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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】回転電機用ステータ製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/04 20060101AFI20240627BHJP
   H02K 15/085 20060101ALI20240627BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20240627BHJP
【FI】
H02K15/04 E
H02K15/085
B23K26/21 N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023507209
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2022012872
(87)【国際公開番号】W WO2022196822
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2021045433
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 弘行
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-055024(JP,A)
【文献】特開2018-020340(JP,A)
【文献】ヘンリック・パンツァー,エヴァマリア・ドールド,マーク・キルヒホフ,オリヴァ・ボックスロッカー,グリーン波長でのレーザ溶接、eモビリティにメリット ,Industrial Laser Solutions Japan ,日本,2019年09月13日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/04
H02K 15/085
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコイルの断面矩形状のコイル片をステータコアに組み付ける組付工程と、
前記組付工程の後に、前記コイル片の端部同士をレーザ溶接により接合する接合工程とを含み、
前記接合工程は、
当接面から軸方向外側に連続する径方向を向く非当接面を形成するように、前記端部同士を、径方向に視てX字状に交差させつつ径方向に当接させるセット工程と、
前記セット工程の後、前記端部同士の当接面における径方向に視てC字状の辺に向けて、0.6μm以下の波長を有するレーザビームを軸方向に照射する照射工程とを含み、
前記照射工程は、前記C字状の辺の部分とともに、前記端部における前記当接面から軸方向外側に連続する径方向を向く前記非当接面の部分を溶融させる、回転電機用ステータ製造方法。
【請求項2】
前記レーザビームの照射幅は、前記当接面に平行な方向に視て、前記C字状の辺と非当接面と前記当接面とを含む、請求項1に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項3】
前記照射工程は、前記端部における前記当接面に平行な逆側の外側面に前記レーザビームが照射されないように、実行される、請求項1又は2に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項4】
前記コイル片の端部は、径方向に視て略直角をなして連続する軸方向外側の端面及び先端面を有し、
前記セット工程は、径方向に視て一方の前記端部の前記先端面全体が他方の前記端部における軸方向外側の前記端面を越える態様で、前記端部同士をX字状に交差させる、請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項5】
前記レーザビームは、レーザ発振器におけるパルス発振ごとに発生され、
前記照射工程は、2回以上のパルス発振により、一組の前記端部同士を接合する、請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項6】
前記照射工程は、
一のパルス発振により、前記X字状の交差点を中心とした前記C字状の辺のうちの一方側を前記レーザビームにより照射する第1照射工程と、
他の一のパルス発振により、前記X字状の交差点を中心とした前記C字状の辺のうちの他方側を前記レーザビームにより照射する第2照射工程と含む、請求項5に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項7】
前記第1照射工程は、前記レーザビームの照射位置を前記当接面に沿った方向に直線状に変化させることを含み、
前記第2照射工程は、前記レーザビームの照射位置を前記当接面に沿った方向に直線状に変化させることを含み、
前記第1照射工程による前記レーザビームの照射位置の移動範囲と、前記第2照射工程による前記レーザビームの照射位置の移動範囲は、それぞれ、前記X字状の交差点を含む、請求項6に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用ステータ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機のステータコイルを形成するための一のコイル片と他の一のコイル片の端部同士を当接させ、当接させた端部に係る溶接対象箇所に、ループ状に照射位置が移動する態様でレーザビームを照射するステータの製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-20340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載されるような従来技術は、当接されるコイル片の端部同士の側面(レーザビームの照射源に向く表面)がなめらかに連続するように、コイル片の端部が径方向に視てC字状(軸方向外側に凸の円弧面)に加工されており、加工コストの観点からコスト低減の余地がある。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、比較的低い加工コストでコイル片の端部同士を適切に接合可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面によれば、ステータコイルの断面矩形状のコイル片をステータコアに組み付ける組付工程と、
前記組付工程の後に、前記コイル片の端部同士をレーザ溶接により接合する接合工程とを含み、
前記接合工程は、
前記端部同士を、径方向に視てX字状に交差させつつ径方向に当接させるセット工程と、
