(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】冷凍機、冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 171/02 20060101AFI20240627BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20240627BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20240627BHJP
C10M 105/38 20060101ALN20240627BHJP
C10M 107/24 20060101ALN20240627BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20240627BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20240627BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240627BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C10M171/02
C09K5/04 E
F25B1/00 396A
C10M105/38
C10M107/24
C10N20:00 Z
C10N20:02
C10N30:00 A
C10N30:06
C10N40:30
(21)【出願番号】P 2023081445
(22)【出願日】2023-05-17
(62)【分割の表示】P 2020512268の分割
【原出願日】2019-04-02
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2018071059
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】山口 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】水谷 祐也
(72)【発明者】
【氏名】永井 郷司
(72)【発明者】
【氏名】尾形 英俊
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-030095(JP,A)
【文献】特開2002-038176(JP,A)
【文献】特開2002-060770(JP,A)
【文献】特開2002-060771(JP,A)
【文献】特開2002-105471(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087916(WO,A1)
【文献】国際公開第2001/096505(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C09K 5/04
F25B 1/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒と共に用いられる冷凍機油であって、
前記冷媒に対して、温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲において相溶領域を有する第1の基油と、
前記第1の基油より低い40℃動粘度を有し、かつ前記冷媒に対して前記第1の基油より相溶領域が狭い第2の基油と、
を含有する冷凍機油
であって、
前記第1の基油の40℃動粘度に対する前記第2の基油の40℃動粘度の比が0.95以下であり、
基油全量を基準として、前記第1の基油の含有量が30質量%以上97質量%以下であり、前記第2の基油の含有量が3質量%以上70質量%以下であり、
前記第1の基油が、ポリオールエステル又はポリビニルエーテルであり、
前記ポリオールエステルが、多価アルコールと脂肪酸とのエステルであり、
前記脂肪酸に占める炭素数4~9の分岐脂肪酸の割合が20~100モル%であり、
前記炭素数4~9の分岐脂肪酸が、イソブタン酸、2-メチルブタン酸、2-メチルペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-メチルヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種である、冷凍機油。
【請求項2】
前記第1の基油が、前記冷媒に対して、温度30℃以下、油比率1~5質量%又は50~80質量%の範囲において相溶領域を有する、請求項1に記載の
冷凍機油。
【請求項3】
前記第2の基油が、前記冷媒に対して、30℃以下、油比率10~40質量%の範囲において相溶領域を有さない、請求項1又は2に記載の
冷凍機油。
【請求項4】
前記冷媒がジフルオロメタンを含有する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の
冷凍機油。
【請求項5】
前記第2の基油が、10~60mm
2/sの40℃動粘度、及び、120以上の粘度指数を有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の
冷凍機油。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の冷凍機油と、冷媒とを含有する冷凍機用作動流体組成物
。
【請求項7】
圧縮機と、凝縮器と、膨張機構と、蒸発器とを有する冷媒循環システムを備え、前記冷媒循環システム内に冷媒と冷凍機油とが充填されている冷凍機であって、
前記冷凍機油が
請求項1~5のいずれか一項に記載の冷凍機油である、冷凍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機、冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍機は、圧縮機、凝縮器、膨張機構、蒸発器等を有する冷媒循環システムを備えている。冷媒循環システムでは、液体が気化する際に周囲から熱を奪う現象が利用されており、気化した冷媒の圧縮機での圧縮及び昇温、凝縮器での放熱凝縮による冷媒の液化、膨張機構での減圧膨張、並びに、蒸発器での冷媒の気化を含むサイクルが繰り返される。
【0003】
