(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーパウダー分散剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 23/52 20220101AFI20240627BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20240627BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20240627BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240627BHJP
C09D 101/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C09K23/52
C08L33/02
C08K5/00
C08L1/02
C09D101/00
(21)【出願番号】P 2023202041
(22)【出願日】2023-11-29
【審査請求日】2023-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500439548
【氏名又は名称】株式会社成光工業
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松尾 光祐
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/226061(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/065788(WO,A1)
【文献】特開2022-025675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 23/00
C09D 101/00
C08L 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーパウダー分散剤であって、
75~90重量%のセルロースナノファイバー、7~12重量%のエチレングリコール、0.2~0.5重量%のアクリル酸コポリマー、0.4~0.8重量%の水溶性ソルビタン、0.6~1.0重量%の高級脂肪酸、及び0.4~0.8重量%のアルキルアンモニウム塩を含
み、
前記高級脂肪酸が、高分子量アルキロールアミノアマイド及びポリグリコールポリエステル変性ポリアルキレンイミンの混合物であり、
前記アルキルアンモニウム塩が、高分子量共重合物のアルキルアンモニウム塩である、セルロースナノファイバーパウダー分散剤。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維長さが0.1μm~3.0μmの範囲内である、請求項1に記載のセルロースナノファイバーパウダー分散剤。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維径が0.5nm~10nmの範囲内である、請求項1又は2に記載のセルロースナノファイバーパウダー分散剤。
【請求項4】
セルロースナノファイバーパウダー分散剤の製造方法であって、
セルロースナノファイバー分散液を準備する工程A、及び
前記セルロースナノファイバー分散液を2本ロールミルに供給して、前記2本ロールミルを回転させることにより、前記セルロースナノファイバー分散液を乾燥し、セルロースナノファイバーパウダーを得る工程B
を含み、
前記セルロースナノファイバー分散液は、固形分で75~90重量%のセルロースナノファイバー、7~12重量%のエチレングリコール、0.2~0.5重量%のアクリル酸コポリマー、0.4~0.8重量%の水溶性ソルビタン、0.6~1.0重量%の高級脂肪酸、及び0.4~0.8重量%のアルキルアンモニウム塩を含むように調製され
、
前記高級脂肪酸が、高分子量アルキロールアミノアマイド及びポリグリコールポリエステル変性ポリアルキレンイミンの混合物であり、
前記アルキルアンモニウム塩が、高分子量共重合物のアルキルアンモニウム塩である、方法。
【請求項5】
前記工程Bにおいて、前記2本ロールミルの表面温度を95℃~130℃に加熱することを含む、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーパウダー分散剤及びその製造方法に関する。とりわけ、本発明は、水中、油中問わず、マイクロサイズの植物繊維、合成繊維、無機及び有機顔料、カーボン、炭酸カルシウム、ガラスファイバーなどの様々なフィラーに対する分散効果の優れたセルロースナノファイバーパウダー分散剤、及びそのようなセルロースナノファイバーパウダー分散剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(「Cellulose Nano Fiber」としても知られている。以下、単に「CNF」と称することもある。)は、植物由来の次世代素材であり、鋼鉄の5分の1の重量でその5倍の強度が得られると言われている。セルロースナノファイバーを自動車や家電等に活用することで、軽量化の効果が得られ、エネルギー効率が向上し、地球温暖化対策に多大なる貢献が期待できる。CNFの社会実装にむけて、経済産業省・農林水産省は連携事業として、自動車、家電、住宅・建材等の各分野においてモデル事業を実施し、CO2削減効果の評価・検証、関連する課題の解決策について実証を推進している。
【0003】
セルロースナノファイバーの応用例の1つとして、特許文献1(特開2022-044861号公報)には、70℃から160℃の範囲内で溶融する樹脂と、セルロースナノファイバーの繊維の粉体と、を備えたセルロースナノファイバーの繊維を含有するホットメルト接着剤が開示されている。このようなホットメルト接着剤は、瞬時に接着部分を固化させることができるとともに、低温下でも接着性に優れ、また、接着面を強固に保持できると開示されている。
【0004】
さらに、近年、セルロースナノファイバーは水性塗料などにも多く使われ始めており、また保湿性などの特性を取り入れた化粧品、食品にも利用され始めている。ほかにも、セルロースナノファイバーがガラス、金属、カーボンよりも比重が軽く、ナノサイズの繊維長は樹脂の強度アップ等の機能改善が期待できることから、補強材料として樹脂材料に添加する理想的な素材になり得る。