前記セット工程の後、前記端部同士の当接面における径方向に視てC字状の辺に向けて、0.6μm以下の波長を有するレーザビームを軸方向に照射する照射工程とを含み、
前記照射工程は、前記C字状の辺の部分とともに、前記端部における前記当接面から連続する軸方向外側の非当接面の部分を溶融させる、回転電機用ステータ製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、比較的低い加工コストでコイル片の端部同士を適切に接合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図2】ステータコアの単品状態の平面図である。
図3】ステータコアに組み付けられる1対のコイル片を模式的に示す図である。
図4】一のコイル片の概略正面図である。
図5】互いに接合されたコイル片の先端部及びその近傍を示す図である。
図6】照射側から視た溶接対象箇所90を概略的に示す図である。
図7A】溶接対象箇所を通る図5のラインA-Aに沿った断面図である。
図7B】溶接対象箇所を通る図5のラインB-Bに沿った断面図である。
図7C】溶接対象箇所を通る図5のラインC-Cに沿った断面図である。
図8】比較例による互いに接合されたコイル片の先端部及びその近傍を示す図である。
図9】レーザ波長と各種材料の個体に対するレーザ吸収率との関係を示す図である。
図10】溶接中の吸収率の変化態様の説明図である。
図11A】グリーンレーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図である。
図11B】赤外レーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図である。
図12】本実施例によるグリーンレーザによる溶接方法の説明図である。
図13】一のパスに係るレーザ出力が照射位置に応じて変化する態様の一例を示す概略図である。
図14】一のパスに係るレーザ出力が照射位置に応じて変化する態様の他の一例を示す概略図である。
図15】モータのステータの製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
図16】変形例の説明図である。
図17】レーザビームの照射範囲(照射方向)の補足的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。なお、本明細書において、「所定」とは、「予め規定された」という意味で用いられている。
【0010】
図1は、一実施例によるモータ1(回転電機の一例)の断面構造を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸12が図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)12が延在する方向を指し、径方向とは、回転軸12を中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸12から離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸12に向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸12まわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナーロータ型であり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、径方向外側がモータハウジング10に固定される。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸12を画成する。
【0015】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板から形成される。ロータコア32の内部には、永久磁石321が挿入される。永久磁石321の数や配列等は任意である。変形例では、ロータコア32は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。
【0016】
ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレート35A、35Bが取り付けられる。エンドプレート35A、35Bは、ロータコア32を支持する支持機能の他、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。
【0017】
ロータシャフト34は、図1に示すように、中空部34Aを有する。中空部34Aは、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。中空部34Aは、油路として機能してもよい。例えば、中空部34Aには、図1にて矢印R1で示すように、軸方向の一端側から油が供給され、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝って油が流れることで、ロータコア32を径方向内側から冷却できる。また、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝う油は、ロータシャフト34の両端部に形成される油穴341、342を通って径方向外側へと噴出され(矢印R5、R6)、コイルエンド220A、220Bの冷却に供されてもよい。
【0018】
なお、図1では、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、溶接により接合されるステータコイル24(後述)を有する限り、任意である。従って、例えば、ロータシャフト34は、中空部34Aを有さなくてもよいし、中空部34Aよりも有意に内径の小さい中空部を有してもよい。また、図1では、特定の冷却方法が開示されているが、モータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、中空部34A内に挿入される油導入管が設けられてもよいし、モータハウジング10内の油路から径方向外側からコイルエンド220A、220Bに向けて油が滴下されてもよい。
【0019】
また、図1では、ロータ30がステータ21の内側に配されたインナーロータ型のモータ1であるが、他の形態のモータに適用されてもよい。例えば、ステータ21の外側にロータ30が同心に配されたアウターロータ型のモータや、ステータ21の外側及び内側の双方にロータ30が配されたデュアルロータ型のモータ等に適用されてもよい。
【0020】
次に、図2以降を参照して、ステータ21に関する構成を詳説する。