また、冷媒循環システムには、冷媒に加えて、圧縮機の摺動部を潤滑するための潤滑油(冷凍機油)が充填される。冷凍機油は、冷媒循環システムに充填されたときに所望の性能が得られるように設計されるが、その際、冷媒に対する相溶性を考慮することが重要となる。例えば、冷媒に対する相溶性に劣る冷凍機油は、冷媒循環システム内を循環したときに冷媒と相溶しないため、圧縮機の摺動部まで戻ってこないおそれがあり、それに伴う潤滑性の悪化が懸念される。
【0004】
これに対して、例えば特許文献1には、冷凍機油と冷媒との液状混合物が、10~40質量%の範囲の冷凍機油含有率および-40℃~60℃の温度範囲において二層分離し、かつ5質量%以下の冷凍機油含有率および20℃~40℃の温度範囲並びに55質量%以上の冷凍機油の含有率および20℃~50℃の温度範囲で相溶することを特徴とする圧縮機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、冷凍機の効率を向上させるため手段の一つとして、冷凍機油の低粘度化(特に低温(例えば0℃以下)での低粘度化)が挙げられる。しかし、冷凍機油の低粘度化のために用いられる低粘度の基油は、一般的に冷媒相溶性が良い傾向にあるため、冷凍機油を低粘度化すると、冷媒が冷凍機油に溶解したときの粘度(冷媒溶解粘度)が低くなる傾向にある。冷媒溶解粘度が低下すると、摺動部における油膜を保持することが難しくなり、潤滑性が損なわれ、かえって冷凍機の効率を悪化させるおそれがある。つまり、摺動部における潤滑性の低下を抑制しつつ、冷凍機の効率を向上させることは必ずしも容易ではない。
【0007】
そこで、本発明は、摺動部における潤滑性の低下を抑制しつつ、冷凍機の効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、圧縮機と、凝縮器と、膨張機構と、蒸発器とを有する冷媒循環システムを備え、冷媒循環システム内に冷媒と冷凍機油とが充填されている冷凍機であって、冷凍機油が、冷媒に対して、温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲において相溶領域を有する第1の基油と、第1の基油より低い40℃動粘度を有し、かつ冷媒に対して第1の基油より相溶領域が狭い第2の基油と、を含有する、冷凍機である。
【0009】
この冷凍機では、冷媒循環システム内に充填される冷凍機油として、冷媒に対して温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲において相溶領域を有する第1の基油と、第1の基油より低い40℃動粘度を有し、かつ冷媒に対して第1の基油より相溶領域が狭い第2の基油とを含有する冷凍機油が用いられる。第1の基油は、冷媒に対して温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲において相溶領域を有するため、冷媒に対して良好な相溶性を示す基油である一方で、第2の基油は、第1の基油よりも相溶領域が狭いため、冷媒に対する相溶性が低い基油である。
【0010】
この冷凍機油は、これらの第1の基油と第2の基油とを含有することで、一定の冷媒相溶性を有すると共に、冷媒溶解粘度を維持しつつ、低粘度化を実現できる。すなわち、これにより、高温・高圧条件下での冷媒溶解粘度の低下が抑制されるため、摺動部における油膜が保持され、その結果、摺動部における潤滑性の低下を抑制できる。加えて、第2の基油が、第1の基油より低い40℃動粘度を有しているため、冷凍機油の低粘度化が図られると共に、作動流体の低粘度化が図られ、冷凍機の効率が向上する。また、特に低温において冷凍機油の低粘度化が図られる場合、蒸発器内又は蒸発管内への油の滞留が抑制され、その結果、冷凍機の効率が更に向上する。したがって、この冷凍機では、摺動部における潤滑性の低下を抑制しつつ、冷凍機の効率を向上させることが可能となる。さらに、寒冷地や冬季などの低温下においても、冷凍機油が低粘度となっているために、低温起動性が向上し、冷凍機の効率が向上する。
【0011】
第1の基油は、冷媒に対して、温度30℃以下、油比率1~5質量%又は50~80質量%の範囲において相溶領域を有してよい。
【0012】
第2の基油は、冷媒に対して、30℃以下、油比率10~40質量%の範囲において相溶領域を有さなくてよい。
【0013】
冷凍機油は、冷媒に対して、温度30℃以下、油比率10~40質量%の範囲において相溶領域を有さず、温度30℃以下、油比率1~5質量%又は50~80質量%の範囲において相溶領域を有してよく、冷凍機油の-20℃における動粘度は、第1の基油の-20℃における動粘度より小さくてよい。
【0014】
冷媒は、ジフルオロメタンを含有してよい。
【0015】
第2の基油は、10~60mm2/sの40℃動粘度、及び、120以上の粘度指数を有してよい。
【0016】
第2の基油の含有量は、基油全量基準で、3質量%以上60質量%以下であってよい。
【0017】
本発明の他の一側面は、冷媒と共に用いられる冷凍機油であって、冷媒に対して、温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲において相溶領域を有する第1の基油と、第1の基油より低い40℃動粘度を有し、かつ冷媒に対して第1の基油より相溶領域が狭い第2の基油と、を含有する冷凍機油である。
【0018】
本発明の他の一側面は、冷凍機油と、冷媒とを含有する冷凍機用作動流体組成物であって、冷凍機油が、冷媒に対して、温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲において相溶領域を有する第1の基油と、第1の基油より低い40℃動粘度を有し、かつ冷媒に対して第1の基油よりも相溶領域が狭い第2の基油と、を含有する、冷凍機用作動流体組成物である。
【0019】
本発明の他の一側面は、冷媒と共に用いられる冷凍機油の製造方法であって、冷媒に対して、温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲において相溶領域を有する第1の基油と、第1の基油より低い40℃動粘度を有し、かつ冷媒に対して第1の基油より相溶領域が狭い第2の基油とを選択し、第1の基油及び第2の基油を混合する工程を備える、冷凍機油の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、摺動部における潤滑性の低下を抑制しつつ、冷凍機の効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】油比率と二層分離温度との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、冷凍機の一実施形態を示す模式図である。