【0005】
セルロースナノファイバーは一般的に、固形分1~10重量%程度で水などの分散媒に分散させた分散液(スラリーやゾルなど)の状態で販売提供されて、通常は製造された所定濃度のセルロースナノファイバー分散液のまま工業材料あるいは食品や化粧品の添加物材料として各種用途に使用されている。一方、疎水性の樹脂やゴムなどの材料への複合化には、水分除去が必要となる。現在、セルロースナノファイバーを水で分散させた分散液から水を取り除く方法はいくつかあり、典型的には沈殿法、遠心分離法、濾過法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法などが挙げられる。
【0006】
例えば、特許文献2(特開2022-028316号公報)には、セルロースナノファイバーを凍結乾燥するための容器として、内部にブライン液を貯留する本体部と、前記本体部の外周を覆い、熱媒体が供給されるジャケットとを備え、前記本体部は、熱媒体が前記ジャケットに供給されることで前記ブライン液を冷却可能なものであることを特徴とする容器が開示されている。特許文献2によれば、セルロースナノファイバーの凝集を抑えながらセルロースナノファイバー分散液を凍結させることができる容器を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2022-044861号公報
【文献】特開2022-028316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、セルロースナノファイバーの乾燥体であるセルロースナノファイバーパウダーについて、これを分散剤として用いることに関する検討はこれまで十分になされていない。本発明者の知見によれば、適切な組成を有するセルロースナノファイバーパウダーは、水中、油中の両性で適用することが可能であり、場合によっては既存の界面活性剤の臨界ミセル濃度を超えた分散性能が実現可能である。
【0009】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、一実施形態において、フィラー(個体粒子)を水中、油中の溶媒に分散させることが可能なセルロースナノファイバーパウダー分散剤を提供することを目的とする。本発明は別の実施形態において、そのようなセルロースナノファイバーパウダー分散剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意検討した結果、従来技術と異なる手法により上記課題を解決できることを発見した。すなわち、特定の成分を含んだ状態でセルロースナノファイバーパウダー分散剤を作製することにより、水中、油中のどちらにおいても、セルロースナノファイバーパウダー分散剤は、フィラーを溶媒に分散させる効果を良好に発揮することができる。本発明は当該知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
【0011】
[1]
セルロースナノファイバーパウダー分散剤であって、
75~90重量%のセルロースナノファイバー、7~12重量%のエチレングリコール、0.2~0.5重量%のアクリル酸コポリマー、0.4~0.8重量%の水溶性ソルビタン、0.6~1.0重量%の高級脂肪酸、及び0.4~0.8重量%のアルキルアンモニウム塩を含む、セルロースナノファイバーパウダー分散剤。
[2]
前記セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維長さが0.1μm~3.0μmの範囲内である、[1]に記載のセルロースナノファイバーパウダー分散剤。
[3]
前記セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維径が0.5nm~10nmの範囲内である、[1]又は[2]に記載のセルロースナノファイバーパウダー分散剤。
[4]
セルロースナノファイバーパウダー分散剤の製造方法であって、
セルロースナノファイバー分散液を準備する工程A、及び
前記セルロースナノファイバー分散液を2本ロールミルに供給して、前記2本ロールミルを回転させることにより、前記セルロースナノファイバー分散液を乾燥し、セルロースナノファイバーパウダーを得る工程B
を含み、
前記セルロースナノファイバー分散液は、固形分で75~90重量%のセルロースナノファイバー、7~12重量%のエチレングリコール、0.2~0.5重量%のアクリル酸コポリマー、0.4~0.8重量%の水溶性ソルビタン、0.6~1.0重量%の高級脂肪酸、及び0.4~0.8重量%のアルキルアンモニウム塩を含むように調製される、方法。
[5]
前記工程Bにおいて、前記2本ロールミルの表面温度を95℃~130℃に加熱することを含む、[4]に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、フィラー(個体粒子)を水中、油中の溶媒に分散させることが可能なセルロースナノファイバーパウダー分散剤を提供することができる。本発明の別の実施形態によれば、そのようなセルロースナノファイバーパウダー分散剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態における、2本ロールミルの構造及び動作原理を説明するための模式図である。
【
図2A】本発明の実施例において、2本ロールミルにより、セルロースナノファイバー分散液が乾燥された状態を示す写真である。
【
図2B】本発明の実施例において、2本ロールミルにより、セルロースナノファイバーパウダー分散剤が得られたことを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0015】
(1.セルロースナノファイバーの原材料)
セルロースナノファイバーは、植物繊維の主成分であるセルロースをナノサイズに細かく粉砕したものであり、主な原材料は木材パルプ(紙の原料)である。樹脂材料を補強するとともに、低温下での樹脂の収縮を防止することを主目的として使用される。本発明において、セルロースナノファイバーの原材料は特に限定されない。
【0016】
