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  • 特許-多足類害虫誘引香料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】多足類害虫誘引香料
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/10 20200101AFI20240627BHJP
   A01N 63/30 20200101ALI20240627BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20240627BHJP
   A01P 19/00 20060101ALI20240627BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A01N63/10
A01N63/30
A01P7/04
A01P19/00
C11B9/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023098967
(22)【出願日】2023-06-16
(62)【分割の表示】P 2022100880の分割
【原出願日】2018-01-24
(65)【公開番号】P2023108020
(43)【公開日】2023-08-03
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】向永 真也
(72)【発明者】
【氏名】菊田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】引土 知幸
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特許第7300043(JP,B2)
【文献】特許第7126831(JP,B2)
【文献】特開2016-222593(JP,A)
【文献】特開2002-338418(JP,A)
【文献】特開2015-051965(JP,A)
【文献】特開2005-035922(JP,A)
【文献】特開2010-285354(JP,A)
【文献】特開平11-130612(JP,A)
【文献】特開平07-179307(JP,A)
【文献】国際公開第2009/084394(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 63/10
A01N 63/30
A01P 7/04
A01P 19/00
C11B 9/00
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品香料を含有する多足類害虫誘引香料であって、
前記食品香料は、鰹・鮪エキス、鰹塩辛エキス、及び鮪エキスからなる群から選択される少なくとも1種である多足類害虫誘引香料。
【請求項2】
前記食品香料は、鮪エキスである請求項1に記載の多足類害虫誘引香料。
【請求項3】
前記食品香料は、水溶性である請求項1又は2に記載の多足類害虫誘引香料。
【請求項4】
多足類害虫防除用毒餌剤の誘引成分として用いられる請求項1~3の何れか一項に記載の多足類害虫誘引香料。
【請求項5】
前記多足類害虫防除用毒餌剤に、0.1~4.9重量%添加される請求項4に記載の多足類害虫誘引香料。
【請求項6】
界面活性剤と併用されない請求項1~5の何れか一項に記載の多足類害虫誘引香料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品香料を含有する多足類害虫誘引香料に関する。
【背景技術】
【0002】
トビズムカデ、アオズムカデ、アカズムカデ等のムカデは、野外環境に生息し、毒腺のある顎肢を用いて小型の虫等を捕食する。しかし、ムカデは温暖な環境を好む習性を有するため家屋等に侵入することが多く、家屋等での人との接触により刺咬被害を引き起こすことがある。そこで、ムカデ等の多足類害虫を防除する毒餌剤が利用されている。このような毒餌剤では、誘引成分を配合することで害虫に対する誘引性が向上されている。
【0003】
例えば、アカムシを含有する食毒剤がある(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の食毒剤は、アカムシを含有することで、アリ類に対する高い誘引性を発揮し、効果的にアリ類を防除するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-135809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