図1に示すように、冷凍機10は、圧縮機(冷媒圧縮機)1と、凝縮器(ガスクーラー)2と、膨張機構3(キャピラリ、膨張弁等)と、蒸発器(熱交換器)4とが流路5で順次接続された冷媒循環システム6を少なくとも備えている。
【0024】
冷媒循環システム6においては、まず、圧縮機1から流路5内に吐出された高温(通常70~120℃)の冷媒が、凝縮器2にて高密度の流体(超臨界流体等)となる。続いて、冷媒は、膨張機構3が有する狭い流路を通ることによって液化し、さらに蒸発器4にて気化して低温(通常-40~0℃)となる。冷凍機10による冷房は、冷媒が蒸発器4において気化する際に周囲から熱を奪う現象を利用している。
【0025】
圧縮機1内においては、高温(通常70~120℃)条件下で、少量の冷媒と多量の冷凍機油とが共存する。圧縮機1から流路5に吐出される冷媒は、気体状であり、少量(通常1~10体積%)の冷凍機油をミストとして含んでいるが、このミスト状の冷凍機油中には少量の冷媒が溶解している(
図1中の点a)。
【0026】
凝縮器2内においては、気体状の冷媒が圧縮されて高密度の流体となり、比較的高温(通常50~70℃)条件下で、多量の冷媒と少量の冷凍機油とが共存する(
図1中の点b)。さらに、多量の冷媒と少量の冷凍機油との混合物は、膨張機構3、蒸発器4に順次送られて急激に低温(通常-40~0℃)となり(
図1中の点c,d)、再び圧縮機1に戻される。
【0027】
このような冷凍機10としては、自動車用エアコン、除湿器、冷蔵庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等における冷却装置、住宅用エアコンディショナー、パッケージエアコンディショナー、給湯用ヒートポンプ等が挙げられる。
【0028】
冷媒循環システム6には、冷媒が充填されている。冷媒としては、飽和フッ化炭化水素(HFC)冷媒、不飽和フッ化炭化水素(HFO)冷媒、炭化水素冷媒、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド冷媒、3フッ化ヨウ化メタン冷媒、及び、アンモニア(R717)、二酸化炭素(R744)等の自然系冷媒が挙げられる。
【0029】
飽和フッ化炭化水素冷媒としては、好ましくは炭素数1~3、より好ましくは1~2の飽和フッ化炭化水素が用いられる。飽和フッ化炭化水素冷媒は、例えば、ジフルオロメタン(R32)、トリフルオロメタン(R23)、ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)、1,1-ジフルオロエタン(R152a)、フルオロエタン(R161)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R227ea)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(R245fa)、及び1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(R365mfc)のいずれかの1種又は2種以上の混合物であってよい。
【0030】
飽和フッ化炭化水素冷媒の混合物としては、例えばR410A、R410B、R507C、R407C、R407E、R404Aなどが好ましく用いられる。
【0031】
不飽和フッ化炭化水素冷媒としては、例えば、炭素数2~4の不飽和フッ化炭化水素(分子中に塩素原子を更に有していてもよい)、具体的には、フルオロエチレン、フルオロプロペン、フルオロブテン、クロロフルオロプロペンが挙げられる。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、例えば、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye)、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)、シス又はトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z)又は(E))、シス又はトランス-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224yd(Z)又は(E))のいずれかの1種又は2種以上の混合物であってよい。
【0032】
炭化水素冷媒としては、炭素数1~5の炭化水素が挙げられる。炭化水素冷媒は、例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、メチルシクロプロパン、2-メチルブタン、及びノルマルペンタンのいずれかの1種又は2種以上の混合物であってよい。
【0033】
冷媒は、80℃以上及び3.4MPa以上の高温高圧条件を得やすい観点から、好ましくはジフルオロメタン(R32)を含有する冷媒であり、より好ましくは、ジフルオロメタン(R32)を含有する混合冷媒であり、更に好ましくは、ジフルオロメタン(R32)及びペンタフルオロエタン(R125)を含有する混合冷媒である。
【0034】
冷媒は、ジフルオロメタン、又はジフルオロメタン及びペンタフルオロエタンに加えて、上記の冷媒を更に含有していてよい。ジフルオロメタン、又はジフルオロメタン及びペンタフルオロエタンと共に用いられる冷媒は、好ましくは、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ze(E)若しくは(Z))、トリフルオロエチレン(HFO1123)であってよい。ジフルオロメタン、又はジフルオロメタン及びペンタフルオロエタンと共に用いられる冷媒の含有量は、冷媒全量基準で、例えば80質量%以下又は60質量%以下であってよく、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上又は40質量%以上であってよい。
【0035】