【0021】
図2は、ステータコア22の単品状態の平面図である。図3は、ステータコア22に組み付けられる1対のコイル片52を模式的に示す図である。図3では、ステータコア22の径方向内側を展開した状態で、1対のコイル片52とスロット220との関係が示される。また、図3では、ステータコア22が点線で示され、スロット220の一部については図示が省略されている。
【0022】
ステータ21は、ステータコア22と、ステータコイル24とを含む。
【0023】
ステータコア22は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるが、変形例では、ステータコア22は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。なお、ステータコア22は、周方向で分割される分割コアにより形成されてもよいし、周方向で分割されない形態であってもよい。ステータコア22の径方向内側には、ステータコイル24が巻回される複数のスロット220が形成される。具体的には、ステータコア22は、図2に示すように、円環状のバックヨーク22Aと、バックヨーク22Aから径方向内側に向かって延びる複数のティース22Bとを含み、周方向で複数のティース22B間にスロット220が形成される。スロット220の数は任意であるが、本実施例では、一例として、48個である。
【0024】
ステータコイル24は、U相コイル、V相コイル、及びW相コイル(以下、U、V、Wを区別しない場合は「相コイル」と称する)を含む。各相コイルの基端は、入力端子(図示せず)に接続されており、各相コイルの末端は、他の相コイルの末端に接続されてモータ1の中性点を形成する。すなわち、ステータコイル24は、スター結線される。ただし、ステータコイル24の結線態様は、必要とするモータ特性等に応じて、適宜、変更してもよく、例えば、ステータコイル24は、スター結線に代えて、デルタ結線されてもよい。
【0025】
各相コイルは、複数のコイル片52を接合して構成される。図4は、一のコイル片52の概略正面図である。コイル片52は、相コイルを、組み付けやすい単位(例えば2つのスロット220に挿入される単位)で分割したセグメントコイルの形態である。コイル片52は、断面矩形状の線状導体(平角線)60を、絶縁被膜62で被覆してなる。本実施例では、線状導体60は、一例として、銅により形成される。ただし、変形例では、線状導体60は、鉄のような他の導体材料により形成されてもよい。
【0026】
コイル片52は、ステータコア22に組み付ける前の段階では、一対の直進部50と、当該一対の直進部50を連結する連結部54と、を有した略U字状に成形されてよい。コイル片52をステータコア22に組み付ける際、一対の直進部50は、それぞれ、スロット220に挿入される(図3参照)。これにより、連結部54は、図3に示すように、ステータコア22の軸方向他端側において、複数のティース22B(及びそれに伴い複数のスロット220)を跨ぐように周方向に延びる。連結部54が跨ぐスロット220の数は、任意であるが、図3では3つである。また、直進部50は、スロット220に挿入された後は、図4において、二点鎖線で示すように、その途中で周方向に屈曲される。これにより、直進部50は、スロット220内において軸方向に延びる脚部56と、ステータコア22の軸方向一端側において周方向に延びる渡り部58と、になる。
【0027】
なお、図4では、一対の直進部50は、互いに離れる方向に屈曲するが、これに限られない。例えば、一対の直進部50は、互いに近づく方向に屈曲されてもよい。また、ステータコイル24は、3相の相コイルの末端同士を連結して中性点を形成するための中性点用コイル片等も有することがある。
【0028】
一つのスロット220には、図4に示すコイル片52の脚部56が複数、径方向に並んで挿入される。従って、ステータコア22の軸方向一端側には、周方向に延びる渡り部58が複数、径方向に並ぶ。図3に示すように、一つのスロット220から飛び出て周方向第1側(例えば時計回りの向き)に延びる一のコイル片52の渡り部58は、他のスロット220から飛び出て周方向第2側(例えば反時計回りの向き)に延びる他の一のコイル片52の渡り部58に接合される。
【0029】
本実施例では、一例として、1つのスロット220に6つのコイル片52が組み付けられる。以下では、径方向で最も外側のコイル片52から順に、第1ターン、第2ターン、第3ターンとも称する。この場合、第1ターンのコイル片52と第2ターンのコイル片52とは、後述の接合工程により先端部40同士が接合され、第3ターンのコイル片52と第4ターンのコイル片52とは、後述の接合工程により先端部40同士が接合され、第5ターンのコイル片52と第6ターンのコイル片52とは、後述の接合工程により先端部40同士が接合される。
【0030】
ここで、コイル片52は、上述したとおり、絶縁被膜62で被覆されているが、先端部40だけは、当該絶縁被膜62が除去される。これは、先端部40にて他のコイル片52との電気的接続を確保するためである。
【0031】
図5は、互いに接合されたコイル片52の先端部40及びその近傍を示す図である。なお、図5には、溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が模式的に示される。図6は、照射側から視た溶接対象箇所90を概略的に示す図である。図7A図7Cは、それぞれ、溶接対象箇所90を通る図5のラインA-A、ラインB-B、及びラインC-Cに沿った断面図である。図7A図7Cには、溶接時に形成される溶融池の範囲が、ハッチング領域1102で模式的に示されている。図8は、図5に示した本実施例の構成に対する対比として、比較例による互いに接合されたコイル片52’の先端部40’及びその近傍を示す図である。
【0032】
図5には、軸方向に沿ったZ方向が定義されている。以下では、説明上、Z方向Z1側(すなわちレーザビーム110の照射側)を「上側」とし、Z方向Z2側を「下側」とする。また、図6には、径方向に沿ったX方向と、X方向に沿ったX1側とX2側とが定義されている。
【0033】
コイル片52の先端部40を接合する際には、一のコイル片52と他の一のコイル片52は、それぞれの先端部40が、図5に示すビュー(当接面401に対して垂直な方向視、すなわち径方向に視て)でX字状をなす態様で交差しつつ、径方向に当接される。以下では、説明上、区別する際には、一のコイル片52に係る構成は、先端部40Aといった具合に、符号の後ろに記号“A”を付し、他の一のコイル片52に係る構成は、先端部40Bといった具合に、符号の後ろに記号“B”を付す場合がある。