誘引成分の誘引性は、害虫の種類によってその効力の発現に差が生じる。しかしながら、特許文献1の食毒剤は、アリを主な防除対象としたものであり、多足類害虫の防除に最適化されたものではない。そのため、特許文献1の食毒剤は、多足類害虫に対して必ずしも高い誘引性を示すものではない。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ムカデ等の多足類害虫に対して高い誘引性を示す多足類害虫誘引香料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る多足類害虫誘引香料の特徴構成は、
食品香料を含有する多足類害虫誘引香料であって、
前記食品香料は、フレッシュミルクオイル、ストロベリーエッセンス、アセトイン、マンゴーエッセンス、鰹・鮪エキス、カマンベールチーズフレーバー、アップルオイル、鰹塩辛エキス、鮪エキス、バナナエッセンス、ノリフレーバー、イカペースト、及びメープルエッセンスからなる群から選択される少なくとも1種であることにある。
【0008】
本構成の多足類害虫誘引香料によれば、上記の食品香料を含有することにより、多足類害虫、特にムカデに対する優れた誘引性を発揮することができる。
【0009】
本発明に係る多足類害虫誘引香料において、
前記食品香料は、ストロベリーエッセンス、アセトイン、マンゴーエッセンス、鰹・鮪エキス、カマンベールチーズフレーバー、鰹塩辛エキス、鮪エキス、バナナエッセンス、ノリフレーバー、イカペースト、及びメープルエッセンスからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
本構成の多足類害虫誘引香料によれば、上記の食品香料を含有することにより、毒餌剤に配合する際に可溶化のために界面活性剤を添加する必要がない。その結果、多足類害虫誘引香料を含有する毒餌剤の摂食性を低下させることなく誘引性を向上させることができる。
【0011】
本発明に係る多足類害虫誘引香料において、
前記食品香料は、水溶性であることが好ましい。
【0012】
本構成の多足類害虫誘引香料によれば、食品香料が水溶性であることで、毒餌剤に配合する際に可溶化のために界面活性剤を添加する必要がない。その結果、多足類害虫誘引香料を含有する毒餌剤の摂食性を低下させることなく誘引性を向上させることができる。
【0013】
本発明に係る多足類害虫誘引香料において、
多足類害虫防除用毒餌剤の誘引成分として用いられることが好ましい。
【0014】
本構成の多足類害虫誘引香料によれば、多足類害虫防除用毒餌剤の誘引成分として用いられることで、多足類害虫に対する優れた誘引性を発揮して、多足類害虫に多足類害虫防除用毒餌剤を摂食させることができるため、多足類害虫を効果的に防除することができる。
【0015】
本発明に係る多足類害虫誘引香料において、
前記多足類害虫防除用毒餌剤に、0.1~4.9重量%添加されることが好ましい。
【0016】
本構成の多足類害虫誘引香料によれば、上記の範囲で添加されることで、多足類害虫に対する優れた誘引性を発揮することができる。
【0017】
本発明に係る多足類害虫誘引香料において、
界面活性剤と併用されないことが好ましい。
【0018】
本構成の多足類害虫誘引香料によれば、界面活性剤と併用されないことで、多足類害虫誘引香料が含有される毒餌剤の摂食性を低下させることなく誘引性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、食品香料へのトビズムカデの平均接触回数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る多足類害虫誘引香料は、食品香料を含有する多足類害虫誘引香料である。本発明の多足類害虫誘引香料は、多足類害虫防除用毒餌剤に配合し、毒餌剤の多足類害虫に対する誘引性を向上させる誘引成分として用いることが可能である。以下、本発明の多足類害虫誘引香料に関する実施形態の一例として、多足類害虫誘引香料を配合した多足類害虫防除用毒餌剤について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0021】
<多足類害虫防除用毒餌剤>
多足類害虫防除用毒餌剤は、誘引成分である本発明の多足類害虫誘引香料、害虫防除成分、摂食促進成分である糖類、保湿成分である多価アルコール、及び水を含有する薬液を含むことが好ましい。薬液は、ゲル状体、マット体、及びシート体等の薬液保持体に保持されていることが好ましい。
【0022】
<薬液>
[多足類害虫誘引香料]