これらの中でも、冷媒としては、R32を10質量%以上含有するR32混合冷媒、例えば、質量比(R32/R125)が50/50のR32混合冷媒(R410A)、質量比(R32/R125/R134a)が23/25/52であるR32混合冷媒(R407C)、質量比(R32/R125/HFO1234yf/R134a)が24.3/24.7/25.3/25.7であるR32混合冷媒(R449A)、質量比(R32/R125/HFO1234yf/R134a/HFO1234ze(E))が26/26/20/21/7であるR32混合冷媒(R448A)、質量比(R32/R125/HFO-1234yf)が67/7/26のR32混合冷媒(R452B)、質量比(R32/HFO-1234yf)が69/31のR32混合冷媒(R454B)、質量比(R32/R125/HFO-1234ze)が68/3.5/28.5のR32混合冷媒(R447A)、質量比(R32/R125/HFO-1234ze)が68/8/24のR32混合冷媒(R447B)、質量比(R32/HFO-1234ze/R600a)が68/29/3のR32混合冷媒(R446A)、質量比(R32/HFO-1123)が60~40/40~60のR32混合冷媒、質量比(R32/R152a/HFO-1234ze)が12/5/83のR32混合冷媒(R444A)、質量比(R32/HFO-1234yf/R744)が21.5/75.5/3のR32混合冷媒(R455A)等が好適に用いられる。
【0036】
一実施形態において、冷媒は、より好ましくは、ジフルオロメタン及びペンタフルオロエタンからなっている。冷媒中のジフルオロメタン(R32)とペンタフルオロエタン(R125)との質量比(R32/R125)は、例えば40/60~70/30であってよい。このような冷媒としては、質量比(R32/R125)が60/40である冷媒、質量比(R32/R125)が50/50である冷媒(R410A)、及び質量比(R32/R125)が45/55である冷媒(R410B)が好適に用いられ、R410Aが特に好適に用いられる。
【0037】
冷媒循環システム6には、冷媒に加えて冷凍機油が充填されている(すなわち、冷媒と冷凍機油とを含有する冷凍機用作動流体組成物が充填されている)。冷凍機油は、第1の基油と第2の基油とを含有する。
【0038】
第1の基油は、冷媒に対して、温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲において冷媒と相溶領域(冷媒と相溶する領域)を有する基油である。本明細書において、「油比率」とは、冷媒及び冷凍機油の合計量に対する冷凍機油の比率(質量比)を意味し、「相溶する」とは、冷媒と冷凍機油とが二層分離することなく相互に溶解していることを意味し、「相溶しない」とは、二層分離することを意味する。
【0039】
図2は、油比率と二層分離温度との関係の一例を示すグラフである。二層分離曲線とは、油比率を横軸に、冷媒と冷凍機油との二層分離温度(℃)を縦軸にとったときに、各油比率における二層分離温度をプロットして描かれる曲線を意味する。なお、二層分離温度は、JIS K2211:2009「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して測定された二層分離温度を意味する。具体的には、例えば、低温側の二層分離温度は、冷媒と冷凍機油とを所定の油比率で混合した混合物について、30℃から徐々に冷却していき、当該混合物が二層分離又は白濁した温度として測定される。
【0040】
図2において実線で示される二層分離曲線C1は、第1の基油が有する二層分離曲線の一例である。
図2に示すように、第1の基油は、油比率が0質量%から増えるに従って二層分離温度が上昇し、所定の油比率において二層分離温度が極大値となり、油比率が更に増えるに従って二層分離温度が下降するような、上に凸の形状の二層分離曲線C1を有する。このような二層分離曲線C1の形状は、冷媒として、前述したR32含有混合冷媒、代表的には、例えば、R410Aを用い、第1の基油として、後述するポリオールエステルやポリビニルエーテルを用いた場合に見ることができる。
【0041】
この場合の第1の基油は、二層分離曲線C1の上側(二層分離温度の高温側)に冷媒と相溶する相溶領域RCを有し、二層分離曲線C1の下側(二層分離温度の低温側)に冷媒と分離する分離領域(相溶しない非相溶領域)RSを有する基油である。第1の基油は、冷媒に対して好適な相溶性を有する冷凍機油を得る観点から、温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲で、好ましくは、温度30℃以下、油比率10~40質量%において、冷媒と相溶する相溶領域RCを有する。第1の基油は、R410A冷媒に対して、30℃以下において上に凸の形状の低温側二層分離曲線を有する基油であることが望ましい。
【0042】
また、
図2において、冷媒として、例えばR32冷媒を用いた場合には、上記の第1の基油を使用した場合でも二層分離曲線C2のような挙動を示すことがある。これは、例えば、ペンタエリスリトールと平均炭素数8以上の脂肪酸とのエステルを使用した場合が挙げられる。この場合でも、第1の基油は、温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲において冷媒と相溶する相溶領域R
Cを有する。温度30℃以下、油比率10~40質量%の範囲で冷媒と相溶する相溶領域R
Cを有さない(冷媒と分離する分離領域R
Sのみを有する)こともあるが、少なくとも温度30℃以下、油比率1~5質量%又は50~80質量%の範囲において冷媒と相溶する相溶領域R
Cを有する。
【0043】
第1の基油の40℃動粘度は、例えば、40mm2/s以上、50mm2/s以上、又は60mm2/s以上であってよく、500mm2/s以下、200mm2/s以下、又は100mm2/s以下であってよい。第1の基油の100℃動粘度は、例えば、1mm2/s以上、3mm2/s以上、又は6mm2/s以上であってよく、30mm2/s以下、20mm2/s以下、又は10mm2/s以下であってよい。本明細書において、40℃動粘度及び100℃動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された40℃及び100℃における動粘度をそれぞれ意味する。
【0044】
第1の基油の粘度指数は、例えば、50以上、60以上、又は80以上であってよく、120以下、100以下、又は90以下であってよい。本明細書において、粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0045】
