量%より多くのシクロデキストリンを含む。本発明の望ましい実施形態では、バインダは、食物繊維、多糖、合成高分子、塩、砂糖、アルジトール、アミノ酸、一次粒子の物質と同じ物質、又はそれらの混合物をさらに含む。それらは、粒子のソフトな結合を許容し、それにより、より小さい断片にする顆粒の効率的な切断又は分裂が、歯の洗浄のための通常の粉末ジェットデバイスにおいて可能になる。本発明の望ましいシクロデキストリンは、バインダにおいても望ましいシクロデキストリンである。望ましくは、バインダにおけるシクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンであり、より望ましくは、α-シクロデキストリン又はβ-シクロデキストリンである。
【0035】
顆粒の分裂は、通常、粉末ジェットデバイスのノズル内で、及び/又は、粉末が歯の表面に当たるとき(50%から99.9%が分裂)、望ましくは、顆粒の50%から99.9%が壊れて断片になる部分的な分裂である。90%から99.9%の分裂はより望ましい。分裂後、対応するサイズの減少を測定するには、二つの可能性がある。Sciroccoユニットを備えるMalvernのMastersizerのようなレーザ回折ユニットにおいて二つの異なる分散圧間のサイズ減少を測定すること、又は、EMSのAirflow(登録商標)プロフィラキシスマスタのような粉末ジェットデバイス(エア研磨デバイス)のノズルを通った後の粉末のサイズ減少を測定することである。詳細は、実験部分に記載される。
【0036】
本発明の望ましい実施形態では、バインダは、シクロデキストリンからなる。さらに望ましい実施形態では、バインダの物質は、シクロデキストリン及び、セルロース、ヘミセルロース、セルロース誘導体、マルトデキストリン、コーンデキストリン、キサンタンゴム、グアーガム及びアラビアゴムからなるグループから一つ以上選ばれる物質を含む。望ましいコーンデキストリンの商標は、Nutriose(登録商標)である。これらのバインダは、特にノズル内及び/又は顆粒及びそれらの潜在的な断片が、歯の表面に当たるとき、粉末ジェットデバイスにおいて効率的な分裂を与えるソフトな結合を提供する。
【0037】
本発明にしたがった粉末は、バインダが水と混合される工程、もたらされる混合物が一次粒子上に噴霧される工程及び粒子が顆粒を形成するために乾燥される工程を含むプロセスによって調製される。望ましくは、粉末は、流動床造粒装置を用いることで調製される。バインダは、水と混合され、粉末流動床上に噴霧され、かつ乾燥される。乾燥は、室温又は高温で実行され得る。液体追加率及び温度は、結合溶液が、一次粒子上に降りかかり、完全に乾燥され、顆粒を形成するために一次粒子を共に接着するように選ばれる。造粒パラメータは、特定のバインダ溶液にしたがって最適化される。
【0038】
顆粒の部分的分裂が起きるという事実から見て、分裂後の、ノズルの及び/又は歯の表面上の粉末の平均粒子サイズは、顆粒の平均粒子サイズより小さい。破砕又は分裂後の粉末の平均粒子サイズ(d50,p-b)は、分裂の程度及び粉末中の追加成分の粒子サイズ次第である。
【0039】
顆粒の分裂又は破砕後の粉末は、望ましくは5μmから75μmの平均粒子サイズd50,p-bを有しており、特に10μmから70μmの平均粒子サイズd50,p-bを有する。望ましいサイズの範囲は、提供される歯の洗浄粉末の利用分野次第である。より小さな平均粒子サイズは、歯肉縁下の歯の表面を洗浄するために望ましく、より大きな平均粒子サイズは、歯肉縁上の歯の表面を洗浄するために望ましい。歯肉縁下の歯の表面を洗浄するための粉末は、分裂後に、望ましくは5μmから40μmの平均粒子サイズを有しており、より望ましくは10μmから30μmの平均粒子サイズを有する。分裂後に、歯肉縁上の歯の表面を洗浄するための粉末は、望ましくは20μmから75μmの平均粒子サイズを有しており、より望ましくは30μmから50μmの平均粒子サイズを有する。