ムカデは、動物性蛋白質からフルーツ、樹液等の植物由来の物質まで幅広い食性を有し、特に好む食物は諸説ある。本発明者らは、ムカデの誘引性について詳細に検討を行ったところ、ムカデは特定の種類の食品香料に強く誘引される傾向があることが判明した。この新たな知見に基づき、特定の種類の食品香料を含有させた結果、優れた誘引効果が認められた。本発明の多足類害虫防除用毒餌剤が含有する食品香料は、フレッシュミルクオイル、ストロベリーエッセンス、アセトイン、マンゴーエッセンス、鰹・鮪エキス、カマンベールチーズフレーバー、アップルオイル、鰹塩辛エキス、鮪エキス、バナナエッセンス、ノリフレーバー、イカペースト、及びメープルエッセンスが挙げられる。これらの食品香料は、単独で使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。さらに、本発明者らによるムカデの誘引性についての検討過程において、多足類害虫防除用毒餌剤に界面活性剤を添加した場合に、ムカデに対する摂食性が低下する傾向があることが明らかとなった。そのため、本発明の多足類害虫誘引香料は、界面活性剤と併用されないことが好ましく、界面活性剤の添加が不要となる水溶性の食品香料を含有することが好ましい。そのような水溶性の食品香料として、例えば、ストロベリーエッセンス、アセトイン、マンゴーエッセンス、鰹・鮪エキス、カマンベールチーズフレーバー、鰹塩辛エキス、鮪エキス、バナナエッセンス、ノリフレーバー、イカペースト、及びメープルエッセンスが挙げられる。薬液中の多足類害虫誘引香料の含有量は、0.1~5重量%が好ましい。薬液が薬液保持体に保持された多足類害虫防除用毒餌剤の状態では、多足類害虫誘引香料の含有量は、0.1~4.9重量%が好ましい。このような範囲であれば、多足類害虫に対する優れた誘引性を発揮することができる。多足類害虫防除用毒餌剤中の多足類害虫誘引香料の含有量が0.1重量%未満であると、多足類害虫の誘引性が不十分なものとなる場合がある。一方、多足類害虫防除用毒餌剤中の多足類害虫誘引香料の含有量が4.9重量%を超えると、多足類害虫防除用毒餌剤を閉鎖空間に設置した場合等に、臭気が過剰に強くなる虞がある。
【0023】
[害虫防除成分]
薬液の主成分の一つである害虫防除成分は、ムカデ、ヤスデ等の多足類害虫の駆除に有効な成分であることが好ましい。そのような成分として、ネオニコチノイド系殺虫剤、カーバメート系殺虫剤が挙げられ、特に、ネオニコチノイド系殺虫剤が好ましい。ネオニコチノイド系殺虫剤としては、例えば、ジノテフラン、アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアクロプリド、チアメトキサム、及びニテンピラムが挙げられ、特に、ジノテフランが好ましい。なお、ジノテフランには、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在するが、それらも害虫防除成分に含まれる。カーバメート系殺虫剤としては、プロポクスル、カルバリル、メソミル、チオジカルブが挙げられ、特に、プロポクスルが好ましい。これらのネオニコチノイド系殺虫剤、及びカーバメート系殺虫剤は、単独で使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。薬液中の害虫防除成分の含有量は、0.1~1.0重量%が好ましい。このような範囲であれば、薬液が薬液保持体によって保持された状態においても、害虫防除成分の効果を奏することができる。薬液中の害虫防除成分の含有量が0.1重量%未満である場合、害虫防除成分が不足し殺虫効果が不十分なものとなる。一方、薬液中の害虫防除成分の含有量が1.0重量%を超える場合、害虫防除成分の濃度が高くなるため、薬液を適切に調製し難くなる。
【0024】
[摂食促進成分]
薬液の主成分の一つである摂食促進成分は、糖類であることが好ましい。糖類としては、例えば、グルコース、及びフルクトース等の単糖類、スクロース、マルトース、及びトレハロース等の二糖類、三温糖、グラニュー糖、及び上白糖等の精製糖が挙げられ、特に、三温糖が好ましい。これらの糖類は、単独で使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。また、糖類だけではなく、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール、及びその他の甘味料を摂食促進成分として配合することも可能である。薬液中の摂食促進成分の含有量は、10~70重量%が好ましい。このような範囲であれば、多足類害虫に対する優れた摂食性を発揮することができ、さらに、低温でも摂食促進成分が結晶化することがないため多足類害虫防除用毒餌剤の保存性に優れる。薬液中の摂食促進成分の含有量が10重量%未満であると、多足類害虫の摂食性が不十分なものとなる場合がある。一方、薬液中の摂食促進成分の含有量が70重量%を超えると、低温環境において摂食促進成分が結晶化する虞がある。