このような第1の基油は、例えば、ポリオールエステル又はポリビニルエーテルであってよい。ポリオールエステルは、例えば、多価アルコールと脂肪酸とのエステルであってよい。ポリオールエステルは、多価アルコールの水酸基の一部がエステル化されずに水酸基のまま残っている部分エステルであってもよく、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであってもよく、また部分エステルと完全エステルとの混合物であってもよい。
【0046】
多価アルコールは、例えば、水酸基を2~6個有する多価アルコールであってよい。多価アルコールの炭素数は、例えば、4~12又は5~10であってよい。多価アルコールは、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどのヒンダードアルコールであってよく、冷媒との相溶性に特に優れることから、好ましくは、ペンタエリスリトール、又はペンタエリスリトールとジペンタエリスリトールとの混合アルコールである。
【0047】
脂肪酸は、例えば飽和脂肪酸であってよい。脂肪酸の炭素数は、例えば4~24、4~12、4~9又は5~9であってよい。脂肪酸は、直鎖脂肪酸であっても分岐脂肪酸であってもよい。脂肪酸に占める分岐脂肪酸の割合は、好ましくは20~100モル%、より好ましくは50~100モル%、更に好ましくは70~100モル%、特に好ましくは90~100モル%である。炭素数4~9の分岐脂肪酸の割合が上記の範囲であることが特に好ましい。
【0048】
炭素数4~9の分岐脂肪酸としては、具体的には、分岐状のブタン酸、分岐状のペンタン酸、分岐状のヘキサン酸、分岐状のヘプタン酸、分岐状のオクタン酸、分岐状のノナン酸が挙げられる。炭素数4~9の分岐脂肪酸は、好ましくは、α位及び/又はβ位に分岐を有する脂肪酸である。このような脂肪酸は、例えば、イソブタン酸、2-メチルブタン酸、2-メチルペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-メチルヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸などであってよく、好ましくは、2-エチルヘキサン酸及び/又は3,5,5-トリメチルヘキサン酸である。
【0049】
ポリビニルエーテルとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等の炭素数1~8のアルキル基を有するビニルエーテルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの(共)重合体が例示される。ポリビニルエーテルとしては、数平均分子量(Mn)が300~3000、Mn/Mwが1~1.5、40℃動粘度が30~100mm2/sであるポリビニルエーテルが好ましい例として挙げられる。
【0050】
第2の基油は、第1の基油より低い40℃動粘度を有し、かつ冷媒に対して第1の基油より相溶領域が狭い基油である。第2の基油は、例えば第1の基油の二層分離曲線が
図2におけるC1のような形状である場合、その二層分離曲線がC1よりも上方にシフトしたものか、C2のような形状となり、温度30℃、油比率1~80質量%の範囲において、第1の基油よりも相溶領域が狭いものである。また、第2の基油は、例えば第1の基油の二層分離曲線が
図2におけるC2のような形状である場合、その二層分離曲線がC2よりも外側にシフトしたような形状となり、温度30℃、油比率1~80質量%の範囲において、第1の基油よりも相溶領域が狭いものである。このような第2の基油を使用することで、第1の基油と第2の基油との混合基油の相溶領域は、第1の基油の相溶領域が狭いものとなる。すなわち、第2の基油は、第1の基油と混合した時の相溶領域が、第1の基油よりも狭くなるようなものを選択してもよい。
【0051】
第2の基油は、冷凍機油の高温・高圧下における冷媒溶解粘度の低下を更に抑制する観点から、好ましくは、30℃以下、油比率10~40質量%において冷媒と相溶する相溶領域RCを有さない(冷媒と分離する分離領域RSのみを有する)。第2の基油は、R410A冷媒に対して、上に凸の形状の低温側二層分離曲線を有さない基油であることが望ましく、30℃以下、油比率10~40質量%においてR410A冷媒と相溶する相溶領域を有さない基油であることが特に望ましい。
【0052】
第2の基油の40℃動粘度は、冷凍機油の低粘度化が好適に図られる観点から、第1の基油の40℃動粘度より低い。第1の基油の40℃動粘度と第2の基油の40℃動粘度との差(=第1の基油の40℃動粘度-第2の基油の40℃動粘度)は、好ましくは10mm2/s以上、好ましくは20mm2/s以上、更に好ましくは30mm2/s以上又は40mm2/s以上であってよく、60mm2/s以下又は50mm2/s以下であってよい。第1の基油の40℃動粘度に対する第2の基油の40℃動粘度の比(=第2の基油の40℃動粘度(mm2/s)/第1の基油の40℃動粘度(mm2/s)=「KV40比」)は、好ましくは、0.95以下、0.9以下、0.85以下、0.8以下、0.75以下、0.7以下、0.6以下、又は0.5以下であり、好ましくは、0.1以上、0.2以上、0.25以上、又は0.35以上である。
【0053】
第2の基油の40℃動粘度は、より具体的には、好ましくは、60mm2/s以下、50mm2/s以下、40mm2/s以下、又は30mm2/s以下であってよい。第2の基油の40℃動粘度は、例えば、5mm2/s以上、10mm2/s以上、15mm2/s以上、又は20mm2/s以上であってよい。
【0054】
第2の基油の100℃動粘度は、冷凍機油の低粘度化が更に好適に図られる観点から、第1の基油の100℃動粘度より低く、好ましくは、20mm2/s以下、15mm2/s以下、又は10mm2/s以下であってよい。第2の基油の100℃動粘度は、例えば、1mm2/s以上、2mm2/s以上、又は4mm2/s以上であってよい。
【0055】