セルロースナノファイバーは、通常植物由来の素材であるため、植物から取り出した段階では、水に分散したスラリーの状態にある。固形分は通常1~10重量%である。例えば、セルロースナノファイバーの分散液からパウダーとしての分散剤を製造する場合、まず水に分散しているセルロースナノファイバー水分散液から水分だけを除去し、セルロースナノファイバー単体を取り出す必要がある。また、セルロースナノファイバー単体を水又は水以外の分散媒に再分散させた再分散液から、再度セルロースナノファイバー単体を取り出す場合も想定される。そのため、本発明において、セルロースナノファイバー分散液における分散媒は水に限定されない。もっとも、好ましくは、セルロースナノファイバー分散液における分散媒は水である。
【0017】
なお、前述のように、セルロースナノファイバー分散液における固形分は通常1~10重量%であるが、さらに1重量%未満に希釈されたものである場合もある。そのため、セルロースナノファイバー分散液を予備的に乾燥することもできる。予備乾燥の方法は特に限定されず、従来の方法のいずれかを採用することができる。セルロースナノファイバー分散液を、例えば最大固形分12重量%に予備乾燥して、後述の本発明の乾燥方法を実施することができる。
【0018】
後述のように、特定の条件でセルロースナノファイバー分散液を乾燥すると、セルロースナノファイバーパウダーが得られる。セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維長さが0.1μm以上であることが好ましい。これにより、分散安定性の効果が期待できる。この観点から、セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維長さが0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらにより好ましく、0.5μm以上であることがさらにより好ましい。セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維長さが0.1μm以上であれば、平均繊維径に対して高いアスペクト比を持つ。
【0019】
また、セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維長さが3.0μm以下であることが好ましい。これにより、セルロースナノファイバーパウダーが加工で球状に丸まることを抑制できる。この観点から、セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維長さが2.5μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらにより好ましく、1.0μm以下であることがさらにより好ましい。
【0020】
なお、セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維長さとは、セルロースナノファイバーパウダーの繊維について、JIS Z8825:2022のレーザー回折・散乱法に従って測定されるD50(メディアン径)を意味する。
【0021】
セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維径が0.5nm以上であることが好ましい。これにより、分散安定性の効果が期待できる。この観点から、セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維径が0.7nm以上であることがより好ましく、1nm以上であることがさらにより好ましく、3nm以上であることがさらにより好ましい。
【0022】
また、セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維径が10nm以下であることが好ましい。セルロースナノファイバーパウダーが太くなりすぎると、アスペクト比が下がり、立体障害として粒子間距離が保てなくなる場合がある。この観点から、セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維径が8nm以下であることがより好ましく、7nm以下であることがさらにより好ましく、5nm以下であることがさらにより好ましい。
【0023】
なお、セルロースナノファイバーパウダーの平均繊維径とは、セルロースナノファイバーパウダーの繊維について、JIS Z8828:2019の動的光散乱法に従って測定される平均粒子径を意味する。
【0024】
(2.セルロースナノファイバーパウダー)
以下、本発明のセルロースナノファイバーパウダーの分散剤としての利用価値及び優位性について説明する。
【0025】
従来では、フィラー(個体粒子)を水中、油中の溶媒に分散させるには親水性、疎水性の溶媒に適した界面活性剤が使われる。粒子の分散というよりも分離防止、安定性を求める場合、機械的に乳化された水中、油中の混合媒体で効果的なフィラーの分散剤として、両性界面活性剤が使われている。水に溶けている両性界面活性剤は、濃度が低い場合には1つの分子がばらばらに存在するよりも、界面(表面)に集まって配列しやすい性質がある。水中の両性界面活性剤濃度を高くしていくと水面は界面活性剤の分子で覆われ、水中では数多くの界面活性剤分子がお互いに集まり、親水基側は水側に向けたミセルができている。臨界ミセル濃度の状態にミセルができていれば、疎水性フィラーをミセルの中に取り込むことで、水中での分散が可能となる。
【0026】
しかし、アルミ、シリカなどで表面処理された無機顔料、または高濃度で使う目的のカーボンなどは、分子間引力が強いため、水中のミセルで取り込む前に大きな凝集体ができてしまう。油中でも同じことが起きてしまう。そのため、界面活性剤だけでは分散性に限界があり、機械分散と併用しなければならないのが現状である。
【0027】
一方、セルロースナノファイバーパウダーは、カーボンナノチューブ、微粒子ナノカーボン、ナノシリカよりも、フレキシブルでアスペクト比が大きな繊維形状であり、網目構造に拡散すると、他のフィラーの立体障害として保持安定性が高いため、分散剤として利用することに大きなポテンシャルを持っている。
【0028】