【0025】
[保湿成分]
薬液の主成分の一つである保湿成分は、多価アルコールであることが好ましい。多価アルコールとしては、例えば、グリセリンや、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、及びベンジルグリコール等のグリコール類が挙げられ、特に、グリセリンが好ましい。これらの多価アルコールは、単独で使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。薬液中の保湿成分の含有量は、10~40重量%が好ましい。保湿成分の含有量がこのような範囲であれば、多足類害虫防除用毒餌剤を設置後、乾燥、変質を防ぎ、多足類害虫誘引香料による誘引性を長期間にわたって維持することができる。薬液中の保湿成分の含有量が10重量%未満であると、設置後に多足類害虫防除用毒餌剤が早期に乾燥、変質し、ムカデに対する誘引性及び摂食性を維持できない虞がある。薬液中の保湿成分の含有量が40重量%を超える場合、保湿成分の濃度が高くなるため、薬液を適切に調製し難くなる。
【0026】
[その他の成分]
薬液には、本発明の効果に支障を来たさない限り、必要に応じ、カビ類や菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤、殺菌剤、ビトレックス等の苦味剤、pH調整剤、着色剤等を適宜配合してもよい。防カビ剤、抗菌剤、及び殺菌剤としては、ヒノキチオール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-チアゾリル)ベンツイミダゾール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、トリホリン、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、オルト-フェニルフェノール等が挙げられる。また、上述したように、多足類害虫防除用毒餌剤に界面活性剤を添加した場合、ムカデに対する摂食性が低下する傾向があるため、多足類害虫誘引香料を配合する多足類害虫防除用毒餌剤は、界面活性剤を含有しないことが好ましい。
【0027】
<薬液保持体>
本発明の多足類害虫誘引香料を含む薬液を保持する薬液保持体としては、薬液をゲル化剤を用いてゲル化させたゲル状体、薬液をマットに吸収させたマット体、薬液をシートに吸収させたシート体等が挙げられる。例えば、薬液保持体としてゲル状体を用いる場合、ゲル状の多足類害虫防除用毒餌剤を形成することができる。これにより、多足類害虫防除用毒餌剤は、取り扱いが容易なものとなり、さらに、長期間にわたって乾燥することなく、多足類害虫を防除することができる。ゲル化剤としては、例えば、吸水性樹脂、キサンタンガム、カラギナン、ローカストビーンガム、及び寒天等が挙げられる。ここで、本発明者らは、ゲル化剤の種類によって摂食性に相違があることを見出し、ゲルの性状に注目してムカデに対する摂食性を検討したところ、曳糸性の高いゲルではムカデに対する摂食性が低下する傾向があることが判明した。そのため、ゲル化剤としては、曳糸性が低い吸水性樹脂が好ましい。そのような吸水性樹脂として、自重の100倍以上の水を吸収することができるアクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物等のアクリル酸系吸水性ポリマーが挙げられる。薬液とゲル化剤とは、重量比として、20:1~70:1で配合されることが好ましい。薬液とゲル化剤との配合比がこのような範囲であれば、ムカデが摂食しやすい硬さ、及び含水率の粒状の毒餌剤が得られ、ムカデに対する高い防除効果を奏することができる。薬液とゲル化剤との配合比が20:1より小さい、即ち薬液をゲル化剤に対して20:1の配合比よりも減らすと、多足類害虫誘引香料による誘引性が十分に効力を示さず、多足類害虫を効果的に誘引できない虞がある。薬液とゲル化剤との配合比が70:1より大きい、即ち薬液をゲル化剤に対して70:1の配合比よりも増やすと、多足類害虫防除用毒餌剤の粘度が過度に小さくなり、取り扱いの面で不便なものとなる虞がある。
【0028】