【0034】
この場合、溶接対象箇所90は、図6に範囲D1で示すように、当接面401に沿って直線状に延在する。すなわち、溶接対象箇所90は、レーザビーム110の照射側から視て(図5の矢印W参照)、図7A図7Cに示す範囲D2の幅で、範囲D1にわたり直線状に延在する。なお、図5に示す例では、当接面401は、径方向に視て、ひし形の形態であり、ひし形の上側の2辺が、下向きのC字状の形態をなし、ひし形の下側の2辺が、上向きのC字状の形態をなす。
【0035】
本実施例では、図5に示すビュー(径方向に視て)で、一のコイル片52と他の一のコイル片52は、上述したように、X字状をなす態様で交差しており、溶接対象箇所90は、交差点P0を中心とした両側に延在する。具体的には、溶接対象箇所90は、図5に示すビュー(径方向に視て)で、双方の先端部40の軸方向外側端面42A、42Bが形成するC字状の辺(ひし形の上側の2辺)に沿って設定される。具体的には、溶接対象箇所90は、図5に示すビュー(径方向に視て)で、コイル片52Aの先端部40Aの軸方向外側端面42A(上側を向く端面)と、コイル片52Bの先端部40Bの軸方向内側端面43B(下側を向く端面)との交点をP1とし、コイル片52Bの先端部40Bの軸方向外側端面42B(上側を向く端面)と、コイル片52Aの先端部40Aの軸方向内側端面43A(下側を向く端面)との交点をP2としたとき、交点P1から交差点P0までの範囲D11と、交点P2から交差点P0までの範囲D12内に設定される。
【0036】
この場合、溶接対象箇所90は、好ましくは、交点P1付近及び交点P2付近を除く部分(例えば交点P3から交点P4までの区間)である。これは、交点P1付近及び交点P2付近では、十分な溶接深さ(図5の寸法L1参照)を確保し難いためである。溶接対象箇所90の周方向の範囲D1は、コイル片52間での必要な接合面積や必要な溶接強度等が確保されるように適合されてよい。
【0037】
本実施例では、コイル片52の先端部40を接合する際の接合方法としては、溶接が利用される。そして、本実施例では、溶接方法としては、TIG溶接に代表されるアーク溶接ではなく、レーザビーム源を熱源とするレーザ溶接が採用される。TIG溶接に代えて、レーザ溶接を用いることで、コイルエンド220A、220Bの軸方向の長さを低減できる。すなわち、TIG溶接の場合は、当接させるコイル片の先端部同士を軸方向外側に屈曲させて軸方向に延在させる必要があるのに対して、レーザ溶接の場合は、かかる屈曲の必要性がなく、図5に示すように、当接させるコイル片52の先端部40同士を周方向に延在させた状態で溶接を実現できる。これにより、当接させるコイル片52の先端部40同士を軸方向外側に屈曲させて軸方向に延在させる場合に比べて、コイルエンド220A、220Bの軸方向の長さを低減できる。
【0038】
レーザ溶接では、図5に模式的に示すように、当接された2つの先端部40における溶接対象箇所90に溶接用のレーザビーム110を当てる。なお、レーザビーム110の照射方向(伝搬方向)は、軸方向に略平行であり、当接された2つの先端部40の軸方向外側端面42A、42Bに、軸方向外側から向かう方向である。レーザ溶接の場合は、局所的に加熱できるため、先端部40及びその近傍のみを加熱することができ、絶縁被膜62の損傷(炭化)等を効果的に低減できる。その結果、適切な絶縁性能を維持したまま、複数のコイル片52を電気的に接続できる。
【0039】
本実施例では、レーザビーム110は、範囲D11と範囲D12の接続位置、すなわち交差点P0において、図7Aに示すように、コイル片52Aの先端部40の軸方向外側端面42Aにおける当接面401側の縁部(C字状の辺を形成する縁部)と、コイル片52Bの先端部40の軸方向外側端面42Bにおける当接面401側の縁部(C字状の辺を形成する縁部)とを、溶融させるように照射される。これにより、図7Aに示すような、交差点P0において、レーザビーム110により必要な接合面積を確保することが容易となる。
【0040】
また、本実施例では、レーザビーム110は、図7B及び図7Cに示すように、範囲D11と範囲D12のそれぞれにおいて、軸方向外側端面42A、42Bにおける当接面401側の縁部(C字状の辺の部分)とともに、当接面401から連続する軸方向外側の非当接面409の部分を溶融させる。上述したようにコイル片52A、52Bの先端部40A、40B同士を径方向に視てX字状に交差させる場合、先端部40A、40Bのそれぞれにおいて、当接面401の上側に、当該当接面401に連続する非当接面409A、409Bが形成される。本実施例では、このような非当接面409A、409Bを利用して溶接を実現することで、溶接部の信頼性を高めることができる。なお、このような、非当接面409A、409Bは、後出する図8に示す比較例では発生しない。
【0041】
例えば、図6の範囲D11に対しては、図7Bに溶融池のハッチング領域1102で示すように、レーザビーム110は、先端部40Aの軸方向外側端面42Aにおける当接面401側の縁部(C字状の辺を形成する縁部)と、先端部40Bの非当接面409における当接面401側の縁部(当接面401との境界に係る縁部)とを、溶融させるように照射される。これにより、図7Bに示すような、当接面401において軸方向の段差を有する溶接対象箇所90に対しても、レーザビーム110により必要な接合面積を確保することが容易となる。
【0042】
同様に、図6の範囲D12に対しては、図7Cに溶融池のハッチング領域1102で示すように、レーザビーム110は、先端部40Bの軸方向外側端面42Bにおける当接面401側の縁部(C字状の辺を形成する縁部)と、先端部40Aの非当接面409における当接面401側の縁部(当接面401との境界に係る縁部)とを、溶融させるように照射される。これにより、図7Cに示すような、当接面401において軸方向の段差を有する溶接対象箇所90に対しても、レーザビーム110により必要な接合面積を確保することが容易となる。
【0043】
本実施例では、溶接対象箇所90の径方向の範囲D2は、図7A図7Cに示すように、2つのコイル片52の先端部40同士の当接面401を中心とする。溶接対象箇所90の径方向の範囲D2は、レーザビーム110の径(ビーム径)に対応してよい。すなわち、レーザビーム110は、照射位置が径方向に実質的に変化することなく周方向に沿って直線的に変化する態様で、照射される。更に換言すると、レーザビーム110は、照射位置が当接面401に対して平行な直線状に変化するように移動される。これにより、例えばループ状(螺旋状)やジグザク状(蛇行)等に照射位置を変化させる場合に比べて、効率的に、直線状の溶接対象箇所90にレーザビーム110を照射できる。なお、範囲D11においては、当接面401に対してX方向X1側からレーザビーム110を照射してもよいし、範囲D12においては、当接面401に対してX方向X2側からレーザビーム110を照射してもよい。