【0040】
顆粒は、望ましくは80重量%から99.5重量%の粒子及び0.5重量%から20重量%のバインダを含み、特に90重量%から99.5重量%の粒子及び0.5重量%から10重量%のバインダを含む。シクロデキストリンの量について、顆粒を含む粉末にとって、粉末が、20重量%未満のシクロデキストリンを含むことが望ましく、より望ましくは15重量%未満のシクロデキストリンを含み、最も望ましくは10重量%未満のシクロデキストリンを含む。本発明の望ましい実施形態では、粉末は、バインダとして1重量%から20重量%のシクロデキストリンを含み、かつ99重量%から80重量%のグリシン、炭酸水素ナトリウム、タガトース、トレハロース及び/又は、望ましくはエリスリトールであるアルジトールを含む。
【0041】
粒子は、歯を洗浄する目的のために適切な物質からなる。適切な物質は、歯の洗浄粉末の利用分野次第で選ばれ、例えば、歯肉縁上の歯の表面を洗浄するための粉末又は歯肉縁下の歯の表面を洗浄するための粉末である。望ましくは、溶解性の塩、アルジトール、アミノ酸及び砂糖である。溶解性の塩は、特に炭酸水素ナトリウムのような有機塩又は無機塩であり、アルジトールは、マンニトール又はエリスリトールであり、アミノ酸は、グリシンであり及び砂糖は、トレハロース又はタガトースであり、シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン又はβ-シクロデキストリンである。本発明の任意の実施形態によると、粒子は、炭酸カルシウムを材料としない。本発明にしたがった粉末の粒子の物質は、より望ましくは、マンニトール、エリスリトール、グリシン、トレハロース、タガトース、シクロデキストリン及び炭酸水素ナトリウムからなるグループから一つ以上選ばれる。粉末の形成において、これらの物質は、歯の表面を破壊することなく、効果的な洗浄に対して適度な摩耗性を提供する。
【0042】
一次粒子は、望ましくは、例えば、炭酸水素ナトリウム、アルジトール、マンニトール、エリスリトール、グリシン、トレハロース、タガトース又はその混合物のような、上述の物質を少なくとも80重量%を含み、より望ましくは少なくとも90重量%を含む。本発明のさらに望ましい実施形態では、バインダ及び一次粒子は同じ物質からなり、それは一次粒子及びバインダの両方がシクロデキストリンを含むことを意味する。
【0043】
本発明にしたがった粉末ジェットデバイスにおいて使用するための粉末が、上述の成分からなることも望ましい。例として、望ましい粉末は、9.5重量%から89.5重量%のシクロデキストリン、90重量%から10重量%のエリスリトール、及び0.5重量%から2重量%のフローエイド、特には、0.5重量%から2重量%の非晶質二酸化ケイ素、及び、任意の殺菌剤、漂白物質及び/又は鎮痛剤からなる。
【0044】
本発明は、粉末噴霧によって歯の表面を洗浄するために粉末ジェットデバイスにおいて使用するための粉末又は粉末混合物にも関係する。本明細書に示す使用方法の望ましい実施形態は、粉末又は粉末混合物に対しても望ましい。本明細書に示す望ましい使用方法の実施形態、より望ましい使用方法の実施形態、最も望ましい使用方法の実施形態は、いずれもシクロデキストリンを含む粉末にも適用できる。
【0045】
本発明は、本発明にしたがった粉末が、ガスの搬送媒体及び/又は液体の搬送媒体、特には、空気及び任意に水のような流体と共に粉末ジェットデバイスによって歯の表面上に噴霧される、歯の表面を洗浄するためのプロセスにもさらに関係する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】実施例1にしたがったα-シクロデキストリン粉末及びβ-シクロデキストリン粉末の摩耗性[μm/g]を、エリスリトール、グリシン、トレハロース及びタガトースの粉末と比較して示す。
【
図2】α-シクロデキストリン及びβ-シクロデキストリンの洗浄効率[mm