マット体は、繊維材料からなる繊維質担体である。シート体は、繊維材料からなるメッシュ状繊維シート、織布、不織布、編物等である。繊維材料としては、例えば、パルプ、リンター、木綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、レーヨン等の半合成繊維、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド、ポリフェニレンサルファイド等の合成繊維が挙げられる。薬液保持体としてマット体、又はシート体を用いる場合、必ずしも多足類害虫誘引香料を薬液中に均一に溶解させる必要はなく、多足類害虫誘引香料が薬液中に分散した状態でも、薬液を薬液保持体に含浸させることで多足類害虫に対する誘引性を発揮することができる。そのため、薬液に界面活性剤を添加することなく、多足類害虫誘引香料に水溶性の低い食品香料を用いて、比較的容易に多足類害虫防除用毒餌剤を調製することができる。
【実施例
【0029】
以下、本発明の多足類害虫誘引香料を含有する多足類害虫防除用毒餌剤を用いて実施したムカデの誘引性、及び摂食性に関する実施例について説明する。なお、以下の実施例では重量の単位として「g」が示されているが、任意の倍率でスケールアップが可能である。すなわち、単位「g」は、「重量部」と読み替えることができる。
【0030】
〔実施例1〕
誘引成分として本発明の多足類害虫誘引香料であるアセトイン1g、及び鮪エキス1g、害虫防除成分としてジノテフラン0.3g、摂食促進成分として三温糖40g、保湿成分としてグリセリン20g、その他の成分としてイソチアゾリン系抗菌剤0.02g、及びビトレックス0.002gを、精製水に混合して100gとすることで、薬液を調製した。さらに、吸水性樹脂(三洋化成、サンフレッシュ)0.3gに薬液10gを分注して膨潤させることで、実施例1の多足類害虫防除用毒餌剤を得た。
【0031】
実施例1の多足類害虫防除用毒餌剤は、ゲル状の粒状体の集塊となり、取り扱いが容易であった。
【0032】
〔実施例2〕
誘引成分として本発明の多足類害虫誘引香料であるストロベリーエッセンス1g、及び鰹・鮪エキス1g、害虫防除成分としてジノテフラン0.3g、摂食促進成分として三温糖20g、保湿成分としてグリセリン20g、その他の成分としてイソチアゾリン系抗菌剤0.02g、及びビトレックス0.002gを、精製水に混合して100gとすることで、薬液を調製した。さらに、パルプ製マット体(12mm×6.3mm×厚み15mm)に薬液4gを分注して保持させることで、実施例2の多足類害虫防除用毒餌剤を得た。
【0033】
〔実施例3〕
誘引成分として本発明の多足類害虫誘引香料であるフレッシュミルクオイル1g、及びアップルオイル1g、害虫防除成分としてジノテフラン0.3g、摂食促進成分として三温糖20g、保湿成分としてグリセリン20g、その他の成分としてイソチアゾリン系抗菌剤0.02g、及びビトレックス0.002gを、精製水に混合して100gとすることで、薬液を調製した。さらに、パルプ製マット体(12mm×6.3mm×厚み15mm)に薬液4gを分注して保持させることで、実施例3の多足類害虫防除用毒餌剤を得た。
【0034】
石膏を流し込んだプラスチックケース(幅21cm、長さ37cm、高さ28cm)に供試虫(トビズムカデ)を1匹放ち、馴化させた後に、実施例1の多足類害虫防除用毒餌剤(ゲル状体)2g、実施例2の多足類害虫防除用毒餌剤(マット体)、実施例3の多足類害虫防除用毒餌剤(マット体)を夫々プラスチックケースに設置して、トビズムカデの行動を観察したところ、実施例1~3の多足類害虫防除用毒餌剤は、何れもムカデに対して優れた誘引性、摂食性、及び致死効果を示した。
【0035】
様々な食品香料について誘引性確認試験を行い、ムカデに対する高い誘引性を有する食品香料を選定した。誘引性確認試験では、石膏を流し込んだプラスチックケース(幅21cm、長さ37cm、高さ28cm)に供試虫(トビズムカデ)を1匹放ち、馴化させた後に、食品香料のサンプル2gを入れたシャーレ(直径3.8cm、高さ1cm、蓋に直径2mmの小孔を6つ開口)をプラスチックケースに設置して、トビズムカデの行動を1時間観察した。プラスチックケースはサンプル毎に3つ用意し、シャーレへのトビズムカデの平均接触回数を求めた。図1は、食品香料へのトビズムカデの平均接触回数を示すグラフである。図1には、コントロールとして水道水2gを入れたシャーレへのトビズムカデの平均接触回数(2.9回)を合わせて示している。
【0036】
誘引性確認試験の結果、平均接触回数が5回以上である食品香料を、ムカデに対する誘引性が高い食品香料として選定した。具体的には、図1において破線より上側に示したフレッシュミルクオイル、ストロベリーエッセンス、アセトイン、マンゴーエッセンス、鰹・鮪エキス、カマンベールチーズフレーバー、アップルオイル、鰹塩辛エキス、鮪エキス、バナナエッセンス、ノリフレーバー、イカペースト、及びメープルエッセンスが、平均接触回数が5回以上となり優れた誘引性を有することが確認された。
【0037】
〔実施例4~10、比較例1~2、参考例1〕