【0044】
ところで、図8に示すような比較例では、軸方向外側端面42’が凸の円弧面に加工された先端部40’同士を接合する際には、一の先端部40’と他の一の先端部40’は、図8に示すビュー(当接面401に対して垂直な方向視)でC字状をなす態様で、突き合わせられる。
【0045】
このような比較例の場合、先端部40’の軸方向外側端面42’が凸の円弧面に加工されるので、溶接対象箇所90’において軸方向の凹凸を低減できるものの、加工(例えばプレスによる打ち抜き加工)が必要であるがゆえに、加工コストの観点から不利である。
【0046】
これに対して、本実施例によれば、先端部40は、比較例の先端部40’とは異なり、軸方向外側端面42A、42Bが凸の円弧面に加工されない。すなわち、先端部40は、径方向に視て略直角をなして連続する軸方向外側端面42A、42B及び先端面44を有する。従って、本実施例による先端部40は、実質的に、絶縁被膜62を除去するだけで形成可能であるので、比較例とは異なり、製造コストの低減を図ることができる。なお、略直角とは、完全な直角のみならず、加工誤差等により生じる誤差(完全な直角に対する誤差)を許容する概念である。
【0047】
また、本実施例によれば、コイル片52の屈曲角度αを小さくするほど、交点P3(交点P4も同様)が交差点P0から離れても(すなわち範囲D11が長くなっても)比較的大きい寸法L1を確保することが容易となる。比較的大きい寸法L1を確保できることは、比較的大きい溶接深さ(及びそれに伴い接合面積)を確保しやすくなることを意味する。これにより、必要な接合面積を確保できる範囲D1の距離を長くすることが容易である。また、コイル片52の屈曲角度αが小さくなるほど、コイルエンド220A、220Bの軸方向の体格を低減できる。従って、本実施例によれば、コイルエンド220A、220Bの軸方向の体格を低減しつつ、十分な溶接深さを確保できる範囲D1の距離を長くすることが可能である。なお、必要な接合面積された範囲D1の距離が長いほど溶接部の信頼性が高くなる傾向がある。
【0048】
ここで、本実施例では、径方向に視て、先端部40Aの先端面44A全体が先端部40Bの軸方向外側端面42Bを上側に越え、かつ、先端部40Bの先端面44B全体が先端部40Aの軸方向外側端面42Aを上側に越える態様で、先端部40A、40B同士をX字状に交差させる。この場合、必要な接合面積を確保できるような範囲D1を比較的長い距離で確保することが容易となる。また、この場合、レーザビーム110を周方向で先端部40Aの先端面44Aと先端部40Bの先端面44Bとの間の範囲(交差点P0側の範囲)に確実に照射できる。
【0049】
図9は、レーザ波長と各種材料の個体に対するレーザ吸収率(以下、単に「吸収率」とも称する)との関係を示す図である。図9では、横軸に波長λを取り、縦軸に吸収率を取り、銅(Cu)、アルミ(Al)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の各種材料の個体に係る特性が示される。
【0050】
ところで、レーザ溶接で一般的に用いられる赤外レーザ(波長が1064nmのレーザ)は、図9にてλ2=1.06μmの点線との交点の黒丸で示すように、コイル片52の線状導体60の材料である銅に対して吸収率が約10%と低い。すなわち、赤外レーザの場合、レーザビーム110の大部分は、コイル片52で反射してしまい、吸収されない。このため、接合対象のコイル片52間での必要な接合面積を得るためには比較的大きい入熱量が必要となり、熱影響が大きく、溶接が不安定となるおそれがある。
【0051】
この点を鑑み、本実施例では、赤外レーザに代えて、グリーンレーザを利用する。なお、グリーンレーザとは、波長が532nmのレーザ、すなわちSHG(Second Harmonic Generation:第2高調波)レーザのみならず、532nmに近い波長のレーザをも含む概念である。なお、変形例では、グリーンレーザの範疇に属さない0.6μm以下の波長のレーザが利用されてもよい。グリーンレーザに係る波長は、例えばYAGレーザやYVO4レーザで生み出された基本波長を酸化物単結晶(例えば、LBO:リチウムトリボレート)に通して変換することで得られる。
【0052】
グリーンレーザの場合、図9にてλ1=0.532μmの点線との交点の黒丸で示すように、コイル片52の線状導体60の材料である銅に対して吸収率が約50%と高い。従って、本実施例によれば、赤外レーザを利用する場合に比べて、少ない入熱量で、コイル片52間での必要な接合面積を確保することが可能となる。
【0053】
なお、赤外レーザに比べてグリーンレーザの方が吸収率が高くなるという特性は、図9に示すように、銅の場合において顕著であるが、銅のみならず、他の金属材料の多くにおいて確認できる。従って、コイル片52の線状導体60の材料が銅以外の場合でもグリーンレーザによる溶接が実現されてもよい。
【0054】
図10は、溶接中の吸収率の変化態様の説明図である。図10では、横軸にレーザパワー密度を取り、縦軸に銅のレーザ吸収率を取り、グリーンレーザの場合の特性100Gと、赤外レーザの場合の特性100Rとが示される。
【0055】
図10では、グリーンレーザの場合と赤外レーザの場合における銅の溶融が開始するポイントP100、P200が示されるとともに、キーホールが形成されるポイントP300が示される。図10にポイントP100、P200にて示すように、赤外レーザに比べてグリーンレーザの方が、小さいレーザパワー密度で銅の溶融を開始させることができることが分かる。また、上述した吸収率の相違に起因して、赤外レーザに比べてグリーンレーザの方が、キーホールが形成されるポイントP300での吸収率と照射開始時の吸収率(すなわちレーザパワー密度が0のときの吸収率)との差が小さいことが分かる。具体的には、赤外レーザの場合、溶接中の吸収率の変化が約80%であるのに対して、グリーンレーザの場合、溶接中の吸収率の変化が約40%となり、約半分である。
【0056】
このように、赤外レーザの場合、溶接中の吸収率の変化(落差)が約80%と比較的大きいため、キーホールが不安定となり溶接深さや溶接幅のバラツキや溶融池の乱れ(例えば、スパッタ等)が生じやすい。これに対して、グリーンレーザの場合、溶接中の吸収率の変化(落差)が約40%と比較的小さいため、キーホールが不安定となり難く、また、溶接深さや溶接幅のバラツキや溶融池の乱れ(例えばスパッタ等)が生じ難い。なお、スパッタとは、レーザ等を照射することにより飛散する金属粒等である。