ここで、例えば1~8重量%のセルロースナノファイバー水溶液などの分散液は水中に拡散し他のフィラーを分散させる役割もあるため、近年、セルロースナノファイバー水溶液を塗料やコーティング剤のフィラー用分散剤として利用されることがある。また、化粧品分野でも使用され、水溶性保湿素材の粒子拡散の均一性を向上させる効果が認められている。このように、セルロースナノファイバー水溶液を分散剤として使用する方法はいくつか確立してきている。これは、セルロースナノファイバーが非常に細長いナノスケールの繊維であり、構造的に親水性を持ち、その親水性とナノサイズの拡散能力がセルロースナノファイバー水溶液の強い界面エントロピーを分散能力として活かすことができるからである。そのため、セルロースナノファイバーパウダーは分散剤として、界面活性剤よりも優れた分散性が期待される。
【0029】
しかしながら、従来の技術では、この分散実現はセルロースナノファイバー水溶液に限られ、また疎水性の物質を水中のみしか分散できないため、適用範囲は限定的である。そのため、セルロースナノファイバー水溶液を乾燥させ、パウダーとして使用することが考えられるが、セルロースナノファイバー分散液を単純に乾燥させただけでは、油中はおろか、水中でも元の分散体の状態に戻ることが難しく、他のフィラーの分散剤としての役割は果たせない、という問題がある。
【0030】
そこで、本発明は、水中、油中のどちらの媒体下でもセルロースナノファイバー自体を分散させ、乾燥体を得ることで、溶媒が水中、油中問わず、ナノ素材の中でも溶媒に拡散後の分散安定性、分散保持が優れているセルロースナノファイバーパウダーを得ることに成功した。このような分散剤としてのセルロースナノファイバーパウダーは、マイクロサイズの植物繊維、合成繊維、無機及び有機顔料、カーボン、炭酸カルシウム、ガラスファイバーなどの様々なフィラーの分散剤として用いることができる。本発明の一部好ましい実施形態では、セルロースナノファイバーパウダー分散剤は、フィラーを分散させるミセルで、従来技術の限界を超えた領域に利用できるという利点がある。
【0031】
本発明の一実施形態において、セルロースナノファイバーパウダー分散剤は、75~90重量%のセルロースナノファイバー、7~12重量%のエチレングリコール、0.2~0.5重量%のアクリル酸コポリマー、0.4~0.8重量%の水溶性ソルビタン、0.6~1.0重量%の高級脂肪酸、及び0.4~0.8重量%のアルキルアンモニウム塩を含む。
【0032】
セルロースナノファイバーの量が75重量%を下回ると、セルロースナノファイバーを核とする分散剤の分散効果が薄まる。この観点から、セルロースナノファイバーの量は75重量%以上であり、好ましくは78重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上であり、さらにより好ましくは82重量%以上であり、さらにより好ましくは85重量%以上である。一方、セルロースナノファイバーの量が90重量%を超えると、他の成分による効果が薄まるので、分散剤の分散効果が低下する。この観点から、セルロースナノファイバーの量は90重量%以下であり、好ましくは89重量%以下であり、より好ましくは88重量%以下である。
【0033】
エチレングリコールは、水溶性の溶剤としての機能を持ち、他の化学物質との結合力が高く、熱安定剤としても利用されている。セルロースナノファイバーは化学的な結合は起きないが、エチレングリコールは植物系繊維への吸着性が高く、セルロースナノファイバーへの湿潤効果を持っている。
【0034】
エチレングリコールの添加量は、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の総重量に対して、7~12重量%となるように添加される。エチレングリコールの添加量が7重量%を下回るとその効果を十分に発揮できない。この観点から、エチレングリコールの添加量は好ましくは8重量%以上であり、より好ましくは9重量%以上である。一方、エチレングリコールの添加量が12重量%を超えると、べたつきが多く、加工性が悪くなる。この観点から、エチレングリコールの添加量は好ましくは11重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。なお、エチレングリコールは、通常水溶液の状態で添加するが、単体として添加してもよい。
【0035】
アクリル酸コポリマーは、水の揮発時間を早める機能を持ち、また、特に繊維質のフィラーの場合、繊維の束から出る解れを抑制し、毛玉状の凝集を抑制する効果がある。アクリル酸コポリマーの具体例として、例えばアクリル酸-スチレンコポリマー、アクリル酸-メタクリル酸コポリマー、アクリル酸-ビニルアセテートコポリマー、アクリル酸-エチレンコポリマーを好適に用いることができる。こちらのアクリル酸コポリマーは、共通して上記効果を有するので、互換して使用することが可能である。
【0036】
アクリル酸コポリマーの添加量は、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の総重量に対して、0.2~0.5重量%となるように添加される。アクリル酸コポリマーの添加量が0.2重量%を下回るとその効果を十分に発揮できない。この観点から、エチレングリコールの添加量は好ましくは0.3重量%以上である。一方、アクリル酸コポリマーの添加量が0.5重量%を超えると、その効果が頭打ちする。この観点から、エチレングリコールの添加量は好ましくは0.4重量%以下である。なお、アクリル酸コポリマーは、通常水溶液の状態で添加するが、単体として添加してもよい。
【0037】
水溶性ソルビタンは、エマルジョンの安定性に長けており、フィラー表面の活性効果も高く、低温でも温度に対して粘度変化が少ない。なお、パルプ、セルロースナノファイバーの膨潤を抑える効果も持っており、同時にフィラーが乾燥しても水溶性ソルビタンが点着していれば水に溶けやすい効果も持ち合わせている。
【0038】
水溶性ソルビタンの添加量は、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の総重量に対して、0.4~0.8重量%となるように添加される。水溶性ソルビタンの添加量が0.4重量%を下回るとその効果を十分に発揮できない。この観点から、水溶性ソルビタンの添加量は好ましくは0.5重量%以上である。一方、水溶性ソルビタンの添加量が0.8重量%を超えると、その効果が頭打ちする。この観点から、水溶性ソルビタンの添加量は好ましくは0.7重量%以下である。なお、水溶性ソルビタンは、通常水溶液の状態で添加するが、単体として添加してもよい。
【0039】