2/g]を、エリスリトール及びグリシンの粉末と比較して示す。
【
図3】バインダとしてのα-シクロデキストリンによって造粒されたエリスリトール粉末の摩耗性[μm/g]を示す。エリスリトールの初期の粉末と、造粒された粉末との間で比較される。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下の実施例は、本発明にしたがった望ましい実施形態を提供する。
【0048】
実施例
実施例1:α-シクロデキストリン
α-シクロデキストリンは、粉砕され、120μmでふるいにかけられ、それによりd100は、120μm以下であった。粉末は、約2重量%の非晶質二酸化ケイ素(シリカ)と混合された。この粉末の平均粒子サイズは、30μmであった。
【0049】
実施例2:β-シクロデキストリン
β-シクロデキストリンは、粉砕され、120μmでふるいにかけられ、それによりd100は、120μm以下であった。粉末は、約2重量%の非晶質二酸化ケイ素(シリカ)と混ぜられた。この粉末の平均粒子サイズd50は、20μmであった。
【0050】
実施例1及び実施例2にしたがった二つの粉末は、洗浄効率及び摩耗性について測定された。既知の洗浄粉末と比較した結果は、
図1から
図3に示される。
【0051】
摩耗性は、EMSのAirflow(登録商標)プロフィラキシスマスターデバイスを用いて、45°かつ2mmの投射距離で表面上に粉末ジェットデバイスを用いて直接粉末を投射することで測定される。この表面は純アルミニウム(99.5%)からなる。適用時間は30秒である。プレートは、2mmの距離に到達するためにエレベータ上に置かれる。ノズルは、ノズルの位置をしっかり固定するために、樹脂モールドに固定される。質量は、測定の前後に粉末チャンバを計量することで明らかになる。全ての測定は、少なくとも3回繰り返され、その平均が摩耗性として扱われる。穴の深さは、レーザ表面形状測定装置によって測定された。効率又は洗浄効率は、粉末1グラム当たりで洗浄された表面である。
【0052】
本発明にしたがった粉末の平均粒子サイズ(d50)は、Sciroccoの分散ユニットを備え、1.5bar(150kPa)の分散圧でMalvernのMastersizer 2000(Malvern Instruments社.,マルバーン,英国)を用いて決定される。
【0053】
実施例3:α-シクロデキストリンによって造粒されたエリスリトール
実験は、円錐形状のパイロット型バッチ式流動床において実行された。初期粒子質量1kg、吸気温60℃から90℃、送液速度5ml/minから20ml/min、かつ空気の基準噴霧圧1bar(100kPa)から2.5bar(250kPa)が、プロセスパラメータとして選ばれた。α-シクロデキストリンの溶液は、20分間噴霧された。本実験の間、全てのプロセスパラメータ(吸気温、空気流量、送液速度及び噴霧圧)は一定に保持された。本実験の終わりに、造粒粉末は取り出され、固形が98%より多く存在することを確かめた。粉末に追加されたα-シクロデキストリンの量は、5%から10%の間であった。
【0054】
本発明は、
図1から
図3を参照して以下にさらに示される。
【0055】
図1は、実施例1にしたがったα-シクロデキストリン粉末及びβ-シクロデキストリン粉末の摩耗性[μm/g]を、エリスリトール、グリシン、トレハロース及びタガトースの粉末と比較して示す。
【0056】
図2は、α-シクロデキストリン及びβ-シクロデキストリンの洗浄効率[mm
2/g]を、エリスリトール及びグリシンの粉末と比較して示す。
【0057】
図3は、バインダとしてのα-シクロデキストリンによって造粒されたエリスリトール粉末の摩耗性[μm/g]を示す。エリスリトールの初期の粉末と、造粒された粉末との間で比較される。
【0058】
上記の実施例は、商業的に利用できる歯の洗浄粉末と比較した、本発明にしたがったシクロデキストリンを含む粉末が、低減された摩耗性かつさらに高い洗浄効率を有することを示す。