【0057】
なお、赤外レーザの場合、上述のように吸収率が低いため、ビーム径を比較的小さくする(例えばφ0.075mm)ことで、吸収率の低さを補うことが一般的である。この点も、キーホールが不安定となる要因となる。なお、図11Bは、赤外レーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図であり、1100は、溶接ビードを示し、1102は、溶融池を示し、1104は、キーホールを示す。また、矢印R1116は、ガス抜けの態様を模式的に示す。また、矢印R110は、ビーム径が小さいことに起因して赤外レーザの照射位置が移動される様子を模式的に示す。このように、赤外レーザの場合、上述のように吸収率が低くビーム径を比較的大きくすることが難しいことに起因して、必要な溶融幅を得るために蛇行を含んだ比較的長い照射位置の移動軌跡(連続的な照射時間)が必要となる傾向がある。
【0058】
他方、グリーンレーザの場合、上述のように吸収率が比較的高いため、ビーム径を比較的大きくする(例えばφ0.1mm以上)ことが可能であり、キーホールを大きくして安定化することができる。これにより、ガス抜けが良好となり、スパッタ等の発生を効果的に低減できる。なお、図11Aは、グリーンレーザを用いた場合のキーホール等のイメージ図であり、符号の意義は図11Bを参照して上述したとおりである。グリーンレーザの場合、図11Aから、ビーム径の拡大に起因してキーホールが安定化しガス抜けが良好となる様子がイメージとして容易に理解できる。また、グリーンレーザの場合、赤外レーザの場合とは対照的に、上述のように吸収率が比較的高くビーム径を比較的大きくすることが可能であることから、必要な溶融幅(図7A図7Cに示す溶接対象箇所90の径方向の範囲D2参照)を得るために必要な照射位置の移動軌跡(照射時間)を比較的短く(小さく)できる。
【0059】
図12は、本実施例によるグリーンレーザによる溶接方法の説明図である。図12では、横軸に時間を取り、縦軸にレーザ出力を取り、溶接の際のレーザ出力の時系列波形を模式的に示す。
【0060】
本実施例では、図12に示すように、レーザ出力3.8kWでグリーンレーザのパルス照射により溶接を実現する。図12では、10msecだけレーザ出力3.8kWとなるようにレーザ発振器のパルス発振が実現され、インターバル100msec後に、再び、10msecだけレーザ出力3.8kWとなるようにレーザ発振器のパルス発振が実現される。以下では、このようにして一回のパルス発振により可能なパルス照射(10msecのパルス照射)の1回分を、「1パス」とも称する。なお、図12では、1パス目(N=1)から3パス目(N=3)の照射がパルス波形130Gで示され、Nは、Nパス目かを表す。また、図12には、比較用として、赤外レーザの場合のパルス照射に係るパルス波形130Rが併せて示される。
【0061】
ここで、グリーンレーザの場合、レーザ発振器の出力が低く(例えば連続的な照射時は最大で400W)、深い溶け込みを確保するために必要な高出力(例えばレーザ出力3.0kW以上の高出力)を得ることが難しい。すなわち、グリーンレーザは、上述のように酸化物単結晶のような波長変換結晶を通して生成されるので、波長変換結晶を通る際に出力が低下する。このため、グリーンレーザのレーザビームを連続的に照射しようとすると、深い溶け込みを確保するために必要な高出力を得ることができない。
【0062】
この点、本実施例では、上述のように、深い溶け込みを確保するために必要な高出力(例えばレーザ出力3.0kW以上の高出力)を、グリーンレーザのパルス照射により確保する。これは、連続的な照射の場合は例えば最大で400Wしか出力できない場合でも、パルス照射であれば、例えば3.0kW以上の高出力が可能となるためである。このようにして、パルス照射は、ピークパワーを上げるための連続エネルギを蓄積してパルス発振することで実現される。本実施例のように一の溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が比較的広い場合、当該一の溶接対象箇所に対して、複数回のパルス発振が実現されてよい。すなわち、当該一の溶接対象箇所に対して、比較的高いレーザ出力(例えばレーザ出力3.0kW以上)による2パス以上の照射が実行されてよい。これにより、上述の溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が比較的広い場合でも、溶接対象箇所90の全体にわたり深い溶け込みを確保しやすくなり、高い品質の溶接を実現できる。
【0063】
なお、図12では、インターバルが特定の値100msecであるが、インターバルは、任意であり、必要な高出力が確保される範囲内で最小化されてよい。また、図12では、レーザ出力は特定の値3.8kWであるが、レーザ出力は、3.0kW以上であれば、必要な溶接深さが確保される範囲内で適宜変更されてよい。
【0064】
図12では、赤外レーザの場合として、レーザ出力2.3kWで、比較的長い時間である130msec間、連続的に照射される際のパルス波形130Rが併せて示される。赤外レーザの場合は、グリーンレーザとは異なり、比較的高いレーザ出力(2.3kW)で連続的な照射が可能である。ただし、上述したように、赤外レーザの場合、必要な溶融幅を得るために蛇行を含んだ比較的長い照射位置の移動軌跡(連続的な照射時間)が必要となり、この場合、入熱量は、約312Jであり、図12に示すグリーンレーザの場合の入熱量である約80J(2パスの場合)に対して、有意に大きくなる。
【0065】
このようにして、本実施例によれば、グリーンレーザを利用することで、赤外レーザを利用する場合に比べて、コイル片52の線状導体60の材料(本例では銅)に対して高い吸収率を有するレーザビームによる溶接が可能となる。これにより、必要な溶融幅(図7A図7Cに示す溶接対象箇所90の径方向の範囲D2参照)を得るために必要な照射位置の移動軌跡(時間)を比較的短く(小さく)できる。すなわち、比較的大きいビーム径による1回のパルス発振あたりの、増加されたキーホールに起因して、必要な溶融幅を得るために必要なパルス発振回数を比較的少なくできる。この結果、比較的少ない入熱量で、コイル片52間での必要な接合面積を確保することが可能となる。
【0066】
また、本実施例によれば、一の溶接対象箇所に対して2パス以上のグリーンレーザの照射を実行することで、溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が比較的広い場合でも、溶接対象箇所90の全体にわたり深い溶け込みを確保しやすくなり、高い品質の溶接を実現できる。