高級脂肪酸は、後述の2本ロールミルによる処理において溶融し、ワックスのような効果が生まれる。すなわち、乾燥されたセルロースナノファイバーは、ロールメッキ表面、又はロール金属表面からの剥離性が良くなり自然に剥がれる。本明細書において、高級脂肪酸とは、炭素数が10~25の脂肪酸をいい、飽和又は不飽和であり得、直鎖状又は分岐状又はそれ以外の形状であり得る。
【0040】
高級脂肪酸の添加量は、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の総重量に対して、0.6~1.0重量%となるように添加される。高級脂肪酸の添加量が0.6重量%を下回るとその効果を十分に発揮できない。この観点から、高級脂肪酸の添加量は好ましくは0.7重量%以上である。一方、高級脂肪酸の添加量が1.0重量%を超えると、その効果が頭打ちする。この観点から、高級脂肪酸の添加量は好ましくは0.9重量%以下である。なお、高級脂肪酸は、通常水溶液の状態で添加するが、単体として添加してもよい。
【0041】
アルキルアンモニウム塩は、乾燥中に水分が減水していく過程で、セルロースナノファイバーの凝集を防ぐ効果がある。
【0042】
アルキルアンモニウム塩としては、限定的ではないが、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウムなどが挙げられる。これらは通常水溶液の状態で添加される。アルキルアンモニウム塩は、水分が減水していく過程で、セルロースナノファイバーの凝集を防ぐ効果がある。
【0043】
アルキルアンモニウム塩の添加量は、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の総重量に対して、0.4~0.8重量%となるように添加される。アルキルアンモニウム塩の添加量が0.4重量%を下回るとその効果を十分に発揮できない。この観点から、アルキルアンモニウム塩の添加量は好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは0.6重量%以上である。一方、アルキルアンモニウム塩の添加量が0.8重量%を超えると、その効果が頭打ちする。この観点から、アルキルアンモニウム塩の添加量は好ましくは0.7重量%以下である。なお、アルキルアンモニウム塩は、通常水溶液の状態で添加するが、単体として添加してもよい。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、セルロースナノファイバーパウダー分散剤を製造する途中で、上記高級脂肪酸とアルキルアンモニウム塩はイソプロピルアルコール(IPA)との混合物で添加することが好ましい。例として、高級脂肪酸の中で、カルボン酸の一般的な化学式はR-COOH(Rはカルボン酸の置換基を表す)、イソプロピルアルコールの化学式はC3H8Oであり、両者の混合物を反応式で表す場合、R-COOH+C3H8O→R-COOC3H7+H2Oになる。すなわち、高級脂肪酸は、イソプロピルアルコールと反応して脂肪酸エステル(R-COOC3H7)と水(H2O)を生成する。これにより脂肪酸エステルは繊維の耐熱性と湿潤促進を補い、イソプロピルアルコールは生成した水を含み、スラリー媒体の水の沸点を下げ、気化する時間が早められる。水分除去が早まることで、他の化学物質はセルロースナノファイバーへの吸着性が高まる。
【0045】
なお、セルロースナノファイバー分散液を乾燥すると、イソプロピルアルコールが蒸発などによりなくなるので、本発明の一部の実施形態において、セルロースナノファイバーパウダー分散剤はイソプロピルアルコールを含まない。
【0046】
本発明の一実施形態において、上記各添加剤をセルロースナノファイバー分散液に添加して乾燥することで、本発明のセルロースナノファイバーパウダー分散剤を得ることができる。混合させるために、撹拌することが好ましい。撹拌では、セルロースナノファイバーが液中又はゾル中で配向性を保持しながら、螺旋を描くように混練されることが望ましい。撹拌の方法及び装置は特に限定されないが、スーパーミキサー(株式会社カワタ製)、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)、ハイスピードミキサー(株式会社アーステクニカ製)などを好適に用いることができる。
【0047】
(3.セルロースナノファイバーパウダー分散剤の製造方法)
本発明のセルロースナノファイバーパウダー分散剤の製造方法は、セルロースナノファイバー分散液を準備する工程A、及びセルロースナノファイバー分散液を2本ロールミルに供給して、2本ロールミルを回転させることにより、セルロースナノファイバー分散液を乾燥し、セルロースナノファイバーパウダーを得る工程Bを含み、セルロースナノファイバー分散液は、固形分で75~90重量%のセルロースナノファイバー、7~12重量%のエチレングリコール、0.2~0.5重量%のアクリル酸コポリマー、0.4~0.8重量%の水溶性ソルビタン、0.6~1.0重量%の高級脂肪酸、及び0.4~0.8重量%のアルキルアンモニウム塩を含むように調製される。
【0048】
セルロースナノファイバー分散液を準備する工程Aにおいて、セルロースナノファイバー分散液の各成分の種類及び量については前述のとおりであるため、ここでは割愛する。
【0049】
工程Aのあと、セルロースナノファイバー分散液を2本ロールミルに供給して、2本ロールミルを回転させることにより、セルロースナノファイバー分散液が除去され、濃乾燥されたセルロースナノファイバーパウダーが得られる(工程B)。
【0050】
セルロースナノファイバー分散液を2本ロールミルの中間部に供給することで、セルロースナノファイバー分散液がロール間隙部(ニップ)に食い込まれる(
図1)。2本ロールミルの特性として、ニップに入り込む前に、投入された原料はロール間隙の上のロールバンクでロールと同一方向に回転する。この時に、セルロースナノファイバーは配向性を保持した状態であり、ニップに入り込む際に同一方向で繊維が並んで入り込む。これにより、セルロースナノファイバーに配向性を持たせたまま、ニップにおいてズリせん断が起きる。ズリせん断による自己発熱及び2本ロールミル加熱温度で、沸点が下がった原料は容易に気化し、乾燥の時間が短くなる。ロール間距離(クリアランス)は特に限定されないが、本実施形態の場合、0.3~1.5mmとすることが好ましい。