第2の基油の粘度指数は、例えば、-30以上であってよく、250以下であってもよい。第2の基油が鉱油系又は合成系炭化水素油である場合、第2の基油の粘度指数は、-30以上、0以上、30以上、60以上、90以上、又は120以上であってよく、180以下、又は160以下であってよい。第2の基油が含酸素合成油である場合、第2の基油の粘度指数は、80以上、90以上、120以上、150以上、又は180以上であってよく、250以下、230以下、又は220以下であってよい。第1の基油の粘度指数に対する第2の基油の粘度指数の比(=第2の基油の粘度指数/第1の基油の粘度指数=「VI比」)は、好ましくは、0.9以上、1以上、1.2以上、1.5以上、1.8以上、又は2以上であり、好ましくは、4以下、3.5以下、3以下、又は2.5以下である。
【0056】
第1の基油及び第2の基油を含有する冷凍機油の粘度指数は、低温における冷凍機油の動粘度の低下率を高める点で、第1の基油の粘度指数よりも向上していることが好ましい。粘度指数の向上幅(冷凍機油の粘度指数-第1の基油の粘度指数)は、好ましくは、1以上、4以上、又は8以上である。
【0057】
本実施形態に係る冷凍機油においては、第1の基油及び第2の基油が、上述した「KV40比」が0.8以下であることと、「VI比」が0.9以上であることとのいずれか一方又は両方を満たすように、第1の基油と第2の基油との組合せを選択することが望ましい。
【0058】
第2の基油の引火点は、安全性の観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは250℃以上であり、300℃以下、又は280℃以下であってよい。本明細書において、引火点は、JIS K2265-4:2007(クリーブランド開放(COC)法)に準拠して測定された引火点を意味する。
【0059】
第2の基油の流動点は、例えば、-20℃以下、-30℃以下、又は-40℃以下であってよい。本明細書において、流動点は、JIS K2269:1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0060】
このような第2の基油は、上述の条件を満たす限りにおいて特に制限はなく、例えば、以下に例示する鉱油及び合成油からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0061】
鉱油は、パラフィン系、ナフテン系などの原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤精製、水素化精製、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、白土処理、硫酸洗浄などの方法で精製することによって得られる。これらの精製方法は、1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。鉱油としては、GrI基油、GrII基油、GrIII基油及びGrIII+基油からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0062】
合成油としては、例えば、ポリαオレフィン系基油、直鎖又は分岐のアルキルベンゼン等の合成系炭化水素油、エステル、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール、カーボネート、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテル等の含酸素油等を用いることができ、含酸素油が好ましく用いられる。
【0063】
エステルとしては、芳香族エステル、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル、炭酸エステル及びこれらの混合物などが例示される。エステルは、好ましくはポリオールエステルである。
【0064】
第2の基油は、例えば、一価アルコール及び多価アルコールから選ばれる1種又は2種以上と1価脂肪酸及び多価脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上とのエステルであってよい。第2の基油は、具体的には、ネオペンチルグリコールと炭素数10~24の脂肪酸から選ばれる少なくとも1種を含む脂肪酸とのエステル、トリメチロールプロパンと炭素数10~24の脂肪酸から選ばれる少なくとも1種を含む脂肪酸とのエステル等の40℃動粘度が10~60mm2/sの長鎖基を有するポリオールエステルであってよい。
【0065】
第2の基油は、好ましくは、例えば、ネオペンチルグリコールとオレイン酸とのジオールエステル、トリメチロールプロパンとオレイン酸とのトリオールエステル等である。これらの低粘度かつ長鎖基を有するポリオールエステルは、動粘度が低く、第1の基油との相溶性に優れつつ、R32又はR32混合冷媒、代表的にはR410Aに対しては相溶性が低いので、少量の添加量で最大限の効果を発揮しやすい。
【0066】
本実施形態の冷凍機油は、上記のとおり、第1の基油と第2の基油とを含有する。第1の基油の含有量は、基油全量を基準として、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは80質量%又は85質量%以上であり、好ましくは97質量%以下、より好ましくは93質量%以下である。第2の基油の含有量は、基油全量を基準として、好ましくは3質量%以上、より好ましくは7質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下又は15質量%以下である。第1の基油及び第2の基油の含有量を上記範囲とすることで、冷凍機油の高温・高圧下での冷媒溶解粘度を高く維持しつつ、低温・高油比率における低粘度化を実現することができる。その結果、摺動部における潤滑性の低下を更に抑制しつつ、冷凍機の効率を更に向上させることが可能となる。
【0067】
冷凍機油は、第1の基油及び第2の基油以外の基油を更に含有(すなわち、合計3種以上の基油を含有)していてよい。冷凍機油が3種以上の基油を含有する場合、3種以上の基油のうち任意の2種の基油が、第1の基油及び第2の基油に関する上記の条件を満たしていればよい。すなわち、冷凍機油に含まれる3種以上の基油のうち、一の基油(基油A)が冷媒に対して、温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲において相溶領域を有し、基油A以外の他の一の基油(基油B)が、基油Aより低い40℃動粘度を有し、かつ冷媒に対して、前記第1の基油より相溶領域が狭ければ、当該冷凍機油は第1の基油(基油A)及び第2の基油(基油B)を含有していることになる。