【0067】
ところで、本実施例では、上述したようにコイル片52A、52Bの先端部40A、40B同士を径方向に視てX字状に交差させるので、先端部40A、40Bのそれぞれにおいて、当接面401の上側に、当該当接面401に連続する非当接面409が形成される。このように非当接面409は、レーザビーム110の反射の原因となりえ、溶接部の信頼性を損なう原因となりうる。このような非当接面409での反射は、上述したように吸収率の低い赤外レーザの場合に顕著となる。なお、このような非当接面409は、上述したように、図8に示す比較例では発生しない。
【0068】
この点、本実施例では、上述したように吸収率の高いグリーンレーザを用いて溶接を実現するので、非当接面409でレーザビーム110が反射することが抑制される。この結果、図7B及び図7Cに示して上述したように非当接面409にも溶融池が形成される態様でレーザビーム110を照射でき、非当接面409から当接面401に連続する溶接部を形成できる。
【0069】
本実施例において、一パス中におけるレーザ出力は、図13に示すように、略一定であってよい。図13は、一のパスに係るレーザ出力(及び溶接入熱)が、照射位置に応じて変化する態様の一例を示す概略図であり、照射位置に応じたレーザ出力の変化特性150Pと、照射位置に応じた溶接入熱の変化特性150Lとが概略的に示される。なお、図13では、一パスの全体による入熱量が面積Q14で表されている。
【0070】
図13に示す例では、一のパスは、照射開始位置である位置P10から開始される。すなわち、位置P10から一のパルス発振が開始される。この場合、位置P10でレーザ出力が所定値(本例では、一例として3.8kW)まで立ち上がる(矢印R140参照)。そして、照射位置が位置P10から位置P12へと直線状に変化される。この間、レーザ出力は所定値(本例では、一例として3.8kW)で維持される(矢印R141参照)。照射位置が、照射終了位置である位置P12に達すると、レーザ出力は所定値(本例では、一例として3.8kW)から0へと立ち下げられる(矢印R142参照)。すなわち、一のパルス発振が終了される。なお、照射位置が位置P12に達しても、照射位置は、位置P12から更に僅かな距離だけ離れた位置P13に移動するまで変化されてもよい。この間、残留するレーザ出力に起因して僅かな溶接入熱が発生する(図13のQ14参照)。ただし、変形例では、照射位置が位置P12又はその直前の位置(図示せず)に達した際に、照射位置の変化が終了されてもよい。
【0071】
このような照射態様によれば、位置P10にてレーザ出力が所定値(本例では、一例として3.8kW)まで立ち上がるが、実際のレーザ出力が所定値に達するまでの間は、溶接入熱は最大値までは一気に増加しない。このため、図13に変化特性150Lにて示すように、位置P10から位置P11までは溶接入熱は徐々に増加していく。そして、位置P12にてレーザ出力が0まで瞬時的に立ち下げられるが、この直前まで溶接入熱は最大値で維持されている。
【0072】
このような照射態様は、上述した溶接対象箇所90に係る範囲D1に多様な態様で適用できる。
【0073】
例えば、上述した溶接対象箇所90に係る範囲D1を、図13に示す照射態様による1パスによりカバーする場合、上述した溶接対象箇所90に係る範囲D1は、位置P10から位置P12又は位置P13までの区間や、位置P11から位置P12又は位置P13までの区間内に包含されてもよい。
【0074】
また、上述した溶接対象箇所90に係る範囲D1を、図13に示す照射態様による2パスによりカバーする場合、上述した溶接対象箇所90に係る範囲D1のうちの、範囲D11及び範囲D12のそれぞれは、1パス目に係る位置P10から位置P12又は位置P13までの区間や、位置P11から位置P12又は位置P13間内に包含されてもよい。
【0075】
特に本実施例では、溶接対象箇所90における上述した範囲D11及び範囲D12は、図5に示すように、径方向に視て、交差点P0に関して対称である。従って、本実施例では、溶接対象箇所90に係る範囲D1は、2パスによるカバーされるのが好適である。
【0076】
この場合、1パス目では、位置P10又は位置P11は、交点P3に対応し、位置P12又は位置P13は、交差点P0に対応してよい。また、2パス目では、位置P10又は位置P11は、交点P4に対応し、位置P12又は位置P13は、交差点P0に対応してよい。この場合、範囲D11及び範囲D12のそれぞれを同等の接合面積を有する態様で溶接できる。
【0077】
あるいは、1パス目では、位置P10又は位置P11は、交差点P0に対応し、位置P12又は位置P13は、交点P3に対応してよい。また、2パス目では、位置P10又は位置P11は、交差点P0に対応し、位置P12又は位置P13は、交点P4に対応してよい。この場合、範囲D11及び範囲D12のそれぞれを同等の接合面積を有する態様で溶接できる。
【0078】
また、いずれの場合も、1パス目での照射範囲(すなわち照射位置の移動範囲)と2パス目での照射範囲は、交差点P0を中心とした範囲で重複してもよい。これにより、交差点P0での必要な接合面積を確実に確保することが容易となる。
【0079】
ただし、変形例では、一パス中において、レーザ出力は、図14に示すように、一定でなくてもよい。図14は、一のパスに係る溶接入熱が照射位置に応じて変化する態様の他の一例を示す概略図であり、図13と同様、照射位置に応じたレーザ出力の変化特性150Pと、照射位置に応じた溶接入熱の変化特性150Lとが概略的に示される。
【0080】
図14に示す例では、一のパスは、照射開始位置である位置P10から開始される。すなわち、位置P10から一のパルス発振が開始される。この場合、位置P10でレーザ出力が所定値(本例では、一例として3.8kW)まで立ち上がる(矢印R140参照)。そして、照射位置が位置P10から位置P12へと直線状に変化される。照射位置が位置P10から位置P14までの間、レーザ出力は所定値(本例では、一例として3.8kW)で維持される(矢印R141参照)。照射位置が位置P14に達すると、照射位置が更に変化しつつレーザ出力は所定値(本例では、一例として3.8kW)から0へと段階的に立ち下げられる(矢印R143参照)。具体的には、照射位置が位置P14に達すると、レーザ出力は一段階だけ下げられ、照射位置が位置P12に達すると、レーザ出力は更に一段階だけ下げられ、照射位置が、照射終了位置である位置P15に達すると、レーザ出力は0へと立ち下げられる。なお、照射位置が位置P15に達しても、照射位置は、位置P15から更に僅かな距離だけ離れた位置P16に移動するまで変化されてもよい。この間、残留するレーザ出力に起因して僅かな溶接入熱が発生する(図13のQ14参照)。ただし、変形例では、照射位置が位置P15に達した際に、照射位置の変化は終了されてもよい。