【0051】
2本ロールミルにおける前ロールと後ロールの回転比(すなわち、回転速度の差)が大きいほど、ニップに食い込まれる速度は早い。一方、前ロールと後ロールの回転比が大きすぎると、回転比により生じるズリせん断は小さくなり、また、水が気化する時間が短くなるので、回転比は1~3とすることが好ましい。また、回転比がない場合、セルロースナノファイバー分散液をニップに食い込ませることができず、ロールバンク上で滞留する傾向がある。
【0052】
ニップでの自己発熱、及び加熱された2本ロールミルからの伝熱により、水の分子間の引力と熱エネルギーの作用で、水は液体の状態で分子同士が引き合い、近くにある他の分子と相互作用が起きる。急激な高温下で水の分子は十分なエネルギーを得て、繊維との分子間引力を克服し、水とアルコールは瞬時に液体から気体へと転移する。前述のように、セルロースナノファイバーは配向性を保持した状態でニップに入り込むため、同一方向で水蒸気爆発による気化を迎え、セルロースナノファイバーにランダムな応力は少なく、元の形態(二重螺旋構造がほぼほぐれていない状態)に近い状態で乾燥が可能となる。
【0053】
ここで、2本ロールミル以外の混練機として、加圧ニーダー、バンバリー、押出機が考えられるが、これらはランダムな混練になるため、水が瞬時に気化してもセルロースナノファイバー同士が絡み合い、ダマになりやすい。また、従来技術の凍結乾燥や、乾燥オーブン、噴霧乾燥などでは、セルロースナノファイバーに配向性を与える手段はなく、また時間をかけて乾燥させるため、二重螺旋構造がほぐれ、ダマも発生しやすい。したがって、2本ロールによる処理には、従来技術では得られない利点がある。なお、2本ロールミルは装置として2本のロール間で原料を混練できるものであればよく、3本目以降のロールを有するものであってもよい。
【0054】
また、2本ロールミルの表面温度が高すぎるとセルロースナノファイバーが変質してしまう恐れがあり、粉末化する際に表面が硬化し微粒子が作りにくくなることから、130℃以下とすることが好ましく、120℃以下とすることがより好ましい。したがって、本発明の一実施形態において、2本ロールミルの表面温度は95℃~130℃である。
【0055】
上記2本ロールミルによる処理の結果、セルロースナノファイバーパウダーが得られる。セルロースナノファイバーパウダーを得る場合、典型的には以下の外観及び性質が得られる。
・形状:大きさは1mm~5mm、厚みが0.5mm以下の板状フレーク。
・色調:乳白色で透明感がある。
・硬さはあるものの、指先で簡単に微粉末になる。特段の粉砕処理は不要である。
・焼けや、部分変色はない。
・計量包装時にも空気中への飛散はほぼ起きない。
【0056】
そして、水分がなくなったセルロースナノファイバーパウダーの表面には脂肪酸及び両性界面活性剤が付着しているため、焼け焦げることになりにくい。特に高級脂肪酸又は高級脂肪酸アミドの付着により、耐熱性が高い。さらに、2本ロールミルでは、原料の供給と、乾燥品としてセルロースナノファイバーパウダー分散剤の回収を連続的に行えるので、生産性が高いという利点が得られる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0058】
(セルロースナノファイバーパウダー分散剤の作製プロセス)
以下の表1に記載される「親水性分散剤」として、エチレングリコール、アクリル酸コポリマー、水溶性ソルビタンを一つの容器に入れ、ディゾルバー撹拌機で、常温、700rpmで10分間混合した。また、表1に記載される「IPA希釈剤脂肪酸」として、IPA(イソプロピルアルコール)、高級脂肪酸、アルキルアンモニウム塩を一つの容器に入れ、常温にてディゾルバー撹拌機700rpmで10分間混合した。「親水性分散剤」及び「IPA希釈剤脂肪酸」それぞれの混合物を、日本コークス工業株式会社製ヘンシェルミキサー(ハイスピードタイプ)で、1500rpmで5分間撹拌して混合し、機械的な乳化処理を行った。この混合された混合物は液状であり、これに固形分8重量%のセルロースナノファイバー水溶液を添加し、ディゾルバー撹拌機で、常温、500rpmで5分間混合した。それぞれの成分の添加量は表1に示される通りである。
【0059】
【0060】
なお、「アクリル酸コポリマー」は、BYK社製BYK-199BF(主成分:アクリル酸-メタクリル酸コポリマー)を使用し、「水溶性ソルビタン」は、花王株式会社製レオドールTW-L120(内容組成ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)を使用し、「高級脂肪酸」は、BYK社製BYK-109(高分子量アルキロールアミノアマイド)とBYK-9077(ポリグリコールポリエステル変性ポリアルキレンイミン)を1:1で混合したもの(主成分:化学式C10H20O2)を使用し、「アルキルアンモニウム塩」は、BYK社製BYK-9076(高分子量共重合物のアルキルアンモニウム塩50~60質量%の溶液)を使用した。
【0061】
「親水性分散剤」について、アクリル酸コポリマーとメタクリル酸コポリマー、及びエチレングリコールの混合は、アクリル酸コポリマー(C3H4O2)n、メタクリル酸コポリマー(C5H8O2)nが、エチレングリコールC2H6O2を溶媒に溶解混合すると、(C3H4O2)m+(C5H8O2)n+C2H6O2→(C3H4O2)m(C5H8O2)n(C2H6O2)の混合物になる。これは水中でのフィラーの拡散をサポートする。
【0062】
「IPA希釈剤脂肪酸」について、(C3H4O2)m(C5H8O2)n(C2H6O2)+C3H8O(IPA)→(C3H4O2)m(C5H8O2)n(C2H6O2)(C3H8O)の反応により、イソプロピルアルコールは、混合反応に参加し、コポリマーと結合する。なお、IPAに高級脂肪酸C10H20O2とアルキルアンモニウム塩NR4
+が溶解されているため、R4N+C3H7O-+C10H20O2→R4N+C3H7OC10H19O2+Hが生成される。これはアルキル部分がエステル基に置換された混合物であり、油中でのフィラー湿潤をサポートする。
【0063】
「親水性分散剤」及び「IPA希釈剤脂肪酸」は共にセルロースナノファイバーに付着し湿潤することから、セルロースナノファイバー水溶液に添加する前に、高速撹拌で乳化状態にさせておくと、混合された添加剤はセルロースナノファイバーを凝集させることなく水溶液に安定性を持ちながら拡散した状態が得られる。得られた最終的な混合物は粘性が高いペースト状になっている。