【0068】
第1の基油及び第2の基油の合計の含有量は、基油全量基準で、50質量%以上、70質量%以上、又は90質量%以上であってよい。
【0069】
冷凍機油は、基油に加えて、添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、酸捕捉剤、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤などが挙げられる。
【0070】
基油の含有量は、冷凍機油全量基準で、90質量%以上、95質量%以上、又は98質量%以上であってよい。添加剤の含有量は、冷凍機油全量基準で、10質量%以下、5質量%以下、又は2質量%以下であってよい。
【0071】
以上説明したような冷凍機油は、第1の基油及び第2の基油を含有することにより、例えば、
図2において破線で示される二層分離曲線C2のような二層分離曲線を有する(上に凸の形状の二層分離曲線を有さない)。この冷凍機油は、好ましくは、温度30℃以下、油比率10~40質量%の範囲において、冷媒と相溶する相溶領域R
Cを有さず(冷媒と分離する分離領域R
Sのみを有し)、かつ、温度30℃以下、油比率1~5質量%又は50~80質量%の範囲において冷媒と相溶する相溶領域R
Cを有する。
【0072】
そして、この冷凍機油では、-20℃における動粘度(低温動粘度)が、第1の基油の-20℃における動粘度(低温動粘度)より小さくなっている。冷凍機油の-20℃における動粘度は、例えば、好ましくは、15000mm2/s以下又は10000mm2/s以下、より好ましくは8000mm2/s以下又は7000mm2/s以下であり、好ましくは1000mm2/s以上、より好ましくは3000mm2/s以上、更に好ましくは5000mm2/s以上である。本明細書において、-20℃における動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された-20℃における動粘度を意味する。
【0073】
本実施形態の冷凍機油においては、40℃における動粘度低減率に対して、-20℃における動粘度低減率が大幅に大きくなっている。低温動粘度を低下させることで、(低温・低油比率下となる)蒸発器内あるいは蒸発管内への油の滞留が抑制され、その結果、冷凍機の効率が向上する。したがって、この冷凍機では、摺動部における潤滑性の低下を抑制しつつ、冷凍機の効率を向上させることが可能となる。さらに、寒冷地や冬季などの低温下においても、冷凍機油が低粘度となっているために、低温起動性が向上し、冷凍機の効率が向上する。
【0074】
冷凍機10では、冷媒循環システム6内にこのような冷凍機油が充填されていることにより、冷媒及び冷凍機油を含む作動流体組成物の冷媒溶解粘度の低下が抑制されるため、摺動部における油膜が保持され、その結果、摺動部における潤滑性の低下を抑制できる。より具体的には、第2の基油が相溶性の低い基油であるため、冷凍機油が第2の基油を含有しない状態での作動流体組成物の冷媒溶解粘度V1に対する第2の基油を含有する状態での作動流体組成物の冷媒溶解粘度V2の変化率(=(V2-V1)/V1×100)が、例えば、±20%以内、±15%以内、又は±10%以内に抑えられる。
【0075】
作動流体組成物の冷媒溶解粘度は、80℃、3.4MPaにおいて、好ましくは、2mm2/s以上、2.5mm2/s以上、又は2.8mm2/s以上であり、4mm2/s以下、3.5mm2/s以下、又は3.3mm2/s以下である。作動流体組成物の高温・高圧下での冷媒溶解粘度(mm2/s)は、振動式粘度計を入れた200mlの耐圧容器に冷凍機油100gを入れ、容器内を真空脱気した後、冷媒を入れて作動流体組成物を調製し、温度80℃、絶対圧力3.4MPaの条件に冷媒の圧力と耐圧容器の温度を調整して測定される。
【0076】
加えて、第2の基油が、第1の基油より低い40℃動粘度を有しているため、冷凍機油の低粘度化が図られ、その結果、この冷凍機10の効率が向上する。より具体的には、冷凍機油が第2の基油を含有しない状態での冷凍機油の-20℃における動粘度KV1に対する第2の基油を含有する状態での冷凍機油の-20℃における動粘度KV2の変化率(=(KV1-KV2)/KV1×100)が、例えば、5%~90%程度まで低下し、好ましくは、10%以上、20%以上、30%以上、又は40%以上低下する。
【0077】
冷凍機油の40℃動粘度は、例えば、30mm2/s以上、40mm2/s以上、又は55mm2/s以上であってよく、100mm2/s以下、70mm2/s以下、又は60mm2/s以下であってよい。冷凍機油の100℃動粘度は、例えば、2mm2/s以上、3mm2/s以上、又は5mm2/s以上であってよく、15mm2/s以下、10mm2/s以下、又は8mm2/s以下であってよい。冷凍機油の粘度指数は、例えば、80以上、90以上、95以上、又は98以上であってよく、160以下、130以下、又は120以下であってよい。
【0078】
冷凍機油の引火点は、安全性の観点から、好ましくは130℃以上、より好ましくは180℃以上、更に好ましくは200℃以上であり、300℃以下、又は280℃以下であってよい。
【0079】
冷凍機油の流動点は、例えば、-10℃以下、又は-20℃以下であってよく、-60℃以上であってもよい。
【0080】
冷凍機油の酸価は、例えば、1.0mgKOH/g以下、又は0.1mgKOH/g以下であってよい。本明細書において、酸価は、JIS K2501:2003に準拠して測定された酸価を意味する。
【0081】
冷凍機油の体積抵抗率は、例えば、1.0×109Ω・m以上、1.0×1010Ω・m以上、又は1.0×1011Ω・m以上であってよい。本明細書において、体積抵抗率は、JIS C2101:1999に準拠して測定した25℃での体積抵抗率を意味する。
【0082】
冷凍機油の水分含有量は、冷凍機油全量基準で、例えば、200ppm以下、100ppm以下、又は50ppm以下であってよい。
【0083】
冷凍機油の灰分は、例えば、100ppm以下、又は50ppm以下であってよい。本明細書において、灰分は、JIS K2272:1998に準拠して測定された灰分を意味する。
【0084】
この冷凍機油は、上述したような第1の基油と第2の基油とを選択し、第1の基油及び第2の基油を混合することにより製造される。