【0081】
このような照射態様も、上述した溶接対象箇所90に係る範囲D1に多様な態様で適用できる。
【0082】
例えば、上述した溶接対象箇所90に係る範囲D1を、図14に示す照射態様による1パスによりカバーする場合、上述した溶接対象箇所90に係る範囲D1は、位置P10から位置P15までの区間内に包含されてもよい。
【0083】
また、上述した溶接対象箇所90に係る範囲D1を、図14に示す照射態様による2パスによりカバーする場合、上述した溶接対象箇所90に係る範囲D1のうちの、範囲D11及び範囲D12のそれぞれは、1パス目に係る位置P10から位置P15までの区間内に包含されてもよい。
【0084】
特に本実施例では、溶接対象箇所90における上述した範囲D11及び範囲D12は、図5に示すように、径方向に視て、交差点P0に関して対称である。従って、本実施例では、溶接対象箇所90に係る範囲D1は、2パスによるカバーされるのが好適である。この場合、1パス目では、位置P10は、交点P3に対応し、位置P15は、交差点P0に対応してよい。また、2パス目では、位置P10は、交点P4に対応し、位置P15は、交差点P0に対応してよい。この場合、範囲D11及び範囲D12のそれぞれを同等の接合面積を有する態様で溶接できる。
【0085】
あるいは、1パス目では、位置P10は、交差点P0に対応し、位置P15は、交点P3に対応してよい。また、2パス目では、位置P10は、交差点P0に対応し、位置P15は、交点P4に対応してよい。この場合、範囲D11及び範囲D12のそれぞれを同等の接合面積を有する態様で溶接できる。
【0086】
また、いずれの場合も、1パス目での照射範囲と2パス目での照射範囲は、交差点P0を中心とした範囲で重複してもよい。これにより、交差点P0での必要な接合面積を確実に確保することが容易となる。
【0087】
最後に、本実施例によるモータ1のステータ21の製造方法の流れについて、図15を参照して概説する。
【0088】
図15は、モータ1のステータ21の製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
【0089】
まず、本製造方法は、コイル片52をステータコア22に組み付ける組付工程(ステップS150)を含む。また、本製造方法は、組付工程後に、コイル片52の先端部40同士をレーザ溶接により接合する接合工程(ステップS152)を含む。コイル片52の先端部40同士をレーザ溶接により接合する方法は、上述したとおりである。
【0090】
この場合、接合工程は、上述したように、各対となるコイル片52のそれぞれの先端部40同士が、図5に示したようにX字状をなす態様で交差する態様で、径方向に当接するようにセットするセット工程(ステップS1521)を含む。なお、セット工程では、治具等を用いて、各対となるコイル片52のそれぞれの先端部40同士がX字状をなす態様で交差する態様で径方向に当接した状態が、維持されてよい。
【0091】
そして、接合工程は、セット工程後に、上述したように溶接対象箇所90にレーザビーム110を照射する照射工程(ステップS1522)を含む。なお、セット工程と照射工程は、1つ以上の所定数の溶接対象箇所90ごとにセットで実行されてもよいし、一のステータ21に係るすべての溶接対象箇所90に対して、一括的に実行されてもよい。なお、本製造方法は、接合工程後に、適宜、必要な各種の工程を行うことで、ステータ21を完成させて終了してよい。
【0092】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施例の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0093】
例えば、上述した実施例では、好ましい例として、先端部40A、40Bは、上述したように、径方向に視て、先端部40Aの先端面44A全体が先端部40Bの軸方向外側端面42Bを上側に越え、かつ、先端部40Bの先端面44B全体が先端部40Aの軸方向外側端面42Aを上側に越える態様で、X字状に交差されるが、これに限られない。例えば、図16に示す変形例のように、先端部400A、400Bは、径方向に視て、先端面440Aの径方向外側の一部だけが先端部400Bの軸方向外側端面420Bを上側に越え、かつ、先端部400Bの先端面440Bの径方向外側の一部だけが先端部400Aの軸方向外側端面420Aを上側に越える態様で、X字状に交差されてもよい。この場合、先端面440A、440Bにおける当接面401側の縁部にもレーザビーム110が照射されてもよい。
【0094】
また、上述した実施例では、レーザビーム110の照射方向は、当接面401に略平行な方向であり、例えば当接面401に平行に視て、図17に示すような比較的小さい角度α(例えば±10度)ずれてもよい。ここで、レーザビーム110の照射源からミラー(図示せず)で角度を変えて複数箇所を溶接する場合があり、かかる場合、0より大きいが比較的小さい角度α(例えば±10度)が生じやすい。角度αが0よりも大きい場合も、角度αが0である場合と同様、レーザビームの照射幅は、当接面401に平行な方向に視て、上述したC字状の辺(軸方向外側端面42A、42Bにおける当接面401側の縁部)と非当接面409A又は409Bと当接面401とを含んでよい。照射幅がC字状の辺等を含むとは、図17示すようなレーザビームの照射幅に対応する幅を有する照射範囲であって、照射方向に延在するレーザビームの照射範囲(図17のハッチング領域R16で指示)が、C字状の辺等を含むことを意味する。また、角度α(及び上述した範囲D2)は、上述した照射工程において、先端部40A、40Bにおける当接面401に平行な逆側の外側面405、406(図17参照)にレーザビーム110が照射されないように、適合されてよい。この場合、溶融部が少ないのでコイル片52の絶縁被膜62への熱の影響が少なくなり、絶縁被膜62の剥離部を最小限とすることができる。その結果、低コスト化を図ることができる。
【符号の説明】
【0095】
1・・・モータ(回転電機)、24・・・ステータコイル、52・・・コイル片、40・・・先端部(端部)、401・・・当接面、409・・・非当接面、42(42A、42B)・・・軸方向外側端面(軸方向外側の端面)、44A、44B・・・先端面、22・・・ステータコア、110・・・レーザビーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17