【0064】
上記混合物を、株式会社安田精機製作所製の2本ロールミル(ロール径:8インチ。表面処理:光沢メッキ処理。ニップクリアランス:0.5mm。)に投入した。投入量は300gであった。ロールの表面温度は120℃となるように加熱した。次に、前ロールの回転速度が7rpm、後ロールの回転速度が6rpmとなるように2本ロールミルを稼働させ、前ロールの3回転後に乾燥品のサンプルを採取した。乾燥に要した時間は30秒以内であった。
図2Aは、2本ロールミルにより、セルロースナノファイバー分散液が乾燥された状態を示す写真である。
図2Bは、2本ロールミルにより、セルロースナノファイバーパウダー分散剤が得られたことを示す写真である。
【0065】
乾燥品のセルロースナノファイバーパウダー分散剤に対して、各組成の量について、組成全体は株式会社島津製作所製GC-MSシリーズでガスクロマトグラフ質量を確認し、ビューラー株式会社のセラミック坩堝燃焼により、順次温度を上げて炭化物を除去し残渣を株式会社島津製作所製IRA1SシリーズのFTIRにてピーク元素を確認した。水溶性部分は株式会社島津製作所製Nexeraシリーズの高速液体クロマトグラフィーで質量分析した。これらの分析の結果から、各成分の質量を計算した。結果を表1に示す。
【0066】
(試験1:カーボンブラックの分散性の検証)
上記セルロースナノファイバーパウダー分散剤が水中、油中でカーボンブラック顔料の分散に与える影響を調査するために、以下の試験を行った。カーボンブラック顔料は三菱カーボンブラック#30を使用した。
【0067】
具体的には、油中については、疎水性塗料を想定し、フタル酸エステル(DOP)と塩化ビニールレジン(重合度800)、これにカーボンブラック顔料と上記乾燥品(セルロースナノファイバーパウダー分散剤)を同時に添加し、スリーワンモーター撹拌機で5分撹拌を行い、3本ロール(株式会社井上製作所製6インチロールミル)で1パスし、分散処理を行った。セルロースナノファイバーパウダー分散剤の添加量を表2に示されるように変えて、試験を行った。
【0068】
水中については、水系塗料を想定し、水にカーボンブラック顔料と、水溶性アクリル樹脂(日本カーバイド工業株式会社製「ニカゾール」)と、上記乾燥品を同時に添加し、スリーワンモーター撹拌機で5分撹拌を行い、3本ロール(株式会社井上製作所製6インチロールミル)で1パスし、分散処理を行った。セルロースナノファイバーパウダー分散剤の添加量を表3に示されるように変えて、試験を行った。
【0069】
分散処理後の分散液に対して、太佑機材株式会社製の双溝グラインドメーター(0~100μmゲージ)で顔料粒子残痕(粒子径(最大寸法)5μm以上の粒子数)をカウントし、さらに東機産業株式会社製のB型粘度計BMタイプ(検体温度25℃、4号ローター・6rpm)で分散時の低粘性化と再凝集によるチクソ性増粘の数値を読み取り、分散性の比較を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
表2及び表3からわかるように、油中においては、カーボンブラック顔料の重量に対して、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の添加量は2~8%が好ましく、3~5%が最も効果的である。水中においては、カーボンブラック顔料の重量に対して、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の添加量は2~8%が好ましく、3~5%が最も効果的である。したがって、カーボンブラック顔料に対して、水性、油性のどちらにおいても、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の添加量がほぼ同じ量で分散の効果が見られる。
【0073】
(試験2:二酸化チタン無機顔料の分散性の検証)
上記セルロースナノファイバーパウダー分散剤が水中、油中で二酸化チタン無機顔料の分散に与える影響を調査するために、以下の試験を行った。二酸化チタン無機顔料は石原産業株式会社製CR-60二酸化チタンを使用した。
【0074】
具体的には、油中については、疎水性塗料を想定し、フタル酸エステル(DOP)と塩化ビニールレジン(重合度800)、これに二酸化チタン無機顔料と上記乾燥品(セルロースナノファイバーパウダー分散剤)を同時に添加し、スリーワンモーター撹拌機で5分撹拌を行い、3本ロール(株式会社井上製作所製6インチロールミル)で1パスし、分散処理を行った。セルロースナノファイバーパウダー分散剤の添加量を表4に示されるように変えて、試験を行った。
【0075】
水中については、水系塗料を想定し、水に二酸化チタン無機顔料と上記乾燥品を同時に添加し、スリーワンモーター撹拌機で5分撹拌を行い、3本ロール(株式会社井上製作所製6インチロールミル)で1パスし、分散処理を行った。セルロースナノファイバーパウダー分散剤の添加量を表5に示されるように変えて、試験を行った。
【0076】
分散処理後の分散液に対して、太佑機材株式会社製の双溝グラインドメーター(0~100μmゲージ)で顔料粒子残痕(粒子径(最大寸法)5μm以上の粒子数)をカウントし、さらに東機産業株式会社製のB型粘度計BMタイプ(検体温度25℃、4号ローター・6rpm)で分散時の低粘性化と再凝集によるチクソ性増粘の数値を読み取り、分散性の比較を行った。結果を表4及び表5に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
表4及び表5からわかるように、油中においては、二酸化チタン無機顔料の重量に対して、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の添加量は3~9%が好ましく、4~6%が最も効果的である。水中においては、二酸化チタン無機顔料の重量に対して、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の添加量は3~9%が好ましく、4~6%が最も効果的である。したがって、二酸化チタン無機顔料に対して、水性、油性のどちらにおいても、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の添加量がほぼ同じ量で分散の効果が見られる。