【実施例】
【0085】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0086】
第1の基油として、表1に示す基油1A~1Eを用いた。なお、表1中の略称の意味は、以下のとおりである。
PE:ペンタエリスリトール
DiPE:ジペンタエリスリトール
iC4酸:2-メチルプロパン酸
iC5酸:2-メチルブタン酸
nC5酸:n-ペンタン酸
iC6酸:2-メチルペンタン酸
iC8酸:2-エチルヘキサン酸
iC9酸:3,5,5-トリメチルヘキサン酸
【0087】
【0088】
これらの第1の基油は、いずれも、R410Aに対して、表1に示す油比率及び二層分離温度(低温側の二層分離温度)を極大点とする凸の形状の二層分離曲線を有する。すなわち、これらの第1の基油は、いずれも、温度30℃以下、油比率1~80質量%の範囲において、R410Aと相溶する相溶領域を有する。また、これらの第1の基油のうち、基油1Aは、R32に対して、30℃以下、油比率10~40質量%において二層分離し、上に凸の形状の二層分離曲線を有さず、相溶領域を有さないが、30℃以下、油比率1~5質量%又は50~80質量%の範囲において、
図2における二層分離曲線C2のように、R32と相溶する相溶領域を有する。基油1B、1C、1D及び1Eは、R32に対して上に凸の形状の二層分離曲線を有しており、その二層分離温度の極大点は、15℃(油比率20質量%)、-16℃(同25質量%)、18℃(同20質量%)、-15℃(同20質量%)であった。
【0089】
第2の基油として、表2に示す基油2A~2Nを用いた。なお、表2中の略称の意味は、以下のとおりである。
NPG:ネオペンチルグリコール
TMP:トリメチロールプロパン
PE:ペンタエリスリトール
DiPE:ジペンタエリスリトール
iC5酸:2-メチルブタン酸
nC5酸:n-ペンタン酸
nC6酸:n-ヘキサン酸
nC7酸:n-ヘプタン酸
iC8酸:2-エチルヘキサン酸
iC9酸:3,5,5-トリメチルヘキサン酸
C18=酸:オレイン酸
【0090】
【0091】
これらの第2の基油は、いずれも、R410AやR32に対して、第1の基油よりも相対的に相溶領域が狭く(冷媒相溶性が低く)、かつ、油比率10~40質量%の範囲において二層分離温度の極大点が20℃以上であるか、30℃以下、油比率10~40質量%の範囲において二層分離温度の極大点を有さない。
【0092】
上記の第1の基油及び第2の基油を表3~8に示した質量比で混合して各基油を調製した。これらの各基油に、冷凍機油全量基準で、0.1質量%の2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(酸化防止剤)、0.001質量%の1,2,3-ベンゾトリアゾール(金属不活性化剤)及び0.5質量%のグリシジルネオデカノエート(酸捕捉剤)を添加して、各冷凍機油を調製した。各冷凍機油の性状を表3~8に示す。なお、表中、低温動粘度低減率(-20℃)は、冷凍機油が第2の基油を含有しない状態(比較例)での冷凍機油の-20℃における動粘度KV1を基準として、KV1に対する第2の基油を含有する状態(実施例)での冷凍機油の-20℃における動粘度KV2の変化率(=(KV1-KV2)/KV1×100)を意味する。また、表中、動粘度低減率(40℃)は、冷凍機油の40℃における動粘度に基づいて、上記低温動粘度低減率(-20℃)として同様に算出した値である。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
実施例1-1~1-4において、第2の基油は、第1の基油とは相溶する。第1の基油に第2の基油を配合した場合には、
図2のC2のような二層分離曲線を示し(上に凸の形状の二層分離曲線を有さない)、30℃以下、油比率1~5質量%又は50~80質量%の範囲においてR410A冷媒若しくはR32冷媒と相溶する相溶領域を有する。第1の基油及び第2の基油を含有する実施例1~4の冷凍機油とR410A若しくはR32冷媒とを混合した作動流体組成物は、
図2における二層分離曲線C2のように、温度30℃以下、油比率10~40質量%の範囲において、相溶領域を有さないため、冷媒溶解粘度を保ったまま圧縮機に戻り、その結果、潤滑性が維持されることになる。
【0100】
また、実施例1-1~1-4の冷凍機油は、温度30℃以下、油比率5質量%以下又は50~80質量%の範囲において、相溶領域を有している。例えば、実施例1~4の冷凍機油は、それぞれ順に、油比率40~80質量%、46~80質量%、50~80質量%、及び60~80質量%の範囲においてR410Aと相溶する相溶領域を有する。この油比率が高い領域においては、冷凍機油の冷媒溶解粘度も高く、冷媒相溶性も良いため、油戻り性がよく、圧縮機の摺動部の潤滑性も維持されることになるうえ、低温・高油比率の場合にも、蒸発器内若しくは蒸発管内の油の滞留が抑制されることで、冷凍機の効率が高まる。また、油比率1~5質量%の領域においては、冷媒比率が高く、冷媒と冷凍機油とが適度に混合されることになり、同様に油戻り性もよくなる。
【0101】
このような冷凍機油を用いた実施例1-1~1-4では、第1の基油のみを含有する冷凍機油を用いた比較例1に比べて、冷媒溶解粘度の低下が抑制されている(同等以上の冷媒溶解粘度を有する冷凍機油が得られる)と共に、冷凍機油が低粘度化(特に低温動粘度の低下)している。同様に、実施例1-5~1-14、2-1、3-1~3-5、4-1、5-1~5-3についても、第1の基油のみを含有する冷凍機油を用いた各比較例に比べて、冷媒溶解粘度の低下が抑制されている(同等以上の冷媒溶解粘度を有する冷凍機油が得られる)と共に、冷凍機油が低粘度化(特に低温動粘度の低下)している。したがって、第1の基油及び第2の基油を含有する冷凍機油を用いることによって、低温において低粘度化することができ、(低温・低油比率下となる)蒸発器内あるいは蒸発管内への油の滞留が抑制され、その結果、冷凍機の効率が向上する。したがって、この冷凍機では、摺動部における潤滑性の低下を抑制しつつ、冷凍機の効率を向上させることが可能となる。さらに、寒冷地や冬季などの低温下において、冷凍機油が低粘度となっているために、低温起動性が向上し、冷凍機の効率が向上する。
【符号の説明】
【0102】
1…圧縮機、2…凝縮器、3…膨張機構、4…蒸発器、5…流路、6…冷媒循環システム、10…冷凍機。