実施例1に準じて表1に示す各種の組成で多足類害虫防除用毒餌剤(ゲル状体)を調製し、摂食性確認試験を実施した。
【0038】
摂食性確認試験では、石膏を流し込んだプラスチックケース(幅21cm、長さ37cm、高さ28cm)に供試虫(トビズムカデ)を1匹放ち、馴化させた後に、自由移動中のムカデの前方、又は静止中のムカデの頭部付近に実施例4~10の各ゲル状体を提示し、摂食回数を記録し、摂食率(%)を下式により求めた。比較例1及び2、並びに参考例1のゲル状体についても同様の試験を実施した。試験結果を、表1に示す。
摂食率(%) = Ce/Cd × 100
Cd:ゲル状体の提示回数
Ce:摂食回数
【0039】
【表1】
【0040】
摂食性確認試験の結果、誘引成分として本発明の特徴構成を備えた多足類害虫誘引香料を含有する実施例4~10の多足類害虫防除用毒餌剤では、複数種類の食品香料を含有する実施例4~6、8~10、及び食品香料を1種類のみ含有する実施例7の何れでも摂食率が41%以上となり、多足類害虫誘引香料によって誘引されることにより、優れた摂食性を示すことが確認された。また、本発明に規定する多足類害虫誘引香料の好ましい含有量の範囲である0.1~4.9重量%で多足類害虫誘引香料を含有する実施例4~9の多足類害虫防除用毒餌剤のうち、摂食促進成分の含有量が最も少ない実施例4の摂食率が最も低く、摂食促進成分の含有量が最も多い実施例9の摂食率が最も高くなることから、摂食促進成分の含有量が多い程、多足類害虫防除用毒餌剤の摂食性が向上する傾向が確認された。実施例10は、本発明に規定する多足類害虫誘引香料の好ましい含有量の範囲である0.1~4.9重量%から外れた値(アセトイン0.04重量%、鰹・鮪エキス0.04重量%)で多足類害虫誘引香料を含有するように調製されている。実施例10では、多足類害虫誘引香料の含有量以外の組成が同一である実施例6の多足類害虫防除用毒餌剤と比較して、摂食率が低下することが確認された。なお、実施例4~10の多足類害虫防除用毒餌剤は、ゲル状の粒状体の集塊となり、中でも薬液とゲル化剤との配合比が30:1である実施例5と、薬液とゲル化剤との配合比が50:1である実施例4、6、7、9、及び10とは、適度な硬さを有し取り扱いが容易であった。薬液とゲル化剤との配合比が70:1である実施例8は、他のものと比較して粘度がやや低くなったが、十分な取り扱い性を有するものであった。このように、本発明の特徴構成を備えた多足類害虫誘引香料を含有する実施例4~10の多足類害虫防除用毒餌剤は、誘引性、摂食性、及び取り扱い性に優れるものであり、多足類害虫の防除に適することが確認された。
【0041】
一方、誘引成分として多足類害虫誘引香料を含有していない比較例1の多足類害虫防除用毒餌剤では、誘引成分以外の組成が同一である実施例6の多足類害虫防除用毒餌剤と比較して、摂食率が低下することが確認された。誘引成分として本発明の多足類害虫誘引香料とは異なる食品香料(ヨーグルトフレーバー、及び鮭オイルフレーバー)を含有する比較例2の多足類害虫防除用毒餌剤では、誘引成分以外の組成が同一である実施例6の多足類害虫防除用毒餌剤と比較して、摂食率が低下することが確認された。このように、本発明の特徴構成を備えていない比較例1及び2の多足類害虫防除用毒餌剤は、何れも摂食率が37%以下の低い値であり、摂食性が劣るものであることが確認された。
【0042】
なお、界面活性剤を含有する参考例1の多足類害虫防除用毒餌剤は、界面活性剤以外の組成が、摂食促進成分を60重量%含有し摂食率が最も高い88%であった実施例9の多足類害虫防除用毒餌剤と同一であるにも関わらず、摂食率が0%であった。このことから、多足類害虫防除用毒餌剤に界面活性剤を添加した場合、ムカデに対する摂食性が低下することが確認された。以上の結果より、誘引性確認試験においてムカデに対する誘引性が高い食品香料として選定したもののうち、水溶性が高いストロベリーエッセンス、アセトイン、マンゴーエッセンス、鰹・鮪エキス、カマンベールチーズフレーバー、鰹塩辛エキス、鮪エキス、バナナエッセンス、ノリフレーバー、イカペースト、及びメープルエッセンスは、多足類害虫防除用毒餌剤を調製する際に、可溶化剤として界面活性剤を添加する必要がないため、多足類害虫防除用毒餌剤に含有させる食品香料としてより適することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の多足類害虫誘引香料は、ムカデ、ヤスデ等の多足類害虫を誘引し駆除する用途として毒餌剤や捕獲器に利用可能であり、多足類害虫のうち特に、トビズムカデ、アオズムカデ、アカズムカデ等のムカデ類に対して好適に利用可能であり、さらにはワラジムシ、ダンゴムシ等にも利用可能である。
図1