【0080】
(試験3:混合顔料の分散性の検証)
上記セルロースナノファイバーパウダー分散剤が水中、油中でカーボンブラック顔料及び二酸化チタン無機顔料の分散に与える影響を調査するために、以下の試験を行った。カーボンブラック顔料は三菱カーボンブラック#30を使用し、二酸化チタン無機顔料は石原産業株式会社製CR-60二酸化チタンを使用した。
【0081】
具体的には、油中については、疎水性塗料を想定し、フタル酸エステル(DOP)と塩化ビニールレジン(重合度800)、これにカーボンブラック顔料と二酸化チタン無機顔料とセルロースナノファイバーパウダー分散剤を同時に添加し、スリーワンモーター撹拌機で5分撹拌を行い、3本ロール(株式会社井上製作所製6インチロールミル)で1パスし、分散処理を行った。なお、ここではセルロースナノファイバーパウダー分散剤の組成は表6に示されるように変更され、上記のプロセスで乾燥品を製造している。
【0082】
水中については、水系塗料を想定し、水にカーボンブラック顔料と二酸化チタン無機顔料と上記乾燥品を同時に添加し、スリーワンモーター撹拌機で5分撹拌を行い、3本ロール(株式会社井上製作所製6インチロールミル)で1パスし、分散処理を行った。なお、ここではセルロースナノファイバーパウダー分散剤の組成は表7に示されるように変更され、上記のプロセスで乾燥品を製造している。
【0083】
分散処理後の分散液に対して、太佑機材株式会社製の双溝グラインドメーター(0~100μmゲージ)で顔料粒子残痕(粒子径(最大寸法)5μm以上の粒子数)をカウントし、さらに東機産業株式会社製のB型粘度計BMタイプ(検体温度25℃、4号ローター・6rpm)で分散時の低粘性化と再凝集によるチクソ性増粘の数値を読み取り、分散性の比較を行った。結果を表6及び表7に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
表6からわかるように、油中においては、セルロースナノファイバーパウダー分散剤の高級脂肪酸とアルキルアンモニウム塩を減らすと、分散性は比例して悪くなる。また、表7からわかるように、水中においては、セルロースナノファイバーパウダー分散剤のアクリル酸コポリマーと水溶性ソルビタンを減らすと、分散性は比例して悪くなる。したがって、水性、油性溶媒の違いにおいて、溶媒に合わせた組成の量を減らすと、各溶媒での分散効果は低下してしまう。このことから、両性の溶媒に適用できるようにするために、セルロースナノファイバーを骨格に、水性、油性それぞれに適した成分をマトリクス化することが必要であると理解できる。
【0087】
(試験4:本発明と市販の界面活性剤の分散性の比較)
次に、本発明のセルロースナノファイバーパウダー分散剤と、市販の界面活性剤の分散性の違いを比較した。
【0088】
まず、界面活性剤は非イオンのリン酸エステルを選定した。リン酸エステルは、炭化水素鎖とリン酸基が結合した化合物であり、界面活性剤としての特性を持ち、油性液体や固体の界面での相互作用でフィラーの分散に利用されている。分散剤ではカルボン酸系の無水マレイン酸を選定した。これらの成分をスリーワンモーター撹拌機で5分撹拌を行い、3本ロール(株式会社井上製作所製6インチロールミル)で1パスし、分散処理を行った。各成分の添加量を表8に示されるように変えて、試験を行った。
【0089】
分散処理後の分散液に対して、太佑機材株式会社製の双溝グラインドメーター(0~100μmゲージ)で顔料粒子残痕(粒子径(最大寸法)5μm以上の粒子数)をカウントし、さらに東機産業株式会社製のB型粘度計BMタイプ(検体温度25℃、4号ローター・6rpm)で分散時の低粘性化と再凝集によるチクソ性増粘の数値を読み取り、分散性の比較を行った。結果を表8に示す。
【0090】
【0091】
表8からわかるように、本発明のセルロースナノファイバーパウダー分散剤(分散剤CNFパウダー)を用いた場合、分散性も粘性の安定にも問題なく、良好であった。一方、リン酸エステルでは分散はするが、初期粘性が非常に高く顔料混合時のトルク(アンペア)が大きく出ていた。無水マレイン酸は分散、粘性について市販塗料で十分使えるが、1時間後にカーボンと二酸化チタンの分離が若干見られ色別れが起きていた。
【0092】
次に、界面活性剤として非イオンで水性溶媒での安定性が最も高いポリオキシエチレンアルキルエーテルを選定し、分散剤として水系グラビア印刷でも多く利用されている、ポリマー系のポリビニルアルコールを選定し、比較試験を行った。これらの成分をスリーワンモーター撹拌機で5分撹拌を行い、3本ロール(株式会社井上製作所製6インチロールミル)で1パスし、分散処理を行った。各成分の添加量を表9に示されるように変えて、試験を行った。
【0093】
分散処理後の分散液に対して、太佑機材株式会社製の双溝グラインドメーター(0~100μmゲージ)で顔料粒子残痕(粒子径(最大寸法)5μm以上の粒子数)をカウントし、さらに東機産業株式会社製のB型粘度計BMタイプ(検体温度25℃、4号ローター・6rpm)で分散時の低粘性化と再凝集によるチクソ性増粘の数値を読み取り、分散性の比較を行った。結果を表9に示す。
【0094】
【0095】
表9からわかるように、本発明のセルロースナノファイバーパウダー分散剤(分散剤CNFパウダー)を用いた場合、分散性も粘性の安定にも問題なく、良好であった。一方、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは分散が良好だが、粘性がセルロースナノファイバーパウダー分散剤よりも若干高い程度となる。ポリビニルアルコールについては、効果が出せるまでの添加量に至っておらず、分散させることはできなかった。
【要約】
【課題】フィラー(個体粒子)を水中、油中の溶媒に分散させることが可能なセルロースナノファイバーパウダー分散剤を提供すること。
【解決手段】セルロースナノファイバーパウダー分散剤であって、75~90重量%のセルロースナノファイバー、7~12重量%のエチレングリコール、0.2~0.5重量%のアクリル酸コポリマー、0.4~0.8重量%の水溶性ソルビタン、0.6~1.0重量%の高級脂肪酸、及び0.4~0.8重量%のアルキルアンモニウム塩を含む、セルロースナノファイバーパウダー分散剤。
【選択図】
図2B